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明細書 :セメント用材料及びセメント

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4158945号 (P4158945)
登録日 平成20年7月25日(2008.7.25)
発行日 平成20年10月1日(2008.10.1)
発明の名称または考案の名称 セメント用材料及びセメント
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
FI A61L 27/00 K
A61L 27/00 M
請求項の数または発明の数 12
全頁数 20
出願番号 特願2008-503302 (P2008-503302)
出願日 平成19年9月18日(2007.9.18)
国際出願番号 PCT/JP2007/068031
国際公開番号 WO2008/090648
国際公開日 平成20年7月31日(2008.7.31)
優先権出願番号 2007014536
優先日 平成19年1月25日(2007.1.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年1月21日(2008.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】相澤 守
【氏名】堀口 悠紀子
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100101719、【弁理士】、【氏名又は名称】野口 恭弘
審査官 【審査官】小森 潔
参考文献・文献 特開2005-095346(JP,A)
特表2000-500110(JP,A)
調査した分野 A61L 27/00-27/60
CA(STN)
MEDLINE
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液とを混合して沈澱物を得る工程、
前記沈澱物を含む系をアルカリ性に保ちながら熟成させてヒドロキシアパタイトの粉体を得る工程、
前記ヒドロキシアパタイトの粉体を回収して乾燥する工程、並びに、
前記乾燥させたヒドロキシアパタイトの粉体をフィチン酸(イノシトール六リン酸)及び/又はその塩の溶液中に浸漬して、フィチン酸(イノシトール六リン酸)及び/又はその塩を前記ヒドロキシアパタイトの粉体の表面に吸着させる工程を含み、
吸着後の粉体の比表面積が60~120m2/gであることを特徴とする
セメント用材料の製造方法。
【請求項2】
前記沈澱物を得る工程が、アルカリ性に調整した水酸化カルシウム懸濁液と、リン酸水溶液とを混合して沈澱物を得る工程である請求項1に記載のセメント用材料の製造方法。
【請求項3】
X線回折による前記ヒドロキシアパタイトの粉体の(002)面の半価幅が0.30~0.45°である請求項1又は2に記載のセメント用材料の製造方法
【請求項4】
前記沈澱物を含む系の温度を20~70℃に保ち粉体を得る請求項1~3いずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシアパタイトの粉体を回収して乾燥する工程が、凍結乾燥又は50~150℃で加熱乾燥する工程である請求項1~4のいずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法。
【請求項6】
乾燥させたヒドロキシアパタイトの粉体を容器駆動媒体ミルにより湿式粉砕する工程を更に含む請求項1~5のいずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法。
【請求項7】
ルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液と、フィチン酸(イノシトール六リン酸)及び/又はその塩を含む溶液とを混合して沈澱物を得る工程、並びに、
前記沈澱物を含む系をアルカリ性に保ちながら熟成させてフィチン酸(イノシトール六リン酸)を有するヒドロキシアパタイトの粉体を得る工程を含み、
得られた粉体の比表面積が60~120m2/gであることを特徴とする
セメント用材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法により得られたセメント用材料。
【請求項9】
請求項に記載のセメント用材料を調製するセメント用材料調製工程、
前記セメント用材料と水性溶媒とを混練する混練工程、及び、
混練したセメント用材料を硬化させる硬化工程を含むことを特徴とするセメントの製造方法
【請求項10】
前記混練工程において、セメント用材料と水性溶媒との重量比(固液比)が1/0.31~1/0.45である請求項9に記載のセメントの製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の製造方法により製造されたセメント。
【請求項12】
縮強度が14MPa以上である請求項11に記載のセメント。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント用材料及びセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウムは脊椎動物の骨や歯などの硬組織にみられる無機物質とほぼ同一の組成や構造を有し、生体適合性を示す生体活性材料群である。
中でも、ヒドロキシアパタイトは生体内に埋め込んでも生体の拒否反応や壊死を引き起こさず、生体硬組織に同化、直接結合しやすい性質を有するので、骨欠損部及び骨空隙部等の修復用材料として期待されている。ヒドロキシアパタイトの材料形態は緻密体、多孔体、顆粒、セメント等があるが、任意形状に成形可能なアパタイトセメントは今後の発展が期待される材料である。
【0003】
しかしながら、従来のアパタイトセメントは硬化時間が長く、また、生体内に埋め込んでから生体硬組織に同化、接合が始まるまでの骨誘導期間が4~5週間と長いことが知られている。この性質は患者の苦痛と関係することから、現行のアパタイトセメントの欠点の1つとされている(特許文献1)。また、従来のアパタイトセメントには曲げ強さに弱い欠点もある(非特許文献1)。また、従来のアパタイトセメントでは、硬化する際に酸・塩基反応を伴うために、生体内で硬化するまでの間に局所的なpH変動が起こり、炎症反応が惹起されるという問題点がある。
【0004】
また、β-リン酸三カルシウムからなる多孔体は、移植骨の採取部や腫瘍切除後の補填材として使われているが、大腿骨や脛骨などのように高い荷重を支える長管骨の広範囲の欠損への適応はまだ確立されていない。これは、荷重長管骨と人工骨との界面に生じる過大な応力に耐えるほどの骨結合力が短期間では得られないからである。β-リン酸三カルシウムからなる多孔体は徐々に生体骨に置換されるが長時間を要するため、現実の治療では他の固定材料なしに荷重部分に用いるのには難がある(非特許文献2)。β-リン酸三カルシウムは生体骨に置換される特性を持つため、β-リン酸三カルシウムからなるセメント用材料の開発が臨床の現場より求められているが、未だβ-リン酸三カルシウム単一成分からなる生体吸収性セメントは開発されていない。
【0005】
そこで、本発明者らの一人は上記の問題点を解決した「キレート硬化型骨修復用セメント」、すなわち、イノシトールリン酸のキレート硬化作用を利用して、硬化時にpH変化を伴わず単一成分で硬化するセメントを提案した(特許文献2)。イノシトールリン酸は動植物の生体内に存在し、極めて安全性の高い物質であり、更にEDTAに匹敵するキレート能をもつ。
このセメントは、整形外科領域及び歯科領域において、インジェクションの骨充填材として幅広い応用が期待できるが、圧縮強度が6~7MPaであり、力学的強度にいまだ検討の余地を残しているため、14MPa以上の高負荷のかかる部位(脊椎の圧迫骨折など)への適用には問題があった。
【0006】

【特許文献1】特開平5-229807号公報
【特許文献2】特開2005-95346号公報
【非特許文献1】金澤孝文著「リン」第65~86頁(研成社、1997年)
【非特許文献2】日本化学会編「第6版 化学便覧 応用化学編II」第1485頁(丸善、2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、硬化時にpH変化を伴わないで硬化し、良好な生体適合性及び高負荷のかかる部位(脊椎の圧迫骨折など)へ適用できる14MPa以上の圧縮強度を有するセメント用材料及びセメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記の課題は、以下の手段により達成された。
<1> イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩を表面に吸着させた、カルシウム塩の粉体を含み、前記粉体の比表面積が60~120m2/gであることを特徴とするセメント用材料、
<2> 前記イノシトールリン酸がフィチン酸(イノシトール六リン酸)である<1>に記載のセメント用材料、
<3> 前記カルシウム塩がリン酸カルシウムである<1>又は<2>に記載のセメント用材料、
<4> 前記リン酸カルシウムがヒドロキシアパタイトである<3>に記載のセメント用材料、
<5> X線回折による前記ヒドロキシアパタイトの粉体の(002)面の半価幅が0.30~0.45°である<4>に記載のセメント用材料、
<6> 前記粉体のメジアン径が5~20μmの範囲であり、粒子径が3~50μmである粉体の含有比率が全体の60体積%以上である<1>~<5>のいずれか1つに記載のセメント用材料、
<7> <1>~<6>いずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法であって、アルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液とを混合して沈澱物を得る工程、前記沈澱物を含む系をアルカリ性に保ちながら熟成させてカルシウム塩の粉体を得る工程、前記カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程、並びに、前記乾燥させたカルシウム塩の粉体をイノシトールリン酸及び/又はそれらの塩の溶液中に浸漬して、イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩を前記カルシウム塩の粉体の表面に吸着させる工程よりなることを特徴とするセメント用材料の製造方法、
<8> 前記沈澱物を含む系の温度を20~70℃に保ち粉体を得る<7>に記載のセメント用材料の製造方法、
<9> 前記カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程が、凍結乾燥又は50~150℃で加熱乾燥する工程である<7>又は<8>に記載のセメント用材料の製造方法、
<10> 乾燥したカルシウム塩の粉体を粉砕する工程を更に含む<7>~<9>のいずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法、
<11> 前記粉砕する工程において、粉砕する方法が容器駆動媒体ミルによる湿式粉砕である<10>に記載のセメント用材料の製造方法。
<12> <1>~<6>いずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法であって、アルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液と、イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩を含む溶液とを混合して沈澱物を得る工程、並びに、前記沈澱物を含む系をアルカリ性に保ちながら熟成させてイノシトールリン酸を有するカルシウム塩の粉体を得る工程よりなることを特徴とするセメント用材料の製造方法、
<13> <1>~<6>に記載のセメント用材料、及び、<7>~<12>に記載のセメント用材料の製造方法により得られたセメント用材料よりなる群から選ばれた少なくとも1つのセメント用材料と水性溶媒とを混練し、硬化させたことを特徴とするセメント、
<14> 硬化後の圧縮強度が14MPa以上である<13>に記載のセメント。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント用材料は、pHの変動を伴うことなく硬化し、生体適合性及び高負荷のかかる部位(脊椎の圧迫骨折など)へ適用できる14MPa以上の圧縮強度を有するセメントを与える。本発明のセメントは、骨の欠損部又は空隙部等に充填され、新生骨の発生を容易にし、生体の硬組織と容易に一体化する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】湿式合成HAp/IP6粉体、110℃乾燥HAp/IP6粉体及び仮焼HAp/IP6粉体の粒度分布測定結果を示す図である。
【図2】湿式合成HAp/IP6粉体、110℃乾燥HAp/IP6粉体及び仮焼HAp/IP6粉体の比表面積測定結果を示す図である。
【図3】湿式合成HAp/IP6粉体、110℃乾燥HAp/IP6粉体及び仮焼HAp/IP6粉体のX線回折法(XRD)によるX線回折図である。
【図4】HAp/IP6粉体、乾式粉砕HAp/IP6粉体及び湿式粉砕HAp/IP6粉体の粒度分布測定結果を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のセメント用材料は、イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩を表面に吸着させた、カルシウム塩の粉体を含み、前記粉体の比表面積が60~120m2/gであることを特徴とする。
以下、本発明のセメント用材料について説明する。
【0012】
<イノシトールリン酸又はそれらの塩>
本発明に用いるイノシトールリン酸としては、イノシトール一リン酸、イノシトールニリン酸、イノシトール三リン酸、イノシトール四リン酸、イノシトール五リン酸、フィチン酸(イノシトール六リン酸)が挙げられる。
イノシトールリン酸の塩としては、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等が挙げられる。
これらの中でも、フィチン酸、フィチン酸ナトリウム塩、又はフィチン酸カリウム塩が好ましい。フィチン酸を使用する場合は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムでpHを6~11に調整することから、実質的にフィチン酸ナトリウム塩又はフィチン酸カリウム塩を使用することになる。
なお、フィチン酸ナトリウム塩には、例えばフィチン酸ナトリウム塩38水和物、フィチン酸ナトリウム塩47水和物、フィチン酸ナトリウム塩12水和物等のように、結晶水含量の異なる数種が知られているが、いずれも好ましく用いることができる。
【0013】
本発明において、フィチン酸(以下、「IP6」ともいう。)又はフィチン酸アルカリ金属塩の製造方法には特に限定はなく、いかなる方法で製造したものであってもよい。例えば、フィチン酸ナトリウム塩は、脱脂した植物の種子粉末を希塩酸で抽出し、抽出液から不溶性の銅塩、鉄塩などにして沈澱させ精製した後、ナトリウム塩に変え、アルコールを加えて沈澱させることにより得ることができる。
【0014】
<カルシウム塩>
カルシウム塩としては、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が好ましく用いられる。これらは1種を単独で使用しても2種を同時に使用してもよい。1種を単独で使用する場合、リン酸カルシウムを使用することが好ましい。
【0015】
リン酸カルシウムとしては、ヒドロキシアパタイト、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、非晶質リン酸カルシウムが好ましく、ヒドロキシアパタイト、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウムがより好ましく、特にヒドロキシアパタイトが好ましい。これらは1種を単独で使用しても2種以上を同時に使用してもよい。
【0016】
<比表面積>
本発明において、前記イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩を表面に吸着させた、カルシウム塩の粉体の比表面積は60~120m2/gであり、80~120m2/gであることが好ましく、100~120m2/gであることがより好ましい。前記粉体の比表面積が60m2/g未満であるとカルシウム塩の粉体の表面に前記イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩が十分に吸着しないためキレートサイトが減少し、セメント用材料として使用した場合に十分な圧縮強度のセメントが得られない。
【0017】
粉体の比表面積(Specific Surface Area;SSA)は、マイクロメリティックス自動比表面積測定装置フローソーブIII2305(島津製作所製)を用いてBET法により測定することができる。冷媒には液体窒素を用いた。飽和吸着量の補正値は以下の式を用いて算出した。
S=(273.2/気温(℃))×(気圧(mmHg)/760)×((6.023×1023×16.2×10-20)/(22.414×10))×(1-(窒素の割合(%)×気圧(mmHg))/775)
試料を冷媒で冷却したときに粉体に吸着したガス量(吸着データ)と、試料を冷媒から取り出したときに粉体から放出されるガス量(脱着データ)を測定した。脱着データを実験値として採用した。
【0018】
<X線回折による半価幅>
本発明において、X線回折によるヒドロキシアパタイトの粉体の(002)面の回折線の半価幅は0.30~0.45°であることが好ましく、0.32~0.45°であることがより好ましく、0.35~0.45°であることが更に好ましい。前記半価幅が0.30°未満であると十分な圧縮強度が得られない。
【0019】
X線回折法によりヒドロキシアパタイトなどの結晶子の配向性、結晶構造の決定と構成結晶成分の同定、結晶性の評価、結晶子の3次元的集合組織の評価を併せて行うことができる。
中でも結晶性の評価は各回折線の半価幅を測定することにより行う。前記ヒドロキシアパタイトの粉体の(002)面の半価幅は、Bragg角(2θ)が25.6°の回折ピークを基に算出することができる。半価幅は強度が半分となる位置の回折ピークの幅であり、単位は角度である。この半価幅が大きくなると結晶性が低いことを意味する。なお結晶性は結晶子の大きさと格子歪によって決定され、結晶子が小さく、格子歪が大きい場合に結晶性は低下する。従って本発明においては、半価幅が大きく結晶性が低いカルシウム塩の粉体であることが好ましい。
【0020】
<カルシウム塩の粉体の製造方法>
本発明のセメント用材料に用いるカルシウム塩の粉体の製造方法には特に限定はなく、いかなる方法で製造したものであってもよい。カルシウム塩の粉体の製造方法としては、例えば、乾式法、半乾式法、湿式法等が挙げられ、湿式法であることが好ましい。湿式法であると、低結晶性で比表面積が大きい高純度なカルシウム塩の粉体を効率よく量産することができる。
【0021】
<セメント用材料の製造方法1>
<湿式法によるカルシウム塩の粉体の製造>
本発明で用いるカルシウム塩の粉体を湿式法で製造する場合について説明する。
本発明において、カルシウム塩の粉体の製造方法は、(工程1)アルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液とを混合して沈澱物を得る工程、(工程2)前記沈澱物を含む系をアルカリ性に保ちながら熟成させてカルシウム塩の粉体を得る工程、(工程3)前記カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程、を含むことを特徴とする。
【0022】
(工程1)及び(工程2)について説明する。
(工程1)アルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液とを混合して沈澱物を得る工程において、混合する方法は限定されるものではなく、例えば同時混合法、片側混合法、又はそれらの組合せなどのいずれを用いてもよい。
同時混合法は、リン酸カルシウムを形成する沈澱槽に、アルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液及びリン酸イオンを含む溶液を同時に注入する方法であって、一つの例としてカルシウム塩の沈澱が生成される液相中のカルシウムイオン濃度とリン酸イオン濃度との比を一定に保つ方法、いわゆるコントロールド・ダブルジェット法が挙げられる。
片側混合法は、アルカリ性に調整したカルシウムイオン過剰(又はリン酸イオン過剰)の溶液に対してリン酸イオン(又はカルシウムイオン)を含む溶液を添加してカルシウム塩の沈澱を形成させる方法である。以下にカルシウム塩としてのヒドロキシアパタイトの合成を例に片側混合法について説明する。
予めアルカリ性に調整した水酸化カルシウム等のカルシウムイオンを含む溶液に、リン酸イオンを含む溶液を滴下し、得られた沈澱を含む系をアルカリ性を保ちながら熟成させると、ヒドロキシアパタイトの粉体が得られる。溶液のpHを調整するためのアルカリ性物質としては、アンモニアが好ましく用いられる。反応液中のpHは7~12であることが好ましく、10~11であることがより好ましい。
カルシウムイオンを含む溶液の濃度は、0.5~2.0Mであることが好ましく、0.7~1.5Mであることがより好ましく、0.9~1.1Mであることが更に好ましい。また、リン酸イオンを含む溶液の濃度は0.3~1.2Mであることが好ましく、0.42~0.9Mであることがより好ましく、0.54~0.66Mであることが更に好ましい。
【0023】
カルシウム塩がヒドロキシアパタイトである場合、ヒドロキシアパタイトの粉体に含まれるCa元素とP元素との比はCa元素/P元素=1.60~1.70であることが好ましく、1.63~1.69であることがより好ましい。Ca元素とP元素との比の調整はカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液の濃度比を調整することにより行う。例えばカルシウムイオンを含む溶液のモル濃度とリン酸水溶液のモル濃度との比を5:3とすることにより、溶液中のCa元素とP元素との比を約1.67とすることができる。
Ca元素とP元素との比が上記の数値の範囲内であると、効率的にヒドロキシアパタイトの粉体を得ることができる。また、上記の範囲のヒドロキシアパタイトをセメント用材料として用いた場合に圧縮強度に優れたセメントが得られる。
【0024】
(工程1)において、反応槽の温度は一般には20~70℃、好ましくは30~50℃、特に好ましくは30~40℃である。上記の数値の範囲内であると、比表面積の高いアパタイト微結晶を容易に調製することができる。
【0025】
空気中の炭酸ガスがカルシウム塩の粉体に取り込まれるのを防ぐために、一連の操作は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。この方法では、用いる材料の純度が、得られるカルシウム塩の粉体の純度に反映される。従って、高純度の材料を用いれば、高純度のカルシウム塩の粉体を得ることができる。
【0026】
(工程3)前記カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程について説明する。
カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程は、凍結乾燥又は50~150℃で加熱乾燥する工程であることが好ましく、凍結乾燥であることがより好ましい。凍結乾燥であると、比表面積の大きいカルシウム塩の粉体を得ることができる。
前記カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程が、凍結乾燥である場合は、乾燥温度は-100~-50℃であることが好ましく、-90~-70℃であることがより好ましい。乾燥時間は1~48時間であることが好ましい。
また、前記カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程が、加熱乾燥である場合には、乾燥温度は50~150℃であることが好ましく、70~130℃であることがより好ましく、90~120℃であることが更に好ましい。乾燥時間は1~48時間であることが好ましい。
従来は、適用する生体からの拒絶反応を少なくするために熱処理や酸性溶液への浸漬などによりカルシウム塩の粉体から有機成分等を除去していた。熱処理の場合、300~700℃で1~1,000時間熱処理することにより有機成分等の除去が可能となる。
更に有機成分が除去されたカルシウム塩の粉体を600~1,400℃で仮焼を行いリン酸カルシウム系物質の結晶粒径、多孔質度、配向性、力学特性を調整していた。
本発明のセメント用材料に用いるカルシウム塩は、生体からの拒絶反応を引き起こす物質を含まない。そのため熱処理等による有機成分等の除去を必要としない。また600~1,400℃の仮焼を行わずに、凍結乾燥又は50~150℃の範囲で加熱乾燥することにより低結晶性で比表面積が大きいカルシウム塩の粉体を得ることができる。
【0027】
<メジアン径>
本発明のセメント用材料に用いるカルシウム塩の粉体のメジアン径は3~50μmの範囲であることが好ましく、5~20μmであることがより好ましい。上記の数値の範囲内であると比表面積が大きい粉体が得られるため、圧縮強度に優れたセメントが得られる。粉体のメジアン径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300(堀場製作所製)を用いて算出することができる。
【0028】
<粒度分布>
カルシウム塩の粉体の粒度分布は、粒子径が3~50μmである粉体の比率(体積%)が、全体の60%以上であることが好ましく、全体の80%以上であることがより好ましい。
この比率は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300(堀場製作所製)を用いた測定結果から、粒子径と頻度積算の関係をプロットし、3~50μmの範囲の頻度積算量から求めることができる。
【0029】
<粉砕機>
本発明において前記カルシウム塩の比表面積を増大させるために、カルシウム塩の粉体を機械的に粉砕する工程を更に含むことが好ましい。機械的な粉砕により、比表面積を増大させるのみでなく、効率的に結晶性を低下させることができる。
カルシウム塩の粉体を機械的に粉砕する方法として、種々の粉砕機を用いることができる。粉砕機としては粉体の比表面積や粒子径を所望の範囲とすることができるものであれば公知のものを用いることができ、限定されるものではないが具体的には、竪型ローラーミル、高速回転ミル、容器駆動媒体ミル、及び、媒体撹拌ミル等を挙げることができ、中でも容器駆動媒体ミルが好ましい。
容器駆動媒体ミルとは、通常円筒状のミル容器内に鋼球、陶磁器ボール、玉石、鋼製ロッド、ペブルあるいはビーズなどの粉砕媒体を充填し、ミル容器を駆動させることによって粉砕を行う微粉砕機である。ミルの運動様式によって転動ミル、振動ミル、遊星ミルのように大別され、遊星ミルを好ましく用いることができる。また粉砕媒体の種類でボールミル、ペブルミル、ロッドミルなどに分類され、ボールミルであることが好ましい。従って本発明においては、遊星ボールミルを好ましく用いることができる。
遊星ボールミルは、円筒状粉砕容器が自転しながら、自転軸と平行なミル中心軸の周りを公転する形式のものであり、具体例として遊星型ボールミルP-4、P-5、P-6、及び、P-7(FRITSCH社製)を挙げることができる。
【0030】
前記遊星ボールミルには粉砕媒体として従来公知のものを用いることができ限定されるものではないが、鋼球(SWRM、SUJ2、SUS440、クローム鋼)、セラミック(ハイアルミナ、ステアタイト、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、炭化ケイ素、窒化ケイ素)、ガラス(一般ソーダガラス、無アルカリガラス、ハイビー)、超硬球(タングステンカーバイト)、天然石(フリントSiO2)、及び、プラスチックポリアミド等を例示でき、中でもジルコニア(酸化ジルコニウム)を好ましく用いることができる。
粉砕媒体のモース硬度は8.0~9.0であることが好ましい。上記の数値範囲であると媒体の摩耗や損傷がなく繰り返し使用できる。ジルコニアのモース硬度は8.5である。粉砕媒体の直径は10~40mmであることが好ましく、10~20mmであることがより好ましい。
【0031】
本発明において粉砕は湿式粉砕であることが好ましい。
一般的に湿式粉砕は乾式粉砕に比べて微粉の生成に適している。これは液が粒子表面を濡らすことによって粒子の表面エネルギーを低下させる効果(Rehbinder効果)と、粒子相互の凝集作用を抑制してミル内での砕料の分散状態を保持するという、これらの相乗効果によるものと考えられる。また乾式で微粉砕を行う場合、微細な粒子は粉砕媒体にコーティングしてクッショニング現象を起こして粉砕効率を低下させる。
【0032】
<イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩の吸着>
イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩(以下、イノシトールリン酸等ともいう。)をカルシウム塩の粉体の表面に吸着させるには、イノシトールリン酸等の希薄な溶液中にカルシウム塩の粉体を浸漬処理する。イノシトールリン酸等は、カルシウム塩の粉体表面に化学的に吸着すると考えられる。
【0033】
上記カルシウム塩の粉体を上記イノシトールリン酸等の水溶液と混合して粉体表面に吸着させた後に、粉体を分離し、乾燥することによりイノシトールリン酸等をカルシウム塩の粉体に吸着させた粉体を得ることができる。
【0034】
イノシトールリン酸等の水溶液を用いる場合は、前記水溶液に予めアルカリ水溶液を添加し、好ましくはpH6~11、より好ましくはpH6~8に調整しておくことが好ましい。pHの調整に用いるアルカリ水溶液は、特に限定されず、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。
【0035】
イノシトールリン酸等の水溶液の濃度としては、1,000~10,000ppmであることが好ましく、1,000~5,000ppmであることがより好ましく1,000~2,500ppmであることが更に好ましい。
イノシトールリン酸等とカルシウム塩のモル比としては、0.001~0.1が好ましく、0.001~0.05がより好ましい。
【0036】
吸着させる方法に特に限定はなく、カルシウム塩の粉体を浸漬したイノシトールリン酸等の水溶液を、適宜、撹拌ないし振とうしながら吸着を完結させた後に目的の粉体を分離する。
混合温度は、20~60℃が好ましく、20~40℃がより好ましい。また、混合時間は、2~24時間が好ましく、2~10時間がより好ましい。
【0037】
イノシトールリン酸等を吸着させた粉体の乾燥温度は、カルシウム塩の粉体を回収して乾燥する工程と同じく、凍結乾燥又は50~150℃で加熱乾燥することが好ましく、凍結乾燥であることがより好ましい。また、乾燥時間は、12~48時間が好ましく、12~24時間がより好ましい。
【0038】
上記の方法で調製したセメント用材料は、カルシウム塩の粉体の表面にイノシトールリン酸等が吸着した粉体からなる。特に、カルシウム塩の粉体へのイノシトールリン酸等の吸着は、その吸着等温線のラングミュアープロットから単分子層均一吸着に近似できる。
【0039】
<セメント用材料の製造方法2>
また、セメント用材料の製造方法として以下の方法を採ることもできる。
具体的には、アルカリ性に調整したカルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液と、イノシトールリン酸及び/又はそれらの塩を含む溶液とを混合して沈澱物を得る工程、並びに、前記沈澱物を含む系をアルカリ性に保ちながら熟成させてイノシトールリン酸を有するカルシウム塩の粉体を得る工程よりなることを特徴とするセメント用材料の製造方法を採ることができる。
即ち、前記のカルシウム塩の粉体にイノシトールリン酸等を吸着させる前記の製造方法と異なり、カルシウム塩の合成時にイノシトールリン酸等を含む溶液を同時に添加することを特徴とする。溶液の混合方法は先に述べたセメント用材料の製造方法と同じく限定されるものではないが、例えば片側混合法、同時混合法又はそれらの組合せなどのいずれを用いてもよい。
【0040】
<セメント>
次に、本発明のセメントについて説明する。
本発明のセメント用材料を水性溶媒中で混練してペーストにして使用する。水性溶媒としては主として水が用いられるが、エタノール等の水と混和する溶媒を添加したものも用いることができる。混練したセメント用材料は骨欠損部等の患部に充填し、硬化させることによりセメントを調製することができる。
【0041】
混練時間としては、3分以内に混練から充填までの操作を済ませることが好ましい。水性溶媒のpHは、pH6~11であることが好ましく、pH6~8の水であることがより好ましい。
【0042】
セメント用材料と水性溶媒の重量比、即ち、固液比(粉体/混練液)は通常1/0.30~1/0.60であり、好ましくは1/0.31~1/0.45、更に好ましくは1/0.32~1/0.40である。上記の数値の範囲内であると、硬化させた後に圧縮強度に優れたセメントを得ることができる。
【0043】
本発明のセメント用材料を水性溶媒中で混練する際に、適用する疾患に応じて、でんぷん、グリコサミノグリカン、アルギン酸、キチン、キトサン、ヘパリン等の多糖類、コラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体等のタンパク質、抗リウマチ治療剤、抗炎症剤、抗生物質、抗腫瘍剤、骨誘導因子、レチノイン酸、レチノイン酸誘導体等の生理活性物質を添加してもよい。
【0044】
上記ペーストを骨欠損部等の患部に充填すると、2~3分で硬化し始め、約10分以内で硬化し、セメントになる。セメントは新生骨と結合し、生体硬組織と一体化する。
本発明のセメントは、従来のアパタイトセメントとは異なり硬化時に酸・塩基反応が起こらないので、硬化前後でpH変化がない。したがって、本発明のセメントは炎症反応を惹起する可能性が少ない。
【0045】
本発明のセメントは、硬化時間が短いので、治療時間を短縮することができ、患者の苦痛を低減することができる。本発明のセメントは骨折、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ等の治療に用いることができる。
【0046】
本発明では、セメント原料を微粒化することにより、セメント試料片の高強度化に成功した。本発明でこれまでに得られているセメントの圧縮強度は、約14~25MPaであり、荷重のかかる部位への適用が可能になっている。特に、超高齢化社会の到来により、高齢者に特有の「圧迫骨折」に関する治療はますます増加することは自明であり、本発明が提供する「高強度化キレート硬化型骨修復セメント」をインジェクションして、脊椎の圧迫骨折に適用することにより、臨床的に低侵襲(身体に対する負担や影響が少ない。)な治療法を構築できる。この新たなセメントによる治療法の構築は、グローバルな視点でQOL(生活の質)向上を約束する。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
<合成条件の検討>
合成条件の検討として、表1に示す実験条件でHAp(ヒドロキシアパタイト)の合成を行った。
実験パラメーターは、
合成温度(37、50、70℃)、
撹拌速度(200、400、800rpm)、
試薬濃度(0.1M水酸化カルシウムと0.06Mリン酸、0.5M水酸化カルシウムと0.3Mリン酸、1.0M水酸化カルシウムと0.6Mリン酸、2.0M水酸化カルシウムと1.2Mリン酸)、
pH調整剤(25% NH4OH、1.5M NaOH、1.5M KOH)、
リン酸滴下速度(17、4.2ml/min)
の5種類とした。
【0048】
<湿式合成によるHAp粉体の調製>
以下に具体的な合成方法を示す。
まず、水酸化カルシウム懸濁液500cm3を調製し、それにリン酸水溶液500cm3を滴下した。水酸化カルシウムとリン酸の濃度はCa/P=1.67(モル比)となるように調整した。また、反応槽中のpHが10<pH<11となるようにpH調整剤で調整した。リン酸水溶液滴下が終了した後、更に1時間撹拌してから37℃に設定したインキュベーター中に24時間静置し、熟成させた。熟成後、吸引濾過にてHApスラリーを回収し、-80℃のフリーザーで一晩凍結させた。凍結させたHApスラリーは、凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、湿式合成HAp粉体を得た。
【0049】
<フィチン酸(IP)水溶液の調製>
50重量%IP(和光純薬工業株式会社製)を1.00g精秤し、精製水で300cm3程度に希釈した後、水酸化ナトリウム水溶液と塩酸を用いてpHを7.3に調整し、メスフラスコを用いて500cm3にメスアップすることで濃度1,000ppmのIP水溶液を調製した。
【0050】
<表面修飾による湿式合成HAp/IP6粉体の調製>
濃度1,000ppmのIP水溶液200cm3に湿式合成HAp粉体10.0gを懸濁し、37℃、撹拌速度400rpmで5時間撹拌した。これを吸引濾過し、得られたスラリーを精製水で洗浄した後、-80℃で一晩凍結させた。凍結させたHAp/IP6スラリーは凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、湿式合成HAp/IP6粉体を得た。
【0051】
<セメントの作製>
湿式合成HAp/IP6粉体を用いてセメントを作製した。セメントの作製は、各粉体0.2gに対して精製水を70~120μl(固液比(粉体/混練液)で1/0.35~1/0.60)となるように加えてゴムヘラを用いて混練し、φ5mm金型成形器につめて2kNの成形圧で一軸加圧成形して作製した。成形したセメント試験片は、空気中で24時間乾燥させた。セメント試験片のサイズはφ4.5~5mm、高さ6~8mm、重さ0.2gであった。
【0052】
<セメントの力学特性評価>
セメントの力学特性はすべて圧縮強度試験で評価した。試験機はSHIMADZU製のAUTOGRAPH-AGS-Jを用いた。測定条件を以下に示す。
クロスヘッドスピード :0.5mm・s-1
設定荷重 :5kN
AUTO STOP :ON
【0053】
表1に示す条件で作製したセメント用材料を用いて作製したセメントの圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
JP0004158945B2_000002t.gif

【0055】
表1に示す結果から、以下の実験例では固液比1/0.35において高い圧縮強度が得られた実験パラメーターを選択した。HApの湿式合成条件として、具体的には合成温度37℃、撹拌速度200rpm、試薬濃度として水酸化カルシウム濃度0.5M及びリン酸濃度0.3M、pH調整剤25%NH4OH、リン酸滴下速度17ml/minとした。
【0056】
<湿式合成における乾燥方法及び仮焼による粉体性状の変化>
(実施例2)
<凍結乾燥HAp/IP6粉体の調製>
実施例1で得られた合成条件を使用して「凍結乾燥HAp/IP6粉体」を得た。
得られた凍結乾燥HAp/IP6粉体を用いて実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
<メジアン径及び粒度分布測定>
凍結乾燥HAp/IP6粉体のメジアン径及び粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300(堀場製作所製)を用いて測定した。試料は精製水中に分散させてフローセルにて測定した。凍結乾燥HAp/IP6粉体のメジアン径を表2に、粒度分布測定の結果を図1に示す。
【0058】
<比表面積測定>
凍結乾燥HAp粉体の比表面積(Specific surface area;SSA)は、マイクロメリティックス自動比表面積測定装置フローソーブIII2305(島津製作所製)を用いてBET法により測定した。試料量は0.2gとし、冷媒には液体窒素を用いた。飽和吸着量の補正値は以下の式を用いて算出した。
SSA=(273.2/気温(℃))×(気圧(mmHg)/760)×((6.023×1023×16.2×10-20)/(22.414×10))×(1-(窒素の割合(%)×気圧(mmHg))/775)
試料を冷媒で冷却したときに粉体に吸着したガス量(吸着データ)と、試料を冷媒から取り出したときに粉体から放出されるガス量(脱着データ)を測定した。脱着データを実験値として採用した。凍結乾燥HAp粉体の比表面積測定の結果を表2及び図2に示す。
【0059】
<X線回折法(XRD)による結晶相の同定>
凍結乾燥HAp/IP6粉体は、粉末X線回折装置を用いてX線回折法により同定した。測定はRigaku MiniFlex(理学機器製)を用い、印加電圧30kV、管電流15mAで測定した。表面修飾前後の粉体の結晶相の同定はJCPDSカードを用いて行った。得られたX線回折図を図3に示す。また(002)面の半価幅を表2に示す。
【0060】
(実施例3)
<110℃乾燥HAp/IP6粉体の調製>
実施例2と同様に湿式合成を行い、熟成後、吸引濾過にてHApスラリーを回収し、スラリーを300cm3のアセトン中に懸濁させた後、再び吸引濾過により回収した。回収したHApスラリーは、アセトンが消失するまで風乾させた後、110℃に設定した乾燥機中で二日間乾燥させた。それ以外は実施例2と同様にして「110℃乾燥HAp/IP6粉体」を得た。
得られた110℃乾燥HAp/IP6粉体のメジアン径を表2に、粒度分布測定の結果を図1に、比表面積測定の結果を表2及び図2に、X線回折図を図3に、半価幅を表2に示す。また、得られた110℃乾燥HAp/IP6粉体を用いて実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表2に示す。
【0061】
(比較例1~4)
<仮焼HAp/IP6粉体の調製>
実施例3と同様に回収したHApスラリーを、アセトンが消失するまで風乾させた後、箱型電気炉(光洋サーモシステム製)を用いて各温度(600℃、800℃、1,000℃、1,200℃)で仮焼した。それ以外は実施例2と同様にして「仮焼HAp/IP6粉体(600℃、800℃、1,000℃、1,200℃)」を得た。
得られた各仮焼HAp/IP6粉体のメジアン径を表2に、粒度分布測定の結果を図1に、比表面積測定の結果を表2及び図2に、X線回折図を図3に、半価幅を表2に示す。また、得られた各仮焼HAp/IP6粉体を用いて実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
JP0004158945B2_000003t.gif

【0063】
<ボールミル粉砕による原料粉体の微粒化>
(実施例4)
<乾式粉砕HAp/IP6粉体の作製>
実施例2と同様にして得られた湿式合成HAp粉体をP-6遊星型ボールミル(FRITSCH製)を用いて下記の条件で粉砕した。
ジルコニア製ポットに、実施例2と同じ方法で調製した湿式合成HAp粉体10.0gとφ10mmジルコニアボール50個を入れ、回転数300rpmで5分間乾式粉砕した。粉砕後、精製水を用いて容器から洗い流すように試料を回収し、吸引濾過にて粉砕HApスラリーを回収した。回収したスラリーは-80℃で一晩凍結させた後、凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、乾式粉砕HAp粉体とした。
それ以外は実施例2と同様にして「乾式粉砕HAp/IP6粉体」を得た。得られた乾式粉砕HAp/IP6粉体の粒度分布測定の結果を図4に、メジアン径、比表面積及び半価幅を表3に示す。また、得られた乾式粉砕HAp/IP6粉体を用いて固液比(粉体/混練液)を1/0.31~1/0.60とする他は実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表3に示す。
【0064】
(実施例5)
<湿式粉砕HAp/IP6粉体の作製>
ジルコニア製ポットに、実施例2と同じ方法で調製した湿式合成HAp粉体10.0gとφ10mmジルコニアボール50個、精製水40mlを入れ、回転数300rpmで5分間湿式粉砕した。それ以外は実施例4と同様にして「湿式粉砕HAp/IP6粉体」を得た。得られた湿式粉砕HAp/IP6粉体の粒度分布測定の結果を図4に、メジアン径、比表面積及び半価幅を表3に示す。また、湿式粉砕HAp/IP6粉体を用いて固液比(粉体/混練液)を1/0.31~1/0.60とする他は実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
JP0004158945B2_000004t.gif

【0066】
<キレート剤及びその添加方法の検討>
(比較例5)
<HAp/EDTA粉体の調製>
実施例2と同様にして調製した湿式合成HAp粉体10.0gを濃度1,000ppmのEDTA溶液200cm3に懸濁し、37℃、撹拌速度400rpmで5時間撹拌した。それ以外は実施例2と同様にして「HAp/EDTA粉体」を得た。
得られたHAp/EDTA粉体のメジアン径、比表面積及び半価幅を表4に示す。また、HAp/EDTA粉体を用いて実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表4に示す。
【0067】
(実施例6、7)
<キレート剤濃度を変化させた場合>
実施例2と同様の手順で湿式合成HAp粉体を調製したのち、5,000ppmあるいは10,000ppmに調整したIP水溶液200cm3に粉体を各10.0gずつ懸濁し、37℃、撹拌速度400rpmで5時間撹拌した。それ以外は実施例2と同様にして「HAp/5000IP6粉体」、及び「HAp/10000IP6粉体」を得た。得られた各粉体のメジアン径、比表面積及び半価幅を表4に示す。また、各粉体を用いて実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表4に示す。
【0068】
<IP6の添加タイミングを変化させた場合>
タイミング1~3の3つの添加タイミングでIP6を添加し、それぞれHAp/IP6粉体を合成した。
なお、タイミング1は従来通りの方法(実施例2)である。
【0069】
(実施例8)
<HApスラリーの状態でIP6を添加した場合(タイミング2)>
実施例2と同様に湿式合成を行い、熟成後、吸引濾過にてHApスラリーを回収した。回収したスラリーは乾燥させずに濃度1,000ppmのIP水溶液500cm3に懸濁し、撹拌速度400rpm、37℃で5時間撹拌した。これを吸引濾過し、得られたスラリーを精製水で洗浄したのち、-80℃で一晩凍結させた。凍結させたHAp/IP6スラリーは凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、「湿式HAp/IP6粉体(タイミング2)」を得た。得られた湿式HAp/IP6粉体(タイミング2)のメジアン径、比表面積及び半価幅を表4に示す。また、湿式HAp/IP6粉体(タイミング2)を用いて実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表4に示す。
【0070】
(実施例9)
<合成時にIP6添加の場合(タイミング3)>
濃度0.5Mの水酸化カルシウム懸濁液500cm3に濃度0.3Mのリン酸水溶液500cm3と濃度1,000ppmのIP水溶液500cm3を毎分17cm3の速度で滴下した。このとき、撹拌速度200rpm、溶液中の温度は37℃に保ち、溶液のpHが10<pH<11となるように25%NH4OH溶液で調整した。リン酸滴下後、更に1時間撹拌したのち、37℃に設定したインキュベーター中に24時間静置し、熟成させた。熟成後、吸引濾過にてHApスラリーを回収し、-80℃で一晩凍結させた。凍結させたHAp/IP6スラリーは凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、「湿式HAp/IP6粉体(タイミング3)」を得た。得られた湿式HAp/IP6粉体(タイミング3)のメジアン径、比表面積及び半価幅を表4に示す。また、湿式HAp/IP6粉体(タイミング3)を用いて実施例1と同様にしてセメントを作製し、セメントの圧縮強度を測定した結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
JP0004158945B2_000005t.gif

【0072】
(比較例6)
HAp-100(ヒドロキシアパタイト 太平化学製)を目開き37μmのふるいにより分級してメジアン径18.3μmのHAp-100粉体を得た(比表面積48.2m2/g)。得られた分級済のHAp-100粉体2.5gをIP水溶液50ml(3.0mM、pH7.3、0.15mmol)に加え、5時間振とうした。吸引濾過によりHAp-100/IP6を濾取し、減圧下24時間乾燥した。調製したHAp-100/IP6に水を、固液比1/0.60(重量比)で混合し、1分間混練後、成形器に充填した。硬化したセメントの圧縮強度を測定した結果、圧縮強度は6.8MPaであった。
【0073】
<実施例10>
(1)生体擬似体液の調製
約700mlの蒸留水に、塩化ナトリウム(7.996g)、炭酸水素ナトリウム(0.350g)、塩化カリウム(0.224g)、リン酸水素カリウム三水和物(0.228g)、塩化マグネシウム六水和物(0.305g)、1M塩酸(40ml)、塩化カルシウム(0.278g)、硫酸ナトリウム(0.071g)及びトリスヒドロキシメチルアミノメタン(6.057g)を順次加えた。1M塩酸を用いてpHを7.40に調整した後に、蒸留水を加え、全液量を正確に1,000mlとした。
【0074】
(2)生体擬似体液浸漬実験
実施例1で調製したセメントを生体擬似体液中に浸漬し、セメントの圧縮強度及び生体擬似体液中のカルシウムイオン若しくはリンイオンのイオン濃度を経時的に測定した。
生体擬似体液中のカルシウムイオン若しくはリンイオンのイオン濃度は経時的に減少し、6日後以降一定のイオン濃度になった。この結果は、セメント上にリン酸カルシウムが析出していることを示唆しており、擬似体液中のカルシウムイオン及びリン酸イオン濃度の経時変化の割合から考えると、析出しているのはHApであると推察される。
また、生体擬似体液に浸漬してから30日後におけるセメントの圧縮強度を測定したところ、19.1MPaの圧縮強度を示した。
【0075】
<実施例11>
骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)(6×104個)をポリスチレンプレート中に播種し、1日間培養した。前記ポリスチレンプレート中にトランズウェルを設置し、実施例1で調製したセメントを投入し、2、4、6及び8日後の細胞数を数えた。
細胞数は経時的に増加し、6日後には飽和密度に達した。この結果から、本発明のセメントは良好な生体適合性を有することがわかった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3