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明細書 :植物の長期維持方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5660504号 (P5660504)
公開番号 特開2012-196204 (P2012-196204A)
登録日 平成26年12月12日(2014.12.12)
発行日 平成27年1月28日(2015.1.28)
公開日 平成24年10月18日(2012.10.18)
発明の名称または考案の名称 植物の長期維持方法
国際特許分類 A01G   7/06        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI A01G 7/06 Z
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 26
出願番号 特願2012-022256 (P2012-022256)
出願日 平成24年2月3日(2012.2.3)
優先権出願番号 2011053022
優先日 平成23年3月10日(2011.3.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年12月14日(2012.12.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】大坪 憲弘
【氏名】山口 博康
個別代理人の代理人 【識別番号】110001210、【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
審査官 【審査官】竹中 靖典
参考文献・文献 特開2006-141274(JP,A)
国際公開第2007/029775(WO,A1)
特開2007-089487(JP,A)
特開2000-157050(JP,A)
特開昭60-221020(JP,A)
特開2000-116319(JP,A)
特開平09-224565(JP,A)
特開平10-218694(JP,A)
調査した分野 A01G 1/00 - 1/02
1/06 - 1/12
5/00 - 7/06
16/00 -17/02
17/18
A01H 4/00
5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
トレハロースを用いて植物の栄養増殖を行うことを特徴とする植物の長期維持方法。
【請求項2】
請求項1に記載の植物の長期維持方法であって、
前記トレハロースを含む培地を用いて植物の栄養増殖を行うことを特徴とする植物の長期維持方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の植物の長期維持方法であって、
前記植物が、種子増殖による後代系統において形質転換当代の遺伝的特性が維持できない植物であることを特徴とする植物の長期維持方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の植物の長期維持方法であって、
前記植物が、トレニア属またはキク属であることを特徴とする植物の長期維持方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の植物の長期維持方法であって、スクロースを用いて培養して発根した状態で前記トレハロースを用いて植物の栄養増殖を行う、または、腋芽を複数含む節から葉を取り除いた状態で前記トレハロースを用いて植物の栄養増殖を行うことを特徴とする植物の長期維持方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の長期維持方法、例えば、遺伝子組換え植物等の、種子増殖による後代系統において形質転換当代の遺伝的特性が維持できない植物の栄養増殖において植物を長期に維持する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え花き等の遺伝子組換え植物は、例えば、培地等を用いた栄養増殖(挿し芽)により培養、維持、管理される。遺伝子組換え花きの多くは、遺伝的に固定されていない栽培種を材料に用いているため、栄養増殖での維持管理に多大な時間、経費、労力を必要とする。例えば、遺伝子組換え花きとしてトレニアを培養、維持する場合、スクロースを炭素源として用いる従来の培地では短期間(例えば最長30日程度)しか培養物を維持することができず、新たな培地に植え替える必要があった。また、遺伝子組換えによる有用花きの作出等では、常時数千系統にも及ぶ大量の培養物を維持する必要があるため、維持期間が短いと多大な時間、経費、労力を必要とする。このような遺伝子組換え植物等の、遺伝的に固定されていない、あるいは自家不和合性等の性質により、種子増殖による後代系統において形質転換当代の遺伝的特性が維持できない植物全般において、培養物として維持する際の時間、経費、労力等を低減することが求められている。
【0003】
一方、トレハロースは、植物ではイワヒバ、動物ではネムリユスリカ等で見られる、いわゆる「乾燥休眠」を担う(細胞の構造維持と保護によって乾燥ストレス耐性を付与する)糖として知られている(例えば、特許文献1参照)他、野菜、果実等の鮮度維持(例えば、特許文献2参照)や変色抑制、タンパク質変性やデンプン老化の抑制、耐凍性の付与(例えば、特許文献3参照)や吸湿抑制等、動植物に様々な機能性を付与することが知られている。その代謝系や輸送系、あるいは機能性に関する研究はこれまでに多数行われているが、植物培養における炭素源としての利用については、報告されていない。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-055832号公報
【特許文献2】特開2000-116319号公報
【特許文献3】特開平10-025209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、植物の栄養増殖において、植物を長期に維持することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレハロースを用いて植物の栄養増殖を行う植物の長期維持方法である。
【0007】
また、前記植物の長期維持方法において、前記トレハロースを含む培地を用いて植物の栄養増殖を行うことが好ましい。
【0008】
また、前記植物の長期維持方法において、前記植物が、種子増殖による後代系統において形質転換当代の遺伝的特性が維持できない植物であることが好ましい。
【0009】
また、前記植物の長期維持方法において、前記植物が、トレニア属またはキク属であることが好ましい。
【0010】
また、前記植物の長期維持方法において、スクロースを用いて培養して発根した状態で前記トレハロースを用いて植物の栄養増殖を行う、または、腋芽を複数含む節から葉を取り除いた状態で前記トレハロースを用いて植物の栄養増殖を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、トレハロースを用いることにより、植物の栄養増殖において、植物を長期に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1-1および比較例1-1における挿し芽70日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図2】本発明の実施例1-1および比較例1-1における挿し芽70日目の培養物を容器の底面から観察した様子を示す図である。
【図3】本発明の実施例1-2および比較例1-2における挿し芽40日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図4】本発明の実施例1-5および比較例1-5における挿し芽40日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図5】本発明の実施例3-1および比較例3-1における挿し芽98日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図6】本発明の実施例3-1および比較例3-1における挿し芽157日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図7】本発明の実施例3-2および比較例3-2における挿し芽98日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図8】本発明の実施例3-2および比較例3-2における挿し芽157日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図9】本発明の実施例4および比較例4における挿し芽70日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図10】本発明の実施例5および比較例5における挿し芽85日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図11】本発明の実施例5および比較例5における挿し芽144日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図12】本発明の実施例6および比較例6における挿し芽71日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図13】本発明の実施例6および比較例6における挿し芽130日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図14】本発明の実施例7および比較例7における挿し芽71日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図15】本発明の実施例7および比較例7における挿し芽130日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【図16】本発明の実施例8における2回目の植え継ぎ25日目の培養物を観察した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。

【0014】
本発明者らは、植物の栄養増殖において、培地で通常用いられるスクロースをトレハロースに置き換えることにより、培養物の維持期間を例えば2倍以上に延長できることを見出した。これにより、培養物の長期維持が可能であり、継代間隔の長期化が可能となる。例えば、遺伝子組換え植物等の、遺伝的に固定されていない、あるいは自家不和合性等の性質により、種子増殖による後代系統において形質転換当代の遺伝的特性が維持できない植物全般において、培養物として維持する際の時間、経費、労力等を、1回の植え継ぎで維持できる期間をできるだけ長くすることで低減することができる。また、遺伝子組換え植物等の系統(遺伝的特性)を維持しての長期の培養が可能となる。さらに、遺伝子組換えによる有用花き等の遺伝子組換え植物の作出において、数千系統にも及ぶ大量の培養物を維持する場合であっても、時間、経費、労力を削減することができる。

【0015】
本実施形態に係る植物の長期維持方法において用いられるトレハロースは、2つのα-グルコースが1,1-グリコシド結合した二糖類の一種である。トレハロースを用いることにより、栄養増殖における根圏環境の改善や養水分吸収のストレス低減等が培養物の長期維持に繋がると考えられる。トレハロースを用いると、根圏ではむしろ植物体の生育が抑制され、結果として老廃物の蓄積とこれによる老化等が抑制されて、培養環境の長期維持に繋がると考えられる。

【0016】
トレハロースとしては、試薬等として入手可能なものを用いてもよいし、例えば、「お米にトレハ」((株)H+Bライフサイエンス製、トレハロース含有率90%(w/w)、乾燥重量での含有率98%(w/w))等の食品添加用のトレハロース製品を用いてもよい。

【0017】
ここで、植物の栄養増殖とは、胚、種子を経由せずに根、茎、葉等の栄養器官から、次の世代の植物が繁殖する無性生殖である。栄養増殖の方法としては、トレハロースを用いればよく、特に制限はないが、例えば、寒天培地を用いる方法、液体培地を用いる方法、土への挿し芽による方法等が挙げられ、植物体を一定環境で無菌的に維持する等の観点から寒天培地を用いる方法が好ましい。

【0018】
培地としては、MS(Murashige-Skoog)培地、B5(Gamborg's B5)培地、Kano培地等にトレハロースを含有させたものを用いることができる。

【0019】
培地を用いる場合、トレハロースの含有量は、例えば、培地の全重量に対して、0.1%(w/v)以上6%(w/v)以下の範囲、通常は3%(w/v)程度である。

【0020】
培地にはトレハロースの他に、例えば、スクロース、マルトース、フルクトース、グルコース等を含有させてもよい。

【0021】
例えば、培養および維持対象の植物の節、腋芽、葉、不定芽等を含む地上部の栄養組織片を切り出し、トレハロースを含む培地に置床し、これを例えば10℃~35℃、通常は20℃~25℃の温度範囲で、光量子束密度を例えば0μmol/m2/秒~2,000μmol/m2/秒、通常は80μmol/m2/秒~160μmol/m2/秒の範囲とし、例えば0時間明期/24時間暗期~24時間明期/0時間暗期、通常は16時間明期/8時間暗期~8時間明期/16時間暗期で培養すればよい。

【0022】
本実施形態における植物の長期維持方法により、栄養増殖が行われる植物としては、特制限はなく、トレハロースを用いることにより、長期維持性が向上する植物が挙げられる。このような植物としては、被子植物であってもよいし裸子植物であってもよい。また、被子植物としては、単子葉植物であってもよいし、双子葉植物であってもよい。双子葉植物としては、離弁花亜綱であってもよいし、合弁花亜綱であってもよい。合弁花亜綱としては、例えば、リンドウ目、ナス目、シソ目、アワゴケ目、オオバコ目、キキョウ目、ゴマノハグサ目、アカネ目、マツムシソウ目、キク目が挙げられる。また、離弁花亜綱としては、例えば、ビワモドキ目、ツバキ目、アオイ目、サガリバナ目、ウツボカズラ目、スミレ目、ヤナギ目、フウチョウソウ目、ツツジ目、イワウメ目、カキノキ目、サクラソウ目等が挙げられる。

【0023】
このような植物のより具体的な例としては、例えば、ナタネ、ジャガイモ、ホウレンソウ、大豆、キャベツ、レタス、トマト、カリフラワー、さやいんげん、かぶ、大根、ブロッコリー、メロン、オレンジ、スイカ、ネギ、ゴボウ等の各種の食用植物、バラ、キク、あじさい、カーネーション、トレニア等の(花き)園芸植物、ニチニチソウ、イチイ、オウレン、ハナビシソウ、キハダ、オタネニンジン、ケシ、イカリソウ、ベラドンナ、チョウセンアサガオ、Cephaelis ipecacuanha等の薬用植物、ライラック、ナナカマド、ユーカリ、マングローブ、スギ等の樹木等が挙げられる。

【0024】
本実施形態に係る植物の長期維持方法は、例えば、遺伝子組換え花き等の遺伝子組換え植物等の、遺伝的に固定されていない、あるいは自家不和合性等の性質により、種子増殖による後代系統において形質転換当代の遺伝的特性が維持できない植物全般の栄養増殖に適用される。そのような植物の大量の培養物を維持する場合でも、培養物の長期維持が可能であり、継代間隔の長期化が可能となり、また、遺伝子組換え植物等の系統を維持しての長期の培養が可能となる。遺伝子組換え植物としては、例えば、キク、バラ、カーネーション、シクラメン、リンドウ、トルコギキョウ、アサガオ、ペチュニア、トレニア等の遺伝子組換え花き、イネ、ジャガイモ、トウモロコシ、ワタ、ダイズ、ナタネ、タバコ等の作物、ポプラ、ユーカリ、マツ、リンゴ、パパイヤ、サクラなどの樹木等が挙げられる。本実施形態に係る植物の長期維持方法を適用することにより、より有用な遺伝子組換え植物等を作出するための開発を、時間、経費、労力を削減して行うことができる。その他、非遺伝子組換え植物でも例えばシクラメン、ラン等の大量に培養、栄養増殖される植物に適用できる。

【0025】
トレニアは、インドシナ原産のアゼトウガラシ科トレニア属の一年草である。トレニアは、草丈を小さく育てられる(例えば、最小7cm程度で開花)、挿し芽で簡単に維持、増殖できる、花が咲くまでの期間が短い、日長に関係なくプラントボックスのような湿度の高い栽培条件でも正常に開花する、2倍体(2n=16または18)でゲノムサイズが小さい(170Mbp程度=シロイヌナズナとほぼ同等)、遺伝子組換えの手法が確立されている等の特徴を有し、本実施形態に係る植物の長期維持方法が好適に適用される。

【0026】
キクは、キク科キク属の植物である。キクは、商業的な価値が高く需要も大きい、花色等の研究材料として古くから用いられている、挿し芽で簡単に維持、増殖できる、幅広い栽培品種で遺伝子組換えの手法が確立されている等の点で、本実施形態に係る植物の長期維持方法が好適に適用される。

【0027】
本実施形態における植物の栄養増殖において、例えば、スクロース培地等の培地を用いて、所定の期間培養して、幼植物を得て、この幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、トレハロース培地に置床して、培養を行ってもよい。このスクロース培地等からトレハロース培地に移す際に、一部の挿し芽に挿し芽の茎切断面からの一過的かつ急激なトレハロースの吸い上げによると思われる一過的な葉の黄化や萎凋が見られる場合がある。これについては、特に1回目の植え継ぎにおいて、スクロースを用いて培養して発根した状態でトレハロースを用いて植物の栄養増殖を行う、または、腋芽を複数含む節から葉を取り除いた状態でトレハロースを用いて植物の栄養増殖を行うことが好ましい。例えば、1)挿し芽をスクロース培地で3日~14日、好ましくは1週間程度培養し、発根した状態でトレハロースに移す、あるいは2)腋芽を複数含む節から葉を全て取り除いた状態で挿し芽する、のいずれかの方法を用いることで改善することができる。これにより、急激なトレハロースの吸い上げが抑制され、一過的な葉の黄化や萎凋等を抑制することができる。

【0028】
トレハロース培地における挿し芽植物の初期生育はスクロース培地等と比較するとやや劣る傾向にあり、特にスクロース培地からトレハロース培地に葉を除いた節の状態で移行させたキク等でその差が顕著である。この差は、2回目以降の植え継ぎ(トレハロース培地で一度育てたものをトレハロース培地に植え継ぐ)では小さくなる傾向があるものの、完全に同等とはならない傾向にあるため、植物種や使用目的(例えば、培養の長期維持が目的なのか、材料の短期間での育生が重要なのか等)等によって使い分けることが好ましい。

【0029】
また、トレハロース培地で初期生育の速度が遅いことは培養物の長期維持に少なからず寄与しているものと考えられるが、維持期間の延長度合いの割に植物体の大きさの差がわずかであることを考えると、炭素源の枯渇までの時間が延長されたことよりもむしろ、トレハロースの持つ植物の活性を維持する、あるいは向上させる何らかの働きの結果、長期維持が可能となったと推察される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
<実施例1-1>
3%(w/v)のスクロース(和光純薬製一級試薬)を含む1/2MSスクロース培地(組成:1/2MS培地 pH5.7、3% スクロース、0.38% ゲランガム)を用いて、25日間培養してトレニア幼植物(クラウンバイオレット(紫花系統))を得た。このトレニア幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、3%(w/v)のトレハロース(和光純薬製一級試薬)を含む1/2MSトレハロース培地(組成:1/2MS培地 pH5.7、3% トレハロース、0.2% ゲランガム)に置床した。これを25℃、光量子束密度85μmol/m2/秒、16時間明期/8時間暗期で培養し、植物体の生育と萎凋の状況を観察した。最大75日まですべてのトレニアの植物体を健全に維持することができた。また、実際の挿し芽による植物の維持でも、継代間隔を従来の倍以上の70日としてもトレニアの植物体を健全に維持することができた。
【実施例】
【0032】
<比較例1-1>
トレハロースの代わりに、3%(w/v)のスクロースを含む1/2MSスクロース培地を用いた以外は、実施例1-1と同様にして培養を行った。最大30日までしかトレニアの植物体を健全に維持することができなかった。また、実際の挿し芽による植物の維持では、25日ごとの植え継ぎが必要であった。
【実施例】
【0033】
図1に実施例1-1および比較例1-1の挿し芽70日目の培養物を観察した様子を示す。また、図2には培養物を容器の底面から観察した様子を示す。図1,2の右側がトレハロースを用いた実施例1-1のトレニアの植物体であり、左側がスクロースを用いた比較例1-1のトレニアの植物体である。
【実施例】
【0034】
図1からわかるように、トレハロースを用いた実施例1-1のトレニアの植物体では、挿し芽70日目でも健全な状態を維持しており、地上部からの異的な出根も少なかった。一方、スクロースを用いた比較例1-1のトレニアの植物体では、植物の萎凋が進んでおり、地上部からの異的な出根が多かった。また、図2からわかるように、トレハロースを用いた実施例1-1のトレニアの植物体では、挿し芽70日目でも根の密度が低く健全な状態を維持している。一方、スクロースを用いた比較例1-1のトレニアの植物体では、根の密度が高く、ポリフェノール類の蓄積と思われる培地の褐変が確認された。比較例1-1における培地の褐変は、挿し芽40日目以降に明確に確認された。実施例1-1のようにトレハロースを用いることにより、根圏環境の改善や養水分吸収のストレス低減が培養物の長期維持に繋がっていると考えられる。
【実施例】
【0035】
<実施例2>
トレハロースの代わりに、3%(w/v)の「お米にトレハ」(H+Bライフサイエンス製、食品添加用のトレハロース製品、トレハロース含有率90%(w/w))を含む1/2MS培地を用いた以外は、実施例1-1と同様にして培養を行った。最大75日まですべてのトレニアの植物体を健全に維持することができた。また、実際の挿し芽による植物の維持でも、継代間隔を従来の倍以上の70日としてもトレニアの植物体を健全に維持することができた。
【実施例】
【0036】
このようにトレハロースを用いてトレニアの栄養増殖を行うことにより、従来から常用されているスクロースを用いた場合に比べて、培養物の維持期間を2倍以上に延長することができた。これにより、培養物の長期維持が可能であり、継代間隔の長期化が可能となった。トレニア等の遺伝子組換え植物等の系統を維持しての長期の培養が可能となり、大量の培養物を維持する場合であっても、時間、経費、労力をほぼ半減することができた。このようなトレハロースを用いて植物の栄養増殖を行う植物の長期維持方法は、例えば、遺伝的に固定されていない、あるいは自家不和合性等の性質により、種子増殖による後代系統において形質転換当代の遺伝的特性が維持できない植物全般に適用可能である。
【実施例】
【0037】
<実施例1-2~1-5、比較例1-2~1-5>
トレニアとして、「クラウンバイオレット」の代わりに、「クラウンバーガンディ」(実施例1-2、比較例1-2)、「クラウンブルー」(実施例1-3、比較例1-3)、「クラウンレモンドロップ」(実施例1-4、比較例1-4)、匍匐性の「サマーウェーブブルー」(実施例1-5、比較例1-5)を用いた以外は、それぞれ実施例1-1、比較例1-1と同様にして、培養を行った。
【実施例】
【0038】
トレハロースを用いた実施例1-2~1-5のトレニアの植物体では、最大70日まですべてのトレニアの植物体を健全に維持することができた。一方、スクロースを用いた比較例1-2~1-5のトレニアの植物体では、最大40日までしか維持できなかった。
【実施例】
【0039】
図3に実施例1-2および比較例1-2の挿し芽40日目の培養物を観察した様子を示す。図3の左側2つがトレハロースを用いた実施例1-2のトレニア「クラウンバーガンディ」の植物体であり、右側2つがスクロースを用いた比較例1-2のトレニア「クラウンバーガンディ」の植物体である。また、図3の下側には培養物を容器の底面から観察した様子を示す。図4に実施例1-5および比較例1-5の挿し芽40日目の培養物を観察した様子を示す。図4の左側2つがトレハロースを用いた実施例1-5のトレニア「サマーウェーブブルー」の植物体であり、右側2つがスクロースを用いた比較例1-5のトレニア「サマーウェーブブルー」の植物体である。また、図4の下側には培養物を容器の底面から観察した様子を示す。
【実施例】
【0040】
図3,4からわかるように、トレハロースを用いた実施例1-2,1-5のトレニアの植物体では、挿し芽40日目でも健全な状態を維持していた。一方、スクロースを用いた比較例1-2,1-5のトレニアの植物体では、植物の萎凋がやや進んでいた。
【実施例】
【0041】
<実施例3-1~3-4、比較例3-1~3-4>
トレニアの代わりに、キク「セイマリン」(実施例3-1、比較例3-1)、「大平」(実施例3-2、比較例3-2)、「神馬」(実施例3-3、比較例3-3)、二倍体のキクタニギク実験系統「猿沢-1」(実施例3-4、比較例3-4)を用いた以外は、それぞれ実施例1-1、比較例1-1と同様にして、培養を行った。
【実施例】
【0042】
トレハロースを用いた実施例3-1のキク「セイマリン」の植物体では、最大140日まですべてのキクの植物体を健全に維持することができた。一方、スクロースを用いた比較例3-1のキク「セイマリン」の植物体では、最大70日までしか維持できなかった。トレハロースを用いた実施例3-2のキク「大平」の植物体では、最大160日まですべてのキクの植物体を健全に維持することができた。一方、スクロースを用いた比較例3-2のキク「大平」の植物体では、最大90日までしか維持できなかった。トレハロースを用いた実施例3-3のキク「神馬」の植物体では、最大480日まですべてのキクの植物体を健全に維持することができた。一方、スクロースを用いた比較例3-3のキク「神馬」の植物体では、最大112日までしか維持できなかった。トレハロースを用いた実施例3-4のキク「猿沢-1」の植物体では、最大480日まですべてのキクの植物体を健全に維持することができた。一方、スクロースを用いた比較例3-4のキク「猿沢-1」の植物体では、最大112日までしか維持できなかった。
【実施例】
【0043】
図5,6に実施例3-1および比較例3-1の挿し芽98日目、157日目の培養物を観察した様子をそれぞれ示す。図5,6の上側がトレハロースを用いた実施例3-1のキク「セイマリン」の植物体であり、下側がスクロースを用いた比較例3-1のキク「セイマリン」の植物体である。図7,8に実施例3-2および比較例3-2の挿し芽98日目、157日目の培養物を観察した様子をそれぞれ示す。図7,8の上側がトレハロースを用いた実施例3-2のキク「大平」の植物体であり、下側がスクロースを用いた比較例3-2のキク「大平」の植物体である。
【実施例】
【0044】
図5,6からわかるように、トレハロースを用いた実施例3-1のキク「セイマリン」の植物体では、挿し芽98日目でも健全な状態を維持しており、挿し芽157日目でも健全な状態をほぼ維持していた。一方、スクロースを用いた比較例3-1のキク「セイマリン」の植物体では、挿し芽98日目で植物の萎凋が進んでいた。また、図7,8からわかるように、トレハロースを用いた実施例3-2のキク「大平」の植物体では、挿し芽157日目でも健全な状態をほぼ維持していた。一方、スクロースを用いた比較例3-1のキク「大平」の植物体では、挿し芽98日目で植物の萎凋が進んでいた。
【実施例】
【0045】
<実施例4>
キク「セイマリン」の幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、スクロース培地(組成:1/2MS培地 pH5.7、3% スクロース、0.38% ゲランガム)を用いて1週間培養して発根した状態とした後、トレハロース培地を用いて培養した以外は、実施例1-1と同様にして、培養を行った。
【実施例】
【0046】
<比較例4>
キク「セイマリン」の幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、スクロース培地(組成:1/2MS培地 pH5.7、3% スクロース、0.38% ゲランガム)を用いて1週間培養して発根した状態とした後、スクロース培地を用いて培養した以外は、比較例1-1と同様にして、培養を行った。
【実施例】
【0047】
図9に実施例4および比較例4の挿し芽70日目の培養物を観察した様子をそれぞれ示す。図9の左側がスクロース培地を用いて培養して発根した状態とした後、トレハロース培地を用いて培養した実施例4のキク「セイマリン」の植物体であり、右側がスクロース培地を用いて培養して発根した状態とした後、スクロース培地を用いて培養した比較例4のキク「セイマリン」の植物体である。
【実施例】
【0048】
図9からわかるように、スクロース培地を用いて培養して発根した状態とした後、トレハロース培地を用いて培養した実施例4のキク「セイマリン」の植物体では、挿し芽70日目でも健全な状態を維持していた。一方、スクロース培地を用いて培養して発根した状態とした後、スクロース培地を用いて培養した比較例4のキク「セイマリン」の植物体では、植物の萎凋が進んでいた。
【実施例】
【0049】
<実施例5>
キク「セイマリン」の幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、腋芽を複数含む節から葉を全て取り除いた状態でトレハロース培地を用いて培養した以外は、実施例1-1と同様にして、培養を行った。
【実施例】
【0050】
<比較例5>
キク「セイマリン」の幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、腋芽を複数含む節から葉を全て取り除いた状態でスクロース培地を用いて培養した以外は、比較例1-1と同様にして、培養を行った。
【実施例】
【0051】
図10,11に実施例5および比較例5の挿し芽85日目、144日目の培養物を観察した様子をそれぞれ示す。図10,11の上側がトレハロース培地を用いて培養した実施例5のキク「セイマリン」の植物体であり、下側がスクロース培地を用いて培養した比較例5のキク「セイマリン」の植物体である。
【実施例】
【0052】
図10,11からわかるように、トレハロース培地を用いて培養した実施例5のキク「セイマリン」の植物体では、挿し芽144日目でも健全な状態を維持していた。一方、スクロース培地を用いて培養した比較例5のキク「セイマリン」の植物体では、144日目では植物の萎凋が進んでいた(挿し芽100日前後にほぼ枯死した)。
【実施例】
【0053】
このように、キク「セイマリン」では、特に、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、腋芽を複数含む節から葉を全て取り除いた状態でトレハロース培地を用いて培養する手法を用いることで、培養の維持期間をさらに延長することが可能となった。
【実施例】
【0054】
<実施例6、比較例6>
実施例1-1と同様にして得たトレニア「クラウンバイオレット」の幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、3%(w/v)のトレハロースを含む1/2MSトレハロース培地(組成:1/2MS培地、3% トレハロース、0.38% ゲランガム)のpHを4.6,5.0,5.4,5.8,6.2と変えたものをそれぞれ用いて、実施例1-1と同様にして培養を行った(実施例6)。また、3%(w/v)のスクロースを含む1/2MSスクロース培地のpHを4.6,5.0,5.4,5.8,6.2と変えたものをそれぞれ用いて、実施例1-1と同様にして培養を行った(比較例6)。
【実施例】
【0055】
図12,13に実施例6の挿し芽71日目、130日目の培養物を観察した様子をそれぞれ示す。図12,13の上側がトレハロース培地を用いて培養した実施例6のトレニア「クラウンバイオレット」の植物体であり、下側がスクロース培地を用いて培養した比較例6のトレニア「クラウンバイオレット」の植物体である。
【実施例】
【0056】
<実施例7、比較例7>
実施例3-1と同様にして得たキク「セイマリン」の幼植物より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、3%(w/v)のトレハロースを含む1/2MSトレハロース培地のpHを4.6,5.0,5.4,5.8,6.2と変えたものをそれぞれ用いて、実施例1-1と同様にして培養を行った(実施例7)。また、3%(w/v)のスクロースを含む1/2MSスクロース培地のpHを4.6,5.0,5.4,5.8,6.2と変えたものをそれぞれ用いて、実施例1-1と同様にして培養を行った(比較例7)。
【実施例】
【0057】
図14,15に実施例7の挿し芽71日目、130日目の培養物を観察した様子をそれぞれ示す。図14,15の上側がトレハロース培地を用いて培養した実施例7のキク「セイマリン」の植物体であり、下側がスクロース培地を用いて培養した比較例7のキク「セイマリン」の植物体である。
【実施例】
【0058】
図12~15からわかるように、トレハロース培地による培養物の長期維持効果は、トレニア「クラウンバイオレット」およびキク「セイマリン」のいずれにおいても、通常の1/2MS培地の作製法(pH緩衝剤を用いない)で培地の初期pHを4.6~6.2の範囲で変化させてもほぼ安定であり、効果にほとんど差異がないことを確認した。ただし、スクロース培地を用いた場合でも、初期pHによる差異はほとんど確認されなかったので、初期pHによる効果にほとんど差異がないことは、植物自体のpH緩衝能によるものと思われる。
【実施例】
【0059】
<実施例8>
実施例3-1と同様にして「トレハロース培地」を用いて得た挿し芽72日目のキク「セイマリン」より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、トレハロース培地を用いて培養した。また、比較例3-1と同様にして「スクロース培地」を用いて得た挿し芽28日目のキク「セイマリン」より、節を含む地上部の栄養組織片を切り出し、スクロース培地を用いてそれぞれ培養した。なお、このとき用いた挿し芽72日目のキク「セイマリン」と挿し芽28日目のキク「セイマリン」とは、植物体サイズと植え継いだ穂のサイズはほぼ同等であった。
【実施例】
【0060】
図16に実施例8の植え継ぎ25日目の培養物を観察した様子を示す。図16の右側がトレハロース培地を用いて培養したキクの植物体であり、左側がスクロース培地を用いて培養したキクの植物体である。
【実施例】
【0061】
図16からわかるように、2回目以降の植え継ぎでは初期生育の差が小さくなる傾向となった。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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