TOP > 国内特許検索 > Helicobacter pyloriの生育阻害剤およびその製造方法 > 明細書

明細書 :Helicobacter pyloriの生育阻害剤およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5505298号 (P5505298)
登録日 平成26年3月28日(2014.3.28)
発行日 平成26年5月28日(2014.5.28)
発明の名称または考案の名称 Helicobacter pyloriの生育阻害剤およびその製造方法
国際特許分類 A61K  35/74        (2006.01)
A61K  31/05        (2006.01)
A61K  36/00        (2006.01)
A61K  36/73        (2006.01)
A61P   1/04        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
FI A61K 35/74 ZNAE
A61K 31/05
A61K 35/78
A61K 35/78 B
A61K 35/78 H
A61P 1/04
A61P 31/04
請求項の数または発明の数 7
微生物の受託番号 NITE BP-7
全頁数 21
出願番号 特願2010-505728 (P2010-505728)
出願日 平成21年3月25日(2009.3.25)
国際出願番号 PCT/JP2009/055952
国際公開番号 WO2009/119667
国際公開日 平成21年10月1日(2009.10.1)
優先権出願番号 2008084667
2008222526
優先日 平成20年3月27日(2008.3.27)
平成20年8月29日(2008.8.29)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成24年3月21日(2012.3.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】杉山 政則
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】加藤 文彦
参考文献・文献 特開2006-042796(JP,A)
中国特許出願公開第1660300(CN,A)
韓国公開特許第10-2004-0092276(KR,A)
特開2005-013211(JP,A)
LORCA,G.L. et al, Lactobacillus acidophilus autolysins inhibit Helicobacter pylori in vitro, Curr Microbiol, 2001, Vol.42, No.1, p.39-44
LEE,H.M. et al.,J Microbiol Biotechnol,2006年,Vol.16, No.10,p.1513-7
ROKKA,S. et al, In vitro growth inhibition of Helicobacter pylori by lactobacilli belonging to the Lactobacillus plantarum group, Lett Appl Microbiol, 2006, Vol.43, No.5, p.508-13
CHATTERJEE,A. et al, Inhibition of Helicobacter pylori in vitro by various berry extracts, with enhanced susceptibility to clarithromycin, Mol Cell Biochem, 2004, Vol.265, No.1-2, p.19-26
VORAVUTHIKUNCHAI,S.P. et al, Inhibitory and killing activities of medicinal plants against multiple antibiotic-resistant Helicobacter pylori, Journal of Health Science, 2008 Feb, Vol.54, No.1, p.81-8
LEE,H.M. et al., Isolation of Lactobacillus plantarum from Kimchi and its inhibitory activity on the
調査した分野 A61K 35/74
A61K 31/05
A61K 36/00
A61K 36/73
A61P 1/04
A61P 31/04
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ラクトバシラス プランタルムSN13T株(受託番号:NITE BP-7)の、ナシ果汁またはモモ果汁を培地として用いた培養によって得られる培養上清、または該培養上清からの抽出物を含有しており、
上記培養上清、または該培養上清からの抽出物が、抗ピロリ活性の活性物質としてカテコールまたはチロソールを含有している、ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pyloriの生育阻害剤。
【請求項2】
上記抽出物がエステル抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の生育阻害剤。
【請求項3】
ブルーベリー果汁またはザクロ果汁をさらに含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の生育阻害剤。
【請求項4】
請求項1に記載の生育阻害剤を製造する方法であって、
ラクトバシラス プランタルムSN13T株(受託番号:NITE BP-7)の、ナシ果汁またはモモ果汁を培地として用いた培養後の培養上清を得る工程、ならびに
上記培養上清にカテコールまたはチロソールが含まれるか否かを確認する工程
を包含することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
上記培養上清のエステル抽出物を得る工程をさらに包含することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
上記培地に酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含むことを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
ブルーベリー果汁またはザクロ果汁を上記培養上清に添加する工程をさらに包含することを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Helicobacter pyloriの生育阻害剤およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、特定の植物乳酸菌の培養上清およびその抽出物を含有している生育阻害剤およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の約50%、特に50歳以上の70%がHelicobacter pylori(ピロリ菌)に感染していると言われている。ピロリ菌の感染は胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因となり、さらには胃癌の発生にも深く関わっていることが明らかになっている。
【0003】
ピロリ菌は、人の胃粘膜にて生息可能な、微好気性のらせん型グラム陰性桿菌である。ピロリ菌は、菌体の大きさが0.5~1.0μm×2.5~5.0μmであり、数本の鞭毛を有し、活発な運動性を示す。ピロリ菌の発育至適温度は37℃であり、発育至適pHは7.0~7.4であり、pH4以下の環境では生きることができない。さらに、ピロリ菌はカタラーゼ陽性、オキシダーゼ陽性、ウレアーゼ陽性を示す。ウレアーゼは人の胃粘膜上皮細胞中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に変換する酵素であり、ウレアーゼの触媒作用によって生成されたアンモニアが胃酸を中和することにより、ピロリ菌は胃粘膜中にて生存し得る。したがって、ピロリ菌のウレアーゼ産生能はピロリ菌の胃粘膜中での生存に不可欠と言える。
【0004】
ピロリ菌の除菌治療としては、プロトンポンプインヒビターおよび2種類の抗生物質を用いた3剤併用が行われている。しかし、抗生物質に耐性のピロリ菌が出現するなど、この方法は効果的治療となっていない。また、抗生物質を一定期間にわたって集中的に服用するため、患者は体調を崩すことが多く、抗生物質の服用が大きなストレスとなっている。よって、抗生物質を用いることなくピロリ菌の生育を阻害し得る技術が必要とされている。
【0005】
乳酸菌は、古来よりチ-ズ、ヨ-グルト、醗酵バタ-等の乳製品を始め、味噌、漬物等のわが国の伝統的醗酵食品のほか、果汁、野菜汁へ接種するなどした、多くの食品に用いられ、食品の風味、組織、栄養価の改善または保存性付与等に重要な役割を果たしている。近年、乳酸菌の生理的効果として、生きた乳酸菌の接種による腸内菌叢の改善効果または整腸作用等が明らかとなり、医薬品として乳酸菌製剤も開発されている。
【0006】
特許文献1には、特定の乳酸菌(Lactobacillus gasseri)を含有するピロリ菌の除菌性/感染防御性飲食品が開示されている。特許文献2には、特定の乳酸菌(Lactobacillus salivariusまたはLactobacillus brevis)を有効成分とする、胃または十二指腸からピロリ菌を除菌しうる薬剤および醗酵食品が開示されている。

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2001-143号公報(公開日:平成13年1月9日)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開平9-241173号公報(公開日:平成9年9月16日)」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2006-42796号公報(公開日:平成18年2月16日)」
【発明の開示】
【0007】
特許文献1に記載の乳酸菌を活用した機能性食品(特に、醗酵食品)は非常に注目を集めている。しかし、特許文献1に記載の乳酸菌を含有する食品が目的の機能を発揮するには、この乳酸菌の生菌が胃内へ供給されかつ生育し続けることが必要である。なぜなら、この乳酸菌によるピロリ菌生育阻害の機序は、乳酸菌の生成する乳酸によるものだからである。特許文献1に記載の乳酸菌が低pH条件下での生育が良好であるとはいえ、胃内へ生菌の状態で必要量供給することは容易ではない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、乳酸菌の生菌を胃内へ供給することなくHelicobacter pyloriの生育を阻害するための新たな技術を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、新たな植物乳酸菌を取得し、これらの乳酸菌を用いて新しい風味および機能を備えた醗酵飲料を製造している(特許文献3参照)。本発明者らは、植物乳酸菌の研究を進める中で、特定の植物乳酸菌の培養上清が抗ピロリ活性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤は、植物乳酸菌の培養上清または該培養上清からの抽出物を含有しており、該植物乳酸菌の16S rRNAは、(a)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;(b)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列に1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド;または(c)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド、であることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る生育阻害剤において、上記植物乳酸菌は、ラクトバシラス プランタルムSN35M株(受託番号:NITE BP-5)、ラクトバシラス プランタルムSN35N株(受託番号:NITE BP-6)、ラクトバシラス プランタルムSN13T株(受託番号:NITE BP-7)、およびラクトバシラス プランタルムSN26T株(受託番号:NITE BP-8)からなる群より選択されることが好ましい。
【0011】
本発明に係る生育阻害剤において、上記培養上清は、果汁または野菜汁を培地として用いた培養によって得られることが好ましい。
【0012】
本発明に係る生育阻害剤において、上記抽出物は抽出溶剤としてエステル類を用いて得られることが好ましく、抽出溶剤が酢酸エチルであることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る生育阻害剤において、上記抽出物はカテコールまたはチロソール(チロゾールともいう。)であってもよい。
【0014】
本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤は、カテコールまたはチロソールを含有していることを特徴としている。
【0015】
本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤は、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁をさらに含有していてもよい。
【0016】
本発明に係る機能性食品は、上記の生育阻害剤を含んでいることを特徴としている。
【0017】
本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤を製造する方法は、植物乳酸菌の培養上清を得る工程を包含し、該植物乳酸菌の16S rRNAは、(a)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;(b)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列に1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド;または(c)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド、であることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る製造方法は、上記培養上清のエステル抽出物を得る工程をさらに包含してもよく、抽出溶剤が酢酸エチルであることがより好ましい。
【0019】
本発明にかかる製造方法は、果汁または野菜汁を培地として用いることが好ましい。
【0020】
本発明にかかる製造方法において、上記培地に酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含んでもよい。また、本発明にかかる製造方法は、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁を上記培養上清に添加する工程をさらに包含していてもよい。
【0021】
本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤を製造するための組成物は、ラクトバシラス プランタルムSN35M株(受託番号:NITE BP-5)、ラクトバシラス プランタルムSN35N株(受託番号:NITE BP-6)、ラクトバシラス プランタルムSN13T株(受託番号:NITE BP-7)およびラクトバシラス プランタルムSN26T株(受託番号:NITE BP-8)からなる群より選択される乳酸菌の生菌を生存可能に含有していることを特徴としている。
【0022】
本発明に係る組成物は、上記生菌によって醗酵する醗酵原料をさらに含有していてもよい。
【0023】
本発明に係る組成物において、上記醗酵原料は乳、果汁または野菜汁であることが好ましい。
【0024】
本発明に係る組成物は、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含有していてもよい。また、本発明に係る組成物は、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁をさらに含有していてもよい。
【0025】
本発明に係るカテコールの製造方法は、植物乳酸菌の培養上清を得る工程を包含し、該植物乳酸菌の16S rRNAは、(a)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;(b)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列に1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド;または(c)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド、であることを特徴としている。
【0026】
本発明に係る製造方法は、上記培養上清のエステル抽出物を得る工程をさらに包含してもよく、抽出溶剤が酢酸エチルであることがより好ましい。また、本発明にかかる製造方法は、果汁または野菜汁を培地として用いることが好ましく、上記培地に酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含んでもよい。
【0027】
本発明に係るチロソールの製造方法は、植物乳酸菌の培養上清を得る工程を包含し、該植物乳酸菌の16S rRNAは、(a)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;(b)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列に1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド;または(c)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド、であることを特徴としている。
【0028】
本発明に係る製造方法は、上記培養上清のエステル抽出物を得る工程をさらに包含してもよく、抽出溶剤が酢酸エチルであることがより好ましい。また、本発明にかかる製造方法は、果汁または野菜汁を培地として用いることが好ましく、上記培地に酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含んでもよい。
【0029】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明によって明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】抗ピロリ活性として、ウレアーゼ活性の低下を指標に測定した結果を示す図である。
【図2】寒天拡散法を用いて乳酸菌培養上清における抗ピロリ活性を確認した結果を示す図である。
【図3】寒天拡散法を用いて乳酸菌培養上清からの有機抽出相における抗ピロリ活性を確認した結果を示す図である。
【図4】GC-MSにおけるカテコールのピークを示す図である。
【図5】カテコール精製標品による抗ピロリ活性を示す図である。
【図6】チロソール精製標品による抗ピロリ活性を示す図である。
【図7】各種果汁からの抽出物の、GC-MSにおけるピークを示す図である。
【図8】各種醗酵液からの抽出物の、GC-MSにおけるピークを示す図である。
【図9】寒天拡散法を用いて乳酸菌培養上清における抗ピロリ活性を確認した結果を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
〔1〕植物乳酸菌
本発明は、特定の植物乳酸菌の培養上清中に抗ピロリ活性が存在することを見出したことに基づいて完成された。「抗ピロリ活性」は、ピロリ菌(Helicobacter pylori)の生育を阻害する活性が意図され、具体的にはピロリ菌を殺傷する活性、ピロリ菌の増殖を抑制/阻害する活性が意図される。
【0032】
植物乳酸菌は、植物由来の乳酸菌をいい、例えば穀物、野菜、果物、あるいはこれらを原材料に含む醗酵食品やナム等の醗酵食品の製造に関係するバナナ等の熱帯植物の葉等から分離されたものが意図される。本発明者らはこれまでに、植物乳酸菌として、ラクトバシラス プランタルムSN13T株、ラクトバシラス プランタルムSN26T株、ラクトバシラス プランタルムSN35N株、ラクトバシラス プランタルムSN35M株、ラクトコッカス ラクティス サブスペシース ラクティス SN26N株、エンテロコッカス スペシースSN21I株、およびエンテロコッカス ムンヅティSN29N株などを分離している。また、他にも多くの植物乳酸菌が知られている。しかし、このような多種多様な植物乳酸菌の中で、その培養上清に抗ピロリ活性が存在するという優れた効果を有している乳酸菌が存在することは、全く知られていなかった。
【0033】
ラクトバシラス プランタルムSN35M株は、本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)へ、受託番号NITE BP-5(受託日:2004年7月6日、移管日:2009年2月16日)として寄託されており、以下の菌学的性質を有する:メロンからの分離株、グラム陽性乳酸桿菌、ホモ型醗酵、カタラーゼ陰性、芽胞形成能なし、好気条件下でも培養可、分類学上の位置はLactobacillus plantarum。
【0034】
ラクトバシラス プランタルムSN35N株は、本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)へ、受託番号NITE BP-6(受託日:2004年7月6日、移管日:2009年2月16日)として寄託されており、以下の菌学的性質を有する:ナシからの分離株、グラム陽性乳酸桿菌、ホモ型醗酵、カタラーゼ陰性、芽胞形成能なし、好気条件下でも培養可、分類学上の位置は Lactobacillus plantarum。
【0035】
ラクトバシラス プランタルムSN13T株は、本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)へ、受託番号NITE BP-7(受託日:2004年7月6日、移管日:2009年1月28日)として寄託されており、以下の菌学的性質を有する:タイ国産のナムというソーセージからの分離株、グラム陽性乳酸桿菌、ホモ型醗酵、カタラーゼ陰性、芽胞形成能なし、好気条件下でも培養可、分類学上の位置はLactobacillus plantarum。
【0036】
ラクトバシラス プランタルムSN26T株は、本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)へ、受託番号NITE BP-8(受託日:2004年7月6日、移管日:2009年2月16日)として寄託されており、以下の菌学的性質を有する:タイ国産のナムというソーセージからの分離株、グラム陽性乳酸桿菌、ホモ型醗酵、カタラーゼ陰性、芽胞形成能なし、好気条件下でも培養可、分類学上の位置は Lactobacillus plantarum。
【0037】
近年では、16SリボソームRNA(16S rRNA)の塩基配列に基づく系統分類により得られるグループ(クラスター)を指標として、細菌の分類および識別を行うことが一般的になっている。一実施形態において、本発明に用いられる植物乳酸菌の16S rRNAは、配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチドである。なお、配列番号1~4に示される塩基配列は、それぞれラクトバシラス プランタルムSN35M株、ラクトバシラス プランタルムSN35N株、ラクトバシラス プランタルムSN13T株、およびラクトバシラス プランタルムSN26T株の16S rRNAの塩基配列である。本発明において、上述した植物乳酸菌が単独で用いられてもよいが、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0038】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびT(またはU)と省略される)の配列として示される。
【0039】
なお、配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチドの変異体を16S rRNAとして有している植物乳酸菌の中で、その培養上清中に抗ピロリ活性を示すものもまた、本発明に用いられるべき植物乳酸菌である。本明細書中でポリヌクレオチドの観点で使用される場合、「変異体」は任意の変異体が意図されるのではなく、配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列と若干異なっていても、配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列とほぼ同一であるまたは非常に近似していると当業者が容易に認定し得る範囲内のポリヌクレオチドが意図され、天然のものであっても人為的に改変されたものであってもよい。また、当業者は、このようなポリヌクレオチド変異体を16S rRNAとして有している植物乳酸菌の培養上清が所望の抗ピロリ活性を有しているか否かを、本明細書中の記載に従って容易に確認し得る。このようなポリヌクレオチド変異体としては、(1)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列に1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド、(2)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドが挙げられる。
【0040】
ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版,J.SambrookおよびD.W.Russll編,Cold Spring Harbor Laboratory,NY(2001)」(本明細書中に参考として援用される。)に記載されている方法のような周知の方法に従って行うことができる。本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。
【0041】
このように、本発明に用いられる植物乳酸菌は、その16S rRNAが、(a)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;(b)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列に1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むポリヌクレオチド;または(c)配列番号1~4のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド、である乳酸菌であるといえる。このような植物乳酸菌が用いられることによって、抗ピロリ活性を示す画分を容易に取得することができる。
【0042】
〔2〕Helicobacter pyloriの生育阻害剤を製造するための組成物
本発明は、ラクトバシラス プランタルムSN35M株、SN35N株、SN13T株およびSN26T株からなる群より選択される植物乳酸菌の生菌を生存可能に含有している組成物を提供する。本発明に係る組成物を用いれば、Helicobacter pyloriの生育阻害剤を製造することができる。
【0043】
本発明に係る組成物は、上記植物乳酸菌によって醗酵する醗酵原料をさらに含有していてもよい。また、本発明に係る組成物は、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含有していてもよい。
【0044】
本明細書中で使用される場合、用語「組成物」はその含有成分を単一組成物中に含有する態様と、単一キット中に別個に備えている態様であってもよい。すなわち、本発明に係る組成物は培地をさらに含んでいてもよいが、上記植物乳酸菌の生菌を生存可能に含有している組成物と醗酵原料とを別々に備えているキットの形態であってもよい。また、本発明に係る組成物は、麹菌による米醗酵物または酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含んでいてもよいが、本発明に係る組成物と酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物とを別々に備えているキットの形態であってもよい。
【0045】
本発明に用いられる醗酵原料は、乳、果汁および野菜汁からなる群より選択されることが好ましい。乳としては、動物乳(例えば、牛乳、ヤギ乳、めん羊乳等)が挙げられ、特に牛乳が好ましい。乳は、未殺菌乳および殺菌乳の何れであってもよく、また、これらの乳から調製した濃縮乳もしくは練乳、これらの脱脂乳、部分脱脂乳またはこれらを乾燥して粉末にした粉乳等であってもよい。果汁としては、例えば、モモ、ナシ、リンゴ、イチゴ、ザクロ、ブドウ、マンゴー、ミカン、オレンジ、パイナップル等の汁液が挙げられるがこれらに限定されず、果物のピューレであってもよい。また、野菜汁としては、例えば、ニンジン、トマト、キャベツ等の汁液が挙げられるがこれらに限定されず、野菜のピューレであってもよい。果汁および野菜汁は、果物または野菜をミキサー等で摩砕し、必要に応じて更に搾汁することにより得られる。このような果汁および野菜汁は、適宜濃縮されてもよく、濃縮液は、そのままであっても、蒸留水等で適当な濃度に希釈して用いられてもよい。上述した乳、果汁および野菜汁は、それぞれが単独で用いられても、目的に応じて組み合わせて用いられてもよい。なお、果物または野菜のピューレは、超高圧下(例えば、100MPa)にて酵素処理を行うことによって得られ、食物繊維を豊富に含んでいる。この酵素処理に用いられる酵素は、果物または野菜の種類に応じて適宜選択され得る。
【0046】
本明細書中において、用語「生菌を生存可能に含有している」は、目的の菌株が死滅することなく組成物中に維持されている態様であれば特に限定されない。すなわち、上記組成物中では、目的の生菌が増殖していても休眠していてもよい。一実施形態において、本発明に係る組成物は、ラクトバシラス プランタルムSN13T株によって醗酵する醗酵原料をさらに含有していることが好ましく、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含有していることが好ましい。このような形態であれば、ラクトバシラス プランタルムSN13T株の生菌の酵素活性を高く保つことができるので、この生菌を組成物中で生存可能に含有し得る。他の実施形態において、本発明に係る組成物は、ラクトバシラス プランタルムSN13T株の生菌を、適切な賦形剤とともに含んでいる。乳酸菌の生存に影響を与えない賦形剤は当該分野において周知であり、例えば、デンプン、乾燥酵母、乳糖、白糖などが挙げられ、また、組成物を錠剤に加工するためのもの(例えば、コーンペプチド、麦芽糖など)であってもよい。このように、本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤を製造するための組成物は、いわゆる「醗酵種」として用いられるべきものであることが意図される。
【0047】
〔3〕Helicobacter pyloriの生育阻害剤およびその製造方法
本発明は、Helicobacter pyloriの生育阻害剤を提供する。本発明に係る生育阻害剤には、上述した植物乳酸菌の培養上清またはその培養上清の抽出物を含んでいることを特徴としている。
【0048】
本発明に係る生育阻害剤は、上記植物乳酸菌の培養上清を得る工程を包含する製造方法を用いて製造される。得られた培養上清は、そのまま用いられてもその抽出物が用いられてもよい。すなわち、本発明に係る生育阻害剤の製造方法は、培養上清のエステル抽出物を得る工程をさらに包含してもよい。また、本発明に係る生育阻害剤の製造方法は、培養培地に酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含んでもよい。なお、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物については、本明細書中において参考として援用される特許文献3にその詳細が記載されており、当業者は容易に理解し得る。
【0049】
本発明に用いられる培養培地としては、果汁または野菜汁が挙げられる。果汁としては、例えば、モモ、ナシ、リンゴ、イチゴ、ザクロ、ブドウ、マンゴー、ミカン、オレンジ、パイナップル等の汁液が挙げられるがこれらに限定されず、果物のピューレであってもよい。また、野菜汁としては、例えば、ニンジン、トマト、キャベツ等の汁液が挙げられるがこれらに限定されず、野菜のピューレであってもよい。果汁および野菜汁は、果物または野菜をミキサー等で摩砕し、必要に応じて更に搾汁することにより得られる。このような果汁および野菜汁は、適宜濃縮されてもよく、濃縮液は、そのままであっても、蒸留水等で適当な濃度に希釈して用いられてもよい。上述した果汁および野菜汁は、それぞれが単独で用いられても、目的に応じて組み合わせて用いられてもよい。なお、果物または野菜のピューレは、超高圧下(例えば、100MPa)にて酵素処理を行うことによって得られ、食物繊維を豊富に含んでいる。この酵素処理に用いられる酵素は、果物または野菜の種類に応じて適宜選択され得る。このような培地を用いることにより、抗ピロリ活性を含んだ培養上清を得ることができる。なお、培養上清中の抗ピロリ活性は、酢酸エチル等のエステル類によって抽出されるものであっても、水溶性のものであってもよく、エステル類によって抽出されるものの活性本体としては、カテコールおよびチロソールが挙げられる。抽出物は、そのまま利用されてもよく、希釈、濃縮または凍結乾燥した後に、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いられてもよい。また、抗ピロリ活性以外の夾雑物を除去したものや、必要に応じて、公知の方法で脱臭、脱色等の処理を施したものも、上記抽出物の範囲内であることが意図される。
【0050】
なお、本発明に係る生育阻害剤の製造方法における培養工程は、醗酵原料を植物乳酸菌の生菌で醗酵させる醗酵工程であり得る。醗酵工程は、酸度が0.6~1.5%の範囲内になるまで醗酵原料を醗酵させることが好ましい。醗酵は、当該分野において公知の手法を用いて行われればよい。果汁または野菜汁を醗酵原料として用いる場合、果汁または野菜汁、あるいはこれらに他の原料を添加した溶液を65~130℃で1秒間~30分間加熱殺菌し、次いで30~45℃まで冷却し、続いて、この溶液に植物乳酸菌を0.1~6重量%接種した後、30~45℃の温度で12~72時間醗酵させ、醗酵終了後に冷却したものを醗酵物(醗酵果汁または醗酵野菜汁)として用いればよい。これら醗酵果汁または醗酵野菜汁は、そのまま飲料としてもよく、さらには希釈または殺菌を行い醗酵果汁飲料または醗酵野菜汁飲料とすることができる。
【0051】
なお、醗酵物を得る際には、醗酵原料以外に、ゼラチン、寒天、糖類、香料、果肉などのような醗酵飲料の製造に通常使用されている原料を添加することもできる。例えば、蔗糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元水飴等の糖アルコール類、アスパルテーム、アセスルファムカリウム等の高甘味度甘味料、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム等の増粘剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料、レモン果汁、オレンジ果汁等の果汁類の他、ビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類、更には甘草、桂枝、生姜のような生薬、あるいは香草、グルタミン酸ナトリウム、クチナシ色素、シリコーン、リン酸塩等の食品添加物等を添加することが可能である。
【0052】
本発明に係る生育阻害剤は、ピロリ菌の生育を阻害するための試薬であっても、医薬組成物または食用組成物を製造する際の添加剤であってもよく、医薬組成物または食用組成物として用いられてもよい。本発明に係る生育阻害剤は、ピロリ菌の生育を阻害し得る機能性食品を製造するに特に有用である。
【0053】
本発明を用いて製造される医薬組成物は、製薬分野における公知の方法により製造することができる。本発明に係る医薬組成物における抗ピロリ活性の含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、この医薬組成物を適切な量にて投与できるような量であれば特に限定されない。本発明に係る医薬組成物は経口投与されることが好ましく、経口投与に好ましい錠剤、カプセルなどの形態として調製され得る。経口投与される態様(すなわち経口剤)の場合、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などが医薬用担体として利用される。また経口剤を調製する際、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合してもよい。安定化剤、抗酸化剤などのような補助物質もまた、本発明に係る医薬組成物中に存在し得る。本発明に係る医薬組成物はそのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることもできる。投与および摂取は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行ってもよい。
【0054】
本発明を用いて製造される食用組成物は、ピロリ菌の生育を阻害するための食用組成物(すなわち、食品、飲料など)であり、健康食品(機能性食品)として極めて有用である。本発明に係る食用組成物の製造法は特に限定されず、調理、加工および一般に用いられている食品または飲料の製造法による製造を挙げることができ、本発明によって得られた抗ピロリ活性が、その食品または飲料中に含有されていればよい。本発明に係る食用組成物としては、例えば、乳製品(例えば、ヨーグルト)、健康食品(例えば、カプセル、タブレット、粉末)、飲料(例えば、乳飲料、野菜飲料など)、ドリンク剤などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0055】
〔4〕カテコールの製造方法
本発明は、カテコールの製造方法を提供する。本発明に係るカテコールの製造方法は、上記植物乳酸菌の培養上清を得る工程を包含し、好ましくは、培養上清のエステル抽出物またはクロロホルム抽出物を得る工程をさらに包含し得る。また、本発明に係るカテコールの製造方法は、培養培地に酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含んでもよい。このように、本発明に係るカテコールの製造方法は、上述したHelicobacter pyloriの生育阻害剤の製造方法であり得ることを、当業者は容易に理解し得る。
【0056】
〔5〕チロソールの製造方法
本発明は、チロソールの製造方法を提供する。本発明に係るチロソールの製造方法は、上記植物乳酸菌の培養上清を得る工程を包含し、好ましくは、培養上清のエステル抽出物またはクロロホルム抽出物を得る工程をさらに包含し得る。また、本発明に係るチロソールの製造方法は、培養培地に酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含んでもよい。このように、本発明に係るチロソールの製造方法は、上述したHelicobacter pyloriの生育阻害剤の製造方法であり得ることを、当業者は容易に理解し得る。
【0057】
〔6〕果汁の利用
後述する実施例において示すように、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁は、植物乳酸菌による醗酵を経ることなく、Helicobacter pyloriの生育を阻害し得る。すなわち、本発明は、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁の新規用途を提供する。
【0058】
1つの局面において、本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤は、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁をさらに含有していることを特徴としている。また、本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤を製造する方法は、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁を得る工程をさらに包含することを特徴としている。さらに、本発明に係るHelicobacter pyloriの生育阻害剤を製造するための組成物は、ブルーベリー果汁またはザクロ果汁をさらに含有していることを特徴としている。生育阻害剤、生育阻害剤の製造方法、および生育阻害剤を製造するための組成物については、植物乳酸菌による醗酵の観点を除いて上記を参照すればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【実施例】
【0059】
〔1.乳酸菌の調製および培養〕
乳酸菌として、Lb.plantarum SN13T株(受託番号:NITE BP-7;以下「SN13T株」とも称する。)およびLb.plantarum SN35N株(受託番号:NITE BP-6;以下「SN35N株」とも称する。)を、実験に用いた。SN13T株は、タイのナムという醗酵ソーセージ(豚肉のミンチを熱帯植物の葉、例えば、バナナの葉で包み、醗酵させたもの)から分離され、特徴としては、多糖類を産生しない。SN35N株は、果物(ナシ)から分離され、SN13T株と比較して増殖力が強く、多糖類を多量に産生する。さらに、Lb.plantarum SN35N株が多糖類を産生することから、SN35N株に適当な濃度の抗生物質を添加することによってSN35N株を変異処理して、多糖類非生産性変異株として菌体外多糖類生合成遺伝子(exogenous polysaccharide-encoding gene)を欠損させた変異株(eps欠損変異株)を作製して実験に供した。
【0060】
なお、eps欠損変異株は以下の手順に従って作製した。5mLのMRS培地(Merck社製)にて37℃で24時間振盪培養したL.plantarum SN35Nの培養液5μLを、最終濃度0.2、0.4、0.6mg/mLになるように調製した。培養した菌を、novoviocinを添加したMRS培地に移し、37℃で24時間培養した。これをMRS寒天培地に塗布し、37℃で72時間培養した。その結果、0.6mg/mLのnovoviocin添加培地にて培養した菌を塗布したプレートから、粘性を欠いたコロニーを得た。このコロニーをMRS培地にて24時間培養したものをテンプレートにPCRでepsを増幅したところ、増幅断片は確認されなかった。また、16s rRNAについてシークエンスを行った結果、このコロニーがSN35Nのものであることを確認した。よって、このコロニーを形成する菌をeps変異株として実験に用いた。
【0061】
乳酸菌の培養には、MRS培地、SDM培地、ならびにモモまたはナシの果汁にクエン酸ナトリウム1.2%、酒粕(スプレードライ)1.2%を添加して作製したモモ果汁培地およびナシ果汁培地を用いた。
【0062】
MRS培地およびSDM培地の組成を以下に示す。
【0063】
【表1】
JP0005505298B2_000002t.gif

【0064】
【表2】
JP0005505298B2_000003t.gif

【0065】
MRS培地については、上記組成を蒸留水に溶解した後、オートクレーブ(118℃、15分間)して用いた。また、寒天培地として使用する際はagarを最終濃度1.5重量%となるように加えた。SDM培地については、上記組成を蒸留水に溶解し、pH6.5に調整した後に、オートクレーブ(118℃、15分間)して用いた。
【0066】
SN13T株、SN35N株、およびSN35N株のeps欠損変異株を、それぞれMRS培地で37℃にて24時間培養した後、MRS培地、SDM培地、モモ果汁培地、またはナシ果汁培地に植菌した(菌濃度1%)。これらを37℃にて24時間培養した後、菌濃度が2%になるように各培地に接種し、さらに37℃で24時間培養した。得られた培養液を30,000×gで20分間遠心分離し、回収した培養上清をフィルター滅菌した。この滅菌上清を凍結乾燥した後、NaOHでpH7以上に調整し、元の培養液の10倍濃縮物を得た。
【0067】
〔2.ウレアーゼ試験による抗ピロリ活性の測定〕
ピロリ菌(約1×10個)の懸濁液と乳酸菌培養上清とを、容積比8:2または6:4で混合し、37℃、微好気条件下にて穏やかに振盪培養した。ピロリ菌懸濁液と乳酸菌培養上清との混合時、混合3時間後、6時間後、24時間後に混合液中のウレアーゼ活性を測定した。ウレアーゼ活性の測定には、尿素とフェノールレッドなどで構成されるウレア培地を用いた。これは、混合培養液中のピロリ菌がウレアーゼを産生していれば、ウレア培地中の尿素がアンモニアに分解され、産生されたアンモニアによってpHが上昇すると、指示薬であるフェノールレッドがピンク色になることを利用している。なお、ピロリ菌の活性が低下すると、ウレアーゼ活性が低下し、尿素からアンモニアが産生されず、吸光度は低下する。このようなウレアーゼ活性の低下を指標に抗ピロリ活性を測定した。
【0068】
結果を図1に示す。図中の縦軸は550nmでの吸光度(すなわち、ウレアーゼ活性)を示す。(a)に示すように、容積比6:4の混合液中にて培養した場合、モモ果汁培地またはナシ果汁培地にて培養した乳酸菌の培養上清において、MRS培地またはSDM培地にて培養した場合と比較して、ウレアーゼ活性の低下が観察された。容積比8:2の混合液中にて培養した場合も、(b)に示すように、モモ果汁培地にて培養した乳酸菌のウレアーゼ活性の低下が見られたが、特に、SN13T株の培養上清では、ウレアーゼ活性の抑制が、SN35N株の培養上清と比較して強くかつ早い段階で認められた。また、モモ果汁培地とナシ果汁培地で比較すると、モモ果汁培地で培養したもののほうがナシ果汁培地で培養したものよりも強くウレアーゼ活性を低下させていた。このように、モモ果汁培地を用いて培養した培養上清中には抗ピロリ活性物質がより多く産生されていることが示唆される。
【0069】
観察された抗ピロリ活性が乳酸に起因するものではないことを確認するために、500mMまたは1Mの乳酸溶液(NaOHにてpHを7以上に調整)を用いてウレアーゼ試験を行った。(c)に示すように、pH7以上の乳酸溶液ではウレアーゼ活性が低下しなかった。したがって、SN13T株およびSN35N株の培養上清に含まれる抗ピロリ活性は、乳酸に起因するものではないといえる。
【0070】
〔3.寒天拡散法による抗ピロリ活性の測定〕
寒天拡散法によって抗ピロリ活性を確認した。ピロリ菌(約1×10個)の懸濁液を塗布した寒天培地上に、乳酸菌培養上清20μLを浸透させたペーパーディスクを配置し、37℃で72時間培養した後に、形成された阻止円を観察した(図2)。乳酸溶液を用いた寒天拡散法による抗菌活性のアッセイの結果を(a)に示す。右が500mM、1.0M、1.5Mの乳酸溶液である。左は、所定濃度の乳酸溶液のpHを7以上にしたものである。乳酸溶液では乳酸の濃度の上昇とともに、阻止円直径が大きくなっており、ピロリ菌の発育を阻害していることが明らかである。しかし、乳酸溶液のpHを7以上にすると、全く阻止円が観察されなかった。このように、乳酸には、その酸としての性質以外にはピロリ菌の発育を阻害する要因はないことが確認された。
【0071】
モモ果汁培地またはナシ果汁培地を浸透させたペーパーディスクを用いて、上記と同様に行ったアッセイの結果を(b)に示す。なお、これらの培地は、上述したウレアーゼ試験で著しい抗ピロリ活性を示したものである。モモ果汁培地で培養したSN13T株の培養上清では、鮮明な阻止円が観察され、ウレアーゼ試験と一致する結果が得られた。このように、モモ果汁培地またはナシ果汁培地で培養したSN13T株またはSN35N株の培養上清は、pHが7以上であっても抗ピロリ活性を示す。これにより、観察された抗ピロリ活性が乳酸以外の物質に起因するといえる。
【0072】
また、ナシのピューレを培地に用いた場合の抗ピロリ活性は、ナシ果汁培地を用いた場合の抗ピロリ活性よりも高かった(データは示さず)。これは、ピューレが食物繊維を豊富に含んでおり、乳酸菌の増殖性がよいことに起因していると考えられる。
【0073】
〔4.抗ピロリ活性物質〕
上述したように、モモ果汁培地を用いてSN13T株を培養した際に得られる培養上清が最も強い抗ピロリ活性を示した。この培養上清を、各種有機溶媒を用いて分画した後に、寒天拡散法によるバイオアッセイに供した。培養上清50mLをヘキサン(200mL)で2回抽出して有機相1を回収した。次いで、ヘキサン抽出後の水相をクロロホルム(200mL)で2回抽出して有機相2を回収した。続いて、クロロホルム抽出後の水相を酢酸エチル(200mL)で2回抽出して有機相3を回収した。有機相1~3を上述したようにペーパーディスクに浸透させて、寒天拡散法によって抗ピロリ活性を調べた。図3に示すように、有機相3(酢酸エチル相)に大きな阻止円が観察され、抗ピロリ活性物質は主に酢酸エチル相に存在することが分かった。
【0074】
〔5.抗ピロリ活性物質の同定〕
モモ果汁を用いてSN13T株を培養した際に得られる培養上清(以下、醗酵液と称する。)における抗ピロリ活性の活性物質の同定を試みた。
【0075】
pHを7に調整したモモ醗酵液1Lを、ヘキサン500mLで抽出した(合計4回)。得られた有機相(ヘキサン画分)からエバポレーターを用いてヘキサンを除去し、画分に溶解している物質を濃縮した。また、エキサン抽出後の水相をクロロホルムで同様に抽出した。得られた有機相(クロロホルム画分)からエバポレーターを用いてクロロホルムを除去し、画分に溶解している物質を濃縮した。さらに、クロロホルム抽出後の水相を酢酸エチルで同様に抽出した。得られた有機相(酢酸エチル画分)からエバポレーターを用いて酢酸エチルを除去し、画分に溶解している物質を濃縮した。残った水相を凍結乾燥し、画分に溶解している物質を濃縮した。
【0076】
ヘキサン画分、クロロホルム画分、酢酸エチル画分、水画分のいずれに抗ピロリ活性物質が存在するか否か確認するために、各画分の濃縮物1mgを1mLの水に溶解し、各30μlをペーパーディスクに浸透させ、6×10CFU/mLのピロリ菌を塗布したアガープレートにディスクを配置し、微好気条件にて37℃で72時間培養した。その結果、クロロホルム画分および酢酸エチル画分に阻止円が観察された。これらの画分を合わせて、抗ピロリ活性物質の精製に用いた。
【0077】
合わせた画分をサンプルとしてTLC(Thin-layer chromatgraphy)を行った。その結果、唯一のスポットを確認し得た。シリカゲルを充填したカラムにサンプルをアプライし、クロロホルムで溶出した。TLCでスポットを確認しながら画分を回収し、最終的に3つの画分に分画した。クロロホルムと酢酸エチルを2:1の割合で混合した溶媒を展開層として上記3つの画分をTLCで確認した。各画分のRf値は、画分1で0.78、画分2で0.81および0.34、画分3で0.81および0.44であった。濃度を20mg/mLに調整した各画分(30μl)をペーパーディスクに浸透させ、6×10CFU/mLのピロリ菌を塗布したアガープレートにディスクを配置し、微好気条件にて37℃で72時間培養した。その結果、画分1および画分3に阻止円が観察された。そこで、画分3からRf値0.81の物質を、上述したシリカゲルのカラムで分離/精製し、画分1と混合してヘキサンに溶解して再結晶化を行った。約30mgの結晶が得られた。この結晶の20mg/mL水溶液(30μl)をペーパーディスクに浸透させ、6×10CFU/mLのピロリ菌を塗布したアガープレートにディスクを配置し、微好気条件にて37℃で72時間培養した。その結果、阻止円が観察された。質量分析法、NMR、融点測定によって構造解析を行った結果、上記結晶がカテコールであることを決定した(図4)。図に示すように、カテコールは保持時間5.3付近にピークがあり、そのピークの分子量は110である。
【0078】
カテコール標品を用いて、種々の濃度(30,10,1.0,0.5mg/mL)の溶液を調製した。寒天培地にて予め培養したピロリ菌をbrucella培地に懸濁し(1×10CFU/mL)、これを新たな寒天培地に塗菌した。カテコール標準液30μLを染み込ませた濾紙を、ピロリ菌を塗菌した上記培地上に配置し、微好気性条件下にて37℃で72時間培養した後の阻止円を観察した。結果を図5に示す。図に示すように、カテコール自体が抗ピロリ活性を有していることを確認した。なお、図中の阻止円は、それぞれ30mg/mL(上)、10mg/mL(下)、1.0mg/mL(右)、0.5mg/mL(左)の濃度に対応する。
【0079】
また、ナシ果汁を用いてSN13T株を培養した際に得られる醗酵液における抗ピロリ活性の活性物質の同定を試みた。
【0080】
SN13T株をナシ果汁培地(5mL)に植菌し、37℃にて24時間培養した。同様の培地へさらに植菌し、菌濃度1%にて培養した。これを、50mLの同様の培地に対して1%(v/v)で植菌し、同様の条件下でさらに培養した。
【0081】
上記の手順に従って得たSN13T株をナシ果汁醗酵液(1L)から遠心分離によって菌体を除去し、NaOHを用いて上清のpHを7に調整した。この溶液に対して酢酸エチル(500mL)による抽出を5回行い、酢酸エチル層に含まれる物質をTLCによって確認した。ガラス上のシリカゲルプレートにて展開溶媒(クロロホルム:酢酸エチル=7:3)を用いて展開するTLCによって目的の物質を分離した。目的のスポットをUV検出によって特定し、その部分を削りとって回収した。これを酢酸エチルによって再度抽出することによって目的の物質を得た。この物質を、H-,13C-NMRによって測定し、得られたチャートに基づいてチロソールであることを決定した。
【0082】
チロソール標品を用いて、種々の濃度(69,34,13.8mg/mL)の溶液を調製した。寒天培地にて予め培養したピロリ菌をbrucella培地に懸濁し(1×10CFU/mL)、これを新たな寒天培地に塗菌した。チロソール標準液30μLを染み込ませた濾紙を、ピロリ菌を塗菌した上記培地上に配置し、微好気性条件下にて37℃で72時間培養した後の阻止円を観察した。結果を図6に示す。図に示すように、チロソール自体が抗ピロリ活性を有していることを確認した。なお、図中の阻止円は、それぞれ69mg/mL(上)、34mg/mL(右下)、13.8mg/mL(左下)の濃度に対応する。
【0083】
〔6.種々の果汁または醗酵液による抗ピロリ活性〕
フェノール類の一種であるカテコールは、ポリフェノール、カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン)などの生体物質の骨格に含まれる構造として知られている。また、カテコールは、コーヒーや香辛料、オリーブオイル等に多く含まれていることも知られている。さらに、抗酸化作用を有し、染料の原料や止血剤として用いられる。
【0084】
ナシ果汁、ナシ醗酵液、マンゴー果汁、マンゴー醗酵液、ブルーベリー果汁にカテコールが含まれるか否か確認した。上述した各果汁または各醗酵液上清(300mL)のpHを7に調整した。pH調整後の溶液を、酢酸エチル200mLで抽出した(合計5回)。得られた有機相(酢酸エチル画分)からエバポレーターを用いて酢酸エチルを除去し、画分に溶解している物質を濃縮した。濃縮した物質を少量の酢酸エチルに溶解し、この溶液に適量のシリカゲルを混合し、酢酸エチル画分の物質をシリカゲルに吸着させた。エバポレーターを用いて酢酸エチルを除去し、さらにポンプで約1時間吸引して溶媒を完全に除いた。上記物質を吸着させたシリカゲルをカラムに充填し、クロロホルムで十分に溶出した。溶出物を粗精製品としてGC-MS解析に供した。
【0085】
その結果、図7に示すように、ナシ果汁(図中(a))およびマンゴー果汁(図中(b))にはカテコールが含まれていなかったが、ブルーベリー果汁(図中(c))に含まれていることがわかった。また、図8に示すように、ナシ醗酵液(図中(a))およびマンゴー醗酵液(図中(b))のいずれにもカテコールが含まれていた。図8の(c)は、ポジティブコントロールとして用いたモモ醗酵液におけるカテコールの存在を示している。
【0086】
マンゴー果汁、マンゴー醗酵液、ザクロ果汁、ザクロ醗酵液における抗ピロリ活性の有無を、阻止円によって観察した(図9)。その結果、カテコールが含まれていなかったマンゴー果汁において阻止円が観察され、マンゴー果汁自体に抗ピロリ活性が存在することがわかった。また、ザクロ果汁自体にも、マンゴー果汁における活性よりもさらに強い抗ピロリ活性が存在することがわかった。さらに、マンゴー醗酵液およびザクロ醗酵液においてもまた、強い抗ピロリ活性が存在することがわかった。また、ブドウ(巨峰)果汁およびブルーベリー果汁にも抗ピロリ活性が存在することが確認された。なお、ザクロ醗酵液による阻止円が、ザクロ果汁による阻止円から大きくなっていないのは、果汁のpHが低いために乳酸菌が増殖し得なかったからであると考えられる。
【0087】
【表3】
JP0005505298B2_000004t.gif

【0088】
本発明を用いれば、乳酸菌の生菌を胃内へ供給することなくHelicobacter pyloriの生育を阻害することができる。よって、本発明を用いれば、抗ピロリ活性を有する機能性食品を提供することができる。
【0089】
本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0090】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内において、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、Helicobacter pyloriの生育を阻害するための新たな技術が提供される。このように、本発明は、医薬や食品などに関連する分野における産業の発達に大いに寄与する。
図面
【図1】
0
【図4】
1
【図7】
2
【図8】
3
【図2】
4
【図3】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図9】
8