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明細書 :試料イオン化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5717183号 (P5717183)
公開番号 特開2012-177604 (P2012-177604A)
登録日 平成27年3月27日(2015.3.27)
発行日 平成27年5月13日(2015.5.13)
公開日 平成24年9月13日(2012.9.13)
発明の名称または考案の名称 試料イオン化方法
国際特許分類 G01N  27/62        (2006.01)
FI G01N 27/62 G
G01N 27/62 V
請求項の数または発明の数 11
全頁数 19
出願番号 特願2011-040381 (P2011-040381)
出願日 平成23年2月25日(2011.2.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成22年9月15日発行の「日本油学会第49回年会 講演要旨集」に発表
特許法第30条第1項適用 平成22年9月17日に日本油学会主催の「日本油学会第49回年会」において文書をもって発表
審査請求日 平成26年2月24日(2014.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
発明者または考案者 【氏名】持田 由幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
【識別番号】100120891、【弁理士】、【氏名又は名称】林 一好
審査官 【審査官】藤田 都志行
参考文献・文献 特開昭59-035347(JP,A)
特開平10-156535(JP,A)
特開2005-116460(JP,A)
米国特許出願公開第2009/0314931(US,A1)
草井 明彦,「リアルタイム直接質量分析法の原理と応用」,ぶんせき,社団法人日本分析化学会,2007年 3月 5日,2007年第3号,通巻387号,p. 124-127
調査した分野 G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
質量分析のための測定試料に対して、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するとともに紫外線を照射することで、前記測定試料をイオン化し、
前記測定試料のイオン化は、大気圧下で供給されるアルゴンガスと水に対して前記紫外線を照射することで、下記化学反応により生じるオキソニウムイオン(H)によりイオン化することを特徴とする試料イオン化方法。
【化1】
JP0005717183B2_000009t.gif

【請求項2】
前記紫外線を紫外線ランプにより照射することを特徴とする請求項1記載の試料イオン化方法。
【請求項3】
前記オキソニウムイオン(H)と前記紫外線の照射により水が生成される下記化学反応を抑制することを特徴とする請求項又は記載の試料イオン化方法。
【化2】
JP0005717183B2_000010t.gif

【請求項4】
前記水が生成される化学反応の抑制は、前記紫外線の照射量を制御してなされることを特徴とする請求項記載の試料イオン化方法。
【請求項5】
前記紫外線の照射量の制御は、前記紫外線ランプの紫外線発光面の一部を外筒によって覆うことによって行うことを特徴とする請求項記載の試料イオン化方法。
【請求項6】
前記外筒の長さは、前記紫外線の照射量に応じて選択可能としたことを特徴とする請求項記載の試料イオン化方法。
【請求項7】
前記測定試料が薄層クロマトグラフィー板上に展開されており、所定の展開箇所から前記測定試料を脱離させた後に、当該脱離箇所に対して、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するとともに紫外線を照射することを特徴とする請求項1からいずれか1項記載の試料イオン化方法。
【請求項8】
前記所定の展開箇所を局所的に加熱して前記測定試料を脱離させることを特徴とする請求項記載の試料イオン化方法。
【請求項9】
前記測定試料の展開方向に沿って、前記薄層クロマトグラフィー板を加熱箇所に対して相対移動させることにより、異なる展開箇所における前記イオン化を行うことを特徴とする請求項記載の試料イオン化方法。
【請求項10】
前記測定試料が核磁気共鳴測定に用いられる有機溶媒に溶解した試料である場合に請求項1からいずれか1項記載の試料イオン化方法を用いることを特徴とする質量分析方法。
【請求項11】
前記測定試料が有機過酸化物である場合に請求項1からいずれか1項記載の試料イオン化方法を用いることを特徴とする質量分析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料イオン化方法に関する。さらに詳しくは、大気圧下において、測定試料を効率良くイオン化することができる試料イオン化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる質量分析方法(以下、「MS」ともいう。)は、測定試料の質量電荷比を求める場合に使用される分析方法である。この質量分析法によって得られるマススペクトルは、豊富な情報量を有し、しかも測定試料に含まれる分子に由来する固有のピークの分布となって現れるため、既知の化学物質の同定及び未知の化学物質の構造決定に強力な手段となっている。このため現在、質量分析方法は、有機化学、生物化学の分野における化学物質の分析において、非常に多用され、将来もきわめて重要な分析方法として期待されている。
【0003】
質量分析方法は、種々の測定試料の導入部と質量分析計を組み合わせた質量分析機器によって行われる。上記測定試料の導入部においては、測定試料をイオン化する必要がある。ここで、測定試料をイオン化する方法の代表的な方法としては、測定試料を高分子マトリックスに混ぜ、測定試料に高速で中性原子を衝突させることで測定試料をイオン化する高速原子衝突法(以下、「FAB」ともいう。)や、測定試料とマトリックス(芳香族有機化合物)中に混合し、その結晶を作り、これにレーザーを照射することによりイオン化するマトリックス支援レーザー脱離イオン化方法(以下、「MALDI」ともいう。)がある。
【0004】
しかしながら、上記質量分析機器を構成する測定試料導入部に採用されている高速原子衝突法(「FAB」)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化方法(「MALDI」)は、いずれも真空下において行われることを条件とするため、測定試料をイオン化する際に操作上支障を来たす場合が多い。また、上記質量分析機器は、真空下で使用されるものであるので、イオン化装置部分のメンテナンスに要する労力及びコストも大きい。
【0005】
そこで、真空下ではなく、大気圧下において測定試料をイオン化する方法が提案されている。例えば、コロナ放電、又はグロー放電によって生成した励起分子と測定試料を反応させ、測定試料をペニングイオン化して、質量分析計のイオン導入口に導入させるDART(Direct Analysis in Real Time)法(以下、「DART法」)と呼ばれるイオン化方法が提案されている。
【0006】
また、大気圧下において、微量の測定試料を高感度で分析するために、励起・イオン化されたキャリアガスを測定試料と反応させ、測定試料ガスイオンを生成するイオン化方法及びイオン化装置が提案されている(特許文献1参照)。さらに、非定形試料をイオン化するに際して、前処理の不要な大気圧イオン化方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2008-051504号公報
【特許文献2】特開2007-256246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、DART法は、測定試料が粉体の場合、測定試料を気化及び熱脱離する際に励起ガスの風圧により試料が飛散してしまうという問題点を有する。このため、DART法においては、測定試料をバインダ等と練合わせて固体状の試料にする等の前処理が必要となる。また、DART法は、励起ガスとして高価なヘリウムガスを使用しているため、測定試料分析の試料のイオン化に要するコストを要してしまうという問題点を有する。
【0009】
また、特許文献1に記載された測定試料ガスのイオン化方法は、キャリアガスとしてヘリウムガスを使用し、励起・イオン化されたキャリアガスと測定試料とを直接を反応させているものであり、イオン化エネルギーの関係から、イオン化することができる測定試料が限定されてしまうという不都合がある。さらに、特許文献2に開示された大気圧イオン化方法は、分析試料の脱着とイオン化を同時に行っているため、必然的に測定試料のイオン化効率が十分ではないという問題点を有する。
【0010】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、大気圧下において、イオン化効率にきわめて優れ、微量の測定試料を高感度で分析することができる質量分析機器に適用することができる試料イオン化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するともに紫外線を照射することにより測定試料のイオン化を効率良く行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、具体的に以下のものを提供する。
【0012】
(1) 質量分析のための測定試料に対して、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するとともに紫外線を照射することで、上記測定試料をイオン化することを特徴とする試料イオン化方法。
【0013】
(2) 上記測定試料のイオン化は、大気圧下で供給されるアルゴンガスと水に対して
上記紫外線を照射することで、下記化学反応により生じるオキソニウムイオン(H)によりイオン化することを特徴とする(1)記載の試料イオン化方法。
【化1】
JP0005717183B2_000002t.gif

【0014】
(3) 上記紫外線を紫外線ランプにより照射することを特徴とする(1)又は(2)記載の試料イオン化方法。
【0015】
(4) 上記オキソニウムイオン(H)と上記紫外線の照射により水が生成される下記化学反応を抑制することを特徴とする(2)又は(3)記載の試料イオン化方法。
【化2】
JP0005717183B2_000003t.gif

【0016】
(5) 上記水が生成される化学反応の抑制は、上記紫外線の照射量を制御してなされることを特徴とする(4)記載の試料イオン化方法。
【0017】
(6) 上記紫外線の照射量の制御は、上記紫外線ランプの紫外線発光面の一部を外筒によって覆うことによって行うことを特徴とする(5)記載の試料イオン化方法。
【0018】
(7) 上記外筒の長さは、上記紫外線の照射量に応じて選択可能としたことを特徴とする(6)記載の試料イオン化方法。
【0019】
(8) 上記測定試料が薄層クロマトグラフィー板上に展開されており、所定の展開箇所から上記測定試料を脱離させた後に、当該脱離箇所に対して、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するとともに紫外線を照射することを特徴とする(1)から(7)いずれか記載の試料イオン化方法。
【0020】
(9) 上記所定の展開箇所を局所的に加熱して上記測定試料を脱離させることを特徴とする(8)記載の試料イオン化方法。
【0021】
(10) 上記測定試料の展開方向に沿って、上記薄層クロマトグラフィー板を加熱箇所に対して相対移動させることにより、異なる展開箇所における上記イオン化を行うことを特徴とする(9)記載の試料イオン化方法。
【0022】
(11) 上記測定試料が核磁気共鳴測定に用いられる有機溶媒に溶解した試料である場合に(1)から(10)いずれか記載の試料イオン化方法を用いることを特徴とする質量分析方法。
【0023】
(12) 上記測定試料が有機過酸化物である場合に(1)から(10)いずれか記載の試料イオン化方法を用いることを特徴とする質量分析方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、大気圧下において、測定試料を効率良くイオン化することができ、有機過酸化物等の測定試料を高感度で分析できる質量分析に使用できる試料イオン化方法を提供することができる。また、本発明の試料イオン化方法によれば、測定試料のイオン化に使用する励起ガスとして、アルゴンガスを使用でき、きわめて廉価に測定試料をイオン化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】質量分析機器用イオン化装置を模式的に示す概略図である。
【図2】基板と測定試料の固定化の態様を模式的に示した図である。
【図3】質量分析機器用イオン化装置を構成するイオン化ガス発生部を模式的に示す概略図である。
【図4】大気圧下における光イオン化の原理を示す図である。
【図5】水クラスターイオンの発生の確認結果を示すグラフである。
【図6】エタノール・水クラスターイオンの発生の確認結果を示すグラフである。
【図7】ステアリン酸メチル及びラウリン酸メチルの質量分析結果を示すグラフである。
【図8】ジメチルスルホオキシド(DMSO)を溶媒とする測定試料の質量分析結果を示すグラフである。
【図9】t-ブチルペルオキシラウレート(PBL)の質量分析結果を示すグラフである。
【図10】各種測定試料(測定試料-付加試薬複合体)の質量分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[試料イオン化方法]
本発明の試料イオン化方法は、質量分析のための測定試料に対して、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するとともに紫外線を照射することで、上記測定試料をイオン化することを特徴とするものである。以下、図面を参照しつつ、説明する。

【0027】
<質量分析のための測定試料>
図1は、本発明の試料イオン化方法を適用することができる質量分析機器用イオン化装置1の装置の模式図である。この質量分析機器用イオン化装置1は、イオン化装置本体1aの内部に測定試料を固定化するための基板2と、測定試料22をイオン化するためのイオン化ガスを供給する供給部3(以下、「イオン化ガス供給部3」という。)を備え、さらに、質量分析機器にイオン化した測定試料を導出する導入口6(以下、「質量分析機器導入口6」という。)及び気相マトリックス貯蔵部5を備える。イオン化ガス供給部3は、ガス導入管44により、アルゴンガス-水混合ガス供給部4と連通している。

【0028】
質量分析の対象となる測定試料22は、基板2上に固定化されている。これは、上記で説明したDART法と同様に、測定試料が粉体等の場合に、測定試料を気化及び熱脱離する際に使用するイオン化ガス及びキャリアガスの風圧により測定試料22がイオン化装置本体1a内に飛散することを防ぐためである。測定試料22の固定化に使用される基板2は、測定試料22を固定化することができるものであれば、特に制限されるものではなく、種々のガラス基板、金属基板、その他基板表面に高分子マトリックス層を有する基板を使用することもできる。なお、基板の大きさ、形状等は質量分析の対象となる測定試料、後述するイオン化の条件により応じて適宜設定することができる。

【0029】
測定試料の基板への固定化は、分析対象となる測定試料の物理的性状によって異なり、特に制限されるものでないが、例えば、測定試料が粉体である場合には、測定試料を溶媒に溶解させて、所定濃度の測定試料溶液を作製し、この測定試料溶液をシリンジ等で採取して、上記基板上にスポット的に注入することによって測定試料の基板への固定化を行うことができる。

【0030】
上記基板は、基板と測定試料の固定化及び吸着性の観点から、薄層クロマトグラフィー基板(Thin-Layer Chromatography、以下、「TLC基板」ということがある。)であっても良い。薄層クロマトグラフィー(TLC基板)は、ガラス板の上にシリカゲル、アルミナ、ポリアミド樹脂等の吸着性のある物質を所定量塗布して、基板上にこれらの薄層を形成させたものである。なお、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板は、質量分析対象となる測定試料との吸着性等に応じて適宜採択することができる。

【0031】
薄層クロマトグラフィー(TLC)基板に測定試料を固定化する場合、例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板の形状を帯形とし、この薄層クロマトグラフィー(TLC)の横方向(X軸方向)に複数の測定試料を一次元的に直線上に展開することも可能である。薄層クロマトグラフィー(TLC)基板上に複数の測定試料を展開するには、測定試料を溶媒に溶解させて、所定濃度の測定試料溶液を作製し、この測定試料溶液をシリンジ等で採取して、上記薄層クロマトグラフィー(TLC)基板上にスポット的に一次元的に直線上に注入することによって固定化して、測定試料の展開を行うことができる。また、図2に示したようにタングステン基板を基板として用い、その先端に測定試料を固定化することもできる。また、タングステン基板の先端に加工した帯形状の薄層クロマトグラフィー(TLC)基板や先端形状が尖った薄層クロマトグラフィー(TLC)基板を取り付け、当該TLC板状に測定試料を固定することもでき、測定試料のガス化を促進することができる。

【0032】
薄層クロマトグラフィー(TLC)基板に測定試料を固定化する場合、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板の形状を横長の形状とし、横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)に複数の測定試料を二次元的に固定化して、上記と同様にして、測定試料の展開を行うことができる。さらに、基板の形状、厚みを適宜変化させることにより、測定試料を固定化して三次元的に展開することも可能である。

【0033】
<アルゴンガスと水の供給>
本発明の試料イオン化方法は、測定試料をイオン化するためのイオン化ガスの原料として、アルゴンガスと水を使用することを特徴とする。図1に示した質量分析機器用イオン化装置1において、アルゴンガス-水の混合ガスは、アルゴン-水混合ガス供給部4から、イオン化ガス供給部3に供給される。本発明の試料イオン化方法は、他の質量分析法のイオン化反応に使用されているヘリウム、ネオン他の不活性ガスに比較して、きわめて廉価なガスであるアルゴンガスと水を使用している。すなわち、本発明の試料イオン化方法は、ヘリウムガス等を使用するぺニングイオン化等のイオン化方法に比較してきわめて廉価な不活性ガスであるアルゴンと取り扱いにきわめて優れた水を使用して、測定試料をイオン化できるという点にそのメリットを有しているものである。

【0034】
なお、アルゴンガス-水の混合ガス中のアルゴンガスと水の供給量は、アルゴンガス貯蔵部41と水貯蔵部42に接続された各コック43を制御することにより適宜調整することができる。アルゴンガス貯蔵部41から送られたアルゴンガスは、水貯蔵部42から送られた水と混合されて、導入管44を通じて、イオン化ガス供給部3の外筒31に設置されているアルゴンガス-水導入口33を通じてイオン化ガス供給部3の内部に送られる。

【0035】
(紫外線の照射)
上記イオン化ガス供給部3に送られたアルゴンガス-水の混合ガスは、イオン化ガス供給部3の外筒31の内部において、紫外線の照射を受ける。紫外線の照射に使用することができる紫外線の波長は、上記混合ガス中のアルゴンガスを励起ガスとすることができる波長であれば、特に制限されるものではない。例えば近紫外線の波長である150~280nmが好ましい。一般に、紫外線の波長が短いものは波長の有するエネルギーが大きいものであるが、紫外線の波長が150nm以上であるとアルゴンガス-水の混合ガス中のアルゴンガスを適度に励起し、励起アルゴンガスとすることができるため好ましく、紫外線の波長が280nm以下であるとアルゴンガスを励起する際のエネルギー効率の観点より好ましい。なお、上記200~280nmの波長を有する紫外線は、UV-Cに分類される紫外線である。

【0036】
紫外線の照射は、各種の紫外線ランプにより行うことができる。この紫外線ランプは、照射波長、当該紫外線ランプの放電管内に使用されるガスの有無、ガスの種類によって大別される。上記紫外線ランプとしては、水銀ランプ、放電管内に微量希ガスを放電管内に封じ込めた紫外線ランプ、ガラス管内壁に蛍光物質を塗布した紫外線ランプ(いわゆる蛍光灯)等を例示することができる。本発明の試料イオン化方法においては、これらの紫外線照射装置の中でも紫外線の照射波長を254nmとすることができ、アルゴンガスを効率良く励起することができることから、低圧水銀ランプを使用することが好ましい。なお、この低圧水銀ランプは、254nmの紫外線を86%放射することができるものである。

【0037】
図3に本発明の試料イオン化方法に使用されるイオン化ガス供給部3の模式図を示す。図3(a)に示すように、イオン化ガス供給部3は、外筒31とその内部に棒状の水銀ランプ32を備えており、図3(b)のように、外筒31と棒状の低圧水銀ランプ32をその上端で嵌合することにより、一体となって形成される。図3(c)は、イオン化ガス供給部3の長軸方向の断面図である。図3(c)に示すように、外筒31は、その内部に低圧水銀ランプ32から発生する紫外線の照射量を制御するための内筒34を備えており、水銀ランプ32が内筒34により覆われることにより、紫外線の照射量を適宜制御することができる。イオン化ガス供給部3を構成する外筒31と低圧水銀ランプ32の間に外筒31の長軸方向に対応して、アルゴンガスと水との混合ガスが流通する通路が設けられ、この通路と内筒34との間で空間部が形成される。この外筒31と内筒34内の空間部には、外筒31の上方に設けられているアルゴンガス-水導入口33からアルゴンと水の混合ガスが送られる。そして、内筒34の先端において、アルゴンガスと水との混合ガスが紫外線照射を受けることにより、測定試料をイオン化するためのイオン化ガスが発生する。そして、形成されたイオン化ガスの発生量は、内筒34の長さを適宜変えることによって、低圧水銀ランプの露出した先端部分の長さを変えることにより、紫外線照射量及び紫外線照射時間を変えることによって、測定試料の性質に応じたイオン化ガス量を発生させることができる。

【0038】
すなわち、図3からも明らかなように、本発明の試料イオン化方法においては、イオン化ガス供給部3に外筒31と外筒31の内部に内筒34を設け、棒状の低圧水銀ランプ32を使用して行っているので、必要な紫外線照射時間を十分にとることができ、上記アルゴンガス-水の混合ガスと紫外線照射量を内筒34の長さを調整することによりイオン化ガス発生量を制御することができる。

【0039】
<測定試料をイオン化する工程>
次に、本発明の試料イオン化方法は、上記測定試料にアルゴンガスと水とを供給するとともに紫外線を照射した後、上記測定試料をイオン化することを特徴とする。

【0040】
(測定試料の基板からの脱離)
本発明の試料イオン化方法においては、基板2上に固定化された測定試料22を基板2より脱離させる。本発明の試料イオン化方法は、測定試料22を脱離させてから、イオン化ガスによる測定試料のイオン化をすることによって、測定試料のイオン効率を向上させる点に特徴を有するものである。すなわち、基板2からの測定試料22の脱離は、測定試料22が固定化され、展開されている基板2を加熱することによって行う。基板2の加熱手段は、特に制限されるものではないが、基板2をヒータや電熱線21により加熱して行うことができる。基板2の加熱により、基板2に固定化されている測定試料22は、測定試料ガス22aとなる。測定試料ガス22aは基板2と質量分析機器導入口6付近に存在することとなる。そして、上記測定試料ガス22aは、質量分析機器導入口6付近において、測定試料22をイオン化するためのイオン化ガスとの反応場となる領域を形成する。

【0041】
基板2上に固定化された測定試料22を加熱する温度は、測定試料22をガス化できる温度であれば、特に制限されるものではなく、具体的には、測定試料22がガス化する温度、基板の耐熱温度等の諸条件により適宜設定される。例えば、試料が有機過酸化物である場合には、加熱温度を50~150℃の範囲で適宜設定することができる。

【0042】
基板2上に固定化された測定試料22が測定試料ガス22aとなることによって、基板2上に固定された測定試料22は、基板2から完全に脱離することになる。そして、試料ガス22aとなって基板2から脱離した試料22は、測定試料ガス22aとなって、基板2上の領域の空間に移動し存在することになる。

【0043】
上記基板が薄層クロマトグラフィー(TLC)基板であり、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板に測定試料が一次元又は二次元に展開されている場合には、当該測定試料が展開されている箇所を局所的に加熱して、測定試料22を測定試料ガス22aとすることができる。なお、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板の加熱は、測定試料ガス22aが薄層クロマトグラフィー(TLC)基板と質量分析機器導入口6付近に測定試料ガス22aの反応場となる領域を形成することができるように、質量分析機器導入口6に対して、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板を上斜め方向に傾斜させて設置し、当該基板に展開されている測定試料の裏面から加熱することが必要である。なお、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板の質量分析機器の導入口に対する設置角度は、測定試料のイオン化の程度により、適宜調整することができる。

【0044】
さらに、薄層クロマトグラフィー(TLC)基板に複数の測定試料が固定化され、展開されている場合には、測定試料の第一の展開箇所を加熱後、さらに薄層クロマトグラフィー(TLC)基板を所定の駆動装置等により一次元又は二次元に相対移動させて、第二の測定試料の展開箇所を順次加熱することができる。すなわち、基板に薄層クロマトグラフィー(TLC)基板を使用することによって、複数の測定試料を連続的にイオン化することができる。

【0045】
このように、本発明の試料イオン化方法においては、基板に固定化され、展開されている測定試料を測定試料ガスとすることにより完全に基板から脱離させることによって測定試料のイオン化効率を向上させることができるものである。

【0046】
(イオン化ガスの生成)
本発明の試料イオン化方法においては、質量分析機器導入口6付近に存在する測定試料ガス22aとイオン化ガスとを反応させる。かかるイオン化ガスは、アルゴンと水の混合ガスに紫外線を照射することにより発生させる。

【0047】
図4にアルゴンと水の混合ガスに紫外線を照射することにより、イオン化ガスが発生する原理を示した。混合ガス中のアルゴン分子は、紫外線照射されることによって、電子励起状態にある中性の原子Arとなる。なお、図3に示すように、Arには、(Em:励起エネルギー11.5eV)の長寿命準安定励起状態が存在する。

【0048】
上記Arを用いて、水のイオン化をする場合にはイオン化の対象となる水のイオン化エネルギーがArの励起エネルギー(11.5eV)より小さいことが必要となる。

【0049】
ここで、本発明の試料イオン化方法に使用される混合ガス中のアルゴンガスと水のイオン化エネルギーの関係について検討すると、Arの励起エネルギー(11.5eV)に対して、水分子(モノマー)のイオン化エネルギーは(12.6eV)となっており、イオン化の対象となるべき水分子(モノマー)のイオン化エネルギーが大きいものとなっている。したがって、混合ガス中のアルゴンガスを紫外線照射により発生した電子励起状態のArと水分子との反応では、原理的に水分子(モノマー)イオン化することができない。つまり、電子励起状態のArと水分子(モノマー)との反応では、水分子(モノマー)は、イオン化することができず、結局、オキソニウムイオン(H)は発生しないことになる。

【0050】
そこで、本発明の試料イオン化方法においては、アルゴンガスと水からなる混合ガス中の水分子モノマーを水分子の二量体(HO)であるダイマーとすることによって、そのイオン化エネルギーをArの励起エネルギーとの関係において相対的に低下させて、Arと水分子の二量体(HO)であるダイマーとの反応によりオキソニウムイオン(H)を発生させることとしたものである。

【0051】
すなわち、図4からも明らかなように、水分子(モノマー)のイオン化エネルギーは、12.6eVであるが、水分子の二量体(HO)であるダイマーとした場合には、11.2eVとなる。つまり、水分子を水分子の二量体(HO)であるダイマーとすることによって、イオン化エネルギーを低下させることができ、Arと水分子の二量体(HO)であるダイマーが反応することができるようになる。以下に、アルゴンガスと水からなる混合ガスに紫外線を照射させることにより、オキソニウムイオン(H)が発生する反応機構を示した。

【0052】
【化3】
JP0005717183B2_000004t.gif

【0053】
上記反応機構からも明らかなように、本発明の試料イオン化方法においては、紫外線照射によりArを発生させて、水分子の二量体(HO)であるダイマーと反応させることにより、オキソニウムイオン(H)を発生させる点に大きな技術的意義を有するものである。

【0054】
そして、Arと水分子の二量体(HO)であるダイマーから発生したオキソニウムイオン(H)は、以下に示す反応式により、水クラスター(nHO)と反応し、水クラスターイオン(nHO+H)を生成する。

【0055】
【化4】
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【0056】
上記生成した水クラスターイオン(nHO+H)は、測定試料(以下の化学反応式において、「M」で表す。)と以下に示す反応式によりイオン化される。

【0057】
【化5】
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【0058】
すなわち、本発明の試料イオン化方法は、紫外線照射により発生したArと水分子の二量体(HO)であるダイマーから発生したオキソニウム(H)を利用して、測定試料(M)をイオン化するものである。すなわち、このような本発明の試料イオン化方法に採用されている、測定試料のイオン化を「光イオン化」ということもできる。なお、図1に示された質量分析機器用イオン化装置1において、この水クラスターイオン(nHO+H)が上記イオン化ガス供給部3から供給されるイオン化ガスである。

【0059】
上記説明したように、本発明の試料イオン化方法は、紫外線照射によりArを発生させて水分子の二量体(HO)であるダイマーを使用することによりオキソニウムイオン(H)を発生させているものである。しかしながら、紫外線照射により発生したArと水分子の二量体(HO)であるダイマーとの反応により生じたオキソニウムイオン(H)は、さらに、紫外線の照射を受けることにより、以下に示す反応式に従って、再び水(HO)に戻ってしまう。

【0060】
【化6】
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【0061】
そこで、本発明の試料イオン化方法においては、上記の反応式により、発生したオキソニウムイオン(H)が水となることを抑制し、オキソニウムイオン(H)の発生量を維持し、測定試料のイオン化効率を向上させることとした。すなわち、上記化学反応式からも明らかなようにオキソニウムイオン(H)が水となる反応は、紫外線(hν)の照射量及びその照射時間に依存するものであるため、その照射量及び照射時間を制御することにより、オキソニウムイオン(H)が水に戻ることを抑制し、オキソニウムイオン(H)の発生量を制御することを可能としている。

【0062】
上記イオン化ガス供給部3は、紫外線の照射量及び照射時間を制御することによって、オキソニウムイオン(H)の発生量を維持し、かつオキソニウムイオン(H)が水となることを抑制することができれば、特に制限されるものではない。すなわち、イオン化ガス供給部3は、必要とされるオキソニウムイオン(H)紫外線の照射量及び照射時間に応じて、外筒31、内筒34及び低圧水銀ランプ32の形状、長さ等を適宜調整することにより、オキソニウムイオン(H)の発生量を制御可能としているものである。

【0063】
例えば、図3に示したイオン化ガス供給部3において、低圧水銀ランプ32を内筒34で覆い、内筒34の長軸方向の長さを低圧水銀ランプ32の長さよりも短くすることにより、低圧水銀ランプ32の先端を内筒34から露出させ、低圧水銀ランプ32に露出した部分を設けることもできる。内筒34及び低圧水銀ランプ32をこのような構成とすることにより、紫外線の照射量及び照射時間を制御し、イオン化ガスの発生量を制御することができる。一方、紫外線の照射を行う低圧水銀ランプ長さが短い場合には、オキソニウムイオン(H)が発生するために必要な紫外線の照射量及び照射時間を確保することができるため、内筒34を設けないものとすることも可能である。

【0064】
すなわち、本発明の試料イオン化方法においては、紫外線照射により発生するArと発生させて水分子の二量体(HO)であるダイマーとの化学反応と、オキソニウムイオン(H)発生後の紫外線照射による水への転化反応に着目し、これら二つの反応に関与している紫外線照射量と紫外線照射時間を適宜制御できるように、イオン化ガス供給部3の内筒34及び低圧水銀ランプ32の形状、長さ等を適宜選択可能としている。例えば、図3に示したイオン化ガス供給部3が内筒34と低圧水銀ランプ32から構成される場合には、内筒34の長さを30~50mmとし、低圧水銀ランプ32の長さを40~60mmに設定し上記低圧水銀ランプ32の先端を10~30mm露出させることができる。

【0065】
(測定試料ガスとイオン化ガスとの反応)
本発明の試料イオン化方法においては、測定試料ガスとイオン化ガスが反応することにより測定試料がイオン化される。上記で説明したように基板から脱離した試料は、測定試料ガスとなって基板上の領域の空間に移動し存在している。この測定試料ガスが存在する基板上の領域の空間にイオン化ガスである水クラスターイオンが供給されることにより測定試料ガスは、イオン化ガスと反応してイオン化される。このように、本発明の試料イオン化方法においては、第一段階として、測定試料を測定試料ガスとして基板より完全に脱離させてから、第二段階として、イオン化ガスとの反応によりイオン化させるという二段階の反応により測定試料のイオン化を図っている。

【0066】
また、測定試料ガスとイオン化ガスとの反応を促進させるために、測定試料が固定化されている基板の裏面からキャリアガス又は加熱キャリアを送ることによって、基板に展開された測定試料の脱離を促進し、加熱により発生した測定試料ガスを質量分析機器導入口付近の基板上の領域の空間に送ることもできる。例えば、アルゴンガス又は加熱アルゴンガス等のガスを基板上に固定化されている測定試料の当該箇所の裏面から送ることもできる。

【0067】
基板が薄層クロマトグラフィー(TLC)基板であり、当該基板に複数の測定試料が展開されている場合には、測定試料の第一の展開箇所を加熱後、さらに薄層クロマトグラフィー(TLC)基板を所定の駆動装置等により、一次元又は二次元に相対移動させて、第二の測定試料の展開箇所を順次加熱すると同時にキャリアガス又は加熱キャリアを送ることができる。

【0068】
さらに、上記キャリアガスとともに、イオン化装置本体の下部に気相マトリックス貯蔵部5を設け、気相マトリックスの原料となる付加試薬51を加熱して、気相マトリックスとし、このガスを基板2に向けて送ることもできる。基板2に送られた気相マトリックスは、上記測定試料ガス、イオン化ガスと反応し、測定試料と付加試薬の複合体を形成し、当該複合体化合物のイオン化を図ることができる。

【0069】
(測定試料)
本発明の試料イオン化方法において、イオン化の対象となる測定試料は、特に制限されるものではなく、有機化学、生物化学、環境化学等の分野におけるあらゆる化合物を測定試料として対象とすることができる。特に、従来の試料イオン化方法、又は真空下での試料イオン化方法では、イオン化が困難である有機過酸化物、ホウ素、窒素、硫黄等を含有する金属錯体をも容易にイオン化することができる。例えば、有機過酸化物としては、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、オレイン酸メチルパーオキシド等の有機過酸化物、クメンパーオキシド(CHP)、ジイソブチルパーオキサイド(DBH)、パラメタンパーオキサイド(PMH)等の合成有機過酸化物を挙げることができる。

【0070】
さらに、本発明の試料イオン化方法に適用することができる測定試料として、核磁気共鳴装置(NMR)の基準物質である重クロロホルム(CDCl)、ジメチルスルホオキシド(DMSO)、ジメチルスルホキシド-テトラヒドロフラン(DMSO-THF)を挙げることができる。なお、従来、ジメチルスルホオキシド(DMSO)を含んだ試料溶液のイオン化は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化方法(「MALDI」)を使用しても困難であることからすると、本発明の試料イオン化は、このような難イオン化性の測定試料も容易にイオン化することができることから、大きな技術的意義を有するものである。

【0071】
(イオン化された測定試料の質量分析)
本発明の試料イオン化方法により、イオン化された測定試料は、質量分析機器の導入口6を通じて、質量分析機器に送入され、質量分析機器による質量分析が行われる。質量分析機器としては、特に制限されるものでなく、公知の質量分析機器を使用することができる。例えば、四重極質量分析計、磁場偏光分析計、イオントラップ分析計、飛行時間分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴分析計、加速器質量分析計等を例示することができる。すなわち、本発明の試料イオン化方法は、従来から使用されているすべて質量分析機器に適用が可能である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
(参考例1:水クラスターイオンの発生の確認)
図1に示した質量分析機器用イオン化装置を用い、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するともに紫外線を照射することにより、水クラスターイオン(nHO+H)が発生することを確認した。紫外線の照射は水銀ランプにより行い、紫外線の照射波長を254nmとし、適宜混合ガス中の水の供給量を変化させて行った。なお、比較のため上記アルゴンガスに換えて、ヘリウムガス、窒素ガスをそれぞれ用いて、水クラスターイオン(nHO+H)の発生を試みた。水クラスターイオン(nHO+H)の発生の確認結果を図5に示す。
【実施例】
【0074】
図5によれば、大気圧下でアルゴンガスと水とを供給するともに紫外線を照射することにより、水クラスターイオン(nHO+H)が発生し、さらに水の供給量を増加させることにより、水クラスターイオン(nHO+H)の分布を制御することができることが分かった。一方、アルゴンガスに換えてヘリウムガスを使用した場合には、水クラスターイオン(nHO+H)の発生は、アルゴンに比べて少なく、しかも水の供給量を変化させても水クラスターイオンの分布は、変化しないことが理解される。また、アルゴンガスに換えて窒素ガスを使用した場合には、水クラスターイオン(nHO+H)は、全く発生しない。これらの結果より、大気圧下で不活性ガスとしてアルゴンガスを採択し、水との混合ガスとし、この混合ガスに紫外線を照射することによりイオン化ガスである水クラスターイオン(nHO+H)を効果的に発生させることができることが分かる。
【実施例】
【0075】
(参考例2:水クラスターイオンの形成における水の影響の確認)
水クラスターイオン(nHO+H)の形成における水の影響を確認するために、混合ガス供給部の水を水とエタノールの混合物とした。そして、この混合物中のエタノールと水の割合を変化させ、大気圧下でアルゴンガスと水とエタノールの混合物を供給し、紫外線を照射することにより、エタノール・水クラスターイオンの発生を確認した。確認結果を図6に示す。
【実施例】
【0076】
図6によれば、エタノールと水との混合物中の水の割合を増加させることによって、エタノール-水クラスターイオンの発生を増加させることができることが理解される。すなわち、本発明の大気圧イオン化方法は、混合ガス供給部の水の割合を増加させることにより水クラスターイオン(nHO+H)の発生量を適宜変化させることができ、これによって、イオンの発生量も制御することができる。この結果は、エタノールと水との混合物中の水の割合を制御することによって、質量分析機器による質量分析の測定感度を適宜調整することができることを意味するものである。
【実施例】
【0077】
(実施例1、2)
測定試料をステアリン酸メチルとし、溶媒であるベンゼンに溶解させ、0.001質量%のステアリン酸メチルのベンゼン溶液をそれぞれ作製した。これらのステアリン酸メチルの溶液をマイクロシリンジにて0.1μl採取し、上記マイクロシリンジの針から基板に注入した。基板のヒータの加熱温度をステアリン酸メチルのガス化温度である215℃よりも高い220℃に設定して、基板を加熱した。その後、イオン化ガス供給部にアルゴンガスと水との混合ガス(アルゴンガス:水=1:1)を供給するとともに、低圧水銀ランプ(エドモンド株式会社製、商品名「ミニチュアUVペンシルランプ」)により紫外線を照射し、イオン化ガスを発生させた。
【実施例】
【0078】
次に、加熱よりガス化したステアリン酸メチルが存在する基板上の領域に上記イオン化ガスを供給した。なお、基板底面より、熱キャリアガスとして220℃のアルゴンガスを基板に吹き付けた。質量分析機器としては、四重極質量分析計(Extrel株式会社製、商品名「EXM-2000」)を使用し、質量分析を行った。質量分析測定結果を図7に示す。また、実施例2として、測定試料をラウリン酸メチルとして、同様に質量分析を行った。
【実施例】
【0079】
図7によれば、ステアリン酸メチル及びラウリン酸メチルのいずれの場合もステアリン酸メチル及びラウリン酸メチルを検出することができ、その濃度が0.001質量%である場合(約6.0ngに相当する。)であっても、イオン化したステアリン酸メチルの質量ピーク(299.32)を確認できた。これらの結果より、本発明の試料イオン化方法を適用して質量分析を行うと測定試料が微量であって、測定試料濃度が極めて小さい場合であっても良好に感度良く、質量分析を行うことが可能であることが分かった。
【実施例】
【0080】
(実施例3)
核磁気共鳴装置NMRの基準物質であるジメチルスルホオキシド(DMSO)を溶媒とし、この溶媒に1,4-ビス(1-メチル-1-イミダゾール-5-イル)ベンゼンを溶解させた溶液を測定試料とした以外は、実施例1と同様にして、測定試料のイオン化、質量分析を行った。なお、実施例3においては、測定試料の濃度を0.1質量%とした。質量分析測定結果を図8に示す。
【実施例】
【0081】
(実施例4)
測定試料をt-ブチルペルオキシラウレート(PBL)とした以外は、実施例1と同様にして、測定試料のイオン化、質量分析を行った。なお、実施例4においては、測定試料の濃度を0.1質量%とし、アルゴン-水混合ガス中の水の量を変化させ、測定試料のイオン化、質量分析を行った。質量分析測定結果を図9に示す。なお、図9において(a)は、アルゴン-水混合ガス中の水の量が少ない場合であり、(b)は、アルゴン-水混合ガス中の水の量を増加させた場合である。
【実施例】
【0082】
(実施例5~8)
測定試料をt-ブチルペルオキシラウレートとし、基板の裏面より、種々の付加試薬を供給した以外は、実施例1と同様にして、測定試料のイオン化、質量分析を行った。基板の裏面より、供給する付加試薬としては、エタノール(実施例5)、アセトン(実施例6)、ピリジン(実施例7)及びトリメチルアミン(実施例8)を使用した。また、実施例5~8においては、測定試料の濃度を0.1質量%とした。質量分析測定結果を図10に示す。
【実施例】
【0083】
図7~図10によれば、測定試料として、ステアリン酸メチル、ラウリン酸メチル、ジメチルスルホオキシド(DMSO)、t-ブチルペルオキシラウレートのいずれを用いた場合であっても、測定試料のイオン化をすることができ、イオン化された測定試料を質量分析機器に送入することにより感度良く質量分析をすることが可能であることが分かった。
【実施例】
【0084】
図9によれば、測定試料としてt-ブチルペルオキシラウレート(PBL)を使用した場合のイオン化においては、アルゴン-水混合ガス中の水の量を増加させることにより、過酸化物であるt-ブチルペルオキシラウレート(PBL)の分解により生成する不要なピークを抑制することができ、さらに、分析ピークの感度を向上させることができることが分かった。この結果は、測定試料のイオン化において、水の供給量を変化させるだけで、質量分析の感度を緻密に制御可能であることを示す。また、アルゴン-水混合ガス中の水は、測定試料である過酸化物の抑制剤として作用し、質量分析に不要なピークを消失することができることも明らかとなった。
【実施例】
【0085】
(比較例1、2)
なお、イオンガス供給部に使用する上記アルゴンガスに換えて、ヘリウムガス、窒素ガスをそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして測定試料のイオン化をし、質量分析を行った。
【実施例】
【0086】
(比較例3)
イオンガス供給部に使用する混合ガス中に水を含ませないものとし、アルゴンガスのみを供給した以外は実施例1と同様にして測定試料のイオン化をし、質量分析を行った。以上、実施例及び比較例における測定試料のイオン化条件及び質量分析結果を下記表1にまとめて示す。
【実施例】
【0087】
【表1】
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【実施例】
【0088】
表1によれば、イオン化ガス生成時に使用するガスとして、ヘリウムガス、窒素、アルゴンガス単独を使用した場合は、いずれも測定試料をイオン化することができず、質量分析を行うことができないことが分かる。すなわち、測定試料に対して、アルゴンガスと水とを供給するとともに紫外線を照射することにより、測定試料をイオン化することができ、感度良く質量分析をすることできることが分かる。
【符号の説明】
【0089】
1 質量分析機器用イオン化装置
1a 質量分析機器用イオン化装置本体
2 基板
21 電熱線
22 測定試料
22a 測定試料ガス
3 イオン化ガス供給部
31 外筒
32 低圧水銀ランプ
33 アルゴンガス-水導入口
34 内筒
4 アルゴンガス-水混合ガス供給部
41 アルゴンガス貯蔵部
42 水貯蔵部
43 導入管コック
44 ガス導入管
5 気相マトリックス貯蔵部
51 付加試薬
6 質量分析機器導入口
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9