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明細書 :Siインゴット結晶の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5398775号 (P5398775)
登録日 平成25年11月1日(2013.11.1)
発行日 平成26年1月29日(2014.1.29)
発明の名称または考案の名称 Siインゴット結晶の製造方法
国際特許分類 C30B  29/06        (2006.01)
C30B  15/22        (2006.01)
C01B  33/02        (2006.01)
FI C30B 29/06 502Z
C30B 15/22
C01B 33/02 E
請求項の数または発明の数 10
全頁数 16
出願番号 特願2011-093418 (P2011-093418)
出願日 平成23年4月19日(2011.4.19)
審査請求日 平成24年12月3日(2012.12.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】中嶋 一雄
【氏名】森下 浩平
【氏名】沓掛 健太朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100133282、【弁理士】、【氏名又は名称】内野 春喜
【識別番号】100116780、【弁理士】、【氏名又は名称】内野 雅子
特許請求の範囲 【請求項1】
Siインゴット結晶のルツボ融液内成長において、融液上部よりも下部の方が高温となる温度分布を有するSi融液の表面近傍でSi種結晶を用いて核形成させ、Si種結晶からSi融液の表面に沿って又は内部に向かってインゴット結晶を成長させる第1の工程と、成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しない程度に引き上げる第2の工程と、融液内に残った結晶からSi融液の内部に向かってインゴット結晶を引き続き成長させる第3の工程とを含み、上記第2及び第3の工程を順次複数回繰り返してインゴット結晶を成長させることを特徴とするSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項2】
Si種結晶からSi融液の内部に向かって成長したインゴット結晶がルツボ壁又はルツボ壁から成長してきた結晶に触れる前に、Si種結晶を固定又は接触保持しているホルダーを引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げることにより、インゴット結晶をSi融液から分離して取り出すことを特徴とする請求項1に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項3】
Si融液の表面近傍で融液上に浮遊するようにホルダーに接触保持させた上記Si種結晶を用いて核形成させることを特徴とする請求項1又は2に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項4】
Si種結晶に回転又は右左の繰り返し反復回転を与えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項5】
種結晶から結晶成長が始まる時点でのSi融液の冷却速度を調整することにより、Si種結晶から成長する結晶を単結晶又は多結晶に制御することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項6】
種結晶から結晶成長が始まる時点で、種結晶を固定又は接触保持するホルダーの引き上げ速度又はSi融液の入ったルツボの引き下げ速度を調整することにより、Si種結晶から成長する結晶を単結晶又は多結晶に制御することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項7】
Si種結晶の方位を調整して、種結晶から成長するデンドライト結晶の方位や配列を制御することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項8】
成長したインゴット結晶から分離されたSiの残留融液の表面にデンドライト結晶を発現させた後、デンドライト結晶の下面を用いて、融液表面近傍から融液内部に向かって結晶化させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項9】
ルツボ内に移動可能なルツボと同質材料の側壁を設け、Si融液をこの側壁内に入れてSiインゴット結晶の融液成長を行い、成長の途中段階で、Si種結晶を固定又は接触保持しているホルダーを引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げると同時に、ルツボ内の側壁を持ち上げて残留Si融液を側壁外のルツボ内に排出させて、インゴット結晶をSi融液から分離して取り出すことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【請求項10】
Si種結晶とそれを固定又は接触保持するホルダーを複数個用意し、さらにSi融液を入れたルツボを1個以上用意することにより、種付け、融液内成長、ホルダー引き上げ又はルツボ引き下げによる融液分離を順次行い、連続してSiインゴット結晶を成長することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Siインゴット結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が予想以上に急速に進み始め、持続可能な自然エネルギーである太陽電池の位置づけが急速に大きくなった。太陽電池を代替エネルギー源として大きく普及させるためには、安全かつ資源が豊富で最も実績があるSi結晶を中心に戦略を立てる必要がある。このためには、新しい発想に基づく従来にない高品質・高均質なSi結晶を実現できる独創的かつ革新的な製造技術の開発が必要である。
【0003】
しかし、従来技術で作製したSi結晶にはさまざまな要因により、さまざまな大きさや分布状態の残留歪みが内在しており、これらが転位などの結晶欠陥を発生させ、太陽電池の素子特性を劣化させている。ルツボを使う結晶成長では、Si結晶は融液から凝固し結晶に成長する過程で大きく体積膨張するために、膨張歪み、ルツボ歪み、熱歪みが発生する。このため、太陽電池用のSi結晶をさらに高品質にするためには、Si結晶の凝固時に発生する膨張歪みや熱歪みを抑制でき、歪みによる転位などの結晶欠陥の発生を低減できる新規な製造技術の開発が不可欠である。
【0004】
現在主流の太陽電池用のSi結晶の成長技術は、単結晶では高品質結晶が得られるCzochralski法(CZ法)であり、多結晶では量産がしやすく低コストのCast法が使われている。
CZ法は、インゴット結晶をSi融液表面の表面張力を利用してSi融液外へ引き上げながら成長する方法である。このため、引き上げ速度によって決まる人工的な速度で結晶をSi融液外へ引き上げながらインゴット結晶を成長している。なおCZ法は、ルツボから歪みを受けるといった影響はあまり無い。
【0005】
CZ法では、結晶成長の界面は、常に表面張力で種結晶又は成長結晶と接触しているSi融液表面から持ち上がった位置に存在する。そのため原子の最適移動速度と引き上げ速度のバランスが取りにくく、自然に結晶界面が融液内で移動して結晶が成長する融液内成長よりも熱歪みや結晶欠陥が結晶中に入りやすいという弱点を持つ。
【0006】
一方Cast法は、ルツボの中で凝固する成長法であるため、Si結晶が凝固する時の膨張歪みやルツボとの接触によるルツボ歪み、さらにはルツボ壁からの不純物拡散による汚染の影響を強く受け、転位等の結晶欠陥や不純物が結晶中に入りやすいという難点がある。
このため、Cast法でSi多結晶インゴットの結晶組織を制御し、結晶粒サイズや結晶粒界性格を最適化して、歪みによる結晶欠陥の発生を抑制する方法としてデンドライト利用キャスト成長法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0007】
しかし、Si結晶で理想に近い品質を得るには、ルツボ成長によるSi結晶の各種歪みや人工的に形成された成長界面による熱歪み等の影響を無くした理想的な成長技術の開発が必要となる。
【0008】
発明者らはすでにSi融液の表面中央から核形成させてSi結晶を成長する方法である中心凝固法を提案している。またこの技術でSi結晶を融液中に浮遊させて成長する場合は浮遊キャスト成長法と呼んでいる。
この方法では、図11に示すように、ルツボに入れたSi融液の表面近傍で核形成させ、インゴット結晶を融液内に向けて成長させる。あるいはインゴット結晶をSi融液に浮遊させて成長させてもよい。
【0009】
より詳細には、次のような結晶の製造方法を提案している。
(1)半導体バルク結晶の製造に当たり、Si、Ge及びSiGeから選択された半導体の融液をルツボ中で融点近傍の温度に保持し、半導体の融液表面の中央付近に冷却用ガスを吹き付けることで核形成を制御し、このガス吹き付け位置近傍から凝固成長を開始させ、半導体の融液を凝固多結晶化させる方法(特許文献1参照)。
(2)Siバルク多結晶インゴットの製造に当たり、Si融液を入れたルツボ内において、ルツボの上部から冷媒をSi融液表面に近づける、又は冷媒をSi融液中に挿入することにより、Si融液の上面を局所的に冷却して、Si融液表面近傍にデンドライト結晶を生成させ、その後適切な温度分布を保ったまま冷却を行い、デンドライト結晶の下面を新たな成長面として上部から下部へSiバルク結晶を成長させる方法(特許文献2参照)。
(3)Siバルク多結晶インゴットの製造に当たり、Si結晶成長の途中又は最終段階で、成長したSi結晶インゴットを残留するSi融液から切り離す方法(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2007-45640号公報
【特許文献2】特開2009-51720号公報
【特許文献3】特開2009-173518号公報
【0011】

【非特許文献1】Acta Mat. 54, 3191 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
背景技術の項に述べたこれまでのSiインゴット結晶の製造方法では、次のような問題があった。
(1)Siインゴット結晶の製造に際し、ルツボ壁に触れない融液内成長においてSiインゴット結晶を大きく成長させることができない。
(2)Siインゴット結晶の製造に際し、浮遊させたSi種結晶から直接成長した結晶では歪みが十分低減できない。
(3)一回成長する度にインゴット結晶を取り出し、インゴット成長に用いられなかった残留Si融液が凝固したルツボをリセットしなければならないため生産効率が悪い。
【0013】
したがって本発明は、Siインゴット結晶の製造に際し、融液内成長においてSiインゴット結晶を大きく成長させることができるとともに、歪みが十分低減され、かつ生産効率が良いSiインゴット結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題は、以下のSiインゴット結晶の製造方法によって解決される。
(1)Siインゴット結晶のルツボ融液内成長において、融液上部よりも下部の方が高温となる温度分布を有するSi融液の表面近傍でSi種結晶を用いて核形成させ、Si種結晶からSi融液の表面に沿って又は内部に向かってインゴット結晶を成長させる第1の工程と、成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しない程度に引き上げる第2の工程と、融液内に残った結晶からSi融液の内部に向かってインゴット結晶を引き続き成長させる第3の工程とを含み、上記第2及び第3の工程を順次複数回繰り返してインゴット結晶を成長させることを特徴とするSiインゴット結晶の製造方法。
(2)Si種結晶からSi融液の内部に向かって成長したインゴット結晶がルツボ壁又はルツボ壁から成長してきた結晶に触れる前に、Si種結晶を固定又は接触保持しているホルダーを引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げることにより、インゴット結晶をSi融液から分離して取り出すことを特徴とする(1)に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(3)Si融液の表面近傍で融液上に浮遊するようにホルダーに接触保持させた上記Si種結晶を用いて核形成させることを特徴とする(1)又は(2)に記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(4)Si種結晶に回転又は右左の繰り返し反復回転を与えることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(5)種結晶から結晶成長が始まる時点でのSi融液の冷却速度を調整することにより、Si種結晶から成長する結晶を単結晶又は多結晶に制御することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(6)種結晶から結晶成長が始まる時点で、種結晶を固定又は接触保持するホルダーの引き上げ速度又はSi融液の入ったルツボの引き下げ速度を調整することにより、Si種結晶から成長する結晶を単結晶又は多結晶に制御することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(7)Si種結晶の方位を調整して、種結晶から成長するデンドライト結晶の方位や配列を制御することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(8)成長したインゴット結晶から分離されたSiの残留融液の表面にデンドライト結晶を発現させた後、デンドライト結晶の下面を用いて、融液表面近傍から融液内部に向かって結晶化させることを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(9)ルツボ内に移動可能なルツボと同質材料の側壁を設け、Si融液をこの側壁内に入れてSiインゴット結晶の融液成長を行い、成長の途中段階で、Si種結晶を固定又は接触保持しているホルダーを引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げると同時に、ルツボ内の側壁を持ち上げて残留Si融液を側壁外のルツボ内に排出させて、インゴット結晶をSi融液から分離して取り出すことを特徴とする(1)ないし(8)のいずれかに記載のSiインゴット結晶の製造方法。
(10)Si種結晶とそれを固定又は接触保持するホルダーを複数個用意し、さらにSi融液を入れたルツボを1個以上用意することにより、種付け、融液内成長、ホルダー引き上げ又はルツボ引き下げによる融液分離を順次行い、連続してSiインゴット結晶を成長することを特徴とする(1)ないし(8)のいずれかに記載のSiインゴット結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、次のような作用効果が得られる。
(1)融液上部よりも下部の方が高温となる温度分布を有するSi融液の表面近傍の中心部に周りよりも低温の領域を常に確保する技術を開発する必要がある。本発明では、この低温領域で成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しない程度に引き上げて、再度低温領域を融液上部に作り、その後、再度融液内に残った結晶を種結晶としてインゴット結晶を成長し、再度成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しない程度に引き上げる、といった手順を繰り返してインゴット結晶を成長しているため、融液内成長においてSiインゴット結晶を大きく成長させることができる。
(2)さらに本発明は、浮遊させたSi種結晶を用いた製造方法の中では、最も結晶歪みに起因する転位密度を低減できる。
(3)種結晶を用いた融液内のインゴット成長に用いられなかった残留Si融液を準高品質なインゴット結晶として利用することができるため、Si原料の利用効率が良い。
(4)一回のインゴット成長で用いられなかったルツボに入った残留Si融液を複数回同じ工程で再使用したり、又はルツボに入れたSi融液を複数個用意して本工程を順次行うことができるため、生産効率が良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】融液内成長と引き上げ成長を兼ね備えた融液分離キャスト成長法を用いた、本発明に係るSiインゴット結晶の製造方法を説明する図面
【図2】種結晶を使わないで成長したインゴット表面と結晶方位分布の写真
【図3】浮遊した種結晶を使って成長したインゴットの表面と断面の写真
【図4】融液分離キャスト成長法によるSi種結晶による核形成と成長したインゴット結晶の吊り上げを説明する図面
【図5】側壁を用いたSiインゴット結晶とSi融液の分離方法を説明する図面
【図6】Si種結晶を用いて融液表面にルツボ壁に接触せずに成長したSiインゴット結晶の写真
【図7】Si種結晶から成長した結晶表面構造の写真
【図8】Si種結晶から成長した配向したデンドライト結晶の写真
【図9】種結晶を用いて浮遊キャスト成長したSiインゴット結晶の写真
【図10】本発明の製造方法により成長したSiインゴット結晶の写真
【図11】従来の融液分離キャスト成長法を説明する図面
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の概要)
本発明に係るSiインゴット結晶の製造方法は、背景技術の項で述べたような中心凝固法や浮遊キャスト成長法を原型とし、より高品質のSiインゴット結晶を得るための具体的な手段を提供している。

【0018】
本発明の製造方法では、図1に示すように、Siインゴット結晶の融液内成長とインゴット結晶の残留融液からの分離技術を主体としており(融液分離キャスト成長法と呼ぶ)、下記の種々の手法を合わせて用いる。実際にSi融液の表面近傍でインゴット結晶を成長させるため、融液上部よりも下部の方が高温となる温度分布を有するSi融液を用いる。このSi融液の表面近傍で、Si種結晶からSi融液の表面に沿って又は内部に向かってインゴット結晶を融液内成長し、成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しない程度に引き上げ、再度融液内に残った結晶からSi融液の内部に向かってインゴット結晶を成長し、再度成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しない程度に引き上げる、といった手順を繰り返してインゴット結晶を成長する。

【0019】
本発明は、Si融液を用いた融液内成長技術であるにも関わらず、成長したインゴット結晶の一部を融液外に引き上げることにより、常にSi融液の表面近傍に周りよりも低温の領域を作ることができ、再度融液内に残った成長結晶を種結晶として新たな結晶が成長するため、連続した大きなインゴット結晶の製造が可能となった。

【0020】
さらに成長したインゴット結晶をSi融液内から効果的に取り出し融液分離するため、Si種結晶からSi融液の内部に向かって成長したインゴット結晶がルツボ壁又はルツボ壁から成長してきた結晶に触れる前に、Si種結晶を固定又は接触保持しているホルダーを引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げる。
成長したインゴット結晶は、Si融液から分離して容易に取り出すことができる。

【0021】
また、Si融液の表面近傍で融液上に浮遊するようにSi種結晶をホルダーにゆるく接触保持させることにより、浮遊種結晶を用いて核形成させることが実現できる。Si融液に浮遊した種結晶を用いて成長したインゴット結晶は、より歪みが少なくなる。一方、ホルダーに固定したSi種結晶を核サイトとして用いて核形成させることもでき、よりホルダー部が簡素化できる。ホルダーに固定されていても、成長したインゴット結晶の歪み緩和は同様に可能である。

【0022】
本発明では、Si融液中でSi結晶をルツボ壁に触れさせずに成長させることが可能である。このため、Si結晶凝固時にルツボ壁によってSi結晶の膨張を妨げられることがなく膨張歪みがない。またルツボ壁との接触によって、一般的なCast法で現れるルツボ歪みの影響も受けない。しかも融液内に向かって自然に結晶界面が成長していくため、人工界面による成長のような熱歪みの影響も受けない。このように本発明は、理想的な高品質Si結晶を実現できる。

【0023】
太陽電池などの電子素子に用いるSi結晶の高品質化には多くの研究がなされてきたが、最後まで残った重要課題がインゴット結晶内部の歪みの低減と歪みによる結晶欠陥の発生である。この歪みがインゴット結晶に与える影響は、一般的に考えられているよりもはるかに大きいことを見出し、この知見に基づき本発明が生まれた。
本発明では、歪みの少ない高品質Si結晶を製造するため、融液分離キャスト成長法をベースにして、自然な結晶成長により力点を置いて達成する。

【0024】
具体的には、Si種結晶をホルダーに固定又は接触保持させたSi種結晶を用いてSi融液表面近傍で核形成し、ここからSi融液内に向かって結晶成長界面を自然成長させるが、その成長過程で融液内成長-引き上げ-融液内成長-引き上げのプロセスを繰り返し行い、しかる後Si融液から成長したインゴット結晶を、ホルダーを引き上げるかSi融液の入ったルツボを引き下げるかして、分離して結晶を取り出す方法が基本型である。

【0025】
さらにこのSiインゴット結晶の製造方法では、ルツボ内に移動可能なルツボと同質材料の側壁を設け、Si融液をこの側壁内に入れてSiインゴット結晶の融液成長を行い、成長の途中段階で、Si種結晶を固定又は接触保持しているホルダーを引き上げるか、Si融液を入れたルツボを引き下げると同時に、ルツボ内の側壁を持ち上げて残留Si融液を側壁外のルツボ内に排出させて、インゴット結晶をSi融液から分離して取り出すSiインゴット結晶の製造方法にも展開できる。またこの製造方法では、Si種結晶に回転又は右左の繰り返し反復回転を与えて、成長の駆動力を増すこともできる。

【0026】
この製造方法を用いて、Siインゴット結晶の製造効率を増すため、Si種結晶とそれを固定又は接触保持するホルダーを複数個用意し、さらにSi融液を入れたルツボを1個以上用意することにより、種付け、融液内成長、ホルダー引き上げ又はルツボ引き下げによる融液からの分離を順次行うことにより、連続してSiインゴット結晶を成長することができる。

【0027】
この他、種結晶から結晶成長が始まる時点でのSi融液の冷却速度を調整することにより、Si種結晶から成長する結晶を単結晶又は多結晶に制御することが可能である。
また、種結晶から結晶成長が始まる時点で、種結晶を固定又は接触保持するホルダーの引き上げ速度又はSi融液の入ったルツボの引き下げ速度を調整することにより、Si種結晶から成長する結晶を単結晶又は多結晶に制御することも可能である。
さらにこの製造方法では、Si種結晶の方位を調整して、種結晶から成長するデンドライト結晶の方位や配列を制御することができる。

【0028】
(浮遊したSi種結晶の利用)
本発明では、Si融液表面では異質核形成が抑えられるため、種付けをベースにした結晶組織制御が極めてやり易く、また完全性の高い結晶組織を自在に形成できる。特にその場観察をやりながら核形成や成長制御ができることは本製造方法の大きなメリットである。

【0029】
図2は、Si種結晶を使わないでSi融液表面からルツボ内に向かって凝固成長したインゴット結晶の表面写真と、そのインゴット結晶の一部の表面下部の領域のEBSPによる結晶方位分布の結果である。
従来技術に比べて、デンドライト結晶を非常に緻密に成長させることができ、デンドライト結晶を種結晶としてその下部に大きな結晶粒が形成されており、しかも各結晶粒の間には小さな結晶粒の発生もない。粒界性格の制御もデンドライト結晶の配向分布を制御することにより可能であり、結晶粒界の整合性を高めることにより、結晶粒界からの転位の発生を抑えられることが分かっている。

【0030】
また、図3は、円形のSi種結晶を融液表面に浮遊させて成長させたインゴット表面とそのインゴット結晶から切りだした結晶表面の下部の断面の写真である。種結晶の下部には単結晶が成長しており、また種結晶から融液表面に沿ってデンドライト結晶が放射状に成長しており、そのデンドライト結晶の下部ではデンドライト結晶の組織に対応して大きな結晶粒が成長した多結晶組織となっている。
このように浮遊させたSi種結晶を用いると結晶組織の制御が単結晶から多結晶まで自在にできる。このため、インゴット結晶の成長後に、種結晶を用いて成長したインゴット結晶部分を吊り上げたり又はSi融液の入ったルツボを引き下げることにより、ルツボ内の融液からインゴット結晶を分離して取り出せば、高品質のSiインゴット結晶を得ることができる。
さらに、生産性を上げるためには、必要に応じてSi種結晶とそれを固定又は接触保持させるためのホルダーを複数個用意して、この操作を順次繰り返すことにより、歪みや不純物の少ない極めて高品質のSi結晶を生産性良く得ることができる。

【0031】
(融液分離キャスト成長装置)
膨張歪みや熱歪み及び不純物が極端に少ない最高品質のSi結晶を製造するために、ルツボに入れたSi融液に浮遊させるかホルダーで吊り下げたSi種結晶を用いて融液内成長したSiインゴット結晶を、本発明の製造方法に従って成長した後に、融液から引き上げて分離する機構を有する融液分離キャスト成長装置(図4参照)を用いた。

【0032】
この成長装置は、次のような特徴を有する。
(1)結晶成長の初期にSi融液表面において、種々の大きさや形状のSi種結晶を用いて、核形成の位置や種結晶から成長してくる結晶の状態や、単結晶・多結晶の種別を制御でき、融液中央部に浸漬させた種結晶から、融液表面に沿ってまた同時に融液内部に向かってインゴット結晶を成長でき、このインゴット結晶の3次元的な形状や大きさを制御できる機構を有する。
(2)成長したSiインゴット結晶を上部に吊り上げたり、Si融液の入ったルツボを下に引き下げたりして、Siインゴット結晶をSi融液から分離できる。
(3)成長したインゴット結晶を吊り上げ位置でアニーリングできる。
(4)Si種結晶とそれを固定又は接触保持するホルダーを複数個有するため、これらの操作を連続して行える。

【0033】
この成長装置にはさらに、図5に示すように、ルツボ内に移動可能な、ルツボと同質材料の側壁を設け、Si融液をこの側壁内に入れてSiインゴット結晶の融液成長を行い、成長の途中段階で、Si種結晶を保持しているホルダーを引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げると同時に、ルツボ内の側壁を持ち上げることが可能な仕掛けが設けてある。この仕掛けにより、残留Si融液を側壁外のルツボ内に排出させて、成長したインゴット結晶をSi融液からより効果的に分離して取り出すことができる。
この成長装置を用いて、ルツボを用いたインゴット結晶の成長で、ルツボの存在によって生じるSi結晶の凝固時における膨張による歪みが無視できる高い品質のSiインゴット結晶を作製した。

【0034】
(本発明により得られるSiインゴット結晶)
図6に、Si融液の表面近傍でSi種結晶を用いて核形成させ、この核からSi融液の表面に沿って成長させ、同時にSi融液の内部に向かって成長した平板状のインゴット結晶の写真を示す。このインゴット結晶は、ルツボ壁に触れる前にSi融液から分離して取り出すために、Si融液を入れたルツボの引き下げとSi種結晶を接触保持しているホルダーの引き上げを行った。これによりインゴット結晶を融液と分離することができた。

【0035】
結晶の大きさは、縦7.5cm、横5cm、厚さ0.7cm程度であった。不純物分析の結果、本製造方法に従って作製したインゴット結晶は、通常のインゴット結晶よりも不純物含有量が少ないことがわかった。具体的には、炭素は通常のキャスト成長した多結晶インゴット中に含まれる濃度(0.5~3×1017/cm3)よりも少なく1×1016/cm3以下であった。
また酸素は通常のキャスト成長した多結晶インゴット中に含まれる濃度(2~10×1017/cm3)と同程度であり、一般的なチョクラルスキー法(CZ法)で成長した単結晶インゴット中に含まれる濃度(1~3×1018/cm3)よりもはるかに少ない2.5×1017/cm3であった。

【0036】
図7に、Si融液表面に浮遊させたSi種結晶から成長したSi結晶の表面構造の写真を示す。種結晶近くで除冷成長した部分とその外の急冷成長した部分からなっており、除冷成長した部分は単結晶になりやすく、急冷成長した部分はデンドライト結晶が出やすく多結晶になり易いことが分かった。この新規な知見を本製造方法に適用すると、このように冷却速度のような成長条件を制御して、多結晶でも単結晶でも自在に制御した結晶成長ができる。

【0037】
図8は、Si融液表面に浮遊させたSi種結晶からSi融液の表面に沿って成長させたデンドライト結晶の写真を示す。Si種結晶の一つの端面から多数のデンドライト結晶がほぼ平行に配列していることが分かる。
用いるSi種結晶の端面の方位を選択することにより、このようにデンドライト結晶の配列や伸びる方位を制御することができる。この結晶成長の例では、上面を(100)面にし、その面からほぼ垂直方向に端面を有するSi種結晶を用いており、その端面からデンドライト結晶が配列して成長している。

【0038】
図9は、浮遊したSi種結晶を用いて成長したインゴット結晶の断面写真とその部分のキャリアの拡散長分布を示す。種結晶から融液表面に沿って外に向かって成長した部分も、種結晶の下に向かって成長した部分も、共に大きな結晶粒又は単結晶になっているが、キャリアの拡散長分布をみると、より自然に成長したと考えられる種結晶から外に向かって成長した部分の方が高い拡散長(明るい色が高い拡散長を表す)を示している。この発見から、種結晶からSi融液の表面に沿って外に向かって広がる結晶成長を行った。
さらに、できるだけ大きなインゴット結晶を得るために、ルツボ内の融液の下部方向にインゴットが広がるように、Si融液内の温度分布や結晶化時の凝固潜熱を取る工夫をしてインゴット結晶の成長を行った。この時、ルツボ壁やルツボ壁から成長してきた結晶に、中心部分から成長した本命のインゴット結晶が触れないようにした。

【0039】
本発明の製造方法を用いて成長したSiインゴット結晶の写真を図10に示す。このSiインゴット結晶は、Si種結晶を用いて、Siの融点近傍でSi融液の表面中央に接触させて融液の表面に沿ってと同時に融液内部に向かって成長した。この時、Si融液には上部よりも下部の方が高温となる温度分布を付けた。このようにして成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しないように1mm程度引き上げた。その後、再度融液内に残った結晶からSi融液の表面に沿って又は内部に向かってインゴット結晶を成長させた。その後、再度成長したインゴット結晶の一部を融液内から融液と分離しない程度に1mm程度引き上げた。この手順を3回繰り返して成長したSiインゴット結晶を、図10に種結晶とともに示した。この結晶の表面には、3回繰り返したことを示す3つの筋模様が入っている。この結晶は、ルツボ壁に触れる前に融液から分離している。

【0040】
(本発明に係る効果の詳細)
本発明によれば、Si融液内で結晶界面が自然に成長していく自然成長技術であるにも関わらず、成長したインゴット結晶の一部を融液外に引き上げることにより、常にSi融液の表面近傍に周りよりも低温の領域を作ることができ、再度融液内に残った成長結晶を種結晶として新たな結晶が成長するため、この融液内結晶成長とその一部の引き上げ成長を繰り返して行うことにより、連続した大きな自然成長した極めて品質の高いインゴット結晶を製造することが可能となった。

【0041】
さらに、ルツボを用いたSi融液内の結晶成長において、成長したSiインゴット結晶をルツボ壁に触れないで成長させ、しかる後にSi融液から分離してインゴット結晶を取り出すことが可能となった。この結果、離形剤からインゴット結晶中へ固体拡散してくる不純物が極めて少なく、Si融液から結晶化時に起る体積の膨張をルツボ壁に阻まれるために生じる膨張歪みその他のルツボによる歪みが全く無い、高い品質のSiインゴット結晶が得られた。しかも、結晶成長技術で使用する種結晶の形状を種々工夫することにより、複数のデンドライト結晶を表面融液上で平行に密度高く成長させることができ、転位に代表される結晶欠陥を大幅に削減したSi多結晶インゴットを成長できた。

【0042】
またこの製造方法によれば、Si種結晶をホルダーに接触保持することにより、インゴット結晶をSi融液内で浮遊させて成長し、この融液内結晶成長とその一部の引き上げ成長を繰り返して行い、しかる後インゴット結晶を種結晶ごとホルダーとともに引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げることによりSi結晶をSi融液と分離して取り出すことができる。
これにより、自然成長と膨張歪みの低減を極限まで追求した、歪みや転位などの結晶欠陥が極端に少ない高い品質のSi結晶を生産性高く製造できる技術を提供できる。

【0043】
さらに、Si種結晶に回転又は右左の繰り返し反復回転を与える、また種結晶から結晶成長が始まる時点でのSi融液の冷却速度を調整すること又はホルダーや-ルツボの移動速度を調整することによりにより、Si種結晶から成長する結晶を単結晶又は多結晶に制御する、またSi種結晶の方位を調整して種結晶から成長するデンドライト結晶の方位や配列を制御する、といった具体的な手法により、実用的な観点からSiインゴット結晶の製造を可能にしている。

【0044】
さらに、Si種結晶から成長する結晶を、冷却速度を制御することにより、冷却速度を小さくした時はSi単結晶を成長できた、また冷却速度を大きくした時はデンドライト結晶の初期成長が起り、このデンドライト結晶をベースにして成長したSi多結晶を成長できた。

【0045】
また一回成長する度にインゴット結晶を取り出し、インゴット成長に用いられなかった残留Si融液が凝固したルツボをリセットしなければならなく生産効率が悪い点を解決するため、Si種結晶とそれを固定又は接触保持するホルダーを複数個用意し、さらにSi融液を入れたルツボを1個以上用意することにより、順次種付け、融液内成長、ホルダー引き上げ又はルツボ引き下げによる融液分離を行い、連続的にインゴット結晶の成長と取り出しプロセスを行えるようにしている。
さらに、成長したインゴット結晶から分離されたSiの残留融液の表面にデンドライト結晶を発現させた後、デンドライト結晶の下面を用いて、融液表面近傍から融液内部に向かって結晶化させることにより、種結晶を用いた融液内のインゴット成長に用いられなかった残留Si融液を、準高品質なインゴット結晶として利用することができるため、Si原料の利用効率が良い。
これらにより、従来法の生産効率が低い問題点が解決される。

【0046】
さらに、ルツボ内に移動可能なルツボと同質材料の側壁を設け、Si融液をこの側壁内に入れてSiインゴット結晶の融液成長を行い、成長の途中段階で、Si種結晶を固定又は接触保持しているホルダーを引き上げるかSi融液を入れたルツボを引き下げると同時に、ルツボ内の側壁を持ち上げて残留Si融液を側壁外のルツボ内に排出させることにより、成長したインゴット結晶をSi融液からより効果的に分離して取り出すことができた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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