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明細書 :新規な含フッ素化合物、該含フッ素化合物の重合体の製造方法並びに該含フッ素化合物の重合体からなる光学素子、機能性薄膜及びレジスト膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5618291号 (P5618291)
公開番号 特開2012-051863 (P2012-051863A)
登録日 平成26年9月26日(2014.9.26)
発行日 平成26年11月5日(2014.11.5)
公開日 平成24年3月15日(2012.3.15)
発明の名称または考案の名称 新規な含フッ素化合物、該含フッ素化合物の重合体の製造方法並びに該含フッ素化合物の重合体からなる光学素子、機能性薄膜及びレジスト膜
国際特許分類 C07C  43/192       (2006.01)
C07C  49/753       (2006.01)
G03F   7/039       (2006.01)
C08F  36/20        (2006.01)
FI C07C 43/192 CSP
C07C 49/753 B
G03F 7/039 501
C08F 36/20
請求項の数または発明の数 10
全頁数 18
出願番号 特願2010-197743 (P2010-197743)
出願日 平成22年9月3日(2010.9.3)
審査請求日 平成25年8月30日(2013.8.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
発明者または考案者 【氏名】久保田 俊夫
【氏名】岡崎 貴美子
個別代理人の代理人 【識別番号】100074631、【弁理士】、【氏名又は名称】高田 幸彦
審査官 【審査官】小久保 敦規
参考文献・文献 特開平6-72939(JP,A)
米国特許第3655765(US,A)
特開2007-314586(JP,A)
特開2004-262787(JP,A)
調査した分野 C07C 49/753
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
C08F 301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物。
【化1】
JP0005618291B2_000011t.gif
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素、炭素数1~4のアルキル基又はアリール基を示す)
【請求項2】
請求項1に記載の含フッ素化合物において、R及びRがそれぞれ独立に水素、メチル基又はフェニル基であり、R及びRが水素である含フッ素化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の含フッ素化合物のクライゼン転位反応によって得られる下記式(2)で表される構造を有する含フッ素化合物。
【化2】
JP0005618291B2_000012t.gif
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素、炭素数1~4のアルキル基又はアリール基を示す)
【請求項4】
請求項3に記載の含フッ素化合物において、R及びRがそれぞれ独立に水素、メチル基又はフェニル基であり、R及びRが水素である含フッ素化合物。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の含フッ素化合物を、単独でラジカル重合又は他のラジカル重合可能なモノマーとラジカル共重合して得られる前記含フッ素化合物の重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって製造される含フッ素化合物の重合体からなる光学素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子が保護膜、低反射膜又は撥水性膜であることを特徴とする含フッ素化合物の重合体からなる光学素子。
【請求項8】
請求項6に記載の光学素子がレンズ、プリズム、導光板、光導波路又は光ファイバであることを特徴とする含フッ素化合物の重合体からなる光学素子。
【請求項9】
請求項5に記載の方法によって製造される含フッ素化合物の重合体からなり、耐摩耗性又は低汚染性の塗料又は薄膜として使用される機能性薄膜。
【請求項10】
請求項5に記載の方法によって製造される含フッ素化合物の重合体からなるリソグラフィ用のレジスト膜。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性が高く、汎用溶媒に溶解できる新規な含フッ素化合物、該含フッ素化合物の重合体の製造方法並びに該含フッ素化合物の重合体からなる光学素子、機能性薄膜及びレジスト膜に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系ポリマーの代表例であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、高耐熱性で耐薬品性に優れる樹脂として知られているが、結晶性であるため不透明であり、光学や透明性機能膜として適用することができない。主鎖に含フッ素環状構造を有する重合体、例えば、パーフルオロブテニルビニルエーテルモノマーを環化重合したポリマー(サイトップ(登録商標))やテフロン(登録商標)AFは、非晶質の透明ポリマーであり、プラスチック光ファイバーや光導波路又は低反射膜等の光学用材料として利用されているが、ガラス転移温度が低く、且つ高価な材料であるために、用途が制限されている。また、これらの含フッ素環状構造を有する重合体は溶剤可溶であるものの、使用できる溶剤が特殊なフッ素系溶媒であり、無機又は有機の基体や基板上に機能性薄膜を形成する際に、材料と製造の点でコストが高くなる傾向にある。
【0003】
特許文献1には、60乃至150℃間のガラス転移温度を有し、多数の有機溶媒中での良好な溶解特性を有する非晶性の、透明なコーテイング又は成形製品を製造するために、含フッ素環状構造を有する重合体及び該重合体を得るための含フッ素モノマー(2-アリル-パーフルオロアルキル-トリフルオロビニルエーテル)が開示されている。しかし、前記の特許文献1に開示されている含フッ素系モノマーは、合成原料である含フッ素化合物が特殊なものであり、加えて合成経路が複数であるために、材料及び製造の点で含フッ素モノマーのコストが高くなる。
【0004】
一方、オクタフルオロシクロペンテン(OFCP)はエッチングガス用として工業的に大量に生産されており容易に入手できるため、重合用モノマーとして使用すればコスト面で優位であるが、OFCPは重合性に乏しい。そのため、特許文献2と3に開示されているように他のモノマーとの共重合体が主に検討されている。しかし、特許文献2と3に開示されている共重合体は、ガラス転移温度が低く、耐熱性の点で適用範囲が制限される。
【0005】
そこで、本発明者等は、これらの課題を解決するために、透明性が高く、汎用溶媒に溶解でき、従来よりも安価な含フッ素ポリマーとして、先に、OFCPとホモアリルアルコール又はその誘導体とを反応させて得られる1,6-ジエン型エーテルをラジカル重合して製造される含フッ素重合体を提案した(特許文献4を参照)。前記の特許文献4に開示されている含フッ素重合体は、主鎖に環状構造を有し、ガラス転移温度が175℃以上であるために、高耐熱性で透明のコーテイング又は成形製品を製造するための含フッ素重合体として適用が期待されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平6-72939号公報
【特許文献2】特開2001-122928号公報
【特許文献3】特開2001-272504号公報
【特許文献4】特許第4399608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に記載されている含フッ素重合体はガラス転移温度が高いものであるが、前記の特許文献1に記載されているように透明のコーテイング又は成形製品を製造する際には、低応力化や柔軟性付与等のためにガラス転移温度として175℃未満の含フッ素重合体を求められる場合がある。特許文献4に記載されている含フッ素重合体は主鎖が環状であるために、ガラス転移温度は高いものの、逆にガラス転移温度を低くするためには大幅な構造の変更が必要である。他のモノマーとの共重合体によってガラス転移温度等の特性を調整することも可能であるが、フッ素含有量を高くしたい重合体においては、一般的に高価な含フッ素モノマーと共重合する必要がある。
【0008】
このように、従来の含フッ素重合体では、様々な特性が要求される透明のコーテイング又は成形製品の製造に対して十分に対応することができない。この要求に対応するためには、低コストで合成でき、従来の含フッ素重合体とは熱特性や機械特性が異なる新規の機能性含フッ素重合体及び該機能性含フッ素重合体を得るための含フッ素モノマー(含フッ素化合物)が不可欠である。特に、含フッ素重合体中に含まれるフッ素の含有量が高く、且つ様々な熱特性や機械特性を有する重合体を構成することができる含フッ素化合物が求められている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上述の問題点を解消するために、低コストの原料による合成が可能であり、且つフッ素含有量が多い新規な含フッ素化合物、並びに該含フッ素化合物をラジカル重合して得られ、透明性が高く、汎用溶媒に溶解できる新規な重合体の製造方法及び該含フッ素化合物の重合体からなる光学素子、機能性薄膜及びレジスト膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、含フッ素化合物の低コスト化のために、合成原料として入手が容易なオクタフルオロシクロペンテン(OFCP)を用いてその化学構造と合成方法を鋭意検討した結果、新規の含フッ素化合物を得ることができることを見出して本発明に到った。
【0011】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
(1)本発明は、下記式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物を提供する。
【化1】
JP0005618291B2_000002t.gif
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素、炭素数1~4のアルキル基又はアリール基を示す)
(2)本発明は、前記の式(1)に記載の含フッ素化合物において、R及びRがそれぞれ独立に水素、メチル基又はフェニル基であり、R及びRが水素である含フッ素化合物を提供する。
(3)本発明は、前記の式(1)に記載の含フッ素化合物のクライゼン転位反応によって得られる下記式(2)で表される構造を有する含フッ素化合物を提供する。
【化2】
JP0005618291B2_000003t.gif
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素、炭素数1~4のアルキル基又はアリール基を示す)
(4)本発明は、前記(3)に記載の含フッ素化合物において、R及びRがそれぞれ独立に水素、メチル基又はフェニル基であり、R及びRが水素である含フッ素化合物を提供する。
(5)本発明は、請求項1~4の何れかに記載の含フッ素化合物を、単独でラジカル重合又は他のラジカル重合可能なモノマーとラジカル共重合して得られる前記含フッ素化合物の重合体の製造方法を提供する。
(6)本発明は、前記(5)に記載の方法によって製造される含フッ素化合物の重合体からなる光学素子を提供する。
(7)本発明は、前記(6)に記載の光学素子が保護膜、低反射膜又は撥水性膜であることを特徴とする含フッ素化合物の重合体からなる光学素子を提供する。
(8)本発明は、前記(6)に記載の光学素子がレンズ、プリズム、導光板、光導波路又は光ファイバーであることを特徴とする含フッ素化合物の重合体からなる光学素子を提供する。
(9)本発明は、前記(5)に記載の方法によって製造される含フッ素化合物の重合体からなり、摺動性又は低汚染性の塗料又は薄膜として使用される機能性薄膜を提供する。
(10)本発明は、前記(5)に記載の方法によって製造される含フッ素化合物の重合体からなるリソグラフィ用のレジスト膜を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による新規な含フッ素化合物は、入手が容易な含フッ素化合物を用いて合成できることから安価なものとなり、その重合によって製造される含フッ素重合体は、透明性が高く、且つ汎用溶媒に可溶で優れた成形性を備えるため、コーテイング又は成形製品の製造が容易になる。
【0013】
本発明による含フッ素化合物の重合体は、汎用溶媒に可溶で優れた成形性を備えるだけでなく、フッ素含有量が多く、置換基R、R、R、Rを適切に選択することにより、所望の低屈折率性を有する光学素子を安価に提供することができる。また、本発明による該含フッ素化合物の重合体からなる塗料用薄膜又は機能性薄膜は、耐摩耗性、耐汚染性又は撥水性において優れた特性を発揮することができる。加えて、該含フッ素化合物の重合体からなるリソグラフィ用のレジスト膜は、フッ素の含有量が多いため、高感度であり高解像度のパターンを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明において得られる含フッ素化合物の合成経路である。
【図2】本発明において得られる別の含フッ素化合物のクライゼン転位反応による合成経路である。
【図3】実施例5で合成した2-アリル-2-アリルオキシ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンのGC-MSスペクトルである。
【図4】実施例5で合成した2-アリル-2-アリルオキシ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンのH-NMRスペクトルである。
【図5】実施例6で合成した2-(2-ブテニル)-2-アリルオキシ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン及び/又は1-(2-ブテニル)-1-アリルオキシ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンのGC-MSスペクトルである。
【図6】実施例11において、2-アリル-2-アリルオキシ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン及び/又は2-アリル-2-アリルオキシ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン並びにそれらの含フッ素化合物を単独ラジカル重合して得られたポリマーの赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物は、下記の(3)式で表わされる構造を有するオクタフルオロシクロペンテン
【化3】
JP0005618291B2_000004t.gif
と、下記のアリルアルコール又はその誘導体
【化4】
JP0005618291B2_000005t.gif
【化5】
JP0005618291B2_000006t.gif
(ここでR、R、R及びRは、それぞれ独立に水素、炭素数1~4のアルキル基又はアリール基を示す)
を反応させることによって得られる。

【0016】
図1に、上記の式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物の合成経路を示す。図1において、1種類のアリルアルコール又はその誘導体(上記の式(4)と(5)において、R=R及びR=R)を用いる場合は、オクタフルオロシクロペンテン1モルに対してアリルアルコール又はその誘導体を2モル以上反応させることによって、図1の2aに示す含フッ素化合物の合成を行う(図1の合成経路1)。また、置換基が異なる2種類のホモアリルアルコール又はその誘導体(上記の式(4)と(5)において、R≠R及び/又はR≠R)を用いる場合は、まず、置換基RとRとを有するアリルアルコール又はその誘導体をオクタフルオロシクロペンテンとほぼ同じ当量で反応させて、その後、図1の1bで示す化合物1モルに対して置換基RとRとは異なる置換基RとRとを有するアリルアルコール又はその誘導体1モル以上を反応させることによって、図1の2bに示す含フッ素化合物の合成を行う(図1の合成経路2)。本願発明は、アリルアルコール又はその誘導体として、R、R、R及びRが、それぞれ独立に水素、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基又はフェニル基、ベンジル基やトリル基等のアリール基で置換されたものが使用されるが、原料の入手が容易で材料コストが安いこと及び重合阻害があまり無いことを考慮して、R及びRがそれぞれ独立に水素、メチル基又はフェニル基であり、R及びRが水素である化合物を使用することが好ましい。

【0017】
反応は、通常大気圧下で行われ、KOHの存在下に非溶媒で行うことが好ましい。反応時間は、図1に示す合成経路1において通常1乃至24時間である。また、図1に示す合成経路2では、前段の反応時間は通常1乃至24時間であり、後段の反応時間は通常1乃至100時間である。反応温度は-50℃~50℃の間に設定するが、好ましくは-20℃~40℃の範囲である。本発明では異なる反応温度と反応時間を用いて、1つの合成反応を2以上の複数の段階で行うことができる。その場合は、各段階において反応温度と反応時間を上記の範囲内で変えることができる。

【0018】
本発明において上記の式(2)で表される構造を有する含フッ素化合物は、図1に示す化合物2a又は2bのクライゼン(Claisen)転位反応によって合成される。図2に、この反応を示す。図2の(a)は、図1に示す化合物2aのクライゼン転位反応であり、図2の(b)は、図1に示す化合物2bのクライゼン転位反応である。クライゼン転位反応は、100℃~250℃の範囲の温度で容易に行うことができる。

【0019】
上記の式(1)で表される構造式を有する含フッ素化合物は、シクロペンテン環内に二重結合が残っており、この二重結合はラジカル重合に関与しにくい。ポリマー中にこの二重結合が残存すれば、紫外領域での光吸収が起こり、ポリマーの透明性低下を招くおそれがある。一方、上記の式(2)で表される構造を有する含フッ素化合物は、クライゼン転位反応によってシクロペンテン環の二重結合が消失するため、ラジカル重合によって透明性に優れるポリマーを得ることができる。

【0020】
上記の式(1)又は式(2)で表される構造を有するフッ素化合物はラジカル重合反応を介して、透明で、汎用溶媒に可溶な重合体が得られる。重合は、塊状、溶液、懸濁液、又は乳化液中で行うことができる。本発明においては、ポリマー中に水、界面活性剤又は分散剤の混入を防止するために、塊状又は溶液による重合反応が好ましい。

【0021】
本発明において溶液重合で仕様する重合媒体としては重合を著しく阻害するものでなければ特に限定されないが、例えば、t-ブチルアルコール、イソプロパノール、エタノール、メタノール等のアルコール系、n-ヘキサン、n-ペプタン等の飽和炭化水素系、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、トリクロロトリフルオロエタン等のフッ素系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系、等が単独で又は混合して使用される。

【0022】
重合温度は、50~150℃の範囲で行うが、重合反応を完全に行う場合は、最初の重合温度よりも高い温度で後重合を追加して行うことができる。後重合の際の温度は、80~200℃の範囲に設定する。重合時間は通常1~48時間である。重合温度を低く設定した場合には、ポリマーの分子量を高くできるものの、重合時間を長くする必要がある。

【0023】
重合開始剤としては一般的なラジカル開始剤を使用でき、例えば、過酸化ベンゾイルラウロイルパーオキシド、又はt-ブチルクミルパーオキシド等の過酸化物、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、水溶性過酸化物又は過硫酸塩等が用いられる。

【0024】
本発明において、上記の式(2)で表される含フッ素化合物の単独重合体は、ガラス転移温度が80~140℃である。しかし、本発明では、他の重合性モノマーとの共重合体によってガラス転移温度を80℃未満又は140℃を超えるように設定して調整することができる。

【0025】
また、上記の式(1)で表される含フッ素化合物についても重合体を得ることができ、その単独重合体はガラス転移温度が60~150℃である。上記の式(2)で表される含フッ素化合物の単独重合体と同じ様に、他の重合性モノマーとの共重合体によってガラス転移温度を自由に調整することができる。

【0026】
上記の式(1)又は式(2)で表される構造を有する含フッ素化合物は、1分子中に二重結合を2個有するため、重合反応において架橋構造を形成する可能性がある。架橋構造を有するポリマーは、一般的に汎用溶媒に溶解しづらいが、本発明による重合体は架橋密度が高くないために汎用溶媒に対する溶解性が高い。また、後で述べるように、重合反応時に環化反応が起こる場合があり、ポリマーの主鎖構造が環構造をエチレン基で連結した線形のものとなって汎用溶媒に対して優れた可溶性を示す。しかし、本発明の含フッ素化合物による重合体は、汎用溶媒に可溶性のポリマーに限定されない。例えば、重合条件又は共重合する際に使用する重合性モノマーの種類を検討することによって、架橋度の高い重合体をすることも可能である。それによって、汎用溶媒だけではなく、フッ素系溶剤にも溶解しない重合体を形成することができ、耐熱性及び/又は耐溶剤性を有するコーテイング又は成形製品として適用することが可能となる。

【0027】
上記の式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物は、重合後でもシクロペンテン環を有するポリマーとなり、ポリマー中に二重結合が残存する可能性がある。長期使用においても該ポリマーの透明性を維持したい場合には、ポリマー中の二重結合を消滅させるために水素化触媒を用いて水添加反応を行ったり、着色を抑制するためにフェノール化合物やアミン化合物等の抗酸化剤を配合しても良い。また、上記の式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物を重合して得られるポリマーは、重合反応時に上記の環化反応が起こりづらいため、架橋密度の高いものとなる場合がある。そのため、重合後に、水添加反応や抗酸化剤の配合を行うことによって、耐熱性及び/又は耐溶剤性の透明なコーテイング又は成形製品を得るためのポリマー組成物とすることができる。一方、上記の式(2)で表される構造を有する含フッ素化合物による重合体は、分子中に二重結合が含まれないため、長期使用においても優れた透明性を有するポリマーとなる。

【0028】
本願発明の含フッ素化合物と共重合するために使用する重合性モノマーとしては、重合性二重結合を有する化合物であり特に限定されないが、オレフィン類、ビニルエーテル類、アリルエーテル類、カルボン酸ビニル類、カルボン酸アリル等、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル等が挙げられる。本発明においては、常圧下の塊状又は溶液重合において一般的に使用されるメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル等が好適であり、例えば、メチルア(メタ)クリレート、エチルア(メタ)クリレート、プロピルア(メタ)クリレート、ヒドロキシエチルア(メタ)クリレート、ベンジルア(メタ)クリレート、フェニルア(メタ)クリレート、シクロヘキシル(メタ)クリレート、アダマンチル(メタ)クリレート等が使用される。それら以外にも、ラウリル(メタ)クリレートやオクチル(メタ)クリレート等の長鎖のアルキル基を有するア(メタ)クリレート、トリフルオロエチル(メタ)クリレートや2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)クリレート等の短鎖フルオロアルキル(メタ)クリレート又は1,1,2,2-テトラハイドロパーフルオロオクチル(メタ)クリレート等の長鎖フルオロアルキル(メタ)クリレートを使用することができる。

【0029】
次に、本発明による含フッ素化合物の重合体からなる光学素子、機能性薄膜及びレジスト膜及びそれらの作製方法について説明する。

【0030】
本発明による含フッ素化合物の重合体又はその共重合体は、透明性に優れ、低屈折率性、低汚染性及び撥水性の効果を有するフッ素元素の含有率が高いため、レンズ、プリズム、導光板、光デイスク、ミラー等の光学素子用保護膜、低反射膜又は撥水性膜として使用できる。前記の光学素子がガラス、セラミック又は金属等の無機物の場合は、本発明による含フッ素化合物の重合体を、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の汎用溶媒に所定の濃度で溶解した溶液を用いて塗布コートした後、加熱乾燥方法によって保護膜または低反射膜を成形する。また、前記の光学素子がプラスチックの場合は、あらかじめプライマー処理を行うことによって、プラスチック光学素子が前記の汎用溶媒に容易に溶解しない状態にした後に、本願発明による含フッ素化合物の重合体又はその共重合体を有する溶液で塗布コートする方法を採用する。プラスチック光学素子が架橋性の樹脂である場合には、本願発明による含フッ素化合物の重合体又はその共重合体を含有する溶液を直接、プラスチック光学上に塗布コートしても良い。

【0031】
また、本発明では、本発明による含フッ素化合物を用いて、真空蒸着法やスパッタリング法等によって光学素子基板上にプラズマ重合してコート膜を形成することができる。さらに、本発明による含フッ素化合物又は該含フッ素化合物と共重合可能な他のモノマーからなる組成物を熱重合開始剤や光重合開始剤と共にアルコール等の溶媒に溶解した後、前記の光学素子の表面上に塗布して溶媒を揮発乾燥処理した後、加熱重合又は紫外線等の光重合等を行うことによってコート膜を形成することもできる。

【0032】
本願発明による含フッ素化合物の重合体又はその共重合体は、プラスチック光学素子として使用されるレンズ、プリズム、光ファイバー又は光導波路用の材料として用いることができる。プラスチックのレンズ又はプリズムは、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂の場合と同じ様に、レンズ形状又はプリズム形状の金型を用いて射出成形又は射出圧縮成形等によって作製することができる。プラスチック光ファイバーは、コア、クラッドの2種の重合体により構成されており、本発明の含フッ素化合物の重合体又はその共重合体は、屈折率に応じてコア及び/又はクラッドの材料として使用することができる。プラスチック光ファイバーの製造は、コア材とクラッド材をそれぞれ複合紡糸機に供給して、高温でコア、クラッドを芯鞘溶融紡糸し、所定のコア径とクラッド径を有するファイバーに成形することによって得られる。光導波路は、例えば、本願発明による含フッ素化合物の重合体又はその共重合体を基板上にポジ型レジスト材としてコートしてX線や電子線等の放射線によってコアパターンを形成した後、該コアの周囲にシリコーン樹脂やパーフルオロ樹脂等の低屈折率材料をコートして得られる。

【0033】
本発明では、プラスチック光学素子を形成する際に、保護膜又は低反射膜の場合と同じ様に、本願発明による含フッ素化合物のプラズマ重合による方法を採用することができる。また、本願発明による含フッ素化合物に熱又は光による重合開始剤を混合した組成物を用いて、プラスチック光学素子の外形形状を形成した後に、熱又は光による重合を行って光学素子を作製しても良い。例えば、プラスチック光ファイバーのクラッドは、本願発明による含フッ素化合物を光重合開始剤と共に低屈折率モノマーに溶解させた組成物を用いてコアの周りに塗布した後、光重合することによって形成することができる。

【0034】
本願発明による含フッ素化合物の重合体又はその共重合体は、摺動時において摩擦係数が低くなる効果を有するフッ素元素の含有量が多いため、低摩耗性及び/又は低汚染性を有する機能性の塗料又は薄膜用の材料とすることができる。機能性の塗料又は薄膜は、上記の保護膜又は低反射膜の場合と同じ方法で作製することができる。

【0035】
ポリメチルメタクリレート等のアクリルポリマーはX線や電子線等の放射線による分解型ポリマーであるが、レジスト材として使用する場合は感度が低いのが欠点である。X線又は電子線の吸収係数の大きなフッ素含有ポリマーは高感度で解像性の高いポジ型レジストとして使用できることが知られている。本願発明の含フッ素化合物の重合体又はその共重合体は、汎用溶媒に溶解した溶液を用いてシリコンやガラス等の基板上に塗布した後、溶媒を揮発乾燥させてレジスト材として使用することができる。レジスト膜厚は、使用する溶媒の種類及びレジスト溶液の不揮発分を調整すると共に、スピンコー法やドクターブレード法等の塗布方法の最適化によって、所望の値に設定される。

【0036】
本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。

【0037】
[実施例1]
<1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンの合成>
アルゴン雰囲気下、KOH2.46g(44.0mmol)とオクタフルオロシクロペンテン(OFCP)4.24g(20.0mmol)の混合物を0℃に冷却し、アリルアルコール2.7ml(40.0mmol)をゆっくりと滴下した。そのまま0℃で1時間撹拌後、室温に戻し、4時間撹拌した。得られた反応混合物を精製水で洗浄、無水硫酸ナトリウムカラムによる乾燥後、得られた油状残渣の反応処理管による減圧蒸留(0.1kPa/浴温度90~100℃)を行った。合成物の収量は4.94g(17.2mmol)であり、収率は86%である。この合成物は、各種スペクトルによる分析の結果、次のような検出ピークを示すことから、1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(図1の2aで示される構造であって、R、R、R及びRがすべて水素である含フッ素化合物)であることが確認された。

【0038】
19F-NMR(核磁気共鳴吸収スペクトル) δ[ppm]
-55.03(2F,s)、-35.23(4F,s)
H-NMR δ[ppm] 4.72(4H,m),5、41(4H,m)、
5.97(2H,m)。
IR(赤外吸収スペクトル) [cm-1] 1685(C=C)
MS(質量スペクトル) [m/e] 288

【0039】
[実施例2]
<1,2-ビス(2-ブテニルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンの合成>
アルゴン雰囲気下、KOH1.43g(24.0mmol)とOFCP4.24g(20.0mmol)の混合物を0℃に冷却し、(CH)CH=CH-CH-OHの構造を有するクロチルアルコール2.88g(40.0mmol)をゆっくり滴下した。そのまま0℃で1時間撹拌後、室温に上昇し、22時間撹拌した。得られた反応混合物を精製水で洗浄、無水硫酸ナトリウムカラムによる乾燥後、得られた油状残渣の反応処理管による減圧蒸留(0.1kPa/浴温度110~120℃)を行った。収率は66.0%であった。この合成物は、19F-NMR、H-NMR、IR及びMSによる分析の結果、1,2-ビス(2-ブテニルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(図1の2aで示される構造であって、R及びRがメチル基であり、R及びRが水素である含フッ素化合物)であることが確認された。

【0040】
[実施例3]
<1,2-ビス(3-フェニル-2-プロペニルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンの合成>
アルゴン雰囲気下、KOH1.43g(24.0mmol)とOFCP4.24g(20.0mmol)の混合物を0℃に冷却し、(C)CH=CH-CH-OHの構造を有するシンナミルアルコール5.36g(40.0mmol)をゆっくり滴下した。そのまま0℃で1時間撹拌後、室温に上昇し、14時間撹拌した。得られた反応混合物を精製水で洗浄、無水硫酸ナトリウムカラムによる乾燥後、得られた油状残渣の反応処理管による減圧蒸留(0.1kPa/浴温度120℃)を行った。この合成物は、19F-NMR、H-NMR、IR及びMSによる分析の結果、1,2-ビス(3-フェニル-2-プロペニルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(図1の2aで示される構造であって、R及びRがフェニル基であり、R及びRが水素である含フッ素化合物)であることが確認された。

【0041】
[実施例4]
<1-(2-ブテニルオキシ)-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンの合成>
1-(2-ブテニルオキシ)-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンを合成するために、まず、1-(2-ブテニルオキシ)-2,3,3,4,4,5,5-ペプタフルオロシクロペンテンの合成を行った。アルゴン雰囲気下、KOH1.43g(24.0mmol)とOFCP4.24g(20.0mmol)の混合物を0℃に冷却し、クロチルアルコール1.44g(20.0mmol)をゆっくり滴下した。そのまま0℃で1時間撹拌後、室温に上昇し、22時間撹拌した。得られた反応混合物を精製水で洗浄、無水硫酸ナトリウムカラムによる乾燥後、得られた油状残渣の反応処理管による減圧蒸留(0.1kPa/浴温度65~80℃)を行った。収量は3.5g(13.3mmol).収率66%。この合成物は、19F-NMR、H-NMR、IR及びMSによる分析の結果、1-(2-ブテニルオキシ)-2,3,3,4,4,5,5-ペプタフルオロシクロペンテン(図1の1bで示される構造であって、Rがメチル基であり、Rが水素である含フッ素化合物)であることが確認された。

【0042】
このようにして合成した1-(2-ブテニルオキシ)-2,3,3,4,4,5,5-ペプタフルオロシクロペンテン1.70g(6.00mmol)とKOH0.43g(7.20mmol)の混合物をアルゴン雰囲気下で0℃に冷却し、アリルアルコール0.35g(6.00mmol)をゆっくり滴下した。そのまま0℃で1時間撹拌後、室温に上昇し、66時間撹拌した。得られた油状残渣を精製水で洗浄、無水硫酸ナトリウムカラムによる乾燥後、得られた油状残渣の反応処理管による減圧処理(0.1kPa/浴温度100~110℃)を行った。この合成物の収量は1.50g(5.00mmol)であり、収率は83%であった。の合成物は、19F-NMR、H-NMR、IR及びMSによる分析の結果、1-(2-ブテニルオキシ)-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(図1の2bで示される構造であって、Rがメチル基、R、R及びRが水素である含フッ素化合物)であることが確認された。

【0043】
[実施例5]
<2-アリル-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンの合成>
アルゴン雰囲気下、実施例1で得られた1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン4.94g(17.2mmol)を浴温度170~180℃で4時間還流した後、減圧蒸留(0.1kPa/浴温度90~150℃)を行った。合成物の収量は4.49g(15.6mmol)であり、収率は91%であった。この合成物のGC-MSスペクトルとH-NMRスペクトルを、それぞれ図3と図4に示す。各種スペクトルによる分析の結果、次のような検出ピークを示すことから、1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン(図2の3aで示される構造であって、R、R、R及びRがすべて水素である含フッ素化合物)であることが確認された。

【0044】
19F-NMR δ[ppm] -62.04(1F,d)、
-61.01(1F,d)、-57.50(1F,d)、
-56.32(1F,d)、-51.27(1F,t),
-46.36(1F,s)
H-NMR δ[ppm] 2.73(2H,m)、4.01(2H,m)、
5.23(1H,m)、5.27(1H,m)、
5.31(1H,m)、5.75(1H,m)、
5.81(1H,m)、5.87(1H,m)
IR [cm-1] 1788(C=O)、1645(C=C)、1168(C-O)
MS [m/e] 288

【0045】
[実施例6]
<2-(2-ブテニル)-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン及び/又は1-(2-ブテニル)-1-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンの合成>
アルゴン雰囲気下、実施例4で得られた1-(2-ブテニルオキシ)-2-アリルオキシ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン1.50g(4.96mmol)を浴温度170~180℃で4時間還流した後、減圧蒸留(0.1kPa/浴温度130~140℃)を行った。合成物の収量は0.87g(2.28mmol)であり、収率は58%であった。この合成物のGC-MSスペクトルを図5に示す。図5に示すGC-MSスペクトルから、2-(2-ブテニル)-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン(図2の3bで示される構造であって、置換基Rがメチル基、R、R及びRが水素である含フッ素化合物)及び/又は1-(2-ブテニル)-1-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン(図2の3cで示される構造であって、置換基Rがメチル基、R、R及びRが水素である含フッ素化合物)の生成が確認された。

【0046】
[実施例7~11]
<2-アリル-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンの単独塊状重合及び溶液重合>
溶液重合は、重合媒体としてトルエンを用いた。ガラス製重合管に、実施例5で得られた1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノン1.44gを所定量の重合開始剤(過酸化ベンゾイル(BOP)又はアゾイソブチルニトリル(AIBN))と共に、トルエン1mlに溶解した後、(1)-78℃冷却下脱気及び(2)室温溶解を3回繰り返し、封管した後、所定の温度で所定時間加熱重合させた。その後、トルエンを含むポリマーを酢酸エチルに溶かし、ヘキサン中に滴下し、再沈殿した後、溶媒を減圧留去した。

【0047】
単独塊状重合では、ガラス製重合管に、実施例5で得られた1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンと重合開始剤として所定量のBPO又はAIBNとを均一に混合して入れ、(1)-78℃冷却下脱気及び(2)室温溶解を3回繰り返し、封管した後、所定の温度で所定時間加熱重合させた。その後、得られたポリマーを酢酸エチルに溶かし、ヘキサン中に滴下し、再沈殿した後、溶媒を減圧留去した。

【0048】
開始剤の仕込み量と重合条件(温度と時間)を変化させて重合を行った結果、得られたポリマーの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)及びガラス転移温度(Tg)を表1に示す。ポリマーの分子量は、流動媒体としてテトラヒドロフランを用いてゲルパーミネーションクロマトグラフィ(GPC)法によって求めた。ポリマーのTgは、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定を行い、吸熱曲線における変曲点の中間点の温度をTgとした。

【0049】
【表1】
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【0050】
実施例11で得られたポリマーについて、重合の程度を調べるために、重合前の含フッ素化合物(モノマー)及び重合後のポリマーについてIRの測定を行った。重合前後の赤外吸収(IR)スペクトルを図6に示す。含フッ素化合物(モノマー)に観測されるC=C結合(1654cm-1)の吸収が、重合後のポリマーではほほ完全に消失しており、アリルオキシ基とアリル基の両者の二重結合は重合に関与していることが確認された。実施例11で得られたポリマーは、酢酸エチル等の汎用溶媒に可溶であることから、架橋密度は高くなっていないか、若しくは下記の式(6)に示す環状構造を形成しているものと考えられる。
【化6】
JP0005618291B2_000008t.gif

【0051】
表1に示すように、本発明の上記の式(2)で表される構造を有する含フッ素化合物を重合して得られる重合体において、重合条件を最適化することによってガラス転移温度が従来の透明含フッ素ポリマーであるサイトップ(登録商標)の108℃よりも高くなるポリマーを得ることできる。また、表1に示すポリマーは、フィルム厚さ0.5mmを用いてUV-visスペクトル測定を行った結果から、重合開始剤としてBPOを用いた場合には280nm以上、AIBNを用いた場合には245nm以上の紫外及び可視領域で光線透過率が90%以上を有することが分かり、優れた透明性を有することが確認できた。

【0052】
[実施例12~14]
<2-アリル-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンと他の重合性モノマーとの塊状重合>
ガラス製重合管に、実施例5で得られた1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(含フッ素化合物3a)と共重合が可能なモノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(FEMA)又は1-(3—ブテニロキシ)-2,3,3,4,4,5-ヘプタフルオロシクロペンテン(含フッ素化合物A)とを50/50(モル%)の配合量で混合した後、所定量のAIBN又はBPOを加えて均一にしたモノマー組成物を入れ、(1)-78℃冷却下脱気及び(2)室温溶解を3回繰り返し、封管した後、所定の温度で所定時間加熱重合させた。1-(3—ブテニロキシ)-2,3,3,4,4,5-ヘプタフルオロシクロペンテン(含フッ素化合物A)は、前記の特許第4399608号公報に記載されたものと同じ方法で合成されたモノマーである。その後、得られたポリマーを酢酸エチルに溶かし、ヘキサン中に滴下し、再沈殿した後、溶媒を減圧留去した。開始剤の仕込み量と重合条件(温度と時間)を変化させて重合を行った結果、得られたポリマーのガラス転移温度(Tg)を表2に示す。

【0053】
【表2】
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【0054】
[実施例15~19]
<1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンの単独塊状重合及び溶液重合>
含フッ素化合物として2-アリル-2-アリルオキシー3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンタノンの代わりに、上記の式(1)で表される構造を有する含フッ素化合物である1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンを用いて、実施例7~11と同じ方法で単独塊状重合及び溶液重合を行った。得られたポリマーのガラス転移温度(Tg)を表3に示す。

【0055】
【表3】
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【0056】
表3に示すように、1,2-ビス(アリルオキシ)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンの単独塊状重合及び溶液重合は、表1に示すポリマーよりもやや高いTgを有する傾向にあることが分かった。また、表3に示すポリマーは、フィルム厚さ0.5mmを用いてUV-visスペクトル測定を行った結果、実施例7~11で得られたポリマーと同じように優れた透明性を有することが確認できた。

【0057】
[実施例20]
<保護膜及び低反射膜の作製>
実施例11、13及び14で得られたポリマーを溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて不揮発分10質量%となるように溶解させて均一な透明溶液を得た。この溶液をガラス基板上に塗布後、60℃30分と100℃20分の条件で加熱乾燥処理を行うことによってTHFを揮発させて、ガラス基板上に10μmの均一な保護膜を作製した。比較例としてポリメチルメタクリレート(PMMA)をTHFの10重量%で溶解させた溶液を、ガラス基板上に塗布して、前記と同じ条件で加熱乾燥処理を行って、ガラス基板上に10μmの均一な保護膜を作製した。

【0058】
このようにして得られた試験用のサンプルをススで汚した後、布でふき取りサンプル表面に残ったススの量を比較することによって膜表面の耐汚染性を評価した。その結果、実施例11、13及び14で得られたポリマーから作製された保護膜は、ほとんど汚れが認められなかったのに対して、PMMAを保護膜としたサンプルは全面が黒く汚れた。

【0059】
また、ススによる耐汚染性の評価を行う前に、保護膜を形成した各ガラス基板サンプルの反射率を評価した。その結果、実施例11、13及び14で得られたポリマーを保護膜とするガラス基板は、PMMAを保護膜としたガラス基板よりも反射率を大幅に低減できることが確認された。

【0060】
[実施例21]
<プラスチック光ファイバーの作製>
連続塊状重合によって製造したポリメチルメタクリレート(PMMA;屈折率1.492で)をコア材として、さらに、実施例11~13で得られたポリマーをクラッド材として、それぞれ複合紡糸機に供給して、235℃でコア、クラッドを芯鞘複合溶融紡糸し、ファイバー系1000μm(コア径98μm、クラッド厚5.0μm)のプラスチック光ファイバーを作製した。このようにして長さ5mに紡糸されたプラスチック光ファイバーは、該光ファイバーの一端から発光素子(LED)を用いて光を入射すると、他端から光の出射が観測された。光実施例11~13で得られたポリマーは、透明性が高く、屈折率が1.45未満であるため、プラスチック光ファイバーのクラッド材として適用できることが確認された。

【0061】
また、実施例12で得られたポリマーをコア材とし、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン(80モル%/20モル%)の共重合体(屈折率1.403)をクラッド材として、それぞれ複合紡糸機に供給して、240℃でコア、クラッドを芯鞘複合溶融紡糸し、ファイバー系1000μm(コア径98μm、クラッド厚5.0μm)のプラスチック光ファイバーを作製した。このようにして得られた5mに紡糸されたプラスチック光ファイバーは、該光ファイバーの一端からLEDを用いて光を入射すると、他端から光の出射が観測された。実施例12で得られたポリマーは、透明性が高く、プラスチック光ファイバーのコア材としても適用できることが確認された。

【0062】
[実施例22]
<耐摩耗性の塗料又は薄膜の作製>
下地金属として軟鋼を用いて、該軟鋼をトリクロロエチレン中で超音波洗浄した後、300℃20分で乾燥させ、サンドペーパーによる表面粗化処理を行い、水洗を行った。次に、実施例13で得られたポリマーを不揮発分濃度10質量%でメチルエチルケトンに溶解させた後、前記の軟鋼上に塗布して、70℃30分と120℃1時間の条件で乾燥を行って、膜厚が30μmのコート膜を有する摺動材を作製した。比較例として、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)分散塗料を、前記と同じ表面処理を行った軟鋼上に塗布して90℃30分の予備乾燥して380℃45分の焼成処理を行った後、冷却して膜厚30μmのPTFEからなるコート膜を有する摺動材を作製した。

【0063】
実施例13で得られたポリマー又はPTFEからなるコート膜を有する軟鋼を下部に置き、コート膜処理されていない軟鋼円筒を当接して回転する方式の摩耗特性評価装置を用いて、両者の面間圧力を1.4kgf/cmの一定条件で、すべり速度が41cm/秒のもとに15分間回転させた後の摩耗量を測定した。その結果、実施例13で得られたポリマーからなるコート膜及びPTFEからなるコート膜は摩耗量が非常に少なく、コート膜を有する軟鋼の表面外観には何等の変化も見られなかった。実施13で得られたポリマーはPTFEからなるコート膜と比べて摩耗量はやや多くなるものの、摺動材としての特性に対してほとんど影響はなく、摩耗性のコート膜として使用できることが確認できた。

【0064】
[実施例23]
<ポジ型レジストの作製>
実施例11で得られたポリマーをテトラヒドロフラン(THF)に不揮発分濃度5質量%で溶解した溶液をシリコン基板上にスピンコートした後、60℃30分と100℃30分の条件で加熱乾燥処理を行うことによってTHFを揮発させて、シリコン基板上に5μmの均一なレジスト膜を作製した。比較例として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)をTHFの5重量%で溶解させた溶液を、シリコン基板上にスピンコートして、前記と同じ条件で加熱乾燥処理を行って、シリコン基板上に5μmのレジスト膜を作製した。次に、幅5μm、線間が10μmでパターン化されたストレートライン5本を有するマスクを用いて、両者のレジスト膜に電子線照射を行うことによってパターン形成を行った。パターンは、電子線が照射された部分のポリマー分解によって形成されるため、電子線照射後にシリコン基板をアルコールと水で洗浄して、分解物を除去した。両者のレジスト膜について、5μm幅と5μm間隔を有する矩形状のパターンを形成できる最少の電子線のエネルギーを比較すると、実施例11で得られたポリマーによるレジスト膜は、PMMAによるレジスト膜より使用する電子線エネルギーを小さくすることができ、感度が約1桁高くなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明による新規な含フッ素化合物及び該含フッ素化合物を重合して得られる重合体は、ガラス転移(Tg)を自由に設定することができると共に、透明性、汎用溶剤の可溶性を有する機能性ポリマー及び該機能性ポリマーを形成できる重合性モノマーであり、光学素子及び耐摩耗性、低汚染性又は撥水性を有する機能性の塗料や薄膜又はレジスト膜等の幅広い用途に適用できるため、有用性が極めて高い。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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