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明細書 :ADAMTS-3を用いたリーリン分解

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5838481号 (P5838481)
公開番号 特開2014-036607 (P2014-036607A)
登録日 平成27年11月20日(2015.11.20)
発行日 平成28年1月6日(2016.1.6)
公開日 平成26年2月27日(2014.2.27)
発明の名称または考案の名称 ADAMTS-3を用いたリーリン分解
国際特許分類 C12N   9/64        (2006.01)
C12Q   1/37        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C07K  14/47        (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  38/46        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  25/22        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI C12N 9/64 Z
C12Q 1/37
G01N 33/50 Z
C12N 15/00 ZNAG
C07K 14/47
A61K 31/7088
A61K 37/54
A61K 48/00
A61P 43/00 105
A61P 25/28
A61P 25/00
A61P 25/22
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 13
出願番号 特願2012-180354 (P2012-180354)
出願日 平成24年8月16日(2012.8.16)
審査請求日 平成27年2月12日(2015.2.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
発明者または考案者 【氏名】服部 光治
【氏名】河野 孝夫
【氏名】久永 有紗
【氏名】鯉江 真利
【氏名】鈴木 健太
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 FERNANDES, R. J. et. al,Procollagen II Amino Propeptide Processing by ADAMTS-3 INSIGHTS ON DERMATOSPARAXIS,J. Biol. Chem.,2001年,Vol.276, No.34,p.31502-31509,特に、FIG.1、31503頁左欄EXPERIMENTAL PROCEDURESのCloning of ADAMTS3
HISANAGA, A. et. al,A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 4 (ADAMTS-4) cleaves Reelin in an iso,FEBS Lett.,2012年 9月21日,Vol.586,p.3349-3353,Available online 20 July 2012
Y. KIDANI et al.,Mechanism of specific proteolytic cleavage of Reelin,Society for Neuroscience Abstract Viewer and Itinerary Planner,2011年,Vol.41,754.04/A4
調査した分野 C12N 9/64
A61K 31/7088
A61K 38/46
A61K 48/00
A61P 25/00
A61P 25/22
A61P 25/28
A61P 43/00
C12Q 1/37
G01N 33/15
G01N 33/50
C07K 14/47
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
DAMTS-3、又はADAMTS-3メタロプロテアーゼ触媒ドメインを含むADAMTS-3誘導体、を含有することを特徴とする活性型リーリン分解剤
【請求項2】
ADAMTS-3又はADAMTS-3メタロプロテアーゼ触媒ドメインを含むADAMTS-3誘導体を用いて、そのリーリン分解活性の制御物質をスクリーニングすることを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項3】
ADAMTS-3又はADAMTS-3メタロプロテアーゼ触媒ドメインを含むADAMTS-3誘導体を含んで構成され、そのリーリン分解活性の制御物質をスクリーニングするために用いるものであることを特徴とするスクリーニング用キット。
【請求項4】
ADAMTS-3又はADAMTS-3メタロプロテアーゼ触媒ドメインを含むADAMTS-3誘導体を含んで構成され、活性型リーリンの生理的活性を抑制又は失活させるために用いるものであることを特徴とするリーリン機能抑制用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、活性型リーリンがADAMTS-3によって不活性型に分解されると言う新規な知見に基づく、ADAMTS-3を用いたリーリン分解に関する。更に詳しくは本発明は、リーリンを分解するために用いるADAMTS-3、ADAMTS-3のそのような使用方法、リーリン分解活性制御物質をスクリーニングする方法とそのために用いるスクリーニング用キット、リーリン機能抑制用キット、及びADAMTS-3のリーリン分解活性に着目した遺伝子治療とノックダウン治療に関する。
【背景技術】
【0002】
(リーリン)
リーリンは、脳の機能に重要な、3400を超えるアミノ酸からなる巨大な分泌タンパク質である。リーリンが脳の特徴的な層構造の形成に必須であること、ヒトでもリーリンが欠損すると脳構造形成不全が起こることが報告されている。一方、リーリンは成体の脳でも発現しており、その発現量の低下や分解亢進が統合失調症、アルツハイマー病、気分障害等の疾患(以下、これらの疾患を一括して「アルツハイマー病等の疾患」と呼ぶ)の一因となることが明らかになってきている。
【0003】
リーリンに関して、例えば下記の特許文献1では、リーリンのエピトープ領域ポリペプチド及びこれをコードするポリヌクレオチドを開示し、これによってリーリンの機能を更に研究すると共に、リーリン遺伝子の異常並びにニューロンの配置異常に起因する脳障害に対する診断・治療手段を提供できるとしている。又、下記の特許文献2では、中枢神経系の他の重要成分におけるDIIAレベルを非破壊的に評価又は予想するためのバイオマーカーとしてのリーリンを測定する方法を提案している。
【0004】
リーリンについては、更に、リーリンが未知の酵素により分子内で特異的な分解を受けること、その分解部位として、リーリンタンパク質のアミノ酸配列におけるN末端側に近い未知のサイト(以下、このサイトを「N-t site」と呼ぶ)とC末端側に近い未知のサイト(以下、このサイトを「C-t site」と呼ぶ)があること、リーリンの分子内分解の大部分はN-t siteで起こり、かつ、N-t siteで分解されたリーリンは生理的に不活性であることが分かっている。換言すれば、N-t site非分解型リーリンは活性型であり、これには全長リーリンとC-t siteでの分子内分解のみを受けた分解型リーリンとが包含される。なお、C-t siteで起こる分解は少ないため、C-t siteでの分子内分解のみを受けた分解型リーリンは測定誤差の範囲内として無視することも可能である。
【0005】
(ADAMTS-3)
一方、従来よりADAMファミリーに属するタンパク質や、そのサブファミリーであるADAMTSファミリーに属するタンパク質が知られている。
【0006】
ADAMファミリーのタンパク質としては30種以上が知られ、構造的には、N末端のシグナル配列の後に、プロドメイン、メタロプロテアーゼドメイン、ディスインテグリンドメイン及びEGFリピートを含むシステインに富んだ領域が続き、そのファミリーのほとんどのメンバーは膜貫通性ドメインを有し、その後にC末端細胞質テールを含むことが分かっている。
【0007】
ADAMTS(トロンボスポンジンモチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ)ファミリーは、ADAMのサブファミリーであり、哺乳動物等に見いだされる細胞外プロテアーゼファミリーである。哺乳動物のADAMTSファミリーとして10種以上のメンバーが知られている。このファミリーのメンバーは、構造的には、トロンボスポンジン1様の繰り返し配列を複数コピー含み、C末端領域の膜貫通性ドメインが欠けている等の、他のADAMファミリーメンバーとは異なる構造を持つ。このため、ほとんどが細胞表面に局在するADAMファミリーメンバーとは異なり、ADAMTSファミリーメンバーは細胞外マトリックスタンパク質を構成している、との報告もある。
【0008】
ADAMTS-3は公知であって、そのアミノ酸配列は例えば下記の非特許文献1で報告されており、又、NCBI受託番号「NM 001081401.2」によってコードされるタンパク質である。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2002-17361号公報
【特許文献2】特開2007-524674号公報
【0010】

【非特許文献1】J Biol Chem. 2001 276:31502-9.ProcollagenII amino propeptide processing by ADAMTS-3. Insightson dermatosparaxis3. Fernandes RJ, Hirohata S, Engle JM, Colige A, Cohn DH, Eyre DR, ApteSS.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
リーリンに関して前記した従来の知見を踏まえれば、リーリンの発現量低下や分解亢進に基づくアルツハイマー病等の疾患の予防、診断、治療手段の開発のため、あるいはリーリンの機能についての多様なアプローチによる研究の手段として、活性型リーリンを不活性型に分解する未知の酵素を同定することが強く望まれる。しかし、このような酵素を特定したとする報告は未だ見られない。
【0012】
本願発明者は、鋭意研究した結果、活性型リーリンタンパク質のアミノ酸配列において未解明であったN-t siteの分解部位を具体的に突き止めた。即ち、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列は、未解明であったリーリンタンパク質のN-t siteの分解部位を中心とする8個のアミノ酸配列を示す。N-t siteでの分解は、このアミノ酸配列中において起こる。特に、このアミノ酸配列中のプロリン(Pro)とアラニン(Ala)との間で起こる。なお、配列表において後述するように、この8個のアミノ酸配列及びその分解部位は、実際にはマウスのリーリンから割り出したものであるが、ヒトのリーリンにおいても上記のアミノ酸配列及びその分解部位は全く同一である。
【0013】
そこで本発明は、活性型リーリンを不活性型に分解する酵素を同定し、更には、その酵素を有効に活用する手段を提供することを、解決すべき技術的課題とする。本願発明者は、上記の新規な知見に基づき、活性型リーリンを不活性型に分解する酵素がADAMTS-3であることを同定するに至り、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための第1発明の構成は、活性型リーリンを不活性型リーリンに分解するために用いるものである、ADAMTS-3及びその機能的誘導体である。
【0015】
上記の第1発明において、「活性型リーリン」とは、分解を受けていない全長リーリンの他、活性型の分解リーリン、即ち、全長リーリンの一部が分解を受けているが前記したリーリンの生理的活性を維持しているものも包含する。C-t siteでの分解を受けているリーリンは、このような「活性型の分解リーリン」である可能性がある。
【0016】
前記したように、ADAMTS-3自体はアミノ酸配列等も含めて公知であるため、配列表におけるADAMTS-3のアミノ酸配列等の記載を省略する。又、「その機能的誘導体」とは、ADAMTS-3の誘導体であって、活性型リーリンをN-t siteにおいて分解する活性を有するものを言う。
【0017】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための第2発明の構成は、リーリンの生理的機能、あるいはその促進又は抑制に関連する医療又は研究の目的にADAMTS-3又はその機能的誘導体を用いる、ADAMTS-3の使用方法である。
【0018】
上記の第2発明において、「用いる」とは、ADAMTS-3等を人為的に用いることを意味し、ヒト及び非ヒト動物の体内において自然現象として起こっている活性型リーリンのADAMTS-3による分解を包含しない。
【0019】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための第3発明の構成は、ADAMTS-3又はその機能的誘導体を用いて、そのリーリン分解活性の制御物質をスクリーニングする、スクリーニング方法である。
【0020】
上記の第3発明において、「リーリン分解活性」とは、ADAMTS-3又はその機能的誘導体における、活性型リーリンを不活性型リーリンに分解する活性を言う。又、「リーリン分解活性の制御物質」とは、リーリン分解活性を阻害する物質と、リーリン分解活性を増強又は促進する物質とを含む。
【0021】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための第4発明の構成は、ADAMTS-3又はその機能的誘導体を含んで構成され、そのリーリン分解活性の制御物質をスクリーニングするために用いるものである、スクリーニング用キットである。
【0022】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための第5発明の構成は、ADAMTS-3又はその機能的誘導体を含んで構成され、活性型リーリンの生理的活性を抑制又は失活させるために用いるものである、リーリン機能抑制用キットである。
【0023】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための第6発明の構成は、ヒト又は非ヒト動物のADAMTS-3遺伝子に対して少なくとも遺伝子ノックアウト、遺伝子サイレンシングを包含する遺伝子治療の方法を用いることにより、ヒト又は非ヒト動物におけるADAMTS-3遺伝子の発現量を減少させる、遺伝子治療である。
【0024】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための第7発明の構成は、ADAMTS-3遺伝子のmRNAに対する相補鎖を用いる方法によりヒト又は非ヒト動物におけるADAMTS-3遺伝子の発現量を減少させる、ノックダウン治療である。
【発明の効果】
【0025】
本願発明者によって、活性型リーリンを不活性型に分解する酵素としてADAMTS-3が同定された。従って、第1発明の活性型リーリン分解用ADAMTS-3及びその機能的誘導体により、活性型リーリンを不活性型に分解する酵素が提供される。その結果、リーリンの発現量低下や分解亢進に基づくアルツハイマー病等の疾患の有効な予防・治療手段の開発が可能になった。又、リーリンの機能についての多様なアプローチの研究における有効な研究手段が提供された。
【0026】
このようなADAMTS-3の同定には、活性型リーリンタンパク質のアミノ酸配列において未解明であったN-t siteの分解部位を本願発明者が具体的に突き止めた点が関与している。即ち、活性型リーリンは、具体的には未知であったN-t siteで分解されると不活性型となることが分かっている。従って活性型リーリンのアミノ酸配列におけるN-t siteが具体的に解明されたことで、活性型リーリンを不活性型に分解する酵素を単離し同定する方法、例えば実施例において用いたような手法を確立することが可能になった。
【0027】
第2発明によってADAMTS-3の新規かつ有用な各種使用方法が提供される。即ち、ADAMTS-3が活性型リーリンを不活性型リーリンに分解する機能を有すると言う知見に基づけば、ADAMTS-3を研究の手段として、あるいはその機能を制御する物質を探索する手段として、アルツハイマー病等の疾患の研究や、それらの疾患の予防又は治療、更にはそれらの疾患に対処するための遺伝子工学的な処置等の分野における多様な使用方法に供することができる。
【0028】
第3発明又は第4発明によって、ADAMTS-3又はその機能的誘導体のリーリン分解活性の制御物質をスクリーニングすることができる。制御物質がリーリン分解活性を阻害する物質である場合は、リーリン機能を維持するのに有効な物質が得られたことになり、この物質を有効成分とする医薬を提供してアルツハイマー病等の疾患の予防又は治療を行うことができる。この物質をアルツハイマー病等の疾患の病理や病態の基礎研究に用いることもできる。制御物質がリーリン分解活性を増強又は促進する物質である場合は、リーリン機能を阻害し低下させる物質が得られたことになり、この物質をアルツハイマー病等の疾患の病理、病態の基礎研究に用いることができる。
【0029】
第5発明によって、リーリンの生理的機能を抑制するためのキットが提供されるので、リーリン自体や、その生理的機能や、リーリンの分解亢進時におけるアルツハイマー病等の疾患の病理、病態等の基礎研究に有用である。
【0030】
第6発明又は第7発明によって、アルツハイマー病等の疾患の遺伝子工学的な予防、治療手段が提供される。即ち、ヒト又は非ヒト動物のADAMTS-3遺伝子に対して遺伝子ノックアウト、遺伝子サイレンシング等の遺伝子治療あるいはノックダウン治療を行うと、ADAMTS-3遺伝子の発現量が減少し、ひいては活性型リーリンの分解が阻止ないしは抑制されるので、アルツハイマー病等の疾患の予防又は治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ADAMTS-3の同定を示す図である。
【図2】ADAMTS-3によるリーリン分解を実証する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に本発明の実施形態を、その最良の形態を含めて説明する。

【0033】
〔活性型リーリン分解用ADAMTS-3〕
本発明においては、活性型リーリンを不活性型に分解するため、ADAMTS-3又はその機能的誘導体を用いる。

【0034】
ADAMTS-3はADAMファミリーのサブファミリーであるADAMTSファミリーに属する公知のタンパク質の1種であって、従来、その生理的機能は必ずしも解明されていないが、本願発明者により、活性型リーリンを不活性型に分解する酵素であることが同定された。

【0035】
ADAMTS-3の機能的誘導体として、少なくともADAMTS-3メタロプロテアーゼ触媒ドメインを含む誘導体を例示できる。又、ADAMTS-3ディスインテグリン様ドメイン及び/又はADAMTS-3中央トロンボスポンジンI型リピートを更に含むことができる。又、機能的誘導体として、活性型ADAMTS-3のアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、挿入又は置換されたものを例示することができる。この分野の専門家であれば、活性型ADAMTS-3において1~数個のアミノ酸残基を選択して欠失させ、挿入し、又は置換する操作によってADAMTS-3の変異体を調製し、これらの変異体について活性型リーリンを不活性型に分解する機能の有無を検定して機能的誘導体を得ることは容易である。

【0036】
〔ADAMTS-3の使用方法〕
本発明に係るADAMTS-3の使用方法は、リーリンの生理的機能あるいはその促進又は抑制に関連する医療又は研究の目的にADAMTS-3又はその機能的誘導体を用いる方法である。

【0037】
「リーリンの生理的機能」には、少なくとも、その欠損により脳構造形成不全が起こるとされる点の機能、脳における発現量の低下や分解亢進が統合失調症、アルツハイマー病、気分障害等の疾患の一因となるとされる点の機能等の既知の機能に加え、今後解明される可能性のある未知の機能も含まれる。

【0038】
ADAMTS-3の使用方法のカテゴリーとして、具体的には、ADAMTS-3又はその機能的誘導体の、例えば、in vitroにおける使用、組み換え微生物における使用、アルツハイマー病等の疾患をシミュレートできるマウス等のモデル動物における使用、通常の実験用動物における使用、ヒト又は非ヒト動物の細胞、組織又は器官での使用、人為的に調製されたADAMTS-3又はその機能的誘導体のヒト又は非ヒト動物の体内(受精卵、胚を含む)での使用、等を例示することができるが、これらに限定されない。

【0039】
「医療又は研究の目的」としては、ADAMTS-3のリーリン分解機能を阻害又は促進する制御物質の探索、ヒト及び非ヒト動物におけるリーリンに関連する各種疾患の研究、これらの疾患の予防、診断、治療への前記制御物質の使用、前記各種疾患に対処するための遺伝子治療や遺伝子ノックダウン、リーリンの生理的機能の研究、リーリンの生理的機能の低下又は増強が前記各種疾患の病態に及ぼす影響、ADAMTS-3のリーリン分解機能のより詳細な研究、等を例示することができるが、これらに限定されない。

【0040】
〔スクリーニング方法及びスクリーニング用キット〕
本発明のスクリーニング方法は、ADAMTS-3又はその機能的誘導体を用いて、そのリーリン分解活性の制御物質、即ちリーリン分解活性を阻害する物質及び/又はリーリン分解活性を増強、促進する物質をスクリーニングする方法であり、スクリーニング用キットは、上記したスクリーニング方法を実施するためのキットであって、ADAMTS-3又はその機能的誘導体を含んで構成され、そのリーリン分解活性の制御物質をスクリーニングするために用いるものである。

【0041】
キットを構成するADAMTS-3又はその機能的誘導体の剤型については、例えば凍結乾燥状態、緩衝液の溶液の状態、あるいは緩衝液の溶液を凍結乾燥した状態等としておくこともできる。

【0042】
このスクリーニング用キットは、この種のキットが備えることがある必要又は有益な他の任意の構成要素、例えば希釈用の緩衝液やpH調整液その他の構成要素を備えることができる。緩衝液の種類は限定されないが、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等を例示できる。

【0043】
〔リーリン機能抑制用キット〕
本発明のリーリン機能抑制用キットは、ADAMTS-3又はその機能的誘導体を含んで構成され、活性型リーリンの生理的活性を抑制又は失活させるために用いるものである。このリーリン機能抑制用キットについても、必要又は有益な他の構成要素、例えば希釈用の緩衝液やpH調整液その他の構成要素を備えることができる。

【0044】
〔遺伝子治療及びノックダウン治療〕
遺伝子治療及びノックダウン治療は一般論としては周知である。本発明に係る遺伝子治療は、ヒト又は非ヒト動物のADAMTS-3遺伝子に対して少なくとも遺伝子ノックアウト、遺伝子サイレンシングを包含する遺伝子治療の方法を用いることにより、ヒト又は非ヒト動物におけるADAMTS-3遺伝子の発現量を減少させるものである。

【0045】
ヒト又は非ヒト動物のADAMTS-3遺伝子に対する遺伝子治療は、リーリンの発現量低下や分解亢進に基づくアルツハイマー病等の疾患の予防又は治療目的のために、あるいは、そのような疾患又はその病理、病態の研究目的のために行われる。

【0046】
「遺伝子ノックアウト」とは、ヒト又は非ヒト動物に機能欠損型のADAMTS-3遺伝子を導入する遺伝子治療の手法である。ここに、「機能欠損型」とは、活性型リーリンを不活性型リーリンに分解すると言う機能を欠損させたADAMTS-3をコードするものを言う。「遺伝子サイレンシング」とは、分裂間期の細胞核内で脱凝縮した状態にある染色体(クロマチン)への後天的な修飾により、ADAMTS-3遺伝子の機能を抑制する遺伝子治療の手法である。

【0047】
ノックダウン治療は一般論としては周知である。本発明に係るノックダウン治療は、ADAMTS-3遺伝子のmRNAに対する相補鎖を用いる方法により、ヒト又は非ヒト動物におけるADAMTS-3遺伝子の発現量を減少させるものであり、その目的は上記の遺伝子治療の場合と同様である。

【0048】
「ノックダウン治療」の具体的内容としては、例えば、ADAMTS-3遺伝子のmRNAのアンチセンス鎖に相当するRNAを導入するアンチセンス法、siRNAやmicroRNA等を用いてRNAi(RNA干渉)と呼ばれる現象を利用するRNAi法等が例示される。
【実施例】
【0049】
次に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されない。
【実施例】
【0050】
〔第1実施例:ADAMTS-3の同定〕
(第1実施例の概要)
第1実施例では、マウス大脳皮質神経細胞の培養上清をヘパリンカラムクロマトグラフィー及びMono Qカラムクロマトグラフィーで分画し、リーリン分解活性を指標に精製した。Mono Qカラムの溶出画分のうち、リーリン分解活性の強いフラクション(A8、A9)を図1に示すように電気泳動した後、質量分析を行った。
【実施例】
【0051】
例えば、非特許文献「Exp. Neurol. 156, 214-217, (1999) Reelin, the extracellular matrix protein deficient in reeler mutant mice, is processed by metalloproteinase」等に報告された先行研究から、リーリン分解酵素はメタロプロテアーゼであることが分かっている。そこで図1に示す各バンドを質量分析に供した結果、矢印で示す13番のバンド(83kDa)がメタロプロテアーゼの一種であるADAMTS-3であることが判明した。一方、他のバンドは、得られたペプチドの分子量をデータベース検索により解析したところ、メタロプロテアーゼではないと判断された。
【実施例】
【0052】
(第1実施例の具体的説明)
(1)大脳皮質神経細胞培養上清の調製
解剖前日からUntreated Polystyrene Surface 10 cm dishを0.005%Poly-L-Lysineで一晩コートした。翌日、滅菌水を用いて well を4回洗い乾燥させた。麻酔した妊娠 15 日目母親マウス (ICR) を頸椎脱臼により殺し、胎児(9-18匹/1腹)を取り出した。断頭後、クリーンベンチ内で実体顕微鏡下、海馬を除いた大脳皮質を摘出した。摘出した大脳皮質はNeurobasal medium (NB) 15 mLが入った15 mLチューブ中に氷上で保存した。1,000 rpmで1分間遠心して大脳皮質を沈殿させ、アスピレーターでNBを除き、ペレットに0.25% Trypsin/HBSSを加え、37℃で5分間インキュベートした。その後、20% FCSを含むNBを加え、反応を停止した。1,000 rpmで1分間遠心し皮質を沈殿させ、ピペットを用いて上清を除いた。ペレットに0.1% DNase + 12mM MgSO4 を1mL加え、3分間、室温でインキュベートした後、NBを12mL加え、混合した。1,000 rpmで1分間遠心し皮質を沈殿させ、上清をピペットを用いて除いた。先を丸め細くしたパスツールピペットを用いてペレットに2% B27、1% Penicillin/Streptomycin、2mM L-Glutamineを含むNB (NB(+)) を2mL加え、ピペッティングにより細胞を完全に分散させた。その後、NBを12 mL加え1,500 rpm で3分間遠心した。遠心後、上清をピペットを用いて除き、NBを12 mL加え、同様に遠心して上清を除いた。 NB(+) 5-10 mLで懸濁し、細胞数をTrypan blue stain (Invitrogen) を用いて計測した。コートを施した12 well 、24 well もしくは10 cm dishに0.5 - 1.3x106 cell / well となるように播種した。培養は37℃、5%CO2 存在下で行った。数時間後、培地をB27を含まないものに交換し、さらに3から5日間培養後、培養上清を回収し、0.2μmのフィルターで濾過滅菌した。以下の実験に使用するまで、4℃で保存した。
【実施例】
【0053】
(2)リーリン分解活性の強いフラクションの精製
(1)で得た培養上清を、GE社のAktaシステムカラムクロマトグラフィによって分画した。まず、HiTrap Heparin Sepharoseカラムに培養上清を添加し、続いて10mM Tris (pH7.5)で洗浄した。その後、塩化ナトリウム溶液の濃度勾配によって溶出した。リーリン分解活性(下記の第2実施例の方法を用いて測定)は塩化ナトリウム濃度がおよそ600mMのところに溶出された。この画分を回収し、20mM Tris (pH8.0)に対して透析した。以上の操作を、1回あたり150mlの培養上清を用いて行い、6回行った(計900mlの培養上清を使用)得た活性画分を合わせ、これをMonoQカラムに供し、20mM Tris (pH8.0)で洗浄後、塩化ナトリウム溶液の濃度勾配によって溶出した。リーリン分解活性は塩化ナトリウム濃度がおよそ600mMのところに溶出された。この画分を1レーンあたり30μL注ぎ、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)により分離し、銀染色を行った。
【実施例】
【0054】
〔第2実施例:ADAMTS-3によるリーリン分解の実証〕
(第2実施例の概要)
第2実施例に係る図2の説明
図2は第2実施例の概要を示すものである。図2の右半部の上段には図案化した全長リーリンと、そのN-t site(「N-t分解」と表記)が示されている。全長リーリンのすぐ下部に示した「NR6断片」とは全長リーリンがC-t siteで分解された場合におけるアミノ末端側の断片であり、更に下段に示す「NR2断片」とは全長リーリンがN-t siteで切断された場合におけるアミノ末端側の断片である。これらについては、G10抗体の結合部位も付記されている。
【実施例】
【0055】
図2の左半部には第2実施例に係るウエスタンブロッティングの結果を示す。左側のレーンは後述するコントロールの結果を示す。右側の「ADAMTS-3」と表記したレーンは、後述するようにADAMTS-3を発現させたHEK293T細胞の培養上清を用いた場合の結果を示す。そして、分子量マーカーを指標として、ウエスタンブロッティングで現れたバンドと図2の右半部に示す「リーリン全長」、「NR6断片」及び「NR2断片」との対応関係が矢印によって示されている。
【実施例】
【0056】
第2実施例の概要
第2実施例では、下記(a)の培養上清を下記(b)の培養上清と混合した後にウエスタンブロッティングに供した場合(図2の「ADAMTS-3」のレーン、即ち本発明の実施例)と、下記(a)の培養上清を下記(c)の培養上清と混合した後にウエスタンブロッティングに供した場合(図2の「control」のレーン、即ち対照例)とについて、リーリンの分解を対比して調べた。
【実施例】
【0057】
(a)リーリンを発現させたHEK293T細胞の培養上清
(b)ADAMTS-3を発現させたHEK293T細胞の培養上清
(c)何も発現させていないHEK293T細胞の培養上清
その結果、図2から分かるように、本発明の実施例の場合にのみ、全長リーリンとNR6断片が減少し、NR2断片が増加した。つまり、リーリンのN-t siteでの分解が増加した。これにより、ADAMTS-3が活性型リーリンを不活性型に分解する酵素がADAMTS-3であることが実証された。
【実施例】
【0058】
(第2実施例の具体的説明)
(1)リーリンとADAMTS-3の発現
70~80%コンフルエント状態のHEK293T細胞(10cm dishで培養)の培地をOpti-MEM(Invitrogen)に置換し、ADAMTS-3発現プラスミド15μgと30μLのLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いてトランスフェクションを行った。5時間後、50 Units/mL Penicillin + 50 mg/mL Streptomycinを含むOpti-MEMに培地を交換し、37℃、5%CO2存在下で培養した。48h後に0.45μm滅菌フィルターおよび、5mLシリンジを用いて上清を回収した。
【実施例】
【0059】
(2)リーリンとADAMTS-3の反応と、N-t siteでの分解の実証
上記(1)で得たADAMTS-3を含む培養上清と、同様の方法で得たリーリンを1:1の割合で混合し、37℃で5時間-24時間インキュベートした。この反応液を4×SDS sumpling bufferと3:1で混合しサンプル化し、1レーンあたり25μL注ぎ、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)により分離し、セミドライ式転写機を用いてPVDF膜に転写した。転写後のPVDF膜は5%スキムミルクin TBSTで30分間ブロッキングを行った。ブロッキング後、PVDF膜と、抗リーリン抗体(G10, ミリポア社より購入)を含む5%スキムミルク in TBSTとを室温で2時間インキュベートした。その後、PVDF膜をTBSTで5分間×4回洗浄し、HRP標識された二次抗体を含む5%スキムミルク in TBSTを室温で1時間インキュベートした。そして、PVDF膜をTBSTで5分間×4回洗浄し、Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(ミリポア)を用い可視化し、LAS4000(GE Healthcare)にて発光を検出した。その結果、図2に示すように、特異的なN-t siteでの切断産物が増加したことが判明した。従って、ADAMTS-3がリーリンのN-t siteでの切断を担う酵素であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、活性型リーリンを不活性型に分解する酵素が同定され、当該酵素やその遺伝子を利用して、活性型リーリン減少に基づくアルツハイマー病等の疾患に対する有効な治療、研究の手段が提供される。
図面
【図1】
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【図2】
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