TOP > 国内特許検索 > 操舵可能な駆動機構および全方向移動車 > 明細書

明細書 :操舵可能な駆動機構および全方向移動車

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5376347号 (P5376347)
登録日 平成25年10月4日(2013.10.4)
発行日 平成25年12月25日(2013.12.25)
発明の名称または考案の名称 操舵可能な駆動機構および全方向移動車
国際特許分類 B62D   7/14        (2006.01)
B60B  33/00        (2006.01)
A61G   5/04        (2013.01)
F16H   1/20        (2006.01)
F16H   1/06        (2006.01)
G05D   1/02        (2006.01)
FI B62D 7/14 Z
B60B 33/00 Z
B60B 33/00 502Z
A61G 5/04 504
F16H 1/20
F16H 1/06
G05D 1/02 W
G05D 1/02 X
請求項の数または発明の数 13
全頁数 22
出願番号 特願2011-519782 (P2011-519782)
出願日 平成22年6月15日(2010.6.15)
国際出願番号 PCT/JP2010/060078
国際公開番号 WO2010/147100
国際公開日 平成22年12月23日(2010.12.23)
優先権出願番号 2009146050
優先日 平成21年6月19日(2009.6.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年6月18日(2012.6.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
発明者または考案者 【氏名】寺嶋 一彦
【氏名】大野 貴
【氏名】上野 祐樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100149320、【弁理士】、【氏名又は名称】井川 浩文
【識別番号】110001324、【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
審査官 【審査官】佐々木 智洋
参考文献・文献 特開昭62-128833(JP,A)
特開平01-282029(JP,A)
特開平08-300960(JP,A)
特開2000-127776(JP,A)
特開2001-199356(JP,A)
特開2004-231043(JP,A)
和田 正義 Masayoshi Wada,同期キャスタ駆動機構によるホロノミック全方向移動ロボットの設計と運動解析 Design and Analysis of a Wheeled Platform with a Synchro Caster-drive Mechanism for Holonomic and Omnidirectional Mobile Robots,日本ロボット学会誌 第19巻 第6号 Journal of the Robotics Society of Japan,日本,社団法人日本ロボット学会 The Robotics Society of Japan,第19巻
北川 秀夫 Hideo Kitagawa,全方向移動ロボットのための差動駆動操舵機構の開発 Development of Differential-Drive Steering System for Omnidirectional Mobile Robot,日本ロボット学会誌 第27巻 第3号 Journal of the Robotics Society of Japan,日本,社団法人日本ロボット学会 The Robotics Society of Japan,第27巻
調査した分野 B62D 7/14
A61G 5/04
B60B 33/00
F16H 1/06
F16H 1/20
G05D 1/02
特許請求の範囲 【請求項1】
回転自在な操舵部と、この操舵部に支持される車輪と、上記操舵部の中心
線上の軸回りに回転する駆動体と、上記操舵部の中心軸から偏心した位置に設けられ、上記駆動体から得られる回転力を上記車輪に伝達する出力軸とを備え、
上記駆動体は、正転方向に駆動される第一の駆動部および逆転方向に駆動される第二の駆動部が同軸上に配置されてなる駆動体であり、
上記出力軸は、上記第一の駆動部から駆動力の伝達を受ける第一の出力部と、上記第二の駆動部の回転を正転方向に変換する変換部から駆動力の伝達を受ける第二の出力部とを備え、上記第一および第二の出力部に拘束され、かつ出力部から得られる回転力を車輪に伝達する出力軸である
ことを特徴とする操舵可能な駆動機構。
【請求項2】
前記第一および第二の駆動部は、個別に回転数を制御してなる異なる動力源により個別に駆動力を得ることができる第一および第二の駆動部である請求項1記載の操舵可能な駆動機構。
【請求項3】
前記第一および第二の出力部は、前記第一および第二の駆動部の回転数が一致するとき、同じ回転数で回転する第一および第二の出力部である請求項1または2に記載の操舵可能な駆動機構。
【請求項4】
前記第一および第二の駆動部、前記変換部、並びに、前記第一および第二の出力部は、いずれも平歯車である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の操舵可能な駆動機構。
【請求項5】
前記第一の出力部の歯数に対する前記第一の駆動部の歯数の割合が、前記変換部の歯数に対する前記第二の駆動部の歯数の割合に一致し、前記変換部と前記第二の出力部の歯数が同数である請求項4に記載の操舵可能な駆動機構。
【請求項6】
前記車輪は、前記操舵部の回転軸からオフセット位置に接地点を有する車輪である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の操舵可能な駆動機構。
【請求項7】
前記車輪は、前記操舵部の回転軸からオフセット位置に接地点を有し、該オフセット量が、前記第一の出力部の歯数に対する前記第一の駆動部の歯数の割合を前記車輪の半径に乗じた長さである請求項5に記載の操舵可能な駆動機構。
【請求項8】
前記出力軸は、車輪側先端に傘歯車を備え、上記傘歯車に噛合する傘歯車を介して前記車輪に回転力を付与してなる出力軸である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の操舵可能な駆動機構。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の操舵可能な駆動機構を搭載した全方向移動車であって、車体と複数の車輪を備え、複数の車輪のうち、2以上の車輪について前記駆動機構を搭載してなることを特徴とする全方向移動車。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の操舵可能な駆動機構を搭載した車輪を有する全方向移動車であって、
車体と、4個の車輪と、車輪のそれぞれについて前記第一および第二の駆動部に対し個別に駆動力を付与する2個ずつのモータと、各モータの回転数を検出する回転数検出手段と、前記操舵軸の操舵角度を検出する角度検出手段と、各モータの回転数を制御する制御手段と、前記制御手段に指令を与える操作部とを備えたことを特徴とする全方向移動車。
【請求項11】
前記制御手段は、前記操作部の指令により、前記4個の車輪を個別に制御する制御部である請求項10に記載の全方向移動車。
【請求項12】
前記車体は、座席部を有する車椅子用の車体である請求項9ないし11のいずれかに記載の全方向移動車。
【請求項13】
前記車体は、所定容量の収容部を有する運搬用の車体である請求項9ないし11のいずれかに記載の全方向移動車。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車椅子または自動運搬機等を全方向に移動させるための車両およびそのための操舵可能な駆動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国は、高齢化社会の到来とともに被介護者が増加する傾向となり、運動機能が低下した高齢者、特に、下半身の機能不全等の症状を有する高齢者にとっては、車椅子による移動が必要となっている。また、先天的に障害のある者や、事故等による中途障害者などにおいても、運動機能不全に伴って歩行が困難な状態の場合には車椅子が生活必需品となっている。通常の車椅子は、利用者自らが操作することもあるが、運動機能の低下が著しい利用者の多くは介護者に操作を委ねており、上記高齢者または障害者を介護する者の負担を軽減するために、電動の車椅子が開発されている。しかし、一般的な電動の車椅子は、旋回等に広いスペースが必要となり、十分な広さが確保されない場所(例えば、一般家屋や賃貸住宅など)での利用に不便を来すという問題点が指摘されていた。
【0003】
他方、加工工場などの生産現場においては、工作機械の設置スペースおよび原材料の保存スペースなどを確保するために、フロアを広く使用することができず、作業者の移動は可能であるものの、運搬車が余裕をもって移動できない環境下にある場合も少なくない。そのため、生産現場では、コンベア等の搬送装置を多用するが、コンベア等による搬送に馴染まない部材(例えば、小型部品や切削粉など)については、床上移動が可能な運搬車によって搬送しており、狭いスペースでの搬送に適した移動車が切望されていた。
【0004】
そこで、狭いスペースでも方向転換等が行えるように、全方向に移動することのできる車両の開発がなされている。この種の車両構造を大別すると、車輪を特殊な構造とするものと、車輪を操舵するものとが挙げられる。前者の車両構造としては、車輪本体を構成する外周リング(リムに相当する部分)に、当該外周リングを軸として回転自在な回転体が複数装着されたもの(特許文献1参照)、および、ホイールの外側接線方向に設けられたローラ軸に樽形分割ローラを配設したもの(特許文献2参照)があった。
【0005】
上記構成の技術は、本来的な車輪のほかに、この車輪の外周に直交方向に回転可能な補助的な車輪(回転体または樽形ローラ)を備えたものであるため、前後方向のほかに左右方向に移動可能である。しかし、斜め方向に移動するときには、補助的な車輪が斜め方向に回転するものではなく、接地面との間で摩擦抵抗を受けることとなっていた。また、このような複雑な構造の車輪をモータにより駆動させるためには、装置全体が複雑になるという問題を内在するものであった。
【0006】
他方、後者の車両構造としては、略平板状の旋回軸に設けられる歯車に噛合する旋回駆動モータの出力歯車によって車輪の向きを変更するもの(特許文献3参照)、および、車輪を支持する車輪支持部を旋回モータで回転させるもの(特許文献4参照)があった。
【0007】
特許文献3は、旋回時のみ旋回駆動モータの出力歯車を旋回軸の歯車に噛合させる構成であり、通常走行時は、上記噛合を解除して旋回駆動モータの駆動力を車輪駆動に利用するものであった。しかし、上記構成によれば、旋回軸の歯車と駆動側の歯車とを噛合させる状態と、両者を切り離す状態とを交互に繰り返すこととなり、歯車を噛合させるときには、両歯が接触することとなっていた。その結果、歯欠け等を防止するためにモータ速度の変更等が要求されるものとなっていた(引用文献3の段落0010参照)。また、特許文献4は、旋回時と非旋回時との切り替えについて詳細が開示されていないものの、モー
タの入切を行うことによるのであれば、旋回用のモータについては使用頻度が少なく、モータの運用率が低くならざるを得なかった。
【0008】
そこで、本発明者は、二つの動力源の出力を、複数の歯車機構を用いて合成・再分配することにより、車輪を駆動・操舵する機構を開発した(特許文献5参照)。この技術は、遊星歯車機構を用いた差動駆動操舵機構であり、サンギアとリングギアに挟まれたプラネタリギアが回転することにより、走行駆動を車輪に出力できるとともに、上記プラネタリギアがサンギアの回りを移動することにより、操舵を可能にするものであった。
【0009】
従って、二種類のモータによりサンギアとリングギアを同時に回転させ、その回転数を制御することにより、プラネタリギアの回転および公転を実現化するものであって、全方向移動機構としては好適であった。しかし、サンギアとリングギアでは歯数が大きく異なるため、差動駆動における公転の状態に安定性を欠く可能性があった。すなわち、差動駆動を行う時には、歯数の多いリングギアの回転数を調整し、サンギアを基準にリングギアの回転数を増減させることが考えられるが、両ギアが高速で回転するときには、いずれか一方のギアの回転数を減じて操舵しなければならず、リングギアの回転数を減ずる場合は、歯数に応じた繊細な回転数の調整が可能であるが、サンギアの回転数を減ずる場合には、少しの変化により差動状態が大きく変化するということが考えられるのである。また、異なる回転数で回転するサンギアとリングギアを駆動するモータの消耗度も安定しない可能性があった。
【0010】
なお、並列に配置した二つの車輪により一対の差動キャスタを形成し、両輪の回転数を制御することにより、当該キャスタが向きを変える構成とした技術もあり(特許文献6参照)、動力源としての一対のモータはキャスタ内にそれぞれ設けられ、一つのモータが同じ回転数の場合に直進し、回転数に差を設けるときに方向転換を可能にするものがあった。しかし、並列する二輪で構成されたものであるから、両輪に作用する摩擦抵抗の違いや走行面(床面または路面など)の状態の相違によって、制御回転数に従った推進力を得られるかどうかに問題があり、単一の車輪により構成される必要があった。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2003-127605号公報(0013、図1)
【特許文献2】特開2005-67334号公報(7頁、図1)
【特許文献3】特開2004-231043号公報(4頁-5頁、図1・図2)
【特許文献4】特開2006-1518号公報(2頁、図1)
【特許文献5】特開2008-279848号公報
【特許文献6】特開2008-213570号公報(3頁-5頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、遊星歯車機構を使用せず、差動駆動により単一車輪の操舵を可能にすることにより、安定した操舵環境と、動力源の運用率を向上させ得る駆動機構およびこの駆動機構を利用した全方向移動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明の操舵可能な駆動機構は、回転自在な操舵部と、この操舵部に支持される車輪と、上記操舵部の中心線上の軸回りに回転する駆動体と、上記操舵部の中心軸から偏心した位置に設けられ、上記駆動体から得られる回転力を上記車輪に伝達する出力軸とを備え、上記駆動体は、正転方向に駆動される第一の駆動部および逆転方向に駆動される
第二の駆動部が同軸上に配置されてなる駆動体であり、上記出力軸は、上記第一の駆動部から駆動力の伝達を受ける第一の出力部と、上記第二の駆動部の回転を正転方向に変換する変換部から駆動力の伝達を受ける第二の出力部とを備え、上記第一および第二の出力部に拘束され、かつ出力部から得られる回転力を車輪に伝達する出力軸であることを特徴とするものである。
【0014】
上記構成によれば、出力軸は、異なる二つの出力部に拘束されていることから、第一および第二の出力部による回転数が一致するとき、定点において回転することとなるが、第一の出力部の回転数と第二の出力部の回転数とが異なる場合、当該回転数の差に応じて操舵部の中心軸を中心として周方向へ移動することとなる。このときの周方向への移動は、操舵部を回転させることとなり、この操舵部に支持される車輪の向きを変化させることとなる。なお、出力軸が第一および第二の出力部に「拘束される」とは、出力部が出力軸に固定されることによって、当該出力軸が両出力部の双方から回転力を付与されることを意味する。
【0015】
前記発明においては、第一および第二の駆動部が、個別に回転数を制御してなる異なる動力源により個別に駆動力を得る構成とすることができる。上記構成によれば、第一および第二の出力部に出力させる回転数を個別に制御することができることから、第一および第二の駆動部の一方または双方を制御して出力部の回転数差を発生させ得ることとなる。
【0016】
また、前記発明においては、第一および第二の駆動部の回転数を一致させるとき、第一および第二の出力部が同じ回転数で回転するように構成することができる。上記構成によれば、通常走行時、つまり直線的移動時では、双方の駆動部に付与すべき駆動力は同一となり、異なる動力源が同程度に稼働することとなることから、動力源の運用率が向上する。
【0017】
さらに、前記発明においては、第一および第二の駆動部、変換部、並びに、第一および第二の出力部について、いずれも平歯車により構成することができる。このような構成によれば、操舵部の中心軸をもって駆動部の支持軸とすることができ、この操舵部の回転軸と出力軸を平行に配置することができ、両出力部の回転数の差を操舵に反映させることができる。
【0018】
この場合、第一の出力部の歯数に対する第一の駆動部の歯数の割合が、変換部の歯数に対する第二の駆動部の歯数の割合に一致し、変換部と第二の出力部の歯数を同数とすることができる。このような構成であれば、第一および第二の駆動部に同じ回転数の駆動力を与えることによって、第一の出力部が回転する回転数と、第二の出力部が回転する回転数とを一致させることができる。そして、第一および第二の駆動部の回転数に差を生じさせるとき、当該回転数の差が第一および第二の出力部の回転数の差となるから、操舵角度の調整を駆動部の回転数により行うことができる。
【0019】
前記各発明においては、車輪が、操舵部の回転軸からオフセット位置に接地点を有する車輪とすることができる。この場合、操舵部は、車輪の接地点を中心として回転することとなり、しかも、走行方向を変更する際、車輪の転動により変動する接地点の軌跡と、上記操舵部の中心の軌跡とが異なることとなることから、所望方向に対して操舵部の中心を直線的に移動させることができる。
【0020】
第一および第二の駆動部、変換部ならびに第一および第二の出力部を平歯車で構成し、第一の出力部の歯数に対する第一の駆動部の歯数の割合が、変換部の歯数に対する第二の駆動部の歯数の割合に一致し、変換部と第二の出力部の歯数を同数とする構成においては、操舵部の回転軸からオフセット位置に接地点を有する場合、さらに、該オフセット量が
、第一の出力部の歯数に対する第一の駆動部の歯数の割合を車輪の半径に乗じた長さとすることができる。このような構成であれば、車輪が転動することによる走行の力と、操舵部が回転することによる操舵の力とが、オフセットされた車輪の支持軸に対して等しく作用させることができ、走行中の操舵において走行力に対抗し得る操舵力を車輪に付与することができる。
【0021】
また、前記発明においては、出力軸が、車輪側先端に傘歯車を備える構成とし、上記傘歯車に噛合する傘歯車を介して車輪に回転力を付与するように構成することができる。このような構成によれば、出力軸の軸線は操舵部が回転する方向に対して直交して設けられるとしても、水平な車軸を有する車輪に対して回転方向を変換して伝達することができることとなる。
【0022】
他方、本発明の全方向移動車は、前記のいずれかに記載の操舵可能な駆動機構を搭載した全方向移動車であって、車体と複数の車輪を備え、複数の車輪のうち、2以上の車輪について前記駆動機構を搭載してなることを特徴とするものである。
【0023】
上記構成の全方向移動車であれば、一部の車輪を受動車輪とすることで、前記駆動機構を搭載した車輪の操舵により決定される方向に、受動車輪を追随させることができる。逆に全車輪について前記駆動機構を搭載することにより、駆動力の負担を分散することとなるうえに、個々の車輪の向きを個別に制御できることから、これらの制御の態様により様々な方向変換が可能となる。
【0024】
また、本発明の全方向移動車は、前記いずれかに記載の操舵可能な駆動機構を搭載した車輪を有する全方向移動車であって、車体と、4個の車輪と、車輪のそれぞれについて前記第一および第二の駆動部に対し個別に駆動力を付与する2個ずつのモータと、各モータの回転数を検出する回転数検出手段と、前記操舵軸の操舵角度を検出する角度検出手段と、各モータの回転数を制御する制御手段と、前記制御手段に指令を与える操作部とを備えたことを特徴とするものである。
【0025】
上記構成によれば、4個の車輪を個別に制御するとともに、各車輪1個に対して2個のモータが駆動部に対して駆動力を付与することとなるから、前記第一および第二の駆動部の回転数を2個のモータの回転数制御によって行うことが可能となる。また、その際のモータの回転数は回転数検出手段によって検出されることから、目標値と現実の回転数とを比較することができる。さらに、操舵角度は角度検出手段によって検出されることから、車輪ごとに2個のモータ回転数を制御しつつ操舵角度を調整することができる。
【0026】
上記発明において、制御手段は、前記操作部の指令により、前記4個の車輪を個別に制御する制御部で構成することができる。ここで、個別に制御するとは、個々の車輪に駆動力を付与するモータに対して、車輪ごとに異なる目標値に基づいて制御されることを意味し、4個の制御部を有することを意味しない。
【0027】
上記構成によれば、個々の車輪は、指令に基づいた走行状態を実現するために、的確な向きおよび速度で制御されることとなり、各車輪を独立して作動させることによって、直線的な移動のみならず旋回する場合に適する状態とすることができる。
【0028】
前記発明の全方向移動車は、座席部を有する車椅子用の車体で構成することができる。これにより、車椅子を全方向移動させることができる。また、所定容量の収容部を有する運搬用の車体で構成することもできる。これにより、運搬車を全方向に移動させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の駆動機構によれば、出力部の差動駆動により操舵を可能にすることができることから、操舵環境を安定させることができる。また、駆動部、変換部および出力部を平歯車で構成し、出力部の回転数の差によって操舵部を回転させることから、遊星歯車機構を使用せず差動駆動を可能にする。このとき、第一の駆動部と第一の出力部との歯数比を、第二の駆動部と第二の出力部との歯数比(変換部の歯数は第二の出力部と同数であるとする)に一致させることにより、第一および第二の駆動部に与える回転数を同一とするとき、第一及び第二の出力部の回転数を同じにすることができ、これにより、回転数の制御が容易となるうえ、非操舵時には異なる動力源を同時かつ同程度に稼働させることとなり、動力源の負荷を分散しつつ運用率を向上させることができる。
【0030】
他方、本発明の全方向移動車によれば、車輪に搭載した駆動機構により操舵を可能にすることができる。つまり、受動車輪を含む場合には、駆動機構により向きが変更された車輪によって車体の向きが変更され、受動車輪は変更された向きに従うこととなるから、車体全体は方向変換が可能となり、受動車輪含まない場合には、それぞれの車輪が個別に向きを変更するため、車体の向きとは無関係に移動方向を自在に選択することができる。
【0031】
また、車体を車椅子用の車体とすることにより、全方向移動可能な車椅子を構成することができ、全方向への移動が可能な車椅子により、一般家屋や賃貸住宅などの十分な広さが確保されていない場所でも移動することが可能となる。さらに、収容部を備えた車体により、全方向移動可能な運搬車を構成することにより、生産現場等における床上搬送において、狭いスペースでの搬送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】駆動機構にかかる本発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】駆動部から出力軸までの駆動関係を示す分解斜視図である。
【図3】車輪の形態を示す説明図である。
【図4】車輪のオフセット状態を示す説明図である。
【図5】全方向移動車の実施形態としての車椅子を示す説明図である。
【図6】全方向移動車の実施形態としての運搬車を示す説明図である。
【図7】全方向移動車の車輪の操舵形態を示す説明図である。
【図8】全方向移動車の車輪の操舵形態を示す説明図である。
【図9】全方向移動車にかかる実施形態の作動態様を示す説明図である。
【図10】全方向移動車にかかる実施形態の作動態様を示す説明図である。
【図11】全方向移動車にかかる他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、駆動機構に係る本発明の実施形態を示すものである。この図に示すように、本実施形態は、回動自在な操舵部1
と、この操舵部1の中心線上の軸回りに回転する駆動体2と、上記操舵部1の中心軸から偏心した位置に設けられた出力軸3と、この出力軸3から回転力の伝達を受ける車輪4とを備えている。操舵部1は、駆動体2の支持軸21を軸として、車体基部6の表面上で回転自在に配置されており、出力軸3が駆動体2の支持軸21を中心とする周方向に移動するとき、操舵部1を回転させることができるように構成されている。また、操舵部1は、フレーム5を介して車輪4を支持しており、操舵部1の回転は車輪用フレーム5の向きを変更するようになっている。また、操舵部1の上方には、プレート51が配置され、支柱52a,52bによって一体化され、駆動体2および支持軸3を支持している。

【0034】
出力軸3は、駆動体2に連動して回転する出力部7が設けられ、出力軸3に伝達された回転駆動力は、下端の傘歯車31と、この傘歯車31に噛合する他の傘歯車41によって、水平軸42を回転させることができるようになっている。この水平軸42の両端にはプーリ(歯付プーリ)43,44が設けられ、車輪4の車軸に設けられたプーリ(歯付プーリ)45,46との間にベルト(歯付ベルト)47,48が懸架されて車輪4を回転させる構成となっている。

【0035】
ここで、駆動体2から出力軸3までの駆動伝達機構について説明する。車体基部6よりも上方に配置される部材を図2に示す。この図に示すように、操舵部1の中心には、ベアリング11a,11bを介して駆動体2を支持するための支持軸21a,21bが配置されている。この支持軸21a,21bは、駆動部22,23を同軸上に配置するため、第一の駆動部22を支持する支持軸21aの内部に、第二の駆動部23のために支持軸21bが挿通されている。

【0036】
駆動体2には、二つの駆動部22,23が配置されるが、この駆動部22,23の駆動力を付与するために、それぞれの入力側(上端)にはプーリ(歯付きプーリ)24,25が設けられ、図示せぬモータの回転力が歯付きベルト(図示せず)を介して伝達されるようになっている。上位の(第一の)駆動部22と、下位(第二の)駆動部23とは相対的に反対方向に回転駆動されるように回転方向が調整されている。なお、第一の駆動部23の回転方向を正転方向とし、これとは反対の方向を反転方向といい、第一の駆動部23が逆向きに回転する場合にも当該回転方向を正転方向とし、これと反対の方向を反転方向とする。

【0037】
第一および第二の駆動部22,23はいずれも平歯車で構成されており、第一の駆動部22は、平歯車で構成された上位の(第一の)と出力部71に噛合されている。また、第二の駆動部23は、平歯車で構成された変換部73に噛合され、かつ、変換部73は平歯車で構成された下位の(第二の)出力部72に噛合されており、反転方向に回転する第二の駆動部23の回転を、変換部73により正転方向に変換したうえで第二の出力部72に伝達している。これらの出力部71,72は、単一の出力軸3に固定されており、かかる出力軸3は両出力部71,72に拘束される状態となっている。なお、「拘束される」とは、出力部71,72が出力軸3に固定されることによって、当該出力軸3が両出力部71,72の双方から回転力を付与されることを意味し、図示のようにキーで固定することができる。このように出力軸3が拘束される場合、与えられる回転力の差は、出力軸3に対して捩れ方向の応力として作用することとなる。

【0038】
実施形態では、上述のように、駆動部22,23、出力部71,72および変換部73は、歯車が噛合することによって連動するように構成されている。従って、相互に噛合する各歯車の歯数比によって、出力部71,72の回転数が決定することとなる。そこで、第二の駆動部23と第二の出力部72との歯数比は、変換部73の歯数を出力部72と同数としたうえで、第一の駆動部22と第一の出力部71との歯数比に一致させている。これにより、駆動部22,23に動力を付与する動力源(図示せぬモータ)の回転数を同じ
にしたとき、第一の出力部71の回転数と、第二の出力部72の回転数が同一となる。

【0039】
このように歯数比を設定した各部22,23,71,72,73が噛合している状態において、第一の駆動部22と第二の駆動部23の回転数が異なる場合には、出力軸3に対し捩れ方向の応力を作用させることとなるが、出力軸3は、この応力を解消するために、操舵部1の中心を周方向に回転することとなる。これが操舵部1に対する操舵用の回転出力である。つまり、例えば、第一の駆動部22の回転数を減少させた場合には、第一の出力部71の回転数が減少することとなり、この出力部71と第二の出力部72との回転数が相違することとなる。そこで、回転数の大きい第二の駆動部23と同じ方向に出力軸3が移動すれば、速い回転の第二の駆動部23と出力軸3との相対的な回転数は減少し、遅い回転の第一の駆動部22と出力軸3との相対的な回転数は増加し、これらの相対的な回転数が一致したところで安定することとなる。このように、出力軸3は、第一の駆動部22と第二の駆動部23との間に生じる回転数の差異に応じて、いずれかの方向に回転することとなり、結果的には、操舵部1に対する操舵用回転出力となる。

【0040】
上記のような操舵部1の回転は、第一の駆動部22または第二の駆動部23のいずれか一方のみが駆動され、他方が停止している場合に顕著である。すなわち、第一の駆動部22が停止している場合には、第二の駆動部23の回転力は出力軸3に伝達され、当該出力軸3は回転しようとするが、第一の出力部71によって回転が許容されず、結果的には、停止する第一の駆動部22の回りを転動しつつ出力軸3を回転させることとなる。そして、上記の転動は、駆動部22(支持軸21)を中心として操舵部1を回転させるものとなる。

【0041】
これを運動学モデルにより説明する。前提として、第一の駆動部22の回転数をω、第二の駆動部23の回転数をω、回転軸3の回転数をω、操舵部1の回転数をωとし、第一の駆動部22の歯数をZ、第二の駆動部の歯数をZ、第一の出力部71の歯数をZC1、第二の出力部72の歯数をZC2とする。さらに、機構の状態ベクトルωおよび入力ベクトルuを下式とする。

【0042】
【数1】
JP0005376347B2_000002t.gif

【0043】
このときの運動学モデルは、次のとおりである。

【0044】
【数2】
JP0005376347B2_000003t.gif

【0045】
ここで、操舵部1の回転数のみを表せば、下式のとおりとなる。

【0046】
【数3】
JP0005376347B2_000004t.gif

【0047】
上式において、第一の駆動部22と第一の出力部71との歯数比と、第二の駆動部23と第二の出力部72との歯数比と同じにすると、

【0048】
【数4】
JP0005376347B2_000005t.gif

【0049】
であるから、これを数3の式に代入すると、結果的には次式となり、第一の駆動部22の回転数ωと第二の駆動部23の回転数ωとの間に差が生じるとき、正転(-)方向または反転(+)方向に、操舵部1が回転することとなる。なお、この式から明らかなとおり、両回転数が同一(ω=ω)のときは、ω=0となり、操舵部1は回転しないこととなる。

【0050】
【数5】
JP0005376347B2_000006t.gif

【0051】
他方、回転軸3の回転については、数2の式から下式のとおりである。

【0052】
【数6】
JP0005376347B2_000007t.gif

【0053】
この式においても、第一の駆動部22と第一の出力部71との歯数比と、第二の駆動部23と第二の出力部72との歯数比と同じとし、数4の式を上式に代入すると、下式のとおりとなり、駆動部22,23のそれぞれの回転数が、逆転(+)方向に各1/2の回転数を出力軸3に伝達している。

【0054】
【数7】
JP0005376347B2_000008t.gif

【0055】
さらにここで、両駆動部22,23の回転数が同じ(ω=ω=ω)場合には、下式のとおり、それぞれの回転数が1/2ずつ伝達されることとなる。

【0056】
【数8】
JP0005376347B2_000009t.gif

【0057】
このように、第一の駆動部22の回転数と、第二の駆動部23の駆動部の回転数を一致
させることにより、両出力部71,72は同一方向かつ同一回転数の駆動力を回転軸3に出力することとなる。このとき、回転軸3には、操舵部1の中心を軸とする周方向への回転力は発生しないこととなる。これに対し、二つの駆動部22,23の間で回転数が異なる(結果的に出力部71,72の間で回転数が異なる)場合には、操舵部1を回転させるように出力軸3が移動するのである。

【0058】
上記操舵部1の回転は、操舵部1の中心線上に車輪4の接地点が位置するときは、車輪4の向きを変更させることとなるが、図3(a)に示すように、車輪4の接地点Gが操舵部1の中心Cからオフセット位置である場合には、上記とは異なることとなる。なお、車輪4の接地点Gをオフセット位置にすることは、後述するように、車体基部6に対して無駄な動きをさせることなく全方向に移動させるために必要である。

【0059】
図3(b)に示すように、オフセット位置に接地点を有する車輪4の向きを変更することは、接地点を移動させることとなるから、そのための抵抗が大きくなり困難である。しかし、操舵部1に生じる回転力は、接地点を中心として車輪4の全体を水平方向に回転するように作用し、この車輪4の水平方向への回転は、操舵部1の中心点を移動させるように作用することとなる。このように、操舵部1の位置が反作用的に移動することによって、車体基部6に対する車輪4の位置と方向が変更されることとなるのである。

【0060】
また、車輪4の接地点をオフセット位置にすることにより、図3(c)に示すように、車輪4の向きが変更する際、車体基部6(操舵部1の中心)は、直線的に所望方向(図は右方向)に移動することとなる。これは、一旦停止した状態から方向を変更する際に好適である。すなわち、回転が停止している車輪4は、幅方向に二次元的に接地することとなり、車輪4の向きを変えるためには摩擦抵抗に反する回転力が必要になる。しかし、周知のとおり、車輪4が転がる状態の場合は、接地部分が逐次変更されるため、方向変換の際の摩擦抵抗が少なくなる。そこで、車輪4を転動させつつ向きを変更させる場合、操舵部1からオフセット位置に接地点を設定することにより、車輪4を転動させたとしても所望方向(図は右方向)に直線的に移動できるのである。

【0061】
上記のオフセット位置は、車輪4の接地点Gが操舵部1の中心Cの軸線から偏った位置のことを意味するが、オフセット量は、図4(a)および(b)に示すように、走行力と操舵力が等しくなるように調整されている。走行力と操舵力を等しくすることにより、走行指令と操舵指令が同時に与えられたとき、両者の力のベクトルを合成することにより、当該指令に従った移動状態を実現させることができるのである。つまり、上述の方向変換を円滑にすることができるのである。そこで、オフセット量(中心Cの軸線から接地点Gまでの距離)lは、第一の出力部71の歯数ZC1に対する第一の駆動部22の歯数Zの割合(Z/ZC1)を車輪4の半径rに乗じた長さに調整されており、これにより、車輪4の転動により走行する力fと、操舵部1による操舵の力fを等しくすることができるのである。

【0062】
すなわち、第一の出力部71の歯数ZC1に対する第一の駆動部22の歯数Zの割合(Z/ZC1)を車輪4の半径rに乗じた長さのオフセット量lとは、次式のとおりである。

【0063】
【数9】
JP0005376347B2_000010t.gif

【0064】
これは、車輪4の駆動トルクτから発生する力fと、操舵トルクτから発生する力fとが等しくなるようにしている。すなわち、駆動トルクτは、第一の駆動部22による駆動トルクτと、第二の駆動部23による駆動トルクτとから出力されるトルクの和であるから、車輪4の駆動トルクτは次式のとおりとなる。

【0065】
【数10】
JP0005376347B2_000011t.gif

【0066】
他方、操舵トルクτは、第一の駆動部22による駆動トルクτと、第二の駆動トルクτとの和であるから、結果としてτ=τ+τとなる。

【0067】
また、駆動トルクτから発生する力fは、f=τ/rにより算出され、操舵トルクτから発生する力fは、f=τ/lにより算出されることとなるから、両者は次式のとおりとなる。

【0068】
【数11】
JP0005376347B2_000012t.gif

【0069】
よって、両者の力f,fを等しくするためには、次式が成立することが必要となり、その結果として、数9に示したオフセット量とすることとなる。

【0070】
【数12】
JP0005376347B2_000013t.gif

【0071】
以上のように、本実施形態の駆動伝達機構は、走行に必要な車輪4の回転力を出力軸3の回転によって得ることができる構造であり、また、この回転軸3に回転力を付与する出力部71,72の回転数の差によって操舵部1を回転させる構造であることから、走行駆動および操舵駆動のいずれについても、二つの駆動部22,23から伝達される回転力を利用することができる。

【0072】
なお、本実施形態の駆動部22,23は、モータ等の動力源(図示せず)によって回転駆動が付与されるものであるが、両駆動部22,23を異なる方向に回転駆動させること、および、両駆動部22,23の回転数を個別に制御することを考慮すると、上記モータ等の動力源は、異なる二つを使用することが好ましい。このように二つの動力源を使用することは、走行原動力を二つの動力源に負荷を分散できるうえ、両動力源を同じ程度の頻度で使用することから運用率が良い。さらに、走行用と操舵用の二種類の動力源を使用する場合と比較すれば、使用頻度の多寡がないため、消耗の偏りが少なくなるという利点がある。

【0073】
次に、上記駆動機構を利用した全方向移動車の実施形態として、車椅子を例に説明する。図5は、車椅子Aの概略分解図である。この図に示すように、車椅子Aは、車体基部6に4個の車輪4a,4b,4c,4d(ただし右前輪4bは図中に明確に示されていない)が設けられ、それぞれについて上述の駆動機構Xa,Xb,Xc,Xdが搭載されている。駆動機構Xa~Xdは、車体基部6の上面に操舵部1、駆動体2および出力軸3を備え、これらを作動する駆動部22,23、出力部71,72および変換部73が上述の構成のとおり配置されている(図2参照)。

【0074】
各駆動機構Xa~Xdの駆動部22,23に対し、それぞれ2個のモータMa1,Ma2,Mb1,Mb2,Mc1,Mc2,Md1,Md2が車体基部6に搭載されている。第一の駆動部22に駆動力を提供するモータMa1,Mb1,Mc1,Md1は、やや高い位置において、上述の第一のプーリ24との間にベルト(歯付ベルト)Ba1,Bb1,Bc1,Bd1が懸架されている。また、第二の駆動部に駆動力を提供するモータMa2,Mb2,Mc2,Md2は、もう一つのプーリ25との間にベルト(歯付ベルト)Ba2,Bb2,Bc2,Bd2が懸架されている。これらのモータMa1~Md2は、駆動部22,23に対して正転方向(駆動部22)および逆転方向(駆動部23)に回転させるため、相互に反対回転とされている。

【0075】
また、車体基部6には、制御部(制御手段)SBが搭載されており、各モータMa1~Md2の回転数を制御している。すなわち、例えば左前輪4aについては、2個のモータMa1,Ma2の回転数を調整することによって、上述の駆動機構が実現されることとなるのであって、駆動部22,23の回転数を一致させることによって出力軸7のみを回転させ、相対的な回転数に差を生じさせることによって操舵部1を回転させるのである。

【0076】
さらに、車体基部6の上部には座席部Cが搭載され、この座席部Cが車体基部6によって支持されることによって、全体として車椅子Aが形成されるものである。この座席部Cの右肘を掛けるために肘掛け部CRの周辺には、ジョイスティック(操作部)JSが設けられており、このジョイスティックJSによる操作が上記制御部SBに伝達され、運動学モデルまたは逆運動学モデルを参照しつつ、当該操作に応じた制御がなされる。

【0077】
制御方法としては、各モータMa1~Md2には、エンコーダ(回転数検出手段)が設けられ、それぞれのモータの回転数が検出され、また、操舵部1にはアブソリュートエンコーダ(角度検出手段)が設けられ、車輪の操舵角が検出されており、これらの回転数および操舵角と、これらの目標値とが比較され、目標値に到達するように制御される。具体的には、ジョイスティックJSからは、X方向およびこれに直行するY方向の直線移動に対する指令、ならびに、回転移動に対する指令(3自由度の信号)が出力される。ジョイスティックJSからの指令は、車輪4の回転数ωと、操舵部1の回転数ωとに分解し、車輪4の回転数から第一および第二の駆動部22,23の回転数を演算するとともに、操舵部1の回転数から上記両駆動部22,23の差分を演算する。この演算結果に従って、両駆動部22,23を駆動するモータMa1~Md2に所定の回転出力を指令するのである。各モータMa1~Md2の回転数および操舵部の回転数はフィードバックされ、これを逆算することにより、各回転数が目標値に達するように制御するのである。なお、モータの回転数制御にはプログラマブルロジックコントローラ(Programmable
Logic Controller:PLC)によって行われ、電流値が増減されることによって回転数が制御されている。

【0078】
また、運搬車として使用する場合の実施形態について説明すれば、図6に示すように、上述の車椅子Aと同様に、車体基部6には、4個の車輪4a~4dが備えられ、これらを制御する駆動機構Xa~Xdが搭載されている。車体基部6に収容部Eを搭載することに
よって、運搬車Bとして機能させるのである。この収容部Eの側面には、取っ手部Fが設けられており、さらにこの取っ手部Fの近傍にジョイスティックJSが設けられている。使用者が取っ手部Fを持ちつつ、ジョイスティックJSを操作できるようにしているのである。なお、ジョイスティックJSによる操作およびその指令による車輪の制御は車椅子Aの場合と同様である。

【0079】
次に、4個の車輪4a~4dの個別の操舵形態について説明する。車輪4に対する制御は、上述のとおり、2個のモータの回転数制御によって、走行および操舵を行うものである。操作指令はX方向、Y方向および旋回(回転方向)の3自由度である。
図7(a)は、X方向と回転方向の二方向の指令を受けた際の車輪4a~4dの動作例を示すベクトル図である。この図に示すように、回転方向の駆動力は、操舵軸7を通過する同心円の接線方向のベクトルとして表示することができる。また、X方向の駆動力は、直線方向のベクトルとして表示することができる。そこで、この二方向の指令に従った車輪4a~4dの作動は、両ベクトルの合成により表示することができる。

【0080】
すなわち、図示のとおり、X方向のベクトルは4個所で同一であり、回転方向(同心円の接線方向)のベクトルも向きは異なるが大きさは同一である。そして、それぞれの合力は、方向も大きさも異なるベクトルとなる。このベクトルの方向と大きさに合致するように車輪4a~4dの向きおよび回転速度を制御することによって、上記二方向の指令に沿った移動が可能となる。因みに、図示の指令では、車体基部6の外方に位置する一点O1を中心とする弧状に向かって移動するものとなる。

【0081】
また、X方向とY方向の二方向の場合には、図7(b)に示すように、両ベクトルの合成により4つのベクトルが全て同じ方向、同じ向き、同じ大きさとなる。この場合は、車輪4a~4dは全て同じ方向に向かい、かつ同じ速度で回転することとなるから、車体基部6の向きが変わることなく、X方向を正面とした状態を維持しつつ、斜め方向への移動が可能となるものである。

【0082】
また、図8には、X方向、Y方向および回転方向の3自由度のベクトルを与えた場合の作動例を示している。この図は、図7(a)の状態にさらにY方向の直線移動を追加したものである。従って、この図に示すように、3つのベクトルを合成したベクトルは、図7(a)の合成ベクトルにさらにY方向のベクトルを合成したものとなる。そして、この合成ベクトルに沿って車輪4a~4dの向きおよび回転速度が制御されることによって、車体基部6の左後方の一点O2を中心とする弧状に向かって移動することができるのである。なお、このとき、車体基部6の正面方向は弧状旋回方向に向かうものではなく、Y方向への移動分だけX方向に残る状態となる。これは、図7(b)を例に示したように、Y方向のベクトルが合成されるとき、Y方向のベクトルは旋回(回転方向ベクトル)と異なり車体基部6の向きを変えないことから、3自由度のベクトルが与えられた場合もY方向ベクトルにより車体基部6の向きはかわらず、回転方向ベクトルが作用する範囲においてわずかに向きが変わることとなる。

【0083】
次に、上記において例示した車椅子Aや運搬車Bのように、上述の駆動機構を利用した全方向移動車について、当該全方向移動車の全方向移動の態様を説明する。図9は、矩形の車体基部6に4個の車輪4a,4b,4c,4dを備え、それぞれに上記駆動伝達機構を搭載した状態を示している。図中全方向移動車100は、車輪4の状態をわかりやすく示すために車体基部6を直線で描き、車輪4を簡略化している。図9(a)に示すように、四輪4a,4b,4c,4dは、それぞれ駆動伝達機構が搭載されて駆動力が付与されており、直進方向(図中X方向)に移動する場合は、それぞれの車輪4a,4b,4c,4dを同一方向に転動させるのである。

【0084】
方向を変更する場合、例えば、横向き(図中右向き)に変更する場合には、操舵部1を反時計回りに回転させることにより、この駆動力が反作用的に各車輪4a,4b,4c,4dに伝達され、これらの接地点を中心に時計回りに回転することとなる。車体基部6の4個所でそれぞれ方向が変更される結果、車体基部6の向きをそのままの状態(X方向を前にした状態)にして、進行方向を横向き(Y方向)に変更することとなる(図9(b))。このとき、車輪4a~4dの転動方向は当初X方向であったが、上述したオフセットにより(図3(c)参照)、車体基部6は、そのままの位置から横方向(Y方向)に移動することができる。

【0085】
なお、後方(図9(a)のX方向逆向き)に移動する(後退する)場合には、駆動部22,23(図1)をそれぞれ逆回転させれば、反対の方向に移動するが、上記横向きの移動(90°の方向転換)を繰り返すことにより、反対方向に移動(180°の方向転換)することも可能である。なお、90°の方向転換を繰り返す場合には、横向きに一旦移動したうえで、後退することとなるが、駆動部22,23を逆回転させる場合には、そのような無駄な動きはなくなる。さらに、車輪4a~4dの進行方向について、車輪4a~4dの接地点から操舵軸側を前向きと定める場合には、後退指令により、車輪4a~4dの転動方向を180°回転させるように制御することも可能である。この場合、車輪4a~4dの操舵部1の回転方向が、右回りを優先するか、または左回りを優先するかについて、予め定められることとなる。

【0086】
次に、旋回する場合は、車体基部6の中心点(平面視における面積上の中心点)を中心として、各車輪4a,4b,4c,4dを旋回円の接線方向に向けることにより可能となる(図10(a))。この場合、上記車体基部6の中央を中心に旋回することができるので、狭いスペースでの旋回を可能にするものである。なお、直進方向に進行しつつ、向きを僅かに変更する場合には、その際の曲がりの程度(所望のカーブの曲率)に応じた円弧の接線方向に各車輪4a,4b,4c,4dの向きを合わせることが可能となる(図10(b))。このような直線移動と旋回との組合せについては、両ベクトルの合成によることは既に説明したとおりである。

【0087】
上記のような各車輪4a,4b,4c,4dの向きは、前述の駆動部22,23の回転数の差によって行われるものであり、個々の車輪4a,4b,4c,4dにおける駆動部22,23の回転数は、使用者によって選択された移動状態に応じて制御される。使用者による選択は、例えば、車椅子Aや運搬車Bにおいて使用したジョイスティックJS(図5および図6参照)を用いることができ、予め定めた操作方法に従ってジョイスティックJSを操作することにより、個々の車輪4a,4b,4c,4dに対する駆動部22,23の回転数を制御するのである。

【0088】
次に、受動車輪を含む全方向移動車200について説明する。受動車輪とは、本発明の駆動伝達機構が搭載されず、または何らかの駆動力が付与されていない車輪を意味し、駆動伝達機構が搭載された車輪を駆動車輪と称して両者を区別することとする。本実施例は、図11(a)に示すように、矩形の車体基部6に対して、隣接する2個が駆動力を付与する駆動車輪4a,4bであり、残りの2個が受動車輪4c,4dである。駆動車輪4a,4bを前方に配置し、この駆動車輪4a,4bによって方向制御および移動制御がなされる。ここで使用される駆動車輪4a,4bは、前述のとおり、接地点がオフセット位置となるものを使用している。受動車輪4c,4dは、回転自在な回転軸によって支持されるとともに、接地点は、上記回転軸からオフセット位置に設定されている。

【0089】
駆動車輪4a,4bは、前方の2個であるため、車体基部6を進行方向に向かった状態で、横方向に移動することはできないが、前部の進行を変更して、横向きにすることで、横方向の移動を可能にする。このときの方向転換は、駆動車輪4a,4bの向きを、車体
基部6の中心点(平面視における面積上の中心点)を中心とする旋回円の接線方向に一致させることにより(図11(a))、狭いスペースで旋回しつつ向きを変更することができる。なぜなら、受動車輪4c,4dは、車体基部6の移動または状態の変化に伴って、最も抵抗の少ない状態となるように向きを自在に変化させることから、駆動車輪4a,4bが旋回方向に移動すれば、受動車輪4c,4dは、車体基部6が旋回できる方向に向きを変化させるのである(図11(b))。

【0090】
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、全方向移動車は、四輪を代表例として示したが、これに限定されない。そして、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様をとることができる。例えば、実施形態には、動力源をモータとしており、このモータの回転数を制御することによって走行と操舵を行うことができるものであるが、これらモータの制御方法は、特に限定されるものではない。

【0091】
また、上記実施形態の全方向移動車の車体基部6に座席部Cを設けることにより車椅子Aとなり、収容部Eを設けることにより運搬車Bとなる例を示したが、これらの移動車に限らず、狭いスペースでの方向転換や旋回が必要な移動車について、本発明の駆動機構を採用することができ、各種の目的で使用される移動型ロボットに使用してもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 操舵部
2 駆動体
3 出力軸
4,4a,4b,4c,4d 車輪
5 車輪用フレーム
6 車体基部
7 出力部
11a,11b ベアリング
21a,21b 支持軸
22 第一の駆動部
23 第二の駆動部
24,25 プーリ
31,41 傘歯車
42 水平軸
43,44,45,46 プーリ
47,48 ベルト
51 プレート
52a,52b 支柱
71 第一の出力部
72 第二の出力部
73 変換部
100,200 全方向移動車
A 車椅子
C 座席部
D 運搬車
E 収容部
Ma1~Md2 モータ
Xa~Xd 駆動機構
第一の駆動部の歯数
第二の駆動部の歯数
C1 第一の出力部の歯数
C2 第二の出力部の歯数
ω 第一の駆動部の回転数
ω 第二の駆動部の回転数
ω 出力軸の回転数
ω 操舵部の回転数
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10