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明細書 :センチュウ抵抗性誘導剤及びセンチュウ防除方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5668232号 (P5668232)
公開番号 特開2012-201596 (P2012-201596A)
登録日 平成26年12月26日(2014.12.26)
発行日 平成27年2月12日(2015.2.12)
公開日 平成24年10月22日(2012.10.22)
発明の名称または考案の名称 センチュウ抵抗性誘導剤及びセンチュウ防除方法
国際特許分類 A01N  31/06        (2006.01)
A01P  17/00        (2006.01)
A01M   1/20        (2006.01)
FI A01N 31/06
A01P 17/00
A01M 1/20 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2011-064708 (P2011-064708)
出願日 平成23年3月23日(2011.3.23)
審査請求日 平成25年11月20日(2013.11.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】水久保 隆之
【氏名】藤本 岳人
【氏名】瀬尾 茂美
個別代理人の代理人 【識別番号】100099508、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 久
【識別番号】100093285、【弁理士】、【氏名又は名称】久保山 隆
審査官 【審査官】太田 千香子
参考文献・文献 特開昭62-252703(JP,A)
調査した分野 A01N 31/06
特許請求の範囲 【請求項1】
スクラレオールを有効成分として含有することを特徴とするセンチュウ抵抗性誘導剤。
【請求項2】
対象植物にスクラレオールを吸収させることを特徴とするセンチュウ防除方法。
【請求項3】
対象植物が、ナス科及びアブラナ科である請求項2記載のセンチュウ防除方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ジテルペンの一種であるスクラレオールを用いた植物害虫防除法に関する。より詳しくは、スクラレオールが有する害虫抵抗性増強力を利用したセンチュウ防除剤およびセンチュウ防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の根や茎に寄生する植物寄生性センチュウ(線虫)が農業に及ぼす被害額は世界全体で年間数千億円に達すると見積もられている。中でも、深刻な被害を与えているのが700種以上の宿主範囲をもつネコブセンチュウ(Meloidogyne属)である。ネコブセンチュウは広い寄主範囲を持ち、露地根菜類から施設果菜類におよぶ広汎な作物に著しい減収や枯死を起こすこと、侵入すると根絶が難しいことから、最も有害な害虫の一つでありその農作物被害は植物寄生性センチュウ全体による被害額のうち4割以上を占める。不可欠用途を除く土壌消毒用途臭化メチルの2005年度以降の全廃によって、これまで意識せずに防除されていたセンチュウ害は顕在化するとともに拡大しつつある。一方、作物防疫においても環境保全型農業技術、有機農業技術の導入が強く求められていることから、有効かつ安全なセンチュウ、特にネコブセンチュウの低環境負荷型防除技術の開発には社会的ニーズがある。
【0003】
従来、センチュウは主に化学合成農薬によって防除されている。これらは大きく粒剤とくん蒸剤に分けられ、前者では有機リン剤のホスチアゼート剤、後者ではD-D剤が広く普及している。物理的防除手段にはハウスを密閉し耕土を加温する太陽熱土壌消毒、ハウス土壌に有機物を混和して密閉加温する還元土壌消毒、可動式ボイラーから給湯し直接作土を加熱する熱水土壌消毒、耕土の長期間湛水処理がある。耕種的防除技術には、栽培すると土壌中のセンチュウ密度を低下させるセンチュウ対抗植物やセンチュウ抵抗性品種の栽培が挙げられる。マリーゴールドの「アフリカントール」、野生エンバクの「ヘイオーツ」などが代表的なセンチュウ対抗植物である。既登録の生物農薬として出芽細菌のパストリア水和剤(パスツリア ペネトランス剤)と糸状菌のネマヒトン(モナクロスポリウム フィマトパガム剤)が挙げられる。また、本発明者らによる弱毒ウイルスとフザリウム菌を接種することによるセンチュウ防除技術が公開されている(特許文献1参照)。この機作を解明する中でジャスモン酸系路の遺伝子群の活性化とネコブセンチュウ侵入抑制に関連があることを明らかにした(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-155229号公報
【0005】

【非特許文献1】Journal of Plant Physiology (in press) DOI: 10.1016/j.jplph.2010.12.002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化学的防除技術のうち、有機リン系化学合成農薬は作物への残留が社会問題化しており、クロルピクリン剤、D-D剤等の土壌くん蒸剤も人の健康に及ぼす影響、土壌微小生物相の破壊と攪乱、地下水汚染など環境負荷を起こす。化学合成農薬と物理的防除技術は、概して劇的な防除効果を示すものの、センチュウは耕土深層に残存しているため、栽培後のセンチュウ密度復活は速やかであり、却ってセンチュウ害を助長する。耕種的防除である対抗植物利用では、作物栽培の中断、除草の手間、他の病害虫の多発生などの問題を持つ。
【0007】
また、抵抗性品種は一般に市場の需要が薄く、抵抗性品種の連続的利用は抵抗性品種に寄生するセンチュウ系統(抵抗性打破系統)を出現させるため、利用期間が短い。因みにトマトでは抵抗性品種のセンチュウ抵抗性は既に打破されている。生物資材では、パストリア水和剤が産卵抑制作用、ネマヒトンが捕食作用の単独機作によってセンチュウを抑制するが、コストが極めて高く、劇的な防除効果に乏しい。このように、いずれの方法も防除効果や環境に与える影響などの面で解消すべき問題が多く残されている。一方、弱毒微生物を用いた防除法はまだ実用化研究の段階である。この機作の1つとしてジャスモン酸経路の誘導抵抗性が介在する。ジャスモン酸は植物ホルモンであり、その施用によって作物が生長・分化異常などの農業上好ましくない形質を現す可能性がある。また、ジャスモン酸はその製造にかかるコストが高く、現時点では実用レベルの防除剤候補にはなりえない。従って、センチュウに対して有効な抵抗性誘導剤として、ジャスモン酸以外の化合物を探索することが求められている。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、植物の害虫抵抗性を増強させる化合物を有効成分として含有してなるセンチュウ抵抗性誘導剤および該化合物を利用したセンチュウ防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、センチュウに対する抵抗性を誘導する物質を見出すべく、害虫抵抗性が誘発された植物もしくは天然資源を用いて探索を試みた結果、スクラレオールがセンチュウに対する殺虫活性を有さずかつ対象となる植物の根の生長に悪影響を及ぼさないにも拘わらず、センチュウに対する防除効果を有することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> スクラレオールを有効成分として含有するセンチュウ抵抗性誘導剤。
<2> 対象植物にスクラレオールを吸収させるセンチュウ防除方法。
<3> 対象植物が、ナス科及びアブラナ科である前記<2>記載のセンチュウ防除方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、植物の生命力を高めてセンチュウ防除効果を示す薬剤およびセンチュウ防除方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】トマトにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオール48時間処理の効果を示す図である。
【図2】トマト根の生長に対するスクラレオール48時間処理の効果を示す図である。
【図3】トマトにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオール1週間処理の効果を示す図である。
【図4】トマト根の生長に対するスクラレオール1週間処理の効果を示す図である。
【図5】トマトにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオライド48時間処理の効果を示す図である。
【図6】シロイヌナズナにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオール48時間処理の効果を示す図である。
【図7】スクラレオールの殺センチュウ活性の有無を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、スクラレオールを有効成分として含有することを特徴とするセンチュウ抵抗性誘導剤に係るものである。
スクラレオール(sclareol,labd-14-ene-8,13-diol)は、下記式(1)の構造を有する、ジテルペノイド化合物の一種であり、市販されている(例えば、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社)。このような市販品を入手し、それをセンチュウ抵抗性検定に供することが可能である。

【0014】
【化1】
JP0005668232B2_000002t.gif

【0015】
スクラレオール(溶媒和物なども包含)の特徴は、それ自体には全く、又は、ほとんど抗センチュウ活性はないが、対象植物に処理するとセンチュウ防除活性を有することにある。なお、抗センチュウ活性とは、センチュウの細胞代謝等に直接作用することでセンチュウの生育を阻害する作用を意味する。

【0016】
対象となる植物としては、センチュウが侵入する植物であれば特に制限はないが、ナス科植物(トマト、ピーマン、ナス、ジャガイモ、トウガラシ、タバコ等)、アブラナ科植物(シロイヌナズナ、アブラナ、キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、ワサビ等)、ウリ科植物(ウリ、キュウリ、カボチャ等)、ヒルガオ科植物(サツマイモ等)、セリ科植物(ニンジン、セリ、セロリ等)、キク科植物(ゴボウ、シュンギク等)、アカザ科植物(ホウレンソウ、フダンソウ等)、ネギ科植物(ネギ、ワケギ、ニラ、ラッキョウ等)、ショウガ科植物(ショウガ等)、マメ科植物(エンドウ、インゲンマメ、ササゲ等)が挙げられるがこれらに限定されない。この中でも特にナス科やアブラナ科が好適な対象となる。

【0017】
本発明の抵抗性誘導剤において、スクラレオールは塩として含有されていてもよく、その塩の形態としては、特に制限はないが、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、金属塩(アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩など)、無機塩(酢酸塩、アンモニウム塩など)、有機アミン塩(ジベンジルアミン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニア塩など)、アミノ酸塩(グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩など)などが挙げられる。

【0018】
本発明の抵抗性誘導剤を農業園芸用防御増強剤として使用する場合には、その目的に応じて有効成分を適当な剤型で用いることができる。通常は有効成分を不活性な液体または固体の担体で希釈し、必要に応じて界面活性剤、その他をこれに加え、粉剤、水和剤、乳剤、粒剤等の製剤形態で使用できる。

【0019】
本発明の農園芸用殺菌剤は、これらの製剤をそのまま、あるいは希釈して土壌施用または育苗箱施用等により使用することができる。これらの施用量は、使用される化合物の種類、対象病害、発生傾向、被害の程度、環境条件、使用する剤型などによって変動する。

【0020】
さらに、本発明の抵抗性誘導剤は必要に応じて、そのセンチュウ防除活性を阻害しない範囲で、殺虫剤、他の殺菌剤、除草剤、植物生長調節剤、肥料等と混合してもよい。

【0021】
本発明の抵抗性誘導剤は、スクラレオールを溶媒に溶解させたものであり、溶媒としては、スクラレオールの溶解、分散を阻害せず、対象となる作物に悪影響を及ぼさない溶媒であるメタノールやエタノールなどが適宜使用される。通常、前述の溶媒で溶解したスクラレオール液を水で希釈して使用する。

【0022】
本発明の抵抗性誘導剤に含まれるスクラレオールの濃度は、センチュウ防除活性が発現すればよく特に限定はないが、センチュウ防除効果と散布量との兼ね合いから、50~400μMが好ましく、75~100μMが特に好ましい。スクラレオールの濃度が、50μM未満のときにはセンチュウ防除効果が十分でない場合がある。逆に50μM以上であると、十分なセンチュウ防除効果が得られ、100μMで顕著なセンチュウ防除効果が得られる。なお、400μMを超えると黄化葉等の問題が生じるおそれがあるため好ましくない。

【0023】
本発明のセンチュウ防除方法は、対象植物にスクラレオールを吸収させることを特徴とする。具体的には、対象植物の根にスクラレオールを浸漬処理させる方法が挙げられる。すなわち、通常の土壌栽培や水耕栽培の方法が挙げられる。

【0024】
本発明のセンチュウ防除方法の対象となる植物としては、上述のセンチュウが侵入する植物はいずれも該当する。具体的には、ナス科植物、アブラナ科植物、ウリ科植物(、ヒルガオ科植物、セリ科植物、キク科植物、アカザ科植物(ホウレンソウ、フダンソウ等)、ネギ科植物、ショウガ科植物(ショウガ等)、マメ科植物が挙げられるがこれらに限定されない。
この中でもナス科植物やアブラナ科植物に対して効果的であり、トマト及びシロイヌナズナに対して特に効果的である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
<センチュウの防除効果の評価>
スクラレオールのセンチュウに対する防除効果を確認するため、以下の実施例1~6及び参考例1の実験を行った。
【実施例】
【0027】
実施例1
<スクラレオール48時間処理の防除効果の検定>
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、滅菌したトマト(品種:桃太郎)の種子を予めよく洗浄した直径0.4mm以下の海砂を充填したプラスチックポット(7.5cm径)に播種し、25±1℃で制御された野外に設置したガラス温室内で栽培した。本葉が2枚展開したトマトをポットごと、バット(40cm長×30cm横×10cm高)の中に置き、根が完全に浸るまで2000mLの100μMスクラレオールもしくは対照区として0.1%メタノールを注入し、上記栽培条件下で48時間栽培した。48時間目に、スクラレオール液を捨て、代わりに水耕栽培液(1000倍希釈ハイポネックス溶液)を注入し、引き続き、栽培した。スクラレオール処理開始から1週間目で、ネコブセンチュウ300頭を根に接種し、上記栽培条件下で引き続き栽培した。接種1週間目で、全ての根を回収し、酸性フクシンを用いた定法に従ってネコブセンチュウを染色、実体顕微鏡下で根に侵入したセンチュウを計測した。
図1に、トマトにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオール48時間処理の効果を示す。スクラレオールを根圏に48時間処理したトマト幼苗では、対照区と比較して処理の1週間後に高いセンチュウ侵入抑制効果が認められた。
【実施例】
【0028】
実施例2
<スクラレオール48時間処理による根の生長の影響の有無の検定>
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、滅菌したトマト(品種:桃太郎)の種子を予めよく洗浄した直径0.4mm以下の海砂を充填したプラスチックポット(7.5cm径)に播種し、25±1℃で制御された野外に設置したガラス温室内で栽培した。本葉が2枚展開したトマトをポットごと、バット(40cm長×30cm横×10cm高)の中に置き、根が完全に浸るまで2000mLの100μMスクラレオールもしくは対照区として0.1%メタノールを注入し、上記栽培条件下で48時間栽培した。48時間目に、スクラレオール液を捨て、代わりに水耕栽培液(1000倍希釈ハイポネックス溶液)を注入し、引き続き、栽培した。スクラレオール処理開始から1週間目で、全ての根を回収し、その重さを計測した。
図2に、トマト根の生長に対するスクラレオール48時間処理の効果を示す。スクラレオールはトマトの根の生長を阻害しなかった。
【実施例】
【0029】
実施例3
<スクラレオール1週間処理の防除効果の検定>
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、滅菌したトマト(品種:桃太郎)の種子を予めよく洗浄した直径0.4mm以下の海砂を充填したプラスチックポット(7.5cm径)に播種し、25±1℃で制御された野外に設置したガラス温室内で栽培した。本葉が2枚展開したトマトをポットごと、バット(40cm長×30cm横×10cm高)の中に置き、根が完全に浸るまで2000mLの100μMスクラレオールもしくは対照区として0.1%メタノールを注入し、上記栽培条件下で1週間栽培した。1週間目に、スクラレオール液を捨て、代わりに水耕栽培液(1000倍希釈ハイポネックス溶液)を注入し、引き続き、栽培した。スクラレオール処理開始から1週間目で、ネコブセンチュウ300頭を根に接種し、上記栽培条件下で引き続き栽培した。接種1週間目で、全ての根を回収し、酸性フクシンを用いた定法に従ってネコブセンチュウを染色、実体顕微鏡下で根に侵入したセンチュウを計測した。
図3に、トマトにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオール1週間処理の効果を示す。スクラレオールを根圏に1週間処理したトマト幼苗では、対照区と比較して高いセンチュウ侵入抑制効果が認められた。
【実施例】
【0030】
実施例4
<スクラレオール1週間処理による根の生長の影響の有無の検定>
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、滅菌したトマト(品種:桃太郎)の種子を予めよく洗浄した直径0.4mm以下の海砂を充填したプラスチックポット(7.5cm径)に播種し、25±1℃で制御された野外に設置したガラス温室内で栽培した。本葉が2枚展開したトマトをポットごと、バット(40cm長×30cm横×10cm高)の中に置き、根が完全に浸るまで2000mLの100μMスクラレオールもしくは対照区として0.1%メタノールを注入し、上記栽培条件下で1週間栽培した。1週間目に、スクラレオール液を捨て、代わりに水耕栽培液(1000倍希釈ハイポネックス溶液)を注入し、引き続き、栽培した。スクラレオール処理開始から1週間目で、全ての根を回収し、その重さを計測した。
図4に、トマト根の生長に対するスクラレオール1週間処理の効果を示す。スクラレオール1週間処理はトマトの根の生長を阻害しなかった。
【実施例】
【0031】
参考例1
<類縁体の防除効果の検定>
下記式(2)の構造を有するスクラレオライドを適量、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオライドの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、滅菌したトマト(品種:桃太郎)の種子を予めよく洗浄した直径0.4mm以下の海砂を充填したプラスチックポット(7.5cm径)に播種し、25±1℃で制御された野外に設置したガラス温室内で栽培した。本葉が2枚展開したトマトをポットごと、バット(40cm長×30cm横×10cm高)の中に置き、根が完全に浸るまで2000mLの100μMスクラレオライドもしくは対照区として0.1%メタノールを注入し、上記栽培条件下で48時間栽培した。48時間目に、スクラレオライド液を捨て、代わりに水耕栽培液(1000倍希釈ハイポネックス溶液)を注入し、引き続き、栽培した。スクラレオライド処理開始から1週間目で、ネコブセンチュウ300頭を根に接種し、上記栽培条件下で引き続き栽培した。接種1週間目で、全ての根を回収し、酸性フクシンを用いた定法に従ってネコブセンチュウを染色、実体顕微鏡下で根に侵入したセンチュウを計測した。
図5に、トマトにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオライド48時間処理の効果を示す。スクラレオライドはセンチュウ侵入抑制効果を示さなかった。
【実施例】
【0032】
【化2】
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【実施例】
【0033】
実施例5
<シロイヌナズナを用いた検定>
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、播種後2週間のシロイヌナズナ(アクセションcol-0)の幼苗を予めよく洗浄した直径0.4mm以下の海砂を充填したプラスチックポット(7.5cm径)に播種し、25±1℃で制御された野外に設置したガラス温室内で栽培した。ロゼット葉が展開したトマトをポットごと、バット(40cm長×30cm横×10cm高)の中に置き、根が完全に浸るまで2000mLの100μMスクラレオールもしくは対照区として0.1%メタノールを注入し、上記栽培条件下で48時間栽培した。48時間目に、スクラレオール液を捨て、代わりに水耕栽培液(1000倍希釈ハイポネックス溶液)を注入し、引き続き、栽培した。スクラレオール処理開始から1週間目で、ネコブセンチュウ300頭を根に接種し、上記栽培条件下で引き続き栽培した。接種1週間目で、全ての根を回収し、酸性フクシンを用いた定法に従ってネコブセンチュウを染色、実体顕微鏡下で根に侵入したセンチュウを計測した。
図6に、シロイヌナズナにおけるセンチュウ感染に対するスクラレオール48時間処理の効果を示す。スクラレオールを根圏に1週間処理したシロイヌナズナ植物では、対照区と比較して高いセンチュウ侵入抑制効果が認められた。
【実施例】
【0034】
実施例6
<抗センチュウ活性の有無の検定>
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度200μMになるよう希釈した。
次いで、ガラスシャーレ(9cm径)に2齢幼虫のネコブセンチュウ約100頭を含む5mLの水溶液を入れ、そこに等量(5mL)の200μMスクラレオールもしくは対照区として蒸留水を入れ、22±1℃で制御された人工気象室(暗室条件)で培養した。48時間後に実体顕微鏡下で生存しているセンチュウの数を計測した。
図7に、スクラレオールの殺センチュウ活性の有無を示す。スクラレオール処理区と対照区でセンチュウの生存数に差は認められなかったことから、スクラレオールは直接の殺センチュウ効果は有さないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、センチュウを防除し、健全な作物を栽培するための農業資材としての抵抗性誘導剤の有効な素材として利用が期待できる。天然物質であるスクラレオールは、食品添加物や香料、アロマテラピーなどにも用いられていることから環境や人体への影響が少ない安全性の高い物質と考えられる。スクラレオールはセンチュウに対する殺虫活性を示さなかったことから、本物質の防除効果は植物内で誘起された抵抗性によるものである。それ故、スクラレオールは、環境低負荷型の抵抗性誘導剤としてセンチュウ防除に利用できると期待できる。また、ナス科植物のトマト及びアブラナ科植物のシロイヌナズナに効果を示したことから、植物種を問わず広範な植物に効果を示すと期待できる。このように、スクラレオールを用いたセンチュウ防除方法は経済的・社会的に大きなインパクトを与えうる。
【0036】
なお、糸状菌の培養物を接種することによってもスクラレオールが生成すると考えられるが、生成量の制御法は明らかでなく、生菌であるがゆえの寿命の制約があり、需要を把握して生産量を決定しなければならない等の流通上の難がある。一方、天然物質としてのスクラレオールは、単体で長期間保存することが容易であり、農薬的な利用ができる可能性がある。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6