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明細書 :リン回収剤及びそれを用いた排水の浄化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5618064号 (P5618064)
公開番号 特開2012-030210 (P2012-030210A)
登録日 平成26年9月26日(2014.9.26)
発行日 平成26年11月5日(2014.11.5)
公開日 平成24年2月16日(2012.2.16)
発明の名称または考案の名称 リン回収剤及びそれを用いた排水の浄化方法
国際特許分類 B01J  20/04        (2006.01)
C05B   7/00        (2006.01)
C02F   1/58        (2006.01)
C02F   1/28        (2006.01)
FI B01J 20/04 A
C05B 7/00
C02F 1/58 R
C02F 1/28 P
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願2010-174259 (P2010-174259)
出願日 平成22年8月3日(2010.8.3)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 (1)「金沢大学理学部地球学科2009年度 卒業論文発表会」,公開日 平成22年2月5日,開催者名 国立大学法人金沢大学 (2)「日本地球惑星科学連合2010年大会 予稿集(CD-ROM)」,発行日 平成22年5月14日,発行者 一般社団法人 日本地球惑星科学連合 (3)ホームページのアドレス「http://www.jpgu.org/meeting/index.htm」,掲載日 平成22年5月14日
審査請求日 平成25年8月2日(2013.8.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】福士 圭介
【氏名】八木 新大朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100114074、【弁理士】、【氏名又は名称】大谷 嘉一
審査官 【審査官】池田 周士郎
参考文献・文献 特開昭53-028957(JP,A)
特開昭61-082841(JP,A)
特開昭53-007970(JP,A)
福士圭介、他,モノハイドロカルサイトによるヒ酸の取り込み,日本地球化学会年会講演要旨集,日本,2009年 9月15日,Vol.56,p.108
調査した分野 B01J 20/00-20/34
C02F 1/28
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
Mg2+イオンとCa2+イオンとがMg/Ca=0.3以上の割合で含有する水溶液に、可溶性炭酸塩又は炭酸塩の水溶液を混合することで沈殿生成したモノハイドロカルサイトを当該モノハイドロカルサイト中のMg含有量が0.4mmol/g以下に洗浄して得られたものであることを特徴とするリン回収剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法にて得られたリン回収剤を初期のリン酸濃度20μmol/l以上の排水と接触させることを特徴とするリン酸肥料の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の製造方法にて得られたリン回収剤をリン含有排水に接触させることで排水中のリンを吸着又は/及びリン酸カルシウムとして取り込むことを特徴とする排水の浄化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は排水中からリンを回収し、リン酸肥料として再利用できるリン回収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リン(リン酸)は富栄養化を引き起こす原因物質の1つであり、排水からの除去が必要である。
その一方で近年、リン資源の枯渇が懸念されており、リンは生物にとって必須栄養素であることからリン酸肥料の必要性も増大している。
これまでに、リン酸はAl酸化物やゲーサイト(α-FeOOH)等のFe酸化物の表面に吸着されることが報告されている(非特許文献1)。
また、カルシウム炭酸塩鉱物であるアラゴナイト、カルサイトを吸着剤として用いるリン酸の除去方法も報告されている(非特許文献2)。
カルシウム炭酸塩には、前記のカルサイト(CaCO)とアラゴナイト(CaCO)とが存在する。
カルサイトは、日本語名が方解石あるいは石灰石と称され、アラゴナイトは日本語名が霰石と称され、これらカルサイトとアラゴナイトは結晶構造が異なるため鉱物としては区分されている。
一方、水和カルシウム炭酸塩としては、モノハイドロカルサイト(CaCO・HO),イカイト(CaCO・6HO)及びアモルファスカルサイトの3つの形態が知られている。
モノハイドロカルサイトは、本願発明者のこれまでの研究により、準閉塞湖であり、人為的な撹乱が少ないモンゴルのフブスグル湖の20万年前堆積物コア(2004年,Hovsgol Drilling Project)に存在していることを明らかにし(発表文献:Fukushi K. Fukumoto H. Munemoto T. Ochiai S and Kashiwaya K.「Records of water quality in Lake Hovsgol printed in carbonate minerals in the sediments」 Abstract volume 6th international symposium on terrestrial environmental changes in East Eurasia and Adjacent Areas, (2007) 24-25)、実験室においてモノハイドロカルサイトを合成し、その変質挙動を研究した(発表文献: Munemoto T. and Fukushi K. 「Transformation kinetics of monohydrocalcite to aragonite in aqueous solutions」 Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 103, (2008) 345-349)。
また、モノハイドロカルサイトは海水に炭酸ナトリウムを添加することで得られることも知られる。
Kinsmannらはやや低温条件(16℃)でろ過したニュージャージー州の海水に炭酸ナトリウムを8mMとなるように添加することでモノハイドロカルサイトの単一相が海水から沈殿することを示している(非特許文献:Kinsman J. J. David., and Holland H.D. 「The co-precipitation of cations with CaCO3. The co-precipitation of Sr2+ with aragonite between 16℃ and 96℃」v, Geochimica et Cosmochimica Acta 33 (1969) 1-17)。
モノハイドロカルサイト(Monohydrocalcite:CaCO・HO)は、結晶構造がTrigonal,a=10.5547Å,c=7.5644Åであり、液中のMg/Ca=0.3以上で、過飽和CO下で沈殿生成し、乾燥状態では安定であるが、水中において一度溶解し、その後アラゴナイト又はカルサイトに再結晶する。
従って、相対的に準安定相であるモノハイドロカルサイトの方が、カルサイトやアラゴナイトのような安定相よりも比表面積が大きく反応性が高いことが想定され、リンの取り込み能力を実験検討した結果、本発明に至った。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Effects of pH and ionic strength on the adsorption of phosphate and arsenate at the goethite-water interface,Antelo, J; Avena, M; Fiol, S; Lopez, R; Arce, F,JOURNAL OF COLLOID AND INTERFACE SCIENCE 巻: 285 号: 2 ページ: 476-486 発行: MAY 15 2005
【非特許文献2】Adsorption and desorption of phosphate on calcite and aragonite in seawater, Millero, F; Huang, F; Zhu, XR; Liu X; Zhang, JL, AQUATIC GEOCHEMISTRY 巻: 7 号: 1 ページ: 33-56 発行: 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、排水中から効果的にリンの回収ができ、酸性土壌下でのリン酸肥料として再利用可能なリン回収剤及びそれを用いた排水の浄化方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るリン回収剤の製造方法は、Mg2+イオンとCa2+イオンとがMg/Ca=0.3以上の割合で含有する水溶液に、可溶性炭酸塩又は炭酸塩の水溶液を混合することで沈殿生成したモノハイドロカルサイトを当該モノハイドロカルサイト中のMg含有量が0.4mmol/g以下に洗浄して得られたものであることを特徴とする。
【0006】
モノハイドロカルサイト(以下、必要に応じてMHCと表現する。)の合成時には、Mg2+イオンとCa2+イオンとがMg/Ca=0.3以上の割合にて含有する水溶液に例えばNaCO水溶液を混合することで、MHCを沈殿生成させるものであるから沈殿生成したままのMHCにはMgが含有することが想定される。
そこで、本発明者らはMgの影響を調査すると共に、MHCは不安定であり、水中ではカルサイトやアラゴナイトへ変化すると推定されたのに対して、このMHCは多量のリンを取り込むことによって安定化することも明らかにすることで、本発明に至った。
【0007】
このようにして得られたリン回収剤は、リンが含まれる排水に接触させることで排水中のリンを吸着あるいはリン酸カルシウムとして取り込む。
ここで、初期のリン酸濃度20μmol/l以上であればモノハイドロカルサイドにリンが吸着あるいはリン酸カルシウムが吸着した状態で存在する。
リンが吸着あるいは表面にリン酸カルシウムとして沈殿取り込みが行われたリン回収剤は、モノハイドロカルサイトが酸性条件下で比較的溶解度の低い炭酸塩であることから、酸性の溶液と接すると溶解するので、酸性土壌下にてリン酸肥料として再利用できる。
本発明に係るリン回収剤はモノハイドロカルサイトを主成分とするものであれば適宜、他の成分を加えてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るリン回収剤にあっては、モノハイドロカルサイトを主な成分とし、排水中からリンを効果的に回収でき、回収後はリン酸肥料として再利用できるので湖沼の富栄養化抑制に寄与できるとともに、リン資源の枯渇問題の対策にも貢献できる。
【0009】
本発明に係るモノハイドロカルサイトは、リン酸濃度が20μmol/l以下の環境下では、このモノハイドロカルサイトがカルサイトやアラゴナイトに変質するが、リン濃度が低いため、存在するほとんどのリンはカルサイトやアラゴナイトに取り込まれる。
リン酸濃度が20μmol/lを超え、例えば、モノハイドロカルサイト中のMg量が0.38mmol/gの場合には、リン酸濃度約60μmol/lあたりまでモノハイドロカルサイト中のMg量が0.26mmol/gの場合には、リン酸濃度約100μmol/lあたりまでは表面吸着によりリン酸を取り込む。
また、このようなリン酸濃度条件ではモノハイドロカルサイトはリンを取り込むことによって安定化し、カルサイトやアラゴナイトへ変質しないことが明らかになった。
さらに、それ以上のリン酸濃度の場合には、表面にリン酸カルシウムの沈殿物としてリン酸を取り込むことが明らかになった。
従って、本発明に係るモノハイドロカルサイトはアラゴナイトやカルサイトよりもリンの取り込み量が多い。
また、従来のゲーサイトは、取り込んだリンを容易に脱離しないことから資源としての再利用に劣るのに対して本発明に係るモノハイドロカルサイトは酸性土壌下でのリン酸肥料として再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るリン回収剤とアラゴナイト及びカルサイトとのリン取り込み量を比較した結果を示す。
【図2】リン回収剤の合成例を示す。
【図3】サンプル<MHC1>,<MHC2>の化学組成分析結果を示す。
【図4】サンプル<MHC1>,<MHC2>のXRDチャートを示す。
【図5】リン取り込み試験後のpHの測定結果を示す。
【図6】リン取り込み試験後のCa、Mgの溶存濃度を示す。
【図7】リン取り込み試験後のXRDチャートを示す。
【図8】吸着等温式の曲線と比較したグラフを示す。
【図9】Mgを加えた後の溶存濃度を示す。
【図10】リン酸の取り込み試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るリン回収剤の合成例及びリンの取り込み実験結果について以下説明する。

【0012】
<リン回収剤の合成例>
図2にモノハイドロカルサイトの合成例のステップフローを示す。
0.06mol/lのCaCl水溶液、0.06mol/lのMgCl水溶液の混合液に0.08mol/lのNaCO水溶液を加え、25℃×48時間撹拌した。
次に、沈殿生成したモノハイドロカルサイト中の不純物Mgを除去すべく、上記合成固形分を透析膜に入れ、5℃、脱イオン水にて洗浄する工程を1日当たり1回交換×2週間繰り返し、0.2μmフィルターにて固液分離した後に固相分を自然乾燥させた。
ここで、サンプル<MHC1>と<MHC2>とは洗浄水の量に差をつけ、<MHC1>の方が洗浄量が大きい。
このようにして得られたサンプル<MHC1>,<MHC2>の化学組成を図3に示し、XRDチャートを図4に示す。
化学組成におけるCa、Mgの値はイオンクロマトグラフィー(HPLC,東ソー8020シリーズ)を用いて分析し、CO,HOの値は熱重量示差分析計(TGーDTA.TG8120)にて測定した。
また、XRDはRigaku RINT1200を用いてCuKα,40KV30mAの条件下で分析した。
さらに「Quantachrome社製 Quantasorb Model QS-11」を用いて比表面積を測定したところ、<MHC1>:11.6m/g,<MHC2>:10.3m/gであった。

【0013】
<リンの取り込み実験例>
上記にて得られたリン回収剤サンプル<MHC1>,<MHC2>を用いてリンの取り込み実験をした。
試験液は基質0.01mol/l NaCl水溶液50mlに対して、リン酸濃度0~210μmol/lになるように0.02mol NaHPO・12HOを滴下調整した。
それぞれの試験後に<MHC1>又は<MHC2>を100mg加え、大気開放系25℃×24時間撹拌し、その後にpH測定、孔径0.2μmフィルターにて固液分離した。
濾液はイオンクロマトグラフィーによるCa、Mgの溶存濃度測定と、分光光度計(島津UV-1200 660nm)によるリン酸濃度測定に供した。
固相はスライドガラスに塗布し、自然乾燥後にXRD分析に供した。
pH測定結果を図5、Ca,Mgの溶存濃度の測定結果を図6に示す。
XRD測定結果を図7に示す。
また、図8のグラフに溶液中に残ったリン濃度に対する固体に取り込まれたリン濃度の関係をプロットしたものを示す。
なお、図8のグラフ中に示した曲線は、表面における単層吸着を仮定したLangmuir吸着等温式により求めた曲線を示し、実線は<MHC1>、点線は<MHC2>に対応するものである。

【0014】
図6の溶存Mg濃度の測定結果から、<MHC1>の方が<MHC2>よりもMg溶存濃度が少なく、その値は概ね1/3であった。
図7のXRD測定結果から、初期のリン酸濃度0μmol/lの場合には、<MHC1>にてアラゴナイトとカルサイトが検出され<MHC2>にてアラゴナイトが検出された。
初期のリン酸濃度が10μmol/lの場合には<MHC1>にてカルサイトとアラゴナイトが検出され<MHC2>にてはMHC(モノハイドロカルサイト)のみが検出された。
初期のリン酸濃度が20μmol/lを超えるといずれもMHCのみが検出された。
図8のグラフからは、リン酸濃度が低い領域ではLangmuir吸着等温式に相応した吸着によるリン取り込みが確認され、相対的にリン酸濃度が高くなると線形的に増加していることが分かる。
この線形的にリンを取り込むステップはMHCの表面にリン酸カルシウムが沈殿し、取り込まれたものと推定される。
また、<MHC1>と<MHC2>とを比較するとMgの含有量が少ない<MHC1>の方がリンの取り込み量が多い。

【0015】
そこでMgの影響を確認すべく、サンプル<MHC1>にサンプル<MHC2>の濾液に認められたMg濃度と等しくなるようにMgCl・6HOを加えて、リンの取り込み実験とした。
そのときのMgの溶存濃度のグラフを図9に示し、リンの取り込み結果を図10のグラフに□印でプロットした。
その結果、サンプル<MHC2>の取り込み量に概ね一致した。
これらの結果から、リンの取り込み量にはモノハイドロカルサイト中の不純物として存在するMgが影響することが明らかになった。
以上のことから、吸着によるリンの取り込み関しては、モノハイドロカルサイト中のMgの含有量の影響を受け、モノハイドロカルサイト中のMg不純物は、0.5mmol/g以下、好ましくは0.4mmol/g以下がよい。
図1にアラゴナイト、カルサイトによるリンの取り込み量と本発明に係るリン回収剤によるリンの取り込み量の結果を比較したグラフを示す。
この比較グラフから、本発明に係るモノハイドロカルサイトからなるリンの回収剤は、Mgの含有量の影響が認められるものの従来のアラゴナイト、カルサイトよりもリンの取り込み量が多いことが分かる。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図2】
9