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明細書 :光学顕微鏡

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5598929号 (P5598929)
登録日 平成26年8月22日(2014.8.22)
発行日 平成26年10月1日(2014.10.1)
発明の名称または考案の名称 光学顕微鏡
国際特許分類 G01Q  60/18        (2010.01)
FI G01Q 60/18
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2011-506157 (P2011-506157)
出願日 平成22年3月26日(2010.3.26)
国際出願番号 PCT/JP2010/055450
国際公開番号 WO2010/110452
国際公開日 平成22年9月30日(2010.9.30)
優先権出願番号 2009076543
優先日 平成21年3月26日(2009.3.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年3月19日(2013.3.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
発明者または考案者 【氏名】宮川 厚夫
【氏名】川田 善正
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】阿部 知
参考文献・文献 特開2004-279174(JP,A)
特開2007-240981(JP,A)
川田善正,ナノスケールの分解能をもつ光学顕微鏡,静岡大学との連携による新技術説明会,2008年 6月 6日
調査した分野 G01Q 10/00-90/00
特許請求の範囲 【請求項1】
容器内に設けられ、電子ビーム又は電磁波を発生する電子ビーム又は電磁波発生部と、
前記容器の隔壁の一部を形成する蛍光薄膜であって、基板と、前記基板の表面に共有結合により結合された蛍光物質を含み且つ可視光の波長未満の膜厚を有する蛍光層と、を含む蛍光薄膜と、
前記電子ビーム又は電磁波発生部で発生した電子ビーム又は電磁波を制御して前記蛍光薄膜に照射し、前記蛍光薄膜に可視光の波長未満の大きさの微小光源を励起させる電子ビーム又は電磁波制御部と、
前記微小光源で発生して前記蛍光薄膜上に載せ置かれた測定対象物に作用した測定光を検出する光検出部と、
を含む光学顕微鏡。
【請求項2】
前記蛍光物質は、量子ドットである、
請求項1に記載の光学顕微鏡。
【請求項3】
前記蛍光薄膜の蛍光層は、単層又は数層の前記蛍光物質の層からなる、
請求項1又は請求項2に記載の光学顕微鏡。
【請求項4】
前記蛍光薄膜の蛍光層の上に、更に第1の金属蒸着層を有する、
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の光学顕微鏡。
【請求項5】
前記蛍光薄膜の基板は、ガラス基板、酸化シリコン基板又は窒化シリコン基板である、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の光学顕微鏡。
【請求項6】
前記蛍光薄膜は、
前記基板の表面に、更に第2の金属蒸着層を有し、
前記第2の金属蒸着層の上に、前記蛍光層を有する、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の光学顕微鏡。
【請求項7】
前記蛍光物質は、電子ビーム又は波長200nm以下の電磁波により励起可能である、
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の光学顕微鏡。
【請求項8】
前記量子ドットは、PEGで覆われており、PEGに結合された官能基を介して前記基板の表面に共有結合により結合されている、
請求項2から請求項7までのいずれか1項に記載の光学顕微鏡。
【請求項9】
前記蛍光薄膜は、前記蛍光層が前記基板に対し前記測定対象物を載せ置く側に形成された、
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の光学顕微鏡。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡は、生きた生物試料をそのまま観察できるため、生命現象の解明において、非常に有効なツールとして用いられている。様々な機能を有する蛍光プローブが開発され、位相差光学系、共焦点光学系、全反射蛍光観察法など様々な光学系を利用することによって、細胞機能の解明、単一分子の観察などが実現されてきた。光を用いた生体試料の観察については、これまでの長い歴史によって、多くの実績と技術の蓄積がある。
【0003】
生命現象の解明におけるターゲットの一つとして、細胞やたんぱく質など最小構成要素一つの機能解明ではなく、複数の構成要素における相互作用、情報伝達のメカニズム、エネルギー伝達のメカニズム、細胞内の情報分子のダイナミクスなどを明らかにすることが期待されている。生体の器官、臓器などの働きは、生体の最小構成要素である細胞間の相互作用によって決定されるものである。従って、器官・臓器の詳細なメカニズムの解明には、細胞間の相互作用を明らかにすることが必要である。また、実時間観察を行うことによって、複数の生体分子のダイナミクスを理解することが必要である。
【0004】
一方、光学顕微鏡の空間分解能は、光の波としての性質により制限され、たかだかサブミクロン程度の分解能しか実現できない。従って、複数の分子間または微小器官の間における相互作用、情報の伝達機構を解明するには、より高い空間分解能を有する光学顕微鏡を開発することが必要である。
【0005】
光の回折限界を超えた微小領域を光学的に観察する顕微鏡として、近接場(ニアフィールド)顕微鏡が知られている。図4に近接場顕微鏡の光学的観察の原理を示す。図4に示すように、金属で遮蔽されたプローブの先端部にレーザ光が導入される。プローブの先端部には数nm~数10nmの開口部が形成されている。前記開口部は光の波長に比べて非常に小さいので、プローブ先端部に導入されたレーザ光は前記開口部を通過できない。しかしながら、いわゆる近接場(ニアフィールド)効果によりレーザ光の一部が開口部から外部にしみ出す(エバネッセント波)。近接場顕微鏡では、このプローブ先端からしみ出した近接場光と測定対象物との相互作用が観察される。
【0006】
この近接場顕微鏡を用いれば、光の波長未満の微小領域を観察することができる。しかしながら、近接場顕微鏡では、プローブの先端を測定対象物に近接させて観察する必要がある。図5に示すように、プローブを走査して測定対象物を観察するので、2次元の像を観察するのに非常に時間が掛かる。生体のダイナミクスを観察するためには、実時間観察が必要である。しかしながら、従来型の近接場顕微鏡では、上記の理由により実時間観察は不可能である。
【0007】
本発明に関連する先行技術として、以下の技術がある。
特表2003-524779号公報(特許文献1)には、近接場光を用いた近接場顕微鏡において、複数のナノスケールの孔から光を照射して、近接場を生成する技術が記載されている。また、光を電子ビームにより励起することが示唆されている。この近接場顕微鏡では、微小光源はナノスケールの孔により生成されている。
【0008】
特開2006-308475号公報(特許文献2)には、生体試料に光を照射して、発生した近接場光を光電変換膜により電子線に変換し、電子線を検出する近接場顕微鏡が記載されている。特許文献2では、近接場光を検出しているものの、光源自体は平行光である。
【0009】
特開2004-111333号公報(特許文献3)には、100nm以下の膜厚の蛍光薄膜が記載されている。しかしながら、この蛍光薄膜は、電界放射型ディスプレイ用に開発されたものである。光学顕微鏡のように、試料を載置することや、電子ビーム又は電磁波で走査されることは想定されていない。また、結晶成長により蛍光層を形成しているため、蛍光物質は結晶化が可能な物質に限定される。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特表2003-524779号公報
【特許文献2】特開2006-308475号公報
【特許文献3】特開2004-111333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した通り、従来の光学顕微鏡では光の回折限界により分解能に限界があった。一方、光の回折限界を超えて光学的な観察を行う顕微鏡として近接場顕微鏡があるが、プローブを観察対象部に近接させて走査させる必要があり、像を形成するのに時間が掛かる、という問題があった。また、ディスプレイ用の蛍光薄膜はいくつか知られているが、光学顕微鏡のように、試料を載置することや、電子ビーム又は電磁波で走査されることは想定されていない。
【0012】
本発明では、数nmから数10nmの蛍光層を形成することが可能で、電子ビーム又は電磁波の照射により可視光の波長未満の大きさの微小光源を励起することができ、蛍光物質が剥がれ落ち難い蛍光薄膜を用いる。
【0013】
本発明の目的は、上記の蛍光薄膜に励起される微小光源により得られる近接場効果を利用して、上記蛍光薄膜上に載せ置かれた測定対象物に関し、光の回折限界を超えた分解能の近接場情報を高速で取得可能な光学顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明で用いる蛍光薄膜は、電子ビーム又は電磁波の照射により可視光の波長未満の大きさの微小光源が励起される蛍光薄膜であって、基板と、前記基板の表面に共有結合により結合された蛍光物質を含み且つ可視光の波長未満の膜厚を有する蛍光層と、を含む。
【0015】
上記の蛍光薄膜の製造方法は、蛍光物質に、第1官能基を導入するステップと、基板に、前記第1官能基と共有結合を形成する第2官能基を導入するステップと、前記蛍光物質に導入された前記第1官能基と前記基板に導入された前記第2官能基との反応により、前記基板の表面に共有結合により蛍光物質を結合するステップと、を含む。
【0016】
上記の蛍光薄膜を用いた微小光源励起装置は、基板と、前記基板の表面に共有結合により結合された蛍光物質を含み且つ可視光の波長未満の膜厚を有する蛍光層と、を含む蛍光薄膜と、電子ビーム又は電磁波を発生する電子ビーム又は電磁波発生部と、前記電子ビーム又は電磁波発生部で発生した電子ビーム又は電磁波を制御して前記蛍光薄膜に照射し、前記蛍光薄膜に可視光の波長未満の大きさの微小光源を励起させる電子ビーム又は電磁波制御部と、を含む。
【0017】
本発明の光学顕微鏡は、容器内に設けられ、電子ビーム又は電磁波を発生する電子ビーム又は電磁波発生部と、前記容器の隔壁の一部を形成する蛍光薄膜であって、基板と、前記基板の表面に共有結合により結合された蛍光物質を含み且つ可視光の波長未満の膜厚を有する蛍光層と、を含む蛍光薄膜と、前記電子ビーム又は電磁波発生部で発生した電子ビーム又は電磁波を制御して前記蛍光薄膜に照射し、前記蛍光薄膜に可視光の波長未満の大きさの微小光源を励起させる電子ビーム又は電磁波制御部と、前記微小光源で発生して前記蛍光薄膜上に載せ置かれた測定対象物に作用した測定光を検出する光検出部と、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明で用いる蛍光薄膜は、基板と蛍光物質とを共有結合することで、単層又は数層の蛍光物質の層を形成して数nmから数10nmの蛍光層を形成することが可能で、電子ビーム又は電磁波の照射により可視光の波長未満の大きさの微小光源を励起することができる。また、基板と蛍光物質とを共有結合することで、蛍光物質が剥がれ落ち難くなる。
【0019】
本発明で用いる蛍光薄膜は、蛍光薄膜に励起される微小光源によれば近接場効果が得られるので、光学顕微鏡等の種々の用途に利用することが可能である。本発明の光学顕微鏡は、上記の蛍光薄膜を用いることにより、上記蛍光薄膜上に載せ置かれた測定対象物に関し、光の回折限界を超えた分解能の近接場情報を高速で取得することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る蛍光薄膜の構成の一例を示す模式図である。
【図2】基板と蛍光物質とが共有結合で結合される様子を示す模式図である。
【図3】実施例で形成された蛍光薄膜のAFM像を示す図である。
【図4】近接場顕微鏡の構成と光学的観察の原理を示す概略図である。
【図5】従来の近接場顕微鏡の原理を説明するための概略図である。
【図6】従来の近接場顕微鏡の走査方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。

【0022】
<実施形態1(蛍光薄膜)>
まず、本発明の実施の形態に係る蛍光薄膜について説明する。図1は本発明の実施形態に係る蛍光薄膜の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、蛍光薄膜13は、基板40、蛍光物質42を含む蛍光層44、及び金属蒸着層46を含んで構成されている。基板40上に複数の蛍光物質42が配置されて、蛍光層44が形成されている。金属蒸着層46は、複数の蛍光物質42を覆うように蛍光層44上に形成されている。基板40には、反応性の官能基48が導入されている。また、後述する通り、蛍光物質42には、官能基48と共有結合を形成する官能基が導入されている。なお、金属蒸着層46は、適宜省略することができる。

【0023】
本実施の形態では、蛍光物質42として「量子ドット」が用いられている。また、基板40として「ガラス基板」が用いられている。基板40には、官能基48として「活性化アミノ基」が導入されている。また、蛍光物質42には、活性化アミノ基と「ペプチド結合」を形成する官能基が導入されている。各々の官能基は、メチレン基(-(CH2)n-)やポリエチレングリコール(略称PEG、H-(CH2CH2O)n-)等、適当なスペーサ基を介して導入することができる。基板(ガラス基板)40上には、これら官能基の共有結合(ペプチド結合/-C(=O)NH-)を介して、蛍光物質(量子ドット)42が配置されている。また、金属蒸着層46として「Au(金)」を蒸着した層が形成されている。

【0024】
図2は基板と蛍光物質とが共有結合で結合される様子を示す模式図である。図2に示すように、ガラス基板(Glass Substrate)上には、メチレン基を介して活性化アミノ基(-NH2)が導入されている。また、量子ドット(Quantum Dot/Qドット)には、PEGを介してカルボキシル基(-COOH)が導入されている。即ち、量子ドットは、表面吸着化合物(Surface & Attachment Chemistry)であるPEGで覆われており、PEGに結合された生体活性分子(Bioactive Molecule)がカルボキシル基(-COOH)を有している。ガラス基板の活性化アミノ基(-NH2)と、量子ドットのカルボキシル基(-COOH)とが反応して、ペプチド結合(-C(=O)NH-)により量子ドットがガラス基板に結合される。

【0025】
図1に示す構成の蛍光薄膜13は、基板40と蛍光物質42との結合に共有結合を用いているため、単層または数層の蛍光物質42の層を形成できる。そのため、数nmから数10nmの蛍光層44を形成することができ、例えば細く絞った電子ビーム又は電磁波を用いて励起すれば、可視光の波長に比べて非常に小さな光源を形成することができる。波長よりも小さな光源は近接場効果を起こすので、さまざまな用途に利用することが可能である。また、基板40と蛍光物質42との結合に共有結合を用いているため、水や接触などに対して強く、蛍光層44の上に生体などの測定対象物を載置しても、蛍光物質42が剥がれ落ちることが少ない。

【0026】
基板40としては、これらに限定される訳ではないが、ガラス基板、酸化シリコン基板、窒化シリコン基板などを用いることができる。なお、直接、蛍光物質42とのペフチド結合を形成できる点で、ガラス基板、酸化シリコン基板がより好ましい。窒化シリコン基板を用いる場合には、表面酸化を行う、酸化シリコンや金などを数nm程度に蒸着やスパッタする等してから、蛍光物質42とのペフチド結合を形成する。また、基板40の厚さは、電子線ビームへの影響が少ないため特に限定されない。例えば、電子線ビームの加速電圧にもよるが、100nm程度の膜厚としてもよい。

【0027】
蛍光層44は、単層または数層の蛍光物質42の層からなることが好ましい。蛍光物質42を、共有結合により単層または数層に形成することにより、数nm~数10nmの蛍光層44を形成することができる。

【0028】
蛍光物質42としては、用途に応じて、電子ビームまたは波長200nm以下の電磁波により励起される物質を用いる。蛍光物質42としては、これらに限定される訳ではないが、量子ドットを利用した蛍光物質が好ましい。量子ドットは微小ながら発光強度が大きいので、蛍光物質として好ましい。また、量子ドットは無機物質からなるので、電子線励起用の蛍光物質として好ましい。更に、蛍光薄膜13の強度を高める点から、量子ドットを共有結合で結合させて蛍光薄膜13を作成することが望ましい。蛍光層44の形成工程からも、蛍光物質42として量子ドットを用いることが好ましい。共有結合せずに残った量子ドットは、超音波洗浄などで除去することが容易である。

【0029】
量子ドットは、CdSe/ZnSやInGaP/ZnSのような無機半導体のため、有機化合物の蛍光物質と比較して、長時間の紫外線照射や電子線照射に耐えられる。この量子ドットを細く絞った紫外線や、走査型電子顕微鏡のような極めて細い電子線で励起して発光させることで、直径が数nm~数10nmの微小光源を得ることができる。このサイズの微小光源を得るには、蛍光発光波長に応じて選択された直径5nmから30nmまでの量子ドットを一層から数層で整列させることが好ましい。

【0030】
金属蒸着層46は適宜省略することができる。電子線励起するときに表面に導電層が必要な場合には、蛍光層44の上に金などの金属蒸着層44を設けることが望ましい。

【0031】
また、電子線励起する場合には導電層が必要であるため、基板40の表面に金属蒸着層を形成してもよい。この場合には、蛍光層44は金属蒸着層の上に形成される。つまり、基板40と蛍光層44との間に、金属蒸着層を挟みこんでも良い。

【0032】
次に、図1に示す蛍光薄膜の製造方法について説明する。蛍光薄膜の製造方法は、少なくとも以下の3つのステップを含んでいる。
(1)蛍光物質42に第1官能基を導入するステップ
(2)基板40に第1官能基と共有結合を形成する第2官能基を導入するステップ
(3)蛍光物質42に導入された第1官能基と基板40に導入された第2官能基との反応により基板40の表面に共有結合により蛍光物質42を結合するステップ

【0033】
第1官能基及び第2官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、エポキシ基などがある。基板40に導入される第2官能基は、蛍光物質42に導入される第1官能基と共有結合を形成する官能基である。第1官能基、第2官能基としては、上記の例示された官能基群の中から、互いに共有結合を形成する組合せを選択すればよい。図2に示した例では、蛍光物質42に導入される第1官能基がカルボキシル基であり、基板40に導入される第2官能基がアミノ基である。

【0034】
蛍光層44の表面に金属蒸着層46を形成する場合には、金属蒸着層46を形成するステップを更に含む。

【0035】
<実施形態1の実施例(蛍光薄膜の作製例)>
次に、蛍光薄膜の作製する具体的な方法について説明する。
(手順1)まず、ガラス基板上や酸化シリコン基板上に、シラン化試薬を用いてアミノ基を導入する。例えば、シラン化試薬である(3-aminopropyl)-triethoxysilanの濃度が2%のアセトン溶液に、上記基板を浸漬する。5分後に基板を取り出し、アセトンで洗浄した後に、次いで純水で洗浄し、洗浄後の基板を乾燥する。

【0036】
(手順2)次に、カルボジイミド試薬を用いてカルボキシル基を導入した量子ドットを用意する。そして、基板に導入したアミノ基と量子ドットに導入したカルボキシル基とを反応させて、基板と量子ドットをペプチド結合で結合する。例えば、pH7.4のphosphate buffered saline1.0ml(ミリリットル)に、カルボジイミド試薬であるN-(3-dimethylaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide hydrochloride(EDC)10mgとN-hydroxysuccinimide0.75mgとを溶解し、得られた溶液と量子ドット分散液である5μl(マイクロリットル)の8μM(マイクロモル)のQ dot 655 ITK carboxyl quantum dotsとを混合する。EDCとN-hydroxysuccinimideのモル比は、1:0.125である。

【0037】
得られた分散液にアミノ基を導入した基板を浸漬し、10分静置して、量子ドットを結合する。反応後に基板を分散液から取り出し、pH7.4のphosphate buffered saline で洗浄した後に、次いで純水で洗浄する。その後、基板を更に純水中で超音波洗浄し、未結合の量子ドットを除去する。純水で洗浄後、量子ドットが結合された基板を完全に乾燥させる。

【0038】
図3に本実施例で形成した蛍光薄膜のAFM像を示す。図3から、基板上に1層の量子ドット層が形成されていることがわかる。

【0039】
<実施形態2(光学顕微鏡)>
以下、実施形態1で形成した蛍光薄膜を微小光源の励起に用い、近接場光学顕微鏡に適用した例を示す。本発明の実施形態2に係る光学顕微鏡は、実施形態1で形成した蛍光薄膜を用い、電子ビーム又は電磁波を走査できるようにした以外は、一般的な近接場光学顕微鏡と同じ構成であるために、図4を用いてその構成を説明する。

【0040】
図4に示すように、光学顕微鏡は、電子顕微鏡結像系10と光学顕微鏡部20とを備えている。電子顕微鏡結像系10は、電子ビーム又は電磁波を射出する電子源11と、電子源11から射出された電子ビーム又は電磁波を所定位置にフォーカスさせる電子レンズ12と、電子ビーム又は電磁波が照射される蛍光薄膜13と、内部が真空状態になっている真空容器14と、を備えている。電子源11及び電子レンズ12は、真空容器14内に設けられている。蛍光薄膜13は、真空容器14の隔壁に形成された貫通孔を塞ぐように、当該隔壁に貼り付けられ、隔壁の一部を成している。そして、試料30は、貫通孔の上で且つ蛍光薄膜13の上に配置されている。

【0041】
また、図4に示すように、光学顕微鏡部20は、試料30からの光を集光する対物レンズ21と、対物レンズ21からの光を検出する光検出器22と、光検出器22で検出された信号を記録する信号記録部23と、を備えている。なお、図4では、蛍光薄膜13が、真空容器14の上面全面に形成されているように見えるが、実際には大気圧に耐えられるように上面の隔壁に形成された微小の貫通孔を塞ぐような構成とされている。

【0042】
電子源11で発生された電子ビーム又は電磁波は、電子レンズ12により蛍光薄膜13内に(例えば、数10nmオーダで)フォーカスされる。フォーカスされた電子ビーム又は電磁波により蛍光薄膜13内で光が励起され、微小光源が(~数10nm)が生成される。蛍光薄膜13の蛍光層44の膜厚は、可視光の波長よりも薄い。このため電子ビーム又は電磁波を数nm~数10nmに絞って蛍光薄膜13に照射することで、可視光波長未満の大きさの微小光源を励起することができる。

【0043】
なお、電子ビーム又は電磁波は電場や磁場などにより制御可能であるので、電子ビーム又は電磁波を制御することにより蛍光部材内の任意の場所に微小光源を励起させることができ、2次元走査などが可能になる。なお、上記の光の回折限界を超えた分解能の近接場(ニアフィールド)情報を高速で取得可能な走査型の光学顕微鏡は、本発明者等が開発したものである(特願2008-146335)。実施形態2に係る光学顕微鏡では、その走査型の光学顕微鏡の蛍光薄膜13が改良されている。

【0044】
微小光源の大きさは、微小光源の形状が球状(略球状を含む)であれば、直径が可視光波長未満であり、微小光源の形状が球形以外であれば、最短軸の長さが可視光波長未満である。微小光源と試料30との相互作用により生成された光は、対物レンズ21を通して光検出器22で検出される。即ち、可視光波長未満の大きさの微小光源により、光源周辺の試料30(測定対象物)の近接場効果が測定され、測定対象物により近接場効果の影響を受けた光は光検出器22により検出される。これにより測定対象物の可視光波長未満の近接場効果が観察される。対物レンズ21からの光により光検出器22で生成された信号は、信号記録部23で記録される。

【0045】
以上説明した通り、電子ビーム又は電磁波の照射により可視光の波長未満の大きさの微小光源が励起される蛍光薄膜により、光の回折限界を超えた分解能の近接場情報を高速で取得可能な光学顕微鏡の実現が可能である。本実施の形態に係る光学顕微鏡は、光の回折限界を超えた分解能の近接場情報を高速で取得可能である。このため、近接場光を用いて生きた生物試料を実時間で観察でき、ナノメートルオーダーの空間分解能を有する実時間・ナノイメージング手法を実現することができる。実時間で観察可能な高分解能を実現することによって、分子・たんぱく質レベルでの機能解析から細胞・臓器レベルでの機能解析まで、統一的な観察を行うことが可能となる。

【0046】
本実施の形態に係る光学顕微鏡は、小さな領域に照射可能な電子ビーム又は電磁波を用いて、蛍光薄膜内に微小光源を励起できるため、可視光波長未満の大きさの微小光源を生成できる。また、可視光波長未満の大きさの微小光源を用いているため、ナノメートルオーダーの近接場情報が収集可能である。微小光源の励起に電子ビーム又は電磁波を用いているため制御が容易であり、高速スキャンが可能であるので、高速に近接場(ニアフィールド)の画像を得ることができる。

【0047】
走査型電子顕微鏡は、既に確立された技術であり、10nm以下の領域に電子を集光することと、高速に走査することが可能である。したがって、電子顕微鏡の技術を光励起に応用することによって、10nm以下のスポット持ち且つ高速に走査可能な微小光源を実現することが可能となる。また、蛍光薄膜に含まれる蛍光物質として、様々な発光波長、偏光特性などを有する材料を選択することによって、分光計測、偏光計測など高機能化を実現できる。

【0048】
蛍光薄膜上に生じた微小光源は、近接場光学顕微鏡において、微小開口によって生じたエバネッセント波を利用して試料を照明することと原理的に全く同等である。試料と蛍光薄膜の距離が十分小さい場合、電子線励起によって生じた微小蛍光光源のエバネッセント波で試料を観察することができ、回折限界を超えた分解能を実現することが可能となる。電子線によって微小光源を実現するため、観察系は走査による光の変化を検出するシステムとなる。したがって、既にこれまでに開発されてきた光学顕微鏡の光学系を検出システムに応用することによって、高い空間分解能と多くの機能を持つ検出システムを構築することが可能である。

【0049】
さらに、実施形態1に係る蛍光薄膜は、共有結合により基板と蛍光物質とが結合されているため、蛍光薄膜上に生物試料を載せたり水で洗い流しても、蛍光物質が溶け出したり遊離したりしない。生きた状態の生物試料は大気中や水中という条件下で観察しなければならないので、生きた試料の観測の際には有効である。また、実施形態1に係る蛍光薄膜は、基板の真空側(電子ビーム又は電磁波発生器側)に形成しても試料側に形成しても良いが、試料側に形成すれば微小光源と試料との距離をより近づけられ、ニアフィールド効果が観測しやすい。

【0050】
また、実施形態1に係る蛍光薄膜では、薄膜状になった量子ドットの上に細胞を培養して、観察試料としてもよい。量子ドットを有する蛍光薄膜と細胞間の距離が短くできるので、分解能の低下が生じ難い。特に、量子ドットを有する蛍光薄膜に接着している細胞の細胞膜部分は、薄膜間距離が数十nm以下になるので、更に高い分解能を得ることができる。また、細胞培養や観察に用いる培養液は電気伝導性であるため、金属蒸着膜は不要になり、蛍光薄膜と試料との距離を更に近づけることが可能となる。

【0051】
なお、量子ドットの材質や細胞の種類によっては、量子ドットを有する蛍光薄膜上に細胞が生育しない場合も予想される。このような場合であっても、蛍光薄膜上にポリスチロール樹脂(細胞培養フラスコなどに使用されるプラスチック)やコラーゲン、ポリリジン、フィブロネクチンなどを、スピンコーティングなどにより数十nm程度の厚さにコートすればよい。これらは、いずれも難接着性や難培養性の細胞を培養する場合に、培養フラスコにコーティングされる材料である。

【0052】
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。
図面
【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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