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明細書 :1,5-アンヒドロ-D-グルシトールの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-234158 (P2013-234158A)
公開日 平成25年11月21日(2013.11.21)
発明の名称または考案の名称 1,5-アンヒドロ-D-グルシトールの製造方法
国際特許分類 C07D 309/10        (2006.01)
A61K  31/351       (2006.01)
A61P   3/04        (2006.01)
A61K  36/18        (2006.01)
FI C07D 309/10
A61K 31/351
A61P 3/04
A61K 35/78 C
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 7
出願番号 特願2012-108539 (P2012-108539)
出願日 平成24年5月10日(2012.5.10)
発明者または考案者 【氏名】小西 洋太郎
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
【識別番号】100174883、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 雅己
審査請求 未請求
テーマコード 4C062
4C086
4C088
Fターム 4C062AA18
4C086AA04
4C086BA07
4C086GA17
4C086ZA70
4C088AB54
4C088BA23
4C088BA32
4C088CA09
4C088CA14
4C088ZA70
要約 【課題】
高純度の1,5-アンヒドロ-D-グルシトールの工業的な製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
(a)抽出材料であるオンジまたはセネガを有機溶剤で処理して脱脂する工程、
(b)上記の抽出材料をハロゲン化脂肪族カルボン酸水溶液で抽出する工程、
(c)上記の抽出液を加熱して濃縮する工程、
(d)上記の濃縮液をイオン交換クロマトグラフィーに付し、抽出成分を溶出して精製する工程、および
(e)上記の溶出液から1,5-アンヒドロ-D-グルシトールを回収する工程
を含む1,5-アンヒドロ-D-グルシトールの製造方法により、上記の課題を解決する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)抽出材料であるオンジまたはセネガを有機溶剤で処理して脱脂する工程、
(b)上記の抽出材料をハロゲン化脂肪族カルボン酸水溶液で抽出する工程、
(c)上記の抽出液を加熱して濃縮する工程、
(d)上記の濃縮液をイオン交換クロマトグラフィーに付し、抽出成分を溶出して精製する工程、および
(e)上記の溶出液から1,5-アンヒドロ-D-グルシトールを回収する工程
を含むことを特徴とする、1,5-アンヒドロ-D-グルシトールの製造方法。
【請求項2】
前記の抽出原料を脱脂する前に該抽出原料を粉砕する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記の抽出液を吸着剤で処理して脱色する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記のイオン交換クロマトグラフィーが、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂を用いて行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記のハロゲン化脂肪族カルボン酸がトリクロロ酢酸である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、オンジまたはセネガを抽出原料として得られる高純度の1,5-アンヒドロ-D-グルシトールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(以下、「1,5-AG」ともいう)は、生活科学、食品機能科学、食健康科学、医学、薬学等の分野で大きな注目を集めるようになっている。
【0003】
1,5-AGは、環内にエーテル結合を有するD-グルコースのC1位における還元体であり、酸や塩基に対して化学的に安定で、特に動物体内での代謝に対して比較的安定なポリオールである。このような特性を利用して、1,5-AGは、例えば低カロリーまたはノンカロリー甘味料として利用されるようになっている。
【0004】
また、糖尿病患者では血中1,5-AGレベルが低下する傾向があるので、1,5-AGは糖尿病診断の指標としても使用されており、このような用途で使用するための1,5-AG測定用キットも市販されている。
【0005】
1,5-AGは、例えばデンプン、グリコーゲンのα-1,4-グルカンリアーゼ系経路の最終代謝産物として自然界に存在することが知られているものの、その含量は1~10mg/100gと極めて低いため、高価である。
【0006】
このような1,5-AGを製造するための方法として、1,5-D-アンヒドロフルクトース(以下、「1,5-AF」ともいう)にアラビノースデヒドゲナーゼを作用させて、1,5-AGを得る方法が知られている(特許文献1)。
また、1,5-AFを1,5-AGに変換する能力をもつ微生物と接触させて、1,5-AGを得る方法も知られている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、これらの製造方法では、まずデンプンやグリコーゲンから1,5-AFを生成するα-1,4-グルカンリアーゼを精製しなければならない上、多くの複雑な工程を含むため、製造コストが高価となり、量産には不適切であるという問題がある。
また、これらの製造方法では、副生成物が多く混入したり、原材料が生成物中に残留したりする場合もあり、高純度の1,5-AGが得られにくいという問題があった。
したがって、これらの製造方法では、一定の技術的効果が認められるものの、1,5-AGの工業的な製造方法という観点からは、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0008】
そこで、これらの問題を解決するものとして、オンジをトリクロロ酢酸で抽出した抽出液を陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との2層からなるカラムに滴下し、精製水で溶出して、1,5-AGを得る方法が開発された(非特許文献1、2および3)。
この方法によれば、上記のような問題は解決されたものの、抽出液の表面に現れる浮遊物や、オンジに含まれるサポニンによると思われる泡が多く発生し、抽出液の後処理に難点があった。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2010-104239号公報
【特許文献2】特開2008-54531号公報
【0010】

【非特許文献1】第48回日本栄養・食糧学会近畿支部大会講演要旨集第42頁(2009)
【非特許文献2】第60回日本応用糖質科学会講演要旨集第42頁(2011)
【非特許文献3】大阪市立大学大学院生活科学研究科・生活科学部研究だより(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、高純度の1,5-アンヒドロ-D-グルシトールの工業的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、抽出材料であるオンジまたはセネガを有機溶剤で脱脂処理し、かつ抽出液を加熱処理する工程を付加することにより、1,5-アンヒドロ-D-グルシトールを工業的な規模で効率よく製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
かくして、本発明によれば、
(a)抽出材料であるオンジまたはセネガを有機溶剤で処理して脱脂する工程、
(b)上記の抽出材料をハロゲン化脂肪族カルボン酸水溶液で抽出する工程、
(c)上記の抽出液を加熱して濃縮する工程、
(d)上記の濃縮液をイオン交換クロマトグラフィーに付し、抽出成分を溶出して精製する工程、および
(e)上記の溶出液から1,5-AGを回収する工程
を含むことを特徴とする、1,5-AGの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抽出液に現れる浮遊物や泡の問題を解消でき、高純度の1,5-AGを工業的な規模で効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の製造方法は、
(a)抽出材料であるオンジまたはセネガを有機溶剤で処理して脱脂し、
(b)上記の抽出材料をハロゲン化脂肪族カルボン酸水溶液で抽出し、
(c)上記の抽出液を加熱して濃縮し、
(d)上記の濃縮液をイオン交換クロマトグラフィーに付し、抽出成分を溶出して精製し、そして
(e)上記の溶出液から1,5-AGを回収する
ことにより行われる。
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。

【0016】
脱脂工程(a)は、抽出原料としてのオンジまたはセネガを有機溶剤で処理することにより行われる。
抽出原料として用いられるオンジはイトヒメハギ(Polygala tenuifolia Willdenow)の根から得られる生薬であり、セネガはセネガ(Polygala senega linne)またはヒロハセネガ(Polygala senega linne var.latifolia Torrey et Gray)の根から得られる生薬であり、いずれもサポニンを多く含み、去痰薬として用いられているものである。

【0017】
オンジまたはセネガは、そのまま用いてもよいが、電動ミルのような粉砕機を用いて粉砕したものを用いれば、脱脂効率ばかりでなく、その後につづく抽出効率も向上して好ましい。
なお、オンジおよびセネガとしては、生薬として用いられている根のほかに茎や葉が含まれていてもよく、さらにオンジとセネガの両者を混ぜたものを用いてもよい。

【0018】
有機溶剤としては、特に限定されないが、n-ヘキサン、ジエチルエーテルなどを都合よく用いることができる。
この有機溶剤での処理は、例えばオンジまたはセネガ、あるいはそれらを粉砕したものにn-ヘキサンを加えて室温で1時間撹拌し、濾過して得られる残渣を次いでジエチルエーテルで洗浄した後、風乾することにより行われる。
このような有機溶剤で処理して脱脂したものを抽出原料として用いると、抽出液の表面に現れる浮遊物の量を低減させることができて好ましい。

【0019】
抽出工程(b)は、オンジまたはセネガをハロゲン化脂肪族カルボン酸水溶液で抽出することにより行われる。
抽出溶媒として用いられるハロゲン化脂肪族カルボン酸とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子で置換された低級脂肪族カルボン酸を意味し、具体的にはトリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、モノクロロ酢酸などが挙げられ、これらの中でも特に好ましいのはトリクロロ酢酸である。
ハロゲン化脂肪族カルボン酸水溶液の濃度は特に限定されず、その種類にもよるが通常、1~10質量%であり、好ましくは4~6質量%である。

【0020】
抽出原料と抽出溶媒との間の割合は、特に限定されず、抽出溶媒の種類および濃度にもよるが、オンジまたはセネガ1質量部に対して、抽出溶媒が4質量%のトリクロロ酢酸水溶液である場合、通常、4~5質量部の割合が好ましい。抽出温度も特に限定されないが、通常、室温で十分に抽出が行われる。

【0021】
抽出終了後、抽出液は濾過または遠心分離により抽出混合物から分離される。
抽出液中の1,5-AGの含量は、必要に応じて「ラナ1,5-AGオートリキッド」(製品名、日本化薬社製)で随時、測定することができる。

【0022】
なお、抽出混合物から分離された抽出液を、次の加熱濃縮工程に付す前に、予め活性炭などで処理すると、抽出液中の不純物を吸着・除去して、最終生成物の純度を高めることができて好ましい。

【0023】
加熱濃縮工程(c)は、通常、上記のようにして得られる抽出液を減圧下~常圧下で加熱することにより行われる。
この加熱濃縮工程では、当初の液量が、通常、1/3~1/5、好ましくは1/4程度まで濃縮される。

【0024】
この加熱処理によって、抽出液中のサポニンによると思われる泡が消えるとともに、オリゴ糖、配糖体、オリゴペプチドなどが単糖類やアミノ酸などに加水分解され、以後の精製処理を容易に行うことができる。

【0025】
精製工程(d)は、上記のようにして得られる濃縮液を、イオン交換クロマトグラフィーに付し、目的とする1,5-AGを溶出することにより行われる。
上記のイオン交換クロマトグラフィーでは、通常、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、およびこれらの組合せが用いられる。

【0026】
陰イオン交換樹脂としては、例えばAG1-X8(BioRad社製)などが挙げられ、陽イオン交換樹脂としては、例えばAG50W-X8(BioRad社製)などが挙げられる。
なお、イオン交換クロマトグラフィーで、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを連結して用いると、不純物としてのカチオン成分およびアニオン成分を簡便に効率よく除くことができて好ましい。

【0027】
イオン交換樹脂に吸着された1,5-AGを溶出するための溶離液としては、特に限定されないが、通常、水または含水アルコールが用いられ、特に好ましいのは水である。

【0028】
回収工程(e)は、通常、上記のようにして得られる1,5-AG含有溶出液から溶媒を減圧下に留去し、残留物を凍結乾燥することにより行われる。

【0029】
本発明の製造方法により得られる1,5-AGは、不純物が少なくて高純度であるため、機能性食品、健康食品、医薬品などの材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
実施例で用いられた機器は次のとおりである。
【実施例】
【0031】
FAB-MSスペクトルは、試料をグリセロールと混合し、質量分析計 JMS-700T(Jeol社製)を用い、FABイオン化法により正イオンモードで測定した。
旋光度は、試料(5mg/1.5mL水)を10cm光路長の円筒形セルに入れ、旋光計 P-1030(JASCO社製)で測定した。
【実施例1】
【0032】
(脱脂工程)
生薬オンジ(60g)を電動ミルで粉砕して粉末試料(59.8g)を得た。この粉末試料にn‐ヘキサン(150mL)を加え、室温で1時間撹拌した後、吸引ろ過し、残渣をジエチルエーテル(30mL)で洗浄した。これを風乾して抽出原料(脱脂粉末試料)とした。
【実施例1】
【0033】
(抽出工程)
上記で得られた抽出原料(脱脂粉末試料)(10g)に4%トリクロロ酢酸(40mL)を加え、室温で30分間撹拌した後、遠心分離(3000回転、20分間)して抽出液を分離した。残渣に4%トリクロロ酢酸(10mL)を加え、撹拌後、再び遠心分離して残渣を洗浄した。この洗液を上記の抽出液と合わせて次の加熱濃縮工程に付した。抽出液のpHは1.2であった。この抽出液には、脂質成分の浮遊が認められず、以後の精製処理が簡便となった。
【実施例1】
【0034】
(加熱濃縮工程)
上記で得られた抽出液を撹拌下に100℃で3時間加熱して、液量を約1/4になるまで濃縮した。濃縮液のpHは約4に上昇した。
【実施例1】
【0035】
(精製工程)
陰イオン交換樹脂AG1‐X8(OH型、BioRad社製)を充填したカラム(内径1.5cm×長さ30cm、カラム体積53cm3)の下に陽イオン交換樹脂AG50W‐X8(H型) を充填したカラム(内径1cm×長さ15cm、カラム体積12cm3)を連結してなる陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂の連結カラムに、上記で得られた濃縮液を通した後、水で溶出し、フラクションコレクターで8mLずつ集めた。
【実施例1】
【0036】
(回収工程)
上記で得られたフラクションNo.10~20の溶出液を集め、凍結乾燥して、白色・粉末状の1,5-AG(0.42g)を得た。収率:4.2%。
【実施例1】
【0037】
上記で得られた1,5-AGは、マススペクトロメトリー(FAB-MS)の結果、その分子量は163.1であり、比旋光度は+66°であって、標品(1,5-アンヒドロ-D-グルシトール、和光純薬工業株式会社製)と一致した。
【実施例2】
【0038】
実施例1と同様にして得られた抽出液(40mL)に活性炭(1.6g)を加えて撹拌した後、濾過した。このようにして脱色処理された抽出液を、実施例1と同様に精製し、溶出液を凍結乾燥して、上記と同じ物性を有する白色・粉末状の1,5-AG(0.408g)を得た。収率:4.08%。
【実施例3】
【0039】
実施例1と同様にして得られた抽出液(40mL)にポリクラールVT(ISP社製、1.6g)を加えて撹拌し、この混合物を遠心分離して上清液を得た。この上清液に活性炭を加えて撹拌した後、濾過して脱色処理された抽出液を得た。この抽出液を実施例1と同様に精製し、溶出液を凍結乾燥して、上記と同じ物性を有する白色・粉末状の1,5-AG(0.301g)を得た。収率:3.01%。