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明細書 :希土類金属の回収方法および回収装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6057250号 (P6057250)
公開番号 特開2014-051731 (P2014-051731A)
登録日 平成28年12月16日(2016.12.16)
発行日 平成29年1月11日(2017.1.11)
公開日 平成26年3月20日(2014.3.20)
発明の名称または考案の名称 希土類金属の回収方法および回収装置
国際特許分類 C25C   3/34        (2006.01)
C22B  59/00        (2006.01)
C22B   9/02        (2006.01)
C22B   7/00        (2006.01)
B09B   5/00        (2006.01)
FI C25C 3/34 Z
C22B 59/00
C22B 9/02
C22B 7/00 E
B09B 5/00 Z
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2012-198945 (P2012-198945)
出願日 平成24年9月10日(2012.9.10)
審査請求日 平成27年9月8日(2015.9.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】市野 良一
【氏名】黒田 健介
【氏名】神本 祐樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
【識別番号】100142239、【弁理士】、【氏名又は名称】福富 俊輔
審査官 【審査官】菅原 愛
参考文献・文献 特開2002-198104(JP,A)
特開2009-287119(JP,A)
特開2002-080988(JP,A)
特開昭63-262492(JP,A)
調査した分野 C25C1/00- 7/08
C22B1/00-61/00
B09B1/00- 5/00
特許請求の範囲 【請求項1】
二種以上の希土類元素と鉄とを含む廃棄物から希土類金属を回収する方法であって、
溶融塩と、液状の溶融金属とを上下二層にして収容し前記溶融塩中に前記廃棄物を配置した電解槽を用意する工程と、
前記廃棄物を陽極とし、前記溶融金属を陰極とし、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して、前記廃棄物から前記希土類元素を選択的に溶出させる陽極溶出工程と、
前記溶出した二種以上の希土類元素イオンを電解還元により前記陰極にそれぞれ希土類金属として析出させ、かつ、その析出した二種以上の希土類金属をそれらの比重差により相対的に重い重希土類金属と相対的に軽い軽希土類金属とに分離する陰極析出工程と
前記陰極析出工程で相互に分離した前記重希土類金属と前記軽希土類金属とを別々に回収する回収工程と
を包含する、希土類金属の回収方法。
【請求項2】
前記廃棄物は、前記希土類元素として、前記溶融金属よりも比重が大きい重希土類元素と前記溶融金属よりも比重が小さい軽希土類元素とを含んでおり、
前記陰極析出工程において、前記析出した二種以上の希土類金属を前記溶融金属との比重差により前記溶融金属よりも重い重希土類金属と前記溶融金属よりも軽い軽希土類金属とに前記溶融金属を挟んで分離する、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記廃棄物は、前記希土類元素として、少なくともネオジムおよびジスプロシウムを含んでいる、請求項1または2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記陰極析出工程において、前記ジスプロシウムを金属単体として分離する、請求項3に記載の回収方法。
【請求項5】
前記溶融金属は、ジスプロシウムよりも比重が小さくかつネオジムよりも比重が大きい金属を主体として構成されている、請求項2~4の何れか一つに記載の回収方法。
【請求項6】
前記溶融金属は、スズおよび/または亜鉛を主体として構成されている、請求項5に記載の回収方法。
【請求項7】
前記陽極溶出工程における陽極の電位(Ag/0.1(mol/L)Ag:参照電極基準)が、-1.5V~-0.75Vである、請求項1~6の何れか一つに記載の回収方法。
【請求項8】
前記溶融金属は、スズ、亜鉛、鉛、マグネシウムおよびビスマスの中から選択された少なくとも1種を主体として構成されている、請求項1または2に記載の回収方法。
【請求項9】
前記溶融塩は、アルカリ金属の塩化物を主体として構成されている、請求項1~8の何れか一つに記載の回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物から希土類金属を回収する技術に関する。特に二種以上の希土類元素と鉄とを含む廃棄物から希土類金属を分離回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム(Nd)、ジスプロジウム(Dy)、プラセオジム(Pr)等の希土類元素は、様々な工業製品に使用されている。例えば、Ndを用いて鉄を主成分にするネオジム磁石は、優れた磁気特性を示し、ハイブリッド自動車や電気自動車のモータ、ハードディスクドライブ、エアコンのコンプレッサー等に広く用いられている。これら希土類磁石に使用されている希土類合金は、多くの場合、1種類の希土類元素ではなく、数種の希土類元素を含有している。例えば、ハイブリッド自動車やエアコンなどの用途では、耐熱性を高める目的でNdの一部をDyで置換したネオジム磁石が用いられている。
【0003】
希土類元素の産出は特定の国に偏在しているため、その供給事情は必ずしも安定したものとは云えない。そこで、希土類元素を安定供給する方法として、使用済みの廃磁石から希土類元素を回収して再利用することが検討されている。廃磁石から希土類元素を回収する典型的な方法としては、例えば、(1)酸により廃棄物を溶解させた後に希土類元素のみを塩として選択的に回収する方法(例えば、非特許文献1参照)、(2)溶融塩を用いて製品クズから直接、希土類金属として回収する方法、(3)溶融塩電解により廃棄物から希土類元素を浸出させ、陰極で合金化して回収する方法(例えば、特許文献1参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-287119号公報
【0005】
<nplcit num="1"> <text>J. Alloys Comp., vol408-412,1382-1385, 2006</text></nplcit>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(1)の手法によると、廃磁石成分の多くは鉄で占められているため、その鉄を全て溶解しようとすると、大量の酸を消費する必要があり、廃液処理に多大なコストがかかってしまう。また、希土類元素が塩として回収されるので再度製品として使用する場合には還元処理が必要になるなど、回収作業が煩雑で回収コストも割高となり得る。また、上記(2)の手法によると、製品クズは組成が既知であり、廃棄物のような組成が未知のものに対しては適用が難しいという欠点がある。さらに、上記(3)の手法によると、多種の希土類元素を含む廃磁石から個々の希土類を回収しようとすると、溶媒抽出やイオン交換処理を繰り返す必要があるなど、煩雑で長時間の精製処理や後処理が欠かせないという欠点がある。このように従来の方法は、回収に要する時間や回収される希土類元素の形態及び回収コスト等の点でなお改善の余地があるものであった。廃棄物から希土類元素をより効率よく、及び/又は、より再利用(リサイクル)し易い形態で回収することができれば非常に有益である。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みて創出されたものであり、多種の希土類元素と鉄とを含む廃棄物から希土類元素を効率よく回収し得る回収する方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の一つの目的は、より再利用し易い形態で希土類元素を回収し得る回収方法を提供することである。また、本発明の他の一つの目的は、そのような回収方法を好適に実現し得る回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明により、二種以上の希土類元素と鉄とを含む廃棄物から希土類金属を効率よく回収する方法が提供される。この回収方法は、溶融塩と、液状の溶融金属とを上下二層にして収容し前記溶融塩中に前記廃棄物を配置した電解槽を用意する工程を包含する。また、前記廃棄物を陽極とし、前記溶融金属を陰極とし、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して、前記廃棄物から前記希土類元素を選択的に溶出させる(典型的には鉄を残したまま希土類元素のみを溶出させる)陽極溶出工程を包含する。さらに、前記溶出した二種以上の希土類元素イオンを電解還元により前記陰極にそれぞれ希土類金属として析出させ、かつ、その析出した二種以上の希土類金属をそれらの比重差により相対的に重い重希土類金属と相対的に軽い軽希土類金属とに分離する陰極析出工程を包含する。
【0009】
ここで、本明細書において「希土類元素」とは、周期表の3族及びランタノイド系列に属する元素のことであり、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho,Er、Tm、Yb、及びLuのことである。ここに開示される回収方法で処理される廃棄物は、上記希土類元素の中から選択された2種以上の元素を含んでいる。このうち、Nd、Dy、Prのうちのいずれか2種以上の組み合わせが好ましく、特にNdとDyとの2種の組み合わせが好ましい。
【0010】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、二種以上の希土類元素と鉄とを含む廃棄物を陽極として所定レベルの電圧で電解を行うことにより、廃棄物から鉄を溶出させることなく希土類元素のみを選択的に溶出し得ることを発見し、さらに溶融状態の金属(溶融金属)を陰極として用いることにより、陰極に析出した二種以上の希土類金属をそれらの比重差により相互分離して効率的に回収し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
即ち、ここで開示される回収方法によると、希土類磁石等の廃棄物から鉄を溶解させることなく希土類元素のみを選択的に溶出させるため、陰極において鉄の析出が抑制される。そのため、回収した希土類金属中への鉄成分の混入を少なくすることができる。従って、より純度の高い希土類金属を回収し得る。また、これらの回収物は、塩ではなく金属の形態であるため、希土類磁石等の製造の用途に好適に使用し得る。即ち、廃棄物から希土類元素をより再利用(リサイクル)し易い形態で回収することができる。さらに、陰極に析出した二種以上の希土類金属がそれらの比重差により相互分離されるため、個々の希土類金属を分離する操作(例えば溶媒抽出やイオン交換処理の繰り返し)が不要となり、より簡便に回収処理を行うことができる。そのため、従来に比して、廃棄物から希土類元素を効率よく回収でき、消費エネルギーならびにコストの低減が可能となる。
【0011】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記廃棄物は、前記希土類元素として、前記溶融金属よりも比重が大きい重希土類元素と前記溶融金属よりも比重が小さい軽希土類元素とを含んでおり、前記陰極析出工程において、前記析出した二種以上の希土類金属を前記溶融金属との比重差により前記溶融金属よりも重い重希土類金属と前記溶融金属よりも軽い軽希土類金属とに前記溶融金属を挟んで分離する。かかる構成によると、陰極に析出した二種以上の希土類金属が溶融金属を挟んで上下に分離されるので、より効率よく回収処理を行うことができる。
【0012】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記廃棄物は、前記希土類元素として、少なくともネオジムおよびジスプロシウムを含んでいる。かかる構成によると、ネオジム磁石として有用な希土類元素であるネオジムおよびジスプロシウムを効率よく回収することができる。
【0013】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記陰極析出工程において、前記ジスプロシウムを金属単体として分離する。かかる構成によると、ジスプロシウムをより再利用(リサイクル)し易い形態で回収することができる。即ち、ジスプロシウムのリサイクル効率を向上させることができる。
【0014】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記溶融金属は、前記ジスプロシウムよりも比重が小さくかつ前記ネオジムよりも比重が大きい金属を主体として構成されている。かかる構成によると、陰極に析出したネオジムとジスプロシウムとが溶融金属を挟んで上下に分離されるので、より効率よく回収処理を行うことができる。
【0015】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記溶融金属は、スズおよび/または亜鉛を主体として構成されている。スズおよび亜鉛は、低融点かつ希土類金属が溶解しにくい性質を示すため、本発明の目的に適した溶融金属として好適に使用し得る。
【0016】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記陽極溶出工程における陽極の電位(Ag/0.1(mol/L)Ag:参照電極基準)が、-1.5V~-0.75Vである。かかる電位範囲の陽極析出工程を行うことによって、廃棄物から鉄を残したままジスプロシウムおよびネオジムを選択的に溶出させることができる。-1.2V~-0.85V(典型的には-1.1V~-0.9V)の電位が特に好適である
【0017】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記溶融金属は、スズ、亜鉛、鉛、マグネシウムおよびビスマスの中から選択された少なくとも1種を主体として構成されている。これらの金属は、低融点かつ希土類金属が溶解しにくい性質を示すため、本発明の目的に適した溶融金属として好適に使用し得る。
【0018】
ここで開示される回収方法の好適な一態様では、前記溶融塩は、アルカリ金属の塩化物を主体として構成されている。アルカリ金属の塩化物は、低融点かつ電位窓が広いため、本発明の目的に適した溶融塩として好適に使用し得る。特に、アルカリ金属塩化物の共晶塩を使用することが、融点を下げる(ひいてはエネルギー消費を抑える)観点からは好適である。
【0019】
また、本発明は、ここで開示される希土類金属の回収方法を好適に実現し得る装置を提供する。
即ち、ここで開示される回収装置の一態様は、二種以上の希土類元素と鉄とを含む廃棄物から希土類金属を回収する装置であって、溶融塩と、液状の溶融金属とを上下二層にして収容し前記溶融塩中に前記廃棄物を配置した電解槽と、前記廃棄物を陽極とし、前記溶融金属を陰極とし、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電圧印加手段とを備えている。かかる構成の装置(換言すれば廃棄物からの希土類金属回収装置)によると、上述したような本発明の回収方法を好適に行うことができる。
【0020】
ここで開示される回収装置の好適な一態様では、前記廃棄物の下方には、該廃棄物から滑落した鉄を含む廃棄物残渣を回収するための回収手段が設けられている。電解中に廃棄物の一部が電解槽の底面に滑落し、鉄を含む廃棄物残渣が溶融金属(陰極)に混入する場合があり得るが、上記構成によると、そのような廃棄物残渣の混入を防止することができる。
【0021】
ここで開示される回収装置の好適な一態様では、前記電圧印加手段は、前記廃棄物から前記希土類元素が溶出しかつ前記廃棄物から前記鉄が溶出しないレベルの電圧を印加するように構成されている。また、前記溶融金属は、スズ、亜鉛、鉛、マグネシウムおよびビスマスの中から選択された少なくとも1種を主体として構成されていてもよい。さらに、前記溶融塩は、アルカリ金属の塩化物を主体として構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る回収装置および電解槽を模式的に示す図である。
【図2】Nd、Dy、Feおよびネオジム磁石のアノード分極曲線を示すグラフである。
【図3】(a)は電解試験後におけるネオジム磁石の外観画像であり、(b)は電解試験後における炭素棒の外観画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。

【0024】
ここに開示される回収方法は、二種以上の希土類元素と鉄とを含む廃棄物から希土類金属を回収する方法である。本発明の実施にあたって希土類金属を回収する対象となる廃棄物の構成は特に制限されない。希土類金属を回収する対象となる廃棄物は、二種以上の希土類元素と鉄とを含むものであればよい。ここに開示される回収方法で処理される廃棄物としては、典型的にはハイブリッド自動車や電気自動車のモータ、ハードディスクドライブ、エアコンのコンプレッサー等に用いられている希土類磁石が好適である。希土類磁石の好適例としては、ネオジム(Nd)とジスプロジウム(Dy)と鉄(Fe)とを含有するネオジム磁石が挙げられる。かかるネオジム磁石には、Nd、Dy以外の希土類元素、例えばプラセオジム(Pr)等が含まれてもよい。さらに、ネオジム磁石には、Feおよび希土類元素以外の金属元素あるいは非金属元素が含まれてもよい。例えば、ホウ素(B)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、炭素(C)および窒素(N)のうちの1種または2種以上の元素が含まれてもよい。好適例として、Nd-Dy-Fe-B合金(例えばNd23%~30%、Dy2%~10%、Fe60%~65%、B1%)が挙げられる。ここで開示される回収方法は、このようなNdとDyとFeとBとを含むネオジム磁石に対してより好適に適用することができる。かかるネオジム磁石は、その表面にニッケル等のメッキが施されているものでもよいが、その場合、上記メッキは事前に除去しておくことが好ましい。

【0025】
ここに開示される回収方法は、溶融塩電解法を用い、二種以上の希土類元素と鉄とを含む廃棄物から希土類金属を回収するための処理に関するものである。以下、図1を参照しながら、組成Nd1.4Dy0.6Fe14Bで表される廃ネオジム磁石から希土類金属(即ちDyおよびNd)を回収する手順につき説明するが、本発明の適用対象を限定する意図ではない。図1は、その回収処理を実施するための回収装置100を模式的に示す図である。本実施形態の回収方法は、電解槽用意工程、陽極溶出工程および陰極析出工程を有している。これら工程を概略すれば以下の通りである。

【0026】
(電解槽用意工程)
即ち、電解槽用意工程では、図1に示すように、溶融塩12と、液状の溶融金属14とを上下二層にして収容し溶融塩12中にネオジム磁石(廃棄物)16を配置した電解槽10を用意する。この実施形態では、電解槽10には、比重差により相別化した溶融塩12(上側)と溶融金属14(下側)とが収納されている。即ち、溶融金属14相の上に比重差に基づいて溶融塩12相が形成されている。また、電解槽10の溶融塩12中には、ネオジム磁石16を収容した受け皿(回収手段)18が配置されている。受け皿18は、電解時にネオジム磁石16から滑落した鉄を含む廃棄物残渣を回収するためのものである。また、受け皿18は導電性材料からなり、リード線15に電気的に接続されている。ネオジム磁石16は、導電性受け皿18およびリード線15により電源(電圧印加手段)13に電気的に接続されている。また、溶融金属14はリード線15により電源13に電気的に接続されている。溶融塩12中に配置されるネオジム磁石16は、ある程度の大きさをもった塊状の廃棄物であってもよく、予め細かく粉砕したものであってもよい。ここで開示される回収方法は、ある程度の大きさをもった塊状の廃棄物からも希土類金属を容易に回収し得るため、粉砕等の前処理をしていない塊状の廃棄物に対して特に好適な回収方法であるといえる。ただし、短時間で高効率に処理する観点からは、ネオジム磁石16に対して表面積を高める処理、例えば粉砕処理を事前に行っていてもよい。

【0027】
本実施形態で用いられる溶融塩12としては、イオン伝導性に優れ、かつ電位窓(即ち溶融塩の酸化還元反応が起こらない電位範囲)が広い溶融塩であることが好ましい。また、電解により溶融塩中に溶出した希土類元素がイオンとして安定に存在し得る溶融塩を用いることが好ましい。さらに、希土類元素が酸素存在下で酸化物を生成しないように、酸素元素を含まない溶融塩であることが好ましい。このような条件を満たす溶融塩を特に制限なく用いることができる。かかる溶融塩としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の塩を使用することができる。具体的には、塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)などを使用することが好ましい。中でもLiCl、KCl、NaClなどのアルカリ金属の塩化物の使用が好ましい。これらの溶融塩は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。消費エネルギーを抑制する観点から、これら二種以上を混合して融点を下げた共晶塩を用いることが特に好ましい。例えば融点が1000℃以下(例えば350℃~1000℃)、さらには750℃以下(例えば350℃~700℃)、特には500℃以下(例えば350℃~500℃)の温度範囲にある溶融塩(典型的には共晶塩)を好適に使用し得る。そのような溶融塩の典型例として、LiCl-KCl共晶塩が挙げられる。かかる溶融塩は、真空加熱(例えば200℃)等により事前に脱水処理をしておくことが望ましい。

【0028】
本実施形態で用いられる溶融金属14としては、低融点金属を用いることが好ましい。例えば低融点金属の融点は、概ね1000℃以下が適当であり、好ましくは750℃以下であり、特に好ましくは500℃以下である。また、後述する陰極析出工程において、陰極に析出した希土類金属を比重差により上下に分離し得る低融点金属であることが好ましい。例えば廃棄物に含まれる希土類元素がNdおよびDyである場合、Dyよりも比重が小さくかつNdよりも比重が大きい金属を用いることが好ましい。さらに、希土類金属を析出しやすい性質を有し、かつそれらの析出した希土類金属が溶解しにくい低融点金属であることが好ましい。このような条件を満たす低融点金属を特に制限なく用いることができる。かかる低融点金属としては、例えば、スズ(Sn;融点232℃、比重7.37g/cm)、亜鉛(Zn;融点420℃、比重7.14g/cm)、鉛(Pb;融点328℃、比重11.34g/cm)、マグネシウム(Mg;融点650℃、比重1.74g/cm)、ビスマス(Bi;融点272℃、比重9.78g/cm)などの単一金属またはこれらの2種以上の合金を主体とするものが好ましく用いられる。これらの低融点金属は、所望の比重を有し、かつ希土類金属が溶解しにくい性質を示すため、本発明の目的に適した溶融金属として好適に使用し得る。特にSnおよび/またはZnの使用が好ましい。

【0029】
ここで開示される回収方法では、電解槽10の内部は、溶融塩12と溶融金属14とが共に溶融状態となるように所定温度に加温されている。加温手段としては従来公知のもの(例えば電気炉)を特に制限なく使用することができる。電解槽10内の雰囲気としては特に限定されるものではないが、電解槽10内に水分が混入すると、電解時に酸素が発生して希土類金属が酸化する虞がある。したがって、電解槽10内は水分が存在しない状態としておくことが好ましい。例えば、電解槽10内にアルゴン(Ar)等の不活性ガスを供給することによって、電解槽10内を水分が存在しない状態とすることができる。Ar等の不活性ガスを供給する際には、電解槽10内の水分の供給を完全に遮断しておくことが好ましい。

【0030】
(陽極溶出工程)
陽極溶出工程では、廃棄物16を陽極とし、溶融金属14を陰極とし、陽極16と陰極14との間に電圧を印加して、廃棄物16から鉄を残したまま希土類元素を選択的に溶出させる。即ち、陽極16と陰極14との間に電源13から電流を供給し、廃棄物16から希土類元素(Dy、Nd)のみを電気化学的に溶出させる。この電気化学反応の半反応式は、以下の通りである。
Dy→Dy3++3e
Nd→Nd3++3e
これにより、廃棄物16からDyおよびNdが選択的に取り除かれ、廃棄物16はFeとBを高濃度に含んだ有価物となる。このようにして得られた有価物は、FeとBを高濃度に含むものであることから、例えばフェロボロンとして再利用され得る。

【0031】
上記陽極溶出工程における電圧は、廃棄物から希土類元素が溶出し、かつ、廃棄物から鉄が溶出しないレベルの電圧に設定することが好ましい。具体的には、Ag/0.1(mol/L)Agを参照極としてLiCl-KCl共晶塩に浸したNd、Dy、Fe、ネオジム磁石(NdFe14B)のアノード分極曲線を測定すると、図2に示すようになる。即ち、電位を上げていくと、NdとDyは-2.25Vよりも高い電位(電気化学的に貴な電位)になると電流が流れて溶出がはじまり、逆にFeは-0.75Vよりも低い電位(電気化学的に碑な電位)では電流が流れず溶出が起こらない。また、ネオジム磁石は-1.5Vよりも高い電位になると溶出がはじまることから、-1.5V~-0.75Vの電位では、NdおよびDyのみが溶出すると考えられる。かかる知見から、上記陽極溶出工程における陽極の電位は、Ag/0.1(mol/L)Ag:参照電極を基準として測定して、-1.5V~-0.75V、好ましくは-1.2V~-0.85V、より好ましくは-1.1V~-0.9Vの範囲に設定することが望ましい。かかる電位範囲内で電解を行うことにより、廃棄物から鉄を溶出させることなく希土類元素(Dy、Nd)のみを選択的に溶出させることができる。ここで「廃棄物から鉄を溶出させることなく希土類元素のみを選択的に溶出させる」とは、廃棄物から鉄が全く溶出しないことを意味するものではなく、電解前における廃棄物中の鉄の全質量に対して、電解により溶出した鉄の割合が5質量%以下に抑制されていることを意味するものとする。

【0032】
上記陽極溶出工程の電気量としては100C/cm~500C/cm程度が好ましい。電気量が少なすぎる場合は、溶出不十分により、希土類金属の回収が不十分になる場合がある。また、電気量が多すぎる場合は、作用効果の面からは特に問題ないが消費エネルギー及びコスト的に好ましくない。従って、前記陽極溶出工程の電気量は概ね100C/cm~500C/cmが適当であり、好ましくは200C/cm~400C/cmであり、特に好ましくは250C/cm~350C/cmである。また、上記陽極溶出工程の電解時間としては、廃棄物量、浴温、溶融塩の種類などによっても異なり得るが、通常は300秒以上にすることが適当であり、好ましくは600秒以上であり、特に好ましくは800秒以上である。一方、電解時間が長すぎる場合は、作用効果の面からは特に問題ないが消費エネルギー及びコスト的に好ましくない。従って、概ね2000秒以下に設定することが適当である。このような電気量及び電解時間の範囲内であると、廃棄物から希土類元素を短時間で高効率に溶出させることができる。

【0033】
(陰極析出工程)
陰極析出工程では、溶融塩中に溶出した希土類元素イオンを電解還元により陰極14にそれぞれ希土類金属として析出させ、かつ、その析出した二種以上の希土類金属をそれらの比重差により相対的に重い重希土類金属と相対的に軽い軽希土類金属とに分離する。この実施形態では、溶出した希土類元素イオン(Dy3+およびNd3+)を電解還元により陰極14にそれぞれ希土類金属(DyおよびNd)として電気化学的に析出させる。この電気化学反応の半反応式は、以下の通りである。
Dy3++3e→Dy
Nd3++3e→Nd
その際、析出した希土類金属のうち溶融金属14よりも重い重希土類金属(Dy)17Aは、溶融金属14との比重差により溶融金属14の下部に次第に沈降していくようになる。一方、溶融金属14よりも軽い軽希土類金属(Nd)17Bは、溶融金属14との比重差により溶融金属14の上部に次第に浮上していくようになる。すなわち、析出した希土類金属は、溶融金属14との比重差に基づいて徐々に重希土類金属(Dy)17Aと軽希土類金属(Nd)17Bとに溶融金属14を挟んで分離する。このように相互分離した希土類金属17A、17Bを陰極析出物として回収することができる。これら回収物から再び所望する化合物(例えばネオジム磁石)を形成することができる。なお、上記回収物は、希土類金属(金属単体)の形態であることが好ましいが、一部に合金(典型的には希土類金属と溶融金属との合金、例えばNdとSnとの合金、NdとZnとの合金等)を含む形態であってもよい。それら合金の回収物に占める割合は、50質量%以下(例えば30質量%以下、典型的には10質量%以下)であることが好ましい。かかる合金は、例えば真空加熱することにより金属単体に容易に分離することができる。

【0034】
以上説明したように、本実施形態によると、ネオジム磁石等の廃棄物から鉄を溶解させることなく希土類元素のみを選択的に溶出させるため、陰極において鉄の析出が抑制される。そのため、回収した希土類金属中への鉄成分の混入を少なくすることができる。従って、より純度の高い希土類金属を回収し得る。これらの回収物は、ネオジム磁石等の製造の用途に好適に使用し得る。このように、本実施形態によると、ネオジム磁石等の廃棄物に含まれる希土類元素を有用性の高い形態で回収することができる。また、それらの回収物を有効に再利用することができる。

【0035】
また、本実施形態によると、陽極溶出工程において希土類元素が溶出した後の廃棄物は、FeやBを高濃度に含むものとなる。そのため、本実施形態によると、希土類金属の高効率な回収のみならず、従来の技術では廃棄物や有害元素として処理されるFeやBを有価物(例えばフェロボロン)として再利用することができる。この点からも、画期的なリサイクル技術であると云える。

【0036】
さらに、本実施形態によると、陰極析出工程において析出したネオジムとジスプロシウムとが溶融金属14との比重差により上下に分離される。そのため、個々の希土類金属を分離する操作(例えば溶媒抽出やイオン交換処理の繰り返し)が不要となり、より簡便に回収処理を行うことができる。そのため、従来に比して、廃棄物から希土類金属を効率よく回収でき、消費エネルギーならびにコストの低減が可能である。

【0037】
なお、回収処理の対象となり得るネオジム磁石は、使用済み製品から分解回収したネオジム磁石だけでなく、例えばネオジム磁石の製造工程から生じ得る製品不適合磁石、切断屑、或いは不要製品(例えば未使用であっても不要となった製品)から分解回収したネオジム磁石等であってもよい。さらに、上述した実施形態では、ネオジム磁石からNdおよびDyを回収する場合を例示したが、勿論その他の希土類元素を回収することもできる。この場合、回収する希土類元素の種類に応じて、使用する溶融金属、溶融塩等の材料を適切に選択するとよい。本発明によれば、希土類元素の種類に関係なく、従来の手法では分離の困難な希土類元素相互の分離が可能であり、有益である。

【0038】
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。

【0039】
<試験1>
(アノード分極曲線測定)
ネオジム磁石を構成する各元素がどの電位で溶出するかを調査するために、ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、鉄(Fe)の純物質と、ネオジム磁石(NdFe14B)のアノード分極曲線を測定した。対極には高純度グラファイト電極を使用した。参照極としてはAg/0.1(mol/L)Agを肉厚1.0mmのムライト保護管に収容したものを用いた。溶融塩は、脱水したLiCl-KCl(59.2-40.8mol%)共晶塩を用いた。浴温は450℃で維持し、電解槽10内はArガス雰囲気とした。電気化学測定はポテンショスタットを用いた。掃引速度については、Nd、Dy、Feでは5mV/sとし、ネオジム磁石では1mV/sとした。結果を図2に示す。

【0040】
図2に示されるように、NdとDyとは-2.25V付近で電位の立ち上がりが確認された。ネオジム磁石の立ち上がり電位は-1.5V付近であり、Feは-0.75V付近であった。この結果から、NdとDyは-2.25Vよりも高い電位になると溶出が始まり、逆にFeは-0.75Vよりも低い電位では溶出しないと考えられる。また、ネオジム磁石は-1.5Vよりも高い電位になると溶出が始まるため、-1.5V~-0.75Vの電位では、NdおよびDyの選択的な溶出が可能であると考えられる。

【0041】
<試験2>
(定電位電解試験)
ネオジム磁石(Nd14.3Dy1.5Pr7.0Fe75.71.5)を陽極とし、炭素棒を陰極として、-1.0Vで定電位電解を実施した。ネオジム磁石は、市販のハードディスクを解体して取り出したものを用いた。ネオジム磁石の表面のNiめっきは予め除去しておき、粉砕等の処理は行わなかった。参照極としてはAg/0.1(mol/L)Agを肉厚1.0mmのムライト保護管に収容したものを用いた。溶融塩は脱水したLiCl-KCl(59.2-40.8mol%)共晶塩を用いた。電解槽における浴温は450℃とし、電解槽内はArガス雰囲気とした。電気量は凡そ238C/cm、電解時間は凡そ800秒とした。電解試験後のネオジム磁石(陽極)の画像を図3(a)に示す。また、電解試験後の炭素棒(陰極)の画像を図3(b)に示す。

【0042】
図3(a)に示すように、陽極に用いたネオジム磁石は、縦方向に層状に剥離し、その一部が電解槽の底面に滑落していた。ネオジム磁石においては、希土類元素(Nd、Dy)がFeとBとを結着する結着剤としての役割を果たしていると考えられる。電解が進むにつれて結着剤として機能する希土類元素が溶出して減少したため、結着力不足が生じ、上記剥離が生じたものと考えられる。本回収方法では、電解中に剥離が生じてネオジム磁石が細分化されるため、粉砕等によって比表面積を増大させる処理を行う必要はない。すなわち、本回収方法は、粉砕等の前処理をしていないネオジム磁石に対しても好適に適用することができる。

【0043】
図3(b)に示すように、電解試験後の炭素棒(陰極)の表面には、金属光沢を有する陰極析出物が確認された。この陰極析出物を酸性溶液に溶解させ、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled
Plasma Atomic Emission Spectrometry:ICP-AES)を用いて成分分析を行った。また、電解試験後のネオジム磁石、ネオジム磁石から滑落した沈殿物(磁石の一部)および溶融塩に含まれるNd、Dy、Pr、FeおよびBの濃度(mol%)を測定した。結果を表1に示す。

【0044】
【表1】
JP0006057250B2_000002t.gif

【0045】
電解試験後のネオジム磁石やネオジム磁石から滑落した磁石の一部と思われる沈殿物中のFe濃度は、電解前よりも増加しているのに対し、希土類元素の濃度は低下していた。一方、陰極析出物中の大部分は希土類元素であり、Fe濃度は1mol%にも満たなかった。この結果から、-1.0Vで定電位電解を行うことにより、ネオジム磁石から鉄を残したまま希土類元素を選択的に溶出し得ることが確認された。また、溶出した希土類元素を陰極にそれぞれ析出させ、陰極析出物として回収し得ることが確認された。さらに、回収物中のFe濃度は1mol%以下であり、回収物中へのFe成分の混入を抑制し得ることが確認された。

【0046】
<試験3>
(比重差による分離試験)
図1に記載の電解槽において、陽極にネオジム磁石、陰極に溶融スズ(溶融金属)を用いて定電位電解試験を行った。ネオジム磁石としては、Nd14.3Dy1.5Pr7.0Fe75.71.5を用いた。溶融塩は脱水したLiCl-KCl(59.2-40.8mol%)共晶塩を用いた。浴温は450℃で維持し、電解槽10内はArガス雰囲気とした。その状態において、陽極および陰極に通電して、-1.0Vで238C/cmの定電位電解を800秒間実施した。その結果、陰極に析出物が生成し、その一部は溶融スズとの比重差により落下して陰極の下部に蓄積した。また、陰極析出物の一部は溶融スズとの比重差により浮遊して陰極の上部に堆積した。陰極の下部に蓄積した陰極析出物を採取して成分分析したところ、Dyの金属単体であることが確かめられた。また、陰極の上部に蓄積した陰極析出物を採取して成分分析したところ、Nd金属(金属単体)およびPr金属(金属単体)が主体として存在し、一部に合金(NdとSnとの合金等)が含まれていることが確認された。これらの結果から、陰極に溶融スズを用いることにより、従来の手法では分離が困難な希土類金属相互の分離が可能であることが確かめられた。

【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10 電解槽
12 溶融塩
13 電源
14 溶融金属(陰極)
15 リード線
16 ネオジム磁石(陽極)
17A 重希土類金属
17B 軽希土類金属
18 導電性受け皿
100 回収装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2