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明細書 :測定装置及び測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5626750号 (P5626750)
公開番号 特開2011-033537 (P2011-033537A)
登録日 平成26年10月10日(2014.10.10)
発行日 平成26年11月19日(2014.11.19)
公開日 平成23年2月17日(2011.2.17)
発明の名称または考案の名称 測定装置及び測定方法
国際特許分類 G01N  23/06        (2006.01)
FI G01N 23/06
請求項の数または発明の数 5
全頁数 15
出願番号 特願2009-181704 (P2009-181704)
出願日 平成21年8月4日(2009.8.4)
審査請求日 平成24年6月22日(2012.6.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】早川 慎二郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100138955、【弁理士】、【氏名又は名称】末次 渉
【識別番号】100151873、【弁理士】、【氏名又は名称】鶴 寛
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
審査官 【審査官】▲高▼場 正光
参考文献・文献 特開2007-163339(JP,A)
特開平05-188019(JP,A)
特開平09-145640(JP,A)
特開2002-286657(JP,A)
MACDOWELL,A.A. 他,“Soft x-ray beam line for surface EXAFS studies in the energy range 60≦hν≦11 100 eV at the Daresbury SRS”,Review of Scientific Instruments,1986年11月,Volume 57, Issue 11,Pages 2667-2679
“2.B X-Ray Imaging with Kirkpatrick-Baez Microscopes”,LLE Review,1991年,Volume 46,Pages 91-97
SUN,T. 他,“Characterization of a polycapillary focusing X-ray lens for application in spatially resolved EXAFS experiments”,Chemical Physics Letters,2007年 3月31日,Volume 439, Issues 4-6,Pages 412-414
調査した分野 G01N23/00-23/227
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも5keV~30keVのエネルギ帯域の成分を含むX線を放射するX線源と、
前記X線源から放射されたX線を集光するポリキャピラリーレンズと、
前記集光素子によるX線の集光位置に対して、サンプルを進入退避可能に載置する試料台と、
前記集光位置から発散するX線を斜入射することにより、反射するX線を分光する分光結晶と、
前記分光結晶により分光されたX線の強度分布を検出する位置敏感X線検出器と、
を備え
前記分光結晶では、
前記X線が入射する部分が、所定のエネルギ帯域以上のX線を通過させる厚みとなっている、
定装置。
【請求項2】
所定のエネルギ帯域のX線だけを前記ポリキャピラリーレンズに入射させるフィルタをさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記ポリキャピラリーレンズと前記分光結晶との間に、
前記ポリキャピラリーレンズに入射したX線のうち、前記ポリキャピラリーレンズにより集光されなかったX線の前記分光結晶への入射を遮断する遮断部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記ポリキャピラリーレンズと前記分光結晶との間に、
所定のエネルギを超えるエネルギ帯域のX線を透過させ、所定のエネルギ以下のX線を全反射させるビームスプリッタをさらに備え、
前記分光結晶は、
前記ビームスプリッタで全反射したX線を斜入射する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項5】
X線源から放射された少なくとも5keV~30keVのエネルギ帯域の成分を含むX線を、ポリキャピラリーレンズを用いてサンプル上に集光する集光工程と、
集光位置から発散するX線を、入射部分が所定のエネルギ帯域以上のX線を通過させる厚みとなっている分光結晶斜入射することにより、反射するX線を分光する分光工程と、
前記分光結晶で分光されたX線の強度分布を、位置敏感X線検出器を用いて検出する検出工程と、
を含む測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の微細構造を測定する測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質における微小な部分のX線吸収微細構造測定、すなわちマイクロXAFS(Micro X-ray Absorption Fine Structure)測定では、光源として、一般的なX線源が用いられていたが、近年では放射光の利用の発展に伴って、もっぱら放射光が用いられるようになっている(例えば、非特許文献1、2参照)。直進性が高く、エネルギの強い放射光を用いた方が、物質の微細構造を高精度に測定できるためである。
【0003】
この他、X線により物質の微細構造を測定する測定装置として、高精度、高感度な蛍光X線分析装置等が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平5-312737号公報
【特許文献2】特開平11-51883号公報
【0005】

【非特許文献1】Shinjiro Hayakawa, Yohichi Gohshi, Atsuo Iida, Sadao Aoki, Kohei Sato, "Fluorescence x-ray absorption fine structure measurements using a synchrotron radiation x-ray microprobe", Rev. Sci Instrum. 62(11),November 1991 American Institute of Physics 2545-2549
【非特許文献2】Tadashi Matsushita and R. Paul Phizackerley, "A Fast X-Ray Absorption Spectrometer for Use with Synchrotron Radiation ", Japanese Journal of Applied Physics, Vol.20 No.11, November, 1981 pp.2223-2228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、放射光の光源であるシンクロトロンは、極めて巨大な施設であり、誰しもが用いることができる施設ではない。そこで、一般的なX線源を用いて、物質の吸収スペクトルを高精度に測定できる測定装置の登場が望まれている。しかしながら、一般的なX線源を用いると、高いエネルギ分解能を得るために、光源又は入射スリットのサイズを小さくせざるをえず、ビーム強度が犠牲になってしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、一般的なX線源を用いて、高精度なXAFS測定を行うことができる測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る測定装置は、
少なくとも5keV~30keVのエネルギ帯域の成分を含むX線を放射するX線源と、
前記X線源から放射されたX線を集光するポリキャピラリーレンズと、
前記集光素子によるX線の集光位置に対して、サンプルを進入退避可能に載置する試料台と、
前記集光位置から発散するX線を斜入射することにより、反射するX線を分光する分光結晶と、
前記分光結晶により分光されたX線の強度分布を検出する位置敏感X線検出器と、
を備え
前記分光結晶では、
前記X線が入射する部分が、所定のエネルギ帯域以上のX線を通過させる厚みとなっている
【0009】
この場合、例えば、所定のエネルギ帯域のX線だけを前記ポリキャピラリーレンズに入射させるフィルタをさらに備える、
こととしてもよい。
【0010】
また、例えば、前記ポリキャピラリーレンズと前記分光結晶との間に、
前記ポリキャピラリーレンズに入射したX線のうち、前記ポリキャピラリーレンズにより集光されなかったX線の前記分光結晶への入射を遮断する遮断部が設けられている、
こととしてもよい。
【0011】
また、例えば、前記ポリキャピラリーレンズと前記分光結晶との間に、
所定のエネルギを超えるエネルギ帯域のX線を透過させ、所定のエネルギ以下のX線を全反射させるビームスプリッタをさらに備え、
前記分光結晶は、
前記ビームスプリッタで全反射したX線を斜入射する、
こととしてもよい。
【0013】
本発明の第2の観点に係る測定方法は、
X線源から放射された少なくとも5keV~30keVのエネルギ帯域の成分を含むX線を、ポリキャピラリーレンズを用いてサンプル上に集光する集光工程と、
集光位置から発散するX線を、入射部分が所定のエネルギ帯域以上のX線を通過させる厚みとなっている分光結晶斜入射することにより、反射するX線を分光する分光工程と、
前記分光結晶で分光されたX線の強度分布を、位置敏感X線検出器を用いて検出する検出工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少なくとも所定のエネルギ帯域の成分を含むX線を、集光素子によってサンプル上に集光する。サンプルでは、X線の一部は吸収され、一部は透過する。
【0015】
透過したX線は、発散しながら、分光結晶に斜入射する。斜入射するX線は、発散しているので、X線の入射角度は、その入射位置に応じて連続的に変化するようになる。分光結晶に入射したX線は、ブラッグの条件に従って、ブラッグ反射する。すなわち、分光結晶から、X線の入射角度に対応する特定の波長(エネルギ)のX線が入射角と同一の角度で出射される。これにより、分光結晶から入射したX線が、分光される。
【0016】
分光されたX線は、X線のエネルギに関するX線の強度分布を表すものとなる。位置敏感X線検出器は、分光X線の強度分布を検出する。
【0017】
すなわち、本発明によれば、少なくとも特定のエネルギ帯域の成分を含むX線を、集光素子を用いて、サンプル上に集光するので、サンプルに照射されるX線のビーム強度の損失を小さくした状態で、X線のビームサイズを小さくすることができる。この結果、シンクロトロン等の大規模な光源を必要とすることなく、一般的なX線源を用いて、高いエネルギ分解能でのXAFS測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る測定装置の構成を示す模式図である。
【図2】集光素子の構造を示す模式図である。
【図3】分光結晶における分光の様子を示す模式図である。
【図4】物質のX線の吸収スペクトルを測定する方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る測定装置の構成を示す模式図である。
【図6】X線フィルタの特性図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る測定装置の構成を示す模式図である。
【図8】キャピラリ内のX線の光路図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る測定装置の構成を示す模式図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る測定装置の構成を示す模式図である。
【図11】図11(A)は、リチウムイオン2次電池(ボタン電池)の斜視図であり、図11(B)は、リチウムイオン2次電池の内部構造を示す断面図である。
【図12】リチウムイオン2次電池の内部構造の模式図である。
【図13】リチウムイオン2次電池の正極におけるNiのK殻のX線吸収スペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
次に、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。

【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る測定装置1は、X線源2と、集光素子3と、試料台4と、分光結晶5と、検出装置6と、演算装置7と、蛍光X線顕微鏡8と、を備える。

【0021】
X線源2は、X線を放射する。X線は、例えば、少なくとも5keV~30keVのエネルギ帯域を含む。X線源2から放射されるX線は、白色X線であってもよいが、測定対象となるエネルギ帯域の成分を含んでいればよい。X線源2としては、出力が50kW程度の空冷式のものを採用することができ、大出力のものを用いる必要はない。エネルギの効率化の観点からすると、X線源2として、微焦点な光源を用いるのが望ましい。

【0022】
集光素子3は、X線の集光素子であり、ここでは、ポリキャピラリーレンズである。集光素子3は、X線源2から放射されたX線を入射する。集光素子3は、その出力端から出射したX線を点Fに集光する。

【0023】
集光素子3では、図2に示すように、複数のキャピラリ30が束ねられている。キャピラリ30は、極めて小径な中空のガラス管である。各キャピラリ30には、それぞれX線源2(図2では、点光源Sとして示している。)からのX線が入射する。キャピラリ30に入射したX線は、キャピラリ30の内壁を、全反射しつつ、その出力端へ向かう。

【0024】
集光素子3では、その全体の光軸付近のキャピラリ30は、ほぼ、直線状となっているが、集光素子3全体の光軸から、その外周方向に向かえば向かうほど、キャピラリ30の曲率が大きくなっている。これにより、各キャピラリ30の出力端から出射されたX線は、点Fで集光される。この点Fを、以下では、集光位置Fと呼ぶ。

【0025】
試料台4は、測定対象のサンプル10を載置する。試料台4は、集光素子3によって集光されたX線の集光位置Fに対して、サンプル10を進入載置可能である。サンプル10を、集光位置Fに進入させると、集光位置Fに集光されたX線の一部は、サンプル10で吸収され、一部は透過する。サンプル10を透過したX線は、集光位置Fから、発散しながら分光結晶5の方へ進む。

【0026】
このX線は、発散(すなわち一度の発散で)しながら分光結晶5に斜入射する。分光結晶5は、例えば、シリコンの単結晶から成る。図3に示すように、分光結晶5は、次式で示されるブラッグの条件に従って、斜入射するX線をブラッグ反射させる。

【0027】
【数1】
JP0005626750B2_000002t.gif

ここで、dは、分光結晶5の周期構造の幅である。θは、分光結晶5の結晶面に対するX線の入斜角度である。λは、ブラッグ反射するX線の波長である。nは、反射の次数を表す整数である。

【0028】
上記式(1)によれば、白色X線を分光結晶5に斜入射させた場合、上記式(1)を満たす波長のX線だけが、ブラッグ反射して、分光結晶5の結晶面から出射する。なお、X線は、その波長とエネルギとが1対1の関係にあるため、上記式(1)は、特定エネルギのX線だけが、ブラッグ反射して、分光結晶5の結晶面から出射されることを意味している。

【0029】
図3に示すように、集光位置FからのX線が、分光結晶5の位置x1から位置x2の間に斜入射するものとする。ここで、位置x1におけるX線の入射角度をθ1とし、位置x2におけるX線の入射角度をθ2とする。

【0030】
位置x1から位置x2に至るまで、X線の入射角度は、θ1からθ2まで連続的に変化する。ここで、位置xにおけるX線の入射角度をθ(x)とすると、x1≦x≦x2、θ1≦θ(x)≦θ2である。

【0031】
前述のように、位置xでは、上記式(1)のブラッグの条件式を満たす、すなわち上記式(1)にθ(x)を代入したときに得られる波長λ(x)のX線、すなわちエネルギE(x)のX線が、位置xから出射される。例えば、位置x1からは、波長λ(x1)、すなわちエネルギE(x1)のX線が出射され、位置x2からは、波長λ(x2)、すなわちエネルギE(x2)のX線が出射される。

【0032】
このようにして、分光結晶5は、発散しながら斜入射するX線を分光する。

【0033】
分光結晶5でブラッグ反射により反射したX線は、検出装置6に入射する。このX線は、分光されているため、X線のエネルギ(波長)に関する強度分布I(x)を形成した状態で、検出装置6の受光面に入射する。検出装置6は、その強度分布I(x)を検出して、演算装置7に出力する位置敏感X線検出器(すなわち、受光面の各位置に入射するX線の強度を検出可能なセンサ)である。本実施形態では、検出装置6として、CCD(電荷結合素子)が採用されている。

【0034】
なお、波長λ(x)、エネルギE(x)は、上記式(1)で与えられる関係に従うため、強度分布I(x)は、I(E)と置き換えることができる。

【0035】
演算装置7は、検出装置6によって検出された強度分布I(E)に基づいて、集光位置Fにおけるサンプル10のX線吸収スペクトルを、演算により求める。

【0036】
蛍光X線顕微鏡8は、X線が照射されたサンプル10で発生する蛍光X線を検出し、検出された蛍光X線に基づく2次元画像を作成する。この2次元画像は、オペレータが観察可能となっている。オペレータは、この2次元画像を観察して、サンプル10内の測定対象となるべき部分を探索する。

【0037】
次に、本実施形態に係る測定装置1を用いて測定動作について説明する。

【0038】
図4に示すように、まず、オペレータは、サンプル10上の測定箇所を決定する(ステップS1)。より具体的には、サンプル10を、X線の光路上に進入させた状態で、蛍光X線顕微鏡8を用いて、サンプル10の2次元画像を観察し、サンプル10における測定箇所、すなわち集光位置Fに位置決めさせる場所を決定する。ここでは、例えば、取得される2次元画像が、他の場所とは著しく異なる場所が、測定箇所として選択される。

【0039】
続いて、サンプル10を載置する試料台4を退避させた状態で、検出装置6で検出されるX線の強度分布の測定を行う(ステップS2)。ここでは、まず、試料台4を駆動して、サンプル10を、X線の光路上から退避させる。そして、この状態で、X線源2からX線を発生させる。

【0040】
X線源2から出射したX線は、集光素子3で集光位置Fに集光され、さらに発散して、分光結晶5に斜入射する。分光結晶5で分光されたX線は、検出装置6で受光される。演算装置7は、検出装置6で受光されたX線の強度分布I(E)を取得する。このとき取得された強度分布I(E)を、I0(E)とする。I0(E)は、サンプル10を通過しないときのX線の強度分布であり、このI0(E)が、X線吸収スペクトルを求めるための基準となる。図4では、X線エネルギ8.34keV周辺の強度分布I0(E)の一例が示されている。

【0041】
続いて、試料台4を駆動して、サンプル10をX線の光路上に進入させた状態での強度分布I(E)の測定を行う(ステップS3)。ここでは、試料台4を駆動して、サンプル10を、X線の光路上に進入させ、ステップS1で決定した測定箇所を、集光位置Fに位置決めする。そして、この状態で、X線源2によりX線を発生させる。すると、そのX線は、サンプル10に入射し、集光素子3で集光位置Fに集光する。

【0042】
サンプル10を透過したX線は、発散しつつ、分光結晶5へ進む。分光結晶5で分光されたX線は、検出装置6で受光される。演算装置7は、検出装置6で受光されたX線の強度分布I(E)を、取得する。

【0043】
続いて、演算装置は、ステップS2で取得された強度分布I0(E)と、ステップS3で取得された強度分布I(E)とに基づいて、次式を用いて、サンプル10のX線の透過率T(E)を算出する(ステップS4)。
T(E)=I(E)/I0(E) …(2)

【0044】
続いて、演算装置7は、透過率T(E)の逆数、すなわちX線吸収スペクトルSp(E)を演算する(ステップS5)。このX線吸収スペクトルSp(E)を参照すれば、集光位置Fにおけるサンプル10の微細構造を分析することができる。

【0045】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、X線源2で発生したX線を、集光素子3を用いて、X線をサンプル10上に集光する。これにより、サンプル10に照射されるX線のビーム強度の損失を小さくした状態で、そのX線のビームサイズを小さくすることができるようになり、エネルギ分解能が向上する。この結果、シンクロトロン等の大規模な光源を必要とすることなく、一般的なX線源を用いて、高いエネルギ分解能でのXAFS測定を行うことができる。

【0046】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。

【0047】
上記第1の実施形態に係る測定装置1では、集光素子3を用いて、X線のビームを集光させ、ビーム強度の損失を小さくした状態で、X線のビームサイズを小さくし、エネルギ分解能を向上させた。この測定装置1では、検出装置6に、測定対象となるエネルギ帯域のX線だけが入射されるのが理想である。しかしながら、X線源2から発生するX線は、測定対象のエネルギ帯域以外のエネルギ帯域のX線も発している。このような測定対象外のエネルギ帯域のX線が、散乱等により、検出装置6の受光面に入射すると、検出装置6で検出される強度分布に、それらの成分が混入し、強度分布の検出精度が低下する。

【0048】
以下の実施形態に係る測定装置1は、その高いエネルギ帯域のX線の検出装置6への混入を防止するための上記第1の実施形態に係る測定装置1の変形例である。

【0049】
図5に示すように、本実施形態に係る測定装置1の構成は、上記第1の実施形態に係る測定装置1の構成とほぼ同じであるが、X線源2内に、X線フィルタ11が設けられている点が、上記第1の実施形態と異なる。

【0050】
X線フィルタ11は、金属フィルタである。X線フィルタ11は、特定のエネルギ帯域のX線のみを透過させる。図6には、例えば、X線フィルタ11として銅が用いられた場合の透過率の特性曲線が実線で示されている。図6に示すように、この特性曲線は、X線エネルギが大きくなるに従って増大し、銅のK吸収端の近傍であって、かつ、K吸収端よりも若干小さいエネルギにおいてピークとなる。そして、この特性曲線は、銅のK吸収端の手前で急激に減少する。

【0051】
したがって、X線フィルタ11は、銅のK吸収端(物質に固有のX線吸収スペクトルが不連続に大きくなる点)の手前のエネルギ帯域、すなわち約8.0keV周辺のエネルギ帯域のX線だけ透過させる。このエネルギ帯域のX線はNi_K殻XAFS測定に適している。X線源2にこのX線フィルタ11をセットすれば、集光素子3には、そのX線フィルタ11を透過した特定のエネルギ帯域のX線だけが入射されるようになる。

【0052】
このX線フィルタ11を設けることにより、測定対象のエネルギ帯域以外のエネルギ帯域のX線の成分の混入を防止することができるので、より高精度なXAFS測定が可能になる。

【0053】
なお、X線フィルタ11の材質は、測定対象となるエネルギ帯域に応じて選定するのが望ましい。8.0keV周辺を、測定対象とするときには銅を採用してもよいし、9.0keV周辺を、測定対象とするときには亜鉛を採用してもよい。アルミニウムをフィルタに用いる場合と比較すれば、銅フィルタにより8.0keV周辺のエネルギ帯域のX線が選択的に透過されることがわかる。

【0054】
なお、X線フィルタ11の材質は、1種類である必要はなく、例えば、銅とアルミニウムを併用するなど2種類以上の材質を用いることができる。このようにすれば、測定対象となるエネルギ帯域をさらに詳細に設定できるようになる。

【0055】
また、本実施形態では、X線フィルタ11をX線源2内に設けたが、X線フィルタ11は、X線源2と、集光素子3との間に挿入されていればよい。

【0056】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。

【0057】
図7に示すように、本実施形態に係る測定装置1の構成は、上記第1の実施形態に係る測定装置1の構成とほぼ同じであるが、スリット12が設けられている点が、上記第1の実施形態と異なる。

【0058】
スリット12は、サンプル10の後段、すなわち集光位置Fの後段であって、分光結晶5の前段に設けられている。スリット12は、集光素子3によって集光位置Fに集光したX線のみを通過させ、光路をそれたX線を遮断する。

【0059】
集光素子3の各キャピラリ30に入射したX線は、その内壁で、全反射しながら管内を進み、各キャピラリ30の出力端から出射する。しかしながら、図8に示すように、キャピラリ30内を進むX線のうち、エネルギの高いX線の中には、キャピラリ30をそのまま透過して、外部に出射するものもわずかながら存在する。

【0060】
キャピラリ30の途中で透過した高いエネルギのX線は、集光せず、例えば、図7の太線に示すように、集光素子3の出力端から出射されたX線とは異なる方向に進む。スリット12は、そのX線が分光結晶5に入射して散乱し、最終的に検出装置6で検出されるのを防止すべく、そのX線を分光結晶5の手前で遮断する。

【0061】
このスリット12を設けることにより、測定対象となるエネルギ帯域よりも高いエネルギ帯域のX線の成分が計測結果に混入するのを防止することができるので、より高精度なXAFS測定が可能になる。

【0062】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。

【0063】
図9に示すように、本実施形態に係る測定装置1の構成は、上記第1の実施形態に係る測定装置1の構成とほぼ同じであるが、ビームスプリッタ13が設けられている点が、上記第1の実施形態と異なる。

【0064】
ビームスプリッタ13は、サンプル10の後段、すなわち集光位置Fの後段であって、分光結晶5の前段に設けられている。ビームスプリッタ13は、所定のエネルギを超えるエネルギ帯域のX線を透過し、所定のエネルギ以下のエネルギ帯域のX線を全反射する。

【0065】
このビームスプリッタ13を設けることにより、測定対象となるエネルギ帯域よりも高いエネルギ帯域のX線の成分が計測結果に混入するのを防止することができるので、より高精度なXAFS測定が可能になる。

【0066】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。

【0067】
図10に示すように、本実施形態に係る測定装置1の構成は、上記第1の実施形態に係る測定装置1の構成とほぼ同じであるが、分光結晶5に代えて、分光結晶5’が設けられている点が、上記第1の実施形態と異なる。

【0068】
分光結晶5’は、上記各実施形態に係る分光結晶5よりも極めて薄くなっている。分光結晶5’の厚みは、例えば、200μmである。分光結晶5’を極めて薄くしているので、所定のエネルギ以上のエネルギ帯域のX線が分光結晶5’に入射しても、その大部分は、図10に示すように、分光結晶5’を透過する。これにより、所定のエネルギ以上のエネルギ帯域のX線が、分光結晶5’内で散乱して、検出装置6の受光面に入射し、その成分が計測結果に混入するのを防止することができる。この結果、より高精度なXAFS測定が可能になる。

【0069】
分光結晶5’の厚みは、200μmに限られない。200μm近傍又は200μm以下としてもよい。分光結晶5’の厚みは、X線が入射する部分が、測定対象のエネルギ帯域の上限以上のエネルギ帯域のX線を透過させる厚みとなっていればよい。分光結晶5’の厚みは、測定対象のエネルギ帯域に応じて適宜調整すればよい。

【0070】
また、分光結晶5’では、X線が入射する部分(X線の光路上の部分)が、薄くなっていればよい。その他の部分の厚みについては、十分に厚くするのが望ましい。分光結晶5’の破損等を防止するためである。

【0071】
(リチウムイオン2次電池の正極物質の測定)
上述した上記各実施形態に係る測定装置1により、一般的なX線源を用いて、高精度なXAFS測定が可能となった。測定装置1では、あらゆる物質の微細構造の測定が可能である。

【0072】
上記各実施形態に係る測定装置1は、X線のビーム強度を強めているので、光路上を真空に保つ必要はなく、サンプル10が比較的厚くても、X線吸収スペクトルの測定が可能となる。例えば、測定装置1は、リチウムイオン2次電池の正極物質の測定に好適に用いられる。

【0073】
まず、リチウムイオン2次電池について説明する。図11(A)に示すように、パソコン等に用いられるリチウムイオン2次電池20は、例えば厚さ3mm、直径20mmのボタン電池となっている。上記実施形態に係る測定装置1は、このような厚いものでも、X線吸収スペクトルを測定可能である。

【0074】
図11(B)に示すように、リチウムイオン2次電池20の内部には、負極21、正極22、セパレータ23などが設けられている。リチウムイオン2次電池20の正極22の材料には、様々なものがある。正極22の材料の1つとして、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)がある。

【0075】
図12に示すように、正極22では、ニッケル酸リチウムは、充放電時に、リチウムを引き抜いたり、出したりすることが可能となるように層状構造となっている。電池を大容量化したり、充放電の回数を増やしたりするためには、充放電等に伴う性能劣化を極力低減する必要がある。

【0076】
充放電等に伴う性能劣化の原因の1つに、4価のニッケルの増大がある。元々、リチウムイオン2次電池20の正極22内のニッケルは、3価のニッケルである。充電の回数が増えたり、過酷な条件で使用されたりすると、4価のニッケルが生成され、それが性能劣化の原因となることがわかっている。上記実施形態に係る測定装置1を用いれば、正極22に含まれる4価のニッケルが、正極22にどの程度含まれているか否かを高精度に測定することができる。

【0077】
図13には、測定装置1で測定された、リチウムイオン2次電池20の正極におけるニッケルのK殻のX線吸収スペクトルの一例が示されている。図13に示すように、4価のニッケルが増えれば増えるほど、ニッケルのK殻のX線吸収スペクトルは、全体的に、次第にシフトするようになる。

【0078】
ところで、測定装置1のエネルギ分解能をΔEとする。エネルギ分解能ΔEは、得られたX線吸収スペクトルを用いて、どの程度微細な構造まで観察できるか否かの能力を示す数値である。エネルギ分解能ΔEは、次式で定義される。

【0079】
【数2】
JP0005626750B2_000003t.gif

ここで、θBはブラッグ角である。例えば、測定対象がNiである場合、そのK殻吸収端のエネルギは8.33keVである。分光結晶5をSi(111)とすると、3次反射(n=3)ではθBは、45.3度となる。また、Lは、集光位置Fでのビームウエストから検出装置6までの距離である。また、Δθは、角度誤差である。sは、ビームサイズであり、集光素子3で決まる。dは、検出装置6の分解能である。

【0080】
s=20μm、d=50μm、L=800mmとすると、E=8.33keVに対してΔE=0.7eVとなる。エネルギ分解能がこのレベルであれば、充放電時におけるニッケル酸リチウム中のニッケルの酸化数の変化を測定することが十分に可能である。

【0081】
なお、上記各実施形態に係る測定装置1は、このようなリチウムイオン2次電池(ボタン電池)の材料のほか、例えば、ガラス容器内の試料に対しても、測定が可能である。

【0082】
上記第2~第5の実施形態では、X線フィルタ11、スリット12、ビームスプリッタ13、分光結晶5’を用いたが、これらを組み合わせて用いてもよい。

【0083】
このように、上記各実施形態に係る測定装置1では、X線の集光素子3を採用して、分散型光学系を構築することにより、一般的なX線源2を光源とした高精度なXAFS測定を可能とした。この分散型光学系を用いれば、特定のエネルギ帯域のX線の強度分布を、一度に測定することができる。

【0084】
一度に測定が可能となるので、上記各実施形態に係る測定装置1では、例えば、X線に対して分光結晶5への入射角を変化させるために、分光結晶5を回転させる必要がない。これにより、回転機構等の機械的なガタによる測定誤差が測定結果に混入することがない。また、一度に強度分布を測定できるので、その測定時間を短縮することもできる。

【0085】
また、上記各実施形態では、X線の集光素子3として、ポリキャピラリーレンズを採用したが、他の集光素子を用いてもよい。

【0086】
また、上記各実施形態では、検出装置6として、CCDを採用したが、イメージングプレートを採用してもよい。イメージングプレートを採用した場合には、検出装置6と、演算装置7との間は、図1に示すように、信号ケーブル等で接続されない。位置敏感X線検出器であるイメージングプレートの受光面に形成されたX線の強度分布は、専用の読み出し装置で読み出され、演算装置7に送られる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る測定装置は、物質の微細構造の測定に好適である。特に、上述のように、比較的厚みのある物質、例えば、リチウムイオン2次電池の正極材料の微細構造の測定に好適である。リチウムイオン2次電池は、今後、コンピュータや自動車などのあらゆる装置の電源として利用されることが見込まれる。したがって、今後、測定装置1を用いたリチウムイオン2次電池等の測定が、幅広い分野で実施されるものと予想される。
【符号の説明】
【0088】
1 測定装置
2 X線源
3 集光素子
4 試料台
5、5’ 分光結晶
6 検出装置
7 演算装置
8 蛍光X線顕微鏡
10 サンプル
11 X線フィルタ
12 スリット
13 ビームスプリッタ
20 リチウムイオン2次電池
21 負極
22 正極
23 セパレータ
30 キャピラリ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12