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明細書 :弾性操作で駆動するスピンデバイス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5975319号 (P5975319)
公開番号 特開2012-169592 (P2012-169592A)
登録日 平成28年7月29日(2016.7.29)
発行日 平成28年8月23日(2016.8.23)
公開日 平成24年9月6日(2012.9.6)
発明の名称または考案の名称 弾性操作で駆動するスピンデバイス
国際特許分類 H01L  29/82        (2006.01)
H01F   1/00        (2006.01)
H03B  15/00        (2006.01)
H04R  23/00        (2006.01)
G10K   9/12        (2006.01)
FI H01L 29/82 Z
H01F 1/00 Z
H03B 15/00
H04R 23/00 310
G10K 9/12 C
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2011-271235 (P2011-271235)
出願日 平成23年12月12日(2011.12.12)
優先権出願番号 2011016147
優先日 平成23年1月28日(2011.1.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年12月11日(2014.12.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】美藤 正樹
【氏名】鶴田 一樹
【氏名】長野 琢磨
【氏名】岸根 順一郎
【氏名】井上 克也
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査官 【審査官】小山 満
参考文献・文献 特開平01-276681(JP,A)
特開平01-140900(JP,A)
特開2001-028466(JP,A)
特開2008-048312(JP,A)
特開2009-128970(JP,A)
米国特許第06387476(US,B1)
特開平01-138900(JP,A)
特開2010-098461(JP,A)
国際公開第2007/020925(WO,A1)
調査した分野 H01L 29/82
G10K 9/12
H01F 1/00
H03B 15/00
H04R 23/00
特許請求の範囲 【請求項1】
ひずみ発振子と、
該ひずみ発振子の入出力端に接続した信号発信機と、
前記ひずみ発振子に接触或いは結合して、該ひずみ発振子により発生した機械振動が伝達することにより物性状態が制御される機能性材料と、を備え、
前記信号発信機は、前記ひずみ発振子に固有な共鳴周波数に対して周波数変調或いは振幅変調した信号を印加して発振ひずみを制御し、
前記機能性材料のスピンの磁気配向状態或いは電気伝導状態を、それに与える力学的な弾性ひずみで操作することから成る弾性操作で駆動するスピンデバイス。
【請求項2】
前記振幅変調により、ひずみ発振子の共鳴周波数の電圧値を変化させた信号を発生する請求項1に記載のスピンデバイス。
【請求項3】
前記周波数変調により、ひずみ発振子の共鳴周波数の信号を、該周波数よりも低い低周波信号によって変調した信号を発生する請求項1に記載のスピンデバイス。
【請求項4】
前記機能性材料は磁性体であり、この磁性体に力学的弾性ひずみを与えることで弾性特性に影響を与え、スピンの磁気配向度合を操作することにより、磁気秩序状態を制御する請求項1に記載のスピンデバイス。
【請求項5】
平板状の前記ひずみ発振子の上には、平板状磁性体を配置し、平板状磁性体の上方には、間隔を開けて永久磁石を配置し、かつ、この永久磁石は、ダンパーを介して振動板に結合して、前記平板状磁性体の磁化を操作することにより音声を発生させる警告用ホーン或いはブザーとして構成した請求項4に記載のスピンデバイス。
【請求項6】
板状のひずみ発振子の上には、平板状強磁性体を配置し、かつ該平板状磁性体の上方には、間隔を開けて平板状超伝導体を配置して、超伝導体の磁気浮上現象を利用した平面スピーカーを構成した請求項4に記載のスピンデバイス。
【請求項7】
前記機能性材料は金属線材であり、該金属線材に力学的弾性ひずみを与えることでその電気伝導状態を制御する請求項1に記載のスピンデバイス。
【請求項8】
前記機能性材料は超伝導体であり、該超伝導体に力学的弾性ひずみを与えることで超伝導状態を制御する請求項1に記載のスピンデバイス。
【請求項9】
前記機能性材料は、双安定性を有し、かつ構造変化によって結晶が変色する物質であり、該物質に力学的弾性ひずみを与えることで結晶の変色を操作する二次元平面状ディスプレイとして構成した請求項1に記載のスピンデバイス。
【請求項10】
前記機能性材料は、双安定性を有し、かつ構造変化によって結晶が変色する物質であり、該物質に力学的弾性ひずみを与えることで透明と半透明を切り替えるブラインドとして構成した請求項1に記載のスピンデバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属とか半導体に限らず、絶縁体さらに磁性体又は非磁性体といったあらゆる機能性材料の磁気秩序状態或いは電気伝導状態を、それに与える力学的な弾性ひずみで操作するスピンデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
今日の現代社会は、電子のもつ「電荷」と「スピン」という2つの自由度のうち、「電荷の流れ」つまり「電流」を利用した「半導体を基盤とするエレクトロニクスデバイスや金属材料」によって支えられている。しかし、そこでは常にジュール熱によるエネルギー損失が問題となっており、電流の保存・貯蔵が困難であるとともに、低炭素化社会実現のため不可避な重要な問題を内包している。
【0003】
特許文献1は、半導体基板上に、強磁性薄膜ではなく、強磁性細線を形成したスピンデバイスを開示する。強磁性細線が一軸の磁気異方性を有するようになるので、強磁性細線から半導体基板へのスピン偏極した電子の注入を実際に行うことができるようになる。しかし、このようなスピンデバイスは、強磁性体薄膜から半導体基板へスピン偏極した電子を注入し、そのスピン状態を利用して記憶あるいは増幅を行うものであるために、電子注入機構が必要となる。
【0004】
また、人工的に合成される磁性体の多くは絶縁体であり、絶縁性磁性体における電気信号移送が実現されることによって、今後、その省エネ効果ゆえに絶縁体ベースのスピンデバイスの需要が高まっていくことが予想される。しかし、絶縁体の場合、仮に試料表面にスパッタ法などによって直接端子づけができたとしても、導電性がないため電流で駆動するデバイスは作成できない。現在のところ、金属層との相互作用を利用したスピン波移送(非特許文献1)や構造不安定相をターゲットにした電気磁気効果の研究(非特許文献2)はあるが、実用化を睨んだデバイス化を考えた時、大規模予算と大規模設備が必須であり、実用化研究の選択肢が限定されてしまう。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2003-60211
【特許文献2】特開2008-082719
【0006】

【非特許文献1】Y. Kajiwara, K. Harii, S. Takahashi, J. Ohe, K. Uchida, M. Mizuguchi, H. Umezawa, H. Kawai, K. Ando, K. Takanashi, S. Maekawa and E. Saitoh “Transmission of electrical signals by spin-wave interconversion in a magnetic insulator” Nature 464(2010)262.
【非特許文献2】M. Saito, K. Ishikawa, S. Konno, K. Taniguchi and T. Arima “Periodic rotation of magnetization in a non-centrosymmetric soft magnet induced by an electric field” Nature Mat. 8(2009)634.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、小型化された超音波ひずみ発振技術を、金属とか半導体に限らず、絶縁体さらに磁性体又は非磁性体といったあらゆる機能性材料に適用して、該機能性材料の物性状態をリアルタイムに制御することを目的としている。
【0008】
絶縁体の磁気特性操作或いは導電性を有する磁性体の特性操作に利用することにより、新しいタイプの磁気特性操作技術を確立したスピンエレクトロニクス素子を開発することができる。また、例えば金属線材に力学的弾性ひずみを与えることでその電気伝導状態(電気抵抗)を制御することができ、或いは超伝導体に力学的弾性ひずみを与えることで超伝導状態を制御することができる。なお、ひずみの効果は、特許文献2に開示の精密磁気測定技術によって観測することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の弾性操作で駆動するスピンデバイスは、物性状態が制御される機能性材料と、該機能性材料に接触或いは結合して力学的な弾性ひずみを与えるひずみ発振子と、該ひずみ発振子に接続して該ひずみ発振子に固有な共鳴周波数に対して周波数変調或いは振幅変調した信号を印加し、その発振ひずみを制御する信号発信機とを備える。この機能性材料は、スピンの磁気配向状態或いは電気伝導状態を、それに与える力学的な弾性ひずみで操作する。
【0010】
上記の振幅変調により、ひずみ発振子の共鳴周波数の電圧値を変化させた信号を発生する。或いは、上記の周波数変調により、ひずみ発振子の共鳴周波数の信号を、該周波数よりも低い低周波信号によって変調した信号を発生する。
【0011】
機能性材料は磁性体であり、この磁性体に力学的弾性ひずみを与えることで弾性特性に影響を与え、スピンの磁気配向度合を操作することにより、磁気秩序状態を制御する。平板状のひずみ素子の上には、平板状磁性体を配置し、平板状磁性体の上方には、間隔を開けて永久磁石を配置し、かつ、この永久磁石は、ダンパーを介して振動板に結合して、前記平板状磁性体の磁化を操作することにより音声を発生させる警告用ホーン或いはブザーとして構成することができる。
【0012】
また、平板状のひずみ発振子の上には、平板状強磁性体を配置し、かつ該平板状強磁性体の上方には、間隔を開けて平板状超伝導体を配置して、超伝導体の磁気浮上現象を利用した平面スピーカーを構成することができる。
【0013】
機能性材料は金属線材であり、該金属線材に力学的弾性ひずみを与えることでその電気伝導状態を制御する。また、機能性材料は超伝導体であり、該超伝導体に力学的弾性ひずみを与えることで超伝導状態を制御する。
【0014】
機能性材料は、双安定性を有し、かつ構造変化によって結晶が変色する物質であり、該物質に力学的弾性ひずみを与えることで結晶の変色を操作する二次元平面状ディスプレイとして構成することができる。また、構造変化によって結晶が変色する物質に力学的弾性ひずみを与えることで透明と半透明を切り替えるブラインドとして構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コイルによって発生する交流磁場を使用せず(磁気的にクリーンな状況下で)、金属とか半導体に限らず、絶縁体さらに磁性体又は非磁性体といったあらゆる機能性材料による磁気秩序状態(磁気モーメント或いは磁束密度)或いは電気伝導状態(電気抵抗)を連続的に制御することができ、連続調整機能を有するスイッチング、つまりバルブ機能、もしくはフィルター機能を保持するクリーン・省エネデバイスを提供することができる。
【0016】
本発明によれば、高速応答・リアルタイム制御可能のスピンデバイスを提供することができ、印加電圧の大きさとその周波数を変化させることで磁化・電気抵抗の大きさを調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】機能性材料の物性状態をリアルタイムに制御する本発明のスピンデバイスを例示する図である。
【図2】機能性材料として用いた強磁性体に力学的弾性ひずみを与えることで磁気秩序状態を制御するスピンデバイスの動作を説明する図であり、(A)は歪みオフ状態を示し、(B)は歪みオン状態を示している。
【図3】磁性材料として、Mn-Cr錯体化合物を用いて、絶対温度に対して交流磁化率の交流磁場に追随する成分m’(複素フーリエ変換の実数成分)を測定したグラフである。
【図4】磁性材料として、Mn-Cr錯体化合物を用いて、圧電セラミック発振子に印加された電圧の振幅に対して、磁気転移温度のシフト量を測定したグラフである。
【図5】Mn-Cr錯体化合物を用いて、圧電セラミック発振子に加える電圧の周波数に対して、共鳴周波数を中心にスキャンしたときの交流磁化率m’の変化を測定したグラフである。
【図6】印加電圧の大きさを変化させたときの、磁気転移温度の印加電圧依存性を示すグラフである。
【図7】評価装置の概略を示す図である。
【図8】測定結果としてのオシロスコープ画面を示す図である。
【図9】機能性材料として用いた金属線材或いは絶縁体転移をする線材に力学的弾性ひずみを与えることで電気伝導状態を制御するスピンデバイスの動作を説明する図であり、(A)は歪みオフ状態を示し、(B)は歪みオン状態を示している。
【図10】共鳴周波数が1MHzの圧電セラミックス発振子を用いたときのビスマス系銅酸化物高温超伝導体における弾性ひずみ効果を示すグラフである。
【図11】共鳴周波数が70MHzの圧電セラミックス発振子を用いたときのビスマス系銅酸化物高温超伝導体における弾性ひずみ効果を示すグラフである。
【図12】超伝導体を利用したスイッチングデバイスの動作を説明する図である。
【図13】二次元平面状の大型のスピンディスプレイとして構成した例を示す図である。
【図14】図13に示すスピンディスプレイの配線図である。
【図15】警告用ホーン或いはブザーとして構成した例を示す図であり、(A)はひずみ発振子の歪み有りの場合を、(B)はひずみ発振子の歪み無しの場合をそれぞれ示している。
【図16】平板状超伝導体の振動による平面スピーカーを構成した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、例示に基づき、本発明を説明する。本発明のスピンデバイスは、金属とか半導体に限らず、絶縁体さらに磁性体又は非磁性体といったあらゆる機能性材料の物性状態をリアルタイムに制御する。例えば、磁性体に力学的弾性ひずみを与えることで弾性特性に影響を与え、スピンの秩序化を操作することにより、磁気秩序状態(例えば、磁気モーメント)を制御する。スピンは、「大きさ」と「向き」の両方を有するベクトルである。ここでいう“磁気秩序状態”は、系全体のスピンの総和、即ち、合成スピンの磁気秩序の程度を表している。スピンが無秩序の常磁性状態では、ΣSi=0(各スピンをSiで表す。スピンがn個あるとして、i=1,2,・・・n)なので、大きさも向きも総和がゼロになる。一方、強磁性状態では、ΣSi= nSであり、各スピンの矢印は一つのスピンの方向をそのままにして、その大きさをn倍すれば、合成スピンが得られる。本発明は、磁性体の場合、高速のひずみを与えて、秩序状態(ΣSi≠0)を無秩序状態(ΣSi=0)にすることを対象にしている。この磁気秩序状態の制御は、“磁性体の合成スピンの大きさ”、即ち、スピンの磁気配向状態(配向の程度)を制御することにより行う。

【0019】
また、例えば金属線材に力学的弾性ひずみを与えることでその電気伝導状態(例えば、電気抵抗)を制御することができ、或いは超伝導体に力学的弾性ひずみを与えることで超伝導状態を制御することができる。機能性材料の物質中に存在するアボガドロ数レベルのスピンがマクロスケールレベルで構築する磁気秩序状態或いは電気伝導状態を、磁場(コイルに電流を流し、磁場を発生させる:アンペールの法則)や電場(電流)によって操作するのではなく、力学的な弾性ひずみでリアルタイムに操作する。

【0020】
図1は、機能性材料の物性状態をリアルタイムに制御する本発明のスピンデバイスを例示する図である。例示のスピンデバイスは、物性状態が制御される機能性材料と、該機能性材料に接触あるいは結合して力学的な弾性ひずみを与えるひずみ発振子(ひずみ素子)と、該ひずみ発振子に接続してその発振ひずみを制御する信号発信機とから構成される。

【0021】
図示のようにひずみ発振子の上に磁性体(例えば、平板状)、線材、或いは超伝導体(発光性を有する結晶でも良い)などの機能性材料を配置して接触或いは結合する。機能性材料とひずみ発振子との接触或いは結合は、ひずみ発振子の機械振動を伝達できるように、例えばグリース、接着剤等を用いて接触或いは固着する。磁場は基本的に不要であり、対象物質に制限はなく、磁性体については金属だけでなく、絶縁体も対象範囲となる。ひずみ発振子は、電気エネルギーを機械振動に変換する素子(振動子)である。このひずみ発振子として、例えば、周知の水晶振動子や圧電セラミックス(通常、チタン酸ジルコニア(通称PZT))発振子を用いることができる。水晶振動子は、水晶片に金や銀などの金属膜を蒸着して貼り付けたものであり、この金属膜に電流を流すと、水晶片が、例えば超音波領域の所定周波数(共鳴周波数)で振動する。共鳴周波数は、小型の圧電セラミック発振子を用いれば、例えば数百kHzから1GHzである。また、水晶振動子は通常1MHz~数十MHzをカバーする。印加電圧は、例えば、20MHz以下であれば、20Vpp, 20MHz以上では8Vpp程度である。

【0022】
機能性材料として磁性体を用いた場合、ひずみ駆動による磁場制御機構として利用できる。磁性体に端子を付けなくて良いことから絶縁体材料にも有効である。また、ひずみ効果を発光性やサーモクロミズム(温度をパラメータとする変色性)と結び付けることで、ブラインド、ディスプレイとしての用途が拓ける。また、ひずみを与える物質が磁性体の場合、ひずみを変調させることで、磁性体の磁気モーメントが変調する。これは、交流磁場を印加したことと同じ効果を与えることになり、音響領域で磁性体とか超伝導体を任意に振動させることが可能となり、平行板スピーカーの発振装置として利用できる。さらに、超伝導ケーブルによる電力輸送システムにおける送電量制御機構に活用できる。

【0023】
図2は、機能性材料として用いた強磁性体に力学的弾性ひずみを与えることで磁気秩序状態を制御するスピンデバイスの動作を説明する図であり、(A)は歪みオフ状態を示し、(B)は歪みオン状態を示している。例示のスピンデバイスは、磁気秩序状態が制御される強磁性体と、該強磁性体に結合して力学的な弾性ひずみを与えるひずみ発振子と、該ひずみ発振子に接続してその発振ひずみを制御する信号発信機とから構成される。ここで、強磁性体とは、ある臨界温度以下で磁気モーメントがある一方向に整列する磁石のことで、地球磁場下でも大きな磁気モーメントを発現する、つまりひずみ効果が顕著な強磁性体全般を対象にしている。図示の構成を、室温での振動発生源として使用する場合、強磁性体は永久磁石であり、また、超伝導平行板スピーカーの場合(後述する図16参照)、原理的には窒素温度で強磁性体になっていれば良い。

【0024】
例示の信号発信機は、ひずみ素子(ひずみ発振子)の共鳴周波数の信号を、該周波数よりも低い低周波信号によって周波数変調した信号を発生する。或いは、ひずみ発振子に固有な共鳴周波数に対して振幅変調した信号を発生することも可能である。例えば、共鳴周波数よりも低周波数の信号として正弦波、矩形波などの信号を用いて振幅変調できるが、図示の例は、オンオフ信号で振幅変調した場合を示している。ONとOFFの時の磁束状態間をその変調の周期でもって周期的に変化させることができる(図15に示すようにスピーカー制御器として利用可能)。クリーンな(磁場、電場のない)環境を必要とする場合における、超音波ひずみを用いた磁性体の磁気特性制御用のバルブ機能つきスイッチとして利用できる。また、図示の例のような信号は相転移温度(磁気転移もしくは超伝導転移など)近傍で観測される現象であることから、クリーンな(磁場、電場のない)環境での相転移温度の測定方法としても利用できる。

【0025】
図3、図4は、磁性材料として、Mn原子とCr原子を含む錯体化合物, Cr(CN)6][Mn(R)-pnH(H2O)](H2O)を用いて、測定したグラフである。6mm×5mm×2mm(厚さ)のサイズの1MHz用圧電セラミック発振子(試料に面する表面積6mm×5mm)の上に真空グルースをうっすら塗り、2mm×1mm×0.2mm(厚さ)の測定試料を固定したときの超音波ひずみ効果を示すものである。そのときの磁気モーメントの大きさを交流磁場(振幅4 Oe, 周波数10 Hz)に対する応答(交流磁化率)を検出することで評価した。dBm(=10log10W)は圧電セラミック発振子に印加される電圧を電力で評価したものである。図4の横軸は、電圧発信機の出力インピーダンス50オームを負荷とする回路での電圧と評価されたものである。図3において、グラフ横軸は絶対温度を示し、縦軸は交流磁化率の交流磁場に追随する成分m’(複素フーリエ変換の実数成分)を示している。交流磁化率の大きさは低磁場域での磁気モーメントの大きさに比例し、その温度変化より磁気転移温度を高精度に見積もることが出来る。無ひずみ状態での磁気転移温度は37K付近であるが、ひずみが印加されることによって、その磁気転移が低温にシフトする。

【0026】
図4において、グラフ横軸は圧電セラミック発振子に印加された電圧の振幅を示し、縦軸は磁気転移温度のシフト量を示している。図示のように、印加電圧の振幅のほぼ3乗に従う磁気秩序転移温度の超音波弾性ひずみ効果が発見された。金属、絶縁体を問わない磁性材料で、転移温度の温度域に限定されない。

【0027】
図5は、上記のMn-Cr錯体化合物を36Kの条件下に維持し、15dBm(振幅1.3V)のパワーの環境下で1MHzの圧電セラミック発振子に加える電圧の周波数を、共鳴周波数を中心にスキャンしたときの交流磁化率m’の変化を示す。図5に示すように、ひずみの周波数のチューニングによって効果的な磁気秩序転移温度の操作が実現される。

【0028】
また、図6はひずみ周波数を圧電セラミック発振子の共鳴周波数に定め、印加電圧の大きさを変化させたときの結果であり、磁気転移温度の印加電圧依存性を示す。図6に示すように、同様の効果は印加電圧の電圧を変化させることでも実現できる。つまり、2つの変数のどちらでも上記操作の微調整が可能である。

【0029】
次に、(ひずみ効果が顕著な)温度一定条件で、超音波ひずみ印加をある期間連続的に継続し、その後無印加の状態を同時間継続する、という操作を繰り返し行い、その際の磁気モーメントの温度変化を追跡測定した。図7は、評価装置の概略を示す図であり、図8は、測定結果としてのオシロスコープ画面を示す図である。図7に示す評価装置は、図1に示す構成における機能性材料として磁性体であるMn-Cr錯体化合物Cr(CN)6][Mn(R)-pnH(H2O)](H2O)を用い、かつ、ひずみ発振子に流れる電流波形と、磁性体上面に配置した磁気検出コイルからの出力電圧(磁気モーメントに比例)をオシロスコープによって観測する。図8に示すように、磁気モーメントはひずみ印加直後に変化を開始し、1秒以内に定常状態に落ち着く。このような変化を、ヒーター等を用いた通常の温度変化で実現しようとすると、その変化には必ず有限の温度緩和が付随し、短時間応答は到底実現できるものではない。これに対して、例示の構成は、高速応答・リアルタイム制御を実現可能であることが分かる。また、ひずみの印加時間(パルス幅)によって、ひずみをOFFにした状態からの復元に要する時間が変化するが、そのハルス幅依存性に、別の情報を織り込むことも可能である。

【0030】
図9は、機能性材料として用いた金属線材或いは絶縁体転移をする線材(超伝導線材を含む)に力学的弾性ひずみを与えることで電気伝導状態を制御するスピンデバイスの動作を説明する図であり、(A)は歪みオフ状態を示し、(B)は歪みオン状態を示している。例示のスピンデバイスは、電気伝導状態が制御される線材と、該線材に結合して力学的な弾性ひずみを与えるひずみ発振子と、該ひずみ発振子に接続してその発振ひずみを制御する信号発信機とから構成される。このような構成によって、線材の電気伝導性を制御(電気抵抗制御)することができる。

【0031】
図10、図11は、図9における線材として超伝導体(対象物質はビスマス系銅酸化物高温超伝導体)線材を用いて測定したひずみ効果を示す図である。図10と図11におけるグラフ横軸は絶対温度を示し、縦軸は交流磁化率の交流磁場(振幅4Oe, 周波数10Hz)に追随する成分m’を示している。図10ならびに図11は、共鳴周波数が1MHz(6mm×5mm×2mm)と70MHz(2.5mm×2mm×1mm)の圧電セラミックス発振子を用いたときの弾性ひずみ効果を示したものであり、ひずみ印加によって超伝導転移温度が低下していることを示している。1MHzの際の試料のサイズは2.0mm×1.0mm×0.2mm(厚さ)であり、70MHzの際の試料のサイズは1.5mm×1.5mm×0.2mm(厚さ)である。たとえば、102Kに温度固定にし、歪みOFFの状態(超伝導状態)に70MHz、24dBmの歪みを与えると、超伝導状態を常伝導状態に切り替えることができる。この操作に信頼性を付与するには、弾性ひずみ効果の大きな物質を制御対処物質に使用する必要がある。

【0032】
図12は、超伝導体を利用したスイッチングデバイスの動作を説明する図である。図9における線材として超伝導体を用いて、弾性ひずみを与えることにより、線材の超伝導状態と常伝導状態にオンオフ制御するスイッチングデバイスを構成することができる。これによって、超電導送電ネットワークにおけるバルブ機能付スイッチとして利用可能である。超伝導線材の超伝導状態を操作することで、送電量のコントロールが可能である。この仕組みは、超伝導磁石の永久電流モード切り替えスイッチとして使われているヒートスイッチ部分にも利用することができ、短時間でのモード切り替えが可能となる。また、金属絶縁体転移を伴う材料についても同様の送電量コントロールが実現可能である。
【実施例1】
【0033】
図13は、本発明のスピンデバイスを用いて、磁化と結晶色及び発光特性を結びつけた二次元平面状の、例えば広告用に用いる大型のスピンディスプレイとして構成した例を示す図であり、また、図14は、その配線図である。スピンデバイス機能性物質として、双安定性(ふたつの状態が同様のエネルギー的安定度を有し、過去の履歴によってどちらの状態を実現するかが変わる)を有し、構造変化によって結晶が変色する物質を用いる。温度変化による相転移に起因する変色はサーモクロミズムと称せられている。本発明のスピンデバイスを利用して、双安定性を有する温度域でふたつの状態のエネルギーバランスを自在に操作することで、大型ディスプレイにおける色の連続的操作に利用できる。また、透明と半透明を切り替えることにより、ブラインドとして利用可能である。
【実施例2】
【0034】
図15は、本発明のスピンデバイスを用いて、車の警告用ホーン或いはブザーとして構成した例を示す図であり、(A)はひずみ発振子の歪み有りの場合を、(B)はひずみ発振子の歪み無しの場合をそれぞれ示している。平板状のひずみ素子の上には、平板状強磁性体を配置する。さらに、平板状強磁性体の上方には、間隔を開けて永久磁石を配置する。この永久磁石は、ダンパーを介して振動板に結合されている。このように、平板状のひずみ素子の幾何学性を利用して、素子上に置かれた平板状強磁性体の磁化(磁気秩序)を操作することにより電気駆動による音声発生へ利用できる。
【実施例3】
【0035】
図16は、本発明のスピンデバイスを用いて、平板状超伝導体の振動による平面スピーカー(平行板スピーカー)を構成した例を示している。平板状のひずみ発振子の上には、平板状強磁性体を配置する。さらに、平板状強磁性体の上方には、間隔を開けて平板状超伝導体を配置する。ここで、平板状強磁性体は、液体窒素温度で強磁性体になっていれば良いが、室温で稼働させる場合には、永久磁石である。
【実施例3】
【0036】
従来のコーン型スピーカーは、観測位置によって音圧が異なるのに対して、平行板スピーカーではどこでも同じ音圧が実現できる。平行板スピーカーの駆動系に本発明を適用すれば、超伝導体の磁気浮上現象を利用した超伝導スピーカーとなる。駆動系磁場を使用しないため、平行板スピーカーの運動性能を高めることができる。可聴域帯での振動は、可聴域の周波数の信号によって素子駆動用超音波信号を変調させることで実現する。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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