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明細書 :真空蒸着成膜方法、真空蒸着成膜システム、結晶性真空蒸着膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5395842号 (P5395842)
公開番号 特開2012-219355 (P2012-219355A)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
公開日 平成24年11月12日(2012.11.12)
発明の名称または考案の名称 真空蒸着成膜方法、真空蒸着成膜システム、結晶性真空蒸着膜
国際特許分類 C23C  14/24        (2006.01)
H01L  51/42        (2006.01)
FI C23C 14/24 E
C23C 14/24 N
H01L 31/04 D
請求項の数または発明の数 8
全頁数 25
出願番号 特願2011-088465 (P2011-088465)
出願日 平成23年4月12日(2011.4.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 社団法人 応用物理学会の主催に係る「2011年春季 第58回応用物理学関係連合講演会」の講演予稿集(平成23年3月9日発行)において文書をもって発表。
審査請求日 平成24年2月3日(2012.2.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
発明者または考案者 【氏名】嘉治 寿彦
【氏名】平本 昌宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100097733、【弁理士】、【氏名又は名称】北川 治
審査官 【審査官】安齋 美佐子
参考文献・文献 特開平08-264863(JP,A)
特開2002-076027(JP,A)
特開2011-014895(JP,A)
特開2003-282934(JP,A)
特開2010-258205(JP,A)
特表2010-533981(JP,A)
特表2007-533163(JP,A)
調査した分野 C23C 14/00-14/58
H01L 51/42
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
有機半導体の蒸着膜を構成すべき下記(a)又は(b)の有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用いることを特徴とする真空蒸着成膜方法。
(a)ドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n-型)材料との分子の組み合わせである有機半導体分子を共蒸着させる場合においては、
第1の成分として、フラーレン(C60)、炭素数が61以上の高次フラーレン及びそれらの誘導体と金属内包物を包含するフラーレン系分子材料の1種を用い、
第2の成分として、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びそれらの誘導体を包含する縮合数3以上の多環アセン系分子材料、セクシチオフェンやチオフェン環のオリゴマーを包含するチオフェン系分子材料、メタルフリーフタロシアニンや各種金属フタロシアニン、メタルフリーナフタロシアニンや各種金属ナフタロシアニンおよびその誘導体を包含するフタロシアニン系分子材料、メタルフリーポルフィリンや各種金属ポルフィリンおよびその誘導体を包含するポルフィリン系分子材料、ペリレンやその誘導体を包含するペリレン系分子材料、トリフェニルアミンとその誘導体を包含するトリフェニルアミン系分子材料からなる群から選択される1種を用いる。
(b)単一成分の有機半導体分子を蒸着させる場合においては、
フラーレン(C60)、炭素数が61以上の高次フラーレン及びそれらの誘導体と金属内包物を包含するフラーレン系分子材料の1種を用いる。
【請求項2】
前記(a)の場合において、
第2の成分として、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びそれらの誘導体を包含する縮合数3以上の多環アセン系分子材料、又はメタルフリーフタロシアニンや各種金属フタロシアニン、メタルフリーナフタロシアニンや各種金属ナフタロシアニンおよびその誘導体を包含するフタロシアニン系分子材料からなる群から選択される1種を用いることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着成膜方法。
【請求項3】
前記(a)の場合において、
第2の成分として、多環アセン系分子材料であるテトラセンの1種、又はメタルフリーフタロシアニンや各種金属フタロシアニン、メタルフリーナフタロシアニンや各種金属ナフタロシアニンおよびその誘導体を包含するフタロシアニン系分子材料の1種を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空蒸着成膜方法。
【請求項4】
前記不活性分子が、室温における蒸気圧が1Pa以下であることを前提として、下記の(1)~(3)に列挙する分子のいずれかであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の真空蒸着成膜方法。
(1)直鎖状又は分岐状のシロキサン骨格構造を持つ分子。
(2)直鎖状又は分岐状のアルキル骨格構造を持つ分子。
(3)直鎖状又は分岐状のエーテル骨格構造を持つ分子。
【請求項5】
前記(a)のドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n-型)材料との分子の組み合わせである有機半導体分子を共蒸着させる場合において、有機半導体の蒸着膜が、バルクへテロジャンクション(BHJ)構造のi-中間層(interlayer)であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の真空蒸着成膜方法。
【請求項6】
前記有機半導体の蒸着膜が真空蒸着型有機太陽電池に用いられるものであることを特徴とする請求項5に記載の真空蒸着成膜方法。
【請求項7】
前記(b)の単一成分の有機半導体分子を蒸着させる場合において、有機半導体の蒸着膜が、薄膜トランジスタ素子のチャネル領域を構成する有機半導体層であることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着成膜方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の真空蒸着成膜方法を実施するためのシステムであって、少なくとも下記(1)~(6)の要素を含んで構成されることを特徴とする真空蒸着成膜システム。
(1)真空槽
(2)蒸着用の基板
(3)基板に対する加熱手段
(4)基板に有機半導体分子を蒸着させるための、単一種類の有機半導体分子を収容した有機半導体分子容器、あるいは、複数種類の有機半導体分子をそれぞれ収容した有機半導体分子容器
(5)室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子の物質を収容した不活性物質容器
(6)有機半導体分子容器と不活性物質容器に対する加熱手段
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体を用いた真空蒸着成膜方法と、真空蒸着成膜システムと、結晶性真空蒸着膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラーレン(C60)、フタロシアニン、ポルフィリン等の有機半導体分子を基板上に成膜させてなる有機半導体素子を用いた有機電界発光(有機EL)、有機薄膜トランジスタ(TFT)、有機薄膜太陽電池その他のデバイスの研究、開発及び実用化が進んでいる。これらのデバイスにおいては、真空蒸着によって有機半導体分子を成膜させる技術が注目されており、特に高機能有機半導体膜を得るための高結晶性の真空蒸着膜が求められている。
【0003】
上記の各種有機半導体分子を真空蒸着する際には、真空中で加熱された有機半導体分子が昇華・蒸発して対向位置する基板の表面に飛来するが、基本的には、飛来した有機半導体分子はそのまま基板上に凝着されて非晶質膜となり、必ずしも高結晶性の真空蒸着膜は得られない。基板を一定の温度に加温しておくと真空蒸着膜の結晶性が高まるとされているが、その効果は限定的である。
【0004】
有機半導体分子の真空蒸着による成膜として、2種類以上の有機半導体分子を共蒸着して複数成分膜とする場合と、単一種類の有機半導体分子を蒸着して単一成分膜とする場合とを挙げることができる。以下において、2種類の有機半導体分子を共蒸着する場合として有機太陽電池におけるBHJ構造の作製について、又、単一種類の有機半導体分子を蒸着する場合としてチャネル領域に有機半導体層を有する薄膜トランジスタの作製について、それぞれの従来技術を述べる。
【0005】
〔従来技術1:複数成分膜の作製(有機太陽電池)〕
有機半導体素子には共通して、キャリア伝導度が低いという問題があるが、この問題は有機ELでは膜厚を最小限にすることで克服された。しかしながら、太陽光-電力変換のための低価格技術として活発に研究されている有機太陽電池では、膜厚の極小化は光吸収量の減少に直結するため、膜厚の極小化によってキャリア伝導度の増大を図ることは困難であり、他の手段で解決する必要がある。その最も現実的な候補の一つが結晶化であるが、蒸着型有機太陽電池の共蒸着層を形成する方法は、通常、蒸着速度の制御と基板の温度制御に限られる(下記の非特許文献1参照)。
【0006】
現在、有機太陽電池における研究の主流はバルクへテロジャンクション(BHJ)構造(下記の非特許文献2参照)の最適化による太陽電池の変換効率の向上に注力されている。BHJ構造とはドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n-型)材料との組み合わせで構成される様々な有機材料の混合膜である。
【0007】
高効率の有機太陽電池は、主にP3HT:PCBM(オリゴチオフェンのポリマー:フラーレン誘導体)のように、共役高分子をドナー、低分子をアクセプターとした溶液塗布型の混合膜によるBHJで構成される(下記の非特許文献3参照)。これらの高分子BHJにおいては膜形態と結晶性の制御が重要であり、その制御は通常、溶液塗布工程における適切な溶媒の選択(下記の非特許文献4参照)と膜形成後の微調整により行われる。しかし、真空蒸着型有機太陽電池ではBHJはドナー・アクセプター共に低分子で構成され、この構造の形態・結晶性を制御できる範囲は、溶媒の効果がないため、より大きく制限される。
【0008】
BHJ構造の起源は低分子有機太陽電池の初期の研究に遡ることができる。最初に1986年にp-n2層構造、後に1991年にp-i-n3層構造が報告され、ここでi-中間層(interlayer)はBHJに相当し、フタロシアニンとペリレン誘導体の真空蒸着された混合膜であった。現在、BHJ構造を改善した真空蒸着型有機太陽電池は、単一セルで最高4~5%の効率を示している。高分子太陽電池と同様に、これらの改善は混合膜の形態の精密制御とそれによる電気特性の改善により達成されている。真空蒸着型有機太陽電池においては、形態制御の方法は一般的に、蒸着速度・蒸着中の基板温度・蒸着後の加熱温度に限られており、高分子太陽電池には元来存在する溶媒由来の効果はない。この差は明らかに低分子系の真空蒸着型有機太陽電池の性能を制限している主要要素である。高分子混合膜と比べて、ほとんどの真空蒸着された混合膜の電気伝導度は比較的低い。したがって、100nm程度までの非常に薄い膜のみが有機太陽電池として用いられ、不十分な光吸収とその結果の低い短絡電流につながっていた。また、真空蒸着混合膜は膜厚が大きいと、電気伝導度が低いためにフィルファクターがすべからく悪くなり、非常に低い変換効率の有機太陽電池となる。
【0009】
なお、下記の特許文献1には、温度制御下において2種の有機半導体分子の共蒸着膜を作製する方法の一例が開示され、下記の特許文献2には、有機EL素子を製造するための真空蒸着装置の一例が開示されている。
【0010】
〔従来技術2:単一成分膜の作製(薄膜トランジスタ)〕
薄膜トランジスタ、より具体的にはチャネル領域に有機半導体層を有する薄膜トランジスタの製造においては、例えば下記の特許文献3に示されるように、ナフタレン、アントラセン、フタロシアニン系化合物、アゾ系化合物、ペリレン系化合物、ヒドラゾン化合物、ジフェニルメタン化合物、スチルベン化合物等やそれらの誘導体と言った多様な有機半導体材料を用いて、真空蒸着その他の多様な手段で有機半導体層が形成されている。
【0011】
又、例えば下記の特許文献4では、ペンタセンからなる有機半導体層の結晶化を促す方法として、ペンタセンの種結晶を基板上に析出させ、酸素の存在下で光照射することにより針状結晶を成長させる方法を開示している。
【0012】
しかし、これらの従来技術においても、蒸着された有機半導体層を高結晶化させると言う課題は、必ずしも十分に解決されていない。
【先行技術文献】
【0013】

【非特許文献1】Nielsen, T. D., Cruickshank, C., Foged,S., Thorsen, J. & Krebs, F. C. Business, marketand intellectual property analysis of polymer solar cells. Sol. Energy Mater. Sol. Cells. 94, 1553-1571 (2010).
【非特許文献2】Yu, G., Gao, J., Hummelen,J. C., Wudl, F. & Heeger,A. J. Polymer photovoltaic cells: enhanced efficiencies via a network ofinternal donor-acceptor heterojunctions. Science 270, 1789-1791(1995).
【非特許文献3】Liang, Y. et al. For the bright future-bulk heterojunctionpolymer solar cells with power conversion efficiency of 7.4%. Adv. Mater. 22, E135-E138(2010).
【非特許文献4】Peet, J. et al. Efficiency enhancement in low-bandgappolymer solar cells by processing with alkane dithiols. Nature Mater. 6, 497-500 (2007).
【0014】

【特許文献1】特開2002-76027号公報
【特許文献2】特開2008-127628号公報
【特許文献3】特開2003-86805号公報
【特許文献4】特開2004-281786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで本発明は、有機半導体真空蒸着膜の形成に当たり、蒸着膜を高結晶化させるための新規かつ有効な手段を提供することを、解決すべき課題とする。
本願発明者は、有機半導体の蒸着膜を構成すべき複数成分又は単一成分の有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、共蒸発物として、有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示す一定の不活性分子を共蒸発物として用いることにより、高品質で配向性のある結晶性有機半導体蒸着膜を作製することに成功し、本発明を完成した。又、本発明では、より大きな光吸収のために400nm程度の比較的厚い混合蒸着膜を使用したときの、光誘起電荷生成効率改善による太陽電池特性の大幅な改善が見られた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、有機半導体の蒸着膜を構成すべき有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用いる、真空蒸着成膜方法である。
【0017】
上記の第1発明において、「不活性分子」とは、電子(正孔)輸送性を示さず、かつ有機半導体分子と化学的に反応しない分子を言う。この不活性分子は液体状であっても良いが、固体状であっても構わない。又、不活性分子の室温における蒸気圧は、より好ましくは、10-2Pa以下である。
【0018】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明においては、前記第1発明に係る真空蒸着成膜方法において、不活性分子が、室温における蒸気圧が1Pa以下であることを前提として、下記の(1)~(3)に列挙する分子のいずれかである。
【0019】
(1)直鎖状又は分岐状のシロキサン骨格構造を持つ分子。この分子は、側鎖として、単環の芳香環ないしはナフタレン環、アルキル鎖、又はエーテルから選ばれる1以上の側鎖を備えていても良い。
【0020】
(2)直鎖状又は分岐状のアルキル骨格構造を持つ分子。特にアルキル鎖部分の炭素数が10以上のもの。この分子は、側鎖として、単環の芳香環ないしはナフタレン環、又はエーテルから選ばれる1以上の側鎖を備えていても良い。
【0021】
(3)直鎖状又は分岐状のエーテル骨格構造を持つ分子。骨格に単環の芳香環を1以上有しても良い。芳香環を持たない場合は、特に炭素数が10以上のもの。
【0022】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明においては、前記第1発明又は第2発明に係る真空蒸着成膜方法において、有機半導体の蒸着膜を構成する有機半導体分子が、共蒸着された複数成分の有機半導体分子である。
【0023】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明においては、前記第3発明に係る真空蒸着成膜方法において、共蒸着された複数成分の有機半導体分子がドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n-型)材料との分子の組み合わせである。
【0024】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明においては、前記第3発明又は第4発明に係る真空蒸着成膜方法において、共蒸着された複数成分の有機半導体分子が、フラーレン(C60)、炭素数が61以上の高次フラーレン及びそれらの誘導体と金属内包物を包含するフラーレン系分子材料、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びそれらの誘導体を包含する縮合数3以上の多環アセン系分子材料、セクシチオフェンやチオフェン環のオリゴマーを包含するチオフェン系分子材料、メタルフリーフタロシアニンや各種金属フタロシアニン、メタルフリーナフタロシアニンや各種金属ナフタロシアニンおよびその誘導体を包含するフタロシアニン系分子材料、メタルフリーポルフィリンや各種金属ポルフィリンおよびその誘導体を包含するポルフィリン系分子材料、ペリレンやその誘導体を包含するペリレン系分子材料、トリフェニルアミンとその誘導体を包含するトリフェニルアミン系分子材料、よりなる群から選択されるドナー性材料とアクセプター性材料との分子の組み合わせである。
【0025】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明においては、前記第3発明~第5発明のいずれかに係る真空蒸着成膜方法において、有機半導体の蒸着膜が、バルクへテロジャンクション(BHJ)構造のi-中間層(interlayer)である。
【0026】
この第6発明において、「BHJ構造のi-中間層」としては、p-i-n3層構造の有機半導体素子におけるBHJ構造のi-中間層、あるいは、このようなp-i-n3層構造のp-層と n-層が金属酸化物層に置換された構造におけるBHJ構造のi-中間層、又はこのようなp-i-n3層構造のp-層と n-層のいずれか一方が金属酸化物層に置換された構造におけるBHJ構造のi-中間層等が例示される。
【0027】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明においては、前記第6発明に係る真空蒸着成膜方法において、有機半導体素子が真空蒸着型有機太陽電池に用いられるものである。
【0028】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明においては、前記第1発明又は第2発明に係る真空蒸着成膜方法において、有機半導体の蒸着膜を構成する有機半導体分子が、蒸着された単一成分の有機半導体分子である。
【0029】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための本願第9発明においては、前記第8発明に係る真空蒸着成膜方法において、蒸着された単一成分の有機半導体分子が、フラーレン(C60)、炭素数が61以上の高次フラーレン及びそれらの誘導体と金属内包物を包含するフラーレン系分子材料、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びそれらの誘導体を包含する縮合数3以上の多環アセン系分子材料、セクシチオフェンやチオフェン環のオリゴマーを包含するチオフェン系分子材料、メタルフリーフタロシアニンや各種金属フタロシアニン、メタルフリーナフタロシアニンや各種金属ナフタロシアニンおよびその誘導体を包含するフタロシアニン系分子材料、メタルフリーポルフィリンや各種金属ポルフィリンおよびその誘導体を包含するポルフィリン系分子材料、ペリレンやその誘導体を包含するペリレン系分子材料、トリフェニルアミンとその誘導体を包含するトリフェニルアミン系分子材料、よりなる群から選択される有機半導体分子である。
【0030】
(第10発明の構成)
上記課題を解決するための本願第10発明においては、前記第8発明又は第9発明に係る真空蒸着成膜方法において、有機半導体の蒸着膜が薄膜トランジスタ素子のチャネル領域を構成する有機半導体層である。
【0031】
(第11発明の構成)
上記課題を解決するための本願第11発明の構成は、第1発明~第10発明のいずれかに係る真空蒸着成膜方法を実施するためのシステムであって、少なくとも下記(1)~(6)の要素を含んで構成される、真空蒸着成膜システムである。
【0032】
(1)真空槽
(2)蒸着用の基板
(3)基板に対する加熱手段
(4)基板に有機半導体分子を蒸着させるための、単一種類の有機半導体材料を収容した有機半導体材料容器、あるいは、複数種類の有機半導体材料をそれぞれ収容した有機半導体材料容器
(5)室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子の物質を収容した不活性物質容器
(6)有機半導体材料容器と不活性物質容器に対する加熱手段
上記の第11発明において、「不活性分子」の意味は第1発明の場合と同様である。不活性分子の室温における蒸気圧は、より好ましくは、10-2Pa以下である。「不活性分子の物質」とは、不活性分子からなる物質、又は、不活性分子と共に本発明の効果を阻害しない他種の分子を含む組成物を言う。
【0033】
(第12発明の構成)
上記課題を解決するための本願第12発明の構成は、有機半導体の蒸着膜を構成すべき有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用いることにより得られた、結晶性真空蒸着膜である。
【0034】
上記の第12発明において、「不活性分子」の意味は第1発明の場合と同様である。不活性分子の室温における蒸気圧は、より好ましくは、10-2Pa以下である。
【0035】
(第13発明の構成)
上記課題を解決するための本願第13発明においては、前記第12発明に係る結晶性真空蒸着膜において、蒸着膜を構成する有機半導体分子が共蒸着された複数成分の有機半導体分子からなる。
【0036】
(第14発明の構成)
上記課題を解決するための本願第14発明においては、前記第13発明に係る結晶性真空蒸着膜において、共蒸着された複数成分の有機半導体分子が、ドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n-型)材料との分子の組み合わせである。
【0037】
(第15発明の構成)
上記課題を解決するための本願第15発明においては、前記第13発明又は第14発明に係る結晶性真空蒸着膜において、有機半導体の蒸着膜が、バルクへテロジャンクション(BHJ)構造のi-中間層(interlayer)である。
【0038】
この第15発明において、「BHJ構造のi-中間層」としては、第6発明の場合と同様のものが例示される。
【0039】
(第16発明の構成)
上記課題を解決するための本願第16発明においては、前記第12発明に係る結晶性真空蒸着膜において、蒸着膜を構成する有機半導体分子が、蒸着された単一成分の有機半導体分子からなる。
【0040】
(第17発明の構成)
上記課題を解決するための本願第17発明においては、前記第16発明に係る結晶性真空蒸着膜において、有機半導体の蒸着膜が薄膜トランジスタ素子のチャネル領域を構成する有機半導体層である。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、有機半導体真空蒸着膜の形成に当たり、蒸着膜を高結晶化させるための新規かつ有効な手段が提供される。言い換えれば真空蒸着で作製した有機半導体膜の形態と結晶性とを制御する有用な方法が提供される。
【0042】
本発明の方法では前記した一定の不活性分子を共蒸発物として用いることにより、単一成分又は複数成分からなる有機半導体分子が基板表面に凝集する際の、基板表面に対する横方向の分子の動き易さを向上させ、その結果、有機半導体蒸着膜に良好な結晶性を与えることができる。本明細書では、この現象を「共蒸発物誘起結晶化(co-evaporant induced crystallization)」と呼ぶ。本願発明者は共蒸発物誘起結晶化について次のように理解している。
【0043】
即ち、通常の場合、一成分又は複数成分からなる有機半導体分子が真空蒸着される際には、これらの分子は昇華・蒸発して、対向位置する基板表面に対して垂直方向より飛来し、そのまま基板上に凝着される。従って、有機半導体は非晶質膜となり易く、高結晶性の真空蒸着膜は得られない。基板を一定の温度に加温すると真空蒸着膜の結晶性が高まるとされているが、その効果は限定的である。これに対して、真空蒸着の際に一定の不活性分子を共蒸発物として用いた場合には、共蒸発物誘起結晶化が起こる。
【0044】
共蒸発物誘起結晶化のコンセプトを、図1(a)と図1(b)の対比に基づいて説明する。これらの図においては、ドナー及びアクセプターの2種類の有機半導体分子を共蒸着する場合を示し、これらの有機半導体分子は球状及び円盤状に図示されている。又、不活性分子は棒状に示されている。
【0045】
図1(a)は従来の真空蒸着による混合膜作製法によりドナー:アクセプター混合分子を共蒸着した場合の混合膜形成を描いた図である。2種類の有機半導体の混合分子がそれぞれの蒸着源から基板表面に対して垂直な運動量を持って衝突する。図の矢印は分子の運動方向を示すもので、その運動の軌道が蒸着源と基板表面との間で垂直であることを想定している。
【0046】
混合分子(2種類の有機半導体分子)が基板に衝突して気相から凝縮することで薄膜成長が起きる。真空蒸着法ではよく知られているように、凝縮の結果できる固体膜の結晶性は、凝縮の際の基板上での分子の動きやすさに大きく依存する。これはすなわち、一般的に基板温度と混合分子の基板への到達(蒸着)速度に依存することになる。このモデルでは、衝突する分子は基板表面に対し垂直成分の大きい運動量を持つため、分子の運動エネルギーは基板横方向の動きやすさにはほとんど影響を及ぼさない。
【0047】
対照的に第1発明の方法では、この衝突分子の垂直方向の運動量を混合薄膜の成長中に変化させる。この場合、図1(b)に示すように共蒸発させる不活性分子が混合分子と一緒に共蒸着の工程に導入される。混合膜の結晶成長を効果的に促進するため、共蒸発分子(不活性分子)は蒸着工程の間に凝縮しないように十分に揮発性でなくてはならない。すなわち、混合分子のみが基板上で凝縮することを許される。事実、揮発性の共蒸発分子は、基板に衝突する混合分子を迎え撃つために、基板表面から放出する蒸発源と考えることができる。重要なことは、共蒸発分子が基板から放出されて、恐らく不規則の角度で到達した混合分子と衝突し(図1(b)では、この衝突を星形状の図形により示す)、混合分子を基板表面に到達する直前に散乱させる点である。これらの衝突を通じて、混合分子は基板表面に対して水平方向の一定の運動量を得ることができ、混合膜形成の際に混合分子に横方向の動き易さを増加させることにより、混合膜の結晶化が促進される。
【0048】
共蒸発させる不活性分子は幾つかの基準を満たさなくてはならない。
(ア)有機半導体分子と化学的に反応しない不活性な分子であり、加熱により分解することなしに蒸発する。
(イ)蒸気圧は混合分子と比べて高い。
(ウ)電子(正孔)輸送性を示さない。
【0049】
不活性分子として第2発明に列挙するものが好ましく例示される。例えば、液体のオイルは分子量に対する蒸気圧の比が液体としては非常に大きい傾向があるため、上記の基準を容易に満たし、不活性分子として望ましい。なお、不活性分子の分子量は混合分子と比べて大きくても良いが、混合分子と同等又は小さくても良い。
【0050】
なお、有機半導体分子の真空蒸着が完了した後の蒸着膜中に不活性分子がある程度残存しているか否かは必ずしも明瞭に確認していないが、仮にある程度残存していても、後述の実施例から明らかなように、結晶性の有機半導体蒸着膜の機能に対して有害ではないと考えられる。
【0051】
このような本発明の真空蒸着成膜方法は、第3発明のように複数成分の有機半導体分子を共蒸着させる場合に適用しても、第8発明のように単一成分の有機半導体分子を蒸着させる場合に適用しても、有効であると考えられる。
【0052】
前者の場合、ドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n-型)材料との分子の組み合わせを選択することにより、例えば、真空蒸着型有機太陽電池に用いられるバルクへテロジャンクション(BHJ)構造のi-中間層(interlayer)を高い結晶性のもとに作製することができる。BHJ構造のi-中間層としては、p-i-n3層構造の有機半導体素子におけるBHJ構造のi-中間層、このようなp-i-n3層構造のp-層とn-層が金属酸化物層に置換された構造におけるBHJ構造のi-中間層、このようなp-i-n3層構造のp-層と n-層のいずれか一方が金属酸化物層に置換された構造におけるBHJ構造のi-中間層等が例示される。
【0053】
後者の場合、例えば、薄膜トランジスタ素子のチャネル領域を構成する有機半導体層を、高い結晶性のもとに作製することができる。
【0054】
更に、本発明においては、上記各種の真空蒸着成膜方法を実施するための、真空蒸着成膜システムが提供される。この真空蒸着成膜システムは、通常の真空蒸着成膜システムの構成要素に加えて、上記の第11発明において示したように、「(5)室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子の物質を収容した不活性物質容器」、及びこの容器に対する加熱手段を備える点が新規な技術的特徴である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1(a)と図1(b)の対比に基づいて共蒸発物誘起結晶化のコンセプトを示す図である。
【図2】図2(a)はC60、H2Pc及びADE(n=16,18)を示し、図2(b)は実施例に係る有機太陽電池の白色光照射下での電流密度-電圧(J-V)特性を示す。
【図3】H2Pc真空蒸着膜、C60真空蒸着膜、体積比1:1のH2Pc:C60混合真空蒸着膜の吸収スペクトル (UV-Vis) を比較した図である。
【図4】図4(a)は各種の共蒸発物を示し、図4(b)はこれらの共蒸発物を用いた場合における有機太陽電池の特性を示す。
【図5】蒸着膜についてのUV-Vis、XRD及びFESEMの測定結果を示す。
【図6】H2Pcに代えて用いた共蒸発物と、それらの場合に作製された有機太陽電池の電流密度-電圧(J-V)特性を示す。
【図7】単一成分C60真空蒸着膜の作製時における共蒸発物の使用の効果を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0057】
〔真空蒸着成膜方法〕
本発明に係る真空蒸着成膜方法は、有機半導体の蒸着膜を構成すべき有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温における蒸気圧が1Pa以下、より好ましくは10-2Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用いることを特徴とする。
【0058】
この真空蒸着成膜方法の好適な実施形態は、前記した第2発明~第10発明に記載されているが、これらの実施形態において、更に好ましくは以下の構成を採用することができる。
【0059】
不活性分子としては第2発明で(1)~(5)として列挙するものが好ましく、より具体的には以下のものを好ましく例示できる。
【0060】
1)アルキル鎖の炭素数が10~30の範囲内であるアルキルジフェニルエーテル。それらの不活性な誘導体あるいは類縁化合物。
【0061】
2)アルキル鎖の炭素数が10~30の範囲内であるアルキルナフタレン。それらの不活性な誘導体あるいは類縁化合物。
【0062】
3)フェニル基の数が5~15の範囲内であるポリフェニルエーテル。それらの不活性な誘導体あるいは類縁化合物。
【0063】
4)フェニル基の数が1~8の範囲内であるメチルフェニルトリシロキサン。それらの不活性な誘導体あるいは類縁化合物。
【0064】
5)ジメチルシロキサンの単位数が5~500の範囲内であるポリジメチルシロキサン。それらの不活性な誘導体あるいは類縁化合物。
【0065】
第3発明に規定される「共蒸着された複数成分の有機半導体分子」としては、第4発明に規定される2種類の有機半導体分子であるドナー性材料とアクセプター性材料との分子の組み合わせの他、ドナー性材料とドナー性材料との2種類の分子の組み合わせ、アクセプター性材料とアクセプター性材料との2種類の分子の組み合わせ、アクセプター性材料、アクセプター性材料及びドナー性材料の3種類の分子の組み合わせ、アクセプター性材料、ドナー性材料及びドナー性材料の3種類の分子の組み合わせ、アクセプター性材料、アンビポーラ性(両極性)材料及びドナー性材料の3種類の分子の組み合わせ等の、3種類以上の分子の組み合わせを例示できる。
【0066】
これらの各種の有機半導体分子の組み合わせとしては、例えば第5発明に規定される有機半導体分子の内、以下の組み合わせを例示できる。
【0067】
1)フラーレンと、メタルフリーフタロシアニン又は金属フタロシアニンとの組み合わせ。
【0068】
2)フラーレンとルブレンとの組み合わせ。
【0069】
3)ペリレン誘導体と、メタルフリーフタロシアニン又は金属フタロシアニンとの組み合わせ。
【0070】
4)ペリレン誘導体とルブレンとの組み合わせ。
【0071】
5)フラーレンと複数種類のフタロシアニンとの3種類以上の組み合わせ。
【0072】
第9発明に規定される「蒸着された単一成分の有機半導体分子」としては、特に好ましくは、フラーレン系分子材料、アセン系分子材料、フタロシアニン系分子材料、ポルフィリン系分子材料、ペリレン系分子材料等が例示される。
【0073】
〔真空蒸着成膜システム〕
本発明の真空蒸着成膜システムは、上記いずれかの真空蒸着成膜方法を実施するためのシステムであって、少なくとも下記(1)~(6)の要素を含んで構成されることを特徴とする。
【0074】
(1)真空槽
(2)蒸着用の基板
(3)基板に対する加熱手段
(4)基板に有機半導体分子を蒸着させるための、単一種類の有機半導体材料を収容した有機半導体材料容器、あるいは、複数種類の有機半導体材料をそれぞれ収容した有機半導体材料容器
(5)室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子の物質を収容した不活性物質容器
(6)有機半導体材料容器と不活性物質容器に対する加熱手段
この真空蒸着成膜システムにおいては、真空蒸着成膜方法の実施時における真空槽内の真空度、蒸着用基板の構成、蒸着時の基板の加熱温度、蒸着時の有機半導体材料容器や不活性液体容器に対する加熱の程度、等については、必要に応じて適宜に設計されるものであり、特段に限定されない。
【0075】
真空蒸着成膜方法実施時における真空槽内の真空度は、例えば1Pa以下とすることができ、好ましくは1×10-2Pa程度、より好ましくは1×10-3Pa程度とすることができる。真空槽内の真空度の下限値は限定されないが、装置の能力の面から、実際には1×10-10Pa程度が限界である。蒸着時の基板の加熱温度は例えば30℃~200℃程度、より好ましくは70℃程度とすることができる。
【0076】
真空蒸着時の加熱方法、有機半導体分子や不活性分子の蒸着速度等は、必要に応じて適宜に設定することができる。
【0077】
〔結晶性真空蒸着膜〕
本発明の結晶性真空蒸着膜は、有機半導体の蒸着膜を構成すべき有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用いることにより得られたことを特徴とする。
【0078】
特に好ましい結晶性真空蒸着膜として、有機半導体素子におけるバルクへテロジャンクション(BHJ)構造のi-中間層(interlayer)、薄膜トランジスタ素子のチャネル領域を構成する有機半導体層が例示されるが、その他にも、p-i-n3層構造の有機半導体素子におけるp層、n層、p-i-n3層構造ではない場合のBHJ層、有機超伝導体層、有機ガスセンサー層等を例示することができる。
【0079】
この真空蒸着膜の厚さは目的に応じて適宜に設定すれば良く、特に限定されない。本発明の真空蒸着膜は、従来技術に係る有機半導体分子の真空蒸着膜に対比して結晶性に優れることを特徴とするが、その結晶度は有機半導体分子の種類や真空蒸着条件に応じて異なるので、結晶度を一律にパラメーターで規定することは困難である。
【実施例】
【0080】
以下に本発明の実施例及び比較例を説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施例及び比較例によって限定されない。
【0081】
〔比較例1:BHJ構造膜の作製〕
本実施例では、図2(a)に示すメタルフリーフタロシアニン(H2Pc)とフラーレン(C60)との混合膜で構成されるBHJ構造膜を作製した。
【0082】
まず最初に、H2Pc真空蒸着膜、C60真空蒸着膜および体積比1:1のH2Pc:C60混合真空蒸着膜の吸収スペクトル (UV-Vis) を比較したものを図3の右側に示す。図3の左側には、ドナー性材料であるH2Pc(その分子を円盤状に示す)、アクセプター性材料であるC60(その分子を球状に示す)及びH2Pc:C60混合物を概念化して示している。
【0083】
これらの蒸着膜は、従来の通常の真空蒸着法により作製した。図3に示すように、H2PcとC60のスペクトルには、単一成分膜が結晶性を示すC60の445 nm
のピークとH2Pcの670 nm あたりの段差(kink)がある。しかし、これらの特徴は、H2Pc:C60混合膜のスペクトルでは明らかになくなっており、混合により個々の成分の結晶性が抑制されたことを示している。この結晶性抑制は混合膜の電気伝導度とそのBHJ構造としての有用性に不利な影響を与え得る。
【0084】
〔実施例1:BHJ構造膜の作製〕
共蒸発物の候補として、油拡散ポンプ用オイルを含めて、いくつかの長鎖アルキルとシリコーンオイルを選択した。他のオイルの意図しない混入を防ぐため、排気システムにターボ分子ポンプを用いて真空蒸着を行なった。
【0085】
(実施例1-1)
最初に、アルキルジフェニルエーテル(C6H5OC6H4CnH2n+1,
ADE)であって、図2(a)に示すように、そのアルキル鎖の炭素数nが16であるADE16と同炭素数nが18であるADE18とを、それぞれ共蒸発物として試した。
【0086】
室温では、ADE16とADE18は液体のオイルであり、蒸気圧は25 ℃でそれぞれ、およそ 7×10-6Paと1×10-6Paである。又、本実施例で用いる真空装置の典型的な真空度である1×10-3Pa付近では、ADE16とADE18の沸点はそれぞれ60
℃ と74 ℃である。
【0087】
有機太陽電池は空気プラズマ処理した酸化インジウム錫(ITO)被覆ガラス基板上に作製した。20 nm厚のH2Pcのp- 層をITO基板上に堆積し、続けて400 nm厚のH2Pc:C60(体積比1:1)混合膜(BHJ構造膜)、80 nm厚のC60 n- 層、15 nm厚のバソキュプロイン(C26H2ON2, BCP) バッファー層、100 nm厚のアルミニウム電極を順番に蒸着した。基板は混合膜の蒸着中のみ70 ℃に加熱し、他の層は23-30 ℃で成長させた。H2PcとC60の蒸着速度は1.0
オングストローム/sで、オイルの蒸着速度は0.2 オングストローム/s に保った。水冷した水晶振動子を個々の蒸着速度の測定に用いた。
【0088】
図2(b)に、上記のように作製した有機太陽電池の白色光(100 mWcm-2)照射下での電流密度-電圧 (J-V) 特性を示す。
【0089】
BHJ構造膜の蒸着時にADE16あるいはADE18を共蒸発させなかった場合、即ち図2(b)において「No co-evaporant」と表記した場合は、有機太陽電池の性能は悪く、短絡電流密度、フィルファクター、開放端電圧はそれぞれ、2.2 mA/cm2、24%、及び0.47 Vであった。そのJ-V曲線はほとんど直線状であって、このH2Pc:C60混合膜の低い伝導度を示している。
【0090】
これに対して印象的なのが、ADE16を共蒸発物として用いた有機太陽電池の場合(図2(b)において「n=16」と表記)や、ADE18を共蒸発物として用いた有機太陽電池の場合(図2(b)において「n=18」と表記)である。これらの場合は、それぞれ4.8 mA/cm2 、10.6 mA/cm2と言う、より大きな短絡電流密度を示し、フィルファクターはそれぞれ37% と47%であって、より普通の凸型のJ-V曲線を示した。これらの有機太陽電池の開放端電圧は上記と比較して影響を受けず、変換効率はADE16 とADE18とでそれぞれ、0.8%
と2.5% であった。
【0091】
以上の結果は、有機太陽電池の特性向上における、本発明に係る共蒸発法の有用性を明らかに示している。
【0092】
(実施例1-2)
上記「実施例1-1」で用いたADE16やADE18に代え、図4(a)に示す、アルキルナフタレン(AN)、ポリフェニルエーテル(PPE)、メチルフェニルトリシロキサン(MPTS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)と言った鎖長や分子形状、分子量、かさ高さ、蒸気圧が異なる分子を共蒸発物(不活性分子)として用い、その他の点は「実施例1-1」の場合と同様の層構成の有機太陽電池を作製した。
【0093】
用いた共蒸発物ごとに、図4(b)では有機太陽電池の短絡電流密度を縦軸に、共蒸発物の分子量を横軸に打点し、図4(c)では有機太陽電池の短絡電流密度を縦軸に、共蒸発物の蒸気圧を横軸に打点した。これらの有機太陽電池においては、BHJ構造膜の蒸着時に共蒸発物を用いなかった場合(図4(b)で「No co-evaporant」と表記した場合)に比較して、短絡電流密度は例外なく著しく向上した。
【0094】
興味深いことに、図4(b)では、共蒸発物の分子量が混合したH2PcやC60の分子量と同等になるにつれて、短絡電流密度が急激に上がりだしているように見える。この閾値のような挙動は、共蒸発物と混合分子の衝突が基板表面上又は基板表面の近傍で起こり、これらの分子間での運動量の交換が混合膜の性質を決める上で重要であることを示唆している。
【0095】
図4(c)は、短絡電流密度と共蒸発物の蒸気圧との間で有意な差が見られないことを示している。この結果は、共蒸発物(不活性分子)の分子間の凝集力が、混合膜成長中の共蒸発物の完全な再蒸発を許す程度に十分弱い限り、あるいは共蒸発物が蒸着膜中に残りながらも結晶成長を邪魔しない程度に充分な動き易さを持つ程度に十分弱い限り、共蒸発物の分子凝集力が混合蒸着膜の結晶の質を決めるのに重要な要素ではないことを示している。
【0096】
(実施例1-3)
ジメチルシロキサンの単位数が41のポリジメチルシロキサンであるPDMS41を共蒸発物としてH2Pc:C60 混合膜を真空蒸着させた場合の蒸着膜の結晶性を評価するため、この混合膜を共蒸発物を用いずに真空蒸着させた場合との対比において、UV-Vis、X線回折(XRD)と、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)の測定を行なった。共蒸発物としてPDMS41を用いた理由は、これがH2PcやC60と比べて十分に大きいためである。UV-VisとXRDの測定のためには、アルミニウム電極無しの混合膜を用いた。FESEM測定の試料は完成した有機太陽電池素子の断面である。図5にこれらの分析の結果を示す。
【0097】
BHJ構造膜の蒸着時に共蒸発物としてPDMS41を使用した、本実施例に係るH2Pc:C60混合膜の吸収スペクトルを、図5(a)において「PDMS41」の表記で指示するが、この吸収スペクトルは明らかにC60のピークとH2Pcの段差(kink)を示しており、これらはH2Pc:C60混合膜中の結晶性のC60とH2Pc成分に関連付けられる。対照的に、図5(a)において「No co-evaporant」の表記で指示する、共蒸発物としてPDMS41を使用した場合のH2Pc:C60混合膜(基準混合膜)の吸収スペクトルには、これらのピークは欠けている。
【0098】
図5(b)において、基準混合膜のXRDパターンはアモルファスH2Pcのハローを・-H2Pc (200) ピークの隣に示しており、しかし、はっきりしたC60のピークはない。対照的に、本実施例に係る混合膜はH2Pcのアモルファスハローを示さず、更に10.8度と10.3度にはっきりしたピークが見られ、結晶性のC60成分に帰属できる〔それぞれFCC-C60 (111)とHCP-C60 (100)〕。上記のUV-VisとXRDとの結果は互いに相補的であり、結晶性のH2Pc:C60混合膜がPDMS41のような共蒸発物を用いた場合のみ存在することを確認できた。
【0099】
FESEMの結果を図5(c)に示す。H2Pc:C60混合膜は「Blend film」として表記されている。図5(c)の左側に示す基準混合膜が無秩序につながった結晶粒を示すのに対し、図5(c)の右側に示す本実施例に係るH2Pc:C60混合膜では柱状構造が明らかに見える。混合膜におけるこれらの柱状構造の方位は恐らく電極への電荷の移送と収集に有利であり、このことは、本実施例に係るH2Pc:C60混合膜を用いた有機太陽電池が大きく改善された短絡電流密度を持つことを説明できる。
【0100】
(実施例1-4)
最後に、本発明に係る有機太陽電池における優れた効果の一般性を試した。即ち、上記したH2Pc:C60混合膜で用いた平板状分子構造のH2Pcに代えて、図6(a)及び図6(b)にそれぞれ示す羽根突き型の分子構造を持つ鉛フタロシアニン(PbPc)及び塩化アルミフタロシアニン(AlPcCl)と、四輪型の分子構造を持つルブレンとをそれぞれ用い、共蒸発物としてのPDMS41の使用下に蒸着成膜された混合膜を備える有機太陽電池を、上記した各実施例と同様に作製した。
【0101】
これらの場合にも400
nmの厚い混合膜を備える有機太陽電池とし、蒸着時の基板は70 ℃に加熱した。それらの場合の、図2(b)に示す場合と同じ条件下で測定された電流密度-電圧(J-V)特性を図6(a)~図6(c)に示す。これらの場合にも、実施例に係る有機太陽電池は全て、図に「No co-evaporant」の表記で指示する、共蒸発物としてPDMS41を使用しなかった場合に比較して、予想通りに劇的な改善を見せた。特に、短絡電流密度はPbPc で1.5 μA/cm2 から 4.9 mA/cm2へ、ルブレンで22 μA/cm2 から0.90 mA/cm2 へ、AlPcCl で0.88 mA/cm2から3.0 mA/cm2
へと向上した。これに応じて、フィルファクターも実施例に係る有機太陽電池においてしっかりと向上した。
【0102】
なお、図6(a)及び図6(c)のJ-V特性図において、黒塗り矢印は図の左辺の縦軸が実施例の電流密度の目盛りを示すことを指示し、白抜き矢印は図の右辺の縦軸が「No co-evaporant」の場合の電流密度の目盛りを示すことを指示している。
〔実施例1で用いた材料と方法〕
1)有機半導体材料
フラーレン(C60)はフロンティアカーボン社製の「nanom purple TL」を用いた。メタルフリーフタロシアニン(H2Pc)は大日本インキ化学工業社製のものを用いた。塩化アルミフタロシアニン(AlPcCl)及び鉛フタロシアニン(PbPc)はアルドリッチ社製のものを用いた。これらの材料はいずれも、公知の物理気相輸送法(例えば、Laudise, R. A., Kloc, Ch., Simpkins, P. G. & Siegrist, T. Physical vapor growth of organic
semiconductors. J. Cyrstal
Growth 187, 449-454 (1998)参照)により予め3回精製した。
【0103】
ルブレンはアルドリッチ社製の昇華精製品を、バソキュプロイン(C26H2ON2, BCP)は同仁化学研究所製の昇華精製品をそれぞれ、そのまま用いた。
【0104】
2)共蒸発物として用いた不活性分子
全ての共蒸発物は市販品をそのまま用いた。アルキル鎖の炭素数が16であるアルキルジフェニルエーテル(ADE16)としてはMoresco社の「ネオバックSX)」を、同炭素数が18であるアルキルジフェニルエーテル(ADE18)としてはMoresco社の「ネオバックSY」を、ポリフェニルエーテル(PPE)としてはMoresco社の「モレスコエクセロール54」を用いた。又、アルキルナフタレン(AN)としてはライオン社の「ライオンS」を用いた。
【0105】
フェニル基数が4であるメチルフェニルトリシロキサン(MPTS4)、フェニル基数が5であるメチルフェニルトリシロキサン(MPTS5)、ジメチルシロキサンの単位数がそれぞれ13、41及び87のポリジメチルシロキサンであるPDMS13、
PDMS41及びPDMS87はいずれも信越シリコーン社から購入したものであり、MPTS4は同社の「HIVAC-F4」を、MPTS5は同社の「HIVAC-F5」を、PDMS13は同社の「KF96-10cs」を、PDMS41は同社の「KF96-50cs」を、PDMS87は同社の「KF96-100cs」を、それぞれ用いた。これらのポリジメチルシロキサンについては蒸気圧の仕様表が製造者から得られなかったが、本願発明者の予備実験から、PDMSの室温の蒸気圧はジメチルシロキサンの単位数が7のものは4×10-3Pa程度、同単位数が41のものは1×10-5Pa未満と見積もられた。上記のいくつかの液体はその異性体も含んでいることを付記する。
【0106】
3)素子作製と特性解析
ITOコートガラス基板は三容真空工業社から購入し、超音波洗浄後に日立製作所製のE102イオンスパッタ装置で空気プラズマ処理を行なった。
【0107】
サーモ理工社製の赤外加熱炉を内蔵した真空蒸着器(エピテック社)を用い、mmからcm スケールの結晶を成長させた。蒸着中の真空度は1×10-3Paであった。真空蒸着器はガス循環精製装置MF-70(Unico社)を装備したグローブボックスにつながれており、酸素と水の濃度はどちらも10 ppmであった。太陽電池の作製は全く空気曝露せずに行なった。蒸着時において、基板は70℃に加熱した。
【0108】
有機半導体分子の混合膜は校正された水晶振動子により膜厚を400 nm に統一して作製した。混合膜の混合比も比較を容易にするために体積比1:1 に固定した。各有機太陽電池の構成の詳細は以下の通りである。
【0109】
H2Pc:C60混合太陽電池はITO
150 nm/H2Pc 20 nm/H2Pc:C60 400 nm/C60 20-80
nm/BCP 15 nm/Al 100 nmとした。
【0110】
AlPcCl:C60混合太陽電池はITO 150 nm/AlPcCl 20 nm/AlPcCl:C60 400 nm/C60 20 nm/BCP 15 nm/Al 100 nmとした。
【0111】
PbPc:C60混合太陽電池はITO 150 nm/PbPc 20 nm/PbPc:C60 400
nm/C60 20 nm/BCP 15 nm/Al 100 nmとした。
【0112】
ルブレン:C60混合太陽電池はITO
150 nm/Rubrene 40 nm/Rubrene:C60 400
nm/C60 120 nm/BCP 20 nm/Al 100 nmとした。
【0113】
J-V特性は真空下で擬似太陽光照射装置YSS-50(山下電装社製)からの強度100 mW/cm2のAM1.5G 白色光照射下で行ない、J-V曲線は特性測定装置YSP-110(山下電装社製)を用いて測定した。太陽電池の実効面積は0.04 cm2であり、太陽電池の基板側に直接取り付けた精密開口マスクにより規定した。
【0114】
構造解析において、UV-Vis・XRD・FESEMの測定はそれぞれ、紫外/可視/赤外分光器V-570(Jasco製)、粉末X線回折測定器RINT UltimaIII(Rigaku製)、電界放出型走査電子顕微鏡JSM-6700F(JEOL製)を用いて行なった。
【0115】
〔実施例2:有機半導体単一成分膜の真空蒸着〕
共蒸発物の単一成分膜の結晶性への影響を調べるために、C60真空蒸着膜の作製時に前記実施例と同様に共蒸発物としてPDMS41を使用した。C60真空蒸着膜の作製条件は、ITO基板の温度70℃、C60とPDMS41の蒸着速度がそれぞれ1オングストローム/sと0.2オングストローム/sである。図7(a)に、230nmの膜厚に成長させたC60真空蒸着膜についての、共蒸発物としてのPDMS41の使用の有無によるX線回折パターンの違いを示す。「PDMS41」と表記したものがPDMS41を使用した本実施例であり、「No co-evaporant」と表記したものがPDMS41を使用しない比較例である。どちらの場合もC60真空蒸着膜は結晶性のピークを示しているが、本実施例の場合はピークがより明瞭になっている。図7(b)にはこれらのC60真空蒸着膜の断面のFESEM像を、図7(c)にはこれらのC60真空蒸着膜の表面のFESEM像を、それぞれ示す。どちらのSEM像からも、真空蒸着時における共蒸発物としてのPDMS41の使用によるC60の結晶性向上に伴い、結晶粒の大きさが5倍程度大きくなっていることがわかる。
【0116】
〔実施例の要約〕
要するに、真空蒸着で複数又は単一の有機半導体成分に係る結晶性の蒸着膜を作り出すための有用な方法が提供された。この方法は、付着しない共蒸発物として不活性分子を膜成長中に利用し、有機半導体分子が基板表面に凝縮する際に確実により動き易くなるようにする。この方法により、大幅に結晶性の向上した有機半導体蒸着膜を作り出し、UV-Vis、XRD、およびFESEMでその有効性が確認された。特に複数の有機半導体成分に係るバルクへテロ接合として有機太陽電池で用いることにより、これらの混合膜は劇的に増加した短絡電流を示し、明らかに電池効率を向上させた。より重要なことに、この方法は真空蒸着型の有機太陽電池において、より良い光吸収と電荷移送の両立を実現するために、比較的厚い(400 nm)膜をバルクへテロ構造として用いることを可能にする。この方法は、高品質の結晶膜を真空蒸着で成長するために一般的に適用でき、有機太陽電池を含めた、高性能の有機電子素子を作り出す可能性を開くと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によって、有機半導体真空蒸着膜の形成に当たり、蒸着膜を高結晶化させるための新規かつ有効な手段が提供される。
図面
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【図2】
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【図3】
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