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明細書 :超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5614746号 (P5614746)
登録日 平成26年9月19日(2014.9.19)
発行日 平成26年10月29日(2014.10.29)
発明の名称または考案の名称 超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法
国際特許分類 B29C  55/12        (2006.01)
C08J   9/00        (2006.01)
B29K  23/00        (2006.01)
B29L   7/00        (2006.01)
FI B29C 55/12
C08J 9/00 CESA
B29K 23:00
B29L 7:00
請求項の数または発明の数 11
全頁数 14
出願番号 特願2011-502798 (P2011-502798)
出願日 平成22年3月4日(2010.3.4)
国際出願番号 PCT/JP2010/053543
国際公開番号 WO2010/101214
国際公開日 平成22年9月10日(2010.9.10)
優先権出願番号 2009053163
優先日 平成21年3月6日(2009.3.6)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年11月13日(2012.11.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】上原 宏樹
【氏名】山延 健
【氏名】田村 拓也
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100126505、【弁理士】、【氏名又は名称】佐貫 伸一
審査官 【審査官】川端 康之
参考文献・文献 特開平04-091926(JP,A)
特開平02-030514(JP,A)
特開2004-335255(JP,A)
特開2003-105122(JP,A)
特開2003-105121(JP,A)
国際公開第2007/046496(WO,A1)
調査した分野 B29C55/00-55/30
C08J9/00
特許請求の範囲 【請求項1】
超高分子量ポリエチレンを用いてフィルムを成形する工程、前記工程で得られたフィルムを136~165℃でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する工程、および該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って136~165℃で収縮処理する工程を含む、超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
【請求項2】
超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量が100万~1200万である、請求項1に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
【請求項3】
二軸延伸処理が145~155℃で行われる、請求項1または2に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
【請求項4】
収縮処理が140~155℃で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
【請求項5】
収縮処理をx軸およびy軸の二軸に沿って行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
収縮処理後にフィルムを熱処理する工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
収縮処理後あるいは前記熱処理後にx軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って再延伸を行う工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、収縮処理、熱処理、および/または再延伸処理を繰り返す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらに開孔処理を行う工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により得られる超高分子量ポリエチレン製フ
ィルム。
【請求項11】
超高分子量ポリエチレン製フィルムの引張り破断強度および引き裂き強度の少なくとも一方を高める方法であって、超高分子量ポリエチレンを用いて成形されたフィルムを136~165℃でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する工程、および該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って136~165℃で収縮処理を行う工程を含む方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、引張り破断強度および引き裂き強度が高く、均一性に優れた超高分子量ポリエチレン製フィルムを、安価かつ効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレンはエンジニアリング・プラスチックの一種として分類されており、汎用プラスチックである高密度ポリエチレンに比べ分子量(粘度平均分子量:Mv)が100万以上ときわめて高い為に優れた機械物性を示すことが知られている。しかしながら、超高分子量ポリエチレンは溶融粘度が極めて高く、混練すること自体が難しい為、混練を伴う方法での成形は非常に困難である。
【0003】
非特許文献1によれば、高分子材料の場合、一般的には高分子鎖の方向を揃える処理(配向処理)によって、力学物性を初めとする諸性質を向上させることができる。配向処理は成形物の形状によって様々なものがあるが、フィルムやシート状の場合、最も効果的なものは引張延伸であるといわれている。一般的に使用されている高密度ポリエチレンは、固相状態でも分子鎖の絡み合いがとき解れる為、比較的簡単に分子配向を付与することができるが、超高分子量ポリエチレンの場合、分子鎖の長さに起因して分子鎖絡み合い密度が高くなり、配向処理を施して物性を向上させることは難しい。
したがって、超高分子量ポリエチレンの場合は、物性向上のために分子量を更に上げることにより、逆に成形性は劣る傾向を示す為、超高分子量ポリエチレンの更なる高分子化による究極の物性発現には至っていない。
【0004】
近年、超高分子量ポリエチレンを用いたインフレーション成形技術に関する研究成果が特許文献1により報告されている。この方法により得られるフィルムの物性は、超高分子量ポリエチレンの代表的な成形手法である圧縮成形からフィルムを削り出すスカイブ法に比べ高強度なフィルムが得られることが確認されている。これまで成形が難しく成形品としての物性が得られにくいとされていた超高分子量ポリエチレンも、加工技術により成形が向上することができるようになり、これまで見出せなかった非常に高い物性を発現する可能性が見出されてきている。
しかしながら、上記のインフレーションフィルムにおいては、粘度平均分子量のレベルも100万程度である為、これ以上の粘度平均分子量の超高分子量ポリエチレンを同じように成型加工しようとした場合に、モータ負荷が掛かりすぎて押出せないか、あるいは強制的に押出すと溶融混練時に分子鎖切断による劣化が起こり、分子量の低下により本来の物性を発現することが出来なくなる為、100万以上の超高分子量ポリエチレンの成形にはまだ問題を残すところが多い。
また、スカイブ法で得られた超高分子量ポリエチレンフィルムの厚さは最も薄いものでも100μm程度であり、リチウムイオン電池セパレーター等に用いるには厚すぎるため、より薄く、かつ、引張り強度や引き裂き強度に優れるフィルムおよびその製造方法が望まれていた。
【0005】
高配向化によって高物性の超高分子量ポリエチレン材料を得る為には、分子鎖絡み合いを減少させて超延伸させる方法がある。この方法として表面成長繊維延伸法、単結晶マット延伸法、ゲル延伸法、重合粉末延伸法などが挙げられる。
一方、逆に分子鎖の絡み合いを利用して溶融状態で延伸する溶融延伸法がある。これは超高分子量ポリエチレンのような分子鎖の絡み合いが多く、溶融状態でもゴム弾性を示す特徴を利用した延伸方法である。この場合、絡み合い点が延伸応力を伝達する為、分子鎖が配向することが可能となる。超高分子量ポリエチレンが融点以上の温度において高倍率まで延伸できる理由は、溶融延伸過程で一部の分子鎖絡み合いが解きほぐれる為と考えられている。しかしながら、超高分子量ポリエチレンの分子量が高くなるにつれて分子鎖の絡み合いがさらに多くなり、均一なシート状成形体を作成することが困難であった。
【0006】
特許文献2には、超高分子量ポリエチレン重合体粉末から該ポリエチレン重合体粉末の融点を超える温度でポリエチレン製フィルムを直接成形した後、得られたポリエチレン製フィルムをその融点以上の温度で延伸成形し、引張り弾性率(24℃)が25GPa以上のポリエチレン製成形体を得ることを特徴とする超高分子量ポリエチレン製成形体の製造方法が提案されている。しかしながら、ここでは一軸延伸しか開示されておらず、得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムの物性については強度や均一性の点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開平9-183156号公報
【特許文献2】特開2003-165155号公報
【0008】

【非特許文献1】高分子加工One Point-4高分子を並べる、共立出版1993
【発明の概要】
【0009】
本発明は、引張り破断強度および引き裂き強度が高く、均一性に優れた超高分子量ポリエチレン製フィルムを、安価かつ効率的に製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、超高分子量ポリエチレンを原料として成形されたフィルムをその融点を超える温度でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理し、さらにx軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って収縮処理を施すことにより、引張り破断強度および引き裂き強度が高く、均一性に優れた超高分子量ポリエチレン製フィルムが製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。
(1)超高分子量ポリエチレン原料を用いてフィルムを成形する工程、前記工程で得られたフィルムを該超高分子量ポリエチレン原料の融点以上の温度でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する工程、および該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って収縮処理する工程を含む、超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(2)超高分子量ポリエチレン原料の粘度平均分子量が100万~1200万である、(1)の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(3)二軸延伸処理が136~165℃で行われる、(1)または(2)の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(4)収縮処理が120~165℃で行われる、(1)~(3)のいずれかの超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(5)収縮処理をx軸およびy軸の二軸に沿って行う、(1)~(4)のいずれかの方法。
(6)収縮処理後にフィルムを熱処理する工程をさらに含む、(1)~(5)のいずれかの方法。
(7)収縮処理後あるいは前記熱処理後にx軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って再延伸を行う工程をさらに含む、(1)~(6)のいずれかの方法。
(8)さらに、収縮処理、熱処理、および/または再延伸処理を繰り返す、(7)に記載の方法。
(9)さらに開孔処理を行う工程を含む、(1)~(8)のいずれかの超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法。
(10)(1)~(9)のいずれかの方法により得られる超高分子量ポリエチレン製フィルム。
(11)超高分子量ポリエチレン製フィルムの引張り破断強度および引き裂き強度の少なくとも一方を高める方法であって、超高分子量ポリエチレンを原料に用いて成形されたフィルムを該超高分子量ポリエチレン原料の融点以上の温度でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する工程、および該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って収縮処理を行う工程を含む方法。
【0012】
本発明によれば、引張り破断強度および引き裂き強度が高く、均一性に優れ(結晶化度が高い)、各種分野への応用が可能な超高分子量ポリエチレン製フィルムを安価かつ効率的に提供することができる。
本発明によって製造される超高分子量ポリエチレン製フィルムは厚さを薄くできることから、リチウムイオン電池のセパレーターなどに加工して用いることができる。本発明の方法により、リチウムイオン電池セパレーター膜を薄くすることができ、同じ容積により多くのセルスタックを格納することができるので発電量を向上させることが可能となる。また、本発明のポリエチレン膜は撥水性に優れるコート膜としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プレス成形の模式図。
【図2】各工程後の超高分子量ポリエチレン製フィルムの走査プローブ顕微鏡写真。(A)延伸処理後、(B)収縮処理後、(C)(D)開孔処理後。(D)は(C)の破線部の拡大写真。縮尺バーは(A)(B)(C)は500nm、(D)は250nm。
【図3】走査型電子顕微鏡写真。(A)(B)(E)はフィルム表面の像。(C)(D)(F)はフィルム断面の像。(A)(C)が延伸のみのフィルム。(B)(D)が延伸後、収縮処理したフィルム。(E)(F)は多孔化フィルム。縮尺バーは(A)(B)は1μm、(C)(D)は2μm、(E)(F)は500nm。(C)(D)の矢印は延伸方向を示す。
【図4】示差走査熱量測定(DSC)の結果を示すグラフ。(A)は7×7延伸後、4×4に収縮させたフィルムと、直接4×4に延伸したフィルムの結果を示す。(B)は示差走査熱量測定のグラフに基づいて半値全幅(FWHM)を計算する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の超高分子量ポリエチレン製フィルムの製造方法では、まず、超高分子量ポリエチレンを原料に用いてフィルムを成形する。
ここでフィルム成形に用いられる超高分子量ポリエチレン原料としては、粘度平均分子量(Mv)が100万~1200万のポリエチレンが好ましく、120万~600万のポリエチレンがより好ましい。尚、前記粘度平均分子量は、デカリン溶媒(135℃)中において測定した値であり、極限粘度は、5~50dl/gが好ましく、8~40dl/gがより好ましく、10~30dl/gが更に好ましい。
フィルム成形に用いられる超高分子量ポリエチレン原料の形状は特に制限されないが、顆粒状または粉末状の超高分子量ポリエチレンが好ましく、粉末状の超高分子量ポリエチレンがより好ましい。粉末状超高分子量ポリエチレンの粒径としては、体積平均粒径(D50)で、2000μm以下が好ましく、1~2000μmがより好ましく、10~1000μmが更に好ましい。

【0015】
超高分子量ポリエチレンは公知の触媒を用いて重合された重合体であればよいが、チーグラー触媒やメタロセン触媒を用いて重合された超高分子量ポリエチレンが好適に用いられる。

【0016】
超高分子量ポリエチレンからのフィルムの成形の方法は特に制限されないが、プレス成形、ロール成形、混練・押出成形、スカイブ法、インフレーション成形等が例示され、その中ではプレス成形およびロール成形がより好ましい。ロール成形については特開2003-165155に記載されている。

【0017】
超高分子量ポリエチレンからフィルムを成形する際においては、原料の超高分子量ポリエチレンを、該超高分子量ポリエチレンの融点を超える温度で成形することが好ましく、具体的には140~250℃で成形することがより好ましい。尚、本発明において、「融点」とは、示差走査熱量計(DSC)にて測定し得られたDSC曲線のピークにおける温度(℃)を指し、超高分子量ポリエチレンの分子量にもよるが、約130~136℃である。

【0018】
本発明の方法においては、次に、成形されたポリエチレンフィルムを、該超高分子量ポリエチレン原料の融点以上の温度でx軸およびy軸方向に二軸延伸処理する。二軸延伸は、まず、一方向(x軸)に延伸し、次いで該方向と垂直方向(y軸)に延伸する逐次二軸延伸でもよいが、x軸およびy軸方向(縦横)同時に延伸する同時二軸延伸が好ましい。

【0019】
二軸延伸処理における温度は、該超高分子量ポリエチレンの融点を超える温度であればよいが、136~165℃が好ましく、140~155℃がより好ましく、145~155℃がさらに好ましい。なお、この温度範囲内であれば二軸延伸処理中に温度を変動させてもよい。
二軸延伸における延伸倍率は、x軸方向、y軸方向ともに、延伸前の長さの2~20倍が好ましい。x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。

【0020】
なお、溶融状態での二軸延伸を効率よく行うため、熱風吹き付け型の二軸延伸機などを用い、フィルム中心部のみを溶融させ、チャック部(端部)は溶融させない状態での延伸を行うことが好ましい。この際、二軸延伸が溶融状態で行われていることを確認できるよう、応力検知機構を備えた二軸延伸機であることが好ましい。また、チャック部(端部)は延伸に伴って次第に膜厚が薄くなり、滑りやすくなるので、エアーチャック機構等の常に一定の掴み力がかかるチャック機構を備えていることが好ましい。

【0021】
本発明の方法においては、二軸延伸を行った後に、該x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って収縮処理(戻し処理)を行う。二軸延伸を行った後すぐに収縮処理を行っても良いし、二軸延伸を行った後、収縮処理を行う温度に一定時間(例えば、1~10分程度)保持した後に収縮処理を行っても良い。収縮処理の温度は、80℃~180℃が好ましく、120℃~165℃がより好ましく、136~165℃がさらに好ましく、140~155℃が特に好ましい。なお、この温度範囲内であれば収縮処理中に温度を変動させてもよい。
x、y両軸に沿って収縮処理を行う場合は、まず、一方向に収縮させ、次いで該方向と垂直方向に収縮させてもよいが、x軸およびy軸方向同時に収縮させることが好ましい。
収縮率は、x軸方向、y軸方向ともに、収縮後の長さが、収縮前の長さ(二軸延伸後の長さ)の5~95%になるようにすることが好ましく、20~75%になるようにすることがより好ましい。x軸方向とy軸方向の収縮率は同じでも異なってもよい。
また、収縮処理後に、フィルムの最終的な取り出し温度(通常は室温)よりも高い温度(好ましくは80℃~180℃、より好ましくは120℃~155℃)で一定時間(例えば、5~10分程度)保持することで熱処理してもよい。なお、この温度範囲内であれば熱処理中に温度を変動させてもよい。

【0022】
本発明の方法においては、さらに、収縮処理を行ったのちに、x軸およびy軸の少なくとも一方の軸に沿って再延伸処理を行ってもよい。収縮処理を行った後すぐに再延伸処理を行ってもよいし、収縮処理を行った後、フィルムの最終的な取り出し温度(通常は室温)よりも高い温度に一定時間(例えば、5~10分程度)保持する工程(熱処理工程)を行った後に再延伸処理を行っても良い。再延伸処理の温度も最初の二軸延伸処理と同様、該超高分子量ポリエチレンの融点を超える温度であればよいが、136~165℃が好ましく、140~155℃がより好ましく、145~155℃がさらに好ましい。なお、この温度範囲内であれば再延伸処理中に温度を変動させてもよい。
x、y両軸に沿って再延伸処理を行う場合は、まず、一方向に延伸させ、次いで該方向と垂直方向に延伸してもよいが、x軸およびy軸方向同時に延伸させることが好ましい。
再延伸の延伸率は、x軸方向、y軸方向ともに、延伸前の長さの2~20倍が好ましい。x軸方向とy軸方向の延伸倍率は同じでも異なってもよい。
この再延伸処理により、引っ張り破断強度をさらに高めることができる。
また、このような再延伸処理の後に、さらに前記の収縮処理あるいは熱処理を行ってもよい。さらに、これら延伸処理、収縮処理、熱処理、再延伸処理を適宜、繰り返してもよい。これらの処理を繰り返す場合は、これらの処理の順番や回数は任意に変えてよい。

【0023】
本発明の方法によって高物性で厚さが薄い超高分子量ポリエチレン製フィルムが得られる。すなわち、本発明の方法によって得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムの厚みは0.1~100μmが好ましく、0.5~50μmがより好ましい。
フィルムの厚さを薄くすることにより、より高密度にフィルムを積層させることができるのでリチウムイオン電池セパレーターとして用いる場合、高出力を発揮できる利点がある。
また、本発明の方法によって得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムは均一性が非常に高く、好ましくは、後述するDSC融解ピークの半値全幅(FWHM)が20.0℃より狭く、より好ましくは10.0℃より狭く、6.0℃より狭いことが特に好ましい。

【0024】
本発明の方法は、さらに、収縮処理後に、得られた超高分子量ポリエチレン製フィルムに開孔処理をする工程を含んでもよい。
例えば、収縮処理して得られたフィルムをさらに固相(融点以下)で一軸延伸あるいは二軸延伸すれば、多孔膜の成形が可能である。これにより有機溶剤を用いることなく、細孔径が数十ナノメートルの微多孔膜が調製できる。
従来、リチウムイオン電池セパレーターの製造方法としては、あらかじめ混入させておいた有機溶剤(デカリン、パラフィンなど)を揮発あるいは抽出除去することで開孔し、この膜を延伸して細孔サイズを調整している(特開2004-182763)。これに対し、本発明では溶媒を用いずに細孔径が数十ナノメートルの微多孔膜が調製できるので、環境に負荷が少なく、製造作業者の健康に害のない製造方法であると言える。

【0025】
本発明の方法によって得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムは、引張り破断強度および引き裂き強度が共に高く、実用上充分な力学物性を有し、機械物性のバランスに優れているので、粘着テープ、耐摩耗テープ、耐傷付テープ等の各種工業用テープ、バリア膜、撥水コート膜、包装用フィルム、リチウムイオン電池セパレーター、白色反射フィルム、中性子遮断フィルム等の各種の分野に好適に利用される。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、下記実施例に何ら限定されるものではない。なお、8×8等の倍率はいずれも未延伸(1×1倍)のフィルムを基準としたものである。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
図1のように、直径110mmφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板(1)の上に厚さ125μmの離型用ポリイミド膜(2)を置き、次に直径110mmφ×厚さ0.3mmの円盤状ステンレス板に70mm×70mmの矩形窓をくり抜いたもの(3)を置き、その矩形窓内に粘度平均分子量3.3×106 の超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)粉末(三井化学株式会社製ハイゼックスミリオン340M:粒子径150μm)を2.2g置く。その上に厚さ125μmの離型用ポリイミド膜(4)を置き、さらにその上に直径110mmφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板(5)を置いた。
【実施例】
【0028】
これら全体を室温にて真空チャンバー内に設置されたプレス機(株式会社ボールドウィン製)中の上下板の間に置き、10-1Torrまでロータリーポンプで減圧後、上下のプレス板の間隔を応力がかからないようになるべく近付け、180℃に加熱し、180℃のまま5分間保持し、その後、4.5MPa(シリンダー圧力60MPa)の圧力でプレスしたままヒーター電源を切って減圧状態で室温まで徐冷した。その後、真空チャンバーを開けて成形フィルムを取り出した。
【実施例】
【0029】
このようにして得られたフィルムを25mm×25mmの正方形に切り出し(未延伸:1×1倍)、これをエアー・チャック機構を備えた平面拡張延伸装置(アイランド工業株式会社製)を用いて融点以上の150℃で縦×横方向に7×7倍まで同時二軸延伸した(以下、「延伸工程」と呼ぶ)。次に、150℃を保ったままで4×4倍まで「収縮処理」を行った。この状態で5分間保持して熱処理した後、室温まで急冷してからエアー・チャックを外し、フィルムを取り出した。
【実施例】
【0030】
得られたポリエチレンフィルムについて、引張り破断強度、引き裂き強度、引き裂きエネルギーを測定した。これら力学物性の測定はボールドウィン株式会社製RTC-1325Aを用いて室温で行なった。このうち、引張り破断強度の測定では、フィルムから短冊状(供試する直線部分30.0mm、幅5mm)に試料片を切り出して試験に供し、引張り速度20mm/minで記録された応力チャートの最大応力をフィルム断面積で割った値を引張り破断強度とした。一方、引き裂き強度・エネルギーの測定では、幅25mm×長さ40mmの帯の縦方向に20mmのノッチを入れ、両方の持ち手をRTC-1325Aに接続して引き裂き速度200mm/minで引き裂き試験を行い、試験機に搭載された応力検知セルで記録した応力チャートの最大応力をフィルム厚で割った値を引き裂き強度とし、また、チャート面積をフィルム厚で割った値を引き裂きエネルギーとした。その結果、得られたフィルムの引張り破断強度は42.5MPa、引き裂き強度は17.6N/mm、引き裂きエネルギーは154.7mJ/mmであった。
【実施例】
【0031】
さらに、得られたフィルムを固相状態である120℃で8×8倍まで二軸延伸することでラメラ間剥離による開孔化処理を行った。
【実施例】
【0032】
図2に、各工程後におけるフィルムの走査プローブ顕微鏡写真を示した。装置はエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製E-Sweepを用いた。
まず、収縮処理前(二軸延伸処理後)では不均一であった構造(A)が、収縮処理することによってラメラが規則的に整列し、均一になっていることがわかる(B)。また、収縮処理することにより、配向緩和によって伸びきり鎖結晶が減少し、このことが引裂き強度の上昇につながったと考えられる。また、ラメラが均一に規則構造化することにより、応力がかかった際に局所的にではなく全体的に分散されやすくなり引張り強度が増加したことがわかる。以上のことにより、機械物性が向上したことがわかった。
また、この様に規則構造化された構造を利用して、開孔処理を行ったところ、(C)および(C)の破線部の拡大像である(D)に示されるように、規則構造化された構造を固相延伸することによって応力が均一に伝わり、ラメラ間が剥離し、孔径10~100nmの微細孔構造を得ることが出来たことがわかった。
【実施例】
【0033】
[実施例2]
「延伸工程」を145℃で7×7倍の同時二軸延伸とし、145℃で4×4倍まで「収縮処理」、次いで「熱処理」を行った以外は、実施例1と同様にして超高分子量ポリエチレン製フィルムを作製し、得られたフィルムの引張り破断強度、引き裂き強度を測定した。その結果、引張り破断強度40.5MPa、引き裂き強度は16.6N/mmであった。
【実施例】
【0034】
[比較例1]
実施例1の「延伸工程」を150℃で4×4倍の同時二軸延伸とし、「収縮処理」を行なわないで室温まで急冷してからエアー・チャックを外し、フィルムを取り出した。得られたフィルムの引張り破断強度23.1MPa、引き裂き強度は9.8N/mm、引き裂きエネルギーは62.3mJ/mmであった。
【実施例】
【0035】
以上より、4×4倍のフィルムを得る場合、延伸により直接4×4倍のフィルムを得るより、4×4倍より長く延伸した後、4×4倍に収縮させることで超高分子量ポリエチレン製フィルムの引張り破断強度および引き裂き強度を高められることがわかった。
【実施例】
【0036】
物性の比較
走査型電子顕微鏡による解析
図3(A)~(D)に、実施例1で得られたフィルム(7×7→4×4)と、比較例1で得られたフィルム(4×4)について、フィルム表面とフィルム断面の走査型電子顕微鏡像((株)日立ハイテクノロジーズ製S-4800:加速電圧1kV)を示した。その結果、実施例1で得られたフィルムは、折れたたみ鎖結晶厚が均一で、折れたたみ鎖結晶の方向もランダムであることから、応力が分散されやすく機械物性が向上していることがわかった。また、フィルム断面についても、比較例1のフィルムでは折れたたみ鎖結晶方向が延伸方向と垂直であるのに対し、実施例1のフィルムは折れたたみ鎖結晶が均一化されていることがわかった。
また、図3(E)、(F)に、実施例1で得られた多孔化フィルム(7×7→4×4→8×8)について、フィルム表面とフィルム断面の走査型電子顕微鏡像を示した。これによると、膜表面、膜断面とも数十ナノメートルサイズの比較的大きさが均一な細孔構造が形成されていることが確認できた。これは、収縮処理膜の折れたたみ鎖結晶のネットワーク構造に起因して非晶相での剥離が均一に起こったためであると推察される。
【実施例】
【0037】
示差走査熱量計(DSC)測定
実施例1で得られたフィルム(7×7→4×4)と、比較例1で得られたフィルム(4×4)について、50℃から180℃まで昇温速度10℃/minにて昇温してDSC測定(PerkinElmer, Inc.製Diamond DSC:アルミパン)を行った。なお、温度および熱量は標準物質(インジウムおよびスズ)で校正してある。結果を図4Aと表1に示す。なお、表1において、Tm,peakは融解ピーク温度を示し、FWHMは図4Bのようにして計算した融解ピークの半値全幅を示す。すなわち、FWHMは、融解ピーク温度において、ベースラインからのピークトップの高さを正確に1/2にした高さにおける融解ピークの幅のことであり、融解ピークの広がりを示す指標である。ポリエチレンの融解ピーク形状は結晶の厚さ分布を反映しており(高分子論文集, vol.58, no.7, pp.326-331 (2001))、融解ピークが狭いほど結晶厚のサイズ分布も狭いことが知られている。
一方、Xcは結晶化度を意味し、カッコ内に示された融解ピーク面積であるΔHの値を100%結晶状態のポリエチレンのΔH(290J/g)で割った値である。
【実施例】
【0038】
【表1】
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この値より、実施例1では融解ピークの幅が狭く、より均一な厚さの結晶でフィルムが構成されていることがわかる。
【実施例】
【0039】
撥水性の評価
次に、実施例1で得られたフィルム(7×7→4×4)および多孔化フィルム(7×7→4×4→8×8)と、比較例1で得られたフィルム(4×4)について、(協和界面科学(株)製:DROP MASTER 100)を用いて接触角を測定することにより、撥水性の評価を行った。その結果、表2に示すように、実施例1のフィルムは収縮処理により若干撥水性が向上し、多孔化処理を行うことにより、撥水性がさらに向上することがわかった。
したがって、本発明のポリエチレン膜は撥水コート膜としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
【表2】
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【実施例】
【0041】
比較例2-4、実施例3-21
実施例1,2、比較例1と同様の手順により、延伸温度、延伸倍率、収縮温度、収縮倍率、熱処理工程の温度について条件を変えてフィルムを作成し、その引張り破断強度、引き裂き強度および引き裂きエネルギーを測定した。結果を表3に示す。その結果、収縮処理を行うことにより、これらの物性が向上することがわかった。なお、表3において、n.d.は「測定せず」を意味している。また、熱処理工程1は延伸後、収縮処理前に、収縮処理を行う温度で1分間保持する工程を示す。熱処理工程2は、収縮処理後、各温度で5分間保持する工程を示す。
【実施例】
【0042】
表3の実施例22は、140℃で4×4倍に延伸し、次いで150℃で2×2倍に収縮させた後に、150℃で8×8倍に再延伸したものである。実施例23は、140℃で3×3倍に延伸し、次いで140℃で2×2倍に収縮させた後に、150℃で6×6倍に再延伸したものである。この再延伸により、引張り破断強度がさらに向上したことがわかる。
【実施例】
【0043】
【表3】
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【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の方法によって得られる超高分子量ポリエチレン製フィルムは、粘着テープ、耐摩耗テープ、耐傷付テープ等の各種工業用テープ、包装用フィルム、リチウムイオン電池セパレーター、白色反射フィルム、中性子遮断フィルム等の各種の分野に好適に利用される。また、このフィルムは現行のリチウムイオン電池セパレーターの引き裂き強度よりも高い値を有しており、耐引き裂き性に優れる。現在、リチウムイオン電池のセルスタック製造の段階でセパレーター膜をよりテンション高く電極とともに巻き付けて集積化することによって高出力することが産業的に望まれているが、現状のリチウムイオン電池では、巻き取り後に平型状に成形する際に折れ曲がりが生じて膜破断しやすい。これに対して、本技術で成形された超高分子量ポリエチレン製フィルムを用いれば、セルスタックの高積層化が可能になり、出力を高めることが可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3