TOP > 国内特許検索 > グリチルレチン酸誘導体及びその利用 > 明細書

明細書 :グリチルレチン酸誘導体及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4649549号 (P4649549)
登録日 平成22年12月24日(2010.12.24)
発行日 平成23年3月9日(2011.3.9)
発明の名称または考案の名称 グリチルレチン酸誘導体及びその利用
国際特許分類 C07J  63/00        (2006.01)
A61K  31/4425      (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  25/14        (2006.01)
A61P  25/16        (2006.01)
A61P  21/00        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
FI C07J 63/00 CSP
A61K 31/4425
A61P 43/00 111
A61P 43/00 105
A61P 25/00
A61P 9/10
A61P 25/28
A61P 25/14
A61P 25/16
A61P 21/00
A61P 29/00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 24
出願番号 特願2009-550184 (P2009-550184)
出願日 平成21年7月15日(2009.7.15)
国際出願番号 PCT/JP2009/003351
国際公開番号 WO2010/007788
国際公開日 平成22年1月21日(2010.1.21)
優先権出願番号 2008185304
優先日 平成20年7月16日(2008.7.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年3月12日(2010.3.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】510204976
【氏名又は名称】株式会社アイ・エヌ・アイ
発明者または考案者 【氏名】竹内 英之
【氏名】錫村 明生
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100104411、【弁理士】、【氏名又は名称】矢口 太郎
【識別番号】100158621、【弁理士】、【氏名又は名称】佐々木 義行
【識別番号】100133503、【弁理士】、【氏名又は名称】関口 一哉
審査官 【審査官】早乙女 智美
参考文献・文献 国際公開第2007/105015(WO,A1)
仏国医薬特別特許第391(FR,M)
国際公開第2007/088712(WO,A1)
米田文郎,グリチルレチン酸誘導体の抗トリプシン作用,日本農芸化学会誌,1974年,48(2),p. 147-149
調査した分野 C07J 63/00
A61K 31/4425
A61P 1/00-43/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の一般式(1)または(2)で表されるグリチルレチン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩。
(式中、環Aは、R1以外にも置換基を有していてもよい複素環を表し、R1は炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R2は水酸基またはカルボニル基(O=)を、R3は水素原子、水酸基または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R4は水素原子、水酸基または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R5は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R6は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)、炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基またはハロゲン原子を、R7は水素原子または水酸基を、R8は水素原子、水酸基またはハロゲン原子を表し、X-はアニオンを表す。)
【化1】
JP0004649549B2_000009t.gif
【化2】
JP0004649549B2_000010t.gif

【請求項2】
前記一般式(1)または(2)中、環Aがピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾールまたは2,1‐ベンゾイソチアゾールのいずれかである、請求項1に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項3】
前記一般式(1)または(2)中、環Aは、R1のみを置換基として有する、請求項2に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項4】
前記一般式(1)または(2)中、R1はメチル基を表す、請求項3に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項5】
前記一般式(1)または(2)中、環Aがピリジンである、請求項4に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項6】
以下の化学式で表される請求項5に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【化3】
JP0004649549B2_000011t.gif

【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のグリチルレチン酸誘導体を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項8】
神経疾患の予防又は治療用である、請求項7に記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なグリチルレチン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩及びこれを有効成分として含有する医薬組成物、並びに前記グリチルレチン酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を用いる神経疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギャップ結合とは、細胞表面にある細胞と細胞の接触部位として知られている。本発明者らは、ギャップ結合阻害剤であるグリチルレチン酸誘導体であるカルベノキソロンが、活性化したミクログリアからの過剰なグルタミン酸の放出を抑制することを見出し、ギャップ結合阻害剤が神経系疾患の治療に用いることができることを明らかにしている(特許文献1)。
【0003】
さらに、ギャップ結合は、種々の刺激伝達に関わっていることがわかっており、新たなギャップ結合阻害剤は、各種研究用途に有用である。

【特許文献1】国際公開WO2007/088712号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カルベノキソロンは、ギャップ結合阻害剤として有効ではあるが、その分布が全身に及んでしまうため、腎臓での鉱質コルチコイド作用による低カリウム血症や浮腫などが懸念された。本発明は、カルベノキソロンに比べてより実用的なギャップ結合阻害作用を有する新規なグリチルレチン酸誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、カルベノキソロンのグリチルレチン酸誘導体に関し種々の検討を行ったところ、グリチルレチン酸骨格の配糖体結合部位である10位にある4-ヒドロキシー4オキソブタノイルオキシ基に代えて、連結基(カルボニルオキシ基)を介して酸素原子,硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1~5個含む複素環の塩を付加した誘導体又はその薬学的に許容される塩が、ギャップ結合阻害作用に基づいて活性化ミクログリアに対して強いグルタミン酸放出抑制効果及び神経細胞死抑制活性を有し、さらに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスに投与したとき良好な生存延命効果を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下の一般式(1)または(2)で表されるグリチルレチン酸誘導体及びその薬学的に許容される塩が提供される。
(式中、環Aは、R1以外にも置換基を有していてもよい複素環を表し、R1は置換基を有していてもよい炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R2は水酸基またはカルボニル基(O=)を、R3は水素原子、水酸基または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R4は水素原子、水酸基または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R5は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を、R6は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)、炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基またはハロゲン原子を、R7は水素原子または水酸基を、R8は水素原子、水酸基またはハロゲン原子を表し、Xはアニオンを表す。)
【化7】
JP0004649549B2_000002t.gif

【0007】
【化8】
JP0004649549B2_000003t.gif

【0008】
前記一般式(1)または(2)中、環Aは、ピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾールまたは2,1‐ベンゾイソチアゾールのいずれかであることが好ましく、特にピリジンであることが好ましい。
【0009】
また、環Aは、R1のみを置換基として有することが好ましい。
【0010】
また、前記一般式(1)または(2)中、R1は炭素数1~4のアルキル基であってもよい。さらに、前記式(1)または(2)中、R1はメチル基を表していてもよい。
【0011】
前記一般式(1)または(2)で表される化合物の具体的例としては、以下の化学式であらわされるグリチルレチン酸誘導体が挙げられる。
【化9】
JP0004649549B2_000004t.gif

【0012】
本発明によれば、上記グリチルレチン酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、神経疾患の予防又は治療用に用いることができる。
【0013】
また、本発明によれば、
神経疾患に罹患した哺乳動物を治療する方法であって、
一般式(1)または(2)で表されるグリチルレチン酸誘導体及びその薬学的に許容される塩の治療上有効な量を用意する工程と、前記用意したグリチルレチン酸誘導体及びその薬学的に許容される塩の治療上有効な量を前記哺乳動物に投与する工程と、を有することを特徴とする方法が提供される。
このような構成により、神経疾患に罹患した哺乳動物を治療するための新規な方法が提供される。
【0014】
係る方法において、前記哺乳動物はヒトであることが好ましく、また、前記投与する工程は経口的に行われるものであることが好ましい。
【0015】
さらに、前記治療方法に用いる前記一般式(1)または(2)で表される化合物において、環Aは、ピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾールまたは2,1‐ベンゾイソチアゾールのいずれかであることが好ましく、特にピリジンであることが好ましい。また、環Aは、R1のみを置換基として有していてもよく、R1は炭素数1~4のアルキル基であってもよい。さらに、前記式(1)または(2)中、R1はメチル基を表していてもよい。
【0016】
なお、前記治療方法に用いる前記一般式(1)または(2)で表される化合物の具体的例としては、前記化学式(3)であらわされるグリチルレチン酸誘導体を挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の新規なグリチルレチン酸誘導体は、活性化ミクログリアによる過剰なグルタミン酸産生・放出に基づく神経細胞死を抑制し、神経細胞死を生じる神経変性疾患等の予防又は治療に有用である。また、本発明の新規なグリチルレチン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩については、細胞レベルで神経細胞の良好な細胞死抑制効果及びALSモデルマウスにおいて腹腔内投与で良好な生存延長効果が確認されている。
【0018】
本発明の新規なグリチルレチン酸誘導体は、それ自体ギャップ結合阻害剤として用いることができ、ギャップ結合の亢進によって生じうる疾患や状態を改善するのに有用である。
【0019】
以下、本発明のグリチルレチン酸誘導体につき詳細に説明する。
【0020】
本発明のグリチルレチン酸誘導体において、一般式(1)または(2)で表される化合物中、環Aは、R1以外にも同一若しくは異なる1~3個の置換基を有していてもよい複素環である。ここで、「複素環」とは、酸素原子,硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1~5個含む環状化合物をいい、ピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾールまたは2,1‐ベンゾイソチアゾールが好ましく、ピリジン、キノリン、イソキノリンがより好ましい。また、前記複素環が有してもよい置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(該アルキル基はハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基及びジアルキルアミノ基から選ばれる基で置換されていてもよい)、水酸基、アルコキシ基、アミノ基(該アミノ基はアルキル基及びアシル基から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよい)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルカノイル基、アルケニル基(アルコキシ基で置換されていてもよい)等が挙げられる。
【0021】
「ハロゲン原子」とはフッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子又は臭素原子を意味し、「アルキル」とは炭素数1~6個、好ましくは炭素数1~4個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルを意味し、「アルコキシ」とは炭素数1~6個、好ましくは炭素数1~4個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコキシを意味し、「アルカノイル」とは炭素数1~7個、好ましくは炭素数2~5個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルカノイルを意味し、「アルケニル」とは炭素数2~6個、好ましくは炭素数2~4個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルケニルを意味する。
【0022】
環Aは、かかる置換基を有さずにR1のみを有していてもよい。R1は、置換されていないアルキル基であることが好ましい。置換されていないアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられる。アルキル基としてより好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルであり、さらに好ましくは、メチル又はエチルであり、特に好ましくはメチルである。
【0023】
なお、環Aがグリチルレチン酸骨格と結合する位置は特に制限されない。例えば、環Aがピリジンで、置換基がR1のみである場合、下記のように環A(ピリジン)のいずれの位置でグリチルレチン酸骨格と結合してもよい。
【0024】
【化10】
JP0004649549B2_000005t.gif

【0025】
本発明のグリチルレチン酸誘導体は、ギャップ結合の阻害剤としての作用を損なわない限り、環A以外のグリチルレチン酸骨格において種々の置換基を有していてもよい。具体的には、一般式(1)または(2)中、R2~R8の位置が、それぞれ以下の置換基であってもよい。
【0026】
R2としてカルボニル基(O=)または水酸基、R3及びR4として水素原子、水酸基または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、R5として水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)または炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、R6として水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)、炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基またはハロゲン原子、R7として水素原子または水酸基、R8として水素原子、水酸基またはハロゲン原子。
【0027】
より好ましくは、R2としてカルボニル基(O=)、R3として水素原子、水酸基、メチル基又はエチル基、R4として水素原子、メチル基又はエチル基、R5として水素原子、水酸基又はカルボニル基(O=)、R6として水素原子又はハロゲン原子、R7およびR8として水素原子又は水酸基、である。
【0028】
本発明のグリチルレチン酸誘導体は、環A以外のグリチルレチン酸骨格において、前記R2~R8以外にさらに置換基を有していてもよい。こうした置換基はギャップ結合阻害剤としての作用を損なわないものであれば特に限定されず、ハロゲン原子、アルキル基(該アルキル基はハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基及びジアルキルアミノ基から選ばれる基で置換されていてもよい)、水酸基、アルコキシ基、アミノ基(該アミノ基はアルキル基及びアシル基から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよい)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルケニル基(アルコキシ基で置換されていてもよい)等が挙げられる。中でも、アルキル基、水酸基、ハロゲン原子などが好ましい例として挙げられる。
【0029】
本発明のグリチルレチン酸誘導体としては、以下の式(3)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【化11】
JP0004649549B2_000006t.gif

【0030】
本発明のグリチルレチン酸誘導体については、置換基の種類によっては光学異性体(光学活性体、ジアステレオマー等)又は幾何異性体が存在する。従って、本発明のグリチルレチン酸誘導体には、これらの光学異性体又は幾何異性体の混合物や単離されたものも含まれる。
【0031】
また、本発明のグリチルレチン酸誘導体におけるXは、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等の無機アニオン;酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、シュウ酸アニオン及びコハク酸アニオンなどの有機アニオンが包含される。好ましくは、ヨウ素イオン等の無機アニオンである。
【0032】
さらに、本発明のグリチルレチン酸誘導体には、生体内において代謝されて本発明のグリチルレチン酸誘導体に変換される化合物、いわゆるプロドラッグもすべて含まれる。本発明のグリチルレチン酸誘導体とプロドラッグを形成する基としては、Prog. Med. 5:2157-2161(1985)に記載されている基や、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163~198に記載されている基が挙げられる。具体的には、加水分解、加溶媒分解により、又は生理学的条件の下で本発明におけるようなHOC(=O)-等に変換できる基であり、OHのプロドラッグとしては、例えば、置換されてもよい低級アルキル-C(=O)O-、置換されてもよいアリール-C(=O)O-、ROC(=O)-置換されてもよい低級アルキレン-C(=O)O-(RはH-又は低級アルキルを示す。以下同様)、ROC(=O)-置換されてもよい低級アルケニレン-C(=O)O-、ROC(=O)-低級アルキレン-O-低級アルキレン-C(=O)O-、ROC(=O)-C(=O)O-、ROS(=O)2-置換されてもよい低級アルケニレン-C(=O)O-、フタリジル-O-、5-メチル-1,3-ジオキソレン-2-オン-4-イル-メチルオキシ等が挙げられる。
(グリチルレチン酸誘導体の製造方法)
次に、本発明のグリチルレチン酸誘導体の代表的な製造方法について説明する。
【0033】
本発明のグリチルレチン酸誘導体は、その基本骨格又は置換基の種類に基づいて、種々の合成法を適用して製造することができる。以下に上記式(3)中、Xがヨウ素イオン(I)であるグリチルレチン酸誘導体の例を挙げて、代表的な製造方法について説明する。典型的な製造スキームを以下に示す
【化12】
JP0004649549B2_000007t.gif

【0034】
まず、原料として、18β-グリチルレチン酸を準備する。次いで、ニコチン酸クロリド・塩酸塩と18β-グリチルレチン酸とを反応させて、18β-グリチルレチン酸の水酸基に対してニコチン酸を導入し、さらに、ヨウ化メチル等によりアルキル基をピリジン環の窒素原子に導入できる。
【0035】
典型的には、得られた本発明のグリチルレチン酸誘導体はピリジニウム塩として製造され、単離される。なお、遊離の塩基として得られる場合には、造塩反応を付すことによりピリジニウム塩として本発明のグリチルレチン酸誘導体を製造することができる。
【0036】
なお、本発明のグリチルレチン酸誘導体の原料化合物(出発物質)は、天然よりあるいは商業的に入手することができるほか、類似骨格化合物から従来公知の合成方法により製造することができる。
【0037】
このようにして製造された本発明のグリチルレチン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩の単離精製は、抽出、濃縮、留去、結晶化、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィー等の通常の化学操作を適用して行われる。また、各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより、或いは異性体間の物理的又は化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は、適当な原料を選択することにより、或いはラセミ化合物のラセミ分割法(例えば、一般的な光学活性な酸とのジアステレオマー塩に導き、光学分割する方法等)により立体化学的に純粋な異性体に導くことができる。
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、有効成分として本発明のグリチルレチン酸誘導体を含有している。本発明のグリチルレチン酸誘導体は、一般的に用いられている種々の処方を適用して各種の製剤形態を採る医薬組成物として提供される。本発明の医薬組成物は、典型的には、本発明のグリチルレチン酸誘導体及びその薬学的に許容される塩から選択される1種又は2種以上を有効成分として含有する他、薬学的に許容される担体を含むことができ、通常製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、注射剤、坐剤、軟膏、貼付剤等に調製され、経口的(舌下投与を含む)又は非経口的に投与される。
【0038】
本発明の医薬組成物である製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤:及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤を挙げることができる。)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;脂肪酸ナトリウム塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体を挙げることができる。)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物を挙げることができる。)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類を挙げることができる。)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸を挙げることができる。)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等を挙げることができる。)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0039】
本発明のグリチルレチン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩の投与量は、症状、年齢等により異なり、適宜決定される。たとえば、経口投与の場合には、1回当り1日下限0.1mg(好ましくは、1mg)、上限1000mg(好ましくは、500mg)を、静脈内投与の場合には、1回当り1日下限0.01mg(好ましくは、0.1mg)、上限500mg(好ましくは、200mg)を成人に対して、1日当り1または数回に分けて、症状に応じて投与することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物は、ギャップ結合の亢進が原因となる疾患又は症状、あるいはギャップ結合の阻害が有効な疾患又は症状の予防、治療及び改善に用いることができる。例えば、グルタミン酸による興奮性神経障害による細胞死阻害として用いることが好ましい。また、こうした興奮性神経障害による神経細胞死が関連するヒト及び家畜やペットなどの非ヒト動物の神経系疾患の予防・治療用に用いることが好ましい。神経系疾患としては、例えば、虚血障害、炎症性神経疾患及び神経変性疾患等が挙げられる。
【0041】
虚血傷害としては、例えば、脳卒中、脳出血、脳梗塞及び脳血管性認知症が挙げられる。炎症性神経疾患としては、例えば、アルツハイマー病、脳炎後遺症、急性散在性脳脊髄炎、細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、ウイルス性髄膜炎、ワクチン性髄膜炎等の中枢神経系炎症性神経疾患が挙げられる。神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病(炎症性神経疾患でもある)、頭部外傷、脳性麻痺、ハンチントン病、ピック病、ダウン症、パーキンソン病、エイズ脳症、多系統萎縮症、多発性硬化症(炎症性神経疾患でもある)、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症等が挙げられる。
【0042】
なお、本発明の医薬組成物は、神経変性疾患等に有効な他の薬剤と共に使用することを妨げない。例えば、虚血障害、炎症性神経疾患及び神経変性疾患等に用いられる各種薬剤との併用を妨げない。例えば、アルツハイマー病にあっては、ドネペジル、メマンチン、リバスチグミン、ガランタミン等、多発性硬化症にあっては、インターフェロン、糖質ステロイド、抗けいれん剤、免疫抑制剤等、パーキンソン病にあっては、ドーパミン、抗コリン剤、ドーパミン放出抑制剤(アマンタジン)、ドーパミン受容体刺激剤(麦角又は非麦角アルカロイド)、ドーパミン分解抑制剤(セレギレン)等、脊髄小脳変性症にあっては、酒石酸プロチリレン、タルチリレン水和物等、筋萎縮性側硬化症にあっては、リルゾール等が挙げられる。
【0043】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
(本発明のグリチルレチン酸誘導体の合成)
式(3)中、Xがヨウ素イオン(I)である本発明のグリチルレチン酸誘導体(以下化合物Bともいう。)を以下のスキームで合成した。
【化13】
JP0004649549B2_000008t.gif

【0045】
すなわち、アルゴン雰囲気下、2.0Lの5頚フラスコに、二コチン酸クロリド・塩酸塩(38.2g、214.5mmol、2.5当量)とジクロロメタン(700ml)を加えて、攪拌しながら内温23℃でピリジン(138.7ml、1.716mol、20当量)を滴下した。滴下終了後、反応溶液に18β-グリチルレチンチルリチン酸(35.0g、85.8mol、1.0当量)を加え、内温23℃で1時間攪拌した。TLC(薄層クロマトグラフィー)で原料消失を確認後、水(800ml)を加えさらに1時間攪拌した。有機層を分離し硫酸ナトリウム(200g)で乾燥後、ロータリーエバポレーターで有機溶媒を留去した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル1.0kg、展開溶媒:ジクロロメタン、1%、2%、5%メタノール含有ジクロロメタン)にて精製した。目的物を含むフラクションを集めて濃縮し、得られた粗精製物(白色粉末)にメタノール(300ml)を加え、30分加熱還流した後、攪拌しながらゆっくりと冷却した。得られた沈殿物をろ取し、メタノール洗浄、減圧下乾燥後、化合物Aを得た(収量33.3g、収率67.4%、白色粉末、Rf(溶媒フロントの移動距離に対する試料の移動距離の相対値):0.5(ジクロロメタン:メタノール=9:1、UV254nm)。得られた化合物AのNMRスペクトルを図1に示す。また、LC-MSスペクトルを図2に示す。
【0046】
次に、アルゴン雰囲気下、1.0Lの5頚フラスコに化合物A(20.0g,34.73mmol、1.0当量)とアセトニトリル600mlとを加え、攪拌しながら内温23℃でヨウ化メチル(21.6ml、347.3mmol、10.0当量)を加えた。続いて反応溶液を23時間加熱還流した後、攪拌しながらゆっくりと冷却した。得られた沈殿物をろ取し、アセトニトリル洗浄、減圧下乾燥後、化合物Bを黄色粉末(18.9g、75.9%)として得た(収量18.9g、収率75.9%)。得られた化合物BのNMRスペクトルを図3に示す。また、LC-MSスペクトルを図4に示す。
【実施例2】
【0047】
(活性化ミクログリアのグルタミン酸産生抑制効果の確認)
次に、化合物A及び化合物Bにつき、活性化ミクログリアにおけるグルタミン酸の産生抑制効果を確認した。すなわち、マウス初代培養ミクログリアは、C57BL/6マウス新生仔大脳から作成した初代混合グリア細胞より培養14日目以降に振盪法によって分離した(Suzumura, A. et al. J. Neuroimmunol. 15, 263-278, 1987)。マウス大脳皮質初代神経細胞は、C57BL/6Jマウス第17日胎仔大脳皮質より作成し、ポリエチレンイミンコートのカバーガラス上で培養後10日から13日において使用した(Takeuchi, H. et al. J. Biol. Chem. 280, 10444-10454, 2005)。
【0048】
ミクログリア培養上清を用いた神経細胞の培養系を用いて、活性化ミクログリアによる神経細胞傷害を以下の方法で経時的に解析した(Takeuchi, H. et al. J. Biol. Chem. 280, 10444-10454, 2005)。すなわち、1 μg/ml lipopolysaccharide (LPS)及び各濃度(最終濃度として1μM、10μM及び100μM)の化合物A、化合物B及びカルベノキソロン(CBX)を、ミクログリアの培養液(約5×10cells/well、神経細胞培地(住友ベークライト株式会社製)に対して投与し、湿度100%かつ5%CO下37℃で24時間インキュベートした。なお、参照用として化合物Aおよび化合物Bを添加しない以外は同様にしてミクログリアを培養した(LPS)。
【0049】
投与後24時間経過後の各種の活性化したミクログリアの培養上清500μlを24穴プレート中の神経細胞(5×10cells/well)に投与し、神経細胞を湿度100%かつ5%CO下37℃で培養した。また、活性化していないミクログリアの培養上清も同様に神経細胞に投与してコントロールとした(NT)。培養開始から24時間経過後に、培養上清中のグルタミン酸量及び神経細胞死について解析した。
【0050】
グルタミン酸の測定は比色法により行い、神経細胞死については、蛍光顕微鏡下でpropidium iodide色素排除法およびthe terminal deoxynucleotidyltransferase-mediated UTP end labeling (TUNEL) 染色にて評価した。結果を図5及び図6に示す。
【0051】
図5に示すように、LPSで活性化された(化合物Bの投与なし)ミクログリア培養上清を投与して神経細胞を培養した場合、神経細胞の培養上清中のグルタミン酸濃度は、無刺激のミクログリアと共培養された場合に比較して顕著に増大しており、活性化されたミクログリアによるグルタミン酸放出が認められた。本発明者らはすでに、活性化したミクログリア培養上清で神経細胞を培養した場合、神経細胞の培養上清中のグルタミン酸濃度が、活性化されたミクログリアの培養上清中のグルタミン酸濃度に依存することを開示している(特許文献1)。
【0052】
これに対して、LPSに化合物A及び化合物Bを共存させて培養したミクログリアの培養上清を投与して神経細胞を培養したとき、これらの化合物の濃度に応じて神経細胞の培養上清中のグルタミン酸濃度が低下していた。特に、100μMの濃度で化合物Bを添加した活性化ミクログリアでは、無刺激ミクログリアと同等のグルタミン酸放出抑制が観察された。
【0053】
以上のことから、化合物A及び化合物Bは、LPSによって活性化されたミクログリアにおけるグルタミン酸の放出を抑制していることがわかった。また、化合物Bは、化合物Aに比較して顕著に有効であることもわかった。
【0054】
また、図6に示すように、LPSで活性化されたミクログリア(化合物A及び化合物Bの投与なし)の培養上清を投与して培養した神経細胞の細胞死は、無刺激のミクログリアと共培養された場合(約0%)に比較して顕著に増大(約100%)しており、活性化されたミクログリアの培養液が神経細胞死を誘導することがわかった。このことは、既述したように、特許文献1に既に開示されている。
【0055】
これに対して、LPSと共に化合物A及び化合物Bをそれぞれ投与したミクログリアの培養上清を投与したときには、化合物A及び化合物Bの濃度に応じて神経細胞死(%)が抑制された。
【0056】
以上のことから、化合物A及び化合物Bは、LPSによって活性化されたミクログリアにおけるグルタミン酸放出を抑制し、その結果神経細胞死を抑制することがわかった。なかでも、化合物Bは、グルタミン酸放出抑制効果が高いことがわかった。
【実施例3】
【0057】
(ALSモデルマウスにおける生存延長効果の確認)
神経変性疾患に対する動物モデルとして、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) モデルとして汎用されている、ヒトスーパーオキシドジスムターゼ1 (superoxide dismutase 1, SOD1) G93A変異トランスジェニックマウスを用いて、薬効評価を行った。なお、当該トランスジェニックマウスは、米国ジャクソン研究所より入手した。
【0058】
ALS発症初期と考えられる6~7週齢より、20mg/体重kgの新規ギャップ結合阻害剤である化合物B、CBXあるいは同容量の生理食塩水(PBS群)を週3回腹腔内投与した。生存解析はKaplan-Meier法を用いた。結果を、図7に示す。
【0059】
図7に示すように、化合物Bを投与した群は、PBS群と比べて平均で約14日の生存延長効果(*, p < 0.0002 vs PBS)を認めた。14日の生存延長は、本モデルマウスにおいては極めて良好な生存延長効果であった。以上のことから、化合物Bは、中枢神経系に到達し、薬効を発揮していることがわかった。
【実施例4】
【0060】
(ALSの急性発症モデルマウスにおける生存延長効果の確認)
神経変性疾患に対する動物モデルとして、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の急性発症モデルとして汎用されている、ヒトスーパーオキシドジスムターゼ1 (superoxide dismutase 1, SOD1) G93A変異トランスジェニックマウスを用いて、化合物Bの異なる濃度における薬効評価を行った。
【0061】
ALS発症初期と考えられる7?8週齢より、5、10および20 mg/体重kgの新規ギャップ結合阻害剤(化合物B)あるいは同容量の生理食塩水(PBS群)を週3回腹腔内投与した。生存解析はKaplan-Meier法を用いた。結果を図8に示す。
【0062】
図8に示されるように、化合物Bを20 mg/kg投与した群では、平均で約2週間の生存延長効果(*, p < 0.0001 vs PBS.)を認めた。
係る生存延長効果は、本モデルマウスにおいては極めて良好な生存延長効果であると考えられる。なお、図中のエラーバーは標準偏差を示す。
【実施例5】
【0063】
(ALSの遅発性発症モデルマウスにおける生存延長効果の確認)
神経変性疾患に対する動物モデルとして、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の遅発性発症モデルとして汎用されている、ヒトSOD1 G37R変異トランスジェニックマウスを用いて、実施例4と同様に化合物Bの薬効評価を行った。
【0064】
発症初期と考えられる7ヶ月齢より、5、10および 20 mg/体重kgの化合物Bあるいは同容量の生理食塩水(PBS群)を週3回腹腔内投与した。生存解析はKaplan-Meier法を用いた。結果を図9に示す。
【0065】
図9に示されるように、化合物Bを20 mg/kg投与した群では、平均で約1ヶ月の生存延長効果(*, p < 0.05 vs PBS.)を認めた。
係る生存延長効果は、本モデルマウスにおいては極めて良好な生存延長効果であると考えられる。なお、図中のエラーバーは標準偏差を示す。
【実施例6】
【0066】
(アルツハイマー病モデルマウスにおける生存延長効果の確認)
次に、神経変性疾患に対する動物モデルとして、アルツハイマー病モデルとして汎用されている、ヒトアミロイド前駆体タンパク/ヒトプレセニリン1 (APP/PS1) 変異ダブルトランスジェニックマウスを用いて、化合物Bの薬効評価を行った。
【0067】
発症中期と考えられる9ヶ月齢より、10および 20 mg/体重kgの化合物Bあるいは同容量の生理食塩水(PBS群)を週3回腹腔内投与した。対照群としては、同齢の野生型マウス(C57BL/6J)を用いた。行動解析には以下の3種類の行動実験を用いた。
【0068】
(1)新奇物質探索試験:マウスをアクリル製実験装置に3日間(10分間/日)慣らした後、訓練試行 (Training) を行った。訓練試行では装置内に異なる2つの物質(object)を置き、装置内を10分間自由に探索させた。訓練試行の24時間後に保持試行 (Retention) を行った。保持試行では訓練試行時に装置内に置いた2つのobjectの片方を新奇objectと置き換え、マウスを5分間自由に探索させた。訓練試行および保持試行において、2つのobjectに対するそれぞれの探索(接触、臭いかぎ行動など)時間を測定した。保持試行において、両 object の総探索時間における新奇 object の探索時間の割合を探索嗜好性(exploratory preference)とし、認知記憶の指標とした (Mouri et al., FASEB J. 21, 2135-2148, 2007; Mizoguchi et al., Psychopharmacology (Berl). 196, 233-241, 2008)。結果を図10に示す。
【0069】
新規ギャップ結合阻害剤(化合物B)を投与しないAPP/PS1マウスの新奇物質探索嗜好性は、野生型マウスと比較して有意に低下していた。化合物Bの投与群では、PBS投与群と比較して探索嗜好性が有意に増加した。図中の*は p < 0.05 vs 野生型を、#は p < 0.05 vs PBSを、それぞれ示す。
【0070】
(2)恐怖条件付け学習試験:連合学習は恐怖条件付け学習試験を用いて評価した(Mouri et al., FASEB J. 21, 2135-2148, 2007; Nagai et al., FASEB J. 17, 50-52, 2003)。マウスをステンレス製グリッドを設置した透明のアクリル製ケージに入れ、20秒間の音刺激 (80 dB) を与え、さらに、その最後の5秒間に電気刺激 (0.6 mA) を加えた。この組み合わせ刺激を1セットとし、15秒間のインターバルで4回繰り返し、恐怖条件付けを行った。状況依存性試験および音刺激依存性試験は、恐怖条件付けの24 時間後に行った。前者では、恐怖条件付けを行ったグリッド付アクリル製白色ケージへマウスを入れ、音および電気刺激を与えない状況下でのすくみ行動を2分間測定した。また、後者では、床にウッドチップを敷いたアクリル製黒色ケージにマウスを入れ、連続した音刺激を与えたときのすくみ行動を1分間測定した。結果はそれぞれ、全測定時間に対するすくみ行動時間の百分率 (%) として表した。結果を図11に示す。
【0071】
化合物Bを投与しないAPP/PS1マウスでは、状況依存性および音刺激依存性試験において野生型マウスと比べてすくみ行動時間の有意な減少が認められた。化合物Bの投与群では、状況依存性試験において化合物Bを投与しないAPP/PS1マウスで見られたすくみ行動時間の減少は有意に緩解した。また、音刺激依存性試験においても化合物Bの投与群では、すくみ行動時間の用量依存的な増加が認められ、20 mg/kg投与群において有意な緩解作用が認められた。図中の*は p < 0.05 vs 野生型を、#は p < 0.05 vs PBSを、それぞれ示す。
【0072】
(3)Morris 水迷路試験:空間認知記憶はMorris 水迷路試験を用いて評価した(Mouri et al., FASEB J. 21, 2135-2148, 2007; Miyamoto et al., J Neurosci. 25, 1826-1835, 2005)。1 試行 60 秒を1 日 3 回行い、異なるスタート地点から固定したプラットホームまでの遊泳時間 (escape latency) と遊泳距離 (distance moved) を測定した。これを連続 7 日間行い、8 日目にプラットホームを取り除いた probe 試験を行った。Probe 試験は、水迷路をTarget (プラットホーム)、Right、Opposite、Leftの4つの領域に分け、60秒中に遊泳した領域の割合を測定した。測定項目は SMART システム (Panlab, Barcelona, Spain) を用いて測定した。結果を図12に示す。
【0073】
化合物Bを投与しないAPP/PS1マウスの遊泳距離は野生型マウスと比較して有意に増加しており、probe試験においても39.6 ± 2.3 % のtarget領域の探索に留まった。一方、化合物Bの10 mg/kg投与群では、PBS投与群と比較して、訓練 1 日目は同程度の遊泳距離であったが、訓練2、5-7日目において有意に減少した。同様に、化合物Bの20 mg/kg投与群では、訓練4-7日目において遊泳時間、遊泳距離の有意な減少が認められた。また、新規ギャップ結合阻害剤である化合物Bの投与群はtarget 領域の遊泳時間の有意な増加が認められた。図中の*は p < 0.05 vs PBSを、**は p < 0.05 vs 野生型を、#は p < 0.05 vs PBSを、それぞれ示す。
【0074】
以上の通り、実施例6で行った3種類全ての行動解析において、記憶障害の有意な改善効果が認められた。
【実施例7】
【0075】
(海馬グルタミン酸濃度測定)
C57BL/6Jマウス(8週齢メス, n = 5?7)の海馬に、stereotaxicに(定位に)マイクロダイアリシスカテーテルを留置した。48時間安置した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Eicom社製HITEC-500GAD)による海馬グルタミン酸濃度の経時的測定を開始した。同カテーテルよりリポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)10 μg/2 μl投与による刺激を行い、薬効評価として、LPSによる刺激投与と同時に、CBXあるいは化合物Bを20 mg/体重kg腹腔内投与した。海馬グルタミン酸濃度は、各個体の刺激投与の120分前から60分前までの平均値を100%として算出した%値で定量化した。結果を図13に示す。
【0076】
化合物BおよびCBXのいずれも投与されない群では、LPS刺激投与の4時間後辺りから海馬グルタミン酸の著明な上昇が認められ、5時間後からはプラトーに達した。また、CBXを投与した群でも海馬グルタミン酸上昇の抑制効果は認められなかった。一方、化合物Bを投与した群においては、海馬グルタミン酸上昇の有意な抑制効果が認められた(p < 0.05)。
【実施例8】
【0077】
(CBX、化合物Bの急性毒性)
C57BL/6Jマウス(5?7ヶ月齢メス, n = 4)に対して、200 mg/体重kg(10倍量)および1000 mg/体重kg(50倍量)のCBXもしくは化合物Bを腹腔内投与し、急性毒性を検討した。その結果、CBX投与群は投与後24時間以内に全例死亡したが、化合物B投与群では死亡例はなかった。
【0078】
これら実施例7及び8の結果は、本願に係る新規ギャップ結合阻害剤の生体投与における薬物の中枢神経系移行性の良好さとそれによる全身性副作用の軽減効果を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1で合成した化合物AのNMRスペクトルを示す図である。

【0080】
【図2】実施例1で合成した化合物AのLC-MSスペクトルを示す図である。

【0081】
【図3】実施例2で合成した化合物BのNMRスペクトルを示す図である。

【0082】
【図4】実施例1で合成した化合物BのLC-MSスペクトルを示す図である。

【0083】
【図5】ミクログリアの培養上清を投与して培養した神経細胞の培養上清中のグルタミン濃度の測定結果を示す図である。ただし、*は p < 0.05 vs NTを示し、 **は p < 0.05 vs LPSを示し、 †は p < 0.05 vs 1 ?Mを示し、§は p < 0.05 vs 10 ?Mを示す。また、エラーバーは標準偏差を示す。

【0084】
【図6】ミクログリアの培養上清を投与して培養した神経細胞の細胞死率(%)の測定結果を示す図である。ただし、*は p < 0.05 vs NTを示し、 **は p < 0.05 vs LPSを示し、 †は p < 0.05 vs 1 ?Mを示し、§は p < 0.05 vs 10 ?Mを示す。また、エラーバーは標準偏差を示す。

【0085】
【図7】ALSモデルマウスへの化合物Bの腹腔内投与による生存延長結果を示す図である。*は p < 0.0002 vs PBSを示す。

【0086】
【図8】ALS急性発症モデルマウスの、化合物Bの投与量の違いによる生存延長効果を示す図である。*は p < 0.0001 vs PBSを示す。

【0087】
【図9】ALS遅発性発症モデルマウスの、化合物Bの投与量の違いよる生存延長効果を示す図である。*は p < 0.05 vs PBSを示す。

【0088】
【図10】アルツハイマー病モデルマウスに対する、化合物Bの記憶障害改善効果であって、新奇物質探索嗜好性の増加を示す図である。*は p < 0.05 vs 野生型を、#は p < 0.05 vs PBSを示す。

【0089】
【図11】アルツハイマー病モデルマウスに対する、化合物Bの記憶障害改善効果であって、状況依存性および音刺激依存性の緩解を示す図である。*は p < 0.05 vs 野生型を、#は p < 0.05 vs PBSを示す。

【0090】
【図12】アルツハイマー病モデルマウスに対する、化合物Bの記憶障害改善効果であって、空間認知記憶の改善を示す図である。*は p < 0.05 vs PBSを、**は p < 0.05 vs 野生型を、#は p < 0.05 vs PBSを示す。

【0091】
【図13】C57BL/6Jマウスにおける海馬グルタミン酸濃度の経時的変化を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12