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明細書 :主食作物生産増収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5660540号 (P5660540)
登録日 平成26年12月12日(2014.12.12)
発行日 平成27年1月28日(2015.1.28)
発明の名称または考案の名称 主食作物生産増収方法
国際特許分類 A01N  43/90        (2006.01)
A01N  43/50        (2006.01)
A01P  21/00        (2006.01)
A01G   1/00        (2006.01)
A01G   7/06        (2006.01)
FI A01N 43/90 106
A01N 43/50 L
A01P 21/00
A01G 1/00 301Z
A01G 7/06 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2011-523685 (P2011-523685)
出願日 平成22年7月22日(2010.7.22)
国際出願番号 PCT/JP2010/062351
国際公開番号 WO2011/010695
国際公開日 平成23年1月27日(2011.1.27)
優先権出願番号 2009173724
2009267916
優先日 平成21年7月24日(2009.7.24)
平成21年11月25日(2009.11.25)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月19日(2013.7.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
発明者または考案者 【氏名】河岸 洋和
【氏名】森田 明雄
【氏名】崔 宰熏
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】太田 千香子
参考文献・文献 特開昭63-068570(JP,A)
調査した分野 A01G 1/00
A01G 7/06
A01N 43/50
A01N 43/90
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物と、穀物類又は芋類の栽培用植物体(種子を除く)とを接触させることを含む主食作物生産増収方法。
【化1】
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(一般式(I)中、R1及びR2は水素原子、又は、R1とR2が互いに連結したアゾ基
を表し、R3はイミダゾール環の窒素原子上に結合している水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を表す)
【請求項2】
前記一般式(I)中、アルキル基の炭素数が1~6である請求項1記載の主食作物生産増収方法。
【請求項3】
前記一般式(I)で表される化合物は、2-アザヒポキサンチン又はイミダゾール-4
-カルボキサミドである請求項1又は請求項2に記載の主食作物生産増収方法。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触させて土耕
栽培を行うことを含む請求項1~請求項3のいずれか1項記載の主食作物生産増収方法。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触させて水耕
栽培を行うことを含む請求項1~請求項3のいずれか1項記載の主食作物生産増収方法。
【請求項6】
前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触させて水耕栽培を行った後、前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触させないで土耕栽培を行うことを含む請求項1~請求項3のいずれか1項記載の主食作物生産増収方法。
【請求項7】
前記一般式(I)で表される化合物と、ナス科、ヒルガオ科、キク科、サトイモ科、ヤ
マノイモ科又はトウダイグサ科植物に属する芋類の栽培用地下茎又は根とを接触させて栽
培を行うことを含む請求項1~請求項3のいずれか1項記載の主食作物生産増収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主食作物生産増収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の生長を調節する化学物質としては、いわゆる植物ホルモンが知られている。一般に植物ホルモンは植物自体に由来する化学物質であり、微量で植物の生長、分化等を調節する物質である。また、植物自体に由来する化学物質ではないが、植物の生長を調節する化学物質も種々知られている。
【0003】
例えば、2-アザヒポキサンチンはプリン骨格を有するヒポキサンチンの2-アザ置換体であり、抗癌剤であるダカルバジン(DTIC)の分解産物として知られていることに加えて、ベントグラスの種子やイネの種子に対して発芽率の向上やシュートの伸長、又はレタスに対して根の伸長や質量増加等に寄与することが知られている(例えば、特開2009-1558号公報参照)。
【0004】
一方、イネ又はトウモロコシの穀物や芋類といった主食作物の生育を促進して単位面積あたりの収穫量を増やすことは、農業政策上、重要である。主食作物の収穫量を増やすために栄養価の高い肥料の改良が行われてきたが、多量の肥料を使用することによる弊害も問題視されるようになってきた。
このような観点からも、種々の植物生長調節剤が使用されてきており、例えばジャガイモの増収剤として、ステアリルアルコール等の炭素数12~24の1価アルコール(例えば、特開2006-45144号公報参照)や、トリアゾール系化合物(例えば、特開平9-71号公報参照)などが知られている。
【0005】
また、品種改良によって収量増加を図ることも行われており、種子質量の増加、詰まった種子の数の増加、種子数の増加、種子の大きさの増加、収穫指数の増加、千粒重の増加及び種子組成の改変を目的としたサイクリンA遺伝子等を導入した遺伝子導入イネなども知られている(例えば、特表2007-515167号公報および特許第4462566号公報参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、遺伝子を導入した所謂、組換え植物は、農作物分野では未だに広く一般に受け入れやすいとは言い難く、形質の安定性の観点からも充分とは言えない。また、合成品による植物生長調節剤では、天然物由来でないという点で土壌に対する影響が懸念される。
従って、本発明は、簡便に主食作物の生産増収が可能な天然由来の化合物による主食作物生産増収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
[1] 下記一般式(I)で表される化合物と、穀物類又は芋類の栽培用植物体(種子を除く)とを接触させることを含む主食作物生産増収方法。
【0008】
【化1】
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【0009】
(一般式(I)中、R1及びR2は水素原子、又は、R1とR2とが互いに連結したアゾ基を表し、R3はイミダゾール環の窒素原子上に結合している水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を表す)
前記一般式(I)中、アルキル基の炭素数が1~6である[1]記載の主食作物生産増収方法。
前記一般式(I)で表される化合物は、2-アザヒポキサンチン又はイミダゾール-4-カルボキサミドである[1]又は[2]に記載の主食作物生産増収方法。
] 前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触さ
せて土耕栽培を行うことを含む[1]~[3]のいずれか1つに記載の主食作物生産増収方法。
] 前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触させて水耕栽培を行うことを含む[1]~[3]のいずれか1つに記載の主食作物生産増収方法。
前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触させて水耕栽培を行った後、前記一般式(I)で表される化合物と、イネ科植物の栽培用植物体とを接触させないで土耕栽培を行うことを含む[1]~[3]のいずれか1つに記載の主食作物生産増収方法。
[7] 前記一般式(I)で表される化合物と、ナス科、ヒルガオ科、キク科、サトイモ科、ヤマノイモ科又はトウダイグサ科植物に属する芋類の栽培用地下茎又は根とを接触させて栽培を行うことを含む[1]~[3]のいずれか1つに記載の主食作物生産増収方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便に主食作物の生産増収が可能な天然由来の化合物による主食作物生産増収方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の主食作物生産増収方法は、下記一般式(I)で表される化合物と、主食作物の栽培用植物体(種子を除く)とを接触させることを含む主食作物生産増収方法である。
本発明では、下記一般式(I)で表される化合物を主食作物の栽培用植物体と接触させるので、主食作物の1株あたりの質量が増加する。この結果、下記一般式(I)で表される化合物を使用しない場合と比較して主食作物の収量が増加する。
本発明における主食作物1株あたりの収量の増加は、種子の発芽率の向上、作物の根の伸長や作物全体の体積の増加とは独立して生じると考えられ、主食作物としての収量、即ち、植物体全体ではなく、食される部分の増加を意味する。
【0012】
【化2】
JP0005660540B2_000003t.gif

【0013】
一般式(I)中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子もしくは1価の置換基、
又は、R1及びR2が互いに連結したアゾ基を表し、R3は水素原子または1価の置換基
を表す。
本発明においては、R1及びR2は水素原子、又は、R1及びR2が互いに連結したアゾ基を表し、R3はイミダゾール環の窒素原子に結合している水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を表す。
すなわち前記一般式(I)で表される化合物は、下記化学式(Ia)で表される2-ア
ザヒポキサンチン誘導体、又は下記化学式(Ib)で表されるイミダゾール-4-カルボ
キサミド誘導体である。
【0014】
【化3】
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【0015】
一般式(Ia)中、R3aは水素原子又は1価の置換基を表す。また一般式(Ib)中、R1b、R2b及びR3bは、それぞれ独立して水素原子又は1価の置換基を表す。
【0016】
一般式(Ia)で表される2-アザヒポキサンチン誘導体において、R3aは水素原子又は1価の置換基を表す。前記1価の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、ウレイド基等を挙げることができる。またこれらの1価の置換基は、可能であればさらに置換基を有していてもよく、該置換基としては前記1価の置換基と同様のものを例示できる。
【0017】
3aとしては、主食作物生産増収の観点から、水素原子、ハロゲン原子、または、アルキル基であることが好ましく、水素原子、またはアルキル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
また前記アルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、置換基を有している炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましい。前記アルキル基上の置換基としては、アミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、ヒドロキシ基、アシルオキシ基等を挙げることができる。
【0018】
また一般式(Ia)におけるR3aの置換位置は、置換可能である限り特に限定されず、窒素原子上であっても炭素原子上であってもよい。
一般式(Ia)で表される2-アザヒポキサンチン誘導体の具体例としては、以下のような化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0019】
【化4】
JP0005660540B2_000005t.gif

【0020】
上記一般式(Ia)で表される2-アザヒポキサンチン誘導体のうち、R3aが水素原子である2-アザヒポキサンチン(以下、「AHX」ということがある)は、下記化学式で表される互変異性体を含む化合物である。AHXは、例えば、シバの生育において、その一部分が円状に、周囲よりも繁茂する現象であるフェアリーリング現象の原因菌により生成するものであることが知られている天然由来の化合物である。
【0021】
【化5】
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【0022】
AHXは、フェアリーリング現象の原因菌の菌体培養液から、例えば、抽出、クロマトグラフィー等の通常用いられる方法で単離精製したものを使用してもよい。前記原因菌としては、コムラサキシメジを挙げることができる。
また、例えば、Magn. Reson. Chem., 40, 300-302 (2002) 等に記載の方法に基づいて、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドをジアゾ化した後、閉環することで化学的に合成したものを使用してもよい。
【0023】
また一般式(Ia)において、R3aが水素原子以外である2-アザヒポキサンチン誘導体は、例えば、前記AHXを出発物質として通常用いられる方法により合成することができる。具体的には例えば、R3aがアルキル基である化合物は、AHXに対してハロゲン化アルキルを作用させることで合成することができる。
【0024】
上記一般式(Ib)で表されるイミダゾール-4-カルボキサミド誘導体において、R1b、R2b及びR3bは、それぞれ独立して水素原子又は1価の置換基を表す。前記1価の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、ウレイド基等を挙げることができる。またこれらの1価の置換基は、可能であればさらに置換基を有していてもよく、該置換基としては前記1価の置換基と同様のものを例示できる。
【0025】
アルキル基としては炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基がさらに好ましい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル等を挙げることができる。またアルキル基は、さらに置換基を有してもよく、具体的には、クロロメチル、クロロエチル、フルオロメチル、トリフルオロメチル、ヒドロキシメチル、ベンジル、フェニルエチル等を挙げることができる。
アルケニル基としては炭素数2~6のアルケニル基が好ましく、具体的には、ビニル、アリル、ブテニル等を挙げることができる。
アルキニル基としては炭素数2~6のアルキニル基が好ましく、具体的には、エチニル、プロピニル等を挙げることができる。
アリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル、ナフチル等を挙げることができる。
アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アシル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基におけるアルキル部分は、前記アルキル基と同様のものを挙げることができる。また、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基におけるアリール部分は、前記アリール基と同様のものを挙げることができる。
さらにウレイド基は、無置換のウレイド基であっても、前記アルキル基またはアリール基で置換されたウレイド基であってもよい。
【0026】
本発明においては主食作物生産増収の観点から、前記R1b、R2b及びR3bはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、ウレイド基から選ばれる基であることが好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、ウレイド基から選ばれる基であることがより好ましく、水素原子、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、ウレイド基から選ばれる基であることがより好ましく、R1b及びR3bが水素原子であってR2bが水素原子又はアミノ基であることがさらに好ましく、R1b、R2b及びR3bがすべて水素原子であることが特に好ましい。
【0027】
また前記一般式(Ib)で表されるイミダゾール-4-カルボキサミド誘導体においては、R3bが一般式(Ia)におけるR3aの好ましい態様と同様であることもまた好ましい。
一般式(Ib)で表されるイミダゾール-4-カルボキサミド誘導体の具体例としては、以下のような化合物をあげることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
【化6】
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【0029】
一般式(Ib)で表されるイミダゾール-4-カルボキサミド誘導体のうち、R1b、R2b及びR3bが、すべて水素原子である化合物、すなわち、イミダゾール-4-カルボキサミド(以下、「ICA」ということがある)は、下記化学式で示される互変異性体を含む化合物であり、前記AHX同様に、例えば、シバの生育におけるフェアリーリング現象の原因菌により生成するものであることが知られている天然由来の化合物である。
【0030】
【化7】
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【0031】
ICAは、前記AHXと同様に、フェアリーリング現象の原因菌の菌体培養液から、例えば、抽出、クロマトグラフィー等の通常用いられる方法で単離精製したものを使用してもよい。
また、Synth. Commun., 17, 1409-1412 (1987)に記載の方法に準じて、エチルイミダゾール-4-カルボキシレートをアミド化することも得ることができる。
さらにまたICAは、前記2-アザヒポキサンチン(AHX)を脱窒素分解することで得ることもできる。このような脱窒素分解は、例えば、植物体中でも起こりうると考えられる。
【0032】
さらに一般式(Ib)で表される、イミダゾール-4-カルボキサミド誘導体は、例えば、ICA及びその誘導体を出発物質として、通常用いられる方法によって合成することができる。
【0033】
本発明における主食作物とは、人の主要なエネルギー供給源となる作物であって、炭水
化物、特にデンプンを多く含む種子、根菜を提供する作物を意味する。
本発明の主食作物生産増収方法における主食作物としては、穀物、芋類、豆類などが挙
げられ、中でも多くの地域において主食として用いられている穀物及び芋類であることが
主食作物増収効果の観点及び需要の観点から好ましい。
本発明においては、主食作物を穀物類又は芋類とする。
【0034】
穀物としては、増収効果の観点からイネ科植物であることが好ましい。イネ科植物としては、イネ(イネ属)、モロコシ、トウモロコシ(トウモロコシ属)、コムギ(コムギ属)、オオムギ(オオムギ属)、ハダカムギ、ライムギ及びエンバク等を挙げることができ、中でも主食作物増収効果及び需要の観点から、イネ、トウモロコシ及びコムギであることがより好ましい。
【0035】
芋類としては、ナス科、ヒルガオ科、キク科、サトイモ科、ヤマノイモ科及びトウダイグサ科などに属する植物が挙げられる。具体的には、ジャガイモ(ナス科ナス属)、サツマイモ(ヒルガオ科サツマイモ属)、キクイモ(キク科ヒマワリ属)、サトイモ(サトイモ科サトイモ属)、コンニャクイモ(サトイモ科コンニャク属)、ナガイモ(ヤマノイモ科ヤマノイモ属)、ヤマノイモ(ヤマノイモ科ヤマノイモ属)及びキャッサバ(トウダイグサ科イモノキ属)等が挙げられる。中でも、主食作物増収効果の観点からジャガイモ、であることがより好ましい。ジャガイモの品種としては特に制限されず、ダンシャク、メークイン等を挙げることができる。
【0036】
上記主食作物は、栽培用植物体の形態で前記一般式(I)で表される化合物と接触する。栽培用植物体の選択は、対象となる主食作物の種類によって異なり、通常の栽培の形態に基づいて選択すればよい。本明細書における栽培用植物体とは、発芽又は定植などにより栽培場所で生育するときの通常の形態を意味し、発芽前の種子は含まれない。
【0037】
例えば、芋類を選択した場合、根又は地下茎を栽培用植物体として前記一般式(I)で表される化合物と接触を行えばよい。サツマイモやキャッサバなどでは塊根が該当し、ジャガイモなどでは塊茎、サトイモなどでは球茎が該当する。これらは一般に種芋と称される場合がある。これらの根又は地下茎は、通常、主食作物として栽培する場合に用いられる方法をそのまま適用して栽培を行えばよく、例えば、適当な大きさに切り分けて、土中に植えてもよい。
【0038】
また穀物の場合には、定植後の植物体の形態で、前記一般式(I)で表される化合物と接触を行えばよい。定植後の植物体とは、例えばイネの場合、水田に苗を定植した以降の植物体を意味し、例えばトウモロコシの場合、播種後に発芽した植物体若しくはそれ以降の植物体、又は定植した苗以降の植物体を意味する。
【0039】
本発明の主食作物生産増収方法において、植物と接触させる前記一般式(I)で表される化合物の接触濃度は、植物の種類やその生育段階に応じて適宜選択できる。また接触方法もまた任意に選択可能である。前記一般式(I)で表される化合物の濃度としては、一般に、1μM以上であればよく、生産増収効果及び効率性の観点から、1μM以上2mM以下であることが好ましく、2μM以上1mM以下であることがより好ましい。
【0040】
栽培方法としては、水耕栽培又は土耕栽培のいずれであってもよく、主食作物の種類に応じて通常用いられる栽培方法をそのまま適用すればよい。
芋類の栽培は、一般に種芋を土中に植えることで開始する。前記一般式(I)で表される化合物は、上述した濃度範囲が維持できる範囲で栽培土に適宜添加していればよく、特に制限はない。
穀物類の栽培は、水耕と土耕とのいずれであってもよい。前記一般式(I)で表される化合物は、上述した濃度範囲が維持できる範囲で、それぞれ栽培液又は栽培土に適宜添加すればよい。
【0041】
添加時期については、苗又は栽培用植物体として栽培を開始した後の一定時期に所定濃度の前記一般式(I)で表される化合物と接触する時期があればよい。確実な増収効果の観点から、栽培の初期に接触していることが好ましい。
【0042】
芋類、例えばジャガイモの場合には、栽培期間を、根付期、萌芽期、発芽期、開花期後から収穫前のステージに分けることができる。このうち前記一般式(I)で表される化合物との接触は、いずれの時期であってもよいが、確実な増収効果の観点から、栽培の初期に相当する根付期から接触していることが好ましい。
穀物、例えばイネの場合には、栽培期間を一般に、苗から穂ができるまでの栄養生長期と、穂が形成されるまでの出穂期、開花期及び登熟期で構成される生殖生長期とに分けることができる。このうち前記一般式(I)で表される化合物との接触は、いずれの時期であってもよいが、確実な増収効果の観点から、発芽から苗までの期間、及び/又は、栄養生長期から接触していることが好ましい。
【0043】
前記一般式(I)で表される化合物の添加を栽培初期に行う場合には、発芽又は定植した植物体の栽培場所への適応の観点から、栽培を開始後に前記一般式(I)で表される化合物と非接触の期間を設けてもよい。主食作物の種類、天候及び品種などによって異なるが、確実な主食作物増収効果の観点から、一般に、穀物の場合には定植してから1週間以降、好ましくは2週間以降に前記一般式(I)で表される化合物を添加すればよく、ジャガイモなどの芋類の場合には根付けしてから5日以降、好ましくは1週間以降に添加することができる。
【0044】
添加期間としては、特に制限はなく、収穫までの全期間であってもよい。なお、本発明の効果が得られる限り、収穫までの期間において前記一般式(I)で表される化合物と非接触の期間があってもよい。
【0045】
本発明において前記一般式(I)で表される化合物を用いる場合に、公知の製剤用添加剤と共に使用してもよく、また任意の剤型で使用してもよい。公知の製剤用添加剤としては、賦形剤、乳化剤、湿潤剤等を挙げることができる。前記一般式(I)で表される化合物の形態としては、当業界で利用可能な形態であればいかなる形態であってもよく、例えば、乳剤、液剤、油剤、水溶液、水和剤、フロアブル、粉剤、微粒剤、粒剤、エアゾール又はペースト剤等の形態とすることができる。
【0046】
本発明における主食作物の増収とは、1株あたりの収量が増加すればよく、主食作物における可食部分としての粒大及び粒数のいずれか一方の増加を意味する。具体的には、イネの場合、米粒の重さ又は数の増加が挙げられ、芋類の場合には食用器官としての根及び/又は地下茎の大きさ及び数のいずれか一方の増加を意味する。
特に、イネ科植物の場合、水耕栽培で前記一般式(I)で表される化合物と接触させることによって粒重が増加し、一方、土耕栽培で前記一般式(I)で表される化合物と接触させることによって粒数が増加する。この結果、イネ科植物の場合には、栽培方法の種類に拘わらず収量を増やすことができる。
【0047】
日本出願2009-173724号および日本出願2009-267916号の開示はその全体を本明細書に援用する。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[合成例1]
AHXの合成
AHXは、Magn. Reson. Chem., 40, 300-302 (2002)に記載された方法に従って、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドをジアゾ化した後、閉環することにより、合成した。
【0050】
[合成例2]
上記で得られたAHXと6-(Boc-アミノ)ヘキシルブロマイドとを、無水ジメチルスルホキシド中、50℃で反応させることで、下記例示化合物(1)及び(2)を得た。
さらに、得られた例示化合物(1)及び(2)をトリフルオロ酢酸(TFA)で処理することにより下記例示化合物(3)及び(4)をそれぞれ得た。
【0051】
【化8】
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【0052】
[合成例3]
ICAは、Synth. Commun., 17, 1409-1412 (1987)に記載された方法に従って、エチールイミダゾール-4-カルボキシレートを、アンモニア水溶液中で100℃、4日間処理することにより合成した。
【0053】
[実施例1]
イネの水耕栽培による増収効果
イネ(品種:「日本晴れ」)を試験に用いた。育苗箱に播種して、20日間培養したイネの苗を一本ずつポット(1/5000 a)に移植し、1週間、水道水で培養した。
水道水による培養後のイネの栽培を、上記で合成したAHX(50μM)を添加した栽培用培地を用いて、7月から97日間にわたって屋外環境下で行った。
【0054】
栽培用培地としては、0.365mMの(NHSO、0.091mMのKSO、0.547mMのMgSO・7HO、0.183mMのKNO、0.365mMのCa(NO・4HO、0.182mMのKHPO、0.02mMのFe-EDTA、0.002mMのNaSiO、pH5.3を使用した。
イネを移植した8日目から32日目まで、また73日目から97日目までは、培地原液の半分の濃度で栽培を行い、33日目から72日目までは培地原液を使用した。コントロールは栽培用培地のみを使用した。
【0055】
水分及び栄養分の補給は、3日に1度、行った。添加に用いた培地はAHX処理区、コントロール区に各々の栽培用培地を使用した。ただし水耕栽培の場合は、週に1度栽培用培地の交換を行った。
栽培後の穀物を2週間乾燥し、玄米質量、玄米の水分含量及び炭素、窒素含量、玄米サイズ及び数(1株あたり)と、葉の長さ、桿長、穂長、穂数、分ゲツ数、地上部また地下部の質量を測った。なお、玄米サイズは、玄米質量(g/100玄米)から得た一粒の質量であり、玄米数は、玄米重(g/株)を玄米重(g/100玄米)で割ったものである。(株の個体数n=6)
結果を表1に示す。表1中、*は、t-検定法により5%水準で有意差があることを示す。
【0056】
【表1】
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【0057】
表1に示されるように、水耕栽培の場合は、1株当たり玄米重が約6%増加した。また、玄米サイズが増大し、総玄米重が増加しており、玄米数がほぼ同一と考えられる。一方、地下部の質量には有意な差が認められなかった。この結果から、AHXが植物全体の生長ではなく、主食作物の収量として重要な玄米のサイズ及び質量の増加に寄与していることが示唆される。
従って、イネ科植物の水耕栽培では、一般式(I)で表される化合物によって、粒の大きさの増大に基づく収量の増加が期待できる。
【0058】
[実施例2]
イネの土耕栽培における増収効果1
イネ(日本晴れ)の苗を一本ずつN(1440mg)、P(12mg)、KO(760mg)、CaO(806mg)の肥料が含有された土(1/5000 aポット使用)に移植したものを使用した以外は、実施例1と同様にして、土耕栽培を7月から97日間行った。
水分及び栄養分の補給は、毎日1度行った。添加に用いた培地はAHX(50μM)処理区、コントロール区に各々の栽培用培地を使用した。なお、水耕栽培とは異なり、栽培用培地の交換は行わなかった。
土耕栽培した穀物を2週間乾燥し、実施例1と同様に、玄米質量、玄米の水分含量及び炭素、窒素含量、玄米サイズ及び数(1株あたり)と、葉の長さ、桿長、穂長、穂数、分ゲツ数、地上部の質量を測った。(n=7)
結果を表2に示す。表2中、*は、t-検定法により5%水準で有意差があることを示す。
【0059】
【表2】
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【0060】
表2に示されるように、土耕栽培の場合は株当たり玄米重が約10%増加した。一つの玄米サイズがほぼ同一であることから、総玄米重の増加は玄米数の増加によるものと考えられる。一方、イネ全体としては葉の長さや穂数には有意な差は認められなかった。この結果から、AHXが植物体全体の生長ではなく、主食作物の収量として重要な玄米の数の増加に寄与していることが示唆される。
従って、イネ科植物の土耕栽培では、一般式(I)で表される化合物によって、粒数の増加に基づく収量の増加が期待できる。
【0061】
[実施例3]
イネの土耕栽培における増収効果2
30日間培養したイネ(日本晴れ)の苗を一本ずつN(1440mg)、P(12mg)、KO(760mg)、CaO(806mg)の肥料が含有された土(1/5000 aポット使用)に移植したものを使用した以外は、実施例1と同様にして、土耕栽培を2009年6月10日から9月29日まで行った。
水分及び栄養分の補給は、毎日1度行った。添加に用いた培地はAHX(5μM)処理区、ICA(2μM)処理区、コントロール区に各々の栽培用培地を使用した。なお、水耕栽培とは異なり、栽培用培地の交換は行わなかった。
土耕栽培した穀物を2週間乾燥し、玄米質量、玄米の水分含量、玄米サイズ及び数(1株あたり)と、穂長、桿長、穂数、及び地上部の質量を測った。(n=6)
結果を表3に示す。表3中、*は、t-検定法により5%水準で有意差があることを示す。
【0062】
【表3】
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【0063】
表3に示されるように、AHXが5μMの場合、株当たり玄米重が約25%増加した。またICAが2μMの場合もAHXと同様に、株当たり玄米重が約26%増加した。
AHX及びICAいずれの場合であっても一つの玄米サイズがほぼ同一であることから、総玄米重の増加は玄米数の増加によるものと考えられる。一方、イネ全体としては葉の長さや穂数には有意な差は認められなかった。この結果から、AHX及びICAが植物体全体の生長ではなく、主食作物の収量として重要な玄米の数の増加に寄与していることが示唆される。
従って、イネ科植物の土耕栽培では、一般式(I)で表される化合物によって、粒数の増加に基づく収量の増加が期待できる。
【0064】
[実施例4]
イネの土耕栽培における増収効果3
イネ(品種:「日本晴れ」)を試験に用いた。育苗箱に播種して、16日間培養したイネの苗をポット(1/5000 a)に移植し、上記で合成したAHX(1mM)を添加した栽培用培地を用いて、定植前の2週間水耕栽培を行った。
【0065】
水耕栽培用培地としては、0.365mMの(NHSO、0.091mMのKSO、0.547mMのMgSO・7HO、0.183mMのKNO、0.365mMのCa(NO・4HO、0.182mMのKHPO、0.02mMのFe-EDTA、0.002mMのNaSiO、pH5.3を使用した。
【0066】
上記水耕栽培後の苗を、N(1440mg)、P(12mg)、KO(760mg)、CaO(806mg)の肥料が含有された土(1/5000 aポット使用)に定植し、実施例1と同様にして土耕栽培を2009年6月10日から9月29日まで行った。土耕栽培の間、AHXは処理せず、通常の水分及び栄養分の補給を、毎日1度行った。尚、栽培用培地の交換は行わなかった。
土耕栽培した穀物を2週間乾燥し、玄米質量、玄米の水分含量、玄米サイズ及び数(1株あたり)と、穂長、桿長、穂数、及び地上部の質量を測った。(n=6)
結果を表4に示す。表4中、*は、t-検定法により5%水準で有意差があることを示す。
【0067】
【表4】
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【0068】
表4に示されるように、AHXを定植前に処理することで、株当たり玄米重が約18%増加した。また一つの玄米サイズがほぼ同一であることから、総玄米重の増加は玄米数の増加によるものと考えられる。一方、葉の長さや穂数には有意な差は認められなかった。
この結果からも、一般式(I)で表される化合物が、主食作物の収量として重要な玄米の数の増加に寄与していることが示唆される。
以上から、イネ科植物の土耕栽培では、一般式(I)で表される化合物によって、粒数の増加に基づく収量の増加が期待できる。
【0069】
[実施例5]
ジャガイモに対する増収効果
ジャガイモ(品種:「ダンシャク」)の種イモを30g~35gになるように切って、N(960mg)、P(480mg)、KO(640mg)、MgO(320mg)の肥料が含有した土(1/2000 aポット使用)にそれぞれ根付けした。2週間、水道水で栽培した後(地上部が現れた後)に、AHXを、毎週2.74mg(20μmol)、水道水に溶解させてポットに添加した。ダンシャクイモの栽培を、1月から12週間にわたり、屋外環境下で行った。コントロール区は水道水のみを処理した。
12週間後に収穫を行い、イモの質量(全体及び20g以上のみを抽出した群)と、地上部の長さ及び質量、葉の長さを測った。(n=5)
結果を表5に示す。表5中、*は、t-検定法により5%水準で有意差があることを示す。
【0070】
【表5】
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【0071】
表5に示されるように、12週間AHX処理し、収穫したイモでは、総質量が約19%増加した。特に、20g以上のイモのみを抽出してコントロール区と比較すると、約40%増加した。一方、地上部には、長さや質量に関して有意な差が認められなかった。この結果から、AHXが植物体全体の生長ではなく、主食作物の収量として重要なイモの質量の増加に寄与していることが示唆される。
従って、イモ類の栽培では、一般式(I)で表される化合物によって、質量の増加に基づく収量の増加が期待できる。
【0072】
[実施例6]
コムギに対する増収効果
底石を敷いた1/2000aポットに、6kgの水稲苗培土を入れ、元肥として5-7-6(チッソ-リン-カリ)を4g加えた。十分に水を撒いた後、その3日後にポット当たりコムギ(いわいのだいち)10粒を播種した。
水を1週間に1度300ml与えて栽培し、発芽後2週間で成長の良い苗5本を残して間引きを行なった。
その後の2週間について、週に1度、AHX(5μM)処理、AHX(50μM)処理、AHX(1mM)処理、ICA(2μM)処理、コントロール(水のみ)処理をそれぞれ6個のポットについて行った。次いで、水のみを週に1度300ml与えて9週間栽培した後、水の量を週に1度500mlに変更してさらに12週間栽培した。尚、与える水の量を変更してから2週間後に穂肥として硫酸アンモニウムをポット当たり0.75g与えた。さらにAHX(1mM)処理ポットについては、穂肥を与えてから2週間AHX(1mM)を追加処理した。
栽培は2009年10月26日から2010年5月12日までの期間に実施した。栽培終了後、2週間乾燥を行い、コムギの総収量(g/5株)を測定した。結果を表6に示す。尚、表6中、*はt-検定法により5%水準で有意差があることを示す。
【0073】
【表6】
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【0074】
表6から、コムギの栽培においても、一般式(I)で表される化合物によって、質量の増加に基づく収量の増加が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の主食用作物生産増収方法は、一般式(I)で表される化合物を栽培用植物体(種子を除く)に接触させることで、主食作物の収量を増加させることができることから、産業上の利用可能性が高い。