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明細書 :高強度・高耐蝕性Ni基非晶質合金

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3880245号 (P3880245)
公開番号 特開2000-345309 (P2000-345309A)
登録日 平成18年11月17日(2006.11.17)
発行日 平成19年2月14日(2007.2.14)
公開日 平成12年12月12日(2000.12.12)
発明の名称または考案の名称 高強度・高耐蝕性Ni基非晶質合金
国際特許分類 C22C  45/04        (2006.01)
C22C  19/03        (2006.01)
FI C22C 45/04 Z
C22C 19/03 Z
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願平11-163045 (P1999-163045)
出願日 平成11年6月9日(1999.6.9)
審査請求日 平成15年2月21日(2003.2.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】井上 明久
【氏名】金 星圭
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】佐藤 陽一
参考文献・文献 特公平04-065897(JP,B2)
特公平05-079737(JP,B2)
調査した分野 C22C 45/04
C22C 19/03
特許請求の範囲 【請求項1】
式:Ni100-a-bNba (Zr,Ti,Hf)b[ただし、式中のa,bは、原子比率であり、それぞれa=10~28,b=10~28,a+b=35~42であり、残部はNiおよび不可避的不純物から構成される]で示される組成を有し、30K以上の過冷却液体領域と800K以上のガラス遷移温度を兼備した、非晶質相を体積百分率で70%以上含み、金型鋳造法で得られた直径1mmの線状の合金塊試料について測定した圧縮強度が2,500MPa以上であることを特徴とする高強度・高耐蝕性Ni基非晶質合金。
【請求項2】
式:Ni100-a-b-c Nba (Zr,Ti,Hf)b (Co,Fe,Cu,Pd)c [ただし、式中のa~cは、原子比率であり、それぞれa=10~28,b=10~28,c≦15,a+b=35~42,a+b+c=35~50であり、残部はNiおよび不可避的不純物から構成される]で示される組成を有し、30K以上の過冷却液体領域と800K以上のガラス遷移温度を兼備した、非晶質相を体積百分率で70%以上含み、金型鋳造法で得られた直径1mmの線状の合金塊試料について測定した圧縮強度が2,500MPa以上であることを特徴とする高強度・高耐蝕性Ni基非晶質合金。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度、高耐蝕性および非晶質形成能に優れたNi基非晶質合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶融状態の合金を急冷することにより薄帯状、フィラメント状、粉粒体状等、種々の形状を有する非晶質金属材料が得られることはよく知られている。非晶質合金薄帯は、大きな冷却速度の得られる片ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法等の方法によって容易に製造できるので、これまでにもFe系、Ti系、Co系、Pd系、Cu系、Zr系、またはNi系合金について数多くの非晶質合金が得られており、高耐食性、高強度等の非晶質合金特有の性質が明らかにされている。例えば、Ni基非晶質合金としては、Ni-Pd-Si-B-Al(特開平6-25807号公報)、Ni-Si-B(特開平8-269647公報)、Ni-P-B(特開平9-143642公報)などが知られている。
【0003】
しかし、上述した製造方法によって得られる非晶質合金は、薄帯やフイラメントに限られており、それらを用いて最終製品形状へ加工することも困難なことから、工業的にみて、その用途がかなり限定されていた。
【0004】
従来より報告されている非晶質合金の中には、一定の昇温速度で加熱すると結晶化する前に過冷却液体状態に遷移し、急激な粘性低下を示すものが知られている。例えば、Zr-A1-Ni-Cu非晶質合金では毎分40℃の加熱速度で、結晶化までに約120℃程度の間、過冷却液体領域として存在できると報告されている(「日本金属学会欧文誌」,1991年,32巻,1005項参照)。
【0005】
このような過冷却液体状態では、非晶質合金の粘性が低下しているために閉塞鍛造等の方法により任意形状の合金成形体を作製するすることが可能であり、非晶質合金からなる歯車なども作製されている(「日刊工業新聞」,1992年,11月12日号)。したがって、広い過冷却液体領域を有する非晶質合金は、結晶化に対して大きな抵抗力、言い換えれば優れた非晶質形成能を有するとともに、優れた加工性をも兼備していると言える。
【0006】
一方、本発明と関連するNi基非晶質合金では、主に磁気的性質(例えば、「Sci.Rep.RITU」,1979年,A-27巻,127項参照)および耐食性(例えば「Sci.Rep.RITU」,1980年,A-28巻,156項参照)について着目した研究が行われてきた。これらのNi基非晶質合金は、Ni-半金属(Si,B,P,C)系で示される組成を有し、主に上述の単ロール法により作製されたリボン状試料で研究がなされた。しかしながら、実用的な使用を鑑みた大形状Ni基非晶質合金、言い換えれば非晶質形成能に優れたNi基非晶質合金に関する研究開発は進んでいない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
Ni系非晶質合金は、他の非晶質合金に比べて高い結晶化温度を示すため、高耐熱性を有する新しいタイプの非晶質合金として高強度、高耐蝕性を要する構造材料、化学材料等の分野への応用が期待されている。
【0008】
しかしながら、Ni-半金属系非晶質合金は、非晶質形成能が小さいために、得られる非晶質合金形状が薄帯状、フィラメント状、粉粒体状に限られており、一般的な工業材料へ応用できる寸法を有しているとは言えなかった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、上述の課題を解決するために、実用に耐えうる強度と実用寸法が実現できる非晶質形成能を兼備したNi系非晶質合金材料を提供することを目的として鋭意研究した結果、半金属を使用しないでNi基からなる特定組成の合金を溶融し、液体状態から急冷固化させることにより上述の性能を具備したNi系非晶質合金が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、式:Ni100-a-bNba (Zr,Ti,Hf)b[ただし、式中のa,bは、原子比率であり、それぞれa=10~28,b=10~28,a+b=35~42であり、残部はNiおよび不可避的不純物から構成される]で示される組成を有し、30K以上の過冷却液体領域と800K以上のガラス遷移温度を兼備した、非晶質相を体積百分率で70%以上含み、金型鋳造法で得られた直径1mmの線状の合金塊試料について測定した圧縮強度が2,500MPa以上であることを特徴とする高強度・高耐蝕性Ni基非晶質合金を提供するものである。
また、本発明は、式:Ni100-a-b-c Nba (Zr,Ti,Hf)b (Co,Fe,Cu,Pd)c [ただし、式中のa~cは、原子比率であり、それぞれa=10~28,b=10~28,c≦15,a+b=35~42,a+b+c=35~50であり、残部はNiおよび不可避的不純物から構成される]で示される組成を有し、30K以上の過冷却液体領域と800K以上のガラス遷移温度を兼備した、非晶質相を体積百分率で70%以上含み、金型鋳造法で得られた直径1mmの線状の合金塊試料について測定した圧縮強度が2,500MPa以上であることを特徴とする高強度・高耐蝕性Ni基非晶質合金を提供するものである。
【0011】
なお、本明細書中の「過冷却液体領域」とは、毎分40℃の加熱速度で示差走査熱量分析を行うことにより得られるガラス遷移温度と結晶化温度の差で定義される。「過冷却液体領域」の値は、加工性を示す数値である。
【0012】
上述の過冷却液体領域の規定で示される値により、本発明のNi基非晶質合金は、公知のNi基非晶質合金に比べて大幅に非晶質形成能が改善されていることが分かる。このため、公知のNi基非晶質合金では実現できなかった塊状試料の製造が可能となる。
【0013】
本発明で規定する合金の組成範囲においては、0.5mm2以上の断面積、例えば、金型鋳造法により直径1mm(0.785mm2の断面積)の線状の非晶質合金塊が容易に得られる。この合金塊を用いると、公知のNi基非晶質合金では測定が不可能であった塊状試料での機械的性質の測定が可能となる。
【0014】
金属元素より構成される合金は、非晶質化することにより一般にその機械的性質が向上するが、本発明のNi基非晶質合金においては、塊状試料で容易に2,500MPaを超える圧縮強度を持ったものが容易に得られた。このため、本発明のNi基非晶質合金から製造される塊状試料を実施態様として請求項2において、具体的に断面積を0.5mm2 以上、圧縮強度を2,500MPa以上と規定した。なお、リボン材の引張強度は圧縮強度と同程度である。
【0015】
本発明の合金は、強度と耐摩耗性が要求される小型精密機器の部品および耐蝕性が要求される配管等に適する特性を有している。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を説明する。本発明のNi基非晶質合金において、Nb(ニオブ)は、非晶質を形成する基本となる元素である。Nbは、10原子%以上28原子%以下で、好ましくは15原子%以上25原子%以下である。
【0017】
また、Zr、Ti、Hfよりなる群から選択される1種または2種以上の元素は、本発明の合金の基幹となる元素群で、Ni-Nb系合金の非晶質形成能を大幅に高める効果を有する。この元素群の含有量が10原子%未満では、非晶質形成能の向上は認められない。また、28原子%以上では冷却速度の大きな片ロール法によっても非晶質相は形成されなくなる。
【0018】
非晶質相の形成上は、NbおよびZr、Ti、またはHfの元素群の合計量は、好ましくは、35原子%以上42原子%以下であり、42原子%超では30K以上の過冷却液体領域を示さないため、加工性が劣化する。したがって、本発明では、NbおよびZr、Ti、Hfよりなる群から選択される1種または2種以上の元素の合計含有量を35原子%以上42原子%以下と規定した。
【0019】
Niは、15原子%まではCo,Fe,Cu,Pdによって置換しても過冷却液体領域の広さは、ほとんど変わらず30~70Kであるが、15原子%を超えると過冷却液体領域が30K未満となり、非晶質形成能が低下する。
【0020】
本発明のNi基非晶質合金は、公知のNi系非晶質合金と同様、溶融状態から公知の片ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法、アトマイズ法等の種々の方法で冷却固化させ、薄帯状、フィラメント状、粉粒体状の非晶質固体を得ることができる。また、本発明のNi基非晶質合金は、公知のNi基非晶質合金に比べて大幅に非晶質形成能が改善されているため、上述の公知の製造方法のみならず、好ましくは、溶融合金を金型に充填鋳造することにより任意の形状の非晶質合金を得ることもできる。
【0021】
例えば、代表的な金型鋳造法においては、合金を石英管中でアルゴン雰囲気中で溶融した後、溶融合金を噴出圧0.5~3.0kg/cm2 で銅製の金型内に充填凝固させることにより非晶質合金塊を得ることができる。さらには、アーク溶解法、石英管水焼き入れ法、ダイカストキャスティング法およびスクイズキャスティング法等の製造方法を適宜用いることもできる。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。表1に示す合金組成からなる材料(実施例1~21、比較例1~5)の薄帯状合金塊試料および直径1mmの線状の合金塊試料を、片ロール法および金型鋳造法により作製した。薄帯状合金塊試料のガラス遷移温度(Tg)、結晶化開始温度(Tx)を示差走査熱量分析により測定した。
【0023】
これらの値より過冷却液体領域(Tx-Tg)Kを算出した。また、金型鋳造法により作製した直径1mmの線状の合金塊の非晶質化の確認をX線回折法および試料断面の光学顕微鏡観察により行った。また、試料中に含まれる非晶質相の体積分率(Vf-amo)は、示差走査熱量分析を用いて、結晶化の際の発熱量を完全非晶質化した片ロール箔帯との比較により評価した。さらに、圧縮試験片を機械加工により作製し、インストロン型試験機を用いた圧縮試験により破断強度(σf)を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
JP0003880245B2_000002t.gif
【0025】
また、図1~3は、実施例2、4、15の合金を大気中で293Kの1M塩酸溶液中で測定したNi基非晶質合金の定電位分極曲線である。表1より明らかなように、実施例1~21の非晶質合金は、30K以上の過冷却液体領域を示すとともに、直径1mmの線状の非晶質合金塊においても2,500MPaを超える圧縮強度を示す。また、図1~3に示すように、各実施例の非晶質合金は、1M塩酸溶液中でいずれも不働態化している。また、約1500mVの高電位まで分極しても孔食が発生しない優れた耐食性を有していることが明らかである。
【0026】
これらの実施例に対し、比較例1の合金は、Zrが28原子%を超え、冷却速度の大きな片ロール法によっても非晶質相は形成されなくなり、直径1mmの線状の非晶質合金塊が得られず、圧縮強度の測定は不能であった。
【0027】
比較例2の合金は、NbおよびZrが本発明で規定する含有量の範囲を満たさないために、片ロール法により作製したリボンでは非晶質化するものの、金型鋳造法では非晶質相を体積分率で50%以上含む非晶質合金塊が得られない。このため、直径1mmの線状の合金塊試料では結晶化したために脆く、圧縮強度が小さい。したがって、実用に耐えうる機械的性質を有していないといえる。
【0028】
比較例3の合金は、NbおよびTi元素を本発明で規定する含有量にて含むものの、含有量の合計が42原子%を超え、冷却速度の大きな片ロール法により作製したリボンでは非晶質化するが、直径1mmの線状の非晶質合金塊が得られず、圧縮強度の測定は不能であった。
【0029】
比較例4および比較例5の合金は、NbおよびTi元素を本発明で規定する含有量にて含むものの、含有量の合計が42原子%を超え、冷却速度の大きな片ロール法によっても非晶質化せず、直径1mmの線状の合金塊試料は結晶化したために脆く、圧縮試験ができず、圧縮強度の測定は不能であった。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のNi基非晶質合金は、30K以上の過冷却液体領域を示すとともに、0.5mm2 以上の断面積の非晶質合金塊においても2,500MPaを超える圧縮強度を示す。これらの要件を備えることにより本発明は、ガラス形成能、加工性、機械的強度、耐摩耗性等に優れたNi系非晶質合金を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2の定電位分極曲線を示すグラフ。
【図2】実施例4の定電位分極曲線を示グラフ。
【図3】実施例15の定電位分極曲線を示すグラフ。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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