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明細書 :ヒ素収着材及びヒ素汚染物質の浄化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5548956号 (P5548956)
登録日 平成26年5月30日(2014.5.30)
発行日 平成26年7月16日(2014.7.16)
発明の名称または考案の名称 ヒ素収着材及びヒ素汚染物質の浄化方法
国際特許分類 B01J  20/04        (2006.01)
C02F   1/28        (2006.01)
B01J  20/30        (2006.01)
C01F  11/18        (2006.01)
FI B01J 20/04 A
C02F 1/28 E
C02F 1/28 B
B01J 20/30
C01F 11/18 B
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願2010-548489 (P2010-548489)
出願日 平成22年1月25日(2010.1.25)
国際出願番号 PCT/JP2010/050880
国際公開番号 WO2010/087297
国際公開日 平成22年8月5日(2010.8.5)
優先権出願番号 2009017367
優先日 平成21年1月28日(2009.1.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年1月21日(2013.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】福士 圭介
【氏名】酒井 実
【氏名】宗本 隆志
個別代理人の代理人 【識別番号】100114074、【弁理士】、【氏名又は名称】大谷 嘉一
審査官 【審査官】松本 瞳
参考文献・文献 特開平01-127094(JP,A)
横山由佳,他,カルサイトへの亜ヒ酸とヒ酸の分配挙動の比較,第17回環境化学討論会講演要旨集,日本,2008年,pp.868-869
Ciardelli MC. et al.,Role of Fe(II), Phosphate,silicate,sulfate and carbonate in arsenic uptake by coprecipitation in syn,Water Research,2008年,42(3),pp.615-624
調査した分野 B01J 20/04
C02F 1/28
C01F 11/18
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
Mg2+イオンとCa2+イオンとがMg/Ca=0.3以上の割合で含有する水溶液に、可溶性炭酸塩又は炭酸塩の水溶液を混合することで沈殿生成したモノハイドロカルサイトであって、
モノハイドロカルサイト中のモル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.1以下であることを特徴とするヒ素収着材。
【請求項2】
モノハイドロカルサイト中のモル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.01以下であることを特徴とする請求項1記載のヒ素収着材。
【請求項3】
前記モノハイドロカルサイトは平均一次粒子径900nm以下で平均二次粒子径が30μm以下の粉末であることを特徴とする請求項1又は2記載のヒ素収着材。
【請求項4】
ヒ素換算濃度10ppm以下にした汚染液に請求項1~3のいずれかに記載のヒ素収着材を添加することを特徴とするヒ素汚染物質の浄化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素で汚染された環境物質からヒ素を取り込み、浄化資材として使用されるヒ素の収着材及びヒ素汚染物質の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒ素(As)は微量であっても人体に取り込まれると、健康を害する環境汚染物質の1つである。
従って、ヒ素で汚染されている水や土壌等からヒ素を効果的に除去する技術が要望されている。
ここで、水に溶けるヒ素の形態には主に亜ヒ酸、ヒ酸及び有機ヒ酸の3つの態様がある。
還元的環境下にある地下水には亜ヒ酸の形態で存在するが、地表では酸素と反応してヒ酸になる。
また、特に亜ヒ酸、ヒ酸の毒性が強くこれらの除去が重要である。
ヒ素のような天然における微量元素を鉱物表面に吸着させる技術は公知であり、例えば、非特許文献1は、カルサイト(CaCO:方解石又は石灰石)がヒ酸を吸着することについて記載している。
しかし、カルサイトによるヒ酸の吸着は汚染物質の浄化には不充分であり、吸着安定性にも問題があった。
【0003】

【非特許文献1】Vasso G.Alexandratos, Evert J.Elzinga, Richard J.Reeder 「Arsenate uptake by calcite : Macroscopic and spectroscopic characterization of adsorption and incorporation mechanisms」, Geochimica et Cosmochimica Acta 71 (2007) 4172-4187
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ヒ素の収着能が高く、収着物質の安定性に優れたヒ素収着材及びそれを用いた浄化方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
カルシウム炭酸塩には、前記のカルサイト(CaCO)とアラゴナイト(CaCO)とが存在する。
カルサイトは、日本語名が方解石あるいは石灰石と称され、アラゴナイトは日本語名が霰石と称され、これらカルサイトとアラゴナイトは結晶構造が異なるため鉱物としては区分されている。
一方、水和カルシウム炭酸塩としては、モノハイドロカルサイト(CaCO・HO),イカイト(CaCO・6HO)及びアモルファスカルサイトの3つの形態が知られている。
モノハイドロカルサイトは、本願発明者のこれまでの研究により、準閉塞湖であり、人為的な撹乱が少ないモンゴルのフブスグル湖の20万年前堆積物コア(2004年,Hovsgol Drilling Project)に存在していることを明らかにし(発表文献:Fukushi K. Fukumoto H. Munemoto T. Ochiai S and Kashiwaya K.「Records of water quality in Lake Hovsgol printed in carbonate minerals in the sediments」 Abstract volume 6th international symposium on terrestrial environmental changes in East Eurasia and Adjacent Areas, (2007) 24-25)、実験室においてモノハイドロカルサイトを合成し、その変質挙動を研究した(発表文献: Munemoto T. and Fukushi K. 「Transformation kinetics of monohydrocalcite to aragonite in aqueous solutions」 Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 103, (2008) 345-349)。
また、モノハイドロカルサイトは海水に炭酸ナトリウムを添加することで得られることも知られる。
Kinsmannらはやや低温条件(16℃)でろ過したニュージャージー州の海水に炭酸ナトリウムを8mMとなるように添加することでモノハイドロカルサイトの単一相が海水から沈殿することを示している(非特許文献:Kinsman J. J. David., and Holland H.D. 「The co-precipitation of cations with CaCO3. The co-precipitation of Sr2+ with aragonite between 16℃ and 96℃」v, Geochimica et Cosmochimica Acta 33 (1969) 1-17)。
モノハイドロカルサイト(Monohydrocalcite:CaCO・HO)は、結晶構造がTrigonal,a=10.5547Å,c=7.5644Åであり、液中のMg/Ca=0.3以上で、過飽和CO下で沈殿生成し、乾燥状態では安定であるが、水中において一度溶解し、その後アラゴナイト又はカルサイトに再結晶する。
従って、安定相であるアラゴナイト又はカルサイトと比較して、モノハイドロカルサイトは準安定相であり、高い反応性を有することが期待されることから、モノハイドロカルサイトの反応性をヒ素の取り組みに活用することで本発明に至った。
【0006】
本発明に係るヒ素収着材は、モノハイドロカルサイト(以下必要に応じてMHCと表現する。)とを主な成分とすることを特徴とする。
より具体的には、Mg2+イオンとCa2+イオンとがMg/Ca=0.3以上の割合で含有する水溶液に、可溶性炭酸塩又は炭酸塩の水溶液を混合することで沈殿生成したモノハイドロカルサイトであって、モノハイドロカルサイト中のモル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.1以下であることを特徴とする。
また、前記モノハイドロカルサイトは平均一次粒子径900nm以下で平均二次粒子径が30μm以下の粉末であるのが好ましい。
粉末状の方が水に溶解しやすく、アラゴナイト又はカルサイトに再結晶する際にヒ酸イオンを取り込みやすいからである。
モノハイドロカルサイトが溶解し、アラゴナイト又はカルサイトに相変化する際にヒ酸を取り込むことから低濃度のヒ素汚染物の浄化に効果的である。
よって、本発明に係るヒ素収着材は水に溶解したヒ素換算濃度10ppm以下の低濃度、特に地下水ヒ素汚染の問題となる100ppb以下の低濃度のヒ酸イオンの安定化に有効である。
本明細書でヒ素とは、亜ヒ酸やヒ酸で汚染された水のみならず、土壌中のヒ素をヒ酸等の形態にして取り込み浄化することも含める趣旨である。
また、収着材と表現したのは表面に単に吸着するのではなく、物質内(結晶内)に取り込んで安定化することを意味する。
本発明においてモノハイドロカルサイト中のモル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.01を超え0.1以下になるように合成後に洗浄すると、その後のヒ素収着材として水に溶解し、ヒ酸イオンを取り込みながら相変化によりアラゴナイトが主に生成し、モル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.01以下になるように洗浄すると、その後のヒ素収着材としては相変化によりヒ酸イオンを取り込みながら主にカルサイトが生成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るヒ素の収着材は、モノハイドロカルサイトを主な成分とし、準安定相のモノハイドロカルサイトが水中で溶解し安定なアラゴナイト又はカルサイトに再結晶する際にヒ酸を取り込むことから、非特許文献1に開示するカルサイトによるヒ酸の吸着よりも収着能が高く、安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】溶液中の初期ヒ素(As)濃度ppmに対するモノハイドロカルサイト(MHC)とカルサイト(非特許文献1に開示するAs吸着等温線に基づいて作成)の収着量測定結果を示す。 図中の直線は溶液に存在するヒ素が完全に固体に収着する条件を示す。 図1中、△は後述する3回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトにて24時間ヒ素を取り込み撹拌(3回洗浄)したものを示し、◎は5回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトにてヒ素を取り込み撹拌(5回洗浄)したものを示す。 ▼は透析洗浄を行ったモノハイドロカルサイトにてヒ素を取り込み撹拌したものを示す。
【図2】ヒ素溶液中のイオン強度0.01mol/lと0.3mol/lにおけるヒ素収着能を比較したグラフを示す。
【図3】モノハイドロカルサイト(MHC)の合成例を示す。
【図4】合成したモノハイドロカルサイトのXRDチャートを示す。
【図5】モノハイドロカルサイトによるヒ素収着実験手順を示す。
【図6】合成したモノハイドロカルサイドの電子顕微鏡写真を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まずはじめに、モノハイドロカルサイト(MHC)の合成例を図3に基づいて説明する。
0.06mol/lのCaCl水溶液,0.06mol/lのMgCl・6HO水溶液及び0.08mol/lのNaCO水溶液を混合し、25℃×48時間撹拌した。
固液混合液を0.2μmフィルターにて濾過し、固相を純水で洗浄×濾過を3回繰り返した。
また固相を純水で洗浄×濾過を5回繰り返したものも作成した。
他に濾過後、透析処理により洗浄したものも作成した。
その後に自然乾燥させた固相を粉末X線回析(XRD)したチャートを図4に示す。
この結果、標準モノハイドロカルサイトとピーク値が一致した。
このように合成したモノハイドロカルサイトの電子顕微鏡写真を図6に示す。
これにより、径が数百nm(900nm以下)の一次粒子が凝集し、径が5~10μmの二次粒子からなる粉末状であることが分かる。
また、3回洗浄したもの、5回洗浄したもの及び透析洗浄したモノハイドロカルサイト中のCaとMgとの比率を分析調査した。
その結果、3回洗浄したものはCa:Mgの比がモル比で98:2であり、5回洗浄したものはCa:Mg=99:1であった。
また、透析洗浄したものは、モル比でCa:Mg=91:9であった。
【0010】
上記にて合成したモノハイドロカルサイトを用いて、次に図5に示す手順にてヒ素の取り込み実験を実施した。
0.01mol/l NaClを支持電解質(イオン強度0.01)とした0~25ppmの各ヒ素換算濃度のヒ酸をモノハイドロカルサイトとの固液比100mg/50mlとなるように滴下し、25℃×24時間撹拌した。
透析洗浄したものでは同様の条件で48時間撹拌した。
0.2μmフィルターで濾過し、固相は洗浄し、スライドガラスに塗布及び自然乾燥し、XRD分析した。
濾液は、ICP発光分光分析にてヒ素濃度を測定し、その差からヒ素の取り込み量を算出した。
同様に0.3mol/l NaClを支持電解質(イオン強度0.3)としたものも比較実験した。
その結果を図1及び図2に示す。
図1及び図2にて△印のプロットが3回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトにて取り込み撹拌したものであり、◎印は5回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトにて取り込み撹拌したものである。
▼は透析洗浄を行ったモノハイドロカルサイトにてヒ素を取り込み撹拌したものを示す。
図2に■印で示したプロットは、0.3mol/l Nacl(イオン強度0.3)を支持電解質としたヒ酸溶液に対して3回洗浄したMHCを用いてヒ素を取り込んだものである。
また、比較の為に非特許文献1に開示されているカルサイトによるヒ素吸着データを●印でプロットした。
この結果、ヒ素濃度が低く、ヒ素換算濃度で約5ppm以下の低い初期ヒ素濃度では溶液に添加したヒ素の大部分が取り込まれた。
最大取り込み量(収着量)は3回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトと透析洗浄を行ったモノハイドロカルサイトで約1700ppm、5回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトで約2200ppmであった。
しかし、ヒ素の濃度増加に伴い、その取り込み量が減少した。
なお、ヒ素濃度10ppm以下の範囲においては、カルサイトよりも優れた収着能を示している。
また、5回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトを用いたものは最大取り込み量が多かった。
各取り込みサンプルのXRD結果を検討した結果、3回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトと透析洗浄を行ったモノハイドロカルサイトでは、ヒ素濃度が低いサンプルではモノハイドロカルサイトがアラゴナイトに変質していて、ヒ素濃度が高くなるにつれてアラゴナイトとモノハイドロカルサイトの混在したピークが出現し5回洗浄を行ったモノハイドロカルサイトでは、ヒ素濃度が低いサンプルではモノハイドロカルサイトが主にカルサイトに変質していた。
このことから、モノハイドロカルサイト中のモル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.01以下(洗浄5回)であれば溶解後、再結晶により主にカルサイトになり、モル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.01超~0.1位まではモノハイドロカルサイトが溶解し、その後再結晶する際に主にアラゴナイトになることが明らかになった。
また、Mgの量が多いとヒ素の収着に時間がかかることも明らかになった。
表1はヒ素濃度が100ppb以下の範囲における溶液の初期ヒ素濃度と反応後の溶液のヒ素濃度を示す。
この結果、モノハイドロカルサイトによる取り込み反応後のヒ素濃度は環境基準である10ppb程度まで減少した。
また、図2のグラフからイオン強度0.3の水溶液からもヒ酸を取り込むことが確認できた。
【0011】
【表1】
JP0005548956B2_000002t.gif

【0012】
以上のことから、Mg/Ca=0.3以上となるようにMg2+イオンとCa2+イオンを混合した水溶液に炭酸塩又はその水溶液を添加すればモノハイドロカルサイトが得られるが、その後の洗浄にてモル比でMg/(Ca+Mg)の値が0.1以下、特にカルサイト相変化させるにはその値が0.01以下になるように洗浄除去するのが好ましい。
また、モノハイドロカルサイトの合成は、室温(25℃)にて約24時間~72時間の撹拌でよく、量産化の場合にはその後にバッチ洗浄によってもよく、Mgの含有量が制御できれば方法は問わない。
なお、合成及びその後のヒ素収着に対してPイオン濃度を1ppm以下にするのがよい。
Pイオンはアラゴナイト及びカルサイトの生成阻害因子であり、モノハイドロカルサイトの相変化を遅延させる(宗本隆志・酒井実・福本寛人・福士圭介(2009)モノハイドロカルサイトの安定性:モノハイドロカルサイトの相変化速度に及ぼすリン酸の影響、第52回粘土科学討論会講演要旨集190-191P)。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明に係るMHCはヒ素で汚染された環境物質からヒ素をヒ酸等として取り込み、浄化資材として使用される。
また、ヒ素を取り込んだアラゴナイト及びカルサイトはPH>8.5のアルカリ性条件下では安定であり、ヒ素が再溶出する恐れがない。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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