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明細書 :植物に対する微生物の感染を防止又は抑制する方法及び微生物感染抵抗性植物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5552649号 (P5552649)
登録日 平成26年6月6日(2014.6.6)
発行日 平成26年7月16日(2014.7.16)
発明の名称または考案の名称 植物に対する微生物の感染を防止又は抑制する方法及び微生物感染抵抗性植物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A01H   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/00 P
C12N 5/00 103
A01H 1/00 A
A01N 63/00 F
A01H 5/00 A
A01H 5/10
請求項の数または発明の数 17
全頁数 133
出願番号 特願2011-504902 (P2011-504902)
出願日 平成22年3月16日(2010.3.16)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成20年10月21日つくば国際会議場(エポカルつくば)において開催された農業生物資源研究所研究成果発表会(主催者名:独立行政法人農業生物資源研究所)でポスターおよび配布資料にて発表
特許法第30条第1項適用 第8回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集(平成20年10月24日発行)30頁(0-11)に発表
国際出願番号 PCT/JP2010/054906
国際公開番号 WO2010/107126
国際公開日 平成22年9月23日(2010.9.23)
優先権出願番号 2009062350
優先日 平成21年3月16日(2009.3.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年8月19日(2011.8.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】西村 麻里江
【氏名】西澤 洋子
【氏名】藤川 貴史
【氏名】光原 一朗
【氏名】南 栄一
【氏名】阿部 敬悦
【氏名】立木 隆
【氏名】矢野 成和
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】荒木 英則
参考文献・文献 欧州特許出願公開第01207197(EP,A1)
J. Exp. Bot.,2006年,Vol.57(14),pp.3911-3920
Appl. Environ. Microbiol.,2001年,Vol.67(12),pp.5833-5839
Mol. Microbiol.,2009年 7月21日,Vol.73(4),pp.553-570
Trends Plant Sci.,2002年,Vol.7(5),pp.210-216
FEBS J.,2005年,Vol.272(2),pp.493-499
Revista Mexicana de Fitopatolog?a,2004年,Vol.22(003),pp.333-337
平成11年度生物資源研究成果情報,2000年,No.9,pp.27-28
調査した分野 C12N 15/00-15/90
A01H 1/00- 5/10
A01N 63/00
C12N 1/00- 5/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
α-1,3-グルカンを細胞壁の恒常的構成成分として含む植物感染性微生物及び/又は宿主植物との接触に応答してα-1,3-グルカンを含む細胞壁被覆層を形成する植物感染性微生物で、かつMagnaporthe属菌、Rhizoctonia属菌、Cochliobolus属菌、及びThanatephorus属菌らなる群から選択される植物感染性微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカンをα-1,3-グルカナーゼにより分解することを特徴とする植物感染性微生物の宿主植物に対する感染を防止又は抑制する方法。
【請求項2】
前記植物が、双子葉類又は単子葉類植物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記植物がイネ科植物又はナス科植物である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記植物において外来遺伝子によって発現させたα-1,3-グルカナーゼにより、前記植物感染性微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカンを分解する、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
α-1,3-グルカナーゼを前記植物に接触させる、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含む微生物農薬製剤を前記植物に作用させる、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記微生物におけるα-1,3-グルカナーゼの発現量がその野生型株の通常生育時のその発現量と比較して有意に大である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記微生物にα-1,3-グルカナーゼの発現誘導処理を施す、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記発現誘導処理がα-1,3-グルカンの添加である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記α-1,3-グルカナーゼ遺伝子が内在性遺伝子である、請求項6~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記微生物がBacillus属菌、及び/又はPaenibacillus属菌である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含む微生物農薬製剤。
【請求項13】
前記微生物におけるα-1,3-グルカナーゼの発現量がその野生型株の通常生育時のその発現量と比較して有意に大である、請求項12記載の微生物農薬製剤。
【請求項14】
前記微生物にα-1,3-グルカナーゼの発現誘導処理を施す、請求項13記載の微生物農薬製剤。
【請求項15】
発現誘導処理がα-1,3-グルカンの添加である、請求項14記載の微生物農薬製剤。
【請求項16】
前記α-1,3-グルカナーゼ遺伝子が内在性遺伝子である、請求項12~15のいずれか1項記載の微生物農薬製剤。
【請求項17】
前記微生物が、Bacillus属菌、及び/又はPaenibacillus属菌である、請求項16記載の微生物農薬製剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物に対する植物感染性微生物の感染を防止又は抑制する方法及び微生物感染抵抗性植物の作製方法、及び微生物農薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞壁成分は、動植物の真核微生物に対する初期免疫システムにおいて、最初に認識される物質の1つである。動植物細胞は、真核微生物の細胞壁の分解産物を微生物分子パターン(MAMPs)として認識することにより生体防御反応を引き起こし、菌の感染を阻止する。動物細胞では細胞壁のキチン、β-グルカン、マンナンが、植物細胞ではキチンやβ-グルカンが、MAMPsとして認識されることが知られている(非特許文献3:Hogan et al.,1996;非特許文献2:Brown and Gordon,2005;非特許文献7:Reese et al.,2007;非特許文献1:Altenbach and Robatzek,2007)。
植物細胞は、MAMPsを認識すると溶菌酵素(細胞壁分解酵素等)や抗菌物質の生産等の生体防御反応を引き起こし、病原菌の感染を妨害する(非特許文献1:Altenbach and Robatzek,2007)。
細胞の防御反応に対抗するために感染菌が宿主による認識を回避する方法については、一部の病原菌の場合を除き、明らかになっていない。近年、動物病原菌であるHistoplasma capsulatumでは感染時の細胞壁表面がα-1,3-グルカンで覆われていること、植物感染菌であるPuccinia graminis、Uromyces fabae、Colletotrichum graminicolaでは感染時の細胞壁表面のキチンがキトサンに変換されていることが明らかになっている。これらの菌は、自身の細胞壁表面を宿主細胞に認識されにくい成分に再構築することで宿主によるMAMPs認識を妨害していると考えられている(非特許文献6:Rappleye et al.,2007;非特許文献4:Eddine El Gueddari et al.,2002)。
いもち病菌(Magnaporthe grisea)は、主にイネ科穀類に感染する重要な植物病原性糸状菌である。イネは、レセプターを介して菌の細胞壁由来のキチンオリゴマーを認識できることが知られているが(非特許文献5:Kaku et al.,2006)、イネによる細胞壁キチン認識に対するいもち病菌側の回避機構のみならず、イネいもち病菌の感染時の細胞壁構成成分に関する知見については全く知られていない。イネゲノム情報(http://www.nias.go.jp)から、イネにはα-1,3-グルカン分解酵素(α-1,3-グルカナーゼ)やキトサン分解酵素がないが、β-1,3-グルカン分解酵素、キチン分解酵素があることが明らかである。すなわち、イネにおいては侵入菌の細胞壁由来のMAMPsとして認識されるのはキチンやβ-1,3-グルカンの分解産物であり、侵入した菌の攻撃にはβ-1,3-グルカン分解酵素、キチン分解酵素が用いられていることが強く推測される。
一方、イネいもち病菌の細胞壁には、α結合を有するヘテロ多糖類が存在することは知られていたが(非特許文献8~11)、それらが具体的にどのような糖か、どのように局在しているかについては不明であった。
特許文献1(米国特許第5,670,706号公報)には、細胞内キチナーゼを発現させることにより植物の菌類病耐性を向上させることが記載されている。また、キチナーゼ遺伝子に加えてβ-1,3-グルカナーゼ遺伝子を導入することも記載されている。しかし、β-1,3-グルカナーゼ遺伝子を単独で発現させることについては言及されていない。さらに、α-1,3-グルカナーゼの利用については全く記載されていない。
特許文献2(再公表公報WO98/58065号)及び特許文献3(再公表公報WO97/22242号)には、グルカンエリシターレセプターをコードするDNAを、単独で又はグルカナーゼ遺伝子とともに植物に導入することにより、植物をカビに対して抵抗性にすることが記載されている。しかし、ここで使用されたグルカナーゼは、単独で発現させた場合には十分な抵抗性が得られなかったとされている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】米国特許第5,670,706号公報
【特許文献2】再公表公報WO98/58065号(発明の名称:カビ抵抗性植物及びその作出方法)
【特許文献3】再公表公報WO97/22242号(発明の名称:カビ耐性植物及びその作出方法)
【0004】

【非特許文献1】Altenbach,D.,Robatzek,S.,2007.Pattern recognition receptors:from the cell surface to intracellular dynamics.Mol.Plant-Microbe.Interact.20,1031-1039.
【非特許文献2】Brown,G.D.,Gordon,S.,2005.Immune recognition of fungal β-glucans.Cell.Microbiol.7,471-479.
【非特許文献3】Hogan,L.H.,Klein,B.S.,Levitz,S.M.,1996.Virulence factors of medically important fungi.Clin.Microbiol.Rev.9,469-488.
【非特許文献4】Eddine El Gueddari,N.,Rauchhaus,U.,Moerschbacher,B.M.,Deising,H.B.,2002.Developmentally regulated conversion of surface-exposed chitin to chitosan in cell walls of plant pathogenic fungi.New Phytologist.156,103-112.
【非特許文献5】Kaku,H.,Nishizawa,Y.,Ishii-Minami,N.,Akimoto-Tomiyama,C.,Dohmae,N.,Takio,K.,Minami,E.,Shibuya,N.,2006.Plant cells recognize chitin fragments for defense signaling through a plasma membrane receptor.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.103,11086-11091.
【非特許文献6】Rappleye,C.A.,Groppe Eissenberg,L.,Goldman,W.E.,2007.Histoplasma capsulatum α-(1,3)-glucan blocks innate immune recognition by the β-glucan receptor.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.104,1366-1370.
【非特許文献7】Reese,T.A.,Liang,H.-E.,Tager,A.M.,Luster,A.D.,Rooijen,N.V.,Voehringer,D.,Locksley,R.M.,2007.Chitin induces accumulation in tissue of innate immune cells associated with allergy.Nature 447,92-96.
【非特許文献8】中島ら、日本植物病理学会報、第34巻第5号(昭和43年(1968年)12月)、360頁右欄(12)
【非特許文献9】田中ら、Ann.Phytopath.Soc.Japan、XXXV(2),March 1969、95頁左欄(9)
【非特許文献10】中島ら、Ann.Phytopath.Soc.Japan、XXXVI(3),June 1970、159頁左欄(9)
【非特許文献11】Nakajima et al.,J.Biochem.1977 Dec;82(6):1657-62
【非特許文献12】D’Haeze and Holsters.2004.Surface polysaccharides enablebacteria to evade plant immunity.,Trends Microbiol.12:555-561
【発明の概要】
【0005】
本発明は、植物感染性微生物による感染を防止又は抑制し、宿主植物に抵抗性を付与する方法、植物感染性微生物による感染に対して耐性を有する植物の作製方法、及び微生物農薬製剤を提供することを目的とする。
本発明者は、植物感染性微生物の多くがα-1,3-グルカンを細胞壁の恒常的な構成成分として含むこと、また一部の植物感染性微生物では宿主植物への感染時にα-1,3-グルカン層で菌糸及び感染器官が被覆されることに基づき、当該α-1,3-グルカンをα-1,3-グルカナーゼによって分解することで宿主植物に接種した植物感染性微生物の感染力を低減できることを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下を提供する。
(1)植物感染性微生物の宿主植物に対する感染を防止又は抑制する方法であって、前記微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカンをα-1,3-グルカナーゼにより分解することを特徴とする方法。
(2)前記植物感染性微生物は、細胞壁における恒常的構成成分としてα-1,3-グルカンを含む、(1)記載の方法。
(3)前記植物感染性微生物は、宿主植物との接触に応答してα-1,3-グルカンを含む細胞壁被覆層を形成する、(1)又は(2)記載の方法。
(4)前記植物感染性微生物が、Botrytis属菌、Aspergillus属菌、Sclerotinia属菌、Puccinia属菌、Colletotrichum属菌、Fusarium属菌、Alternaria属菌、Rhizoctonia属菌及びSclerotium属菌、Peronospora属菌、Sphaerotheca属菌、Erysiphe属菌からなる群から選択される、(2)記載の方法。
(5)前記植物感染性微生物が、Magnaporthe属菌又はColletotrichum属菌である、(3)記載の方法。
(6)前記植物が、双子葉類又は単子葉類植物である、(1)~(5)のいずれか記載の方法。
(7)前記植物がイネ科植物又はナス科植物である、(6)記載の方法。
(8)前記植物において外来遺伝子によって発現させたα-1,3-グルカナーゼにより、前記植物感染性微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカンを分解する、(1)~(7)のいずれか記載の方法。
(9)α-1,3-グルカナーゼを前記植物に接触させる、(1)~(8)のいずれか記載の方法。
(10)α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含む微生物農薬製剤を前記植物に作用させる、(1)~(9)のいずれか記載の方法。
(11)前記微生物におけるα-1,3-グルカナーゼの発現量がその野生型株の通常生育時のその発現量と比較して有意に大である、(10)記載の方法。
(12)前記微生物にα-1,3-グルカナーゼの発現誘導処理を施す、(11)記載の方法。
(13)前記発現誘導処理がα-1,3-グルカンの添加である、(12)記載の方法。
(14)前記α-1,3-グルカナーゼ遺伝子が内在性遺伝子である、(1)~(13)のいずれか記載の方法。
(15)前記微生物がBacillus属、Paenibacillus属菌、Aspergillus属菌及び/又はTrichoderma属菌である、(14)記載の方法。
(16)α-1,3-グルカナーゼをコードする遺伝子を含む発現ベクターで植物を形質転換する工程を含むことを特徴とする、微生物感染抵抗性植物の作製方法。
(17)(16)記載の方法に使用するための、α-1,3-グルカナーゼをコードする遺伝子を含む発現ベクター。
(18)(17)記載の発現ベクターを含む植物細胞。
(19)(18)記載の植物細胞を含む植物組織。
(20)(18)記載の植物細胞又は(19)記載の植物組織を含む植物体。
(21)(20)記載の植物体から得られる種子。
(22)α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含む微生物農薬製剤。
(23)前記微生物におけるα-1,3-グルカナーゼの発現量がその野生型株の通常生育時のその発現量と比較して有意に大である、(22)記載の微生物農薬製剤。
(24)前記微生物にα-1,3-グルカナーゼの発現誘導処理を施す、(23)記載の微生物農薬製剤。
(25)発現誘導処理がα-1,3-グルカンの添加である、(24)記載の微生物農薬製剤。
(26)前記α-1,3-グルカナーゼ遺伝子が内在性遺伝子である、(22)~(25)のいずれか記載の微生物農薬製剤。
(27)前記微生物が、Paenibacillus属、Bacillus属菌、Trichoderma属菌とAspergillus属菌である、(26)記載の微生物農薬製剤。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-062350号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、いもち病菌の感染器官における細胞壁構成成分の検出を示す図である。図中、パネルA1及びA2はそれぞれ接種後16時間及び24時間の明視野像である。パネルB1及びB2はα-1,3-グルカン、パネルC1及びC2はβ-1,3-グルカン、パネルD1及びD2はキチン、パネルF2はキトサン、パネルH2はマンナンを、それぞれ染色した像である。パネルE2はキトサン染色像(F2)、パネルG2はマンナン染色像(H2)に対応する明視野像である。上段パネルは接種後16時間、中段及び下段パネルは接種後24時間の像である。C=胞子、G=発芽管、A=付着器、IF=侵入菌糸を表し、各パネルのバーは20μmである。
図2は、α-1,3-グルカナーゼ処理後のいもち病菌侵入菌糸での細胞壁成分の検出を示す図である。図中、パネルAは明視野像であり、パネルBはα-1,3-グルカン、パネルCはβ-1,3-グルカン、パネルDはキチンで、それぞれ染色した像である。 A=付着器、IF=侵入菌糸を表し、各パネルのバーは20μmである。
図3Aは、α‐1,3-グルカン合成遺伝子(MgAGS1)をマーカー遺伝子であるビアラフォス耐性遺伝子(Bar遺伝子)と置換することにより、欠損株を作製するためのストラテジーを示す図である。
図3Bは、MgAGS1のビアラフォス耐性遺伝子(Bar遺伝子)による置換をサザンハイブリダイゼーション法により確認した図である。プローブとして、上パネルは「probe AGS1-int2」、下パネルは「probe Bar」を使用した。
図4は、野生株及びΔMgAGS1株の感染器官形成能を示す図である。上パネルは、カバーグラス上での、野生株(左)及びα-1,3-グルカン合成酵素欠損株(ΔMgAGS1株)(右)の感染器官形成を示す像である。下パネルは、熱処理したタマネギ鱗片細胞上での、野生株(左)及びΔMgAGS1株(右)の感染器官形成を示す像である。 C=胞子、A=付着器、IF=侵入菌糸を表す。
図5は、ΔMgAGS1株のイネに対する感染力の低下を示す図である。左パネルは野生株、右パネルはΔMgAGS1株をそれぞれ接種した後のイネ葉の図である。
図6は、ΔMgAGS1株のオオムギに対する感染力の低下を示す図である。左パネルは野生株、右パネルはΔMgAGS1株をそれぞれ接種した後のオオムギ葉の図である。
図7は、α-1,3-グルカナーゼの添加によるイネにおけるいもち病菌付着器及び侵入菌糸形成の阻害を示す図である。左パネルは野生株、右パネルは野生株にα-1,3-グルカナーゼを添加したものを、それぞれ接種した48時間後のイネ細胞の観察像である。右下のバーは20μmである。
図8は、α-1,3-グルカナーゼを添加した場合の野生株の感染力の低下を示す図である。左パネルはα-1,3-グルカナーゼ無添加の野生株を、右パネルはα-1,3-グルカナーゼを添加した野生株を、それぞれ接種した後のイネ葉の図である。
図9は、α-1,3-グルカナーゼを添加した場合の野生株の感染力の低下を示す図である。左パネルはα-1,3-グルカナーゼ無添加の野生株を、右パネルはα-1,3-グルカナーゼを添加した野生株を、それぞれ接種した後のオオムギ葉の図である。
図10は、プラスチック表面上でのいもち病菌細胞壁成分合成酵素遺伝子の転写量を示す図である。パネル(A)は示した時間における胞子の顕微鏡像を示す。右下のバーは20μmである。パネル(B)はα-1,3-グルカン合成酵素(MgAGS1)遺伝子、パネル(C)はβ-1,3-グルカン合成酵素(MgFKS1)遺伝子の転写量を、それぞれアクチン遺伝子の転写量に対する相対値として表したものである。
図11は、イネにおけるいもち病菌細胞壁成分合成酵素遺伝子の転写量を示す図である。パネル(A)はMgAGS1、パネル(B)はMgFKS1の転写量を、それぞれアクチン遺伝子の転写量に対する相対値として表したものである。
図12は、本発明の発現ベクターの一例である。
図13は、本発明の発現ベクターの一例である。
図14は、本発明の発現ベクターの一例である。
図15は、本発明の発現ベクターの一例である。
図16Aは、agl遺伝子T0トランスジェニックイネにおけるゲノミックDNAへのagl遺伝子の組み込みを確認したゲル電気泳動の結果である。
図16Bは、agl遺伝子T0トランスジェニックイネにおけるagl遺伝子の発現をRT‐PCR法により確認した結果である。
図16Cは、agl遺伝子T0トランスジェニックイネ中のAglタンパク質をウエスタンブロット解析法により確認した結果である。
図17は、agl遺伝子T0トランスジェニックイネにおける親和性いもち病菌に対する抵抗性を示す。
図18は、agl遺伝子T0トランスジェニックイネにおける非親和性いもち病菌に対する抵性を示す。
図19は、agl遺伝子T0トランスジェニックイネにおけるごま葉枯病菌に対する抵抗性を示す。
図20は、agl遺伝子T1トランスジェニックイネにおけるagl遺伝子発現を示す。
図21は、agl遺伝子T1トランスジェニックイネにおけるいもち病菌に対する抵抗性を示す。
図22は、agl遺伝子T1トランスジェニックイネにおけるごま葉枯病菌に対する抵抗性を示す。
図23Aは、agl遺伝子T1トランスジェニックイネにおけるイネ紋枯病菌に対する抵抗性を示す。
図23Bは、agl遺伝子T1トランスジェニックイネにおけるイネ紋枯病菌に対する抵抗性を示す。
図24Aは、α-1,3-グルカナーゼ処理した灰色かび病菌のタバコ葉感染阻害を示す。aは、1,3-グルカナーゼ処理済みの灰色かび病菌胞子を接種したもの、bは、1,3-グルカナーゼ無添加のバッファーのみに懸濁した灰色かび病菌胞子を接種したものである。
図24Bは、タバコ葉でのα-1,3-グルカナーゼ一過的発現による灰色かび病菌の感染阻害を示す。aの破線内は、1,3-グルカナーゼを一過的発現させた部位に灰色カビ菌を接種した箇所、bの破線内は、1,3-グルカナーゼを無発現部位に灰色カビ菌を接種した箇所である。
図25は、α-1,3-グルカナーゼを分泌する枯草菌Bacillus circulans KA304株におけるagl遺伝子の発現を示す。
図26は、微生物農薬製剤の有効成分の一つであるBacillus circulans KA304株の接種によるイネのいもち病菌に対する感染防除効果を示す。
図27は、イネ(Nipponbare N2)に感染した植物感染性微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカンを示した図である。左パネルのBFは、明視野を、右パネルのα‐Gは、α-1,3-グルカンの抗体染色図を示す。
図28は、様々な植物感染性微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカンを示した図である。BFは明視野を、α‐Gはα-1,3-グルカンの抗体染色図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.植物感染性微生物の感染防止又は抑制方法
1-1.構成
本発明の第1の実施形態は、植物感染性微生物の宿主植物に対する感染防止又は抑制方法である。本発明の植物感染性微生物の感染防止又は抑制方法は、植物感染性微生物の細胞壁のα-1,3-グルカンをα-1,3-グルカナーゼによって分解することを特徴とする。
本発明において「微生物」とは、肉眼での認識が困難な大きさの生物、たとえば、バクテリア(細菌)や酵母のような単細胞真核微生物、肉眼での認識が困難か又は認識可能な糸状菌(カビを含む)又は担子菌(キノコ等)のような多細胞真核微生物をいう。
「植物感染性微生物」とは、植物に対して感染性を有し、その感染によって宿主植物に何らかの病的症状をもたらす微生物をいう。本発明の対象となる植物感染性微生物は、少なくとも細胞壁にα-1,3-グルカンを有することを要する。細胞壁中のα-1,3-グルカンは、細胞壁の恒常的構成成分であってもよいし、宿主植物との接触に応答して形成される細胞壁被覆層に含まれていてもよい。「宿主植物との接触に応答して」とは、たとえば、植物感染性微生物又はその胞子が宿主植物に接触したときに、宿主植物体表面の堅さや植物表面のワックスを認識し、それらの物質に応答して、という意味である。
以下に、本発明の対象となり得る植物感染性微生物の具体例を列挙する。ただし、以下に記載した病名は、その微生物を原因とする疾病の一病名に過ぎず、たとえば、表1に記載のような様々な別名称を包含するものとする。したがって、本発明の植物感染性微生物の感染防止又は抑制方法は、下記病名で特定される疾病の予防システムと言い換えることができる。
α-1,3-グルカンを細胞壁の恒常的構成成分として有する代表的な植物感染性の糸状菌としては、たとえば、Botrytis属(Botryotinia属)菌(たとえば、灰色カビ病菌(Botrytis cinerea))、Aspergillus(Eurotium属)菌(たとえば、Aspergillus flavus(日和見感染:アフラトキシン生産菌))、Colletotrichum属(Glomerella属)菌(たとえば、イチゴ炭疽病菌(Colletotrichum acutatum)、ウリ類炭疽病菌(Colletotrichum orbiculare))、Fusarium属(Gibberella属、Haematonectoria属、nectoria属及びCalonectoria属)菌(たとえば、キャベツ萎黄病菌(Fusarium oxysporum))、Alternaria属菌(たとえば、ナシ黒斑病菌(Alternaria alternata)、トマト輪紋病菌(Alternaria solani))、Rhizoctonia属(Thanatephorus属)菌(たとえば、苗立枯病菌(Rhizoctonia solani))、Sclerotium属菌(たとえば、白絹病菌(Sclerotium rolfsii))等が挙げられる。
また、担子菌類、いわゆるキノコによる被害は一般的に果樹で問題になっているが、キノコではかなりの属でα-1,3-グルカンを細胞壁にもつと考えられている。具体的には、たとえば、Sclerotinia属菌(たとえば、菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum))、Puccinia属(Aecidium属)菌(たとえば、ネギ類さび病菌(Puccinia allii))がある。
特に、Botrytis属菌、Aspergillus niger及びAspergillus flavus等のAspergillus属菌、Sclerotinia属菌、Puccinia属菌、Colletotrichum属菌、Fusarium属菌、Rhizoctonia属菌、Sclerotium属菌等は多犯性であり、各種作物に大きな被害を出しており、重要な植物感染菌である。
また、α-1,3-グルカンを宿主植物との接触に応答して形成される細胞壁被覆層に含む代表的な植物感染性の糸状菌としては、たとえば、前記Magnaporthe属菌又はColletotrichum属菌が挙げられる。
この他、主な植物感染性微生物(子嚢菌・担子菌・卵菌を含む)としては、Taphrina属菌(たとえば、モモ縮葉病菌(Taphrina deformans))、Blumeria属菌(たとえば、ムギ類うどんこ病菌(Blumeria graminis(Erysiphe graminis)))、Cystotheca属菌(たとえば、カシ紫かび病菌(Cystotheca wrightii))、Erysiphe属菌(たとえばハナミズキうどんこ病菌(Erysiphe pulchra(Microsphaera pulchra)))、Golovinomyces属菌(たとえば、キクうどんこ病菌(Golovinomyces cichoracearum(Erysiphe cichoracearum)))、Phyllactinia属(Ovulariopsis属)菌(たとえば、クワ裏うどんこ病菌(Phyllactinia moricola))、Podosphaera属(Sphaerotheca属)菌(たとえば、ウメうどんこ病菌(Podosphaera tridactyla))、Sawadaea属(Oidium属)菌(たとえば、カエデうどんこ病菌(Sawadaea polyfida))、Ceratocystis属菌(たとえば、サツマイモ黒斑病菌(Ceratosystis fimbriata))、Monosporascus属菌(たとえば、ウリ黒点根腐病菌(Monosporascus cannonballus))、Claviceps属(Ustilaginoidea属、Sphaecelia属)菌(たとえば、イネ稲こうじ病菌(Claviveps virens(Ustilaginoidea virens)))、Calonectria属(Cylindrocladium属)菌(たとえば、ダイズ黒根腐病菌(Calonectria ilicicola(Cylindrocladium parasiticum)))、Gibberella属菌(たとえば、イネ馬鹿苗病菌(Gibberella fujikuroi)、ムギ赤かび病菌(Gibberella zeae))、Haematonecria属菌(たとえば、エンドウ根腐病菌(Haematonecria haematococca(Fusarium solani)))、Nectria属菌(たとえば、クリ紅粒がんしゅ病菌(Nectria cinnabarina(Tubercularia vulgaris)))、Neonectria属菌(たとえば、ウリカエデがんしゅ病菌(Neonectria castaneicola(Cylindrocarpon castaneicola)))、Glomerella属菌(たとえば、イチゴ炭疽病菌(Glomerella cingulata(Colletotrichum gloeosporioides)))、Cryphonectria属菌(たとえば、クリ胴枯病菌(Cryphonectria parasitica(Endothiella parasitica)))、Diaporthe属菌(たとえば、リンゴ胴枯病菌(Diaporthe tanakae(Phomopsis sp.)))、Valsa属菌(たとえば、セイヨウナシ腐らん病菌(Valsa ceratosperma(Cytospora rosarum)))、Pestalosphaeria属菌(たとえば、マツ類ペスタロチア病菌(Pestalosphaeria gubae(Pestalotiopsis neglecta)))、Rosellinia属菌(たとえば、ナシ白紋羽病菌(Rosellinia necatrix))、Ciborinia属菌(たとえば、サザンカ菌核病菌(Ciborinia camelliae))、Ovulinia属菌(たとえば、ツツジ類花腐菌核病菌(Ovulinia azaleae))、Monilinia属菌(たとえば、モモ灰星病菌(Monilinia fructicola))、Diplocarpon属菌(たとえば、バラ黒星病菌(Diplocarpon rosae(Marssonina rosae)))、Elsinoe属菌(たとえば、カンキツ類そうか病菌(Elsinoe fawcetti(Sphaceloma citri)))、Cochliobolus属菌(たとえば、トウモロコシごま葉枯病菌(Cochliobolus heterostrophus(.Bipolaris maydis))、イネごま葉枯病菌(Cochliobolus miyabeanus(Bipolaris oryzae)))、Didymella属菌(たとえば、カボチャつる枯病菌(Didymella bryoniae(Ascochyta cucumis)))、Pleospora属菌(たとえば、タマネギ葉枯病菌(Pleospora herbarum(Stemphylium sp.)))、Venturia属菌(たとえば、ナシ黒星病菌(Venturia nashicola))、Mycosphaerella属菌(たとえば、カリン白かび斑点病(Mycosphaerella chaenomelis(Cercosporella chaenomelis)))、Helicobasidium属菌(たとえば、イモ類紫紋羽病菌(Helicobasidium mompa))、Ustilago属菌(たとえば、トウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis))、Tilletia属菌(たとえば、コムギなまぐさ黒穂病菌(Tilletia caries))、Exobasidium属菌(たとえば、ツツジもち病菌(Exobasidium japonicum))、Coleosporium属菌(たとえば、アカマツ葉さび病菌(Coleosporium pini-asteris))、Cronartium属菌(たとえば、マツこぶ病菌(Cronartium orientale))、Melampsora属菌(たとえば、ビョウヤナギさび病菌(Melampsora hypericorum))、Phakopsora属菌(たとえば、ブドウさび病菌(Phakopsora euvitis))、Phragmidium属菌(たとえば、ハマナスさび病菌(Phragmidium montivagum))、Gymnosporangium属菌(たとえば、カリン赤星病菌(Gymnosporangium asiaticum))、Uromyces属菌(たとえば、エンドウさび病菌(Uromyces viciae-fabae))、Blastospora属菌(たとえば、ウメ変葉病菌(Blastospora smilacis))、Thanatephorus属菌(たとえば、イネ紋枯病菌(Thanatephorus cucumeris(Rhizoctonia solani)))、Armillaria属菌(たとえば、ナシ類ナラタケ病菌(Armillaria mellea))、Erythricium属菌(たとえば、アンズ赤衣病菌(Erythricium salmonicolor))、Perenniporia属菌(たとえば、エンジュべっこうたけ病菌(Perenniporia fraxinea))、Ganoderma属菌(たとえば、サクラ類こふきたけ病菌(Ganoderma applanatum))、Phoma属菌(たとえば、ダイズ茎枯病菌(Phoma exigua))、Pyrenochaeta属菌(たとえば、トマト褐色根腐病菌(Purenochaeta lycopersici))、Phomopsis属菌(たとえば、アスパラガス茎枯病菌(Phomopsis asparagi))、Gloeodes属菌(たとえば、リンゴすす斑病菌(Gloeodes pomigena))、Tubakia属菌(たとえば、クリ斑点病菌(Tubakia japonica))、Ascochyta属菌(たとえば、デルフィニウム褐色斑点病菌(Ascochyta aquilegiae))、Lasiodiplodia属菌(たとえば、インドゴムノキ枝枯病菌(Lasiodiplodia theobromae))、Pestalotiopsis属菌(たとえば、ツツジ類ペスタロチア病菌(Pestalotiopsis maculans))、Ateroconium属菌(たとえば、タブノキ白粉病菌(Asteroconium saccardoi))、Oidiopsis属菌(たとえば、オクラうどんこ病菌(Oidiopsis sicula))、Verticillium属菌(たとえば、ダイコンバーティシリウム黒点病菌(Verticillium dahliae))、Penicillium属菌(たとえば、カンキツ青かび病菌(Penicillium italicum))、Cladosporium属菌(たとえば、ボタンすすかび病菌(Cladosporium paeoniae))、Corynespora属菌(たとえば、キュウリ褐斑病菌(Corunespora cassiicola))、Fulvia属菌(たとえば、トマト葉かび病菌(Fulvia fulva))、Cercospora属菌(たとえば、セルリー斑点病菌(Cercospora apii))、Pseudocercospora属菌(たとえば、ナス褐色円星病菌(Pseudocercospora egenula(Pracercospora egenula)))、Aphanomyces属菌(たとえば、カブ根くびれ病菌(Aphanomyces raphani))、Phytophthora属菌(たとえば、チューリップ疫病菌(Phytophthora cactorum)、トマト疫病菌(Phytophthora infestans))、Pythium属菌(たとえば、チューリップ根腐病菌(Pythium irregulare))、Albugo属菌(たとえば、ダイコン白さび病菌(Albugo macrospore))、Peronospora属菌(たとえば、ダイコンべと病菌(Peronospora parasitica))、Plasmopara属菌(たとえば、ブドウべと病菌(Plasmopara viticola))、Rhizopus属菌(たとえば、ニチニチソウくもの巣かび病菌(Rhizopus stolonifer))、Choanephora属菌(たとえば、エンドウこうがいかび病菌(Choanephora cucurbitarum))等が挙げられる。
α-1,3-グルカンを細胞壁の恒常的構成成分として有する主要な植物感染性細菌(バクテリア)としては、Xanthomonas属細菌(たとえば、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv.oryzae)、ワタ角点病菌(Xanthomonas axonopodis pv.malvacearum)、チャかいよう病菌(Xanthomonas theicola)、カンキツかいよう病(Xanthomonas axonopodis pv.citri))、Pseudomonas属細菌(たとえば、インゲンマメかさ枯病菌(Pseudomonas savastanoi pv.phaseolicola)、ダイズ斑点細菌(Pseudomonas savastanoi pv.glycinea)、トマト斑葉細菌(Pseudomonas syringae pv.tomato)、Ralstonia属細菌(たとえば、青枯病菌(Ralstonia solanacearum))、Acidovorax属細菌(たとえば、イネ科褐条病菌(Acidovorax avenae subsp.avenae))、Burkholderia属細菌(たとえば、イネ科もみ枯細菌(Burkholderia glumae))、Erwinia属(Pectobacterium属、Dickeya属含む)細菌(たとえば、ワサビ軟腐病菌(Erwinia carotovora subsp.wasabiae)、軟腐病菌(Pectobacterium carotovorum(=syn.Erwinia carotovora)))、Pantoea属細菌(たとえば、パイナップル花樟病菌(Pantoea ananas pv.ananas))、Agrobacterium属(Rhizobacter属含む)細菌(たとえば、メロン毛根病(Agrobacterium rhizogenes)、Clavibacter属細菌(たとえば、トマトかいよう病菌(Clavibacter michiganensis subsp.michiganensis))、Corynebacterium属細菌(たとえば、トウガラシかいよう病菌(Corynebacterium sp)、ジャガイモ輪腐病菌(Corynebacterium michiganense pv.sepedonicum))、Streptomyces属細菌(たとえば、そうか病(Streptomyces sp.))、Microbacterium属細菌(たとえば、イネ赤条斑病菌(Microbacterium sp.))、Xylella属細菌(たとえば、ブドウピアース病菌(Xylella fastidiosa))、Clostridium属細菌(たとえば、ジャガイモ粘性腐敗病菌(Clostridium sp.))等が挙げられる。
【表1】
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JP0005552649B2_000003t.gifJP0005552649B2_000004t.gifJP0005552649B2_000005t.gifJP0005552649B2_000006t.gif 前記微生物の宿主となる植物の細胞壁にはα‐1,3-グルカンが存在しない。それ故、α-1,3-グルカナーゼの接触により植物の細胞壁がダメージを受ける等の好ましくない影響は、皆無又はほとんどないと考えられる。したがって、本発明において、植物感染性微生物の感染防止又は抑制の保護対象となる宿主植物(被感染植物)の範囲は極めて広く、コケ類、シダ類、被子植物、裸子植物に及ぶ。ここで、被子植物は、双子葉類又は単子葉類植物のいずれも包含する。代表的なものとしては、農業的又は商業的に重要な植物、たとえば、穀類、花、野菜、果物等の作物植物が挙げられる。
具体的には、単子葉類植物では、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、カラスムギ、ハトムギ、キビ、アワ、ヒエ、シコクビエ、トウモロコシ、モロコシ、コウリャン、ソルガム、サトウキビ、タケ、ササ、マコモ、ススキ、ヨシ、シバ、ショウガ、ミョウガ、シバ、エンバク、ライムギ等、また、双子葉類植物では、ナス科植物(タバコ、トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、トウガラシ、ペチュニア)、マメ科(インゲンマメ、ダイズ、ピーナッツ、ヒラマメ、エンドウ、ソラマメ、ササゲ、クズ、スイートピー、タマリンド)、バラ科(イチゴ、バラ、ウメ、サクラ、リンゴ、ナシ、モモ、ビワ、アーモンド、スモモ、カリン、サンザシ、ボケ、ヤマブキ)、ウリ科(キュウリ、ウリ、カボチャ、メロン、スイカ、ヘチマ)、ユリ科(ユリ、ネギ、タマネギ)、アブラナ科(レタス、キャベツ、ダイコン、ハクサイ)、ブドウ科(ブドウ)、ミカン科(ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ユズ)、アオイ科(オクラ)、サクラソウ科(シクラメン)、ツバキ科(チャノキ)、シュウカイドウ科(ベゴニア)、クワ科(イチジク、クワ)、マタタビ科(キウイフルーツ)ウルシ科(ピスタチオ、マンゴー)、コショウ科(コショウ)、ニクズク科(ナツメグ)、ツツジ科(シャクナゲ、サツキ、ツツジ、アザレア)等が挙げられる。
各植物感染性微生物とその宿主植物との関連性、すなわちそれぞれの植物感染性微生物の宿主となり得る植物について表2に列挙した。したがって、本発明の方法は、表2に挙げた各植物感染性微生物が、少なくとも表2に記載のそれぞれの宿主植物に感染する場合において有効である。
【表2】
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JP0005552649B2_000008t.gifJP0005552649B2_000009t.gifJP0005552649B2_000010t.gifJP0005552649B2_000011t.gifJP0005552649B2_000012t.gifJP0005552649B2_000013t.gifJP0005552649B2_000014t.gifJP0005552649B2_000015t.gifJP0005552649B2_000016t.gifJP0005552649B2_000017t.gifJP0005552649B2_000018t.gifJP0005552649B2_000019t.gif 本発明において使用するα-1,3-グルカナーゼは、生物種由来の野生型α‐1,3-グルカナーゼ、その変異体、又はそれらの活性断片を含む。
「野生型α-1,3-グルカナーゼ」は、α-1,3-グルカンを加水分解する活性を有する公知のα-1,3-グルカナーゼであれば、いずれの生物種由来のものであってもよい。このような公知の野生型α-1,3-グルカナーゼのアミノ酸配列又は野生型α‐1,3-グルカナーゼ遺伝子の塩基配列は、Genbank等の検索によって入手することができる。たとえば、表3に記載のGenbankアクセッションNo.で示される各種生物のα-1,3-グルカナーゼとして登録されているタンパク質、又はBlastXの結果、Tricoderma reesiのα-1,3-グルカナーゼとアミノ酸レベルで領域カバー率>80%、e-value>e-100のα-1,3-グルカナーゼと推測されるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。ここで、アミノ酸レベルで領域カバー率>80%、e-value>e-100のタンパク質をα-1,3-グルカナーゼとした理由は、α-1,3-グルカナーゼとして既に同定されている各種生物のα-1,3-グルカナーゼ間においても、そのほとんどにおいてアミノ酸レベルで領域カバー率>80%、e-value>e-100である点に基づく。あるいは、表4に記載のアクセッションNo.で示されるBroad Institute(www.broadinstitute.org)において公開されているAspergillus属菌のα-1,3-グルカナーゼ遺伝子の塩基配列も利用することができる。一具体例として、Bacillus circulans KA304(Paenibacillus sp.)に由来する配列番号23で示される塩基配列からなるα-1,3-グルカナーゼ遺伝子及び配列番号31で示されるアミノ酸配列を有するそのα-1,3-グルカナーゼ、又はいもち病菌(Magnaporthe grisea)に由来するGenbank 受託番号XP001410317 又はBroad Institute MGG 12678(http://www.broadinstitute.org/annotation/genome/magnaporthe_grisea/MultiHome.html ;
http://www.broadinstitute.org/annotation/genome/magnaporthe_grisea/GeneDetails.html?sp=S7000002168138321)に記載のα-1,3-グルカナーゼ遺伝子が挙げられる。
【表3】
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JP0005552649B2_000021t.gifJP0005552649B2_000022t.gifJP0005552649B2_000023t.gifJP0005552649B2_000024t.gif【表4】
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JP0005552649B2_000026t.gifJP0005552649B2_000027t.gif ただし、通常、野生型α-1,3-グルカナーゼの全長アミノ酸配列においてみられるシグナルペプチド領域は、α-1,3-グルカナーゼ活性に必須の領域ではない。したがって、公知の各野生型全長α-1,3-グルカナーゼからシグナルペプチドを除いたポリペプチド、又は、さらにそのポリペプチドのN末端にメチオニンを付加したポリペプチドも本発明においては野生型α-1,3-グルカナーゼに含むものとする。具体的には、たとえば、前述の配列番号31で示されるBacillus circulans KA304のα-1,3-グルカナーゼの場合であれば、シグナルペプチド領域に相当するN末端側の「MRTKYVAWSL IAALLITTLF QSVGPGEPVE AAGG」からなる34アミノ酸を除去し、除去後のN末端にメチオニンを付加した配列番号32で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドもBacillus circulans KA304の野生型α-1,3-グルカナーゼに包含される。また、それをコードする配列番号33で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドもBacillus circulans KA304の野生型α-1,3-グルカナーゼ遺伝子とみなす。
本発明において「α-1,3-グルカナーゼの変異体」とは、前記野生型のα‐1,3-グルカナーゼを構成するアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたもの、又はそのアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するもので、かつα-1,3-グルカナーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで「同一性」とは、二つのアミノ酸配列にギャップを導入して、又は導入しないで最も高い一致度となるように整列(アラインメント)させたときに、前記ギャップの数を含めた、一方のアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する他方のアミノ酸配列の同一アミノ酸残基数の割合(%)をいう。また、「数個」とは、2~10の整数、例えば、2~7、2~5、2~4、2~3の整数をいう。上記α-1,3-グルカナーゼ変異体の具体例としては、たとえば、SNP(一塩基多型)等の多型に基づく変異体やスプライス変異体のような天然型の変異体の他、変異剤による突然変異誘導処理の結果得られるα-1,3-グルカナーゼ活性を有する人為的な変異体等が挙げられる。なお、前記置換は、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。保存的アミノ酸置換であれば、野生型α-1,3-グルカナーゼと実質的に同等な構造又は性質を有しうるからである。保存的アミノ酸とは、互いに、非極性アミノ酸(グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、トリプトファン)及び極性アミノ酸(非極性アミノ酸以外のアミノ酸)、荷電アミノ酸(酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)及び塩基性アミノ酸(アルギニン、ヒスチジン、リジン))及び非荷電アミノ酸(荷電アミノ酸以外のアミノ酸)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、分岐状アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)、ならびに脂肪族アミノ酸(グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン)などが挙げられる。
本発明において「それらの活性断片」とは、α-1,3-グルカナーゼ活性を保持する野生型α-1,3-グルカナーゼ又は前記α‐1,3-グルカナーゼ変異体の一部を含むポリペプチドをいう。本活性断片を構成するポリペプチドのアミノ酸の長さは、α-1,3-グルカナーゼ活性を保持するポリペプチドであればその長さは、特に制限はしない。
本発明で使用するα-1,3-グルカナーゼは、任意の(ポリ)ペプチドを含むことができる。たとえば、細胞外分泌シグナルペプチド、標識(タグ)ペプチドが挙げられる。また、前記生物種は、内在性α-1,3-グルカナーゼ遺伝子(agl遺伝子)を有する種であればいずれであってもよい。バクテリアであれば、たとえば、種々のBacillus属菌(Paenibacillus sp.、Geobacillus sp.等)、Streptomyces属菌が挙げられる。また、糸状菌であれば、Magnaporthe grisea、Aspergillus sp、Sclerotinia sclerotiorum、Neurospora crassa、Botryotinia fuckeliana、Podospora anserine、Neosartorya fischeri、Chaetomium globosum、Penicillium chrysogenum、Penicillium marneffei、Penicillium funiculosum、Talaromyces stipitatus、Talaromyces stipitatus、Schizosaccharomyces pombe、Schizosaccharomyces japonicus、Cryptococcus neoformans、Hypocrea lixii(Trichoderma harzianum)等が挙げられる。利用可能性が高い菌は、Aspergillus属菌、Penicillium属菌、Schizosaccharomyces属菌、Paenibacillus属菌、Trichoderma属菌である。このうち特に、Bacillus属菌、Paenibacillus属菌、Trichoderma属菌とAspergillus属菌は、微生物農薬として利用可能性が大きい。組み換え作物に利用する遺伝子としては、食品微生物であるBacillus属菌、Aspergillus属菌(特にAspergillus oryzae)、Schizosaccharomyces属菌(特にSchizosaccharomyces pombe)がより好ましい。
1-2.方法
本発明における植物感染性微生物の感染を防止又は抑制方法としては、(1)α-1,3-グルカナーゼを宿主植物に接触させる方法、(2)宿主植物細胞内で外来α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を発現させる方法、(3)α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含む微生物農薬製剤を宿主植物に作用させる方法、及びそれらを組合わせた方法が挙げられる。以下(1)~(3)の方法について具体的に説明をする。
(1)α-1,3-グルカナーゼを宿主植物に接触させる方法
本方法は、前述のα-1,3-グルカナーゼを有効成分とする農薬製剤を、保護対象となる宿主植物に接触させる方法である。
本方法で使用する農薬製剤のα-1,3-グルカナーゼは、前述の内在性α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有する生物種から、又はα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を導入した形質転換生物種から、当該分野で公知の方法によって精製又は調製することができる。そのような方法は、たとえば、Sambrook,J.et.al.,(1989)Molecular Cloning:a Laboratory Manual Second Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New Yorkに記載の方法を参照すればよい。
本方法で使用する農薬製剤は、α-1,3-グルカナーゼを宿主植物に接触させた後にその酵素活性を保持し得る状態であれば、いかなる状態であってもよく、たとえば、α-1,3-グルカナーゼを適当な溶液に懸濁した液体状態であってもよいし、固体状態(粉末状態を含む)であってもよい。
液体状態の場合、α-1,3-グルカナーゼを懸濁する溶液としては、たとえば、水溶液、好ましくはバッファーが挙げられる。α-1,3-グルカナーゼの至適pH付近のpH(3.5~7.5)及び至適塩濃度付近の塩濃度(50mM~200mMNaCl)を有するバッファーが好ましい。また、前記懸濁溶液は、農薬製剤上許容可能な担体をα-1,3-グルカナーゼ活性を害しない濃度で添加することもできる。前記溶液におけるα-1,3-グルカナーゼの濃度は、宿主植物に接触させる際に50ng/ml以上100μg/ml以下、好ましくは100ng/ml以上50・g/ml以下、または300ng/ml以上5μg/ml以下であればよい。
固体状態の場合、α-1,3-グルカナーゼは凍結乾燥によって調製されたものが好ましい。固体状態のα-1,3-グルカナーゼは、その酵素活性を阻害又は抑制しない範囲において農薬製剤上許容可能な担体との混合物した組成物であってもよい。
前記「農薬製剤上許容可能な担体」には、たとえば、賦形剤、安定剤、結合剤、及び/又は崩壊剤が挙げられる。
賦形剤としては、たとえば、糖(グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。安定剤としては、たとえば、グリセロールが挙げられる。結合剤としては、たとえば、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、たとえば、前記デンプンや、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム又はそれらの塩が挙げられる。また、上記物質以外にも必要であれば、希釈剤、吸着剤、乳化剤、可溶化剤、保湿剤、防腐剤、抗酸化剤、緩衝剤等を添加することもできる。
このような担体は、α-1,3-グルカナーゼの活性を安定的に保持すると共に、宿主植物への接触を容易し、また風雨等によって容易に宿主植物からα-1,3-グルカナーゼが除かれないようにするためのものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
α-1,3-グルカナーゼの宿主植物への接触方法は、α-1,3-グルカナーゼが宿主植物の植物体、特にその表面において酵素活性を発揮し得る方法であれば、特に制限はしない。たとえば、噴霧、散布、塗布、浸漬等の方法が挙げられる。宿主植物との接触場所は、植物体の一部又は全体のいずれであってもよいが、防除対象となる植物感染性微生物が宿主植物に感染する経路で最も多く見られる部位に接触させることが好ましい。たとえば、いもち病菌を防除対象とする場合、α-1,3-グルカナーゼを葉及び茎に接触させればよい。
(2)宿主植物細胞内で外来α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を発現させる方法
本方法は、宿主植物にα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を導入したトランスジェニック植物を作製し、その外来α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を発現させて、形質転換した宿主植物自身が分泌するα-1,3-グルカナーゼによって植物感染性微生物の感染を防止又は抑制する方法である。
本方法は、宿主植物を、その都度α-1,3-グルカナーゼで処理することなく、持続的な感染防止効果を得られる点で有利である。また、本方法は、トランスジェニック植物由来の植物組織もしくは植物細胞を含む植物体、又はその種子もしくは後代を利用することもできる。
宿主植物の形質転換に用いるα-1,3-グルカナーゼ遺伝子は、上述したα-1,3-グルカナーゼ、すなわち、野生型α‐1,3-グルカナーゼ、その変異体、又はそれらの活性断片をコードするポリヌクレオチドである。したがって、必ずしも野生型の全長からなるポリヌクレオチドである必要はない。このようなα-1,3-グルカナーゼ遺伝子は、前述のようにGenbankで入手可能な各種生物種の野生型α-1,3-グルカナーゼ遺伝子の配列に基づいて公知の方法によりクローニングするか、化学合成によって得ることができる。α-1,3-グルカナーゼ遺伝子のクローニング方法は、たとえば、Sambrook,J.et.al.,(1989)Molecular Cloning:a Laboratory Manual Second Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New Yorkに記載の方法を参照すればよい。
本発明の発現ベクターは、たとえば、宿主植物に導入した後、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子がその植物体内で発現されるような発現プロモーターを含む。一般に、このプロモーターの下流にはα-1,3-グルカナーゼ遺伝子が位置し、さらにこの遺伝子の下流にはターミネーターが位置する。この目的に用いられるベクターは、植物への導入方法や植物の種類に応じて、当業者によって適宜選択される。上記プロモーターとしては、たとえば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来の35Sプロモーターや、トウモロコシのユビキチンプロモーター、EN4プロモーター等を挙げることができる。発現効率を上げるために、TMΩ配列等を含むプロモーター、たとえば、El2Ωプロモーター等を利用することもできる。また、上記ターミネーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーターや、ノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を挙げることができる。しかし、宿主植物細胞中で機能するプロモーターやターミネーターであれば、これらに限定されない。
また、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を導入された形質転換植物細胞を効率的に選択するために、上記発現ベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子カセットを含むか、あるいは、選抜マーカー遺伝子カセットを含むDNAと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用する選抜マーカー遺伝子としては、たとえば、抗生物質ハイグロマイシン耐性をもたらすハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシン耐性をもたらすネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
α-1,3-グルカナーゼ遺伝子DNA断片あるいはα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を含む発現ベクターの宿主植物細胞への導入は、当業者においては公知の方法、たとえば、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法等により実施することができる。また、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類にしたがって適当な条件で培養することによって効率的に選択される。
α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を導入した形質転換細胞から、植物体を再生することができる。植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて、また、用いた遺伝子導入法に応じて当業者に公知の方法で行うことができる。たとえば、アグロバクテリウム法でカルスに遺伝子を導入した場合は、カルスから植物体を再生させる方法(Toki,et al.,Plant Journal,47,969-976,2006)、エレクトロポレーション法を用いた場合は、プロトプラストから植物体を再生させる方法(Toki,et al.,Plant Physiol.,100,1503-1507,1992)等を用いることができる。一旦、ゲノム中にα-1,3-グルカナーゼ遺伝子が導入された形質転換植物細胞や種子が得られれば、それを用いてこの植物培養組織や植物体を量産することも可能である。
得られたトランスジェニック植物における微生物感染性植物に対する感染抵抗性の有無は、防除対象の微生物が感染しやすい条件下でその微生物(たとえば、胞子や菌糸)をトランスジェニック植物に接触させ、感染するかどうかを調べること等によって確認することができる。接触させる方法としては、たとえば、防除対象の微生物を懸濁させた液を植物体に噴霧し、培養後に観察する方法(噴霧接種ともいう)、植物体にパンチャーで傷をつけ、傷上に防除対象の微生物をつけたアガロース片等をのせ、培養後に観察するような方法(有傷接種ともいう)、防除対象の微生物を懸濁させた液を針先に付けて、植物体に針傷を付ける方法(針接種ともいう)等が挙げられる。
(3)α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含む微生物農薬製剤を宿主植物に作用させる方法
本方法は、α-1,3-グルカナーゼを生合成できる微生物を有効成分とする微生物農薬製剤を宿主植物に接触させ、当該微生物が細胞外に分泌したα-1,3-グルカナーゼの作用により、植物感染性微生物の感染を防止又は抑制する方法である。
効果の持続性が酵素を接触させる方法よりも長く、形質転換植物の作製を要さず、簡便である点で有利である。
本方法で使用する微生物農薬製剤は、後述する実施形態2に記載の微生物農薬製剤を用いればよい。
微生物農薬製剤を宿主植物に作用させる方法は、本方法で使用する微生物農薬製剤の有効成分である微生物が野生型株の通常生育時と比較して有意に大となるようにα-1,3-グルカナーゼを発現し、かつそのα-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌することによって、本発明の効果を奏し得ることができれば、特に限定はしない。
ここでいう「有意」とは、前記有効成分である微生物におけるα-1,3-グルカナーゼの発現量と、その微生物の野生型株を通常生育時、すなわち、その微生物にとって適切な栄養状態、生育温度、pH及び密度等の至適条件下で生育したときのα-1,3-グルカナーゼの発現量の量的差異を統計学的に処理したときに、両者間に有意差があることをいう。具体的には、例えば、危険率(有意水準)が5%、1%又は0.1%より小さい場合が挙げられる。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。また、「有意に大」とは、前記有効成分である微生物のα-1,3-グルカナーゼの発現量が野生型株と比較して有意に大きいこと、具体的には、例えば、野生株の平常状態時のα-1,3-グルカナーゼの発現量の1.5倍以上、好ましくは2倍以上又は3倍以上あることをいう。
したがって、微生物農薬製剤を宿主植物に作用させる場合には、野生型株の通常生育時と比較してα-1,3-グルカナーゼの発現量が有意に大となるように、有効成分である微生物が有するα-1,3-グルカナーゼ遺伝子の状態を勘案して適宜定めればよい。たとえば、前記有効成分である微生物が、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を恒常的に発現できる発現ベクターをその細胞内に有する場合には、その微生物を含む微生物農薬製剤を宿主植物に接触させればよい。また、前記微生物が、誘導性プロモーターに連結されたα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を含む場合(たとえば、多くの内在性のα-1,3-グルカナーゼ遺伝子や、lacプロモーター等に発現可能な状態で連結された外来性α-1,3-グルカナーゼ遺伝子等が該当する)であれば、微生物農薬製剤を宿主植物に接触させる前、接触後に、その微生物のα-1,3-グルカナーゼ遺伝子の発現を誘導・促進させる処理を行なえばよい。具体的には、発現を誘導・促進可能な物質(発現誘導剤)を微生物農薬製剤中に直接添加するか、微生物農薬製剤を宿主植物に接触させた後、別途添加する方法が挙げられる。発現誘導剤は、プロモーターの種類に応じて適宜定めればよいが、内在性のα-1,3-グルカナーゼ遺伝子のプロモーターの場合であれば、当該酵素の基質であるα-1,3-グルカンが利用できる。したがって、この場合、α-1,3-グルカンそのものの(たとえば、精製及び/又は未精製α-1,3-グルカン)のみならず、α-1,3-グルカンを含み、α-1,3-グルカナーゼの活性を害さない物質を添加すればよい。また、lacプロモーターに連結されたα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有する場合には、ラクトース又はラクトースを含みα-1,3-グルカナーゼの活性を害さない物質が利用できる。
微生物農薬製剤の宿主植物への具体的な作用方法は、接触又は根部から吸収させる方法等が挙げられる。一般的には、接触方法が好ましい。この方法は、前述の(1)α-1,3-グルカナーゼを宿主植物に接触させる方法で述べた接触方法に準じて行なうことができる。
1-3.効果
本発明によれば、宿主植物の表面又は組織内にα-1,3-グルカナーゼを予め存在させることにより、いもち病菌をはじめとする、細胞壁にα-1,3-グルカンを有する植物感染性糸状菌等の微生物が宿主植物に感染する際に、侵入菌糸等の菌体の細胞壁のα-1,3-グルカンが分解される。α-1,3-グルカンが分解されれば、覆われていたキチン、β-1,3-グルカンが露出し、宿主植物はこれらを認識することができる。それらを認識することによって、宿主植物における生体防御反応が惹起されるため、菌の感染を抑制できる。
したがって、本発明の感染防止又は抑制方法は、β-1,3-グルカナーゼやキチナーゼの遺伝子又はタンパク質を導入することにより菌糸を直接攻撃するタイプの従来の感染防止方法とは、根本的に概念が異なっている。すなわち、従来の方法がこれらの酵素で菌糸自体を攻撃するのに対し、本発明の方法では、β-1,3-グルカナーゼやキチナーゼがあまり有効に作用しない植物感染性微生物、たとえば、α-1,3-グルカンの「覆い」を被った当該微生物に対して、植物自身が本来持っている生体防御反応を促進するというものであり、まったく新規な発想に基づくものである。
2.微生物農薬製剤
2-1.構成
本発明の第2の実施形態は、植物感染性微生物に対する感染を防止又は抑制する微生物農薬製剤である。本発明の微生物農薬製剤は、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含むことを特徴とする。
本発明の有効成分である微生物は、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、発現したα-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌できる微生物であれば、特に限定はしない。たとえば、感染性微生物又は非感染性微生物が挙げられる。
ここでいう「感染性微生物」とは、他生物に対して病原性及び感染性を有する微生物、たとえば、バクテリア、酵母、糸状菌(カビを含む)又は担子菌(キノコ等)をいう。本発明で感染性微生物を使用する場合、保護対象とする植物及び/又は哺乳動物に対する安全性の観点から、その病原性を欠失したもの又は前記生物に対して有害性のない程度に病原性を弱められたものを使用することが望ましい。一方、アブラムシ、カイガラムシ、ウンカ、ヨコバイ、グンバイ、バッタ、蛾(ヨトウガ等の幼虫)、ダニ等の害虫に対する有害性、感染性は保持していても構わない。そのような性質は、害虫に対する農薬製剤の有効成分として有用だからである。
また、前記「非感染性微生物」とは、少なくとも本発明の保護対象となる植物に対して病原性、感染性のない微生物、また当該植物を食品として使用する場合には、ヒトをはじめとする哺乳動物に対して感染性のない微生物、たとえば、バクテリア、酵母、糸状菌(カビを含む)又は担子菌(キノコ等)をいう。好適には、後述するようにα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を内在性遺伝子として有する微生物である。たとえば、バクテリアであれば、Bacillus属菌(Paenibacillus sp.、Geobacillus sp.等)、Streptomyces属菌等、特に、Bacillus circulans(Paenibacillus sp.)が挙げられる。また、糸状菌であれば、たとえば、Aspergillus sp、Neurospora crassa、Podospora anserine、Neosartorya fischeri、Chaetomium globosum、Penicillium chrysogenum、Penicillium funiculosum、Schizosaccharomyces pombe、Schizosaccharomyces japonicus、Hypocrea lixii(Trichoderma harzianum)が挙げられる。特に、Bacillus属菌、Aspergillus属菌、Penicillium属菌、Schizosaccharomyces属菌、Paenibacillus属菌、Trichoderma属菌は好ましい。
本発明の微生物農薬製剤の有効成分である微生物は、内在性のα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有していてもよいし、外来性のα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有していてもよいし、その両方であってもよい。圃場に散布することを鑑みれば、内在性遺伝子を有する微生物であることが好ましい。
本発明において、「α-1,3-グルカナーゼ遺伝子」とは、第1の実施形態で説明したα-1,3-グルカナーゼをコードする核酸、たとえば、配列番号23又は受託番号XP001410317で示される核酸をいう。
本発明の「α-1,3-グルカナーゼ」は、「細胞外分泌型」である。ここでいう細胞外分泌型」とは、微生物の細胞内で生合成されたα-1,3-グルカナーゼが最終的に細胞外に分泌されることを意味し、細胞外に分泌されるのであれば、その手段は問わない。たとえば、α-1,3-グルカナーゼが細胞外シグナルペプチドを有していてもよいし、他の細胞外輸送因子を介して細胞外に分泌されてもよい。
本発明の有効成分である微生物は、その野生株の通常生育時と比較して有意に大となるようにα-1,3-グルカナーゼを発現できることが望ましい。そのためには、前記微生物において、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子が、恒常的(構成的)プロモーター又は誘導性プロモーター下流に発現可能な状態で連結されていることが好ましい。恒常的プロモーターには、たとえば、S10プロモーターが、誘導性プロモーターには、たとえば、lac、trpプロモーター又は内在性α-1,3-グルカナーゼ遺伝子本来のプロモーターが挙げられる。
本発明の微生物農薬製剤において、有効成分である微生物は、宿主植物に作用させる際に、α-1,3-グルカナーゼを発現済みであってもよいし、未発現状態であってもよい。有効成分である微生物がα-1,3-グルカナーゼを恒常的に発現しているか、誘導処理によって発現が誘導、促進されたα-1,3-グルカナーゼ発現済みの場合、α-1,3-グルカナーゼが安定に保持される状態にあれば、微生物農薬製剤中の有効成分である微生物の生死は問わない。一方、未発現の場合には、微生物農薬製剤を宿主植物に接触後、前述のように発現誘導処理を行なうようにする。したがって、この場合、有効成分である微生物は宿主植物に作用するまでの間、生存状態にある必要がある。 本発明の「微生物農薬製剤」は、液体状態、固体状態(半固体状態を含む)又はその組み合わせのいずれであってもよい。
液体状態の場合、有効成分である微生物を適切な溶液に懸濁したものであればよい。適切な溶液としては、たとえば、バッファー、その微生物用の培地が挙げられる。当該微生物を懸濁した溶液は、農薬製剤上許容可能な担体をα-1,3-グルカナーゼ活性を阻害しない濃度で添加することもできる。農薬製剤上許容可能な担体は、第1実施形態の1-2.方法の章、(1)α-1,3-グルカナーゼを宿主植物に接触させる方法に記載のものを使用すればよい。
前記溶液には、必要に応じてα-1,3-グルカナーゼの発現に有効な適当な発現誘導剤を添加することができる。発現誘導剤は、第1実施形態の1-2.方法の章、(3)α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有し、α-1,3-グルカナーゼを細胞外に分泌する微生物を有効成分として含む微生物農薬製剤を宿主植物に作用させる方法に記載のように、有効成分である微生物が有するα-1,3-グルカナーゼ遺伝子のプロモーターの性質に応じて、適宜定めればよい。たとえば、プロモーターが内在性α-1,3-グルカナーゼ遺伝子本来のプロモーターであれば、基質であるα-1,3-グルカンが適当であり、また、lacプロモーターであれば、基質であるラクトースが適当である。これらの発現誘導剤を適宜発現誘導に応じて適切な容量で添加すればよい。
固体状態の場合、有効成分である微生物、より具体的にはその微生物によって合成されたα-1,3-グルカナーゼが、宿主植物に作用し得る状態であれば、特に制限はしない。たとえば、顆粒状態、粉末状態、ゲルのような半固体状態が挙げられる。接触等により宿主植物に付着し、作用することを鑑みれば、粉末状(特に接着性を有する粉末状)、ゲル状であることが好ましい。
2-2.効果
本発明の微生物農薬製剤によれば、α-1,3-グルカンをもつ植物感染微生物の感染防除に広く有効である。さらに、本発明の微生物農薬製剤は、比較的安価に製造することが可能で、内在性α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を有する非感染性微生物を有効成分として使用する場合には、特定の遺伝子発現を強化した自然界に存在する微生物を使用することから、環境に対する影響が低く、安全性が高い。
【実施例】
【0008】
<実施例1.感染器官における細胞壁構成成分の検出>
いもち病菌野生株Guy11に対して感受性であるイネ品種LTHの第4葉の葉鞘細胞に、いもち病菌胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)50μlをシリンジで注入し、室温で静置した。接種後、発芽した分生子から、およそ16時間で付着器の形成、24時間以降に侵入菌糸の形成が見られた。
菌を感染させたイネ葉鞘を、接種後16時間及び24時間のそれぞれの時点で、3%(v/v)ホルムアルデヒド/90%(v/v)エタノール浸漬にて固定し、その後、葉組織を取り出して、PBSバッファー(137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM NaHPO、1.5mM KHPO、pH7.4)で十分にリンスをした。固定した葉鞘サンプルを、1%(v/v)Tween 20(PBSバッファー中;「PBS-T」ということがある)に浸漬した後に、それぞれの細胞壁成分を特異的に染色できる試薬を1%(v/v)Tween 20(PBSバッファー中)に添加し、以下のA~Dに示すとおりに染色を行った:
A. α-1,3-グルカン染色
0.1mg/mlのα-1,3グルコース特異的マウスIgM抗体(商品名「Mouse IgMλ(MOPC104e),α-1→3グルコース特異的」(Sigma))を20μl添加し、一晩インキュベートした。続いて、0.1mg/mlのAlexa Fluor 488標識抗マウスIgM抗体(商品名「Alexa Fluor 488 goat anti-mouse IgM」(Invitrogen))を20μl添加し、遮光して一晩インキュベートした。
B. β-1,3-グルカン染色
0.1mg/mlのβ-1,3-グルカン特異的マウスモノクローナル抗体(商品名「Monoclonal antibody to (1→3)-β-glucan (Mouse IgG Kappa Light)」、Biosupplies)を20μl添加し、一晩インキュベートした。続いて、0.15mg/mlのAlexa Fluor 594標識抗マウスIgG抗体(商品名「Alexa Fluor 594 goat anti-mouse IgG(H+L)antibody」(Invitrogen))を20μl添加し、遮光して一晩インキュベートした。
C. キチン染色
10μg/mlのAlexa Fluor 350標識WGA(商品名「wheat germ agglutinin,Alexa Fluor 350 conjugate」(Invitrogen))を20μl添加し、遮光して一晩インキュベートした。
D. キトサン染色
0.05%(w/v)のエオシン(商品名「Eosin Y」(Sigma))を20μl添加し、遮光して一晩インキュベートした。
E. マンナン染色
0.1mg/mlのFITC標識コンカナバリンA(商品名「FITC conjugated concanavalin A」(Sigma))を20μl添加し、遮光して一晩インキュベートした。
インキュベート後のサンプルに残存する過剰な染色試薬を、PBSを用いてリンスすることにより十分に取り除き、蛍光顕微鏡観察に供した。顕微鏡観察には、ライカ社(ドイツ)製「Leica DR システム」を用いた。
α-1,3-グルカン及びマンナンの蛍光観察にはGFPフィルターキューブ(excitation filter BP 470/40nm,500nm dichromatic mirror,suppression filter BP 525/50nm)、β-1,3-グルカン染色サンプル及びキトサン染色サンプルにはY3フィルターキューブ(excitation filter BP 545/30nm,565nm dichromatic mirror,suppression filter BP610/75nm)、キチン染色サンプルにはA4フィルターキューブ(excitation filter BP 360/40nm,400nm dichromatic mirror,suppression filter BP 470/40nm)を、蛍光フィルターとしてそれぞれ用いた。
結果を図1に示す。図中、C=胞子、G=発芽管、A=付着器、IF=侵入菌糸を表し、各パネルのバーは20μmである。
α-1,3-グルカンは、いもち病菌の植物細胞への接種後16時間では発芽管及び未熟な付着器で検出され(パネルB1)、接種後24時間では侵入菌糸で検出された(パネルB2)。β-1,3-グルカンは、接種後16時間では未熟な付着器でわずかに検出されたが(パネルC1)、24時間後には菌体のどの器官でも検出されなかった(パネルC2)。キチンは、接種後16時間で発芽管及び未熟な付着器で検出されたが(パネルD1)、接種後24時間では菌体のどの器官でも検出されなかった(パネルD2)。キトサンは、接種後24時間では付着器、侵入菌糸の両方で検出されていた(パネルF2)。マンナンは、胞子、発芽管、付着器で検出された(パネルH2)。
このことから、いもち病菌の侵入菌糸では、α-1,3-グルカン、β-1,3-グルカン、マンナン、キチン及びキトサンといった細胞壁成分のうち、α-1,3-グルカンとキトサンが主に検出され、β-1,3-グルカン、キチンが器官特異的に検出されなくなることが明らかになった。
<実施例2.α-1,3-グルカナーゼ処理後の侵入菌糸での細胞壁成分の検出>
上記と同様の方法で、イネ品種LTHの葉鞘細胞にいもち病菌を感染させ、接種後24時間に、菌を感染させたイネ葉鞘を固定した。固定後、浸漬に用いるPBSバッファーにBacillus circulans由来の精製α-1,3-グルカナーゼ溶液(5μg/ml)を30μl添加し、室温で6時間インキュベートした。その後、PBSバッファーで十分洗浄し、上記と同様の方法で細胞壁成分の染色を行った。
結果を図2に示す。α-1,3-グルカナーゼ処理を施した侵入菌糸では、α-1,3-グルカンは、α-1,3-グルカナーゼによって分解され、検出されなくなっていた(パネルB)。逆に、酵素処理前は検出されなかったβ-1,3-グルカン及びキチンが、侵入菌糸で検出されるようになった(パネルC及びD)。
このことから、いもち病菌の侵入菌糸には、β-1,3-グルカン及びキチンが細胞壁成分として存在しているが、これらはα-1,3-グルカンによって覆われていることが明らかになった。
<実施例3.α-1,3-グルカン合成酵素欠損いもち病菌株(ΔMgAGS1株)の感染性>
いもち病菌のα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子(MgAGS1)を含むゲノム断片をクローニングし、MgAGS1のコード領域を薬剤耐性マーカー(ビアラフォス耐性遺伝子(Bar遺伝子))と置換後、野生型いもち病菌に導入することにより、MgAGS1遺伝子破壊株(ΔMgAGS1)を作出した(図3A)。
具体的には、MgAGS1(GenBank:XP 364794)の上流約1.5kb(配列番号1)及び下流約1.5kb(配列番号2)をそれぞれクローニングし(プライマーとして、配列番号3~6を使用した)、上流領域、Bar遺伝子(マーカー)(配列番号7)、下流領域をこの順番でPCR法によって連結し、融合DNAを作製した。この融合DNAを更にPCRで増幅させ(プライマーとして、配列番号4及び5を使用した)、増幅断片DNAを野生型いもち病菌にプロトプラストPEG法で形質転換した。いもち病菌への形質転換は以下の方法で行った。いもち病菌菌糸を30μg/mlの溶菌酵素(Sigma社 Lysing enzyme)を含む1.2M ソルビトールに浸透しプロトプラスト化した後、上記で増幅したDNA断片をPEGバッファー(40%(W/V) PEG8000、20%(W/V) ショ糖、50mM CaCl、pH8.0)と共に添加し、遺伝子導入を行った。その後、ビアラフォス(90μg/ml)を含む生育培地で生育させ、形質転換体を選択した。サザンハイブリダイゼーション法及びPCR法(プライマーとして配列番号10~13に示すものを使用した)、シークエンシングでMgAGS1が欠損していることを確認した形質転換体をΔMgAGS1株とした(図3B)。なお、遺伝子欠損の確認に際しては、MgAGS1の指標としてprobe AGS1-int2配列(配列番号15)を、Bar遺伝子の指標としてprobe Bar配列(配列番号14)を使用した。図3Bにおいて、上パネルは、probe AGS1-int2によって、野生株ではMgAGS1が検出されるが、ΔMgAGS1株では検出されないことを示している。下パネルは、probe Barによって、野生株ではBar遺伝子が検出されないが、ΔMgAGS1株は検出されることを示している。
A.ΔMgAGS1株の感染器官形成能
いもち病菌の野生株及びΔMgAGS1株の胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)30μlをカバーグラス(マツナミ社、大阪)に滴下し、室温で24時間静置し、24時間後に形成されている付着器の観察を行った。
カバーグラスの代わりに電子レンジで煮沸したタマネギ鱗片細胞を用いたことを除き、上記と同様にして、24時間静置後に形成されている侵入菌糸の観察を行った。
顕微鏡観察にはライカ社(ドイツ)製「Leica DR システム」を用いた。
結果を図4に示す。カバーグラス上では、ΔMgAGS1株は、野生株同様に静置後24時間までに分生子が発芽し、付着器を形成していた(上パネル)。タマネギ鱗片細胞上でも、野生株同様に付着器を形成し、細胞内に侵入菌糸を形成していた(下パネル)。したがって、ΔMgAGS1株は、野生株と同等の付着器形成及び侵入菌糸形成能を維持していた。
B.イネへの接種実験
いもち病菌野生株及びΔMgAGS1株のいもち病菌胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)10mlを、イネ品種LTH(第4葉目展開したイネを使用)の切り葉に噴霧接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。接種5日後、切り葉に生じた病斑を観察した。
結果を図5に示す。野生株ではイネ葉に進展型の病斑が形成されていたが(左パネル)、ΔMgAGS1株ではほとんど病斑が形成されず、イネの抵抗応答時に見られる褐点型病斑となっていた(右パネル)。したがって、ΔMgAGS1株は、イネに対する感染力が低下していることが判明した。
C.オオムギへの接種実験
いもち病菌野生株及びΔMgAGS1株のいもち病菌胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)10mlを、オオムギ品種ゴールデンプロミス(第4葉目展開したオオムギを使用)の切り葉に噴霧接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。接種5日後、切り葉に生じた病斑を観察した。
結果を図6に示す。野生株ではオオムギ葉に進展型の病斑が形成されていたが(左パネル)、ΔMgAGS1株では病斑が顕著に少なくなっていた(右パネル)。したがって、ΔMgAGS1株は、オオムギに対する感染力が低下していることが判明した。
<実施例4.いもち病菌における、α-1,3-グルカナーゼの添加による植物への侵入菌糸形成の阻害>
A.イネへの接種実験(顕微鏡観察)
いもち病菌野生株胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)50μlに精製α-1,3-グルカナーゼ溶液(5μg/ml)0.5mlを加え、イネ品種LTHの第4葉の葉鞘に接種を行い、室温で静置した。対照として、α-1,3-グルカナーゼ溶液の代わりに滅菌水0.5mlを胞子懸濁液に加えたものも同様に接種し、静置した。
接種48時間後、菌を感染させたイネ葉鞘を、上記と同様の方法で3%(v/v)ホルムアルデヒド/90%(v/v)エタノールを用いて固定し、顕微鏡観察を行った。
結果を、図7に示す。α-1,3-グルカナーゼを加えていない野生株胞子懸濁液を葉鞘に接種した場合には、接種後48時間で付着器及び侵入菌糸の形成が観察された(左パネル)。しかし、α-1,3-グルカナーゼを加えた野生株胞子懸濁液を接種した場合には、イネ細胞に付着している付着器は少なく、またそれらは侵入菌糸も形成していなかった(右パネル)。
以上の結果から、α-1,3-グルカン合成酵素欠損株(ΔMgAGS1株)は、カバーグラスや植物死細胞上では野生株同様に付着器及び侵入菌糸を形成するが、生きた植物上では、野生株と比較して明らかに感染力の低下が見られた。また、野生株に対して外来のα-1,3-グルカナーゼで処理することにより、その感染を顕著に抑制できることが示された。
B.イネへの接種実験(肉眼観察)
精製α-1,3-グルカナーゼ溶液(5μg/ml)0.5mlを加えた野生株胞子懸濁液10mlを、イネ品種LTH(第4葉目展開したイネを使用)の切り葉に噴霧接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。対照として、α-1,3-グルカナーゼ溶液の代わりに滅菌水0.5mlを胞子懸濁液に加えたものも同様に接種及びインキュベートした。接種5日後、切り葉に生じた病斑を観察した。
結果を、図8に示す。α-1,3-グルカナーゼ無添加の野生株では進展型の病斑が形成されていたが(左パネル)、α-1,3-グルカナーゼを添加した野生株では病斑が顕著に少なくなっていた(右パネル)。したがって、いもち病菌細胞壁のα-1,3-グルカンを分解することにより、いもち病菌の感染力を低下させることができることが示された。
C.オオムギへの接種実験(肉眼観察)
精製α-1,3-グルカナーゼ溶液(5μg/ml)0.5mlを加えた野生株胞子懸濁液10mlを、オオムギ品種ゴールデンプロミス(第4葉目展開したオオムギを使用)の切り葉に噴霧接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。対照として、α-1,3-グルカナーゼ溶液の代わりに滅菌水0.5mlを胞子懸濁液に加えたものも同様に接種及びインキュベートした。接種5日後、切り葉に生じた病斑を観察した。
結果を、図9に示す。α-1,3-グルカナーゼ無添加の野生株では進展型の病斑が形成されていたが(左パネル)、α-1,3-グルカナーゼを添加した野生株では病斑が顕著に少なくなっていた(右パネル)。したがって、いもち病菌細胞壁のα-1,3-グルカンを分解することにより、いもち病菌の感染力を低下させることができることが示された。
<実施例5. プラスチック表面上での付着器形成中の細胞壁多糖類合成遺伝子の発現>
付着器形成中のα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子(MgAGS1)及びβ-1,3-グルカン合成酵素遺伝子(MgFKS1)の転写レベルを、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)分析によって調べた。
総RNAを、「QIAGEN Plant mini easy kit」(商品名;Qiagen)を用いて、発芽中の胞子又はGelBondフィルム(商品名;タカラ)の疎水性表面で付着器から発生中の胞子から単離した。GelBond表面で発生中の菌体は、シリコンスクレイパー(Toray)を用いて集め、RNAlater(商品名;Ambion)中に再懸濁した。菌胞子を接種したイネ葉鞘由来の総RNAは、「QIAGEN Plant mini easy kit」(商品名;Qiagen)を用いて単離した。「ExScript RT reagent kit」(商品名;タカラ)及びオリゴdTプライマーを用いて総RNAサンプルからcDNAを合成し、qRT-PCRのための鋳型として用いた。「SYBR Premix ExTaq kit」(商品名;タカラ)を、qRT-PCRのための鋳型cDNAの標識及び増幅に用いた。qRT-PCRのために、相当する遺伝子の約300bpのユニーク配列を増幅するように遺伝子特異的プライマーを設計した(表5、配列番号16~21)。qRT-PCR分析は、「StratageneMx300p」システム(商品名;Stratagene)を用いて製造業者の指示にしたがって行った。これらの遺伝子の転写レベルの定量は、デルタ-Ct法(Livak and Schmittgen,2001)によって計算した。
【表5】
JP0005552649B2_000028t.gif
結果を図10に示す。
プラスチック表面上で、胞子の発芽は培養開始2時間以内に観察され、発芽管は4時間以内、小さい初期付着器は約7時間後、付着器は10時間以内に、それぞれ形成された(図10、パネル(A))。付着器は、培養開始から24時間後に十分に成熟しメラニン化した(データは示していない)。MgAGS1の発現レベルは、培養開始7~10時間後に一時的に上昇し、24時間後には2時間後の発現レベルまで低下した(図10、パネル(B))。これに対し、MgFKS1の発現レベルは、付着器形成の間を通じてほとんど一定であった(図10、パネル(C))。
したがって、α-1,3-グルカン合成酵素遺伝子(MgAGS1)の発現は、付着器形成の初期に特異的に誘導されることがわかった。
<実施例6. イネ細胞における感染中の細胞壁多糖類合成遺伝子の発現>
植物体内での感染性生育中のα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子(MgAGS1)及びβ-1,3-グルカン合成酵素遺伝子(MgFKS1)の転写レベルを、上記と同様にqRT-PCR分析によって調べた。
qRT-PCR分析のための総RNAは、いもち病菌胞子の接種24又は48時間後のイネ鞘細胞から抽出した。感染性菌糸はイネ鞘細胞中で接種後24時間には発生し、48時間後には著しく成長していた(データは示していない)。MgAGS1の発現レベルは、24時間後よりも48時間後の時点で有意に高く、MgAGS1の発現が感染性生育中に増大したことが示された(図11、パネル(A))。これに対し、MgFKS1の転写レベルは、48時間後では24時間後より顕著に低く、MgFKS1の発現が経時的に急激に低減したことが示された(図11、パネル(B))。
これらの菌類遺伝子の転写は、未接種のイネ鞘細胞から抽出した総RNAにおいては検出されなかった(図11、パネル(A)、(B)の0時間)。
したがって、イネへの感染が進むにつれて、α-1,3-グルカン合成酵素遺伝子の転写量は増大するが、β-1,3-グルカン合成酵素遺伝子の転写量は低減することがわかった。
<実施例7. α-1,3-グルカナーゼ発現ベクターの作製>
A.プラスミドpBI333-EN4-aglの構築
図12に示す構造のプラスミドpBI333-EN4-aglを構築した。
使用したpBI333-EN4-RCC2(Nishizawa et al.,Theor.Appl.Genet.,99,383-390,1999)は、バイナリーベクターpBI121(Clontech社)のT-DNA領域内に、選抜マーカーカセットとして、CaMV 35Sプロモーター::ハイグロマイシンリン酸転移酵素(HPT)::CaMVターミネーターを持ち、さらに、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)の35Sプロモーターのエンハンサー領域を4反復させた人工プロモーターEN4(独立行政法人農業生物資源研究所 廣近洋彦博士より譲渡;配列番号22)と、その下流に、RCC2(イネキチナーゼ遺伝子Cht-2;アクセッション番号:X56787)及びノパリン合成酵素のターミネーター(NOS3’)とを持つ。このpBI333-EN4-RCC2を、SpeI及びSacIで切断することによってRCC2を除き、そこに先にクローン化したα-1,3-グルカナーゼをコードするagl(配列番号23)のSpeI-SacI断片を連結し、pBI333-EN4-aglを完成させた。
B.プラスミドpBI333-EN4-RCC2SS/aglの構築
上記で作製したpBI333-EN4-aglに、細胞外分泌シグナル(RCC2SS)のXhoI-SacI断片を連結して、図13に示すプラスミドpBI333-EN4-RCC2SS/aglを構築した。
C.プラスミドpTN2/El2Ω-RCC2SS/aglの構築
植物内強発現プロモーターであるEl2Ωプロモーター(Ω配列についてはPlant Cell Physiol.40(8):808-817(1999)を、El2ΩプロモーターについてはPlant Cell Physiol.37(1):49-59(1996)を参照)を使用し、RCC2SS配列の下流にagl遺伝子を有する、図14に示すプラスミドpTN2/El2Ω-RCC2SS/aglを作製した。
このプラスミドは、植物内マーカー遺伝子としてnptII、nptIIを発現させるプロモーターとしてPNCR、ターミネーターとしてTtml配列を有する(Fukuoka,H.et al.(2000)Plant Cell Rep.19:815-820)。
D.プラスミドpMLH7133-Sp/aglの構築
使用したpMLH7133(Mochizuki et al.,Entomologia Experimentalis et Applicata 93:173-178(1999))は、バイナリーベクターpBI121(Clontech社)のT-DNA領域内に、選抜マーカーカセットとして、ノパリン合成酵素のプロモーター(Pnos)::カナマイシンリン酸転移酵素遺伝子(nptII)::ノパリン合成酵素のターミネーター(Tnos)及び、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)の35Sプロモーター(P35S)::ハイグロマイシンリン酸転移酵素遺伝子(HPT)::CaMVの35Sターミネーター(T35S)を持ち、さらに、イントロン配列を含む植物内強発現プロモーター(E7::P35S::Ω::I (Plant Cell Physiol.37(1):49-59(1996)を参照。))を持つ。このイントロン配列を含む植物内強発現プロモーターの下流に、タバコ(Nicotiana tabacum)PR1a遺伝子の転写開始領域及び分泌シグナルペプチド領域(Sp配列;配列番号24)とagl遺伝子を有する、図15に示すプラスミドpMLH7133-Sp/aglを作製した。
<実施例8.トランスジェニック植物の作製>
(1)アグロバクテリウムへのagl遺伝子導入法
Nagelらの方法(Microbiol.Lett.,67,325,1990)にしたがってα-1,3-グルカナーゼ(agl)遺伝子を導入したバイナリーベクターpBI333-EN4-aglを、それぞれエレクトロポーレーション法によりAgrobacterium tumefacien s(EHA105株又はLBA4404株)に導入する。その後、50μg/mLのカナマイシン又は50μg/mLのハイグロマイシンを含むLB培地(0.5% NaCl、1% Bacto trypton、1% Yeast extract)上で28℃で2日間培養することによって形質転換アグロバクテリウムを得る。
(2)agl遺伝子導入
(2-1:イネへの遺伝子導入法)
イネの形質転換は、超迅速形質転換法(特許第3141084号公報、又は、Toki et al.,Plant Journal,47,969-976,2006)にしたがって行った。ただし、アグロバクテリウムの除菌にはメロペン(大日本住友製薬)を用いた。具体的には以下のようにして行った。
上記(1)で調製した形質転換されたアグロバクテリウムの懸濁液と、超迅速形質転換法にしたがって前培養したイネ(Oryza sativa品種:日本晴(Nipponbare))の種子を、2N6-AS培地(30g/L ショ糖、10g/L グルコース、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4-D、10mg/L アセトシリンゴン、4g/L ゲルライト、pH5.2)上で、暗黒下で3日間、28℃で共存培養した。その後、25mg/Lのメロペンを含有する滅菌水を用いて種子からアグロバクテリウムを洗浄後、種子を12.5mg/Lのメロペン及び選抜マーカーとして50mg/Lのハイグロマイシン、さらに4g/Lゲルライトを加えたN6培地(選抜培地)に置床して、28℃、暗所で約10日間培養し、ハイグロマイシン耐性細胞を増殖し、カルスを得た。
選抜されたハイグロマイシン耐性カルスを再分化培地〔MS無機塩類及びMSビタミン(Physiol.Plant,15,473-497(1962))、6.25mg/L メロペン、50mg/L ハイグロマイシン、30g/L ショ糖、30g/L ソルビトール、2g/L カザミノ酸、2mg/L カイネチン、0.002mg/L NAA(ナフタレン酢酸)、4g/L ゲルライト、pH5.8〕に移植して、再分化するまで、28℃、明所で培養を続けた。
再分化個体を、発根培地(6.25mg/L メロペン及び25mg/L ハイグロマイシンを補充した、ホルモンを含まないMS培地(6.25mg/L メロペン、50mg/L ハイグロマイシン、30g/L ショ糖、30g/L ソルビトール、2g/L カザミノ酸、4g/L ゲルライト、pH5.8)に置床した。約10日後、新しい発根培地に移植し、さらに約1週間後、形質転換植物が大きくなったところで、2~3日の馴化を経て「呉羽粒培土-D」(商品名;呉羽化学)を詰めたポットに移植し、温室内で生育させた。
(2-2:ゲノミックDNAへの組み込みの確認)
agl遺伝子を導入したイネのうち、ゲノミックDNAにagl遺伝子が組み込まれた真の組換え体イネをPCR法により確認した。
ゲノミックDNAを「QIAGEN DNeasy mini kit」(商品名;QIAGEN)を用いてイネ葉から単離した。これを鋳型DNAとして、agl遺伝子の部分配列及び内部コントロールで、恒常的に発現するOsUbq1遺伝子の部分配列をPCR法により増幅させて、電気泳動法により増幅断片を確認した。相当する遺伝子の約300bpのユニーク配列を増幅するように遺伝子特異的プライマーを設計した(配列番号25/26:agl用フォワード/リバースプライマー、配列番号27/28:OsUbq1用フォワード/リバースプライマー)。
結果を図16Aに示す。GM #4-8及びGM #5-2は、それぞれトランスジェニックイネ(T0世代)であり、Nipponbare N2は非組換え体イネである。上パネルは、agl遺伝子特異的な増幅バンドを観察したもので、組換え体イネであるGM #4-8及びGM #5-2においてバンドが観察される。下パネルは、OsUbq1遺伝子の増幅バンドを観察したもので、全てのイネで観察される。
したがって、組換え体イネGM #4-8及びGM #5-2においてゲノム中にagl遺伝子が組み込まれていることが確認された。
(2-3:agl mRNAの発現確認)
agl遺伝子トランスジェニックイネ(T0世代)におけるagl遺伝子の発現を逆転RT-PCR法により確認した。
前記トランスジェニックイネGM #4-8及びGM #5-2並びに非組換え体イネのNipponbare N2のそれぞれの葉から総RNAを「QIAGEN RNeasy Plant mini kit」(商品名;QIAGEN)を用いて抽出し、「ExScript RT reagent kit」(商品名;タカラ)及びオリゴdTプライマーにより合成したcDNAをRT-PCR用の鋳型として、前記2-2と同様のプライマーセットを用いてPCR法により得られた増幅断片をゲル電気泳動法によって確認した。内部コントロールには、前記2-2と同様にOsUbq1遺伝子のプライマーセットを用いた。
結果を図16Bに示す。上パネルは、agl遺伝子の増幅バンドを観察したもので、トランスジェニックイネであるGM #4-8及びGM #5-2でのみバンドが観察される。下パネルは、OsUbq1遺伝子特異的な増幅バンドを観察したもので、全てのイネで観察される。
したがって、トランスジェニックイネGM #4-8及びGM #5-2においてagl遺伝子が恒常的に発現していることが確認された。
(2-4:Aglタンパク質の確認)
agl遺伝子トランスジェニックイネ(T0世代)の全タンパク質中にAglタンパク質が含まれているかをウエスタンブロット解析法により確認した。
イネから全タンパク質を抽出し、SDS-PAGE法によりタンパク質を分離した後、Aglタンパク特異的なウサギ抗血清を一次抗体、洋ワサビパーオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギIgGを二次抗体としてウエスタンブロットを行い発光基質を加えてX線フィルムに感光させAglタンパク質(分子量約135kD)の存在を確認した。Aglタンパク質抗血清は、Aglタンパク質を免疫したウサギより精製した(注:バイオツールズ株式会社、東京都港区高輪2-15-24)。抗原として用いたAglタンパク質は、Yanoら(2003)による方法によって発現、精製を行った〔Biosci.Biotechnol.Biochem.,67,1976-1982〕。
結果を図16Cに示す。トランスジェニックイネであるGM #4-8及びGM #5-2においてのみAglタンパク質特異的なバンド(分子量:約135kD)が観察された。
したがって、トランスジェニックイネGM #4-8及びGM #5-2においてAglタンパク質が恒常的に発現されていることが確認された。
(3)タバコへの遺伝子導入法
タバコの形質転換は、Horschら(1985)によるリーフディスク法〔Science,227,1229-1231(1985)〕に基づいて行う。ただし、アグロバクテリウムの除菌にはカルベニシリンを用いる。具体的には以下のようにして行う。
約1ヶ月齢のタバコ(Nicotiana tabacum cv.サムソンNN)の葉から切り出したリーフディスクを、α-1,3-グルカナーゼを保持するAgrobacterium tumefacien s LBA4404菌液(本実施例の(1)に記載の方法で培養選抜した後、50μg/mLのカナマイシン又は50μg/mLのハイグロマイシンを含むLB液体培地で2昼夜培養したものを滅菌蒸留水で希釈再懸濁したもの)に浸し、シュート誘導培地〔0.1mg/L NAA、1mg/L BA(ベンジルアデニン)、MS無機塩類及びMSビタミン類(本実施例の(2-1)に記載)、30g/L ショ糖、8g/L 寒天、pH5.7〕上で2日培養する。その後、50mg カナマイシン及び250mg/L カルベニシリンを含むシュート誘導培地に移し、28℃、明所にて2~4週間培養して再分化させる。
再分化個体を、トランスジェニックイネを作製するときと同様にして発根培地〔MS無機塩類及びMSビタミン、30g/L ショ糖、50mg/L カナマイシン、8g/L 寒天、250mg/L カルベニシリン、pH5.7〕に移植し、馴化を経て自殖種子を得る。
(4)トマトへの遺伝子導入法
トマトの形質転換は、Horschら(1985)によるリーフディスク法〔Science,227,1229-1231(1985)〕に基づいて行う。ただし、アグロバクテリウムの除菌にはカルベニシリンを用いる。具体的には以下のようにして行う。
トマト(Solanum lycopersicum)を、播種用培地〔MS無機塩類及びMSビタミン類(本実施例(2-1)に記載)、15g/L ショ糖、3g/L ゲルライト、pH5.8〕に無菌播種し、得られた子葉を切り出して葉片とする。このリーフディスクを、α-1,3-グルカナーゼを保持したAgrobacterium tumefacien s LBA4404菌液(本実施例の(1)に記載の方法で選抜した後50μg/mLのカナマイシン又は50μg/mLのハイグロマイシンを含むLB液体培地で2昼夜培養したものを、100μMアセトシリンゴン、10μMメルカプトエタノールを添加したMS培地で希釈再懸濁したもの)に10分間浸したのち、共存培地〔MS無機塩類及びMSビタミン類(本実施例(2-1)に記載)、30g/L ショ糖、3g/Lゲルライト、1.5mg/L ゼアチン、4μM アセトシリンゴン、pH5.8〕の上にのせ、暗黒下、25℃で3日間共存培養する。
共存培養後のリーフディスクを、カルス誘導培地〔MS無機塩類及びMSビタミン類(本実施例(2-1)に記載)、30g/L ショ糖、3g/L ゲルライト、1.5mg/L ゼアチン、100mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8〕に移し、25℃、16時間日長で培養する。リーフディスクからカルスが形成され、そのカルスからシュートが見えるようになったところで、リーフディスクを切り落とす。シュート及びカルスは、シュートの生長を早めるため、シュート誘導培地〔MS無機塩類及びMSビタミン類(本実施例(2-1)に記載)、30g/L ショ糖、3g/L ゲルライト、1.0mg/L ゼアチン、100mg/L カナマイシン、375mg/L オーグメンチン、pH5.8〕上に移し、25℃、16時間日長でさらに培養する。
シュートが1~2cmの長さに生長したところで根元から切り取って発根培地〔MS無機塩類(本実施例(2-1)に記載の0.5倍濃度にしたもの)、15g/L ショ糖、3g/L ゲルライト、50mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8〕上に移植し、発根した個体を選抜する。選抜後の個体を馴化し自殖種子を得る。
<実施例9.agl遺伝子トランスジェニックイネのいもち病菌抵抗性の確認>
(1)親和性いもち病菌抵抗性:1
上記実施例8で作製したagl遺伝子トランスジェニックイネの葉に、親和性(病原性)いもち病菌(Ina86-137株)の胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)30μlを針接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。コントロールには、非組換え体イネNipponbare N2を用いた。上述したように、いもち病菌は、宿主植物への感染時に自身の細胞壁表面にα-1,3-グルカン層を形成し、宿主植物の免疫機構を回避することが知られている。接種5日後、病斑の形成の有無及び程度について接種葉を観察した。
結果を図17に示す。非組換え体イネNipponbare N2の葉では、菌侵入初期に見られる典型的ないもち病斑が確認された(白矢印)。一方、実施例8でNipponbare N2から作出したトランスジェニックイネGM #4-8の葉では、いもち病菌抵抗反応様の褐点が確認された(白矢頭)。
本結果からagl遺伝子トランスジェニックイネ(T0世代)は、外来性のagl遺伝子の発現により、いもち病菌抵抗性を有することが明らかとなった。
(2)非親和性いもち病菌抵抗性:2
上記実施例8で作製したagl遺伝子トランスジェニックイネGM #4-8の葉に、非親和性いもち病菌(Kyu89-246株)の胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)30μlを針接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。コントロールには、非組換え体イネ Nipponbare N2を用いた。非親和性いもち病菌Kyu89-246株は、Nipponbare N2に対して非感染性を示すことが知られている。
結果を図18に示す。Nipponbare N2では、Kyu89-246株の非親和性が確認された(白矢頭)。一方、Nipponbare N2から作出したGM #4-8においても非感染性は維持されていた(白矢頭)。
<実施例10.agl遺伝子トランスジェニックイネのごま葉枯病菌抵抗性の確認>
上記実施例8で作製したagl遺伝子トランスジェニックイネGM #4-8の葉に、イネごま葉枯病菌(Cochliobolus miyabeanus=無世代名 Bipolaris oryzae MAFF305425)野生株胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1x10分生子数)30μlを針接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。イネごま葉枯病菌は、細胞壁の恒常的な構成成分としてα-1,3-グルカンを含むが、いもち病菌のように宿主植物感染時に菌糸表面にα-1,3-グルカン層を形成することはない。コントロールには、非組換え体イネ Nipponbare N2を用いた。接種5日後、病斑の形成の有無及び程度について接種葉を観察した。
結果を図19に示す。非組換え体イネNipponbare N2の葉では、典型的なごま葉枯病斑が確認された。GM #4-8の葉では抵抗反応様の褐点が確認された。
本結果からagl遺伝子トランスジェニックイネ(T0世代)は、ごま葉枯病菌抵抗性を有することが明らかとなった。
<実施例11.トランスジェニックイネ(T1世代)の確認>
(1)T1世代の作製
上記トランスジェニックイネ(T0世代)を温室内で生育させて、次世代の自殖種子(T1世代若しくはR1世代と呼ぶ)を得た。この種子を、ホルモンを含まない1/4MS培地(1/4希釈したMS無機塩類、100mg/l アンピシリン、50~100mg/L ハイグロマイシン、4g/L ゲランガム)に置床した。28℃で1~2日暗黒下にインキュベートした後、継続光下で約10日間培養した。発芽したハイグロマイシン耐性を有するトランスジェニックイネをその後、「ボンソル1号」(商品名;住友化学)を詰めたポットに移植し、温室内で生育させた。
(2)T1世代におけるagl遺伝子発現の確認
agl遺伝子を導入したT0トランスジェニックイネから得られたT1世代のイネがagl遺伝子を発現しているかをRT-PCR法により確認した。コントロールには、T0トランスジェニックイネの作製に用いた非組換えイネNipponbare N2を使用した。具体的な方法については、前記実施例8(2-3)と同様の方法に準じた。
結果を図20に示す。T1 line#201-A2及び0#310-2は、いずれもagl遺伝子の発現を確認済みのT0世代トランスジェニックイネの自殖種子から得られたT1世代のトランスジェニックイネである。#201-A2及び#310-2では、agl増幅バンドが観察されたが、コントロールである非組換えイネNipponbare N2では確認できなかった。OsUbq1遺伝子は、全てのイネで観察された。
したがって、T1トランスジェニックイネT1 line#201-A2及び#310-2でもagl遺伝子が恒常的に発現していることが確認された。
(3)T1トランスジェニックイネにおけるいもち病菌抵抗性の確認
T1トランスジェニックイネ#201-A2及び0#310-2に親和性いもち病菌(Ina86-137株)の胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)10mlを噴霧接種し、接種5日後のイネの反応を観察した。具体的な方法については、実施例9(1)に準じた。
結果を図21に示す。実施例9のT0世代と同様に、T1トランスジェニックイネ#201-A2及び#310-2においても、その葉でいもち病菌抵抗反応様の褐点が確認された。
したがって、agl遺伝子のT1世代トランスジェニックイネもいもち病菌に対して抵抗性を維持していることが確認された。
(4)T1世代トランスジェニックイネにおけるごま葉枯病菌抵抗性の確認
T1トランスジェニックイネにごま葉枯病菌の胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)10mlを噴霧接種し、イネの反応を観察した。具体的な方法については、実施例9(2)に準じた。
結果を図22に示す。T1トランスジェニックイネ#201-A2及びT1 line#310-2の葉では抵抗反応様の褐点が確認された。一方、非組換え体イネ Nipponbareでは典型的なごま葉枯病斑が確認された。
したがって、agl遺伝子のT1トランスジェニックイネもT0世代と同様のごま葉枯病菌に対する抵抗性を維持していることが確認された。
(5)T1トランスジェニックイネにおけるイネ紋枯病菌抵抗性の確認
agl遺伝子のT1トランスジェニックイネのイネ紋枯病菌に対する抵抗性を調べた。
(5-1)葉面接種
イネ紋枯病菌(Thanatephorus cucumeris =syn.Rhizoctonia solani MAFF305219)野生株をMaruthasalamら(2007)の方法〔Plant Cell Rep.,26,791-804.〕を参考にしてT1トランスジェニックイネ#27-2の葉面に接種した。イネ紋枯病菌を生育させたPDA培地(24g/L DIFCO potato dextrose broth,1.5(w/v)%寒天)をコルクボーラーでくり抜き、菌叢面を葉面に合わせるように静置し、継続光下、30℃でインキュベートした。接種6日後の病斑の形成の有無及び程度について接種葉を観察した。イネ紋枯病菌もごま葉枯菌と同様に、α-1,3-グルカンを細胞壁の恒常的な構成成分として含む。
なお、T1 line#201-A2及び#310-2と同様に、T1 line#27-2もNipponbare N2より作出したT0世代より得られたT1世代のagl遺伝子のトランスジェニックイネで、agl遺伝子の発現を確認している(データ示さず)。
結果を図23Aに示す。T1トランスジェニックイネ#27-2の葉ではイネ紋枯病菌による葉の枯死が抑制されていた。一方、Nipponbare N2では、典型的なイネ紋枯病菌による葉の枯死が生じていた。
以上より、agl遺伝子のT1トランスジェニックイネは、イネ紋枯病菌に対しても感染抵抗性を有することが明らかとなった。
(5-2)葉鞘接種
イネ紋枯病菌野生株の菌糸を爪楊枝先端で絡めとり、T1トランスジェニックイネ#27-2及びNipponbare N2の葉鞘切断面に擦り付け、継続光下、30℃でインキュベートした。接種6日後の病斑の形成の有無及び程度について接種葉を観察した。
結果を図24Bに示す。#27-2の葉鞘では紋枯病菌による枯死が抑制されていたが、Nipponbareでは紋枯病菌による葉鞘の枯死が激しかった。
以上より、agl遺伝子のT1トランスジェニックイネは、葉のみならず、葉鞘においてもイネ紋枯病菌に対しても感染抵抗性を示すことが明らかとなった。
<実施例12.灰色かび病菌のタバコ葉感染阻害>
灰色かび病菌(Botrytis cinerea)は、α-1,3-グルカンを細胞壁の恒常的な構成成分として含む。そこで、予めα-1,3-グルカナーゼで処理した灰色かび病菌胞子の宿主植物感染性が阻害されるか否かについて検証した。
(1)α-1,3-グルカナーゼ処理した灰色かび病菌のタバコ葉感染阻害
灰色かび病菌野生株胞子の懸濁液(滅菌水1mlあたり5x10分生子)に精製α-1,3-グルカナーゼ5μgを加え、100μlをタバコ(Nicotiana tabacum)サムソンNN株の葉に接種した。対照として精製α-1,3-グルカナーゼに代えてPBSバッファーを同一葉に接種した。その後、接種葉を25℃でインキュベートし、接種3週間後、病斑の形成の有無及び程度について観察した。
結果を図24Aに示す。破線円内は接種箇所を示す。aは、1,3-グルカナーゼ処理済みの灰色かび病菌胞子を接種したもの、bは、1,3-グルカナーゼ無添加のバッファのみに懸濁した灰色かび病菌胞子を接種したものである。1,3-グルカナーゼ処理した灰色かび病菌胞子では著しく感染力が抑制されていることがわかる。
本結果は、1,3-グルカナーゼを宿主植物表面に塗布又は噴霧等によって直接付着させた場合であっても、植物感染性微生物の感染を予防できることを示唆している。
(2)タバコ葉でのα-1,3-グルカナーゼー過的発現による灰色かび病菌の感染阻害
実施例8(1)の方法に準じてα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を保持するAgrobacterium tumefaciens LBA4404菌液及びコントロールとしてα-1,3-グルカナーゼ遺伝子を保持しないAgrobacterium tumefaciens LBA4404菌液を、タバコ(Nicotiana tabacum)サムソンNN株に注入接種し、24時間インキュベートした。その後、灰色かび病菌(Botrytis cinerea)野生株の胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり5x10分生子)100μlをAgrobacterium tumefaciensを接種したタバコ葉部位に接種した。接種葉を25℃でインキュベートし、1週間後、病斑の形成の有無及び程度について観察した。
結果を図24Bに示す。aの破線内は、1,3-グルカナーゼを一過的発現させた部位に灰色カビ菌を接種した箇所、bの破線内は、1,3-グルカナーゼを無発現部位に灰色カビ菌を接種した箇所を示す。
本結果が示すように、1,3-グルカナーゼを一過的にタバコ内で発現させた場合にも灰色カビ菌に対する感染抵抗性が示された。
<実施例13.α-1,3-グルカナーゼを分泌する微生物接種によるいもち病菌防除効果>
本発明の微生物農薬製剤の有効性を、内在性agl遺伝子を有する枯草菌Bacillus circulans(Paenibacillus sp.)KA304株を用いて検証した。
(1)枯草菌Bacillus circulans KA304株におけるagl遺伝子の発現の確認
内在性agl遺伝子を有することが知られている枯草菌Bacillus circulans KA304株(Yano et al.,2006,Biosci.Biotechnol.Biochem.70:1754-1763)を発現誘導剤として0.5(w/v)%α-1,3-グルカンを添加したagl発現誘導用の、又はそれを添加しない非発現誘導用の、Bacillus増殖用培地(0.5(w/v)%ポリペプトン、0.5(w/v)%酵母エキス、0.1(w/v)% KHPO、0.03(w/v)% MgSO・7HO、0.5(w/v)NaCl、pH7.0)に添加し、一晩培養した。コントロールとして、内在性の本酵素遺伝子を有さない枯草菌B.subtilis 168株を用いた。培養後、それぞれの培養液の菌体から総RNAを「RNAiso」(商品名;タカラ)を用いて単離した。その後、総RNAをDNase(商品名;ニッポンジーン)処理し、「ExScript RT reagent kit」(商品名;タカラ)及びランダムヘキサマープライマーを用いて総RNAサンプルからcDNAを合成した。各cDNAの濃度を一定にしてRT-PCR用の鋳型として、相当する遺伝子の約300bpのユニーク配列を増幅するように設計した遺伝子特異的プライマー(agl増幅用フォワード/リバースプライマー:配列番号25/26,16S rRNA増幅用フォワード/リバースプライマー:配列番号29/30)によりPCRを行った。PCRの反応条件は、96℃4分間、続いて(96℃15秒、55℃30秒、72℃30秒)を25~35サイクル、最後に72℃で7分間である。
結果を図25に示す。Bacillus subtilis 168株ではagl遺伝子をもたないため、いずれの培養条件でもagl遺伝子の発現は見られない。一方、内在性のagl遺伝子をもつBacillus circulans KA304株ではagl遺伝子の発現が確認された。更にB.circulans KA304株では、発現誘導剤であるα-1,3-グルカンを添加した培養時の方が無添加の培養時に比べてagl遺伝子の転写量が増加していた。
以上より、agl遺伝子を有する微生物では、発現誘導処理を行うことによりα-1,3-グルカナーゼを高発現することが判明した。
(2)枯草菌を接種したイネのいもち病菌に対する感染抵抗性
本実施例の(1)に記載の方法で、Bacillus circulans KA304株及びB.subtilis 168株を培養した。培養後、各培養液の吸光度(OD600nm)を0.5に合わせ、10mlの細菌懸濁液を調製した。この懸濁液をイネ品種LTH(第4葉目展開したイネを使用)の切り葉に噴霧接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。対照として、細菌懸濁液に代えて滅菌水を用いた。3時間後にいもち病菌野生株(Guy11株)胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1×10分生子数)10mlを切り葉に噴霧接種し、接種葉を継続光下25℃でインキュベートした。接種4日後、切り葉に生じた病斑を観察した。
結果を、図26に示す。細菌無処理でいもち病菌を接種したイネでは進展型の病斑が多数形成されていた(Control)。一方、α-1,3-グルカナーゼを発現しないBacillus subtilis 168株を接種したイネでは培養時のα-1,3-グルカン添加の有無に関わらず、わずかに病斑が少なくなっていた。これは、枯草菌が分泌する他の抗菌物質によるものと思われる。対して、α-1,3-グルカナーゼを発現し、分泌するBacillus circulans KA304株を接種したイネでは、発現誘導剤のα-1,3-グルカン無添加培養時は、病斑がB.subtilis 168株と同程度であったが、α-1,3-グルカン添加培養時では病斑が顕著に少なくなっていた。
したがって、α-1,3-グルカン添加培養により、すなわち発現誘導処理によりα-1,3-グルカナーゼを高発現させたB.circulansをイネに噴霧することで、いもち病菌の感染が抑制されることが示された。すなわち、本発明の微生物農薬製剤が有効に機能し得ることが立証された。
<実施例14.イネに感染した植物感染性微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカン>
(1)イネに感染したイネごま葉枯病菌の細胞壁におけるα-1,3-グルカンの検出
イネ品種Nipponbareの第4葉の葉鞘細胞に、イネごま葉枯病菌胞子懸濁液(滅菌水1mlあたり1x10分生子数)50μlをシリンジで注入し、室温で静置し、24時間以降に侵入菌糸の形成が見られた。接種後48時間の葉鞘をα-1,3-グルカン検出の試料とした。前記実施例1の方法に従ってイネごま葉枯病菌細胞壁のα-1,3-グルカンの検出を行った。
結果を図27Aに示す。BFは、明視野(Bright Field)における接種画像であり、α-Gは、α-1,3-グルカンを緑色蛍光色素を用いて抗体検出した画像である。イネごま葉枯病菌の侵入菌糸(BF図矢印)でα-1,3-グルカン(α-G)が検出された。
(2)イネに感染したイネ紋枯病菌の細胞壁におけるα-1,3-グルカンの検出
イネ品種Nipponbareの第4葉の葉鞘細胞に、イネ紋枯病菌の菌糸懸濁液50μlをシリンジで注入し、室温で静置した。接種後48時間の葉鞘をα-1,3-グルカン検出の試料とした。前記実施例1の方法に従ってイネ紋枯病菌細胞壁のα-1,3-グルカンの検出を行った。
結果を図27B、Cに示す。図27Bは、イネ紋枯病菌MAFF305219株を、図27Cは、イネ紋枯病菌MAFF305231株を接種した画像である。左パネルは明視野を、右パネルはα-Gをそれぞれ示す。イネ紋枯病菌の菌糸でも、α-1,3-グルカンが検出された。
<実施例15.様々な植物感染性微生物の細胞壁におけるα-1,3-グルカンの検出>
上記発明の詳細な説明において列挙した植物感染性微生物の細胞壁にα-1,3-グルカンが構成成分として存在することを確認した。
それぞれ植物感染性微生物を植物ワックスを含まないPDA培地(24g/L DIFCO potato dextrose broth,1.5(w/v)%寒天)でシャーレ全面に広がる程度生育させた。胞子を形成するものは胞子を集め、胞子を形成しないものは菌糸を集め、滅菌水で懸濁液を作成した。ただし、タバコうどんこ病菌は絶対寄生菌であるため、タバコ葉上で形成された分生子および子嚢胞子を水に懸濁したものを用いた。また、Colletotrichum acutatum、Aspergillus niger、Trichoderma harzianumについては、発芽もしくは感染器官分化の促進のためpotato-carrot broth(ジャガイモ(20g/l)・ニンジン(20g/l)煮沸浸出液)1(v/v)%を胞子懸濁液に添加した。その後、懸濁液30μlをカバーグラスに滴下し、室温で一晩インキュベートした後、3%(v/v)ホルムアルデヒド(PBSバッファーに溶解)50μlを重層し、65℃で30分インキュベートした。これをPBSバッファーで十分にリンスした後、前記実施例1の方法に従ってα-1,3-グルカンの検出を行った。
結果を図28A~AKに示す。いずれの図も左パネル(BF)は、明視野における写真であり、右パネル(α-G)は、α-1,3-グルカンを緑色蛍光色素で抗体検出した写真である。
検出に用いた植物感染性微生物名を以下に示す。Aはトウモロコシごま葉枯病菌(Cochliobolus heterostrophus=Bipolaris maydis)MAFF305060株、Bは黄麹菌(Aspergillus oryzae)RIB40株、Cは野菜類萎凋病菌(Fusarium oxysporum)MAFF236429株、Dは灰色かび病菌(Botrytis cinerea)MAFF305929株、Eは灰色かび病菌MAFF306658株、Fはムギ類麦角病菌(Claviceps purpurea)MAFF237656株、Gはリンゴ胴枯病菌(Diaporthe tanakae)MAFF625037株、Hはトマト葉かび病菌(Passalora fulva=Fluvia fluva,Cladosporium fluvum)MAFF726621株、Iはさび病菌(Puccinia recondita)MAFF102012株、Jは白絹病菌(Sclerotium rolfsii)MAFF328230株、Kは白絹病菌(Sclerotium rolfsii)MAFF328242株、Lは菌核病菌(Sclerotinia scleroiorum)MAFF726001株、Mは菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)MAFF305955株、Nはモモ縮葉病菌(Taphrina deformans)MAFF305614株、Oはトマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp.lycopersici)MAFF103036株、Pはトマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp.lycopersici)MAFF103038株、Qはタバコ葉より単離されたタバコうどんこ病菌(Golovinomyces cichoracearum=Erysiphe cichoracearum)子嚢及び子嚢胞子、Rはリンゴ斑点落葉病菌(Alternaria alternata)MAFF235998株、Sはトマト炭疽病菌(Colletotrichum coccodes)MAFF237459株、Tはpotato-carrot broth(ジャガイモ(20g/l)・ニンジン(20g/l)煮沸浸出液)1(v/v)%を胞子懸濁液に添加させた時のイチゴ炭疽病菌(Colletotrichum acutatum)、Uはリンゴ胴枯病菌(Botryosphaeria berengeriana)MAFF645001株、Vはコムギ赤カビ病菌(Fusarium graminearum=Gibberella zeae)MAFF239942株、Wはジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)MAFF235884株、Xはイネ馬鹿苗病菌(Fusarium fujikuroi=Gibberella fujikuroi)MAFF235949株Yはピシウム性イネ苗立枯病菌(Pythium graminicola)MAFF238432株、Zはピシウム性イネ苗立枯病菌(Pythium graminicola)MAFF238433株、AAはpotato-carrot broth(ジャガイモ(20g/l)・ニンジン(20g/l)煮沸浸出液)1(v/v)%を胞子懸濁液に添加させた時のクロカビ病菌(黒麹菌)(Aspergillus niger)MAFF238883株、ABはpotato-carrot broth(ジャガイモ(20g/l)・ニンジン(20g/l)煮沸浸出液)1(v/v)%を胞子懸濁液に添加させた時のトリコデルマ菌(Trichoderma harzianum)MAFF240261株、ACはリンゴ腐らん病菌(Valsa ceratosperma)MAFF645008株、ADは紫紋羽病菌(Helicobasidium mompa)MAFF328024株、AEは白紋羽病菌(Rosellinia necatrix)MAFF328150株、AFはバーティシリウム病菌(Verticillium dahliae)MAFF235612株、AGはトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)MAFF511454株、AHはチャ輪斑病菌(Pestalotiopsis longiseta)MAFF237332株、AIはリンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)MAFF237305株、AJはバラ黒星病菌(Marssonina rosae=Diplocarpon rosae)MAFF410215株、AKはナラタケ菌(Armillaria mellea)MAFF425285株を検証した画像である。いずれの細胞壁でもα-1,3-グルカンが検出された。
以上の結果から、多くの植物感染性微生物でα-1,3-グルカンが細胞壁の恒常的な構成成分として存在していることが明らかとなった。したがって、agl遺伝子を導入したトランスジェニック植物又は本発明の微生物農薬製剤は、α-1,3-グルカンを細胞壁に有するこれらの多くの植物感染性微生物の細胞壁を分解することにより、当該微生物の感染を防止又は抑制することができると、考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明の植物感染性微生物の感染防止又は抑制方法によれば、細胞壁にα-1,3-グルカンを含む植物感染性微生物の宿主植物への感染を防止又は抑制することができる。
本発明の微生物農薬製剤によれば、宿主・品種間の特異性を問わず、細胞壁にα-1,3-グルカンを含む植物感染性微生物の感染防止又は抑制に有効な製剤を提供することができる。
また、本発明の植物感染性微生物の感染防止又は抑制方法及び微生物農薬製剤は、微生物の感染に必須な細胞壁成分をターゲットとするため、耐性微生物が出現しにくい利点を有する。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]
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図面
【図3A】
0
【図3B】
1
【図12】
2
【図13】
3
【図14】
4
【図15】
5
【図1】
6
【図2】
7
【図4】
8
【図5】
9
【図6】
10
【図7】
11
【図8】
12
【図9】
13
【図10】
14
【図11】
15
【図16A】
16
【図16B】
17
【図16C】
18
【図17】
19
【図18】
20
【図19】
21
【図20】
22
【図21】
23
【図22】
24
【図23A】
25
【図23B】
26
【図24A】
27
【図24B】
28
【図25】
29
【図26】
30
【図27】
31
【図28A-C】
32
【図28D-F】
33
【図28G-I】
34
【図28J-L】
35
【図28M-N】
36
【図28O-Q】
37
【図28R-T】
38
【図28U-X】
39
【図28Y-AA】
40
【図28AB-AD】
41
【図28AE-AG】
42
【図28AH-AJ】
43
【図28AK】
44