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明細書 :過酸化水素の検出方法および装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5066765号 (P5066765)
登録日 平成24年8月24日(2012.8.24)
発行日 平成24年11月7日(2012.11.7)
発明の名称または考案の名称 過酸化水素の検出方法および装置
国際特許分類 G01N  27/68        (2006.01)
FI G01N 27/68 B
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願2010-550572 (P2010-550572)
出願日 平成22年2月10日(2010.2.10)
国際出願番号 PCT/JP2010/052392
国際公開番号 WO2010/093052
国際公開日 平成22年8月19日(2010.8.19)
優先権出願番号 2009032466
優先日 平成21年2月16日(2009.2.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月28日(2011.6.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】平岡 賢三
個別代理人の代理人 【識別番号】100080322、【弁理士】、【氏名又は名称】牛久 健司
【識別番号】100104651、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 正
【識別番号】100114786、【弁理士】、【氏名又は名称】高城 貞晶
審査官 【審査官】島田 英昭
参考文献・文献 Benjamin M.Messer,et al.,“computational and experimental studies of chemical ionization mass spectrometric detection techniq,International Journal of Mass Spectrometry,2000年 2月29日,Vol.197,p.219-235
藤井敏博,外2名,“H2O2H+の検出”,質量分析総合討論会講演要旨集,2001年,p.262-263
Christopher D.Cappa and Matthew J.Elrod,“A computational investigation of the electron affinity of CO3 and the thermodynamic feasibility of,Phys. Chem. Chem. Phys.,2001年,Vol.3, No.15,p.2986-2994
Thomas Reiner,et al.,“Improved atmospheric trace gas measurements with an aircraft-based tandem mass spectrometer: Ion i,J Geophys Res,1998年,Vol.103, No.D23,p.31309-31320
Diedrich Harms,et al.,“Selective determination of hydrogen peroxide by adduct formation with a dinuclear iron(III) comple,Analyst,2002年,Vol.127, No.11,p.1410-1412
調査した分野 G01N27/62-27/70
H01J49/00-49/48
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
酸素分子負イオンO2-を生成し,
生成した酸素分子負イオンO2-を,過酸化水素分子H22とのクラスタリング反応空間に供給し,
上記クラスタリング反応空間内のイオンを分析装置に導いて,酸素分子負イオンO2-と過酸化水素分子H22とのクラスタイオンO2-(H22)の少なくとも存在の有無を検出し,それによって過酸化水素の少なくとも存在の有無を検出する,
過酸化水素の検出方法。
【請求項2】
塩化物負イオンCl-を生成し,
生成した塩化物負イオンCl-を,過酸化水素分子H22とのクラスタリング反応空間に供給し,
上記クラスタリング反応空間内のイオンを分析装置に導いて,塩化物負イオンCl-と過酸化水素分子H22とのクラスタイオンCl-(H22)の少なくとも存在の有無を検出し,それによって過酸化水素の少なくとも存在の有無を検出する,
過酸化水素の検出方法。
【請求項3】
電子を生成し,生成した電子により空気中の酸素分子をイオン化して酸素分子負イオンO2-を生成する,請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
大気圧下または減圧下での放電により電子を生成する,請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
酸素分子負イオンO2-を生成する手段,
生成した酸素分子負イオンO2-を,過酸化水素分子H22とのクラスタリング反応空間に供給する手段,および
上記クラスタリング反応空間内のイオンが導入され,酸素分子負イオンO2-と過酸化水素分子H22とのクラスタイオンO2-(H22)の少なくとも存在の有無を検出し,それによって過酸化水素の少なくとも存在の有無を検出するための分析装置,
を備えた過酸化水素の検出装置。
【請求項6】
サンプルを上記クラスタリング反応空間に供給する手段をさらに備えた請求項5に記載の検出装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は過酸化水素の検出方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中に含有される過酸化水素または気体の過酸化水素の検出方法は既にいくつか提案されている。たとえば,次のような文献がある。
特開2004-85374号公報
H.Huang,P.K.Dasgupta“Renewable liquid film-based electrochemical sensor for gaseous hydroperoxides”Talanta 44(1997)605-615
しかしながら,気体状の過酸化水素イオンの質量分析を用いた高感度検出方法は全く提案されていない。それは親(正)イオンHイオンが殆ど生成されないからであり,生成されたとしても分解されやすく,また空気中の水蒸気によるシグナルに妨害され,検出が困難であるからである。
【発明の開示】
【0003】
この発明は過酸化水素を簡単な操作で検出できるようにすることを目的とする。
この発明はまた,過酸化水素を高感度に検出できるようにすることを目的とする。
この発明による過酸化水素の検出方法は,気相負イオンを生成し,生成した気相負イオンを,過酸化水素分子Hとのクラスタリング反応空間に供給し,上記クラスタリング反応空間内のイオンを分析装置に導いて,上記気相負イオンと過酸化水素分子Hとのクラスタイオンの少なくとも存在の有無を検出し,それによって過酸化水素の少なくとも存在の有無を検出するものである。
この発明による過酸化水素の検出装置は,気相負イオンを生成する手段,生成した気相負イオンを,過酸化水素分子Hとのクラスタリング反応空間に供給する手段,および上記クラスタリング反応空間内のイオンが導入され,気相負イオンと過酸化水素分子Hとのクラスタイオンの少なくとも存在の有無を検出し,それによって過酸化水素の少なくとも存在の有無を検出するための分析装置を備えているものである。必要に応じて,検出すべきサンプルを上記クラスタリング反応空間に供給する手段が設けられる。
一実施態様では,上記気相負イオンが酸素分子負イオンOであり,分析装置において酸素分子負イオンOと過酸化水素分子HとのクラスタイオンO(H)を検出する。
他の実施態様では,上記気相負イオンが塩化物イオンClであり,分析装置においてクラスタイオンCl(H)を検出する。
酸素分子負イオンO,塩化物イオンCl以外にも,過酸化水素分子Hとクラスタイオンを形成するものであれば,他の気相負イオンも使用することができる。
上記クラスタリング反応空間内に過酸化水素H蒸気があれば(または供給されていれば),気相負イオンと反応し,気相負イオンと過酸化水素分子Hとのクラスタイオンが形成される(生成する)。このようにして生成されたクラスタイオンは分析装置に導かれ,少なくともその存在(および分析装置によってはその相対量または絶対量)が検出される。これによって過酸化水素Hの存在と量の検出が可能となる。
気相負イオンの生成およびクラスタイオンの形成は大気圧下または減圧下で行なうことができる。
気相負イオンとして酸素分子イオンOを用いた場合について詳述すると,この発明による酸素分子負イオンOを用いた過酸化水素の検出方法は,酸素分子負イオンOを生成し,生成した酸素分子負イオンOを,過酸化水素分子Hを検出すべき空間(クラスタリング反応空間)に供給し,上記空間内のイオンを分析装置に導いて,酸素分子負イオンOと過酸化水素分子HとのクラスタイオンO(H)の少なくとも存在の有無を検出し,これによって過酸化水素の少なくとも存在の有無を検出するものである。
この発明による酸素分子負イオンOを用いた過酸化水素の検出装置は,酸素分子負イオンOを生成する手段,生成した酸素分子負イオンOを,過酸化水素分子Hを検出すべき空間(クラスタリング反応空間)に供給する手段,および上記空間内のイオンが導入され,酸素分子負イオンOと過酸化水素分子HとのクラスタイオンO(H)の少なくとも存在の有無を検出し,それによって過酸化水素の少なくとも存在の有無を検出するための分析装置を備えているものである。
上記クラスタリング反応空間内に過酸化水素H蒸気があれば(または供給されていれば),酸素分子負イオンOイオンと反応し,酸素分子負イオンOと過酸化水素分子HとのクラスタイオンO(H)が形成される(生成する)。このようにして生成されたクラスタイオンO(H)は分析装置に導かれ,少なくともその存在(および分析装置によってはその相対量または絶対量)が検出される。これによって過酸化水素Hの存在と量の検出が可能となる。
酸素分子負イオンの生成,上記クラスタイオンの生成は大気中でも可能であるから,たとえば生成したクラスタイオンを大気中からイオンサンプリングオリフィスを介して真空に導入して,質量分析計(またはイオンドリフト管の検出器)にて検出することができる。
反応イオンとして,予め負イオンOを生成しておき,このイオンとH分子を結合させてクラスタイオンとして検出するので,極めて穏やかなイオン化法であり,フラグメントイオンが発生しない。また,水蒸気が混在してもイオン検出に殆ど影響されない。これは,O(H)の結合エネルギーがO(HO)に比べてずっと大きいので,Hが存在する条件下では,O(HO)が殆ど発生しないからである。
酸素分子負イオンの生成は,たとえば電子の生成により行うことができる。すなわち,電子を生成し,生成した電子により空気中の酸素分子をイオン化して酸素分子負イオンOを生成する。他の気相負イオンも電子との結合により生成することができる。
大気圧下または減圧下(数Torr以上)での放電により電子を生成することができる。放電は,バリヤー放電,大気圧直流放電,高周波放電,マイクロ波放電などを利用できる。放電ガスは,希ガス,酸素,空気,窒素など種類を問わない。
真空中(減圧下)での放電を利用する場合には,高周波放電(MHzオーダー),マイクロ波放電(GHzオーダー)等も用いることができる。放射性同位元素からの電子放出を利用してもよい。いずれにもしても,生成した電子を酸素分子に付着させて,酸素分子負イオンO,その他の気相負イオンを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
第1図はこの発明の実施例の構成を示す。
第2A図~第2C図は第1図に示す実施例の実測値の一例を示すグラフで,第2A図は全イオンの強度の時間的変化を,第2B図はO(H)の強度の時間的変化を,第2C図はCl(H)の強度の時間的変化をそれぞれ示す。
第3A図~第3D図は第2A図~第2C図に示すグラフの各部分(I)~(IV)におけるマススペクトルを示すもので,第3A図(I)は過酸化水素をやや離して供給した場合,第3B図(II)は過酸化水素を近づけて供給した場合,第3C図(III)は過酸化水素と四塩化炭素蒸気を供給した場合,第3D図(IV)は過酸化水素と四塩化炭素蒸気の供給を止めた場合をそれぞれ示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
第1図は酸素分子負イオンを利用した過酸化水素の検出に関する実施例であり,電子の生成,したがって酸素分子負イオンの生成にバリヤー放電を利用している。
質量分析計20のイオンサンプリングオリフィス21(小さな孔を有する)に接近させて(たとえば数mmないし数cm程度離して),大気中に,バリヤー放電管10をその先端をオリフィスに対向させて配置する。バリヤー放電管10内にはその基端部から放電ガスとしてヘリウム(He)ガスを流す。バリヤー放電管10の先端はやや狭まっている。質量分析計20内は高真空である。したがって,バリヤー放電管10の先端からオリフィス21に向って流体の流れが形成される。この流れの部分を放電管下流部とする。放電管上流部は放電管10内である。
バリヤー放電管10は誘電体(たとえばガラス)であり,その外周面に外側電極11が設けられている。外側電極11には後述する内側電極12との間に交流の高電圧が印加される。バリヤー放電管10の内部に内側電極12が配置され,接地される。これらの電極10と12の間にバリヤー放電が生じる。放電管10にヘリウムガスを流すことにより,放電管10の先端の外部において(放電管下流部),高いエネルギーを持つ準安定励起種Heが形成され,これによって大気成分ガス(N,Oなど)が励起イオン化され,電子が放出される。生成された電子が酸素分子Oに付着して,酸素分子負イオンOが生成される。
他方,サンプル供給管(たとえばガラス製)30の内部に過酸化水素水で湿らせた綿(サンプルS)が置かれ,この供給管30にその基部からキャリアガス(たとばNガス)が供給される。供給管30の先端は開口し,放電管下流部にのぞんでいるので放電管下流部に過酸化水素が供給される。この放電管下流部がクラスタリング反応空間である。
わざわざキャリアガスを流さなくても,放電管下流部(クラスタリング反応空間)に過酸化水素を含む容器を近づければ,蒸気成分である過酸化水素Hが放電管下流部に供給される。酸素分子負Oイオンが過酸化水素Hと強い結合を形成し,酸素分子負イオンと過酸化水素のクラスタイオンO(H)が生成する。このクラスタイオンはオリフィス21から質量分析計20内に導かれ,質量分析計20で検出される。
なお,反応イオンとして,Oイオンを放電管下流部に生成すればよいので,放電ガスとしては,希ガスはもとより,窒素,酸素,空気等を使用できる。上述したように供給管30やNガスの供給は必ずしも必要ではない。また,放電管下流部にニードル電極40が設けられている。これはバリヤー放電プラズマ由来の邪魔になるイオン(バックグラウンドとなるイオン)を除去するためのもので,除去したいイオンの正負に応じた正,負の直流高電圧が印加される。このニードル電極40も必ずしも必要ではない。また,バリヤー放電管10の先端は狭まっている必要は必ずしもなく,内部電極12も図示のようにコイル状でなく,直線状でもよいなど,種々の変形例がある。
クラスタイオンO(H)の生成は,静電相互作用からなるクラスタイオン形成反応であるので分解しやすいHを解離させることなくOとの付加イオンとして(質量分析計20において質量電荷比m/z値66として)(第3A図(I),第3B図(II)のm/z=65.99)検出できる。
+H=O(H
クラスタイオンのコアイオンとしてのOは,大気中の酸素から容易に生成されるので,放電に特殊な工夫をこらすことなく,容易にHを検出できる。
もし,クラスタイオンO(H)のm/z 66に不純物イオン(バックグラウンド)シグナルが存在したとしても,イオンシグナルO(H)が極めて強く現れるので,誤報の可能性はほとんどない。この点がこの発明の優れている点である。
m/z 66に現れるO(H)イオンが確実にOとHのクラスタイオンであることを確認する方法として,放電管下流部に塩化物イオンClを生成させる方法がある。たとえば,放電管下流部に四塩化炭素ガスCClをわずかに供給すると,放電で生成した電子(熱電子)が四塩化炭素と反応して,塩化物イオンClを生成する。
CCl+e(電子)=Cl+CCl
このようにして生成した塩化物イオンClと過酸化水素分子がクラスタイオンCl(H)を生成する。このイオンの質量電荷比m/z値は,69と71(第3C図(III)のm/z=68.96,70.96)に現れるので,容易に付加分子がHであることが確認できる。このことはまた,塩化物イオンClを用いて過酸化水素分子とのクラスタイオンを形成することにより過酸化水素の検出が可能であることを示している。
第2A図~第2C図に,第1図に示す装置を用いて得られた実測値例を示す。第2A図は全イオン電流の変化を,第2B図はO(H)イオン強度の変化を,第2C図はCl(H)のイオン強度の変化をそれぞれ示す。Iで示す部分は放電管下流部の中心から側方に2cm離れた位置に過酸化水素水で湿らせた綿棒を近づけた場合のものである。IIの部分は,放電管下流部に綿棒をかなり近づけた場合,IIIは,IIの状態を保ちつつ,放電管下流部に四塩化炭素で湿らせた綿棒を近づけた場合,IVは過酸化水素と四塩化炭素の供給を止めた場合をそれぞれ示す。負イオンモード測定において,主生成イオンとして,O(H)が生成すること,また四塩化炭素CClの供給により,O(H)イオンがCl(H)に転化することが分かる。
第3A図~第3D図に上記のI,II,III,IVの場合において実際に測定されたマススペクトルを示す。第3A図(I)は30%H水溶液を含んだ綿棒を放電管下流部の側方2cmに近づけた場合のマススペクトルである。大気成分由来のO,NOイオンとともに,クラスタイオンO(H)が観測されている。第3B図(II)は,放電管下流部に綿棒をかなり近づけた場合のマススペクトルである。Oイオンのほとんどが消失してHとのクラスタイオンであるO(H)に転化し,これが最強イオンとして観測されている。第3C図(III)は,第3B図(II)の状態において,放電管下流部に四塩化炭素蒸気を供給した場合である。O(H)の大部分がCl(H)に転化したことが分かる。この場合においては,Cl(H)が最強イオンとして観測されている。このように,放電を用いてOイオンまたはClイオンを生成し,負イオンモードで,O(H)またはCl(H)を生成することで,高感度で過酸化水素が検出できることが分かる。第3D図(IV)は,過酸化水素と四塩化炭素蒸気の供給を止めた場合のものである。
過酸化水素は過酸化物爆発物の出発原料であり,その検出法の確立が緊急の課題となっている。この発明によると,過酸化水素液体容器の存在を高感度に検出できる。過酸化水素分子は非常に吸着性が強く,この発明によると過酸化水素溶液の容器の蓋に吸着した微量成分でも検出可能であり,過酸化水素液体容器の蓋を開けなくても検出可能な場合がある。容器を質量分析計に近づけるのみで,O(H)イオンが観測されるので,この発明による方法は,簡易型質量分析計のみならず,現在実用化されているイオンドリフト管を用いるイオン源にも適用可能である。この発明による方法は,大気中の水蒸気等の存在に全く影響されずに,選択的にHのみを検出できる高感度な検出方法である。
過酸化水素の検出は酸素分子イオンOのみならず,上述したように塩化物イオンCl,その他の気相負イオンを用いて検出することができる。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図2C】
3
【図3A】
4
【図3B】
5
【図3C】
6
【図3D】
7