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明細書 :植物病原細菌の病原性抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5950333号 (P5950333)
公開番号 特開2013-184963 (P2013-184963A)
登録日 平成28年6月17日(2016.6.17)
発行日 平成28年7月13日(2016.7.13)
公開日 平成25年9月19日(2013.9.19)
発明の名称または考案の名称 植物病原細菌の病原性抑制剤
国際特許分類 A01N  47/44        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
FI A01N 47/44
A01P 3/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願2012-053897 (P2012-053897)
出願日 平成24年3月11日(2012.3.11)
審査請求日 平成27年3月6日(2015.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】一瀬 勇規
【氏名】田口 富美子
【氏名】岩城 雅子
審査官 【審査官】石井 徹
参考文献・文献 米国特許出願公開第2006/0241185(US,A1)
特開2006-290872(JP,A)
特開2004-217581(JP,A)
化学大辞典,化学大辞典1,日本,共立出版株式会社,1997年 9月20日,縮刷版大36刷,248
調査した分野 A01N 25/00-65/00
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
4-{[{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}(イミノ)メチル]アミノ}-1-ブロモ-2-メチルベンゼンを含有する植物病原細菌の病原性抑制剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病原細菌に対して用いられる薬剤であって、病原細菌の病原性の発現を抑制することにより病原細菌による被害の発生を防止する病原性抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物における病原細菌による被害を防止するために、各種の殺菌剤が用いられている。昨今では、人畜や有益昆虫、あるいは環境等への害ができるだけ小さい殺菌剤が求められており、例えば、3-置換キノリン化合物又はその塩、及びそれを有効成分として含有する農薬などが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、このような殺菌剤でも、その散布によって目的の病原細菌だけでなく、病原性を有しない微生物までも死に至らしめる不具合を解消するには至っておらず、環境微生物相の劇的な変動・縮小を引き起こすという問題が残っていた。特に、非病原菌の中には、植物に病害抵抗性を誘導する有益な微生物も存在しており、これらの微生物までも病原菌か否かの区別なく死滅させることは回避したいところであった。
【0004】
そこで、環境に対して比較的優しく、人体にたいしても安全な薬剤として、天然に存在する桂皮酸に着目した植物病原菌抑制剤も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。ただし、この桂皮酸を用いた植物病原菌抑制剤は、一部の真菌に対してのみ効果的であり、病原細菌に適用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2008-088139号公報
【特許文献1】特開2011-190178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、このような現状を鑑みながら研究を行っていく中で、病原細菌を殺菌するのではなく、その病原細菌の病原性遺伝子の発現を抑制することで、発病を抑制できるのではないかという着想を得るに至った。
【0007】
そこで、病原細菌の一つとして知られているタバコ野火病菌を供試菌とし、このタバコ野火病菌の鞭毛や線毛の合成を阻害することにより、あるいは鞭毛や線毛の運動性を阻害することにより、病原細菌の病原性を低減できるのではないかという観点から研究開発を行うことにより本発明を成すに至り、環境微生物相に優しい病害防除剤としての病原性抑制剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の植物病原細菌の病原性抑制剤は、4-{[{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}(イミノ)メチル]アミノ}-1-ブロモ-2-メチルベンゼンを含有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の植物病原細菌の病原性抑制剤では、病原細菌を死滅させずとも病原性遺伝子の発現を抑制することにより発病を抑えることが可能となる。特に、環境中に多く存在している有益な微生物への影響を抑制でき、環境微生物相に優しい病害防除剤を提供可能とすることができる。また、病原細菌を死滅させるまで至らないことから、耐性菌の発現も抑制されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】各化合物の鞭毛合成の阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図2】各化合物のSwarming運動能(0.45% agar)阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図3】各化合物のSwarming運動能(0.25% agar)阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図4】各化合物のAHL合成の阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図5】宿主のタバコ葉での病徴進展阻害の状況を確認した実験結果一覧である。
【図6】宿主のタバコ葉での病徴進展阻害の状況を確認した実験結果一覧である。
【図7】各化合物の線毛合成の阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図8】各化合物の他の病原菌に対する鞭毛合成の阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図9】各化合物の他の病原菌に対するSwarming運動能(0.45% agar)阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図10】各化合物の他の病原菌に対するAHL合成の阻害効果を確認した実験結果一覧である。
【図11】化合物No.1の類縁体の有効性を確認した実験結果一覧である。
【図12】化合物No.4の類縁体の有効性を確認した実験結果一覧である。
【図13】化合物No.8の類縁体の有効性を確認した実験結果一覧である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の植物病原細菌の病原性抑制剤は、上述したように、病原細菌の一つとして知られているタバコ野火病菌を供試菌として見出されたものであり、その重要な病原性因子である鞭毛合成能、鞭毛運動能及び菌体密度感知機構(クオラムセンシング)等は阻害するが、その生育自体は阻害しないものである。

【0012】
このような病原性抑制剤を見出すために、まずは、MicroHitFinder(Maybridge社)のケミカルライブラリを用い、目的とする化合物の検索を行った。

【0013】
すなわち、ライブラリにおける14400品目/180プレートの各サンプルを、タバコ野火病菌の野生株に、それぞれ終濃度が100μMとなるように処理して、24時間培養を行って、一次スクリーニングを行った。

【0014】
一次スクリーニングは、
(1)鞭毛合成あるいは糖鎖修飾:Flagellin抗体によるWestern blotting、
(2)鞭毛運動能:0.25%agar含有MMMFプレートによるSwarmingアッセイ、
(3)AHL合成能:クロモバクテリウムによるビオラセイン呈色アッセイ、
(4)抗生物質感受性:Cm含有ディスクによる阻止円プレートアッセイ
の4項目で行った。

【0015】
さらに、静菌剤として有望な化合物の候補として、
(1)菌の増殖を阻害しないこと、
(2)劇物でないこと、
(3)抗生物質耐性を付与しないこと、
の観点での選別を行い、最終的に、以下の8種類の化合物を、病原性抑制剤として有望な化合物として特定した。
【化1】
JP0005950333B2_000002t.gif

【0016】
ちなみに、8種類のうち、化合物No.1が、amino[(4-methylbenzyl)thio]methaniminium chloride(アミノ[(4-メチルベンジル)チオ]メタンイミンクロライド)であり、化合物No.4が4-{[{[amino(imino)methyl]amino}(imino)methyl]amino}-1-bromo-2-methyl
benzene(4-{[{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}(イミノ)メチル]アミノ}-1-ブロモ-2-メチルベンゼン)であり、化合物No.8が、acridin-9-amine(アクリジン-9-アミン)である。

【0017】
以下に説明する二次スクリーニングによって、先の8種類の化合物から、上記の3種類を特定した。なお、各化合物に対する溶媒には、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。

【0018】
まず、鞭毛合成に及ぼす各化合物の影響を再度調べた。
終夜培養したPtaを新しい培地で1/100に希釈し、各化合物を終濃度50μM、100μM、200μMとして48時間処理し、anti-Fla抗体のWestern blotting解析により合成阻害効果を評価した結果を図1に示す。
図1に示すように、すべての化合物処理で、濃度依存的な鞭毛合成阻害効果が認められた。特に、化合物No.1と化合物No.4が濃度依存的に強い鞭毛合成阻害効果を示した。

【0019】
次に、運動能に及ぼす各化合物の影響を再度調べた。
Ptaに各化合物を終濃度10μM及び100μMとして24時間処理し、軟寒天培地上でのSwarming運動能(0.45% agar)阻害効果を評価した結果を図2に示す。同様に、終濃度100μMとして24時間処理し、軟寒天培地上でのSwarming運動能(0.25% agar)阻害効果を評価した結果を図3に示す。
ほとんどの化合物処理によって、濃度依存的な運動能阻害効果が確認された。

【0020】
次に、AHL合成に及ぼす各化合物の影響を再度調べた。
クロモバクテリウムCV026株を包埋したプレート上に、各化合物を終濃度50μM及び100μMとして24時間処理したPta培養液を直接接種し、ビオラセインの呈色を比較した結果を図4に示す。
この場合、化合物No.1と化合物No.4は強いAHL合成阻害効果を示したが、化合物No.8は高濃度処理時のみ効果を示した。

【0021】
次に、病原性に及ぼす各化合物の影響を調べるため、宿主のタバコ葉での病徴進展阻害の状況を確認した。
Ptaに各化合物を終濃度100μMで24時間処理した培養液を1/10に希釈し、10μlの希釈液を針で傷を付けた葉上に摂取し、その後10日間23℃で培養した結果を図5に示す。また、希釈液に切り葉を20分間浸漬させた後、10日間23℃で培養した結果を図6に示す。
各化合物が、DMSO処理区と比較して、病徴の進展を阻害していることが確認された。

【0022】
次に、線毛合成に及ぼす各化合物の影響を調べた。
終夜培養したPtaを新しい培地で1/100に希釈し、各化合物を終濃度100μMとして24時間処理し、anti-pili抗体のWestern blotting解析により合成阻害効果を評価した結果を図7に示す。
図7に示すように、鞭毛合成を阻害する化合物が、線毛合成も阻害することが確認できた。

【0023】
ここまで、タバコ野火病菌(Pseudomonas syringae pv. tabaci6605)を用いて各化合物の効果の確認を行ってきたが、タバコ野火病菌以外に、ダイズ斑点細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. glycinea rece4)、トマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000)、シロクローバ葉枯細菌病菌(Pseudomonas cichorii KN52)、イネ内穎褐変病菌(Pantoea ananatis NARCB200120, AZ200124)、アブラナ科植物黒腐病菌(Xanthomonas campestris pv. campestris XcA)、ジャガイモ輪紋病菌(Erwinia chrysanthemi 92-31)、イネもみ枯細菌病菌(Burkholderia glumae Pg-10)に対して、同様にWestern blotting解析により鞭毛合成の阻害効果を評価した結果を図8に示す。
多くの病原菌に対して、鞭毛合成の阻害効果が確認された。

【0024】
また、各化合物のトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000)、ダイズ斑点細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. glycinea rece4)、ジャガイモ輪紋病菌(Erwinia chrysanthemi 92-31)、イネ内穎褐変病菌(Pantoea ananatis NARCB200120, AZ200124)、シロクローバ葉枯細菌病菌(Pseudomonas cichorii KN52)に対するSwarming運動能の抑制効果を同様に評価した結果を図9に示す。
各化合物において、多くの病原菌に対して、Swarming運動能の抑制効果が確認された。

【0025】
また、各化合物のイネ内穎褐変病菌(Pantoea ananatis NARCB200120, AZ200124)、イネもみ枯細菌病菌(Burkholderia glumae Pg-10)に対して、同様にAHL合成の阻害効果を評価した結果を図10に示す。
化合物No.1、化合物No.4、化合物No.8においてAHL合成阻害効果を確認できた。

【0026】
以上の結果から、
化合物No.1:amino[(4-methylbenzyl)thio]methaniminium chloride(アミノ[(4-メチルベンジル)チオ]メタンイミンクロライド)、
化合物No.4:4-{[{[amino(imino)methyl]amino}(imino)methyl]amino}-1-bromo-2-
methylbenzene(4-{[{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}(イミノ)メチル]アミノ}-1-ブロモ-2-メチルベンゼン)、
化合物No.8:acridin-9-amine(アクリジン-9-アミン)が、病原性抑制剤として有望であることが判明した。

【0027】
なお、それぞれの化合物の類縁体において、より有望な化合物が存在する可能性があることから、それぞれの化合物の類縁体に対して、鞭毛合成とSwarming運動能の評価を行った結果を図11~13に示す。
図11~13より、いずれにおいても類縁体よりも、当初の化合物の方が効果的であることが確認された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12