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明細書 :豚の飼育方法および低濃度フェニルアラニン飼料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5757520号 (P5757520)
公開番号 特開2013-009643 (P2013-009643A)
登録日 平成27年6月12日(2015.6.12)
発行日 平成27年7月29日(2015.7.29)
公開日 平成25年1月17日(2013.1.17)
発明の名称または考案の名称 豚の飼育方法および低濃度フェニルアラニン飼料
国際特許分類 A23K   1/18        (2006.01)
A23K   1/16        (2006.01)
FI A23K 1/18 102Z
A23K 1/16 301F
請求項の数または発明の数 2
全頁数 15
出願番号 特願2011-145757 (P2011-145757)
出願日 平成23年6月30日(2011.6.30)
審査請求日 平成26年6月5日(2014.6.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
発明者または考案者 【氏名】上野 俊治
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100111464、【弁理士】、【氏名又は名称】齋藤 悦子
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
【識別番号】100151998、【弁理士】、【氏名又は名称】春日 誠
【識別番号】100161621、【弁理士】、【氏名又は名称】越山 祥子
【識別番号】100168114、【弁理士】、【氏名又は名称】山中 生太
審査官 【審査官】坂田 誠
参考文献・文献 特開2001-299233(JP,A)
調査した分野 A23K 1/00 - 3/04
特許請求の範囲 【請求項1】
豚の飼育方法であって、出荷前の2~7日間に、フェニルアラニン濃度が2~0g/kgの低濃度フェニルアラニン飼料を給与して飼育することを特徴とする、肉中遊離フェニルアラニン濃度が低減した豚の飼育方法。
【請求項2】
請求項記載の豚の飼育方法に使用する、低濃度フェニルアラニン飼料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、肉中の遊離フェニルアラニン濃度が低減した豚の飼育方法に関し、より詳細
には、加熱調理の際にクレアチン(およびクレアチニン)と化学反応して生成されるPh
IP(2-amino-1-methyl-6-phenyl-imidazo[4,5
-b]pyridine)の発生を抑制しうる、遊離フェニルアラニンの濃度が低減した
豚の飼育方法、および当該飼育方法に好適な低濃度フェニルアラニン飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
肉を加熱調理するとフェニルアラニンとクレアチン(およびクレアチニン)とが反応し
てヘテロサイクリックアミンの一種であるPhIPを発生し、加熱調理した肉の摂取によ
って、女性に乳癌の発生率が上昇することが知られている。PhIPは、乳癌の他に、大
腸癌、前立腺癌を引き起こすとされ、例えば、ラットにDMH(1,2-dimethy
lhydrazine)を20mg/kg体重で週1回、計4回皮下投与して遺伝子に損
傷を与えた後、市販の飼料(基礎飼料)にPhIPを200ppm混合して32週自由摂
取させると、PhIPを与えていない群では発症率25%で大腸腫瘍が発生したのに対し
、PhIP投与群では発症率95%で大腸腫瘍が発生したとの報告もある(非特許文献1
)。
【0003】
体内に摂取されたPhIPを代謝する経路としては複数が知られ、例えば、直接硫酸化
またはグルクロン酸抱合され、それぞれPhIP-4’-サルフェートやPhIP-N2
-グルクロナイドとなるか、または、チトクロームP450により変異原活性を持つ中間
体、N2-ヒドロキシ-PhIPとなった後にグルクロン酸抱合され、N2-ヒドロキシ
-PhIP-N2-グルクロナイドやN2-ヒドロキシ-PhIP-N3-グルクロナイ
ドとなって解毒される経路がある。これらの反応に関わる酵素の体内での分布や個人によ
る活性の違いがPhIPの解毒率と反応の種類、最終的には突然変異/癌の標的組織の決
定およびリスクの個人差に関わるといわれている(非特許文献2)。PhIP摂取量を低
減させることが何人にも望まれる。
【0004】
PhIPは、フェニルアラニンとクレアチン(およびクレアチニン)との加熱反応によ
って生成するため、理論的には、加熱なしに肉を摂取すればPhIPの体内取り込み量を
低減しうる。このため、魚類や牛肉を摂取する際に加熱調理を控えることで、PhIP量
の発生を低減することは可能である。しかしながら、豚肉は、豚ヘルペスウィルスやトキ
ソプラズマ等を保有する可能性があり、生食により豚自体が保有している上記豚ヘルペス
ウィルスやトキソプラズマ、E型肝炎などの感染症にかかる恐れがある。更に、と畜流通
段階においては、カンピロバクター、リステリアほかの食中毒原因菌による汚染の可能性
もある。このため、SPF(Specific Pathogen Free:指定され
た病原体をもっていないという意味で「特定疾患不在豚」と訳される)豚肉といえども、
流通過程で非SPF豚と同じ経路で食肉処理されるため加熱調理が必要である。
【0005】
このような現状に対応し、畜肉製品の調理加熱時に生成するヘテロサイクリックアミン
の生成を抑制する畜肉製品として、茶を添加してヘテロサイクリックアミン類の生成を抑
制した畜肉製品がある(特許文献1)。PhIPの摂取防止は事実上不可能であることに
鑑み、(+)-カテキンを含有する茶またはその成分を含有させると、無添加品に対しヘ
テロサイクリックアミンの生成量が5~100%抑制される、という。
【0006】
また、畜肉の加熱加工食品中のヘテロサイクリックアミン類の生成を抑制するため、畜
肉の加熱食品を調製する際に、フェノール性抗酸化剤を使用してヘテロサイクリックアミ
ン類の生成を抑制する方法もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開平09-098740号公報
【特許文献2】特開平09-262069号公報
【0008】

【非特許文献1】アントシアニン系色素による大腸発ガン抑制(URL:http://www.ffcr.or.jp/zaidan/FFCRHOME.nsf/7bd44c20b0dc562649256502001b65e9/c6698773361b42b249256ba60018e581/$FILE/PCC-FFIJ196.PDF)
【非特許文献2】焼け焦げ食品中の発癌性複素環アミンのヒトへの曝露(URL:http://www.white-family.or.jp/healthy-island/htm/sapuriment/Phytochemical-03.htm)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1のように、豚肉を調理する際に茶を混入させる方法では
茶の風味が混入し、豚肉本来の、色、味や香りなどの風味を味わうことができない場合が
ある。また、上記特許文献2は、特定の抗酸化剤を使用するものであるが、このような抗
酸化剤は一般家庭は入手することは困難で、一般消費者による実施は容易でなく、しかも
、このような添加物による生体への影響が懸念される。
【0010】
一方、加熱によってPhIPを生成しうる成分を含まない豚肉を製造できれば従来の豚
肉と同様に調理でき、かつ特定の添加物の加工工程も不要であり、添加物の影響を心配す
る必要もない。しかしながら、豚は出荷された後に枝肉として2~3日間、熟成させたの
ちに市場に流通する食品であり、現在の流通過程では、枝肉加工前後にPhIP生成の要
因となる成分の除去処理を行うことは困難である。
【0011】
一方、飼育過程で、肉中の特定成分の含有量を調整し、加熱後のPhIP量を低減しう
る豚を飼育できれば出荷後の特別の加工工程を不要とすることができて好ましい。しかし
ながら、豚肉は、と畜後に熟成する必要があり、このような熟成期間に肉中のアミノ酸成
分などが経時的に変化する。このため、飼育の際の指標の設定が容易でない。また、Ph
IP生成の要因と考えられるクレアチン(およびクレアチニン)に着目した場合、これら
の物質は筋組織に大量に含まれる成分であるため、加熱時のPhIP量を低減しうるまで
肉中のクレアチン(およびクレアチニン)含有量を低減させることは不可能である。
【0012】
また、動物ではフェニルアラニンは必須アミノ酸であり、外部からのフェニルアラニン
の摂取が必須である。フェニルアラニンは、生体内でチロシンに変換され、さらにL-ド
ーパとなり、これがさらにドーパミンやノルエピネフリン、エピネフリンなどの神経伝達
物質へと誘導されるため、フェニルアラニンを欠乏させると豚に神経障害を発生する可能
性がある。このような疾患を有する豚は食肉として適さず、市場に流通させることはでき
ない。
【0013】
上記現状に鑑み、本発明は、加熱調理の際に発生するPhIP量を低減しうる豚肉を提
供しうる豚の飼育方法を提供することを目的とする。
また、このような豚の飼育方法に適する低濃度フェニルアラニン飼料を提供することを
目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、豚肉とPhIP量との関係を詳細に検討したところ、熟成後の豚肉に含
まれる遊離フェニルアラニンの含有量と、豚肉を加熱調理した際に発生するPhIP量と
に相関があることを見出し、豚肉に含まれる遊離フェニルアラニン濃度が低減するように
豚を飼育すれば、加熱時に発生するPhIP量を低減できること、このような遊離フェニ
ルアラニン濃度を低減する方法として、出荷前の2~7日間に低濃度フェニルアラニン飼
料を給与して飼育すれば、豚にフェニルアラニン欠乏による障害を発生することなく肉中
の遊離フェニルアラニン含有量を低減しうること、このような低濃度フェニルアラニン飼
料として、フェニルアラニン濃度が3~0g/kgが好適であることを見出し、本発明を
完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、豚の飼育方法であって、出荷前の2~7日間に低濃度フェニルア
ラニン飼料を給与して飼育することを特徴とする、肉中遊離フェニルアラニン濃度が低減
した豚の飼育方法を提供するものである。
【0016】
また本発明は、前記低濃度フェニルアラニン飼料が、フェニルアラニン濃度が3~0g
/kgである上記豚の飼育方法を提供するものである。
【0017】
更に本発明は、上記豚の飼育方法に使用する、低濃度フェニルアラニン飼料を提供する
ものである。
【0018】
なお、本発明において、「遊離フェニルアラニン」とは、肉のタンパク質を構成するア
ミノ酸ではなく、肉を機械的にすりつぶして得られた溶液の上澄みに含まれるフェニルア
ラニンを意味するものとし、その含有量は、後記する実施例に記載される方法で測定した
値とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来の施設をそのまま利用し、給与飼料を変更するだけで簡便に安全
性が高く、加熱調理によるPhIP量の発生量を低減しうる豚を飼育することができる。
【0020】
本発明の低濃度フェニルアラニン飼料によれば、肉中の遊離フェニルアラニン濃度を低
減するばかりでなく、臭みの少ない豚肉を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の方法で飼育した市販豚肉中の遊離フェニルアラニン濃度と、加熱(250℃、10分間)によって発生するPhIP量との関係を示す、相関図である。
【図2】従来の方法で飼育した市販牛肉中の遊離フェニルアラニン濃度と、加熱(250℃、10分間)によって発生するPhIP量との関係を示す、相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第一は、豚の飼育方法であって、出荷前の2~7日間に低濃度フェニルアラニ
ン飼料を給与して飼育することを特徴とする、肉内遊離フェニルアラニン濃度が低減した
豚の飼育方法を提供するものである。また、本発明の第二は、上記豚の飼育方法に使用す
る、低濃度フェニルアラニン飼料である。本発明によれば、出荷前の2~7日間に低濃度
フェニルアラニン飼料を給与するだけで、肉内の遊離フェニルアラニン濃度が急激に低減
し、しかも必須アミノ酸の供給が停止されたにもかかわらず疾患などが発生せず、安全性
に優れる豚肉が得られる。以下、本発明を詳細に説明する。

【0023】
(1)豚
養豚には、豚の遺伝的改良を目指し、育種・増殖の基礎となる原種豚を生産する種豚経
営、肥育用の素豚生産を目的とした繁殖豚経営、子豚を肥育してと畜場へ出荷する肥育豚
経営の3種に大別される。本発明では、フェニルアラニン含有量が低減した豚肉の提供を
目的とするため、肥育豚を対象とする。

【0024】
また本発明で対象とする豚の種類は特に問わない。日本国内では、大ヨークシャー、デ
ュロック、ランドレース、バークシャー、ハンプシャー、ヨークシャー、ブリティッ・シ
ュサドルバック、タムワース、ラージブラック、梅山豚、金華豚その他が肉用として飼育
されている。本発明で対象とする豚はこれらのいずれであってもよく、およびこれらの交
雑種であってもよい。豚は、雌、雄、去勢豚のいずれであってもよい。

【0025】
(2)飼育方法
本発明は、豚の肉内遊離フェニルアラニン濃度を低減することを目的とし、出荷前の2
~7日間に低濃度フェニルアラニン飼料を給与することを特徴とし、それ以外の他の要素
は、従来の飼育方法をそのまま採用することができる。一般には、出生から出荷までの各
飼育ステージに対応して、配合された市販の養豚用飼料を給与して飼育する。

【0026】
(i)飼育期間
本発明では、出荷前の2~7日間、特に好ましくは出荷前の3~5日間、低濃度フェニ
ルアラニン飼料を給与する。2日間を下回ると、肉内のフェニルアラニン濃度の低減が十
分でない場合がある。なお、フェニルアラニンは必須アミノ酸であるため、出生から出荷
までの全期間を低濃度フェニルアラニン飼料で飼育することはできない。フェニルアラニ
ンの外部からの摂取は必須であり、これが肉中の遊離フェニルアラニン濃度の低減を困難
にしている。本発明では、従来法で肥育した豚について、出荷前の最大7日間に低濃度フ
ェニルアラニン飼料を給与することで、肥育した豚のうま味を維持しつつ、必須アミノ酸
の欠乏障害を発生させることなく、豚の肉中の遊離フェニルアラニン濃度を低濃度フェニ
ルアラニン飼料給与前より低減することができる。

【0027】
なお上記目的を達成するため、本発明における「出荷前の○日間」とは、○日間経過し
た後、他の飼料を給与することなく出荷することを意味する。低濃度フェニルアラニン飼
料を給与した後、従来の飼料を給与すると肉中の遊離フェニルアラニン濃度が上昇する場
合がある。

【0028】
豚は、前記した出荷前の所定期間前は、舎飼でもよく、放牧でもよい。しかしながら、
放牧では、植物その他の摂取によりフェニルアラニンを摂取する可能性があるため、前記
した出荷前の所定期間は、舎飼で低濃度フェニルアラニン飼料のみを給与することが好ま
しい。

【0029】
(ii)飼料
本発明で使用する「低濃度フェニルアラニン飼料」とは、従来の養豚用飼料からフェニ
ルアラニン濃度を低減したもの、またはフェニルアラニンを除去したものである。一般に
、養豚に使用される市販の飼料は、発育ステージに応じて、例えば日本飼養標準 豚 2
005年版」に指定されている肥育豚(体重70-115kg)用の1日あたりの養分要
求量とアミノ酸要求量の条件を満たすように調製され、肥育豚用の飼料1kgには、フェ
ニルアラニンが7.2g含まれている。本発明では、フェニルアラニン濃度が3~0g/
kg、より好ましくは2~0g/kg、更に好ましくは1~0g/kg、特に好ましくは
フェニルアラニンを含まない飼料である。フェニルアラニンを全く含まない飼料を給与す
ることが好ましいが、少なくとも3g/kg以下であれば、上記期間の給与により肉内の
フェニルアラニン濃度を低減させ、加熱調理した際のPhIPの発生量を低減させること
ができる。

【0030】
このような低濃度フェニルアラニン飼料は、豚の栄養要求量を十分に満たす飼料から、
フェニルアラニンを除去したものである。なお、代謝障害を抑制するため、フェニルアラ
ニンの代謝物であるチロシンを、除去したフェニルアラニンに代えて配合したものであっ
てもよい。また、低濃度フェニルアラニン飼料としては、予めフェニルアラニンを含有し
ない原料やフェニルアラニンを除去した原料を使用して調製したものであってもよい。こ
の場合も、上記と同様に代謝障害を抑制するため、フェニルアラニンの代謝物であるチロ
シンをフェニルアラニンに代えて配合するものであってもよい。

【0031】
その他、本発明で使用する低濃度フェニルアラニン飼料は、下記実施例に示すように、
化学的に調整した原料を使用して調製することができる。なお、従来の飼料から、フェニ
ルアラニンを除去して調製してもよい。

【0032】
上記「低濃度フェニルアラニン飼料」を2~7日間給与すると、熟成後の豚肉の脂肪の
臭気が消失する場合がある。下記で調製した低濃度フェニルアラニン飼料自体の臭気が低
減していることから、臭気の低減した飼料の給与によって豚肉の脂肪の臭気も低減したと
推測される。

【0033】
養豚は、購入した体重20kgの子豚を飼育期間6ヶ月程度で90から110kg程度
で出荷することが一般的である。出生時の体重は1.2kgに過ぎないが、出荷時には出
生時の90倍以上に成長するため、ブロイラーに次いで高い生産効率を有する特徴がある
。養豚では、豚の発育に応じて、生まれてから出荷までの間、成長ステージにあわせて飼
料を給与して肥育し、誕生から21日程度を哺育期、70日程度までを人工乳期、その後
子豚期、肉豚期と区分している。

【0034】
出荷前の低濃度フェニルアラニン飼料を給与する前は、従来と同じ方法で豚を飼育する
ことができる。このため、哺育期、人工乳期、子豚期、肉豚期の各ステージには、これに
好適な飼料を給与して飼育する。例えば、哺育期には、母乳を与え、母乳と並行して人工
乳の配合飼料も与えてもよい。また、人工乳期の前期は、乳製品や魚粉などの動物性原料
を主体とし、後期はとうもろこしや大豆粕など植物性原料を主体とする。また、子豚期は
、体タンパク質の発育が最も伸びる時期であり、その重要な栄養素となる各種のアミノ酸
やエネルギーなどのレベルとバランスを考慮した飼料を給与する。原料としては、とうも
ろこし、麦類、大豆粕などが中心となる。なお、肉豚期は、体タンパク質の発育に加え脂
肪の蓄積に重要な時期であり、双方の発育促進を考慮した栄養バランスの配合飼料を給与
する。

【0035】
なお、一般的に使用する市販の養豚用飼料に代えて、とうもろこしその他の雑穀に大豆
ミールなどの植物性油かす類、米ぬか油かすなどの糟糠類、リン酸カルシウム、炭酸カル
シウム、食塩、ビタミンなどを配合した独自飼料や、サイレージ、これらと市販の養豚用
飼料との併用などのいずれであってもよい。

【0036】
(3)肉質
本発明の飼育方法は、出荷前の所定期間を低濃度フェニルアラニン飼料を給与して飼育
することで、肉内の遊離フェニルアラニン濃度を低減しうるというものである。豚肉は、
と畜後に熟成させた後に市場に供給される。熟成過程で肉中の遊離アミノ酸その他の成分
が変動するが、本発明の飼育方法によれば、低濃度フェニルアラニン飼料を出荷前の所定
期間、給与することで、肉の堅さや脂肪成分などを変えることがない。

【0037】
なお、本発明において、肉内の遊離フェニルアラニン濃度に制限はないが、従来の畜肉
の肉内の遊離フェニルアラニン濃度は、後記する実施例に示すように30~110μg/
gである。本発明の飼育方法によれば、後記する実施例に示すように、30μg/g未満
、好ましくは20μg/g未満に低減することができる。
【実施例】
【0038】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限
するものではない。
【実施例】
【0039】
(測定方法)
(1) 遊離フェニルアラニン濃度
筋肉1.00gに生理食塩水2.00mlを添加してPolytron(PT2100
、KINE MATIC AG、Swiss)を用いてホモジナイズ(20,000rp
m、90秒、氷冷下)した。さらに4%スルホサリチル酸溶液2.00mlを加え転倒混
和(10回)したのち、60秒間ボルテックスミキサーを用いて激しく混和した。試料を
遠心分離(1,800×g、10分間、4℃)後、沈殿物と脂質を含まない中間層2ml
を採材し、再度遠心分離(7,000×g、10分間、4℃)して得られた上清を遊離ア
ミノ酸測定用試料とした。
上記調整した測定用試料中のアミノ酸を以下の方法で標識(PITCラベル化法)した
。アミノ酸標準物質として、amino acids standard soluti
on, type H(アミノ酸自動分析用、和光純薬工業株式会社)を用いた。このア
ミノ酸標準物質あるいは調整したアミノ酸測定用試料を10μl採取し、減圧乾固した。
次に、エタノール:精製水:トリエチルアミン(TEA)混合液(2:2:1)を20
μl加え攪拌し、減圧乾固した。さらに、エタノール:精製水:TEA:イソチオシアン
酸フェニル(PITC)混合液(7:7:1:1)を20μl加えて攪拌した後、室温に
て20分間反応させ、アミノ酸のラベル化を行った。減圧乾固した標品を1.00mlの
後述のアミノ酸分析用溶離液Aに溶解し、HPLC測定用試料とした。
得られた測定試料を高速液体クロマトグラフシステム(GILSON、France)
を用いてアミノ酸分析した。分離カラムとしてWakosil-PTC 4.0mm×2
00mm(W)(和光純薬工業株式会社)を用いた。移動相は、PTCアミノ酸分析用P
TCアミノ酸溶離液A(PTC-amino-acids mobile phase
A、和光純薬工業株式会社)、同PTCアミノ酸溶離液B(PTC-amino-aci
ds mobile phase B、和光純薬工業株式会社)を用い、これら2種類の
移動相によるグラジエント溶出を行った。グラジエントプログラムは、分析開始時のアミ
ノ酸溶離液Bの濃度を0%とし、15分間でアミノ酸溶離液B濃度を70%に上昇させ、
5分間維持した。その後5分間でアミノ酸溶離液Bの濃度を0%に低下させ、カラムの再
コンディショニングを行った。
分離カラムの温度は40℃、流速を1ml/minとして20μlの試料溶液について
分析を行い、溶出液の波長254nmにおける吸光度をUV検出器(UV/VIS-15
1、GILSON、France)を用いてモニターした。試料溶液中の各アミノ酸濃度
は、前述のアミノ酸標準溶液を用いた絶対検量線法により算出した。
【実施例】
【0040】
(2) PhIP量
食肉試料を厚さ3~4mm程度とし、表面温度を正確に250℃に保持したホットプレ
ート上で、5分間あるいは10分間加熱した後、PhIPの抽出・精製を行った。
PhIPの精製は、BOND ELUT-PRSカラム(3ml、VARIAN、US
A)およびRIDA C18column(r-biopharm、Germany)を
用いた。PRSカラムは7mlのジクロロメタンで、C18カラムは1mlのメタノール
、0.3mlのメタノール:精製水(1:1、v/v)および1mlの精製水によって予
めコンディショニングを行った。
試料中のPhIP濃度を標準添加法で測定する目的で、加熱後の食肉試料を2gずつ2
本の容器に秤量し、その一方にPhIP標準物質(和光純薬工業株式会社)を200ng
添加した(100ng PhIP/g meat)。30分間安定化した後、1MのNa
OHを12ml加えホモジナイザー(POLY TRON)を用いてホモジナイズした。
ホモジナイズ溶液と珪藻土(Extrelut NT、Merck、Germany)1
2gを混和してガラスカラム(30×2cm i.d.、GLサイエンス)に詰め、10
0mlのジクロロメタンでPhIPをPRSカラム中に溶出した。PRSカラムを乾燥後
、6mlの1M HCl、2mlの精製水で順に洗浄して、20mlの0.5M酢酸アン
モニウム溶液(pH8.5)で溶出した。
溶出液をC18カラムに流し入れ、10mlの精製水で洗浄・乾燥させた後、ヘテロサ
イクリックアミン類を2mlのメタノール:アンモニア水(9:1、v/v)で溶出した
。溶出液を減圧乾固した後、アセトニトリル:精製水(1:1、v/v)200μlに溶
解してHPLC測定用試料とした。
HPLC測定用試料の分析は、高速液体クロマトグラフシステム(GILSON、Fr
ance)を用いて実施した。分離カラムとしてTSK-GEL ODS 80TM(2
50mm×4.6mm i.d.、東ソー株式会社)を用い、移動相として0.01Mト
リエチルアミン-リン酸溶液(pH3.3)とアセトニトリルを用い、これら2種類の移
動相によるリニアグラジエント溶出を行った。グラジエントプログラムは、分析開始から
2分間までアセトニトリルを5%とし、その後20分間でアセトニトリル濃度を25%に
上昇させた。その後10分間でアセトニトリルを55%とし、10分間維持した。さらに
5分間でアセトニトリル濃度を5%に低下させ、カラムの再コンディショニングを行った
。分離カラムの温度は40℃、流速を1ml/minとして20μlの試料溶液について
分析を実施した。溶出液中のPhIPはUV検出器(UV/VIS-151、GILSO
N、France)を用いて波長254nmにおける吸光度をモニターした。HPLC測
定用試料のPhIP濃度は、前述のように標準添加法を用いた測定結果から算出した。
【実施例】
【0041】
(3) 臭気
食肉の臭気に関しては、熟成後の豚肉を通常加熱(250℃、5分間)し、加熱後の脂
身の部分を健常人5名に食べてもらい、臭気の有無を判定した。
【実施例】
【0042】
(製造例)
表1に示す組成で低濃度フェニルアラニン飼料を製造した。なお、表1におけるアミノ
酸混合物の組成を表2に、AIN-76-MXはミネラルの混合物であり、その組成を表
3に示し、AIN-93-VXはビタミン類の混合物でありその組成を表4に示す。
【実施例】
【0043】
【表1】
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【実施例】
【0044】
【表2】
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【実施例】
【0045】
【表3】
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【実施例】
【0046】
【表4】
JP0005757520B2_000005t.gif
【実施例】
【0047】
(参考例1)
従来の方法で飼育された市販豚肉について、遊離フェニルアラニン濃度を測定し、およ
び250℃で10分加熱した場合に発生するPhIP量を測定した。結果を図1に示す。
x軸は、遊離フェニルアラニン濃度(μg/g)であり、y軸は、PhIP濃度(ng/
g)である。相関係数r=0.885で、y=2.045x十26.019の関係を有し
た(危険率 p<0.0001)。
【実施例】
【0048】
(参考例2)
従来の方法で飼育された市販牛肉について、遊離フェニルアラニン量を測定し、および
250℃で10分加熱した場合に発生するPhIP量を測定した。結果を図2に示す。x
軸は、遊離フェニルアラニン濃度(μg/g)であり、y軸は、PhIP濃度(ng/g
)である。相関係数r=0.714で、y=0.634x+9.001の関係を有した。
(有意差p=0.020)
【実施例】
【0049】
(参考例3)
従来の方法で飼育された豚のとさつ直後の横隔膜筋肉を、空気を遮断して2℃で保存し
て熟成させ、熟成開始時(0日目)および熟成開始後3日目、7日目、14日目の豚肉に
含まれる遊離フェニルアラニン濃度を測定した。また、熟成開始時(0日目)および熟成
開始後3日目、7日目に肉を250℃で10分間加熱し、肉中に含まれるPhIP量を測
定した。結果を表5に示す。
【実施例】
【0050】
【表5】
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【実施例】
【0051】
(参考例4)
市販の国産豚肉(原産地:青森県産、豚種:不明、ロース)、市販の国産豚肉(原産地
:青森県産、豚種:不明、ヒレ)、および輸入豚肉(原産地:アメリカ、豚種:不明、ロ
ース)について、肉中の遊離フェニルアラニン濃度(μg/g)を評価した。結果を表6
に示す。表6において、国産豚ロース(n=13)、国産豚ヒレ(n=10)、輸入豚ロ
ース(n=20)、国産牛ロース(n=11)および輸入牛ロース(n=13)の遊離フ
ェニルアラニン含有量をHPLC分析法にて測定した。各群間の有意差はMann-Wh
itney U-testで検定した。
【実施例】
【0052】
【表6】
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【実施例】
【0053】
(実施例1)
交雑種(体重2kg、去勢豚および雌豚)を、表7に示すスケジュールで飼育した。な
お、飼料と水とは自由摂取とした。
その後、出荷前の3日前または5日前から、低濃度フェニルアラニン飼料として、製造
例で調製した飼料を自由摂取させて飼育した。疾患に罹患した豚は1頭も存在しなかった
。 低濃度フェニルアラニン飼料を3日間、または5日間給与された豚の「と畜直後」の
横隔膜筋肉について、遊離フェニルアラニン濃度を測定した。結果を表8に示す。表8に
おいて、Kurskal-Wallis検定後Scheffeの方法で有意差検定した(
**:p<0.01 vs 通常飼料給餌群)。
【実施例】
【0054】
【表7】
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【実施例】
【0055】
【表8】
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【実施例】
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様にして、出荷前の3日間または5日間に低濃度フェニルアラニン飼料が
給与された豚を飼育した。疾患に罹患した豚は1頭も存在しなかった。
【実施例】
【0057】
低濃度フェニルアラニン飼料を3日間、または5日間給与された豚を解体し、2~4℃
で5日間保存して熟成させた。熟成後6日目のロースにおける遊離フェニルアラニン濃度
を測定し、併せて加熱調理後の脂身の部分の臭気を評価した。
【実施例】
【0058】
また、市販の国産豚肉(原産地:青森県産、豚種:不明、ロース)および輸入豚肉(原
産地:アメリカ、豚種:不明、ロース)についても遊離フェニルアラニン濃度(μg/g)
を評価した。結果を表9に示す。表9において、Mann-WhitneyのU検定によ
る有意差を示す(**:p<0.01、vs市販国産豚ロース)。
【実施例】
【0059】
また、出荷前の3日間または5日間に低濃度フェニルアラニン飼料が給与された豚の熟
成後(2~4℃、5日間)の肉(ロース)および市販の国産豚肉(原産地:青森県産、豚
種:不明、ロース)中の他の遊離アミノ酸についてもフェニルアラニンと同様にして測定
した。結果を表10に示す。表10において、Mann-WhitneyのU検定による
有意差を示す。(*:p<0.05、**:p<0.01、vs 国産ロース)
【実施例】
【0060】
更に、出荷前の3日間または5日間に低濃度フェニルアラニン飼料が給与された豚の熟
成後(2~4℃、5日間)の肉(ロース)と市販の国産豚肉(原産地:青森県産、豚種:
不明、ロース)とについて、250℃、5分加熱、および10分加熱した場合の肉中のP
hIP量を測定した。結果を表11に示す。表11において、Mann-Whitney
のU検定による有意差を示す(**:p<0.01、vs 国産ロースの各加熱時間)。
【実施例】
【0061】
【表9】
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【実施例】
【0062】
【表10】
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【実施例】
【0063】
【表11】
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【実施例】
【0064】
(結果)
(1)参考例1に示すように、市販豚肉の遊離フェニルアラニン濃度と、この豚肉を加
熱調理した際に発生するPhIP量とは、強い相関関係を有し(相関係数r=0.885
)、肉中の遊離フェニルアラニン濃度が、加熱調理後に発生するPhIP量の予測指標と
なりうることが示唆された。
【実施例】
【0065】
(2)参考例1と参考例2とを比較すると、市販豚肉および牛肉中の遊離フェニルアラ
ニン濃度と、加熱調理によって発生するPhIP量との相関関係を示す一次回帰式の傾き
は、牛(参考例2)よりも豚(参考例1)の豚の方が3倍高く、これは豚肉の方が牛肉よ
りもPhIPが3倍生成しやすいことを示している。短期間のフェニルアラニン欠乏飼料
給餌する豚の飼育方法によって、より安定して加熱時にPhIP量の発生の少ない豚肉を
提供しうることが示唆された。
【実施例】
【0066】
(3) 参考例3に示すように、豚は、熟成期間の経過に対応して肉中の遊離フェニル
アラニン濃度が増加することが判明した。また、遊離フェニルアラニン濃度の上昇に対応
して、加熱処理時のPhIP量も増加した。これによって、肉中の遊離フェニルアラニン
濃度の低い豚を飼育することで、加熱時のPhIPの発生を抑制しうることが示唆された

【実施例】
【0067】
(4) 参考例4に示すように、市販の国産豚肉、輸入豚肉、すなわち熟成後の従来の
飼育方法による豚肉には、遊離フェニルアラニンが30~110μg/g含まれ、この濃
度は、輸入豚肉で高いことが判明した。熟成後の遊離フェニルアラニン濃度を30μg/
g未満に低減する必要性が示唆された。
【実施例】
【0068】
(5) 実施例1に示すように、出荷前の3日間、低濃度フェニルアラニン飼料を給与
した豚は、従来の方法で飼育された豚と比較して、とさつ直後の豚肉に含まれる遊離フェ
ニルアラニン濃度が低下していた。これにより、3日間の低濃度フェニルアラニン飼料の
給与で既に極めて高い効果があることが示唆された。
なお、出荷前の5日間を低濃度フェニルアラニン飼料を給与した豚は、従来の方法で飼
育された豚と比較して、とさつ直後の豚肉に含まれる遊離フェニルアラニン濃度が有意差
をもって低下し、かつ3日間のみ低濃度フェニルアラニン飼料を給与された豚よりも、さ
らに遊離フェニルアラニン濃度が低下していた。
【実施例】
【0069】
(6) 実施例2に示すように、出荷前の3日間または5日間に低濃度フェニルアラニ
ン飼料が給与された豚は、熟成後の肉中の遊離フェニルアラニン濃度が低減するばかりで
なく、脂肪の臭気も低減することが判明した。
また、本発明の飼育方法による豚は、従来の飼育方法による場合と比較して、熟成後の
肉中の遊離アミノ酸としてフェニルアラニン以外に、チロシン、メチオニンなど、苦みを
有するアミノ酸量が低減する傾向があったが、アスパラギン酸、グルタミン酸などのうま
味、セリンやグリシンなどの甘みに関連するアミノ酸濃度はむしろ増加する傾向にあった

【実施例】
【0070】
(7) 実施例2に示すように、豚肉は、加熱時間を5分から10分に延長すると発生す
るPhIP量が増加する。本発明の飼育方法によって得られる豚は、市販の豚肉と比較し
て、250℃、10分という加熱状態でもPhIPの発生量が低く、安全性の高い豚肉で
あることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、遊離フェニルアラニン濃度が低減された豚肉を提供できるため、加熱
によって発癌性が示唆されるPhIPの加熱による発生を抑制することができ、消費者が
簡便かつ安心して摂取できる豚を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1