TOP > 国内特許検索 > セメント用材料、セメント用材料の製造方法、セメントの製造方法及びセメント > 明細書

明細書 :セメント用材料、セメント用材料の製造方法、セメントの製造方法及びセメント

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5354562号 (P5354562)
公開番号 特開2009-183498 (P2009-183498A)
登録日 平成25年9月6日(2013.9.6)
発行日 平成25年11月27日(2013.11.27)
公開日 平成21年8月20日(2009.8.20)
発明の名称または考案の名称 セメント用材料、セメント用材料の製造方法、セメントの製造方法及びセメント
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
C04B  12/02        (2006.01)
C04B  24/02        (2006.01)
C04B  28/34        (2006.01)
A61K   6/033       (2006.01)
FI A61L 27/00 J
C04B 12/02
C04B 24/02
C04B 28/34
A61L 27/00 M
A61K 6/033
請求項の数または発明の数 10
全頁数 28
出願番号 特願2008-027149 (P2008-027149)
出願日 平成20年2月7日(2008.2.7)
審査請求日 平成22年10月18日(2010.10.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】相澤 守
【氏名】堀口 悠紀子
個別代理人の代理人 【識別番号】100101719、【弁理士】、【氏名又は名称】野口 恭弘
審査官 【審査官】山村 祥子
参考文献・文献 特開2005-095346(JP,A)
特表2000-500110(JP,A)
調査した分野 A61L 27/00
A61K 6/033
C04B 12/02
C04B 24/02
C04B 28/34
特許請求の範囲 【請求項1】
イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体であって、前記粉体が、その他のカルシウム塩としてカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトを含むことを特徴とする
圧縮強度10MPa以上のセメント形成用セメント用材料。
【請求項2】
前記リン酸三カルシウムがα-リン酸三カルシウム及び/又はβ-リン酸三カルシウムである請求項1に記載のセメント用材料。
【請求項3】
前記粉体は、リン酸三カルシウムを60重量%以上含有する粉体であり、前記その他のカルシウム塩の全量に対して、前記カルシウム欠損ヒドロキシアパタイトを80~100重量%含有する、請求項1又は2に記載のセメント材料。
【請求項4】
前記イノシトールリン酸がフィチン酸である請求項1~3いずれか1つに記載のセメント用材料。
【請求項5】
前記粉体の比表面積が20~150m2/gである請求項1~4いずれか1つに記載のセメント用材料。
【請求項6】
前記粉体のメジアン径が1~μmの範囲である請求項1~5いずれか1つに記載のセメント用材料。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1つに記載の圧縮強度10MPa以上のセメント形成用セメント用材料の製造方法であって、
リン酸三カルシウムの粉体を、リン酸三カルシウムとカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトとの二相になるまで粉砕する粉砕工程、及び、
前記粉砕工程により得られた粉体をイノシトールリン酸の溶液中に浸漬して、イノシトールリン酸を前記粉体の表面に吸着させる吸着工程よりなることを特徴とする
セメント用材料の製造方法。
【請求項8】
前記粉砕工程において、粉砕する方法が容器駆動媒体ミルによる湿式粉砕である請求項7に記載のセメント用材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6いずれか1つに記載のセメント用材料を調製するセメント用材料調製工程、
前記セメント用材料と混練液とを混練するセメント組成物調製工程、及び、
前記セメント組成物を硬化させる硬化工程を含むことを特徴とする
セメントの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により製造したことを特徴とする
セメント。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント用材料、セメント用材料の製造方法、セメントの製造方法及びセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウムは脊椎動物の骨や歯などの硬組織にみられる無機物質とほぼ同一の組成や構造を有し、生体適合性を示す生体活性材料群である。
中でも、ヒドロキシアパタイトは生体内に埋め込んでも生体の拒否反応や壊死を引き起こさず、生体硬組織に同化、接合しやすい性質を有するので、骨欠損部及び骨空隙部等の修復用材料として期待されている。ヒドロキシアパタイトの材料形態は緻密体、多孔体、顆粒、セメント等があるが、任意形状に成形可能なアパタイトセメントは今後の発展が期待される材料である。
【0003】
しかし、ヒドロキシアパタイトを原料とするアパタイトセメントは、骨欠損部に補填することで欠損部への軟組織の進入を防ぐ機能(スペースメーキング)は十分であるものの、完全に骨に置き換わる場合がほとんどないため、自家骨移植や骨補填材と自家骨を混合して使用されることが多い。しかしその場合は大がかりな外科的な処置になるので実際の臨床への応用となると開業医レベルでの処置は難しい。完全に骨に置き換わる骨補填材の適用がより望ましいものと考えられている。
【0004】
臨床的に利用されているバイオセラミックスの中で、一般的にヒドロキシアパタイトは生体内で安定であり、リン酸三カルシウム(β型及びα型いずれも)は生体内で吸収されることが知られている。
セメントではないが、特許文献1には、中心部がβ-リン酸三カルシウムで表面部がα-リン酸三カルシウムであるリン酸カルシウム粒子の製造方法が開示されている。特許文献1に記載された発明は、骨吸収性のα、β-リン酸三カルシウム(TCP)のそれぞれの特性に着目し、骨補填材として表面がα-TCPで中心部がβ-TCPである材料の製造方法を開発し補填後初期の段階でα-TCPにより新生骨を形成させた後、α-TCPが消失し、その後吸収速度が遅いβ-TCPが残り、長期的に骨へ置換するような骨補填材を製造できるようにしたものである。
【0005】
従来のアパタイトセメント技術では、1)リン酸四カルシウムとリン酸水素二アンモニウムとの酸・塩基反応によりヒドロキシアパタイトを形成させて硬化させる方法、及び、2)α-リン酸三カルシウムを主成分とし、その加水分解によりアパタイトを形成させて硬化させる方法が主流であった。これらのプロセスは最終生成物がアパタイトとなるため、生体吸収性を備えたリン酸三カルシウム単一相あるいはそれを主成分とする骨修復セメントを作製することはできなかった。
また、この従来のセメント技術では、硬化する際に酸・塩基反応を伴うために生体内で硬化するまでの間に局所的なpH変動が起こり、炎症反応が惹起されるという問題点もあった。この問題を解決する手段として、特許文献2の方法がある。特許文献2には、イノシトールリン酸若しくはフィチン酸又はそれらの塩をカルシウム化合物の表面に吸着させた微結晶を含むことを特徴とするセメント用材料が開示されている。
【0006】

【特許文献1】特開2006-122606号公報
【特許文献2】特開2005-95346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、生体吸収性を備え、さらに硬化性に優れ、硬化時にpH変化を伴わずに硬化可能なセメント用材料及び該セメント用材料の製造方法、並びに、生体吸収性及び圧縮強度に優れたセメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記の課題は、以下の手段により達成された。
<1> イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体を含むことを特徴とするセメント用材料、
<2> 前記リン酸三カルシウムがα-リン酸三カルシウム及び/又はβ-リン酸三カルシウムである<1>に記載のセメント用材料、
<3> 前記粉体が、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイトを含む<1>又は<2>に記載のセメント用材料、
<4> 前記イノシトールリン酸がフィチン酸である<1>~<3>いずれか1つに記載のセメント用材料、
<5> 前記粉体の比表面積が10~150m2/gである<1>~<4>いずれか1つに記載のセメント用材料、
<6> 前記粉体のメジアン径が1~10μmの範囲である<1>~<5>いずれか1つに記載のセメント用材料、
<7> <1>~<6>いずれか1つに記載のセメント用材料の製造方法であって、リン酸三カルシウムの粉体を粉砕する粉砕工程、及び、前記粉砕工程により得られた粉体をイノシトールリン酸の溶液中に浸漬して、イノシトールリン酸を前記粉体の表面に吸着させる吸着工程よりなることを特徴とするセメント用材料の製造方法、
<8> 前記粉砕工程において、粉砕する方法が容器駆動媒体ミルによる湿式粉砕である<7>に記載のセメント用材料の製造方法、
<9> <1>~<6>いずれか1つに記載のセメント用材料を調製するセメント用材料調製工程、前記セメント用材料と混練液とを混練するセメント組成物調製工程、及び、前記セメント組成物を硬化させる硬化工程を含むことを特徴とするセメントの製造方法、
<10> <9>に記載の製造方法により製造したことを特徴とするセメント。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、生体吸収性を備え、さらに硬化性に優れ、硬化時にpH変化を伴わずに硬化可能なセメント用材料及び該セメント用材料の製造方法、並びに、生体吸収性及び圧縮強度に優れたセメントを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1.セメント用材料
本発明のセメント用材料は、イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体を含むことを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
(1)イノシトールリン酸
本発明において「イノシトールリン酸」という場合にはその塩も含み、特に断りのない限り「イノシトールリン酸及び/又はその塩」と同義である。本発明に用いるイノシトールリン酸としては、イノシトール一リン酸、イノシトール二リン酸、イノシトール三リン酸、イノシトール四リン酸、イノシトール五リン酸及びフィチン酸(イノシトール六リン酸)が挙げられる。
イノシトールリン酸の塩としては、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及びバリウム塩等が挙げられる。
これらの中でも、フィチン酸、フィチン酸ナトリウム塩又はフィチン酸カリウム塩を単独あるいは2以上を併用する態様が好ましい。フィチン酸を使用する場合は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムでpHを6~11に調整してフィチン酸ナトリウム塩又はフィチン酸カリウム塩として使用することが好ましい。
なお、フィチン酸ナトリウム塩には、例えばフィチン酸ナトリウム塩38水和物、フィチン酸ナトリウム塩47水和物、フィチン酸ナトリウム塩12水和物等のように、結晶水含量の異なる数種が知られているが、いずれも好ましく用いることができる。
【0012】
本発明において、フィチン酸又はフィチン酸アルカリ金属塩の製造方法には特に限定はなく、いかなる方法で製造したものであってもよい。例えば、フィチン酸ナトリウム塩は、脱脂した植物の種子粉末を希塩酸で抽出し、抽出液から不溶性の銅塩、鉄塩などにして沈澱させ精製した後、ナトリウム塩に変え、アルコールを加えて沈澱させることにより得ることができる。
【0013】
(2)リン酸三カルシウム
本発明のセメント用材料は、イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体を含むことを特徴とする。
リン酸三カルシウム(Ca3(PO42、以下、「TCP」ともいう)はヒドロキシアパタイトに比べて、生体内に吸収され易い。リン酸三カルシウムの合成方法としては、乾式法、水熱法、湿式法及びアルコキシド法が挙げられるが、本発明においてはいずれの合成方法によって得たものでもよい。なお、Ca/P(モル比)は1.5となるように合成する。
主なリン酸三カルシウムには、α、α’及びβの3相が知られているが、本発明のセメント用材料は、α-リン酸三カルシウム及び/又はβ-リン酸三カルシウムを含むことが好ましい。
【0014】
β-リン酸三カルシウムを主成分としたセメントは、材料が緻密な状態である場合には吸収される速度が遅く、臨床的には欠損部への充填の後、約半年経過後に、その部位にインプラントを植立しようとしてもセメントが骨に置換していない場合が殆どである。
【0015】
一方、α-リン酸三カルシウムを主成分としたセメントは、β-リン酸三カルシウムを主成分としたセメントと比較して骨内での吸収が早いが、α-リン酸三カルシウム自体が消失してしまい、骨に置換されない場合が多い。特開2000-295号公報にはα-リン酸三カルシウムを主成分とし、他のリン酸カルシウム塩等と混合し、α-リン酸三カルシウムの持つ加水分解特性を利用した骨セメントとしての応用が開示されている。しかしながらα-リン酸三カルシウムを主成分とした骨補填材ではα-リン酸三カルシウムの吸収が早いため本来の目的であるスペースメーキングの役割を果たさないまま消失してしまう結果となる。
【0016】
特開2006-122606号公報に記載されている従来のリン酸三カルシウムセメントは、水と混練すると次式に示すようにヒドロキシアパタイト(Ca10(PO46(OH)2)を生成する。
10Ca3(PO42+H2O→3Ca10(PO46(OH)2+2H3PO4
ヒドロキシアパタイトは、体組織に対して非吸収性又は難吸収性のものであり、後々まで充填部に残存するために、完全に骨に置換することがなくなってしまう。
【0017】
本発明のセメント用材料は、イノシトールリン酸のキレート作用によりそのリン酸カルシウム組成を維持したまま硬化するので、従来のリン酸三カルシウムを出発原料として利用したセメントと異なり、水と混練してもヒドロキシアパタイトを生成させることなく硬化する。従って得られたセメントは生体吸収性に優れ、かつ、充填部にヒドロキシアパタイトを残存させることがないため完全に骨に置換することが可能である。
【0018】
本発明のセメント用材料は、リン酸三カルシウム以外にも生体吸収性を示すその他のカルシウム塩を含有していてもよい。リン酸三カルシウムとは異なる生体吸収性を示すその他のカルシウム塩を含有することにより、生体内で吸収される期間を調節することができる。また、その他のカルシウム塩を含有することにより、セメントの圧縮強度を向上させることも可能である。
その他のカルシウム塩を含有する態様としては、例えばリン酸三カルシウムの単一相よりなる粉体とその他のカルシウム塩の単一相よりなる粉体とを任意の割合で配合して用いる態様や、リン酸三カルシウムとその他のカルシウム塩とを任意の割合で含有する二相以上よりなる粉体を用いる態様等が挙げられ、本発明においてはいずれの態様でもよい。
本発明に用いることができるその他のカルシウム塩としては、リン酸三カルシウムを除くリン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が好ましく、リン酸カルシウムを使用することがより好ましい。
【0019】
その他のカルシウム塩として用いることができるリン酸カルシウムとしては、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、非晶質リン酸カルシウム等が挙げられ、中でもカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトが好ましい。これらのカルシウム塩は1種又は2種以上を併用することもできる。
【0020】
ここでいうカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトとは、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO46(OH)2)からカルシウムが欠損したものを意味し、具体的にはCa10-x(HPO4x(PO46-x(OH)2-x・nH2Oの組成を有するものを意味する。
カルシウム欠損ヒドロキシアパタイトは、ヒドロキシアパタイトと比較して生体吸収性に優れ、リン酸三カルシウムと併用した場合にはセメントの圧縮強度が向上するため、併用するその他のカルシウム塩として好ましい。
【0021】
リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体は、その他のカルシウム塩を含有する場合にはリン酸三カルシウムを60重量%以上含有する粉体であることが好ましく、70重量%以上含有する粉体であることがより好ましい(以下、「リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体」を単に「リン酸三カルシウムを含有する粉体」ともいう)。
その他のカルシウム塩を含有する場合、リン酸三カルシウム及びその他のカルシウム塩の全量を100重量%とすると、その他のカルシウム塩は10~40重量%含まれることが好ましく、15~30重量%含まれることがより好ましい。
また、その他のカルシウム塩を含有する場合において、その他のカルシウム塩の全量中、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイトを80~100重量%含有することが好ましく、100重量%含有することがより好ましい。上記の数値の範囲内であると生体吸収性に優れたセメントを提供することができる。
【0022】
<比表面積>
本発明において、イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体の比表面積は10~150m2/gであることが好ましく、20~150m2/gであることがより好ましい。
上記の数値の範囲内であるとカルシウム塩の粉体の表面に前記イノシトールリン酸が十分に吸着するため十分なキレートサイトが得られ、セメント用材料として使用した場合に十分な圧縮強度のセメントが得られる。また、上記の数値の範囲内であると生体吸収性に優れる。
【0023】
粉体の比表面積(Specific Surface Area;SSA)は、マイクロメリティックス自動比表面積測定装置フローソーブIII2305((株)島津製作所製)を用いてBET法により測定することができる。冷媒には液体窒素を用いることが好ましい。飽和吸着量の補正値は以下の式を用いて算出することができる。
S=(273.2/気温(℃))×(気圧(mmHg)/760)×((6.023×1023×16.2×10-20)/(22.414×10))×(1-(窒素の割合(%)×気圧(mmHg))/775)
試料を冷媒で冷却したときに粉体に吸着したガス量(吸着データ)と、試料を冷媒から取り出したときに粉体から放出されるガス量(脱着データ)を測定し、脱着データを実験値として採用することにより算出できる。
【0024】
<メジアン径、粒度分布>
イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを含有する粉体のメジアン径は1~10μmであることが好ましく、1~8μmであることがより好ましく、1~5μmであることがさらに好ましい。上記の数値の範囲内であると圧縮強度及び生体吸収性に優れたセメントが得られる。粉体のメジアン径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300((株)堀場製作所製)を用いて算出することができる。
【0025】
粉体の粒度分布は粒子径が1~10μmである粉体の比率(体積%)が、全体の80%以上であることが好ましく、全体の90%以上であることがより好ましい。
この比率は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300((株)堀場製作所製)を用いた測定結果から、粒子径と頻度積算の関係をプロットし、1~10μmの範囲の頻度積算量から求めることができる。
【0026】
<セメント用材料の製造方法>
本発明のセメント用材料の製造方法は、リン酸三カルシウムの粉体を粉砕する粉砕工程、及び、前記粉砕工程により得られた粉体をイノシトールリン酸の溶液中に浸漬して、イノシトールリン酸を前記粉体の表面に吸着させる吸着工程よりなることを特徴とする。
【0027】
本発明のセメント用材料の製造方法は、リン酸三カルシウムの粉体を粉砕する粉砕工程を含む。
カルシウム塩の粉体を機械的に粉砕する方法として、種々の粉砕機を用いることができる。粉砕機としては粉体の比表面積や粒子径を所望の範囲とすることができるものであれば公知のものを用いることができ、限定されるものではないが具体的には、竪型ローラーミル、高速回転ミル、容器駆動媒体ミル、及び、媒体撹拌ミル等を挙げることができ、中でも容器駆動媒体ミルが好ましい。
容器駆動媒体ミルとは、通常円筒状のミル容器内に鋼球、陶磁器ボール、玉石、鋼製ロッド、ペブルあるいはビーズなどの粉砕媒体を充填し、ミル容器を駆動させることによって粉砕を行う微粉砕機である。ミルの運動様式によって転動ミル、振動ミル、遊星ミルのように大別され、中でも遊星ミルを好ましく用いることができる。また粉砕媒体の種類でボールミル、ペブルミル、ロッドミルなどに分類され、中でもボールミルであることが好ましい。従って本発明においては、遊星ボールミルを好ましく用いることができる。
遊星ボールミルは、円筒状粉砕容器が自転しながら、自転軸と平行なミル中心軸の周りを公転する形式のものであり、具体例として遊星型ボールミルP-4、P-5、P-6、及び、P-7(FRITSCH社製)を挙げることができる。
【0028】
前記遊星ボールミルには粉砕媒体として公知のものを用いることができ限定されるものではないが、鋼球(SWRM、SUJ2、SUS440、クローム鋼)、セラミック(ハイアルミナ、ステアタイト、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、炭化ケイ素、窒化ケイ素)、ガラス(一般ソーダガラス、無アルカリガラス、ハイビー)、超硬球(タングステンカーバイト)、天然石(フリントSiO2)、及び、プラスチックポリアミド等を例示でき、中でもジルコニア(酸化ジルコニウム)を好ましく用いることができる。
粉砕媒体のモース硬度は8.0~9.0であることが好ましい。上記の数値範囲であると媒体の摩耗や損傷がなく繰り返し使用できる。ジルコニアのモース硬度は8.5である。粉砕媒体の直径は2~40mmであることが好ましく、10~20mmであることがより好ましい。
【0029】
本発明において粉砕工程は湿式粉砕により行われることが好ましい。
一般的に湿式粉砕は乾式粉砕に比べて微粉の生成に適している。これは液が粒子表面を濡らすことによって粒子の表面エネルギーを低下させる効果(Rehbinder効果)と、粒子相互の凝集作用を抑制してミル内での砕料の分散状態を保持するという、これらの相乗効果によるものと考えられる。乾式で微粉砕を行う場合、微細な粒子は粉砕媒体をコーティングしてクッショニング現象を起こして粉砕効率を低下させる。
【0030】
<イノシトールリン酸の吸着>
本発明のセメント用材料の製造方法は、前記粉砕工程により得られた粉体をイノシトールリン酸の溶液中に浸漬して、イノシトールリン酸を前記粉体の表面に吸着させる吸着工程を含む。
イノシトールリン酸を、リン酸三カルシウムを含有する粉体の表面に吸着させるには、イノシトールリン酸の希薄な溶液中にリン酸三カルシウムを含有する粉体を浸漬処理することが好ましい。イノシトールリン酸は、浸漬処理により粉体表面に化学的に吸着すると考えられる。
【0031】
リン酸三カルシウムを含有する粉体をイノシトールリン酸の水溶液と混合して粉体表面に吸着させた後に、粉体を分離し、乾燥することにより、イノシトールリン酸を表面に吸着させた粉体を得ることができる。
【0032】
イノシトールリン酸の水溶液を用いる場合は、前記水溶液に予めアルカリ水溶液を添加し、好ましくはpH6~11、より好ましくはpH6~8に調整しておくことが好ましい。pHの調整に用いるアルカリ水溶液は、特に限定されず、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。
【0033】
イノシトールリン酸の水溶液の濃度としては、1,000~10,000ppmであることが好ましく、1,000~5,000ppmであることがより好ましく1,000~3,000ppmであることがさらに好ましい。
【0034】
吸着させる方法に特に限定はなく、イノシトールリン酸の水溶液にリン酸三カルシウムを含有する粉体を浸漬し、適宜、撹拌ないし振とうしながら吸着を完結させた後に目的の粉体を分離する。
混合温度は、20~60℃が好ましく、20~40℃がより好ましい。また、混合時間は、2~24時間が好ましく、2~10時間がより好ましい。
【0035】
イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを含有する粉体を回収して乾燥する工程について説明する。
イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを含有する粉体を回収して乾燥する工程は、凍結乾燥又は50~150℃で加熱乾燥する工程であることが好ましく、凍結乾燥であることがより好ましい。凍結乾燥であると、比表面積の大きいイノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを含有する粉体を得ることができる。
前記イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを含有する粉体を回収して乾燥する工程が、凍結乾燥である場合は、乾燥温度は-150~0℃が好ましく、-80~-10℃であることがより好ましく、-50~-30℃であることがさらに好ましい。乾燥時間は1~48時間であることが好ましい。
また、前記イノシトールリン酸を表面に吸着させたリン酸三カルシウムを含有する粉体を回収して乾燥する工程が、加熱乾燥である場合には、乾燥温度は50~150℃であることが好ましく、70~130℃であることがより好ましく、90~120℃であることがさらに好ましい。乾燥時間は1~48時間であることが好ましい。
【0036】
上記の方法で調製したセメント用材料は、リン酸三カルシウムを含有する粉体の表面にイノシトールリン酸等が吸着した粉体からなる。リン酸三カルシウムを含有する粉体へのイノシトールリン酸等の吸着は、その吸着等温線のラングミュアープロットから単分子層均一吸着に近似できる。
【0037】
単分子層均一吸着した場合の吸着量の具体例について説明する。ヒドロキシアパタイト粉体(HAp-100、太平化学産業(株)、比表面積48.2m2/g)を、pH6.0~8.0のフィチン酸水溶液(濃度1,000ppm)に浸漬し、ヒドロキシアパタイト粉体表面にフィチン酸を吸着させた。
吸着量は吸着前後のフィチン酸溶液中のリン濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析(ICP)法により測定して決定した。pH6.0のフィチン酸水溶液を用いた場合には、ヒドロキシアパタイト1gあたりに12.85mg/gのフィチン酸の吸着量が確認された。また、pH7.0のフィチン酸水溶液を用いた場合には14.93mg/g、pH8.0のフィチン酸水溶液を用いた場合には11.29mg/gのフィチン酸の吸着量が確認された。
【0038】
2.混練液
前記セメント用材料を混練液と混練することによりセメント組成物を調製することができる。混練液は、下記の溶媒(1)に、多糖(2)及び/又はイノシトールリン酸(3)を溶かした溶液からなることが好ましいが、多糖及びイノシトールリン酸等を溶媒に溶解させた溶液であることも好ましい態様である。所望によりさらに添加剤(4)を加えた溶液であってもよい。
【0039】
(1)溶媒
混練液に含まれる溶媒としては、水、及び、水とエタノール等の水溶性有機溶剤との混合物等が挙げられるが、本発明においては水が好ましい。
【0040】
(2)多糖
多糖は公知のものを用いることができ、限定されるものではないが、植物、動物等から抽出、単離した多糖、遺伝子工学的手法によって改変された微生物に生産させた多糖、化学的合成により入手した多糖等を使用することができる。
【0041】
本発明においては、前記多糖は水溶性の多糖であることが好ましい。
本発明に用いることができる水溶性の多糖の具体例としては、微生物由来の多糖、植物由来の多糖、海藻由来の多糖及び哺乳動物由来の多糖等が挙げられる。
より具体的には、デキストラン、カードラン、プルラン及びキサンタン等の微生物由来の多糖、ヘミセルロース、ペクチン、樹液(ゴム)、デンプン及びセルロース等の植物由来の多糖、アルギン酸、ポリウロン酸塩及び硫酸化ガラクタン(寒天、ポルフィラン、カラギーナン)等の海藻由来の多糖、並びに、グリコーゲン、キチン及びプロテオグリカン(コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸)等の哺乳動物由来の多糖が挙げられる。上記の多糖の他にも、バクテリア多糖、複合糖質、糖タンパク質及び糖脂質等が挙げられる。
【0042】
本発明に用いることができる多糖は、酸性基を有する多糖であることが好ましい。本発明においては特に断りのない限り「酸性基を有する多糖」は「酸性基を有する多糖及び/又はその塩」と同義である。酸性基を有する多糖は水に対する溶解度が高く、本発明の効果を享受しやすい。
本発明において、酸性基を有する多糖は公知の多糖に化学的に酸性基を導入したもの、並びに、天然由来の酸性基を有する多糖及びそれらにさらに化学的に酸性基を導入したものも含む。
酸性基としては、カルボキシ基(-COOH)、硫酸基(-OSO3H)、リン酸基(-OPO32)等が挙げられ、中でもカルボキシ基、硫酸基が好ましい。
また、酸性基を有する多糖の塩には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属との塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩等が挙げられ、中でもナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0043】
本発明に用いることができる酸性基を有する多糖の具体例としては、デキストラン硫酸、ヘパリン、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、硫酸化レンチナン、フコイダン、キシロフラナン硫酸、リボフラナン硫酸、セルロース硫酸、カードラン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、キサンタンガム、アルギン酸、ペクチン及びこれらの塩が挙げられる。上記酸性基を有する多糖は1種または2種以上を併用して用いることができる。
本発明においては、酸性基を有する多糖は、硫酸基及び/又はカルボキシ基を有する多糖が好ましく、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸及びこれらの塩がより好ましく、デキストラン硫酸塩がさらに好ましい。
【0044】
本発明においては、公知の多糖に硫酸基を導入したものを用いてもよい。
多糖に硫酸基を導入する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、原料の多糖1gに対し、氷冷した溶媒を10~30ml用意し、これに硫酸化剤を原料多糖1gに対して2~6倍加える。この溶媒に、原料の多糖1gを加え、0~100℃で、1~10時間反応させることにより、硫酸基を導入することができる。
硫酸化剤としては糖類の硫酸化に用いられるものであれば公知のものを用いることができ、限定されるものではないが、例えば、三酸化イオウ-ピリジン錯体、三酸化イオウ-トリメチルアミン錯体、クロロスルホン酸-ピリジン錯体、ジシクロヘキシルカルボジイミド-硫酸等を挙げることができる。
使用する溶媒としては、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、N,N-ジアルキルアクリルアミド等が使用できる。
【0045】
生成した多糖は、各種修飾多糖の製造で常用されている精製操作により精製することができる。例えば、中和、透析による脱塩、有機溶媒添加による沈殿を回収する操作、凍結乾燥による回収操作などが挙げられる。
【0046】
多糖の分子量は特に限定なく、通常5,000~2,000,000程度の分子量のものを好ましく使用できる。上記の数値の範囲内であると、優れた圧縮強度を保ったままセメント組成物の流動性の調整が容易であり、ハンドリング性に優れたセメント組成物を提供することができる。
【0047】
混練液に含まれる多糖の濃度は1~50重量%が好ましく、10~40重量%がより好ましく、20~30重量%がさらに好ましい。上記の数値の範囲内であると、混練液の粘度が適当であるため作製したセメント組成物のハンドリング性に優れ、得られたセメントの圧縮強度に優れる。
【0048】
(3)イノシトールリン酸
本発明において、混練液はイノシトールリン酸を含むことが好ましい。なお、特に断りのない限り「イノシトールリン酸」と記載した場合には「イノシトールリン酸及び/又はその塩」と同義である。
本発明に用いることができるイノシトールリン酸としては、イノシトール一リン酸、イノシトール二リン酸、イノシトール三リン酸、イノシトール四リン酸、イノシトール五リン酸、フィチン酸(イノシトール六リン酸)が挙げられ、中でもフィチン酸が好ましい。
イノシトールリン酸の塩としては、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及びバリウム塩等が挙げられ、中でもナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
フィチン酸を使用する場合は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムでpHを6~8に調整して、フィチン酸ナトリウム塩又はフィチン酸カリウム塩として使用することが好ましい。
なお、フィチン酸ナトリウム塩には、例えばフィチン酸ナトリウム塩38水和物、フィチン酸ナトリウム塩47水和物、フィチン酸ナトリウム塩12水和物等のように、結晶水含量の異なる数種が知られているが、いずれも好ましく用いることができる。
【0049】
本発明において、フィチン酸又はフィチン酸アルカリ金属塩の製造方法には特に限定はなく、いかなる方法で製造したものであってもよい。例えば、フィチン酸ナトリウム塩は、脱脂した植物の種子粉末を希塩酸で抽出し、抽出液から不溶性の銅塩、鉄塩などにして沈澱させ精製した後、ナトリウム塩に変え、アルコールを加えて沈澱させることにより得ることができる。
【0050】
本発明で使用する混練液には上記のイノシトールリン酸を複数種含んでいてもよいが、フィチン酸を単独で含むことが好ましい。
【0051】
混練液は、イノシトールリン酸を5,000~20,000ppm含むことが好ましく、7,000~15,000ppm含むことがより好ましく、8,000~12,000ppm含むことがさらに好ましい。上記の数値の範囲内であるとセメント組成物はハンドリング性に優れ、得られたセメントは圧縮強度が優れる。
【0052】
(4)添加剤
多糖及びイノシトールリン酸以外にも混練液には、必要に応じて添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば水溶性高分子が挙げられ、公知のものを用いることができ限定されるものではないが、コラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体等のタンパク質等を用いることができる。
また、適用する疾患に応じて、抗リウマチ治療剤、抗炎症剤、抗生物質、抗腫瘍剤、骨誘導因子、レチノイン酸、レチノイン酸誘導体等の生理活性物質を添加してもよい。
(5)混練液の性状
混練液のpHは、pH6.0~8.0であることが好ましく、pH6.0~7.5であることがより好ましい。上記の数値の範囲内であると生体適合性に優れたセメント組成物が得られる。
【0053】
3.セメント組成物
本発明のセメント用材料と前記混練液とを混練することによりセメント組成物が得られる。前記セメント組成物は、セメント用材料の単位重量に対して用いる混練液の量(体積)を表す固液比を適宜調整することにより、用途に応じて流動性を調節することが可能である。
高い流動性を有するセメント組成物の用途としては、例えば注射器を用いて骨の欠損部等にセメント組成物を注入する場合などが挙げられる。また、低い流動性を有するセメント組成物の用途としては、スパチュラ等で骨欠損部にセメント組成物を充填する場合や、骨欠損部等に適用する成形品を作製する場合などが挙げられる。セメント組成物は固液比の調製により流動性の調整が可能であり、いずれの場合においても圧縮強度に優れたセメントを提供することができる。
【0054】
セメント用材料の単位重量に対して用いる混練液の量(体積)を表す固液比(カルシウム塩の粉体の重量(g)/混練液の体積(ml))は1/0.10~1/1.00が好ましく、1/0.10~1/0.50がより好ましい。α-リン酸三カルシウムを含むセメント用材料の場合は、1/0.30~1/0.40がさらに好ましい。また、β-リン酸三カルシウムを含むセメント用材料の場合は、1/0.10~1/0.30がさらに好ましい。上記の数値の範囲内であると圧縮強度に優れたセメントが得られる。
【0055】
セメント組成物のpHは、pH6.0~8.0であることが好ましく、pH6.0~7.5であることがより好ましい。上記の数値の範囲内であると生体適合性に優れたセメント組成物が得られる。
【0056】
4.セメントキット
セメントキットは、イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体を含むセメント用材料及び溶媒を含むキットであって、多糖、イノシトールリン酸等を含み、少なくとも前記セメント用材料と溶媒とを別々に包装したものであることが好ましい。セメント用材料、多糖、イノシトールリン酸及び溶媒は、前記セメント用材料、多糖、イノシトールリン酸及び溶媒と同様のものであり、好ましい態様も同様である。
さらにセメントキットは、前記セメント用材料と、多糖、イノシトールリン酸及び溶媒を含む混練液とを別々に包装したものであることが好ましい。セメントキットに含まれる混練液は、前記セメント組成物の調製に用いられる混練液と同様のものであり、好ましい態様も同様である。
セメントキットに含まれうるセメント用材料、多糖、イノシトールリン酸及び溶媒のうち、少なくとも相互に接触させると反応して硬化するセメント用材料と溶媒とを別々に包装することにより長期保存性に優れたセメントキットを提供することができる。セメントキットを用いることにより、必要な時に必要な場所で混練液を調製し、さらにセメント用材料と混練液とを混練することによりセメント組成物を調製することができる。
接触により反応しないもの同士は同包して保管、運搬する形態をとることが好ましく、例えば、前記セメント用材料と、あらかじめ調製された混練液とを別々に包装したキットであると、持ち運びも便利であり、使用時に混練液の調製を要しないことから素早くセメント組成物を調製できるため好ましい。
セメントキットの好ましい実施態様には、前記セメント用材料と、多糖及びイノシトールリン酸を水に溶解させた混練液とを別々に包装したセメントキットが含まれる。前記多糖はデキストラン硫酸塩であることが好ましく、前記イノシトールリン酸はフィチン酸であることが好ましい。また、セメントキットに含まれるセメント用材料に対する混練液の使用量(固液比)の範囲は、前記セメント組成物における固液比の範囲と同様であり、好ましい範囲も同様である。
本発明のセメントキットには、セメント組成物の使用時に目的部位へセメント組成物を送り込むための注射器等の送出器具が添付されていてもよく、さらに使用直前にセメント用材料と混練液とを混練するための容器、ゴムヘラ等の器具等が添付されていてもよい。
また、セメントキットには前述した添加剤が含まれていてもよい。
【0057】
5.セメント及びセメントの製造方法
本発明のセメントは、本発明のセメント用材料と混練液とを混練し、硬化させたことを特徴とする。
また、本発明のセメントの製造方法は、イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを含有する粉体を含むセメント用材料を調製するセメント用材料調製工程、前記セメント用材料と混練液とを混練するセメント組成物調製工程、及び、前記セメント組成物を硬化させる硬化工程を含むことを特徴とする。なお、セメント用材料調製工程及びセメント組成物調製工程については先に述べた通りである。
【0058】
前記セメント組成物を硬化させる硬化工程について説明する。
セメント組成物を骨欠損部等の患部に充填すると、混練後1~5分で硬化し始め、20分以内に硬化してセメントになる。混練後、充填されたセメント片の圧縮強度は増大し、概ね5~24時間後に最大となる。本発明のセメント用材料を用いた場合、硬化時間が短いので、治療時間を短縮することができ、患者の苦痛を低減することができる。
【0059】
本発明のセメントは、従来のリン酸三カルシウムを出発原料とするセメントとは異なり硬化時に酸・塩基反応が起こらないので、硬化前後でpH変化がない。また、硬化する際にヒドロキシアパタイトを生成しないので、生体吸収性に優れる。
【0060】
本発明のセメントの圧縮強度は、10MPa以上であることが好ましい。本発明でこれまでに得られているセメントの圧縮強度は、13~24MPaである。
【0061】
本発明のセメントは、生体吸収性セメントであり、生理食塩水等の疑似体液に溶解するものであることが好ましい。
セメントの溶解性は、例えばセメント試験片(直径5mm、高さ7mmの円筒状)を、37℃の生理食塩水20cm3中に浸漬して1週間振とうした後、前記生理食塩水に含まれるカルシウムイオン濃度を測定することにより評価することができる。
なお、カルシウムイオン濃度はカルシウムイオン電極(PH/ION MATER D-53、(株)堀場製作所製)により測定することができる。
本発明のセメントの前記カルシウムイオン濃度は20~100mg/Lであることが好ましい。
α-リン酸三カルシウムの単一相よりなる粉体を用いて作製したセメントの場合には、カルシウムイオン濃度は60~100mg/Lであることが好ましく、70~90mg/Lであることがより好ましい。
β-リン酸三カルシウムの単一相よりなる粉体を用いて作製したセメントの場合には、カルシウムイオン濃度は20~60mg/Lであることが好ましく、30~50mg/Lであることがより好ましい。
上記の数値の範囲の溶解性を有するセメントを提供できるα-リン酸三カルシウムを含むセメント用材料、β-リン酸三カルシウムを含むセメント用材料及びカルシウム欠損ヒドロキシアパタイト等の前記その他のカルシウム塩を含むセメント用材料を任意の割合で配合することにより、セメントが生体内に吸収される期間を調節することが可能である。
【0062】
セメントの役割は、1つ目は骨欠損部に充填することで欠損部への軟組織の進入を防ぐこと(スペースメーキング)にある。そして2つ目は、最終的に充填したセメントが周囲骨を造りながら吸収され骨に置き換わることにある(骨置換)。本発明のセメントは、生体内に吸収される期間を調節できることから、スペースメーキングが可能であり、且つ、生体吸収性に劣るヒドロキシアパタイトを生成することなく硬化することから、骨置換が可能である。
【0063】
高齢化社会の到来により、高齢者に特有の「圧迫骨折」に関する治療はますます増加することは自明であり、本発明が提供する「高強度化キレート硬化型骨修復セメント」を注射器等で注入して、脊椎の圧迫骨折に適用することにより、臨床的に低侵襲(身体に対する負担や影響が少ない。)な治療法を構築できる。この新たなセメントによる治療法の構築は、グローバルな視点でQOL(生活の質)向上を約束する。本発明のセメントは骨折、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ等の治療に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において「リン酸三カルシウム」を「TCP」と、「ヒドロキシアパタイト」を「HAp」と、「フィチン酸」を「IP6」と、「フィチン酸で表面修飾したリン酸三カルシウム粉体」を「TCP/IP6粉体」とも表記する。
【0065】
I.α-TCPを含むセメント用材料の作製
(実施例1)
1.α-TCP粉体の粉砕
α-TCP粉体(α-TCP-A、太平化学産業(株)製)を、P-6遊星型ボールミル(FRITSCH製)を用いて粉砕した。
ジルコニア製ポットに、原料のα-TCP粉体10.0g、ジルコニアボール(直径10mm、50個)及び精製水40mlを入れ、回転数300rpmで、所定の時間(粉砕条件(A)0分間、(B)5分間、(C)30分間、(D)60分間、(E)90分間、(F)120分間、(G)150分間、(H)180分間又は(I)270分間)湿式粉砕した。粉砕後、精製水を用いてジルコニア製ポットから洗い流すように試料を回収し、吸引濾過により粉砕時間の異なるα-TCPスラリーを回収した。回収した各α-TCPスラリーは-80℃で一晩凍結させた後、凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥した。
【0066】
2.α-TCP/IP6粉体の調製
(1)濃度1,000ppmのIP6水溶液の調製
50重量%IP6水溶液(和光純薬工業(株)製)を1.00g精秤し、精製水で300cm3程度に希釈した後、水酸化ナトリウム水溶液と塩酸とを用いてpHを7.3に調整し、メスフラスコを用いて500cm3にメスアップすることで濃度1,000ppmのIP6水溶液を調製した。
【0067】
(2)α-TCP/IP6粉体の調製
濃度1,000ppmのIP6水溶液200cm3に、粉砕時間の異なる各α-TCP粉体10.0gをそれぞれ懸濁し、37℃、撹拌速度400rpmで24時間撹拌した。
これを吸引濾過し、得られたスラリーを精製水で洗浄した後、-80℃で一晩凍結させた。凍結させたα-TCP/IP6スラリーは凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥した。
【0068】
3.粒度分布、メジアン径、X線回折及び比表面積の測定
得られた各α-TCP/IP6粉体の粒度分布、メジアン径、X線回折及び比表面積を測定した。
【0069】
(1)粒度分布及びメジアン径の測定
各α-TCP/IP6粉体の粒度分布及びメジアン径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300((株)堀場製作所製)を用いて測定した。試料は精製水中に分散させてフローセルにて測定した。各α-TCP/IP6粉体のメジアン径を表1に、粒度分布を図1及び図2に示した。
【0070】
(2)X線回折法(XRD)による結晶相の同定及びカルシウム欠損ヒドロキシアパタイト含有量の算出
各α-TCP/IP6粉体は、粉末X線回折装置を用いてX線回折法により同定した。測定はRigaku MiniFlex((株)リガク製)を用い、印加電圧30kV、管電流15mAで測定した。各α-TCP/IP6粉体の結晶相の同定はJCPDSカードを用いて行った。得られたX線回折図を図3に示した。
また、各α-TCP/IP6粉体に含まれるカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトの含有量(重量%)(以下、「Ca欠損HAp含有量」ともいう)は次式により算出した。
Ca欠損HAp含有量(重量%)=[HApの(211)面に対応するピーク面積]/([α-TCPの(034)面に対応するピーク面積]+[HApの(211)面に対応するピーク面積])
各α-TCP/IP6粉体に含まれるCa欠損HAp含有量を表1に示した。
【0071】
(3)比表面積の測定
各α-TCP/IP6粉体の比表面積は、マイクロメリティックス自動比表面積測定装置フローソーブIII2305((株)島津製作所製)を用いてBET法により測定した。試料量は0.2gとし、冷媒には液体窒素を用いた。飽和吸着量の補正値は以下の式を用いて算出した。
SSA=(273.2/気温(℃))×(気圧(mmHg)/760)×((6.023×1023×16.2×10-20)/(22.414×10))×(1-(窒素の割合(%)×気圧(mmHg))/775)
試料を冷媒で冷却したときに粉体に吸着したガス量(吸着データ)と、試料を冷媒から取り出したときに粉体から放出されるガス量(脱着データ)を測定した。脱着データを実験値として採用した。各α-TCP/IP6粉体の比表面積の測定結果を表1に示した。
【0072】
4.セメントの力学特性評価、並びに、最大圧縮強度到達時間及びビカー針試験
(1)力学特性評価
各α-TCP/IP6粉体0.2gに対して混練液(精製水)を20~60μl(固液比(粉体g/混練液ml)で1/0.10~1/0.30)となるように加えてゴムヘラを用いて混練してセメント組成物を作製した。
セメントの試験片は前記セメント組成物をφ5mm金型成形器につめて2kNの成形圧で一軸加圧成形して作製した。成形したセメント試験片は空気中で24時間乾燥させた。セメント試験片のサイズはφ4.5~5mm、高さ6~8mm、重さ0.2gであった。
【0073】
セメントの力学特性は圧縮強度試験で評価した。試験機はAUTOGRAPH AGS-J((株)島津製作所)を用いた。測定条件を以下に示す。
クロスヘッドスピード :0.5mm・s-1
設定荷重 :5kN
AUTO STOP :ON
各α-TCP/IP6粉体を用いて得られたセメントの圧縮強度評価の結果を表1に示した。
【0074】
【表1】
JP0005354562B2_000002t.gif

【0075】
図3に示すX線回折図から、粉砕条件(A)~(F)の範囲(粉砕時間120分間以下)ではα-TCPの単一相のままであり、粉砕条件(G)~(H)の範囲(粉砕時間120~180分間)ではα-TCPとHApとの二相となり、粉砕条件(I)(粉砕時間270分間)では低結晶性HApの単一相が得られたことがわかる。
粉砕時間が120分間を超えると下記の反応によりHAp(Ca10(PO46(OH)2)が生成したと考えられる。
10Ca3(PO42+6H2O→3Ca10(PO46(OH)2+2H3PO4
ただし、図3の(I)に示したX線回折図から、HApを示すピーク(図中○印が付されたピーク)はいずれも半価幅が広く、生成したHApは結晶性が低いことがわかる。ただし、ここで生成したHApはCa/P比が1.50のTCPを原料としているため、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイトであると考えられる。
【0076】
図4はα-TCP/IP6粉体の比表面積とメジアン径とを、出発物質のα-TCP粉体の粉砕時間を横軸にしてプロットしたものである。この結果から、比表面積は粉砕時間が長くなると増大する傾向があることがわかる。また、粉砕時間が長くなるにつれて、そのメジアン径は減少する傾向がある。
【0077】
図5は出発物質のα-TCP粉体の粉砕時間と得られたセメント試験片の圧縮強度との関係を示したグラフである。この結果から、α-TCPが単一相のままである粉砕条件(A)~(F)の範囲(粉砕時間120分間以下)では、粉砕条件(F)で作製したセメント用材料を用いて固液比1/0.40で作製したセメントの圧縮強度が最も高いことがわかった。また、α-TCPとHApとの二相を形成する粉砕条件(G)~(H)の範囲では、粉砕条件(H)で且つ固液比1/0.30でセメントの圧縮強度が最も高いことがわかった。
【0078】
図5に示した検討結果から、固液比1/0.30~1/0.40の範囲において、α-TCP単一相のセメント用材料の中で最も圧縮強度が高かった粉砕条件(F)で作製したセメント用材料と、α-TCPとHApとの二相のセメント用材料の中で最も圧縮強度が高かった粉砕条件(H)で作製したセメント用材料とを選択し、さらに広い固液比の範囲(1/0.15~1/0.45)でさらに詳細な力学的評価を行った。結果を図6に示した。
【0079】
図6に示した力学的評価の結果から、α-TCP単一相からなるセメント用材料を用いて作製したセメントの最大圧縮強度は18.3MPa(粉砕条件(F)、粉砕時間120分間、固液比1/0.40)であることがわかった。
また、α-TCPとHApとの二相からなるセメント用材料を用いて作製したセメントの最大圧縮強度は23.4MPa(粉砕条件(H)、粉砕時間180分間、固液比1/0.30)であることがわかった。
【0080】
図7から、セメント用材料の比表面積が増大するほど、セメントの圧縮強度が増大することがわかる。なお、この図は、各条件で作製したセメント試料片の中から固液比に関わらず最も高い圧縮強度を示した試料片を選び、その原料のα-TCP/IP6粉体の比表面積を横軸に、圧縮強度を縦軸にプロットしたものである。
【0081】
5.最大強度到達時間及び硬化時間の評価
粉砕条件(F)で作製したα-TCP単一相からなるセメント用材料(以下、「α-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)」ともいう)、及び、粉砕条件(H)で作製したα-TCP及びHApの二相からなるセメント用材料(以下、「α-TCP/HAp/IP6粉体(粉砕時間180min)」ともいう)を用いて最大強度到達時間及び硬化時間の評価を行った。
【0082】
(1)最大強度到達時間の測定
セメント用材料(α-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min))0.2gに対して精製水を80μl(固液比1/0.40)となるように加えてゴムヘラを用いて混練し、φ5mm金型成形器につめて2kNの成形圧で一軸加圧成形して作製した。混練後の圧縮強度の経時変化を測定し、最大強度到達時間を測定した。
混練直後5分以内の圧縮強度を測定した後、セメントを室温で静置し、混練から10分間、30分間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、24時間及び72時間経過後に同様の方法で圧縮強度を測定した。
また、α-TCP/HAp/IP6粉体(粉砕時間180min)0.2gに対して精製水を60μl(固液比1/0.30)とした以外は、α-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)を用いた場合と同様にして最大強度到達時間を測定した。結果を図8に示した。
【0083】
(2)硬化時間(ビカー針試験)の評価
硬化時間は、ビカー針法により、歯科用リン酸亜鉛セメントの測定法(JIS T6602)に準じて測定した。セメント試験片は、前記最大強度到達時間の評価と同様のセメント用材料を用いて同様にして作製した。セメント試験片を温度37℃、相対湿度約100%の恒温器中に移し、質量200gのビカー針をセメント試験片表面に静かに落とし、針跡がつくかどうかを調べた。測定は、さらに5分間、10分間、30分間、1時間、2時間及び3時間経過後に行った。針跡を残さなくなった時を混練開始時から起算して硬化時間とした。ビカー針試験の結果を図9に示した。なお、対照として、粉砕条件(A)で作製したセメント用材料を用いて固液比1/0.20で作製したセメント試験片の結果も示した。
【0084】
図8から、セメント用材料としてα-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)及びα-TCP/HAp/IP6粉体(粉砕時間180min)を用いた場合、いずれも混練後24時間で圧縮強度は概ね最大値に達していることがわかる。
また、図9からα-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)及びα-TCP/HAp/IP6粉体(粉砕時間180min)を用いた場合のいずれにおいても混練後約5分でビカー針の貫入は約0.5mmであり、ほぼ硬化が完了したと考えられる。一方で、対照として示したα-TCP/IP6(粉砕時間0min)では、混練後約5分で1.5mmの貫入が認められた。
さらに、α-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)の場合は、混練後約120分の時点でビカー針の貫入は認められず、完全に硬化した。また、α-TCP/HAp/IP6粉体(粉砕時間180min)の場合は、混練後約60分の時点でビカー針の貫入は認められず、完全に硬化した。
【0085】
II.β-TCP粉体を用いたセメント用材料の作製
(実施例2)
1.β-TCP粉体の粉砕
β-TCP粉体(β-TCP-100、太平化学産業(株)製)を、P-6遊星型ボールミル(FRITSCH製)を用いて、表2に示す(a)~(h)、(e’)及び(e’’)に示す粉砕条件で粉砕した。
以下、各粉砕条件について説明する。
【0086】
(1)粉砕条件(a)について
粉砕条件(a)では原料のβ-TCP粉体を粉砕せずにそのまま用いた。
【0087】
(2)粉砕条件(b)について
ジルコニア製ポットに、原料のβ-TCP粉体10.0g、ジルコニアボール(直径10mm、50個)及び精製水40mlを入れ、回転数300rpmで5分間湿式粉砕した。粉砕後、精製水を用いてジルコニア製ポットから洗い流すように試料を回収し、吸引濾過によりβ-TCPスラリーを回収した。回収したβ-TCPスラリーは-80℃で一晩凍結させた後、凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥した。
【0088】
(3)粉砕条件(c)について
粉砕時にジルコニア製ポットに精製水40mlを投入せず、乾式粉砕した以外は、粉砕条件(b)と同様にして粉砕した。
【0089】
(4)粉砕条件(d)~(g)について
粉砕時間を粉砕条件(d)では3時間、粉砕条件(e)では4時間、粉砕条件(f)では5時間、粉砕条件(g)では6時間に変更した以外は、粉砕条件(b)と同様にして湿式粉砕した。
【0090】
(5)粉砕条件(h)について
原料のβ-TCP粉体を、粉砕条件(d)により得られた湿式粉砕後のβ-TCP粉体に変更し、直径10mmのジルコニアボール(使用量50個)を、直径2mmのジルコニアボール(使用量180g)に変更した以外は、粉砕条件(d)と同様にして湿式粉砕した。
【0091】
(6)粉砕条件(e’)及び(e’’)について
直径10mmのジルコニアボール(使用量50個)を、(e’)直径5mmのジルコニアボール(使用量50個)、又は、(e’’)直径2mmのジルコニアボール(使用量50個)に変更した以外は、粉砕条件(e)と同様にして湿式粉砕した。
【0092】
2.粉砕処理を施したβ-TCP粉体の粒度分布、X線回折及び比表面積の測定
粉砕処理を施した各β-TCP粉体の粒度分布、X線回折及び比表面積を測定した。
【0093】
(1)粒度分布測定
実施例1と同様にして、粉砕処理後の各β-TCP粉体の粒度分布を測定した。各β-TCP粉体の粒度分布測定の結果を図10~12に示した。
【0094】
(2)X線回折法(XRD)による結晶相の同定
実施例1と同様にして、粉砕処理後の各β-TCP粉体を、粉末X線回折装置を用いてX線回折法により同定した。得られたX線回折図を図13~15に示した。
また、各β-TCP粉体に含まれるHApの含有量を表2に示した。
HAp含有量は以下の式により求めた。
Ca欠損HAp含有量(重量%)=[HApの(211)面に対応するピーク面積]/([β-TCPの(0210)面に対応するピーク面積]+[HApの(211)面に対応するピーク面積])
【0095】
(3)比表面積の測定
実施例1と同様にして、各β-TCP粉体の比表面積を測定した。各β-TCP粉体の比表面積の測定結果を表2に示した。
【0096】
図10及び図11に示す粒度分布測定の結果から、粉砕時間とともに粒度分布が狭くなり、かつその分布は粒子径が減少する方向にシフトしていることがわかる。
一方で、図12に示す粒度分布測定の結果から、使用する粉砕媒体の径が小さいほど粉体の凝集が生じやすく、粒子径が増大していることがわかる。
【0097】
図13及び図14に示すX線回折パターンから、粉砕条件(b)~(e)の範囲では原料粉体である(a)と同様に得られた粉体はβ-TCPの単一相のままであった。一方、粉砕条件(f)~(h)で得られた粉体は、そのX線回折パターンから、β-TCPとHApとの二相が混ざった粉体となったことがわかる。
粉砕条件(f)~(h)でβ-TCPの粉体を粉砕した場合においても、α-TCP粉体の場合と同じく粉砕中にHAp(Ca10(PO46(OH)2)が生成したと考えられる。しかし、HApを表すピーク(図中○が付されたピーク)の半価幅は広く、生成したHApは結晶性が低く、α-TCPの場合と同じくCa欠損HApであると考えられる。
また、図15に示すX線回折パターンから、粉砕条件(e’)及び(e’’)の場合においてもα-TCPとCa欠損HApとの二相となったことがわかる。
【0098】
3.β-TCP/IP6粉体の調製
(1)濃度1,000ppmのIP6水溶液の調製
50重量%IP6水溶液(和光純薬工業(株)製)を1.00g精秤し、精製水で300cm3程度に希釈した後、水酸化ナトリウム水溶液と塩酸とを用いてpHを7.3に調整し、メスフラスコを用いて500cm3にメスアップすることで濃度1,000ppmのIP6水溶液を調製した。
【0099】
(2)濃度3,000ppmのIP6水溶液の調製
50重量%IP6水溶液を3.00g精秤した以外は、濃度1,000ppmのIP6水溶液の調製と同様にして、濃度3,000ppmのIP6水溶液を調製した。
【0100】
(3)β-TCP/IP6粉体の調製
濃度1,000ppmのIP6水溶液200cm3に前記粉砕条件(a)~(h)、(e’)及び(e’’)で粉砕した各β-TCP粉体10.0gを懸濁し、37℃、撹拌速度400rpmで24時間撹拌した。これらを吸引濾過し、得られたスラリーを精製水で洗浄した後、-80℃で一晩凍結させた。凍結させたβ-TCP/IP6スラリーは凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥した。
また、濃度1,000ppmのIP6水溶液を用いた場合と同様にして、前記濃度3,000ppmのIP6水溶液を用いて各β-TCP/IP6粉体を調製した。
なお、IP6による表面修飾を各β-TCP粉体に施してもその結晶相には変化は認められなかった。
また、β-TCP/IP6粉体のメジアン径を測定した結果、β-TCP/IP6粉体においてもα-TCP/IP6粉体と同様の傾向が見られた。
【0101】
4.セメントの力学特性評価、並びに、最大圧縮強度到達時間及びビカー針試験
(1)力学特性評価
得られた各β-TCP/IP6粉体0.2gに対して精製水を20~60μl(固液比(粉体g/混練液ml)で1/0.10~1/0.30)となるように加えてゴムヘラを用いて混練してセメント組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして力学特性評価を行った。得られた各β-TCP/IP6粉体の力学特性評価の結果を表2に示した。
【0102】
【表2】
JP0005354562B2_000003t.gif

【0103】
図16はセメント試験片の圧縮強度を、そのセメント試験片の作製に用いた主としてβ-TCPからなる粉体中のCa欠損HAp含有量を横軸にしてプロットしたものである。この結果から、Ca欠損HAp含有量が多いほどセメントの圧縮強度が増大することがわかる。
また、図17はセメント試験片の圧縮強度を、そのセメント試験片の作製に用いた主としてβ-TCPからなる粉体の比表面積を横軸にしてプロットしたものである。この結果から、β-TCP粉体の比表面積が大きいほどセメントの圧縮強度が増大することがわかる。
【0104】
β-TCP単一相よりなるセメント用材料のうち、最も比表面積が高く、高い圧縮強度が得られると考えられる粉砕条件(e)で作製したセメント用材料を用いて、固液比と圧縮強度との関係を検討した結果を図18に示した。図18に示す結果から、固液比1/0.20において高い圧縮強度(13.0MPa)が得られることがわかる。
同様に、二相となる粉砕条件(f)~(h)のうち、最も比表面積の高い粉砕条件(h)で作製したセメント用材料を用いて、固液比と圧縮強度との関係を検討した結果を図19に示した。図19に示す結果から、3,000ppmのIP6水溶液で表面修飾したセメント用材料を用いた方が、1,000ppmのIP6水溶液で表面修飾したセメント用材料を用いた場合よりも高い圧縮強度を示すことがわかる。また、3,000ppmのIP6水溶液で表面修飾したセメント用材料を用いて固液比1/0.20でセメントを作製した場合に高い圧縮強度(22.5MPa)を示した。
【0105】
5.最大強度到達時間及び硬化時間の評価
粉砕条件(e)で作製したβ-TCP単一相からなる粉体を3,000ppmのIP6水溶液で表面修飾したセメント用材料(以下、「β-TCP(e)/IP6/3,000粉体」ともいう)、及び、粉砕条件(h)で作製したβ-TCP及びHApの2相からなる粉体を3,000ppmのIP6水溶液で表面修飾したセメント用材料(以下、「β-TCP(h)/HAp/IP6/3,000粉体」ともいう)を用いて最大強度到達時間及び硬化時間の評価を行った。
【0106】
(1)最大強度到達時間の評価
β-TCP(e)/IP6/3,000粉体0.2gに対して精製水を40μl(固液比1/0.20)とした以外は、実施例1のα-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)を用いた場合と同様にして最大強度到達時間を測定した。なお、混練直後5分以内の圧縮強度を測定した後、セメントを室温で静置し、混練から10分間、30分間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間及び24時間経過後に同様の方法で圧縮強度を測定した。
また、β-TCP(h)/HAp/IP6/3,000粉体0.2gに対して精製水を40μl(固液比1/0.20)とした以外は、実施例1のα-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)を用いた場合と同様にして最大強度到達時間を測定した。結果を図20に示した。
【0107】
(2)硬化時間(ビカー針)の評価
セメント試験片は、前記最大強度到達時間の評価と同様の材料を用いて同様にして作製した以外は、実施例1と同様にして硬化時間の評価を行った。ビカー針試験の結果を図21に示した。
【0108】
図20から、セメント用材料としてβ-TCP(e)/IP6/3,000粉体及びβ-TCP(h)/HAp/IP6/3,000粉体を用いた場合は、いずれも混練から5時間経過後には最大圧縮強度に到達していることがわかる。
図21からβ-TCP(e)/IP6/3,000粉体を用いた場合、混練後約10分でビカー針の貫入は約0.5mmであり、ほぼ硬化が認められ、180分経過後には完全に硬化したことがわかる。
また、β-TCP(h)/HAp/IP6/3,000粉体を用いた場合は、混練後約10分でビカー針の貫入は約1.0mm測定された。120分経過後にはビカー針の貫入は約0.5mm測定され、ほぼ完全に硬化したことがわかる。
【0109】
III.セメント溶解性試験
(実施例3)
実施例1で得られたセメント用材料のうち、α-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)を用いてセメント溶解性試験を実施した。セメント試験片は固液比1/0.40で実施例1の力学特性評価に用いたセメント試験片と同様にして作製した。セメント試験片のサイズはφ4.5~5mm、高さ6~8mm、重さ0.2gだった。
生理食塩水(0.9重量%濃度の食塩水)20cm3中にセメント試験片を浸漬し、37℃の恒温振とう水槽(Thermostatic Shaking Water Bath T-N22S、トーマス科学器(株)製)で振とう(100往復/min)した。一定時間ごとに生理食塩水に含まれるカルシウムイオン濃度を測定した。カルシウムイオン濃度はPH/ION MATER D-53((株)堀場製作所製)により測定した。結果を図22に示した。
【0110】
(実施例4)
実施例1で得られたセメント用材料のうち、α-TCP/HAp/IP6粉体(粉砕時間180分)を用いて固液比1/0.30で実施例1と同様にしてセメント試験片を作製し、得られたセメント試験片を用いて実施例3と同様にしてセメント溶解性試験を行った。結果を図22に示した。
【0111】
(実施例5)
実施例2で得られたセメント用材料のうち、β-TCP(e)/IP6/3,000粉体を用いて固液比1/0.20で実施例1と同様にしてセメント試験片を作製し、実施例3と同様にしてセメント溶解性試験を行った。結果を図22に示した。
【0112】
(実施例6)
実施例2で得られたセメント用材料のうち、β-TCP(h)/HAp/IP6/3,000粉体を用いて固液比1/0.20で実施例1と同様にしてセメント試験片を作製し、実施例3と同様にしてセメント溶解性試験を行った。結果を図22に示した。
【0113】
(比較例1)
濃度0.5M水酸化カルシウム懸濁液500cm3を調製し、それに濃度0.3Mリン酸水溶液500cm3を滴下した(滴下速度17ml/min)。反応槽中のpHが9<pH<10となるようにpH調整剤(25%NH4OH)で調整した。リン酸水溶液滴下が終了した後、更に1時間撹拌してから37℃に設定したインキュベーター中に24時間静置し、熟成させた。熟成後、吸引濾過にてHApスラリーを回収し、-80℃のフリーザーで一晩凍結させた。凍結させたHApスラリーは、凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、湿式合成HAp粉体を得た。得られた湿式合成HAp粉体は、条件(B)と同様にして5分間、湿式粉砕した。
濃度1,000ppmのIP6水溶液200cm3に前記湿式合成HAp粉体10.0gを懸濁し、37℃、撹拌速度400rpmで5時間撹拌した。これを吸引濾過し、得られたスラリーを精製水で洗浄した後、-80℃で一晩凍結させた。凍結させたHAp/IP6スラリーは凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、湿式合成HAp/IP6粉体を得た。
得られた湿式合成HAp/IP6粉体と純水とを固液比1/0.35で混練し、硬化させて得たセメント試験片を用いて実施例3と同様にしてセメント溶解性試験を行った。比較例1で得られた結果を図22に示した。
【0114】
(比較例2)
市販ヒドロキシアパタイト粉体(HAp-100、太平化学産業(株)製)10gを、FRITSCH製P-6遊星型ボールミルとジルコニア(ZrO2)製250cm3容器とジルコニアボール(直径10mm、50個)を用いて、条件(b)と同様にして乾式粉砕し、乾式粉砕HAp粉体を得た。
濃度1,000ppmのIP6水溶液200cm3に前記乾式粉砕HAp粉体10.0gを懸濁し、37℃、撹拌速度400rpmで5時間撹拌した。これを吸引濾過し、得られたスラリーを精製水で洗浄した後、-80℃で一晩凍結させた。凍結させたHAp/IP6スラリーは凍結乾燥機Free Zone(商標)(LABCONCO製)を用いて24時間乾燥し、機械粉砕HAp/IP6粉体を得た。
得られた機械粉砕HAp/IP6粉体と純水とを固液比1/0.30で混練し、硬化させて得たセメント試験片を用いて実施例3と同様にしてセメント溶解性試験を行った。結果を図22に示した。
【0115】
図22は実施例3~6、比較例1及び2で得られた代表的なセメント試料片の生理食塩水中でのカルシウムイオンの溶出量を調査したグラフである。調べたセメント試験片を溶解性が高い順に列記すると、1)α-TCP/IP6粉体(粉砕時間120min)を用いて作製したセメント試料片、2)α-TCP/HAp/IP6粉体(粉砕時間180min)、ついで3)β-TCP(e)/IP6/3,000粉体を用いて作製したセメント試料片、4)β-TCP(h)/HAp/IP6/3,000粉体を用いて作製したセメント試料片であり、比較例1及び2のヒドロキシアパタイトからなるセメント試験片は最も低い溶解性を示した。
リン酸カルシウムの溶解性は、α-TCPが最も高く、ついでβ-TCPの順であり、ヒドロキシアパタイトはほとんど溶解しない。リン酸カルシウムの溶解性と生体内での吸収性とは相関があり、実際、β-TCPからなる多孔体は臨床の場で吸収性セラミックスとして頻用されている。本発明のセメント用材料は、出発原料のリン酸カルシウム組成をそのまま維持して、その成分のまま硬化することに特徴があり、従来の技術では作製できなかったTCP単一相からなる生体吸収性セメント試料片の作製が可能となった。
この図22の結果は、種々のリン酸カルシウムを適宜選択し、それらを出発原料としてセメントを作製することにより生体内での吸収性の異なるセメントを開発、提供できることを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】粉砕条件(A)~(E)で作製したα-TCP/IP6粉体の粒度分布を表すグラフである。
【図2】粉砕条件(A)及び(F)~(I)で作製したα-TCP/IP6粉体の粒度分布を表すグラフである。
【図3】粉砕条件(A)~(I)で作製したα-TCP/IP6粉体のX線回折図である。
【図4】粉砕時間とα-TCP/IP6粉体のメジアン径との関係、及び、粉砕時間とα-TCP/IP6粉体の比表面積との関係を表すグラフである。
【図5】α-TCP粉体の粉砕時間と圧縮強度との関係を表すグラフである。
【図6】α-TCP/IP6粉体を含むセメント用材料と水との固液比と、圧縮強度との関係を表すグラフである。
【図7】α-TCP/IP6粉体を含むセメント用材料の比表面積と圧縮強度との関係を表すグラフである。
【図8】α-TCP/IP6を含むセメントの最大強度到達時間を表すグラフである。
【図9】α-TCP/IP6を含むセメントの硬化時間(ビカー針試験)を表すグラフである。
【図10】粉砕条件(a)~(d)で作製したβ-TCP粉体の粒度分布を表すグラフである。
【図11】粉砕条件(e)~(h)で作製したβ-TCP粉体の粒度分布を表すグラフである。
【図12】粉砕条件(e)、(e’)及び(e’’)で作製したβ-TCP粉体の粒度分布を表すグラフである。
【図13】粉砕条件(a)~(d)で作製したβ-TCP粉体のX線回折図である。
【図14】粉砕条件(e)~(h)で作製したβ-TCP粉体のX線回折図である。
【図15】粉砕条件(e)、(e’)及び(e’’)で作製したβ-TCP粉体のX線回折図である。
【図16】β-TCP/IP6粉体を含むセメント用材料のCa欠損HAp含有量と、圧縮強度との関係を表すグラフである。
【図17】β-TCP/IP6粉体の比表面積と圧縮強度との関係を表すグラフである。
【図18】粉砕条件(e)で作製したβ-TCP/IP6粉体を含むセメント用材料と水との固液比と、圧縮強度との関係を表すグラフである。
【図19】粉砕条件(h)で作製したβ-TCP/IP6粉体を含むセメント用材料と水との固液比と、圧縮強度との関係を表すグラフである。
【図20】β-TCP/IP6を含むセメントの最大強度到達時間を表すグラフである。
【図21】β-TCP/IP6を含むセメントの硬化時間(ビカー針試験)を表すグラフである。
【図22】本発明のセメントの溶解性を表すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21