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明細書 :試料中の標的物質を検出又は定量する方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6083849号 (P6083849)
公開番号 特開2014-021016 (P2014-021016A)
登録日 平成29年2月3日(2017.2.3)
発行日 平成29年2月22日(2017.2.22)
公開日 平成26年2月3日(2014.2.3)
発明の名称または考案の名称 試料中の標的物質を検出又は定量する方法及びキット
国際特許分類 G01N  33/553       (2006.01)
G01N  33/543       (2006.01)
G01N  33/542       (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI G01N 33/553
G01N 33/543 575
G01N 33/542 A
G01N 21/64 F
請求項の数または発明の数 11
全頁数 14
出願番号 特願2012-161928 (P2012-161928)
出願日 平成24年7月20日(2012.7.20)
審査請求日 平成27年7月14日(2015.7.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
【識別番号】512190930
【氏名又は名称】釜山大学校
発明者または考案者 【氏名】朴 龍洙
【氏名】董 金華
【氏名】李 在範
【氏名】周 宏建
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100108257、【弁理士】、【氏名又は名称】近藤 伊知良
【識別番号】100124800、【弁理士】、【氏名又は名称】諏澤 勇司
【識別番号】100126653、【弁理士】、【氏名又は名称】木元 克輔
審査官 【審査官】草川 貴史
参考文献・文献 特表2010-538298(JP,A)
特開2013-057630(JP,A)
VK.KOMARALA、外5名,Enhanced Forster resonance energy transfer between the CdTe quantum dots in proximity to gold nanoparticles,Proc SPIE,2007年,Vol.6641,Page.66410Y.1-66410Y.8
調査した分野 G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
試料中の標的物質を検出する方法であって、
試料及び標的物質を含まない陰性対照のそれぞれに、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを添加してインキュベーションするインキュベーション工程と、
インキュベーション工程後の試料及び陰性対照中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、
試料中の量子ドットの蛍光強度が、陰性対照中の量子ドットの蛍光強度と比較して強い場合に、試料中に標的物質が存在すると判定する判定工程と、
を含み、
第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが標的物質と結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、それにより量子ドットの蛍光強度が増強する、方法。
【請求項2】
試料中の標的物質を定量する方法であって、
試料及び既知濃度の標的物質を含む複数の標準試料のそれぞれに、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを添加してインキュベーションするインキュベーション工程と、
インキュベーション工程後の試料及び複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、
試料中の量子ドットの蛍光強度を、複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度と比較して、試料中の標的物質を定量する定量工程と、
を含み、
第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが標的物質と結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、それにより量子ドットの蛍光強度が増強する、方法。
【請求項3】
金属ナノ粒子は、金平糖状金属ナノ粒子である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
金属ナノ粒子は、金ナノ粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
量子ドットは、可視光領域の蛍光を発するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1のプローブ及び第2のプローブは、抗原、抗体、レクチン、糖、レセプター、リガンド、アプタマー又は核酸である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
試料中の標的物質の検出又は定量用キットであって、
第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを含み、
第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが標的物質と結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、それにより量子ドットの蛍光強度が増強する、キット。
【請求項8】
金属ナノ粒子は、金平糖状金属ナノ粒子である、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
金属ナノ粒子は、金ナノ粒子である、請求項7又は8に記載のキット。
【請求項10】
量子ドットは、可視光領域の蛍光を発するものである、請求項7~9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
第1のプローブ及び第2のプローブは、抗原、抗体、レクチン、糖、レセプター、リガンド、アプタマー又は核酸である、請求項7~10のいずれか一項に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の標的物質を検出又は定量する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中の標的物質を検出又は定量する方法として、抗原と抗体の反応を利用した酵素結合免疫吸着法(ELISA)が知られている。
【0003】
一方、例えば非特許文献1には、金ナノ粒子により、量子ドットのフォトルミネッセンスの強度が増強することが記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】齋藤健一、“三原色発光するSi量子ドットの金ナノ粒子構造体による発光増強”、[online]、文部科学省 科学研究費補助金「特定領域研究」(平成19~22年度)「光-分子強結合反応場の創成」ニュースレターNo.26(2010年11月17日)、第4頁、[平成24年5月21日検索]、インターネット<URL:http://photomolecule.net/newsletter/2010/kenkyu1117.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より多様な方法で試料中の標的分子を検出又は定量できれば、検出感度の向上、検出精度の向上、従来不可能であった測定が可能となる等の利点が得られる可能性がある。そこで、本発明は、試料中の標的物質を検出又は定量する新たな方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料中の標的物質を検出する方法であって、試料及び標的物質を含まない陰性対照のそれぞれに、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを添加してインキュベーションするインキュベーション工程と、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、試料中の量子ドットの蛍光強度が、陰性対照中の量子ドットの蛍光強度と比較して強い場合に、試料中に標的物質が存在すると判定する判定工程と、を含み、第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが標的物質と結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、それにより量子ドットの蛍光強度が増強する方法を提供する。
【0007】
本発明により、試料中の標的物質を検出する新たな方法を提供することができる。この方法は、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接すると、量子ドットの蛍光強度が増強するという現象を利用するものである。試料中の標的物質と、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットが結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、量子ドットの蛍光強度が増強する。この蛍光強度の増強に基づいて試料中の標的物質を検出することができる。また、本発明の方法によれば、従来のELISA法では必要な工程である洗浄工程を行うことなく、試料中の標的物質を検出することができる。このため、簡便に標的物質を検出することができる。また、洗浄工程による標的物質の検出感度の低下を防止することができる。
【0008】
本発明はまた、試料中の標的物質を定量する方法であって、試料及び既知濃度の標的物質を含む複数の標準試料のそれぞれに、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを添加してインキュベーションするインキュベーション工程と、インキュベーション工程後の試料及び複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、試料中の量子ドットの蛍光強度を、複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度と比較して、試料中の標的物質を定量する定量工程と、を含み、第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが標的物質と結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、それにより量子ドットの蛍光強度が増強する方法を提供する。
【0009】
本発明により、試料中の標的物質を定量する新たな方法を提供することができる。また、本発明の方法によれば、洗浄工程を必要とせずに、試料中の標的物質を定量することができるため、簡便に標的物質を定量することができる。
【0010】
本発明はまた、試料中の標的物質の検出又は定量用キットであって、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを含み、第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合せず、第1のプローブ及び第2のプローブが標的物質と結合することにより、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接し、それにより量子ドットの蛍光強度が増強する、キットを提供する。
【0011】
本発明のキットによれば、新たな原理に基づいて、標的物質を簡便に検出することができる。
【0012】
上記の金属ナノ粒子は、金平糖状金属ナノ粒子であることが好ましい。
【0013】
金平糖状金属ナノ粒子を用いることにより、標的物質の検出感度を高めることができ、より正確に標的物質を定量することができる。
【0014】
上記の金属ナノ粒子は、金ナノ粒子であることが好ましい。金ナノ粒子は、量子ドットの蛍光強度を効率よく増強することができる。
【0015】
上記の量子ドットは、可視光領域の蛍光を発するものであってもよい。これにより、量子ドットの蛍光強度の増強を、肉眼で確認することができ、標的物質を容易に検出又は定量することができる。
【0016】
上記の第1のプローブ及び第2のプローブは、抗原、抗体、レクチン、糖、レセプター、リガンド、アプタマー又は核酸であることが好ましい。
【0017】
第1のプローブ及び第2のプローブがこのようなものであれば、抗原、抗体、レクチン、糖、レセプター、リガンド、アプタマー又は核酸に結合可能な標的物質を検出又は定量することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、洗浄工程を必要としない、試料中の標的物質を検出又は定量する新たな方法及びキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】金属ナノ粒子及び量子ドットが近接すると、量子ドットの蛍光強度が増強する現象を説明する図である。
【図2】試料中の標的物質を検出する方法の一実施形態を説明する図である。
【図3】実験例1の結果を示す蛍光スペクトルのグラフである。
【図4】実施例1の結果を示すグラフである。
【図5】実施例2の結果を示すグラフである。
【図6】実施例3の結果を示すグラフである。
【図7】実施例4の結果を示す検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(原理)
量子ドットは数十nm以下の半導体結晶であり、励起光を照射すると蛍光を発する。本発明の検出方法及び定量方法は、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接すると、量子ドットの蛍光強度が増強するという現象を利用するものである。

【0021】
図1は、この現象を説明する図である。図1は、量子ドット10と金属ナノ粒子20とが近接した状態を示している。この近接は、例えば、量子ドット10及び金属ナノ粒子20に固定された、第1のプローブ及び第2のプローブが、標的物質と互いに結合することにより達成される。ここで、量子ドットに励起光を照射すると、金属ナノ粒子20の電荷が局在し、近接した量子ドット10及び金属ナノ粒子20の間で蛍光増強効果が生じ、量子ドット10単体に励起光を照射した場合と比較して増強された蛍光が発生する。図では、励起光を点線の矢印で表し、蛍光を白矢印で表し、蛍光増強効果を直線の矢印で表す。また、金属ナノ粒子20の電荷の局在を「+」及び「-」の記号で表す。

【0022】
図2は、試料中の標的物質を検出する方法の一実施形態を説明する図である。一例として、試料中の抗ネオスポラ抗体を検出する場合を説明する。牛ネオスポラ症とは、寄生虫であるネオスポラ・カニナムの寄生を原因とする寄生虫病である。牛ネオスポラ症に感染したウシの血清中には抗ネオスポラ抗体が含まれている。そこで、ウシ血清中の抗ネオスポラ抗体を検出することにより、牛ネオスポラ症の感染を検出することができる。

【0023】
標的物質30は、抗ネオスポラ抗体である。標的物質30は、金属ナノ粒子20に固定化された第1のプローブ21に結合する。ここで、第1のプローブ21は、抗ネオスポラ抗体の抗原であるNcSAG1タンパクである。また、標的物質30は、量子ドット10に固定化された第2のプローブ11に結合する。ここで、第2のプローブ11は、例えば、抗ウシIgG抗体である。これらの結合の結果、金属ナノ粒子20及び量子ドット10が近接し、量子ドット10の蛍光強度が増強する。この蛍光強度の増強を測定することにより、試料中の標的物質30を検出することができる。

【0024】
(試料中の標的物質を検出する方法)
本実施形態に係る試料中の標的物質を検出する方法は、試料及び標的物質を含まない陰性対照のそれぞれに、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを添加してインキュベーションするインキュベーション工程と、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照中の量子ドットの蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、試料中の量子ドットの蛍光強度が、陰性対照中の量子ドットの蛍光強度と比較して強い場合に、試料中に標的物質が存在すると判定する判定工程とを含む。

【0025】
(標的物質及びプローブ)
本実施形態の方法では、標的物質として、抗原-抗体、レクチン-糖、レセプター-リガンド、アプタマー-アプタマーの標的物質、核酸-核酸等の、互いに特異的に結合する物質の組の一方を用い、他方をプローブとして用いることができる。より具体的には、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、化学物質、ホルモン、ウイルス、糖等を標的物質又はプローブに用いることができる。

【0026】
ここで、第1のプローブ及び第2のプローブは、標的物質と結合するが互いに結合しないものを選択する。第1のプローブと第2のプローブが直接結合してしまうと、標的物質の存在の有無に関係なく金属ナノ粒子と量子ドットが近接してしまい、誤検出や誤判定の原因となる。例えば、標的物質が抗原に特異的に結合する抗体である場合、第1のプローブ及び第2のプローブとしては、例えば、標的物質の抗体が結合する抗原及び標的物質の抗体に結合する2次抗体を使用することができる。これらは、いずれが第1のプローブであっても第2のプローブであってもよい。また、例えば、標的物質が抗原である場合、第1のプローブ及び第2のプローブとしては、標的物質上のそれぞれ異なるエピトープに結合する2種類の抗体を使用してもよい。また、例えば、標的物質が抗原であり、抗原が近接して複数存在する場合、第1のプローブ及び第2のプローブとしては、標的物質上の同一のエピトープに結合する抗体を使用してもよい。ここで、抗原が近接して複数存在する場合とは、例えば、抗原が多量体を形成している場合や、標的物質が、ウイルス、微生物、細胞等の表面に複数存在する抗原である場合が挙げられる。つまり、標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブが結合することにより、金属ナノ粒子と量子ドットが近接することができる限り、第1のプローブ及び第2のプローブの組み合わせに制限はない。

【0027】
検出対象となる標的物質は、液体中に存在していてもよく、固体、粉末、流動体、気体等の試料中に存在していてもよい。本実施形態に係る、試料中の標的物質を検出する方法は、液体中で実施することが好ましい。このため、試料が液体以外である場合には、適切なバッファー等に試料を溶解又は懸濁し、液体にすることが好ましい。

【0028】
(金属ナノ粒子)
金属ナノ粒子としては、ナノオーダーの粒径を有する金、銀等のプラズモン現象を有する金属の粒子が挙げられる。なかでも、量子ドットの蛍光を増強させる効果が大きいことから金であることが好ましい。プラズモン現象とは、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞う現象を意味する。

【0029】
金属ナノ粒子の調製方法は特に制限されない。例えば、金ナノ粒子は、塩化金酸(HAuCl)をクエン酸とタンニン酸で還元することにより調製することができる。また、銀ナノ粒子は、硝酸銀水溶液をクエン酸等で還元することにより調製することができる。

【0030】
(金平糖状金属ナノ粒子)
金平糖状金属ナノ粒子とは、表面に金平糖状の凹凸を有する金属ナノ粒子であり、urchin-like金属ナノ粒子ともいう。表面に凹凸を有するか否かは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより確認することができる。通常の金属ナノ粒子(表面が滑らかな金属ナノ粒子)がほぼ球状であるのに対し、金平糖状金属ナノ粒子は、金平糖のような形状である。金平糖状金属ナノ粒子は、例えば、10mLの10mM HEPES緩衝液(pH7.4)に250μlの20mM塩化金酸溶液を添加した後、溶液の色が黄色から濁った青に変わるまで室温で30分間静置することにより調製することができる。

【0031】
(量子ドット)
量子ドットとは、直径が2~10nm程度の量子井戸構造を有するナノ結晶である。量子ドットには、コア構造のみのものと、コア/シェル構造のものが知られている。前者の例としては、CdS、CdSe、CdTe、CdSeTe等のCd系量子ドット;PbS、PbSe等のPb系量子ドット;ZnSe、ZnTe等のZn系量子ドット等が知られている。後者の例としてはCdSe/ZnS、CdSe/CdS/ZnS、CdSe/ZnSe/ZnS、GaAs/AlGaAs等の量子ドットが知られている。本実施形態においては、これらのいずれの量子ドットも使用することができる。

【0032】
量子ドットの蛍光波長は量子ドットの粒径に依存する。例えば、CdSe量子ドットでは、粒径を3~5nmに変化させることによって青緑から赤まで(500~650nm)の蛍光を発生させることができる。一般に、量子ドットの粒径は、合成反応の反応時間、合成に用いる有機金属化合物の熱分解反応の温度等により制御することができる。

【0033】
また、量子ドットの蛍光波長は、量子ドットの材料の半導体の種類にも依存する。ZnSe、CdS、CdSe、CdSeTe、PbS、PbSe等の半導体により、可視から近赤外(400~2000nm)の蛍光を発する量子ドットを合成することができる。

【0034】
量子ドットの合成法には、主にトップダウン法とボトムアップ法の2種類存在する。トップダウン法においては、半導体基板に電子ビームリソグラフィーや分子線エピタキシー法等を用いて量子ドットを合成する。ボトムアップ法においては、液相で化学合成する。また、液相での化学合成には、主に水溶液中で合成するものと有機溶媒中で合成する方法の2種類存在する。

【0035】
水溶液中での合成では、例えば、チオール系化合物を保護剤として、カドミウム塩の水溶液にテルル化水素ナトリウム等を反応させることによってCdTe量子ドットを合成することができる。

【0036】
有機溶媒中での合成では、例えば、配位性有機化合物であるトリオクチルフォスフィン(TOP)やトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)を溶媒として、ジメチルカドミウム及びS、Se、TeのTOP錯体あるいは有機金属化合物を約300℃で熱分解し、量子ドットを合成することができる。

【0037】
本実施形態においては、これらのいずれの方法で合成された量子ドットも使用することができる。

【0038】
(金属ナノ粒子及び量子ドットへのプローブの固定方法)
金属ナノ粒子及び量子ドットへのプローブの固定方法は特に限定されないが、例えば、金属ナノ粒子又は量子ドットの表面にアミノ基、カルボキシル基、チオール基等の官能基を導入し、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)等の化学架橋剤を用いてプローブを固定することができる。金属ナノ粒子又は量子ドットの表面に官能基を導入する方法としては、例えば、金属ナノ粒子又は量子ドットを、8-メルカプトオクタン酸等の両親媒性のチオール化合物と反応させる方法等が挙げられる。

【0039】
(インキュベーション工程)
インキュベーション工程では、試料及び標的物質を含まない陰性対照のそれぞれに、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを添加してインキュベーションする。この工程により、試料中に標的物質が存在する場合には、標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブが結合し、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接する。金属ナノ粒子及び量子ドットの量は適宜設定すればよい。インキュベーション温度は、標的物質やプローブに応じて適宜選択できる。インキュベーション時間は、標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブの結合が平衡に達するのに要する時間に設定すればよく、例えば1時間である。

【0040】
(蛍光測定工程)
蛍光測定工程では、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照中の量子ドットの蛍光強度を測定する。測定には、分光蛍光光度計等の一般的な蛍光測定機器を用いることができる。より具体的には、インキュベーション工程後の試料及び陰性対照に対して、量子ドットの励起光を照射し、発生する蛍光強度を測定すればよい。

【0041】
例えば、量子ドットとして可視光領域の蛍光を発するものを使用した場合、励起光照射装置があれば、蛍光測定機器を使わなくても、肉眼で観察することにより、蛍光を検出することも可能である。これにより、標的物質の検出が必要な現場において、標的物質の存在をその場で検出することが容易になる。

【0042】
(判定工程)
判定工程では、蛍光測定工程において測定された蛍光強度に基づいて、試料中に標的物質が存在したか否かを判定する。具体的には、試料中の量子ドットの蛍光強度が、陰性対照中の量子ドットの蛍光強度と比較して強い場合に、試料中に標的物質が存在すると判定する。また、上記したように、量子ドットとして可視光領域の蛍光を発するものを使用した場合には、蛍光測定機器を使わなくても肉眼で観察することにより、蛍光を検出することも可能である。そして、肉眼で蛍光強度の増強に基づいて、標的物質の存在又は不存在を判定することができる。

【0043】
(試料中の標的物質を定量する方法)
試料中の標的物質を定量する方法は、基本的には試料中の標的物質を検出する方法と同様であり、試料と共に既知濃度の標的物質を含む複数の標準試料を用いる点が異なる。具体的には、試料及び既知濃度の標的物質を含む複数の標準試料のそれぞれに第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを添加して、上記と同様のインキュベーション工程及び蛍光測定工程を行う。続いて、次に説明する定量工程を行う。

【0044】
(定量工程)
定量工程では、試料中の量子ドットの蛍光強度を、複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度と比較することにより、試料中の標的物質の存在量を求める。例えば、複数の標準試料中の量子ドットの蛍光強度をもとに検量線を作成し、試料中の量子ドットの蛍光強度をこの検量線に当てはめることにより、試料中の標的物質の濃度を求めることができる。

【0045】
(キット)
一実施形態において、試料中の標的物質の検出又は定量用キットは、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットを含む。これらの第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットは、溶液の状態で供給されてもよいし、乾燥状態で供給され、使用時にバッファーに溶解又は懸濁させるものであってもよい。これらの金属ナノ粒子及び量子ドットを用いて、上記のインキュベーション工程、蛍光検出工程、判定工程又は定量工程を実施することにより、試料中の標的物質を検出又は定量することができる。

【0046】
別の実施形態に係る、試料中の標的物質の検出又は定量用キットにおいて、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットは、例えば、ろ紙などの媒体中に染みこませた状態で供給されてもよい。媒体は、使用に適した形状及びサイズに適宜調整されてよく、例えば短冊状であってよい。キットの使用時には、試料及び標的物質を含まない陰性対照を、第1のプローブを固定化した金属ナノ粒子及び第2のプローブを固定化した量子ドットが存在する媒体に滴下する。これにより、試料中に標的物質が存在する場合には、媒体中で標的物質、第1のプローブ及び第2のプローブが結合し、金属ナノ粒子及び量子ドットが近接する。蛍光検出工程において、媒体に励起光を照射することにより、量子ドットから蛍光が発生する。本実施形態のキットは、特に、標的物質の迅速な検出が必要な、現場での簡易検出に適している。
【実施例】
【0047】
(表面が滑らかな金粒子の調製)
表面が滑らかな金粒子の溶液(金コロイド溶液)100mLを作製した。まず、使用する全ての器具を王水(塩酸と硝酸を容量比3:1で混合した液体)で洗浄し、エタノール及び超純水(比抵抗値18.2MΩ・cm)ですすいだ。次に、次のA液及びB液の2種類の溶液を準備した。
A液:1%塩化金酸1mLと純水79mLの混合溶液
B液:1%クエン酸4mL、1%タンニン酸0.025mL及び純水の混合溶液(合計20mL)
続いて、A液及びB液をそれぞれ約60℃に加熱し、A液を攪拌しながら、A液にB液を素早く加えた。混合した溶液の色が赤くなった後、約5~10分間沸騰させることにより、金コロイドを作製した。なお、上記の方法において、B液のタンニン酸の容量を変化させることにより、金粒子の粒径を調整することができる。例えば、3.5~14nmの粒径の金粒子を調製することができる。
【実施例】
【0048】
(金平糖状金ナノ粒子の調製)
使用する全ての器具を王水(塩酸と硝酸を容量比3:1で混合した液体)で洗浄し、エタノール及び超純水(比抵抗値18.2MΩ・cm)ですすいだ。100mM HEPES溶液を超純水で調製し、1M NaOHでpHを7.4(25℃)に調整した。続いて、100mM HEPES溶液1mLと超純水9mLを混合し、これに20mM HAuCl溶液250μLを添加した。室温で30分以内に溶液の色が淡黄色からピンク色に変化し、最終的には不透明な青色になり、金平糖状金ナノ粒子を得た。
【実施例】
【0049】
(量子ドットの調製)
チオール系化合物を保護剤としてCdTe量子ドットを調製した。具体的には、0.985g(2.35mmol)のCd(ClO・6HOを125mLの水に溶解し、5.7mmolのチオグリコール酸を撹拌しながら添加した。続いて、1M NaOHを滴下することによりpHを11.4~11.6に調整した。この溶液を三つ口フラスコに入れ、窒素バブリングを30分間行うことにより脱気した。続いて、溶液を撹拌しながら、ゆっくりとした窒素ガスの流れと共に、HTeガスを溶液中に20分間通した。HTeガスは、窒素雰囲気下で、0.2g(0.46mmol)のAlTeの塊と、0.5M HSO 15~20mLとを反応させることにより調製した。凝縮装置を連結し、反応混合物を100℃、大気下(open-air condition)で20分間還流することにより、CdTe前駆体が生成し、CdTeナノ結晶に変換された。
【実施例】
【0050】
(金ナノ粒子へのプローブの固定)
金ナノ粒子を、まず、8-メルカプトオクタン酸で修飾した。1.0mLの8-メルカプトオクタン酸を9.0mLの金平糖状金ナノ粒子と混合し、終濃度0.5mMに調整した。室温で一晩、穏やかに振とうしながらインキュベートすることにより、金ナノ粒子の表面に8-メルカプトオクタン酸の単膜層(Self-Assembled Monolayer、SAM)を形成した。続いて、溶液を4000rpm、15分、4℃遠心し、上清を捨て、リン酸緩衝液(PBS、0.01M、pH7.4)でペレットをすすいだ。この洗浄操作を3回以上繰り返して結合しなかった8-メルカプトオクタン酸を除去し、8-メルカプトオクタン酸で修飾した金ナノ粒子を5mLの水に懸濁した。続いて、400μLの0.1M 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を添加し、10分間インキュベートした後に、100μLの0.1M N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を添加した。続いて、抗ウシIgGヤギ抗体を終濃度10μg/mLとなるように添加した。この混合溶液を、穏やかに振とうしながら室温で8時間インキュベートし、上記と同様の遠心/すすぎ工程を3回以上繰り返して、結合しなかった抗ウシIgGヤギ抗体を除去した。最終的なペレットを5.0mLのリン酸緩衝液に懸濁し、使用するまで4℃で保存した。この方法は、表面が滑らかな金ナノ粒子及び金平糖状金ナノ粒子のいずれにも使用できる。
【実施例】
【0051】
(量子ドットへのプローブの固定)
予め8-メルカプトオクタン酸で修飾した量子ドットを、エタノールで2回洗浄した。続いて、ネオスポラタンパク質である、NcSAG1又はNcSRS2を、上記の金ナノ粒子へのプローブの結合と同様の方法によって、量子ドットに結合した。プローブを結合した量子ドットは、1.0mLのリン酸緩衝液で懸濁し、使用するまで4℃で保存した。
【実施例】
【0052】
(実験例1)
(プローブを固定した量子ドットにおける蛍光波長及び蛍光強度の変化の検討)
プローブを固定していない量子ドット、ネオスポラタンパク質であるNcSAG1を固定した量子ドット、及びネオスポラタンパク質であるNcSRS2を固定した量子ドットの蛍光スペクトルを測定した。蛍光スペクトルの測定には、分光蛍光光度計(蛍光マイクロプレートリーダー)インフィニットM200 NanoQuant(商品名、TECAN社製)を用いた。
【実施例】
【0053】
結果を図3に示す。量子ドットにプローブを固定しても蛍光波長には変化が認められなかった。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
(表面の滑らかな金ナノ粒子と量子ドットを用いた牛ネオスポラ症の感染の検出)
量子ドットに抗ウシIgGヤギ抗体を固定した。また、表面の滑らかな金ナノ粒子に組換え体ネオスポラタンパク質NcSAG1を固定した。これらの量子ドット及び金ナノ粒子の混合溶液に、牛ネオスポラ症に感染したウシの血清(陽性血清)と健常な牛の血清(陰性血清)をそれぞれ添加し、1時間インキュベートした後に蛍光強度を測定した。結果を図4に示す。陽性血清を添加した場合の蛍光強度と陰性血清を添加した場合の蛍光強度との間に有意な差が認められ、この方法により牛ネオスポラ症の感染を検出できることが示された。陽性血清を添加した場合の蛍光強度は、陰性血清を添加した場合の蛍光強度と比較して9%増強した。
【実施例】
【0055】
(実施例2)
(金平糖状金ナノ粒子と量子ドットを用いた牛ネオスポラ症の感染の検出)
量子ドットに組換え体ネオスポラタンパク質NcSAG1を固定した。また、金平糖状金ナノ粒子に抗ウシIgGヤギ抗体を固定した。これらの量子ドット及び金ナノ粒子の混合溶液に、リン酸緩衝液、牛ネオスポラ症に感染したウシの血清(陽性血清)と健常な牛の血清(陰性血清)をそれぞれ添加し、1時間インキュベートした後に蛍光強度を測定した。結果を図5に示す。陽性血清を添加した場合の蛍光強度と陰性血清を添加した場合の蛍光強度との間に有意な差が認められ、この方法により牛ネオスポラ症の感染を検出できることが示された。陽性血清を添加した場合の蛍光強度は、陰性血清を添加した場合の蛍光強度と比較して18%増加した。実施例1と実施例2では、量子ドット及び金ナノ粒子に固定したプローブがそれぞれ逆になっているが、いずれの場合においても牛ネオスポラ症の感染を検出できることが示された。また、金平糖状金ナノ粒子を用いることにより、表面の滑らかな金ナノ粒子を用いた場合よりも蛍光強度の増強が強いことが示された。
【実施例】
【0056】
(実施例3)
(金平糖状金ナノ粒子と量子ドットを用いた牛ネオスポラ症の感染の検出)
実施例2と異なるプローブを用いた検討を行った。量子ドットに組換え体ネオスポラタンパク質NcSRS2を固定した。また、金平糖状金ナノ粒子に抗ウシIgGヤギ抗体を固定した。これらの量子ドット及び金ナノ粒子の混合溶液に、リン酸緩衝液、牛ネオスポラ症に感染したウシの血清(陽性血清)と健常な牛の血清(陰性血清)をそれぞれ添加し、1時間インキュベートした後に蛍光強度を測定した。結果を図6に示す。陽性血清を添加した場合の蛍光強度と陰性血清を添加した場合の蛍光強度との間に有意な差が認められ、この方法により牛ネオスポラ症の感染を検出できることが示された。陽性血清を添加した場合の蛍光強度は、陰性血清を添加した場合の蛍光強度と比較して48%増加した。
【実施例】
【0057】
(実施例4)
(インフルエンザタンパクの検出)
量子ドットに抗インフルエンザH1N1ヘマグルチニン(HA)抗体(ポリクローナル抗体)を固定した。また、金ナノ粒子に抗インフルエンザH1N1 HA抗体(ポリクローナル抗体)を固定した。96ウェルプレートに、これらの量子ドット及び金ナノ粒子の混合溶液を分注し、組換え体インフルエンザH1N1 HAタンパク質を、終濃度が1000ng/mL、100ng/mL、10ng/mL、1ng/mL、100pg/mL、10pg/mL及び1pg/mLとなるようにそれぞれ添加し、30分間インキュベートした後に蛍光強度を測定した。結果を図7に示す。組換え体インフルエンザH1N1 HAタンパク質の濃度に応じた蛍光強度の増強(蛍光強度の増加)が得られた。この結果は、上記の方法により標的物質を定量できることを示す。
【符号の説明】
【0058】
10・・・量子ドット、11・・・第2のプローブ、20・・・金属ナノ粒子、21・・・第1のプローブ、30・・・標的物質。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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