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明細書 :酸化薄片化黒鉛及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5098064号 (P5098064)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
発明の名称または考案の名称 酸化薄片化黒鉛及びその製造方法
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
FI C01B 31/02 101Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2012-083453 (P2012-083453)
出願日 平成24年4月2日(2012.4.2)
審査請求日 平成24年4月4日(2012.4.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】仁科 勇太
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
審査官 【審査官】森坂 英昭
参考文献・文献 特開2011-184264(JP,A)
特開2011-144071(JP,A)
特開2011-144060(JP,A)
特表2012-509248(JP,A)
特開2002-053313(JP,A)
調査した分野 C01B 31/00 - 31/36
要約 【課題】低コストで酸化グラフェンを提供可能とすべく、製造時間が短くまた少ない硫酸で作製可能な酸化薄片化黒鉛及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の酸化薄片化黒鉛の製造方法は、六角形の格子状に並んだ炭素原子で構成された炭素シートの積層体である黒鉛に、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムを加えて酸化させることにより、黒鉛から炭素シートの剥離を生じさせて、黒鉛から剥離した1層または複数層の炭素シートから成る酸化薄片化黒鉛を製造するものであって、黒鉛を酸化させる前に、黒鉛にマイクロ波を照射する工程を有するものとする。また、この方法で作成された酸化薄片化黒鉛とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
六角形の格子状に並んだ炭素原子で構成された炭素シートの積層体である黒鉛に、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムを加えて酸化させことにより、前記黒鉛から剥離させた1層または複数層の炭素シートから成る酸化薄片化黒鉛において、
酸化させる前の黒鉛にマイクロ波を照射している酸化薄片化黒鉛。
【請求項2】
六角形の格子状に並んだ炭素原子で構成された炭素シートの積層体である黒鉛に、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムを加えて酸化させることにより、前記黒鉛から前記炭素シートの剥離を生じさせて、前記黒鉛から剥離した1層または複数層の炭素シートから成る酸化薄片化黒鉛を製造する製造方法において、
硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムとで酸化させる前に、前記黒鉛にマイクロ波を照射する工程を有する酸化薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項3】
前記のマイクロ波を照射する工程では、1回のマイクロ波の照射時間を20秒以内として、1回、または複数回照射する請求項2に記載の酸化薄片化黒鉛の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛を酸化させて製造する酸化薄片化黒鉛及びその製造方法に関するものであり、いわゆる酸化グラフェン及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、黒鉛から酸化グラフェンを製造する方法として、Hummers-Offeman法が多用されている。
【0003】
黒鉛は、六角形の格子状に並んだ炭素原子で構成された炭素シートの積層体となっており、Hummers-Offeman法によって黒鉛を酸化させることにより各炭素シートを酸化させ、酸化にともなって嵩高となることを利用して各炭素シートを個々に分離させ、酸化グラフェンとしている。
【0004】
なお、「酸化グラフェン」は、酸化された1層の炭素シートに対する呼称して使用するものであり、黒鉛を酸化させた場合に、必ずしも1層の炭素シートとなるとは限らず、複数の炭素シートが重なった状態となることもあり、このような酸化された炭素シートが1層または複数層となっている状態を、本発明では「酸化薄片化黒鉛」と呼ぶこととする。
【0005】
Hummers-Offeman法では、一般的に、硝酸ナトリウムと、硫酸と、過マンガン酸カリウムとからなる混合液に粉末状の黒鉛を投入することにより黒鉛を酸化させ、酸化薄片化黒鉛を生じさせている。
【0006】
具体的には、以下の工程となっている。
<第1工程>
硝酸ナトリウムと、硫酸と、過マンガン酸カリウムとからなる混合液に粉末状の黒鉛を投入して一次液を作製し、この一次液を約20℃として、7日間緩やかに撹拌する。
<第2工程>
5質量%硫酸水溶液に、一次液を約1時間かけて撹拌しながら投入し、さらに2時間撹拌して、一次液を薄めた二次液を作製する。
<第3工程>
二次液に30質量%水溶液の過酸化水素を加えて2時間撹拌し、遠心分離を行って上澄みを除去し、水を加えて液量を調整した三次液を作製する。この三次液は、酸化薄片化黒鉛の分散液となっている。
<第4工程>
三次液に対して、3質量%硫酸と0.5質量%過酸化水素の混合水溶液を用いた遠心分離を行い、さらに水を用いた遠心分離を繰り返し行って、上澄みの導電率が300μS/cmなるまで精製して、酸化グラフェンの分散液としている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
このように、Hummers-Offeman法では、第1工程だけでも7日以上の日数を要することとなっており、実用性が極めて低い製造方法となっていた。
【0008】
そこで、より短時間で酸化グラフェンを得る製造方法として、黒鉛に前処理を施して炭素シートに分離させやすくした製造方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0009】
具体的には、まず、前処理として、以下の処理を行っている。
<前処理1>
粉末状の黒鉛に硫酸と過硫酸塩(K2S2O8)を加えて80℃に昇温した前処理一次液を作製する。
<前処理2>
前処理一次液にリン酸(P2O5)を少しずつ加え、80℃で3時間撹拌して前処理二次液を作製する。
<前処理3>
発熱に注意しながら、前処理二次液を水に注いで前処理三次液を作製する。
<前処理4>
前処理三次液の濾過及び洗浄を行って乾燥させ、粉末状の酸化処理した黒鉛を作製している。説明の便宜上、上記の前処理によって得られた黒鉛を、「酸化処理済み黒鉛」と呼ぶ。
【0010】
次いで、本処理として、以下の処理を行っている。
<本処理1>
酸化処理済み黒鉛をビーカーに入れ、さらに硫酸を加えて4℃に冷却して、本処理一次液を作製する。
<本処理2>
本処理一次液に硝酸ナトリウム(NaNO3)を少しずつ加えて本処理二次液を作製する。
<本処理3>
本処理二次液に過マンガン酸カリウム(KMnO4)を加えて、10分間撹拌して、本処理三次液を作製する。
<本処理4>
本処理三次液の温度を35℃とし、その温度を維持しながら2時間撹拌し、その後、ビーカーを水で冷却して、本処理三次液を撹拌しながら水を1滴ずつ所定量加えて、本処理四次液を作製する。
<本処理5>
本処理四次液を30分間撹拌し、所定量の水を加え、さらに過酸化水素(H2O2)を少しずつ加えて本処理五次液を作製する。
<本処理6>
本処理五次液を90℃として30分間撹拌し、所定量の水を加えて希釈しながら、遠心分離を繰り返し行って、上澄みが中性になったところで終了する。
【0011】
上記の本処理によって、酸化グラフェンの分散液を作製することができ、酸化グラフェンの作製に要する時間の大幅な削減が可能となっている。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特開2011-079700号公報
【0013】

【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 2008, 5856
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前処理によって酸化処理済み黒鉛をあらかじめ作製する場合でも、実験室レベルの少量の作製でありながら少なくとも数時間が必要であって、しかも、硫酸等を用いた複数工程での処理が必要であって、必ずしも簡便ではなく、製造コストの低減が困難となっていた。
【0015】
そのため、酸化グラフェンの低コスト化が困難であって、有望な機能性材料でありながら、コストが見合わず、利用が進まないという問題があった。
【0016】
本発明者らは、このような現状に鑑み、より低コストで酸化グラフェンを提供可能とする製造方法を開発すべく研究を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の酸化薄片化黒鉛は、六角形の格子状に並んだ炭素原子で構成された炭素シートの積層体である黒鉛に、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムを加えて酸化させることによって黒鉛から剥離させた1層または複数層の炭素シートで構成するものであって、酸化させる前の黒鉛にマイクロ波を照射しているものである。
【0018】
また、本発明の酸化薄片化黒鉛の製造方法では、六角形の格子状に並んだ炭素原子で構成された炭素シートの積層体である黒鉛に、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムを加えて酸化させることにより、黒鉛から炭素シートの剥離を生じさせて、黒鉛から剥離した1層または複数層の炭素シートから成る酸化薄片化黒鉛を製造するものであって、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムとで酸化させる前に、黒鉛にマイクロ波を照射する工程を有するものである。
【0019】
さらに、本発明の酸化薄片化黒鉛の製造方法では、マイクロ波を照射する工程において、連続した1回のマイクロ波の照射時間を20秒以内として、1回、または複数回照射するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムを黒鉛に加えて酸化させることにより酸化薄片化黒鉛を作製する際に、硫酸と、硝酸ナトリウムと、過マンガン酸カリウムとで酸化させる前の黒鉛にマイクロ波を照射しておくことにより、黒鉛に予備的な酸化処理を施すことなく硫酸等による酸化処理だけで黒鉛から炭素シートの剥離を生じさせることができ、処理時間の短縮だけでなくコスト削減が可能であって、安価な酸化薄片化黒鉛、すなわち酸化グラフェンを提供することができる。
【0021】
特に、本発明によって硫酸の使用量を大きく低減できることからも、製造コストの低減を図ることができるだけでなく、作製した酸化薄片化黒鉛から硫酸の硫黄成分を分離・除去するために行う洗浄処理の労力を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の酸化薄片化黒鉛及びその製造方法は、六角形の格子状に並んだ炭素原子で構成された炭素シートの積層体である黒鉛から炭素シートを剥離させる本処理の前に、炭素シートの剥離を促すための前処理を行っているものであって、この前処理をマイクロ波の照射処理としているものである。以下において、具体的な実施例に基づいて、本発明を詳説する。
【実施例】
【0023】
まず、黒鉛は、適宜の粉砕処理等によって粉末状としていることが望ましく、できるだけ微細な粉末としておくことにより、後述する本処理での炭素シートの剥離を生じさせやすくすることができる。本実施例では、和光純薬株式会社から販売されているグラファイト粉末を用いた。このグラファイト粉末は、平均粒径が約45μmであった。
【実施例】
【0024】
<前処理>
前処理として、マイクロ波の照射処理を行った。具体的には、230Wの電子レンジを用いてマイクロ波の照射処理を行った。
【実施例】
【0025】
すなわち、黒鉛を乳鉢に入れて軽くかき混ぜ、黒鉛同士がくっついて塊状となった黒鉛がない状態として、乳鉢を電子レンジに入れた。
【実施例】
【0026】
電子レンジのスイッチを入れると、数秒程度で電子レンジ内に火花が飛び始めるので、火花が飛び始めたところで電子レンジを強制停止させた。
【実施例】
【0027】
本実施例では、この電子レンジのスイッチのオン-オフ(強制停止)を3回繰り返した。マイクロ波の照射時間は累計で1分程度まででよく、必要に応じて複数回繰り返してマイクロ波の照射処理を行うことが望ましいが、照射時間によっては1回だけであってもよい。特に黒鉛の粒径が大きい場合には、マイクロ波の照射時間を長くする方がよく、逆に、黒鉛の粒径が小さい場合には、マイクロ波の照射時間は短くてもよい。また、マイクロ波を照射する際には、不活性雰囲気とした方が望ましく、例えば電子レンジ内に窒素ガスを充満させて電子レンジのスイッチのオン-オフ操作を行ってもよい。
【実施例】
【0028】
本実施例でのマイクロ波の照射時間は10秒弱程度であり、1回のマイクロ波の照射時間は、長くても20秒程度までが望ましい。なお、照射するマイクロ波の出力が小さい場合には、さらに長時間の照射を行ってもよい。
【実施例】
【0029】
前処理は、このマイクロ波の照射処理だけでよく、実質的に数分で前処理を完了することができ、作業時間を大幅に短縮することができる。マイクロ波の照射処理が施された黒鉛を、説明の便宜上、「前処理済み黒鉛」と呼ぶ。
【実施例】
【0030】
次いで、前処理済み黒鉛から炭素シートを剥離させる本処理を行うが、本処理は、従来技術の項で説明した非特許文献に記載の本処理の方法と同じである。以下において、本実施例の本処理を詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
<本処理1>
3.6gの前処理済み黒鉛をビーカーに入れ、さらに92mLの硫酸を加えて4℃に冷却して、本処理一次液を作製する。
【実施例】
【0032】
<本処理2>
本処理一次液に4gの硝酸ナトリウム(NaNO3)を少しずつ加えて本処理二次液を作製する。
【実施例】
【0033】
<本処理3>
本処理二次液に12gの過マンガン酸カリウム(KMnO4)を加えて、10分間撹拌して、本処理三次液を作製する。
【実施例】
【0034】
<本処理4>
本処理三次液の温度を35℃とし、その温度を維持しながら2時間撹拌し、その後、ビーカーを水で冷却して、本処理三次液を撹拌しながら184mLの水を1滴ずつ所定量加えて、本処理四次液を作製する。
【実施例】
【0035】
<本処理5>
本処理四次液を30分間撹拌し、100mLの水を加え、さらに20mLの過酸化水素(H2O2)を少しずつ加えて本処理五次液を作製する。
【実施例】
【0036】
<本処理6>
本処理五次液を90℃として30分間撹拌し、300mLの水を加えて希釈しながら、遠心分離を行う。上澄みが中性になるまで遠心分離を繰り返し行い、上澄みが中性になったところで完了としている。
【実施例】
【0037】
このようにして、黒鉛から剥離した酸化薄片化黒鉛が分散した水溶液を作製することができ、酸化薄片化黒鉛を適宜の用途に用いることができる。