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明細書 :粒子の検出方法、その装置、分散液中の粒子の濃度差形成方法およびその装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5035855号 (P5035855)
登録日 平成24年7月13日(2012.7.13)
発行日 平成24年9月26日(2012.9.26)
発明の名称または考案の名称 粒子の検出方法、その装置、分散液中の粒子の濃度差形成方法およびその装置
国際特許分類 G01N  21/64        (2006.01)
G01N  21/41        (2006.01)
FI G01N 21/64 Z
G01N 21/41 Z
請求項の数または発明の数 12
全頁数 14
出願番号 特願2008-514479 (P2008-514479)
出願日 平成19年5月2日(2007.5.2)
国際出願番号 PCT/JP2007/059385
国際公開番号 WO2007/129667
国際公開日 平成19年11月15日(2007.11.15)
優先権出願番号 2006131983
優先日 平成18年5月10日(2006.5.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年4月30日(2010.4.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
発明者または考案者 【氏名】一ノ瀬 暢之
【氏名】野々口 斐之
【氏名】中山 敏弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100091409、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 英彦
【識別番号】100096792、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 八郎
【識別番号】100091395、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 博由
審査官 【審査官】横井 亜矢子
参考文献・文献 国際公開第2003/062867(WO,A2)
特開2003-344260(JP,A)
特開平05-296914(JP,A)
調査した分野 G01N 21/00,21/01,21/17-21/74
G01N 15/00-15/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
第一の粒径を有する第一の粒子と前記第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中にパルスレーザーを照射し、前記分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生工程と、
前記衝撃波発生工程によって発生した衝撃波により、前記第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、前記第二の粒子を前記第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与工程と、
前記第一または第二の粒子を検出する検出工程とを備える、粒子の検出方法。
【請求項2】
前記検出工程は、粒子の屈折率、吸光度または蛍光強度を検出する工程である、請求項1に記載の粒子の検出方法。
【請求項3】
前記第二の粒子は、半径1nm以上1μm以下である、請求項1に記載の粒子の検出方法。
【請求項4】
所定の波長のパルスレーザーを発生させる第一のパルスレーザー発生手段と、
前記所定の波長と異なる波長のパルスレーザーを発生させる第二のパルスレーザー発生手段と、
前記第一のパルスレーザー発生手段によって発生させた前記パルスレーザーを用いて、第一の粒径を有する第一の粒子と前記第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中の所定の集光位置で衝撃波を発生させる衝撃波発生手段と、
前記衝撃波発生手段によって発生した衝撃波により、前記第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、前記第二の粒子を前記第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与手段と、
前記第二のパルスレーザー発生手段によって発生させた前記パルスレーザーを用いて、前記所定の集光位置と離れて位置する前記分散液中の所定の観測位置を、前記集光位置で発生させた前記衝撃波により異なる加速度で通過する前記第一または第二の粒子を検出する検出手段とを備える、粒子の検出装置。
【請求項5】
第一の粒径を有する第一の粒子と前記第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中にパルスレーザーを照射し、前記分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生工程と、
前記衝撃波発生工程によって発生した衝撃波により、前記第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、前記第二の粒子を前記第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与工程と、
前記移動速度差付与工程により加速させて移動させた第一の粒子と第二の粒子とを分離する分離工程とを備える、分散液中の粒子の濃度差形成方法。
【請求項6】
パルスレーザーを発生させるパルスレーザー発生手段と、
前記パルスレーザー発生手段によって発生させた前記パルスレーザーを用いて、第一の粒径を有する第一の粒子と前記第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生手段と、
前記衝撃波発生手段によって発生した衝撃波により、前記第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、前記第二の粒子を前記第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与手段と、
前記移動速度差付与手段により加速させて移動させた第一の粒子と第二の粒子とを分離する分離手段とを備える、分散液中の粒子の濃度差形成装置。
【請求項7】
前記衝撃波発生工程は、前記分散液中の所定の集光位置に前記パルスレーザーを照射することを含み、
前記検出工程は、前記所定の集光位置と離れて位置する所定の観測位置を、前記集光位置で発生させた前記衝撃波により異なる加速度で通過する前記第一または第二の粒子を観測用レーザーで検出することを含む、請求項1に記載の粒子の検出方法。
【請求項8】
前記検出工程は、前記所定の観測位置に前記観測用レーザーを用いてパルスレーザーを照射し、検出することを含む、請求項7に記載の粒子の検出方法。
【請求項9】
前記衝撃波発生用レーザーの波長は、1064nmであり、
前記観測用レーザーの波長は、355nmである、請求項7に記載の粒子の検出方法。
【請求項10】
前記検出工程は、粒子の屈折率、吸光度または蛍光強度を検出する工程である、請求項7に記載の粒子の検出方法。
【請求項11】
前記第二の粒子は、半径1nm以上1μm以下である、請求項7に記載の粒子の検出方法。
【請求項12】
前記分散液は、粒径の異なる三種類以上の粒子を含む、請求項1に記載の粒子の検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子の検出方法、その装置、分散液中の粒子の濃度差形成方法およびその装置に関し、特に、粒径の異なる第一および第二の粒子について行う粒子の検出方法、その装置、分散液中の粒子の濃度差形成方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微小物体の取り扱い操作、加工は、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーに関連して近年特に注目されている分野である。顕微鏡下においてマイクロメーターオーダーの物体をレーザー光により操作することは、レーザーピンセットにより非接触で行うことができ、また、加工については、レーザーアブレーションやレーザーによる重合反応により造形を行うことができる。さらに、微小物体に対して他の物体を接合することや他の物質を注入することは、これら技術の組み合わせのみでは不十分である。レーザー光を顕微鏡の対物レンズにより液体中に集光して発生する衝撃波(レーザー誘起衝撃波)は、物体に強い加速度を与えることができるため、大きな力を必要とする作業を行うための動力として有効と考えられる。
【0003】
ここで、上記に関連した技術が、特開2003-210159号公報、特開2003-344260号公報、特開2005-144538号公報、特開2005-335020号公報、特開2005-287419号公報、特開2005-168495号公報、Appl.Phys.Lett.,84,2940(2004)、Appl.Phys.A,79,795(2004)に開示されている。
【0004】
均一溶液中の分子を加速し、濃度差を与える方法として電気泳動法や誘電泳動法があるが、電気泳動法では電荷をもつイオンのみしか移動させることができない。これらの泳動法では、移動速度が小さいため、分析等の時間がかかる問題がある。また、吸着や浸透、あるいは分配平衡を用いたクロマトグラフィーは、物質を移動させながら濃度差を与える方法であり、混合物の分離・分析方法として広く用いられている。一方、超遠心分離法は、高分子量の分子に対して適用され、分子量測定や分離に用いられている。しかし、後者のいずれの方法も原理的に物質の拡散、移動を含むため、高い分離能と高速化あるいは小型化を両立することは困難である。
【0005】
すなわち、従来における電気泳動法や誘電泳動法では、その対象が電荷を持つイオンに限られ、移動速度が小さいことが問題である。また、従来におけるクロマトグラフィーや超遠心分離法では、高い分離能と高速化あるいは小型化を両立することは困難である。
【0006】
ここで、顕微鏡等を用いて液体内にパルスレーザーを集光して衝撃波を発生させることは多くの研究者が行っており、その発生機構等が研究されている(Appl.Phys.Lett.,84,2940(2004)、Appl.Phys.A,79,795(2004))。このレーザー誘起衝撃波を利用した公知技術においては、細胞および細胞の一部分の分離(特開2003-210159号公報)、粒子の加速・移動(Appl.Phys.A,79,795(2004))、粒子の進行方向制御(特開2003-344260号公報)、微小物体の加工(特開2005-144538号公報、特開2005-335020号公報)などがある。加速できる粒子としては、金コロイド、高分子ラテックス粒子などのナノメートルからマイクロメーターオーダーの構造体、または生体細胞である。これらの粒子の加速を利用して顕微鏡下で細胞への注入による細胞内の増強ラマン分光を意図したマーキングを行なっている。本発明では、加速する対象を低分子から高分子までに拡げることを可能であることを見出しており、分子に依存した機能の付与、分子サイズの分析などが可能である。また、レーザー誘起衝撃波により細胞内へ外来物質を注入するレーザーインジェクション方法が考案されている(特開2005-287419号公報、特開2005-168495号公報)。
【0007】
すなわち、上記した特開2003-210159号公報、特開2003-344260号公報、特開2005-144538号公報、特開2005-335020号公報、特開2005-287419号公報、特開2005-168495号公報、Appl.Phys.Lett.,84,2940(2004)、Appl.Phys.A,79,795(2004)によると、特定の粒子や細胞に限られた加工や細胞注入に関する技術であり、粒径の異なる第一および第二の粒子が分散液中に存在する場合に対応することができない。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、レーザー誘起衝撃波により分散液中に分散している比較的大きな粒子を高速で加速し、分散液中の粒子に濃度差を与えることができることを可能にし、パルスレーザーによるクロマトグラフィーの原理(レーザー浸透クロマトグラフィー)を与えるものである。また、このことを行い、計測、分離を行う装置についても本発明の範囲である。
【0009】
この発明の目的は、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子を検出することができる粒子の検出方法を提供することである。
【0010】
また、この発明の他の目的は、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子を検出することができる粒子の検出装置を提供することである。
【0011】
この発明のさらに他の目的は、短時間で、かつ、容易に行うことができる分散液中の粒子の濃度差形成方法を提供することである。
【0012】
この発明のさらに他の目的は、短時間で、かつ、容易に行うことができる分散液中の粒子の濃度差形成装置を提供することである。
【0013】
なお、ここでいう濃度差とは、例えば、第一の領域から第一の領域と異なる第二の領域に向かって徐々に所定の粒子の濃度が増減するもののみならず、段階的に所定の粒子の濃度が増減する濃度勾配、さらには相対的に所定の粒子の濃度の高い部分と所定の粒子の低い部分とを二極化させて濃度差を形成するものも含めるものである。ここで、濃度差は、空間的、すなわち3次元的な濃度差を含めるものである。
【0014】
この発明に係る粒子の検出方法は、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中にパルスレーザーを照射し、分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生工程と、衝撃波発生工程によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与工程と、第一または第二の粒子を検出する検出工程とを備える。
【0015】
このような粒子の検出方法は、レーザー誘起衝撃波によって分散液中に分散した粒径の異なる第一および第二の粒子をそれぞれ加速し、加速された粒子の濃度の高い部分を形成して、粒子を検出することができる。このようなレーザー誘起衝撃波は、短時間で粒子を加速することができ、かつ、粒径に応じて粒子を加速して移動させることができる。また、このようなレーザー誘起衝撃波は、パルスレーザー等を用いて分散液中に容易に発生させることができる。したがって、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子の検出を行うことができる。
【0016】
なお、この明細書中、粒子とは、たとえば、コレステロール粒子のような分子集合体や溶液中の分子も含めるものとする。また、粒子を検出し、粒子の測定や、粒子の分離を行う場合についても、この明細書でいう粒子の検出に含めるものとする。なお、粒子の一部または全部が溶解した場合についても、本発明の範囲である。また、粒子の粒径は、流体力学的半径を基に算出されるものである。ここで、第一の加速度は0を含み、第二の粒子のみを加速して移動させるようにしてもよい。
【0017】
好ましくは、検出工程は、粒子の屈折率、吸光度または蛍光強度を検出する工程である。
【0018】
さらに好ましくは、第二の粒子は、半径1nm以上である。
【0019】
この発明の他の局面においては、粒子の検出装置は、パルスレーザーを発生させるパルスレーザー発生手段と、パルスレーザー発生手段によって発生させたパルスレーザーを用いて、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生手段と、衝撃波発生手段によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与手段と、移動速度差付与手段によって加速して移動された第一または第二の粒子を検出する検出手段とを備える。
【0020】
このような粒子の検出装置は、レーザー誘起衝撃波によって分散液中に分散した粒径の異なる第一および第二の粒子をそれぞれ加速し、加速された粒子の濃度の高い部分を形成して、粒子を検出することができる。したがって、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子の検出を行うことができる。
【0021】
この発明のさらに他の局面においては、分散液中の粒子の濃度差形成方法は、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中にパルスレーザーを照射し、分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生工程と、衝撃波発生工程によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与工程とを備える。
【0022】
このような分散液中の粒子の濃度差形成方法によると、レーザー誘起衝撃波によって分散液中に分散した粒径の異なる第一または第二の粒子を加速し、加速された粒子の濃度の高い部分を形成することができる。したがって、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子の濃度差を形成することができる。
【0023】
この発明のさらに他の局面においては、分散液中の粒子の濃度差形成装置は、パルスレーザーを発生させるパルスレーザー発生手段と、パルスレーザー発生手段によって発生させたパルスレーザーを用いて、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生手段と、衝撃波発生手段によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与手段とを備える。
【0024】
このような分散液中の粒子の濃度差形成装置は、レーザー誘起衝撃波によって分散液中に分散した粒径の異なる第一または第二の粒子を加速し、加速された粒子の濃度の高い部分を形成することができる。したがって、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子の濃度差を形成することができる。
【0025】
また、これらの発明によると、たとえば、浸透ゲルクロマトグラフィー等において使用される浸透ゲルが不要であり、溶媒をそのまま用いることができる。したがって、安価に構成することができる。また、高い分解能と高速化あるいは小型化を両立することができる。また、このようなレーザー誘起衝撃波は、比較的大きな粒子も移動させることができるため、レーザーによる液体中の粒子の加速により、通常では細胞膜や細胞壁により導入できないような高分子量の粒子を直接細胞内に注入できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】レーザー誘起衝撃波による濃度分布変化に基づく衝撃波発生点から離れた位置における蛍光強度の時間変化に関する概念図である。
【図2】装置の概略を示す図である。
【図3】レーザー光の集光位置を示す概略図である。
【図4A】図2、3の装置により測定されたピラニンおよびピレン—γ-シクロデキストリン2:2包接体水溶液の蛍光強度のうち、ピラニンの1064nmレーザーパルスに対する355nm蛍光観測用レーザーパルスの遅延時間依存性を示すグラフである。
【図4B】図2、3の装置により測定されたピラニンおよびピレン—γ-シクロデキストリン2:2包接体水溶液の蛍光強度のうち、ピレン—γ-シクロデキストリン2:2包接体の1064nmレーザーパルスに対する355nm蛍光観測用レーザーパルスの遅延時間依存性を示すグラフである。
【図5】3-アニリノナフタレン-8-スルホン酸アンモニウム(以下、「ANS」と称する。)と卵アルブミン(以下、単に「アルブミン」と称する)との混合溶液の蛍光の衝撃波による影響を示す図である。
【図6】レーザー浸透クロマトグラフィーの概念図である。
【図7】図6に示すレーザー浸透クロマトグラフィーのうち、粒子の検出装置に関する概念図であり、パルスレーザーによる誘起衝撃波を発生させる位置および粒子が移動した後の状態を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、原理について説明する。Q-スイッチを有するヤグレーザーのようなパルスレーザー、顕微鏡などの集光光学系、水などを用いて、レーザー光を分散液中に集光して分散液中に衝撃波を発生できる仕組みになっている。分散液中には、第一の粒径を有する第一の粒子と、第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散している。分散液中に起こる変化についての測定は、測定方法として吸収、蛍光、屈折率などの光学検出、およびその他の分散液中の物性の変化を、ナノ秒からマイクロ秒の時間領域において高速で検出できるものならばすべて可能である。また、観測する位置は、集光位置より数マイクロメートルからミリメートルオーダーで離れていることが必要である。なお、この発明においては、粒径が数nmの粒子を数n秒程度で移動させるというスケールである。
【0028】
集光点における、光吸収、プラズマ発生を経て発生した衝撃波の伝播により粒子を流体力学的に加速すると考えられる。このとき、粒子は、そのサイズ、すなわち、粒径が大きい程加速を受けることから、衝撃波フロントにおける粘度が高圧のため高くなり、衝撃波が粒子を追い越す際に粘性抵抗を生じ加速すると考えられる。ここで、衝撃波フロントとは、衝撃波の伝播における最前面をいう。また、粒径の小さい粒子では加速されないことから、衝撃波の弾性衝突ではないことが考えられる。このサイズ依存性のために粒子サイズの違いを識別できる原理を生じる。なお、この衝撃波フロントの伝播速度は、2000~2200m/sである。この速度は、電気泳動法や誘電泳動法による移動速度よりも大きいものである。
【0029】
この発明の原理について、さらに詳細に説明する。ここで、観測された蛍光強度の時間変化は、次のように解釈できる。図1は、レーザー誘起衝撃波による濃度分布変化に基づく衝撃波発生点から離れた位置にある観測用の励起光源の焦点位置(x0)における蛍光強度の時間変化に関する概念図である。図1中、縦軸は、分散液の濃度を示し、横軸は、衝撃波発生点からの距離(x)を示す。また、図1中、実線で示す関数は、観測領域関数(F(x))である。ここで、観測領域関数とは、濃度の空間分布を蛍光によりモニターする際、励起光源の焦点位置x0を中心とする励起光軸方向の位置xからの観測領域における蛍光強度の分布を表す関数である。
【0030】
図1を参照して、衝撃波を発生させる以前(t=0)では、分散液中の濃度分布は、図1中の点線で示すように均一(C=C)である。しかし、衝撃波発生後の時刻t=tにおいては、濃度分布は均一ではなく、図1中の一点鎖線およびαで示す濃度分布関数で表される。なお、衝撃波フロントの位置についても、図1中の一点鎖線で示している。ここで、衝撃波発生点では濃度が低く、衝撃波フロント付近では濃度が高くなる。観測される蛍光強度は、発生点からの距離をxとすると、観測領域関数(F(x))と、その時刻における濃度分布(C(t,x))との積のxに関する積分値としての数1に比例すると考えられる。
【0031】
【数1】
JP0005035855B2_000002t.gif

【0032】
ここで、数1中、tに関する積分範囲は、観測ゲート幅に相当する。このように考えると、図1において、時刻t=tでは蛍光強度は衝撃波発生前より強度が高くなる。衝撃波発生後の時刻t=tにおいては、濃度分布は、図1中の二点鎖線およびβで示す濃度分布関数で表される。また、衝撃波フロントの位置についても、図1中の二点鎖線で示している。時刻t=tでは蛍光強度は衝撃波発生前より強度が低くなることが理解できる。また、衝撃波フロントの位置についても、図1中の二点鎖線で示している位置まで、図1中のγで示す方向に移動する。衝撃波がこのような濃度変化を起こす原因は、衝撃波フロントが高圧、高密度流体となっているため、粒子はその伝播方向に、半径に比例する粘性抵抗力を受けるためであると考えられる。本発明は、上述のような原理であると推定される。
【0033】
次に、装置について説明する。本発明に係る装置の例として、図2に示すような顕微鏡下において分散液試料中にレーザーパルスを集光し、時間分解蛍光分光を行う装置の概略を示す。この装置の特徴は、外部に設けたレーザー空間フィルター光学系の焦点位置を調整することにより、分散液中のパルスレーザー集光位置と蛍光観測位置を空間的に制御することができる。
【0034】
図3に、衝撃波発生用レーザー(1064nmパルスレーザー)の焦点位置と蛍光観測用紫外レーザー(355nmパルスレーザー)集光位置の例を示す。図2に示す装置では、2台のヤグレーザーを用いており、それらの発振タイミングは、遅延回路によりナノ秒オーダーで制御されている。紫外レーザーの集光位置は顕微鏡の焦点と一致させており、そこから発せられる蛍光は、顕微鏡上部の結像レンズにより光ファイバーに集光されて分光器に導かれる。対物レンズの倍率および光ファイバーの直径により深さ方向の空間分解能が決まり、必要に応じて選択できる。また、顕微鏡を共焦点型にすることにより、より高い空間分解能が得られる。
【0035】
ここで、第一および第二の粒子が分散した分散液は、図3に示すように、カバーガラスとスライドガラスに挟まれた領域に配置される。これらにより形成されるプレパラートは、例えば、環状の樹脂製リングをカバーガラスとスライドガラスの間に介在させることにより、カバーガラスとスライドガラスの間の距離が確保される。なお、上記に関する制御は、パソコンに含まれる制御部(図示せず)により行なわれる。
【0036】
すなわち、この発明に係る分散液中の粒子の濃度差形成装置は、パルスレーザーを発生させるパルスレーザー発生手段としての衝撃波発生用のヤグレーザーおよびパルス発生器と、パルスレーザー発生手段によって発生させたパルスレーザーを用いて、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生手段としての対物レンズおよび光ファイバーを含む顕微鏡と、衝撃波発生手段によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与手段としての制御部とを備える。
【0037】
また、この発明に係る分散液中の粒子の濃度差形成方法は、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中にパルスレーザーを照射し、分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生工程と、衝撃波発生工程によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与工程とを備える。
【0038】
このように構成することにより、レーザー誘起衝撃波によって分散液中に分散した粒径の異なる第一および第二の粒子をそれぞれ加速し、加速された粒子の濃度の高い部分を形成して、粒子を検出することができる。このようなレーザー誘起衝撃波は、短時間で粒子を加速することができ、かつ、粒径に応じて粒子を加速して移動させることができる。また、このようなレーザー誘起衝撃波は、パルスレーザー等を用いて分散液中に容易に発生させることができる。したがって、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子の濃度差を形成することができる。
【0039】
また、この発明に係る粒子の検出装置は、パルスレーザーを発生させるパルスレーザー発生手段としての衝撃波発生用のヤグレーザーおよびパルス発生器と、パルスレーザー発生手段によって発生させたパルスレーザーを用いて、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生手段としての対物レンズおよび光ファイバーを含む顕微鏡と、衝撃波発生手段によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与手段としての制御部と、移動速度差付与手段によって加速して移動された第一または第二の粒子を検出する検出手段としての蛍光観測用のヤグレーザーおよびパルス発生器とを備える。
【0040】
また、この発明に係る粒子の検出方法は、第一の粒径を有する第一の粒子と第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子とが分散した分散液中にパルスレーザーを照射し、分散液中に衝撃波を発生させる衝撃波発生工程と、衝撃波発生工程によって発生した衝撃波により、第一の粒子を第一の加速度で加速して移動させ、第二の粒子を第一の加速度よりも大きい第二の加速度で加速して移動させる移動速度差付与工程と、第一または第二の粒子を検出する検出工程とを備える。
【0041】
こうすることにより、レーザー誘起衝撃波によって分散液中に分散した粒径の異なる第一および第二の粒子をそれぞれ加速し、加速された粒子の濃度の高い部分を形成して、粒子を検出することができる。このようなレーザー誘起衝撃波は、短時間で粒子を加速することができ、かつ、粒径に応じて粒子を加速して移動させることができる。また、このようなレーザー誘起衝撃波は、パルスレーザー等を用いて分散液中に容易に発生させることができる。したがって、短時間で、かつ、容易に分散液中の粒子の検出を行うことができる。
【0042】
さらに、この発明によると、たとえば、浸透ゲルクロマトグラフィー等において使用される浸透ゲルが不要であり、溶媒をそのまま用いることができる。したがって、安価に構成することができる。また、高い分解能と高速化あるいは小型化を両立することができる。また、このようなレーザー誘起衝撃波は、比較的大きな粒子も移動させることができるため、レーザーによる液体中の粒子の加速により、通常では細胞膜や細胞壁により導入できないような高分子量の粒子を直接細胞内に注入できる。
【0043】
なお、分散液中の粒子の濃度差形成装置は、粒子を分離する分離手段を備えるよう構成してもよい。具体的には、加速された第一の粒子と第二の粒子との間に仕切りを設け、第一の粒子と第二の粒子とを分離するようにする。こうすることにより、短時間で、かつ、容易に、加速された第一および第二の粒子の分離を行うことができる。
【0044】
なお、上記の実施の形態においては、粒子の蛍光強度により、粒子を検出することにしたが、これに限らず、粒子の屈折率や吸光度により、粒子を検出する構成としてもよい。さらに、その他の光学検出を行なうことにより、粒子を検出することにしてもよい。
【0045】
また、上記の実施の形態においては、衝撃波発生用レーザーとして1064nmのパルスレーザーを用いることにしたが、これに限らず、他の波長のナノ秒またはマイクロ秒のパルス幅を有するパルスレーザーによりレーザー誘起衝撃波を発生させることにしてもよい。なお、加速させる粒子の大きさ等により、レーザーの強度やレーザー誘起衝撃波を発生させる位置までの距離等は、任意に変更可能である。
【0046】
また、第二の粒子の大きさとしては、半径1nm以上であることが好ましく、さらに半径1nm以上1μm以下であることが好ましく、さらに半径1nm以上10nm以下であることが好ましい。1μmよりも大きい粒径では、粘性抵抗による減速の効果があるため、第一の粒子と第二の粒子との移動速度差が小さくなり、濃度差の形成が困難になると考えられるからである。10nm以下であることが好ましいのは、粘性抵抗による減速の効果がより少ないと考えられるからである。また、少なくとも上記構成とすることにより、半径1nm以上の粒子を加速することができる。
【0047】
さらに、分散液は、粒径の異なる三種類以上の粒子を含み、上記構成により、これら粒子をそれぞれ加速して移動させる構成としてもよい。
【0048】
以下に、実験例を示す。図4Aおよび図4Bは、図2および図3によって示される装置により測定されたピラニンおよびピレン—γ-シクロデキストリン2:2包接体水溶液の蛍光強度の1064nmレーザーパルスに対する355nm蛍光観測用レーザーパルスの遅延時間依存性を示す図である。
【0049】
図4Aおよび図4Bを参照して、1064nmレーザーパルス照射により衝撃波発生後の集光点から約300μm離れた観測点でのピレン—γ-シクロデキストリン2:2包接体の蛍光強度は、時間とともに増加している。衝撃波の観測点への到達時間は、約200nsである。しかし、ピラニンではそのような効果はみられない。このことは、ピレン—γ-シクロデキストリン2:2包接体の観測点における濃度が増大したことを示している。第一の粒子としてのピラニンおよび第二の粒子としてのピレン—γ-シクロデキストリン2:2包接体での結果の違いは、それらの流体力学的半径が0.3nmおよび1.0nmであることに起因する加速効果の違いである。
【0050】
次に、他の実験例を示す。図5は、ANSとアルブミンとの混合溶液の蛍光の衝撃波による影響を示す図である。なお、衝撃波を発生させる基本波のレーザー強度は、1.7mJ/pulse、基本波と第三高調波との焦点間の距離を200μm、観測ゲート幅を50nsとしている。また、緩衝溶液中のアルブミンの濃度を1.0×10-5M、ANSの濃度を3.0×10-4Mとする。ここで、第二の粒子としてのアルブミン粒子の大きさは、直径約4nmであり、第一の粒子としてのANS粒子の大きさは、直径約0.6nmである。
【0051】
図5を参照して、緩衝溶液は、ANSがアルブミンに取り込まれることにより、強い蛍光性を示す。以下、ANSがアルブミンに取り込まれたものを、「アルブミン・ANS」という。アルブミンに取り込まれていないANS(以下、「遊離ANS」という)も蛍光性を示すが、その強度は弱い。また、両者の蛍光は、観測される波長が異なるため、区別することができる。この場合、ANSはアルブミンに1:1で取り込まれるため、遊離ANSの濃度は、2.9×10-Mでほぼ変わらないと考えてよい。この溶液にレーザー衝撃波を作用させ、200μm離れた位置で蛍光を観測すると、アルブミン・ANSからの蛍光の遊離ANSからの蛍光に対する相対強度が、観測点への衝撃波到達時間付近で高くなり、その後減少している。このことも衝撃波がアルブミンへの作用により、伝播方向への移動を起こし、サイズの小さいANSに対しては、ほとんど影響を及ぼさないことを示している。このようにして、粒子の粒径の違いによる粒子分別が可能であることを強く示唆している。
【0052】
次に、応用例について示す。図6にレーザー浸透クロマトグラフィーの概念図を示す。A点に導入された試料混合物は、レーザーパルスにより発生した衝撃波により加速を受け、Bの方向へ移動する。このとき、混合物中の粒子の流体力学的半径が異なると加速を受ける程度が異なるので、空間的に粒子サイズにより分けられることになる。そこで、溶媒を連続的に流すことにより、B点では、時間的に異なるタイミングで混合物中の成分粒子とその量に対応する信号を得ることになる。
【0053】
これを、さらに具体的に説明する。図7は、図6に示すレーザー浸透クロマトグラフィーによる検出工程を示す概念図であり、パルスレーザーによる誘起衝撃波を発生させる位置および粒子が移動した後の状態を示す。
【0054】
図6、図7を参照して、分散液中には、第一の粒径を有する第一の粒子Qと、第一の粒径よりも大きい第二の粒径を有する第二の粒子Qとが分散している。ここで、P点で示される位置においてパルスレーザーによる衝撃波を発生させる。そうすると、第二の粒径を有する第二の粒子Qは図7中の矢印Rで示す方向に第二の加速度で大きく加速され、衝撃波発生点であるP点よりも遠い地点で観測される。また、第二の粒径よりも小さい第一の粒径を有する第一の粒子Qは、第一の加速度で小さく加速され、衝撃波発生点であるP点付近で観測される。ここで、観測は、図7中の矢印で示す方向への蛍光または散乱により検出することができる。このようにして、分離して計測する。
【0055】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の利用分野として、以下のようなものが挙げられる。
【0057】
・サイズ依存性を利用した浸透クロマトグラフィーの高速・小型化、分子量測定等の分析・分取への応用。
【0058】
この場合の利点として、浸透ゲルが不要であり溶媒をそのまま用いることができる。浸透を行う部分は数ミリの長さでよく、数パルスのレーザー照射により分子量に応じて集光部分からの加速・浸透が行われ、超高速の分子量測定(レーザー浸透クロマトグラフィー(Laser Permeation Chromatography))が可能になると考えられる。また、この場合には、通常のゲル浸透クロマトグラフィーで分析できない分子複合体についても分子量を推定できる特徴を持ち、電気泳動法では分離できない電荷を持たない中性の高分子量化合物の分析も可能と考えられる。さらに、マイクロ流路系と併用することにより分子の分別分取も可能となると考えられる。
【0059】
・細胞等への分子注入による選択的生体操作、マーキング、遺伝子操作。
【0060】
レーザーによる溶液中の分子の加速により、通常では細胞膜や細胞壁により導入できないような高分子量の分子を直接細胞内に注入できる。また、包接現象を利用すると低分子量の薬物等を非接触で細胞に注入できるため、その生細胞への効果を調べることができる。同様に細胞に類似したマイクロカプセルなどの調製後の加工、マイクロカプセル内反応の触媒注入による開始などが考えられる。
【0061】
本発明においては、加速を行うことができる分子の範囲が流体力学的半径により制限されるが、電気泳動法で必要な分子の電荷は必要ではない。そのため、糖のような非電解質生体分子の分析にも応用可能と考えられる。つまり、分子サイズ依存性があり、単分子としては高分子のような分子量の大きいもの程大きく加速を受ける。したがって、低分子量の小さい分子はそのままでは加速できないが、包接化を利用した低分子の加速が可能である。その例として、シクロデキストリン、カリックスアレン等による包接、高分子-低分子複合体の形成により低分子を加速することができる。また、低分子が形成する分子会合体の加速が可能であり、ミセル、ベシクル、色素会合体、微結晶などが考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4A】
3
【図4B】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
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