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明細書 :カルボン酸無水物の製造方法及びアリールボロン酸化合物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5747330号 (P5747330)
登録日 平成27年5月22日(2015.5.22)
発行日 平成27年7月15日(2015.7.15)
発明の名称または考案の名称 カルボン酸無水物の製造方法及びアリールボロン酸化合物
国際特許分類 C07C  51/56        (2006.01)
C07C  57/30        (2006.01)
C07F   5/02        (2006.01)
C07D 307/89        (2006.01)
C07D 307/93        (2006.01)
C07D 493/04        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07C 51/56
C07C 57/30 CSP
C07F 5/02 F
C07D 307/89 A
C07D 307/89 Z
C07D 307/93
C07D 493/04 101B
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 17
全頁数 25
出願番号 特願2011-503782 (P2011-503782)
出願日 平成22年3月3日(2010.3.3)
国際出願番号 PCT/JP2010/053442
国際公開番号 WO2010/103976
国際公開日 平成22年9月16日(2010.9.16)
優先権出願番号 2009058720
優先日 平成21年3月11日(2009.3.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年1月18日(2013.1.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】石原 一彰
【氏名】坂倉 彰
個別代理人の代理人 【識別番号】110000017、【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
審査官 【審査官】増永 淳司
参考文献・文献 国際公開第2009/030022(WO,A1)
特開平03-176484(JP,A)
特開2006-045150(JP,A)
特開2001-335571(JP,A)
国際公開第2004/113351(WO,A1)
Journal of Organometallic Chemistry,1983年,256,P1-9
調査した分野 C07C 51/56
C07C 57/30
C07D 307/89
C07D 307/93
C07D 493/04
C07F 5/02
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ジカルボン酸化合物の分子内脱水縮合により環状のカルボン酸無水物を製造する方法であって、
触媒として、片方又は両方のオルト位に、1つの炭素原子を介して水素原子を有さない窒素原子が結合した含ヘテロ原子置換基を持つ、アリールボロン酸化合物を用いる、カルボン酸無水物の製造方法。
【請求項2】
2つのカルボン酸化合物の分子間脱水縮合により芳香族カルボン酸無水物または鎖状のα,β位の炭素が飽和している脂肪族カルボン酸無水物を製造する方法であって、
触媒として、片方又は両方のオルト位に、1つの炭素原子を介して水素原子を有さない窒素原子が結合した含ヘテロ原子置換基を持つアリールボロン酸化合物を用いる、カルボン酸無水物の製造方法。
【請求項3】
前記アリールボロン酸化合物は、両方のオルト位に、同じか又は互いに異なる前記含ヘテロ原子置換基を持つ、請求項1又は2に記載のカルボン酸無水物の製造方法。
【請求項4】
前記含ヘテロ原子置換基は、-CH2NR12(R1,R2はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基若しくはハロゲン原子を有するシクロアルキル基又は互いに結合してNR12として含窒素ヘテロ環を形成する)で表される基であるか、-CH2+345-(Zは窒素原子、3~R5はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基又はハロゲン原子を有するシクロアルキル基、Xはアニオン性基)で表される基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカルボン酸無水物の製造方法。
【請求項5】
1,R2は分岐を有するアルキル基であり、含窒素ヘテロ環は含窒素芳香族化合物である、請求項4に記載のカルボン酸無水物の製造方法。
【請求項6】
前記-CH2NR12は、下記式(1)(R6~R9はそれぞれ独立してアルキル基又はハロゲン原子を有するアルキル基)で表される基である、請求項4に記載のカルボン酸無水物の製造方法。
【化1】
JP0005747330B2_000013t.gif

【請求項7】
前記アリールボロン酸化合物は、ベンゼン環上にハロゲン原子、アルキル基、ニトロ基又はハロゲン原子を有するアルキル基を持つ、請求項1~6のいずれか1項に記載のカルボン酸無水物の製造方法。
【請求項8】
ジカルボン酸化合物と1級アミン化合物とを反応させて環状のイミド化合物を製造するイミド化合物の製造方法であって、
触媒として、片方又は両方のオルト位に、1つの炭素原子を介して水素原子を有さない窒素原子が結合した含ヘテロ原子置換基を持つアリールボロン酸化合物を用いる、イミド化合物の製造方法。
【請求項9】
前記アリールボロン酸化合物は、両方のオルト位に、同じか又は互いに異なる前記含ヘテロ原子置換基を持つ、請求項8に記載のイミド化合物の製造方法。
【請求項10】
前記含ヘテロ原子置換基は、-CH2NR12(R1,R2はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基若しくはハロゲン原子を有するシクロアルキル基又は互いに結合してNR12として含窒素ヘテロ環を形成する)で表される基であるか、-CH2+345-(Zは窒素原子、3~R5はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基又はハロゲン原子を有するシクロアルキル基、Xはアニオン性基)で表される基である、請求項8又は9に記載のイミド化合物の製造方法。
【請求項11】
1,R2は分岐を有するアルキル基であり、含窒素ヘテロ環は含窒素芳香族化合物である、請求項10に記載のイミド化合物の製造方法。
【請求項12】
前記-CH2NR12は、下記式(1)(R6~R9はそれぞれ独立してアルキル基又はハロゲン原子を有するアルキル基)で表される基である、請求項10に記載のイミド化合物の製造方法。
【化2】
JP0005747330B2_000014t.gif

【請求項13】
前記アリールボロン酸化合物は、ベンゼン環上にハロゲン原子、アルキル基、ニトロ基又はハロゲン原子を有するアルキル基を持つ、請求項8~12のいずれか1項に記載のイミド化合物の製造方法。
【請求項14】
両方のオルト位に-CH2NR12(R1,R2はそれぞれ独立して分岐を有するアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基若しくはハロゲン原子を有するシクロアルキル基、又は、R1,R2が互いに結合してNR12として含窒素ヘテロ環を形成する)を持つか、片方又は両方のオルト位にピリジル基、ピリミジル基、ピリダジル基又はピラジル基を持つ、アリールボロン酸化合物。
【請求項15】
両方のオルト位にジイソプロピルアミノメチル基又はトリオクチルアンモニウムメチル基を持つか、片方又は両方のオルト位に2-ピリジル基を持つ、アリールボロン酸化合物。
【請求項16】
前記-CH2NR12は、下記式(1)(R6~R9はそれぞれ独立してアルキル基又はハロゲン原子を有するアルキル基)で表される基である、請求項14に記載のアリールボロン酸化合物。
【化3】
JP0005747330B2_000015t.gif

【請求項17】
ベンゼン環上にハロゲン原子、アルキル基、ニトロ基又はハロゲン原子を有するアルキル基を持つ、請求項14~16のいずれか1項に記載のアリールボロン酸化合物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸無水物の製造方法及びその触媒として利用可能なアリールボロン酸化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸無水物の製造方法としては、カルボン酸とカルボン酸塩化物との反応によるものやカルボン酸を直接加熱することによるものが知られている。前者は、塩酸が多量に発生することから、それを中和するための等モル以上の塩基を用いる必要があり、コストや手間がかかる。一方、後者は、反応条件が過酷(300℃以上)なうえ、収率が低い。このような古典的な製造方法に対して、特許文献1では、フタル酸類を不活性溶媒中で触媒量の酸性化合物の存在下に脱水反応することにより無水フタル酸類を製造する方法が報告されている。酸性化合物としては、パラトルエンスルホン酸(p-TsOH)やトリフルオロメタンスルホン酸、ポリリン酸、硫酸などが使用可能とされている。例えば、フタル酸をトルエン中で触媒量のp-TsOHの存在下に脱水加熱還流することにより無水フタル酸を収率95%で得ている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2001-335571号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、p-TsOHなどの酸性化合物は強酸であるため、鉄系(SUSなど)の反応容器を使用したときに腐食しやすいという問題があった。また、こうした強酸の存在下で鎖状無水物を製造しようとした場合、少量の水が存在すると逆反応つまり無水物の加水分解反応が起きやすいため、反応を制御しにくいという問題もあった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、マイルドな酸性条件で環状のカルボン酸無水物のみならず芳香族カルボン酸無水物や鎖状のα,β位の炭素が飽和している脂肪族カルボン酸無水物を製造することを目的とする。
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、フタル酸をヘプタン中で触媒量のアリールボロン酸化合物(例えば2-(ジイソプロピルアミノメチル)フェニルボロン酸や2,6-ビス(ジイソプロピルアミノメチル)フェニルボロン酸など)の存在下に脱水加熱還流することにより無水フタル酸が高収率で得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のカルボン酸無水物の製造方法は、ジカルボン酸化合物の分子内脱水縮合により環状のカルボン酸無水物を製造したり2つのカルボン酸化合物の分子間脱水縮合により芳香族カルボン酸無水物または鎖状のα,β位の炭素が飽和している脂肪族カルボン酸無水物を製造したりする方法であって、触媒として、片方又は両方のオルト位に、1つの炭素原子を介して水素原子を有さない窒素原子又はリン原子が結合した含ヘテロ原子置換基を持つアリールボロン酸化合物を用いるものである。
【0008】
本発明のイミド化合物の製造方法は、ジカルボン酸化合物と1級アミン化合物とを反応させて環状のイミド化合物を製造するイミド化合物の製造方法であって、触媒として、片方又は両方のオルト位に、1つの炭素原子を介して水素原子を有さない窒素原子又はリン原子が結合した含ヘテロ原子置換基を持つアリールボロン酸化合物を用いるものである。
【0009】
本発明のアリールボロン酸化合物は、両方のオルト位に-CH2NR12(R1,R2はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基若しくはハロゲン原子を有するシクロアルキル基、又は、R1,R2が互いに結合してNR12として含窒素ヘテロ環を形成する)を持つか、片方又は両方のオルト位に5員環又は6員環の含窒素芳香族基を持つものである。
【0010】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法によれば、マイルドな酸性条件で環状のカルボン酸無水物のみならず芳香族カルボン酸無水物や鎖状のα,β位の炭素が飽和している脂肪族カルボン酸無水物を製造することができる。また、本発明のイミド化合物の製造方法によれば、マイルドな酸性条件でワンステップで環状のイミド化合物を製造することができる。一方、本発明のアリールボロン酸化合物は、ジカルボン酸化合物の分子内脱水縮合により環状のカルボン酸無水物を製造したり2つのカルボン酸化合物の分子間脱水縮合により芳香族カルボン酸無水物または鎖状のα,β位の炭素が飽和している脂肪族カルボン酸無水物を製造する際の触媒として適している。
【0011】
本発明では、マイルドな酸性条件でカルボン酸無水物を製造することができるが、その理由は以下のように考えられる(下記式参照)。下記式では、アリールボロン酸化合物として2-(ジアルキルアミノメチル)フェニルボロン酸、カルボン酸としてアルカン酸を例に挙げて説明する。まず、カルボン酸は、アリールボロン酸化合物とカルボン酸-アリールボロン酸の混合酸無水物を形成することにより活性化される(ステップ1)。この混合酸無水物に対して、もう1分子のカルボン酸がアリールボロン酸化合物のアミノ基と塩を形成することにより活性化されながら、混合酸無水物のカルボン酸に対して反応することで、カルボン酸無水物が生成する(ステップ2)。また、ワンステップで環状のイミド化合物を製造する場合には、ステップ2でカルボン酸無水物が生成したあと、そのカルボン酸無水物と系内の1級アミンとが反応してイミド化合物が生成すると推測している。
【0012】
【化1】
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【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法は、ジカルボン酸化合物の分子内脱水縮合により環状のカルボン酸無水物を製造したり2つのカルボン酸化合物の分子間脱水縮合により芳香族カルボン酸無水物または鎖状のα,β位の炭素が飽和している脂肪族カルボン酸無水物を製造したりする方法であって、触媒として、片方又は両方のオルト位に、1つの炭素原子を介して水素原子を有さない窒素原子又はリン原子が結合した含ヘテロ原子置換基を持つアリールボロン酸化合物を用いるものである。ここで、分子内脱水縮合を行うジカルボン酸化合物とは、2つの炭素のそれぞれにカルボン酸基が結合したジカルボン酸構造を1つ以上有する化合物であり、ジカルボン酸化合物やテトラカルボン酸化合物などが挙げられる。具体的には、ジカルボン酸化合物としては、例えばフタル酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸などが挙げられ、テトラカルボン酸化合物としては、例えばベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸(ピロメリット酸)、ジフェニルエーテル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸などが挙げられる。また、分子間脱水縮合を行う芳香族カルボン酸化合物としては、安息香酸などが挙げられ、鎖状のα,β位の炭素が飽和している脂肪族カルボン酸化合物としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸などが挙げられる。こうした芳香族カルボン酸化合物や脂肪族カルボン酸化合物は、アリール基やシクロアルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲンなどの置換基を有していてもよい。こうしたカルボン酸化合物としては、反応を効率よく進行させるためには沸点が160℃以上のものを用いることが好ましい。
【0014】
本発明のイミド化合物の製造方法は、ジカルボン酸化合物と1級アミン化合物とを反応させて環状のイミド化合物を製造するイミド化合物の製造方法であって、触媒として、片方又は両方のオルト位に、1つの炭素原子を介して水素原子を有さない窒素原子又はリン原子が結合した含ヘテロ原子置換基を持つアリールボロン酸化合物を用いるものである。ここで、ジカルボン酸化合物とは、2つの炭素のそれぞれにカルボン酸基が結合したジカルボン酸構造を1つ以上有する化合物であり、ジカルボン酸化合物やテトラカルボン酸化合物などが挙げられる。具体的には、ジカルボン酸化合物としては、例えばフタル酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸などが挙げられ、テトラカルボン酸化合物としては、例えばベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸(ピロメリット酸)、ジフェニルエーテル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸などが挙げられる。また、1級アミン化合物としては、アリールアミン、アルキルアミン、シクロアルキルアミンなどが挙げられる。アリールアミンとしては、アニリン、トルイジン、ジメチルアニリン、クメニルアミン、メシチルアミン、ピリジニルアミンなどが挙げられる。アルキルアミンとしては、n-ヘキシルアミンやn-オクチルアミンなどの炭素数1~10のアルキル基を持つアミンが挙げられる。シクロアルキルアミンとしては、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0015】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、アリールボロン酸化合物が有する含ヘテロ原子置換基としては、-CH2NR12(R1,R2はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基若しくはハロゲン原子を有するシクロアルキル基又は互いに結合してNR12として含窒素ヘテロ環を形成する)が好ましい。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-メチル-1-ブチル基、n-アミル基、sec-アミル基、イソアミル基、tert-アミル基、ネオペンチル基、3-ペンチル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などが挙げられるが、このうち、分岐を有するアルキル基が好ましく、イソプロピル基がより好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。互いに結合してNR12として含窒素ヘテロ環を形成する場合、その含窒素ヘテロ環としては、ピリジン、N-アルキルイミダゾール、ピリミジン、ピリダジン、ピラジンなどの含窒素芳香族化合物やピペリジンなどの含窒素脂環式化合物などが挙げられるが、このうち含窒素芳香族化合物が好ましく、ピリジンがより好ましい。こうした含窒素ヘテロ環は、環上にアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0016】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、アリールボロン酸化合物が有する含ヘテロ原子置換基としては、下記式(1)(R6~R9はそれぞれ独立してアルキル基又はハロゲン原子を有するアルキル基)で表される基であることが好ましく、R6~R9はすべて同じアルキル基であることが好ましい。この場合、少ない触媒量(例えば1mol%)であっても高い収率でカルボン酸無水物を得ることができる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-メチル-1-ブチル基、n-アミル基、sec-アミル基、イソアミル基、tert-アミル基、ネオペンチル基、3-ペンチル基などが挙げられるが、このうち特にメチル基が好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0017】
【化2】
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【0018】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、アリールボロン酸化合物が有する含ヘテロ原子置換基としては、-CH2+345-(Zは窒素原子又はリン原子であり、R3~R5はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基又はハロゲン原子を有するシクロアルキル基であり、Xはアニオン性基である)も好ましい。ここで、アルキル基やシクロアルキル基、ハロゲン原子については、既に例示したものを使用可能であるため、ここではその説明を省略する。アニオン性基としては、特に限定するものではないが、例えばフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどが挙げられる。
【0019】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、アリールボロン酸化合物は、こうした含ヘテロ原子置換基を片方のオルト位のみに有していてもよいが、両方のオルト位に有していることが好ましい。含ヘテロ原子置換基を両方のオルト位に有している場合、2つの含ヘテロ原子置換基は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0020】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、アリールボロン酸化合物は、ベンゼン環上に置換基(例えば、ハロゲン原子、アルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子を有するアルキル基など)を持つものであってもよい。こうした置換基は、ベンゼン環上のパラ位にあることが好ましい。ここで、ハロゲン原子やアルキル基については、既に例示したものを使用可能であるため、ここではその説明を省略する。
【0021】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、アリールボロン酸化合物の使用量は、カルボキシ基1molに対して、0.5~50mol%が好ましく、1~10mol%がより好ましい。
【0022】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、反応溶媒は、分子内脱水縮合や分子間脱水縮合に影響しない溶媒であれば特に限定されないが、例えば炭化水素系溶媒やニトリル系溶媒、ニトロ系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒が好ましく、特にニトリル系溶媒が好ましい。炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。ニトリル系溶媒としては、ブチロニトリル、プロピオニトリルなどが挙げられる。ニトロ系溶媒としては、ニトロメタン、ニトロエタンなどが挙げられる。エーテル系溶媒としては、アニソール、ジオキサンなどが挙げられる。アミド系溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)などが挙げられる。また、これらの混合溶媒を用いてもよい。
【0023】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、反応温度は反応速度や副生成物の比率などを考慮して適宜設定すればよいが、例えば、20~200℃の範囲で設定するのが好ましく、60~160℃の範囲で設定するのがより好ましい。また、分子内脱水縮合や分子間脱水縮合では、カルボン酸無水物と共に水が生成するが、カルボン酸無水物の収率を向上させるには脱水を効率よく行うことが好ましい。例えば、反応温度を溶媒の還流温度(つまり沸点)とし、脱水加熱還流することが好ましい。この点は、イミド化合物の製造方法も同様である。
【0024】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、反応時間は、反応基質、反応温度などに応じて適宜設定すればよいが、通常は数分~数10時間である。なお、分子内脱水縮合や分子間脱水縮合は反応基質が完全に消費されるまで行ってもよいが、反応が進むにつれて反応基質の消失速度が極端に遅くなる場合には反応基質が完全に消費されなくても反応を終了してカルボン酸無水物を取り出した方が好ましい場合もある。この点は、イミド化合物の製造方法も同様である。
【0025】
本発明のカルボン酸無水物の製造方法及びイミド化合物の製造方法において、目的とするカルボン酸無水物やイミド化合物を単離するには、通常知られている単離手法を適用すればよい。例えば、反応混合物中の反応溶媒を減圧濃縮した後、カラムクロマトグラムや再結晶などで精製することにより、目的とするカルボン酸無水物やイミド化合物を単離することができる。
【0026】
本発明のアリールボロン酸化合物は、両方のオルト位に-CH2NR12(R1,R2はそれぞれ独立してアルキル基、シクロアルキル基を有するアルキル基、ハロゲン原子を有するアルキル基、シクロアルキル基、アルキル基を有するシクロアルキル基若しくはハロゲン原子を有するシクロアルキル基、又は、R1,R2が互いに結合してNR12として含窒素ヘテロ環を形成する)を持つか、片方又は両方のオルト位に5員環又は6員環の含窒素芳香族基を持つものである。ここで、-CH2NR12 については、既に説明したとおりであるが、ジイソプロピルアミノメチル基やトリオクチルアンモニウムメチル基が好ましい。5員環又は6員環の含窒素芳香族基としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピラジル基、N-アルキルイミダゾール基などが挙げられるが、ピリジル基、特に2-ピリジル基、又はN-アルキルイミダゾール基が好ましい。こうしたアリールボロン酸化合物は、ベンゼン環上にハロゲン原子、アルキル基又はハロゲン原子を有するアルキル基を持つものであってもよい。ここで、ハロゲン原子やアルキル基については、既に例示したものを使用可能なため、ここではその説明を省略する。また、前記-CH2NR12としては、上記式(1)(R6~R9は既に例示したとおり)で表される基であることが好ましい。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
20mLのフラスコにフタル酸(2.5mmol)、アリールボロン酸触媒として2,6-ビス(ジイソプロピルアミノメチル)フェニルボロン酸(以下「ボロン酸化合物A」という、0.25mol)、溶媒としてヘプタン(10mL)を加え、乾燥したモレキュラーシーブス3A(約3g)を充填したカラム(小型ソックスレー抽出器)を装着した。この溶液を12時間脱水加熱還流した後、室温まで放冷した。その後、ヘプタンを減圧留去し、得られたフタル酸無水物の粗生成物を1H NMR(CDCl3)で解析することで、その収率を算出した。同じ手順を複数回繰り返したところ、収率は72-81%であった。なお、1H NMRの化学シフト(ppm)は、フタル酸:δ7.51-7.60(m,2H)、フタル酸無水物:δ8.05-8.14(m,2H)であった。
【0028】
[実施例2~9,比較例1~4]
実施例2~9,比較例1~4につき、実施例1に準じて、表1の条件でフタル酸無水物を製造した。その結果を表1に示す。なお、表1には、実施例1の結果も併せて示す。表1から明らかなように、無触媒の場合、低沸点のヘプタンを溶媒として用いるとフタル酸無水物は得られず(比較例1)、高沸点のノナンを溶媒として用いるとフタル酸無水物は得られたものの12%という低収率であった(比較例2)。また、特許文献1の触媒であるp-TsOHを用いた場合には、88%という高収率でフタル酸無水物が得られたが(比較例3)、強酸であるため鉄系の反応容器の腐食等が懸念された。更に、触媒として2,4,6-トリメチルフェニルボロン酸(オルト位にジアルキルアミノメチル基を有さないもの)を用いた場合には7%という低収率でしかフタル酸無水物が得られなかった(比較例4)。これらに対して、実施例1~6のように触媒としてボロン酸化合物Aやそのパラ位にt-ブチル基やフッ素原子を有するもの(それぞれ「ボロン酸化合物B」,「ボロン酸化合物C」という)を用いた場合には、p-TsOHに比べてマイルドな酸でありながら、良好な収率でフタル酸無水物が得られた(特に実施例4,5)。また、実施例7のように触媒として片方のオルト位にジアルキルアミノメチル基を有する2-(ジイソプロピルアミノメチル)フェニルボロン酸(J. Organometallic Chem., 2005, vol.690, p4784-4793.を参照)を用いたり、実施例8のように触媒として片方のオルト位に2-ピリジル基を有するフェニルボロン酸(以下「ボロン酸化合物D」という)を用いたり、実施例9のように触媒として片方のオルト位に1つの炭素原子を介して水素原子を有さないアンモニウム塩が結合しているフェニルボロン酸(Tetrahedron, 1999, vol.55, p2857-2864.Tetrahedron, 1996, vol.52, p12931-12940.を参照)を用いたりした場合にも、高い収率でフタル酸無水物が得られた。なお、実施例8のオルト位の2-ピリジル基を3-ピリジル基やN-メチル-2-イミダゾリル基に代えた場合も、フタル酸無水物の合成反応(但しオクタンを溶媒とした)において2-ピリジル基の場合とほぼ同等の活性を示した。
【0029】
【表1】
JP0005747330B2_000004t.gif

【0030】
[実施例10~13,比較例5~8]
実施例10~13,比較例5~8につき、実施例1に準じて、表2の条件でジカルボン酸からカルボン酸無水物を製造した。収率は、粗生成物を1H NMR(CDCl3)で解析することで算出した。なお、1H NMRの化学シフト(ppm)は、trans-シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸:δ2.9-3.15(m,2H),その無水物(cis-カルボン酸無水物):δ3.5-3.7(m,2H)、cis-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸:δ2.66(m,2H)、その無水物:δ3.33(m,2H)、trans-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸:δ2.66(m,2H)、その無水物(cis-カルボン酸無水物):δ3.33(m,2H)、ピロメリット酸:δ7.90(s,2H)、そのモノ無水物;δ8.25(s,2H)、そのジ無水物:δ8.72(s,2H)であった。
【0031】
実施例10~13では、触媒としてボロン酸化合物Aを用い、比較例5~8では、触媒としてp-TsOHを用いた。その結果を表2に示す。表2から明らかなように、反応基質としてcis-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸を用いた場合には、触媒がボロン酸化合物Aであってもp-TsOHであっても非常に高い収率で、対応するcis型のカルボン酸無水物が得られた(実施例10,比較例5)。一方、反応基質としてtrans-シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸を用いた場合、触媒がボロン酸化合物Aのときにはtransからcisにエピメリ化したあと分子内脱水縮合して、対応するcis型のカルボン酸無水物がほぼ定量的に得られたが(実施例11)、触媒がp-TsOHのときにはこうしたcis型のカルボン酸無水物は16%しか得られなかった(比較例6)。また、反応基質としてtrans-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸を用いた場合、先ほどと同様、触媒がボロン酸化合物Aのときにはtransからcisにエピメリ化したあと分子内脱水縮合して、対応するcis型のカルボン酸無水物が95%の高収率で得られたが(実施例12)、触媒がp-TsOHのときにはこうしたcis型のカルボン酸無水物はほとんど得られなかった(比較例7)。こうしたことから、ボロン酸化合物Aは反応基質としてtrans-1,2-ジカルボン酸化合物を用いる場合に特に有用であることがわかった。更に、反応基質としてベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸(ピロメリット酸)を用いた場合、触媒がボロン酸化合物Aのときには耐熱性ポリイミドの原材料となる無水ピロメリット酸が定量的に得られたが(実施例13)、触媒がp-TsOHのときには無水ピロメリット酸が低収率でしか得られなかった(比較例8)。
【0032】
【表2】
JP0005747330B2_000005t.gif

【0033】
[実施例14~16,比較例9,10]
実施例14~16,比較例9,10につき、実施例1に準じて、表3の条件で、4-フェニルブタン酸(4-フェニル酪酸)の分子間脱水縮合によりカルボン酸無水物を製造した。表3から明らかなように、無触媒の場合にはカルボン酸無水物は得られなかったが(比較例9)、触媒としてp-TsOHを用いた場合にはカルボン酸無水物が収率18%で得られた(比較例10)。これに対して、触媒として、ボロン酸化合物A、オルト位にジイソプロピルアミノメチル基を有するフェニルボロン酸(前出)、オルト位に2,2,6,6-テトラメチルピペラジニルメチル基を有するフェニルボロン酸(WO2004-113351参照)を用いた場合には、p-TsOHに比べてマイルドな酸でありながら、収率18~22%とp-TsOHと同等の収率でカルボン酸無水物が得られた(実施例14~16)。
【0034】
【表3】
JP0005747330B2_000006t.gif

【0035】
[実施例17]
ボロン酸化合物Aは、以下のようにして合成した。すなわち、1Lのフラスコに2-ブロモ-1,3-ジメチルベンゼン(Polyhedron, 2002, vol.21, p2827-2834.)(60mmol)、四塩化炭素(350mL)、N-ブロモコハク酸イミド(126mmol)およびベンゾイルペルオキシド(純度75%,1.8mmol)を順次加え、24時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮した後、残渣をクロロホルムに溶解し、不溶物を濾別した。濾液を水で2回洗浄した後、水層を合わせてクロロホルムで再度抽出した。クロロホルム層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル,ヘキサン)および再結晶(ヘキサン)で精製し、2-ブロモ-1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼンを得た(11.0g,収率53%)。300mLのフラスコに2-ブロモ-1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(15mmol)およびジイソプロピルアミン(600mmol)を加え,43時間加熱還流した。反応混合物中の不溶物を濾別した後、減圧濃縮した。残渣をクロロホルムに溶解し、水で2回洗浄した後、水層を合わせてクロロホルムで再度抽出した。クロロホルム層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル,ヘキサン)で精製し、2-ブロモ-1,3-ビス(ジイソプロピルアミノメチル)ベンゼンを得た(5.39g,収率94%)。乾燥窒素を充填した50mLのフラスコに2-ブロモ-1,3-ビス(ジイソプロピルアミノメチル)ベンゼン(5.7mmol)、テトラヒドロフラン(9.5mL)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(11.4mmol)を加え、-78℃に冷却した。この溶液にブチルリチウムの1.5Mヘキサン溶液(7.3mL、11.4mmol)を滴下し、-78℃にて1時間撹拌した後、ホウ酸トリメチル(22.8mmol)を加え、室温に昇温して12時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮した後、残渣をクロロホルムに溶解し、不溶物を濾別した。濾液を水で2回洗浄した後、水層を合わせてクロロホルムで再度抽出した。クロロホルム層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル,ヘキサン-酢酸エチル=5:1)で精製した後、水およびメタノールの混合溶液に溶解し、50~60℃にて減圧濃縮すると、ボロン酸化合物Aが得られた(1.13g,収率55%)。ボロン酸化合物Aの構造は、1H NMRおよび13C NMRにより同定した。1H NMR(CDCl3)δ1.09(d,J=6.6Hz,24H),3.04(sept,J=6.6Hz,4H),3.79(s,4H),7.18-7.22(m,3H);13C NMR(CDCl3)δ19.9,46.9,52.2,128.4,131.5,142.8.
【0036】
[実施例18]
ボロン酸化合物Bは、ボロン酸化合物Aと同じ手順により2-ブロモ-5-t-ブチル-1,3-ジメチルベンゼン(J. Org. Chem., 2003, vol.68, p6071-6078.)から合成した(通算収率22%)。ボロン酸化合物Bの構造は、1H NMRおよび13C NMRにより同定した。1H NMR(CDCl3)δ1.09(d,J=6.9Hz,24H),1.32(s,9H),3.03(sept,J=6.9Hz,4H),3.80(s,4H),7.21(s,2H);13C NMR(CDCl3)δ19.9,31.0,34.2,46.8,52.6,128.5,142.6,151.1.
【0037】
[実施例19]
ボロン酸化合物Cは、ボロン酸化合物Aと同じ手順により2-ブロモ-5-フルオロ-1,3-ジメチルベンゼン(Bull. Chem. Soc. Jpn., vol.74, 2207-2218.)から合成した(通算収率11%)。ボロン酸化合物Cの構造は、1H NMRおよび13C NMRにより同定した。1H NMR(CDCl3)δ1.09(d,J=6.9Hz,24H),3.04(sept,J=6.9Hz,4H),3.77(s,4H),6.93(d,J=9.6Hz,2H);13C NMR(CDCl3)δ19.9,47.1,52.1,118.0(d,J=19.1Hz),145.8(d,J=6.7Hz),162.3(d,J=246Hz).
【0038】
[実施例20]
ボロン酸化合物Dは、以下のようにして合成した。すなわち、乾燥窒素を充填した50mLのフラスコに2-(2-ブロモフェニル)ピリジン(J. Am. Chem. Soc., 2006, vol.128, p6790-6791.)(4.0mmol)、溶媒としてトルエン(6.4mL)およびテトラヒドロフラン(1.6mL)を加え、-78℃に冷却した。この溶液にブチルリチウムの1.5Mヘキサン溶液(3.1mL、4.8mmol)を滴下し、-78℃にて30分間撹拌した後、ホウ酸トリイソプロピル(4.8mL)を加え、室温に昇温して19時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(アルミナ,酢酸エチル-メタノール=5:1)で精製すると、ボロン酸化合物Dのメチルエステルが得られた。これを水およびメタノールの混合溶液に溶解し、50~60℃にて減圧濃縮すると、ボロン酸化合物Dが得られた(669mg,収率84%)。ボロン酸化合物Dの構造は、1H NMRおよび13C NMRにより同定した。1H NMR(CD3OD)δ7.42(dt,J=1.5,7.5Hz,1H),7.47(dt,J=1.5,7.5Hz,1H),7.60(ddd,J=0.9,1.5,7.5Hz,1H),7.64(ddd,J=1.5,5.7,7.5Hz,1H),7.96(ddd,J=1.2,1.5,7.5Hz,1H),8.18(ddd,J=1.2,1.5,8.1Hz,1H),8.27(ddd,J=1.5,7.5,8.1Hz,1H),8.49(ddd,J=0.9,1.5,5.7Hz,1H);13C NMR(CD3OD)δ119.3,123.2,125.0,129.5,131.7,132.3,138.9,143.1,144.7,157.1.
【0039】
[実施例21~27]
20mLのフラスコにフタル酸(2.5mmol)、表4に示すアリールボロン酸触媒(0.025mmol,1mol%)及び溶媒(10mL)を加え、乾燥したモレキュラーシーブス3A(約3g)を充填したカラム(小型ソックスレー抽出器)を装着した。この溶液を12時間脱水加熱還流した後,室温まで放冷した。その後、溶媒を減圧留去し,得られた粗生成物を1H NMR(DMSO-d6)で解析することで、その収率を算出した。その結果を表4に示す。表4から、かさ高い2,2,6,6-テトラメチルピペリジニルメチル基を2,6位に持つボロン酸化合物E(実施例25の触媒)が極めて高い触媒活性を示すことを見出した。また、1-(2-メチルイミダゾリル)基を2位に持つボロン酸化合物(実施例27)は,実施例21で使用したボロン酸化合物と比べて、ノナン(bp151℃)中での反応においてはより高い活性を示したが,プロピオニトリル(bp97℃)中での反応においては同程度の触媒活性であった。
【0040】
【表4】
JP0005747330B2_000007t.gif

【0041】
[実施例28~32]
ポリイミド樹脂合成の原料となるテトラカルボン酸二無水物の合成を検討した。具体的には、実施例21~27に準じて、ボロン酸化合物E(0.025mmol,1mol%)の存在下に、表5に示すテトラカルボン酸 (2.5mmol)の脱水縮合反応をブチロニトリル(10mL)中で実施した。反応混合物を室温まで放冷した後、ペンタン50mLを加え、析出した固体をろ過により精製し、目的とするテトラカルボン酸二無水物を得た。なお、実施例32では、単離収率ではなく、1H NMRを用いた解析による変換収率を求めた。その結果を表5に示す。いずれのテトラカルボン酸も良好な反応性を示し、高収率(85~99%)で対応するカルボン酸二無水物が得られた。なお、表5には、無触媒条件下で反応したときの結果も示したが、無触媒条件下ではほとんど反応が進行しなかった。
【0042】
【表5】
JP0005747330B2_000008t.gif

【0043】
[実施例33]
ポリイミド合成のモデル反応として、ジイミド化合物の触媒的合成を検討した。具体的には、実施例21~27の操作に準じて、ボロン酸化合物E(0.025mmol,1mol%)の存在下に、表6に示すテトラカルボン酸(2.5mmol)とアニリン(6.3mmol)との反応をブチロニトリル(10mL)中で実施した。反応混合物を室温まで放冷した後、析出した固体をろ過により精製し、目的とするジイミド化合物を得た(表6のrun1,収率98%)。ろ液を減圧濃縮した後、残渣にブチロニトリル(10mL)、テトラカルボン酸(2.5mmol)及びアニリン(5mmol)を加えて12時間脱水加熱還流させてジイミド化を行うという操作を4回繰り返した(run2~5)。その結果を表6に示す。表6から、ジイミド化を複数回繰り返しても、触媒活性を損なうことなく、目的とするジイミド化合物が高収率(93~98%)で得られた。このジイミド化反応は、おそらくテトラカルボン酸の2対のカルボン酸基がボロン酸化合物Eを触媒として脱水縮合してカルボン酸二無水物となり、その後カルボン酸二無水物とアニリンとが反応してジイミド化合物になったと推測される。
【0044】
なお、得られたジイミド化合物のスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr) 1779,1713,1609,1386,1263,1238,1107cm-11H NMR(400MHz,CDCl3)δ7.39-7.59(m,14H),8.02(d,J=8.2Hz,2H);13C NMR(125MHz,DMSO-d6-CDCl3)δ112.1,123.4,124.5,125.6,126.5,127.3,130.2,132.9,159.3,164.4,164.6;HRMS(FAB) calcd for C281725[M+H]+ 461.1137,found 461.1159.
【0045】
【表6】
JP0005747330B2_000009t.gif

【0046】
[実施例34]
下記式に示すように、テトラカルボン酸とn-オクチルアミン(2当量)とを用いて、ジイミド化合物の触媒的合成を検討した。具体的には、20mLフラスコにテトラカルボン酸(2.5mmol)、n-オクチルアミン(5.0mmol,2当量)、アリールボロン酸触媒(0.025mmol,1 mol%)およびブチロニトリル(10mL)を加え、乾燥したモレキュラーシーブス3A(約3g)を充填したカラム(小型ソックスレー抽出器)を装着した。この溶液を12時間脱水加熱還流した後、室温まで放冷した。反応溶媒を減圧留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル,ヘキサン-酢酸エチル5:1→3:1→1:1)で精製し,ジイミドを得た。収量1.29g(2.43mmol,97%収率)。得られたジイミドのスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr)1767,1707,1613,1476,1438,1393,1356,1264,1230,1094,1033cm-1; 1H NMR(CDCl3,400 MHz)δ0.87(t,J=6.9Hz,6H),1.19-1.39(m,20H),1.67(tt,J=6.9,7.3Hz,4H),3.67(t,J=7.3Hz,4H),7.36(dd,J=1.8,8.2Hz,2H),7.42(d,J=1.8Hz,2H),7.87(d,J=8.2Hz,2H); 13C NMR(CDCl3, 100MHz)δ14.4,22.9,27.1,28.9,29.4,32.1,38.6,113.8,124.4,125.8,127.9,135.3,161.1,167.6,167.8;HRMS(FAB) calcd for C324125 [M+H]+ 533.3015, found 533.3022.
【0047】
【化3】
JP0005747330B2_000010t.gif

【0048】
[実施例35]
アミドカルボン酸の合成を検討した。具体的には、実施例21~27に準じて、ボロン酸化合物E(0.025mmol,1mol%)の存在下にベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸(2.5mmol)の脱水縮合反応を実施した。反応混合物を室温まで放冷した後、アニリン(7.5mmol,3当量)を加え、室温にて3時間撹拌した。析出した固体をろ過により精製し、目的とするアミドカルボン酸を1:1の異性体混合物として得た。このアミドカルボン酸を更に脱水縮合すれば、ジイミド化合物に誘導することができる。
【0049】
なお、得られたアミドカルボン酸のスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr) 1709,1599,1546,1498,1444,1305,1259,1112cm-11H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.04-7.13(m,2H),7.28-7.38(m,4H),7.62-7.73(m,4.5H),7.95(s,1H),8.31(s,0.5H),10.49(s,1H),10.52(s,1H);13C NMR(100MHz,DMSO-d6)δ120.6,124.6,128.4,129.7,131.6,131.7,133.9,140.0,140.1,142.2,142.6,166.7,166.8,167.2,167.5;HRMS(FAB) calcd for C221726[M+H]+ 405.1087,found 405.1077.
【0050】
【化4】
JP0005747330B2_000011t.gif

【0051】
[実施例36~43]
高活性な触媒であるボロン酸化合物Eを用いて、脂肪族ジカルボン酸の脱水縮合によるカルボン酸無水物の合成を行った。具体的には、実施例21~27の操作に準じて、ボロン酸化合物E(0.025mmol,1mol%)の存在下に、表7に示す脂肪族ジカルボン酸(2.5mmol)の脱水縮合反応を溶媒(10mL)中で実施した。反応混合物を室温まで放冷した後、溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物を1H NMR(CDCl3又はDMSO-d6)で解析することで、対応するカルボン酸無水物の収率を算出した。なお、溶媒は、実施例36~39,41ではプロピオニトリル、実施例40ではバレロニトリル、実施例42,43ではブチロニトリルを使用した。
【0052】
その結果を表7に示す。実施例36,37では、環状1,2-ジカルボン酸は高収率で対応するカルボン酸無水物へと変換された。なお、実施例37のトランス-1,2-ジカルボン酸の反応は、立体化学の異性化を伴って進行し、シス体のカルボン酸無水物を与えた。実施例36,37で無触媒条件下で反応を行ったところ、実施例36では収率が半分程度に下がり、実施例37では全く反応が進行しなかった。また、実施例38,39では、鎖状1,2-ジカルボン酸も高収率で対応する環状カルボン酸無水物へと変換された。実施例40では、鎖状1,3-ジカルボン酸の反応性が比較的低いため、沸点の高いバレロニトリル中で脱水加熱還流を行い、24時間反応させることにより、対応する環状カルボン酸無水物を収率73%で得た。実施例41で用いた1,3-ジカルボン酸の反応性は、実施例40の鎖状1,3-ジカルボン酸より遥かに高く、プロピオニトリル中で脱水加熱還流を行い、12時間反応させることにより、対応するスピロ型無水物へと99%収率で変換できた。実施例42,43の鎖状1,3-ジカルボン酸は、いずれもブチロニトリル中で脱水加熱還流を行うことにより良好に反応が進行し、対応する環状カルボン酸無水物をそれぞれ収率90%、100%で得た。
【0053】
【表7】
JP0005747330B2_000012t.gif

【0054】
なお、各化合物の1H NMRスペクトルデータは以下の通り。
実施例36のジカルボン酸:δ2.66(m,2H)
実施例36のカルボン酸無水物:δ3.33(m,2H)
実施例37のジカルボン酸:δ2.66(m,2H)
実施例38のジカルボン酸:δ2.40(s,4H)
実施例38のカルボン酸無水物:δ2.88(s,4H)
実施例39のジカルボン酸:δ7.05(d,J=8.2Hz,1H)
実施例39のカルボン酸無水物:δ7.74(d,J=7.8Hz,1H)
実施例40のジカルボン酸:δ2.23(t,J=7.3Hz,4H)
実施例40のカルボン酸無水物:δ2.70(t,J=6.0Hz,4H)
実施例41のジカルボン酸:δ2.40(s,4H)
実施例41のカルボン酸無水物:δ2.76(s,4H)
実施例42のジカルボン酸:δ0.99(d,J=6.0Hz,3H)
実施例42のカルボン酸無水物:δ1.14(d,J=6.3Hz,3H)
実施例43のジカルボン酸:δ3.51(m,1H)
実施例43のカルボン酸無水物:δ3.44(m,1H)
【0055】
[実施例44]
高活性な触媒であるボロン酸化合物Eを、以下のようにして合成した。すなわち、2-ブロモ-1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(6.65mmol),炭酸カリウム(14.6mmol),ヨウ化カリウム(1.33mmol)及び2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(14.6mmol)の3-ペンタノン(13mL)溶液を48時間加熱還流した。反応混合物を室温まで放冷した後、析出した固体をろ過により除去し、ろ液を減圧濃縮した。残渣をクロロホルムに溶解し、水(2回)で洗浄した後、水層をクロロホルムで抽出した。クロロホルム層を合わせて硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮した。得られた組成生物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル、溶離液:ヘキサン)で精製することにより、2-ブロモ-1,3-[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)メチル]ベンゼン(2.02g,71%収率)を得た。この化合物のスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr) 1458,1381,1366,1262,1175,1132,1017cm-11H NMR(400MHz,CDCl3)δ0.88(br s,12H),1.11(br s,12H),1.53(br s,10H),1.74(br s,2H),3.73(s,4H),7.20(t,J=7.8Hz,1H),7.68(d,J=7.8Hz,2H);13C NMR(100MHz,CDCl)δ17.9,21.6,33.2,41.3,49.2,54.8,122.2,125.2,128.0,142.8;HRMS(FAB) calcd for C2644BrN2[M+H]+ 463.2688,found 463.2704.
【0056】
続いて、2-ブロモ-1,3-[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)メチル]ベンゼン(1.00mmol)のTHF(5mL)溶液にtert-ブチルリチウムの1.76M ペンタン溶液(1.7mL,3.0mmol)を-78℃にて滴下し、2.5時間撹拌した。反応溶液にホウ酸トリメチル(6.0mmol)を加え、室温に昇温した後、3時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮した後、残渣をクロロホルムに溶解し、水(2回)で洗浄した。クロロホルム層を1M 塩酸で抽出した後、水層に炭酸ナトリウムを加えることによりpHを約10とした。析出した固体をろ過により得た後、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル、溶離液:ヘキサンー酢酸エチル=3:1)で精製した。得られた生成物をアセトンと水の混合溶液に溶解し、50~60℃にて減圧濃縮することにより、ボロン酸化合物E(328mg,76%収率)を得た。この化合物のスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr) 3269,1459,1380,1133,1028cm-1H NMR(400MHz,CDOD-CDCl3)δ1.01(s,24H),1.50-1.58(m,8H),1.62(br s,4H),3.66(s,4H),7.23(t,J=7.3Hz,1H),7.63(d,J=7.3Hz,2H);13C NMR(100MHz,CDOD-CDCl3)δ17.5,41.0,47.4,54.4,124.0,127.1,146.2;HRMS(FAB) calcd for C2949BN22[M+C+ 469.3965,found 469.3982(この化合物の高分解能質量分析は、1,3-プロパンジオールとのエステルへと変換した後に測定した).
【0057】
[実施例45]
実施例22で触媒として使用したボロン酸化合物を、実施例44に準じて、2-ブロモ-1-(ブロモメチル)-3-メチルベンゼンから合成した。得られたボロン酸化合物のスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr) 3292,1594,1389,1369,1265,1166,1038cm-11H NMR(400MHz,CDCl3)δ1.09(d,J=6.9Hz,12H),2.58(s,3H),3.06(sept,J=6.9Hz,2H),3.75(s,2H),7.04(d,J=7.3Hz,1H),7.13(d,J=7.4Hz,1H),7.17(dd,J=7.3,7.4Hz,1H);13C NMR(125MHz,CDCl3)δ19.9,23.4,47.1,52.2,128.6,128.8,129.8,141.6,144.7;HRMS(FAB) calcd for C1729BO2[M+C35+ 290.2291,found 290.2301(この化合物の高分解能質量分析は、1,3-プロパンジオールとのエステルへと変換した後に測定した).
【0058】
[実施例46]
実施例26で触媒として使用したボロン酸化合物を、以下のようにして合成した。すなわち、ボロン酸化合物E(0.50mmol)、硝酸(0.82mL,19.5mmol)及び硫酸(1.07mL,20 mmol)の混合物を80℃にて10時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えることによりpHを約12とし、酢酸エチル(2回)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた組成生物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル,溶離液:ヘキサン:酢酸エチル 10:1→3:1)で精製し、目的とするボロン酸化合物(94mg,40%収率)を得た。得られたボロン酸化合物のスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr) 3512,1515,1461,1347,1261,1173,1132,1063,1027cm-11H NMR(400MHz,CD3OD-CDCl3)δ1.01(br s,24H),1.60(br s,12H),3.73(s,4H),8.46(s,2H);13C NMR(100MHz,CD3OD-CDCl3)δ17.7,41.1,47.1,55.0,119.4,148.9,149.6;HRMS(FAB) calcd for C2949BN34[M+C35+ 514.3816, found 514.3798(この化合物の高分解能質量分析は、1,3-プロパンジオールとのエステルへと変換した後に測定した).
【0059】
[実施例47]
実施例24で触媒として使用したボロン酸化合物を、実施例46のボロン酸化合物Eの代わりにボロン酸化合物Aを用いて合成した。得られたボロン酸化合物のスペクトルデータは以下の通り。IR(KBr)1519,1341,1174,1038cm-11H NMR(400MHz,CDCl3)δ1.11(d,J=6.9Hz,24H),3.03(sept,J=6.9Hz,4H),3.90(s,4H),8.06(s,2H);13C NMR(125MHz,CDCl3)δ20.0,47.4,52.1,125.2,145.1,147.5;HRMS(FAB) calcd for C2341BN34[M+C35+ 434.3190,found 434.3216(この化合物の高分解能質量分析は、1,3-プロパンジオールとのエステルへと変換した後に測定した).
【0060】
本出願は、2009年3月11日に出願された日本国特許出願第2009-058720号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、主に薬品化学産業に利用可能であり、例えば医薬品や農薬、化粧品の中間体のほか耐熱性ポリイミドの原料などとして利用される種々のカルボン酸無水物を製造する際に利用することができる。