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明細書 :水溶性チタニア・シリカ複合体を用いた薬剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-047142 (P2014-047142A)
公開日 平成26年3月17日(2014.3.17)
発明の名称または考案の名称 水溶性チタニア・シリカ複合体を用いた薬剤
国際特許分類 A61K  33/24        (2006.01)
A61K  41/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
FI A61K 33/24
A61K 41/00
A61P 43/00 105
A61P 35/00
A61P 31/04
A61K 45/00
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2012-189311 (P2012-189311)
出願日 平成24年8月29日(2012.8.29)
発明者または考案者 【氏名】高橋 宏昌
【氏名】立花 克郎
【氏名】中野 勝之
出願人 【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080160、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 憲一郎
【識別番号】100149205、【弁理士】、【氏名又は名称】市川 泰央
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
Fターム 4C084AA11
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZB21
4C084ZB26
4C084ZB35
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA06
4C086HA21
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB35
要約 【課題】酸化チタンを水溶化した水溶性チタニア・シリカ複合体を投与し、超音波照射により抗腫瘍作用などの細胞殺傷作用を呈することができる抗腫瘍剤や殺菌剤などの薬剤を提供すること。
【解決手段】本発明に係る薬剤は、本来水に不溶性である酸化チタンを、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合からなる構造にして水溶化したチタニア・シリカ複合体を主成分とする水溶性チタニア・シリカ複合体からなっている。この水溶性チタニア・シリカ複合体からなる薬剤を、必要に応じて音響キャビテーション現象増強物質とともに投与し、特に焦点式超音波を所定時間照射することにより抗腫瘍作用などの細胞殺傷作用を呈することができる。本発明の薬剤は、非侵襲性で、副作用が少なくて有用である。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
超音波照射によって励起されて細胞殺傷作用を呈するチタニア・シリカ複合体を主成分とする水溶性チタニア・シリカ複合体からなることを特徴とする薬剤。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤であって、前記薬剤が抗腫瘍剤または殺菌剤であることを特徴とする薬剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薬剤であって、音響キャビテーション現象増強物質がさらに含まれていることを特徴とする薬剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薬剤であって、前記水溶性チタニア・シリカ複合体が、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合からなる構造を有することを特徴とする薬剤。
【請求項5】
チタニア・シリカ複合体を主成分として含有する水溶性チタニア・シリカ複合体であって、超音波を照射することによって励起されて細胞殺傷作用を呈することを特徴とする薬剤。
【請求項6】
請求項5に記載の薬剤であって、音響キャビテーション現象増強物質がさらに含まれていることを特徴とする薬剤。
【請求項7】
請求項5または6に記載の薬剤であって、前記水溶性チタニア・シリカ複合体が、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合からなる構造を有することを特徴とする薬剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の薬剤であって、前記超音波が焦点式超音波であることを特徴とする薬剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の薬剤であって、前記超音波が高密度焦点式超音波であることを特徴とする薬剤。
【請求項10】
チタニア・シリカ複合体を主成分とする水溶性チタニア・シリカ複合体からなる薬剤を投与し、超音波を照射することによってチタニア・シリカ複合体を励起させて細胞殺傷作用を発現させることを特徴とする薬剤の用途。
【請求項11】
請求項10に記載の薬剤の用途であって、音響キャビテーション現象増強物質が併用されることを特徴とする薬剤の用途。
【請求項12】
請求項10または11に記載の薬剤の用途であって、前記超音波が焦点式超音波であることを特徴する薬剤の用途。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか1項に記載の薬剤の用途であって、前記超音波が高密度焦点式超音波であることを特徴する薬剤の用途。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性チタニア・シリカ複合体を用いた薬剤に関するものである。更に詳細には、本発明は、チタニア・シリカ複合体を主成分とし、超音波照射により活性化して細胞殺傷作用を呈する抗腫瘍剤、殺菌剤などの薬剤およびこれを疾患治療に用いる用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(IV)であるチタニアは、白色の塗料、絵具、顔料などの着色料、光触媒、オフセット印刷用の感光体、触媒担体、太陽電池の素材などとして広く使用されている。
【0003】
チタニアは、フッ化水素酸、熱濃硫酸および溶融アルカリ塩には溶解するが、その他の酸、アルカリ、水および有機溶剤には溶解しない、という化学的性質を有している。また、酸化チタンはpH6前後に等電点を有しているため、酸化チタン粒子は、中性付近の水系溶媒中では凝集を生じてしまい、これを均一に分散させることは極めて難しい。そのため、酸化チタン自体を医薬品として使用することは非常に困難である。
【0004】
そこで、チタニアを高分散化し、かつ、水溶化して、医薬的用途に使用しようとする試みがなされている(特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1には、酸化チタン粒子の表面に、カルボキシル基、アミノ基、ジオール基、サリチル基、およびリン酸基から選ばれる官能基を介してのノニオン性の水溶性高分子を結合したチタニア・シリカ複合体粒子を使用している。このチタニア・シリカ複合体粒子は、超音波や紫外線の照射により細胞毒となり、癌細胞などを効率よく殺傷することができると記載されている。
【0006】
特許文献2には、水溶性高分子により水系溶媒中で分散させたチタニア・シリカ複合体粒子の酸化チタン表面に、カルボキシル基、アミノ基、ジオール基、サリチル基、およびリン酸基から選ばれる官能基を介してリンカー分子を結合させ、さらにリンカー分子を介して低原子価遷移金属を含む分子を修飾して、分散性と触媒活性を保ちながら、さらに持続的な抗腫瘍効果を付与している、と記載されている。
【0007】
しかしながら、先行技術文献には、ポリエチレングリコール結合酸化チタン(TiO2/PEG)の超音波照射による細胞に対するインビトロでの高い殺傷効果が記載されているが、インビボでの抗腫瘍効果については明らかではない。
【0008】
一方、中野勝之らにより、酸化チタン粉末からチタニア・シリカ水溶液が調製されている(特許文献3~6)。このチタニア・シリカ水溶液は、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合を有するチタニア・シリカ複合体からなる構造(チタニア・シリカ複合体)を有する光触媒を含む高分散性の水溶液である。このチタニア・シリカ複合体は、その酸化チタン構造部分が光触媒機能を、酸化ケイ素構造部分が超親水性機能を、また過酸化結合構造部分が可視光域吸収機能をそれぞれ発揮する画期的なインテリジェント光触媒として、太陽電池、家屋等の外壁や車等の外装など、便器など、大気・水質浄化システムなどにすでに応用利用されている。しかしながら、このチタニア・シリカ複合体水溶液は、医療用途への応用については一切意図されていないといえる。
【0009】
そこで、発明者は、このチタニア・シリカ複合体水溶液に着目して、チタニア・シリカ複合体について鋭意研究した結果、このチタニア・シリカ複合体水溶液に扁平上皮癌細胞株を浮遊させて、得られた細胞浮遊液に超音波を照射したところ、細胞生存率が著しく低下することを見いだして、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2008-201797号公報
【特許文献2】WO2010/016581
【特許文献3】特許第2913257号
【特許文献4】特許第3641269号
【特許文献5】特許第3642490号
【特許文献6】アメリカ特許第7175825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、超音波照射によって励起されて細胞殺傷作用を呈するチタニア・シリカ複合体を含む水溶性チタニア・シリカ複合体を主成分として含有するとともに、音響キャビテーション現象増強物質を含有していてもよい薬剤、例えば、抗腫瘍剤、殺菌剤などを提供することを課題とする。
【0012】
本発明は、その好ましい態様として、水溶性チタニア・シリカ複合体が、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合を有する構造を有している薬剤を提供することを課題としている。
【0013】
本発明は、水溶性チタニア・シリカ複合体を投与し、超音波を照射することによって、チタニア・シリカ複合体を励起して細胞殺傷作用を呈することからなる水溶性チタニア・シリカ複合体の薬剤、例えば、抗腫瘍剤、殺菌剤などとしての用途を提供することを別の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、主な形態として、超音波照射によって励起されて細胞殺傷作用を呈する水溶性チタニア・シリカ複合体を主成分として含有するとともに、音響キャビテーション現象増強物質を含有していてもよい薬剤、例えば、抗腫瘍剤、殺菌剤などを提供する。
【0015】
本発明は、その好ましい態様として、水溶性チタニア・シリカ複合体が、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合を有するチタニア・シリカ複合体からなる構造を有するとともに、水溶液、分散液またはリポソームに内包もしくは吸着された形態である薬剤を提供する。
【0016】
本発明は、別の形態として、水溶性チタニア・シリカ複合体を投与し、超音波を照射することによって、チタニア・シリカ複合体を励起して細胞殺傷作用を発現させて腫瘍などの疾患を治療することからなる水溶性チタニア・シリカ複合体の薬剤としての用途を提供する。
【0017】
本発明は、その好ましい形態として、水溶性チタニア・シリカ複合体と共に、音響キャビテーション現象増強物質を併用することからなる水溶性チタニア・シリカ複合体の薬剤としての用途を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る水溶性チタニア・シリカ複合体は、超音波照射によって、その主成分たるチタニア・シリカ複合体が、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合を有する構造を有していることから、高い親水性と、超音波による高い励起性に基づいて発揮される高い細胞殺傷性と抗腫瘍性を示すことができる抗腫瘍剤、殺菌剤などの薬剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】チタニウム濃度別のチタニア・シリカ複合体水溶液添加直後の照射による細胞生存率(%)を示す棒グラフである。
【図2】チタニウム濃度別のチタニア・シリカ複合体水溶液添加後30分間培養後の照射による細胞生存率(%)を示す棒グラフである。
【図3】異なる電圧によるHIFU照射時間別ならびにチタニア・シリカ複合体水溶液濃度別の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示す棒グラフである。
【図4】濃度5μlのチタニア・シリカ複合体水溶液に対する異なる電圧によるHIFU照射時間別の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示す棒グラフである。
【図5】濃度15μlのチタニア・シリカ複合体水溶液に対する異なる電圧によるHIFU照射時間別の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示す棒グラフである。
【図6】濃度30μlのチタニア・シリカ複合体水溶液に対する異なる電圧によるHIFU照射時間別の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示す棒グラフである。
【図7】チタニア・シリカ複合体水溶液濃度を変えて、異なる電圧下で0.1秒間HIFU照射をした場合の細胞生存率を示す棒グラフである。
【図8】チタニア・シリカ複合体水溶液濃度を変えて、異なる電圧下で1秒間HIFU照射をした場合の細胞生存率を示す棒グラフである。
【図9】チタニア・シリカ複合体水溶液濃度を変えて、異なる電圧下で3秒間HIFU照射をした場合の細胞生存率を示す棒グラフである。
【図10】実施例2に係るプロトコルの概要を示した説明図である。
【図11】「凛光」だけで腫瘍を処理した場合に褐色粒子が観察されたことを示すヘマトキシリンとエオシン(HE)染色光学顕微鏡図である。
【図12】「凛光」とHIFEで腫瘍を処理した場合に褐色粒子が観察されたことを示すヘマトキシリンとエオシン(HE)染色光学顕微鏡図である。
【図13】「凛光」で腫瘍を処理しなかった場合(コントロール)に褐色粒子が観察されてないことを示すヘマトキシリンとエオシン(HE)染色光学顕微鏡図である。
【図14】HIFUだけで腫瘍を処理した場合に褐色粒子が観察されてないことを示すヘマトキシリンとエオシン(HE)染色光学顕微鏡図である。
【図15】「凛光」とHIFEで腫瘍を処理した場合にだけ細胞質内に褐色粒子が観察されたことを示すヘマトキシリンとエオシン(HE)染色光学顕微鏡図である。
【図16】「凛光」とHIFEで腫瘍を処理した場合に、出血が観察されたことを示すヘマトキシリンとエオシン(HE)染色光学顕微鏡図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る薬剤は、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合を有する構造からなる水溶性チタニア・シリカ複合体を主成分とする薬剤であって、超音波照射によりチタニア・シリカ複合体が励起して、抗腫瘍作用などの強い細胞殺傷作用を呈することができる薬剤である。

【0021】
なお、本明細書において使用する用語「水溶性チタニア・シリカ複合体」ならびにこの関連用語とは、チタニア・シリカ複合体粒子自体を例えば化学修飾して水溶化したチタニア・シリカ複合体であっても、またはチタニア・シリカ複合体粒子自体が媒体などを介在させて水溶化したチタニア・シリカ複合体であっても、さらには用途によってはチタニア・シリカ複合体粒子が分散された分散液であってもよい。

【0022】
本発明に使用する水溶性チタニア・シリカ複合体のうち、チタニア・シリカ複合体水溶液は、前述の特許文献3~6に記載された方法に従って製造することができる。簡潔に説明すると、まず、チタニアを過酸化水素溶液に溶解してアモルファスチタニアのゲル体を生成し、得られたゲル体と過酸化水素水溶液とを混合してアモルファスチタニアをゾル化した後、このゾル化アモルファスチタニアにアルカリ溶液でpH2~10に調整してチタニア溶液を調製し、得られたチタニア溶液にシリカを添加することによって、調製することができる。

【0023】
また、前述した水溶性チタニア・シリカ複合体のうち、チタニア・シリカ複合体粒子自体が媒体などを介在させて水溶化したチタニア・シリカ複合体としては、例えば、チタニア・シリカ複合体粒子がリポソームなどに内包または吸着された形態であるチタニア・シリカ複合体などが挙げられる。

【0024】
かかるリポソームとしては、例えば、内部に、酸素、窒素、二酸化炭素、キセノン、クリプトン、アルゴン、ハイドロフルオロカーボン類およびパーフルオロカーボン類から選ばれる少なくとも1種の気体を含有するとともに、チタニア・シリカ複合体微粒子を内包または吸着させたリポソームであって、前記気体の含有容量(μL)(A)と、前記金属酸化物微粒子の質量(mg)(B)との比(B/A)が、0.01~5であり、体積平均分散粒径が、20nm~20μmであるリポソームが好ましい(特開2011-57592)。したがつて、かかるリポソームは、常法に従って、例えば、特開2011-57592に記載の方法に従って製造することができる。

【0025】
さらに、前述した水溶性チタニア・シリカ複合体のうち、チタニア・シリカ複合体の分散液としては、例えば、TIP等のチタンテトラアルコキシドと、アルコールと、このTIPに対して過剰量の水と、を混合してアナタースチタニア・シリカ複合体またはアモルファスチタニア・シリカ複合体を生成し、このアナタースチタニア・シリカ複合体またはアモルファスチタニア・シリカ複合体を過酸化水素水に溶解させてアナタースチタニア・シリカ複合体またはアモルファスチタニア・シリカ複合体からなる構成の分散液であってもよい(特開2005-187313)。したがつて、かかるリポソームは、常法に従って、例えば、特開2005-187313に記載の方法に従って製造することができる。

【0026】
本発明において使用できる酸化チタンとしては、アナターゼ型酸化チタンまたはルチル型酸化チタンであるのが好ましい。本発明のように超音波や紫外線の照射による触媒活性を利用する場合には、アナターゼ型酸化チタンが好ましいが、これに限定されるわけではない。

【0027】
また、本発明に用いる水溶性チタニア・シリカ複合体粒子の粒子径は、約20~300nm、好ましくは約30~200nmであり、より好ましくは約50~150nmであるのがよい。チタニア・シリカ複合体が、この粒径範囲であると、癌組織に効率的に到達して蓄積されるという利点がある。

【0028】
本発明によれば、チタニア・シリカ複合体粒子は、溶媒に溶解された水溶液または分散された分散液の形態であるのが好ましい。溶媒としては、水系溶媒であるのが好ましく、例えば、pH緩衝液または生理食塩水などが挙げられる。水系溶媒の好ましい塩濃度は、例えば、2M以下であり、体内投与における安全性の観点からすれば、200mM以下がより好ましい。さらに、水溶液または分散液の液性は、特に限定されないが、pH3~10の広範囲にわたって高い分散性を実現可能である。しかし、体内投与における安全性の観点からすれば、水溶液または分散液の液性は、pH5~9であるのがよく、好ましくは5~8、より好ましくは中性の液性を有するのがよい。また、チタニア・シリカ複合体粒子の量は、媒体に対して、0.001~1質量%以下含有されることが好ましく、より好ましくは0.001~0.1質量%であるのがよい。

【0029】
本発明の水溶性チタニア・シリカ複合体は、経口投与または点滴、注射、塗布等の種々の投与方法により、患者の体内に投与することができるが、静脈または皮下による投与経路で用いるのが好ましい。特に、超音波を使用する関係上、治療対象部位に超音波を直接照射するのが好ましいことから、投与形態としては、皮下投与による患部への直接投与がより好ましい。投与量は、投与対象者の病態、身体的状況などによって適宜変更されるが、例えば、一般的には約1μl/kg~100μl/kg、好ましくは約5μl/kg~50μl/kg、より好ましくは約10μl/kg~30μl/kgであるのがよい。また、本発明の水溶性チタニア・シリカ複合体は、通常使用されている抗腫瘍剤、殺菌剤などの薬剤と併用することも可能である。

【0030】
さらに、本発明においては、水溶性チタニア・シリカ複合体とともに、低出力超音波で音響キャビテーション現象を惹起するガス封入バブル(気泡)、例えばマイクロバブルまたはナノバブルである音響キャビテーション現象増強物質を併用するのが好ましい。かかる音響キャビテーション現象増強物質としては、例えば、ソナゾイド(sonazoidTM)、レボビスト(levovistTM)またはオプチゾン(optizonTM)などが挙げられる。

【0031】
本発明に使用するチタニア・シリカ複合体は、超音波照射により細胞毒としての細胞殺傷作用を呈することができる。つまり、本発明のチタニア・シリカ複合体粒子が体内に投与されると、超音波照射により励起されて細胞毒となり、癌細胞や細菌細胞などを殺傷することができる。したがって、本発明のチタニア・シリカ複合体粒子の投与に当たっては、チタニア・シリカ複合体粒子が、殺傷したい細胞以外の正常細胞をも殺傷する可能性をできるだけ減少させるために、上述したように、殺傷したい細胞からなる細胞組織などに集中して蓄積するような投与経路を選択するのがよい。

【0032】
本発明においては、体内に投与されたチタニア・シリカ複合体粒子が蓄積している細胞組織に対して超音波処理が行われる。超音波の形式として、超音波を細胞組織に集中して照射できるように、焦点式超音波を用いるのが好ましいが、分散式の超音波も場合によっては使用可能である。また、焦点式超音波としては、例えば、高密度焦点式超音波(HIFU)が特に好ましい。

【0033】
本発明に使用する超音波の周波数は、例えば、一般的には400kHz~20MHz、好ましくは600kHz~10MHz、より好ましくは1MHz~10MHzであるのがよい。また、照射する超音波のパワーは、おおよそ1W/cm~2000W/cmの範囲内とすることができる。このようなパワーを有する超音波は、その出力装置によって異なるものの、印加電圧と超音波パワーとの関係において、30Vにおける超音波パワーが100W/cm、60Vにおける超音波パワーが200W/cmのように比例して出力する装置によれば、例えば、超音波照射時の電圧を、約40V~100V、好ましくは約50V~80V、より好ましくは約50V~70Vとすることもできる。そして、超音波の照射時間は、治療対象である癌組織の位置および大きさなどを考慮して適宜決定されるべきであり、特に限定されるものではないが、例えば、一般的には約0.5秒~10秒間、好ましくは約1秒~5秒間、さらに好ましくは約2秒~5秒間であるのがよい。

【0034】
上述したように、本発明に従ってチタニア・シリカ複合体を細胞組織などに超音波を照射することにより高い効率で細胞を殺傷して、高い治療効果を実現することができる。超音波は生体の外部から生体内の深部にまで到達することが可能であることから、超音波を照射することにより、非侵襲の状態で生体内深部に存在するような患部やターゲット部位にまで到達させることが可能である。したがって、本発明のチタニア・シリカ複合体をかかる深部に存在する細胞組織の患部やターゲット部位に蓄積させ、超音波照射することによって、かかる深部に存在する組織までも治療が実現できることになる。さらに、本発明では、本発明のチタニア・シリカ複合体を細胞の患部やターゲット部位に集積させることにより、周辺の正常細胞に悪影響を及ぼさない程度の微弱な超音波を照射して、かかる患部などの局所のみに作用させることができ、極めて有用である。

【0035】
本発明においては、体内に投与されて組織に蓄積されたチタニア・シリカ複合体粒子に対して、特に焦点式超音波での処理が行われるのが好ましい。したがって、本発明の処理対象となる細胞としては、例えば、固形癌細胞、感染症の起因細菌細胞などであるのが好ましい。しかしながら、本発明においては、体外から超音波を照射する関係上、固形癌であれば、内臓などの皮膚表面から離れた臓器の腫瘍などではなく、患部が皮膚表面や皮膚表面の近い箇所にある固形癌、例えば、皮膚癌、舌癌、乳癌などが挙げられる。また、本発明の薬剤としては、上記抗腫瘍剤の他に、本発明のチタニア・シリカ複合体粒子の有する細胞殺傷作用を利用して、口腔内カンジダ症、水虫など感染症にも有効な殺菌剤などにも使用することができる。

【0036】
以下、腫瘍細胞を対象とした実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、下記実施例により一切限定されるものではなく、また実施例は、本発明を一切限定する意図で記載されるものではない。したがって、実施例より派生するあらゆる変法は、本発明の概念に包含されるものであれば、本発明の範囲に当然のことながら含まれるものと解釈できる。
【実施例1】
【0037】
培養細胞:
本実施例では、JCRBバンクから供与された高分化型口腔扁平上皮癌細胞株(HSC-2)を用いた。10%の牛胎児血清を加えたMEM培地(Eagle’s社)にてインキュベーター内(37℃、5%CO2)で継代培養した。2×106 cells/mlの細胞懸濁液として調整した。
【実施例1】
【0038】
試薬:
Tiのアルコキシド(有機チタン化合物)とSiのアルコキシド(有機ケイ素化合物)の加水分解で生成する分子結合チタニアシリカ(-Ti-O-Si-の結合を有する)に過酸化結合(ペルオキソ基)を導入した光触媒である「凛光(商品名)」(R-A-TS アスタースチタニアシリカおよびR-P-TS ペルオキソチタニアシリカ)を用いた。
【実施例1】
【0039】
超音波照射:
超音波照射装置は、Sono Pore K-TAC4000(NEPAGENE社)を使用した。超音波照射条件は、Frequency: 3.5 MHz,Intensity: 4W、8W、12W、16W、Voltage: 30V、40V、50V、60V、Burst Rate: 100 Hz、Duty factor: 50%、Duration: 0.1 sec、1 sec、3 secとした。なお、電圧に対応する超音波強度は、30Vのとき約100W/cm2、40Vのとき約133W/cm2、50Vのとき約166W/cm2、60Vのとき約200W/cm2である。また、HIFU(高密度焦点式超音波)を実験に用いた。トランスデューサーはSonitron HIFU 5000(NEPAGENE社)を用いた。HIFUはプローブの焦点距離である50 mm下から細胞に照射した。
【実施例1】
【0040】
実験手順:
「凛光」(R-A-TS:アスタースチタニアシリカおよびR-P-TS:ペルオキソチタニアシリカ)それぞれの細胞毒性を調査するため、HSC-2を2×106cells/mlの細胞懸濁液として調整し、R-A-TSおよびR-P-TSの0、5、10、15、20、25、50μlにそれぞれ細胞懸濁液を加え、総量を1mlとした。試薬に暴露された直後および30分間培養した後のCell viabilityをトリパンブルー色素排除試験法で評価した。
【実施例1】
【0041】
24ウエルプレート(底がフィルムになっている)の各ウエルに試薬を滴下し、細胞懸濁液を加え合計500μlとなるようにした。超音波照射した直後に、細胞生存率をセルカウンター(NucleoCounter, Chemometec, Allerod, Denmark)で計測した。
【実施例1】
【0042】
実験グループ:
超音波の条件は、Voltage: 30V、40V、50V、60VならびにDuration: 0.1 sec、1 sec、 3secの12通りで、試薬の濃度は、試薬0μl(コントロール)、試薬5μl、15μlならびに30μlの4通りとした。すなわち48グループでそれぞれ3回実験を行った。
【実施例1】
【0043】
図1および図2は、チタニウム濃度(μl/ml)別のチタニア・シリカ複合体水溶液添加直後および添加後30分間培養後のHIFU照射による細胞生存率(%)(トリパンブルーテスト)をそれぞれ示している。図中、左側の棒グラフは、TitaniumR-A-TSを示し、右側の棒グラフは、TitaniumR-P-TSを示す。
【実施例1】
【0044】
図1および図2の結果から、細胞生存率は、TitaniumR-A-TSの場合、チタニウム濃度が5~50μl/mlの範囲でほぼ95%であったのに対して、TitaniumR-P-TSの場合、チタニウム濃度が50μl/mlでほぼ80%であった。この結果から、TitaniumR-P-TSを使用する場合、そのチタニウム濃度がほぼ30μl/ml以上あるのが好ましい。
【実施例1】
【0045】
図3は、異なる電圧によるHIFU照射時間別ならびにチタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)濃度別の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した。図中、各秒における4本の棒グラフのうち、最左側は30V、左から2番目は40V、左から3番目は50V、最右側は60Vを示している。
【実施例1】
【0046】
図4は、濃度5μl/mlのチタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)に対する電圧を30V~60Vに、またHIFU照射時間を0.1秒、1秒、3秒と変えた場合の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示している。この結果から、電圧が30Vならびに40Vの場合には、HIFU照射時間を変えても、細胞生存率はほとんど変化しなかった。電圧が50Vである場合、HIFU照射時間が1秒ならびに3秒であるときに、細胞生存率が約97%~95%に減少し、電圧が60Vである場合、細胞生存率が約96%~93%に減少した。
【実施例1】
【0047】
図5は、濃度15μl/mlのチタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)に対する電圧を30V~60Vに、またHIFU照射時間を0.1秒、1秒、3秒と変えた場合の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示している。この結果から、電圧が30Vである場合、HIFU照射時間を変えても細胞生存率はほとんど変化しなかった。電圧が40Vの場合、HIFU照射時間を1秒または3秒に変えたとき、細胞生存率が約90%~85%に減少した。また電圧が50Vである場合、HIFU照射時間を0.1秒、1秒、3秒と変えた場合、細胞生存率が>90%、85%、>70%に減少した。電圧が60Vである場合、HIFU照射時間を0.1秒、1秒、3秒と変えた場合、細胞生存率が約90%、75%、60%に減少した。
【実施例1】
【0048】
図6は、濃度30μl/mlのチタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)に対する電圧を30V~60Vに、またHIFU照射時間を0.1秒、1秒、3秒と変えた場合の細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示している。この結果から、電圧が30Vおよび40Vである場合、HIFU照射時間を変えても細胞生存率はほとんど変化しなかった。電圧が50Vの場合、HIFU照射時間を1秒または3秒に変えたとき、細胞生存率が約97%~96%に減少した。また電圧が60Vである場合、HIFU照射時間を1秒および3秒に変えた場合、細胞生存率が約96%および93%に減少した。
【実施例1】
【0049】
図7は、HIFU照射時間を0.1秒とした場合における細胞生存率(%)をPI染色法で計測した結果を示しており、チタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)の濃度を5~30μl/mlに変化させると共に、同チタニア・シリカ複合体水溶液に対する電圧を30V~60Vに変化させている。この結果から、電圧が30Vおよび40Vである場合、チタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)の濃度を変えても細胞生存率はほとんど変化しなかった。電圧が50Vの場合、チタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)の濃度を15μl/mlまたは30μl/mlに変えたとき、細胞生存率が約95%~87%に減少した。また電圧が60Vである場合、チタニア・シリカ複合体水溶液(TitaniumR-A-TS)の濃度を15μl/mlまたは30μl/mlに変えたとき、細胞生存率が約90%および83%に減少した。
【実施例1】
【0050】
図8は、チタニア・シリカ複合体水溶液濃度(TitaniumR-A-TS)を変えて、異なる電圧下で1秒間HIFU照射をした場合の細胞生存率を示している。チタニア・シリカ複合体水溶液濃度が5μl/mlの場合、電圧が30V~60Vであっても、細胞生存率はコントロールとほとんど変わらなかった。チタニア・シリカ複合体水溶液濃度が15μl/mlの場合、電圧が30Vならびに40Vであるときの細胞生存率はコントロールとほとんど変わらなかった。電圧が50Vであるときの細胞生存率は約87%、電圧が60Vであるときの細胞生存率は約73%であった。チタニア・シリカ複合体水溶液濃度が30μl/mlの場合、電圧が40Vであるときの細胞生存率は約90%、電圧が50Vであるときの細胞生存率は約75%、電圧が60Vであるときの細胞生存率は約63%であった。
【実施例1】
【0051】
図9は、チタニア・シリカ複合体水溶液濃度(TitaniumR-A-TS)を変えて、異なる電圧下で3秒間HIFU照射をした場合の細胞生存率を示している。チタニア・シリカ複合体水溶液濃度が5μl/mlの場合、電圧が30V~60Vであっても、細胞生存率はコントロールとほとんど変わらなかった。チタニア・シリカ複合体水溶液濃度が15μl/mlの場合、電圧30Vのとき細胞生存率はコントロールとほとんど変わらなかった。電圧が40Vのときの細胞生存率は約85%、50Vのとき約75%、60Vのとき約60%であった。チタニア・シリカ複合体水溶液濃度が30μl/mlの場合、電圧30Vのとき細胞生存率はコントロールとほとんど変わらなかったが、電圧が40Vのときの細胞生存率は約80%、50Vのとき約60%、60Vのとき約40%であった。
【実施例1】
【0052】
特に図9に示す結果から、本発明によれば、チタニア・シリカ複合体水溶液の濃度は約15μl/ml以上、より好ましくは約30μl/ml以上であるのがよい。また、HIFU照射時間にしても、約1秒以上、より好ましくは3秒以上であるのが好ましい。さらに、HIFU照射の際の電圧は50V以上、より好ましくは60V以上であるのがよい。
【実施例2】
【0053】
7~8週齢Balb/cヌードマウスを使用して口内癌に対する「凛光」(商品名)の効果を調べた(図10参照。)。7~8週齢Balb/cヌードマウスの右脇腹部にHSC-2細胞(口腔扁平上皮癌)2x10細胞(生存率98%以上;0.1PBS)を皮下注射し、細胞移植後10日経過して、腫瘍が4-5mmの大きさになったところで、実験を開始した。「凛光」(R-A-TS:TiO/SiO)10μlを腫瘍に直接注射したのち、Sono Pore K-TAC4000(NEPAGENE社)を使用して超音波(HIFU)を照射した。超音波照射条件は、Frequency: 3.5 MHz,Intensity:16W/cm2、Duty factor: 50%、Duration: 3 secとした。
【実施例2】
【0054】
マウスをジエチルエーテルで安楽死させた後、腫瘍を摘出した。摘出した腫瘍は、10%ホルムアルデヒドで固定化し、アルコールで完全に脱水し、パラフィンに包埋した後、5μm切片を調製した。この切片をヘマトキシリンとエオシン(HE)で染色し、光学顕微鏡Leica DMI 4000B (Leica, Solmer, Germany)で観察した。
【実施例2】
【0055】
光学顕微鏡によるHE染色細胞の像を図11~図16に示す。図11は「凛光」だけで腫瘍を処理した場合に褐色粒子が観察されたことを示すHE染色光学顕微鏡像であり、図12は「凛光」とHIFEで腫瘍を処理した場合に褐色粒子が観察されたことを示すヘHE染色光学顕微鏡像であり、図13は「凛光」で腫瘍を処理しなかった場合(コントロール)に褐色粒子が観察されてないことを示すHE染色光学顕微鏡像であり、図14はHIFUだけで腫瘍を処理した場合に褐色粒子が観察されてないことを示すHE染色光学顕微鏡像であり、図15は「凛光」とHIFEで腫瘍を処理した場合にだけ細胞質内に褐色粒子が観察されたことを示すHE染色光学顕微鏡像であり、図16は「凛光」とHIFEで腫瘍を処理した場合に、出血が観察されたことを示すHE染色光学顕微鏡像である。
【実施例2】
【0056】
これらの図に示すように、観察の結果、本発明に係る水溶性チタニア・シリカ複合体とHIFU処理のグループでは、興味深いことに、腫瘍内に出血とリンパ球浸潤が認められた。また、本発明に係る水溶性チタニア・シリカ複合体とHIFU処理のグループにおいて褐色細胞が細胞質内に観察されたことは、細胞中へのチタニア・シリカ複合体粒子が細胞質内への浸透が促進されていることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る水溶性チタニア・シリカ複合体は、超音波照射によって、その主成分たるチタニア・シリカ複合体が、酸化チタンと酸化ケイ素が結合した過酸化結合を有する構造を有していることから、高い親水性と、超音波による高い励起性に基づいて発揮される高い細胞殺傷性と抗腫瘍性を示している。したがって、本発明に係る水溶性チタニア・シリカ複合体は、非侵襲性であって、副作用が非常に低い抗腫瘍剤等の薬剤として有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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