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明細書 :触媒層形成用組成物、及び、触媒層の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5669201号 (P5669201)
公開番号 特開2012-181961 (P2012-181961A)
登録日 平成26年12月26日(2014.12.26)
発行日 平成27年2月12日(2015.2.12)
公開日 平成24年9月20日(2012.9.20)
発明の名称または考案の名称 触媒層形成用組成物、及び、触媒層の製造方法
国際特許分類 H01M   4/88        (2006.01)
C25B  11/12        (2006.01)
H01M   4/86        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
H01M   8/02        (2006.01)
C25B   9/10        (2006.01)
C23C  18/14        (2006.01)
B01J  31/28        (2006.01)
FI H01M 4/88 K
C25B 11/12
H01M 4/86 B
H01M 8/10
H01M 8/02 E
C25B 11/20
C23C 18/14
B01J 31/28 M
請求項の数または発明の数 13
全頁数 17
出願番号 特願2011-042865 (P2011-042865)
出願日 平成23年2月28日(2011.2.28)
審査請求日 平成25年10月21日(2013.10.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】陳 進華
【氏名】浅野 雅春
【氏名】前川 康成
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】太田 一平
参考文献・文献 特開2006-134679(JP,A)
特開2009-199930(JP,A)
特開2004-165073(JP,A)
特開2010-140713(JP,A)
特開2006-040635(JP,A)
特開2009-238442(JP,A)
特開2009-266623(JP,A)
特表2008-503044(JP,A)
調査した分野 H01M 4/86 - 4/98
H01M 8/00 - 8/02
H01M 8/08 - 8/24
B01J 21/00 - 38/74
C25B 9/10
C25B 11/00 - 11/18
C23C 18/00 - 20/08




特許請求の範囲 【請求項1】
電気化学デバイス用の触媒層付電極の触媒層形成に用いられ、基材に塗布した後に放射線照射して、“その場”で、イオン伝導性基を持つビニルポリマーであるイオン伝導性ポリマー、及び、触媒として機能する金属微粒子を形成して触媒層とするための触媒層形成用組成物であって、イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマー、前記金属微粒子の前駆体である金属化合物、炭素担体、及び、分散溶媒を含むものであり、
前記ビニルモノマーは、前記放射線照射により重合して、前記イオン伝導性ポリマーを形成するものであり、
前記金属化合物は、前記放射線照射により還元されて、前記金属微粒子を形成するものであり、
前記分散溶媒は、水とアルコールとの混合溶媒である
ことを特徴とする触媒層形成用組成物。
【請求項2】
前記イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーは、スルホン酸スチレンとその誘導体、アクリル酸とその誘導体、ビニルスルホン酸とその誘導体、全フッ素化ビニルスルホン酸とその誘導体、からなるカチオン系ビニルモノマー群の中から選択される1種類または2種類以上のビニルモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の触媒層形成用組成物。
【請求項3】
前記イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーは、トリメチルアンモニウムメチルスチレンクロライド、トリエチルアンモニウムスチレンクロライド、ジメチルビニルベンジルアミン、メタクリル酸2-(ジメチルアミン)エチル、アンモニウム基を有するスチレン誘導体、2級または3級アミン基を有するスチレン誘導体、2級または3級アミン基を有するアクリル酸誘導体、からなるアニオン系ビニルモノマー群の中から選択される1種類または2種類以上のビニルモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の触媒層形成用組成物。
【請求項4】
電気化学デバイス用の触媒層付電極の触媒層の製造方法であって、請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の触媒層形成用組成物を、基材表面に塗布してから放射線を照射して、基材表面に、前記触媒層形成用組成物に含まれるビニルモノマーからイオン伝導性ポリマーを形成し、また、金属化合物から金属微粒子を形成して触媒層を製造することを特徴とする触媒層の製造方法。
【請求項5】
基材が多孔性カーボンシートであることを特徴とする請求項4に記載の触媒層の製造方法。
【請求項6】
基材が高分子フィルムであることを特徴とする請求項4に記載の触媒層の製造方法。
【請求項7】
請求項4から6のうちのいずれか一項に記載の製造方法により得られたものであることを特徴とする触媒層。
【請求項8】
請求項7に記載の触媒層が少なくともその構成の一部とされていることを特徴とする電気化学デバイス用の触媒層付電極。
【請求項9】
請求項8に記載の触媒層付電極が少なくともその構成の一部とされていることを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項10】
請求項5の製造方法で得られた触媒層付多孔性カーボンシートを電極として、高分子電解質膜の両面に接合してなることを特徴とする膜・電極接合体。
【請求項11】
請求項6の製造方法で得られた触媒層付高分子フィルムを高分子電解質膜の両面に転写して触媒層を転写することで形成されたことを特徴とする触媒層付高分子電解質膜。
【請求項12】
請求項11の触媒層付高分子電解質膜の両面に多孔性カーボンシートを接合してなることを特徴とする膜・電極接合体。
【請求項13】
請求項10または12の膜・電極接合体を含むことを特徴とする高分子形燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、PEFC)などの電気化学デバイス用の触媒層形成用組成物、触媒層の製造方法、並びに、これにより得られた触媒層、触媒層付電極、膜・電極接合体、電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池などの電気化学デバイスの基本構成は、電気化学反応場としての負極と正極、及び負極と正極の間にある隔膜で成り立っている。
【0003】
隔膜の高分子電解質膜としては、プロトン(水素陽イオン)伝導性交換膜が一般的であるが、近年、白金触媒の使用量低減を目的として水酸化物イオンなどのアニオン伝導性交換膜を用いる研究も盛んに行われている。
【0004】
燃料電池は、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する発電装置なので、「負極」や「正極」は、一般電池の単純構造の電極板とは異なり、ガス拡散層の多孔性カーボンシートと、その表面に固定された触媒層とから成る反応プレートである。
【0005】
燃料電池分野では、この様な構成の電極を一般電池の電極と区別するために「触媒層付電極」と呼称しているので、本明細書でもそれにならう。
【0006】
反応プレートである「触媒層付電極」を2枚用意して、高分子電解質膜を挟んで熱プレスすれば、膜・電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)と呼ばれる基本単位が得られる(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
また、高分子電解質膜の両面に触媒層のみが付加された構造体は、触媒層付膜(Catalyst Coated Membrane, CCM)と呼ばれている。この触媒層付膜CCMを多孔性カーボンシート2枚で挟んで熱プレスすれば、膜・電極結合体MEAが得られる。(例えば、特許文献2を参照)。
【0008】
いずれの場合にも、膜・電極接合体MEAの構成は同じである。すなわち、多孔性カーボンシート/触媒層/高分子電解質膜/触媒層/多孔性カーボンシートの順に結合されたものである。
【0009】
「触媒層」の構成を細かく見ると、イオン伝導性の電解質ポリマー、電気化学反応の触媒である金属微粒子、電子伝導性で触媒を担持するカーボンブラックの3者からなる。その作製方法は、一般的に、金属微粒子を担持するカーボンブラック、電解質ポリマー溶液、アルコール溶媒などを混ぜた「触媒ペースト」を、カーボンシートや高分子フィルムに塗布、乾燥して作る。
【0010】
近年、電池メーカー、素材メーカーのみならず多方面で、触媒層の低コスト化や高性能化に向けて様々な研究が行われている。
【0011】
触媒層の高性能化では、触媒層中に電気化学反応に必要な「三相界面」を形成することが重要である。「三相界面」とは、白金触媒などの固相に、電解質の液相、燃料ガスの気相が接触できる反応性の高い部位のことである。
【0012】
このため、触媒ペーストに塩化ナトリウム粉を加えて塗布・乾燥して触媒層を形成した後に、水洗で塩化ナトリウム粉を溶出除去して「三相界面」になり易い細孔を形成する方法(例えば、特許文献3を参照。)などの改良製法が研究されている。
【0013】
また、触媒層の高性能化では、耐久性を向上させることが重要であり、電解質ポリマー、プレポリマー、架橋助剤などを混ぜた触媒ペーストを、塗布した後、光照射で架橋固定して、流失を抑制する改良製法(例えば、特許文献4を参照。)や、フッ素系ポリマー基体の表面に、イオン伝導性基含有モノマーをグラフト重合して補強しつつ伝導性を高める方法(例えば、特許文献5~8を参照。)などの改良製法が研究されている。
【0014】
他方、触媒層の低コスト化に関しては、触媒機能を維持しつつ貴金属微粒子の使用量を低減させる工夫が色々と研究されている。
【0015】
たとえば、電解質ポリマーと炭素担体のペーストを塗布、成形した成形体を、白金系化合物(白金アンミン錯体塩化物)の水溶液に浸漬して吸着させてから、水素ガス中で還元して、担体表面にのみ集中的に白金触媒を分布させる方法などである。(例えば、特許文献9~10を参照。)
本発明の発明者らは、従来から放射線処理技術の産業応用に関して継続的に研究しており、近年は、上述の燃料電池用電極への応用について種々検討を重ねており、色々と研究成果を挙げている。
【0016】
昨年の研究成果は、放射線照射により金属微粒子(触媒)を必要な部位で"その場"生成する技術を確立し、上記した触媒層の形成に応用するものであった。
【0017】
具体的には、炭素担体、電解質ポリマー、金属前躯体、アルコール系溶媒、水からなる触媒層形成用組成物を炭素電極基材に塗布し、その炭素電極基材を電子線照射して、直接、触媒層付電極を簡便なプロセスで製造する方法であり、既に特許出願している。(特願2010‐001574号)
ただし、その触媒層形成用組成物には、高価で難溶解性の「パーフルオロスルホン酸系電解質ポリマー」が必須であるなど、作業性やコスト面で改良すべき点が幾つもあった。
【先行技術文献】
【0018】

【特許文献1】特公昭62-61118号公報
【特許文献2】特公平2-48632号公報
【特許文献3】特開平6-236762号公報
【特許文献4】特開2009-295442号公報
【特許文献5】特開2009-104967号公報
【特許文献6】特開2007-528843号公報
【特許文献7】特開2010-067368号公報
【特許文献8】特開2005-108604号公報
【特許文献9】特開2000-12040号公報
【特許文献10】特開2009-212008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、従来の問題点を解消して、高分子形燃料電池用の触媒層付電極の触媒層を簡便で低コストで実現するための方策を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0021】
すなわち、本発明は、電気化学デバイスの触媒層付電極の触媒層形成に用いられる触媒層形成用組成物であって、イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマー、金属微粒子の前駆体である金属化合物、及び、炭素担体を含むものであり、前記ビニルモノマーは、放射線照射により重合して、イオン伝導性ポリマーを形成するものであり、前記金属化合物は、放射線照射により還元されて、金属微粒子を形成するものである触媒層形成用組成物である。
【0022】
そして、前記イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーは、好ましくは、スルホン酸スチレンとその誘導体、アクリル酸とその誘導体、ビニルスルホン酸とその誘導体、全フッ素化ビニルスルホン酸とその誘導体、からなるカチオン系ビニルモノマー群の中から選択される1種類または2種類以上のビニルモノマーである。
【0023】
また、前記イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーは、好ましくは、トリメチルアンモニウムメチルスチレンクロライド、トリエチルアンモニウムスチレンクロライド、ジメチルビニルベンジルアミン、メタクリル酸2-(ジメチルアミン)エチル、アンモニウム基を有するスチレン誘導体、2級または3級アミン基を有するスチレン誘導体、2級または3級アミン基を有するアクリル酸誘導体、からなるアニオン系ビニルモノマー群の中から選択される1種類または2種類以上のビニルモノマーである。
【0024】
さらに、本発明は、電気化学デバイスの触媒層付電極の触媒層の製造方法であって、前記した触媒層形成用組成物を、基材表面に塗布してから放射線を照射して、基材表面に、前記触媒層形成用組成物に含まれるビニルモノマーからイオン伝導性ポリマーを形成し、また、金属化合物から金属微粒子を形成して触媒層を製造する、電気化学デバイスの触媒層付電極の触媒層の製造方法である。
【0025】
また、前記した基材は、好ましくは、多孔性カーボンシート、あるいは、高分子フィルムである。
また、本発明は、前記した製造方法により得られた触媒層、触媒層が少なくともその構成の一部とされている、電気化学デバイス用の触媒層付電極である。
【0026】
また、本発明は、前記した触媒層付電極が少なくともその構成の一部とされている電気化学デバイスである。
【0027】
さらに、本発明は、前記した製造方法で得られた触媒層付多孔性カーボンシートを電極として、高分子電解質膜の両面に接合してなる膜・電極接合体である。
【0028】
また、本発明は、前記した製造方法で得られた触媒層付高分子フィルムを高分子電解質膜の両面に転写して触媒層を形成した触媒層付高分子電解質膜である。また、本発明は、前記した製造方法で得られた触媒層付高分子電解質膜の両面に多孔性カーボンシートを接合してなる膜・電極接合体である。
【0029】
また、本発明は、前記した膜・電極接合体を含む高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、高価で難溶解性のパーフルオロスルホン酸系電解質ポリマー、触媒の金属微粒子などは主材料として使用せずに、イオン伝導性基を持つビニルモノマーと触媒の前駆体の金属化合物を原料とする触媒層形成用組成物を構成していること、また、それを使用して、基材に塗布した後に放射線照射して、“その場”で、イオン伝導性基を持つビニルポリマー、および、触媒として機能する金属微粒子を形成して、触媒層とすることから、触媒層を簡便で低コストな手段で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の、電気化学デバイスの触媒層付電極の触媒層形成に用いられる触媒層形成用組成物は、イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマー、金属微粒子の前駆体である金属化合物、及び、炭素担体を含むものである。

【0032】
前記ビニルモノマーは、放射線照射により重合して、イオン伝導性ポリマーを形成するものであり、前記金属化合物は、放射線照射により還元されて、金属微粒子を形成するものである。

【0033】
そして、本発明の触媒層の製造方法では、触媒層形成用組成物を基材に塗工した後に、放射線照射することで、簡便に、金属微粒子の触媒がイオン伝導性ポリマーで炭素担体上に固着された触媒層とする。
<触媒層形成用組成物とその調整>
触媒層形成用組成物の構成は、イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマー、金属微粒子の前駆体である金属化合物、並びに炭素担体を必須としている。

【0034】
また、分散溶媒及びその他添加剤の配合が適宜に考慮される。なお、組成物に、金属化合物のみならず金属微粒子を同時に配合することもできる。

【0035】
ビニルモノマーは、放射線照射にともなう“その場”重合で、電解質ポリマーになる。電解質ポリマーは、触媒層のイオン伝導性とバインダー性の役割を担う。

【0036】
組成物の金属化合物から生成した金属微粒子は、触媒層の触媒として働く。

【0037】
炭素担体は金属微粒子を担持するために使用される。また、炭素担体は、触媒層の電子伝導性を担う。
(イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマー)
イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーは、公知のカチオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーとして、スルホン酸スチレンとその誘導体、アクリル酸とその誘導体、ビニルスルホン酸とその誘導体、パーフルオロビニルスルホン酸とその誘導体などが挙げられる。その中から1種類または2種類以上が使用できる。好ましくは、スルホン酸スチレンとその誘導体である。

【0038】
また、イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーは、公知のアニオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーとして、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニルベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、トリメチルアンモニウムメチルスチレンクロライド、トリエチルアンモニウムスチレンクロライド、ジメチルビニルベンジルアミン、メタクリル酸2-(ジメチルアミン)エチル、アンモニウム基を有するスチレン誘導体、2級または3級アミン基を有するスチレン誘導体、2級または3級アミン基を有するアクリル酸誘導体、などが挙げられる。その中から1種類または2種類以上が使用できる。好ましくは、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドとその誘導体である。

【0039】
水素イオン(H+)伝導性、又は、水酸化物イオン(OH-)伝導性を有するビニルモノマーは、放射線重合後に、簡単な処理操作で、目標のカチオン電解質ポリマー又はアニオン電解質ポリマーとすることができる。そのほかのビニルモノマーも、加水分解性やイオン交換性があれば、触媒層用組成物に配合して使用でき、触媒層を形成した後に、公知の化学変換で、簡単に目標の電解質ポリマーに変換できる。

【0040】
触媒層形成用組成物における、イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーの配合量は、触媒層固形分となるものの総量の10~60質量%、好ましくは25~40質量%の範囲である。

【0041】
配合量が10質量%未満では、生成した電解質ポリマーのイオン伝導性及びバインダー性が十分に機能しにくくなり安定な触媒層が形成されにくい。一方、60質量%を超えると、多数の金属微粒子及び炭素担体が、電解質ポリマーで被覆されて、触媒能が働きにくくなり、電子伝導性が低くなる恐れがある。
(金属微粒子の前駆体である金属化合物)
金属微粒子の前駆体である金属化合物としては、白金、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、イリジウム、ロジウム、クロム、ニッケル、マンガン、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、金、鉄、鉛、銅、コバルト、ニッケルなどの公知の塩化物、硝酸化物、錯体などが例示される。

【0042】
例えば、白金の塩化物、硝酸化物、錯体としては、塩化白金酸H2PtC16、硝酸テトラアミン白金Pt(NH34(NO32、ヘキサクロロ白金酸カリウムK2PtCl6、等を挙げることができる。これら金属化合物は1種単独でも、若しくは2種以上を併用して用いてもよい。

【0043】
金属化合物の配合量は、触媒層中に配合しようとする金属微粒子の量から逆算される。すなわち、触媒層形成用組成物に配合されるべき金属微粒子の量は、触媒層固形分となるものの総量の2~60質量%、好ましくは10~50質量%の範囲である。もっとも好ましいのは20~40質量%の範囲である。配合量が2質量%未満では、触媒性能が働きにくくなる恐れがある。60質量%を超えると、触媒機能の向上の程度に対して高コストになりやすく、性能/コストが低くなる傾向にある。

【0044】
金属微粒子の粒径は、大きすぎると、触媒の表面積が小さいので、単位質量あたりの触媒能が低下する。逆に小さすぎる場合は、触媒の安定性が低下する。粒径1.0~15nmが、好ましく、更に好ましくは1.5~5.0nmである。

【0045】
前駆体の金属化合物を触媒層形成用組成物に配合・分散する程度や量、組成物の溶媒系の種類や組み合わせ、放射線照射量などによって、還元析出する金属微粒子の粒径なども制御できる。

【0046】
(金属微粒子)
触媒層形成用組成物には、前駆体の金属化合物のみならず、許容される範囲内で金属微粒子も同時に配合できる。その配合割合は、上記の前駆体由来のものと併せて、触媒層固形分となるものの総量の2~60質量%、好ましくは10~50質量%の範囲である。もっとも好ましいのは20~40質量%の範囲である。

【0047】
金属微粒子としては、白金、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、イリジウム、ロジウム、クロム、ニッケル、マンガン、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、金、鉄、鉛、銅、コバルト、ニッケル等が挙げられる。

【0048】
なお、近年、「触媒能のある金属微粒子を担持させた炭素担体」が、商品形態の一つとして市場化されている。これらの金属微粒子担持炭素担体、例えば、白金担持カーボンブラック(田中貴金属工業株式会社製)を、触媒層形成用組成物の塗布対象として使用すれば、より高機能の触媒層が形成でき、好ましい。
(炭素担体)
炭素担体としては、公知の電子伝導性を有する炭素材料であれば限定することなく用いることができ、このようなものとしては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維等を用いることができる。これらの炭素担体は、1種単独でも、若しくは2種以上を併用して用いてもよい。これらの中では、特に、カーボンブラックが好ましい。その配合割合は、触媒層固形分となるものの総量に対して、2~60質量%、好ましくは10~50質量%の範囲である。もっとも好ましいのは20~40質量%の範囲である。配合量が2質量%未満では、触媒の保持が不充分になる恐れがある。60質量%を超えると、触媒層が機能に比してかさ高になり好ましくない。

【0049】
(分散溶媒)
上記触媒層形成用組成物を分散して触媒ペーストを作製するために用いられる溶媒としては、前記のビニルモノマーを溶解することができる溶媒であれば、特に制限なく用いることができる。

【0050】
金属微粒子の前駆体として金属化合物を使う場合、溶媒としては、水とアルコール溶媒との混合溶媒系が、金属化合物の還元、金属微粒子の生成に特に好適である。また、水とアルコールとの混合溶媒系は、入手しやすく、安価で、操作しやすい点でも好ましい。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコールなどが挙げられる。

【0051】
(その他添加剤)
本発明の触媒層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の成分を添加することができる。

【0052】
これらのものとしては、例えば、イオン伝導性を増強するパーフルオロビニルスルホン酸系ポリマー(デュポン社製、「nafion」(登録商標)など)、触媒層のガス流路を確保するポリテトラフロオロエチレン多孔体、触媒層に多孔構造を形成する炭酸カルシウム無機塩、組成物を安定化する界面活性剤などが挙げられる。

【0053】
上記添加物は、触媒層の機能を妨げないものであればよく、水、または酸水溶液中に浸漬するだけで簡易に除去できるものや、揮発性を有し乾燥により除去できるものであれば好ましい。また、触媒層にイオン伝導性、電子伝導性、ガス拡散性等の機能をもたらし、除去の必要無いものがより好ましい。
(触媒層形成用組成物の調整)
本発明に用いる触媒層形成用組成物を調整するには、各成分を充分均一に分散させることが必要である。分散方法として、撹拌、超音場分散、剛球ミール、ミキサ分散等の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。

【0054】
調製した触媒層形成用組成物のペーストは、直接多孔性カーボンシートまたは高分子フィルムに塗布可能な粘度があれば良い。分散溶媒の使用量や配合成分の粒径などから粘度が調製できる。
<触媒層の製造>
調整された前記の触媒層形成用組成物は、基材に塗布し、次いで、放射線照射する。このプロセスによって触媒層を製造する。

【0055】
(基材)
触媒層形成用組成物を塗布することになる基材であるが、電気化学デバイスの触媒層の支持体として、反応物流路と触媒層の間に介在して、触媒層への反応物の輸送、触媒層外部への電子の輸送を担う役割が求められるため、電子伝導性を持つ多孔体が好適であり、たとえば、多孔性カーボンシート等が例示できる。

【0056】
多孔性カーボンシートの具体例としては、カーボンペーパー、カーボンクロース、炭素フェルト等を適宜用いることができる。これらのものとしては、例えば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、E‐TEK社製カーボンクロース等を挙げることができる。

【0057】
また、前記した多孔性カーボンシートとしては、その表面に疎水性、親水性等の機能を付与したものであってもよい。これらのものとしては、例えば、フッ素系ポリマーで疎水処理されたカーボンペーパーや、フッ素系ポリマーと炭素粒子からなる微細気孔層を堆積させたカーボンペーパー等を挙げることができる。

【0058】
なお、上記した多孔性カーボンシートとは別の高分子フィルムも、触媒層の形成過程で、広義の「基材」として使用されることがある。

【0059】
その場合、高分子フィルムは、燃料電池などの電気化学デバイスの構成要素ではなく、触媒層を形成するために必要な道具として一時的に使用される。触媒層は高分子フィルムの表面で形成され、つぎに高分子電解質膜の両面に熱プレスで「転写」することで高分子フィルムが外され、触媒層は高分子電解質膜の両面に頑固に固定される。燃料電池分野では、このプロセスを「転写」という。

【0060】
高分子フィルムとしては、離型性が良く化学安定性の高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化エチレン・ポリプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシビニルエーテル(PFA)等のフッ素系フィルムやポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン等のフィルムが使用でき、厚みは25~250μm程度のものが望ましい。
(塗布)
塗布方法として、触媒層形成用組成物の粘度等により塗布方法を選択することができる。これらの塗布方法は、均一に塗布できれば、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー塗布、ロールコーター、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ディップコーター、スピンコーター、ダイコーター、カーテンコーター、ドクターブレード法、スクリーン印刷、グラビアコーター、インクジェット法等の一般的な方法が挙げられる。

【0061】
触媒層形成用組成物の塗布厚さは特に制限されるものではないが、5~150μm、好ましくは15~50μmの厚さである。5μm未満の場合には、触媒層の量が不十分となり、150μmを超える場合には反応物質の輸送経路が十分に確保できなくなるので好ましくない。
(放射線照射)
放射線照射は、触媒層形成用組成物が塗布直後で、湿潤状態または未乾燥状態であるときに実施することが望ましい。乾燥状態では、ビニルモノマーが揮発してしまったり、金属化合物の還元反応に必要な助剤が散逸してしまう恐れがある。また、触媒層が三相界面のできやすい多孔構造に形成できなくなる恐れがある。

【0062】
放射線照射で、多孔性カーボンシート又は高分子フィルム上に塗布したペースト中、イオン伝導性の導入が可能なビニルモノマーを触媒層中で“その場”重合させるとともに、重合したポリマーを架橋できる。

【0063】
また、前駆体の金属化合物は、放射線照射で還元作用を受けて、“その場”で金属微粒子になると共に、炭素担体の表面に担持される。

【0064】
放射線(照射)重合は、概念的に良く知られている割に、実施形態の留意点や工夫点などは殆ど知られておらず、適当な公知文献も乏しい。 たとえば、放射線(照射)重合では、アルコール系溶媒や水溶媒など溶媒系の選択で、重合/架橋の割合がコントロールでき、任意の架橋ポリマーが調製できること等は、本発明者らが見出したもので、公知文献にも記載がない。本発明の触媒層の製造方法では、この知見が有効に活用されている。

【0065】
形成した架橋ポリマーは、必要に応じて簡単な化学変換により、架橋電解質ポリマーとして、触媒層に必要なイオン伝導性およびバインダー性を示す。

【0066】
また、触媒層形成用組成物の中の水は放射線照射することにより水和電子を発生させる。さらに、触媒層形成用組成物中のアルコール系溶媒は水和電子に対する捕捉作用があり、水和電子を効率的に生成させる役目を持っている。生成した水和電子は強い還元作用を有するため、速やかに触媒層形成用組成物の中の金属化合物を金属微粒子に還元することができる。

【0067】
また、放射線としては、ガンマ線と電子線が好ましい。電子線は、ガンマ線より1000倍以上の線量率が得られるため、電子線照射がより好ましい。

【0068】
放射線の照射線量は、触媒層の組成物中のビニルモノマー、及びまたは金属化合物の特性を決める。ビニルモノマーの重合及び金属化合物の還元に必要な線量は、通常1~200kGyである。照射線量が少ないと、ビニルモノマーの重合が不十分で、あるいは金属前駆体が十分に還元されないため、一部のビニルモノマーまたは金属前駆体が無駄になる恐れがある。また、放射線の線量が多すぎると、線量が無駄になると共に、触媒層にダメージを与える可能性がある。

【0069】
放射線照射条件として、不活性ガス置換雰囲気中で行うのが好ましい。

【0070】
放射線照射時の温度条件は特に限定はない。通常、室温(常温)下で実施されるのが普通であるが、0~100℃の範囲の冷却及び加温条件を採用することもできる。
(化学変換・乾燥処理)
触媒層の組成物中のビニルモノマーとして水素イオン伝導性又は水酸物イオン伝導性ビニルモノマーを用いた場合には、重合した電解質ポリマーはこのままで化学変換しなくてもよい。
一方、それ以外のビニルモノマーを使用する場合は、重合したポリマーを公知の加水分解またはイオン交換反応などの化学変換を経て、触媒層中での役割を持つ電解質ポリマーに変換することが必要である。このような化学変換処理のタイミングは、照射後に実施することが好ましい。また、乾燥処理または膜・電極接合工程の後に行うこともできる。

【0071】
加水分解などの浴処理の段階で、金属微粒子の前駆体のままであった過剰の金属化合物も除去されるので、白金などの貴金属の化合物は回収、再利用できる点でも、本発明の触媒層の製造方法はメリットがある。

【0072】
その後、形成された触媒層中の分散溶媒などを除去するために、公知の乾燥を行う。乾燥することで、触媒層が多孔性カーボンシート又は高分子フィルムにしっかり固定される。
(熱プレス)
触媒層付多孔性カーボンシートを用いた場合には、それを電極として2枚用意して、予め準備した1枚の高分子電解質膜を挟んで、公知の熱プレス法で膜・電極接合体を製造する。

【0073】
触媒層付高分子フィルムを用いた場合には、公知の転写法で、2枚の該触媒層付高分子フィルムで、別途用意した1枚の高分子電解質膜を挟んで、熱プレスを実施することで、高分子電解質膜の両面に触媒層を付着させた後、高分子フィルムを剥がす。次に、得られた触媒層付高分子電解質膜を2枚の予め準備した多孔性カーボンシートで、挟んで、公知の熱プレス法で膜・電極接合体を製造する。

【0074】
(高分子電解質膜)
上記予め準備する高分子電解質膜は、公知のカチオン交換膜、又はアニオン交換膜を用いることができる。カチオン交換膜としては、デュポン社製のナフィオン「Nafion」(登録商標)、ゴア社製の「Gore-Select」(登録商標)等の全フッ素系高分子電解質膜、スルホン化した芳香族炭化水素系高分子電解質膜、フッ素系フィルムにグラフト重合及び/または化学変換反応によりスルホン酸基を導入した高分子電解質膜等が挙げられる。アニオン交換膜としては、3級又は4級アミン基を有する強塩基性アニオン交換膜が好ましい。

【0075】
触媒層にカチオン伝導性を有する電解質ポリマーを形成させた場合には、膜・電極接合体に使用する高分子電解質膜はカチオン交換膜が好ましい。

【0076】
触媒層にアニオン伝導性を有する電解質ポリマーを形成させた場合には、膜・電極接合体に使用する高分子電解質膜はアニオン交換膜が好ましい。

【0077】
高分子電解質膜は、触媒層中の電解質ポリマーと同じ高分子構造があれば、接合性が向上することが期待できるので、より好ましい。

【0078】
高分子電解質膜の膜厚は通常10~250μm程度、好ましくは20~150μm程度である。
(本発明の触媒層形成用組成物の特長)
a)高価なパーフルオロスルホン酸系電解質ポリマーを使用しない。
b)パーフルオロスルホン酸系電解質ポリマーの複雑で高価な溶媒系を必要としない。
c)ビニルモノマーを溶解することができる溶媒であれば、特に制限なく、水とアルコール溶媒との混合溶媒系など入手しやすく、安価で、操作しやすいものを用いることができる。

【0079】
金属微粒子の前駆体として金属化合物を使う場合、溶媒としては、とアルコール溶媒との混合溶媒系が特に効果的である。
d)触媒として機能する金属微粒子を直接配合して使用せず、前駆体の金属化合物を配合しておき、触媒層形成の“その場"で放射線照射により金属微粒子に還元して触媒とするので、余分な金属化合物は回収でき、使用量を大幅に節約できる。触媒層形成用組成物で使用する溶媒系も、上記した水とアルコール溶媒との混合溶媒系など入手しやすく、安価で、操作しやすいもので、問題ない。

【0080】
モノマーが、放射線照射により重合して電解質ポリマーになると同時に、架橋も進んで、電解質ポリマーが触媒層で固着しつつ、架橋した電解質ポリマーがその場に他の触媒層成分を固定するので、高活性で長寿命の触媒層が得られる。
f)ビニルモノマーの重合による電解質ポリマーの生成、及び、金属化合物の還元・触媒の形成の両方が、放射線照射によって、同時に起こせるので、触媒層形成プロセスが単一工程で完結し、製造の手間とコストが大きく低減できる。
g)触媒層形成用組成物に、水とアルコールを配合しておくと、放射線照射を契機に両成分の協働作用により生成する水和電子が、金属化合物の還元・触媒の形成を担うので、きわめて効率的に金属微粒子の触媒が生成でき、副次的なトラブルが無い。
h)触媒層自体が、低コストで、高活性で、長寿命である。
<燃料電池などの電気化学デバイス>
本発明によれば、高分子形燃料電池、レッドクス電池、ガスセンサーなどの電気デバイス、および水電解システム、ハロゲン化水素酸電解システム、食塩電解システムなどが構成できる。

【0081】
本発明の固体高分子形燃料電池は、前記本発明の製造方法により製造した膜・電極接合体を含むことを特徴とする。

【0082】
固体高分子形燃料電池は、負極に燃料、例えば水素ガス、メタノール溶液などを供給し、正極には酸素又は空気を供給する。それぞれの電極で電気化学反応が起こり、発電することができる。

【0083】
触媒層の電解質ポリマー及び高分子電解質膜にカチオン伝導性を持つ燃料電池は、プロトン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell, PEMFC)と呼ばれる。水素を燃料とする電気化学反応は次のように示される。

【0084】
負極:2H2 → 4H+ + 4e-
正極:O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O
トータル反応:2H2 + O2 → 2H2O
触媒層の電解質ポリマー及び高分子電解質膜にアニオン伝導性を持つ燃料電池は、アルカリ形燃料電池であり、アニオン交換膜燃料電池(Anion Exchange Membrane Fuel Cell, AEMFC)とも呼ばれる。水素を燃料とする電気化学反応は次のように示される。

【0085】
負極:2H2 + 4OH- → 4H2O + 4e-
正極:O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
トータル反応:2H2 + O2 → 2H2O
電池の性能は、公知の方法で評価される。たとえば、同一の電流密度なら、電圧の高い方が高性能と評価される。一般的に同一電流密度で電圧が高いほど、電池性能が高いことになる。また、燃料電池の効率は電圧に依存する。電圧が高ければ燃料電池効率も高くなる。

【0086】
本発明の触媒層形成用組成物、及び、それを用いた触媒層の製造方法によれば、以下のごとく、固体高分子形燃料電池用の機能部材が簡単に製造できる。

【0087】
多孔性カーボンシート上で触媒層を形成した場合は、触媒層付電極が得られる。次いで、2枚の触媒層付電極の間に、高分子電解質膜を挟んで、熱プレスすれば膜・電極接合体MEAが簡単に得られる。

【0088】
他方、高分子フィルム上で触媒層を形成した場合は、触媒層付高分子フィルムが得られる。転写法で、該触媒層付高分子フィルムを高分子電解質膜の両面に熱プレスで転写すれば、触媒層付高分子電解質膜CCMが簡単に得られる。さらに、その触媒層付高分子電解質膜CCMを2枚の多孔性カーボンシートで挟んで、熱プレスすれば膜・電極接合体MEAが得られる。

【0089】
得られた膜・電極接合体MEAは、固体高分子形燃料電池、レドックス電池、ガスセンサーなどの電気化学デバイスおよび水電解システム、ハロゲン化水素酸電解システム、食塩電解システムなどに使用可能である。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
以下の実施例及び比較例には、以下に示すものを用いた。
・カチオン伝導性ビニルモノマー:スチレンスルホン酸ナトリウム、東ソー有
機化学社製、商品名、NaSS;
・アニオン伝導性ビニルモノマー:ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、AGCセイミケミカル株式会社製、商品名、QBm;
・白金担持カーボンブラック(田中貴金属工業社製、TEC10E50E、白金含有量50%);
・炭素担体:カーボンブラック(カボット・コーポレイテッド社製VULCAN(登録商標)XC‐72);
・金属化合物:塩化白金酸錯体(H2PtC16・6H20、分子量517.9、白金原子含有量37.5%、一般市販品);
・アルコール系溶媒:イソプロピルアルコール(iPrOH)、一般市販品;
・多孔性カーボンシート:SGLカーボンジャパン社製、商品名、GDL25BC;
・高分子フィルム:ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、50ミクロセンチメータル厚、一般市販品;
・プロトン交換型高分子電解膜:ナフィオン212(登録商標)(デュポン社製)。
・アニオン交換型高分子電解質膜:ネオセプタAHA(商品名、トクヤマ社製)アニオン炭化水素膜
<予備実験例1>
第1の調製工程としては、スチレンスルホン酸ナトリウム0.5g、白金担持カーボンブラック1.0g、イソプロピルアルコール 10.0g、水10.0gをガラス瓶に入れ、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数で1時間撹絆し、さらに、超音波で30分間分散させた。
第2の塗布工程では、得られたペーストを筆で多孔性カーボンシート表面に均一に塗布した。多孔性カーボンシートは長さ100cm、幅10cmで、面積1000cm2とした。
【実施例】
【0092】
第3の照射工程としては、塗布した多孔性カーボンシートをビニル袋に封じ、電子線照射装置〔日新電機(株)製〕のコンベアに乗せて、2m/minの速度で搬送しながら、電子線を照射した。電子線照射は、加速電圧1MV、加速電流6mAの条件下で行い、照射線量を30kGyとした。この時、スチレンスルホン酸ナトリウムは放射線照射により重合し、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Poly(NaSS))になった。
【実施例】
【0093】
第4の化学変換・乾燥処理工程としては、1M HCl溶液で24時間の室温処理によりイオン交換することで、生成したポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Poly(NaSS))をポリスチレンスルホン酸(Poly(SS))に変換した。その後、40℃、24時間乾燥して、触媒層付多孔性カーボンシート、すなわち電極を得た。
第5の熱プレス工程として、製造した電極を5cm×5cmの大きさに切断し、10cm×10cmの大きさのプロトンイオン交換型高分子電解質膜の両面につけ、ホットプレス装置により、140℃、0.5MPaで1分間保持した後、同温度で5MPa、1分間熱圧着し、膜・電極接合体を得た。
【実施例】
【0094】
前記膜・電極接合体を燃料電池(東陽製、25cm2)に組み込み、負極へ水素、正極へ酸素を供給して燃料電池を評価した。電池電圧は表1に示した。
<実施例1>
予備実験例1の第1の調製工程において、白金担持カーボンブラック1.0gに代わり、カーボンブラック0.5gおよび塩化白金酸錯体1.3gを使用して触媒ペーストを調製した。
【実施例】
【0095】
予備実験例1と同じ条件で第2の塗布工程、第3の照射工程、第4の化学変換・乾燥処理工程及び第5の熱プレス工程を経て、膜・電極接合体を得た。
なお、照射工程において、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Poly(NaSS))をポリスチレンスルホン酸(Poly(SS))に変換した。塩化白金酸錯体は放射線照射により白金微粒子に還元され、カーボンブラックに担持された。
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表1に示した。
<予備実験例2>
予備実験例1の第1の調製工程で得られた触媒層ペーストを、第2の塗布工程として、PTFEフィルム表面に均一に塗布した。PTFEフィルムは長さ100cm、幅10cmで、面積1000cm2とした。
【実施例】
【0096】
予備実験例1と同じ条件で第3の照射工程及び第4の化学変換・乾燥処理工程を経て、触媒層付高分子フィルムを得た。
【実施例】
【0097】
第5の熱プレス工程として、製造した触媒層付高分子フィルムを5cm×5cmの大きさに切断し、10cm×10cmの大きさのプロトンイオン交換型高分子電解質膜の両面につけ、ホットプレス装置により、140℃、0.5MPaで1分間保持した後、同温度で5MPa、1分間熱圧着した後、PTFEフィルムを外し、触媒層を高分子電解質膜の両面に転写した。次に、触媒層付高分子電解質膜の両面にそれぞれ多孔性カーボンシート(5cm×5cm)を挟んで、ホットプレス装置により、140℃、0.5MPaで1分間保持した後、同温度で5MPa、1分間熱圧着し、膜・電極接合体を得た。
【実施例】
【0098】
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表1に示した。
<実施例2>
実施例1の第1の調製工程で得られた触媒層ペーストを、予備実験例2と同じ条件で第2の塗布工程、第3の照射工程、第4の化学変換・乾燥処理工程及び第5の熱プレス工程を経て、膜・電極接合体を得た。
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表1に示した。
<比較例1>
ポリスチレンスルホン酸0.5g、白金担持カーボンブラック1.0g、イソプロピルアルコール10.0g、水10.0gをガラス瓶中混ぜ、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数で1時間撹絆し、さらに、超音波で30分間分散した。得られた触媒ペーストを、予備実験例1の第2の塗布工程と同じ条件で、多孔性カーボンシート表面に均一塗布した。塗布した多孔性カーボンシートを40℃、24時間乾燥して、触媒層付多孔性カーボンシート、すなわち電極を得た。
【実施例】
【0099】
製造した電極は予備実験例1の第5の熱プレス工程を経て膜・電極接合体を得た。
【実施例】
【0100】
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表1に示した。
<予備実験例3>
予備実験例1の第1の調製工程において、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSNa)0.5gに代わり、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(QBm)0.7gを使用して触媒層ペーストを調製した。
【実施例】
【0101】
予備実験例1と同じ条件で第2の塗布工程、第3の照射工程を行った。なお、照射工程においては、照射線量を10kGyとした。この時、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(QBm)は放射線照射により重合し、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(Poly(QBm))になった。
【実施例】
【0102】
第4の化学変換・乾燥処理工程では、第3の照射工程で得られた多孔層カーボンシートを1MのKOH溶液で24時間の室温処理によりイオン交換することで、生成したポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(Poly(QBm))をポリ(ビニルベンジルトリメチルアンモニウム水酸物)(Poly(QBOH))に変換した。その後、40℃、24時間乾燥して、触媒層付多孔性カーボンシート、すなわち電極を得た。
第5の熱プレス工程として、製造した電極を5cm×5cmの大きさに切断し、10cm×10cmの大きさのアニオン交換型高分子電解質膜の両面につけ、ホットプレス装置により、140℃、0.5MPaで1分間保持した後、同温度で5MPa、1分間熱圧着し、膜・電極接合体を得た。
【実施例】
【0103】
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表2に示した。
<実施例3>
予備実験例3の第1の調製工程において、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(QBm)0.7g、塩化白金酸錯体1.3g、イソプロピルアルコール10.0g、水10.0gをガラス瓶にいれて触媒層形成用組成物を調製する。
【実施例】
【0104】
予備実験例3と同じ条件で第2の塗布工程、第3の放射線照射工程、第4の化学変換・乾燥処理工程及び第5の熱プレス工程を経て、膜・電極接合体を得た。
なお、照射工程において、照射線量を30kGyとした。この時、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(Poly(QBm))を生成するとともに、塩化白金酸錯体は放射線照射により白金微粒子に還元され、カーボンブラックに担持された。
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表2に示した。
<予備実験例4>
予備実験例3の第1の調製工程と同じ条件で触媒層ペーストを調製した。
【実施例】
【0105】
予備実験例2の第2の塗布工程、予備実験例3の第3の照射工程及び第4の化学変換・乾燥処理工程を経て、触媒層付高分子フィルムを得た。
第5の熱プレス固定として、製造した触媒層付高分子フィルムを5cm×5cmの大きさに切断し、10cm×10cmの大きさのアニオン交換型高分子電解質膜の両面につけ、ホットプレス装置により、140℃、0.5Mpaで1分間保持した後、同温度で5Mpa、1分間熱圧着した後、PTFEフィルムを外し、触媒層を高分子電解質膜の両面に転写した。次に、触媒層付高分子電解質膜の両面にそれぞれ多孔性カーボンシート(5cm×5cm)を挟んで、ホットプレス装置により、140℃、0.5Mpaで1分間保持した後、同温度で5Mpa、1分間熱圧着し、膜・電極接合体を得た。
【実施例】
【0106】
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表2に示した。
<実施例4>
実施例3の第1の調製工程で触媒層形成用組成物を調製した。
予備実験例4と同じ塗布工程、照射工程、化学変換・処理工程および熱プレス工程を経て、膜・電極接合体を得た。
なお、照射工程において、照射線量を30kGyとした。この時、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(Poly(QBm))を生成するとともに、塩化白金酸錯体は放射線照射により白金微粒子に還元され、カーボンブラックに担持された。
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表2に示した。
<比較例2>
ポリ(ビニルベンジルトリメチルアンモニウム水酸物)0.7g、白金担持カーボンブラック1.0g、イソプロピルアルコール10.0g、水10.0gをガラス瓶中に入れ、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数で1時間撹絆し、さらに、超音波で30分間分散させた。得られた触媒ペーストを、予備実験例3の第2の塗布工程と同じ条件で、多孔性カーボンシート表面に均一塗布した。塗布した多孔性カーボンシートを40℃、24時間乾燥して、触媒層付多孔性カーボンシート、すなわち電極を得た。
【実施例】
【0107】
製造した電極は予備実験例3と同じ熱プレス工程を経て膜・電極接合体を得た。
予備実験例1と同じ条件で燃料電池を評価した。電池電圧は表2に示した。
【実施例】
【0108】
【表1】
JP0005669201B2_000002t.gif
【実施例】
【0109】
【表2】
JP0005669201B2_000003t.gif
【実施例】
【0110】
表1のプロトン交換膜燃料電池の電池電圧から明らかなように、実施例の電池電圧は比較例の電池電圧より、遥かに高いことがわかった。これは、電解質ポリマーを“その場”生成したことで、電気化学反応に必要な三相界面を大きく確保できたことが要因として挙げられる。また、電解質ポリマー又は触媒である金属微粒子を“その場”生成することで、触媒層の製造コストを大きく低減できる可能性もある。表2から、アニオン交換膜燃料電池においても、本発明の有意性は明らかである。
【実施例】
【0111】
今後の検討課題としては、アニオン交換膜燃料電池に関して、プロトン交換膜形燃料電池と同様に各種のプロセス条件や組成などを検討して諸性能を改良することである。いずれにしても、本発明の触媒層形成用組成物、触媒層の製造方法は、触媒層の低コスト化と高性能化を両立させることが明らかである。