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明細書 :アミロイドβペプチドをコードする遺伝子を含有したイネ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5105272号 (P5105272)
公開番号 特開2008-048622 (P2008-048622A)
登録日 平成24年10月12日(2012.10.12)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
公開日 平成20年3月6日(2008.3.6)
発明の名称または考案の名称 アミロイドβペプチドをコードする遺伝子を含有したイネ
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
A23L   1/305       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61K  36/899       (2006.01)
FI A01H 5/00 ZNAA
C12N 15/00 A
C12N 5/00 103
C12P 21/02 C
C07K 14/47
A23L 1/305
A61K 37/02
A61P 25/28
A61K 35/78 U
請求項の数または発明の数 8
全頁数 15
出願番号 特願2006-225403 (P2006-225403)
出願日 平成18年8月22日(2006.8.22)
審査請求日 平成21年7月27日(2009.7.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
【識別番号】506285622
【氏名又は名称】石浦 章一
【識別番号】506285633
【氏名又は名称】渡邊 雄一郎
発明者または考案者 【氏名】吉田 泰二
【氏名】石浦 章一
【氏名】渡邊 雄一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100119002、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 敦
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 加藤 勇治,東大、消炎作用ある薬草でアミロイドβたんぱく質発現、食べるアルツハイマーワクチンに期待,日経バイオテク・オンライン,2006年 6月 8日
Assay Drug Dev. Technol.,2004年,vol. 2,383-388
FEBS Lett.,2005年,vol. 579,6737-6744
Christou P et al.,Monocot expression system for molecular farming.,Molecular Farming,2004年,55-67
Plant Sci.,2003年,vol. 165,1445-1451
EMBO Rep.,2005年,vol. 6,593-599
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 5/00- 5/28
A01H 5/00
C07K 14/47
C12P 21/02
A23L 1/305
A61K 38/00
A61P 25/28
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
CA/CONFSCI/SCISEARCH(STN)
AGRICOLA/CABA/BIOENG(STN)
WPIDS/DISSABS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
PubMed
日経ファーマビジネス
G-search


特許請求の範囲 【請求項1】
アミロイドβペプチドをコードする遺伝子とアジュバント効果を持つタンパク質をコードする遺伝子とが融合されて発現可能に導入され、イネ玄米1g当たりに130μg~390μgのアミロイドβペプチドが蓄積されているアルツハイマー病に対し食物ワクチン効果を有することを特徴とするイネ。
【請求項2】
前記アミロイドβペプチドが、アミロイドβペプチド40、又はアミロイドβペプチド42、又は前記アミロイドβペプチド40又はアミロイドβペプチド42のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり体内において抗アミロイドβペプチド抗体を産生するタンパク質である請求項1に記載のイネ。
【請求項3】
前記アジュバント効果を持つタンパク質が蛍光タンパク質である請求項1又は請求項2に記載のイネ。
【請求項4】
前記蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、又はこれらの誘導体のいずれかである請求項3に記載のイネ。
【請求項5】
前記イネが極早生稲品種である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のイネ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5に記載のイネに由来し、アミロイドβペプチドとアジュバント効果を持つタンパク質との融合タンパク質を含有する植物個体、組織、カルス、及び細胞。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5に記載のイネ、及び請求項6に記載の植物個体、組織、カルス、及び細胞から融合タンパク質を分離、精製するアミロイドβペプチドとアジュバント効果を持つタンパク質との融合タンパク質の生産方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5に記載のイネ、及び請求項6に記載の植物個体、組織、カルス、及び細胞を用いた、アミロイドβペプチドとアジュバント効果を持つタンパク質との融合タンパク質を含有する食品、医薬品、または栄養補助剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβペプチドをコードする遺伝子を含有した遺伝子組換えイネに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、脳血管性障害の後遺症と同様に認知症の原因として、介護問題、社会保険料問題等、様々の方面に影響を与えている。今後は、ますます高齢化社会となると予想され、痴呆の防止は、社会的にも経済的にも大きな課題となっている。アルツハイマー病は、大脳皮質にアミロイドβペプチド(以下、Aβということがある。)が沈着することにより発症すると考えられている(非特許文献1を参照。)。
【0003】
アルツハイマー病の治療法の一つとして、ワクチンを用いる方法が考えられた。Aβワクチン療法は、Aβを投与して体内で抗Aβ抗体をつくらせる、又は、抗Aβ抗体を直接投与することにより、抗原抗体反応を介して脳内の老人斑を消失させるという免疫療法である。病態マウスを用いた動物試験では、凝集Aβを抗原として免疫させると、脳内のAβ沈着レベルの著しい低下とともに、記憶障害の低減、行動異常の改善が認められた(非特許文献2、及び3を参照。)。ヒトに対するワクチン療法の試験も既に行われ、Aβを筋肉注射する第一相臨床治験は問題なく終了した。ヒトに対しAβをサポニンアジュバントとともに筋肉注射する第二相臨床治験は、患者に髄膜脳炎症状の副作用が現れ、中断した(非特許文献4を参照。)。
【0004】
そこで、より穏やかで副作用の少ない方法の開発が、緊急に求められている。例えば、遺伝子組換え植物にタンパク質を発現させて、食物ワクチンとする方法が考えられる。Aβ遺伝子を導入しペプチドを発現させた遺伝子組換えジャガイモを、アルツハイマー病モデルマウスに摂食させたところ、抗体の形成、Aβ沈着の抑制効果が確認された(非特許文献5を参照。)。
【0005】
Aβを遺伝子組換え植物に蓄積させる実験は、ジャガイモで行われているが(非特許文献5、及び6を参照。)、Aβの蓄積量は、ジャガイモの可溶性タンパク質1gあたり18~50μg(非特許文献6を参照。)、及び77μg(非特許文献5を参照。)と微量である。
【0006】
また、ウイルスベクターをピーマンで発現させAβを蓄積させることも可能であるが(非特許文献7を参照。)、ウイルス増殖、接種等の手間を考えると、遺伝子組換え作物が優れており、ピーマンの葉1gあたりの蓄積量は92~116μgと微量である。
【0007】

【非特許文献1】Carlson G.A.: A welcoming environment for amyloid plaques. NatNeurosci. 6: 328-330 (2003)
【非特許文献2】Janus C., Pearson J., Mclaurin J.,Mathews P.M., Jiang Y., Schmidt S.D., Chishti M.A., Horne P., Heslin D., FrenchJ., Mount F.T., Nixon R.A., Mercken M., Bergeron C., Fraser P.E., StGeorge-Hyslop P., Westaway D.: Aβ peptide immunization reduces behavioral impairment and plaques in amodel of Alzheimer’s disease. Nature 408: 979-982 (2000)
【非特許文献3】Morgan D., Diamond D.M., Gottschall P.E., Ugen K.E., Dickey C.,Hardy J., Duff K., Jantzen P., DiCarlo G., Wilcock D., Connor K., Hatcher J.,Hope C., Gordon M., Arendash G.W.: Aβ peptidevaccination prevents memory loss in an animal model of Alzheimer’s disease.Nature 408: 982-985 (2000)
【非特許文献4】Check E.: Nerve inflammation halts trial for Alzheimer’s drug.Nature 415: 462 (2002)
【非特許文献5】Youm J.W., Kim H., Han J.H.L., Jang C.H., Ha H.J., Mook-Jung I, JeonJ.H. Choi C.Y., Kim Y.H., Kim H.S., Joung H.: Transgenic potato expressing Aβreduce Aβ burden in Alzheimer’s disease mouse model. FEBS Letters 579:6737-6744 (2005)
【非特許文献6】Kim H.-S., Euym J.-W., Kim M.-S., Lee B.-C., Mook-Jung I., JeonJ.-H., Joung H.: Expression of human amyloid-β peptide in transgenic potato.Plant Sci. 165: 1445-1451 (2003)
【非特許文献7】Szabo B., Hori K., Nakajima A., Sasagawa N., Watanabe Y., IshiuraS.: Expression of amyloid- β1-40 and 1-42 peptides in Capsicum annum var.angulosum for oral immunization. Assay and Drug Dev. Technol. 2: 383-388 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アミロイドβペプチドを産生するイネ(Oryza sativa)を遺伝子組換えにより作出することを課題とする。
【0009】
本発明者らは、アミロイドβペプチド40(以下Aβ40という。)又はアミロイドβペプチド42(以下Aβ42という。)をコードする遺伝子と、蛍光タンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子をイネに組み込むことにより、高濃度に目的タンパク質であるAβが産生されることを見出し、本発明に至った。即ち本発明は以下の通りである。
<1> 本発明は、Aβをコードする遺伝子が発現可能に導入されており、イネ玄米1g当たりに130μg~390μgのアミロイドβペプチドが蓄積されることを特徴とするイネであり、前記Aβが、Aβ40、又はAβ42、又は前記Aβ40又はAβ42のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗Aβ抗体を産生する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であるであることが好ましい。
<2> 更に本発明は、前記Aβをコードする遺伝子がアジュバント効果を持つタンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子であることが好ましく、前記アジュバント効果を持つタンパク質が蛍光タンパク質であることが好ましく、更に前記蛍光タンパク質は緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、又はこれらの誘導体であることが好ましい。
<3> 更に前記イネは極早生稲品種であることが好ましい。
<4> 更に本発明は、前記イネから生産されるアミロイドβペプチド、及び該アミロイドβペプチドを含有する食品、医薬品、または栄養補助剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の、Aβをコードする遺伝子(以下Aβ遺伝子ということがある。)が発現可能に導入されたイネを栽培することにより、イネ玄米、葉身、茎等の植物体中にAβを高濃度に産生させ、アルツハイマー治療、予防のためのワクチンを生産することができ、さらにAβとアジュバント効果を持つタンパク質との融合タンパク質を用いることにより、より効果的なワクチンを生産することができる。又Aβ遺伝子と蛍光タンパク質をコードする遺伝子(以下蛍光遺伝子ということがある。)との融合遺伝子をイネに導入することで、蛍光の発光が強いものを選抜することにより、Aβを高濃度に蓄積した品種を容易に育成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、Aβ遺伝子が発現可能に導入されていることを特徴とするイネであり、前記Aβ遺伝子がアジュバント効果を持つ遺伝子と融合されていることが好ましい。以下本発明について詳説する。
本発明が対象とする「アミロイドβペプチド」は、人体においては細胞膜に存在するアミロイド前駆体タンパク質(以下APPということがある。)が、分解酵素βセクレターゼ及びγセクレターゼにより切断されて生成される。AβはC-末端の切断部位の違いによってAβ40(40アミノ酸)と、それより2アミノ酸C-末側で切断されるAβ42が存在する。Aβ42のアミノ酸配列は、配列番号1に示す通りであり、Aβ40のアミノ酸配列は、Aβ42のアミノ酸配列からC-末側の「IA」が欠落した配列番号2に示す配列である。
【0012】
本発明のアミロイドβペプチドには、前記Aβ40、又はAβ42のアミノ酸配列から、1若しくは数個アミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列であって、体内に投与されたときに、体内において抗Aβ抗体をつくらせるアミノ酸配列のものを含む。
【0013】
なお前記ポリペプチドは、体内において抗Aβ抗体をつくらせる限りは、該ペプチドの構成アミノ酸に糖鎖等が置換されたアミノ酸を含むものであってもよい。
【0014】
前記Aβ40、又はAβ42のアミノ酸をコードする遺伝子は、Aβ40、又はAβ42のアミノ酸配列、及び前記置換、欠失、もしくは付加されたアミノ酸配列から、市販のDNAシンセサイザー等を用いて調製することができるが、ヒト由来のアミロイド前駆体タンパク質(APP) cDNAから、PCR法により、調製することが、安価で簡便にできる点でより好ましい。該アミロイド前駆体タンパク質cDNAからの調製においては、その後のAβ遺伝子をプラスミドに挿入する操作を効率的に行うため、プライマーの末端に、制限酵素サイトの塩基配列を付加することが好ましい。
【0015】
更に前記Aβ40、又はAβ42のアミノ酸をコードする遺伝子には、該遺伝子、及び該遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、体内において抗Aβ抗体をつくらせるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。
【0016】
前記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、60℃で2×SSC洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは実施例に記載の参考文献3に記載の方法等、従来公知の方法で行うことができる。
【0017】
本発明のAβはアミノ酸鎖が短いために、ワクチン・抗原等に対する免疫反応を助け、増強させる、アジュバント効果を持つタンパク質(以下アジュバントタンパク質ということがある。)と融合して用いられることが好ましい。前記アジュバントタンパク質としては、毒性が無く、体内において抗Aβ抗体産生能を増強するタンパク質であれば、いかなるタンパク質も用いることができるが、アミノ酸の数が30~500のタンパク質が好適に用いられる。具体的にはコレラ菌が産生する毒性の無いコレラトキシンBサブユニットタンパク質や大腸菌が産生する同じく毒性の無いエンテロトキシンBサブユニットタンパク質等を挙げることができ、また蛍光タンパク質を用いることもできる。中でも蛍光タンパク質は、レポータータンパク質として遺伝子導入個体の選抜にも有効なのでより好ましい。
【0018】
前記蛍光タンパク質としては、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、又はこれらの誘導体であることが好ましく、中でも緑色蛍光タンパク質が、古くから用いられ、安全性等の研究も進んでいるために特に好ましい。
【0019】
前記Aβとアジュバントタンパク質とを融合して用いるためには、本発明のAβ遺伝子が、アジュバントタンパク質をコードする遺伝子(以下アジュバントタンパク質遺伝子ということがある。)と融合した融合遺伝子として、植物体に導入されることが好ましい。中でも蛍光タンパク質をコードする遺伝子(以下蛍光遺伝子という。)との融合遺伝子は、蛍光遺伝子がレポーター遺伝子としても機能するために好ましい。
【0020】
前記Aβ遺伝子とアジュバントタンパク質遺伝子との融合遺伝子の調製方法は、特に限定されず、例えば、非特許文献7に記載の、PCR法で増幅させたアジュバントタンパク質遺伝子を導入したプラスミドと、同様に増幅させたAβ遺伝子を導入したプラスミドを元に、PCR法により融合する等の公知の方法を用いて調製することができる。
【0021】
中でも、蛍光遺伝子を既に含む市販のプラスミドを用いて、該プラスミドの所定の部位を制限酵素で切断し、前記Aβ遺伝子を該切断部に導入することにより、融合遺伝子を含むプラスミドを作製し、前記融合遺伝子含有プラスミドから、所定のプライマーを用い、蛍光遺伝子とAβ遺伝子との融合遺伝子をPCR法により増幅し調製することが簡便さ、効率の良さから好ましい。
【0022】
前記融合遺伝子のイネへの導入には、融合遺伝子を直接、又融合遺伝子を含むプラスミド等を発現ベクターとして、イネの細胞または組織に直接導入することができる。直接導入する方法としては、当業者に公知の形質転換方法、例えば、パーティクルガン、エレクトロポレーション法などを用いることができる。
【0023】
又、前記融合遺伝子が導入されたアグロバクテリウムやウイルス等の公知のベクターを発現ベクターとして、イネに感染させることにより、目的遺伝子を導入することができる。中でも本発明においては、単子葉植物に感染可能なアグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いることが、効果的な導入の観点から特に好ましい。
【0024】
前記アグロバクテリウム・ツメファシエンスに、前記融合遺伝子を含むベクターを、トリペアレンタルメイテング法、エレクトロポレーション法などを用いて導入し、導入後のアグロバクテリウムをイネの植物体に感染させる。中でもアグロバクテリウムへの融合遺伝子の導入は、エレクトロポレーション法が簡便、且つ効率的でより好ましい。
【0025】
前記アグロバクテリウムを感染させる宿主としては、イネの各器官等に由来する細胞培養、組織培養または器官培養等による培養細胞、培養組織等を用いることができるが、中でもイネの胚由来のカルスが、アグロバクテリウムの感染が容易な点でより好ましい。
【0026】
本発明に用いられるイネ品種は、いかなる品種も用いることができるが、温室内での栽培の可能性を考慮すると、早生稲品種、中でも極早生稲品種が好ましく、登録品種名「はやゆき」が特に好ましい。
【0027】
前記アグロバクテリウムが感染した培養細胞、培養組織等は、ハイグロマイシン、カナマイシンなどの薬剤の耐性で選択され、感染した培養細胞、培養組織等が植物体に再生される。該植物体への再生は、従来公知の培地、及び植物組織培養法を用いて再生させることができる。
【0028】
遺伝子がイネに導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換イネからDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。
【0029】
また、導入されたイネの生育後の玄米へのAβの蓄積について、ウエスタンブロット法、及び蛍光タンパク質を用いた蛍光法で確認することができる。特にAβと蛍光タンパク質の融合遺伝子を用いる場合は、蛍光の強いものを選抜することにより、Aβを高濃度に蓄積した品種を容易に選抜することができる。
【0030】
遺伝子導入イネの玄米のAβ蓄積量は、ウエスタンブロット分析により確認することができる。遺伝子導入イネと非遺伝子導入イネの玄米からの全タンパク質と、Aβの各レベルの濃度を、それぞれ泳動用試料として用いることにより、蓄積量は確認される。
【0031】
なお、具体的に記載した個々のベクター種および導入方法は単なる例示であり、上記以外の公知のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法を用いて、本発明のAβ遺伝子導入イネを作出することが可能である。
【0032】
本発明に係るイネは、有性生殖、栄養繁殖、またはカルス、プロトプラストなどのクローンに基づく増殖等により、Aβ遺伝子が導入された子孫を得ることができる。したがって、本発明のイネには、いかなる方法によるかを問わず、Aβを含有する本発明のイネに由来し、アミロイドβペプチドを含有する植物個体が含まれ、更に前記本発明のイネ及び本発明のイネに由来する植物個体から産生される組織、カルス、及び細胞が含まれる。
【0033】
本発明のイネから、Aβとアジュバントタンパク質との融合タンパク質を分離、精製し、純度の高いAβを含む融合タンパク質を得ることができる。前記分離、精製は、公知のいずれの方法をも用いることができる。例えば、玄米、葉身または茎等を、粉砕後、溶液に溶かし、硫安分画して不要なタンパクを沈殿させ、部分精製品を調整し、その上で、何種類かのカラム(陽イオン、陰イオン、疎水、ゲルろ過等)に、部分精製品をかけることにより、さらに精製を行うことができる。また、抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーや、電気泳動等を用いたサイズ分画による精製方法を用いることもできる。該方法は、不純物をより効果的に除去できるので好ましい。
【0034】
前記により得られたAβとアジュバントタンパク質との融合タンパク質は、必要であれば、限外ろ過の繰り返しや透析による脱塩等の操作後に、凍結乾燥することにより長期保存が可能である。この精製されたAβ融合タンパク質を経口ワクチンとしてアルツハイマー患者に投与することができる。
【0035】
本発明に係わるAβ含有イネの玄米、精米した白米は、加熱、非加熱に関わらず、アルツハイマー型認知症治療又は予防用食物ワクチンとして、患者又は将来発症が予想される人に対して、直接摂取させることができる。また粉砕したAβ含有イネの葉、茎は、そのまま或いはジュースとして、同様に、摂取させることができる。
【実施例】
【0036】
<イネ材料の調製>
イネ品種は「はやゆき」を用いた。成熟種子のもみを取り除き、玄米を取り出し、該玄米を70%エタノールで10秒間、20%アンチホルミン(和光純薬工業(株)製、品名コード197-02206)で15分間、表面を除菌した。該除菌処理は、直径90mm高さ20mmのシャーレ(テルモ(株)製、品名コードSH-20S)を用いて行い、除菌処理後に、滅菌水で玄米を4回以上洗い、前記除菌液を完全に取り除いた。
【0037】
前記除菌された玄米を、カルス誘導培地上に置床し、培養した。前記カルス誘導培地の培地組成は、N6無機塩、N6ビタミン、2mg/L 2,4-D、300mg/Lカザミノ酸、2878mg/Lプロリン、30g/Lショ糖、4g/Lゲルライト、pH5.8で、下記参考文献1にしたがって作製した。
参考文献1(Toki S., Hara N. , Ono K., Onodera H., TagiriA., Oka S., Tanaka H.:
Early infection of scutellum tissue withAgrobacterium allows high
speed transformation of rice.Plant J. in press (2006) )
【0038】
前記シャーレを用い、1シャーレに20個の玄米を前記培地上に置床し、サージカルテープで封をした。日長は16時間(白色灯、光強度3000~4000ルックス)で、温度は25-27℃で培養した。培養開始後10日から30日目の、玄米の胚盤に形成されたカルスを、メスで単離し遺伝子導入の材料として用いた。
なお前記培地組成、培養条件等は、あくまでも本実施例において使用したものであり、形質転換に通常使用される他の方法で、本発明の形質転換イネを作出してもよい。なお後記の、接種用培地、共存培養用培地、除菌用培地、選抜用培地等の各培地についても同様である。
【0039】
<目的遺伝子の作製>
ヒト由来のアミロイド前駆体(APP) cDNAから、PCR法により、Aβ40遺伝子を作製した 。具体的には、Aβ40遺伝子の5’末端の塩基配列に制限酵素XhoIサイトとチミンを付加したプライマー(Aβ-5’ XhoI(+):塩基配列を配列番号3に示す。)と、Aβ40遺伝子の3’末端の塩基配列に終止コドンと制限酵素HindIIIサイトを付加したプライマー(Aβ40-3’HindIII(-):塩基配列を配列番号4に示す。)を用い、PCR法によりAβ40遺伝子を増幅した。さらに、増幅された遺伝子をXhoIとHindIIIで切断し、実施例1の目的遺伝子であるAβ40遺伝子を得た。実施例2の目的遺伝子であるAβ42遺伝子も、前記のプライマー(Aβ-5’ XhoI(+))とプライマー(Aβ42-3’HindIII(-):塩基配列を配列番号5に示す。) を用い、Aβ40遺伝子と同様に得た。
【0040】
<プラスミドの構築>
オワンクラゲから単離された緑色蛍光タンパク質(以下GFPという。)をコーディングする遺伝子(以下GFP遺伝子という。)を既に含むプラスミドpGFP-C2(ClontechLaboratories, Inc.製)のマルチクローニングサイトを、制限酵素のXhoI及びHindIIIで切断し、前記実施例1の目的遺伝子及び実施例2の目的遺伝子をそれぞれ切断部位に挿入し、GFP遺伝子とAβ40遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド(融合遺伝子含有プラスミド:pGFP-C2(Aβ40)、(実施例1))、及びGFP遺伝子とAβ42遺伝子の融合遺伝子を含むプラスミド(融合遺伝子含有プラスミド、pGFP-C2(Aβ42)、(実施例2))をそれぞれ得た。
【0041】
<GFP遺伝子とAβ遺伝子との融合遺伝子の作製>
前記実施例1及び実施例2の融合遺伝子含有プラスミドを鋳型として、プラスミドの蛍光遺伝子の5’末端の塩基配列にXbaIサイトを付加したプライマー(GFP-5’Xba(+):塩基配列を配列番号6に示す。)と、プラスミドのマルチクローニング部位の一部を含む配列に、SacIサイトを付加したプライマー(Aβ-Sac(-):塩基配列を配列番号7に示す。) を用いて、PCR法により増幅した後、制限酵素(XbaIとSacI)処理して、実施例1のGFP遺伝子とAβ40遺伝子との融合遺伝子及び実施例2のGFP遺伝子とAβ42遺伝子との融合遺伝子を作製した。
【0042】
<アグロバクテリウム用ベクターの構築>
アグロバクテリウム用ベクターとして、下記参考文献2に記載されているpIG121・Hmを用いた。
参考文献2(Hiei Y., Ohta S., Komari T. Et al.: Efficienttransformation of rice (Oryza sativa L.) mediated by Agrobacterium and sequence analysis of the boundaries of theT-DNA. Plant J. 6: 271-282 (1994) )
【0043】
前記ベクターpIG121・HmのイントロンGUS遺伝子を、制限酵素(XbaIとSacI)で除去した後、前記により調製した実施例1及び実施例2の融合遺伝子を、市販キット(宝酒造製、DNA ligation kit ver.2)を用い、イントロンGUS遺伝子を除去した当該ベクターに連結(ライゲーション)し、実施例1のベクターpIG121・Hm(GFP+Aβ40)(以後、単に実施例1のベクター等と記載することがある。なお実施例2も同様。)及び実施例2のベクターpIG121・Hm(GFP+Aβ42)を得た。次に、ベクターを、下記参考文献3にしたがい、大腸菌で増幅させた後、精製した。実施例1のベクターの構造を図1に示す。実施例2のベクターも同様の構造である。
参考文献3(Sambrook, J., Fritsch, E.F., Maniatis, T.: Molecular Cloning(alaboratory menual)2nd ed. vol.1, 出版社Cold Spring Harbor Laboratory Press)
【0044】
<導入用アグロバクテリウムの作成>
前記実施例1及び実施例2の融合遺伝子を導入後のベクター(それぞれpIG121・Hm(GFP+Aβ40)及びpIG121・Hm(GFP+Aβ42)を、前記参考文献2に記載のアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101株に、遺伝子導入装置(Bio-Rad Laboratories, Inc.製、E.coli パルサー)を使用して、エレクトロポレーション法(Bio-RadLaboratories, Inc.製、0.1cmキュベット使用、パルス条件:1.6KV/cm)により導入した。以後前記実施例1及び実施例2のベクターがそれぞれ導入された菌株を、実施例1及び実施例2の菌株という。
【0045】
前記実施例1及び実施例2の菌株を、50mg/Lのカナマイシンと50mg/LのハイグロマイシンBとを含む1.2%バクトアガー「DIFCO」(Becton,Dickinson & Co.製、品名コード214010)を加えたLB培地「DAIGO」(和光純薬工業(株)製、品名コード396-00871)上で、25℃で2~3日間培養し、耐性菌を得た。該耐性菌について、PCRによりベクターの導入が確認された前記耐性菌を-80℃で保存し、下記のイネへの接種に用いた。導入の確認は、コロニーPCR法により、カナマイシン抵抗性遺伝子を検出するためのプライマーセット(kan1:塩基配列は配列番号8、kan2:塩基配列は配列番号9)をPremix Taq(Ex Taq、タカラバイオ(株)製、品名コードRR003A)に加えて反応し、アガロース電気泳動を行って、約700bpの増幅DNAの有無により判定した。PCR条件は、変性:94℃、1分、アニーリング:55℃、1分、伸長:72℃、1分で30サイクルであった。
【0046】
<イネへの接種>
前記ベクターの導入が確認された実施例1及び実施例2の耐性菌を、更に50mg/Lのカナマイシンと50mg/LのハイグロマイシンBとを、1.2%バクトアガーを加えたLB培地上で25℃、暗黒下で一昼夜培養した。
【0047】
培養後に培地上に形成された実施例1及び実施例2の菌を採取し、接種用の培地に薄く濁る程度に、静かに撹拌しながら加えた。接種用培地は、前記参考文献2に記載のAAM培地(培地組成:AA無機塩、AAアミノ酸、MSビタミン、500mg/Lカザミノ酸、68.5g/Lショ糖、36g/Lグルコース、100μMアセトシリンゴン、pH5.2)を用いた。なお、前記アセトシリンゴンのみは、ジメチルスルホキシドに溶かして、規定濃度になるようにオートクレーブ(蒸気滅菌)後に、接種用の培地に加えた。
【0048】
前記により得た菌を含む実施例1及び実施例2の接種用培地について、50mL試験管に注入された接種用培地10mLに、前記<イネ材料の調製>に記載の調製した胚盤由来カルス20個を入れて、イネへの接種をした。該接種処理は、時々菌とカルスの切片がなじむように緩やかに振り、15分行った。接種処理後、カルスをろ紙上に置き、軽く接種用培地を除いた。操作は温度が22℃になるよう調節したクリーンベンチ(TABAI製、Cleartron)内で行った。
【0049】
前記接種後の実施例1及び実施例2のカルスを、共存培養用培地で培養した。共存培養用培地は、前記のカルス誘導培地に、100μMアセトシリンゴンを加え、pH5.2に変更したものを用いた。直径90mm高さ20mmのシャーレ中に、該共存培養用培地20mlを入れ、更に培地の上にろ紙を乗せて、該ろ紙上に前記接種後の実施例1及び実施例2のカルスをそれぞれ20個置き、暗黒下で、3日間、22℃で培養した。
【0050】
<除菌>
前記培養後の実施例1及び実施例2のカルスを、上記培地から取り出し、除菌用培地(N6無機塩、N6ビタミン、2mg/L 2,4-D 、30g/Lショ糖、400mg/L カルベニシリン、pH5.8)を用いて、除菌用培地が透明になるまで洗浄した。この洗浄処理は、前記除菌用培地を7.5mL入れた直径60mmのシャーレを用い、前記カルスを該シャーレに3回以上移し変えることにより行った。
【0051】
<遺伝子導入カルスの選抜>
前記除菌後の実施例1及び実施例2のカルスを、選抜用培地において培養した。該選抜用培地は、前記カルス誘導培地に、カルベニシリンを400mg/LとハイグロマイシンBを50mg/L加えたもので、前記カルベニシリンおよびハイグロマイシンBは、オートクレーブ後の培地温度が固化直前になるまで低下したときに、規定濃度になる様に培地に加えた。前記培地20mLを、直径90mm、高さ20mmのシャーレに入れ、該培地上に除菌後の実施例1及び実施例2のカルスを、それぞれ20個置いて培養した。培養条件は、温度が25-27℃で、照度が3000luxの白色灯を1日当たり16時間の照射とした。培養は、10日ごとに、白色または黄色のカルスを同様の培地に移植し、褐色に変色したカルスは廃棄することにより、遺伝子導入カルスを選抜した。
【0052】
<遺伝子導入小植物体の誘導>
前記により選抜された実施例1及び実施例2の遺伝子導入カルスを、それぞれ植物体誘導培地に移植した。該植物体誘導培地は、下記参考文献4に記載のMS無機塩、MSビタミン、1mg/Lナフタレン酢酸、2mg/Lベンジルアミノプリン、2g/lカザミノ酸、30g/Lソルビトール、30g/Lショ糖、50mg/lハイグロマイシンB、4g/lゲルライト、pH5.8の培地に、100mg/Lカルベニシリンを加えたものである。
参考文献4(Rashid H., Yokoi S., Toriyama K., Hinata K.: Transgenic plantproduction mediated by Agrobacterium in Indica rice. Plant Cell Rep. 15:727-730 (1996) )
【0053】
前記植物体誘導培地20mLを、直径90mm、高さ20mmのシャーレに入れ、該植物体誘導培地に、選抜された実施例1及び実施例2の遺伝子導入カルスを、それぞれ1シャーレにつき20個移植し、遺伝子導入小植物体への誘導を行った。培養条件は、温度が25-27℃で、照度が3000luxの白色灯を1日当たり16時間の照射とした。前記移植後は、約1cmの小植物体が誘導されるまで、10日おきに同様の植物体誘導培地への移植を繰り返した。10日おきの移植の際に、褐色になったカルスおよび小植物体は廃棄した。なお選抜された遺伝子導入カルスは、接種後25日目から6カ月目まで、小植物体への誘導が可能であった。
【0054】
<遺伝子導入小植物体からの発根及び生育>
前記により1cm以上に生育した実施例1及び実施例2の小植物体を、発根生育培地に移植し、発根と生育を促した。前記発根生育培地の組成は、前記参考文献4に記載のMS無機塩、MSビタミン、30g/Lショ糖、4g/Lゲルライト、50mg/LハイグロマイシンB、pH5.8である。前記培地の20mLを、直径90mm、高さ20mmのシャーレに入れ、単離した10個の小植物体を、やや埋めるようにして移植した。培養条件は、温度が25-27℃で、照度が3000luxの白色灯を1日当たり16時間の照射とした。発根後の遺伝子導入個体の確認は、GFP蛍光法により行い、根が緑色に蛍光を発するものを遺伝子導入個体とし、蛍光を発しないものは廃棄した。
【0055】
<遺伝子導入植物体の育成>
前記により培養後、発根した実施例1及び実施例2の小植物体を、滅菌土の入ったポットに移植した。最初は大きめのビーカー等と寒冷紗で保護し、徐々に温室の条件に馴らし、さらに生育させて実施例1及び実施例2のイネ植物体を得た。
【0056】
<導入された遺伝子のPCR法による確認>
前記により得られた実施例1及び実施例2のイネ植物体のDNAに、遺伝子が導入されていることを確認するために、PCR法による解析を行った。遺伝子導入イネ、及び対照として非遺伝子導入イネの抽出DNAを鋳型として、導入された遺伝子の断片を検出するためのプライマーセットとして、ForwardPrimer : GFP-5’Xba(+)、及びReverse Primer : Aβ-Sac(-)を、Premix Taq(Ex Taq、タカラバイオ(株)製、品名コードRR003A)に加えてPCRを行った。PCRは、95℃で1分間処理した後、94℃での変性1分間、65℃でのアニーリング1分間、72℃での伸長1分間の反応を、30サイクル行い、最終サイクルの伸長反応は、1分間延長した。PCR終了後、PCR反応液の約1/4量について、1xTAE緩衝液(40mM Tris、1mM EDTA、20mM 酢酸) によるアガロースゲル電気泳動により増幅産物の確認を行った。分子量マーカーには100bp DNAladder (NEB製、メーカーコード:N3231L) を用いた。
【0057】
前記アガロースゲル電気泳動法による遺伝子導入の確認の結果を図2に示す。図2において、左から1列目が対照(非遺伝子導入イネの葉)、2列目から4列目が実施例1(GFP遺伝子とAβ40遺伝子との融合遺伝子導入イネR0世代の葉、3列はそれぞれ別系統)、5列目から9列目が実施例2(GFP遺伝子とAβ42遺伝子との融合遺伝子導入イネR0世代の葉、5列はそれぞれ別系統)、10列目が水、11列目が実施例1のベクターpIG121・Hm(GFP+Aβ40)、12列目が実施例2のベクターpIG121・Hm(GFP+Aβ42)、13列目が分子量マーカーである100bp DNAladder をそれぞれ泳動したものである。
【0058】
図2より、実施例1及び実施例2の遺伝子導入イネからは、いずれも約900bpの易動度のバンドが検出され、遺伝子導入に用いた実施例1及び実施例2のベクターから増幅されたPCR産物の易動度と一致した。実施例1の遺伝子導入イネのバンドは、実施例2の遺伝子導入イネのバンドより、位置がわずかに上(易動度がわずかに短い)で、これはAβ40遺伝子とAβ42遺伝子の6塩基対の違いによる。また、非遺伝子導入イネおよび滅菌蒸留水を鋳型とした場合には、バンドは検出されなかった。この結果から遺伝子導入イネに、融合遺伝子が導入されていることが確認された。
【0059】
<ウエスタンブロット法による発現の確認>
実施例1及び実施例2の遺伝子導入イネに、目的遺伝子の形質発現に由来するアミロイドβペプチドと蛍光タンパク質との融合タンパク質(以下Aβ+GFP融合タンパク質ということがある)が蓄積していることを、ウエスタンブロット法により確認した。実施例1及び実施例2の遺伝子導入イネ、並びに対照として非遺伝子導入イネについて、各個体の葉、および根を、タンパク抽出緩衝液(50mM Tris-HCl(pH6.5)、10% Glycerol、2% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、2% 2-メルカプトエタノール)を加えて破砕した後、10分間、20,000gで遠心し、タンパク質を抽出した。その上清の一部を泳動用の試料として準備した。
【0060】
泳動はTris-glycine-SDS-PAGE電気泳動 (12% ポリアクリルアミド-SDSゲル) により行った。泳動後、ゲル中のタンパク質をHybond-PPVDF Membrane (GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製、製品コード:RPN2020 F)に、転写緩衝液(192mM Glycine、25mMTris、20% メタノール)を用いて電気的に転写した。転写後のPVDFメンブランを、ブロッキング緩衝液(5% スキムミルク、T-PBS[137mM NaCl、2.7mMKCl、8.1mM Na2HPO4・12H2O、1.5mM KH2PO4、0.1% Tween 20] )中で、2時間25℃で振盪してブロッキングを行い、続いてT-PBSで500倍に希釈した1次抗体( MouseMonoclonal Human Amyloid Beta Protein (Signet Laboratories, Inc. 製、品番:17320-02))を25℃で1時間反応させた後に、温度25℃のT-PBSで15分間の洗浄を2回繰り返した。
【0061】
洗浄後のPVDFメンブランをT-PBSで25,000倍に希釈した2次抗体 (Anti-mouse HRP conjugate: GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製品コード:RPN 2124) を、25℃で1時間反応させた後、温度25℃のT-PBSで15分間の洗浄を3回繰り返した。洗浄後のPVDFメンブランを、ECLPlus Western Blotting Reagent Pack(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製、RPN 2132)によって化学発光させ、サランラップに包んでルミノグラフィーを行い、シグナルを検出した。結果を図3に示す。図3におけるバンドは、左から、非遺伝子導入イネ葉、同根、実施例2の遺伝子導入イネR0世代の葉、同R1世代の葉、同R1世代の根のAβ+GFP融合タンパク質の発現をそれぞれ示す。
【0062】
ウエスタンブロット分析の結果、実施例2の遺伝子導入イネからは約32kDaの位置にバンドが検出され、予想されたAβ+GFP融合タンパク質の易動度(31.5kDa)と一致していた。非遺伝子導入イネからはバンドは検出されなかった。実施例1の遺伝子導入イネにおいても同様に約32kDaの位置にバンドが検出された。この結果から遺伝子導入イネの葉と根において導入された遺伝子が形質発現し、Aβ+GFP融合タンパク質が蓄積していることが確認された。
【0063】
<GFP蛍光法による導入された遺伝子の確認>
蛍光実体顕微鏡(ニコン製、P-FLA実体蛍光装置(SMZ800)、フィルターブロック:P-FLGFP-B(励起用フィルタ:460~500nm、吸収フィルタ:510~560nm))を用い、観察した。結果を図4に示す。図4において、上が非遺伝子導入イネ玄米を、下が実施例2の遺伝子導入イネ玄米をそれぞれ示す。
【0064】
実施例1と実施例2の遺伝導入イネの玄米(R1世代)からGFPの緑色の蛍光が確認された。蛍光の強さはR1系統ごとに異なり、1つの玄米から1000個以上の蛍光のスポットが観察される系統から、蛍光が確認されない系統等、幅広く分布していた。実施例2の遺伝子導入イネが、実施例1の遺伝子導入イネに比べて、蛍光のスポット数が多い系統が多かった。
【0065】
<ペプチド濃度の確認>
遺伝子導入イネの玄米のAβの蓄積量をウエスタンブロット分析により確認した。実施例2の遺伝子導入イネ、並びに対照として非遺伝子導入イネについて、各個体に結実した玄米1粒(約20mg)を破砕した後、400μlの抽出緩衝液(20mM Tris-HCl(pH6.5)、8M Urea、5% 2-メルカプトエタノール、20%Glycerol、4% SDS)中で、1時間室温で振盪し、更に、5分間、20,000gで遠心し、タンパク質を抽出した。3μl(玄米0.15mg)を泳動用の試料として準備した。また、実施例2の遺伝子導入イネの玄米に含まれるAβ42濃度を推定するため、市販のAβ42(PeptideInstitute, Inc.製、Code:4349-v)を、5、10、20、40、60ngの濃度に調製し、それぞれ泳動用試料として同様に準備した。
【0066】
泳動はTris-tricine-SDS-PAGE電気泳動(12%T(ゲル強度)、3%C(架橋度)) により行った。泳動後の処理、検出法は、前記<ウエスタンブロット法による発現の確認>の項に記載のとおりに行った。結果を図5に示す。図5におけるバンドは左から、1列目が非遺伝子導入イネ玄米(玄米0.15mg)、2列目から6列目の5列が実施例2の遺伝子導入イネ玄米R1世代系統(それぞれ玄米0.15mg、それぞれ別系統)、7列目から11列目の5列がAβ42(左から5、10、20、40、60ngを泳動)のバンドを示す。遺伝子導入イネ玄米のAβ42は、GFPとの融合タンパク質として存在するため、Aβ42の位置とは異なり、32kD位置に存在する。
【0067】
図5の結果、実施例2の遺伝子導入イネ玄米からは非遺伝子導入イネからは検出されない特異的なバンドが検出された。また、そのバンドのシグナル強度を対照として泳動したAβ42のシグナル強度と比較したところ、遺伝子導入イネ玄米1粒には、系統により差異はあるものの、2.6μgから7.8μgのAβに相当する目的遺伝子産物が蓄積していることが推察された。1gあたりに直すと130μgから390μgの蓄積量で、これは「背景技術」の項目において引用した先行文献に記載の、ジャガイモの可溶性タンパク質1gあたり18~50μg(非特許文献6を参照。)、77μg(非特許文献5を参照。)、ピーマンの葉1gあたりの蓄積量は92~116μg(非特許文献7を参照。)のいずれよりも効率的である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のAβ遺伝子を導入したイネは、玄米に高濃度のAβが蓄積される。イネは主食として定期的に摂取することが可能であるため、アルツハイマー病に対する食物ワクチンとして期待される。また本発明のイネにより発現するタンパク質は、Aβとアジュバント効果を持つタンパク質との融合タンパク質のため、Aβのような鎖が短いタンパク質に比較して、高いワクチン効果が期待される。
【0069】
また、イネは株による栄養繁殖が可能であるため、遺伝子導入イネの遺伝的な固定を省略して、栄養繁殖品種を育成することにより、Aβ導入イネ品種の早期の育成が可能である。又遺伝子導入イネの完全閉鎖系植物工場での通年生産でも、ワクチンとして用いることにより採算が取れると期待される。更にこの場合は、野外での栽培ではないので、組換えイネの種子や遺伝子が野外に放出されることがなく、消費者団体等の反対も解消されうる。
【0070】
更に本発明の実施例では、イネ品種「はやゆき」を用いているが、「はやゆき」は極早生品種で、育苗を行えば、苗の移植から収穫まで約2ヶ月で収穫することが可能である。従って、植物工場で作った場合、年5回以上の収穫が可能で目的タンパク質を効率よく生産できる。本発明で作出されたAβ含有イネは,アルツハイマー病に対する食物ワクチン以外にも、機能性食品や医療品として食品分野、医薬分野において用いられることが予想される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】導入用プラスミドの構成(実施例1)
【図2】PCR法による遺伝子導入の確認
【図3】ウエスタンブロットによるAβの蓄積の確認(実施例2)
【図4】GFP蛍光によるAβ+GFP融合タンパク質の蓄積の確認(実施例2)
【図5】玄米のAβ濃度(実施例2)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4