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明細書 :脳腫瘍に特異的に結合するペプチドおよびその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5803012号 (P5803012)
公開番号 特開2012-250923 (P2012-250923A)
登録日 平成27年9月11日(2015.9.11)
発行日 平成27年11月4日(2015.11.4)
公開日 平成24年12月20日(2012.12.20)
発明の名称または考案の名称 脳腫瘍に特異的に結合するペプチドおよびその用途
国際特許分類 C07K   5/065       (2006.01)
C07K   5/02        (2006.01)
A61K  47/48        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
FI C07K 5/065 CSP
C07K 5/02
A61K 47/48
A61K 47/42
A61P 35/00
A61K 49/00 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 18
出願番号 特願2011-123430 (P2011-123430)
出願日 平成23年6月1日(2011.6.1)
審査請求日 平成26年5月22日(2014.5.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】北松 瑞生
【氏名】山本 貴博
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
審査官 【審査官】爾見 武志
参考文献・文献 国際公開第2007/043048(WO,A2)
国際公開第2006/013552(WO,A2)
調査した分野 C07K 5/065
A61K 47/42
A61K 47/48
A61K 49/00
A61P 35/00
C07K 5/02
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(1)、(3)および(4)のいずれかの非天然アミノ酸配列を有する二量体非天然ペプチド。
Bph-2Np (1)
Bph-Aib (3)
Bph-Thi (4)
ここで、Bphはβ-(4-ビフェニル)-アラニンであり、2NpはN-β-(2-ナフチル)-アラニンであり、Aibはα-アミノイソブチル酸であり、ThiはN-β-(2-チエニル)-アラニンである。
【請求項2】
請求項1に記載の非天然ペプチドと、そのC末端側に結合したもう一つの非天然アミノ酸からなる、三量体非天然ペプチド。
【請求項3】
下記(5)または(6)の非天然アミノ酸配列を有する、請求項2に記載の三量体非天然ペプチド。
Bph-2Np-Sar (5)
Bph-2Np-Amb (6)
ここで、Bphはβ-(4-ビフェニル)-アラニンであり、2NpはN-β-(2-ナフチル)-アラニンであり、Sarはサルコシンであり、Ambはp-アミノメチル安息香酸である。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の非天然ペプチドと、これに連結された蛍光性アミノ酸とからなる複合体。
【請求項5】
前記蛍光性アミノ酸が、3-(9-オキソ-9,10-ジヒドロ-アクリジン-2-イル)アラニン(Acd)、N-ε-(フルオルセイン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Fam)、N-ε-(テトラメチルローダミン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Tmr)、3-(1-ピレニル)アラニン(Pyr)、N-δ-(10-オキソ-2,3,5,6-テトラヒドロ-1H,4H,10H-11-オキサ-3-アザ-ベンゾ[de]アンスラセン-9-カルボニル)-オルニチン(Cm3)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Moc)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mca)、N-ε-(7-ヒドロキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Hoc)、N-ε-(7-ヒドロキシ-4-メチル-クマリン-3-イル)アセチル-リシン(Hmc)、またはN-ε-(7-ジメチルアミノ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mac)である、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
請求項4または5に記載の複合体からなる、脳腫瘍細胞の標識試薬。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の非天然ペプチドと、これに連結された脳腫瘍の診断もしくは治療用の薬剤類とからなる複合体を含有する、脳腫瘍の診断用または治療用の医薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物等を標的部位まで運搬する技術であるドラッグデリバリーシステム(DDS)に関する。より詳細には、本発明は、ペプチドを用いる、脳腫瘍を対象とするDDSに関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療において、薬物等を標的癌細胞(標的癌組織)まで運搬する技術はドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼ばれる。DDSは、薬物等に連結してそれを標的に送達させるための、先導となる物質を必要とする。従来は、そのような先導物質として、標的癌細胞の細胞膜に特異的ないし大量に発現しているタンパク質(抗原)に対応する抗体などが用いられていた。たとえば特許文献1には、抗CD70抗体を上述のような先導物質として用いた、癌(腎臓腫瘍、B細胞リンパ腫、胸腺癌種、上咽頭癌種、脳腫瘍など)を対象とする抗体/医薬複合体が記載されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特表2006-518753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来のDDSに用いられている抗体(モノクローナル抗体)を大量に安定供給するには相当の技術を要し、コストもかかる。もしも、そのような抗体を人工的に合成することができれば廉価に大量供給することができるかも知れないが、従来のペプチド合成法では抗体のような長いペプチドを作製することは難しい。
【0005】
本発明は、脳腫瘍を標的とするDDSにおける先導物質等として使用することができ、抗体等に比べて効率的に製造することができる、脳腫瘍細胞に特異的に結合する物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、人工的に容易に合成できる、わずか2ないし3個程度の非天然アミノ酸からなるペプチド(非天然ペプチド)の中に、脳腫瘍に対する選択性に極めて優れたものが存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は次の発明を包含する。
[1]下記(1)~(4)のいずれかの非天然アミノ酸配列を有する二量体非天然ペプチド。
Bph-2Np (1)
Bph-Bph (2)
Bph-Aib (3)
Bph-Thi (4)
【0008】
ここで、Bphはβ-(4-ビフェニル)-アラニンであり、2NpはN-β-(2-ナフチル)-アラニンであり、Aibはα-アミノイソブチル酸であり、ThiはN-β-(2-チエニル)-アラニンである。
【0009】
[2][1]に記載の非天然ペプチドと、そのC末端側に結合したもう一つの非天然アミノ酸からなる、三量体非天然ペプチド。
[3]下記(5)または(6)の非天然アミノ酸配列を有する、[2]に記載の三量体非天然ペプチド。
Bph-2Np-Sar (5)
Bph-2Np-Amb (6)
ここで、Bphはβ-(4-ビフェニル)-アラニンであり、2NpはN-β-(2-ナフチル)-アラニンであり、Sarはサルコシンであり、Ambはp-アミノメチル安息香酸である。
【0010】
[4][1]~[3]のいずれか一項に記載の非天然ペプチドと、これに連結された蛍光性アミノ酸とからなる複合体。
[5]前記蛍光性アミノ酸が、3-(9-オキソ-9,10-ジヒドロ-アクリジン-2-イル)アラニン(Acd)、N-ε-(フルオルセイン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Fam)、N-ε-(テトラメチルローダミン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Tmr)、3-(1-ピレニル)アラニン(Pyr)、N-δ-(10-オキソ-2,3,5,6-テトラヒドロ-1H,4H,10H-11-オキサ-3-アザ-ベンゾ[de]アンスラセン-9-カルボニル)-オルニチン(Cm3)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Moc)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mca)、N-ε-(7-ヒドロキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Hoc)、N-ε-(7-ヒドロキシ-4-メチル-クマリン-3-イル)アセチル-リシン(Hmc)、またはN-ε-(7-ジメチルアミノ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mac)である、[4]に記載の複合体。
【0011】
[6][4]または[5]に記載の複合体からなる、脳腫瘍細胞の標識試薬。
[7][1]~[3]のいずれか一項に記載の非天然ペプチドと、これに連結された脳腫瘍の診断もしくは治療用の薬剤類とからなる複合体を含有する、脳腫瘍の診断用または治療用の医薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明の非天然ペプチドは、少数の非天然アミノ酸のみから合成することができ、生産効率に優れるものでありながら、脳腫瘍細胞に対する優れた選択性を有する。このような本発明の非天然ペプチドは、薬剤や診断薬(蛍光標識体)などと簡単に連結させることができ、そのような各種の物質を脳腫瘍に送達させることができるため、脳腫瘍を標的とするDDSを構築することが可能となる。また、本発明ではペプチドの作製に非天然アミノ酸を用いているため、天然アミノ酸を用いているペプチドと異なり、生体内でプロテアーゼによる分解を受けず、生体に投与する医薬等の用途において好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例における、蛍光検出型ペプチドスクリーニング法に用いた10種類の蛍光性アミノ酸(蛍光タグ)の化学構造(N末端はFmoc基で表記した)。括弧内の数値は励起波長(nm)/蛍光波長(nm)を示している。以下のように省略した。Acd: 3-(9-オキソ-9,10-ジヒドロ-アクリジン-2-イル)アラニン、Fam: N-ε-(フルオルセイン-5,6-イル)カルボニル-リシン、Tmr: N-ε-(テトラメチルローダミン-5,6-イル)カルボニル-リシン、Pyr: 3-(1-ピレニル)アラニン、Cm3: N-δ-(10-オキソ-2,3,5,6-テトラヒドロ-1H,4H,10H-11-オキサ-3-アザ-ベンゾ[de]アンスラセン-9-カルボニル)-オルニチン、Moc: N-ε-(7-メトキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン、Mca: N-ε-(7-メトキシ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン、Hoc: N-ε-(7-ヒドロキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン、Hmc: N-ε-(7-ヒドロキシ-4-メチル-クマリン-3-イル)アセチル-リシン、Mac: N-ε-(7-ジメチルアミノ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン。
【図2】実施例における、蛍光検出型ペプチドスクリーニング法に用いた10種類の非天然アミノ酸(ペプチドライブラリーを構成するユニット)の化学構造(N末端は第1アミノ基で表記した)。以下のように省略した。Aib: α-アミノイソブチル酸、Amb: p-アミノメチル安息香酸、Bph: β-(4-ビフェニル)-アラニン、Dap: N-α,β-ジアミノプロピオン酸、Hyp: trans-L-ヒドロキシプロリン、2Np: N-β-(2-ナフチル)-アラニン、Pic:ピペリジン-4-カルボン酸、3Pr: N-3-(3-ピリジル)-アラニン、Sar:サルコシン、Thi: N-β-(2-チエニル)-アラニン。
【図3】実施例における、蛍光検出型ペプチドスクリーニング法に用いた蛍光ペプチドのリンカーの化学構造(N末端は第1アミノ基で表記した)。本文中ではSp6と略記されている。
【図4】Pyr-Bph-2Np-Sarの化学構造式(上)。CPKモデル(下)。
【図5】実施例合成した蛍光ペプチドライブリーのMALDI-TOF Massスペクトルの一例。
【図6】実施例における、蛍光検出型ペプチドスクリーニング法による蛍光ペプチドサブライブラリーのスクリーニング(第1ラウンド)。蛍光ペプチドサブライブリー(第1ラウンド)の構造はAc-Fl-Sp6-X1-X2-X3-NH2である。横軸上段の省略記号はX1のアミノ酸ユニットを示す。横軸下段の省略記号はFlを示す。縦軸はアッセイした全細胞に対して結合していた蛍光ペプチドの量を示す。白いバーはA431細胞の結果、灰色のバーはMCF7細胞、黒いバーはU87MG細胞の結果を示す。
【図7】実施例における、蛍光検出型ペプチドスクリーニング法による蛍光ペプチドサブライブラリーのスクリーニング(第2ラウンド)。蛍光ペプチドサブライブリー(第2ラウンド)の構造はAc-Fl-Sp6-Bph-X2-X3-NH2である。横軸上段の省略記号はX2のアミノ酸ユニットを示す。横軸下段の省略記号はFlを示す。縦軸はアッセイした全細胞に対して結合していた蛍光ペプチドの量を示す。白いバーはA431細胞の結果、灰色のバーはMCF7細胞、黒いバーはU87MG細胞の結果を示す。
【図8】実施例における、蛍光検出型ペプチドスクリーニング法による蛍光ペプチドサブライブラリーのスクリーニング(第3ラウンド;最終ラウンド)。蛍光ペプチドサブライブリー(第3ラウンド)の構造はAc-Fl-Sp6-Bph-2Np-X3-NH2である。横軸上段の省略記号はX3のアミノ酸ユニットを示す。横軸下段の省略記号はFlを示す。縦軸はアッセイした全細胞に対して結合していた蛍光ペプチドの量を示す。白いバーはA431細胞の結果、黒いバーはU87MG細胞の結果を示す。
【図9】実施例における、蛍光検出型ペプチドスクリーニング法によるU87MG細胞へ特異的に結合する非天然ペプチドのスクリーニングのまとめ。蛍光ペプチドの構造はAc-Fl-Sp6-X1-X2-X3-NH2である。横軸上段の省略記号、Bph-X-X、Bph-2Np-X、Bph-2Np-Sarはそれぞれのラウンドで選ばれたペプチドを示している。白いバーはA431細胞の結果、灰色のバーはMCF7細胞、黒いバーはU87MG細胞の結果を示す。
【図10】実施例における、U87MG細胞およびA431細胞とともに培養した脳腫瘍細胞結合性ペプチド(Pyr-Bph-2Np-Sar)、非天然ペプチド配列をシャッフルした配列(Pyr-Sar-Bph-2Np)および非天然ペプチドが無いペプチド(Pyr: 化学構造はAc-Pyr-Sp6-NH2)の各細胞への結合量。濃い灰色バーはPyr-Bph-2Np-Sarの結果、薄い灰色のバーはシャッフル配列(Pyr-Sar-Bph-2Np)の結果、少し濃いバーはAc-Pyr-Sp6-NH2の結果を示す。
【図11】実施例における、U87MG細胞、A431細胞およびHLF-1細胞とともに培養した脳腫瘍細胞結合性ペプチド(Pyr-Bph-2Np-Sar)の各細胞への結合量。
【図12】本発明(実施例)で見つかった脳腫瘍結合性ペプチド(Bph-2Np-Sar)の化学構造式(左)。N末端はフリーアミノ基として表示されている。そのCPKモデル(右)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
-非天然ペプチド-
本発明は一つの側面において、脳腫瘍細胞に特異的に結合する非天然アミノ酸からなるペプチド(非天然ペプチド)を提供する。

【0015】
「脳腫瘍」には、神経膠腫(星状細胞腫、希突起グリオーマ、多形グリア細胞腫)、髄芽腫、髄膜腫、腺腫(アデノーマ)、脊索腫、頭蓋咽頭腫、類皮嚢胞および類表皮腫、上衣細胞腫、生殖細胞腫瘍(胚細胞腫を含む)、血管芽腫、骨腫、骨肉腫、松果体腫、下垂体腺腫、肉腫などが包含される。本発明に係る非天然ペプチドは、これらの脳腫瘍の細胞を対象としうるが、特に神経膠腫の細胞を対象とすることが好適である。

【0016】
また、本発明において非天然ペプチドが「脳腫瘍に特異的に結合する」とは、脳腫瘍の細胞(代表的にはU87MG細胞)に対する結合量が、正常細胞および他の腫瘍細胞(ヒト上皮がん細胞(代表的にはA431細胞)、ヒト乳癌細胞(代表的にはMCF7細胞)等)に対する結合量よりも、好ましくは2倍以上、より好ましくは4倍以上、特に好ましくは8倍以上高いことをいう。

【0017】
また、本発明において、脳腫瘍細胞への非天然ペプチドの結合量は、上記のような他の細胞と比較したときの相対的な結合量のみならず、脳腫瘍細胞への絶対的な結合量も重要である。たとえば、後述する実施例の測定条件下、すなわち60mmディッシュにほぼコンフルエント状態で培養された脳腫瘍細胞(U87MG細胞)に対する結合量は、好ましくは30pmol以上、より好ましくは100pmol以上、特に好ましくは500pmol以上である。

【0018】
本発明による二量体非天然ペプチド(以下「本発明のジペプチド」と称することもある。)は、下記(1)~(4)のいずれかの非天然アミノ酸配列を有する。
Bph-2Np (1)
Bph-Bph (2)
Bph-Aib (3)
Bph-Thi (4)

【0019】
ここで、Bphはβ-(4-ビフェニル)-アラニンであり、2NpはN-β-(2-ナフチル)-アラニンであり、Aibはα-アミノイソブチル酸であり、ThiはN-β-(2-チエニル)-アラニンである。
本発明のジペプチドのうち、(1)のアミノ酸配列(Bph-2Np)を有するものは、他のアミノ酸配列を有するものよりも脳腫瘍細胞に特異的に結合する能力が高いため好ましい。

【0020】
本発明のジペプチドは、これ自体が脳腫瘍細胞に対して一定の特異的な結合能を有するためそのまま使用することも可能であるし、さらにいくつかのアミノ酸を結合させて使用することも可能である。その際に結合させるアミノ酸は非天然アミノ酸が好ましいが、天然アミノ酸であってもよい。本発明のジペプチドを含む適切な長さのペプチド(好ましくはアミノ酸数が10以下、より好ましくは5以下のオリゴペプチド)であって、脳腫瘍細胞に特異的に結合する能力を有するものは、本発明のジペプチドを利用する発明に該当する。上記の「ジペプチド」を、次に述べる「トリペプチド」に置き換えても同様のことがいえる。

【0021】
たとえば、本発明のジペプチドと、もう一つの非天然アミノ酸、好ましくはC末端側に結合したもう一つの非天然アミノ酸からなる、三量体非天然ペプチド(以下「本発明のトリペプチド」と称することもある。)は、本発明のジペプチドよりも脳腫瘍細胞に対する特異的な結合能を高めることができる、本発明の好ましい一態様である。

【0022】
上記「非天然アミノ酸」は、公知の非天然アミノ酸から任意のものを選択することができるが、たとえば、α-アミノイソブチル酸(Aib)、p-アミノメチル安息香酸(Amb)、β-(4-ビフェニル)-アラニン(Bph)、N-α,β-ジアミノプロピオン酸(Dap)、trans-L-ヒドロキシプロリン(Hyp)、N-β-(2-ナフチル)-アラニン(2Np)、ピペリジン-4-カルボン酸(Pic)、N-3-(3-ピリジル)-アラニン(3Pr)、サルコシン(Sar)、N-β-(2-チエニル)-アラニン(Thi)の中から選択することができる。

【0023】
本発明による好ましいトリペプチドとしては、下記(5)または(6)の非天然アミノ酸配列を有するものが挙げられる。
Bph-2Np-Sar (5)
Bph-2Np-Amb (6)
ここで、Bphはβ-(4-ビフェニル)-アラニンであり、2NpはN-β-(2-ナフチル)-アラニンであり、Sarはサルコシンであり、Ambはp-アミノメチル安息香酸である。

【0024】
特に、(5)の非天然アミノ酸配列(Bph-2Np-Sar)を有するトリペプチドは、本発明における、脳腫瘍細胞に対する特異的な結合性に最も優れたトリペプチドの一つである。

【0025】
なお、上記の非天然ペプチド(ジペプチド、トリペプチド)に含まれる一または複数の各非天然アミノ酸は、化学的な性質が類似する非天然アミノ酸によって置換できる可能性がある。このような「保存的置換」は天然アミノ酸について公知であり、本発明における非天然アミノ酸についてもそれに準じて、たとえば側鎖の電荷、親水性・疎水性、芳香族性などを考慮して、本発明の作用効果を奏する範囲で、他の非天然アミノ酸で置換してもよい。

【0026】
上記のような本発明の非天然ペプチド(ジペプチド、トリペプチド)およびそれをさらに伸長させたペプチドは、公知の手法により合成することができる。たとえば、Fmocペプチド固相合成法は、非天然ペプチドを合成することのできる代表的な手法として公知慣用であり、本発明における利用にも好適である。

【0027】
-複合体-
本発明は一つの側面において、上述したような本発明の非天然ペプチドと、これに連結された、脳腫瘍細胞に送達させるための各種の物質とからなる複合体を提供する。

【0028】
一つの態様において、本発明はそのような複合体として、上述したような本発明の非天然ペプチドと、これに連結された蛍光性アミノ酸とからなる複合体を提供する。
上記「蛍光性アミノ酸」は、公知の蛍光性アミノ酸から任意のものを選択することができるが、たとえば、3-(9-オキソ-9,10-ジヒドロ-アクリジン-2-イル)アラニン(Acd)、N-ε-(フルオルセイン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Fam)、N-ε-(テトラメチルローダミン-5,6-イル)カルボニル-リシン(Tmr)、3-(1-ピレニル)アラニン(Pyr)、N-δ-(10-オキソ-2,3,5,6-テトラヒドロ-1H,4H,10H-11-オキサ-3-アザ-ベンゾ[de]アンスラセン-9-カルボニル)-オルニチン(Cm3)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Moc)、N-ε-(7-メトキシ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mca)、N-ε-(7-ヒドロキシ-クマリン-3-イル)カルボニル-リシン(Hoc)、N-ε-(7-ヒドロキシ-4-メチル-クマリン-3-イル)アセチル-リシン(Hmc)、N-ε-(7-ジメチルアミノ-クマリン-4-イル)アセチル-リシン(Mac)の中から選択することができる。

【0029】
上記複合体中、非天然ペプチドと蛍光性アミノ酸とは、スペーサー(リンカー)を介して連結していてもよい。そのためのスペーサーとしては公知のものを用いることができ、化学的構造や長さは適切なものを選択することができるが、本発明の非天然ペプチドの脳腫瘍細胞に対する特異的な結合性に影響(少なくとも悪影響)を与えないものが適当である。また、スペーサーは、本発明の複合体が脳腫瘍細胞に送達して所定の機能を果たすために、細胞外環境においては切断等の影響を実質的に受けないものが適切であるが、そのスペーサーは細胞内環境(たとえば、リソソーム、エンドソーム、カベオラ等の内部)においては切断可能なものであってもよい。

【0030】
-用途-
本発明はさらなる側面において、本発明の非天然ペプチドと、これに連結された脳腫瘍の診断用もしくは治療用の薬剤類とからなる複合体を含有する、脳腫瘍の診断用または治療用の医薬を提供する。

【0031】
換言すれば、本発明は、脳腫瘍の診断用または治療用の医薬の製造のための、本発明の非天然ペプチドないし本発明の複合体の使用(方法)を提供する。あるいは、本発明は、本発明の非天然ペプチドないし本発明の複合体を投与する工程を含む、脳腫瘍の診断または治療のための使用(方法)を提供する。上記のような医薬ないし使用(方法)は、投与ないし適用の対象を、脳腫瘍を有するまたは有するおそれのあるヒトまたはそれ以外の動物(好ましくは哺乳動物)、あるいはそれらから採取した生体物質とすることができる。

【0032】
上述したような、本発明の非天然ペプチドと、これに連結された蛍光性アミノ酸とからなる本発明の複合体は、上記の診断用の医薬(標識試薬ないしプローブ)のために使用することのできる複合体の代表例である。脳腫瘍細胞を標識するために、蛍光性アミノ酸ではなく、蛍光色素、量子ドット等、その他の蛍光体を当該複合体中に用いることもできる。それらの蛍光体も、天然アミノ酸からなるペプチドに連結させるための公知の手法と同様にして、本発明の非天然アミノ酸からなるペプチドに連結させることができる。なお、このような蛍光性アミノ酸などの蛍光体も、上記「薬剤類」に包含される。

【0033】
また、脳腫瘍の治療用の薬剤類を本発明の非天然ペプチドに連結させることにより、脳腫瘍の治療用の医薬として使用することができる。この場合の「薬剤類」としては、脳腫瘍の治療用の公知のものを用いることができ、たとえば、化学療法剤、プロドラッグ変換酵素、放射性同位体もしくは化合物、トキシンなどの細胞毒性剤が挙げられる。

【0034】
薬剤類が比較的分子量の低い化合物である場合は、当該薬剤を本発明のペプチドに連結させ、複合体を調製することが可能である。薬剤は、その化学的な構造に応じた公知の手法により、本発明の非天然ペプチドに連結させることができる。

【0035】
このような本発明の医薬は、必要に応じて、公知の手法により、製薬学的に許容しうるキャリア、賦形剤、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤等を含む医薬組成物として調製することが可能であり、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸薬、カプセル、粉剤、除法処方物等の剤形をとることが可能である。また、本発明の医薬の投与方法や投与量も、使用する薬剤類に応じて適切に調整すればよい。

【0036】
あるいは、典型的なDDSにおける使用の態様として、薬剤を内包ないし担持する微小なカプセル(たとえばリポソーム)の表面に本発明のペプチドを連結し、これを医薬として使用することが挙げられる。そのような薬剤内包微小カプセルも上記「薬剤類」の一態様に包含される。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
1-1: 蛍光色素を含むペプチドライブラリーの合成
本発明の蛍光検出型ペプチドスクリーニングを行なうために、蛍光性アミノ酸を含んだペプチドライブラリーを合成した。これらはいずれも慣例法であるFmocペプチド固相合成法により得られた。図1のTmrおよびFamはABD Bioquest社からFmoc誘導体として購入した。それ以外の図1および図2の蛍光性アミノ酸(Fmoc誘導体)、非天然アミノ酸(Fmoc誘導体)およびFmocペプチド固相合成法に必要な試薬類は渡辺化学工業から購入した。図3のリンカー(Sp6)はMerckより購入した。実施例に用いたアミノ酸類で光学活性なものについてはいずれもL体である。
【実施例】
【0038】
具体的に、蛍光ペプチドライブラリーの合成は以下のように行なった。合成に用いた樹脂はFmoc-NH-SAL PEG resin (0.24 mmol/g)で、まず、樹脂を膨潤させるためジメチルホルムアミド(DMF)中で3時間~1晩、室温で放置した。脱保護試薬として20%ピペリジン DMF溶液、カップリング溶液としてHBTU/NMM DMF溶液を用いた。合成は手合成で行ない、樹脂はDMFで洗浄した後、脱保護を行ない、次いでカップリングという操作を1サイクルとした。このサイクルを繰り返すことで樹脂表面上にペプチドを伸長させた。目的の配列まで伸長したペプチドの樹脂はキャッピング操作(樹脂を5%無水酢酸 DMF溶液に10分間さらし、N末端をアセチル化する)の後、トリフルオロ酢酸/水/イソプロピルシラン(= 95/2.5/2.5 (v/v/v))を加えて、ペプチドを切り出した。樹脂から切り出したペプチドの溶液はN2ガスで風乾後、DMSO溶液として冷凍庫に保管した。本実施例では以下のようなペプチドを合成した。蛍光ペプチドの略称および配列を以下に示す。
1. Tmr-2Np: Ac-Tmr-Sp6-2Np-X2-X3-NH2
2. Moc-Dap: Ac-Moc-Sp6-Dap-X2-X3-NH2
3. Cm3-Bph: Ac-Cm3-Sp6-Bph-X2-X3-NH2
4. Hmc-Aib: Ac-Hmc-Sp6-Aib-X2-X3-NH2
5. Pyr-Thi: Ac-Pyr-Sp6-Thi-X2-X3-NH2
6. Mca-Amb: Ac-Mca-Sp6-Amb-X2-X3-NH2
7. Fam-Sar: Ac-Fam-Sp6-Sar-X2-X3-NH2
8. Acd-Hyp: Ac-Acd-Sp6-Hyp-X2-X3-NH2
9. Mac-Pic: Ac-Mac-Sp6-Pic-X2-X3-NH2
10. Hoc-3Pr: Ac-Hoc-Sp6-3Pr-X2-X3-NH2
11. Mac-Bph-2Np: Ac-Mac-Sp6-Bph-2Np-X3-NH2
12. Mca-Bph-Dap: Ac-Mca-Sp6-Bph-Dap-X3-NH2
13. Tmr-Bph-Bph: Ac-Tmr-Sp6-Bph-Bph-X3-NH2
14. Pyr-Bph-Aib: Ac-Pyr-Sp6-Bph-Aib-X3-NH2
15. Hoc-Bph-Thi: Ac-Hoc-Sp6-Bph-Thi-X3-NH2
16. Fam-Bph-Amb: Ac-Fam-Sp6-Bph-Amb-X3-NH2
17. Acd-Bph-Sar: Ac-Acd-Sp6-Bph-Sar-X3-NH2
18. Cm3-Bph-Hyp: Ac-Cm3-Sp6-Bph-Hyp-X3-NH2
19. Hmc-Bph-Pic: Ac-Hmc-Sp6-Bph-Pic-X3-NH2
20. Moc-Bph-3Pr: Ac-Moc-Sp6-Bph-3Pr-X3-NH2
21. Mca-Bph-2Np-2Np: Ac-Mca-Sp6-Bph-2Np-2Np-NH2
22. Mac-Bph-2Np-Dap: Ac-Mac-Sp6-Bph-2Np-Dap-NH2
23. Moc-Bph-2Np-Bph: Ac-Moc-Sp6-Bph-2Np-Bph-NH2
24. Acd-Bph-2Np-Aib: Ac-Acd-Sp6-Bph-2Np-Aib-NH2
25. Cm3-Bph-2Np-Thi: Ac-Cm3-Sp6-Bph-2Np-Thi-NH2
26. Hmc-Bph-2Np-Amb: Ac-Hmc-Sp6-Bph-2Np-Amb-NH2
27. Pyr-Bph-2Np-Sar: Ac-Pyr-Sp6-Bph-2Np-Sar-NH2
28. Hoc-Bph-2Np-Hyp: Ac-Hoc-Sp6-Bph-2Np-Hyp-NH2
29. Fam-Bph-2Np-Pic: Ac-Fam-Sp6-Bph-2Np-Pic-NH2
30. Tmr-Bph-2Np-3Pr: Ac-Tmr-Sp6-Bph-2Np-3Pr-NH2
31. Pyr-Sar-Bph-2Np: Ac-Pyr-Sar-Bph-2Np
32. Ac-Pyr-Sp6-NH2
【実施例】
【0039】
ここでAcはペプチドのN末端がアセチル基で保護されていることを示している。蛍光性アミノ酸と3量体の非天然アミノ酸との間には水溶性リンカーであるSp6が導入されている。X2およびX3は今回用いた10種類の非天然アミノ酸の当量混合物となっている。C末端は第1アミドとなっている。蛍光性ペプチドの化学構造の一例としてPyr-Bph-2Np-Sarを図4に示す。
これらの化合物のうち、構造の明確なものについてはMALDI-TOF Massにより同定した(図5)。
【実施例】
【0040】
1-2: 試験方法
ペプチドのスクリーニングは、本発明者らによる蛍光検出型ペプチドスクリーニング法により行なった(M. Kitamatsu et al., Chem. Commun., 46, 761-763 (2010).; M. Kitamatsu et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 20, 5976-5978 (2010).)。実験操作は以下の手順で行った。初めに、ペプチドスクリーニングの3日前に60mm ディッシュ(BD バイオコートコラーゲンIディッシュ 60mm ファルコン cat. 356401)に1×105個の細胞(A431, MCF7, U87MG)を撒いた。なお、本実施例に用いた細胞のうち、A431細胞とは、ヒト上皮がん細胞であり、MCF7細胞とは、ヒト乳がん細胞であり、U87MG細胞とは、ヒトグリア腫細胞(脳腫瘍細胞)である。培地には10% Fetal bovine serum (ニッスイ cat. 171012, Lot. 10D766)とペニシリン-ストレプトマイシン (gibco cat. 15140)を添加した Dulbecco's modified Eagle's medium 高グルコース (Sigma cat. D6429)を用いた。培養は37℃, 5%CO2中で行った。培養後、80%コンフレントになったところでペプチドのスクリーニングを行った。
【実施例】
【0041】
まず、各ラウンドにおける10種類の蛍光ペプチドがそれぞれ最終濃度10μMになるようPBS溶液中に混合し、ペプチドライブラリー溶液を作成した。次に氷上にそれぞれの細胞を培養したディッシュを準備し、4mLのPBSで2回洗浄した。洗浄後、それらのディッシュに1.5mLのペプチドライブラリー溶液(最終濃度10μM)を添加し、1時間インキュベートした。このとき、10分ごとにディッシュを振とうした。インキュベート後、4mLのPBSで20回洗浄した。洗浄液をしっかりと除いた後、細胞全体に満遍なく100μLのGlycine-HCl (pH 3.5)バッファーを100μL加え、ピペットを使って細胞全体にGlycine-HClバッファーをさらした。その後、Glycine-HClバッファーをマイクロチューブへ回収し、少量(5 uL)の2M Tris バッファー (pH 7.4)で中和した。回収液に100uLの無蛍光メタノールを加えた。そして、遠心器(eppendorf centrifuge 5415R)を用いて10,000rpm, 10min, 4℃の条件で遠心し、アッセイ中にはがれてしまった細胞を沈殿させた。遠心後、沈殿させた細胞を吸わないようにピペットマンで測定用のセルに溶液を移した。そして、二次元蛍光測定器(photon design社製)で二次元蛍光スペクトルを測定した。得られたデータから最小二乗法解析ソフトにより溶液中の蛍光ペプチドの含有量を測定した。
【実施例】
【0042】
1-3: 結果
図6は蛍光検出型ペプチドスクリーニング法による第1ラウンドの結果である。10種類の蛍光ペプチドが用いられている。それぞれの蛍光ペプチドの化学構造の一般式はAc-Fl-Sp6-X1-X2-X3-NH2で表わされる(以後、それぞれのペプチドをFl-X1で表記する)。ここでAcはアセチル基(H3C-CO-)を示している。Flは蛍光性アミノ酸ユニットを示しており、Tmr、Moc、Cm3、Hmc、Pyr、Mca、Fam、Acd、Dac、Hocのいずれかである。10種類の蛍光ペプチドでそれぞれ異なる蛍光性アミノ酸が連結している。Sp6はエチレングリコール鎖からなる水溶性のリンカーであり、蛍光性アミノ酸とペプチドライブラリー部分との双方で影響がでないようにするために導入されている。X2およびX3は10種類の非天然アミノ酸ユニットの当量混合物である。X1は10種類の非天然アミノ酸のいずれかであり、10種類の蛍光ペプチドでそれぞれ異なる蛍光性アミノ酸が連結している。A431細胞、MCF7細胞およびU87MG細胞に対して、それぞれの蛍光ペプチドで異なる量が検出された。これは、それぞれの細胞に結合(吸着)しているペプチドの量が、細胞種によって、またそのペプチド配列によって異なることを示している。一部の例外を除いて、いずれの蛍光ペプチドもA431細胞やMCF7細胞よりもU87MG細胞に結合しやすいように見える。この中で、Pyr-ThiはA431細胞、MCF7細胞およびU87MG細胞のいずれにも良く結合することがわかる(それぞれ17 pmol、22 pmolと21 pmol)。また、Cm3-Bph(10 pmol、13 pmolと18 pmol)、Tmr-2Np(6 pmol、6 pmolと9 pmol)も同様にA431細胞、MCF7細胞およびU87MG細胞に結合しやすい。ここでペプチドの細胞特異性を調べるために、これらのペプチドのA431細胞と比較したU87MG細胞への結合量の割合を求めたところ、Pyr-Thiで1.2倍、Cm3-Bphで1.8倍、Tmr-2Npで1.5倍となり、Cm3-Bph(Bph-X2-X3のペプチド配列)がもっとも脳腫瘍細胞に対して特異性が高いことがわかる(MCF7細胞を基準にしても同様の結果となる)。Hmc-AibやFam-Sar、Acd-HypはA431細胞、MCF7細胞およびU87MG細胞のいずれにも結合しなかった。
【実施例】
【0043】
この結果から、我々は比較的結合量が高く、また脳腫瘍細胞に対して最も特異性の高かったペプチド配列、Bph-X2-X3を第2ラウンドのペプチド配列として用いることにした。
図7は蛍光検出型ペプチドスクリーニング法による第2ラウンドの結果である。第1ラウンドと同様に10種類の蛍光ペプチドが用いられている。それぞれの蛍光ペプチドの化学構造の一般式はAc-Fl-Sp6-Bph-X2-X3-NH2で表わされる(以後、それぞれのペプチドをFl-Bph-X2で表記する)。Flは蛍光性アミノ酸ユニットを示しており、第1ラウンドと同様の10種類の蛍光ペプチドでそれぞれ異なる蛍光性アミノ酸が連結している。X3は10種類の非天然アミノ酸ユニットの当量混合物である。X2は10種類の非天然アミノ酸のいずれかであり、10種類の蛍光ペプチドでそれぞれ異なる蛍光性アミノ酸が連結している。第1ラウンドと同様にA431細胞、MCF7細胞およびU87MG細胞に対して、それぞれの蛍光ペプチドで異なる量が検出された。一方で、細胞に対するペプチドの結合量は全体的に増加しているように見える。蛍光ペプチドの中で、Dac-Bph-2NpはU87MG細胞に最もよく結合し、72 pmolを示した。また、Dac-Bph-2NpとPyr-Bph-AibはA431細胞に最もよく結合した(それぞれ17 pmol)。Dac-Bph-2NpはMCF7細胞にも最もよく結合した(6 pmol)。さらにDac-Bph-2NpはA431細胞と比較してU87細胞に4.2倍結合しやすいことがわかった。Dac-Bph-2Np以外にも、Pyr-Bph-AibやHoc-Bph-Thi、Tmr-Bph-Bphがこれらの細胞と結合しやすいく、A431細胞と比較したU87MG細胞への結合の割合は、それぞれ4.0倍、4.3倍、4.4倍であった。これら4種類のペプチドはいずれも脳腫瘍細胞に対する特異性が同等であることがわかる。Mca-Bph-DapはA431細胞、MCF7細胞およびU87MG細胞のいずれにも結合しなかった。以上の結果から、我々は結合力が最も高く、また脳腫瘍細胞に対して最も特異性の高かったペプチド配列の1つであるBph-2Np-X3を第3ラウンドのペプチド配列として用いることにした。
【実施例】
【0044】
図8は蛍光検出型ペプチドスクリーニング法による第3ラウンド(最終ラウンド)の結果である。第1, 2ラウンドと同様に10種類の蛍光ペプチドが用いられている。それぞれの蛍光ペプチドの化学構造の一般式はAc-Fl-Sp6-Bph-2Np-X3-NH2で表わされる(以後、それぞれのペプチドをFl-Bph-2Np-X3で表記する)。Flは蛍光性アミノ酸ユニットを示しており、第1, 2ラウンドと同様の10種類の蛍光ペプチドでそれぞれ異なる蛍光性アミノ酸が連結している。X3は10種類の非天然アミノ酸のいずれかであり、10種類の蛍光ペプチドでそれぞれ異なる蛍光性アミノ酸が連結している。第1, 2ラウンドと比較して、U87MG細胞に際立ってとてもよく結合するペプチドが現れた。それはPyr-Bph-2Np-Sarであり、今回の測定条件下で、U87MG細胞に580 pmol結合していることがわかる。次にU87MG細胞に結合しやすいペプチドはHmc-Bph-2Np-Ambであり、129 pmol であるが、これはPyr-Bph-2Np-Sarの1/4~1/5程度の結合量である。Pyr-Bph-2Np-SarはA431細胞に対して38 pmol 結合するが、A431細胞と比較してU87MG細胞に15倍結合しやすいという結果となった。
【実施例】
【0045】
これらの結果から、我々は結合量が高く、かつ脳腫瘍細胞に対して特異性の高い、非天然ペプチドの3量体の配列、Bph-2Np-Sarを本蛍光検出型ペプチドスクリーニング法で見つけることに成功した。
【実施例】
【0046】
図9は、本蛍光検出ペプチドスクリーニング法による脳腫瘍細胞に結合する3量体の非天然ペプチド配列のスクリーニングのまとめである。ラウンド1、2、3の順に本ペプチドスクリーニングがU87MG細胞への結合量を増したペプチドを見つけていることから、本スクリーニングは妥当であるといえる。ラウンド1~3まで順にU87MG細胞に対して18 pmol、72 pmol、580 pmolの順にペプチドの結合量は増えていった。本実施例で見つけたペプチドが細胞のどの部分に結合しているかまでは本スクリーニング法ではわからないが、本ペプチドが何らかのU87MG細胞表面上に過剰に発現している受容体に結合している可能性は高い。
【実施例】
【0047】
図10は今回見つけた3量体非天然ペプチドの配列(Bph-2Np-Sar)が、本当に脳腫瘍への結合に対して重要であるか、また蛍光性アミノ酸ユニット、Pyrはどの程度、脳腫瘍細胞に結合するために影響が出ているかを調べるために、本ペプチド(Pyr-Bph-2Np-Sar)、本ペプチドのシャッフル配列(Pyr-Sar-Bph-2Np)および3量体の非天然ペプチドの部分が欠損したペプチド(Ac-Pyr-Sp6-NH2)のU87MG細胞に対する結合量を調べた結果である。U87MG細胞とA431細胞と比較して、いずれもU87MG細胞に良く結合することが分かる。U87MG細胞について、最もよく結合するのは本実施例のペプチド(Pyr-Bph-2Np-Sar; 945 pmol)であり、シャッフルされた配列(Pyr-Sar-Bph-2Np; 28 pmol)や欠損したペプチド(Ac-Pyr-Sp6-NH2; 7 pmol)ではほとんど結合しないことがわかる。これらの結果より、本実施例で見つかった3量体の非天然ペプチドはその選ばれた非天然アミノ酸ユニットだけでなく、そのペプチド配列も重要であることが明らかとなった。
【実施例】
【0048】
なお、図9のU87MG細胞に対するPyr-Bph-2Np-Sar(580 pmol)と図10のもの(945 pmol)とではペプチドの結合量が異なる。これは、図9では10種類の蛍光ペプチドと混合した状態で細胞中に培養したのに対し、図10では単独(1種類)の蛍光ペプチド(Pyr-Bph-2Np-Sar)によって細胞中に培養したことの違いからではないかと思われる。すなわち、図9のような実験では10種類の蛍光ペプチドが競合しながらU87MG細胞表面上のなんらかに結合していることが示唆され、そのため、Pyr-Bph-2Np-Sarの結合量が減っているのではないかと推察される。
【実施例】
【0049】
さらに、上記の複合体:Pyr-Sp-Bph-2Np-Sarについて、ヒト正常胚線維芽細胞(HLF-1)に対する結合量を上記と同様の方法で測定した。その結果を図11に示す(図中、A431およびU87MGのデータは、先の図10に示したものと同じである)。上記の複合体は、他の腫瘍細胞との間だけでなく、正常細胞との間でも、脳腫瘍細胞に対して特異的に結合することが確認された。
【実施例】
【0050】
本実施例で見つかった脳腫瘍細胞に結合するペプチドの3量体の非天然ペプチドの化学構造を図12に示す。選ばれたアミノ酸は比較的疎水的なものである(Bphと2Np)、一方で親水的なSar(第2アミド結合を形成するため水溶性が高くなると考えられる)も含まれている。いずれにおいてもペプチドの構造を束縛する(restrictedした)ような構造をしており、多くの薬剤と同様の条件を含んでいるように思われる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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