TOP > 国内特許検索 > グリニャール反応を利用した求核付加体の製造方法及び求核付加反応剤 > 明細書

明細書 :グリニャール反応を利用した求核付加体の製造方法及び求核付加反応剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5585992号 (P5585992)
登録日 平成26年8月1日(2014.8.1)
発行日 平成26年9月10日(2014.9.10)
発明の名称または考案の名称 グリニャール反応を利用した求核付加体の製造方法及び求核付加反応剤
国際特許分類 C07B  49/00        (2006.01)
C07C  33/14        (2006.01)
C07C  33/24        (2006.01)
C07C  33/18        (2006.01)
C07C  33/20        (2006.01)
C07C  33/28        (2006.01)
C07C  35/08        (2006.01)
C07C  35/37        (2006.01)
C07C  31/135       (2006.01)
C07C 209/66        (2006.01)
C07C 217/84        (2006.01)
C07C 213/02        (2006.01)
C07F   3/02        (2006.01)
C07C  29/40        (2006.01)
C07C  69/732       (2006.01)
C07C  35/32        (2006.01)
C07C  35/29        (2006.01)
C07C  41/48        (2006.01)
C07C  43/315       (2006.01)
C07C  67/343       (2006.01)
C07C 211/48        (2006.01)
C07D 333/16        (2006.01)
C07D 213/30        (2006.01)
C07D 211/22        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07B 49/00
C07C 33/14
C07C 33/24
C07C 33/18
C07C 33/20
C07C 33/28
C07C 35/08
C07C 35/37
C07C 31/135
C07C 209/66
C07C 217/84
C07C 213/02
C07F 3/02 B
C07C 29/40
C07C 69/732 Z
C07C 35/32
C07C 35/29
C07C 41/48
C07C 43/315
C07C 67/343
C07C 211/48
C07D 333/16
C07D 213/30
C07D 211/22
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2011-502692 (P2011-502692)
出願日 平成22年2月3日(2010.2.3)
国際出願番号 PCT/JP2010/051493
国際公開番号 WO2010/100990
国際公開日 平成22年9月10日(2010.9.10)
優先権出願番号 2009051013
優先日 平成21年3月4日(2009.3.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年1月18日(2013.1.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】石原 一彰
【氏名】波多野 学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000017、【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
審査官 【審査官】前田 憲彦
参考文献・文献 国際公開第2008/134890(WO,A1)
国際公開第2005/075384(WO,A1)
調査した分野 C07B 49/00
C07C 29/00
C07C 31/00
C07C 33/00
C07C 41/00
C07C 43/00
C07C 67/00
C07C 69/00
C07C 209/00
C07C 211/00
C07C 213/00
C07C 217/00
C07D 211/00
C07D 213/00
C07D 333/00
C07F 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
カルボニル炭素又はイミノ炭素を含む反応基質の前記カルボニル炭素又は前記イミノ炭素に炭化水素基を付加することにより求核付加体を製造する方法であって、
前記反応基質と前記炭化水素基を有するグリニャール反応剤との求核付加反応を、ZnX12(X1は塩素、臭素又はヨウ素である)と(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi(nは1又は2であり、3つのRは同じであっても異なっていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はアリール基であり、X2は塩素、臭素又はヨウ素である)とMX3(MはLi、Na又はKであり、X3は塩素、臭素又はヨウ素である)との存在下で行う、求核付加体の製造方法。
【請求項2】
ZnX12 を前記反応基質に対して1~20mol%使用し、(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLiをZnX12 に対して0.5~2倍モル使用する、請求項1に記載の求核付加体の製造方法。
【請求項3】
MX3を前記グリニャール反応剤に対して0.9~1.1倍モル使用する、請求項1又は2に記載の求核付加体の製造方法。
【請求項4】
炭化水素基を有するグリニャール試薬と、ZnX12(X1は塩素、臭素又はヨウ素である)と、(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi(nは1又は2であり、3つのRは同じであっても異なっていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はアリール基であり、X2は塩素、臭素又はヨウ素である)とMX3(MはLi、Na又はKであり、X3は塩素、臭素又はヨウ素である)とを含む、カルボニル炭素又はイミノ炭素に対する求核付加反応剤。
【請求項5】
ZnX12を前記グリニャール反応剤に対して1~20mol%含み、(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLiをZnX1に対して0.5~2倍モル含む、請求項に記載の求核付加反応剤。
【請求項6】
MX3を前記グリニャール反応剤に対して0.9~1.1倍モル含む、請求項又はに記載の求核付加反応剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、グリニャール反応を利用した求核付加体の製造方法及び求核付加反応剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カルボニル炭素に炭化水素基を付加する求核付加反応に用いられる求核試薬としては、アルキルリチウムやグリニャール反応剤などが広く知られている。また、医農薬の合成中間体やフォトレジスト原料として有用であることが知られている第3級アルコールの一般的な合成手法としては、アルキルリチウムやグリニャール反応剤などを用いてケトンのカルボニル炭素に炭化水素基を付加する方法が挙げられるが、この方法ではケトンが還元されることにより第2級アルコールが副生して所望の第3級アルコールの収率低下を招くといった問題がある。本発明者らは亜鉛-マグネシウムアート錯体がこうした既往の問題を克服することを発見し、ケトンのカルボニル炭素に炭化水素基を付加することにより第3級アルコールを高収率で得る方法を報告している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2007-290973号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、適用できるグリニャール反応剤はほとんどが塩化物であった。このため、グリニャール反応剤の適用範囲を塩化物のみならず臭化物やヨウ化物に広げることが望まれていた。グリニャール反応剤の臭化物やヨウ化物は市販されているものが多く、調製も塩化物よりも容易な場合が多いからである。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、適用できるグリニャール反応剤の範囲を広げることができるようにすることを目的の一つとする。また、求核付加体を高収率で得ることを目的の一つとする。更に、副反応(例えば還元反応やアルドール反応などの、望む求核付加体以外の化合物を生ずる反応)を抑制することを目的の一つとする。
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、アセトフェノンとグリニャール反応剤である臭化イソプロピルマグネシウムとの反応を、塩化亜鉛、塩化トリメチルシリルメチルマグネシウム及び塩化リチウムの存在下で行なったところ、従来の亜鉛-マグネシウムアート錯体を用いた場合と比べて、第2級アルコール(還元体)の生成やアセトフェノンのアルドール付加体の生成が抑制され第3級アルコールが高収率で得られることやグリニャール反応剤のハロゲンが塩素でなくても好結果を与えることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の求核付加体の製造方法は、カルボニル炭素又はイミノ炭素を含む反応基質の前記カルボニル炭素又は前記イミノ炭素に炭化水素基を付加することにより求核付加体を製造する方法であって、前記反応基質と前記炭化水素基を有するグリニャール反応剤との求核付加反応を、ZnX12(X1は塩素、臭素又はヨウ素である)と(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi(nは1又は2であり、3つのRは同じであっても異なっていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はアリール基であり、X2は塩素、臭素又はヨウ素である)の存在下で行うものである。
【0008】
また、本発明の求核付加反応剤は、炭化水素基を有するグリニャール試薬と、ZnX12(X1は塩素、臭素又はヨウ素である)と、(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi(nは1又は2であり、3つのRは同じであっても異なっていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はアリール基であり、X2は塩素、臭素又はヨウ素である)とを含むものである。
【0009】
本発明の求核付加体の製造方法によれば、グリニャール反応剤の適用範囲を塩化物のみならず臭化物やヨウ化物に広げることができる。また、従来のグリニャール反応剤を利用した反応に比べて、求核付加体を高収率で得ることができる。更に、副反応(例えば基質をケトンとする場合には還元体である第2級アルコールの生成やアルドール付加体の生成など)を抑制することができる。一方、本発明の求核付加反応剤は、こうした求核付加体の製造方法に用いるのに適している。
【0010】
本発明では、求核付加反応剤の活性が高くなっているが、その理由は以下のように考えられる(下記式参照)。すなわち、ZnX12と(R3Si)nCH3-nMgX2 とが反応して系内にZnR’2(但し、R’はダミー基であり、(R3Si)nCH3-n を表す)が生成し、これとグリニャール反応剤RMgX(但し、Rは炭化水素基、Xは塩素、臭素又はヨウ素)とが反応して[RR’2Zn]-[MgX]+が生成する(下記式の(a)参照)。次に、[RR’2Zn]-[MgX]+の求核基Rがσ-p電子供与によって活性化され(下記式の(b)参照)、亜鉛のとなりでダミー基R’に結合している炭素と亜鉛との結合Zn-Cαがd-σ*電子供与によって安定化される(下記式の(c)参照)。このような機構によって、求核基Rの求核性が高くなったと考えられる。なお、(R3Si)nCH3-nMgX2 の代わりに(R3Si)nCH3-nLiを用いた場合も下記式と同様の機構で反応が進行すると考えられる。
【化1】
JP0005585992B2_000002t.gif

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の求核付加体の製造方法は、カルボニル炭素又はイミノ炭素を含む反応基質の前記カルボニル炭素又は前記イミノ炭素に炭化水素基を付加することにより求核付加体を製造する方法であって、前記反応基質と前記炭化水素基を有するグリニャール反応剤との求核付加反応を、ZnX12(X1は塩素、臭素又はヨウ素である)と(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi(nは1又は2であり、3つのRは同じであっても異なっていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はアリール基であり、X2は塩素、臭素又はヨウ素である)の存在下で行うものである。
【0012】
本発明の求核付加体の製造方法において、カルボニル炭素を含む反応基質としては、例えばアルデヒド、ケトン、エステル、ケトエステル、アミドなどが挙げられるが、このうちケトン、エステルが好ましい。ケトンやエステルを反応基質として用いた場合には、医農薬の合成中間体やフォトレジスト原料などに有用な第3級アルコールを製造することができる。ケトンとしては、特に限定されるものではないが、例えばベンゾフェノンのようにカルボニル炭素に2つの芳香族炭化水素が結合したもの;アセトフェノンやプロピオフェノン、アセトナフトンのようにカルボニル炭素に脂肪族炭化水素(ペルフルオロアルキル基を含む)と芳香族炭化水素とが結合したもの;シクロヘキサノンやシクロペンタノン、1-又は2-インダノン、1-又は2-テトラロン、アダマンタノンなどのようにカルボニル炭素が脂環式炭化水素の環を構成するもの;メチル-2-チエニルケトンやメチル-3-チエニルケトン、メチル-2-ピリジルケトンのようにカルボニル炭素にヘテロ環と脂肪族炭化水素とが結合したもの;2,2’-ジチエニルケトンのようにカルボニル炭素にヘテロ環が結合したものなどが挙げられる。また、エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば安息香酸エチルのように芳香族カルボン酸エステルなどが挙げられる。一方、イミノ炭素を含む反応基質としては、例えばアルジミンやケチミンなどが挙げられるが、このうちアルジミンが好ましい。アルジミンとしては、特に限定されるものではないが、例えば芳香族アルデヒドと第1級アミン(脂肪族アミン、芳香族アミンなど)との反応によって得られるものが挙げられる。
【0013】
本発明の求核付加体の製造方法において、グリニャール反応剤の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基などが挙げられる。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などが挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチル-1-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、スチリル基などが挙げられる。シクロアルケニル基としては、例えば2-シクロペンテン-1-イル、3-シクロペンテン-1-イル、2-シクロヘキセン-1-イル、3-シクロヘキセン-1-イルなどが挙げられる。アルキニル基としては、例えばエチニル基、2-プロピニル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、4-フルオロフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基などが挙げられる。
【0014】
本発明の求核付加体の製造方法において、ZnX12は、X1が塩素、臭素又はヨウ素であり、このうちX1が塩素であることが好ましい。このZnX12の使用量は、カルボニル炭素又はイミノ炭素を含む反応基質に対して1~20mol%が好ましく、5~15mol%がより好ましい。
【0015】
本発明の求核付加体の製造方法は、(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi(nは1又は2であり、3つのRは同じであっても異なっていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はアリール基であり、X2は塩素、臭素又はヨウ素である)を用いるものである。ここで、アルキル基としては、前述したものを使用可能である。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi の使用量は、ZnX1に対して0.5~2倍モルが好ましく、2倍モルがより好ましい。
【0016】
本発明の求核付加体の製造方法では、グリニャール反応剤による求核反応を、更にMX3(MはLi、Na、Kであり、X3は塩素、臭素又はヨウ素である)の存在下で行うことが好ましい。これにより、副反応の生成が一層抑制され、結果として目的とする求核付加体の収率が一層高くなる。こうしたMX3としては、LiCl,LiBr又はNaClが好ましく、LiClがより好ましい。LiClを用いた場合には、他の塩と一線を画した効果が得られるが、その理由は、いわゆる塩効果のほかに、グリニャール反応剤のハロゲンがLiClの塩素原子に置き換わるハロゲン交換が起き、そのハロゲン交換後の高活性なグリニャール反応剤が求核付加反応に寄与するためと考えられる。また、MX3の使用量は、グリニャール反応剤に対して0.9~1.1倍モル使用するのが好ましい。
【0017】
本発明の求核付加体の製造方法において、反応溶媒はエーテル系溶媒を使用するのが好ましい。エーテル系溶媒としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのほか、これらと炭化水素系溶媒(ヘキサンなど)との混合溶媒などが挙げられる。
【0018】
本発明の求核付加体の製造方法において、反応温度は目的生成物である求核付加体と副生成物である還元体との比率や単位時間当たりの求核付加体の生成率などを考慮して適宜設定すればよいが、例えば-78~100℃の範囲で設定するのが好ましく、-20~50℃の範囲で設定するのがより好ましく、0~30℃の範囲で設定するのが更に好ましい。
【0019】
本発明の求核付加体の製造方法において、反応時間は、反応基質、反応温度などに応じて適宜設定すればよいが、通常は数分~数10時間である。なお、求核付加反応は反応基質が完全に消費されるまで行ってもよいが、反応が進むにつれて反応基質の消失速度が極端に遅くなる場合には反応基質が完全に消費されなくても反応を終了して反応生成物を取り出した方が好ましい場合もある。
【0020】
本発明の求核付加体の製造方法において、求核付加体を単離するには、通常知られている単離手法を適用すればよい。例えば、反応混合物に水と有機溶媒とを加えて分液ロートで水層と有機層に分液し、有機層をろ過及び濃縮した後、カラムクロマトグラムなどで精製することにより、目的とする求核付加体を単離することができる。
【0021】
また、本発明の求核付加反応剤は、炭化水素基を有するグリニャール試薬と、ZnX12(X1は塩素、臭素又はヨウ素である)と、(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi(nは1又は2であり、3つのRは同じであっても異なっていてもよいアルキル基、アルコキシ基又はアリール基であり、X2は塩素、臭素又はヨウ素である)とを含むものである。
【0022】
ここで、グリニャール反応剤の炭化水素基やZnX12 、(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi については、上述したものを使用可能である。また、ZnX12の含有量はグリニャール反応剤に対して1~20mol%が好ましく、5~15mol%がより好ましい。(R3Si)nCH3-nMgX2又は(R3Si)nCH3-nLi の含有量はZnX12に対して0.5~2倍モルが好ましく、2倍モルがより好ましい。この求核付加反応剤は、更にMX3(MはLi、Na、Kであり、X3は塩素、臭素又はヨウ素である)を含んでいることが好ましい。ここで、MX3については、上述したものを使用可能である。また、MX3の含有量はグリニャール反応剤に対して0.9~1.1倍モルが好ましい。この求核付加反応剤は、反応溶媒と同じ溶媒に溶解されていることが好ましい。
【実施例】
【0023】
[一般的手法]
本発明の求核付加体の製造方法の一般的手法を以下に示す。窒素置換したシュレンク反応容器に、ZnCl2 (40.8mg,0.30mmol)を加えて、減圧下(<5mmHg)でヒートガンにより溶融乾燥する。次いでLiCl(139.9mg,3.3mmol)を加え、再び減圧下(<5Torr)でヒートガンにより溶融乾燥する。次いでMe3SiCH2MgCl(1M in Et2O,0.60mL,0.60mmol)を加えて室温で15分撹拌する。Me3SiCH2-はTMSCH2またはTMSMと略す。さらにグリニャール反応剤であるハロゲン化アルキルマグネシウムRMgX(0.5-2.0M in THF or Et2O,3.3mmol)を加えて、室温で45分攪拌する。なお、グリニャール反応剤の濃度が1Mを超える場合には、そのグリニャール反応剤を系内で1Mになるように希釈し、濃度が1M以下の場合には、直接使用する。その後、混合液を0℃に冷却し、反応基質(3.0mmol)をシリシンジポンプを用いて1時間掛けて加え、さらに2時間撹拌する。なお、反応基質が固体の場合、前もってTHF(約2mL)に溶かしておく。反応終了をTLCで確認し、飽和塩化アンモニウム水溶液(10mL)を加えて反応を停止する。酢酸エチルで抽出し(10mL×3)、抽出した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(10mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、減圧濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開=ヘキサン/酢酸エチル)にて生成物を分取・精製し、求核付加体を得る。
【0024】
[実施例1~4-1,比較例1~5]
実施例1~4-1,比較例1~5では、上述した一般的手法に準じて、表1に示す製造条件を採用してグリニャール反応を行ない、化合物1を得た。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、ZnCl2、TMSCH2MgCl及びLiClのいずれも存在しない系でグリニャール反応を行なった比較例1,2では、還元体やアルドール付加体が多く生成し、求核付加体である化合物1の収率は低かった。また、比較例2にLiClを添加した比較例3では、化合物1の収率が若干向上したが、十分とはいえなかった。一方、比較例1にZnCl2を添加した比較例4では、亜鉛-マグネシウムアート錯体が系内で生成するため化合物1の収率は85%に向上したが、グリニャール反応剤のハロゲンを臭素に代えた比較例5では、化合物1の収率は48%にとどまった。こうしたことから、ZnCl2は、グリニャール反応剤のハロゲンが塩素の場合には化合物1の収率を大幅に向上させる効果があるが、ハロゲンが臭素の場合にはそうした効果はあまりみられないことがわかった。なお、ハロゲンをヨウ素に代えた場合も臭素と同様の結果であった。
【0025】
これに対して、比較例5にTMSCH2MgClを添加した実施例1では、グリニャール反応剤のハロゲンが臭素であっても化合物1の収率は80%と大幅に向上し、この実施例1の系に更にLiClを添加した実施例2では、化合物1の収率は96%と更に向上した。また、グリニャール反応剤のハロゲンを臭素から塩素やヨウ素に代えた実施例3,4では、化合物1がほぼ定量的に得られた。更に、特許文献1の亜鉛-マグネシウムアート錯体を用いた比較例4では、求核付加体が収率85%という高収率で得られているが、これにTMSCH2MgClとLiClとを添加した実施例3では、更なる収率の改善(収率99%)が見られた。こうしたことから、ZnCl2、TMSCH2MgCl及びLiClが存在する系でグリニャール反応を行なうと、グリニャール反応剤のハロゲンが塩素、臭素及びヨウ素のいずれであっても、求核反応以外の反応(還元反応やアルドール反応)が抑制され、化合物1が高収率で得られることがわかった。実施例2のTMSCH2MgClをTMSCH2Liに代えた実施例4-1でも、実施例2と同様、化合物1が高収率で得られると共に求核反応以外の反応が抑制された。化合物1のスペクトルデータを以下に示す。
【0026】
【表1】
JP0005585992B2_000003t.gif

【0027】
化合物1:1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 0.80 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.89 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.53 (s, 3H), 1.56 (s, 1H), 2.02 (sept, J = 6.9 Hz, 1H), 7.20-7.45 (m, 5H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 17.2, 17.4, 26.7, 38.6, 77.8, 125.2, 126.4, 127.8, 147.8. HRMS(FAB+) calcd for C11H15 [M-OH]+ 147.1174, found 147.1170.
【0028】
[実施例5]
ここでは、シプロヘプタジン(セロトニン受容体拮抗体であり抗ヒスタミン作用を有する)の合成中間体を製造した。すなわち、上述した一般的手法に準じて、下記式に示す条件を採用してグリニャール反応を行ない、シプロヘプタジンの合成中間体である第3級アルコール(化合物2)をほぼ定量的に得た。化合物2のスペクトルデータを以下に示す。なお、化合物2は、ギ酸処理(Tetrahedron Lett., 1988, vol.29, p5701)によりシクロヘプタジンに誘導することもできた。
【0029】
【化2】
JP0005585992B2_000004t.gif

【0030】
化合物2:1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 0.76-1.06 (m, 10H), 2.38 (s, 1H), 2.52 (m, 1H), 6.95 (s, 2H), 7.26 (td, J = 7.5, 1.2 Hz, 2H), 7.32 (dd, J = 7.5, 1.5 Hz, 2H), 7.41 (td, J = 8.1, 1.5 Hz, 2H), 7.92 (dd, J = 8.1, 1.2 Hz, 2H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 26.3, 26.5, 26.8, 38.3, 79.2, 124.8, 126.2, 128.3, 129.4, 131.4, 132.3, 142.2. HRMS(FAB+) calcd for C21H21 [M-OH]+ 273.1643, found 273.1642.
【0031】
[実施例6~31,比較例6~31]
ここでは、多種多様の反応基質(ケトン、エステル、ケトエステル)を用い、それに対応する第3級アルコールの収率を検討した。すなわち、実施例6~31,比較例6~31では、反応基質の種類を変え、上述した一般的手法に準じて表2及び表3に示す条件を採用してグリニャール反応を行ない、各種の第3級アルコールを得た。その結果を表2及び表3に示す。実施例6~31は、ZnCl2、TMSCH2MgCl及びLiClが存在する系でグリニャール反応を行なった例であり、比較例6~31は、ZnCl2、TMSCH2MgCl及びLiClが存在しない系でグリニャール反応を行なった例である。表2から明らかなように、還元体が生成する比較例に対応する実施例では、還元体の生成が抑制され、目的とする第3級アルコールの収率が向上した。また、還元体の生成がゼロの比較例に対応する実施例では、還元体の生成はゼロのまま、目的とする第3級アルコールの収率が向上した。実施例22-1,22-2はアリール基を有するグリニャール反応剤を使用した例であるが、いずれも目的とする第3級アルコールが高収率で得られた。なお、各実施例で得られた第3級アルコールは、1HNMR、13CNMR、HRMSなどのスペクトルデータにより構造を決定した。
【0032】
【表2】
JP0005585992B2_000005t.gif

【0033】
【表3】
JP0005585992B2_000006t.gif

【0034】
[実施例32~36、比較例32~36]
ここでは、反応基質として種々のアルデヒド、アルジミン及びアミドを用い、それに対応する求核付加体の収率を検討した。すなわち、実施例32~36では、上述した一般的手法に準じて表4に示す条件を採用してグリニャール反応を行ない、各種の求核付加体を得た。その結果を表4に示す。実施例32~36は、ZnCl2、TMSCH2MgCl及びLiClが存在する系でグリニャール反応を行なった例であり、比較例32~35は、ZnCl2、TMSCH2MgCl及びLiClが存在しない系でグリニャール反応を行なった例である。
【0035】
表4から明らかなように、反応基質としてアルデヒドを用いた場合、還元体(第1級アルコール)が生成する比較例32に対応する実施例32では、還元体(第1級アルコール)の生成が抑制され、目的とする第2級アルコールの収率が向上した。また、還元体(第1級アルコール)の生成がゼロで第2級アルコールが収率69%で得られた比較例33に対応する実施例33では、還元体(第1級アルコール)の生成はゼロのままで第2級アルコールの収率が大幅に向上した。
【0036】
反応基質としてアルジミンを用いた場合、実施例34,35では、比較例34,35に比べて目的とする第2級アミンの収率が向上した。
【0037】
反応基質としてアミドを用いた実施例36では、実施例27のエステル基質と同様、ケトンを経由する2段階アルキル化により第3級アルコールが得られた。
【0038】
【表4】
JP0005585992B2_000007t.gif

【0039】
[実施例37~40]
ここでは、種々のダミー基R’を持つマグネシウム化合物(R’MgCl)について検討した。すなわち、実施例37~40では、反応基質としてベンゾフェノン、グリニャール反応剤としてEtMgClを用い、表5に示す条件を採用してグリニャール反応を行ない、第3級アルコールを得た。その結果を表5に示す。なお、表5には、参考までに比較例17の結果も示した。表5から明らかなように、ダミー基R’として、Si上の置換基がメチル基(アルキル基)、イソプロポキシ基(アルコキシ基)、フェニル基(アリール基)のいずれのものを用いた場合でも、還元体の生成が抑制され、第3級アルコールの収率が向上した。
【0040】
【表5】
JP0005585992B2_000008t.gif

【0041】
[実施例41~45]
ここでは、種々のハロゲン化金属について検討した。すなわち、実施例41~43では、反応基質としてアセトフェノン、グリニャール反応剤としてi-PrMgBrを用い、表6に示す条件を採用してグリニャール反応を行ない、第3級アルコールを得た。参考までに、実施例1,2の結果も表6に示した。一方、実施例44,45では、反応基質としてベンゾフェノン、グリニャール反応剤としてEtMgBrを用い、表6に示す条件を採用してグリニャール反応を行ない、第3級アルコールを得た。参考までに、実施例17の結果も表6に示した。これらの結果から明らかなように、ハロゲン化金属として、LiCl以外にNaClやLiBrを用いた場合でも、還元体の生成が抑制され、第3級アルコールの収率が向上した。
【0042】
【表6】
JP0005585992B2_000009t.gif

【0043】
本出願は、2009年3月4日に出願された日本国特許出願第2009-051013号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、主に薬品化学産業に利用可能であり、例えば医薬品や農薬、化粧品の中間体のほかフォトレジストの原料などとして利用される種々のアルコールやアミンを製造する際に利用することができる。