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明細書 :エポキシエイコサトリエン酸関連疾患の予防又は治療

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6020888号 (P6020888)
公開番号 特開2014-009199 (P2014-009199A)
登録日 平成28年10月14日(2016.10.14)
発行日 平成28年11月2日(2016.11.2)
公開日 平成26年1月20日(2014.1.20)
発明の名称または考案の名称 エポキシエイコサトリエン酸関連疾患の予防又は治療
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P   9/12        (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
A61P   9/00        (2006.01)
A61P   9/08        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI A61K 45/00
A61K 39/395 D
A61K 39/395 N
A61K 31/7088
A61P 43/00 112
A61P 9/12
A61P 13/12
A61P 9/00
A61P 9/08
A61P 9/10 101
C12Q 1/68 A
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 30
出願番号 特願2012-147435 (P2012-147435)
出願日 平成24年6月29日(2012.6.29)
審査請求日 平成27年5月26日(2015.5.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】門松 健治
【氏名】佐藤 和一
【氏名】佐藤 由香
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査官 【審査官】石井 裕美子
参考文献・文献 米国特許出願公開第2011/0059102(US,A1)
国際公開第2008/059877(WO,A1)
NOを介した内皮細胞障害と血圧制御におけるミッドカインの役割,日本腎臓学会誌,2011年 5月,Vol.53, No.3,Page.393
The growth factor midkine regulates the renin-angiotensin system in mice. ,The Journal of clinical investigation,2009年,Vol. 119, No. 6,pp.1616-25
調査した分野 A61K 45/00-45/08
A61K 39/00-39/44
A61K 31/7088
C12Q 1/68
G01N 33/15
G01N 33/50
A61P 9/00
A61P 9/08
A61P 9/10
A61P 9/12
A61P 13/12
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
エポキシエイコサトリエン酸の産生増強剤のスクリーニング方法であって、
ミッドカインと被験化合物とを接触させることにより生じるミッドカインの変化あるいは状態を評価する工程を備える、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記被験化合物は、以下の(a)及び(b)からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
(a)ミッドカインに対する抗体
(b)ミッドカインに対するアプタマー
【請求項3】
前記被験化合物は、ミッドカインに対する抗体である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書は、エポキシエイコサトリエン酸関連疾患の予防又は治療に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧の治療剤は既に多数市場に提供されている。しかしながら、血管内皮機能改善や保護に直接作用する薬剤は限定的である。高血圧の一因ともされる動脈硬化の改善のために血管内皮保護作用のある降圧剤が望ましい。血管内皮保護作用がある一酸化炭素(CO)や、血管内皮細胞においてNOに変換されるL-アルギニン及び血管拡張作用のあるエポキシエイコサトリエン酸(以下、単に、EETsという。)を分解する酵素Soluble epoxide hydrolase(sEH)の阻害剤などが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
EETsは、はアラキドン酸から合成させるエイコサノイドである。EETsは血管内皮細胞から産生され、冠動脈や腎輸入細動脈など様々な血管において血管拡張物質として働くことが分かっている。EETaの血管拡張はCa感受性Kチャネルを介し平滑筋細胞を過分極させることから、EETsは長年その正体が不明であったendothelium-derived hyper polarizing factor (EDHF)の本体ではないかとも言われている。EETsには血管での抗炎症、血小板凝集、血管新生にも関与することが分かってきており、虚血性心疾患や腎障害に対し保護的に働くと考えられている。実際、EETS合成酵素であるヒトのCYP2J2やCYP2C8を過剰発現させると、高血圧による腎障害や虚血後心筋障害を抑制するという報告がなされている。Soluble Epoxide hydrolase (sEH, Ephx2) はEETsを速やかに水酸化し、血管拡張作用がほとんどないdihydroxieicosatrienoic acid(DHET)に変換するが、このsEHの阻害によりEETSが増加することで、高血圧を抑制したり高血圧に伴う心、腎、脳などの臓器障害を改善するという複数の報告もなされている。これらのことから、sEH阻害薬の開発が進んでおり、ヒトへの臨床試験も始まっている。
【0004】
EETsは、抗炎症作用などにより、内皮細胞に保護的に作用し、高血圧、心血管疾患、腎疾患を改善するという報告が知られている(非特許文献2)。また、EETsの低下と、高血圧、糖尿病性腎症、心不全、腎障害、脳卒中、粥状動脈硬化症、血栓症及び炎症とが関連することも報告されてきている(高血圧に関して、非特許文献3、心不全に関して非特許文献4、腎障害に関して非特許文献5、6、脳卒中に関して非特許文献7、粥状動脈硬化症および血栓症に関して、非特許文献8,9、炎症に関して非特許文献10)。
【0005】
ミッドカイン(以下、MKという。)は、成長因子であり、癌の進展、神経の分化、炎症に関与している。また、ミッドカインは、腎虚血症再還流モデルにおける尿細管障害や、糖尿病性腎症における糸球体硬化の進展に関わる。さらに、MKが肺血管内皮細胞のアンギオテンシン変換酵素(ACE)の分泌を亢進し高血圧、腎傷害に寄与することも既に報告されている(非特許文献11)。しかしながら、MKは血管内皮細胞で発現していることがわかっているが、内皮細胞の肺血管内皮細胞においてACE分泌をMKがどのように制御しているか詳細は明らかになっていない。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Zhang LN, et al., 2001, Eur J Pharmacol., 654; 68-74.
【非特許文献2】Imig JD and Hammock BD, et al. 2009, Nat Rev Drug Discov. 8 ; 794-805
【非特許文献3】Loch D, et al. , 2007, Cell Biochem Biophys., 47; 87-98
【非特許文献4】Xu et al., 2006, Proc. Natl Acad. Sci. U.S.A. , 103; 18733-18738
【非特許文献5】Zhao et al. , 2004, J. Am. Soc. Nephrol., 15; 1244-1253,
【非特許文献6】Imig et al. , 2005, Hypertension, 46; 975-981
【非特許文献7】Koerner et al., 2007, J. Neurosci., 27; 4642-4649
【非特許文献8】Wei et al., Atherosclerosis, 190, 26-34, 2007
【非特許文献9】; Krotz et al. , 2004, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 24; 595-600
【非特許文献10】Inceoglu et al., 2006, Life Sci., 79, 2311-2319
【非特許文献11】Hobo et al., J Clin Invest. ,119; 1616-1625
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多数の降圧剤があるものの、これらの降圧剤に抵抗性を示す高血圧患者は少なくない。また、糖尿病、高血圧、メタボリック症候群に伴う心疾患、脳梗塞、腎疾患などの臓器障害は、血糖コントロールや降圧だけでは発症を完全に抑制しえない。特に、従来のレニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAS)系の降圧剤に対して抵抗性を示す高血圧症患者も少なくない。
【0008】
また、EETsの低下を抑制するべく開発されたsEH阻害剤は、EETsの代謝阻害に基づいてEETs関連疾患を予防又は治療するものである。この種の薬剤には、他の副産物が発生するおそれがある。例えば、血管収縮物質であるエポキシエイコサノイドのうち20-HETEといった血管収縮物質を亢進させてしまうという報告もある。
【0009】
本明細書は、EETs関連疾患の予防又は治療に関し、生体内におけるEETsの増減に関わる成分を見出すことにより、EETs関連疾患の予防又は治療を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、MKに着目して、EETsとの関係について種々検討を行ったところ、MKがEETsを低下させ、そのためにEETsによる血管拡張システムを抑制して血圧の上昇に寄与しているという知見を得た。こうした知見により本明細書は、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)ミッドカインの阻害剤を有効成分として含有する、エポキシエイコサトリエン酸関連疾患に対する予防又は治療剤。
(2)前記阻害剤が、以下の(a)~(c)からなる群から選択される1種又は2種以上である、(1)に記載の予防又は治療剤。
(a)ミッドカインをコードする遺伝子の発現抑制剤
(b)ミッドカインに対する抗体
(c)ミッドカインに対するアプタマー
(3)前記阻害剤は、ミッドカインに対する抗体である、(2)に記載の予防又は治療剤。
(4)前記エポキシエイコサトリエン酸関連疾患が、高血圧症又は血管内皮傷害である、(1)~(3)に記載の予防又は治療剤。
(5)前記得エポキシエイコサトリエン酸関連疾患が、高血圧腎症である、(4)に記載の予防又は治療剤。
(6)EETs関連疾患の患者に対して、ミッドカインの阻害剤を有効成分として含む医薬を投与する工程、
を備える、EETs関連疾患の予防又は治療法。
(7)前記EETs関連疾患は、高血圧症又は血管内皮傷害である、(6)に記載の予防又は治療法。
(8)前記EETs関連疾患は、高血圧腎症である、(7)に記載の予防又は治療法。
(9)ミッドカインの阻害剤を有効成分とする、EETsの産生増強剤。
(10)EETsの産生増強剤のスクリーニング方法であって、
ミッドカインと被験化合物とを接触させることにより生じるミッドカインの変化あるいは状態を評価する工程を備える、スクリーニング方法。
(11)EETs関連疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法であって、
ミッドカインと被験化合物とを接触させることにより生じるミッドカインの変化あるいは状態を評価する工程を備える、スクリーニング方法。
(12)ミッドカイン遺伝子の発現が抑制された非ヒト動物である、CYP由来エポキシゲナーゼシグナル伝達回路の研究用動物。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1における各種マウス群において血圧測定結果を示す図(A、B)である。
【図2A】実施例2における各種マウス群において腎障害に関連する指標(糸球体硬化)を測定した結果を示す図である。
【図2B】実施例2における各種マウス群において腎障害に関連する指標(糸球体硬化度)を測定した結果を示す図である。
【図2C】実施例2における各種マウス群において腎障害に関連する指標(タンパク尿)を測定した結果を示す図である。
【図2D】実施例2における各種マウス群において腎障害に関連する指標(腎臓重量、心臓重量、BUN、クレアチニン)を測定した結果を示す図である。
【図3A】実施例3において各種マウス群においてNitrate/Nitriteを測定した結果を示す図である。
【図3B】実施例3において各種マウス群において尿中8-OHdGを測定した結果を示す図である。
【図3C】実施例3において各種マウス群の腎臓においてeNOS発現量とリン酸化をウェスタンブロットで解析した結果を示す図である。
【図3D】実施例3において各種マウス群の大動脈においてeNOS発現量とリン酸化をウェスタンブロットで解析した結果を示す図である。
【図3E】実施例3において各種マウス群の心臓においてeNOS発現量とリン酸化をウェスタンブロットで解析した結果を示す図である。
【図4A】実施例4において各種マウス群においてEETsの代謝産物である、4,15-DHET EETを測定した結果を示す図である。
【図4B】実施例4において各種マウス群においてカリブドトキシンを腹腔内投与したときの血圧を測定した結果を示す図である。
【図4C】実施例4において各種マウス群においてカリブドトキシンを静脈内投与したときの血圧を測定した結果を示す図である。
【図4D】実施例4において各種マウス群において14,15-EEZEを静脈内投与したときの血圧を測定した結果を示す図である。
【図4E】実施例4においてMK欠損型マウスに組換えヒトMKを投与したとき、14,15-EEZEによる血圧上昇が抑制されたことを示す図である。
【図4F】実施例4において野生型マウスにヤギ抗ヒトMK抗体を投与したとき、14,15-EEZEにより血圧が上昇したことを示す図である。
【図5A】実施例5において野生型マウスとMK欠損型マウスにおいて血漿カテコラミンの代謝産物であるDOPA、NAD及びADを測定した結果を示す図である。
【図5B】実施例5において野生型マウスとMK欠損型マウスにおいてヘキサメトニウムを静脈内投与したときの血圧を測定した結果を示す図である。
【図6A】実施例5においてNOS阻害薬モデルで肺のACEを調べた結果を示す図である。
【図6B】実施例5においてNOS阻害薬モデルで肺のACEを調べた結果を示す図である。
【図6C】実施例5においてNOS阻害薬モデルで肺のACEを調べた結果を示す図である。
【図6D】実施例5においてNOS阻害薬モデルで肺のACEを調べた結果を示す図である。
【図6E】実施例5においてNOS阻害薬モデルで肺のACEを調べた結果を示す図である。
【図6F】実施例5においてNOS阻害薬モデルで肺のACEを調べた結果を示す図である。
【図7】実施例6において野生型とMK欠損型マウスの腎臓の血管内皮細胞をそれぞれ初代培養し上清中のDHETを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の開示は、有効成分としてMK阻害剤を含有する医薬を用いるEETs関連疾患の予防又は治療に関する。本明細書に開示されるEETs関連疾患、すなわち、EETsの生体における量が低下あるいは少ないことに基づく疾患の予防又は治療剤によれば、MK阻害剤により、MKのタンパク質の活性が低下し、あるいはMK遺伝子の発現が抑制され、この結果、EETsの生合成が促進される。EETsの増大は、血管拡張作用により血圧を低下し、また、このほかEETsが関連する血管内皮傷害、例えば、腎障害、脳卒中、粥状動脈硬化症、血栓症及び炎症を予防又は治療的に作用する。

【0014】
本明細書に開示される予防又は治療剤は、EETs系の降圧剤であるので、従来RAS系降圧剤に抵抗性を示す患者、たとえば、糖尿病性腎症の患者においても有効である。

【0015】
以下、本明細書に開示される予防又は治療剤の有効成分でMK阻害剤について説明する。

【0016】
(MK阻害剤)
本明細書において「MK阻害剤」とは、MKの発現を阻害する物質であってもよいし、MKの活性を阻害する物質であってもよい。MK阻害剤は、好ましくはMKまたはMK受容体の結合に対する阻害作用を有する物質である。本明細書において、「MK受容体」としては、受容体型チロシンフォスファターゼζ、LRP(low density lipoprotein receptor-related protein)、ALK(anaplastic leukemia kinase)およびシンデカンからなる複合体を挙げることができる。本明細書の阻害剤は複合体を構成している、各タンパク質の発現や活性を阻害するものであってもよい。

【0017】
なお、本明細書において、MKは、レチノイン酸応答遺伝子の産物として発見された増殖分化因子であり、塩基性アミノ酸とシステインに富む分子量13kDaのポリペプチドからなる(Kadomatsu, K. et al. :Biochem. Biophys. Res. Commun., 151:1312-1318; Tomomura, M. et al. :J. Biol. Chem., 265: 10765-10770, 1990)。MKは前述の通り数多くの生理活性を有する。公共のデータベースに登録されている、MKのアミノ酸配列(GenPept(NCBI), ACCESSION:NP_001012333, DEFINITION: midkine [Homo sapiens])を配列表の配列番号1に示す。尚、マウス及びラットにおいてもMKが同定されている。マウスMKタンパク質のアミノ酸配列を配列表の配列番号5(GenPept(NCBI), ACCESSION:NP_034914, DEFINITION: midkine [Mus musculus])に、ラットMKタンパク質のアミノ酸配列を配列表の配列番号9(GenPept(NCBI), ACCESSION: NP_110486, DEFINITION: midkine [Rattus norvegicus])に示す。

【0018】
MKは、こうしたアミノ酸配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含むポリペプチドをMKタンパク質として用いることもできる。ここでの「実質的に同一なアミノ酸配列」とは、基準となるアミノ酸配列(配列番号1)と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(EETsの生成抑制あるいは当該抑制に基づく高血圧などの機能障害)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。実質的な同一性の有無を判定するためには、例えば、後述の実施例に記載した実験系(細胞モデルあるいは動物モデルによる評価)を用い、EETs生成抑制や高血圧等に対する作用・効果の点において二つのアミノ酸配列の間に実質的な差がないことを確認すればよい。

【0019】
「アミノ酸配列の一部で相違する」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1~数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1~数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違は上記機能の大幅な低下がない限り許容される。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの複数とは例えば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち実質的に同一なアミノ酸配列は、配列番号1等のアミノ酸配列と例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の配列同一性を有する。

【0020】
基準となるアミノ酸配列(配列番号1)と実質的に同一なアミノ酸配列との間の相違が保存的アミノ酸置換基によって生じていることが好ましい。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。

【0021】
と ころで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸配列(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の配列同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。配列同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、配列同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。

【0022】
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に実質的に同一ななヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。基準となるアミノ酸配列に実質的に同一ななアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくは例えばNCBIのウェブページを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。

【0023】
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。

【0024】
本明細書のMK阻害剤の例としては、抗MK抗体、抗MK受容体抗体、MKに対するアプタマー、MKに対するアンチセンスRNA、MKに対するdsRNAよびMKに対するリボザイムを挙げることが出来る。本明細書のMK阻害剤としては、好ましくは抗MK抗体、MKに対するアプタマー、MKに対するアンチセンスRNA、MKに対するdsRNA、MKに対するリボザイムを挙げることが出来る。より好ましくは抗MK抗体、MKに対するアプタマーを挙げることが出来る。

【0025】
(抗MK抗体)
本明細書で使用される抗MK抗または抗MK受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本明細書で使用される抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はMKまたはMK受容体と結合することにより、MKのMK受容体への結合を阻害してMKの生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗MK抗体としては、公知の文献(Sun XZ, et al., J.Neuropathol Exp Neurol. 56(12), 1339-48 (1997)、Muramatsu H, et al., J. Biochem 119:1171-76 (2004))に記載の抗体が挙げられる。

【0026】
抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、MKまたはMK受容体を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。

【0027】
具体的には、抗MK抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトMKは、公知の文献(Tomomura, M., et al., J. Biol. Chem. 265, 10765-10770 (1990)、Tsutsui, J., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 176, 792-797 (1991)、Iwasaki W, et al., EMBO J. 16(23), 6936-46 (1997))に開示されたMK遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。本明細書の方法に使用されるヒト由来のMKのcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするMKのアミノ酸配列を配列番号:2に示す。

【0028】
MK受容体蛋白質は、本明細書で用いられる抗MK受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのMK受容体を使用してもよい。本明細書においてMK受容体とは、受容体複合体、または複合体の各構成成分(蛋白質)を示すものとする。

【0029】
MKまたはMK受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のMK蛋白質を公知の方法で精製し、この精製MK蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、化学合成によって作製したMK蛋白質(Inui, T., et al., J. Peptide Sci. 2, 28-39 (1996))またはMK受容体蛋白質も感作抗原として用いてもよい。また、MK蛋白質またはMK受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。

【0030】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。

【0031】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。

【0032】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。

【0033】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immnol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and ImmunopNOlogy (1978) 81, 1-7)、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133)等が適宜使用される。

【0034】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。

【0035】
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。

【0036】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1~10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この
種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。

【0037】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000~6000程度のPEG溶液を通常、30~60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。

【0038】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日~数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。

【0039】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO94/25585、WO96/34096、WO96/33735参照)。

【0040】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。

【0041】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。

【0042】
本明細書には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。

【0043】
本明細書では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト(human)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。

【0044】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本明細書に有用なキメラ抗体を得ることができる。

【0045】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。

【0046】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体C領域としては、Cγが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。

【0047】
本明細書で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。

【0048】
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。

【0049】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。

【0050】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。

【0051】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。

【0052】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(19
94)24, 131-138)。

【0053】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO94-11523参照)。

【0054】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し、均一にまで精製することができる。本明細書で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。

【0055】
(MKアプタマー)
本明細書において、「アプタマー」とはタンパク質やホルモンなどの各種分子と結合する核酸を意味する。MKアプタマーとはMKと結合する核酸を意味する。MKアプタマー阻害剤とはMKに結合して、MKとMKに結合する分子、例えばMK受容体や細胞外マトリックス、の結合を阻害する核酸を意味する。MKアプタマーはRNAであってもDNAであってもよく、これらのRNAまたはDNAがMKに結合するものである限り特に限定はしない。また、リボース、リン酸骨格、核酸塩基、両末端部分に修飾が加えられた核酸であってもよく、これらの核酸がMKに結合するものである限り特に限定するものではない。核酸の形態は二本鎖であっても一本鎖であってもよいが、好ましくは一本鎖である。

【0056】
アプタマーの長さは標的分子に特異的に結合するために必要な長さを有していれば特に限定はしないが、例えば、10~200ヌクレオチド、好ましくは、10~100ヌクレオチド、より好ましくは15~80ヌクレオチド、さらに好ましくは15~50ヌクレオチドのものである。

【0057】
アプタマーはヌクレオチドで構成されたものだけで治療薬として使用することができるが、他の分子、例えば、ポリエチレングリコール、コレステロール、ペプチド、リポソーム、蛍光色素、放射性物質、毒素、他のアプタマーなどを結合させた形態で使用することもできる。本明細書において、「アプタマー」はこのような他の分子を結合させたアプタマーも含まれる。

【0058】
本明細書のアプタマーは、当業者において周知の方法を用いて選別することができる。限定はしないが、例えば、SELEX法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)(Tuerk, C. and Gold, L., 1990, Science, 249: 505-510)により選別することができる。SELEX法は、1015程度の異なるヌクレオチド配列をもつ核酸プールを標的物質と混合し、標的物質に結合する、または、より強く結合する核酸を選別してくる方法である。選別された核酸はRT-PCRまたはPCRにより増幅し、これを次のラウンドの鋳型として用いる。この作業を10回程度繰り返すことにより、目的のアプタマーを取得することができる。アプタマーを医薬品として使用する場合、最小化および安定化する必要がある。具体的には、活性に影響しないヌクレオチドを削除することで最小化し、修飾を入れることで安定化する。天然型のRNAの血清中での半減期は数秒であるが、例えば、リボースの2'位をO-メチル化し両末端にinverted dTを結合することで、半減期が1週間以上に延びる。

【0059】
(MKに対するアンチセンスRNA)
本明細書の「MKに対するアンチセンスRNA」は、MKをコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAであり、例えば特開2002-142778および特開2003-012447公報記載のアンチセンスRNAがあげられる。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する。

【0060】
本明細書で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用でMK遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、MK遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であるものと考えられる。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本明細書で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNAの長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。

【0061】
なお、MKをコードするDNA(MK遺伝子)は好ましくは配列番号2(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_001012334, DEFINITION: Homo sapiens midkine (neurite growth-promoting factor 2) (MDK), transcript variant 1, mRNA)、配列番号3(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_001012333, DEFINITION: Homo sapiens midkine (neurite growth-promoting factor 2) (MDK), transcript variant 2, mRNA)、又は配列番号4(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_002391, DEFINITION: Homo sapiens midkine (neurite growth-promoting factor 2) (MDK), transcript variant 3, mRNA)に記載の塩基配列からなる。但し、当該塩基配列に実質的に同一な塩基配列かならなるDNAをMK遺伝子として用いることもできる。ここでの「実質的に同一な塩基配列」とは、基準の塩基配列と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするタンパク質の機能(EETs産生抑制作用又は当該作用に基づく作用)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。実質的に同一であるDNAの具体例は、基準の塩基配列(配列番号2~4のいずれか)に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃~約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃~約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。

【0062】
実質的に同一なDNAの他の具体例として、基準の塩基配列(配列番号2~4のいずれか)に対して1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、非虚血性心筋障害に対して有効なタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該DNAがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2~40塩基、好ましくは2~20塩基、より好ましくは2~10塩基である。以上のような実質的に同一なDNAは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように基準の塩基配列を有するDNAを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても実質的に同一なDNAを得ることができる。

【0063】
実質的に同一なDNAの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるDNAを挙げることができる。

【0064】
尚、マウスMK遺伝子(Kadomatsu, K. et al., Biochem. Biophy. Res. Commun., 151, 1312(1988))及びラットMK遺伝子が同定されている。マウスMK遺伝子の配列を配列表の配列番号6(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_010784, DEFINITION: Mus musculus midkine (Mdk), transcript variant 1, mRNA)、配列番号7(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_001012335, DEFINITION: Mus musculus midkine (Mdk), transcript variant 2, mRNA)及び配列番号8(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_001012336, DEFINITION: Mus musculus midkine (Mdk), transcript variant 3, mRNA)に、ラットMK遺伝子の配列を配列表の配列番号10(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_030859, DEFINITION: Rattus norvegicus midkine (Mdk), mRNA)にそれぞれ示す。

【0065】
MK遺伝子は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって調製することができる。例えば、MK遺伝子に対して特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブ・プライマーを適宜利用することによってヒトcDNAライブラリーよりMK遺伝子を単離(及び増幅)することができる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーとしては、例えば、配列番号2に示す塩基配列に相補的なDNA又はその連続した一部が用いられる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーは市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。尚、MK遺伝子を調製するために用いるライブラリーの作製方法については、例えばMolecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkが参考になる。

【0066】
(MKに対するdsRNA)
本明細書で用いられる「MKに対するdsRNA」は、RNA干渉(RNAi)によりMK遺伝子発現を抑制する二重鎖RNAを意味し、例えば、特開2004-275169記載のdsRNAが挙げられる。RNA干渉は、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNA(dsRNA)を細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象である。細胞に約40~数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、dsRNAを3'末端から約21~23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)を生じる。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子のmRNAを切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。

【0067】
本明細書のdsRNAとしては、siRNAまたはshRNAを挙げることができる。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味し、例えば、15~49塩基対と、好適には15~35塩基対と、さらに好適には21~30塩基対とすることができる。あるいは、発現されるsiRNAが転写され最終的な二重鎖RNA部分の長さが、例えば、15~49塩基対、好適には15~35塩基対、さらに好適には21~30塩基対とすることができる。また、shRNAは、1本鎖のRNAがヘアピン構造を介して2重鎖を構成しているsiRNAである。

【0068】
dsRNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の相同性を有する。

【0069】
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本明細書においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。

【0070】
(MKに対するリボザイム)
本明細書の「MKに対するリボザイム」は、MKの発現や機能に影響を与える、触媒活性を有した核酸を意味し、MKmRNAを特異的に切断する核酸を含む。

【0071】
また、ミッドカインの活性を抑制する限り、上記した阻害剤以外の化合物も、本明細書の治療剤に用いることができる。このような化合物は、例えば、後述するスクリーニング方法など、被験化合物をミッドカインと接触させ、被検化合物の存在下におけるミッドカインの活性や状態を評価することで取得することもできる。より具体的には、ミッドカイン実施例等で開示する血管内皮細胞やNOS阻害剤投与動物に対して被験化合物を供給して、細胞におけるEETsの分泌や動物における血圧低下などを測定し、被験化合物の非存在下と比較して、有意にミッドカインの活性を低下(EETsを分泌増大や血圧低下)させるものを選択することにより、同定することができる。

【0072】
被験化合物としては、細胞抽出液、精製タンパク質、もしくはペプチド、人工的に合成された低分子化合物、などが挙げられるが、本発明は、これらに制限されない。被験化合物は、ミッドカイン受容体とミッドカインとの結合を阻害する化合物であってもよい。

【0073】
以上説明した、ミッドカイン阻害剤の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。

【0074】
ベクターなど有効成分とした場合、薬学的に許容可能な媒体を組み合わせて製剤化するとよい。「薬学的に許容可能な媒体」とは、ベクターの薬効(即ち非虚血性心筋障害に対する有効性)に実質的な影響を与えることなくベクターの投与や保存等に関して利点ないし恩恵をもたらす物質をいう。「薬学的に許容可能な媒体」として、脱イオン水、超純水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、5%デキストロース水溶液等を例示できる。本明細書の組成物に、懸濁剤、無痛化剤、安定剤(アルブミンやPrionex(登録商標、ペンタファームジャパン)等)、保存剤、防腐剤など、その他の成分を含有させてもよい。

【0075】
ベクターがウイルスベクターの形態の場合、生体適合性のポリオル(例えばpoloxamer407など)を併用することが好ましい。ポリオルの使用によってウイルスベクターの形質導入率を10~100倍に上昇させ得る(March et al., Human Gene Therapy 6:41-53, 1995)。従って、ポリオルを併用することにすればウイルスベクターの投与量を低く抑えることができる。尚、本明細書の医薬の一成分としてポリオルを使用することにしても、本明細書の医薬とは別にポリオル(又はそれを含む組成物)を調製することにしてもよい。後者の場合、本明細書の医薬を投与するときにポリオル(又はそれを含む組成物)を併せて投与することになる。

【0076】
製剤化する場合の剤形は特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤である。

【0077】
本明細書の治療剤には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本明細書の医薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約95重量%の範囲内で設定する。

【0078】
本明細書の治療剤はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。

【0079】
ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では本明細書の医薬はヒトに対して適用される。

【0080】
本明細書の医薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、MK阻害剤(抗MK抗体)を有効成分とした場合、例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約0.1mg~約500mg、好ましくは約10mg~約200mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば1日1回~数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。

【0081】
本明細書の治療剤は、EETs関連疾患に用いられる。EETs関連疾患とは、高血圧症及び血管内皮傷害が挙げられる。血管内皮傷害には、各種の疾患や症状が含まれるが、例えば、心不全、腎障害、脳卒中、動脈硬化症、血栓症及び各種炎症が含まれる。高血圧には、糖尿病や動脈硬化に合併する高血圧症が含まれる。腎障害には、高血圧症に合併する腎障害、脳障害、心臓障害が含まれる。

【0082】
本明細書の治療剤の効果は、EETsの血管拡張作用に基づくものであるため、EETsの作用機作に関連する疾患において有効である。従来、RAS系降圧剤に抵抗性がある患者、例えば、糖尿病性高血圧症の患者にも有効である。

【0083】
本明細書は、MKを発現する細胞において、MKを阻害する工程を含む、EETs関連疾患を予防又は治療する方法に関する。この方法において、MKを阻害、すなわち、MKの発現を抑制あるいはMKの活性を抑制することにより、EETsの産生を増強ないし産生低下を抑制でき、EETsの減少や機能低下に基づく疾患を治療または予防する効果を示すことができる。

【0084】
予防又は治療方法において、MKの発現または活性を抑制させるための方法としては、MKの阻害剤をEETs関連疾患の患者に対して当該阻害剤を含む製剤の形態に応じた適切な投与形態で投与することが挙げられる。

【0085】
本発明は、MKの発現または活性を抑制し調節性T細胞の機能異常に基づく疾患を治療または予防する医薬組成物のスクリーニング方法に関する。

【0086】
以上の記載によれば、ミッドカインの阻害剤を有効成分とするEETsの産生増強剤も提供される。

【0087】
(スクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、EETsの産生増強剤又はEETs関連疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法である。このスクリーニング方法は、ミッドカインと被験化合物とを接触させて、それによって生じるミッドカインに関する状態あるいは変化を評価する工程を備えることができる。

【0088】
スクリーニング方法の第1の態様は、MKと1又は2以上の被験化合物とを接触させて、MKと被験化合物との結合を検出することができる。本スクリーニング方法において、「接触」は、MKの状態に応じて行う。例えば、MKが精製された状態であれば、精製標品に被験化合物を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被験化合物を添加することにより行うことができる。被験化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、MKが発現している細胞へ導入する、または該ベクターをMKが発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。なお、細胞培養液や細胞抽出液は、当業者であれば、周知の方法により取得することができる。

【0089】
第1の態様では、MKと被験化合物との結合を検出する。検出方法としては、特に制限はない。MKと被験化合物との結合は、例えば、MKに結合した被験化合物に付された標識(例えば、放射標識や蛍光標識など定量的測定が可能な標識)によって検出することができる。また、MKに標識剤を結合することもできる。被験化合物またはMKを樹脂やチップなどに固定化して結合を検出することもできる。MKへの被験化合物の結合により生じるMKの活性変化を指標に検出することもできる。

【0090】
第1の態様では、さらに、MKと結合する被験化合物を選択する。選択された化合物にはMKの発現または活性を減少させる化合物が含まれ、MKの発現または活性を抑制することによって、結果的にEETsの生成を増強できる作用を有し、EETsの減少や機能低下に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。

【0091】
本発明の方法における「被験化合物」としては、特に制限はない。既に記載した他、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、核酸、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ペプチドライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被験化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。

【0092】
スクリーニング方法の第2の態様としては、まずMKを発現する細胞に被験化合物を接触させて、MKの発現レベルを測定することができる。MKの発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。

【0093】
また、該遺伝子からコードされるMKを含む画分を定法に従って回収し、該MKの発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、MKに対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実
施し、MKの発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。MKに対する抗体については、上記に記載したものを用いることが出来る。

【0094】
第2の態様は、さらに、被験化合物を接触させていない場合と比較して、該MKの発現レベルを減少させた被験化合物を選択することができる。選択された化合物には、MKの発現を減少させる化合物が含まれ、MKの発現を抑制することによって、結果的にEETsの生成を増強できる作用を有し、EETsの減少や機能低下に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。

【0095】
スクリーニング方法の第3の態様は、MKをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。第3の態様において、「機能的に結合した」とは、MK遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、MK遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、MK遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、「機能的に結合した」の意に含まれる。

【0096】
レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、MKをコードするDNAもまた含まれる。MKをコードするDNAのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液は、第1の態様と同様、当業者であれば適宜取得することができる。

【0097】
第3の態様では、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被験試料を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。また、MK遺伝子をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、第2の態様に記載された方法で行うことが出来る。

【0098】
第3の態様においては、次いで、被験化合物を接触させていない場合と比較して、該レ
ポーター遺伝子の発現レベルを減少または増加させた被検化合物を選択する。選択された化合物には、MK遺伝子の発現レベルを減少させる化合物が含まれ、MKの発現を抑制することによって、結果的にEETsの生成を増強できる作用を有し、EETsの減少や機能低下に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。

【0099】
スクリーニング方法の第4の態様としては、MK遺伝子を発現する細胞に被験化合物を接触させて、MKの活性を測定する。MKの活性としては、細胞の増殖促進(繊維芽細胞、ケラチノサイト、または腫瘍細胞の増殖促進)、細胞の生存促進(胎児神経細胞、または腫瘍細胞の生存促進)、細胞の移動促進(神経細胞、好中球、マクロファージ、骨芽細胞、または血管平滑筋細胞の移動促進)、ケモカインの発現促進、血管新生促進、またはシナプス形成促進等、あるいは、EETsの産生、あるいはNOS阻害剤等による高血圧モデル動物における血圧低下を挙げることができる。さらに、被験化合物を接触させない場合と比較して、上記活性を低下もしくは増加させた被験化合物を選択する。選択された化合物には、MKの活性を低下させる化合物が含まれ、MKの活性を抑制することによって、結果的にEETsの生成を増強できる作用を有し、EETsの減少や機能低下に基づく疾患を治療または予防する効果を示すものと考えられる。

【0100】
本明細書は、EETs関連疾患の検査方法に関する。この方法は、MKを発現する細胞において、MKの発現量を測定する工程を含むことができる。MKの発現量の測定は上記に記載の方法で行うことが可能である。

【0101】
MKの発現量が増大した場合には、EETsの産生が低下していると考えられ、MKの発現量を測定することでEETs関連疾患が発症しているかどうかを検査することが可能であるものと考えられる。

【0102】
本明細書は、EETs関連疾患の検査薬に関する。この検査薬は、MKの検出剤を含有している。MKの検出薬としては、MKタンパク質、MKをコードするDNA、MKのmRNAと結合するものであればよく、典型的には、抗MK抗体や、MKをコードするDNAやmRNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブやプライマー等が挙げられる。プローブ及びプライマーは、標的となるMK DNAやMK mRNAに対して少なくとも15ヌクレオチド長のハイブリダイズ配列を有することができる。こうした抗体やオリゴヌクレオチドは、アレイに固定化して用いることもできる。プローブやプライマーは、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、当業者において周知であり、当業者であれば必要に応じ適切な標識を付与できる。

【0103】
本明細書によれば、MK遺伝子の発現が抑制された非ヒト動物である、チトクロームP450(CYP)由来エポキシゲナーゼシグナル伝達回路の研究材料が提供される。従来、MK遺伝子の発現が抑制された非ヒト動物において、EETsの生成が増強されているといった事実は知られていなかった。この非ヒト動物は、エポキシゲナーゼシグナル伝達回路の研究材料として有用である。また、同様に、MK遺伝子の発現が抑制された哺乳動物細胞も、エポキシゲナーゼシグナル伝達回路の研究材料として有用である。

【0104】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0105】
以下、本明細書の開示を具現化した実施例について説明するが、以下の実施例は本明細書の開示を限定するものではない。
【実施例】
【0106】
以下に、以下に示す各実施例で行った実験操作を示す。
【実施例】
【0107】
(1)実験動物
MK欠損型マウスは既に報告した通りに作成した (Nakamura E, et al. 1998, Genes Cells. 3:811-822) 。ヘテロ型マウスを129/Svマウスに14世代以上戻し交配後、ヘテロ型マウス同士を交配し野生型マウスとMK欠損型マウスを作製した。実験には10-14週齢雄の25-35gのマウスを使用した。マウスの飼育環境と実験は、名古屋大学における動物実験等に関する取扱規定と名古屋大学医学部動物実験委員会内規に従った。
【実施例】
【0108】
(2)L-NAME投与モデル
野生型マウス (WT)とMK欠損型マウス (MK-KO)を、それぞれを無治療 (NT)群、片腎摘 (UNx)群、片腎摘後にNO合成酵素阻害薬のL-NAME (Sigma)を飲料水に投与する (UNx+L-NAME)群にわけた。片腎摘はイソフルラン麻酔下で右側腹部を切開し、右腎を摘出した。同日より、L-NAMEを飲料水に1mg/mLに混ぜ、自由に飲ませた。
ヒドララジン投与群は、同様に片腎摘後、飲料水にL-NAME 1mg/mLに加え、ヒドララジン (Sigma)を混ぜた。投与量は血圧が無治療群と同じになるように調整したところ、野生型はヒドララジン0.4mg/dL、MK欠損型マウスには0.2mg/dLとなった。
それぞれの群で飲水量を記録したが、野生型とMK欠損型で飲水量に差はなかった。
血圧をTail-Cuff法にて拘束下覚醒状態で、術前、術後2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月の時点で測定した。術前にはマウスを慣らすため、3日間連日測定した。各ポイントで10回連続測定を2日間繰り返し、平均の血圧を算出した。また、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月の各点でメタボリックケージに18時間マウスを入れて、蓄尿を採取し-80度で保存した。4ヶ月経過時点でサクリファイスし、腎臓、大動脈、心臓、肺を採取後速やかに分割し、一部は組織評価用に各種固定液に、一部はRNA安定化液 (RNAlater(登録商標)、 QIAGEN)に、また一部は液体窒素で凍結し-80度で保存した。血液は1時間程室温で放置した後、遠心、上清を採取し血清を得た。尿中アルブミンはELISA (Exocell, Inc.)で、尿中クレアチニンは市販キットを用いてJaffe法 (Exocell, Inc.)で測定した。
【実施例】
【0109】
(3)組織評価
サクリファイスで得られた腎臓は10%ホルマリン固定後、薄切しPAS 染色とマッソン・トリクロム染色を行った。Glomerular sclerosis scoreは、100個の糸球体を630倍で観察し各糸球体ごとに糸球体硬化度を以下のように点数化し、その合計点を算出することで半定量評価した。0点;0%、1点;0-25%、2点;25-50%、3点;50-75%、4点;75-100%。
【実施例】
【0110】
(4)Nitrate/Nitrite、8-OHdG、cGMP、SOD、ACE活性測定
尿中nitrate/nitriteの総量は市販キットを用いてGriess法 (Cayman Chemical)で測定した。血清中のnitrate/nitriteはHPLC (Eno-20、エイコム)で測定した。8-OHdG (日本老化制御研究所)、cGMP (Cayman chemical)、SOD (Cayman chemical)は、それぞれELISAで測定した。ACE activityは既述のごとく (Hobo A, et al. 2009, J Clin Invest.119; 1616-1625)、市販キット (Life Laboratory Company, Yamagata, Japan)で測定した。血清アルドステロンはSRLにて測定した。
【実施例】
【0111】
(5)Western Blot analysis
マウスの腎臓、心臓、大動脈、肺をプロテアーゼ阻害剤とフォスファターゼ阻害剤入りRIPA buffer (Santa-cruze)内で氷上でホモジナイズし遠心後上清を回収しタンパクを抽出した。定型通りSDS-PAGEとウェスタンブロットを行った。ブロット後、goat anti-human MK antibody (1:1,000)、monoclonal anti-β-actin antibody (Sigma-Aldrich)、 mouse anti-ACE monoclonal antibody (Chemicon International, Millipore)、mouse anti-eNOS antibody (BD Transduction Laboratories), mouse anti eNOS(pS1177) antibody (BD Transduction Laboratories)でそれぞれ4℃、over nightでincubationし、続いてperoxidase-conjugated goat IgG, mouse IgG, rabbit IgGでインキュベーションし、最終的にchemiluminescence detection system (Amersham Pharmacia, GE Healthcare)で可視化した。eNOS dimerとmonomerの分離には、心臓のサンプルを加熱せずかつ還元剤を入れずに、4℃でのSDS-PAGE後にウェスタンブロットを行った。
【実施例】
【0112】
(6)real-time PCR
total RNAの抽出からreal-time PCRは既述の通り (Hobo A, et al. 2009, J Clin Invest.119; 1616-1625)行った。簡単に解説すると、RNAの抽出はRNeasy Mini KitとRNeasy Fibrous Tissue Mini kit (QIAGEN)使用し抽出した。RNA濃度は紫外分光光度計 (NanoDrop2000C, Thermo)で測定した。一本鎖cDNAはQuantitect Reverse Transcription Kit (QIAGEN)を使い1μgのRNAから合成した。real-time PCRはTaqMan Gene Expression assayを使い、Applied biosystems Prism 7500HT Sequence Detection Systemで測定した。TaqMan probeは以下のものを使用した。endothelin-1 (Mm00438656_m1, Applied Byosistems), GAPDH (Mm99999915_g1, Applied Byosistems)、レニン: forward, 5'-TTGTTGCTCTGG- AGTCCTTGC-3′, reverse, 5′-CAGGATTTCCCGGACAGAAGG-3′、ACE: forward, 5′-ACC CAACCTCGATGTCACCA-3′, reverse, 5′-GCGAGGTGAAGAATT CCTCTGA- 3′、NOx1: forward, 5′-TTGGCACAGTCAGTGAGGATG-3′, reverse, 5′-AGAT TTCAAGATGGAAG CAAAGGG-3′、NOx2: forward, 5′-ACTTTCCATAAGATGGTAGCTT GG-3′, reverse, 5′-GCATTCACACACCACTCAACG-3′、NOx4: forward, 5′-ACCAGAATGA GGATCCCAGAAAG-3′, reverse, 5′-GTAGAAGCTGTAACCATGAGGAAC-3′.
【実施例】
【0113】
(7)DHET測定
12週齢雄のマウスの尿を上記と同様にメタボリックケージで採取し、ELISAキットで14, 15-DHETを測定した (Cayman chemical)。
【実施例】
【0114】
(8)EETS阻害薬投与モデル
血圧を経時的に記録できるように、ラジオテレメトリーシステムを使用した(TA11PA-C10; Data Sciences International)。まず10週齢の野生型とMK欠損型マウスにペントバルビタールナトリウム (ネンブタールR, Dainippon Sumitomo Pharma)麻酔下で、左内頚動脈に圧センサー付きカテーテルを挿入した。24時間後に薬剤投与実験を行った。別の薬剤投与実験を3日から1週間開けて、同じマウスで行った。100%エタノールに溶解していた14, 15-EEZE (Cayman chemical)を窒素ガスで蒸散させDMSOで再溶解し、最終的に2%DMSOになるように生理食塩水で希釈した。カリブドトキシン(ペプチド研究所)は生理食塩水で溶解した。
【実施例】
【0115】
ペントバルビタールナトリウム50mg/kgBW腹腔内投与後、12分経過し血圧が安定したところで、14,15-EEZEを140μg/kgBW、カリブドトキシンを75μg/kgBWそれぞれ尾静脈から投与した。同様にカリブドトキシンを0.4mg/kgBWを腹腔内投与した。コントロールとして、2%DMSO入り生食と生食をそれぞれ同量投与したが、血圧は変動しなかった。
goat anti-human MK antibodyによるMKの阻害実験では、同様に圧センサー付きカテーテルを植え込んだ野生型マウスにネンブタール麻酔後5分経過したところで、goat anti-human MK抗体200μg/mLを生理食塩水で希釈して腹腔内投与した。さらにその10分後に、14,15-EEZEを上記と同量投与した。コントロールとして、3日以上開けてからgoat anti-human MK antibodyの代わりに生理食塩水を投与し同様の実験を行った。さらに、MK欠損型マウスにrecombinant human MK (rhMK)をPBSに溶解し腹腔内投与10分後に、14,15-EEZEを上記と同量投与した。こちらも同様に3日以上開けてからrhMK の代わりにPBSを腹腔内投与し同様の実験を行った。
【実施例】
【0116】
(9)交感神経系評価
血清中カテコラミン3分画はSRLで測定した。
アチルコリンのニコチン受容体ブロッカーのヘキサメトニウムをマウスに投与し、交感神経を遮断した。まず、上記と同様にテレメトリーシステムの圧センサー付きカテーテルを植え込んだ野生型とMK欠損型マウスに、ペントバルビター30mg/kgBW腹腔内投与後、7分経過し血圧が安定したところで、ヘキサメトニウム (Sigma)15mg/kgBWを生食に溶解して投与した。
【実施例】
【0117】
(10)腎血管内皮細胞の初代培養
野生型とMK欠損型マウスから腎臓を摘出し、既述のごと (Craig RL, et al. 2010, FASEB J, 24; 3770-3781)血管内皮細胞の初代培養を行い、12時間Starvation後、Ca2+ ionophore (A23187, Sigma)10μM、15分刺激し上清を回収した。上清中の14,15-DHETを上記と同様にELISAで測定した。
【実施例】
【0118】
(11)統計分析
全てのデータは平均値±SEで表わした。2群間比較はpaired t-testで、3群間以上の比較は1-way ANOVA後、Turkeyで多重比較検定を適切に行った。p<0.05で統計学的に有意とした。【0119】
(MK欠損型マウスはNOS阻害薬による高血圧を抑制した)
野生型マウス(WT)とMK欠損型マウス(MK-KO)を用い、それぞれを無治療(NT)群、片腎摘(UNx)群、片腎摘後にNO合成酵素阻害薬のL-NAMEを飲料水に投与する(UNx+L-NAME)群にわけて、血圧測定した結果を図1 に示す。図1 Aに示すように、無治療群(NT群)では野生型とMK欠損型マウスで血圧に差は認めなかった(図1 Aの黒線参照)。片腎摘群(UNx群)では、野生型・MK欠損型共にBPは2ヶ月まではほとんど正常にとどまり、4ヶ月の時点ではわずかに上昇したが、野生型とMK欠損型には差がなかった (sBP, 133.1+-10.8mmHg in Mdk+/+, vs 134.7+-8.1mmHg in Mdk-/-) (図1 Aの濃灰線)。片腎摘にNOS阻害薬(L-NAME)を投与した群(L+UNx群)の野生型マウスでは著しく血圧が上昇したが、MK欠損型マウスでは血圧上昇が抑制された。L+UNx群1ヶ月の時点で野生型マウスでは血圧が上昇しているが、MK欠損型マウスの血圧はほぼ正常にとどまっていた(sBP 160.8+- 9.4mmHg in Mdk+/+, 121.8+- 5.4mmHg in Mdk-/-) (図1 Aの薄灰色線)。続いて4ヶ月まで、野生型マウスはMK欠損型マウスに比べ有意に血圧が高かった。テレメトリーシステムを用いて、血圧を確認したが同様の結果を得た。
【実施例2】
【0120】
(糸球体硬化とタンパク尿もMK欠損型マウスで軽度であった)
野生型マウス(WT)とMK欠損型マウス(MK-KO)を用い、それぞれを無治療(NT)群、片腎摘(UNx)群、片腎摘後にNO合成酵素阻害薬のL-NAMEを飲料水に投与する(UNx+L-NAME)群にわけて、腎障害に関連する指標を測定した結果を図2に示す。図2に示すように、MK欠損型マウスで軽減されていた。すなわち、野生型マウスでは、L-NAME投与後4カ月の時点で糸球体硬化をきたしたが、MK欠損型マウスでは起きていなかった(図2 A)。糸球体硬化度を半定量すると、L-NAME+UNx群で野生型とMK欠損型で有意差を認めた(図2 B)。タンパク尿も、野生型ではL-NAME+UNx群で増加していたが、MK欠損型マウスでは有意に抑制されていた(図2 C)。BUNと血清クレアチニンはいずれの群間にも有意差はなかった(図2 D)。 腎臓と心臓の重量はUNx群とL-NAME+UNx群で増加していたが、野生型とMK欠損型間には差がなかった。
【実施例2】
【0121】
さらに、NOS阻害薬による内皮障害に伴う臓器障害が血圧依存性かどうかを調べるため、L-NAME+UNx群にヒドララジンを追加し血圧をコントロールした(図1 B)。ヒドララジンは野生型とMK欠損型間で同じになるように投与量を調整した(Mdk+/+, 0.4mg/dL; Mdk-/-, 0.2mg/dL in drinking water)。タンパク尿と糸球体硬化は野生型でもMK欠損型でも、ヒドララジン投与により改善した(図2 A-C)。つまり、腎障害は血圧依存性と考えられた。
【実施例3】
【0122】
(NO産生量、eNOSには野生型とMK欠損型には差がなかった)
野生型マウス(WT)とMK欠損型マウス(MK-KO)を用い、それぞれを無治療(NT)群、片腎摘(UNx)群、片腎摘後にNO合成酵素阻害薬のL-NAMEを飲料水に投与する(UNx+L-NAME)群にわけて、NO等を測定した結果を図3に示す。無治療群では、NO産生量に差がなかった。尿中のNO代謝産物であるNitrate/Nitriteは、L-NAME+UNx群で4ヶ月の時点で野生型でもMK欠損型でも同定度に抑制されていた(図3 A)。尿中8-OHdGはいずれの群間にも有意差はなかった(図3 B)。 eNOS発現量とリン酸化をウェスタンブロットで解析したが、腎、大動脈、心臓で野生型とMK欠損型では有意差はなかった(図3 C-E)。eNOSダイマーも同様に差はなかった(図3 E)。つまり、MK欠損型マウスにおいてはNOS阻害薬によりNO産生が十分に抑制されているが血圧が上昇していないと言えることがわかった。
【実施例4】
【0123】
(EETSはMK欠損型マウスで増加している)
次に、NOとは別の内皮由来の血管拡張因子である、cytochrom P450由来のエイコサノイドepoxieicosatrienoic acids (EETs)に注目した。EETsの代謝産物である、4,15-DHET EETを測定した結果を図4に示す。図4に示すように、EETsの代謝産物である尿中14,15-DHET EETはMK欠損型マウスで野生型に比べ有意に高かった (図4 A)。Ca依存性Kチャネルブロッカーのカリブドトキシンを腹腔内投与したところ、血圧上昇がMK欠損型マウスの方が、野生型に比べ有意に大きかった (図4 B)。カリブドトキシンの静脈内投与でも同様の結果を得た(図4 C)。次に、14,15-EETの特異的阻害薬である14,15-EEZEを静脈内投与したところ、やはり野生型に比べMK欠損型マウスで有意に血圧が上昇した(図4 D)。
【実施例4】
【0124】
さらに、図4Eに示すように、MK欠損型マウスにrhMK(組換えヒトMK)を腹腔内投与したところ、野生型と同様に14,15-EEZEによる血圧上昇が抑制された。逆に、図4Fに示すように、野生型マウスにヤギ抗ヒトMK抗体を投与しMKを阻害したところ、14,15-EEZEにより血圧が上昇した。以上より、MKはEETs産生に抑制性に働いており、MKを阻害することでEETSの降圧効果を亢進させることができるといえる。
【実施例5】
【0125】
(血圧維持のために、MK欠損型マウスでは交感神経系が2次的にup-regulateされている)
MK欠損型マウスでは、血管拡張物質であるEETsが亢進しているのに、無治療群ではMK欠損型マウスの血圧は正常であったので、何らかの血管収縮因子が補完的に亢進しているのではないかと考えた。交感神経系に注目し、野生型マウスとMK欠損型マウスにおいて血漿カテコラミンを調べた。結果を図5に示す。図5Aに示すように、野生型に比べMK欠損型マウスでノルアドレナリンが有意に上昇していた。アドレナリン、ドパミンには有意差は認めなかったがMK欠損型で高い傾向にあった。アセチルコリンのニコチン受容体の阻害薬である、ヘキサメトニウムを静脈内投与すると、MK欠損型マウスで野生型より有意に血圧低下した(図5B)。これらのことから、MK欠損型マウスでは交感神経系が血圧維持のために2次的に亢進していると考えられた。
【実施例5】
【0126】
本発明者らは、既にミッドカインが肺のangiotensinconverting enzyme(ACE) を介してレニンアンギオテンシン系をup-regulationしていることを報告している(非特許文献4)。5/6腎摘により、野生型マウスでは肺のACE亢進、さらに高血圧が誘導されるが、MK欠損型マウスではそれらが抑制された。
【実施例5】
【0127】
今回のNOS阻害薬モデルでも肺のACEを調べた。結果を図6に示す。図6に示すように、UNx群とL-NAME+UNx群で、野生型とMK欠損型共に肺ACEが亢進していたが、野生型とMK欠損型の群間には差を認めなかった (図6A及びB)。つまり、L-NAME投与による血圧上昇がMK欠損型で抑制されているのは、MKのACE制御メカニズムとは独立したメカニズムであることがわかった。
【実施例5】
【0128】
他のRAS関連因子についても調べたが、腎レニン、血漿アルドステロンにも野生型とMK欠損型に差を認めなかった (図6C、D)。アルドステロン受容体であるMineral corticoid receptor (MR)や、その下流シグナルの sgk-1の腎臓での発現にも、差を認めなかった(図6E、F)。
【実施例5】
【0129】
血圧制御には様々な因子が関与しているが、血圧を上昇させる因子と低下させる因子のバランスで制御されていると考えられる。なお、他の血圧調整因子についても調べたところ、血管収縮物質であるエンドセリンについては差を認めなかった。交感神経系については、ノルアドレナリンを野生型とMK欠損型に投与したが、どちらも同程度に血圧が上昇した(データ示さず)。血管拡張物質については、NO、EETS以外にはプロスタグランジンI2があるが、プロスタグランジンI2合成酵素にも差を認めなかった。
【実施例6】
【0130】
(MK欠損型マウスの血管内皮細胞ではEETS分泌が亢進している)
血管内皮細胞からのEETs分泌を評価した。野生型とMK欠損型マウスの腎臓の血管内皮細胞をそれぞれ初代培養し上清中のDHETを測定した。結果を図7に示す。MK欠損型マウスの方が、図7に示すように、有意に14,15-DHETの分泌が増加していた。
【実施例6】
【0131】
以上の結果から、マウスにおいてMKを欠損させるとS阻害薬投与により起こる高血圧を抑制できることを発見した。高血圧に伴う臓器障害である腎糸球体硬化もMK欠損型マウスでは発症していなかった。そのメカニズムを追及したところ、MKノックアウトマウスにおいて血管内皮由来の血管拡張物質であるEETsの産生が亢進していることを示した。無治療の状態ではMK欠損型マウスでも血圧は低下しておらず、それは血圧上昇を担う交感神経系が亢進しており、EETS亢進とのバランスをとっていると考えられた。しかしL-NAME投与によりNOが抑制され、血管拡張と収縮のバランスが崩れた状態になると、MK欠損型マウスではEETS亢進が良い役割を果たし、高血圧を抑制する。
【実施例6】
【0132】
NOは内皮細胞から分泌される血管拡張因子であり、それ以外に小板凝集や血管の炎症、平滑筋増殖の制御にも関与し、血管のhomeostasisを保持する役割がある。高血圧や糖尿病などでは、内皮機能が障害されNO産生が低下していると言われている。NO合成酵素阻害薬(NOS阻害薬)を投与することによりこのような内皮機能低下状態を薬剤で人工的に創ることができ、実際に動物へのNOS阻害薬投与により高血圧やそれに伴う心血管疾患、腎障害を引き起こすことが知られている。つまりNOS阻害薬モデルは、糖尿病や動脈硬化に合併する高血圧症の病態を模しているモデルといえる。今回の研究で、NOS阻害薬L-NAME投与で、MK欠損型マウスにおいて血圧上昇と腎硬化を抑制できたことは、MKが糖尿病や高血圧に伴う内皮障害の病態のメカニズムに関与していると言える。
【実施例6】
【0133】
以上の結果では、NO阻害薬L-NAME投与後、MK欠損型マウスの高血圧が抑制されたことから、MKが血圧制御に関与していることが示唆される。しかし、L-NAME投与により、NO代謝物の尿中Nitrate/Nitriteは十分に抑制されたにもかかわらず、MK欠損型マウスで血圧は正常にとどまり、腎障害も改善していた。さらにeNOS uncouplingやリン酸化の低下は認められなかった。Super oxide dismutaseやNOxにも変化しておらず、super oxideの産生にも差がないと考えられる。さらにNOシグナル経路の下流であるcGMPにも差を認めなかった。以上より、MKの血圧調整はNO-cGMP系とは直接関与しないと考えられた。
【実施例6】
【0134】
さらに、以上の結果においては、MK欠損型マウスで尿中DHETが上昇していたが、同時に血圧はMK欠損型で低かった。2つの結果を併せて考えるとMK欠損型マウスのDHET上昇はsEH活性亢進によるものではなく、EETS産生量が増加していると考えられた。さらに、Ca依存性Kチャネルブロッカー:カリブドトキシンと、14,15-EETSの特異的阻害薬:14,15-EEZE投与で、MK欠損型マウスでは血圧上昇がおおきかったことからも、MK欠損型マウスでEETS産生が亢進していると言える。つまり、MKはEETS産生に抑制性に働いている。抗MK抗体でMKを阻害することで14,15-EEZE投与後血圧が上昇したことから、MK阻害によりEETSを介した降圧効果を増強させることができるといえる。
【実施例6】
【0135】
EETsの合成酵素であるCYP2J2、CYP2C8のトランスジェニックマウスの血圧について、近年報告がなされたが、無治療群ではCYP2J2、CYP2C8トランスジェニックマウスの血圧は野生型に比べ若干低いが有意差がないが、L-NAME投与すると野生型に比して血圧上昇が抑制できたとの結果であった。これは、MK欠損型マウスとほぼ同じであり、MK欠損型マウスでEETsが亢進していることを支持する結果である。
図面
【図2B】
0
【図2C】
1
【図2D】
2
【図3A】
3
【図3B】
4
【図4A】
5
【図4B】
6
【図4C】
7
【図4D】
8
【図4E】
9
【図4F】
10
【図5A】
11
【図5B】
12
【図6B】
13
【図6C】
14
【図6D】
15
【図6E】
16
【図6F】
17
【図7】
18
【図1】
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【図2A】
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【図3C】
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【図3D】
22
【図3E】
23
【図6A】
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