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明細書 :高分子多相系材料の製造方法および高分子多相系材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5114703号 (P5114703)
公開番号 特開2007-191648 (P2007-191648A)
登録日 平成24年10月26日(2012.10.26)
発行日 平成25年1月9日(2013.1.9)
公開日 平成19年8月2日(2007.8.2)
発明の名称または考案の名称 高分子多相系材料の製造方法および高分子多相系材料
国際特許分類 C08J   3/20        (2006.01)
FI C08J 3/20 CERZ
請求項の数または発明の数 10
全頁数 27
出願番号 特願2006-013172 (P2006-013172)
出願日 平成18年1月20日(2006.1.20)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2005年7月22日 インターネットアドレス「http://pacifichem.abstractcentral.com/planner?NEXT PAGE=ITINERARY ABS DET POP&ABSTRACT ID=101797&SESSION ID=8981&PROGRAM ID=1412」に発表
特許法第30条第1項適用 2005年7月22日 インターネットアドレス「http://pacifichem.abstractcentral.com/planner?NEXT PAGE=ITINERARY ABS DET POP&ABSTRACT ID=101817&SESSION ID=9384&PROGRAM ID=1412」に発表
特許法第30条第1項適用 平成17年9月5日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集54巻2号」に発表
特許法第30条第1項適用 2005年12月18日 日本化学会・アメリカ化学会・カナダ化学会・オーストラリア化学会・ニュージーランド化学会・韓国化学会主催の「2005環太平洋国際化学会議(PACIFICHEM2005)」において文書をもって発表
特許法第30条第1項適用 2005年12月18日 日本化学会・アメリカ化学会・カナダ化学会・オーストラリア化学会・ニュージーランド化学会・韓国化学会主催の「2005環太平洋国際化学会議(アブストラクツ)」において文書をもって発表
審査請求日 平成20年12月22日(2008.12.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
発明者または考案者 【氏名】宮田 貴章
【氏名】中西 英行
【氏名】佐藤 雅浩
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】▲吉▼澤 英一
参考文献・文献 特開2002-200623(JP,A)
特開平11-080556(JP,A)
特開2002-012605(JP,A)
特開平03-068611(JP,A)
特開2006-321852(JP,A)
調査した分野 C08J 3/00- 3/28
C08J99/00
特許請求の範囲 【請求項1】
モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して光を照射して、上記化合物を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した化合物を相分離させることにより、第一の相分離材料を得る第一工程と、
昇降温によって反応系の温度を変化させることなく、上記光を遮断して、上記重合および架橋を停止させ、かつ、第一の相分離材料の相分離をさらに進行させることにより、第二の相分離材料を得る第二工程と、
昇降温によって反応系の温度を変化させることなく、上記第二の相分離材料に対して光を照射して、上記第二の相分離材料を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した第二の相分離材料をさらに相分離させることにより、高分子多相系材料を得る第三工程と、を備えることにより、階層構造を有する高分子多相系材料を得ることを特徴とする、階層構造を有する高分子多相系材料の製造方法。
【請求項2】
上記二種類以上の化合物が、スチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレート、または、ポリスチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の階層構造を有する高分子多相系材料の製造方法。
【請求項3】
上記第一工程における光の強度と、上記第三工程における光の強度とが等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の階層構造を有する高分子多相系材料の製造方法。
【請求項4】
上記光の強度が0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下であることを特徴とする請求項3に記載の階層構造を有する高分子多相系材料の製造方法。
【請求項5】
上記第三工程における光の強度が、上記第一工程における光の強度より強いことを特徴とする請求項1または2に記載の階層構造を有する高分子多相系材料の製造方法。
【請求項6】
上記第一工程における光の強度が0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下であり、上記第三工程における光の強度が0.5mW/cmより大きく10mW/cm以下であることを特徴とする請求項5に記載の階層構造を有する高分子多相系材料の製造方法。
【請求項7】
上記第二工程における光の遮断時間が、上記重合および/または架橋した化合物の相分離が開始した時から、第一の相分離材料の相分離速度が減少し始めた時までの時間であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の階層構造を有する高分子多相系材料の製造方法。
【請求項8】
モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物を、光を用いて重合および/または架橋させてなり、かつ、上記重合および/または架橋した化合物が相分離した構造を備え、
上記相分離した構造が、さらに階層構造を備えていることを特徴とする高分子多相系材料。
【請求項9】
上記二種類以上の化合物が、スチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレート、または、ポリスチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項8に記載の高分子多相系材料。
【請求項10】
さらに共連続構造を備えることを特徴とする請求項8または9に記載の高分子多相系材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子多相系材料の製造方法および高分子多相系材料に関するものであり、特に、光を用いて反応と相分離とを独立に制御することにより、階層構造を有する高分子多相系材料を製造する方法および階層構造を有する高分子多相系材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相互侵入高分子網目(Interpenetrating Polymer Network;以下「IPN」という)とは、2個以上の網目(高度に分岐し、多数の閉じた経路(ループ)を持つ高分子)が少なくとも分子スケールで部分的に織り混ざっており、互いに共有結合でつながっているわけではないが、化学結合を切ることなしに分けることのできないポリマーをいう。IPNは、通常、熱反応によるモノマーの重合・架橋によって合成され、反応の途中で反応系の相分離が引き起こされる。その後、誘発された相分離は反応とともに進行し、最終的なIPNのモルフォロジーは反応と相分離との競合によって決定される。
【0003】
反応系の相分離が起こると、通常、熱反応の進行とともにIPNの構造は粗大化していくが、まれに相分離が不均一に起こり、階層構造が形成されることがある(非特許文献1)。階層構造とは、相分離によって形成された相の中にさらに別の相が形成された構造をいう。例えば、生物の軟骨はコラーゲンやプロテオグリカンなどの高分子物質の三次元の階層構造から成っており、複数の物質が複雑に相互作用することによって、多面性のある生物らしい仕組みや構造を形作っていることが知られている。

【非特許文献1】Xiaolin Tang, Linxia Zhang, Tao Wang, Yingfeng Yu, Wenjun Gan, Shanjun Li., Macromolecular rapid communications, 25, 1419-1424、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、熱反応を用いているので、IPNに階層構造を生成させることは困難であるという問題がある。すなわち、階層構造は、モノマーの重合・架橋反応と、相分離との競合によって決定されるため、階層構造を有効に設計・制御するためには、反応と相分離とを独立に制御して、反応の開始と停止を瞬時に切り替え、速度が異なる複数の相分離を同時に進行させることが必要であるが、熱反応では、昇温又は降温が不可欠であるため、反応の開始と停止を瞬時に切り替えることはできない。また、熱反応では、昇温又は降温中の温度変化に伴って相分離の様式が変化してしまう。それゆえ、熱反応では反応と相分離とを独立に制御することはできず、IPNに階層構造を生成させることは困難である。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光を用いて反応と相分離とを独立に制御することにより、階層構造を有する高分子多相系材料を製造する方法および階層構造を有する高分子多相系材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、熱反応に代えて光反応を利用すると、光の照射と遮断を行うだけで瞬時に反応の開始、停止を切り替えることができ、熱反応のように昇降温によって反応系の温度を変化させることなく、光の強度を調節するだけで反応速度を操作することができるため、反応と相分離とを独立に制御でき、その結果、階層構造を有する高分子多相系材料を容易に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して光を照射して、上記化合物を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した化合物を相分離させることにより、第一の相分離材料を得る第一工程と、上記光を遮断して、上記重合および架橋を停止させ、かつ、第一の相分離材料の相分離をさらに進行させることにより、第二の相分離材料を得る第二工程と、上記第二の相分離材料に対して光を照射して、上記第二の相分離材料を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した第二の相分離材料をさらに相分離させることにより、高分子多相系材料を得る第三工程と、を備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、光を照射することにより、第一工程で重合および/または架橋(以下単に「反応」ともいう)と相分離とを同時進行させ、第二工程では光を遮断することによって反応を停止させて相分離のみを進行させ、第三工程では再び光を照射することによって、反応と、第二工程で進行していた相分離とは別の、速度の速い相分離とを誘発することができる。このように、反応と相分離とを独立に制御することができるため、第二工程終了までに既に相分離した相がさらに相分離した構造、すなわち階層構造を非常に容易に得ることができる。
【0009】
本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、上記二種類以上の化合物が、スチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレート、または、ポリスチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレートであることが好ましい。
【0010】
これらのモノマー、ポリマーはIPNの作製に汎用される物質であり、相溶性に優れる。したがって、本発明に係る製造方法の原料として好適に用いることができ、階層構造を有する高分子多相系材料の効率よい製造に寄与することができる。
【0011】
本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、上記第一工程における光の強度と、上記第三工程における光の強度とが等しいことが好ましい。上記構成によれば、一定の光強度で光反応を行うので、光強度の調節が必要ない。したがって、より簡易な工程で階層構造を有する高分子多相系材料を得ることができる。
【0012】
上記第一工程における光の強度と、上記第三工程における光の強度とが等しい場合、上記光の強度が0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下であることが好ましい。上記構成によれば、比較的弱い一定の強度の光によって反応および相分離を行うことができるので、階層構造を有する高分子多相系材料を少ない光で得ることができる。
【0013】
本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、上記第三工程における光の強度が、上記第一工程における光の強度より強いことが好ましい。上記構成によれば、第三工程における光の強度が第一工程における光の強度よりも強いため、第三工程においては相分離よりも反応が迅速に進行し、相分離が抑制される。したがって、階層構造のみならず、共連続構造をも固定化することができる。
【0014】
上記第三工程における光の強度が、上記第一工程における光の強度より強い場合は、上記第一工程における光の強度が0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下であり、上記第三工程における光の強度が0.5mW/cmより大きく10mW/cm以下であることが好ましい。
【0015】
反応と相分離とは、互いに競合しながら進行し、光の強度が弱いと相分離がよく進行し、光の強度が強いと反応が迅速に進行する。第一工程では、光の強度を上記範囲に調整することによって、比較的弱い強度の光が照射されるので、反応と相分離とを同時に進行させることができ、第三工程では、光の強度を第一工程よりも強い上記範囲に調整することによって、相分離よりも反応を迅速に進行させることができる。その結果、階層構造とともに、共連続構造を有する高分子多相系材料を得やすくすることができる。
【0016】
本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、上記第二工程における光の遮断時間が、上記重合および/または架橋した化合物の相分離が開始した時から、第一の相分離材料の相分離速度が減少し始めた時までの時間であることが好ましい。上記構成によれば、反応が停止されている間に、粗大になり過ぎない程度に相分離を進行させることができる。それゆえ、第二の相分離材料の状態を、第三工程において階層構造が生成されやすい状態にすることができる。
【0017】
本発明に係る高分子多相系材料は、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物を、光を用いて重合および/または架橋させてなり、かつ、上記重合および/または架橋した化合物が相分離した構造を備え、上記相分離した構造が、さらに階層構造を備えていることを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、本発明に係る高分子多相系材料は階層構造、すなわち、重合および/または架橋した化合物が相分離しており、上記相分離した各相の中にさらに相が形成された構造となり、モノマーおよび/またはポリマーの重合体および/または架橋体からなる多数の相を備える。したがって、強度の高い材料とすることができる。
【0019】
本発明に係る高分子多相系材料は、上記二種類以上の化合物が、スチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレート、または、ポリスチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレートであることが好ましい。これらのモノマー、ポリマーはIPNの作製に汎用される物質である。したがって、本発明に係る高分子多相系材料の原料として好適に用いることができ、これらのモノマー、ポリマーを原料とすることで、階層構造を有する高分子多相系材料を効率よく得ることができる。
【0020】
本発明に係る高分子多相系材料は、さらに共連続構造を備えることを特徴としている。上記構成によれば、階層構造を形成する各相が、共連続構造すなわち高分子多相系材料の深さ方向に表面から底面まで切れ目のないトンネル状の構造を取るため、材料に強度を付与するのみならず、透過分離機能をも付与することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して光を照射して、上記化合物を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した化合物を相分離させることにより、第一の相分離材料を得る第一工程と、上記光を遮断して、上記重合および架橋を停止させ、かつ、第一の相分離材料の相分離をさらに進行させることにより、第二の相分離材料を得る第二工程と、上記第二の相分離材料に対して光を照射して、上記第二の相分離材料を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した第二の相分離材料をさらに相分離させることにより、高分子多相系材料を得る第三工程と、を備える構成である。
【0022】
それゆえ、反応と相分離とを独立に制御することができ、第二工程終了までに既に相分離した相がさらに相分離した構造、すなわち階層構造を有する高分子多相系材料を非常に容易に得ることができるという効果を奏する。
【0023】
また、本発明に係る高分子多相系材料は、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物を、光を用いて重合および/または架橋させてなり、かつ、上記重合および/または架橋した化合物が相分離した構造を備え、上記相分離した構造が、さらに階層構造を備える構成である。それゆえ、強度が高く、種々の製品に応用可能な材料を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
(1)高分子多相系材料の製造方法
一実施形態において、本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して光を照射して、上記化合物を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した化合物を相分離させることにより、第一の相分離材料を得る第一工程と、上記光を遮断して、上記重合および架橋を停止させ、かつ、第一の相分離材料の相分離をさらに進行させることにより、第二の相分離材料を得る第二工程と、上記第二の相分離材料に対して光を照射して、上記第二の相分離材料を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した第二の相分離材料をさらに相分離させることにより、高分子多相系材料を得る第三工程と、を備える。
【0026】
本明細書において、用語「高分子多相系材料」とは、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物を原料とし、階層構造を有するIPNをいう。
【0027】
モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物は、互いに相溶性を有するものであれば組み合わせは特に限定されるものではない。例えば化合物が二種類である場合、相溶性を有するものであればモノマーとモノマー、モノマーとポリマー、ポリマーとポリマーのいずれの組み合わせでも用いることができる。すなわち、光を照射する前の状態で、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物が相溶していればよい。光を照射する前に相分離していると、実験の初期条件が異なることになるため、再現性が低くなり好ましくない。なお、化合物が二種類であり、モノマーとポリマーの組み合わせである場合は、例えばメチルメタクリレートとポリメチルメタクリレートの組み合わせのように、あるモノマーと、当該モノマーのみを重合させたポリマーとの組み合わせでは、相分離が形成されないので好ましくない。
【0028】
具体的には、例えば、モノマーとしてはメチルメタクリレート、スチレンとその誘導体、アルキルメタクリレート等を用いることができる。また、ポリマーとしてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート等を用いることができる。中でも、上記二種類以上の化合物が、スチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレート、または、ポリスチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレートであることが好ましく、メチルメタクリレートとポリスチレンであることが特に好ましい。これらのモノマー、ポリマーはIPNの作製に汎用される物質であり、相溶性にも優れるため、好ましく用いられる。また、メチルメタクリレートとポリスチレンとを用いる場合、使用量は重量比で95:5~60:40であることが好ましい。
【0029】
なお、本明細書中において、「ポリマー」の重合度は特に限定されるものではなく、二量体以上であればよい。すなわち、ポリマーにはダイマー、トリマーなどのオリゴマーも含まれるものとする。また、光反応により、高分子鎖同士が架橋され、ネットワークにもなり得る。
【0030】
本発明に係る製造方法では、上記化合物を相溶させて反応液を作製し、当該反応液に光を照射し、光反応を起こす。光としては、特に限定されるものではなく、紫外光、可視光線、赤外光等の従来公知の光を使用することができる。中でも、反応と相分離とを円滑に進行させることができるため、紫外光を用いることが好ましい。光の照射方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、蛍光灯、UVランプ、発光ダイオード(LED)、水銀灯等、レーザー光源等の従来公知の光源を用い、上記溶液に均一に光が照射されるようにすればよい。上記「均一」とは、空間的に均一であることを意味する。換言すれば、上記溶液のどの場所でも、同じ強度の光が当たっていることを意味する。
【0031】
光反応の開始剤としては、ルシリンTPO、Irgacureの誘導体、ジエチルチオサントン、5-nitroacenaphthalene等を必要に応じて用いることができる。上記開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、反応に用いる物質の全重量に対して2重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0032】
上記光の波長は、上記化合物を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した化合物を相分離させることができるものであれば特に限定されるものではないが、紫外光を用いる場合、300nm以上400nm以下であることが好ましい。
【0033】
上記第一工程における光の照射時間は、光の照射開始から、重合および/または架橋した化合物の相分離が開始されるまでの時間であることが好ましい。
【0034】
相分離の開始は、例えば第一工程の進行状況を共焦点レーザースキャン顕微鏡で観察し、相分離の開始を目視で確認することや、光散乱法等の方法によって判断することができる。光散乱法としては、例えば動的光散乱法を用いることができる。動的光散乱法とは、溶液中の粒子のブラウン運動を検出し、粒子の大きさを算出する方法であり、決まった媒体、決まった温度、決まった粘度であれば決まったブラウン運動を示すと仮定し、粒子の大きさを算出する方法である。例えば、小さな粒子の場合、非常に速い運動速度を持ち、粒子が大きくなるに従いその運動速度は減少する。
【0035】
そこで、粒子が分散している溶液にレーザー光を当て、その散乱光変化を測定すると、ブラウン運動に見合った散乱光の揺らぎ、つまり粒子径に見合った揺らぎを検出することができる。動的光散乱法では、これらの散乱光の揺らぎを、自己相関関数から求められる粒子の拡散係数から粒子の大きさとして算出し、粒径分布を得ることができる。そして、当該粒径分布の変化を観察することにより、相分離の開始を判断することができる。
【0036】
なお、上記「相分離」とは、熱力学的に均一な一つの状態、すなわち一つの相にあった物質系が、温度、圧力などの変数を変化させたとき、二つの相に分離する現象をいう(理化学辞典第5版 769頁、岩波書店)。すなわち、分子相溶性を有する上記二種類以上の化合物を含んでなる系(一相領域)に含まれる少なくとも二種類の化合物が均一に混じり合わず、二以上の相からなる構造を有することをいう。
【0037】
また、上記「重合」とは、モノマーが2個以上結合してモノマーの整数倍の分子量を持つ化合物を生成する化学反応をいい、「架橋」とは、橋をかけるように、鎖状高分子の分子間で化学結合を形成させることをいう。
【0038】
また、本明細書における重合および/または架橋には、モノマーの重合と、重合したモノマー同士の架橋とが起こる場合、ポリマーの架橋が起こる場合、ポリマーの鎖長が延長され、さらに鎖長が延長されたポリマー同士が架橋される場合のいずれもが含まれる。
【0039】
上記「第一の相分離材料」とは、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して光を照射して、上記化合物を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した化合物を相分離させることによって得られるIPNである。
【0040】
まず、図1を参照しながら、上記第一工程について説明する。図1は、上記第一工程によって第一の相分離材料が合成される様子を示した模式図である。図1では、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物として、メチルメタクリレートと、側鎖にアントラセンおよびフルオレセインがラベルされたポリスチレン(以下「PSAF」という)とを用い、光開始剤としてルシリンTPO、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレートを用いた例について説明する。
【0041】
なお、アントラセンは光二量化反応や光架橋反応を行うことを目的として反応系に加えられる物質である。同様の目的を達成するために、他に用いることができる物質としては、例えば桂皮酸、スチルバゾール、クマリン、エチレングリコールメタクリレート等やこれらの誘導体を挙げることができる。フルオレセインは、共焦点レーザー顕微鏡で階層構造を観察する際に観察を容易にするために用いる蛍光体であり、顕微鏡で観察するとPSAFが緑色の蛍光を発する様子を確認することができる。
【0042】
PSAFをメチルメタクリレートに溶解させて調製した液温30℃の反応液に、365nmの紫外光を照射すると、ルシリンTPOとアントラセンが光エネルギーを吸収して、アントラセンの二量化反応とメチルメタクリレートの重合反応が進行し、反応の途中で相分離が誘発されることにより、上記第一の相分離材料を得ることができる。
【0043】
モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物を相溶させて得られる反応液の液温は、熱反応が起こらない温度に保持されていればよく、必ずしも上述のように30℃に限られるものではないが、本発明では光を用いて反応および相分離を行うので、従来の熱反応を用いる方法のように反応液を昇降温させる必要がなく、常温や室温のような比較的低い温度で、一定温度で反応および相分離を進行させることができる。一方、従来の熱反応を用いる方法では、一般に、反応を進行させるためには上記液温を約70℃~80℃に昇温させる必要があり、反応を停止させるためには液温を30℃程度に降温させる必要がある。
【0044】
しかしながら、このように昇降温を伴うということは、反応系の相溶性を変化させるものであるとともに、相分離の様式をも変化させるものである。したがって、本発明のように光を用いる場合と比較すると、反応および相分離の制御は困難であり、階層構造を作ることも困難である。また、昇降温のための時間が必要なので、必然的に反応時間は長くなり、反応効率は良くないものとなる。
【0045】
一方、本発明では、光を用いて反応を行うので、一定の液温で反応を進行させることができ、従来の熱反応を用いる方法のように昇温しなくても反応系にエネルギーを与えることができる。したがって、熱反応を用いる方法のように反応液を昇温させることなく、常温や室温のような低い温度でもIPNを合成することができるため、反応を短時間で行うことができる観点から有用である。また、昇降温に伴うエネルギーの浪費がないため、省エネルギーの観点からも有用であるといえる。
【0046】
次に、上記第二工程について説明する。上記第二工程は、第一工程において照射した光を遮断して、重合および架橋を停止させ、かつ、第一の相分離材料の相分離をさらに進行させることにより、第二の相分離材料を得る工程である。当該「第二の相分離材料」とは、上記第一の相分離材料の重合および架橋を停止させ、かつ、第一の相分離材料の相分離をさらに進行させたIPNであり、第一の相分離材料の相分離速度が減少し始めた時から階層構造が形成されるまでのIPNである。
【0047】
上記光の遮断は、既に説明した光源から発せられる光が第一の相分離材料に照射されないようにすればよく、その方法は特に限定されるものではない。例えば、光源と第一の相分離材料との間に遮光板等を設置して光を遮断したり、光源のスイッチを切ったりすることによって光を遮断すればよい。上記化合物に光を照射している間は、反応と相分離とは競合的に進行するが、光を遮断することによってエネルギーが供給されなくなるため、第二工程では反応は停止する。
【0048】
一方、第一工程で生じた相分離は、競合的に進行していた反応が停止するため、光を遮断しても進行する。すなわち、上記化合物が相溶している系(一相領域)に対して光を照射すると、化合物の分子構造が変化し、重合および/または架橋反応の進行とともに、重合および/または架橋した化合物が相分離する領域である二相領域が拡大する。そして、反応系が一相領域から二相領域に入ると、再び一相領域に戻ることはなく、相分離が成長してゆくため、相分離は光を遮断しても進行する。したがって、上記第二工程では、反応は進行せず、相分離のみが進行することになる。
【0049】
光を遮断するタイミングとしては、二相領域(重合および/または架橋した化合物が相分離する領域)の発現が開始したことを確認後、遮断することが好ましい。
【0050】
上記第二工程においては、相分離の進行に伴って、第一の相分離材料の構造が粗大化する。そして、相分離がある程度進行すると、第一の相分離材料に粘度が生じてくるため、相分離速度は減少に転ずる。後述するように、本発明者は、相分離の速度が減少に転じてから再度光を照射すると、反応が再開され、相分離も引き続き進行することによって階層構造が形成されることを見出している。
【0051】
したがって、上記第二工程における光の遮断時間は、上記重合および/または架橋した化合物の相分離が開始した時から、第一の相分離材料の相分離速度が減少し始めた時までの時間であることが好ましい。具体的には、光の遮断時間は、上記重合および/または架橋した化合物の相分離が開始した時から30分以上300分以下であることが好ましいが、第一工程における光の照射強度を強くすることによって、光の遮断時間を短縮することも可能である。後述する実施例においては、PSAFとメチルメタクリレートとを用いた系で相分離が開始した直後に紫外光を遮断後、60分間遮断を継続している。
【0052】
なお、上記相分離速度の減少は、光散乱法や、画像のデジタル処理等の方法によって確認することができる。画像のデジタル処理は、共焦点レーザースキャン顕微鏡によって得られた画像をフーリエ変換して相分離構造の特性長(平均の大きさ)を求め、これを時間に対してプロットすることにより行うことができる。これによって、相分離構造がどのように成長しているかを知ることができる。相分離速度が減少すると、時間に対する相分離構造の特性長は変わらなくなることから、相分離速度の減少を確認することができる。定量的に速度を求める必要がある場合は、上記プロットした結果を微分すればよい。
【0053】
続いて、上記第三工程について説明する。本明細書における第三工程とは、上記第二の相分離材料に対して光を照射して、上記第二の相分離材料を重合および/または架橋させ、かつ、上記重合および/または架橋した第二の相分離材料をさらに相分離させることにより、高分子多相系材料を得る工程である。第二工程で光を遮断した後で、上記第二の相分離材料に対して光を再度照射することにより、既に第二工程で進行し、速度が減少した遅い相分離と、再度光を照射することによって新たに引き起こされた速度の速い相分離とが同時進行する。その結果、第二工程で生じた相分離構造の中にさらに相分離が引き起こされ、相分離した相の中にさらに相が形成された構造、すなわち階層構造が発現する。
【0054】
上記光の強度は、反応および相分離を惹起することができる強度であれば、特に限定されるものではないが、反応および相分離を効率よく誘発するために、第一工程および第三工程における光の強度は、0.01mW/cm以上であることが好ましい。第一工程における光の強度は、相分離を誘発するために用いる光の強度が高いと、その後の第二工程において相分離が進行しにくくなるため、0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下であることが好ましく、第三工程における光の強度は、あまり強度が強いと、第三工程において反応が進みすぎてしまい、相分離が反応によって抑制されて発現しにくくなるため、0.01mW/cm以上10mW/cm以下であることが好ましい。第三工程における光の強度は、第一工程における光の強度よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。しかしながら、第三工程における光の強度が第一工程における光の強度よりも小さい場合は、第三工程において反応が十分に起こらない可能性があるため、第三工程における光の強度は、第一工程における光の強度以上であることが好ましい。
【0055】
上記第三工程における光の強度は、上記第一工程における光の強度と等しくてもよい。両工程において光の強度が一定であれば、光の強度を調節する必要が必要ないため、より簡易な工程で階層構造を有する高分子多相系材料を得ることができる。
【0056】
光の強度が一定の場合は、強度が0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下であることが好ましい。光の強度が当該範囲の場合、強度が比較的弱い一定の光によって反応および相分離が行われることになる。光の強度が弱いと、共連続構造は比較的切れやすいが、本発明に係る製造方法は、第一工程ないし第三工程において、光の照射と遮断を周期的に行いながら反応および相分離を行うものであるため、仮に共連続構造が得られない場合でも、確実に階層構造を得ることはできる。
【0057】
したがって、0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下の一定の光を照射する方法は、共連続構造は得られなくても、階層構造を得れば十分であるような場合に好適に用いることができる。例えば、高い強度を有する高分子多相系材料を所望するが、高い透過特性までは求めないような場合に好適に用いることができる。
【0058】
また、上記第三工程における光の強度は、上記第一工程における光の強度より強くてもよい。第三工程における光の強度を第一工程における光の強度より強くすることにより、第二工程で粗大化し、相内が不安定な状態となっている第二の相分離材料において、相分離よりも反応を迅速に進行させることができる。その結果、階層構造のみならず、共連続構造をも固定化することができる。したがって、第三工程における光の強度としては上記第一工程における光の強度より強ければ特に限定されるものではないが、上記第一工程における光の強度が0.01mW/cm以上0.5mW/cm以下であり、上記第三工程における光の強度が0.5mW/cmより大きく10mW/cm以下であることが好ましい。
【0059】
この場合、第一工程では、光の強度を上記範囲に調整することによって、比較的弱い強度の光が照射されるので、反応と相分離とを同時に進行させることができ、第三工程における光の強度を第一工程よりも強い上記範囲に調整することによって、相分離よりも反応を迅速に進行させることができる。その結果、階層構造とともに、共連続構造を有する高分子多相系材料を得ることができる。
【0060】
第一工程における反応の結果生じた共連続構造は、反応系が一相領域から、図2における共存曲線の内側、すなわち二相領域に入った後、相平衡に近づくにつれて切れやすくなる。例えば、図2はメチルメタクリレートとPSAFとを反応させた場合の相図であるが、反応系が一相領域から図中の共存曲線の内側に入ると相分離が始まり、さらにスピノーダル曲線の内側に入ると、反応系は相平衡に向かって相分離を始める。この場合相平衡とは、図2の例では、反応系が、ポリメチルメタクリレートが多い相とPSAFが多い相とに分離して平衡状態になることである。そして、反応系がスピノーダル曲線の内側にあるときは、共連続構造が得られ、反応系がスピノーダル曲線の外側に出ると共連続構造は切れることが実験的、理論的に知られている。
【0061】
なお、共存曲線(バイノーダル曲線)とは、物質系の状態が状態変数の値によってどのように変化するかを示す相図において、2相が共存する状態を示す点を結ぶ曲線のことをいい、スピノーダル曲線(尖点曲線)とは、熱力学平衡にある均一相としては存在できないが、準安定相として存在しうる限界を示す曲線をいう。
【0062】
したがって、反応系をスピノーダル曲線の内側に保つことができれば、共連続構造を保つことができることになる。そのためには、相分離の進行度合を抑えることが有効である。そして、第三工程における光の強度を第一工程よりも強くすると、相分離よりも反応を迅速に進行させることができるため、共連続構造を保持したまま相分離の進行度合を抑えることができる。その結果、階層構造とともに、共連続構造を有する高分子多相系材料を得ることができる。さらに、第一工程および第三工程の光の強度を上記範囲に調整することによって、第一工程では、比較的弱い強度の光が照射されるため、反応と相分離とを同時に進行させることができ、第三工程では相分離よりも反応を迅速に進行させることができる。その結果、階層構造とともに、共連続構造を有する高分子多相系材料をより容易に得ることができる。
【0063】
このように、本発明の製造方法では、昇降温を伴わずに、光の照射と遮断とを切り替えるだけで、容易に階層構造を有する高分子多相系材料を得ることができる。すなわち、上記化合物に光を照射することによって、熱反応のように昇温させなくても反応と相分離とを競合的に進行させることができ、次に光を遮断することによって、熱反応のように降温させなくても、瞬時に反応を停止させて相分離のみを進行させることができる。そして、再度光を照射することによって、熱反応のように昇温させなくても、瞬時に再度反応を進行させるとともに、速度の速い相分離を新たに誘発することができる。このように、本発明の製造方法では、光を用いることによって、反応と相分離とを独立に制御することができ、非常に容易に階層構造を作ることができる。このことは、本発明によって初めて見出された知見である。
【0064】
一方、熱反応の場合は、上記第一工程、第二工程、第三工程で表される処理を行おうとしても、反応の開始および停止をさせるためには昇降温が必要なため、光を用いる場合のように、各工程を瞬時に切り替えることはできない。例えば、本発明では、上記第二工程で、単に光を遮断するだけで反応を停止させ、相分離のみを進行させることができる。一方、熱反応では、反応が停止する温度まで液温を下げるには時間が必要なため、降温中に反応および相分離の双方が進行してしまう。すなわち、光を用いる場合のように反応だけを停止させることはできない。そのため、光を用いる場合とは相分離の様式や反応系の相溶性が異なるものとなり、階層構造を有する高分子多相系材料を得ることは非常に困難となる。
【0065】
本発明の製造方法は、上記第一工程ないし第三工程を備えることによって、階層構造を容易に形成することができるが、上記第一工程ないし第三工程を行う回数は1回に限られるものではない。階層の数を増加させたい場合は、上記第一工程ないし第三工程を1サイクルとして、上記第一工程ないし第三工程を繰り返して行えばよい。
【0066】
(2)高分子多相系材料
一実施形態において、本発明の高分子多相系材料は、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物を、光を用いて重合および/または架橋させてなり、かつ、上記重合および/または架橋した化合物が相分離した構造を備え、上記相分離した構造が、さらに階層構造を備えている。係る高分子多相系材料は、既に説明した本発明に係る高分子多相系材料の製造方法によって製造することができる。
【0067】
本発明の高分子多相系材料は、本発明に係る高分子多相系材料の製造方法において、第三工程における光の強度を第一工程における光の強度より強くすることにより、階層構造のみならず、共連続構造を備える構造とすることができる。共連続構造の特性長は、連続的または段階的に変化していてもよいし、一定であってもよい。本発明の高分子多相系材料の原料となる二種類以上の化合物としては、IPNの作製に汎用される物質であり、相溶性に優れるという観点から、スチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレート、または、ポリスチレンおよびメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレートであることが好ましく、メチルメタクリレートとポリスチレンであることが特に好ましい。
【0068】
(3)本発明の製造方法によって製造された高分子多相系材料および本発明の高分子多相系材料の有用性
本発明の製造方法によって製造された高分子多相系材料および本発明の高分子多相系材料は、階層構造を備えるものであるため、自然界において生物が有する筋肉や軟骨等の階層構造に類似した構造を高分子化合物に持たせることができると考えられる。したがって、階層構造を持たない高分子材料と比較すると、同じ化合物から得られたものであっても機械的な強度が高い材料にすることができると考えられる。
【0069】
また、高分子多相系材料が階層構造および共連続構造を有している場合は、共連続構造を形成している相を溶剤等で除去することにより、種々の特性長を有するトンネル状の空洞を持つ材料とすることができるので、分子量に応じた透過分離機能を有する材料とすることができると考えられる。このような分離であれば、高分子の混合物を一度アプライするだけで一気に短時間で分離できるので、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のように、充填材の細孔内部に入った分子量の小さな分子を溶出させるのに長時間を要するといった問題が生じない。なお、共連続構造の特性長とは、共連続構造の径や周期の平均値をいい、構造の空間スケールを表す固有な長さである。
【0070】
さらに、IPNは防音フィルター等のダンピング材料によく利用されるが、上記高分子多相系材料は、単なるIPNではなく、階層構造を有するものであるため、上記高分子多相系材料を用いることにより、通常のIPNを用いる場合よりも、さらに遮音性が高く優れたダンピング材料を得ることができる可能性が考えられる。
【0071】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0072】
本発明について、実施例および図面に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正および改変を行うことができる。
【0073】
〔実施例1:第一工程および第三工程の光の強度が等しい場合における高分子多相系材料の製造方法〕
ポリマーとしては、PSAFを用い、モノマーとしてはメチルメタクリレート(以下「MMA」と称する。分子量100、和光純薬製)を用いた。PSAFのポリスチレンの重合度は2700である。また、光反応の開始剤としてルシリンTPO(分子量307、BASF製)を用い、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート(以下「EGDMA」と称する。分子量198、Sigma-Aldrich製)を用いた。まず、MMAにPSAFを重量比で95:5となるように溶解させ、ルシリンTPO、EGDMAを溶解させて、均一な反応液を調製した。反応液の液温は30℃であった。ルシリンTPOとEGDMAは、MMAとPSAFとを混合して調製した溶液に対して、それぞれ2重量%、4重量%となるように添加した。
【0074】
次に、上記反応液に0.01mw/cmの紫外光(波長365nm)を625秒間照射して、重合と架橋とを同時に誘発し、IPNを合成した(第一工程)。紫外光は、625秒間照射後60分間遮断した(第二工程)。図3(a)は、紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図3(b)~(f)は、紫外光を遮断直後から上記反応液を共焦点レーザー顕微鏡(LSCM,Carl Zeiss社製)によって観察した結果を示す写真である。すなわち、本発明に係る製造方法の第二工程における相分離の進行状態を示すものである。図3(g)は相分離の成長則を示す図である。なお、以下の観察結果はすべて共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察し、撮影したものである。
【0075】
ここで、図3(g)について説明すると以下のとおりである。縦軸のqmaxは、顕微鏡像をフーリエ変換することによって求められる。当該qmaxを式1に代入すると、粒子間の平均距離ζが求められる。
ζ=2π/qmax・・・式1
すなわち、qmaxが相分離時間t-t(図3(g)において双方とも対数で表示)とともに減少している様子は、相分離構造が粗大化していることを表している(ζはqmaxの逆数なので、ζは大きくなる)。そのとき、図3(g)には-1/3と示したが、相分離がどのように成長しているかは、一般的にqmax~(t-tαの指数αによって判別される。αは図3(g)に示される直線の傾きである。
【0076】
図3(b)~(f)において、黒い球状に見える部分がポリメチルメタクリレート(PMMA)が多く含まれる相(以下「PMMAリッチ相」という)であり、色の薄い部分がPSAFが多く含まれる相(以下「PSAFリッチ相」という)である。図3(b)~(f)より、第二工程では反応が停止されるため、相分離が進行して粗大化し、PMMAリッチ相が大きくなっていく様子がわかる。
【0077】
第二工程において60分間紫外光を遮断後、上記反応液に0.01mw/cmの紫外光(波長365nm)を再び照射した(第三工程)。図4(a)は、紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図4(b)~(e)は第三工程開始後の相分離の様子を経時的に観察した結果を表す写真である。図4(b)~(e)より、第三工程の開始直後から、PMMAリッチ相およびPSAFリッチ相の相内に第二の相分離が誘発されて階層構造が形成され、成長していく様子が分かる。
【0078】
図5(a)は、第三工程が進行し、完全に相分離が停止したときの反応液の様子を観察した結果を示す写真であり、図5(b)は図5(a)の拡大図である。図5(a)(b)から、PMMAリッチ相およびPSAFリッチ相の相内に第二の相分離が誘発されて階層構造が形成されていることが分かる。また、図5(c)は第一工程および第二工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の粒径分布(図中破線で示す)と、第三工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の粒径分布(図中実線で示す)とを表した図であり、図5(d)は、図5(c)の実線部を拡大して表した図である。
【0079】
図5(c)(d)より、第一工程および第二工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の平均粒径は37.0μm、第三工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の平均粒径は13.3μmであり、第一工程および第二工程の粒径分布と、第三工程の粒径分布とは互いに異なることが分かる。このことからも、本実施例によって得られる高分子多相系材料は階層構造を有すると言える。また、図5(e)は図5(a)を立体的に表した図である。
【0080】
〔実施例2:第三工程の光の強度が第一工程より強い場合における高分子多相系材料の製造方法〕
反応液の調製法、反応液の液温、ルシリンTPOとEGDMAの添加量は、実施例1と同じである。本実施例では、反応液に0.01mw/cmの紫外光(波長365nm)を625秒間照射して、重合と架橋とを同時に誘発して、IPNを合成し(第一工程)、625秒間照射後60分間遮断した(第二工程)。次に、上記反応液に0.75mw/cmの紫外光(波長365nm)を120分間照射した(第三工程)。図6は、本実施例における紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフである。
【0081】
図7(a)は本実施例における紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図7(b)~(d)は、第三工程開始後の相分離の様子を経時的に観察した結果を表す写真である。図7(b)(c)より、実施例1と同様に、PMMAリッチ相およびPSAFリッチ相の相内に第二の相分離が誘発されて階層構造が形成され、図7(d)より、PSAFリッチ相の相内では、PMMAリッチ相とPSAFリッチ相とが共に連続に入り組んだ共連続構造が発現していることが分かる。
【0082】
図8(a)は、第三工程が進行し、完全に相分離が停止したときの反応液の様子を観察した結果を示す写真であり、図8(b)は図8(a)の拡大図である。図8(c)は第三工程で誘発された相分離によって生じた共連続構造の特性長の分布を表す図であり、図8(d)は第一工程および第二工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の粒径分布を表す図である。図8(c)より、共連続構造の特性長の平均値は2.80μmであることが分かった。また、図8(d)より、第一工程および第二工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の平均粒径は37.2μmであることが分かった。
【0083】
〔実施例3:光反応の開始剤および架橋剤の濃度を変更した場合〕
次に、光反応の開始剤および架橋剤の濃度を変更し、第一工程および第三工程の光の強度が等しい場合における高分子多相系材料の製造方法について説明する。まずMMAにPSAFを重量比で95:5となるように溶解させ、ルシリンTPO、EGDMAを溶解させて、均一な反応液を調製した。反応液の液温は30℃であった。ルシリンTPOとEGDMAは、MMAとPSAFとを混合して調製した溶液に対して、それぞれ10重量%、2重量%となるように添加した。
【0084】
図9(a)は紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図9(b)~(i)は反応液に365nmの紫外光(0.01mW/cm)を710秒間照射し(第一工程)、紫外光を遮断して第二工程を開始した直後からの相分離の状態を経時的に観察した結果を表す写真である。また、図9(j)は図3(g)と同様に、相分離の成長則を示す図である。
【0085】
図9(b)~(i)に示すように、光反応の開始剤および架橋剤の濃度を変更した場合も実施例1、2と同様に階層構造が形成されることが分かる。なお、図9(b)~(e)
までは共連続構造が維持され、図9(f)以降は共連続構造が失われているのは、第二工程において反応が停止しているため、相分離が進行し、相平衡に達しているからである。
【0086】
図10(a)は、本実施例において第三工程(光強度;0.01mW/cm)によって完全に相分離構造が固定化された反応液を観察した結果を表す写真である。
【0087】
図10(c)は、図10(a)を拡大した写真であり、図10(a)に島状に現れているPSAFリッチ相の内部にさらにPMMAリッチ相が形成されていることが分かる。図10(f)は図10(c)をさらに拡大した写真であり、PSAFリッチ相の内部には大きさの異なるPMMAリッチ相が形成されていることが分かる。
【0088】
図10(b)は図10(c)において白丸で囲んだPMMAリッチ相の粒径分布を表す図である。図10(e)は、図10(f)において白丸で囲んだPMMAリッチ相の粒径分布を表す図である。このことから、PSAFリッチ相の内部には異なる2つの粒径分布を有するPMMAリッチ相が形成されていることが分かる。
【0089】
図10(d)は図10(a)を拡大した写真であり、図10(a)において海状に現れているPMMAリッチ相の内部にさらにPSAFリッチ相が形成されていることが分かる。図10(g)は図10(d)をさらに拡大した写真であり、PMMAリッチ相の内部には大きさの異なるPSAFリッチ相が形成されていることが分かる。
【0090】
このように、本実施例では、PMMAリッチ相とPSAFリッチ相が入り組んだ極めて複雑な階層構造を持つ高分子多相系材料が得られた。
【0091】
〔比較例1〕
MMAにPSAFを重量比で95:5となるように溶解させ、ルシリンTPO、EGDMAを溶解させて、均一な反応液を調製した。反応液の液温は30℃であった。ルシリンTPOは、MMAとPSAFとを混合して調製した溶液に対して2重量%となるように添加し、EGDMAは2重量%、4重量%、6重量%、8重量%、10重量%となるように添加した。
【0092】
次に、上記反応液に0.01mw/cmの紫外光(波長365nm)を遮断せずに連続的に照射した。図11(a)~(e)は、紫外光の照射開始60分後の反応液の観察結果である。光を遮断せずに連続的に照射した場合は、EGDMAの濃度を高くするにしたがってPMMAリッチ相の大きさは小さくなるものの、階層構造は得られないことが分かった。また、図12(a)~(d)は、EGDMAを2重量%用い、上記反応液に0.01mw/cmの紫外光(波長365nm)を遮断せずに連続的に照射したときの経時的な観察結果を示す写真である。図12(a)~(d)より、照射時間が長くなるに連れて、相分離構造は粗大化するものの、階層構造は得られないことが分かった。図11、12に示す結果から、光を連続照射するだけでは階層構造は得られず、光を照射した後、遮断する工程は必須であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明に係る高分子多相系材料の製造方法は、モノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して光を照射する第一工程と、光を遮断する第二工程と、再度光を照射する第三工程とを備える方法であり、階層構造を有する高分子多相系材料を製造することができる。したがって、本発明は、強度や透過分離機能等の新たな特性を有する高分子化合物の創出に寄与することができると考えられ、医薬、バイオ産業、一般材料分野等において広く利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第一工程によって第一の相分離材料が合成される様子を示した模式図である。
【図2】メチルメタクリレートとPSAFとを反応させた場合の相図である。
【図3】図3(a)は、紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図3(b)~(f)は、紫外光を遮断直後から上記反応液を共焦点レーザー顕微鏡によって観察した結果を示す写真である。図3(g)は相分離の成長則を示す図である。
【図4】図4(a)は、紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図4(b)~(e)は第三工程開始後の相分離の様子を経時的に観察した結果を表す写真である。
【図5】図5(a)は、第三工程が進行し、完全に相分離が停止したときの反応液の様子を観察した結果を示す写真であり、図5(b)は図5(a)の拡大図である。図5(c)は第一工程および第二工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の粒径分布(図中破線で示す)と、第三工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の粒径分布(図中実線で示す)とを表した図であり、図5(d)は、図5(c)の実線部を拡大して表した図である。図5(e)は図5(a)を立体的に表した図である。
【図6】実施例2における紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフである。
【図7】図7(a)は実施例2における紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図7(b)~(d)は、第三工程開始後の相分離の様子を経時的に観察した結果を表す写真である。
【図8】図8(a)は、第三工程が進行し、完全に相分離が停止したときの反応液の様子を観察した結果を示す写真であり、図8(b)は図8(a)の拡大図である。図8(c)は第三工程で誘発された相分離によって生じた共連続構造の特性長の分布を表す図であり、図8(d)は第一工程および第二工程で誘発された相分離によって生じたPMMAリッチ相の粒径分布を表す図である。
【図9】図9(a)は紫外光の照射時間と強度との関係を示すグラフであり、図9(b)~(i)は反応液に365nmの紫外光を710秒間照射し(第一工程)、紫外光を遮断して第二工程を開始した直後からの相分離の状態を経時的に観察した結果を表す写真である。また、図9(j)は相分離の成長則を示す図である。
【図10】図10(a)は、実施例3において第三工程によって完全に相分離構造が固定化された反応液を観察した結果を表す写真である。図10(c)は、図10(a)を拡大した写真であり、図10(f)は図10(c)をさらに拡大した写真である。図10(b)は図10(c)において白丸で囲んだPMMAリッチ相の粒径分布を表す図である。図10(e)は、図10(f)において白丸で囲んだPMMAリッチ相の粒径分布を表す図である。図10(d)は図10(a)を拡大した写真であり、図10(g)は図10(d)をさらに拡大した写真である。
【図11】図11(a)~(e)は、比較例1において、紫外光の照射開始60分後の反応液の観察結果を表す写真である。
【図12】図12(a)~(d)は、EGDMAを2重量%用い、上記反応液に0.01mw/cmの紫外光(波長365nm)を遮断せずに連続的に照射したときの経時的な観察結果を示す写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図6】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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