TOP > 国内特許検索 > エビ類幼生の人工飼育方法 > 明細書

明細書 :エビ類幼生の人工飼育方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5150809号 (P5150809)
登録日 平成24年12月14日(2012.12.14)
発行日 平成25年2月27日(2013.2.27)
発明の名称または考案の名称 エビ類幼生の人工飼育方法
国際特許分類 A01K  61/00        (2006.01)
A01K  63/06        (2006.01)
FI A01K 61/00 J
A01K 63/06 C
請求項の数または発明の数 4
全頁数 6
出願番号 特願2009-539013 (P2009-539013)
出願日 平成20年10月20日(2008.10.20)
国際出願番号 PCT/JP2008/068954
国際公開番号 WO2009/057472
国際公開日 平成21年5月7日(2009.5.7)
優先権出願番号 2007285222
優先日 平成19年11月1日(2007.11.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年10月20日(2011.10.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
発明者または考案者 【氏名】田中 祐志
【氏名】大関 芳沖
個別代理人の代理人 【識別番号】110001151、【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
審査官 【審査官】木村 隆一
参考文献・文献 特開平03-091429(JP,A)
特許第2525609(JP,B2)
橘高二郎,“クラゲの初期餌料としての有効利用 Jellyfish as food organisms to culture phyllosoma larva”,日本プランクトン学会報,2005年,第52巻,第2号,p.91-99
調査した分野 A01K 61/00-63/06
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
イセエビ科、セミエビ科に属するエビ類の幼生をクラゲに向かって誘導して寄生させ、クラゲに付着した状態で前記幼生を育成する、エビ類幼生の人工飼育方法。
【請求項2】
一定期間経過する毎に、前記エビ類幼生が付着したクラゲを、前記幼生の成長段階に応じて適切な大きさを持ち、且つ、活力のある新たなクラゲに交換する、請求項1に記載したエビ類幼生の人工飼育方法。
【請求項3】
白色光を照射して前記エビ類幼生をクラゲに向かって誘導する、請求項1に記載したエビ類幼生の人工飼育方法。
【請求項4】
前記エビ類の幼生がフィロゾーマ幼生である、請求項1に記載したエビ類幼生の人工飼育方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イセエビ科、セミエビ科に属するエビ類幼生の人工飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エビ類は、卵から孵化した後は、幼生として一定期間を送る。
例えば、イセエビ類は、フィロゾーマ幼生として約1年間を過ごし、その後プエルスス・ニスト幼生に変態して、さらに稚エビへと変態する。
ところで、エビ類は比較的高価であり、需要も多く、重要な水産資源であるため、大量の種苗を安定して生産する技術に対するニーズは高い。
しかし、フィロゾーマ幼生を人工的に育成飼育することは困難であり、現在、水産試験研究分野において、小規模の水槽で数個体単位での飼育が行われているにすぎない。
【0003】
フィロゾーマ幼生の人工飼育が困難である原因としては、(ア)適当な餌料が少ないこと、(イ)幼生が沈降しやすく、水槽底の糞や残餌に起因する微生物汚染を受けやすいこと、(ウ)特異な形態であるため、個体干渉による欠損を受けやすいことがあげられる。
従来、イセエビ類のフィロゾーマ幼生に、第1期にはアルテミアノープリウスを与え、第2期以降にはアルテミアノープリウスとイガイの肉片、特にムラサキイガイの生殖腺を与えるイセエビ類幼生の飼育方法が知られている(特許第2525609号公報、及び、松田浩一,「イセエビ属幼生の生理生態に基づく飼育技術開発」,日本水産学会誌,社団法人日本水産学会,平成18年,第72巻,第5号,p.827~830参照)。
しかし、新鮮なムラサキイガイの生殖腺を大量、且つ、定期的に確保するのは難しく、大量の幼生を人工飼育する場合に、この方法を採用するのは現実的でない。
【0004】
また、幼生が沈降するのを防ぐために、甲殻類の幼生を緩速回転する水槽内で飼育する方法が公知である(特開2002-262702号公報、及び、特許第3955947号公報参照)。
しかし、これらの方法には、複雑で高価な装置が必要なので、飼育コストが高くつくという欠点がある。
さらに、個体どうしが干渉しあうことの無いように、個体間の距離を一定以上に保つ技術はいまだ開発されてない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、エビ類幼生に適した餌料を与えることができ、幼生が水槽底に沈降するのを防ぎ、個体間の干渉による損傷を防止して、幼生を簡単に高密度で飼育できるエビ類幼生の人工飼育方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
自然界では、イセエビ科、セミエビ科に属するエビ類のフィロゾーマ幼生がクラゲ類の傘の上に、通常は1対1で乗った状態で発見されることがあり、フィロゾーマ幼生がクラゲに寄生していることが見られる。
また、2005年度日本水産学会大会講演要旨集(2005年4月1日、独立行政法人 水産総合研究センター 中央水産研究所発行)により、イセエビのフィロゾーマ幼生の消化器官内容物にクラゲが含まれていることが報告されている。
これらのことから、フィロゾーマ幼生とクラゲ類との間には、捕食-被食関係を含む共生関係が存在すると考えられる。
【0007】
本出願人は、このことに着目し、エビ類幼生を高密度で人工飼育する方法を見出した。
本発明のエビ類幼生の人工飼育方法は、イセエビ科、セミエビ科に属するエビ類の幼生をクラゲに向かって誘導して寄生させ、クラゲに付着した状態で前記幼生を育成する。
一定期間経過する毎に、前記エビ類幼生が付着したクラゲを、前期幼生の成長段階に応じて適切な大きさを持ち、且つ、活力のある新たなクラゲに交換すると良い。
白色光を照射して前記エビ類幼生をクラゲに向かって誘導すると良い。
前記エビ類の幼生がフィロゾーマ幼生であっても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、宿主であるクラゲは浮遊性であり、個々のクラゲは干渉しあわないよう一定の距離をおいて浮遊するので、クラゲに寄生した幼生は、クラゲを餌としながら、飼育槽の底に沈降することなく、個体同士が一定の距離を保ったままクラゲと共に浮遊し、このため、幼生に給餌する必要も無く、幼生が微生物に感染したり、個体同士が接触して損傷するのを防止でき、高い生存率で大量のエビ類幼生を人工飼育することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】共生化したフィロゾーマ幼生及びミズクラゲを上方から見た図である。
【図2】共生化したフィロゾーマ幼生及びミズクラゲを斜め上方から見た図である。
【図3】本発明の実施例に係る飼育装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実験例)
伊豆大瀬崎沿岸で、ミズクラゲに寄生しているフィロゾーマ幼生を採取した。図1及び図2に示すように、フィロゾーマ幼生は、付属肢先端を突き刺すようにしてミズクラゲの傘にしがみついていた。
採取したフィロゾーマ幼生及びミズクラゲを、内径30cm、高さ80cmの円筒形の透明アクリル製共生飼育槽内に入れた。共生飼育槽は、塩分34.5の濾過海水で満たし、水温を20℃に保った。

【0012】
天然水域でフィロゾーマ幼生とともに採取されたミズクラゲは、活性を保ちつつも徐々に劣化していった。そこで、劣化したミズクラゲから新鮮なミズクラゲに乗り換えさせることを試みた。
メタルハライドコールドライトから光ファイバーで白色光を導き、共生飼育槽の上面から下向きに光束を透過させたところ、クラゲに乗ったフィロゾーマ幼生はクラゲを掴んだまま照射源に向って緩速上昇した。
フィロゾーマ幼生が水面付近に達した頃、新しいミズクラゲをクラゲ培養槽から共生飼育槽の上層に静かに転送したところ、フィロゾーマ幼生は、劣化したミズクラゲから自発的に離脱し、新鮮なミズクラゲに乗り換えた。
フィロゾーマ幼生に捨てられた劣化したミズクラゲは、共生飼育槽中を次第に沈降し底面に達したので、サイホンによって除去した。

【0013】
ミズクラゲは、東京湾から新鮮な個体を常時採取し、クラゲ飼育槽に新鮮な個体を随時備蓄した。そして、フィロゾーマ幼生を3日~7日毎に新鮮なミズクラゲに乗り換えさせた。
この結果、ミズクラゲに共生したフィロゾーマ幼生は、ミズクラゲだけをついばみ摂食しながら、3週間後に脱皮変態し、いわゆるガラスエビ(ニスト幼生)として着底した。
また、このフィロゾーマ幼生は、オオバウチワエビ(Ibacus novemdentatus)と同定された。

【0014】
なお、産業的に大量のフィロゾーマ幼生及びクラゲを飼育する場合には、まず、孵化直後のフィロゾーマ幼生を、海水が緩速対流するクラゲ培養槽に静かに挿入し、フィロゾーマ幼生がクラゲに搭乗するのを待つ。この作業では、クラゲの個体数と同程度の数の幼生を挿入する。
フィロゾーマ幼生に搭乗されたクラゲの劣化、或いは、幼生の脱皮成長に伴って、幼生を、その成長段階に応じた適切な大きさを持ち、且つ、活力のある新たなクラゲを乗り換えさせる必要があるので、共生化したフィロゾーマ幼生及びクラゲの飼育には、図3に示すような飼育装置を用いる。

【0015】
この飼育装置は、共生飼育槽1と、これに並列して設置したクラゲ飼育槽2とを備える。共生飼育槽1及びクラゲ飼育槽2の上層部は、内径80mm程度の第1パイプ3と第2パイプ4とで連結してある。また、第1パイプ3には開閉バルブ7を設け、第2パイプ4にはポンプ8を設けてある。
さらに、共生飼育槽1の上部において第1パイプ3との接続部分の近傍へ、メタルハライドコールドライト5等の光源から光ファイバー6で白色光を導き、水面から下に向けて光束を照射できるようになっている。

【0016】
クラゲに搭乗したフィロゾーマ幼生を共生飼育槽1に入れ、これよりやや大きいクラゲをクラゲ飼育槽2に入れておく。
次いで、開閉バルブ7を閉じた状態でポンプ8を運転し、共生飼育槽1の海水を第2パイプ4を通してクラゲ飼育槽2へ送り、共生飼育槽1の水位をクラゲ飼育槽2の水位よりも下げる。
ここで第1パイプ3の開閉バルブ7を開けると、クラゲ飼育槽2から共生飼育槽1へ、第1パイプ3を通して海水と共に新鮮なクラゲを1個体ずつ送ることができる。

【0017】
この時、光ファイバー6により共生飼育槽1へ白色光を照射すると、フィロゾーマ幼生は正の走光性を有するので、照射される白色光に誘導されて、フィロゾーマ幼生が第1パイプ3からの海水流入口へ接近する。
これにより、フィロゾーマ幼生が劣化したクラゲから新鮮なクラゲへ乗り換えるのを促進することができる。
幼生に寄生され劣化した古いクラゲは共生飼育槽1の底面に沈降してしまうので、サイホンにより吸い取って、共生飼育槽1から除去する。

【0018】
イセエビの場合、フィロゾーマ孵化幼生の大きさは1.5mm程度であり、30mm前後まで成長する。ミズクラゲの傘径は5~50mm程度である。ミズクラゲは、通常、海水1リットル当たり50個体(傘径5mm)~5個体(傘径50mm)の密度で飼育できるので、フィロゾーマ幼生も海水1リットル当たり5~50個体の高密度で飼育できることになる。
また、フィロゾーマ幼生は、エビ類の種類によって多少の差があるが、少なくとも1ヶ月に1回程度は新しいクラゲに乗り換えさせる必要がある。

【0019】
なお、クモガニ科、イチョウガニ科に属するカニ類の幼生も、クラゲと共生関係にあるので、エビ類幼生と同じ飼育装置を用い、同様な飼育方法によって人工飼育できると考えられる。
また、クラゲに給餌することにより、クラゲの活力を維持しながら飼育することもできる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2