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明細書 :神経難病の画像診断薬及び体外診断薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5699286号 (P5699286)
登録日 平成27年2月27日(2015.2.27)
発行日 平成27年4月8日(2015.4.8)
発明の名称または考案の名称 神経難病の画像診断薬及び体外診断薬
国際特許分類 C07C  49/255       (2006.01)
C07C  59/90        (2006.01)
C07C  69/738       (2006.01)
C07C 235/78        (2006.01)
C07C 225/22        (2006.01)
C07C 255/40        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
A61K  51/00        (2006.01)
FI C07C 49/255 CSPB
C07C 59/90
C07C 69/738 Z
C07C 235/78
C07C 225/22
C07C 255/40
A61K 49/00 C
A61K 49/00 Z
A61K 49/02 C
請求項の数または発明の数 5
全頁数 36
出願番号 特願2011-501696 (P2011-501696)
出願日 平成22年2月26日(2010.2.26)
国際出願番号 PCT/JP2010/053590
国際公開番号 WO2010/098502
国際公開日 平成22年9月2日(2010.9.2)
優先権出願番号 2009045531
2009045705
優先日 平成21年2月27日(2009.2.27)
平成21年2月27日(2009.2.27)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年2月19日(2013.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
【識別番号】391048049
【氏名又は名称】滋賀県
発明者または考案者 【氏名】遠山 育夫
【氏名】田口 弘康
【氏名】森川 茂廣
【氏名】漆谷 真
【氏名】柳沢 大治郎
【氏名】永江 知音
【氏名】白井 伸明
【氏名】平尾 浩一
【氏名】加藤 雅也
【氏名】木村 博彦
【氏名】岡田 隆士
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】井上 千弥子
参考文献・文献 米国特許出願公開第2009/0004107(US,A1)
国際公開第2007/044867(WO,A1)
国際公開第2008/045534(WO,A1)
Bull. Korean Chem. Soc.,2008年,29(1),pp. 61-68
J. Med. Chem.,2006年,49,pp. 6111-6119
調査した分野 C07C
A61B 5/055
A61K 49/00
A61P 25/28
G01N 33/53
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
式(I):
【化1】
JP0005699286B2_000019t.gif
(式中、R1a及びR1bはそれぞれ独立に水素原子、アルキル、アセチル又はメトキシカルボニルであり、Rはそれぞれ独立にフッ素原子、CHF-、CF-、CHFO-又はCFO-であり、Rはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子であり、Aはアルキル、シアノ、カルボキシル、アルコキシカルボニル又はR-(CH-であり、Rはヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、アセチルオキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシアルコキシ、ヒドロキシアルコキシ又はCONRであり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルであり、mは1~5の整数である)で表されるクルクミン誘導体又はその塩。
【請求項2】
請求項1に記載のクルクミン誘導体又はその塩を有効成分とするアミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の画像診断薬。
【請求項3】
アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患がアルツハイマー病である請求項2に記載の画像診断薬。
【請求項4】
画像診断がMRIである請求項2に記載の画像診断薬。
【請求項5】
請求項1に記載のクルクミン誘導体又はその塩を有効成分とする組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑の染色薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の画像診断に有用な新規クルクミン誘導体又はその塩、それを有効成分とする画像診断薬、及びアミロイドβ蛋白又は老人斑の染色薬に関する。また、本発明は、ケト・エノール互変異性を利用したアミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の画像診断薬及び体外診断薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、初老期から老年期に起こる進行性の痴呆を特徴とする疾患であり、現在、国内の患者数は100万人以上と言われている。今後人口の高齢化に伴いその数は確実に増加すると予想される。アルツハイマー病の臨床症状は、記憶障害、高次脳機能障害(失語、失行、失認、構成失行)等である。その症状は他の痴呆疾患でも共通して見られることが多く、臨床症状だけでアルツハイマー病と確定診断することは極めて困難である。アルツハイマー病はこれまで根本治療法がなかったが、1999年にワクチン療法がモデルマウスで成功して以来、根本治療法開発への期待が高まっている(非特許文献1)。これら根本治療法を有効に活用するためには、早期にアルツハイマー病を診断する必要がある。
一方、アルツハイマー病の特徴的な病理組織所見としては、老人斑と神経原線維変化がある。前者の主構成成分はβシート構造をとったアミロイドβ蛋白であり、後者のそれは過剰リン酸化されたタウ蛋白である。現在、アルツハイマー病の発症には、アミロイドβペプチドが蓄積することが、最初におこる重大病理変化であるというアミロイド仮説が有力である(非特許文献2)。アルツハイマー病においては臨床症状が発症するかなり前から、脳内ではアミロイドβ蛋白の蓄積等の上記病理的組織変化が始まっていることが知られている。したがって、脳内のアミロイドβ蛋白をマーカーとして検出することが、アミロイドが蓄積する疾患、特にアルツハイマー病の早期診断方法の1つとなる。
このような観点から、近年、脳内アミロイドβ蛋白に選択的に結合するポジトロン断層撮影法(PET)やシングルフォトン断層撮影法(SPECT)用の放射性造影剤の研究が進められている(非特許文献3)。アミロイドに親和性の高い古典的な化合物としては、アルツハイマー病の病理的確定診断に使用されているコンゴーレッド、チオフラビンSおよびチオフラビンTがある。その多くは、血液脳関門を通過しがたく静脈内投与しても殆ど脳内へは移行しない。また、近年、種々の構造体にアミロイド親和性が見出されており、その一つとしてクルクミンがある(非特許文献4)。そこで、血液脳関門の透過性を考慮した造影剤の研究が進められ、ISB、PIB、BF-168(特許文献1)等の造影剤が開発されており、そのいくつかは臨床試験で良好な成績が得られている。しかし、それらは、11C、13N、15O、18F等の放射性核種を用いるため放射線障害による副作用が懸念されるとともに、近くにサイクロトロン施設を併設する必要があり、放射性核種を用いない診断方法が望まれている。
放射性核種を用いない診断方法の一つとして核磁気共鳴イメージング法(MRI)がある。近年、19F-MRIを用いて老人斑の画像化に成功したとの報告(特許文献2、特許文献3,非特許文献5)がなされ、MRI診断への期待が高まっている。しかしながら、MRIはPET等に比べ検出感度が低いことが知られており、安全なアルツハイマー病の診断法確立に向け、高感度のMRI造影剤の開発が切望されている。
また、体外診断薬としては、アミロイドβペプチドに対する特異抗体を用いたELISA法の研究が進められている(非特許文献6)。最近、アルツハイマー病の神経細胞死の原因物質は、アミロイドβペプチドそのものよりもアミロイドβペプチドオリゴマーなどの凝集体であるという仮説が有力になってきた(非特許文献7)。従来のアミロイドβペプチドに対する特異抗体を用いたELISA法は、脳脊髄液中や血清中のアミロイドβペプチド量を定量することが可能であるが、神経毒性の本態とされるアミロイドβペプチドオリゴマーなどの凝集体を特異的に検出することはできない。
そこで、アミロイドβペプチドオリゴマーなどの凝集体が、アルツハイマー病で生じる神経細胞死の原因であるという仮説に基づき、アミロイドβペプチドオリゴマーなどの凝集体を特異的に検出する方法や材料の開発がすすめられている。これまでにアミロイドβペプチドオリゴマーに特異的に反応する抗体の作製が報告されている(非特許文献8)。抗体を体外診断薬として使う場合は、ELISA法などの煩雑な操作が必要となり、測定に要する時間も数時間以上要する、また抗体は、高分子量のタンパクであり、血液脳関門をほとんど通過しないため、画像診断薬としては使えない。
MR画像用の造影剤は、アミロイドβペプチドに結合する性質をもつ材料をフッ素(19F)標識し、アルツハイマー病患者脳に出現する老人斑に結合させたのち、19Fの信号を検出して老人斑を画像化している(非特許文献5、上述)。一般にどのような化合物であっても、19Fの信号は、材料が遊離状態で強く、老人斑に結合すると減弱する。したがって、単に老人斑に結合する材料よりも老人斑の存在する部位で結合・遊離を局所的に繰り返す性質をもつ材料が望ましい。
PET用の造影剤は、アミロイドβペプチドに結合する性質をもつ材料を放射性標識し、アルツハイマー病患者脳に出現する老人斑に結合させることで、老人斑を画像化している(非特許文献3、上述)。放射性標識した材料は、短期間で除去される方が放射線障害などの副作用が少ない。したがって、結合して画像化が終了した後、老人斑から遊離してすみやかに排泄されることが望ましい。
ケト・エノール互変異性は、ある化合物がとる構造の違いを示す性質であり、同じ化合物がケト型とエノール型の平衡混合物として存在する。したがって、同じ化合物でありながら周囲の環境により、ケト型の割合が多くなったり、エノール型の割合が多くなったりする。また、構造の違いにより色調の違い、吸収スペクトルの違い、蛍光発光の違い、あるいは他の物質との相互作用の違いなど、さまざまな相違点をもつ。しかしながら、ケト・エノール互変異性に注目し、この現象を積極的に利用した試薬、診断薬は開発されていない。
なお、前記のように1,3-ジカルボニル構造を有するクルクミンはアミロイドβペプチドに結合することが知られており(非特許文献4、上述)、アルツハイマー病の画像診断薬への応用も検討されているが、ケト・エノール互変異性を積極的に利用したものではない。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】国際公開第03/106439号
【特許文献2】国際公開第2005/042461号
【特許文献3】国際公開第2007/111179号
【0004】

【非特許文献1】Schenk D,Barbour R,Dunn W,Gordon G,Grajeda H,Guido T,Hu K,Huang J,Johnson-Wood K,Khan K,Kholodenko D,Lee M,Liao Z,Lieberburg I,Motter R,Mutter L,Soriano F,Shopp G,Vasquez N,Vandevert C,Walker S,Wogulis M,Yednock T,Games D,Seubert P:Immunization with amyloid-beta attenuates Alzheimer-disease-like pathology in the PDAPP mouse.Nature 400:173-177,1999.
【非特許文献2】Hardy J,Selkoe DJ:The amyloid hypothesis of Alzheimer’s disease:progress and problems on the road to therapeutics.Science 297:353-356,2002.
【非特許文献3】岡村信行、谷内一彦、工藤幸司:アミロイドイメージングの進歩 Dementia Japan 20:216-225,2006.
【非特許文献4】Yang F,Lim GP,Begum AN,Ubeda OJ,Simmons MR,Ambegaokar SS,Chen P,Kayed R,Glabe CG,Frautschy SA,Cole GM:Curcumin inhibits formation of amyloid β oligomer and fibrils,binds plaques,and reduces amyloid in vivo.Journal of Biological Chmistry 280(7):5892-5901,2005.
【非特許文献5】Higuchi M,Iwata N,Matsuba Y,Sato K,Sasamoto K,Saido CT:19F and 1H MRI detection of amyloid beta plaques in vivo.Nat Neurosci.8:527-533,2005.
【非特許文献6】Hansson O,Zetterberg H,Buchhave P,Londos E,Blennow K,Minthon L:Association between CSF biomarkers and incipient Alzheimer’s disease in patients with mild cognitive impairment:a follow-upstudy.Lancet Neurol 5:228-234,2006.
【非特許文献7】松原悦郎:AβオリゴマーDementia Japan 21:253-260,2007.
【非特許文献8】Lambert MP,Velasco PT,Chang L,Viola KL,Fernandez S,Lacor PN,Khuon D,Gong Y,Bigio EH,Shaw P,De Felice FG,Krafft GA,Klein WL:Monoclonal antibodies that target pathological assemblies of Abeta.J Neurochem 100:23-35,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルツハイマー病のMRI診断用造影剤として好適なアミロイドβ蛋白に対する高い結合特異性と高い検出感度を併せ持つ物質を提供することを目的とする。
また、本発明は、ある種の化合物がもつケト・エノール互変異性、及びアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβペプチドの凝集体に対してエノール型とケト型で親和性が異なるという性質を利用したアミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の画像診断薬、体外診断薬及び診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、F原子を含む一定の化学構造の化合物が、アミロイドβ蛋白に対し高い結合特異性を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
また、ケト・エノール互変異性は、古くから知られているある種の化合物の周知の性質であるが、それを病気の診断薬に応用した試みはない。この性質を診断薬に利用できれば、新しい創薬の手段を提供できる。本発明者らは、ある種の化合物が、ケト・エノール互変異性をもち、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβペプチド凝集体に対してエノール型とケト型で親和性が異なるという性質をもつことを見出した。すなわちこの化合物は、生体の内外における様々な環境下で、一定の割合でアミロイドβペプチド凝集体に結合ないし遊離を繰り返す性質を持つ。
本発明は、これら知見に基づき、完成されたものであり、次の化合物、画像診断薬、体外診断薬、診断方法等を提供すものである。
項1.式(I):
【化1】
JP0005699286B2_000002t.gif
(式中、R1a及びR1bはそれぞれ独立に水素原子、アルキル、アセチル又はメトキシカルボニルであり、Rはそれぞれ独立にフッ素原子、CHF-、CF-、CHFO-又はCFO-であり、Rはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子であり、Aはアルキル、シアノ、カルボキシル、アルコキシカルボニル又はR-(CH-であり、Rはヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、アセチルオキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシアルコキシ、ヒドロキシアルコキシ又はCONRであり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルであり、mは1~5の整数である)で表されるクルクミン誘導体又はその塩。
項2.mが1~3である、項1に記載のクルクミン誘導体又はその塩。
項3.項1又は2に記載のクルクミン誘導体又はその塩を有効成分とするアミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の画像診断薬。
項4.アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患がアルツハイマー病である項3に記載の画像診断薬。
項5.画像診断がMRIである項3又は4に記載の画像診断薬。
項6.項3に記載の画像診断薬を用いる、蛋白のβシート構造が病因又は病因の一部となる疾患の診断方法。
項7.項1又は2に記載のクルクミン誘導体又はその塩を有効成分とする脳をはじめとする組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑の染色薬。
項8.項7に記載の染色薬を用いて組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑を染色する方法。
項9.アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患を診断するための画像診断薬であって、1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を含み、前記化合物はケト型とエノール型が存在し、前記ケト型とエノール型でアミロイドβペプチドの凝集体に対する親和性が異なる、画像診断薬。
項10.前記化合物はケト型に比べてエノール型の方がアミロイドβペプチドの凝集体に対する親和性が高い化合物である、項9に記載の画像診断薬。
項11.前記化合物は1,3-ジカルボニル構造の2位に置換基を1個有する化合物である、項9又は10に記載の画像診断薬。
項12.前記化合物が式(i):
【化2】
JP0005699286B2_000003t.gif
(式中、R11及びR12はそれぞれ独立に置換されていてもよいアリール基又はヘテロアリール基であり、Bは水素又は置換されていてもよいアルキル基を表す)で表される化合物である、項9~11のいずれか1項に記載の画像診断薬。
項13.アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患がアルツハイマー病である、項9~12のいずれか1項に記載の画像診断薬。
項14.核磁気共鳴(MR)画像診断薬である、項9~13のいずれか1項に記載の画像診断薬。
項15.前記化合物が陽電子放射核種を有し、前記画像診断薬がポジトロン断層撮影法(PET)用画像診断薬である、項9~13のいずれか1項に記載の画像診断薬。
項16.項9~13のいずれか1項に記載の画像診断薬を用いる、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の診断方法。
項17.アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患を診断するための体外診断薬であって、1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を含み、前記化合物はケト型とエノール型が存在し、前記ケト型に比べてエノール型の方がアミロイドβペプチドの凝集体に対する親和性が高い、体外診断薬。
項18.項17に記載の体外診断薬を用いる、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の診断方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明化合物は、アミロイドβ蛋白に対する高い親和性と高い血液脳関門透過性を有し、アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の画像診断薬の有効成分として有用である。特に、本発明化合物はF原子を含むため19F-MRI造影剤の有効成分として有用である。また、脳をはじめとする組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑染色薬の有効成分、例えば該蛋白の蛍光染色剤として有用である。従って、本発明化合物を用いれば、アルツハイマー病のようなアミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の早期診断が可能となる。
また、本発明は、ケト・エノール互変異性に基づく新しい創薬理論を提供するとともに、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβペプチド凝集体に対してエノール型とケト型で親和性が異なるという本発明の化合物の性質を利用することで、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の画像診断薬、体外診断薬及び診断方法を提供するものである。
本発明の化合物を血清、脳脊髄液などの体液中に加えることにより、体液中に含まれるアミロイドβペプチド凝集体にエノール型が結合する。紫外吸収あるいは可視吸収を有し、ケト・エノール互変異性が可能なものについては、一般にケト型およびエノール型における吸収スペクトルが異なる。したがって、アミロイドβペプチド凝集体にエノール型が結合すると、エノール型特有の色調、吸収スペクトルの出現、蛍光の発色等が見られることから、体液中に含まれるアミロイドβペプチド凝集体を測定でき、ケト・エノール互変異性に基づくアルツハイマー病の体外診断薬としての利用を可能にする。本発明の体外診断薬は、従来のELISA法に比べて、作業が簡便であり、測定にかかる時間も短い。
本発明の化合物を放射性標識することにより、PET用あるいはSPECT用などアミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の画像診断薬とすることができる。これはエノール型で結合してケト型変換にて遊離排泄されるため、従来試薬よりもすみやかに体外排泄でき副作用を少なくすることが可能になる。
本発明の化合物にフッ素(19F)など核磁気シグナル測定に適した元素を結合させることにより、MR用アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の画像診断薬とすることができる。これはエノール型で結合してケト型変換にて遊離するため、従来試薬より高感度での検出を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アルツハイマー病患者の死後脳側頭葉皮質切片の染色像を示す図である。
【図2】アルツハイマー病患者の死後脳側頭葉皮質切片の染色像を示す図である。
【図3】化合物(1)をアミロイド前駆体蛋白トランスジェニックマウスに投与した場合のインビボH-MRI及び19F-MRI脳画像を示す図である。
【図4】化合物(1)をアミロイド前駆体蛋白トランスジェニックマウス及び正常マウスに投与した場合のマウス脳切片の染色像を示す図である。
【図5】化合物23のNMR測定の結果を示す図である。
【図6】化合物1のNMR測定の結果を示す図である。
【図7】化合物24のNMR測定の結果を示す図である。
【図8】化合物5のNMR測定の結果を示す図である。
【図9】化合物6のNMR測定の結果を示す図である。
【図10】化合物8のNMR測定の結果を示す図である。
【図11】化合物9のNMR測定の結果を示す図である。
【図12】Aは化合物1を20μg/mlの濃度になるように溶解した各種濃度のDMSO溶液の色及び色スペクトルを示し、BはNMRピークから計算したエノール率と550nm吸光度の関係を示す図である。
【図13】化合物23と化合物1について、それぞれ化合物のみの溶液、化合物とアミロイドβペプチド凝集体を含む溶液、化合物と凝集反応前のアミロイドβペプチドを含む溶液及びアミロイド凝集体のみの溶液について、反応開始後から時間を追って色調を観察した結果を示す図である。
【図14】化合物23、化合物1及び化合物24のアミロイドβペプチド凝集体への結合量と結合率を示す図である。
【図15】沈殿したアミロイドβペプチド凝集体を洗浄後、バッファーを加えて遊離してくる化合物23、化合物1及び化合物24の量、並びに元の量を100%とした割合を示す図である。
【図16】フローサイトメトリー法を用いたアミロイドβペプチド凝集体の濃度測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の化合物、画像診断薬、体外診断薬、診断方法等について詳細に説明する。
本発明における化合物としては、具体的に下記の実施態様1及び2示すものが挙げられる。以下、実施態様1及び2について説明する。
<実施態様1>
本発明の実施態様1は、式(I):
【化3】
JP0005699286B2_000004t.gif
(式中、R1a及びR1bはそれぞれ独立に水素原子、アルキル、アセチル又はメトキシカルボニルであり、Rはそれぞれ独立にフッ素原子、CHF-、CF-、CHFO-又はCFO-であり、Rはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子であり、Aはアルキル、シアノ、カルボキシル、アルコキシカルボニル又はR-(CH-であり、Rはヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、アセチルオキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシアルコキシ、ヒドロキシアルコキシ又はCONRであり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルであり、mは1~5、好ましくは1~3の整数である)で表されるクルクミン誘導体又はその塩に関する。
また、本発明の実施態様1は、式(I)の化合物又はその塩を有効成分とするアミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の画像診断薬に関する。
さらに、本発明の実施態様1は、式(I)の化合物又はその塩を有効成分とする脳をはじめとする組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑の染色薬に関する。
1a、R1b、A又はRのアルキル基は、直鎖又は分枝状のC1-6アルキルであればよく、直鎖又は分枝状のC1-3アルキル基が好ましい。
式(I)の化合物におけるアルキル基とは、アルコキシカルボニル、アルコキシアルコキシ及びヒドロキシアルコキシのアルキル基を包含する。
1-6アルキルの具体例としてはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、及びヘキシルが挙げられる。
1-3アルキルの具体例としてはメチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルが挙げられる。
式(I)の化合物の塩としては、医薬上許容される塩であればよく、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機アミン塩などが挙げられる。また、これらの塩の中で結晶水を持つものもある。
式(I)の化合物又はその塩は、下記製法〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の方法により製造することができる。
製法〔1〕
式(I)の化合物は、式(II-a)の化合物と式(III)の化合物を反応させて式(IV)を製造した後、更に同様の反応条件で式(II-b)の化合物を反応させることにより製造することができる。
【化4】
JP0005699286B2_000005t.gif
(式中、R1a、R1b、R、RおよびAは前述の定義通りである)
製法〔1〕において、反応を効率的に行うために、溶媒中でホウ素化合物と塩基の存在下で反応を行うのが望ましい。本反応に使用することができるホウ素化合物としては、ホウ酸、三酸化二ホウ素、ホウ酸トリ-n-ブチル、ホウ酸トリ-tert-ブチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリ-n-プロピル、三酸化二ホウ素と各種ホウ酸エステルの混合物などを挙げることができる。ホウ酸化合物の使用量は式(II-a)又は(IV)の化合物に対して0.5当量から6当量である。
塩基としては、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-プロピルアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミンなどの一級アミン類、あるいは1,2,3,4-テトラヒドロキノリンなどの二級アミン類を挙げることができる。塩基の使用量は、化合物(III)に対して触媒量から1当量程度が好ましい。
また、溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、石油ベンジンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ヘキサメチルホスホルアミドなどのリン酸アミド類およびこれらの混合溶媒を挙げることができる。
本反応は、式(III)の化合物1モルに対して式(II-a)の化合物を1モル、式(IV)の化合物1モルに対して式(II-b)の化合物を1モルの割合で使用するのが望ましい。反応温度は0~150℃、望ましくは0~100℃の反応で行われ、反応時間は、0.5~24時間程度である。
また、上記反応では反応後式(IV)あるいは(I)の化合物のホウ素錯体を分解するために酸で処理する必要がある。その際に使用する酸としては塩酸などの鉱酸、酢酸などの有機酸を挙げることができる。
製法〔2〕
前記式(I)において、置換基R1a、R及びRが、左右対称に存在する式(I-a)の化合物は、製法〔1〕と同様の反応条件で式(III)の化合物1モルに対して式(II-a)の化合物を2モル反応させることにより製造することができる。
【化5】
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(式中、R1a、R、RおよびAは、RおよびRが左右対称であることを除いて前述の定義通りである)
製法〔3〕
前記式(I)において、置換基Aが-COOH又は-(CH-COOHである式(I-b)の化合物は式(I-c)の化合物を、酸又は塩基と反応することにより製造することができる。
【化6】
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(式中、Aはアルコキシカルボニル又は-(CH-COORであり、Aは-COOH又は-(CH-COOHであり、R1a’及びR1b’はそれぞれ独立に水素原子又はアルキルであり、R、R、Rおよびmは前述の定義通りである)
1a’又はR1b’のアルキル基としては、直鎖又は分枝状のC1-6アルキルであればよく、好ましくは直鎖又は分枝状のC1-3アルキル基である。
酸と反応する場合、使用することができる酸としては硫酸、塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸などの鉱酸;トリフルオロ酢酸などの有機強酸が挙げられる。酸の使用量は、特に限定されないが、望ましくは式(I-c)の化合物に対して0.1~10当量である。反応温度は-10~100℃、望ましくは-10~50℃で行われ、反応時間は0.5~24時間程度である。
また、塩基を使用する場合、使用することができる塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属を挙げることができる。塩基は式(I-c)の化合物に対して3~10当量の割合で使用し、反応温度は0~100℃で行われ、反応時間は0.1~24時間程度である。
本反応は溶媒の存在下で行うことが望ましく、その溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類:メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類および水を挙げることができる。また、酸と反応する場合は酸自身を溶媒として用いることもできる。
製法〔4〕
前記式(I)において、R1aとR1bが共にCHC(=O)-又はCHOC(=O)-である式(I-d)の化合物は、通常、溶媒の存在下で式(I-e)の化合物と式(V)の化合物とを反応させることにより製造することができる。
【化7】
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(式中、RはCH-又はCHO-であり、Xはハロゲン原子であり、A、RおよびRは前述の定義通りである)
ここで、ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を意味する。
本反応において、式(V)の化合物は式(I-e)の化合物1モルに対して3モル程度の割合で使用するのが望ましい。反応は、一般に0~150℃、望ましくは0~100℃の温度で行われ、その反応時間は、0.5~24時間程度である。
反応を効率的に行うために、塩基の存在下に反応を行うのが望ましい。使用することができる塩基としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン類、ピリジンなどを挙げることができる。塩基の使用量は、化合物(I-e)に対して触媒量から2~4モルである。
本反応は、溶媒の存在下で行うことができ、その溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、石油ベンジンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ヘキサメチルホスホルアミドなどのリン酸アミド類およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
上記した製法〔1〕~〔4〕及びそれに付随した方法で得られる前記式(I)の化合物は、公知の手段、例えば、濃縮、減圧濃縮、蒸留、分留、転溶、溶媒抽出、結晶化、再結晶、クロマトグラフィーなどにより単離、精製することができる。
前記式(I)の化合物がフリー体で得られる場合、通常の方法で塩を形成させることができる。
式(I)の化合物のいくつかの例を第1表に示す。
【表1】
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【表2】
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【表3】
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式(I)の化合物又はその塩は、アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の画像診断薬として使用することができる。また、式(I)の化合物又はその塩は、脳をはじめとする組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑染色薬として使用することができる。
本発明の望ましい実施形態は、次のものである。
(1)式(I)の化合物又はその塩を有効成分とするアミロイドβ蛋白が蓄積する疾患の画像診断薬。
(2)アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患がアルツハイマー病である(1)に記載の画像診断薬。
(3)脳内アミロイドのMRI造影剤である(1)又は(2)に記載の画像診断薬。
(4)式(I)の化合物又はその塩を有効成分とする脳をはじめとする組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑染色薬。
(5)アミロイドβ蛋白の蛍光染色薬である(4)に記載の染色薬。
(6)(1)に記載の画像診断薬を用いる、蛋白のβシート構造が病因又は病因の一部となる疾患の診断方法。
(7)(4)に記載の染色薬を用いて組織中のアミロイドβ蛋白又は老人斑を染色する方法。
式(I)の化合物の多くは疎水性の化合物であり、水に対する溶解度は低い。生体に投与する化合物としては水溶解度が高いことが望ましく、式(I)の化合物の内、塩を持つ化合物がより望ましい。
式(I)の化合物又はその塩を画像診断薬として使用する場合、本化合物により脳内の老人斑を特異的に検出することができる。特に、19F-MRIを用いて非侵襲的にアミロイドβ蛋白を検出する場合、その検出感度は、フッ素原子の数に依存しており、F原子の数は多いほうが望ましい。
式(I)の化合物又はその塩を画像診断薬として使用する場合、その投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、経口的又は非経口的に投与される。非経口的投与経路としては、皮下、腹腔内、静脈、動脈又は脊髄液への注射又は点滴等が挙げられる。
式(I)の化合物又はその塩を含む画像診断薬は、ヒトへの投与に適した医薬上許容される形態であって、生理学的に許容し得る添加剤を含む。かかる組成物は、適宜、医薬として許容し得る希釈剤、緩衝剤、可溶化剤(例えば、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、あるいはTween、プルロニック、クレモフォール、リン脂質などの界面活性剤)、無痛化剤等を添加してもよく、更に必要に応じて、医薬として許容し得る溶剤、安定化剤又は酸化防止剤(例えばアスコルビン酸等)のような成分を含んでもよい。本発明化合物の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、及び疾患の程度により適宜選択される。
アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患としては、アルツハイマー病の他、ダウン症候群が挙げられ、蛋白のβシート構造が病因又は病因の一部となる疾患しては、アルツハイマー病、ダウン症候群の他、前頭側頭型痴呆症、ピック病、進行核上性麻痺(PSP)、プリオン病等が挙げられる。
<実施態様2>
本発明の実施態様2の画像診断薬は、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患を診断するための画像診断薬であって、1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を含み、前記化合物はケト型とエノール型が存在し、前記ケト型とエノール型でアミロイドβペプチドの凝集体に対する親和性が異なることを特徴とする。
本発明の実施態様2の体外診断薬は、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患を診断するための体外診断薬であって、1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を含み、前記化合物はケト型とエノール型が存在し、前記ケト型に比べてエノール型の方がアミロイドβペプチドの凝集体に対する親和性が高いことを特徴とする。
本発明において、アミロイドβペプチドとは38~43個のアミノ酸からなるペプチドで、アミロイド前駆体タンパクからプロテアーゼの作用により産生されるペプチドを意味し、アミロイドβペプチド凝集体とは4量体以上を意味する。
本発明の実施態様2の診断薬(画像診断薬及び体外診断薬)に用いる化合物について以下説明する。
診断薬として用いる化合物
本発明の診断薬として用いる化合物は、1,3-ジカルボニル構造を有する化合物であり、ケト型とエノール型が存在する化合物である。
ここで、1,3-ジカルボニル構造を有する化合物とは以下の構造を有する化合物である。
【化8】
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本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物において、ケト型とは1位と3位において両方ケトンとなっているものを示し、エノール型とは1位と3位のどちらか一方がエノール化しているものを示す。
本発明において1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、上記エノール型の化合物であっても、1,3-ジカルボニル構造を取り得る化合物を包含する。
本発明はケト・エノール互変異性を利用するという新しい理論に基づくアミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の診断薬である。本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、画像診断薬として用いる場合は、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβペプチド凝集体に対してケト型とエノール型で親和性が異なるという性質を有し、ケト型に比べてエノール型の方がアミロイドβペプチドの凝集体に対する親和性が高いという性質を有する。体外診断薬として用いる場合においても同様、本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、ケト型に比べてエノール型の方がアミロイドβペプチドの凝集体に対する親和性が高いという性質を有する化合物である。
上記1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、極性の高い水中では主としてケト型で存在し、極性の低い有機溶媒中ではエノール型で存在することが望ましい。そのためには、1,3-ジカルボニル構造の2位に1個の置換基、特にアルキル基を導入することが好ましい。その場合、アルキル基は置換されていてもよい。本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物が不斉炭素を含む場合は、常法に従い分離した光学異性体、並びにラセミ体の両方が本発明の化合物に含まれる。
上記1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を画像診断薬として使用する場合、当該化合物が標識を有していることが好ましい。標識とは、化合物を検出することを可能にする物質であり、例えば、放射性同位元素、蛍光を含む光標識、MR信号等が挙げられる。当該標識として、19Fなど核磁気シグナル測定に適した原子を使用する場合はMR画像診断薬として、陽電子放射核種を使用する場合はPET用画像診断薬として、γ線放射核種を使用する場合はシングルフォトン断層撮影法(SPECT)用画像診断薬として本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を使用できる。これらの標識となる原子や核種は、アミロイドβペプチドの凝集体に対する結合力を失わない限り、本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物のどの位置に結合していてもよい。本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物の投与量は、画像診断が可能になる程度までに結合量が十分となる量であればよい。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、ケト・エノール互変異性を有し、水溶液中でエノール型が0.01~50%、好ましくは0.01~10%、より好ましくは0.01~5%含まれている。このエノール型の比率の測定には、リン酸緩衝液に本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を0.01~5mMの濃度で溶解した水溶液(pH:7.5、温度:20℃)を使用する。エノール型の比率は、NMRにより、当該水溶液中でのケト型及びエノール型それぞれのH、19F又は13C、好ましくは19Fのピークの面積強度を測定することにより求めることができる。放射性標識した材料は、短期間で除去される方が放射線障害などの副作用が少ない。したがって、結合して画像化が終了した後、老人斑から遊離してすみやかに排泄されることが望ましい。そのためには、水溶液中ではケト型の比率が高いことが望ましく、特に70%以上であることが望ましい、一方で、アミロイドβペプチド凝集体への結合状態では、エノール型の比率が高いことが望ましく、特に70%以上であることが望ましい。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物のエノール型とケト型のアミロイドβペプチド凝集体に対する親和性の差は、蛍光阻害試験のIC50値で10倍以上であることが望ましい。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物の例として以下の化合物が挙げられる。
式(i):
【化9】
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式中、R11及びR12はそれぞれ独立に置換されていてもよいアリール基又はヘテロアリール基であり、Bは水素又は置換されていてもよいアルキル基である。Bは好ましくは置換されていてもよいアルキル基である。この化合物が、画像診断薬として使用される場合には、好ましくは上で定義された標識が導入される。
式(i)の化合物における用語について以下説明する。
「アリール基」とは、5又は6員の芳香族炭化水素環からなる単環又は多環系の基を意味し、具体例としては、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アントリル、ビフェニリル、テトラヒドロナフチル、クロマニル、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニル、インダニル及びフェナントリルが挙げられる。
「ヘテロアリール基」とは、N、O及びSから選択される1~3個のヘテロ原子を含む、5又は6員の芳香環からなる単環又は多環系の基を意味し、多環系の場合には少なくとも1つの環が芳香環であればよく、具体例としては、フリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、ベンゾ[b]チエニル及びベンズイミダゾリルが挙げられる。
「アルキル基」は、直鎖状のC1-5アルキル基であればよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル及びn-ペンチルが挙げられ、直鎖状のC1-3アルキル基が好ましい。
「置換されていてもよいアリール基及びヘテロアリール基」とは、ヒドロキシ、C1-6アルキル、メトキシ、アセトキシ、メトキシカルボニルオキシ、フッ素、CHF-、CF-、CHFO-、CFO-、メチルアミノ、CHOOCCHO-、HOOCCHO-から選択される1~4個の原子又は基で置換されていてもよいアリール基及びヘテロアリール基を意味する。ここで、フッ素原子を含む化合物は、上記標識が導入されていることになり、MR画像診断薬として使用できる。
「置換されていてもよいアルキル基」とは、ヒドロキシ、カルボキシル、シアノ、アセチルオキシ、トリフルオロエトキシ、C1-6アルコキシカルボニル、アルコキシアルコキシ、ヒドロキシアルコキシ又はCONR1314(R13及びR14はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル)で置換されていてもよいアルキル基を意味する。ここで、アルコキシアルコキシ、ヒドロキシアルコキシ及びCONR1314中のアルキル基は、直鎖又は分枝状のC1-6アルキルであればよく、直鎖又は分枝状のC1-3アルキル基が好ましい。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は塩であってもよく、そのような塩としては、式(I)の化合物と同じのものが使用できる。
上記式(i)の化合物又はその塩は、下記製法〔5〕から〔6〕のいずれかに記載の方法により製造することができる。
製法〔5〕
式(i)の化合物は、式(ii-a)の化合物と式(iii)の化合物を反応させて式(iv)を製造した後、更に同様の反応条件で式(ii-b)の化合物を反応させることにより製造することができる。
【化10】
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(式中、R11、R12およびBは前述の定義通りである)
製法〔5〕において、反応を効率的に行うために、溶媒中でホウ素化合物と塩基の存在下で反応を行うのが望ましい。本反応におけるホウ素化合物、塩素及び溶媒としては、製法〔1〕と同じものが使用できる。ホウ酸化合物の使用量は式(iii)又は(iv)の化合物に対して0.5当量から6当量である。塩基の使用量は、化合物(iii)に対して触媒量から1当量程度が好ましい。
本反応は、式(iii)の化合物1モルに対して式(ii-a)の化合物を1モル、式(iv)の化合物1モルに対して式(II-b)の化合物を1モルの割合で使用するのが望ましい。反応温度は0~150℃、望ましくは0~100℃の反応で行われ、反応時間は、0.5~24時間程度である。
また、上記反応では反応後式(iv)或いは(i)の化合物のホウ素錯体を分解するために酸で処理する必要がある。その際に使用する酸としては塩酸などの鉱酸、酢酸などの有機酸を挙げることができる。
製法〔6〕
前記式(i)において、置換基R11とR12が同じである式(i-a)の化合物は、製法〔5〕と同様の反応条件で式(iii)の化合物1モルに対して式(ii-a)の化合物を2モル反応させることにより製造することができる。
【化11】
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(式中、R11およびBは前述の定義通りである)
上記した製法〔5〕~〔6〕及びそれに付随した方法で得られる前記式(i)の化合物は、公知の手段、例えば、濃縮、減圧濃縮、蒸留、分留、転溶、溶媒抽出、結晶化、再結晶、クロマトグラフィーなどにより単離、精製することができる。
前記式(i)の化合物がフリー体で得られる場合、通常の方法で塩を形成させることができる。
画像診断薬
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の画像診断薬として使用することができる。本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、19F原子を多く含ませることにより19F-MRI造影剤、即ちMR画像診断薬として使用できる。19F以外でも核磁気共鳴シグナルを測定するのに適した原子であれば同様にMR画像診断薬として使用できるため、19F-MRIに限定されるものでない。上記核磁気シグナル測定に適した原子の本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物への導入位置は、いずれの位置であってもよく限定されない。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、76Br等の陽電子放射核種を含ませることによりPET用画像診断薬として使用できる。この中でも特に18Fが好ましい。また、本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、99mTc、111In、67Ga、201T1、123I、133Xe等のγ線放射核種を含ませることによりSPECT用画像診断薬として使用できる。陽電子放出核種又はγ線放出核種での本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物の標識位置は、化合物中のいずれの位置であってもよい。あるいは環上の水素が陽電子放出核種又はγ線放出核種で置換されていてもよい。
一般的には、上記核種はサイクロトロン又はジェネレーターと呼ばれる装置により産生される。当業者であれば、産生核種に応じた産生方法及び装置が適宜選択可能である。これらの放射線核種で標識された化合物の製造方法は当該分野においてよく知られている。代表的な方法としては、化学合成法、同位体交換法及び生合成法がある。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を画像診断薬として使用する場合、当該化合物により脳内の老人斑を特異的に検出することができる。特に、MR画像診断法において19F-MRIを用いて非侵襲的にアミロイドβペプチドの凝集体を検出する場合、その検出感度は、フッ素原子の数に依存しており、F原子の数は多い方が望ましい。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を画像診断薬として使用する場合、その投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、経口的又は非経口的に投与される。非経口的投与経路としては、皮下、腹腔内、静脈、動脈若しくは脊髄液への注射又は点滴等が挙げられる。
本発明の画像診断薬をヒトに投与後、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積している部位に画像診断薬が到達し診断が可能になる時間は、投与後0.5~6時間、好ましくは、0.5~2時間である。
本発明の画像診断薬は、ヒトへの投与に適した医薬上許容される形態であって、生理学的に許容し得る添加剤を含む。かかる画像診断薬は、適宜、医薬として許容し得る希釈剤、緩衝剤、可溶化剤(例えば、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、あるいはプルロニック、Tween、クレモフォール、リン脂質などの界面活性剤)、無痛化剤等を添加してもよく、更に必要に応じて、医薬として許容し得る溶剤、安定化剤又は酸化防止剤(例えばアスコルビン酸等)のような成分を含んでもよい。本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物の投与量は、アミロイドβペプチド凝集体の検出が可能になる程度にまで結合量が十分となる量であればよく、用法、患者の年齢、性別その他の条件、及び疾患の程度により適宜選択される。
アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患としては、アルツハイマー病の他、ダウン症候群が挙げられる。本発明でいうアルツハイマー病には、ヒト疾患であるアルツハイマー病に加えて、アルツハイマー病モデル動物も含む。
体外診断薬
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物は、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の体外診断薬として使用することができる。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を体外診断薬として使用する場合の使用量は、アミロイドβペプチド凝集体の存在についての判別が可能になる程度にまで結合量が十分となる量であればよく、検体の種類、濃度等の条件により適宜選択される。
本発明の体外診断薬は、検体への使用後、5~720分、特に15~60分でアミロイドβペプチド凝集体の存在についての判別が可能になる。
本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を体外診断薬として使用する場合、体液中に含まれるアミロイドβペプチド凝集体に本発明の化合物のエノール型が結合し、エノール型特有の色調、吸収スペクトルの出現、蛍光の発色等が見られることから、吸光度の変化を検出したり、蛍光を測定することにより体液中に含まれるアミロイドβペプチド凝集体を測定できる。体外診断薬として使用する化合物の種類によって異なってくるが、検出に使われる吸収波長としては、400~600nmが挙げられるし、蛍光の検出では、励起波長400~450nm、蛍光波長500~600nmが挙げられる。
本発明の体外診断薬の試料としては、血液、脳脊髄液のほか、涙、唾液、鼻汁、尿などの体液が挙げられる。
本発明の体外診断薬は、当該体外診断薬の機能を阻害しない程度で他の添加剤を含んでいてもよい。
アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患としては、前記のものが挙げられる。
診断方法
本発明は、上記画像診断薬を用いる、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の診断方法を提供する。本発明のアミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の診断方法は、本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を含む画像診断薬を被験体の血中に投与し、脳において当該化合物を検出することによるものである。
本発明はまた、上記体外診断薬を用いる、アミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の診断方法も提供する。本発明のアミロイドβペプチドの凝集体が蓄積する疾患の診断方法は、本発明の1,3-ジカルボニル構造を有する化合物を含む体外診断薬を被験体から採取した試料に使用し、当該化合物の吸光度の変化を検出するか、又は蛍光を測定することによるものである。
これらの診断方法に用いる上記画像診断薬の投与方法、投与量等、上記体外診断薬の使用方法、使用量等は前述したものが適用される。
アミロイドβペプチドが蓄積する疾患としては、前記のものが挙げられる。
【実施例】
【0010】
次に本発明に係わる合成例及び試験例を記載するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
〔合成例1〕1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-メトキシカルボニルエチル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン(化合物1)の合成
4-アセチル-5-オキソヘキサン酸メチル0.93g(5mmol)と三酸化二ホウ素0.28g(4mmol)の酢酸エチル(10mL)溶液を40℃に30分間加熱した後、4-ヒドロキシ-3-(トリフルオロメトキシ)ベンズアルデヒド2.06g(10mmol)とホウ酸トリ-n-ブチル2.7mL(10mmol)を加え、同じ温度でさらに30分間加熱を続けた。ついで、n-ブチルアミン0.5mL(5mmol)の酢酸エチル(1mL)溶液を加えて、40℃で3時間加熱した。反応液を室温に冷却した後、1M-塩酸(15mL)を加え、10分間激しく撹拌した。反応液に酢酸エチル(100mL)を加え、有機層を0.5M-塩酸で洗い、ついで飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:n-ヘキサン=1:2)により精製して得られた物質に少量のジクロロメタンを加えて室温に放置すると、融点142-143℃の1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-メトキシカルボニルエチル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン1.51gが得られた。
HNMR(dDMSO):δ2.0~3.2(4H),δ3.60(s,1.4H),δ3.64(s,1.6H),δ4.65(t,J=7.0Hz,0.55H),δ7.03(d,J=16.2Hz,1.1H),δ7.10(d,J=8.6Hz,1.1H),δ7.12(d,J=8.6Hz,0.9H),δ7.25(d,J=16.2Hz,0.9H),δ7.6~7.75(arom.H,4H),δ7.81(d,J=16.2Hz,2H),δ10.90(br.s,2H),δ17.90(s,0.45H)
19FNMR(dDMSO):δ-58.09(s),δ-57.96(s)
〔合成例2〕1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-カルボキシルエチル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン(化合物2)の合成
合成例1で得た1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-メトキシカルボニルエチル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン562mg(1.0mmol)を30mLの0.1M-水酸化ナトリウム水溶液に加え、室温で4時間撹拌した後、6M-塩酸でpH2に調整してジエチルエーテルで抽出した。抽出液を1回水洗した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で6回抽出した。抽出液をジエチルエーテルで洗った後、6M-塩酸でpH2に調整してジエチルエーテルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去して得られる残渣に少量のジクロロメタンを加えて室温に放置すると、融点150-151℃の1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-カルボキシルエチル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン346mgが得られた。
HNMR(dDMSO):δ1.7~3.1(4H),δ4.65(t,J=7.0Hz,0.6H),δ7.03(d,J=16.2Hz,1.2H),δ7.1~7.2(2H),δ7.28(d,J=16.2Hz,0.8H),δ7.5~7.9(6H),δ11.1(br.s,2H),δ17.88(s,0.4H)
19FNMR(dDMSO):δ-57.97(s),δ-57.84(s)
〔合成例3〕1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-アセトキシプロピル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン(化合物13)の合成
4-アセチル-5-オキソヘキシルアセタート180mg(0.9mmol)と三酸化二ホウ素63mg(0.9mmol)の酢酸エチル(5mL)溶液を40℃に30分間加熱した後、4-ヒドロキシ-3-(トリフルオロメトキシ)ベンズアルデヒド370mg(1.8mmol)とホウ酸トリ-n-ブチル828mg(3.6mmol)を加え、同じ温度でさらに30分間加熱を続けた。ついで、n-ブチルアミンを1滴加えて、40℃で22時間加熱した。さらにn-ブチルアミンを1滴加えて同温度で31時間加熱した。反応液を室温に冷却した後、反応液にメタノールを加えた後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:n-ヘキサン=2:1)により精製して、融点130-131℃の1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-アセトキシプロピル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン12mgを得た。
HNMR(CDCl):δ1.86~1.93(m,2H),δ2.09(s,3H),δ2.63~2.67(m,2H),δ4.18(t,J=6.2Hz,2H),δ5.62(s,2H),δ6.95(d,J=15.6Hz,2H),δ7.08(d,J=8.0Hz,2H),δ7.43~7.47(arom.H,4H),δ7.68(d,J=15.6Hz,2H).
〔合成例4〕1,7-ビス(4’-アセトキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-メトキシカルボニルエチル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン(化合物17)の合成
1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-メトキシカルボニルエチル1,6-ヘプタジエン3,5-ジオン500mg、無水酢酸 272mgのTHF10mL溶液に、トリエチルアミン270mgを室温下加え、2時間室温攪拌した。反応終了後、水投入、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去し、残渣結晶を少量のエタノールで洗浄、ろ取、乾燥して、融点149-150℃の1,7-ビス(4’-アセトキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-メトキシカルボニルエチル-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン430mgを得た。
HNMR(CDCl):δ2.36(s,6H),δ2.53~2.57(m,2H),δ2.93~2.97(m,2H),δ3.69(s,3H),δ7.09(d,J=15.2Hz,2H),δ7.26(d,J=8.4Hz,2H),δ7.53~7.56(arom.H,4H),δ7.72(d,J=14.8Hz,2H).
〔合成例5〕1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-[2’-(テトラヒドロピラン-4-イル)オキシエトキシエチル]-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオンの合成
3-[2’-(テトラヒドロピラン-4-イル)オキシエトキシエチル]-ペンタン-2,4-ジオン245mg(0.90mmol)と三酸化二ホウ素51mg(0.72mmol)の酢酸エチル(2mL)溶液を40°Cに30分間加熱した後、4-ヒドロキシ-3-(トリフルオロメトキシ)ベンズアルデヒド370mg(1.8mmol)とホウ酸トリ-n-ブチル0.49mL(1.8mmol)を加え、同じ温度でさらに30分間加熱を続けた。ついでn-ブチルアミン0.09mL(0.9mmol)の酢酸エチル(0.2mL)溶液を加え、同じ温度で3時間加熱した。反応液を室温に冷却した後、1M-塩酸(3mL)を加えて10分間激しく攪拌した。反応液に20mLの酢酸エチルを加え、有機層を0.5M-塩酸で洗い、ついで飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:n-ヘキサン=1:2)により精製して、1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-[2’-(テトラヒドロピラン-4-イル)オキシエトキシエチル]-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン290mgを油状物として得た。
HNMR(CDCl):δ1.4~1.8(6H),δ2.30(約0.9H,q,J=7Hz),δ2.86(約1.3H,t,J=7Hz),δ3.4~3.7(8H),δ4.43(約0.8H,t,J=7Hz),δ4.57(1H,m),5.78(1H,br.s),δ5.89(1H,br.s),δ6.6~7.1(4H),δ7.4~7.7(6H),δ17.64(約0.6H,s)
19FNMR(CDCl):δ-59.45(s),δ-59.40(s)
〔合成例6〕1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’トリフルオロメトキシフェニル)-4-(2’-ヒドロキシエトキシエチル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン(化合物22)の合成
合成例5で得られた1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-[2’-(テトラヒドロピラン-4-イル)オキシエトキシエチル]-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン53mg(0.08mmol)を2mLのエタノールに溶かし、この溶液に濃塩酸(0.02mL)を加えて室温で2時間攪拌した。酢酸エチル(30mL)を加えて得られる溶液を水洗し、さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒を留去して得られる残渣に、少量のジクロロメタンを加えて室温に放置すると、融点112-114°Cの1,7-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-トリフルオロメトキシフェニル)-4-(2’-ヒドロキシエトキシエチル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン35mgが得られた。
HNMR(dDMSO):δ2.07(約1H,m),δ2.93(約1H,m),δ3.3~3.5(6H),δ4.70(約0.5H,t,J=7Hz),δ6.9~7.3(4H),δ7.5~7.8(6H),δ10.81(1H,br.s),δ10.88(1H,br.s),δ17.95(約0.5H,s)
19FNMR(dDMSO):δ-58.38(s),δ-58.24(s)
〔試験例1〕老人斑結合試験
化合物(1)、(2)、(4)、(15)及び(23)を2mg秤取り、ジメチルスルホキシド(DMSO)を1ml加えて溶解した。ついで、各々200μlを量りとり、0.3%-Triton X100含有100mM-ホスフェートバッファー(pH7.4)(以下PBS-T)を加えて4mlとし試験溶液とした(薬液濃度:100μg/ml)。
まず、タンパクの非特異的吸着を防ぐ目的で、アルツハイマー症例のヒト脳組織固定標本(20μm厚)を2%牛血清アルブミン(BSA)入りのPBST4mlに浸漬し、室温で1時間反応した。ついで、ウサギ抗ヒトアミロイドβポリクローナル抗体(IBL社,0.2μg/ml)と4℃で一晩反応させた。
更に、本検体をPBS-Tで10分間3回洗浄した後、Alexa647抗ウサギIgG抗体(Molecular Probes社、500倍希釈)と室温下4時間反応した。本検体をPBS-Tで10分間3回洗浄した後、各化合物の入った4mlの試験溶液に浸し、遮光下、室温で浸漬した。1時間後、検体を取り出し、PBS-Tで5分間3回洗浄した後、本検体をPBS-Tで10分間3回洗浄した後、更に蒸留水で洗浄後グリセロール封入を行なったものを検体とし倒立型蛍光顕微鏡(IX70、オリンパス)にてアミロイドβ蛋白への化合物の結合能を観察した。尚、化合物像はFITCフィルター(励起波長:450-480nm、検出フィルター:515nm以上のlong path)で、アミロイドβ蛋白像はCy5フィルター(励起波長:630-650nm、検出フィルター:671-693nm)で測定した。又、陰性対照試験として0.1%-DMSO含有PBS-T溶液を用いて同染色処理をおこなった。
図1及び図2にアルツハイマー病患者の死後脳側頭葉皮質切片における本発明化合物の蛍光染色像と抗アミロイドβ抗体による老人斑の染色像を示す。左列は化合物(FITCフィルター)の蛍光染色像、右列はアミロイドβ抗体(Cy5フィルター)の染色像を示す。本発明化合物は老人斑を形成するアミロイドβ蛋白質と親和性を有し、老人斑と同一位置に化合物の蛍光染色像を認めた。尚、陰性対照では老人斑特異的な蛍光染色像は認められなかった。
尚、第1表に示す他化合物も同様にアミロイドβ蛋白質と高い親和性を示す。
〔試験例2〕19F-MR画像測定
化合物(1)を4.5mg秤とり、Cremophol ELを0.112ml加え、温めながら硝子棒で溶解した。ついで生理食塩水を0.45ml加えて投与溶液(8mg/ml)を調製した。
本投与液250μlをアミロイド前駆体蛋白トランスジェニックマウス(Tg2576。Science,274,99(1996)記載の方法に従い作製)にペントバルビタールナトリウム麻酔をかけ、マウスの尾静脈より1ショット(約90秒)で投与した。
投与終了後に麻酔下、マウス頭部をMRI装置を用いて1時間づつ連続測定し、後にそれぞれのデータを加算して画像を作成した。19F-MRIの脳画像はケミカルシフトイメージ法(CSI法)によって得た。尚、使用したMRI装置は、7 T Unity Inova MR Scanner(Varian製)である。
投与後3時間後から3時間測定したMRIの脳画像を図3に示す。図中、AはH-MRI、Bは19F-MRI、CはAとBのマージ像を示す。19F-MR画像において老人斑と推定される信号が脳内から検出された(矢印)。
〔試験例3〕脳組織染色
上記試験例2で実施した19F-MRIスキャンしたマウス脳を採取し、4%-ホルマリン溶液で2日間固定した後、15%-ショ糖溶液に移してクリオプロテクションし、クリオスタットで厚さ20μmの切片を作成した。次に、本切片をウサギ抗ヒトアミロイドβポリクローナル抗体(IBL社,0.2μg/ml)と4℃で一晩反応させた。更に、本検体をPBS-Tで10分間3回洗浄した後、Alexa647抗ウサギIgG抗体(Molecular Probes社、500倍希釈)と室温下4時間反応した。本検体をPBS-Tで10分間3回洗浄した後、クレシルバイオレットで1分間対比染色し、更に蒸留水で洗浄後グリセロール封入を行なったものを検体とし、倒立型蛍光顕微鏡にて老人斑への化合物の結合能を観察した。尚、化合物像はFITCフィルターで、アミロイドβ蛋白像はCy5フィルターで測定した。又、正常マウスに対しても同様の処理を実施した。
得られたマウス脳切片の染色像を図4に示す。図中、左列はアミロイド前駆体蛋白トランスジェニックマウス像、右列は正常マウス像であり、Aは明視野像(クレシルバイオレット対比染色)、Bは化合物(1)の蛍光染色像、Cはβアミロイド抗体染色像を示す。Cで認められる老人斑を形成するアミロイドβの斑点とBで認められる化合物(1)の蛍光染色像が一致し、本発明化合物の血液脳関門透過性とインビボでの老人斑への充分な結合が確認された。
〔試験例4〕
[溶液中のケト型、エノール型の存在比率のNMR測定]
水中では主としてケト型で存在し、極性の低い有機溶媒中では主としてエノール型として存在するような化合物において、エノール型として存在し易いのか、ケト型として存在し易いのかを、極性の高い重水素で置換したジメチルスルホキシド(dDMSO)を溶媒に選び、19FNMRにおける2本のピーク(ケト型およびエノール型に帰属される)の面積強度を比較することによって確かめた。2本のシグナルをケト型、エノール型のどちらに帰属させるかについては、およそのケト型/エノール型の比を、前もってHNMRにより求めておく必要がある。すなわち、HNMRにおいて、δ4.5ppm付近に現れるトリプレット(ケト型に帰属される)とδ17.8ppm付近に現れるシングレット(エノール型に帰属される)の存在を確認し、その面積強度から、およそのケト型/エノール型の比を求めておく(化学シフトが大きく離れているために、得られる面積強度比は、ケト型/エノール型の比に正確には反映しない)。その上で、19FNMRを測定し、ケト型に帰属すべきフッ素のピークとエノール型に帰属すべきフッ素のピークの面積強度比から正確なケト型/エノール型の比を求めた(化学シフトが近接しているために面積強度比が正確に求められる)。
代表例について示す。図5に化合物23、図6に化合物1、図7に化合物24、図8に化合物5、図9に化合物6、図10に化合物8、図11に化合物9のNMR測定の結果を示す。NMR測定により、ケト型、エノール型で異なるケミカルシフトの位置にフッ素のNMR信号が検出されることから、ケト型、エノール型の存在比率が算出される。これは、フッ素原子をもつ他の本発明の化合物でも同様である。
〔試験例5〕
[溶液中のケト型、エノール型の存在比率と溶液の色測定]
化合物1を20μg/mlの濃度になるように、95%,90%,80%,70%,50%,30%,10%,0%の濃度のDMSOに溶解し、色スペクトルとNMR測定を行った。その結果、図12Aに示すようにDMSO濃度により、色調が変化した。色スペクトルで見ると赤色に相当する550nmの波長の吸光度が、変化していた。つぎに、各溶液をNMR測定し、フッ素ピークの面積比から、ケト型、エノール型の存在比率を計算した。その結果、図12Bに示すように、エノール型の存在比率が増加すると、赤色が強くなり550nmの吸光度が増加し、両者は極めてよく相関している。
〔試験例6〕
[合成化合物のアミロイドβペプチド凝集体への結合性試験]
アミロイドβペプチド凝集体に対する化合物の結合能を、チオフラビン-Tの蛍光阻害試験で定量測定した。
まず、アミロイドβペプチド(1-40、ペプチド研究所,大阪府箕面市)を100mMの濃度になるように50mMリン酸バッファー、100mM食塩(pH7.5)に溶解して30℃で16時間放置し、アミロイドβペプチド凝集体を作製した。この際に、同様の方法であらかじめ作製しておいたアミロイドβペプチド凝集体を28-45-100KHz変動、30分間超音波処理したものを、アミロイドβペプチドに対して1/1000量加えることで、均一なアミロイドβペプチド凝集体を作製した。
最終濃度として、上記方法で作製したアミロイドβペプチド凝集体を1μM、チオフラビン-Tを3μM、測定化合物を0.02から20μMの濃度になるように50mMリン酸バッファー(pH7.4)中に加え、遮光した上で、23℃で30分間反応し、チオフラビン-Tの蛍光をEx=440nm,Em=490nm,Cutoff filter=475nmの条件で測定した。IC50値を解析ソフトGraphPad PRISM Ver.5(GraphPad Software,Inc.)を用いて算出した。
その結果、代表的な化合物の値を以下の表に示す。対照としてエノール型構造を多くとる化合物23と100%ケト型構造をとる化合物24の測定も行った。この結果、エノール型構造を多くとる化合物23のIC50値は0.21μMでありアミロイドβペプチド凝集体に強く結合したが、100%ケト型構造をとる化合物24のIC50値は、>15μMでありアミロイドβペプチド凝集体にほとんど結合しないことが確認された。
【表4】
JP0005699286B2_000016t.gif
【表5】
JP0005699286B2_000017t.gif
【表6】
JP0005699286B2_000018t.gif
上記表では、本発明の化合物をケト型で記載しているが、化合物24以外の化合物については、ケト・エノール互変異性によりエノール形をとることができる。
〔試験例7〕
[ケト・エノール互変異性を利用したアルツハイマー病の体外診断薬のモデル実験]
試験例6で述べた方法でアミロイドβペプチド凝集体を調製し、反応時間を長くすることで溶液中で沈殿するように凝集体作成後、アミロイドβペプチド凝集体を含む沈殿と含まない上清に分離した。アミロイド凝集体を含む沈殿を100μMになるようにバッファーに懸濁した。ついで、化合物23および1を20μg/mlの濃度になるように100mMのNaClを含む50mMのリン酸バッファー(pH7.5)に溶解した。化合物の入った溶液100μlにバッファーを100μl加えた混合液(図13のA)、化合物の入った溶液100μlにバッファーに溶解した凝集反応前のアミロイドβペプチドを100μl加えた混合液(図13のB)、化合物の入った溶液100μlにバッファーに懸濁したアミロイドβペプチド凝集体を100μl加えた混合液(図13のC)、化合物の入っていないバッファー100μlにバッファーに懸濁したアミロイドβペプチド凝集体を100μl加えた混合液(図13のD)の4種類の混合液を作製し、室温で静置した。図13にその結果を示す。化合物1とアミロイドβペプチド凝集体を混合した検体のみが、5分後から赤色に染まりだし、次第に濃くなり、約30分後には濃い赤色に変化した。凝集反応前のアミロイドβペプチドを加えた検体は、色調の変化が生じなかった。赤色に変化した検体の吸光スペクトラムを測定すると、ピークが長波長にずれていた。赤色の色調はエノール型に認められることから、この結果は、化合物1のエノール型がアミロイドβペプチド凝集体に結合したことを示している。その結果、溶液中のケト・エノールの平衡が崩れて、溶液中で新たにケト体からエノール体への構造変化が起こっていると考えられる。さらに凝集反応前のアミロイドβペプチドを加えた検体では、色調の変化が生じなかったことから、化合物1はアミロイドβペプチド凝集体が存在すると凝集体結合能力の高いエノール型が増えることにより、赤色に変化することを示している。このことから、化合物1は溶液中のアミロイドβペプチド凝集体の存在を示す試薬になることを示している。
〔試験例8〕
[エノール型でアミロイドβペプチド凝集体に結合した化合物は、ケト型になるとアミロイドβペプチド凝集体から遊離する]
化合物23、化合物1、あるいは化合物24を2μg/mLの濃度でリン酸バッファーに溶解した後、アミロイドβペプチド凝集体を加えて1時間反応させる。その後、6,000rpmで10分間遠心してアミロイドβペプチド凝集体を分離する。上清を取り除き、上清中に入っているアミロイドβペプチド凝集体に結合しなかった化合物量を吸光度測定し、元の量から差し引いて結合した化合物量を算出した。その結果を図14に示す。結合率はエノール型の多い化合物23が最も多くて85%、ケト型しかとらない化合物24が最も少なくて27%、その中間の化合物1が57%であった。以上の結果から、ケト型しかとらない化合物24は、アミロイドβペプチド凝集体への結合が弱いことがわかる。
ついで、沈殿したアミロイドβペプチド凝集体を洗浄後、バッファーを加えて遊離してくる化合物の量を測定した。そして、アミロイドβペプチド凝集体に結合した後、バッファー中に溶出してくる化合物の割合を元の量を100%として計算した。その結果を図15に示す。その結果、化合物23よりケト型になり易い化合物1が、もっとも高い値を示した。ケト型になり易い化合物の方が、結合後の排泄が速いことが示唆される。
また、NMR信号はアミロイドβペプチド凝集体に強く結合すると自由運動が減少し、理論的にNMR信号はブロードとなる。ケト・エノール互変異性により、老人斑の局所で結合と遊離を繰り返す互変異性をもつ化合物の方が、NMR信号が強くなる。
〔試験例9〕
[ケト・エノール互変異性を利用したアミロイドβペプチド凝集体の定量]
<抗アミロイドβ(Aβ)抗体結合microspheresの調製>
Protein G microspheres(Polysciences,Inc.社製、No.21106-1)25μLを1.5mLマイクロチューブに取り、PBS-Tで3回洗浄した。洗浄操作は、PBS-Tを0.75mL添加し10,000×Gで5分間遠心した後、上清を除去することにより行った。洗浄後のmicrospheresに抗アミロイドβモノクローナル抗体(自家製ハイブリドーマクローン1A-10F産生抗体、マウスIgG1、1mg/mL)とPBS-Tをそれぞれ0.05mLずつ加え、4℃で1時間反応させた。反応中は5~15分間置きに撹拌を行った。反応後、上記と同様の方法により3回洗浄操作を行い、PBS-T0.25mLに懸濁し、使用時まで4℃で保存した。
なお同様の方法により非特異的マウスIgG1抗体(SIGMA社製No.M 9269、マウスミエローマ由来IgG1、1mg/mL)を用いて陰性対照用microspheresを調製した。
<アミロイドβ凝集体の定量1>
上記にて作製した抗アミロイドβ抗体結合microspheresと発明化合物1、および試験例6と同様の方法で作製したアミロイドβペプチド凝集体を混合し、4℃で5~60分間反応した後、フローサイトメーター(FACS)法(Becton Deckinson社製、FACS Calibur)により、microspheresに特異抗体とアミロイドβ凝集体を介して結合した発明化合物1の蛍光強度解析を行った。なお、非特異的マウスIgG1抗体を結合した陰性対照用microspheresでの解析値をバックグラウンドとして減じることで抗Aβ抗体特異的な蛍光陽性microspheres粒子のカウント数を求めた。添加するアミロイドβペプチド凝集体の添加濃度を変化させ定量性を確認した。その結果、添加したアミロイドβペプチド凝集体の濃度に依存した蛍光陽性microspheres粒子のカウント数増加が見られ、その定量性が確認された。得られた結果を図16に示す。
<アミロイドβペプチド凝集体の定量2>
上記にて作製した抗アミロイドβ抗体結合microspheresと発明化合物1、および試験例6と同様の方法で作製したアミロイドβペプチド凝集体を混合し、4℃で5~60分間反応後、キャピラリー電気泳動法により、microspheresの蛍光強度解析を行う。なお、非特異的マウスIgG1抗体を結合した陰性対照用microspheresでの解析値をバックグラウンドとして減ずることで特異的蛍光強度を求める。添加するアミロイドβペプチド凝集体の添加濃度を変化させ定量性を確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の化合物は、アミロイドβ蛋白に対する親和性が高く、19F-MRIの検出に不可欠な等価なフッ素原子を多く含むためMRI造影剤として機能し、医療機関に広く普及しているMRI装置を用いてアルツハイマー病をはじめとするアミロイド蓄積性疾患の生前非侵襲的診断に利用できる。
図面
【図5】
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