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明細書 :ポリマーブレンド材料およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5303717号 (P5303717)
公開番号 特開2007-238641 (P2007-238641A)
登録日 平成25年7月5日(2013.7.5)
発行日 平成25年10月2日(2013.10.2)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 ポリマーブレンド材料およびその製造方法
国際特許分類 C08L  25/04        (2006.01)
C08L  33/10        (2006.01)
C08F 290/12        (2006.01)
FI C08L 25/04
C08L 33/10
C08F 290/12
請求項の数または発明の数 7
全頁数 17
出願番号 特願2006-058522 (P2006-058522)
出願日 平成18年3月3日(2006.3.3)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年9月5日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集54巻2号(2005)」に発表
特許法第30条第1項適用 2005年12月18日 日本化学会・アメリカ化学会・カナダ化学会・オーストラリア化学会・ニュージーランド化学会・韓国化学会主催の「2005環太平洋国際化学会議」において文書をもって発表
権利譲渡・実施許諾 特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
審査請求日 平成20年12月22日(2008.12.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
発明者または考案者 【氏名】宮田 貴章
【氏名】石野 崇
【氏名】中西 英行
【氏名】植田 英順
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】阪野 誠司
参考文献・文献 特開2004-157328(JP,A)
特開2002-302520(JP,A)
特開2005-108335(JP,A)
Takashi Ohta et al.,Phase Separation of Binary Polymer Blends Driven by Photoisomerization: An Example for a Wavelength-Selection Process in Polymers,Macromolecules,米国,American Chemical Society,1998年 9月17日,Vol.31,pp.6845-6854
Hideyuki Nakanishi et al.,Generation and Manipulation of Hierarchical Morphology in Interpenetrating Polymer Networks by Using Photochemical Reactions,Macromolecules,米国,American Chemical Society,2004年10月19日,Vol.34,pp.8495-8498
調査した分野 C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08F290/00-290/14
特許請求の範囲 【請求項1】
アルキルメタクリレートを多量化反応させて得られるポリマー、およびシンナモイル基またはアンスリル基を有しているポリスチレンを多量化反応させて得られるポリマーを含むポリマーブレンド材料であって、光強度分布を有する光に対応した露光パターンを備え、上記露光パターンは特性長が異なる相分離構造を備えることを特徴とするポリマーブレンド材料。
【請求項2】
上記アルキルメタクリレートが、メチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1に記載のポリマーブレンド材料。
【請求項3】
アルキルメタクリレート、およびシンナモイル基またはアンスリル基を有しているポリスチレンに対して、プロジェクタにより光強度分布を有する可視光を照射して、上記光の強度に応じた反応速度で上記化合物を多量化反応させることにより、上記化合物に露光パターンを形成するとともに、上記露光パターン内に特性長が異なる相分離構造を形成することを特徴とするポリマーブレンド材料の製造方法。
【請求項4】
上記アルキルメタクリレートが、メチルメタクリレートであることを特徴とする請求項3に記載のポリマーブレンド材料の製造方法。
【請求項5】
少なくとも二種類のモノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して、光強度分布を有する光を照射して、上記光の強度に応じた反応速度で上記化合物を多量化反応させることにより、上記化合物に露光パターンを形成するとともに、上記露光パターン内に特性長が異なる相分離構造を形成するポリマーブレンド材料の製造方法であり、
上記化合物は、メチルメタクリレートおよびポリスチレンであり、上記光により、メチルメタクリレートが多量化反応し、
上記ポリスチレンは、上記光により反応する置換基を有しており、
上記ポリスチレンが下記式
【化1】
JP0005303717B2_000005t.gif
(式中、nおよびmは、それぞれ独立した任意の整数であり、ブロック共重合であってもランダム共重合であってもよい。)
で示される構造を有することを特徴とするポリマーブレンド材料の製造方法。
【請求項6】
上記光の強度が、0.1mW/cm以上、3.0mW/cm以下の範囲内であることを特徴とする請求項に記載のポリマーブレンド材料の製造方法。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1項に記載の製造方法により製造されるポリマーブレンド材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーブレンド材料およびその製造方法に関するものであり、特に、任意の露光パターンの中に相分離構造を有するポリマーブレンド材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置などの微細構造を有する材料は、通常、光を透過させる部分と透過させない部分とが幾何学的に刻印されたフォトマスクを用いて加工される。フォトマスクを用いた微細加工は、材料にフォトレジストを塗布し、フォトマスクを用いて露光することによりマスクパターンを材料に転写した後、光の照射部または非照射部のフォトレジストを除去することにより行われている。
【0003】
しかしながら、フォトマスクでは、作成することができるパターンには制限があるという問題がある。具体的には、フォトマスクでは、光強度を場所によって変えることはできるが、材料に照射される光強度に斑が生じる。つまり、フォトマスクは石英ガラスなどの表面にクロムメッキを施すことなどにより、光の透過率を制御しているため、石英ガラスの厚さが問題となり、フォトマスクにおけるクロムメッキと石英ガラスとの界面では、透過率の違いにより照射光の回折が生じてしまう。このため、設計したとおりのパターンを試料に形成することは困難である。
【0004】
フォトマスクを用いないパターン形成方法として、光を用いてコンピュータ上で設計した任意のパターンを直接投影することにより当該パターンを材料に転写する方法が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。

【非特許文献1】村上泰治、日高敬浩、大橋武志、「レーザ露光用感光性フィルム」、日立化成テクニカルレポート、No.37(2001-7)、21-24頁
【非特許文献2】市橋靖久、鍛冶誠、熊木尚、大橋武志、磯純一、「マイクロミラーアレイ直描対応感光性フィルム」、日立化成テクニカルレポート、No.44(2005-1)、9-12頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の構成では、照射する光の波長などで定まる原理的な限界により、分子スケールでの微細構造を任意に形成することができないという問題を生じる。
【0006】
分子スケールの微細構造を形成する方法としては、相分離構造を用いる方法が知られているが、任意の光強度分布を有する光を照射することにより形成する露光パターンの中に相分離構造を形成する知見は、従来全く知られていない。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、任意の光強度分布を有する光を照射することにより形成する露光パターンの中に相分離構造が形成したポリマーブレンド材料を実現することにある。更には、任意のパターンに基づいた露光パターンの中に相分離構造を有するポリマーブレンド材料を製造する方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るポリマーブレンド材料は、上記課題を解決するために、少なくとも二種類のポリマーを含むポリマーブレンド材料であって、光強度分布を有する光に対応した露光パターンを備え、上記露光パターンは相分離構造を備えることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、照射した光によって形成する露光パターンのみならず、該露光パターンの中に更に相分離構造が形成したポリマーブレンド材料を提供することができるという効果を奏する。上記相分離構造は分子スケールで構成されているため、分子サイズの違いにより、様々な化合物を分離することができるフィルターや、光学特性の異なる分子によって任意の微細構造が形成された光学フィルターや、分子スケールで微細構造を構築することにより強度を高めた材料などを実現することができる。
【0010】
また、本発明に係るポリマーブレンド材料は、上記課題を解決するために、少なくとも二種類のポリマーを含むポリマーブレンド材料であって、特性長が異なる相分離構造により露光パターンが形成されていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、特性長が異なる相分離構造により、自由度の高い(複雑な)任意のパターンが形成されたポリマーブレンド材料を提供することができるという効果を奏する。つまり、上記構成では、相分離構造によって微細構造が形成されているため、分子スケールで微細構造が形成されている。このため、分子サイズの違いにより、様々な化合物を分離することができるフィルターや、光学特性の異なる分子によって任意の微細構造が形成された光学フィルターや、分子スケールで微細構造を構築することにより強度を高めた材料などを実現することができる。
【0012】
本発明に係るポリマーブレンド材料では、上記相分離構造の特性長は、1~6μmの範囲内であることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、フォトマスクなどの従来技術では形成することができない微細な構造の材料を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0014】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法は、上記課題を解決するために、少なくとも二種類のモノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して、光強度分布を有する光を照射して、上記光の強度に応じた反応速度で上記化合物を多量化反応させることにより、上記化合物に露光パターンを形成するとともに、上記露光パターン内に相分離構造を形成することを特徴としている。
【0015】
上記方法によれば、相分離構造により、自由度の高い(複雑な)任意の微細構造が形成されたポリマーブレンド材料を製造することができるという効果を奏する。このため、分子サイズの違いにより、様々な化合物を分離することができるフィルターや、光学特性の異なる分子によって任意の微細構造が形成された光学フィルターや、分子スケールで微細構造を構築することにより強度を高めた材料などを製造することができる。
【0016】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法では、上記光を、プロジェクタにより照射することが好ましい。
【0017】
上記方法では、任意の光強度分布の光を容易に照射することができる。また、プロジェクタでは、例えば、フォトマスクを用いる場合と比較して、透過率の違いにより照射光の回折が生じることがないため、より微細な露光パターンを形成することができる。更には、プロジェクタは、装置が安価であり、様々な光強度分布の光を低コストで照射することができる。従って、上記方法によれば、低コストで、且つ容易に、微細構造が形成したポリマーブレンド材料を製造することができるという更なる効果を奏する。
【0018】
更には、予め設計された露光パターンをスタティック(静的)に照射することのみならず、時間と共に露光パターンをダイナミック(動的)に変化させることができるプロジェクタを用いることにより、より自由度の高い(複雑な)微細構造が形成されたポリマーブレンド材料を製造することができる。
【0019】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法では、上記光が可視光であることが好ましい。
【0020】
上記方法では、可視光を用いるため、紫外線などを用いる場合と比べて、より安全に製造することができるという更なる効果を奏する。
【0021】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法では、上記化合物は、メチルメタクリレートおよびポリスチレンであり、上記光により、メチルメタクリレートが多量化反応することが好ましい。
【0022】
上記モノマーとポリマーとは、相溶性に優れるため、照射する光強度に応じて、相分離構造の特性長を自在に制御することができるという更なる効果を奏する。
【0023】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法では、上記ポリスチレンは、上記光により反応する置換基を有していることが好ましい。
【0024】
上記方法によれば、上記置換基により架橋反応などの多量化反応を起こすことができるため、より安定に相分離構造を固定することができるという更なる効果を奏する。
【0025】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法では、上記ポリスチレンが下記式
【0026】
【化1】
JP0005303717B2_000002t.gif

【0027】
(式中、nおよびmは、それぞれ独立した任意の整数であり、ブロック共重合であってもランダム共重合であってもよい。)
で示される構造を有することが好ましい。
【0028】
上記方法によれば、上記ポリスチレンには、他の光反応性の置換基と比べて、熱や水分に対して安定である桂皮酸が置換されているため、相分離構造をより強固に固定することができるという更なる効果を奏する。
【0029】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法では、上記光の強度が、0.1mW/cm以上3.0mW/cm以下の範囲内であることが好ましい。
【0030】
上記方法によれば、好適な速度で上記多量化反応を起こすことができるため、相分離構造の特性長を自在に制御することができるという更なる効果を奏する。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るポリマーブレンド材料は、以上のように、少なくとも二種類のポリマーを含むポリマーブレンド材料であって、光強度分布を有する光に対応した露光パターンを備え、上記露光パターンは相分離構造を備えることを特徴としている。
【0032】
このため、照射した光によって形成する露光パターンのみならず、該露光パターンの中に更に相分離構造による微細構造が形成されたポリマーブレンド材料を提供することができるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明に係るポリマーブレンド材料は、少なくとも二種類のポリマーを含むポリマーブレンド材料であって、特性長が異なる相分離構造により露光パターンが形成されていることを特徴としている。
【0034】
このため、特成長が異なる相分離構造により、自由度の高い(複雑な)任意の微細構造が形成されたポリマーブレンド材料を提供することができるという効果を奏する。
【0035】
本発明に係るポリマーブレンド材料の製造方法は、以上のように、少なくとも二種類のモノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して、光強度分布を有する光を照射して、上記光の強度に応じた反応速度で上記化合物を多量化反応させることにより、上記化合物に露光パターンを形成するとともに、上記露光パターン内に相分離構造を形成することを特徴としている。
【0036】
このため、照射した光によって形成する露光パターンのみならず、該露光パターンの中に更に相分離構造による微細構造が形成されたポリマーブレンド材料を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
本実施の形態に係るポリマーブレンド材料は、少なくとも二種類のポリマーを含むポリマーブレンド材料であって、光強度分布を有する光に対応した露光パターンを備え、上記露光パターンは相分離構造を備えている。
【0039】
また、本実施の形態に係るポリマーブレンド材料は、少なくとも二種類のポリマーを含み、特性長が異なる相分離構造によって露光パターンが形成されている。
【0040】
尚、本明細書において、「相分離」とは、熱力学的に均一な一つの状態、すなわち一つの相にあった物質系が、温度、圧力などの変数を変化させたとき、二つの相に分離する現象をいう(理化学辞典第5版 769頁、岩波書店)。すなわち、分子相溶性を有する上記少なくとも二種類のポリマーを含んでなる系(一相領域)における少なくとも二種類のポリマーが均一に混じり合わず、二以上の相からなる構造を有することをいう。このような相分離構造は、一相領域に含まれる少なくとも1種類のポリマーの分子構造が、後述する重合などの多量化反応によって変化し、一相領域に含まれる当該化合物の分子構造とは異なるものとなることによって生じる。上記相分離構造は、例えばポリスチレンとポリメタクリレートからなる場合、ポリスチレンを多く含む相と、ポリメタクリレートを多く含む相とが共に連続相を形成する共連続な構造である。尚、本明細書における「特性長」とは、上記相分離構造における周期構造のサイズ(長さ)の平均値を意味する。
【0041】
尚、本明細書において、「露光パターン」とは、例えばプロジェクタなどによって特定のパターンを映写することにより、該パターンに基づいてポリマーブレンド材料上に形成されるパターンのことである。また、範囲を示す「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0042】
上記少なくとも二種類のポリマーは、相分離を生じさせるため、光を照射する前は互いに相溶するものである必要がある。このようなポリマーの組み合わせとしては、例えば、ポリメチルメタクリレートとポリスチレンとの組み合わせ、ポリスチレンとポリビニルメチルエーテルとの組み合わせ、ポリスチレンとポリブタジエンとの組み合わせ、ポリスチレンとポリアクリレートとの組み合わせ、ポリスチレンとポリブチルメタクリレートとの組み合わせなどが挙げられる。
【0043】
上記露光パターンは、上記少なくとも二種類のポリマーの相分離の状態の違いにより形成されている。そして、上記露光パターンの中には、更に特定の特性長を有する相分離構造が形成されている。以下、具体的に図2を用いて説明する。
【0044】
図2は、後述する実施例1におけるポリマーブレンド材料の状態を表す図面である。
【0045】
例えば図2(a)に示すように、黒い球状に見える部分がポリメチルメタクリレートが多く含まれる相、色の薄い部分がPSが多く含まれる相であり、2つの部分によって相分離構造が形成されている。
【0046】
上記特性長は、特には限定されないが、1~100μmの範囲内であることがより好ましく、1~6μmの範囲内であることが更に好ましい。
【0047】
上述したポリマーブレンド材料は、例えば、以下に示す製造方法によって製造することができる。
【0048】
本実施の形態に係るポリマーブレンド材料の製造方法は、少なくとも二種類のモノマーおよび/またはポリマーからなる群から選ばれる二種類以上の化合物に対して、光強度分布を有する光を照射して、上記光の強度に応じた反応速度で上記化合物を多量化反応させることにより、上記化合物に露光パターンを形成するとともに、上記露光パターン内に相分離構造を形成することを特徴とするポリマーブレンド材料の製造方法である。
【0049】
尚、本実施の形態において「多量化反応」とは、重合や架橋反応などのような2分子以上の間で結合が生じる反応のことである。また、上記多量化反応には、モノマーの重合と、重合したモノマー同士の架橋とが起こる場合、ポリマーの架橋が起こる場合、ポリマーの鎖長が延長され、さらに鎖長が延長されたポリマー同士が架橋される場合のいずれもが含まれる。
【0050】
本実施の形態に係るポリマーブレンド材料の製造方法では、上記モノマーおよび/またはポリマーの多量化反応による分子量の増加速度を、照射する光強度により変化させることにより、任意の露光パターンを形成する。具体的には、例えば、光照射により重合するモノマーと光照射により反応しないポリマーとの混合物の場合では、上記混合物に光を照射することにより、モノマーは光の照射強度に応じた反応速度で重合する。そして、モノマーが重合することにより、混合物における相分離が誘発される。このときの相分離速度は、モノマーの重合による混合物の粘度に依存する。このため、強い強度の光が照射される部分では、モノマーの重合速度は速くなり、相分離構造が十分に成長する前に混合物が固化するため、周期が小さい(特性長が小さい)相分離構造となる。一方、弱い強度の光が照射される部分では、モノマーの重合速度は遅くなり、相分離構造が十分に成長した後に混合物が固化するため、周期が大きい(特性長が大きい)相分離構造となる。
【0051】
上記モノマーおよび/またはポリマーは、互いに相溶性を有するものであれば組み合わせは特に限定されるものではない。例えば化合物が二種類である場合、相溶性を有するものであればモノマーとモノマー、モノマーとポリマー、ポリマーとポリマーのいずれの組み合わせでも用いることができる。
【0052】
具体的には、例えば、モノマーとしてはメチルメタクリレート、スチレンとその誘導体、アルキルメタクリレート等を用いることができる。また、ポリマーとしてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアルキルメタクリレートおよびこれらの誘導体などを用いることができる。これらの中で、相溶性に優れているため、メチルメタクリレートとスチレンとの組み合わせがより好ましい。
【0053】
また、上記モノマーおよび/またはポリマーは、光照射後にポリマーとなれば、全ての種類の化合物が多量化反応を起こすものである必要はない。これらの中の少なくとも1種類の化合物が、照射される光によって多量化反応を起こすものであればよい。例えば、反応性モノマーと非反応性ポリマー、反応性モノマーと反応性ポリマー、反応性ポリマーと非反応性ポリマー、反応性ポリマーと反応性ポリマーなどの組み合わせであってもよい。
【0054】
上記モノマーは、照射される光によって反応するものであれば、光反応性基を有するモノマーなどのように、光によってモノマー自身で反応するものである必要はない。その場合、照射される光によって作用する重合開始剤などによって、モノマーを多量化反応させればよい。上記重合開始剤としては、上記光によって作用すれば特には限定されず、例えば、ジフェニル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア784などの従来公知の重合開始剤を用いることができる。
【0055】
上記ポリマーの重合度は特に限定されるものではなく、二量体以上であればよい。すなわち、ポリマーにはダイマー、トリマーなどのオリゴマーも含まれるものとする。例えば、1,000~10,0000の範囲内の数平均分子量のものを用いることができる。
【0056】
上記光によって反応するポリマーとしては、上述したポリマーに光反応性基(光によって反応する置換基)が置換された構造を有する化合物が挙げられる。上記光反応性基の置換位置は特には限定されず、例えば、ポリマーの側鎖、ポリマー主鎖の間、ポリマー主鎖の末端などが挙げられる。また、上記光反応性基は、上記光によって直接反応するものであってもよいし、例えば、光増感剤などによって間接的に反応するものであってもよい。
【0057】
上記光反応基としては、例えば、シンナモイル基、アンスリル基などが挙げられる。
【0058】
上記光によって反応するポリマーとしては、
【0059】
【化2】
JP0005303717B2_000003t.gif

【0060】
(式中、nおよびmは、それぞれ独立した任意の整数であり、ブロック共重合であってもランダム共重合であってもよい。)
で表される構造を有するものが好ましい。
【0061】
光増感剤としては、上記光を吸収し、上記光反応性基の反応を引き起こすものであれば、特には限定されず、例えば、5-ニトロアセナフテン、2,4-ジメチルチオキサントンなどが挙げられる。
【0062】
上記光は、例えば、プロジェクタで照射することができる。プロジェクタとしては、任意の光強度分布の光を照射することができる従来公知のプロジェクタであれば特には限定されないが、コンピュータから直接プロジェクタに映像を送る映写方式であるDLP(Digital Light Processing)方式のプロジェクタであることがより好ましい。DLP方式のプロジェクタでは、高輝度、高精彩画像を出力することができるため、よりきめ細かいパターンの光強度分布を有する光を照射することができる。
【0063】
上記パターンに基づいた光強度分布の光は、例えば、グレイスケールのパターンをプロジェクタなどで映写することにより照射することができる。具体的には、グレイスケールにおける黒色に近い色ほど照射される光強度は弱くなり、白色に近い色ほど照射される光強度は強くなる。グレイスケールで使用する色の種類を増やすことにより、色の種類に応じた数の異なる特性長を有する相分離構造を形成することができる。
【0064】
上記パターンは、市販ソフトなどで幾何学模様を作成することにより、簡単に作製することができる。フォトマスクでは、パターンを変更するためにはコストと時間がかかるが、本実施の形態に係る方法を用いれば、瞬時に低いコストで様々なパターンを作製することができる。更には、本実施の形態に係る方法では、フォトマスクのように光の干渉が生じないので、任意のパターンを斑なく照射することができ、明瞭な露光パターンを形成することができる。
【0065】
更には、予め設計された露光パターンをスタティック(静的)に照射することのみならず、予めプログラムされた時空間パターンを照射することが好ましい。時空間パターンとは、具体的には、プログラムなどにより、時間と共に露光パターンをダイナミック(動的)に変化させたり、XYZステージなどを用いて露光パターンを時間と共に移動させたりすることにより、また両者を併用することにより、露光パターンの形状(空間)を時間と共に変化させたパターンのことである。このような時空間パターンを照射することにより、より自由度の高い(複雑な)微細構造が形成されたポリマーブレンド材料を製造することができる。
【0066】
上記プロジェクタを用いて、ポリマーブレンド材料を製造する装置としては、例えば、図1に示す構成のものが挙げられる。
【0067】
図1は、本実施の形態に係るポリマーブレンド材料を製造するための装置の概略構成を示す平面図である。
【0068】
図1に示すように、プロジェクタ1はコンピュータ4と接続されており、コンピュータ4で入力した画像パターンをプロジェクタ1で映写することができる。また、プロジェクタ1からの光をサンプル3(光照射前のポリマーブレンド材料)に対して照射するために、プロジェクタ1とサンプル3との間には、一連のレンズ2が設けられている。また、光照射中におけるポリマーブレンド材料の相分離の状態を観察できるように、サンプル3における光照射される面とは反対側にコンピュータ7およびCCDカメラ6と連動した顕微鏡5が設けられている。
【0069】
尚、上記装置は、照射しながら相分離の状態を観察するために、顕微鏡5、CCDカメラ6およびコンピュータ7を備えているが、相分離の状態を観察する必要がない場合にはこれらの構成を備えていなくてもよい。
【0070】
照射する光の強度は、使用するモノマーおよび/またはポリマーに応じて選択され、例えば、モノマーとしてメチルメタクリレートを用い、ポリマーとしてポリスチレン誘導体を用いた場合では、0.1mW/cm以上3.0mW/cm以下の範囲内とすることができる。上記光の強度が0.1mW/cmより弱いと多量化反応を行うことができず、上記光の強度が3.0W/cmを超えると多量化反応が急速に進むためポリマーが硬化してしまい、相分離を生じさせることができない。
【0071】
照射時間も、照射する光の強度および使用するモノマーおよび/またはポリマーに応じて選択され、例えば、1時間程度で行うことができる。
【0072】
光の強度を上記範囲で変化させることにより、反応速度を制御することができるので、光の強度の調節によって上記相分離構造の特性長を任意に調節することができ、任意の光強度分布を有する光を照射することにより形成する露光パターンの中に、特性長が異なる相分離構造により微細構造が形成されたポリマーブレンド材料を製造することができる。
【0073】
上記ポリマーブレンド材料は、特性長が異なる相分離構造によりパターンが形成されているため、例えば、任意の相分離構造の部分のみを溶剤などで除去することにより、微細な構造を有する材料を提供することができる。上記材料は、例えば、微細な構造を有するフィルターなどに使用することができる。このようなフィルターは、分子サイズで微細構造が形成されているため、分子スケールで物質の分離を行うことができる。
【0074】
また、上記ポリマーブレンド材料では、例えば、光学特性の異なる2種類以上のポリマーなどを組み合わせて微細構造を形成することにより、分子サイズで微細構造が形成された光学フィルターを実現することができる。
【0075】
さらには、物理特性の異なる2種類以上のポリマーなどを組み合わせて微細構造を形成することにより、分子サイズで微細構造が形成された様々な特性を有する材料を実現することができる。
【0076】
〔実施例〕
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、本実施例では、プロジェクタとしてプラスビジョン社製のU3-810SFを用いた。
【0077】
(実施例1)
ポリマーとして、ポリスチレンに桂皮酸が置換した下記構造
【0078】
【化3】
JP0005303717B2_000004t.gif

【0079】
(式中、nおよびmは、それぞれ独立した任意の整数であり、ブロック共重合であってもランダム共重合であってもよい。)
を有する化合物(以下、PSCと記す)を用い、モノマーとしてメチルメタクリレート(以下、MMAと記す)を用いた。尚、PSCは、モノマーとしてスチレン90gとクロロメチルスチレン10gとを真空下60℃で120時間共重合させ、スチレンとクロロメチルスチレンとのランダム共重合体を得た後、メタノール中で作成した桂皮酸のカリウム塩1.5gと共に、ジメチルホルムアミドなどの溶媒1.5L中、65℃で10時間攪拌を行い、PSCを得た。PSCの数平均分子量は30万であった。尚、本実施例では重合開始剤を用いていないが、上述した重合開始剤を用いて反応時間を促進させることもできる。
【0080】
PSCとMMAとを20:80の重量比で混合し、ジフェニル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド(商品名:ルシリンTPO、BASFジャパン社製)をMMAの重量に対して2%、5-ニトロアセナフテンをPSCの重量に対して10%添加した。1時間攪拌後、アルミニウムスペーサー(厚さ25μm)を用いて、上記混合物を2枚のカバーガラスの間に充填し、サンプルとして用いた。
【0081】
上記サンプルを、図1に示す装置にセットし、サンプルに対して、0.1mW/cmの均一な光強度の光を60分間照射した。また、光強度を0.5mW/cm、1.0mW/cm、3.0mW/cmにそれぞれ変えた場合についても同様に行った。その結果を図2および図3に示す。
【0082】
図2は、ポリマーブレンド材料の状態を表す図面であり、(a)は光強度が0.1mW/cmの場合であり、(b)は光強度が0.5mW/cmの場合であり、(c)は光強度が1.0mW/cmの場合であり、(d)は光強度が3.0mW/cmの場合である。尚、図2中の(a)~(b)の右上にそれぞれ示す2μm-1スケールの画像は、それぞれの20μmスケールの画像を高速フーリエ変換したものである。特性長は、上記高速フーリエ変換の手法を用いて、周期構造のサイズを評価することにより求めた。具体的には、2μm-1スケールの画像にドーナツ状の円が存在すれば特定の周期構造を有していると判断することができる。このようなフーリエ変換は、例えば、市販の解析ソフトを使用することで行うことができる。
【0083】
また、図3は、照射した光強度と特性長との関係を示すグラフである。
【0084】
図2に示すように、光強度が0.1mW/cmと弱い場合では、MMAの重合速度およびPSCの架橋速度が遅いため、相分離構造が成長し、周期の大きな共連続の相分離構造が発現している。そして、光強度が強くなるに従って、相分離構造の固化が速くなるため、発現する相分離構造の周期が小さくなる。また、図3に示すように、光強度が大きくなると、相分離構造における特性長は線形的に小さくなる傾向となる。
【0085】
光強度を3.0mW/cmよりも大きくすると、MMAの重合が一瞬にして進行するため、顕微鏡では相分離構造を確認することができなかった。また、光強度を0.1mW/cmよりも弱くすると、発現した共連続の相分離構造が切れてドロップレット構造になった。尚、ドロップレット構造とは、相が不連続になり、切れて玉状になった構造のことであり、共連続構造の場合に比べて、強度が弱くなったり、透過特性が悪化する恐れがある。
【0086】
このことから、光強度が0.1以上3.0mW/cm以下の範囲内では、共連続の相分離構造が発現し、その構造の特性長は光強度に依存して変化することが判った。
【0087】
(実施例2)
実施例1において、照射する光強度のパターンとして、図4に示すような同心円パターンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリマーブレンド材料を製造した。図4に示す同心円パターンは、サンプル上において、最外円の半径が4000μmとなり、半径250μm毎に円が描かれ、隣り合う領域では光強度が異なる。具体的には、図5に示すような光強度のパターンとなっている。
【0088】
上記パターンの光を1時間照射後のポリマーブレンド材料の顕微鏡写真を図6に示す。図6では、顕微鏡の倍率が低い(40倍)ため、それぞれのパターンにおける相分離構造を確認することはできないが、間接的に相分離構造の大小を確認することができる。つまり、相分離構造が大きければ、顕微鏡の観察光が散乱され易くなり、透過光が弱くなる。このため、画像が暗く映し出される。一方、相分離構造が小さければ、顕微鏡の観察光が散乱され難いため、透過光が強くなる。このため、画像が明るく映し出される。
【0089】
また、図7に400倍の倍率の顕微鏡による画像を示す。図7に示すように、光強度に依存して相分離構造が発現していることが確認できる。尚、図7におけるA,B,Cの特性長(ξ)はそれぞれ、2.5μm、4.2μm、3.0μmであった。
【0090】
以上のように、任意の光強度分布を有する光を照射することにより形成する露光パターンの中に相分離構造が形成したポリマーブレンド材料を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のポリマーブレンド材料は、相分離構造を有するため、分子スケールの微細構造を有している。このため、分子スケールで微細構造が形成されたフィルター、光学フィルターなどの医薬、バイオ産業、一般材料分野等において広く利用することが可能な様々な材料に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施の形態に係るポリマーブレンド材料を製造するための装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】実施例1におけるポリマーブレンド材料の状態を表す図面であり、(a)は光強度が0.1mW/cmの場合であり、(b)は光強度が0.5mW/cmの場合であり、(c)は光強度が1.0mW/cmの場合であり、(d)は光強度が3.0mW/cmの場合である。
【図3】光強度と特性波長との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2で使用した同心円パターンを示す平面図である。
【図5】上記同心円パターンにおける中心からの距離と光強度との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2におけるポリマーブレンド材料の状態を表す図面である。
【図7】実施例2におけるポリマーブレンド材料の状態を表す図面であり、(a)は領域Aを示し、(b)は領域Bを示し、(c)は領域Cを示す。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図2】
4
【図6】
5
【図7】
6