TOP > 国内特許検索 > ペプチド提示微粒子の製造方法 > 明細書

明細書 :ペプチド提示微粒子の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5899548号 (P5899548)
公開番号 特開2012-240940 (P2012-240940A)
登録日 平成28年3月18日(2016.3.18)
発行日 平成28年4月6日(2016.4.6)
公開日 平成24年12月10日(2012.12.10)
発明の名称または考案の名称 ペプチド提示微粒子の製造方法
国際特許分類 C07K  17/08        (2006.01)
C08F 222/20        (2006.01)
C08F 220/52        (2006.01)
FI C07K 17/08 ZNA
C08F 222/20
C08F 220/52
請求項の数または発明の数 3
全頁数 13
出願番号 特願2011-110679 (P2011-110679)
出願日 平成23年5月17日(2011.5.17)
審査請求日 平成26年5月15日(2014.5.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】奥 浩之
【氏名】岩崎 綾乃
【氏名】狩野 繁之
【氏名】矢野 和彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100090516、【弁理士】、【氏名又は名称】松倉 秀実
【識別番号】100126505、【弁理士】、【氏名又は名称】佐貫 伸一
審査官 【審査官】田中 晴絵
参考文献・文献 特開昭64-033111(JP,A)
特開2009-256324(JP,A)
特開2002-371098(JP,A)
特開平01-207308(JP,A)
Colloid & Polymer Sci (1987) Vol.265, No.10, pp.916-921
調査した分野 C07K 1/00- 19/00
JSTPlus(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
REGISTRY/CAplus(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
下記化合物(I)と化合物(II)を重合反応に供する工程、得られた重合体に配列番号
4又は5のアミノ酸配列で示される熱帯熱マラリア原虫のエノラーゼ由来ペプチドを導入する工程を含む、ペプチド提示微粒子の製造方法。
【化1】
JP0005899548B2_000004t.gif
Xは-OYを示し、ここでYはクシンイミド基
【請求項2】
微粒子がヒトに感染する熱帯熱マラリア診断薬である、請求項に記載のペプチド提示微粒子の製造方法。
【請求項3】
微粒子がヒトに感染する熱帯熱マラリア原虫由来する抗原の抗体価検査材料である、請求項に記載のペプチド提示微粒子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド提示微粒子の製造方法、特に、試料中の抗体価を測定するためのペプチド抗原を提示した微粒子の製造方法に関する。より詳しくは、ヒトおよび他の動物の血液試料中のマラリア原虫に対する抗体に結合することができるペプチドを含んだ微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリアは地球上に於いて最も重大な原虫感染症の一つである。熱帯地域と亜熱帯地域の流行地域を中心に、毎年3億人の感染者と200万人以上の死亡者が報告されている。また近年は、地球規模での経済活動の拡大により人や物資の移動が盛んになってきている。これに伴い、日本人渡航者が流行地で感染する例や、流行地から日本への入国者が国内で発症する輸入マラリアの症例が、1980年代より急激に増えている。このためマラリア対策は、流行地のみならず日本に於いても緊急の課題となっている。
【0003】
ヒトにマラリアを引き起こすPlasmodium属の寄生原虫は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)、および一部のサルマラリア(Plasmodium knowlesiなど)の5種類である。原虫を媒介する蚊の刺咬により体内に入ったマラリア原虫は血中から速やかに肝細胞に侵入し(一次肝臓内ステージ)、肝細胞内で分裂・増殖してから血中に放出され、赤血球内に侵入して分裂増殖を繰り返し(赤血球内サイクル)、増殖した原虫は他の蚊によってさらに伝搬されてゆく。マラリアによる発熱の症状は赤血球内サイクルによって引き起こされる。特に熱帯熱マラリアは他の4種に比較して治療が遅れると重症化と死亡の危険をもたらす。
【0004】
またマラリアは健康問題のみならず、アフリカ諸国での経済活動の停滞と社会不安の一因ともなっている。流行地に於ける近年の感染者の増加は、熱帯雨林開発や温暖化との関連も指摘され、International Panel on Climate Change報告(1996 & 1998)によると地球温暖化の場合2℃の温度上昇で5000-8000万人の増加が予測されている。そのため、第二次大戦後にDDT散布と衛生対策によって根絶したはずの日本を含む温帯地域においても、マラリア再流行が懸念されている。
したがって、マラリア感染を検出したりマラリアワクチンの効果を確かめたりするための血清抗体価を簡便に測定できる試薬の開発が求められている。
【0005】
血液中の抗マラリア原虫抗体を検出する方法として、マラリア原虫破砕物を抗原として吸着させた微粒子を用いる方法がある。
従来のヒト血清中やヒト血漿中の抗体検出を行うための免疫検査を指向した抗原吸着微粒子の作製には、Poplanichら(非特許文献1)の報告にあるようにsoap-free polymerizationによって作製されたpoly(stylene-co-acrylic acid)微粒子への病原微生物の破砕溶液を物理吸着させる方法が用いられてきた。
そして、この方法を利用した抗体検出キットの市販例としては栄研化学のトキソプラズマ感染検査キット(ポリスチレン微粒子への吸着;非特許文献2~4)が知られている。
【0006】
soap-free polymerizationによって重合した有機高分子微粒子ではなく、無機微粒子への病原微生物の破砕溶液を物理吸着させる方法もある。マラリアの感染検査ではないが、HOYAのデング熱感染検査キット(リン酸カルシウム微粒子への吸着;非特許文献5,6)が知られている。
【0007】
しかし、従来の免疫検査を指向して抗原を物理吸着させた微粒子には、抗原に病原体そのものが必要であり低温保管の必要性や限られた感染症にしか適応できないこと、病原体破砕物という混合物を用いるため非特異反応(擬陽性反応)が起きやすいこと、微粒子と抗原の結合に物理吸着を用いているためpHの最適化を必要としpH変化や常温保管に弱く安定性が悪いこと、ソープフリー重合で作製したポリスチレンラテックスのため実際にはpoly(styrene-co-acrylic acid)と官能基を有しながら不安定な物理吸着のみ用いて化学結合を行っていないこと、リン酸カルシウム微粒子の場合はリン酸カルシウムの溶解しにくいpHや溶液組成においてのみ抗原を物理吸着することが可能であること、の点で問題があった。
【0008】
一方、物理吸着ではなく化学結合によるペプチドや酵素を結合した微粒子の作製法が報告されている。一つは非特許文献7にあるよう抗原モノマー(抗原ペプチドのN端をmethacryloyl化)と微粒子形成モノマー(例えばDiethylene Glycol Dimethacrylate, 2G)を直接共重合する方法がある。しかし、従来の化学結合によってペプチドや酵素を結合させた微粒子は、抗原モノマーが重合反応時の溶媒(ethylpropionateやethylacetateなど疎水性有機溶媒が最適)に溶解できない場合は均質な球状微粒子が得られない、実際の免疫反応も患者と正常血清の判別する凝集像が得られないという問題があった。すなわち抗原ペプチドに一般的な、水溶性の高い側鎖を有するアミノ酸残基が多く含まれるペプチド配列を用いて直接抗原微粒子を重合させるのは困難であった。
【0009】
これまでに、本発明者は、マラリア原虫由来の抗原を用いたマラリア感染診断材やマラリアワクチン(特許文献1)、マラリア抗原ペプチドの製造法(特許文献2)、マラリア抗原を内包させた微粒子の製造法(特許文献3)を報告している。
しかしながら、マラリア抗原を表面に化学的に結合した微粒子を用いてマラリア抗原に対する抗体を検出する技術については報告がない。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特許公開2002-371098
【特許文献2】WO2006/035815
【特許文献3】特許公開2009-256324
【0011】

【非特許文献1】Anal. Chem. 2007, 79, 4690-4695
【非特許文献2】坪田宣之と小澤光 寄生虫学雑誌 1977, 26, 276-285
【非特許文献3】坪田宣之ら 寄生虫学雑誌 1977, 26, 286-290
【非特許文献4】小林昭夫ら 寄生虫学雑誌 1977, 26, 175-180
【非特許文献5】山本らJ. Clin. Virol. 2000, 19, 195-204
【非特許文献6】山本らJ. Virol. Methods 2002, 104, 195-201
【非特許文献7】Safranjら Radiat. Phys. Chem. 1995, Vol. 46, No. 2, pp. 203-206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ペプチド結合物質の検出に使用可能なペプチドを表面に提示した微粒子を効率よく製造できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、下記化合物(I)と化合物(II)を重合反応に供し、得られた重合体にペプチドを導入することによりペプチド提示微粒子を効率よく製造することができ、得られたペプチド提示微粒子を用いることにより、ペプチドおよびこのペプチド配列を含む蛋白質に対する抗体を効率よく凝集反応により検出することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]下記化合物(I)と化合物(II)を重合反応に供する工程、得られた重合体にペプチドを導入する工程を含む、ペプチド提示微粒子の製造方法。
[2]ペプチドが熱帯熱マラリア原虫のエノラーゼ由来ペプチドである、[1]に記載のペプチド提示微粒子の製造方法。
[3]エノラーゼ由来ペプチドが配列番号2~4のいずれかのアミノ酸配列を含む、[2]に記載のペプチド提示微粒子の製造方法。
[4]微粒子がヒトに感染する熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリア、またはサルマラリアの診断薬である、[2]または[3]に記載のペプチド提示微粒子の製造方法。
[5]微粒子がヒトに感染する熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、サルマラリア原虫に由来する抗原に対する抗体価検査材料である、[2]または[3]に記載のペプチド提示微粒子の製造方法。

【発明の効果】
【0015】
本発明の方法により、ペプチド提示微粒子を効率よく製造することができ、得られたペプチド提示微粒子を用いることにより、ペプチドおよびこのペプチド配列を含む蛋白質、アミノ酸残基が変異した相同性のあるペプチド配列を含む蛋白質に対する、抗体などのペプチド結合物質を効率よく検出することができる。

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】熱帯熱マラリア原虫エノラーゼ(P. falciparum enolase)のアミノ酸配列を示す図。明細書中に示した部分アミノ酸配列3種(GL16、LN17、AD22)は下線で標記。
【図2】実施例で用いた人工抗原ペプチド(AD22)4-MAPの分子構造を示す図。
【図3】さまざまなマラリア原虫(Plasmodium falciparum(ヒト熱帯熱マラリア原虫Pf)、Plasmodium berghei(マウスマラリア原虫Pb)、Plasmodium vivax(ヒト三日熱マラリア原虫Pv)、Plasmodium knowlesi(サルマラリア原虫Pk)、Plasmodium yoelii(マウスマラリア原虫Py)、Plasmodium chabaudi (マウスマラリア原虫Pc))のエノラーゼにおける部分アミノ酸配列(GL16)の比較。Pcエノラーゼのアミノ酸配列は部分配列のみ発表されており、N末端部分が含まれていないため配列番号は便宜的である。コンセンサス配列におけるXは任意のアミノ酸残基を示す(図4,5も同じ)。
【図4】さまざまなマラリア原虫のエノラーゼにおける部分アミノ酸配列(AD22)の比較。
【図5】さまざまなマラリア原虫のエノラーゼにおける部分アミノ酸配列(LN17)の比較。
【図6】ペプチド提示微粒子の作製と抗体検出反応の模式図。
【図7】比較例1の微粒子を用いた抗体検出反応の結果を示す図(写真)。
【図8】比較例2の微粒子におけるエノラーゼ全長蛋白質が導入されたことを確認した図。
【図9】比較例2の微粒子を用いた抗体検出反応の結果を示す図(写真)。
【図10】実施例1の微粒子におけるペプチドが導入されたことを確認した図。
【図11】実施例2の微粒子におけるペプチドが導入されたことを確認した図。
【図12】実施例1,2の微粒子を用いた抗体検出反応の結果を示す図(写真)。
【図13】熱帯熱マラリア患者血漿(Pf患者)、正常なボランティア血漿(正常)、熱発患者としてマラリア疑い採血を受けたが抗原検出迅速診断キットと顕微鏡によるスメアー観察から陰性と診断された患者血漿(熱発患者)における、凝集試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、下記化合物(I)と化合物(II)を重合反応に供する工程、得られた重合体にペプチドを導入する工程を含む、ペプチド提示微粒子の製造方法である。
【化1】
JP0005899548B2_000002t.gif
Xはハロゲン(塩素、フッ素、臭素等)または-OYを示し、ここでYは、アルキル基、芳香族基、ピリジル基、キノリル基、スクシンイミド基、マレイミド基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、又はベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、ハロゲン(塩素、フッ素、臭素等)で置換されていても良い。

【0018】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基及びsec-ブチル基などの基が挙げられ;前記芳香族基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基及び2-ナフチル基などの基が挙げられ;前記ピリジル基としては、例えば、2-ピリジル基、3-ピリジル基及び4-ピリジル基などの基が挙げられ;前記キノリル基としては、例えば、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基及び8-キノリル基などの基が挙げられ;前記ベンゾオキサゾール基としては、例えば、2-ベンゾオキサゾール基などが挙げられ;前記ベンゾチアゾール基としては、例えば、2-ベンゾチアゾール基などが挙げられ;前記ベンゾトリアゾール基としては、例えば、1-ベンゾトリアゾール基などが挙げられる。これらのうち、フェニル基、3-ピリジル基、8-キノリル基、スクシンイミド基(OSu基)、2-ベンゾチアゾール基、及び1-ベンゾトリアゾール基(OBt基)が、活性エステルの活性がより高いという点で好ましい。

【0019】
重合方法は、通常のラジカル重合によって行うことができ、放射線(γ線)や重合開始剤を用いる方法が例示される。
重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチロニトリル (AIBN)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)などを使用することができる。

【0020】
溶媒は、各化合物を溶解し、重合反応を進行させうる溶媒であればよいが、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酢酸、プロピオン酸、アセトン、メチルエチルイソブチルケトン(MIBK)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、およびこれらの混合溶媒などが例示される。

【0021】
重合反応によって得られる微粒子の粒径は0.1~10μmが好ましい。なお、化合物(I)、化合物(II)はそれぞれ複数種類重合に使用してもよい。

【0022】
微粒子表面へのペプチドの導入は微粒子の活性エステル基の-OYとペプチドのアミノ基の反応により行うことができる。ペプチドのアミノ基は末端のアミノ基でもよいし、側鎖のアミノ基でもよい。また、ペプチドの末端にリンカーやキャリアーを付加し、リンカーやキャリアーのアミノ基と結合させてもよい。
微粒子へのペプチドの導入割合は好ましくは重量比として0.05~2%である。

【0023】
抗原ペプチドの配列には、好ましくは5~150残基のペプチドが好ましい。合成や精製の簡便さからは、より好ましくは5~50残基であり、さらに好ましくは8~30残基である。
その配列は特に制限されず、目的に応じて適宜設定することができるが、標的分子に結合するペプチドの配列を含むことにより、微粒子を標的分子の検出に使用できるため好ましい。標的分子としては、受容体、酵素、抗体などが挙げられ、ペプチドとしてはリガンド、ホルモン、抗原ペプチドなどが挙げられる。
ペプチドは蛍光物質等で標識されたものでもよいし、非天然アミノ酸を含むものでもよい。

【0024】
抗原としては、熱帯熱マラリア原虫への感染診断や原虫抗原への抗体価測定を行うためには、熱帯熱マラリア原虫由来の部分ペプチドを含むペプチドとすることができる。
熱帯熱マラリア原虫由来の部分ペプチドとしては、熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼの部分ペプチドが例示される。熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼのアミノ酸配列を配列番号1に例示する(図1)。
熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼの部分ペプチドとしては特に制限されるものではないが、以下の3種類のペプチドが例示される。
GL16:Gly Phe Ala Pro Asn Ile Leu Asn Ala Asn Glu Ala Leu Asp Leu Leu(配列番号2)
AD22:Ala Ser Glu Phe Tyr Asn Ser Glu Asn Lys Thr Tyr Asp Leu Asp Phe Lys Thr Pro Asn Asn Asp(配列番号3)
LN17:Leu Gly Asn Asn Ala Val Phe Ala Gly Glu Lys Phe Arg Leu Gln Leu Asn(配列番号4)

【0025】
同様にしてhistidine rich protein II (HRP-2)の部分配列を用いたり、乳酸脱水素酵素(pLDH)の部分配列を用いたりすることによっても、熱帯熱マラリア原虫への感染診断や原虫抗原への抗体価測定は容易に実施が可能である。抗原の配列は類似しているので、さらに同様にして、その他のヒトに感染する三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、および一部のサルマラリアについても、感染診断や原虫抗原への抗体価測定は容易に実施が可能である。

【0026】
また、微粒子に導入するペプチドは複数の配列が直線状または分岐鎖状に連結されたものでもよい。ペプチド配列の連結に使用し得るキャリアー分子の一例として、破傷風トキソイド、オボアルブミン、血清アルブミン、ヘモシアニン等のような天然タンパク質が挙げられる。キャリアーがヘモシアニンである場合は、例えばBoquetらの方法(P. Boquet et al, Molecular Immunology (1988) vol. 19,pp. 1441-1549)によって、ペプチドおよびキャリヤーそれぞれのアミノ基同士をグルタールアルデヒドで結合させることもできる。例えばMAP(multiple antigenic peptide)またはリジンデンドリマーと呼ばれる合成高分子キャリアーも使用可能である。

【0027】
MAPまたはリジンデンドリマーと呼ばれる合成高分子キャリアーを用いた多量体ペプチドの合成は、例えばTam の方法が挙げられる(James P. Tam., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1988) vol. 85、 5409-5413)。公知の合成法により、βアラニン-システイン(S-アセトアミドメチル)のジペプチドを固定した樹脂にリジンをステップワイズに反応結合させることにより目的とする架橋体を調製することができる。すなわち、ジペプチドにリジンひとつの結合体は2量体の分岐ペプチドとして、さらにリジンを反応させて得られるリジン3残基の結合体は4量体の分岐ペプチドとして、さらにリジンを反応させて得られるリジン7残基の結合体は8量体の架橋体として使用することができる。また8量体はシステイン残基のアセトアミドメチル基をヨウ素で酸化的に脱保護し、ジスルフィド結合を形成させることでも得ることができる。これら架橋体に目的とするペプチドの構成アミノ酸を通常の方法により順次反応結合させることにより多量体ペプチドを合成することができる。

【0028】
本発明の微粒子を用いることにより、試料中のペプチド結合物質を検出することができる。
例えば、ペプチドを熱帯熱マラリアのエノラーゼ部分ペプチドとすることにより、被験者の血液試料中の抗エノラーゼ抗体を検出でき、マラリアの診断・感染履歴の調査やワクチン投与後の抗体価維持の確認を検査する材料として利用することができる。

【0029】
検出方法は結合反応を検出する方法である限り特に制限されないが、ELISA法、凝集反応によるアッセイ、蛍光検出法、発光検出法、可視紫外吸光検出法、電気化学的検出法などが挙げられる。この中では凝集反応によるアッセイが好ましい。
凝集反応によるアッセイの原理を図6に示す。ペプチド抗原が抗体と反応することにより微粒子が凝集し、目視により抗体の検出が可能である。

【0030】
検出できる抗体は、微粒子に導入されたペプチド配列への抗体(抗ペプチド抗体、例えば抗AD22抗体)、またはこのペプチド配列を含む蛋白質(抗蛋白質抗体、例えばAD22配列を認識する抗Plasmodium falciparumエノラーゼ抗体)、さらにまたはアミノ酸残基が変異した相同性のあるペプチド配列や蛋白質(近縁種の蛋白質やペプチド配列から作成された抗体、例えばAD22配列を認識する抗Plasmodium bergheiエノラーゼ抗体)に対する抗体が挙げられる。

【0031】
アミノ酸残基が変異した相同性のあるペプチド配列の例としては、例えば近縁種の蛋白質に由来する配列、突然変異した蛋白質に由来する配列、相同性の高い(アミノ酸の相同性>60%)蛋白質に由来するアミノ酸配列が挙げられる。近縁種のエノラーゼの配列例をGL16、AD22、LN17に対してそれぞれ図3、4、5に示す。例えば、微粒子に導入されたPlasmodium falciparumのエノラーゼに由来するAD22ペプチド配列によって、Plasmodium bergheiへの抗体(抗Pb エノラーゼ抗体)を検出することなどが可能である。
【実施例】
【0032】
<ポリマーの重合>
下記化合物(i)(市販品、中村化学製)0.4gと化合物(ii)(メタクリル酸クロリドとHOSu(N-ヒドロキシスクシンイミド)の反応生成物を使用)を0.1gを溶媒プロピオン酸エチル10mL中、室温25℃で3時間γ線照射下(30kGy)で反応させ、重合反応を行った。
【化2】
JP0005899548B2_000003t.gif
【実施例】
【0033】
微粒子表面に結合させるペプチドは以下のものを用いた。
GL16(分子量0.17 kD)Gly Phe Ala Pro Asn Ile Leu Asn Ala Asn Glu Ala Leu Asp Leu
Leu(配列番号2)
LN17G(分子量0.19 kD)Leu Gly Asn Asn Ala Val Phe Ala Gly Glu Lys Phe Arg Leu Gln Leu Asn Gly(配列番号5)
AD22(MAP化した分子量として1.4 kD)Ala Ser Glu Phe Tyr Asn Ser Glu Asn Lys Thr Tyr Asp Leu Asp Phe Lys Thr Pro Asn Asn Asp(配列番号3)
これらの抗原ペプチドは手動合成装置を用いて合成し、SepPack(waters社製の使い捨てODSカラム)にて精製した。
(AD22)4-MAP (MAP = multiple antigenic peptide))(分子量1.4kD)(図2)は抗原ペプチドと同様に合成と精製を行った。
【実施例】
【0034】
<ペプチドの導入>
続いて、活性エステル基(スクシンイミド基)を介して300mgの微粒子表面に熱帯熱マラリア原虫の抗原ペプチド(実施例1:LN17G、実施例2:(AD22)4-MAP)3mgを化学結合させた検査材料を作製した。
このとき化学結合には37℃4時間、さらに物理吸着に37℃20時間の条件にて反応させた。
【実施例】
【0035】
<ペプチドが導入されたことの確認>
上記ペプチドの化学結合に伴って遊離するHOSu(N-ヒドロキシスクシンイミド)量をHPLCによってモニターすることで、微粒子表面への飽和化学結合量(0-4時間)と飽和物理吸着(0-24時間)を判断した。結果を図10,11に示す。その結果、エノラーゼ全長の場合(比較例2:図8)と異なりペプチドは安定性が比較的高く、さらに直鎖構造よりもMAPによる分岐構造の方が安定性が比較的高く、37℃24時間の条件でも免疫活性を失わないことがわかった。
【実施例】
【0036】
<比較例1>
化合物(ii)の活性エステル基にGL16を結合させて得られたモノマーと化合物(i)を共重合させて抗原提示微粒子を得た。しかし、抗原モノマーは溶媒にとけにくかったため、得られた微粒子は均質な球状微粒子とはならなかった(データは示さず)。
【実施例】
【0037】
<比較例2>
ペプチドの代わりに、組み替えエノラーゼ全長(分子量47kD)を微粒子100mg当たり0.6mg加え、37℃4時間、4℃20時間の条件にて反応させて微粒子の表面にエノラーゼ全長を化学結合させた。このときHPLCによってHOSu量をモニターすることで微粒子表面への結合の飽和を判断した(図8)。
【実施例】
【0038】
<凝集試験>
ウサギ抗エノラーゼ血清(ウサギへ組み換え体の熱帯熱マラリア原虫エノラーゼを免疫後、採血して調製した血清)およびウサギプレ免疫血清(同じウサギで免疫前に採血して調整した血清)を判別する凝集試験を行った。
96穴プレートに、8個のウェルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で16~2048倍希釈したウサギ抗エノラーゼ血清またはウサギプレ血清を50μLずつ、および1個のウェルにリン酸緩衝液のコントロールを50μLを加え、最後に上記微粒子を25μL(0.1mg/mL)ずつ加えた。96穴プレートを1分間振動撹拌後に、室温で8時間静置して反応させることで、凝集反応を検出した。
結果を図7(比較例1),図9(比較例2),図12(実施例1,2)に示す。
【実施例】
【0039】
その結果、実施例1,2では抗血清とプレ血清を明瞭に区別する陽性凝集像と陰性凝集像を得ることに成功できた(実施例3)。
一方、比較例1では16倍希釈で凝集反応は見られたものの、マラリア患者と健常者を区別できなかった。また、比較例2でも陽性と陰性を明確に区別できる凝集像が得られなかった。
【実施例】
【0040】
引き続いて国立国際医療研究センター研究所において保管されている熱帯熱マラリア患者血漿(Pf患者)、正常なボランティア血漿(正常)、熱発患者としてマラリア疑い採血を受けたが抗原検出迅速診断キットと顕微鏡によるスメアー観察から陰性と診断された患者血漿(熱発患者)を用いて凝集試験を行った。
陽性凝集像と陰性凝集像の判断はウサギ血清を用いた場合と同様に行った。
その結果、図13に示すように、Pf患者と正常、Pf患者と熱発患者について一定の違いを表す陽性凝集像と陰性凝集像を得ることに成功した。ただし、目視による本方法の限界として、ウサギプレ血清の場合と異なり、正常血漿には希釈率の低いところにおいて擬陽性凝集像が観察されることがわかった。ヒト血漿試料において擬陽性を示した原因は、採血時に用いる真空採血管は内部にEDTAを用いることで採血時の凝固反応を抑えているため、フィブリンが96穴プレートに吸着して擬陽性を生じたためと考えられる。その他にも血液中の脂肪成分が吸着して擬陽性を生じたためと考えられる。これらの問題は容易に改善することが可能である。すなわち血漿はカルシウム添加処理やガラスビーズ処理することでフィブリンを除去することが可能であり、擬陽性を抑制できることが容易に推測される。またすなわち、食事前の採血を行うことで脂肪含有量の抑制や希釈後の遠心分離処理で脂肪成分を除去することが可能であり、擬陽性を抑制できることが容易に推測される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によって作製されたペプチド提示微粒子は、医療、診断、研究などの分野で有用である。特に、ペプチドに熱帯熱マラリア原虫に由来するペプチドを用いることにより、熱帯熱マラリアの診断やワクチン効果の判定に使用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図8】
5
【図10】
6
【図11】
7
【図13】
8
【図6】
9
【図7】
10
【図9】
11
【図12】
12