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明細書 :T細胞の刺激方法およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-183664 (P2013-183664A)
公開日 平成25年9月19日(2013.9.19)
発明の名称または考案の名称 T細胞の刺激方法およびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/0783      (2010.01)
G01N  37/00        (2006.01)
A61K  39/00        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12Q 1/02
C12N 5/00 102
C12N 5/00 202L
G01N 37/00 102
A61K 39/00 H
A61K 47/42
G01N 33/53 P
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2012-050018 (P2012-050018)
出願日 平成24年3月7日(2012.3.7)
発明者または考案者 【氏名】岸 裕幸
【氏名】村口 篤
【氏名】浜名 洋
【氏名】小林 栄治
【氏名】小澤 龍彦
出願人 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
4B065
4C076
4C085
Fターム 4B024AA01
4B024AA11
4B024BA63
4B024CA02
4B024DA03
4B024EA04
4B024HA17
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS35
4B063QS39
4B063QX01
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA44
4B065CA46
4C076EE41
4C076FF70
4C085AA03
4C085DD21
4C085EE01
要約 【課題】ペプチド/MHC四量体を用いずにT細胞を刺激する。
【解決手段】抗原ペプチドを、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)を細胞表面に有するT細胞に供給して、T細胞が細胞表面に有する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と抗原ペプチドとの複合体を形成させる工程を含み、TCRに抗原ペプチドを、同じT細胞の細胞表面のMHC/ペプチド複合体として認識させることにより、T細胞を刺激する。このような刺激・活性化方法であれば、T細胞に限られず、種々の細胞に適用可能であろう。本発明によれば、抗原特異的T細胞株を樹立することなく、またMHC/ペプチド四量体のような試薬を用いることなく、抗原特異的T細胞を特定することができる。すなわち、効率よく・簡便に、がん特異的T細胞を特定することができる。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
抗原ペプチドにより、対象細胞を刺激する方法であって:
抗原ペプチドを、対象細胞の細胞表面のMHC分子に供給してMHC分子-抗原ペプチド複合体を形成させ;そして
MHC分子-抗原ペプチド複合体を、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)が認識することにより対象細胞が刺激されるが、このときTCRが対象細胞の細胞表面に存在するか、または対象細胞と同じ平面上に存在するものであり、他の抗原提示細胞(APC)による抗原ペプチドの提示の非存在下で、cisの位置関係にあるTCRとMHC分子-抗原ペプチド複合体との相互作用により、刺激される、方法。
【請求項2】
T細胞を刺激する方法であって:
抗原ペプチドを、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)を細胞表面に有するT細胞に供給して、T細胞が細胞表面に有する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と抗原ペプチドとの複合体を形成させる工程を含み、
TCRに抗原ペプチドを、同じT細胞の細胞表面のMHC分子-抗原ペプチド複合体として認識させることにより、T細胞を刺激する方法。
【請求項3】
抗原ペプチドを認識可能なTCRと、抗原ペプチドを提示しているMHC分子-抗原ペプチド複合体とを細胞表面に有し、TCRに抗原ペプチドを、その細胞表面のMHC分子-抗原ペプチド複合体として認識させることにより、刺激されている、刺激化細胞。
【請求項4】
単独の被検体細胞に、抗原ペプチドを供給し;そして
細胞が抗原を認識したときに産生される物質が被検体細胞から産生されるか否かを検出する工程を含み、
物質が検出された場合に、被検体細胞を目的細胞と特定する、細胞の特定方法。
【請求項5】
基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルが1つのT細胞のみが入る大きさであるマイクロウェルアレイを用い、被検体細胞群から抗原ペプチドに特異的なT細胞を特定するために実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
主表面の少なくとも一部に、T細胞が抗原を認識したときに産生される物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイを用い;
少なくとも一部のウェルに被検体細胞を培養液とともに格納し;
被覆層およびウェルを、抗原ペプチドを含む培養液に浸漬して、培養液に含まれる物質のウェルから前記被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養し;そして
T細胞が抗原を認識したときに産生される物質に特異的に結合可能な標識物質、または被覆層に特異的に結合する標識物質を被覆層に供給して、被覆層の物質に結合したT細胞が抗原を認識したときに産生される物質が標識物質により検出された場合に、その被検体細胞を抗原特異的T細胞と特定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
特定される抗原特異的T細胞が、ヒト由来である、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に定義された工程を含み、特定された抗原特異的T細胞をウェルから回収する工程をさらに含む、抗原特異的T細胞の製造方法。
【請求項9】
請求項8に定義された工程を含み、回収されたT細胞から抗原特異的TCR遺伝子を得る工程をさらに含む、抗原特異的TCR遺伝子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に定義された工程を含み、得られた抗原特異的TCR遺伝子を別のT細胞に導入して抗原特異的遺伝子組み換えT細胞を得る工程をさらに含む、抗原特異的遺伝子組み換えT細胞の製造方法。
【請求項11】
別のT細胞が、TCR遺伝子治療により処置可能な疾患または状態の対象由来である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
抗原ペプチドががん関連抗原であり、がん特異的T細胞が特定される、請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
抗原ペプチドががん関連抗原であり、がん特異的T細胞、がん特異的TCR遺伝子、またはがん特異的遺伝子組み換えT細胞が製造される、請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
がんの治療に用いられる、がん特異的T細胞、がん特異的TCR遺伝子、またはがん特異的遺伝子組み換えT細胞を製造するための、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
抗原ペプチドが、がんペプチドワクチン候補ペプチドであり、候補ペプチドの効果の判定のために行われる、請求項4~7のいずれか一に記載の方法。
【請求項16】
被検体細胞が、感染症疾患由来であり、抗原ペプチドが、感染症病原体由来の抗原ペプチドであり、T細胞を介した免疫応答の解析のために行われる、請求項4~7のいずれか一に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原で細胞を刺激・活性化する方法に関する。本発明は、特定の方法で刺激・活性化されるT細胞および同様に刺激・活性化される種々の細胞が関連する、アッセイ、解析、疾患または状態の検査および治療、並びにそれらに用いるキット、試薬、および装置に関する。本発明は、ライフサイエンスおよび医療の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
T細胞はT細胞受容体(T cell receptor, TCR)をその細胞表面に発現しており、TCRを用いてウイルス感染細胞やがん細胞を認識し、免疫応答を惹起する。リンパ球にはT細胞のほかにB細胞がある。B細胞もその細胞表面に発現している抗体を抗原受容体として用いることでウイルスなどの抗原を認識するが、B細胞の抗原受容体である抗体はウイルスや細菌の表面のタンパク質や糖鎖・脂質などをそのままの形で結合し、認識することができる。その一方で、T細胞の抗原受容体であるTCRはウイルスや細菌の表面のタンパク質にそのままの形で結合・認識することはできない。T細胞はウイルスが感染した細胞でウイルス由来の蛋白が産生され、その蛋白が分解されたペプチドが、その細胞のMHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子に結合した形で細胞表面に発現したものにTCRが結合することにより抗原を認識する。すなわち、T細胞を刺激・活性化するためには、抗原提示細胞が必要であることが知られている。抗原提示細胞の主なものは、ウイルスが感染したような細胞の他にB細胞、マクロファージ、樹状細胞などがある。
【0003】
MHC分子はクラスI分子とクラスII分子の二種類に大きく分けることができる。MHCクラスI分子はCD8+ T細胞(キラーT細胞)に抗原を提示し、MHCクラスII分子はCD4+ T細胞(ヘルパーT細胞)に抗原を提示する。MHCクラスI分子はすべての有核細胞(すなわち赤血球を除くすべての細胞)に発現しているが、MHCクラスII分子はB細胞、マクロファージ、樹状細胞など一部の細胞に発現している。また、ヒトのT細胞の場合、活性化されたCD4+ T細胞にMHCクラスII分子であるHLA-DR分子が発現することが知られており、HLA-DRは活性化マーカーとしても使用されている(非特許文献1)。
【0004】
T細胞上には、TCR とMHC分子とが存在するが、同一細胞上でのMHC分子と様々な免疫関連分子との相互作用について述べた報告の中では、同一細胞上のTCRとMHC分子とは相互作用できないことが明確に述べられている(非特許文献2)。現在、T細胞の刺激方法としては、T細胞が認識する抗原ペプチドがわかっている場合には、樹状細胞などの抗原提示細胞を準備し、抗原提示細胞に抗原ペプチドを添加することで抗原提示細胞上のMHC分子に抗原ペプチドを結合させる方法が一般的である。最近ではMHC分子を可溶化し、そのMHC分子に抗原ペプチドを結合させた四量体(MHC/ペプチド四量体)が作製・販売されるようになり、MHC/ペプチド四量体を用いてもT細胞を刺激することが可能である。また、T細胞の刺激の方法に関するものではないが、チップ上のT細胞に抗原ペプチドが結合した組換えMHC分子を用いて、単一細胞から分泌されたサイトカインを検出したとの報告がある(非特許文献3および4)。
【0005】
一方、本発明者らは、これまでに細胞が1個1個格納できる大きさ・形状の微小ウェルを規則正しく4万5千個~23万個程度配置したマイクロウェルアレイチップを開発し、そこにB細胞を1個ずつ配置し、抗原刺激し、B細胞の細胞内Ca2+濃度の変動や抗原のB細胞表面の抗体への結合を単一細胞レベルで解析することにより、抗原特異的B細胞を同定できることを示してきた。さらに、ウェル周囲のチップ表面を抗原でコートしたマイクロウェルアレイチップを用いることで、より簡便に抗原特異的抗体分泌細胞が検出できることを示してきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2009-34047(特許4148367)
【0007】

【非特許文献1】T Cotner, JM Willlams, L Christenson, HM Shapiro, TB Strom, J Strominger. Simultaneous flow cytometric analysis of human T cell activation antigen expression and DNA content. J. Exp. MED. 1983, Vol. 157, 461-472
【非特許文献2】W Held, RA Mariuzza. Cis interactions of immunoreceptors with MHC and non-MHC ligands. Nature Reviews Immunology, 2008, 8, 269-278
【非特許文献3】Q Song, Q Han, EM Bradshaw, SC Kent, K Raddassi, B Nilsson, GT Nepom, DA Hafler, JC Love. On-Chip Activation and Subsequent Detection of Individual Antigen-Specific T Cells. Anal. Chem. 2010, 82, 473-477
【非特許文献4】Q Han, EM Bradshaw, B Nilsson, DA Haflercd JC Love. Multidimensional analysis of the frequencies and rates of cytokine secretion from single cells by quantitative microengraving. Lab Chip, 2010, 10, 1391-1400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、マイクロウェルアレイチップを用い、抗原特異的T細胞を検出する方法の開発を始めた。T細胞の場合、B細胞と異なり、抗原提示細胞上のMHC分子に抗原ペプチドが結合したものをTCRで認識し、活性化される。そのため、T細胞をチップ上で刺激するためには、チップ上に抗原ペプチドでパルスした抗原提示細胞を播種することが必要だと考えられるが、これは困難であろう。そのため、マイクロウェルアレイチップ上に配置したT細胞を上述のMHC/ペプチド四量体((MHC/p)4)で刺激することにより、4~6時間で、抗原刺激特異的にサイトカイン(IL-2, IFN-γ, IL-4等)を分泌するT細胞を検出することを検討した。より詳細には、抗サイトカイン抗体でウェル周囲のチップ表面をコートし、T細胞をその上で刺激し、分泌されたサイトカインを抗サイトカイン抗体でトラップし、そしてトラップされたサイトカインをさらに蛍光標識抗サイトカイン抗体で検出することを試みた。これにより、抗原刺激特異的にサイトカインを分泌するT細胞を検出することができた(図1)。
【0009】
このように、(MHC/p)4を用いることで、抗原特異的T細胞が検出できることは確認できたが、(MHC/p)4には問題があった。(MHC/p)4は一般の研究室では作製が困難であり、通常は販売されている(MHC/p)4を購入して使用しなければいけない。しかし、販売されている(MHC/p)4は種類が限られている。一方、世の中では抗原ペプチドはわかっているが、(MHC/p)4が手に入らないものが多い。臨床的にがんの治療のためにペプチドワクチンが開発され、使用されているが、そのほとんどは(MHC/p)4としては入手することができない。
【0010】
そこで、本発明者らは、チップ上で、(MHC/p)4を用いることなく抗原特異的T細胞を刺激することができないかを検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、T細胞の細胞表面にMHC分子が発現していることに注目し、T細胞上のMHC分子に抗原ペプチドを結合させれば、一つのT細胞上でTCRとMHC/ペプチド複合体とが相互作用し、T細胞が刺激・活性化されるのではないかと考えた。すなわち、T細胞は、通常はAPC上に発現したMHC分子の上に抗原ペプチドが提示されたものをTCRを用いて認識するが(図2左、▲はペプチド)、T細胞上のMHC分子に抗原ペプチドを与えることができれば、そのT細胞の有するMHC分子にペプチドが結合し(図2右上)、同じT細胞のTCRでそれを認識することで(図2右下)、T細胞が活性化できるのではないかと考えた。
【0012】
これまでは、このような刺激法は実施されていなかった。なぜなら、通常、T細胞を刺激する際、1ウェル中の10万個程度のリンパ球を一緒に培養するため、T細胞が活性化され、サイトカイン等を産生しても、それが同じ細胞上のMHC/ペプチドとTCRとの相互作用によるものか、ある細胞上のMHC/ペプチドとそれとは異なる細胞上のTCRとの相互作用によるものかを識別することができなかったからである。幸いにも本発明者らはマイクロウェルアレイチップを使用することが可能であったため、T細胞を1個ずつマイクロウェルに格納することにより、他の細胞と相互作用することができない状況を作りだすことができた。そしてT細胞を1個ずつチップ上のマイクロウェルに格納して配置した後、MHC分子に結合可能な抗原ペプチドを添加したところ、抗原ペプチド特異的なサイトカイン分泌の誘導を示すことができた。
【0013】
この結果は、T細胞上のMHC分子に抗原ペプチドを結合させることにより、同じ細胞上のTCRとMHC/ペプチド複合体とが相互作用し、自分自身、すなわちT細胞が活性化されることを示している(図2、右下)。これは、マイクロウェルアレイチップを用いた実験により初めて明らかにされたことである。そして、このような刺激・活性化方法であれば、T細胞に限られず、種々の細胞に適用可能であろう。
【0014】
このような知見に基づき、本発明を完成した。本発明は、以下を提供する。
[1] 抗原ペプチドにより、対象細胞を刺激する方法であって:
抗原ペプチドを、対象細胞の細胞表面のMHC分子に供給してMHC分子-抗原ペプチド複合体を形成させ;そして
MHC分子-抗原ペプチド複合体を、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)が認識することにより対象細胞が刺激されるが、このときTCRが対象細胞の細胞表面に存在するか、または対象細胞と同じ平面上に存在するものであり、他の抗原提示細胞(APC)による抗原ペプチドの提示の非存在下で、cisの位置関係にあるTCRとMHC分子-抗原ペプチド複合体との相互作用により、刺激される、方法。
[2] T細胞を刺激する方法であって:
抗原ペプチドを、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)を細胞表面に有するT細胞に供給して、T細胞が細胞表面に有する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と抗原ペプチドとの複合体を形成させる工程を含み、
TCRに抗原ペプチドを、同じT細胞の細胞表面のMHC分子-抗原ペプチド複合体として認識させることにより、T細胞を刺激する方法。
[3] 抗原ペプチドを認識可能なTCRと、抗原ペプチドを提示しているMHC分子-抗原ペプチド複合体とを細胞表面に有し、TCRに抗原ペプチドを、その細胞表面のMHC分子-抗原ペプチド複合体として認識させることにより、刺激されている、刺激化細胞。
[4] 単独の被検体細胞に、抗原ペプチドを供給 し;そして
細胞が抗原を認識したときに産生される物質が被検体細胞から産生されるか否かを検出する工程を含み、
物質が検出された場合に、被検体細胞を目的T細胞と特定する、T細胞の特定方法。
[5] 基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルが1つのT細胞のみが入る大きさであるマイクロウェルアレイを用い、被検体細胞群から抗原ペプチドに特異的なT細胞を特定するために実施される、4に記載の方法。
[6] 主表面の少なくとも一部に、T細胞が抗原を認識したときに産生される物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイを用い;
少なくとも一部のウェルに被検体細胞を培養液とともに格納し;
被覆層およびウェルを、抗原ペプチドを含む 培養液に浸漬して、培養液に含まれる物質のウェルから前記被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養し;そして
T細胞が抗原を認識したときに産生される物質に特異的に結合可能な標識物質、または被覆層に特異的に結合する標識物質を被覆層に供給して、被覆層の物質に結合したT細胞が抗原を認識したときに産生される物質が標識物質により検出された場合に、その被検体細胞を抗原特異的T細胞と特定する、5に記載の方法。
[7] 特定される抗原特異的T細胞が、ヒト由来である、4~6のいずれか1項に記載の方法。
[8] 4~7のいずれか1項に定義された工程を含み、特定された抗原特異的T細胞をウェルから回収する工程をさらに含む、抗原特異的T細胞の製造方法。
[9] 8に定義された工程を含み、回収されたT細胞から抗原特異的TCR遺伝子を得る工程をさらに含む、抗原特異的TCR遺伝子の製造方法。
[10] 9に定義された工程を含み、得られた抗原特異的TCR遺伝子を別のT細胞に導入して抗原特異的遺伝子組み換えT細胞を得る工程をさらに含む、抗原特異的遺伝子組み換えT細胞の製造方法。
[11] 別のT細胞が、TCR遺伝子治療により処置可能な疾患または状態の対象由来である、10に記載の製造方法。
[12] 抗原ペプチドががん関連抗原であり、がん特異的T細胞が特定される、4~7のいずれか1項に記載の方法。
[13] 抗原ペプチドががん関連抗原であり、がん特異的T細胞、がん特異的TCR遺伝子、またはがん特異的遺伝子組み換えT細胞が製造される、8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
[14] がんの治療に用いられる、がん特異的T細胞、がん特異的TCR遺伝子、またはがん特異的遺伝子組み換えT細胞を製造するための、13に記載の製造方法。
[15] がんペプチドワクチンの効果の判定方法
抗原ペプチドが、がんペプチドワクチン候補ペプチドであり、候補ペプチドの効果の判定のために行われる、4~7のいずれか一に記載の方法。
[16] 感染症等でのT細胞を介した免疫応答の解析
被検体細胞が、感染症疾患由来であり、抗原ペプチドが、感染症病原体由来の抗原ペプチドであり、T細胞を介した免疫応答の解析のために行われる、4~7のいずれか一に記載の方法。
[17] T細胞を刺激する方法であって:
抗原ペプチドを、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)と主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子とを細胞表面に有するT細胞に供給する工程を含み、TCRと、同じT細胞の細胞表面のMHC分子-抗原ペプチド複合体との相互作用により、T細胞を刺激する方法。
[18] 抗原ペプチドにより、TCRを細胞表面に発現している細胞を刺激する方法であって、
対象細胞の細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子を用いる、方法。
[19] 抗原ペプチドにより、対象細胞を刺激する方法であって、
抗原ペプチドを対象細胞に供給し、他の抗原提示細胞(APC)による抗原ペプチドの提示の非存在下で、対象T細胞が刺激される、方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抗原提示細胞(APC)もMHC/ペプチド四量体も用いずに、抗原特異的T細胞を活性化し、検出することができる。
【0016】
現在、がんのTCR遺伝子治療の研究においては、抗原(がん)特異的T細胞株を樹立して、がん特異的TCRを分離・取得し、得られたTCR遺伝子を対象由来のT細胞に導入することで、がん特異的T細胞を得て、このようなT細胞を対象に戻すことによる。一方、本発明によれば、そのような抗原特異的T細胞株を樹立することなく、またMHC/ペプチド四量体のような試薬を用いることなく、抗原特異的T細胞を特定することができる。すなわち、効率よく・簡便に、がん特異的T細胞を特定することができる。
【0017】
本発明の方法により特定された抗原特異的T細胞を増やしてT細胞による治療を行うことができ、また本発明の方法により特定された抗原特異的T細胞から抗原特異的TCR遺伝子を取得することで、TCR遺伝子治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】マイクロウェルアレイチップ上でのAPCまたは(MHC/p)4によるT細胞の活性化。T細胞の場合、B細胞と異なり、抗原提示細胞上のMHC分子に抗原ペプチドが結合したものをTCRで認識し、活性化される。そのため、T細胞をチップ上で刺激するためには、チップ上に抗原ペプチドでパルスした抗原提示細胞を播種することが必要だと考えられるが、これは困難であろう。他に、(MHC/p)4を用いてもチップ上のT細胞を刺激することができるが、所望のペプチドについて(MHC/p)4が入手可能な場合に限られる。
【図2】本発明の概念図。T細胞は、通常は左図のようにAPC上に発現したMHC I分子の上に抗原ペプチド(▲)が提示されたものをTCRを用いて認識する。しかしながら、マイクロウェルアレイチップ上でペプチドを用いてT細胞を刺激すると、右図のように、そのT細胞の有するMHC I分子にペプチドが結合し、TCRでそれを認識することで、T細胞が活性化されると考えられる。
【図3】ISAACの模式図。T細胞から分泌されたサイトカインは予めチップ表面にコートしておいたサイトカイントラップ抗体によりトラップされる。トラップされたサイトカインをビオチン標識抗サイトカイン抗体とストレプトアビジン(Sav)-Cy3によって検出する。
【図4】分泌細胞の検出。抗Interleukin-2 (IL-2)抗体をコートしたマイクロウェルアレイチップに卵白アルブミン(OVA)由来ペプチド(OT-1ペプチド)を認識するTCRを持つT細胞を含むマウスのリンパ球を播種し、OT-1ペプチド+CD28抗体(左)あるいはCD28抗体のみ(右)で6時間刺激し、分泌されたIL-2をビオチン標識抗IL-2抗体およびSav-Cy3を用いて検出した。OT-1ペプチド+CD28抗体で刺激したチップにはサイトカインが検出されたが(左)、CD28抗体のみの場合は、サイトカインは分泌されなかった(右)。図中、小さな点は細胞を示しており、矢印のついたドーナツ状、円盤状のシグナルは分泌されたサイトカインを示している。
【図5】抗原ペプチド特異的T細胞活性化。(上)OT-1 TCRトランスジェニックマウス由来T細胞を含むリンパ球は抗原であるOT-1ペプチド + CD28抗体で刺激した時、IL-2を産生したが(上 左)、抗原でないH-Yペプチド + CD28抗体で刺激した時はIL-2を産生しなかった(上 右)。逆に、(下)HY-TCRトランスジェニックマウス由来T細胞を含むリンパ球は抗原であるH-Yペプチド + CD28抗体で刺激した時、IL-2を産生したが(下 右)、抗原でないOT-1ペプチド + CD28抗体で刺激した時はIL-2を産生しなかった(下 左)。(OT-1 ペプチド: 卵白アルブミン由来ペプチド、H-Yペプチド:雄抗原(H-Y抗原)由来ペプチド)
【図6】EBウイルス由来ペプチド(BRLF1ペプチド、EBNA3Aペプチド)特異的ヒトT細胞の検出。健常人A(白いカラム)あるいは健常人B(灰色のカラム)由来のリンパ球をチップに播種し、CD28抗体のみ、BRLF1ペプチドとCD28抗体、あるいは、EBNA3AペプチドとCD28抗体で、細胞を6時間チップ上で刺激し、IFN-γ分泌細胞を蛍光顕微鏡下で計数した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、細胞の新規な刺激方法を提供する。本発明において、抗原ペプチドにより、対象細胞が刺激される場合、対象細胞自身の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子が利用され、TCRとMHC分子-抗原ペプチド複合体(「MHC/ペプチド複合体」と表すこともある。)とがcisの位置関係にある。従来、TCRとMHC/ペプチド複合体とが相互作用するためには両者transの位置関係にあるべきと考えられてきた。本発明においては、他の抗原提示細胞(APC)による抗原ペプチドの提示の非存在下で、対象細胞が刺激される。

【0020】
本発明は、典型的には、同一細胞上にTCRとMHC分子とを有するT細胞に適用することができる。最近では、T細胞以外の細胞、たとえば上皮細胞などに、TCRalpha鎖、TCRbeta鎖、CD3epsilon鎖、CD3gamma鎖、CD3delta鎖、zeta鎖の遺伝子を一緒に導入することで、シグナル伝達可能なTCRを細胞表面に発現させることができることが知られている(AL Szymczak, CJ Workman, Y Wang, KM Vignali, S Dilioglou, EF Vanin, and DAA Vignali. Correction of multi-gene deficiency in vivo using a single 'self-cleaving' 2A peptide-based retroviral vector. Nature Biotech, 22:589-594, 2004.)。また、TCRの細胞外の部分をzeta鎖と結合させ、キメラ分子を作製することで、CD3epsilon鎖、CD3gamma鎖、CD3delta鎖が存在しない条件下でもシグナル伝達可能なTCR/zeta鎖キメラ分子をT細胞以外の細胞にも発現させることができることが知られている(RA Willemsen, MEM Weijtens, C Ronteltap, Z Eshhar, JW Gratama, P Chames and RLH Bolhuis. Grafting primary human T lymphocytes with cancerspecific chimeric single chain and two chain TCR. Gene Therapy (2000) 7, 1369-1377、AL Szymczak, CJ Workman,Y Wang, KM Vignali1, S Dilioglou1, EF Vanin, and DAA Vignali. Correction of multi-gene deficiency in vivo using a single 'self-cleaving' 2A peptide-based retroviral vector. Nature Biotechnology Volume 22 Number 5 May 2004)。さらに、ELISAプレート、スライドガラス、カバーガラス等の基盤の上に、脂質をコートし、その上にGPIアンカー型タンパク質としてTCRを発現させ、あるいはMHC分子を発現させることが行われている(A Hashimoto-Tane, T Yokosuka, K Sakata-Sogawa, M Sakuma, C Ishihara, M Tokunaga, and T Saito. Dynein-Driven Transport of T Cell Receptor Microclusters Regulates Immune Synapse Formation and T Cell Activation. Immunity 34, 919-931, June 24, 2011)。従来、これらの系においても、シグナルを検出する際には、APC上のMHC/ペプチド複合体、あるいは、MHC/ペプチド四量体で刺激することが必要であると考えられてきたが、本発明によれば、TCRとMHC/ペプチド複合体は同じ細胞上、あるいは同じ平面上に存在させることで、相互に作用しうる。

【0021】
本発明の刺激方法は、抗原ペプチドを、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)と主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子とを対象細胞の細胞表面に有する細胞に供給する工程を含み、TCRと、同じ細胞の細胞表面のMHC/ペプチド複合体との相互作用により、対象細胞を刺激する方法でもある。あるいは、抗原ペプチドを、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)であって、対象細胞と同じ平面上に存在するものに供給する工程を含み、他の抗原提示細胞(APC)による抗原ペプチドの提示の非存在下で、cisの位置関係にあるTCRとMHC/ペプチド複合体との相互作用により、細胞を刺激する方法でもある。

【0022】
以下では、本発明を同一の細胞上にTCRとMHC分子とを有するT細胞を例に説明することがあるが、その説明は、他のACP細胞の存在なしに、TCRとMHC分子が相互作用できる状態にある細胞であれば、T細胞に限られず、他の細胞にもそのまま当てはまる。

【0023】
〔細胞の刺激方法〕
本発明の刺激方法は、具体的には下記の工程により、実施できる。

【0024】
(1)抗原ペプチドを、抗原ペプチドを認識可能なT細胞受容体(TCR)を細胞表面に有するT細胞に供給する工程であって、T細胞が細胞表面に有する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と抗原ペプチドとの複合体を形成させる工程;
(2)TCRに抗原ペプチドを、同じT細胞の細胞表面のMHC分子-抗原ペプチド複合体として、認識させる工程。

【0025】
工程(1)では、抗原ペプチドが、T細胞へ供給される。T細胞の刺激は、抗原提示細胞が病原体を取り込み、病原体タンパク質を分解した抗原ペプチドをMHC分子の上に結合させて細胞表面に提示し、それを抗原特異的なT細胞がTCRで認識することによると考えられてきた。通常、T細胞は106細胞/mL程度の密度にて培養され、刺激されるので、自分自身のMHC分子に結合した抗原ペプチドで活性化されたのか、別の細胞のMHC分子に結合した抗原ペプチドで活性化されたのかは、区別ができなかった。しかしながら、本発明者らの検討によると、抗原ペプチドを直接抗原特異的T細胞に加えた場合には、T細胞上のMHCにペプチドが結合し、直接T細胞自身が刺激されることが分かった。このような知見は、本発明が初めて提供するものである。

【0026】
本発明の方法で刺激可能なT細胞の例は、CD8+ T細胞(CD8陽性T細胞、キラーT細胞)である。MHCクラスI分子はCD8+ T細胞に抗原を提示するが、MHCクラスI分子はすべての有核細胞に発現しており、T細胞にも発現している。

【0027】
本発明の方法で刺激可能なT細胞の別の例は、ヒトのCD4+ T細胞(CD4陽性T細胞、ヘルパーT細胞)である。MHCクラスII分子はCD4+ T細胞に抗原を提示するが、MHCクラスII分子は通常、B細胞、マクロファージ、樹状細胞など一部の細胞に発現するものである。一方で、ヒトのT細胞の場合、活性化されたCD4+ T細胞にMHCクラスII分子であるHLA-DR分子が発現することが知られており、HLA-DRは活性化マーカーとしても使用されている(前掲非特許文献1)。従って、HLA-DR分子に結合するようなペプチドをCD4+ T細胞に添加することで、そのペプチドに特異的なCD4+ T細胞の刺激化が期待できる。

【0028】
刺激する際、抗原ペプチドと同時に、刺激賦活物質を供与してもよい。CD8+ T細胞を用いる場合は、CD28抗体を同時に供与することができ、また4-1BB, OX40(Cytokine & Growth Factor Reviews 14 (2003) 265-273)を同時に供与することができる。

【0029】
本発明の方法により、種々の哺乳動物由来のT細胞を刺激することができる。例えば、マウス、ヒト由来T細胞を刺激することができる。

【0030】
工程(2)が達成されていることは、種々の方法で確認できるが、例えば、対象T細胞以外の他の抗原提示細胞(APC)による抗原ペプチドの提示の非存在下で、より詳細には、単独の対象T細胞に対して、抗原ペプチドを供給することにより、次に説明する活性化T細胞が誘導されていれば、工程(2)が達成されていると判定することができる。

【0031】
〔刺激化T細胞〕
本発明は、特定の方法で刺激された刺激化T細胞を提供する。本発明の刺激化T細胞は、抗原ペプチドを認識可能なTCRと、抗原ペプチドを提示しているMHC分子-抗原ペプチド複合体とを細胞表面に有し、TCRに抗原ペプチドを、その細胞表面のMHC分子-抗原ペプチド複合体として認識させることにより、刺激化されている。このような刺激化T細胞を単離して提供するのは、本発明が初めてである。

【0032】
刺激化T細胞であるか否かは、T細胞が抗原を認識したときに産生される物質の産生の有無により確認することができる。このような物質は、当業者にはよく知られている。例えば、CD8+ T細胞が刺激化されたものであるかどうかは、IL-2またはTNFγの産生の有無により、判断できる。具体的には条件や手法は、本明細書の実施例の記載を参考にすることができる。

【0033】
〔抗原特異的T細胞の検出・特定方法〕
本発明は、抗原特異的T細胞の特定方法を提供する。
この方法は、具体的には、下記の工程を含む。

【0034】
(3)単独の被検体細胞に、抗原ペプチドを供給し;そして
(4)T細胞が抗原を認識したときに産生される物質が被検体細胞から産生されたか否かを検出する工程。
そして、物質が検出された場合に、被検体細胞を抗原特異的T細胞と特定する。

【0035】
本発明で細胞の状態に関し、「単独」というときは、特に記載した場合を除き、その細胞以外の細胞を含まない環境にあることをいう。

【0036】
本発明のこの方法は、基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルが1つのT細胞のみが入る大きさであるマイクロウェルアレイを用いて行うことができる。マイクロウェルアレイを用いる方法に関しては、本発明者らの先の出願(前掲特許文献1)を参照することができる。

【0037】
マイクロウェルアレイを用いる場合、好ましい態様においては、マイクロウェルアレイの主表面の少なくとも一部に、T細胞が抗原を認識したときに産生される物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイを用い、少なくとも一部のウェルに格納された被検体細胞に、抗原ペプチドが供給される。

【0038】
本発明に用いることのできるマイクロウェルアレイは、前掲特許文献1を参照し、当業者であれば適宜設計できる。典型的には、次のようなものである。

【0039】
基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさである。複数個のマイクロウェルは同一間隔で縦横に配置されている。マイクロウェルの形状は、例えば、円筒形、六角柱であり、円筒形の場合、その寸法は、例えば、直径3~100μmであることができ、好ましくは4~15μmである。また、深さは、例えば、3~100μmであることができ、好ましくは4~40μmである。1つのマイクロウェルアレイチップが有するマイクロウェルの数は、特に制限はないが、抗原特異的リンパ球の頻度が105個に1個から多い場合には約500個であるという観点から、1cm2当たり、例えば、2,000~1,000,000個の範囲であることができる。またマイクロウェルアレイは、少なくとも前記ウェルの周辺の前記主表面の少なくとも一部に、前記ウェルに格納される細胞の少なくとも一部が産生する物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有する。マイクロウェルアレイの素材は、例えばシリコンであり、表面処理されていてもよい。

【0040】
本発明において、ウェルに格納される細胞(被検体細胞)は、抗原特異的T細胞(目的T細胞)を含む細胞群である。生体からリンパ球群やT細胞群を得るための手段は当業者にはよく知られている。T細胞群はさらに分離・純化することもできる。生体から得たT細胞は、通常、ヘテロな細胞集団からなり、各サブセットを含むが、CD8+T細胞、CD4+T細胞などのT細胞サブセットの分離方法もまた、当業者にはよく知られている。

【0041】
マイクロウェルアレイチップに播種する際の細胞群は、リンパ球は適切な培養液に、0.5~10× 106 cells/mL程度の密度に懸濁して用いることができる。
本発明においては、T細胞が抗原を認識したときに産生される物質(産生物質)の少なくとも一部と結合性を有する物質(結合性物質)として、産生物質に対する抗体を用いることができる。そして産生物質の有無の検出は、産生物質と特異的に結合する物質を用いる場合と、結合性物質と特異的に結合する物質を用いる場合とがある。検出のための物質の典型例は、抗体である。

【0042】
T細胞が抗原を認識したときに産生される物質の典型例は、サイトカインであるが、この場合、サイトカインと結合性を有する物質としては、抗サイトカイン抗体またはサイトカイン受容体とすることができる。そしてサイトカインの有無の検出は、サイトカインに対する抗体若しくはサイトカイン受容体、または結合性物質として採用した物質に対する抗体とすることができる。

【0043】
産生物質の有無を検出するための物質の標識化の典型例は、ビオチン化であり、ビオチン化すればさらに蛍光物質を付加して、さまざまな方法で検出が可能となる。標識化は公知の方法を用いて行うことができる。

【0044】
結合性物質による被覆層の形成は、前掲特許文献1の方法にしたがって行うことができる。被覆する際、結合性物質の濃度は、通常のELISA等で被覆する場合(抗体で被覆する典型的な例では、1μg/mL、またはそれ以下)より、高い濃度であることが好ましいことがある。マイクロウェルアレイを用いる場合、ウェルから分泌された産生物質をウェル周囲にトラップする必要があるが、被覆する抗体の量が低いと、サイトカインがウェル周囲にとどまらず広く拡散してしまい、どのウェルから分泌されたかが判断できないことがある。被覆する結合性物質を多くすることにより、ウェルから拡散しようとする産生物質のほとんどすべてをウェルのごく近傍でトラップできる。それにより、どのウェルの細胞から産生物質が産生されたかが明確に特定でき、そして目的細胞を特定することができる。

【0045】
例えば、被検体細胞として、CD8+ T細胞を用い、ウェル周囲表面に抗IL-2抗体または抗INFγ抗体を被覆する場合は、その濃度を5μg/mL以上とすることができる。

【0046】
本発明のT細胞の検出・特定方法は、具体的には、以下の工程を実施することにより、達成できる。

【0047】
(5)少なくとも一部のウェルに被検体細胞を培養液とともに格納し;
(6)被覆層およびウェルを、抗原ペプチドを含む培養液に浸漬して、培養液に含まれる物質のウェルから前記被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養し;そして
(7)T細胞が抗原を認識したときに産生される物質に特異的に結合可能な標識物質、または被覆層に特異的に結合する標識物質を被覆層に供給して、被覆層の物質に結合したT細胞が抗原を認識したときに産生される物質が標識物質により検出された場合に、その被検体細胞を抗原特異的T細胞と特定する。

【0048】
工程(5):
マイクロウェルアレイの少なくとも一部のウェルに、目的T細胞を含む被検体細胞群を、格納する。細胞を格納する前には、マイクロウェルアレイのウェルとその周辺を培地で洗浄して、結合性物質の被覆層を形成した際に表面に付着した不純物を十分に除去することが、精度よく検出するために好ましい。細胞は、培養液とともにウェルに格納する。ウェルに格納される細胞群は、公知の方法を用いて得ることが出来る。

【0049】
工程(6):
被覆層およびウェルを、抗原ペプチドを含む培養液に浸漬して、培養液に含まれる物質のウェルから被覆層への拡散が可能な状態で細胞を培養する。培養によって細胞がその抗原特異的なT細胞であれば、物質を産生し、産生された物質が培養液に放出され、ウェルからウェル周辺の被覆層に拡散する。拡散し、被覆層に到達した産生物質は、被覆層を構成する結合性物質と結合する。培養条件は、適宜決定でき、培養時間は、被覆層を構成する結合性物質と結合した産生物質の量が、検出可能なレベルになるように適宜決定できる。物質を産生しない細胞を格納したウェル周辺の被覆層では産生物質と結合性物質との結合は生じない。尚、培養時間が長くなりすぎると、産生物質が広く拡散しすぎて、産生物質を産生する細胞を格納したウェルの特定が困難になる場合があるので、培養時間は、産生物質を産生する細胞を格納したウェルの特定が容易に行なえる範囲で適宜決定することが好ましい。

【0050】
工程(7):
上記培養終了後、任意で培養液を除去した後に、被検体細胞に含まれる目的T細胞によって産生される物質に特異的に結合する標識物質を、被覆層に供給する。目的T細胞によって産生される物質は、培養中に拡散し、被覆層を構成する結合性物質と結合しており、この段階で上記標識物質を供給することで、標識物質は、被覆層に結合した産生物質と結合するか、あるいは、被覆層に結合した産生物質でブロックされていない被覆層と結合する。前者の場合は、標識物質は産生物質と結合性を有する場合であり、後者の場合は、標識物質は産生物質とではなく、被覆層を構成する結合性物質と結合性を有する場合である。

【0051】
標識物質を供給する前に、培養液は除去することが好ましい。細胞と結合性物質との組み合わせによっては培養液を除去することなく標識物質を被覆層に供給しても問題なく検出が可能な場合もある。

【0052】
そして、被覆層の物質に結合した、目的T細胞によって産生された物質を、標識物質により検出して、目的T細胞を特定する。標識物質は、被覆層に結合した産生物質と結合しており、そこで標識物質を検出することで、被覆層に結合する産生物質を産生する細胞(目的T細胞)を特定することができる。

【0053】
〔本発明の方法の利用〕
本発明により特定されたT細胞は回収することができ、また得られたT細胞から抗原特異的TCRに関連した細胞成分および情報(例えば、核酸、タンパク質、ヌクレオチド配列、アミノ酸配列)を得て、T細胞に関連した研究。およびT細胞に関連した疾患または状態の検査、診断、処置のために用いることができる。
より具体的には、本発明により、下記が提供される。

【0054】
(8)抗原特異的T細胞の簡易な製造方法。
(9)回収されたT細胞から抗原特異的TCR遺伝子を得る工程を含む、抗原特異的TCR遺伝子の製造方法。
(10)得られた抗原特異的TCR遺伝子を別のT細胞に導入して抗原特異的遺伝子組み換えT細胞を得る工程をさらに含む、抗原特異的遺伝子組み換えT細胞の製造方法。

【0055】
T細胞から抗原特異的TCR遺伝子を得る工程は、具体的には、例えば、抗原特異的T細胞から、TCRのmRNA を単離し、逆転写することによってcDNAとする工程である。

【0056】
本発明においては、さまざまな抗原ペプチドを用いることができ、それによりさまざまな抗原特異的T細胞、抗原特異的TCR遺伝子を得ることができる。

【0057】
本発明で「抗原ペプチド」というときは、特に記載した場合を除き、抗原タンパク質の一部であってMHC分子に提示可能な長さ、例えば8~20アミノ酸残基長、好ましくは8~12アミノ酸残基長からなるペプチドであって、抗原特異的細胞障害性T細胞(CTL)を誘導できるペプチド、それと機能的に同等の特性を有するその改変ペプチド、またはそれらのペプチドを2以上連結したポリトープ等が含まれる。機能的に同等の特性を有する改変ぺプチドとは、抗原ペプチドのアミノ酸配列の1または数個(例えば、4個以下)のアミノ酸残基が、欠失、置換および/または付加(ペプチドのN末端、C末端へのアミノ酸の付加も含む)した改変体であって、かつ抗原ペプチド特異的にTCLを誘導できるものをいう。

【0058】
MHCに結合可能と予想されるペプチド配列は、当業者にはよく知られた方法で、検索することができる(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla#bind/、またはBIMAS HLA peptide binding prediction analysis(J.Immunol.,152,163,1994)。したがって、当業者であれば、所望の癌抗原タンパク質やウイルス由来抗原タンパク質のアミノ酸配列から、MHC結合性である部分を選択することができる。

【0059】
あるペプチドが 抗原ペプチドであること、すなわち抗原特異的T細胞刺激活性を有するか否かは、癌抗原ペプチドの場合、当業者にはよく知られた方法、例えば J.Immunol.,154,p2257,1995に記載の測定方法により調べることができる。具体的には、MHC分子陽性のヒトから末梢血リンパ球を単離し、イン・ビトロで対象ペプチドを供給した場合に、該ペプチドをパルスしたMHC陽性細胞を特異的に認識する細胞障害性T細胞(CTL)が誘導された場合には、そのペプチドを抗原ペプチドであると判定することができる。CTLが誘導されたか否かは、CTLが産生し得るIL-2またはIFN-γの有無またはその量を、酵素免疫測定法(ELISA)により測定することにより、確認することができる。

【0060】
本発明に用いる抗原ペプチド(改変ペプチドを含む)は、通常のペプチド化学において用いられる方法に準じて合成することができる。また、抗原ペプチドをコードするDNAを宿主に導入し、発現させ、得られた生産物から組換えペプチドを精製する方法で調製してもよい。

【0061】
本発明に用いられる抗原ペプチドは、ウイルス由来であってもよい。また、本発明に用いられる抗原ペプチドは、がん関連抗原であってもよい。がん関連抗原の例は、WT1、CEA、AFP、CA19-9、CA125、PSA、CA72-4、SCC、MK-1、MUC-1、p53、HER2、G250、gp-100、MAGE、BAGE、SART、MART、MYCN、BCR-ABL、TRP、LAGE、GAGE、およびNY-ESO1である。

【0062】
本発明の方法は特に、TCR遺伝子治療への適用が期待される。抗原ペプチドとしてがん関連抗原等の疾患関連抗原を用いることにより、疾患関連抗原に特異的なT細胞、疾患関連抗原に特異的なTCR遺伝子が簡易・迅速に特定・調製できる。また得られたTCR遺伝子を、患者由来のリンパ球に導入することにより、疾患の処置に有効な疾患関連抗原特異的T細胞を得ることができる。このようなTCR遺伝子治療は、がんのテーラーメード医療として特に期待できる。

【0063】
遺伝子導入したリンパ球は大量に培養された後、そのがん患者に戻されるが、がん関連抗原を認識するTCRがリンパ球上に発現しているので、これが腫瘍抗原を提示するがん細胞を認識して特異的に攻撃し、最終的にがん細胞を消滅させることできる。TCR遺伝子治療は、ペプチドワクチンによる処置と比較して、腫瘍抗原を提示するがん細胞を特異的に認識するリンパ球を体内で誘導する必要がなく、またがん抗原特異的な細胞傷害活性を有するリンパ球を体外で大量に調製することを可能にし、さらに調製したリンパ球の投与量を適宜設計できるなどの利点がある。本発明のがん特異的T細胞、がん特異的TCR遺伝子、またはがん特異的遺伝子組み換えT細胞の製造方法は、TCR遺伝子を患者由来のリンパ球に高い効率で遺伝子導入する手段や、TCR遺伝子導入細胞を高品質で大量に調整する手段と組み合わせることにより、より有用なものとなることが期待できる。

【0064】
本発明はまた、がんペプチドワクチンを用いる療法においても、適用が期待できる。従来、がんペプチドワクチンは、直接患者に投与されるか(がんペプチドワクチン療法)、または抗原提示細胞(樹状細胞)のMHC分子に結合させてから、投与されている(樹状細胞療法)。これらに対し、例えば、がん特異的T細胞を体外で調製し、そのT細胞にがんペプチドワクチンを加えてT細胞のMHCにペプチドを結合させて患者に投与することにより、より治療効果の高いT細胞療法が可能になる可能性がある。

【0065】
本発明の方法は、がんのみならず、T細胞に関連した疾患または状態の、検査、診断および処置のために、使用することができる。本発明で疾患または状態に関連して「処置」というときは、特に記載した場合を除き、発症リスクの低減、予防、治療、進行の抑制を含む。

【0066】
本発明の方法はまた、ペプチドワクチンの効果の判定のために用いることができる。このような場合、抗原ペプチドとしてはペプチドワクチン候補が用いられ、候補ペプチドの効果の判定のため上述の特定方法を実施し、T細胞が刺激されたか否か、あるいは刺激された程度を確認することにより、ペプチドワクチンの効果を判定することができる。

【0067】
本発明の適用が期待できる疾患には、がんまたは感染症が含まれ、がんには、成人のがんおよび幼児期のがんが含まれ、また消化器がん、肺がん、および難治性の食道がん、頭頸部がん、卵巣がん、多発性骨髄種等が含まれる。感染症には、ウイルス感染症(例えば、後天性免疫不全症候群 (AIDS)、成人T細胞性白血病、エボラ出血熱、インフルエンザ、ウイルス性肝炎、ウイルス性髄膜炎、黄熱、風邪症候群、狂犬病、サイトメガロウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群 (SARS)、進行性多巣性白質脳症、水痘、帯状疱疹、手足口病、デング熱、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹 、咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ出血熱、ハンタウイルス腎出血熱、ラッサ熱、流行性耳下腺炎、ウエストナイル熱、ヘルパンギーナ、チクングニア熱)、細菌感染症、リケッチア感染症、寄生性感染症、プリオン病が含まれる。

【0068】
本発明はまた、T細胞を介した免疫応答の解析のためにも実施することができる。このような解析は、例えば感染症における免疫応答の解析のために実施する場合は、被検体細胞が感染症疾患由来であり、抗原ペプチドが、病原体由来の抗原ペプチドである。

【0069】
本発明はまた、本発明により提案されるT細胞刺激方法、抗原特異的T細胞の特定方法のために用いるキットを提供する。このようなキットは、典型的には、抗原特異的T細胞を特定するために、T細胞が抗原を認識したときに産生される物質(産生物質)の被覆層を有するマイクロウェルアレイチップを含む。それ以外に、生体からのT細胞の分離手段、産生物質の検出のための抗体、方法を実施するためのインストラクション、当該キットの用途および原理(抗原特異的T細胞を特定するためのものであること、T細胞上のTCRは同じT細胞上のMHCにより提示される抗原ペプチドを認識すること)等が記載されたものを含んでいてもよい。
【実施例】
【0070】
〔実施例1:抗原特異的マウスT細胞の検出〕
T細胞の調製
卵白アルブミン(ovalbumin, OVA)由来ペプチドであるOT-1ペプチドを認識するTCRの遺伝子が導入されたOT-1 TCRトランスジェニックマウスのリンパ球を、マウスの脾臓およびリンパ節より調製した。リンパ球は10% FCS/RPMI1640培地に2.5 × 106 cells/mLになるように懸濁し、以下の実験に用いた。
【実施例】
【0071】
チップの準備
マイクロウェルアレイチップ(直径10μm、126,000ウェル)に5μg/mLの抗IL-2抗体を載せ、一晩室温にてインキュベーションし、抗体をチップ表面に結合させた。翌日、チップをPBSにて洗浄後、0.01%のlipidure BL103(日油株式会社)を含むPhosphate buffered saline (PBS) をチップ表面に添加し、減圧することで、微小ウェル内の空気を除き、チップ表面およびウェル内にlipidureを接触させ、ブロッキングを行った(室温、15分以上)。その後、チップ上のlipidureを細胞培養液(10% FCS, RPMI1640)と置換した。
【実施例】
【0072】
細胞のチップへの添加
チップ上の細胞培養液を除き、上記細胞懸濁液を100 μLチップ上に添加し、5分間、室温にて静置した。ピペットを用いて細胞を撹拌し、さらに5分間静置した。もう一度細胞を撹拌し、さらに5分間静置した。最後に細胞の撹拌、細胞懸濁液の除去、細胞培養液の添加を4~5回繰り返し、チップ表面上のウェルに入っていない細胞を除去した。
【実施例】
【0073】
サイトカインの検出
解析(1)
チップにOT-1 TCRトランスジェニックマウス由来の細胞を播種したチップを上記のように準備する。次に、チップ表面の細胞培養液を1μg/mLの抗原ペプチド(OT-1ペプチド)および1μg/mL 抗CD28抗体を含む培養液、あるいは、1μg/mL 抗CD28抗体のみを含む培養液と置換し、チップをCO2インキュベータ中で5% CO2、37℃の条件で培養することにより細胞の刺激を行った。刺激開始6時間後に、チップ表面の細胞培養液を除去し、チップをPBSにて3回洗浄し、ビオチン標識抗IL-2抗体をチップ上に添加し、30分室温にてインキュベーションした。その後、チップをPBSにて3回洗浄し、Cy3標識streptavidinを添加し、30分室温にてインキュベーションした。チップを3回PBSにて洗浄し、CellTrace Oregon Greenを添加し、5分間室温にてインキュベーションし、細胞を染色した。チップを3回PBSにて洗浄後、蛍光顕微鏡にて蛍光の観察を行った(図3)。
【実施例】
【0074】
結果を図4に示した。図中、小さな点は細胞を示しており、矢印のついたドーナツ状、円盤状のシグナルは分泌されたサイトカインを示している。OT-1ペプチド+CD28抗体で刺激したチップにはサイトカインが検出されたが(図4左)、CD28抗体のみの場合は、サイトカインは検出されなかった(図4右)。すなわち、ペプチド刺激にて特異的にサイトカインが分泌されることがわかる。
【実施例】
【0075】
〔実施例2:抗原特異的マウスT細胞の検出〕
T細胞の調製
オス特異的に発現するH-Y抗原由来ペプチドを認識するTCRの遺伝子を導入されたH-Y TCRトランスジェニックマウスのリンパ球、および、卵白アルブミン(ovalbumin, OVA)由来ペプチドであるOT-1ペプチドを認識するTCRの遺伝子が導入されたOT-1 TCRトランスジェニックマウスのリンパ球を、それぞれマウスの脾臓およびリンパ節より調製した。リンパ球は10% FCS/RPMI1640培地に2.5 × 106 cells/mLになるように懸濁し、以下の実験に用いた。
【実施例】
【0076】
チップの準備
マイクロウェルアレイチップ(直径10μm、126,000ウェル)に5μg/mLの抗IL-2抗体を載せ、一晩室温にてインキュベーションし、抗体をチップ表面に結合させた。翌日、チップをPBSにて洗浄後、0.01%のlipidure BL103(日油株式会社)を含むPhosphate buffered saline (PBS) をチップ表面に添加し、減圧することで、微小ウェル内の空気を除き、チップ表面およびウェル内にlipidureを接触させ、ブロッキングを行った(室温、15分以上)。その後、チップ上のlipidureを細胞培養液(10% FCS, RPMI1640)と置換した。
【実施例】
【0077】
細胞のチップへの添加
チップ上の細胞培養液を除き、上記細胞懸濁液を100μLチップ上に添加し、5分間、室温にて静置した。ピペットを用いて細胞を撹拌し、さらに5分間静置した。もう一度細胞を撹拌し、さらに5分間静置した。最後に細胞の撹拌、細胞懸濁液の除去、細胞培養液の添加を4~5回繰り返し、チップ表面上のウェルに入っていない細胞を除去した。
【実施例】
【0078】
サイトカインの検出
解析(1)
チップにOT-1 TCRトランスジェニックマウス由来の細胞を播種したチップを上記のように準備する。次に、チップ表面の細胞培養液を1μg/mLの抗原ペプチド(OT-1ペプチド)および1μg/mL 抗CD28抗体を含む培養液、あるいは、1μg/mLの非抗原ペプチド(HYペプチド)および1μg/mL 抗CD28抗体を含む培養液と置換し、チップをCO2インキュベータ中で5% CO2、37℃の条件で培養することにより細胞の刺激を行った。
【実施例】
【0079】
同様に、チップにHY TCRトランスジェニックマウス由来の細胞を播種したチップを上記のように準備する。次に、チップ表面の細胞培養液を1μg/mLの非抗原ペプチド(OT-1ペプチド)および1μg/mL 抗CD28抗体を含む培養液、あるいは、1μg/mLの抗原ペプチド(HYペプチド)および1μg/mL 抗CD28抗体を含む培養液と置換し、チップをCO2インキュベータ中で5% CO2、37℃の条件で培養することにより細胞の刺激を行った。
【実施例】
【0080】
刺激開始6時間後に、チップ表面の細胞培養液を除去し、チップをPBSにて3回洗浄し、ビオチン標識抗IL-2抗体をチップ上に添加し、30分室温にてインキュベーションした。その後、チップをPBSにて3回洗浄し、Cy3標識streptavidinを添加し、30分室温にてインキュベーションした。チップを3回PBSにて洗浄し、CellTrace Oregon Greenを添加し、5分間室温にてインキュベーションし、細胞を染色した。チップを3回PBSにて洗浄後、蛍光顕微鏡にて蛍光の観察を行った(図5)。OT-1 TCRトランスジェニックマウス由来T細胞を含むリンパ球は抗原であるOT-1ペプチド + CD28抗体で刺激した時、IL-2を産生したが、抗原でないH-Yペプチド + CD28抗体で刺激した時はIL-2を産生しなかった。逆に、HY- TCRトランスジェニックマウス由来T細胞を含むリンパ球は抗原であるH-Yペプチド + CD28抗体で刺激した時、IL-2を産生したが、抗原でないOT-1ペプチド + CD28抗体で刺激した時はIL-2を産生しなかった。この結果は、抗原ペプチドによる刺激で単一T細胞が抗原特異的に刺激され、サイトカインを産生することを示している。
【実施例】
【0081】
〔実施例3:抗原特異的ヒトT細胞の検出〕
T細胞の調製
Epstein Barrウイルス(EBウイルス)は日本人のほとんどが不顕性感染している。現在、HLA-A24分子に結合するEBウイルス由来ペプチドで、T細胞エピトープとしてBRLF1やEBNA3Aなどいくつかのペプチドが同定されている。健常人A, Bの2人より末梢血20 mLをそれぞれ採血し、それに同量のPBSを加えて2倍に希釈後、リンホセパールI(免疫生物学研究所)に重層し、2000rpm, 30分遠心し、リンパ球分画を分離した。リンパ球は10% FCS/RPMI1640培地に2.5 × 106 cells/mLになるように懸濁し、以下の実験に用いた。
【実施例】
【0082】
チップの準備
マイクロウェルアレイチップ(直径10μm、126,000ウェル)に5μg/mLの抗Interferon-γ (IFN-γ) 抗体を載せ、一晩室温にてインキュベーションし、抗体をチップ表面に結合させた。翌日、チップをPBSにて洗浄後、0.01%のlipidure BL103(日油株式会社)を含むPhosphate buffered saline (PBS) をチップ表面に添加し、減圧することで、微小ウェル内の空気を除き、チップ表面およびウェル内にlipidureを接触させ、ブロッキングを行った(室温、15分以上)。その後、チップ上のlipidureを細胞培養液(10% FCS, RPMI1640)と置換した。
【実施例】
【0083】
細胞のチップへの添加
チップ上の細胞培養液を除き、上記細胞懸濁液を100μLチップ上に添加し、5分間、室温にて静置した。ピペットを用いて細胞を撹拌し、さらに5分間静置した。もう一度細胞を撹拌し、さらに5分間静置した。最後に細胞の撹拌、細胞懸濁液の除去、細胞培養液の添加を4~5回繰り返し、チップ表面上のウェルに入っていない細胞を除去した。
【実施例】
【0084】
サイトカインの検出
解析(1)
健常人AおよびBのリンパ球を播種したチップを上記のように準備する。次に、チップ表面の細胞培養液を1μg/mLのBRLF1ペプチドおよび1μg/mL 抗ヒトCD28抗体を含む培養液、あるいは、1μg/mLのEBNA3Aペプチドおよび1μg/mL 抗ヒトCD28抗体を含む培養液、さらにネガティブコントロールとして1μg/mL 抗ヒトCD28抗体を含む培養液と置換し、チップをCO2インキュベータ中で5% CO2、37℃の条件で培養することにより細胞の刺激を行った。刺激開始6時間後に、チップ表面の細胞培養液を除去し、チップをPBSにて3回洗浄し、ビオチン標識抗ヒトIFN-γ抗体をチップ上に添加し、30分室温にてインキュベーションした。その後、チップをPBSにて3回洗浄し、Cy3標識streptavidinを添加し、30分室温にてインキュベーションした。チップを3回PBSにて洗浄し、CellTrace Oregon Greenを添加し、5分間室温にてインキュベーションし、細胞を染色した。チップを3回PBSにて洗浄後、蛍光顕微鏡にて蛍光の観察を行い、IFN-γ分泌細胞を計数した(図6)。図に示されているように健常人Aのリンパ球中から主にEBウイルスペプチドBRLF1に反応しIFN-γを分泌する細胞が、健常人Bのリンパ球からは主にEBNA3Aペプチドに反応しIFN-γを分泌する細胞が検出された。並行して、BRLF1/HLA-A24四量体およびEBNA3A/HLA-A24四量体を用いてリンパ球を染色し、フローサイトメータで解析した(データを示していない)。上記チップを使った解析の結果とフローサイトメータの結果は同様の傾向を示した。すなわち、フローサイトメータを用いた解析でも健常人AのサンプルからはBRLF1に反応するT細胞が観察され、健常人BのサンプルからはEBNA3Aに反応するT細胞が観察された。この結果より、本方法がマウスだけでなくヒトのT細胞にも応用できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により、抗原特異的T細胞をチップ上で検出することが可能である。これを利用して、がんペプチドワクチンの効果の判定、感染症等でのT細胞を介した免疫応答の解析等、臨床検査分野での利用が可能である。これらのキットや試薬、また、検出のための装置の開発に、本発明を利用することが可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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