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明細書 :振動解析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5077757号 (P5077757)
公開番号 特開2009-162684 (P2009-162684A)
登録日 平成24年9月7日(2012.9.7)
発行日 平成24年11月21日(2012.11.21)
公開日 平成21年7月23日(2009.7.23)
発明の名称または考案の名称 振動解析方法
国際特許分類 G01H  17/00        (2006.01)
G01H   3/00        (2006.01)
FI G01H 17/00 D
G01H 3/00 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願2008-002199 (P2008-002199)
出願日 平成20年1月9日(2008.1.9)
審査請求日 平成22年11月25日(2010.11.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
発明者または考案者 【氏名】山崎 徹
個別代理人の代理人 【識別番号】110000545、【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
審査官 【審査官】島田 英昭
参考文献・文献 特開2001-264156(JP,A)
特開2006-071570(JP,A)
特開平11-337402(JP,A)
山崎徹,外2名,“SEAによる機械製品の固体音低減プロセス”,日本機械学会論文集 C,2007年 2月25日,Vol.73, No.726,p.446-452
調査した分野 G01H
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の部材を結合した構造体の振動解析方法であって、
前記構造体を複数の要素に仮想的に分割し、入力パワーを加えて各要素エネルギーを計測して下式(1)で表すAを求めるステップと、
-1を求め、-1の成分(aij)から各要素間の結合損失率(ηji)と各要素内部の内部損失率(η)とを、下式(3)、(4)により算出するステップと、
構造体の実働時の各要素のエネルギーEを計測し、入力パワーPを下式(2)により同定するステップと
を有することを特徴とする構造体の振動解析方法。
E=AP ・・・ (1)
P=A-1E ・・・ (2)
ここで、PとEは、要素iへの外部入力パワーPi、要素エネルギーEiをそれぞれ成分とする入力パワーおよびエネルギーベクトルであり、Aはエネルギー影響係数マトリクスである。
ηji =-aij/ω (但し、i≠j) ・・・(3)
η=aii/ω-Σηij(j=1~6、但しj≠i) ・・・(4)
ここで、ωは角周波数である。
【請求項2】
摂動法を用いて変更すべき損失率を抽出するステップをさらに具備することを特徴とする請求項1記載の構造体の振動解析方法。
【請求項3】
入力パワーを加えて各要素エネルギーを計測する手法は、インパクトハンマによる振動入力および加速度計による振動応答計測を行ない、要素jへの入力パワーPjおよびそのときの要素iの要素エネルギーEijをそれぞれ下式(5)、(6)により算出するものである請求項1記載の構造体の振動解析方法。
JP0005077757B2_000006t.gif ここで、Fは加振カスペクトル、Vは加振点応答速度スペクトル、mは要素の質量、Re( )は実部、*は複素共役、pは要素あたりの応答点数をそれぞれ表す。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材を結合した構造体の振動解析方法に関し、特に、複数の部材間の結合が弱い構造体にも、部材間の結合が強い構造体にも対応可能な振動解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械製品の固体音を低減するためには、対象機械の数学(数値)モデルの作成、実稼動シミュレーション、構造変更シミュレーションおよび構造最適化という手順をとることが一般的であるが、固体音の解析には、可聴周波数域全体にわたる高次モードまでを対象とする必要がある。このため、個々の共振ピークに注目する実験モード解析(EMA)、有限要素法(FEM)や境界要素法(BEM)などの手法で固体音解析を行なうことは困難な場合が多い。
また、これらの手法は部品レベルの解析には強力なツールとなるが、先の手順を実行するとなると、機械全体を対象とした場合、モデル作成の労力、時間、解析時間、実稼動時の入力の扱いなど、解決すべき課題が多い。
【0003】
このため、本発明者は、エネルギー伝播に注目した手法である統計的エネルギー解析法(Statistical Energy Analysis;以下SEAという)を利用した固体音低減プロセスを先に提案し、レーザプリンタ等の実機械製品の低騒音化を実現してきている(非特許文献1、特許文献1参照)。
【0004】
このSEAによる固体音低減プロセスは、対象とする振動音響系(system)を部品などの要素(subsystem)の集合体とみなし、要素の振動および音響エネルギーを変数とする解析モデルを考える。この解析モデルは、系外からの入力パワーと要素内の散逸パワーおよび要素間の伝達パワーで構成されるパワー平衡式を基礎式とするもので、例えば、図1に示す要素数6の対象系を想定した場合においては、図1の実線で示す要素間の結合だけを考慮して、以下に示す式(1),(2)を基礎式とする。
【0005】
【数1】
JP0005077757B2_000002t.gif
ここで、PとEは要素iへの外部入力パワーPi、要素エネルギーEiをそれぞれ成分とする入力パワーおよびエネルギーベクトル、ωは解析角振動数、Lは、要素内部の振動エネルギーが振動パワーに変換されるときの損失割合を表す内部損失率ηi(以下、ILF)と要素間を伝達するエネルギーの損失割合を表す結合損失率ηij(以下、CLF)からなる損失率マトリクスである。

【非特許文献1】山崎徹、黒田勝彦、森厚夫:“SEAによる機械製品の固体音低減プロセス”日本機械学会論文集、73巻、726号、C編(平成19年2月)
【特許文献1】特開2006-71570
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のSEAモデルでは、図1の実線で示す要素間の結合だけを考慮するため(図1の破線で示す要素間の結合を考慮しないため)、要素間の結合は、ネジやカシメ等による弱結合である(モード数の多い対象に限定される)などの仮定を含む。その結果、L(ILFとCLF)は机上での評価は可能であるが、CLFは1より小さい正の値、直接結合していない要素間(図1の破線)のCLFは0(式(2)中の0)などの制約がある。
このため、部材間の結合が強い構造体(モード数の少ない対象)の振動解析には向かないものであり、さらなる改良の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、あらゆる結合状態を備えた構造体に対しても振動解析を行うことが可能な振動解析方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題を解消するために、SEAを包含するエネルギー解析モデル(EA)を導入し、構造体を構成する複数の部材のあらゆる結合状態に対応可能な振動解析方法を導入する。
【0009】
即ち、本発明に係る振動解析方法は、複数の部材を結合した構造体の振動解析方法であって、前記構造体を複数の要素に仮想的に分割し、入力パワーを加えて各要素エネルギーを計測して下式(3)で表すAを求めるステップと、A-1を求め、A-1の成分から要素間を伝達するエネルギーの損失割合を表す結合損失率と各要素内部の振動エネルギーが振動パワーに変換されるときの損失割合を表す内部損失率とを算出するステップと、
構造体の実働時の各要素のエネルギーEを計測し、入力パワーPを下式(4)により同定するステップとを有することを特徴としている。
【0010】
E=AP ・・・ (3)
P=A-1E ・・・ (4)
ここで、PとEは、要素iへの外部入力パワーPi、要素エネルギーEiをそれぞれ成分とする入力パワーおよびエネルギーベクトルであり、Aはエネルギー影響係数マトリクスである。
このような入力パワーPを同定することで、入力パワーの伝播経路を解明することが可能となる。
【0011】
また、摂動法を用いて変更すべき損失率を抽出するステップをさらに具備してもよい。例えば、摂動法を用いて振動騒音を低減できる損失率を抽出すれば、抽出した損失率を所望の値となるような構造変更案を模索しやすくなる。
【0012】
尚、入力パワーを加えて各要素エネルギーを計測する手法は、インパクトハンマによる振動入力および加速度計による振動応答計測を行ない、要素jへの入力パワーPjおよびそのときの要素iの要素エネルギーEijをそれぞれ下式(5)、(6)により算出するようにするとよい。
【0013】
【数2】
JP0005077757B2_000003t.gif
ここで、Fは加振カスペクトル、Vは加振点応答速度スペクトル、mは要素の質量、Re( )は実部、*は複素共役、p は要素あたりの応答点数をそれぞれ表す。
【0014】
また、A-1の成分(aij)から算出する結合損失率(ηji)と内部損失率(η)とは、下式(7)、(8)により算出するようにしてもよい。
【0015】
ηji = aij/ω (但し、i≠j) ・・・(7)
η=aii/ω-Σηij(j=1~6、但しj≠i) ・・・(8)
ここで、ωは角周波数である。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、この発明に係る振動解析方法によれば、SEAを包含するエネルギー解析モデルを導入することで、弱結合を含むあらゆる結合状態の構造体に対して振動解析を行うことが可能となる。
即ち、あらゆる結合状態の複数の部材からなる構造体について、入力パワーの伝搬経路を解明することが可能となり、また、振動騒音を低減できる損失率を抽出することで、抽出した損失率を所望の値となるように構造変更を模索することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の最良の実施形態を図面に基づき説明する。この実施例では、図1に示す要素数6の構造体について述べる。
【0018】
1.振動エネルギー伝播モデル
前述した図1で示す振動音響系において、線形系であれば、入出力関係は次式(3)で表せる。
E=AP ・・・(3)
この式は前記式(1)と同形で、これを基礎式とするモデルは、従来のSEAを包含する。ここで、Aは、エネルギー影響係数(EIC)マトリクスである。Aは,机上評価の可能なLと異なり、実験やFEMなどで算出する。
【0019】
式(3)を次式(4)
P=A-1E ・・・(4)
と変形すれば、A-1とLの比較が可能となる。Aはフル行列であるためA-1もフル行列となる。いま、A-1の(i,j)成分aij(ただしi≠j)に注目しLの形と比較すると、ηji=-aij/ωより全ての要素間でのCLFを算出することができる。そしてそれぞれの値は、正であったり負であったり、1を超えたりなど様々な値をとりうる。これに対して、SEAのCLFは1より小さい正の値か0である。
【0020】
EAおよびSEAのCLFが一致すれば、EAモデルとSEAモデルは等しく、その系はSEA適用可能な構造物であると判断できる。すなわちSEAとEAモデルの比較により、対象系のSEAの適用性を示すことが可能となる。
【0021】
2.振動騒音低減プロセスについて
上述したEAを用いた振動騒音低減プロセスは以下の通りである。
(a) EAモデルの構築
実験やFEMを利用して、入力パワーを加え要素エネルギーを計測し、Aを求める。そして、A-1(成分aij)を求め、ηji=-aij/ω(ただしi≠j)よりCLF、η=aii/ω-Σηij(j=1~6、ただしj≠i)よりILFを算出する。
(b)実稼動時の入力同定および伝搬経路の解明
機械の実働時の各要素のエネルギーEを計測し、式(4)から入力パワーPを同定する。
(c)摂動法による要素エネルギー変化量予測
効率よく振動騒音を低減できる損失率を抽出するために摂動法を用いる。
(d)損失率変更のための構造変更案検討
抽出した損失率を所望の値となるような構造変更案を模索する。SEAを用いたプロセスでは、CLFを理論的に算出することができる。しかしEAを用いた場合には、前述のとおり、A(つまりILFやCLF)を予測することは困難である。そのため、FEMなどを利用する。
【0022】
3.SEAの適用性の検討(SEAとEAの比較)
二枚の矩形平板(板厚 2mm,0.5×035mと0.4×0.35m)を直交接続した簡易構造物(L型構造物,要素数2)と、薄板状(板厚0.8mm)のフロア構造物(自動車のフロアまわりを切り出したもの、概寸全長1.6m,全幅1.7m,全高0.6m,要素教8)、および図2に示す圧肉構造および回転ロータを有する裁断機用試験機(要素数6)を対象に、SEAとEAモデルを構築し、それらの比較よりSEAの適用性を議論する。
【0023】
3.1 モデルの構築手順
SEAとEAモデルの構築には、インパクトハンマによる振動入力および加速度計による振動応答計測を用いる。そして、要素jへの入力パワーPjおよびそのときの要素iの要素エネルギーEijをそれぞれ以下より算出する。
【0024】
【数3】
JP0005077757B2_000004t.gif
ここで、Fは加振カスペクトル、Vは加振点応答速度スペクトル、mは要素iの質量、Re( )は実部、*は複素共役、pは要素あたりの応答点数(今回は6点)をそれぞれ表す。
【0025】
そして,SEAモデルのILFとCLFは結合する二つの要素間毎に次式から評価する。
【数4】
JP0005077757B2_000005t.gif

【0026】
一方、EAのAは式(6)より算出し、前述した2節(a)に従い、ILFとCLFを求める。
SEAモデルの構築では一つの要素を加振した際には二つの要素の応答を計測するだけであるが、EAでは全ての要素の応答計測が必要となるため、計測量は多くなる。
【0027】
3.2 EAとSEAモデルの比較
L型構造物の場合、1/3オクターブ100Hzバンド以上の振動数域において両者の結果はよく一致していた(詳細省略)。フロア構造物のη12とη13(SEAでは0)の結果を図3に示す。EAによる損失率で負の場合はその絶対値をプロットし中抜きマーカで示している。400Hzバンド以下の低振動数域においてSEAとEAの違いは大きい。それ以上で1kHzバンドまでは絶対値は近いものの符号は逆の振動数もある。そして、1.25kHzバンド以降では両者はよく一致している。また図4に試験機のη12とη13(SEAでは0)の結果を示す。1.25kHzバンド以下で両者の違いは大きい。そして500Hzバンド以下のSEAおよび1.25kHzバンド以下のEAのCLFは1を超えている。これに対して、1.6kHzバンド以上で両者はよく一致している。
以上より、薄板で単純なL型構造物では検討した全ての振動数域、フロア構造物では1.25kHz以上、そして試験機では1.6kHz以上でSEAの適用が有効と思われる。
【0028】
4.EAを用いた低振動プロセスの検討
前述のとおり、図2の試験機へのSEA適用は1.6kHz以上に限られる。本試験機はふれまわり(160Hzバンド)により大きな振動が発生する。この振動数バンドを対象に、EAによる振動低減プロセスの適用を試みる。なお、2節(d)の構造変更案検討は困難であるため、ロータ軸受け部(要素5)の側圧設定を二種(条件AとBと称す)とし、これらの違いをプロセスで示すことができるかという視点で検討する。1.6kHz以上の振動数域でのSEAによるプロセスの有効性も確認したがその詳細は省略する。
【0029】
(a)EAモデルの構築
EAによるCLFの算出結果を図5に示す。
(b)実稼動時の入力同定および伝達経路の解明
モータを駆動したとき(1400rpm、基本振動数23.3Hz)の要素エネルギー(6点応答/要素,図6)を計測し、式(4)より入力パワーを算出した結果および伝搬経路を図7に示す。
(c)摂動法による要素エネルギー変化量予測
条件Aのときにη13を大きくした場合の各要素のエネルギー変化量の予測結果を一例として図8に示す。この結果は、η13を大きくすればいずれの要素エネルギーも低減できることを表す。このことは、条件AかBにすることでη13は大きくなり(図5)、全要素のエネルギーが低減されている(図6)実際と良い対応が確認できる。
(d)損失率変更のための構造変更案検討
側圧などの変更とそれによって変化する損失率の対応が分かれば、(c)より変更すべき損失率を特定し、その損失率変更をもたらす変更を行なえば、振動低減につながるものと思われる。SEAモデルでは要素間の結合は弱い状態に成り立つもので、一部の変更が全体にまで影響を与えない。しかし要素間の結合が強い場合にも対応するEAでは、一部の変更により全体の振動特性が変化してしまうため、構造変更と損失率との対応関係については更なる検討が必要である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、要素数6の構造体のエネルギーフローモデルを示す図である。
【図2】図2は、部材間の結合が強い構造体の例として用いた要素数6の裁断機用試験機の概念図である。
【図3】図3は、フロア構造物の結合損失率η12とη13(SEAでは0)の1/3オクターブバンド計測結果を示す図である。
【図4】図4は、試験機の結合損失率η12とη13(SEAでは0)の1/3オクターブバンド計測結果を示す図である。
【図5】図5は、EAによるCLFの算出結果を示す図である。
【図6】図6は、モータを駆動したとき(1400rpm、基本振動数23.3Hz)の要素エネルギー(6点応答/要素,図6)の計測値を示す図である。
【図7】図7は、式(4)により入力パワーを算出した結果および伝搬経路を示す図である。
【図8】図8は、条件Aのときにη13を大きくした場合の各要素のエネルギー変化量の予測結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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