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明細書 :目的遺伝子を染色体外で高度に増幅させるためのベクターおよびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5283044号 (P5283044)
登録日 平成25年6月7日(2013.6.7)
発行日 平成25年9月4日(2013.9.4)
発明の名称または考案の名称 目的遺伝子を染色体外で高度に増幅させるためのベクターおよびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
請求項の数または発明の数 11
全頁数 18
出願番号 特願2009-536987 (P2009-536987)
出願日 平成20年10月3日(2008.10.3)
国際出願番号 PCT/JP2008/068041
国際公開番号 WO2009/048024
国際公開日 平成21年4月16日(2009.4.16)
優先権出願番号 2007263258
優先日 平成19年10月9日(2007.10.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年8月3日(2011.8.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】清水 典明
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】水落 登希子
参考文献・文献 特開2003-245083(JP,A)
Exp.Cell Res.,2005年,Vol.302,p.233-243
SCHAKOWSKI Frank, et al.,Minimal Size MIDGE Vectors Improve Transgene Expression In Vivo.,In Vivo,2007年 2月,Vol. 21,p. 17-24
SCHAKOWSKI Frank, et al.,A Novel Minimal-Size Vector (MIDGE) Inproves Transgene Expression in Colon Carcinoma Cells and Avoid,Molecular Therapy,2001年,Vol. 3,p. 793-800
調査した分野 C12N 1/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
CHO細胞または無限増殖能を有する腫瘍細胞である哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅するためのベクターであって、
当該ベクターおよび目的遺伝子が導入された哺乳動物細胞に対する染色体内に目的遺伝子の増幅構造を形成している哺乳動物細胞の割合を1%未満とすることができるベクターであり、
真核生物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域、および核マトリックス結合領域を具備し、
直鎖状であり、かつ
少なくとも片側の末端の形状がヘアピン構造であり、かつ当該ヘアピン構造は合成オリゴヌクレオチドからなることを特徴とするベクター。
【請求項2】
両方の末端がヘアピン構造であることを特徴とする請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
CHO細胞または無限増殖能を有する腫瘍細胞である哺乳動物細胞の染色体外で、目的遺伝子を増幅するための方法であって、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のベクターと、目的遺伝子とを哺乳動物細胞に導入する工程を含む方法。
【請求項6】
上記目的遺伝子と、上記ベクターとをシスに配置して、哺乳動物細胞に導入することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のベクターと、目的遺伝子とがCHO細胞または無限増殖能を有する腫瘍細胞である哺乳動物細胞に導入され、
哺乳動物細胞の染色体外で、目的遺伝子を増幅している形質転換細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換細胞を培養する工程を含む、目的遺伝子の発現方法。
【請求項10】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか1つ以上を含む培地中で、請求項8に記載の形質転換細胞を培養する工程を含む、目的遺伝子の発現方法。
【請求項11】
CHO細胞または無限増殖能を有する腫瘍細胞である哺乳動物細胞の染色体外で、目的遺伝子を増幅するためのキットであって、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のベクターを含むことを特徴とするキット。
【請求項12】
CHO細胞または無限増殖能を有する腫瘍細胞である哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅および発現するためのキットであって、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のベクターと、
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか1つ以上とを含むことを特徴とするキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類細胞内において目的とする遺伝子を宿主細胞の染色体外にて高度に増幅させるためのベクター、および該ベクターを用いて目的遺伝子を宿主細胞の染色体外にて高度に増幅させるための方法に関する。より具体的には、本発明者らが開発した「高度遺伝子増幅系」を用いて所望の遺伝子を増幅する際に、宿主細胞の染色体外に組み込まれることなく目的遺伝子を増幅させることができるベクター、および当該ベクターを用いた遺伝子増幅方法に関する。さらに本発明は、上記本発明にかかるベクターを用いた遺伝子発現方法、および当該遺伝子発現方法に用いられるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、哺乳動物の複製開始領域(IR;Initiation Region)と核マトリックス結合領域(MAR; Matrix Attachment Region)とを持つプラスミド(以下「IR/MARプラスミド」という)をヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン(Blasticidine)あるいはネオマイシン(Neomycine))を利用して選択するだけで、
(1)発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子(以下、適宜「目的遺伝子」という)の細胞内コピー数を1万コピー程度にまで増幅できること、および、
(2)目的遺伝子はIR/MARプラスミドに対して同一の遺伝子構築物(シス)として導入した場合であっても、別の遺伝子構築物(トランス)として導入した場合であっても、高度に増幅することができるということを発見した(特許文献1および非特許文献1参照)。そして、本発明者は当該知見に基づいて、IR/MARプラスミドと目的遺伝子とを、哺乳動物細胞(例えば、ヒト由来がん細胞(COLO320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)、CHO細胞等)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(BlasticidineあるいはNeomycine)を利用して選択するだけで、目的遺伝子を1万コピー程度に増幅できる系(以下、「高度遺伝子増幅系」という)を完成させるに至った。
【0003】
増幅した遺伝子は宿主細胞核内において、染色体外の巨大な環状DNAであるDM(ダブルマイニュート染色体)あるいは、宿主細胞の染色体に組み込まれた巨大な構造であるHSR(均一染色領域)の形態で存在する。
【0004】
哺乳動物細胞内においては、ほとんどの場合目的遺伝子はHSRとして増幅する。しかし、HSRは宿主細胞の染色体に組み込まれた構造であることに加え、目的遺伝子が高度に反復した構造であるため、反復配列依存的な遺伝子の転写抑制を受ける。そのため、目的遺伝子からのタンパク質の発現量が遺伝子増幅数に比例して増加しないという問題があった。
【0005】
現在、タンパク質の大量生産系として広範に用いられている、CHO細胞内でDHFR遺伝子と目的遺伝子を共に増幅する方法においても増幅構造の形態はHSRであるため、遺伝子の増幅コピー数と目的遺伝子からのタンパク質発現量が比例しないという上記した問題が発生している。
【0006】
一方、目的遺伝子がDM、すなわち宿主細胞の染色体外にて増幅する、あるいはDMに組み込まれた上で増幅すると目的遺伝子からのタンパク質発現量は遺伝子増幅コピー数に比例して増加する(特許文献2参照)。しかしながら、DMまたはHSRという遺伝子の増幅形態をコントロールする方法は現在のところ存在していない。

【特許文献1】特開2003-245083号公報(公開日:平成15(2003)年9月2日)
【特許文献2】国際公開第2006/054561号パンフレット(国際公開日:平成18(2006)年5月26日)
【非特許文献1】Noriaki Shimizu, et al. (2001) Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification. Cancer Research vol.61, no.19, p6987-6990.
【発明の開示】
【0007】
IR/MARプラスミドを用いた高度遺伝子増幅系により、哺乳動物細胞内において一細胞あたりの目的遺伝子数を増幅させることは非常に容易となった。しかしながら、タンパク質の発現量という視点では、上記のごとく、目的遺伝子を含むベクターがHSRの形態で増幅するとベクターDNAの配列が高度に反復することにより転写抑制がかかり、最終目的であるタンパク質の発現に至らないという問題点がある。
【0008】
一方、目的遺伝子がDMの形態、すなわち宿主細胞の染色体外にて増幅する、あるいはDMに組み込まれて増幅すると、目的遺伝子からのタンパク質発現量は遺伝子増幅コピー数に比例して増加する(特許文献2参照)。したがって、染色体外で目的遺伝子を増幅することができる方法が望まれていた。しかし、目的遺伝子を含むベクターをDMの形態で増幅させる方法は現在までに分かっていなかった。
【0009】
そこで本発明は、目的遺伝子を含むベクターをDMの形態で、すなわち宿主細胞の染色体外で増幅させることを目的としている。より具体的には、宿主細胞の染色体外で増幅するベクターDNAの開発、および当該ベクターを用いた目的遺伝子の増幅方法を提供することを本発明は目的としている。さらに本発明は、上記本発明にかかるベクターを用いた遺伝子発現方法、および当該遺伝子発現方法に用いられるキットをも提供する。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するためにIR/MARベクターの構造および形状等について鋭意検討を行ったところ、もっぱら宿主細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅することができるIR/MARベクターの構造を特定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために以下の発明を包含する。本発明にかかるベクターは、真核生物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域、および核マトリックス結合領域を具備するベクターであって、直鎖状であり、かつ少なくとも片側の末端の形状がヘアピン構造であることを特徴としている。
【0012】
また本発明にかかるベクターは、両方の末端がヘアピン構造であってもよい。
【0013】
また本発明にかかるベクターは、上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。
【0014】
また本発明にかかるベクターは、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来するものであることが好ましい。
【0015】
一方、本発明にかかる方法は、哺乳動物細胞内で目的遺伝子を増幅するための方法であって、上記本発明にかかるベクターと、目的遺伝子とを哺乳動物細胞に導入する工程を含むことを特徴としている。
【0016】
本発明にかかる方法は、上記目的遺伝子と、上記ベクターとをシスに配置して、哺乳動物細胞に導入する方法であってもよい。また本発明にかかる方法は、上記目的遺伝子と、上記ベクターとをトランスに配置して、哺乳動物細胞に導入する方法であってもよい。
【0017】
また本発明にかかる形質転換細胞は、上記本発明にかかるベクターと、目的遺伝子とが哺乳動物細胞に導入されてなる形質転換細胞である。
【0018】
また本発明にかかる目的遺伝子の発現方法は、上記本発明にかかる形質転換細胞を培養する工程を含むことを特徴としている。
【0019】
また本発明にかかる目的遺伝子の発現方法は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか1つ以上を含む培地中で、上記本発明にかかる形質転換細胞を培養する工程を含む方法であってもよい。
【0020】
また本発明にかかるキットは、目的遺伝子を増幅するためのキットであって、上記本発明にかかるベクターを含むことを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記本発明にかかるベクターと、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか1つ以上とを含む、目的遺伝子を発現するためのキットをも包含する。
【0022】
本発明によれば、目的遺伝子をDMの形態、すなわち染色体外で増幅させることができる。そのため、宿主細胞に組み込まれたHSRの形態で増幅する場合と異なり、目的遺伝子の増幅に伴い、得られる目的タンパク質の量も増加するというメリットを享受できる。
【0023】
したがって本発明は、従来の高度遺伝子増幅系の問題点を克服した、目的タンパク質の大量生産系を樹立することができるという効果を奏する。
【0024】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明によって明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のベクターの構造模式図であり、Aは両側ヘアピンDNAであり、Bは片側ヘアピンDNAである。ベクター構造図において、黒の実線は一本鎖のDNAを、灰色の部分が相補的なDNA鎖間に存在する水素結合領域を示す。
【図2】実施例1で用いているベクターの構築方法を示す模式図である。ベクター構造図において、黒の実線は一本鎖のDNAを、灰色の部分が相補的なDNA鎖間に存在する水素結合領域を示す。
【図3】本発明のベクターを形質転換し、ブラスティサイジンで5週間選択したCOLO 320DM細胞の間期核メタフェーズスプレッディング標本について、FISH法によりベクター配列を検出した蛍光顕微鏡像である。
【図4】本発明のベクターを形質転換し、ブラスティサイジンで5週間選択したCOLO 320DM細胞の分裂期核メタフェーズスプレッディング標本について、FISH法によりベクター配列を検出した蛍光顕微鏡像である。矢印はベクター配列が検出された箇所の代表例を示す。
【図5】IRとMARとを持つプラスミド(pSFV dhfr)、またはIRとMARとを持たないプラスミド(pSFV-V)をもとに調製した片側ヘアピンDNAを細胞に導入し、間期核に見られるプラスミド配列シグナルの頻度を示したグラフである。シグナル数の量をシグナルが少ない方から順に+~+++までに分類して示す。
【図6】導入するプラスミド形態(閉環環状(スーパーコイル)、直鎖状、片側ヘアピン、両側ヘアピン)が、増幅構造の形成にどのように影響するかを検討した結果を示すグラフである。
【図7】実施例2で用いられる両側にヘアピン構造を有するIR/MARプラスミド(「両側ヘアピンDNA」という)の構築方法を示す模式図である。
【図8】実施例2の結果を示す図であり、(A)は閉環状プラスミドが導入された形質転換細胞のd2EGFP発現量(pΔBM-d2EGFp、図中では「ccc」と表記する)と、両側ヘアピンDNAが導入された形質転換細胞のd2EGFP発現量(図中では「hairpin」と表記する)とを示すヒストグラムであり、(B)は比較対象である閉環状プラスミド(pΔBM-d2EGFp、図中では「ccc」と表記する)が導入された形質転換細胞について、d2EGFP発現量をセルソーターで解析した結果を示し、(C)は両側ヘアピンDNAが導入された形質転換細胞について、d2EGFP発現量をセルソーターで解析した結果を示す。
【図9】実施例3の結果を示す図であり、両側ヘアピンDNAが導入された形質転換細胞(図中では「hairpin」と表記する)、およびヘアピン構造を有しない閉環状プラスミドが導入された形質転換細胞(pΔBM-d2EGFp、図中では「ccc」と表記する)について、阻害剤添加後、5日経過したポリクローンの細胞についてセルソーターを用いてGFPの発現量を計測した結果を示すヒストグラムである。なお阻害剤が添加されていない結果は図中「control」で表記されている。

【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0027】
<1.本発明の遺伝子増幅方法>
本発明の一実施形態は、目的遺伝子を増幅させるための方法に関する。上記方法のことを「本発明の遺伝子増幅方法」と称する。
【0028】
ここで本発明の遺伝子増幅方法は、真核生物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域、および核マトリックス結合領域を具備し、その形状が直鎖状であり、その末端のいずれか一方または両方がヘアピン構造となっているベクター(以下、「本発明のベクター」という)と、有用タンパク質をコードする目的遺伝子とを哺乳動物細胞に導入する工程(以下、「導入工程」という)を含む方法である。
【0029】
ここで「目的遺伝子」とは発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子のことを意味する。上記目的遺伝子は、特に限定されるものではなく、所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適宜選択の上、採用すればよい。目的遺伝子であるポリヌクレオチドは、その塩基配列情報を元にPCR等の公知の技術を用いて取得すればよい。
【0030】
本発明の遺伝子増幅方法を実施することによって目的遺伝子が、染色体外のダブルマイニュート染色体(以下、適宜「DM」という)上、および/またはDMの形態、すなわち染色体外で増幅される。すなわち増幅構造が形成されていれていれば、目的遺伝子が増幅されていると判断できる。形質転換細胞のクローンにおいて上記増幅構造が形成されたか否かを検出する方法については、特に限定されるものではないが、例えば分裂期の染色体について公知のFISH法(fluorescence in situ hybridization)を行い、哺乳動物細胞へ導入した遺伝子を検出することによって判断し得る。上記判断は、当業者であれば容易に行い得る。なおFISH法を実施する際の具体的な方法については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。
【0031】
なお本発明の遺伝子増幅方法には、上記導入工程の他に、目的遺伝子とベクターとが導入された哺乳動物細胞を分離する工程(以下、「選抜工程」という)や、当該選抜工程によって選抜された哺乳動物細胞(すなわち形質転換細胞)を培養する培養工程(以下、「培養工程」という)が含まれていてもよい。
【0032】
また、上記形質転換体を培養することによって、目的遺伝子を発現させることができる。すなわち本発明は、目的遺伝子の発現する方法をも包含するといえる。
【0033】
また、上記培養工程によって生産された目的タンパク質を精製する方法(以下、「精製工程」という)を本発明の遺伝子増幅方法に合わせることによって、目的遺伝子がコードするタンパク質を生産する方法を構築することができる。以下、本発明にかかる方法を工程ごとに説明する。
【0034】
〔1-1.導入工程〕
本発明の遺伝子増幅方法における導入工程は、後に説明する本発明のベクターと、前記目的遺伝子とを哺乳動物細胞に導入する工程である。
【0035】
本発明のベクターに含まれる哺乳動物複製開始領域および哺乳動物核マトリックス結合領域は、哺乳動物をはじめとする真核生物細胞内で機能する複製開始領域および核マトリックス結合領域であれば特に限定されるものではない。上記哺乳動物複製開始領域としては、例えばc-myc遺伝子座由来、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)遺伝子座由来、β-グロビン遺伝子座由来等の複製開始領域が挙げられる。なおc-myc遺伝子座由来の複製開始領域(以下、適宜「c-myc遺伝子座由来の複製開始領域」については、「McWhinney, C. et al., Nucleic Acids Res. vol. 18, p1233-1242 (1990)」参照のこと。またジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製開始領域については、「Dijkwel, P.A. et al., Mol. Cell. Biol. vol.8, p5398-5409 (1988) 」参照のこと。またβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域については、「Aladjem, M. et al., Science vol. 281, p1005-1009 (1998) 」参照のこと。
【0036】
また上記核マトリックス結合領域としては、例えば、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座等の核マトリックス結合領域に由来するポリヌクレオチドが挙げられる。なお、Igκ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、「Tsutsui, K. et al., J. Biol. Chem. vol. 268, p12886-12894 (1993) 」参照のこと。またSV40初期領域の核マトリックス結合領域については、「Pommier, Y. et al., J. Virol., vol 64, p419-423 (1990) 」参照のこと。またジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、「Shimizu N. et al., Cancer Res. vol. 61, p6987-6990 」参照のこと。
【0037】
また、本発明のベクターの末端に存在するヘアピン構造(「ヘアピンループ構造」ともいう)はいかなる手段を用いて達成してもよい。たとえば、本発明のベクターの末端にヘアピン構造をとることができるオリゴヌクレオチドを連結することによって達成すればよい。ヘアピン構造を構成する塩基配列は、ヘアピン構造を形成し得る塩基配列を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0038】
なお本明細書において特に言及しない場合においては、哺乳動物複製開始領域を「IR」、核マトリクス結合領域を「MAR」、ヘアピン構造のオリゴヌクレオチドを「ヘアピンDNA」と表記する。図1に本発明のベクターの構造模式図を示す。図1のAは両側ヘアピンDNAであり、Bは片側ヘアピンDNAを示す。ベクター構造図において、黒の実線は一本鎖のDNAを、灰色の部分が相補的なDNA鎖間に存在する水素結合領域を示す。図1に示すベクターには薬剤耐性遺伝子、目的遺伝子、シグナル配列等が含まれていてもよい。
【0039】
本発明の遺伝子増幅方法では、IR、MAR、ヘアピンDNA末端を有するベクターを用いることを特徴とする。ここでヘアピンDNAの長さは特に限定されるものではないが、一本鎖の段階で少なくとも30bp以上であることが好ましい。また、当該一本鎖DNAが相補的な配列間で水素結合を生じることにより折れ曲がり、二本鎖のヘアピン構造を取った段階で15bp以上であることが好ましい。
【0040】
本発明にかかる遺伝子増幅方法の導入工程において使用する本発明のベクターは、既述のIR、およびMARを具備し、直鎖状DNAの末端にヘアピンDNAを有するベクターであればよいが、当該ベクターには、大腸菌内でクローニングを行うために必要な配列、選択マーカー(マーカータンパク質)としての薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子、ヒグロマイシン抵抗性遺伝子等)または緑色蛍光タンパク質遺伝子、有用タンパク質をコードする目的遺伝子等が含まれていてもよい。これらの選択マーカーを指標とすることによって、本発明のベクターが導入された哺乳動物細胞を選別できる。
【0041】
また本発明にかかる遺伝子増幅方法の導入工程において導入される目的遺伝子は、プロモーターに制御可能に連結されていることが好ましい。上記プロモーターは、導入される哺乳動物細胞において機能するものであれば特に限定されるものではなく、転写因子等による所定の操作によって、プロモーターの転写活性が活性化または不活性化されるプロモーター(本明細書においては「転写活性調節型プロモーター」という)であっても、恒常的に転写活性が活性化されている恒常型プロモーターであってもよい。「転写活性調節型プロモーター」は、上記特性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、TREプロモーター(クロンテック社製)、T-REXプロモーター(インビトロジェン社製)等の市販品が本発明にかかる方法において利用可能である。恒常型プロモーターとしては、CMVプロモーター、SV40プロモーター、SRalphaプロモーター、LTRプロモーター、MMTVプロモーター等が利用可能である。
【0042】
本発明にかかる遺伝子増幅方法の導入工程においては、本発明のベクターと目的遺伝子とを哺乳動物細胞へ同時に導入する。このようにすることによって、目的遺伝子が哺乳動物細胞において高度に増幅される。
【0043】
上記哺乳動物細胞は、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220)が特に好ましい。しかし、特に限定されるものではなく、例えばCHO-K1細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-61、RIKEN RCB0285、RIKEN RCB0403等)等の、各種腫瘍細胞等が挙げられる。ただし、上記哺乳動物細胞としては、無限増殖能を有する腫瘍細胞が特に好ましい。上記腫瘍細胞としては、例えば、HeLa細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-2、ATCC CCL-2.2、RIKEN RCB0007、RIKEN RCB0191等)、ヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220.1)、NS0細胞(入手先:例えば、RIKEN RCB0213)等が挙げられる。なおヒト大腸がんCOLO 320DM細胞については、「Shimizu, N.et al. Nat. Genet., 12: 65-71, 1996.」を参照のこと。
【0044】
なお、本発明のベクターおよび目的遺伝子を哺乳動物細胞に導入する際には、両者が同時に哺乳動物細胞へ導入される態様であれば特に限定されるものではなく、両者を連結して同一の遺伝子構築物として導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよい。ここで前者を「本発明のベクターと目的遺伝子とをシスに配置する」といい、後者を「本発明のベクターと目的遺伝子とをトランスに配置する」という。前者の場合は一の遺伝子構築物を哺乳動物細胞へ導入すればよく、操作が容易であるというメリットがある。一方、後者の場合はそれぞれの遺伝子構築物のサイズを小さくすることができるために、高い遺伝子導入効率を得られるというメリットがある。
【0045】
また遺伝子構築物の形態については、プラスミドであってもコスミドであってもよい。また本発明のベクターおよび目的遺伝子の哺乳動物細胞への導入方法は、特に限定されるものではなく、リポフェクション、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法等公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。
【0046】
なお本発明のベクターと目的遺伝子とを別の遺伝子構築物として導入する場合には、それぞれの遺伝子構築物に選択マーカーをコードする遺伝子が含まれていることが好ましい。上記ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜することができるからである。この時、本発明のベクターに含まれる選択マーカーと、目的遺伝子を含む遺伝子構築物に含まれる選択マーカーとが異なることが好ましいことは言うまでもない。
【0047】
〔1-2.選抜工程〕
本発明の遺伝子増幅方法における「選抜工程」は、目的遺伝子とベクターとが導入された哺乳動物細胞を分離する工程である。より詳細には、本工程は、目的遺伝子とベクターとが導入されていない哺乳動物細胞、および目的遺伝子とベクターとが導入された哺乳動物細胞が含まれる細胞の多クローン性集団から後者の細胞を選抜する工程である。なお、薬剤耐性を指標として本工程を行う場合には、哺乳動物細胞を培地で培養する工程が含まれる場合があるが、本工程では目的遺伝子とベクターとが導入されていない哺乳動物細胞、および目的遺伝子とベクターとが導入された哺乳動物細胞が含まれる細胞の混合物を培養するのに対して、後述する目的遺伝子とベクターとが導入された哺乳動物細胞として既に選抜された細胞を培養する点において、両工程は明らかに相違する。かかる選抜工程によって、哺乳動物細胞に導入された目的遺伝子が高度に増幅された哺乳動物細胞を選抜することができる。
【0048】
上記選抜工程の具体的方法は特に限定されるものではないが、例えば、目的遺伝子とベクターとを哺乳動物細胞へ導入する際に用いた遺伝子構築物に薬剤耐性遺伝子が含まれている場合、その薬剤耐性を利用して目的遺伝子とベクターとが導入された哺乳動物細胞を選抜すればよい。
【0049】
なお、本発明の遺伝子増幅方法における選抜工程は、PCR法やサザンブロット法によって、哺乳動物細胞に含まれる目的遺伝子若しくはベクター、またはそのヌクレオチド断片を検出することによっても行われ得る。また上記薬剤耐性、PCR法、サザンブロット法の具体的な方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が適宜利用され得る。
【0050】
〔1-3.培養工程〕
本発明の遺伝子増幅方法における「培養工程」は、上記選抜工程によって既に選抜された哺乳動物細胞(すなわち「形質転換細胞」)を培養する工程である。かかる培養工程によって、目的遺伝子が導入され且つ高度に増幅された哺乳動物細胞を増殖させることができ、所定の操作(転写誘導操作等)によって、目的遺伝子を発現させることによって、目的遺伝子がコードするタンパク質を生産することができる。
【0051】
上記培養工程の具体的方法は特に限定されるものではなく、培養する哺乳動物細胞に最適な条件を検討の上、適宜採用すればよい。
【0052】
特に、培養工程を行う際に用いられる培地に、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか一つ以上を含ませることによって、目的遺伝子の発現量をさらに向上させることが可能であることを本発明者らは見出した(実施例3を参照のこと)。よって、形質転換細胞を培養することによって目的遺伝子をさらに高発現させるためには、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか一つ以上を培地に含ませることが好ましいといえる。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はヒストンのアセチル化レベルを上昇させることにより、またDNAメチル化阻害剤はDNAメチル化レベルを低下させることにより、目的遺伝子が受けているエピジェネティックな発現抑制を解除することにより、目的遺伝子を高発現させることができる。
【0053】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤は、特に限定されるものではないが、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としては、butyrate、Trichostatin A(TSA)、MS-275、Oxamflatin、DMSOなどが挙げられ、DNAメチル化阻害剤としては、5-aza-2’-deoxycytidine、5-aza-2’-cytidineなどが挙げられる。
【0054】
上記各阻害剤の培地への添加量については、培養される形質転換細胞の増殖に影響を与えない範囲内で、目的遺伝子の発現量が向上する添加量を検討の上、採用すればよい。
【0055】
〔1-4.精製工程〕
本発明における「精製工程」は、上記培養工程によって生産された目的タンパク質を精製する方法である。
【0056】
本精製工程におけるタンパク質精製の具体的方法としては、例えば、哺乳動物細胞をPBS(Phosphate Buffered Saline)等の緩衝溶液に懸濁した後、ホモジェナイザーまたは超音波等で細胞を破砕し、遠心分離をして上清を回収する。上記緩衝溶液には、タンパク質の可溶化を促進するための界面活性剤や、タンパク質の立体構造を安定化するための還元剤、タンパク質の分解を防止するためのプロテアーゼインヒビターを適宜添加することもできる。上記界面活性剤としては、CHAPS(3-[(3-cholamidopropyl)-dimethylammonio-1-propanesulfonate]、Triton X-100、Nikkol、n—オクチルグリコシド等を利用することができる。また、上記還元剤としては、DTT(dithiothreitol)、DET(dithioerythritol)等を利用することができる。また、上記プロテアーゼインヒビターとしては、アプロチニンや、ロイペプチンを利用することができる。
【0057】
上記上清から、目的遺伝子がコードするタンパク質(「目的タンパク質」)をアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ろ過クロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーを用いて、精製することができる。また、精製されたタンパク質溶液を適当な緩衝液に透析することで不要な塩を除去することもできる。上記のタンパク質の精製工程は、タンパク質の分解を抑えるために低温条件下で行われることが好ましい。特に4℃下で精製工程が行われることが好ましい。
【0058】
なお、上記精製工程の具体的方法は、この限りではなく、公知の方法を適宜利用され得る。
<2.本発明のベクターおよびキット>
なお本発明は、上記で説示した本発明のベクター、当該ベクターを含むことを特徴とする遺伝子増幅キット(以下「本発明の遺伝子増幅キット」という)、および当該ベクターを含むことを特徴とする遺伝子発現キット(以下「本発明の遺伝子発現キット」という)をも包含する。
【0059】
本発明のベクターに関する説明については、<1.本発明の遺伝子増幅方法>の項における本発明のベクターの説明を援用する。
【0060】
また、本発明の遺伝子増幅キットおよび遺伝子発現キットは、上記本発明のベクターを含むことを特徴としている。本発明のキットは、本発明にかかる遺伝子増幅方法を実施し得るものであれば、上記構成に限定されるものではなく、その他の構成を含んでいてもよい。例えば、形質転換を行うために必要な緩衝液、目的遺伝子をベクターに挿入するための制限酵素、バイアル、チューブ類等が本発明のキットに含まれ得る。なお、本発明の遺伝子発現キットにヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか1つ以上をさらに含むことによって、遺伝子の発現量をさらに高発現させることができるキットを構築することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
<実施例1>
〔実施例1で使用するベクター〕
本実施例で使用する本発明のベクターはDHFR遺伝子座由来のIRとMARとを持つプラスミド(pSFV dhfr)を基に構築した。また、IRとMARを持たない対照プラスミド(pSFV—V)についても同様に構築した。なお、これらのプラスミドは、「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」にすでに記載したプラスミドDNAである。具体的な本発明のベクターの構築方法を以下に記載する。
【0063】
まず、上記した2つのプラスミドDNAをそれぞれAse IとMlu Iの2種類の制限酵素で同時切断することにより直鎖状DNAを得た。この直鎖状DNAと、Ase I切断部位を有する大過剰モル数のヘアピン構造をした合成オリゴヌクレオチドとを混合し、Ligation high Kit (東洋紡社製)を用いてライゲーションを行った。このライゲーション産物を「両側ヘアピンDNA」と称し、これをさらにMlu Iで消化したDNAを「片側ヘアピンDNA」とした。ヘアピン構造をとるオリゴヌクレオチドの合成はDNA合成受託業者に受注した。本実施例に用いたヘアピンオリゴヌクレオチドの配列を配列番号1(taatatgctgcactgacgtcagtgcagcatat)に示した。これらのプラスミドの構造については図1、その構築方法については図2を参照のこと。
【0064】
〔実験方法〕
上記で作製したプラスミドを用いて以下の実験を行った。
【0065】
本実施例および参考例(「実施例等」という)では、上記プラスミドを細胞に遺伝子導入し、当該プラスミドで形質転換された形質転換細胞を選択し、FISH法を用いて当該形質転換細胞内の増幅構造の形態を調べた。
【0066】
本実施例等で用いられている遺伝子導入方法については以下の通りである。まず上記方法により構築した「両側ヘアピンDNA」、「片側ヘアピンDNA」を細胞へ遺伝子導入した。
【0067】
上記の遺伝子導入される細胞は、ヒト大腸癌細胞株である、COLO 320DMである。上記細胞株は「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」に記載の所から取得され、当該記載と同じ条件で培養された。COLO 320DMにはc-myc遺伝子の増幅によって多くの内在性のDMが生じている。
【0068】
上記形質転換細胞を、遺伝子導入から2日後に、終濃度5μg/mlになるようにブラスティサイジンを加えた選択培地で上記細胞を培養することで選択した。選択培地は3日~5日ごとに培養中の選択培地の半分を、新しく調製した上記選択培地と交換した。
【0069】
上記FISH法と、FISH法に用いる導入遺伝子を検出するためのプローブの調製と、メタフェーズスプレッディング標本(metaphase spreading)は、遺伝子導入してから5週間後に、培養中の細胞の一部を回収し、「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research, vol. 61, p6987-6990」に記載の方法に従って行われた。また、上記プローブはビオチン化されており、緑色蛍光を発するFITC(fluorescein isothiocyanate)が結合したストレプトアビジンによって検出することができる。また、赤色蛍光を発するPI(propidium iodide)でDNAを対比染色した。FISH法によって蛍光標識したスライドガラス上の細胞を、蛍光色素を検出するのに適切なフィルタセットと100倍の対物レンズ(Nikon Plan Fluor、NA1.30 oil)を設置している倒立蛍光顕微鏡(ECLIPSE TE2000-U、Nikon)を用いて観察し、上記顕微鏡とつながれているFuji FinePix S1Pro digital camera(Fuji Film Co.Tokyo)を用いて、細胞内での導入遺伝子とDNAの態様の写真をデジタル画像として撮影した。得られた、それぞれの画像は画像解析ソフトAdobe(登録商標)Photpshop(登録商標)version 4.0J(Adobe Systems Inc)を用いて合成した。
【0070】
構築した本発明のベクター「両側ヘアピンDNA」、「片側ヘアピンDNA」をCOLO320 DM細胞へ導入した後、5週間ブラスティサイジンにより選択した細胞群についてメタフェーズスプレッディング標本を作成し、FISH法により本発明のベクターの増幅箇所を可視化した(図3、図4参照)。
【0071】
図3に間期核の像を示す。極めて小さなシグナル(白く見える部分)が、ほぼ全ての間期核で極めて多数見られる。より詳細に本発明のベクターの宿主細胞内における増幅形態を知るために、分裂期細胞において本発明のベクター配列を検出した染色体画像を図4に示す。図4の矢印が示すように、本発明のベクターのシグナルは染色体外に存在すること、および、多くのプラスミドシグナルは、この細胞内にもとから存在していた大きなDMに付着するようにして存在していた。
【0072】
本発明のベクターが染色体外で高度に増幅した細胞の頻度を、2回の実験データを基にグラフ化した(図5、6を参照のこと)。図5では、IRとMARとを持つプラスミド(pSFV dhfr)、およびIRとMARとを持たないプラスミド(pSFV-V)をもとに調製した片側ヘアピンDNAを細胞に導入した結果を示す。間期核に見られるプラスミド配列シグナルの概数をもとに、シグナルが少ない方から順に+~+++までに分類し、その頻度をグラフで示した。その結果、極めて高い割合の細胞で染色体外のシグナルが検出されたが、その頻度はIRとMARとを持つプラスミドの方が、IRとMARとを持たないプラスミドに比べて著しく高かった。また図6では、導入するプラスミドベクターDNAの形態(閉環環状(スーパーコイル)、直鎖状、片側ヘアピン、両側ヘアピン)がどのように増幅構造の形成に影響するかを検討した結果を示す。その結果、閉環環状(スーパーコイル)のベクターでは、発明者がこれまで行った実験の結果と同様にHSRの形成が認められたのに対し、ベクターを直鎖状とした上でその末端をヘアピン構造とすることにより、極めて効率よく染色体外のDMが形成されることが示された。
【0073】
<実施例2>
実施例2は、特記しない限りにおいて、実施例1と同様の方法を用いて行われた。
【0074】
〔実施例2で使用するベクター〕
本実施例で使用するベクターは、ヒトDHFR遺伝子座由来のIRおよびMARを有し、恒常的プロモーター(CMVプロモーター)の制御下に、GFP遺伝子を有するプラスミド(pΔBM-d2EGFP)を、Mlu Iで切断したのち、2か所の切断末端にヘアピン構造をとる合成DNAをライゲーションすることにより、両側にヘアピン構造を有するIR/MARプラスミド(「両側ヘアピンDNA」という)を構築した(図7を参照のこと)。上記ヘアピン構造をとる合成DNAの配列は、cgcgatatgctgcactgacgtcagtgcagcatat(34bp、配列番号2にその塩基配列を示す)であった。
【0075】
なお上記pΔBM-d2EGFPの作製方法は以下の通りである。上記pΔBM-d2EGFPは、pSFV dhfr(非特許文献1〔Noriaki Shimizu, et al. (2001) Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification. Cancer Research vol.61, no.19, p6987-6990.〕参照)をもとに構築された。まず、pSFV dhfrをBamH IとMlu Iの2種類の制限酵素で同時切断した。その切断箇所へ、両末端にBamH I、Mlu I切断部位を有し、マルチクローニングサイトを有する直鎖状合成オリゴヌクレオチドを、Ligation high Kit(東洋紡社製)を用いてライゲーションすることにより挿入した。上記直鎖状合成オリゴヌクレオチドは、配列番号3および4に示される塩基配列からなる合成ヌクレオチドをアニーリングすることにより得られた。このプラスミドをpΔBM-linkerと名付けた。マルチクローニングサイトは、BamH I切断末端側からMlu I切断末端の向きで、Kpn I、Asc I、Sal I、Swa I、AsiS I、Sbf I、BamH I切断可能部位を有する。ただし、上記ライゲーション行程において、接着箇所のMlu I切断部位は復元されるが、BamH I切断部位は復元されない。次に、pΔBM-linkerのAsiS IとAsc I部位間に、CMVプロモーターに支配されたd2EGFP遺伝子を組み込むことにより、pΔBM-d2EGFPを作製した。
【0076】
〔実験方法〕
上記の工程により構築した両側ヘアピンDNAを、COLO320DM細胞にリポフェクション法により導入した。遺伝子導入2日後から、プラスミド上のブラスティサイジン耐性遺伝子に対応する5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で選択し、培養開始から75日経過したポリクローンの安定な形質転換細胞について、セルソーターを用いてGFPの発現量を計測した。また、比較対象として閉環状プラスミド(pΔBM-d2EGFp)も同様の方法で実験を行った。
【0077】
〔結果〕
図8にその結果を示す。図8(B)は、比較対象である閉環状プラスミド(pΔBM-d2EGFp、図中では「ccc」と表記する)が導入された形質転換細胞について、d2EGFP発現量をセルソーターで解析した結果を示す。図8(C)は、両側ヘアピンDNAが導入された形質転換細胞について、d2EGFP発現量をセルソーターで解析した結果を示す。図8(A)は、閉環状プラスミドが導入された形質転換細胞のd2EGFP発現量(pΔBM-d2EGFp、図中では「ccc」と表記する)と、両側ヘアピンDNAが導入された形質転換細胞のd2EGFP発現量(図中では「hairpin」と表記する)とを示すヒストグラムである。
【0078】
図8によれば、両側ヘアピンDNAが導入された細胞は、ヘアピン構造を有しないIR/MARプラスミドに比して明らかにd2EGFP遺伝子の発現量の顕著な増加が見られた(約4倍)。
【0079】
<実施例3>
実施例3は、特記しない限りにおいて、実施例1および2と同様の方法を用いて行われた。
【0080】
〔実験方法〕
実施例2で構築した両側ヘアピンDNAを、COLO320DM細胞にリポフェクション法により導入した。遺伝子導入2日後から、プラスミド上のブラスティサイジン耐性遺伝子に対応する5μg/mlのブラスティサイジン(フナコシ社製)で選択し、培養開始後70日経過したポリクローンの安定な形質転換細胞について、各種ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDAC阻害剤:butyrate、Trichostatin A(TSA)、MS-275、Oxamflatin、DMSO)またはDNAメチル化阻害剤(5-aza-2’-deoxycytidine:以下「5-aza」と表記する)を加えた。各阻害剤は、細胞培地に対する最終濃度が、butyrate(Sigma社製)は2mM、TSA(Sigma社製)は100nM、MS-275(Alexis Biochemicals社製)は3μM、Oxamflatin(Calbiochem社製)は0.1μg/ml、DMSO(ナカライテスク社製)は1.6容量%、5-aza(Sigma社製)は3μMになるよう加えた。阻害剤添加後、5日経過したポリクローンの細胞についてセルソーターを用いてGFPの発現量を計測した。また、比較対象として閉環状プラスミド(pΔBM-d2EGFp)も同様の方法で実験を行った。
【0081】
〔結果〕
図9にその結果を示す。図9には、両側ヘアピンDNAが導入された形質転換細胞(図中では「hairpin」と表記する)、およびヘアピン構造を有しない閉環状プラスミドが導入された形質転換細胞(pΔBM-d2EGFp、図中では「ccc」と表記する)について、各種阻害剤が実験系に添加された結果、および添加されていない結果(図中では「control」と表記する)がそれぞれ示されている。
【0082】
図9の結果によれば、両側ヘアピンDNAによって遺伝子発現量が増加した形質転換細胞をHDAC阻害剤やDNAメチル化阻害剤で処理することによって、さらに遺伝子発現量を増加させることが可能であるということが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上記説示したように、本発明にかかる方法によれば目的遺伝子をDMの形態、すなわち染色体外で増幅させることができるため、目的遺伝子の増幅に伴い、目的遺伝子からの目的タンパク質の発現量も増加するというメリットを享受できる。したがって、従来の高度遺伝子増幅系の問題点を克服した、目的タンパク質の大量生産系を樹立することが可能である。それゆえ、所望のタンパク質(例えば、有用タンパク質)を従来法より大量に生産することが可能になるという効果を奏する。
【0084】
したがって、本発明はタンパク質の生産を行う産業、例えば、医薬品、化学、食品、化粧品、繊維等種々広範な産業において利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図3】
7
【図4】
8