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明細書 :セルロース系物質の分解方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5769165号 (P5769165)
公開番号 特開2011-223977 (P2011-223977A)
登録日 平成27年7月3日(2015.7.3)
発行日 平成27年8月26日(2015.8.26)
公開日 平成23年11月10日(2011.11.10)
発明の名称または考案の名称 セルロース系物質の分解方法
国際特許分類 C13K   1/02        (2006.01)
C12P   7/10        (2006.01)
C12P  19/00        (2006.01)
C07H   3/02        (2006.01)
C07H   3/10        (2006.01)
FI C13K 1/02
C12P 7/10
C12P 19/00
C07H 3/02
C07H 3/10
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2010-253129 (P2010-253129)
出願日 平成22年11月11日(2010.11.11)
優先権出願番号 2010085289
優先日 平成22年4月1日(2010.4.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年11月11日(2013.11.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】酒井 剛
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】福間 信子
参考文献・文献 国際公開第2010/013696(WO,A1)
特開2009-291083(JP,A)
特開2010-098994(JP,A)
国際公開第2006/011479(WO,A1)
特開昭59-146594(JP,A)
Zhang et al.,Bioresource Technology,Vol.101,p.931-936(2010)
調査した分野 C12P 19/
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロース系物質とポリ酸と水性媒体とを含む混合物にマイクロ波を照射することを特徴とする、セルロース系物質の分解方法(ただし、前記混合物が触媒としてモリブデン酸イオン及び過酸化物を含有する場合と、前記混合物中で前記ポリ酸が固体である場合とを除く)
【請求項2】
セルロース系物質とポリ酸と水性媒体とを含む混合物にマイクロ波を照射することを特徴とする、セルロース誘導体の製造方法(ただし、前記混合物が触媒としてモリブデン酸イオン及び過酸化物を含有する場合と、前記混合物中で前記ポリ酸が固体である場合とを除く)
【請求項3】
セルロース系物質を請求項1の方法により分解して分解物を得る前処理工程と、
前処理工程により得られた分解物を原料として用いて酵素糖化を行う酵素糖化工程と
を含む、セルロース系物質の酵素糖化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース系物質の分解方法、セルロース系物質誘導体の製造方法、及びセルロース系物質の酵素糖化のための前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇やエネルギー問題を解決する手段として、強固な繊維質であるセルロースを簡便に短時間で分解し、化学製品の原料や燃料となるセルロース誘導体を製造する方法が求められている。セルロースは最も多量に存在するバイオマスである。セルロースを化学製品の原料や燃料などの有用物質に変換するためにはセルロースを分解し、低分子量のセルロース誘導体を得る必要がある。
【0003】
セルロースの分解方法としては、セルロース分解酵素を用いる生物学的方法が一般的である。生物化学的方法を用いる場合でも、酸処理やアルカリ処理などが施される。一方、酸やアルカリによる加水分解によってセルロースを分解する方法もあるが、工程が煩雑になり、後処理などに時間と手間を要する。その他に、セルロースの熱分解なども行われる (特許文献1)。近年、マイクロ波照射(特許文献2) や超臨界水処理、レーザー加熱などの新しいセルロース分解技術が開発されているが、いずれも高価な装置を必要とするなどの不利な点があり一般には普及していない。
【0004】
セルロースを分解して得られる有用物質としてレボグルコサンがある。セルロースからのレボグルコサンの製造法としては、非プロトン性の有機溶媒とともにセルロースを耐圧容器内で加熱する方法が提案されている (特許文献3)。しかしながらこの方法は耐圧容器を必要とし、レボグルコサンの分離過程が煩雑になるという問題がある。
【0005】
一方、セルラーゼ等の酵素を用いてセルロース系バイオマスから糖を製造する技術が「酵素糖化」である。セルロースは結晶構造を有している等の理由からセルロース系バイオマスに直接酵素を作用させたとしても効率的な酵素糖化はできない。このため酵素糖化に先立ってセルロース系バイオマスをアルカリ処理する等の種々の前処理方法が検討されている (特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特公平6-72003号公報
【特許文献2】特許2560223号公報
【特許文献3】特開2003-342289号公報
【特許文献4】特開2008-535523号公報
【特許文献5】特開2008-535524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡便な手順によりセルロース系物質を分解する方法、及びセルロース系物質からグルコース、フルフラール、レボグルコサンなどの有用なセルロース誘導体を製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【0008】
本発明はまた、簡便な手順により酵素糖化のためにセルロース系物質を前処理する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリ酸を使用せずにセルロース粉末を水に分散させて、密閉しない状態でマイクロ波を照射すると、水が蒸発されるだけでセルロースはほとんど分解されない。そのため、ポリ酸を使用せずにセルロースをマイクロ波で分解する場合には、共存する水を循環させるように装置設定を行うか、耐圧製の容器内に密閉する必要がある。また、光触媒として知られている酸化チタンを共存させてマイクロ波を照射しても、開放系ではセルロース分解はほとんど起きない。
【0010】
ところが、本発明者らは、驚くべきことに、可溶性光触媒であるポリ酸を、水系媒体中でセルロースと共存させた混合物にマイクロ波を照射することにより、10~20分間程度の短時間でセルロースを分解することができ、グルコース、フルフラール、レボグルコサン等を製造することができることを見出した。この方法は開放系でも実施することができ、特殊な装置を必要としない。また、家庭用電子レンジを用いても簡便に実施することができる。
【0011】
本発明は以下の発明を包含する。
(1) セルロース系物質とポリ酸と水性媒体とを含む混合物にマイクロ波を照射することを特徴とする、セルロース系物質の分解方法。
(2) セルロース系物質とポリ酸と水性媒体とを含む混合物にマイクロ波を照射することを特徴とする、セルロース誘導体の製造方法。
(3) セルロース系物質を(1)の方法により分解して分解物を得る前処理工程と、
前処理工程により得られた分解物を原料として用いて酵素糖化を行う酵素糖化工程と
を含む、セルロース系物質の酵素糖化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な手順により、セルロース系物質を分解する方法、セルロース系物質からグルコース、フルフラール、レボグルコサンなどの有用なセルロース誘導体を製造する方法、並びに、酵素糖化のためにセルロース系物質を前処理する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、セルロースを水に分散させた状態の写真(a)と、ケイ酸タングステンを共存させてマイクロ波を照射した後の状態の写真(b)を示す。
【図2】図2は、(a)セルロース、(b)ポリ酸不存在条件で20分間マイクロ波照射したセルロース、(c)ポリ酸共存下で20分間マイクロ波照射したセルロース、(d)ポリ酸共存下で20分間マイクロ波照射したセルロースを水で洗浄したもの、それぞれについてのX線回折図を示す。
【図3】図3は、(a)セルロース、(b)ポリ酸不存在条件で20分間マイクロ波照射したセルロース、(c)ポリ酸共存下で20分間マイクロ波照射したセルロース、(d)ポリ酸、それぞれについての赤外吸収(IR)スペクトルを示す。
【図4】図4は、マイクロ波照射によるセルロース分解により生じた生成糖濃度のマイクロ波照射時間依存性を示す。
【図5】図5は、マイクロ波照射によるセルロース分解により生じた生成物のガスクロマトグラフィー分析結果を示す。
【図6】図6は、生成水溶性糖濃度及び水溶性糖への転化率のマイクロ波照射時間依存性を示す(セルロース10mg、溶媒10ml)。
【図7】図7は、HPLCの測定結果であり、ポリ酸存在下でのセルロースのマイクロ波照射処理により、グルコースが分解物として生じることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において「セルロース系物質」とはセルロースを含む物質を指す。化学物質として純粋なセルロースには限定されず、リグニン、ヘミセルロース等の他の物質とセルロースとが組み合わされたものも包含される。本発明に用いられる「セルロース系物質」の典型例としては、植物由来のセルロース含有バイオマスが挙げられる。また、製紙類など再生セルロースや再生不可能な古紙・廃材も含まれる。

【0015】
「ポリ酸」とは酸基が縮合して生成した高分子量のオキソ酸を指す。ポリ酸には、中心イオンが1種のイソポリ酸と、2種又はそれ以上のヘテロポリ酸があるが、本発明にはどちらも好適に使用することができる。中心イオンとしては3族~6族の元素、特にB、Si、P、S、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等の元素のイオンが挙げられる。ポリ酸はポリオキソメタレートとも呼ばれる。好ましいポリ酸としては、イソポリタングステン酸、イソポリモリブデン酸、ヘテロポリタングステン酸、ヘテロポリモリブデン酸が挙げられる。ヘテロポリタングステン酸の典型例としてはケイ酸タングステン等が挙げられ、ヘテロポリモリブデン酸の典型例としてはモリブドリン酸等が挙げられる。

【0016】
本発明で用いられる「水性媒体」とは水または水と他の水溶性有機溶媒(例えばエタノール)との混合溶媒を指し、好ましくは水である。

【0017】
本発明の方法ではセルロース系物質とポリ酸と水性媒体とを含む混合物にマイクロ波が照射される。セルロース系物質、ポリ酸、水性媒体の配合比率は特に限定されないが、典型的には、セルロース系物質100質量部に対して、ポリ酸は50~5000質量部、好ましくは50~3500質量部、典型的には50~500質量部混合され、水性媒体は50~500質量部混合される。

【0018】
上記混合物中のポリ酸の濃度は好ましくは1.0×10-4~1.0 mol/l、より好ましくは1.0×10-3~1.0×10-1 mol/lである。ポリ酸の濃度がこの範囲である場合に、セルロースからグルコースへの転化の効率が高くなるため好ましい。

【0019】
本発明では通常のマイクロ波加熱装置を用いて前記混合物にマイクロ波照射を行う。照射されるマイクロ波の周波数は特に限定されず、例えば915~2,450MHzの周波数帯のマイクロ波を用いることができる。照射方法も限定されず、連続照射であってもよいしパルス照射であってもよい。

【0020】
マイクロ波照射の際、前記混合物は、マイクロ波加熱耐性のある容器に収容される。当該容器を開放した状態でマイクロ波照射をしてもよいし、当該容器を密閉した状態でマイクロ波照射をしてもよい。

【0021】
マイクロ波照射の時間は、マイクロ波の出力に応じて適宜決定することができる。例えば出力500 W~700 Wのマイクロ波を照射する場合、5~20分間のマイクロ波照射を行う。マイクロ波照射が開放系で実施される場合、水性媒体が加熱により蒸発し乾燥するまで照射を行うことができる。

【0022】
本発明の第一の実施形態は、前記混合物へのマイクロ波照射によりセルロース系物質を分解する方法である。セルロース系物質は分解され、低分子量化されたセルロースや、グルコース、レボグルコサン、フルフラール等のセルロース誘導体や、他の糖類を生じる。こうして得られたセルロース系物質の分解物は種々の用途に用いることができる。例えばセルロース系物質の分解物を直接燃焼させることにより燃料として利用することができる。また、微生物を利用した燃料電池や低温作動型の燃料電池の燃料としても供し得る。

【0023】
本発明の第二の実施形態は、前記混合物へのマイクロ波照射によりセルロース誘導体を製造する方法である。セルロース誘導体としてはグルコース、レボグルコサン、フルフラール等が挙げられる。生じたセルロース誘導体は必要に応じて分離し精製することにより利用することができる。

【0024】
製造されるセルロース誘導体はグルコースであることが特に好ましい。グルコースを製造する方法は、以下の条件で行われることが好ましい。前記混合物中での反応開始時のポリ酸の濃度は好ましくは1.0×10-4~1.0 mol/l、より好ましくは1.0×10-3~1.0×10-1 mol/lであり、セルロース濃度は好ましくは100~5000 mg/lである。マイクロ波照射時間は好ましくは2.5~20分間、より好ましくは3~20分間である。この条件での処理により、出発原料であるセルロース系物質からグルコースを良好な転化率で得ることができる。ただし、セルロース誘導体を製造する場合のマイクロ波照射時間は、共存するセルロースとポリ酸の量及び性質に大きく依存するため、この時間内に限定されるものではない。

【0025】
本発明の第三の実施形態は、セルロース系物質を上記手順により分解して分解物を得る前処理工程と、前処理工程により得られた分解物を原料として用いて酵素糖化を行う酵素糖化工程とを含む、セルロース系物質の酵素糖化方法である。セルロース系物質がセルロース含有バイオマスである場合には、前処理工程において、セルロースが分解されるとともに、リグニン、ヘミセルロース等の共存物質が分解され、糖化酵素の作用に適した形態となる。酵素糖化工程では、前処理工程で得られた分解物に、セルラーゼ等の糖化酵素を作用させ、所望の糖類を生成することができる。
【実施例】
【0026】
実施例1
水10mLに10mgのケイ酸タングステン(ポリ酸)(Alfa Aesar Tungstosilicicacid hydrate (H4SiO4・12WO3・xH2O), Reagent Grade)を溶解し(ケイ酸タングステン濃度:2.99×10-4 mol/l)、10mgのセルロース(Nacalai Tesque (code 07748-75))を分散させた。この分散溶液を家庭用の電子レンジで3~20分間マイクロ波照射(2450 MHz, 500W)した。
【実施例】
【0027】
比較のために、ポリ酸が添加されていない以外は同様の条件でセルロース分散液を調製し、マイクロ波照射した。
【実施例】
【0028】
図1(a)は、セルロースを水に分散させた状態を示す。図1(b)はポリ酸共存下でマイクロ波を照射した後の状態写真を示す。マイクロ波照射後は水の蒸発とともに黒色粉末が残存していることが観察された。
【実施例】
【0029】
X線回折による評価
(a)セルロース、(b)ポリ酸不存在条件で20分間マイクロ波照射したセルロース、(c)ポリ酸共存下で20分間マイクロ波照射したセルロース、(d)ポリ酸共存下で20分間マイクロ波照射したセルロースを水で洗浄したもの、それぞれについてX線回折図を得た。結果を図2に示す。
【実施例】
【0030】
セルロース結晶に由来するピーク (図2(a)) は、マイクロ波照射だけではほとんど変化しない (図2(b)) が、ポリ酸を共存させると図2(c)のようにセルロース結晶に由来するピークが大幅に低下し、結晶性が低下することが分かる。また、セルロースの結晶性の低下とともに、d=10~12Åに新たなピークが出現しているのが観察される。このピークは、残存ポリ酸およびセルロース誘導体に起因する。ただし、これらは可溶性であり、水で洗浄すると図2(d)のようにピークが消滅する。また、図2(d)のようにセルロース結晶に由来するピークが再度見られることから、共存させるポリ酸の量が少ない場合、すなわちポリ酸濃度が低い場合にはセルロースは完全に分解されているわけではなく少量は残存していると考えられる。
【実施例】
【0031】
赤外吸収スペクトルによる評価
更に、(a)セルロース、(b)ポリ酸不存在条件で20分間マイクロ波照射したセルロース、(c)ポリ酸共存下で20分間マイクロ波照射したセルロース、(d)ポリ酸、それぞれについて赤外吸収(IR)スペクトルを得た。結果を図3に示す。
【実施例】
【0032】
マイクロ波を照射しただけでは、アルコール性水酸基(-OH基)に関与する3000~3600 cm-1のピークが少しだけシャープになる以外に赤外吸収特性にほとんど変化がない (図3(b))。一方、ポリ酸を共存させてマイクロ波照射を行うと、3000~3600 cm-1のピークに大きな変化が現れ、セルロース結晶のもとになっている水素結合に大きな変化が起こっていることがわかる(図3(c))。また、セルロース分子間の水素結合に関与するC-H伸縮振動由来の2902 cm-1のピーク強度、C-O-Cグリコシド結合に由来するとされている1163 cm-1とグルコース環に関与するとされている1112 cm-1も低下していることが観察された。IRデータからもセルロース結晶に大きな変化が生じていることが確認された。
【実施例】
【0033】
セルロース分解による糖の生成
ポリ酸共存下でマイクロ波照射したセルロース分散溶液中の糖濃度を経時的に分析した。糖濃度(水溶性糖と還元糖)の測定は、一般的な測定法であるフェノール硫酸法とソモギネルソン法によって行った。
【実施例】
【0034】
結果を図4に示す。マイクロ波照射によりセルロースが分解し、糖が生成することが確認された。セルロースの水溶性糖への転化率は、10分間マイクロ波照射を行った時点で最大となり、約20%であった。図4に示されるとおり、全糖量に対して還元糖の量が少ない(例えば、10分間マイクロ波照射を行った時点で、水溶性糖の10%程度が還元糖であり、90%程度が還元性を有していない糖であった)。これは、後述するとおり、セルロース誘導体である生成糖の還元末端が固定化されているレボグルコサンなどが多く含まれるためである。
【実施例】
【0035】
更に、セルロース分散溶液に10分間マイクロ波照射を行って得られた生成物をガスクロマトグラフィー分析に供した。測定用サンプルは、マイクロ波照射後の黒色粉末に10mLの水を加え、そこから3μlの上澄み液を取り出して用いた。DB-WAXキャピラリーカラムでヘリウムをキャリアーガスに用い、カラム温度は60℃~245℃までは、10℃/minで昇温し、その後245℃で一定に保った。インジェクターおよびディテクターの温度は300℃とした。
【実施例】
【0036】
結果を図5に示す。主生成物は、フルフラールとレボグルコサンであることが確認された。これらはどちらも化学製品の製造原料や各種薬品に用いることができる有用な物質である。
【実施例】
【0037】
実施例2
水90mLに200mgのケイ酸タングステン(ポリ酸)(Alfa Aesar Tungstosilicicacid hydrate (H4SiO4・12WO3・xH2O), Reagent Grade)を溶解し、100mgのセルロース(Nacalai Tesque (code 07748-75))を分散させた。この分散溶液を家庭用の電子レンジで10分間マイクロ波照射(2450 MHz, 500 W)して黒色粉体を得た。
【実施例】
【0038】
X線回折による評価からセルロース結晶に由来するピークの強度が大幅に低下し、6%の転化率でセルロースが糖に転化された。また、この糖には10%程度の還元糖と還元性を持っていない糖が90%含まれていた。主生成物は、フルフラールとレボグルコサンであった。
【実施例】
【0039】
実施例3
ビーカーに10-2 mol/l、10-3 mol/lおよび2.99×10-4 mol/l のケイ酸タングステン水溶液10 mlをそれぞれ調製し、それぞれに10mgのセルロースを分散させた。得られた混合物を市販の電子レンジに設置し、マイクロ波を照射した。ケイ酸タングステン濃度以外の条件、使用装置等は実施例1と同じである。2.99×10-4mol/l のケイ酸タングステン水溶液を用いた処理は、実施例1での処理に相当する。
【実施例】
【0040】
照射後の試料をろ過して残留物を取り除いた後、フェノール硫酸法により各照射時間の試料中の水溶性糖の濃度を求めた。反応開始時の系中にセルロースは1000mg/l存在する。このため、照射処理後の試料中の水溶性糖濃度が Y mg/lである場合、セルロースから水溶性糖への転化率は 100 x Y/1000 (%)の算式から算出することができる。
【実施例】
【0041】
結果を図6に示す。実施例1に相当する、2.99×10-4mol/l のケイ酸タングステン水溶液を用いた条件ではセルロースの水溶性糖への転化率が最大でも約20%であったが、10-2 mol/lのケイ酸タングステン水溶液を用い、3分間照射した場合、セルロースの水溶性糖への転化率が約94%に高まることを見出した。すなわち、ケイ酸タングステンの濃度を調節することにより、セルロースの水溶性糖への転化率を90%以上にまで高められることが確認された。
【実施例】
【0042】
実施例4
10-2 mol/lのケイ酸タングステン(Alfa Aesar Tungstosilicicacid hydrate (H4SiO4・12WO3・xH2O), Reagent Grade)水溶液100 mlに100 mgのセルロース(Nacalai Tesque (code 07748-75))を分散させ、市販の電子レンジに設置し、11.5分間マイクロ波(2450 MHz, 500W)を照射した。得られた生成物(残渣)に100 mLになるように精製水を加えて残渣を溶解させた。得られた試料を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)分析に供した。
【実施例】
【0043】
高速液体クロマトグラフ分析には、島津製作所製Prominenceを用い、カラムにナカライテスク製COSMOSIL Sugar-Dを用いた。移動相はアセトニトリル:水=75:25の混合溶液、流速は1.0 mL/min、温度30℃検出器にはRI(示差屈折率)検出器を用いた。
【実施例】
【0044】
比較のために、フルクトースとグルコースの混合水溶液を標準試料として同様のHPLC分析を行った。
結果を図7に示す。上記条件によるセルロースのマイクロ波照射処理により、グルコースが分解物として選択的に生じることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、以上の実施例に加え、多岐にわたる実験例を積み重ね、得られたデータを整理した結果、ポリ酸を共存させて水とセルロースが存在する条件でマイクロ波照射を行えば、セルロースが分解して糖を生成し、その生成物にはグルコース、フルフラール、レボグルコサン等が含まれることを立証した。
【0046】
本発明は、ポリ酸を共存させることで非常に簡便にセルロースの分解を促進し、分解と同時に糖を生成することに成功したものであり、その意義は極めて大であると確信する。本方法に関する具体的データ等の開示、及びこれに関漣して誘導される新たな技術的可能性、発展性等の研究開発は、今後の研究に待つところ大であり、委ねられているものであるが、天然に存在するバイオマスの有効利用において優れた作用効果を奏しうることの可能性は極めて甚大である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6