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明細書 :植物におけるアルミニウムの取り込みに関与する遺伝子の利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5660542号 (P5660542)
登録日 平成26年12月12日(2014.12.12)
発行日 平成27年1月28日(2015.1.28)
発明の名称または考案の名称 植物におけるアルミニウムの取り込みに関与する遺伝子の利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 27
出願番号 特願2011-530855 (P2011-530855)
出願日 平成22年9月8日(2010.9.8)
国際出願番号 PCT/JP2010/065426
国際公開番号 WO2011/030793
国際公開日 平成23年3月17日(2011.3.17)
優先権出願番号 2009209170
優先日 平成21年9月10日(2009.9.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年9月5日(2013.9.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】馬 建鋒
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】柴原 直司
参考文献・文献 特開2005-185101(JP,A)
OHYANAGI H et al.,Oryza sativa (japonica cultivar-group Os02g0131800 (Os02g0131800) mRNA, complete cds.,GenBank Accession NM_001052329,2008年 2月14日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?val=115444028&sat=NCBI&satkey=20639534
SASAKI T et al.,Oryza sativa Japonica Group genomic DNA, chromosome 2, BAC clone:OJ1007_D04.,GenBank Accession AP004150,2008年 2月18日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?val=31621039&sat=DDBJ&satkey=7815453
調査した分野 C12N 15/00-15/90
A01H 1/00
A01H 5/00
C12N 5/00-5/28
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/AGRICOLA/CABA/CROPU/CONFSCI/DISSABS/SCISEARCH/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物の生産方法であって、
下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを、植物に発現可能に導入することを特徴とする、形質転換植物の生産方法:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を作製するためのキットであって、
下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを備えていることを特徴とするキット:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は植物におけるアルミニウムの取り込みに関与する遺伝子の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムイオンは、植物に対して強い毒性を有している。土壌中に含まれているアルミニウムは酸性条件下(約pH5以下)においてアルミニウムイオンとして溶出し、例え低濃度(数μM)であっても、すばやく根の伸長阻害を引き起こし、根からの養水分の吸収を阻害する。
【0003】
このように、アルミニウムイオンは、酸性土壌において植物の生育を阻害する最大の因子であるが、植物におけるアルミニウムの取り込みが、植物のアルミニウム耐性のメカニズムに関与していることがわかってきた。本発明者は、ソバ、チャ、アジサイ等のアルミニウム耐性が高い植物は、土壌中のアルミニウムを吸収し、葉等の細胞の液胞内においてアルミニウムと有機酸との錯体を形成させ、無毒化させることによってアルミニウム耐性を獲得していることを報告している(非特許文献1)。
【0004】
また、アルミニウムは、花の色の決定にも関与している。本発明者は、アジサイでは、植物体内において色素であるデルフィニジンとアルミニウムとが結合することによって、花の色が赤から青へと変化することを報告している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Ma, J. F., Zheng, S. J., Hiradate, S. and Matsumoto, H. 1997. Detoxifying aluminium with buckwheat. Nature 390: 569-570.
【非特許文献2】Ma, J. F., Hiradate, S., Nomoto, K., Iwashita, T. and Matsumoto, H. 1997. Internal detoxification mechanism of Al in hydrangea. Identification of Al form in the leaves. Plant Physiol. 113:1033-1039.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物におけるアルミニウムの細胞内への取り込みのメカニズムを解明することは、植物におけるアルミニウム耐性のメカニズムを解明したり、花の色を人為的に改変させたりするために有用な手掛かりとなり得ると考えられる。
【0007】
しかし、どのような遺伝子が、植物におけるアルミニウムの取り込み(輸送)に関与するのかは不明であった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物におけるアルミニウムの取り込みに関与する遺伝子を同定し、その遺伝子の利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者がイネから単離したOsNrat1遺伝子が、植物におけるアルミニウムの輸送に関与することを初めて発見し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
本発明に係る形質転換植物の生産方法は、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物の生産方法であって、下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを、植物に発現可能に導入することを特徴としている:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0011】
本発明に係る形質転換植物は、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産されたことを特徴としている。
【0012】
本発明に係るキットは、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を作製するためのキットであって、下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0013】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る形質転換植物の生産方法によれば、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を生産することができるという優れた効果を奏する。具体的には、野生型の植物と比較して、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を生産することができる。
【0015】
本発明に係る形質転換植物は、アルミニウムの取り込みが促進されているため、例えば、アルミニウムを含有する土壌において栽培することによって、花弁の色を青色に改変させることができると考えられる。またアルミニウム耐性植物の作出にも応用できる。
【0016】
また、本発明に係るキットを用いれば、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】OsNrat1(Oryza sativa Nramp Aluminum transporter 1)と他の遺伝子との進化的関係を表す系統樹である。図1中の太実線の長さは、系統樹における進化距離が0.1の長さを表している。
【図2】図2は、NE7009およびNF7046それぞれのOsNrat1遺伝子におけるレトロトランスポゾンTos-17の挿入位置を表す図である。
【図3】RT-PCRの結果を表す図である。
【図4】30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネ、NE7009、およびNF7046の根の伸長率(%)を表すグラフである。
【図5】NE7009と野生型イネとを、異なる濃度のアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネおよびNE7009の根の伸長率(%)を表すグラフである。
【図6】NE7009と、NE7046と、野生型イネとを、アルミニウム、カドミウム(Cd)、ランタン(Lt)のいずれかを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネ、NE7009およびNE7046の根の伸長率(%)を表すグラフである。
【図7】NE7009および野生型イネについて、細胞内および細胞壁に存在するアルミニウム濃度を測定した結果を表すグラフである。図7の(a)は根の細胞シンプラスト液(root cell symplastic solution)に存在するアルミニウム濃度の経時的変化を表し、(b)は細胞壁におけるアルミニウム含有量の経時的変化を表し、(c)は根の細胞におけるアルミニウムの濃度のpH依存的な変化を表している。
【図8】組織別RT-PCRの結果を表す図である。
【図9】根部位別RT-PCRの結果を表すグラフである。
【図10】RT-PCRの結果を表すグラフであり、(a)は、他の金属に対するOsNrat1遺伝子の発現を示し、(b)は、野生型株を20μMアルミニウムを含む溶液で処理したときのイネの根におけるOsNrat1遺伝子の発現の経時変化を示し、(c)は、art1変異体におけるOsNrat1遺伝子の発現を示している。
【図11】GFP形質転換植物の根の先端または根の先端から15mmに位置する基部における免疫組織化学染色の結果を表す図である。
【図12】タマネギ表皮細胞におけるOsNrat1-GFP融合タンパク質の局在を表す図である。
【図13】酵母を用いたOsNrat1タンパク質の機能解析の結果を表す図である。図13の(a)は酵母の増殖を表す図であり、(b)は、酵母におけるアルミニウムの取り込みを表すグラフであり、(c)は、酵母におけるアルミニウムの取り込みの経時的変化を表すグラフである。
【図14】酵母における、アルミニウム、アルミニウム-クエン酸錯体、およびアルミニウム-シュウ酸錯体の取り込みを表すグラフである。
【図15】酵母を用いたOsNrat1タンパク質の機能解析の結果を表す図である。図15の(a)は鉄を制限した培地における酵母の増殖を表す図であり、(b)は、マンガンを制限した培地における酵母の増殖を表す図であり、(c)は酵母におけるカドミウムの取り込みを表すグラフである。
【図16】Nrat1の過剰発現体のRT-PCRの結果を表すグラフである。
【図17】OsNrat1遺伝子過剰発現株と野生型イネとを、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネおよびOsNrat1遺伝子過剰発現株の根の伸長率(%)を表すグラフである。
【図18】OsNrat1遺伝子過剰発現株と野生型イネとについて、根の細胞内に取り込まれたアルミニウム量を表すグラフである。
【図19】根の細胞におけるアルミニウムの蓄積を表す図である。図19中、「NE7009」はOsNrat1遺伝子破壊株、「5-5」および「5-7」はOsNrat1遺伝子過剰発現株を表す。
【図20】酵母におけるアルミニウムの取り込みに対するカドミウムおよびマンガンの影響を示すグラフである。
【図21】免疫染色の結果を示す図であり、(a)は、アルミニウム処理をしていない野生型イネの根における結果を示し、(b)は、アルミニウム処理をしていないOsNrat1遺伝子破壊株の根における結果を示し、(c)は、30μMアルミニウムで12時間処理した野生型イネの根における結果を示し、(d)は、30μMアルミニウムで12時間処理したOsNrat1遺伝子破壊株の根における結果を示している。
【図22】相補性検定の結果を示す図である。
【図23】根のアルミニウムの取り込みにおける温度の影響を示す図である。(a)は、根の細胞シンプラスト液におけるアルミニウムの濃度を示し、(b)は、根の細胞壁におけるアルミニウムの濃度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を示す「A~B」は、「A以上、B以下」であることを示す。

【0019】
〔1.形質転換植物の生産方法〕
本発明に係る形質転換植物の生産方法は、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物の生産方法であって、下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを、植物に発現可能に導入する工程を含んでいる:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。

【0020】
本発明者は、細胞内へのアルミニウムの輸送に関与する遺伝子(OsNrat1遺伝子)をイネから新たに同定した。上記の配列番号1に示すポリペプチドは、OsNrat1遺伝子の翻訳産物である。すなわち、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、本発明者によってイネから新たに同定された、細胞内へのアルミニウムの輸送に関与するタンパク質である。つまり、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、植物のアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有しているといえる。

【0021】
上記(a)または(b)のポリヌクレオチドとしては、例えば、OsNrat1遺伝子の全塩基配列を示した配列番号2の第56番目のAから第1693番目のGに該当するポリヌクレオチドを挙げることができる。

【0022】
ここで、本明細書において、上記「アルミニウムの取り込みを促進させた」とは、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、形質転換植物におけるアルミニウムイオン(Al3+)の取り込みを促進させたことを意図している。

【0023】
アルミニウムイオン(Al3+)の取り込みが促進したことは、野生型の植物と形質転換植物とを同じ条件で栽培し、栽培後の野生型の植物と形質転換植物とについて、植物全体におけるアルミニウムの蓄積量を比較することによって確認してもよいし、形質転換植物において上記(a)または(b)のポリヌクレオチドが発現している組織におけるアルミニウムの蓄積量を比較することによって確認してもよい。例えば、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドが根の組織に発現している場合は、野生型の植物の根と形質転換植物の根とにおけるアルミニウムの蓄積量を比較することによって確認することができる。植物におけるアルミニウムの蓄積量は、例えば、後述する実施例に示すフレームレス原子吸光法によって測定することができる。

【0024】
また、上記「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」とも換言できる。上記「1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、または付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。

【0025】
また、上記「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体が意図されている。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C、およびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列からなるポリヌクレオチドを示している。

【0026】
上記ポリヌクレオチドを取得する方法は、特に限定されるものではないが、公知の技術によって取得することができる。例えば、PCR等の増幅手段を用いる方法によって取得することができる。具体的には、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドについて5’側および3’側の配列(またはその相補配列)に対応するプライマーをそれぞれ作製し、これらのプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することによって、上記のポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得することができる。

【0027】
また、公知の日本晴の配列情報に基づいて、OsNrat1遺伝子領域を増幅できるようなプライマーを設計し、そのプライマーを用いて、ゲノムDNA(またはcDNA)またはRT-PCR産物を鋳型にして、OsNrat1遺伝子領域を増幅することによっても上記ポリヌクレオチドを取得することができる。

【0028】
また、上記ポリヌクレオチドまたはその一部の配列を含むオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法によってもポリヌクレオチドを取得することができる。例えば、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、上記ポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものも用いることができる。

【0029】
上記ポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(OsNrat1タンパク質)は、イネ品種日本晴に由来することから、イネ科植物(イネ、トウモロコシ等)を用いることが好ましい。

【0030】
植物に導入される上記「ポリヌクレオチド」の形態としては、植物に発現可能に導入することができる限り特に限定されず、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)であってもよい。

【0031】
上記ポリヌクレオチドが導入される上記「植物」としては、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、イネ科植物、ナス科植物、マメ科植物、アジサイ科植物、バラ科植物等を挙げることができる。上記「イネ科植物」としては、例えば、イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、ライムギ、ソルガム等を挙げることができる。上記「ナス科植物」としては、例えば、ナス等を挙げることができる。上記「マメ科植物」としては、例えば、ダイズ等を挙げることができる。上記「アジサイ科植物」としては、例えば、アジサイ等を挙げることができる。上記「バラ科植物」としては、バラ等を挙げることができる。

【0032】
本発明に係るアルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物の生産方法は、上記(a)または(b)のポリヌクレオチド、またはそのポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターが導入されており、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドを発現させるものであれば、特に限定されるものではない。尚、本明細書において、上記「アルミニウムの取り込みを促進させる活性」とは、「上記(a)または(b)のポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、形質転換植物におけるアルミニウムの取り込みを促進させる活性」を意図している。

【0033】
上記「組換え発現ベクター」は、(a)または(b)のポリヌクレオチドを含むものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、配列番号2の第56番目のAから第1693番目のGに該当するcDNAが挿入された組換え発現ベクターを挙げることができる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、コスミド等を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。

【0034】
また、上記「組換え発現ベクター」は、植物の細胞(以下、「ホスト細胞」とも言う)において挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば、特に限定されるものではない。例えば、アグロバクテリウムを用いる方法(アグロバクテリウム感染法)によって植物に組換え発現ベクターを導入する場合には、組換え発現ベクターとして、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。

【0035】
また、上記「組換え発現ベクター」は、導入対象となる植物(導入対象植物)の細胞内において遺伝子を発現させることが可能なプロモーターを有するベクターであることが好ましい。プロモーターとしては公知のプロモーターを好適に用いることができる。例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、ユビキチンプロモーターやアクチンプロモーター等を挙げることができる。これらのプロモーター配列と上記(a)または(b)のポリヌクレオチドとをプラスミド等に組み込んだ組換え発現ベクターとして用いることによって、導入したポリヌクレオチドを植物の細胞内において好適に発現させることができる。中でも、OsNrat1タンパク質を高発現させる観点から、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを用いることが好ましい。例えば、OsNrat1タンパク質を高発現させることにより、アルミニウムの取り込みがより促進された形質転換植物を生産することができる。

【0036】
また、OsNrat1遺伝子は、植物全体に発現させてもよいし、植物の特定の部位に特異的に発現させてもよい。例えば、OsNrat1遺伝子を、アルミニウムと結合することによって色が変化する色素(例えば、デルフィニジン)を有する植物(例えば、アジサイ)の花弁に特異的に発現させることが考えられる。花弁にアルミニウムを蓄積させることによって、花弁の色を青色に改変することが可能となる。

【0037】
OsNrat1タンパク質は植物の根に発現することが発明者によって明らかにされた。そこで、形質転換植物においてOsNrat1タンパク質を好適に機能させる観点から、上記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを、上記植物の根において特異的に発現可能に導入することが好ましい。

【0038】
例えば、根において特異的に発現する遺伝子を制御することが知られているプロモーターの制御下に上記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを導入することによって、上記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを、上記植物の根において特異的に発現させることができる。このようなプロモーターとしては、例えば、OsNrat1プロモーターを用いることができる。

【0039】
上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターを植物に導入する方法、すなわち形質転換方法としては特に限定されるものではない。例えば、上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターを染色体に組み込ませてもよいし、相同組換えによって上記ポリヌクレオチドが染色体の特定の部位に組み込ませてもよい。また、上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターを植物内で一過的に発現させてもよい。

【0040】
上記形質転換方法としては、従来公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)を用いることができる。例えば、アグロバクテリウム感染法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、およびパーティクルガン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。例えば、上記「アグロバクテリウム感染法」としては、Plant, J. 6: 271-282 (1994)に記載された方法を用いることができる。

【0041】
また、上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターがホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞内で確実に発現しているか否かについては、各種マーカーを用いて確認することができる。例えば、ハイグロマイシンのような抗生物質に抵抗性を与える薬剤耐性遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと上記(a)または(b)のポリヌクレオチドとを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する方法を挙げることができる。この方法を用いれば、薬剤選択によって、導入された遺伝子がホスト細胞内で確実に発現しているか否かを確認することができる。

【0042】
本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産された形質転換植物は、上記(a)または(b)のポリヌクレオチド、または上記の組換え発現ベクターが導入されており、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドを発現しているものである。すなわち、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産された形質転換植物は、上記(a)または(b)のポリヌクレオチド(OsNrat1遺伝子)が導入されていない野生型の植物と比較して、アルミニウムの取り込みが促進されている。

【0043】
具体的に説明すると、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドは、イネ(日本晴)に由来するOsNrat1遺伝子に対応している。このため、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドが導入された形質転換植物では、これらのポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、植物におけるアルミニウムの取り込みが促進されると考えられる。

【0044】
本発明に係る形質転換植物の生産方法によれば、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を容易に作製することができる。

【0045】
〔2.形質転換植物〕
本発明に係る形質転換植物は、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産されたことを特徴としている。

【0046】
上記「本発明に係る形質転換植物の生産方法」については、上記「1.形質転換植物の生産方法」の項において説明した通りであるので、ここでは省略する。

【0047】
本発明に係る形質転換植物の範疇には、植物体のみならず、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス等も含まれる。また、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって、植物の染色体に上記(a)または(b)のポリヌクレオチドが組み込まれた形質転換植物がいったん得られれば、当該植物から得られる種子にも上記ポリヌクレオチドが導入されている。従って、本発明には、形質転換植物から得られた種子も含まれる。

【0048】
本発明に係る形質転換植物は、アルミニウムの取り込みが促進しているため、様々な用途に用いることができる。例えば、花の色を青色に改変させた植物とすることができると考えられる。

【0049】
〔3.キット〕
本発明に係るキットは、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を作製するためのキットであって、下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアルミニウムの取り込みを促進させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。

【0050】
上記「ポリヌクレオチド」については、上記「1.形質転換植物の生産方法」の項において説明した通りであるので、ここでは省略する。

【0051】
本発明に係るキットは、上述したポリヌクレオチド以外の成分を含んでいてもよい。例えば、上記ポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターを作製するためのプラスミド、当該組換え発現ベクターを作製するために必要な試薬、バッファー、植物の形質転換を行うために必要な試薬等が含まれていてもよい。

【0052】
本発明に係るキットを用いれば、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を容易に作製することができる。

【0053】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
発明者は、マイクロアレイ解析によって、アルミニウムによって発現誘導されるイネの遺伝子を多数特定し、その中のOsNrat1について機能解析を行った。
【実施例】
【0056】
図1は、OsNrat1(Oryza sativa Nramp Aluminum transporter 1)と他の遺伝子との進化的関係を表す系統樹である。図1中の太実線の長さは、系統樹における進化距離が0.1の長さを表している。図1の系統樹は、ClustalW(DNA Data Bank of Japan (http://www.ddbj.nig.ac.jp/))を用いて作成した。図1に示すように、OsNrat1はNrampファミリーに属している。しかし、後述する実施例に示すように、二価の金属イオンを輸送することが知られているNrampファミリーの他のメンバーとは異なり、三価のアルミニウムイオンを輸送するトランスポーターであることがわかった。OsNrat1は、他のメンバーとの低い相同性(アミノ酸レベルで、36%~59%)を示した。
【実施例】
【0057】
(1.OsNrat1遺伝子破壊株を用いたOsNrat1遺伝子の機能解析)
OsNrat1の機能を解析するために、OsNrat1遺伝子破壊株(Tos-17挿入株)2ライン(NE7009およびNF7046)を取得した。これらのTos-17挿入株は独立行政法人 農業生物資源研究所 イネゲノムリソースセンターより取り寄せた。NE7009およびNF7046は、レトロトランスポゾンTos-17の挿入によってOsNrat1遺伝子が破壊されたイネ(日本晴)である。尚、本実施例において、「野生型イネ」とは、野生型の日本晴を意図している。図2は、NE7009およびNF7046それぞれのOsNrat1遺伝子におけるレトロトランスポゾンTos-17の挿入位置を表す図である。
【実施例】
【0058】
まず、野生型イネ、NE7009およびNF7046を水耕栽培し、根からRNAを抽出して、RT-PCRを行いOsNrat1の発現量を調べた。逆転写反応は、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(インビトロジェン社製)を用いて行った。また、PCRの反応条件は以下の通りである。
反応液の組成:10μLの反応液に1倍濃度のバッファー、0.2mMdNTP、それぞれ0.5μMのプライマー1組、20倍希釈した逆転写産物1μL
PCRの条件:95℃ 30秒、(95℃ 15秒、58℃ 15秒、72℃ 30秒)×30サイクル。
【実施例】
【0059】
図3は、RT-PCRの結果を表す図である。内部標準としてHistone H3の量を確認した。図3に示すように、NE7009およびNF7046において、OsNrat1遺伝子の発現が認められなかった。この結果から、NE7009およびNF7046では、確かにOsNrat1遺伝子が破壊されていることを確認することができた。
【実施例】
【0060】
次に、野生型イネ(n=10)、NE7009(n=9)、およびNF7046(n=5)を、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露して、根の伸長を測定した。このとき、対照として、アルミニウムを含有しない0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した野生型イネ、NE7009、およびNF7046をそれぞれ用いた。
【実施例】
【0061】
図4は、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネ、NE7009、およびNF7046の根の伸長率(%)を表すグラフである。グラフの縦軸は、対照における根の伸長を100%としたときの上記の野生型イネ、NE7009、およびNF7046の根の伸長率を表している。
【実施例】
【0062】
図4に示すように、OsNrat1遺伝子破壊株では、野生型イネと比較して根の伸長がより阻害された。これは、OsNrat1遺伝子破壊株では、野生型イネよりもアルミニウム耐性が低下していることを示している。この結果から、OsNrat1遺伝子は、植物におけるアルミニウム耐性に関与する遺伝子であることが予想された。
【実施例】
【0063】
次いで、NE7009(各n=10)と野生型イネ(各n=10)とを、異なる濃度のアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露して、根の伸長を測定した。このとき、対照として、アルミニウムを含有しない0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した野生型イネおよびNE7009を用いた。
【実施例】
【0064】
図5は、NE7009と野生型イネとを、異なる濃度のアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネおよびNE7009の根の伸長率(%)を表すグラフである。グラフの縦軸は、対照における根の伸長を100%としたときの上記の野生型イネおよびNE7009の根の伸長率を表している。
【実施例】
【0065】
図5に示すように、いずれの濃度のアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液で処理した場合も、OsNrat1遺伝子破壊株では、野生型イネと比較して根の伸長がより阻害された。すなわち、OsNrat1遺伝子破壊株では、野生型イネよりもアルミニウム耐性が低下していた。
【実施例】
【0066】
そこで、NE7009(各n=10)と、NE7046(各n=10)と、野生型イネ(各n=10)とを、アルミニウム、カドミウム、ランタンのいずれかを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露して、根の伸長を測定した。このとき、それぞれの金属の濃度はアルミニウム30μM、カドミウム10μM、ランタン5μMとなるように調製した。また、対照として、アルミニウムを含有しない0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した野生型イネ、NE7009およびNE7046を用いた。
【実施例】
【0067】
図6は、NE7009と、NE7046と、野生型イネとを、アルミニウム、カドミウム(Cd)、ランタン(Lt)のいずれかを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネ、NE7009およびNE7046の根の伸長率(%)を表すグラフである。グラフの縦軸は、対照における根の伸長を100%としたときの上記の野生型イネ、NE7009およびNE7046の根の伸長率を表している。
【実施例】
【0068】
図6に示すように、カドミウムまたはランタンを含有する0.5mM CaCl溶液で処理した場合は、OsNrat1遺伝子破壊株(NE7009およびNE7046)および野生型イネの根の伸長は同程度阻害された。すなわち、OsNrat1遺伝子破壊株と野生型イネとでは、カドミウムおよびランタンに対する耐性は殆ど同じであった。一方、アルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液で処理した場合は、OsNrat1遺伝子破壊株の根の伸長は、野生型イネと比較して、より阻害された。この結果から、OsNrat1遺伝子は植物のアルミニウム耐性に特異的に関与する遺伝子であると考えられた。
【実施例】
【0069】
次いで、野生型イネおよびOsNrat1遺伝子破壊株(NE7009およびNE7046)について細胞内のアルミニウム濃度を比較した。具体的には、NE7009、NE7046および野生型イネを、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液において0~10時間処理した。処理後2時間毎に、根の先端から0~1cmの領域を採取した。採取した根を遠心分離することによって細胞外に存在する溶液を取り除いた後に、根を-80℃に凍結した。その後、根を室温に戻し、遠心分離によって細胞シンプラスト液を得た。また、遠心分離後の残渣を80%エタノールで3回洗浄した後に、2N塩酸を加えて、細胞壁に結合しているアルミニウムを溶出させた。細胞シンプラスト液および細胞壁からの抽出液に含まれるアルミニウムの量は、従来公知のフレームレス原子吸光法によって測定した。
【実施例】
【0070】
さらに、アルミニウムの取り込みにおけるpHの影響を調べるために、10mMホモピペス(homopipes)を用いてpH4.0~6.9の範囲に緩衝化した30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液において、NE7009、NE7046および野生型イネ(各n=3)を8時間処理した。
【実施例】
【0071】
処理後、根の先端から0~1cmの領域を採取した。採取した根を遠心分離することによって細胞外に存在する溶液を取り除いた後に、根を-80℃に凍結した。その後、根を室温に戻し、遠心分離によって細胞シンプラスト液を得た。また、遠心分離後の残渣を70%エタノールで3回洗浄した後に、2N塩酸を加えて、細胞壁に結合しているアルミニウムを溶出させた。細胞シンプラスト液および細胞壁からの抽出液に含まれるアルミニウムの量は、従来公知のフレームレス原子吸光法によって測定した。
【実施例】
【0072】
図7は、NE7009および野生型イネについて、細胞内および細胞壁に存在するアルミニウム濃度を測定した結果を表すグラフである。図7の(a)は細胞シンプラスト液(cell symplastic solution)に存在するアルミニウム濃度の経時的変化を表し、(b)は細胞壁におけるアルミニウム含有量の経時的変化を表し、(c)は細胞シンプラスト液におけるアルミニウムの濃度のpH依存的な変化を表している。データは、平均値±標準偏差として示した。
【実施例】
【0073】
図7の(a)に示すように、野生型イネでは、アルミニウム溶液での処理時間に応じて、根の先端部分(先端から0~1cmの領域)の細胞シンプラスト液に存在するアルミニウムの濃度が経時的に上昇する傾向があった。一方、NE7009では、アルミニウム溶液における処理時間に関わらず、根の先端部分(先端から0~1cmの領域)の細胞シンプラスト液に存在するアルミニウムの濃度が殆ど上昇しなかった。また、図7の(b)に示すように、野生型イネとNE7009とでは、アルミニウム溶液での処理時間に応じて、根の先端部分(先端から0~1cmの領域)の細胞壁におけるアルミニウム量が経時的に増加することが明らかになった。そして、アルミニウム溶液における処理時間が長くなると、野生型イネよりも、NE7009の方が、細胞壁に結合しているアルミニウム量が増加する傾向があることが明らかになった。この結果から、OsNrat1遺伝子は、細胞内にアルミニウムを輸送する活性を有していることが考えられた。
【実施例】
【0074】
また、図7の(c)に示すように、pH5.0より低い場合は、OsNrat1遺伝子破壊株よりも野生型株の方が、アルミニウムの濃度が顕著に高かった。しかし、pH5.5を超えると、OsNrat1遺伝子破壊株および野生型株のアルミニウムの濃度に差異はなかった。
【実施例】
【0075】
さらに、アルミニウムの取り込みにおける温度の影響を調べるために、NE7009、NE7046および野生型イネを、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液(pH4.2)において、4℃または25℃で8時間処理した。
【実施例】
【0076】
処理後、根の先端から0~1cmの領域を採取し、上述した凍結-解凍法によって、細胞シンプラスト液および細胞壁からの抽出液を取得した。細胞シンプラスト液および細胞壁からの抽出液に含まれるアルミニウムの量は、従来公知のフレームレス原子吸光法によって測定した。
【実施例】
【0077】
結果を図23に示す。図23の(a)は、根の細胞シンプラスト液におけるアルミニウムの濃度を示し、(b)は、根の細胞壁におけるアルミニウムの濃度を示している。図23の(a)および(b)に示すように、4℃では、OsNrat1遺伝子破壊株および野生型株の根の細胞シンプラスト液および細胞壁のアルミニウムの取り込みに差異はなかった。これに対して、25℃では、OsNrat1遺伝子破壊株よりも野生型株の方が、根の細胞シンプラスト液におけるアルミニウムの濃度が高かった。また、25℃では、OsNrat1遺伝子破壊株よりも野生型株の方が、根の細胞壁におけるアルミニウムの濃度が低かった。この結果は、OsNrat1タンパク質によるアルミニウムの取り込みは、能動的なプロセスであることを示唆するものである。
【実施例】
【0078】
さらに、OsNrat1遺伝子破壊株および野生型株における他の陽イオンの取り込みを比較した。具体的には、野生型株およびNE7009を、1/2木村B溶液を用いて、1ヶ月間培養した。陽イオンの濃度は、HNOを用いて消化した後に、従来公知のフレームレス原子吸光法によって測定した。なお、1/2木村B溶液は、多量栄養素(mM):MgSO(0.28),(NHSO(0.18),Ca(NO(0.18),KNO(0.09),KHPO(0.09)、および微量栄養素(mM):Fe(II)SO(10),HBO(3),MnCl(0.5),CuSO(0.2),ZnSO(0.4),(NHMo24(1)を含む培養培地である。1/2木村B溶液は、1N NaOHを用いてpH5.4に調整したものを用いた。
【実施例】
【0079】
結果を表1に示す。データは、平均値±標準偏差(n=3)として示した。表中の「-」は検出できなかったことを示している。
【実施例】
【0080】
【表1】
JP0005660542B2_000002t.gif
表1に示すように、OsNrat1遺伝子破壊株および野生型株の根および地上部において、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムを含む多量栄養素の濃度、並びに鉄、銅、亜鉛およびマンガンを含む微量栄養素の濃度に差異はなかった。
【実施例】
【0081】
次いで、相補性検定を行った。相補性検定を行うために、OsNrat1遺伝子のプロモーター領域(開始コドン(ATG)の前の2.1kb)、ORFおよび3’-URT(終止コドン(TGA)の後ろの1kb)を含む6.915kbのDNA断片を、日本晴ゲノムDNAからPCR法によって増幅した。DNA断片をpPZP2H-lacベクターに挿入し、アグロバクテリウム法によってOsNrat1遺伝子破壊株であるNE7009株に形質転換した。
【実施例】
【0082】
得られた形質転換株、野生型株、NE7009を、30μMアルミニウムを含む溶液を用いて8時間処理した。その後、上述した凍結-解凍法によって根の細胞シンプラスト液を抽出し、従来公知のフレームレス原子吸光法によってアルミニウムの量を測定した。
【実施例】
【0083】
結果を図22に示す。図22は、相補性検定の結果を示す図であり、データは、平均値±標準偏差(n=3)として示した。図22に示すように、OsNrat1遺伝子をOsNrat1遺伝子破壊株に導入した形質転換株では、根の細胞シンプラスト液におけるアルミニウム濃度が、野生型イネと同じレベルまで上昇した。この結果から、OsNrat1遺伝子は、OsNrat1遺伝子破壊株における表現型に関与していることがさらに確認された。
【実施例】
【0084】
(2.OsNrat1遺伝子の発現パターンの解析)
次いで、OsNrat1遺伝子の発現パターンを調べた。具体的には、野生型イネの苗を、アルミニウムを含有しない0.5mM CaCl溶液、または30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液において6時間処理し、その後、根と地上部とを別々にサンプリングし、それぞれの組織からRNAを抽出した。尚、本実施例で上記「地上部」とは、根を除く植物体(例えば、葉、茎等)を意図している。得られたRNAを用いて、RT-PCRを行い、OsNrat1遺伝子の発現量を調べた。逆転写反応は、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(インビトロジェン社製)を用いて行った。また、PCRの反応条件は以下の通りである。
反応液の組成:10μLの反応液に1倍濃度のバッファー、0.2mMdNTP、それぞれ0.5μMのプライマー1組、20倍希釈した逆転写産物1μL
PCRの条件:95℃ 30秒、(95℃ 15秒、58℃ 15秒、72℃ 30秒)×30サイクル。
【実施例】
【0085】
図8は、組織別RT-PCRの結果を表す図である。内部標準としてHistone H3の量を確認した。図8に示すように、OsNrat1遺伝子は主に根で発現しており、地上部では、OsNrat1遺伝子の発現が認められなかった。また、根におけるOsNrat1遺伝子の発現は、アルミニウムによって増加することが明らかになった。
【実施例】
【0086】
次いで、野生型イネの根におけるOsNrat1遺伝子の発現に対するアルミニウムの影響を調べた。具体的には、野生型イネ(各n=3)を、アルミニウムを含有しない0.5mM CaCl溶液、または50μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液において6時間処理した。その後、根を先端から0~1cmの領域と、先端から1~2cmの領域とに切り分け、それぞれの根の領域からRNAを抽出した。得られたRNAを用いて、RT-PCRを行い、OsNrat1遺伝子の発現量を調べた。逆転写反応は、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(インビトロジェン社製)を用いて行った。また、PCRの反応条件は以下の通りである。
反応液の組成:20μLの反応液に1倍濃度のSYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ社製)、それぞれ0.2μMのプライマー1組、20倍希釈した逆転写産物2μL
PCRの条件:95℃30秒、(95℃15秒、58℃15秒、72℃30秒)×40サイクル
Mastercycler ep realplex(エッペンドルフ社製)を用いてPCRを行った。
【実施例】
【0087】
図9は、根部位別RT-PCRの結果を表すグラフである。図9に示すように、図8のRT-PCRの結果と同様に、根におけるOsNrat1遺伝子の発現は、アルミニウムによって誘導された。また、根の先端(先端から0~1cmの領域)よりも、根の基部(先端から1~2cmの領域)におけるOsNrat1遺伝子の発現量が多いことが明らかになった。尚、図9のグラフの縦軸は、アルミニウム非存在下において先端から0~1cmの領域の根におけるOsNrat1遺伝子の発現量を1としたときの相対発現量を表している。
【実施例】
【0088】
さらに、アルミニウム以外の金属の存在、またはpHの変化によってOsNrat1遺伝子の発現が誘導されるか調べた。具体的には、野生型イネ(各n=3)を、50μMアルミニウム、30μMカドミウム、10μMランタンのいずれかを含有する0.5mM CaCl溶液(pH4.5)において6時間処理した。また、野生型イネを、pH4.5またはpH5.6に調整した、アルミニウムを含有しない0.5mM CaCl溶液において6時間処理した。その後、根の全体からRNAを抽出した。得られたRNAを用いて、RT-PCRを行い、OsNrat1遺伝子の発現量を調べた。逆転写反応は、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(インビトロジェン社製)を用いて行った。また、PCRの反応条件は以下の通りである。
反応液の組成:20μLの反応液に1倍濃度のSYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ社製)、それぞれ0.2μMのプライマー1組、20倍希釈した逆転写産物2μL
PCRの条件:95℃ 30秒、(95℃ 15秒、58℃ 15秒、72℃ 30秒)×40サイクル
Mastercycler ep realplex(エッペンドルフ社製)を用いてPCRを行った。
【実施例】
【0089】
結果を図10の(a)に示す。図10の(a)は、他の金属に対するOsNrat1遺伝子の発現を示すグラフである。尚、図10の(a)のグラフの縦軸は、アルミニウム非存在下、pH4.5の条件におけるOsNrat1遺伝子の発現量を1としたときの相対発現量を表している。データは、平均値±標準偏差(n=3)として示した。
【実施例】
【0090】
図10の(a)に示すように、図8および図9のRT-PCRの結果と同様に、根におけるOsNrat1遺伝子の発現は、アルミニウムによって誘導された。一方、根におけるOsNrat1遺伝子の発現は、pHの変化やアルミニウム以外の金属によって誘導されなかった。
【実施例】
【0091】
また、野生型株を20μMアルミニウムを含む溶液で処理し、その後、根の全体からRNAを抽出した。得られたRNAを用いて、RT-PCRを行い、OsNrat1遺伝子の発現量を調べた。結果を図10の(b)に示す。図10の(b)は、野生型株を20μMアルミニウムを含む溶液で処理したときのイネの根におけるOsNrat1遺伝子の発現の経時変化を示している。データは、平均値±標準偏差(n=3)として示した。
【実施例】
【0092】
図10の(b)に示すように、OsNrat1遺伝子の発現量は、アルミニウムによって急速に増加し、アルミニウム処理後3時間で最大となることが明らかになった。
【実施例】
【0093】
さらに、C2H2型ジンクフィンガー転写因子(art1遺伝子)を欠損するイネ変異体におけるOsNrat1遺伝子の発現を調べた。野生型株およびart1変異体を、20μMのアルミニウム溶液で4時間処理した。根におけるOsNrat1遺伝子の発現は、定量的リアルタイムPCR法によって測定した。結果を図10の(c)に示す。図10の(c)は、art1変異体におけるOsNrat1遺伝子の発現を示している。図10の(c)では、ヒストンH3(内部標準)に対する相対的な発現量を示している。データは、平均値±標準偏差(n=3)として示した。
【実施例】
【0094】
図10の(c)に示すように、art1変異体において、OsNrat1遺伝子の発現が、アルミニウムによって誘導されないことが確認された。この結果は、OsNrat1遺伝子の発現がART1によって制御されるという報告(Yamaji, N., Huang,C.F., Nagao, S., Yano, M., Sato, Y., Nagamura, Y., and Ma, J.F. (2009). A Zn-finger transcription factor ART1 regulates multiple genes implicated in aluminum tolerance in rice. Plant Cell 21: 3339-3349)と一致していた。
【実施例】
【0095】
次いで、OsNrat1遺伝子の細胞内での局在を調べるために、OsNrat1遺伝子のプロモーターの制御下に蛍光タンパク質であるGFP(green fluorescent protein)をコードする遺伝子を組み込んだ融合遺伝子を含む組換え発現ベクター(ProOsNrat1-GFPベクター)を作製し、当該組換え発現ベクターを野生型イネに形質転換した。形質転換は、アグロバクテリウム法によって行った。
【実施例】
【0096】
得られたGFP形質転換植物におけるGFPの局在を調べることによって、OsNrat1タンパク質の根組織での発現部位を調べることができる。そこで、GFP形質転換植物の根について、一次抗体として抗GFP抗体(A11122、モレキュラープローブス社製)を用いて免疫組織化学染色を行い、根におけるGPFの局在を調べた。
【実施例】
【0097】
図11は、GFP形質転換植物の根の先端または根の先端から15mmに位置する基部における免疫組織化学染色の結果を表す図である。図11に示すように、根の先端では、すべての細胞にGFPの発現が認められた。また、根の基部では、表皮以外のすべての細胞にGFPの発現が認められた。すなわち、OsNrat1タンパク質は、根の先端のすべての細胞、および基部の表皮を除く基部のすべての細胞で発現することが明らかになった。
【実施例】
【0098】
OsNrat1タンパク質の細胞内局在をさらに詳しく調べるために、OsNrat1遺伝子とGFP遺伝子との融合遺伝子を作製し、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの制御下に当該融合遺伝子を組み込んだ組換え発現ベクター(35S::OsNrat1-GFPベクター)を作製した。陽性対照として、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの制御下にGFP遺伝子を組み込んだ組換え発現ベクター(35S::GFPベクター)を作製した。これらの組換え発現ベクターをそれぞれタマネギの表皮細胞に導入して、GFPの細胞内局在性を観察した。形質転換は、パーティクルガンによって行った。尚、GFP遺伝子は、OsNrat1遺伝子のC末端側にイン・フレームになるように融合させた。
【実施例】
【0099】
図12は、タマネギ表皮細胞におけるOsNrat1-GFP融合タンパク質の局在を表す図である。図12に示すように、OsNrat1タンパク質は、細胞膜に局在することが明らかになった。
【実施例】
【0100】
さらに、OsNrat1タンパク質の細胞局在および細胞内局在を調べるために、免疫染色を行った。抗体は、OsNrat1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)の第1位から第18位までのアミノ酸配列に相当する合成ペプチドを、ウサギに免疫することによって取得した。
【実施例】
【0101】
30μMアルミニウムで12時間処理した野生型イネおよびOsNrat1遺伝子破壊株の根を用いて免疫染色を行った。免疫染色の手順は、従来公知の方法に従って行った(Yamaji, N., and Ma, J.F. (2007). Spatial distribution and temporal variation of the rice silicon transporter Lsi1. Plant Physiol. 143: 1306-1313を参照)。蛍光は、レーザ走査共焦点顕微鏡(LSM700; Carl Zeiss)を用いて観察した。
【実施例】
【0102】
図21は免疫染色の結果を示す図であり、(a)は、アルミニウム処理をしていない野生型イネの根におけるOsNrat1タンパク質免疫染色の結果を示し、(b)は、アルミニウム処理をしていないOsNrat1遺伝子破壊株の根におけるOsNrat1タンパク質免疫染色の結果を示し、(c)は、30μMアルミニウムで12時間処理した野生型イネの根におけるOsNrat1タンパク質免疫染色の結果を示し、(d)は、30μMアルミニウムで12時間処理したOsNrat1遺伝子破壊株の根におけるOsNrat1タンパク質免疫染色の結果を示している。図中のスケールバーは、100μmに相当する。
【実施例】
【0103】
図21の(a)および(c)に示すように、野生型イネにおいて、OsNrat1タンパク質は、表皮細胞を除く全ての根の細胞において発現し、アルミニウムによって発現量が増加することが示された。
【実施例】
【0104】
図21の(b)および(d)に示すように、OsNrat1遺伝子破壊株においては、シグナルが認められなかったことから、免疫染色に用いた抗体の特異性が確認された。
【実施例】
【0105】
また、細胞内局在を調べるために、抗OsNrat1抗体とDAPIとを二重染色した。その結果、OsNrat1タンパク質は、細胞膜に局在していることが明らかになった(図示しない)。
【実施例】
【0106】
(3.OsNrat1タンパク質が有するアルミニウム輸送活性の解析)
OsNrat1遺伝子と、AtNramp4遺伝子(陰性対照)とを酵母に発現させて、OsNrat1タンパク質のアルミニウムの輸送活性を解析した。具体的には、酵母(BY4741株(MATa his2△0 met15△0 ura3△0))に、発現ベクターpYES2(インビトロジェン社製)を用いてそれぞれの遺伝子を従来公知の酢酸リチウム法によって導入した。さらに、陰性対照としてpYES2ベクターのみを導入した。
【実施例】
【0107】
得られた形質転換酵母を、0μM、100μM、または200μMのアルミニウムを含有する寒天培地に播種し、30℃で2日間または3日間培養した。酵母の増殖を指標として、アルミニウムの輸送活性の有無を判断した。つまり、アルミニウム輸送活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が導入された形質転換酵母は、細胞内にアルミニウムを取り込むため、アルミニウムの毒性によって増殖が抑制されると考えた。また、短時間(2h)の酵母へのアルミニウムの取り込みも測定した。
【実施例】
【0108】
さらに、得られた形質転換酵母を50μM AlCl溶液(pH4.2)で処理し、アルミニウムの取り込みの経時的変化を測定した。
【実施例】
【0109】
図13は、酵母を用いたOsNrat1タンパク質の機能解析の結果を表す図である。図13の(a)は酵母の増殖を表す図であり、(b)は、酵母におけるアルミニウムの取り込みを表すグラフであり、(c)は、酵母におけるアルミニウムの取り込みの経時的変化を表すグラフである。酵母におけるアルミニウムの取り込みは、フレームレス原子吸光法によって測定した。データは、平均値±標準偏差(n=3)として示した。
【実施例】
【0110】
図13の(a)に示すように、OsNrat1タンパク質を発現させた酵母は、陰性対照としてpYES2ベクターを導入した酵母と比較して、アルミニウムを含有する培地において増殖が抑制された。この結果から、OsNrat1タンパク質はアルミニウムの輸送活性を有することが明らかになった。一方、OsNrat1タンパク質と同じNrampファミリーに属するAtNramp4タンパク質を発現させた酵母の増殖は、陰性対照としてpYES2ベクターを導入した酵母と同じであった。
【実施例】
【0111】
また、図13の(b)に示すように、OsNrat1の発現によって酵母へのアルミニウムの取り込みが増加することが明らかになった。
【実施例】
【0112】
図13の(c)において、純取り込み(Net uptake)は、形質転換酵母と陰性対照との間のアルミニウム取り込み量の差を示している。図13の(c)に示すように、アルミニウムの取り込みは、形質転換酵母において時間とともに直線的に増加することが明らかになった。
【実施例】
【0113】
さらに、アルミニウムの取り込みにおけるカドミウムおよびマンガンの影響を調べるために、形質転換酵母を、50μMのアルミニウムの存在下において、等濃度のカドミウムまたはマンガンを含む溶液で2時間処理した。酵母におけるアルミニウムの取り込みは、フレームレス原子吸光法によって測定した。
【実施例】
【0114】
結果を図20に示す。図20は、酵母におけるアルミニウムの取り込みに対するカドミウムおよびマンガンの影響を示すグラフである。データは、平均値±標準偏差(n=3)として示した。図20に示すように、等モル濃度の二価イオン(カドミウムおよびマンガン)の存在によってアルミニウムの取り込みが影響を受けないことが確認された。
【実施例】
【0115】
OsNrat1タンパク質のアルミニウム輸送活性についてさらに解析を行った。具体的には、OsNrat1タンパク質を発現させた酵母、陰性対照としてAtNramp4タンパク質を発現させた酵母およびpYES2ベクターを導入した酵母を、アルミニウムのみ、アルミニウム-クエン酸錯体、またはアルミニウム-シュウ酸錯体を含有する液体培地に播種し、4℃または30℃で2時間培養した。尚、アルミニウム-クエン酸錯体は、アルミニウムとクエン酸とを50:500(μM)の割合で混合したものを用いた。アルミニウム-シュウ酸錯体は、アルミニウムとシュウ酸とを50:500(μM)の割合で混合したものを用いた。また、酵母におけるアルミニウムの取り込みは、図13の(b)と同様の方法によって測定した。
【実施例】
【0116】
図14は、酵母における、アルミニウム、アルミニウム-クエン酸錯体、およびアルミニウム-シュウ酸錯体の取り込みを表すグラフである。図14に示すように、OsNrat1タンパク質を発現させた酵母は、アルミニウムイオンの輸送活性が向上したが、アルミニウムークエン酸錯体やアルミニウムーシュウ酸錯体に対する輸送活性は示さなかった。また、4℃の培養条件下において、OsNrat1タンパク質によるアルミニウムイオンの輸送活性が抑制されることが明らかになった。植物はクエン酸等の有機酸を分泌することによってアルミニウムとの錯体を形成し細胞外でアルミニウムを無毒化すると考えられている。図14に示す結果から、OsNrat1タンパク質は錯体を形成しきれなかった遊離のアルミニウムイオンを細胞内に取り込むと考えられた。
【実施例】
【0117】
さらに、OsNrat1タンパク質の二価金属(Fe,Mn,Cd)に対する輸送活性を調べた。具体的には、OsNrat1タンパク質を発現させた酵母、陽性対照としてAtNramp4タンパク質を発現させた酵母、陰性対照としてpYES2ベクターを導入した酵母を用いた。酵母株には鉄については鉄吸収能力が欠損したfet3fet4変異株、マンガンについてはマンガン吸収能力が欠損したsmf1変異株、カドミウムについてはBY4741株を用いた。
【実施例】
【0118】
これらの酵母を鉄またはマンガンを加えていない(痕跡程度に含む)寒天培地に播種し、30℃で3日間培養した。尚、痕跡程度に含まれる鉄およびマンガンの有効度をさらに下げるため、キレート化合物として鉄に対してはバソフェナントロリンジスルホン酸(BPDS)を0μM、8μMまたは10μMの濃度で培地に添加し、マンガンに対してはEGTAを0mMまたは2mMの濃度で培地に添加した。また、酵母におけるカドミウムの取り込みは、0μM、2μM、5μM、10μMまたは20μMのカドミウムを含む液体培地において30℃で2時間培養し、フレームレス原子吸光法によって測定した。
【実施例】
【0119】
図15は、酵母を用いたOsNrat1タンパク質の機能解析の結果を表す図である。図15の(a)は鉄を制限した培地における酵母の増殖を表す図であり、(b)は、マンガンを制限した培地における酵母の増殖を表す図であり、(c)は酵母におけるカドミウムの取り込みを表すグラフである。
【実施例】
【0120】
図15の(a)および(b)に示すように、AtNramp4タンパク質を発現させた酵母は、鉄またはマンガンを制限した培地においても増殖したが、OsNrat1タンパク質を発現させた酵母は、pYES2ベクターを導入した酵母と同様に、鉄またはマンガンを制限した培地において増殖が抑制された。これは、AtNramp4タンパク質は、鉄およびマンガンを輸送する活性を有しているが、OsNrat1タンパク質には、鉄およびマンガンを輸送する活性が無いことを表している。
【実施例】
【0121】
また、図15の(c)に示すように、OsNrat1タンパク質を発現させた酵母およびpYES2ベクターを導入した酵母と比較して、AtNramp4タンパク質を発現させた酵母は、カドミウムの取り込みが促進された。OsNrat1タンパク質を発現させた酵母のカドミウムの取り込みは、pYES2ベクターを導入した酵母と同程度であった。これらの結果から、OsNrat1タンパク質は特異的なアルミニウム輸送体であることが明らかになった。
【実施例】
【0122】
(4.OsNrat1遺伝子過剰発現イネを用いたOsNrat1遺伝子の機能解析)
さらに、OsNrat1タンパク質についての生理学的な解析を行った。具体的には、OsNrat1遺伝子をユビキチンプロモーターの制御下に組み込んだ組換え発現ベクターを作製し、当該組換え発現ベクターをアグロバクテリウム法によってイネ(品種:日本晴)に導入し、OsNrat1タンパク質を過剰発現するOsNrat1遺伝子過剰発現株(株番号:5-5および5-7)を作製した。
【実施例】
【0123】
まず、得られたOsNrat1遺伝子過剰発現株の根全体について、RT-PCRを行い、OsNrat1遺伝子の発現を調べた。RNAの抽出は、RNeasy plant extraction mini kit(キアゲン社製)を用いて行った。逆転写反応は、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(インビトロジェン社製)を用いて行った。また、PCRの反応条件は以下の通りである。
反応液の組成:20μLの反応液に1倍濃度のSYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ社製)、それぞれ0.2μMのプライマー1組、20倍希釈した逆転写産物2μL
PCRの条件:95℃ 30秒、(95℃ 15秒、58℃ 15秒、72℃ 30秒)×40サイクル
Mastercycler ep realplex(エッペンドルフ社製)を用いてPCRを行った。
【実施例】
【0124】
図16は、Nrat1の過剰発現体のRT-PCRの結果を表すグラフである(各n=3)。尚、図16のグラフの縦軸は、アルミニウム非存在下におけるOsNrat1遺伝子の発現量を1としたときの相対発現量を表している。OsNrat1遺伝子過剰発現株では、野生型のイネと比較して、OsNrat1遺伝子の発現が約80倍高いことが明らかになった。
【実施例】
【0125】
そこで、上記OsNrat1遺伝子過剰発現株と野生型イネとを、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露して、根の伸長と細胞内へのアルミニウムの取り込みとを測定した。このとき、対照として、アルミニウムを含有しない0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した野生型イネおよび過剰発現株を用いた。
【実施例】
【0126】
図17は、OsNrat1遺伝子過剰発現株と野生型イネとを、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露した後の、野生型イネおよびOsNrat1遺伝子過剰発現株の根の伸長率(%)を表すグラフである。グラフの縦軸は、対照における根の伸長を100%としたときの上記の野生型イネおよびOsNrat1遺伝子過剰発現株の根の伸長率を表している。それぞれのグラフのデータ数は、5-5(n=9)、5-7(n=8)、野生型イネ(n=13)である。
【実施例】
【0127】
図17に示すように、30μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液で処理した場合は、野生型イネと比較して、OsNrat1遺伝子過剰発現株の根の伸長が大幅に阻害された。すなわち、OsNrat1遺伝子過剰発現株のアルミニウム耐性が低下していた。
【実施例】
【0128】
図18は、OsNrat1遺伝子過剰発現株と野生型イネとについて、根の細胞内に取り込まれたアルミニウム量を表すグラフである。それぞれのグラフのデータ数は、5-5(n=3)、5-7(n=3)、野生型イネ(n=3)である。図18に示すように、OsNrat1遺伝子過剰発現株では、アルミニウムの取り込みが促進された結果、野生型のイネと比較して、根の細胞内のアルミニウムの濃度が高くなっていた。
【実施例】
【0129】
OsNrat1遺伝子が過剰に発現することによって、OsNrat1遺伝子過剰発現株の根の細胞内にアルミニウムが過剰に取り込まれる。しかし、OsNrat1遺伝子過剰発現株では、細胞内に取り込まれたアルミニウムを無毒化する仕組み、例えばアルミニウムを液胞内に蓄積させる活性は野生型イネと同じであるため、細胞内に蓄積された過剰のアルミニウムによって根の成長が阻害され、この結果、OsNrat1遺伝子過剰発現株のアルミニウム耐性は野生型イネよりも弱くなったと考えられる。
【実施例】
【0130】
次いで、アルミニウム特異的な蛍光染色試薬Morinで根の細胞におけるアルミニウムの蓄積を観察した。具体的には、各種イネを、50μMアルミニウムを含有する0.5mM CaCl溶液に24時間暴露して、根の異なる部位(根の先端から2mmの領域および4mmの領域)について切片を作製し、Morinを用いて染色した。その後、染色した切片を顕微鏡下で観察した。
【実施例】
【0131】
図19は、根の細胞におけるアルミニウムの蓄積を表す図である。図19中、「NE7009」はOsNrat1遺伝子破壊株、「5-5」および「5-7」はOsNrat1遺伝子過剰発現株を表す。図19に示すように、野生型イネと比較して、OsNrat1遺伝子破壊株では、アルミニウムの蓄積量が少なかった。一方、OsNrat1遺伝子過剰発現株では、根の細胞内におけるアルミニウムの量が増加していた。
【実施例】
【0132】
以上の生理学的解析結果から、OsNrat1タンパク質が、植物の細胞内へのアルミニウムの輸送に関与することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、アルミニウムの取り込みを促進させた形質転換植物を生産することができる。かかる形質転換植物は、アルミニウムの取り込みが促進されているので、例えば、アルミニウムを含有する土壌において栽培することによって、花の色を改変させた植物とすることができる。また酸性土壌でも生育できるアルミニウム耐性植物の作出にも応用できる。それゆえ、本発明は、農業において好適に利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図9】
6
【図10】
7
【図14】
8
【図16】
9
【図17】
10
【図18】
11
【図20】
12
【図22】
13
【図23】
14
【図3】
15
【図8】
16
【図11】
17
【図12】
18
【図13】
19
【図15】
20
【図19】
21
【図21】
22