TOP > 国内特許検索 > 組成物及びそれを用いた骨又は歯充填材の製造方法 > 明細書

明細書 :組成物及びそれを用いた骨又は歯充填材の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5777141号 (P5777141)
公開番号 特開2012-210346 (P2012-210346A)
登録日 平成27年7月17日(2015.7.17)
発行日 平成27年9月9日(2015.9.9)
公開日 平成24年11月1日(2012.11.1)
発明の名称または考案の名称 組成物及びそれを用いた骨又は歯充填材の製造方法
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
A61K   6/033       (2006.01)
A61K   6/08        (2006.01)
FI A61L 27/00 J
A61L 27/00 G
A61K 6/033
A61K 6/08
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2011-077794 (P2011-077794)
出願日 平成23年3月31日(2011.3.31)
審査請求日 平成26年2月21日(2014.2.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591243103
【氏名又は名称】公益財団法人神奈川科学技術アカデミー
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】相澤 守
【氏名】高橋 周平
【氏名】小西 敏功
個別代理人の代理人 【識別番号】100088546、【弁理士】、【氏名又は名称】谷川 英次郎
審査官 【審査官】天野 貴子
参考文献・文献 特開平11-347112(JP,A)
特開平03-261643(JP,A)
特開2004-024319(JP,A)
特開2005-095346(JP,A)
特開平01-152104(JP,A)
特開2002-338602(JP,A)
Biomaterials,2002年,vol.23, no.4,p.1091-1101
明海大学歯学雑誌,2006年 2月28日,vol.34, no.2,p.168-178
調査した分野 A61L 27/00
A61K 6/033
A61K 6/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
イノシトールリン酸処理したリン酸カルシウムと、キトサンと、有機酸を含み、前記キトサン及び有機酸が、キトサンとクエン酸を含む水溶液の凍結乾燥物である組成物。
【請求項2】
前記イノシトールリン酸が、フィチン酸である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物を水と混練することを含む、骨又は歯充填材の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、骨又は歯充填材の製造方法及びそれに好適に利用可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国の高齢者人口は顕著な増加傾向を示している。これに伴い、近い将来において高齢者に発症が多く見られる骨粗鬆症の罹患率上昇が予想される。骨粗鬆症が発症すると骨の形成と吸収のバランスが崩れ、骨密度が低下する。そのため骨組織が荷重に対し脆弱になり、圧迫骨折が発症しやすくなる。例えば、上半身の姿勢を支える脊椎において、椎体圧迫骨折が発症した場合、脊椎の前彎化や背痛を引き起こし、QOL (Quality of Life)低下を引き起こす。
【0003】
椎体圧迫骨折の治療法として、骨セメントによる経皮的椎体形成術(Vertebroplasty, Kyphoplasty)が選択され、良好な術後成績が得られている。これまでは骨セメントとしてポリメチルメタクリラートが用いられてきたが、硬化反応時に発生する重合熱による周囲組織の壊死、新生骨と直接結合しない、隣接椎体骨折などが問題視され、それに代わる新たな骨セメントとしてリン酸カルシウムセメントの研究開発が進められている。
【0004】
現在までに数々のリン酸カルシウムセメントが開発されてきた。そのほとんどはリン酸四カルシウムやリン酸水素カルシウムなどを主材とし、酸-塩基反応により硬化したものである。しかし、酸-塩基反応による炎症反応の恐れや硬化時間が長いことが問題点として挙げられている。
【0005】
本願発明者らは、先にイノシトールリン酸若しくはフィチン酸又はそれらの塩をカルシウム化合物の表面に吸着させた微結晶を含むセメントを提案している (特許文献1)。このセメントはpHの変動を伴うことなく硬化するため、上記の問題の恐れがない。また、イノシトールリン酸を表面に吸着させたカルシウム塩の粉体を含むセメント用材料と、多糖、イノシトールリン酸及び溶媒を含む混練液とを混練して得られるセメントを提案し、臨床応用に向け大きく前進している(特許文献2)。さらに、イノシトールリン酸を表面に吸着させた、リン酸三カルシウムを主成分として含有する粉体を含むセメントを提案している(特許文献3)。さらにカルシウム塩粉末の粒度分布を最適化することにより圧縮強度を高めることにも成功している(特許文献4)。また、特許文献4には、セメント用材料を水性溶媒中で混練する際に、適用する疾患に応じて、でんぷん、グリコサミノグリカン、アルギン酸、キチン、キトサン、ヘパリン等の多糖類も添加可能であることが記載されている。しかしながら、特許文献4には、多糖類の添加については具体的に記載されておらず、添加の目的も「適用する疾患に応じて」と記載されているのみであり、キトサンを加えることによる効果やキトサンと他の多糖類との相違については記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2005-95346号公報
【特許文献2】特開2009-178225号公報
【特許文献3】特開2009-183498号公報
【特許文献4】特開2008-200476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ハンドリング性が良好で、セメント作製時に各セメント成分を正確に秤量することが容易であり、高い圧縮強度を有する硬化物を作製することができ、骨又は歯充填材の製造に好適な組成物、及び該組成物を用いた骨又は歯充填材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、イノシトールリン酸処理したリン酸カルシウムと、キトサンと、有機酸を含み、前記キトサン及び有機酸が、キトサンとクエン酸を含む水溶液の凍結乾燥物である組成物は、ハンドリング性が良好で、セメント作製時に各セメント成分を正確に秤量することが容易であり、これを水と混練することにより、骨又は歯充填材として好適な高い圧縮強度を有する硬化物を作製することができることを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本願発明は、イノシトールリン酸処理したリン酸カルシウムと、キトサンと、有機酸を含み、前記キトサン及び有機酸が、キトサンとクエン酸を含む水溶液の凍結乾燥物である組成物を提供する。また、本願発明は、上記本願発明の組成物を水と混練することを含む、骨又は歯充填材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ハンドリング性が良好で、セメント作製時に各セメント成分を正確に秤量することが容易であり、これを水と混練することにより、骨又は歯充填材として好適な高い圧縮強度を有する硬化物を作製することができる新規な組成物が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例において作製した、本発明の組成物を水と混練して硬化させた硬化物の、固液比と圧縮強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記の通り、本発明の組成物は、イノシトールリン酸処理したリン酸カルシウムと、キトサンと、有機酸を含む。

【0013】
リン酸カルシウムとしては、ヒドロキシアパタイト及びリン酸三カルシウムが好ましい。イノシトールリン酸処理したリン酸カルシウムとしては、特許文献2及び特許文献3に記載されており、本発明においてもこれらの文献に記載された公知の方法によりリン酸カルシウムにイノシトールリン酸処理を行うことができる。簡単に述べると、イノシトールリン酸の水溶液とリン酸カルシウム粉末を混合することにより行うことができる。この場合、イノシトールリン酸水溶液の濃度は特に限定されないが、通常、50~10000ppm程度、好ましくは1000~5000ppm程度、さらに好ましくは1000~3000ppm程度である。係るイノシトールリン酸水溶液に対し、リン酸カルシウム粉末を1~10質量%の割合で混合することにより容易に得ることができる。また、イノシトールリン酸水溶液のpHは、中性域(6~8程度)が好ましく、また、処理は常温で行うことができる。混合後の水溶液を凍結乾燥処理することにより、表面にイノシトールリン酸が吸着したヒドロキシアパタイト及び/又はリン酸三カルシウム粉末が得られる。なお、リン酸カルシウムは、単一種類のものを用いることもできるし、複数種類のものを組み合わせて用いることもできる。ここで用いるイノシトールリン酸としては、イノシトール6リン酸(すなわち、フィチン酸)が好ましい。

【0014】
ヒドロキシアパタイト(水酸アパタイトとも呼ばれる)は、骨充填材やクロマトグラフィー用担体等の種々の用途において用いられている周知の材料であり、その製造方法も周知である。ヒドロキシアパタイトは、水酸化カルシウム懸濁液にリン酸水溶液を滴下する公知の湿式合成法により製造することができる(詳細は下記実施例に記載)。また、市販のヒドロキシアパタイト粉末をさらにボールミル等で粉砕した粉末(機械粉砕ヒドロキシアパタイト)も用いることができる。低粘度の組成物で強度の大きな硬化物を得る観点から、湿式合成法により製造したヒドロキシアパタイトが好ましい。

【0015】
リン酸三カルシウムとしては、α-リン酸三カルシウム(α-Ca3(PO4)2)及びβ-リン酸三カルシウム(β-Ca3(PO4)2) が好ましく、とりわけ、生体吸収性(最終的に自家骨に置き換わる性質)の観点からβ-リン酸三カルシウムが好ましい。

【0016】
本発明の組成物は、さらにキトサンを含む。キトサンとしてはその塩も使用することができ、その塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属塩が好ましい。キトサンの分子量は、特に限定されないが、通常数十万~数百万程度である。また、キトサンは、完全に脱アセチル化されている必要はなく、通常の市販品にみられるように、脱アセチル化度は、約70%以上、好ましく約80~85%以上あればよい。組成物中のキトサン及び/又はその塩の含有量は、通常、2.5~10質量%程度、好ましくは、5~10質量%程度である。キトサンは、塩酸塩等の酸付加塩の形態にあってもよい。キトサンの水溶液が市販されている(例えば、大日精化工業社製のダイキトサンW-10やダイキトサンコートGL等)おり、本発明の組成物では、このようなキトサン水溶液の凍結乾燥物も好ましく用いることができる。

【0017】
本発明の組成物は、さらにクエン酸を含む。クエン酸の組成物中の含有量は、通常、5~40質量%程度、好ましくは、8~20質量%程度である。組成物中にクエン酸を含めることにより、骨又は歯充填材を製造する際に、組成物と水を混合するときに、成形性が向上する。

【0018】
キトサンとクエン酸を含む水溶液を調製し、この水溶液の凍結乾燥物を、キトサン及びクエン酸として用いる。この場合、キトサンとクエン酸を含む水溶液は、上記した市販のキトサン水溶液とクエン酸水溶液を混合したり、クエン酸水溶液に、水溶性の固体のキトサン塩を溶解すること等により容易に調製することができる。


【0019】
本発明の組成物は、骨又は歯充填材の製造に好適に用いることができる。骨又は歯充填材の製造は、本発明の組成物を、水と混練することにより容易に調製することができる。この際の固液比(イノシトールリン酸処理したリン酸カルシウムの質量(単位g)及びキトサンと有機酸を含む水溶液の凍結乾燥物(単位g)を固体とし、水の体積(単位mL)を液体としたときの比率をもって定義される)を適宜選択することにより、徒手成形に適した充填材及び注射器等による注入が可能な充填材のいずれをも調製することができる。すなわち、徒手成形に適した充填材の場合には、固液比は1:0.44~1:0.76であり、硬化した充填材の圧縮強度の観点から好ましくは、1:0.44~1:0.65程度であり、注入可能な充填材の場合には、固液比は1:0.51~1:0.91、同観点から好ましくは1:0.55~1:0.65程度である。

【0020】
得られた充填材は、徒手成形可能な充填剤の場合には、従来と同様に徒手成形して骨や歯の欠損部に充填することができるし、注入可能な充填材の場合には、注射器等により患部に経皮的に注入することができる。充填又は注入された組成物は、公知の骨充填材と同様、患部において硬化する。

【0021】
本発明の組成物は、必須成分をいずれも粉末の形態として取り扱うことができ、ハンドリング性に優れる。また、充填材の調製の際に、秤量する成分は、粉末の形態にある必須成分と、水であり、粘稠な液状成分を用いないので、必要な成分を容易に正確に秤量することができ、作業性が向上する。

【0022】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。

【0023】
実施例
1. α-リン酸三カルシウム(α-TCP)粉末の調製
α-TCPは次のようにして調製した。α-TCP-A粉末(太平化学社製)10g及びφ10mmのジルコニアボール50個、精製水40mLを遊星型ボールミル(FRITSCH社製 P-6型)内に入れ、回転数300rpmで120分間湿式粉砕した。粉砕後、吸引ろ過し、固形物を凍結乾燥することで粉末を得た。

【0024】
2. イノシトールリン酸(IP6)処理α-TCP粉末の調製
得られたα-TCP粉末を、濃度1000ppmのIP6水溶液で24時間かき混ぜて表面修飾後、吸引ろ過し、固形物を凍結乾燥してIP6処理α-TCP粉末を調製した。

【0025】
3. キトサン-クエン酸粉体の調製
クエン酸水溶液にキトサン(和光純薬製キトサン50)を溶解して、キトサン(終濃度1質量%)とクエン酸(終濃度20質量%)の水溶液を調製した。これを凍結乾燥してキトサン-クエン酸粉末を調製した。

【0026】
4. 充填材の調製
上記2で得られたIP6処理α-TCP粉末を0.5g、上記3で得られたキトサン-クエン酸粉末を0.05g秤量し、これを下記表1に示す種々の量の純水と混練して充填材を調製した。表1には固液比及び徒手成形性も併せて示す。

【0027】
なお、徒手成形は次のようにして行った。
上記のようにして得た充填材をフッ素樹脂製の成形器(直径6mm、高さ12mm)に手作業で充填後、押し出して試験片を作製し、これをヒトの体内環境下に近い37℃、相対湿度100%に調整したインキュベータ中で24時間静置硬化させた。このときに得られる試験片の徒手成形性の優劣を判断した。

【0028】
【表1】
JP0005777141B2_000002t.gif
徒手成形性と注入成形性の欄において、○は成形性が良好であること、×は成形するには流動性が大きすぎるか、凝固性がないかの理由で成形性がないことを表す。

【0029】
また、固液比を変化させて充填材を調製し、次のようにして注入成形した場合に得られる圧縮強度について、固液比と圧縮強度の関係を調べた。その結果を図1に示す。図1には、上記徒手成形したときのデータも併せて示した。

【0030】
なお、注入成形は、直径6mmのフッ素樹脂製の成形器に充填材を注入して円柱状に成形した。これを37℃、相対湿度100%に調整したインキュベータ中で24時間静置硬化させて、直径6mm、高さ12mmの成形体を得た。

【0031】
これらの成形体について、SHIMADZU社製のAUTOGRAPH AGS-Jを用いて圧縮強度を求め、図1に示した。

【0032】
これらの結果から、徒手成形の場合、その作業性の面から固液比が1:0.44~1:0.76であることが好ましく、圧縮強度の面から固液比が1:0.44~1:0.65であることが好ましいことが分かる。また、注入成形の場合、その作業性の面から固液比が1:0.51~1:0.91であることが好ましく、圧縮強度の面から固液比が1:0.55~1:0.65であることが好ましいことが分かる。

【0033】
図1のデータを参照すれば、固液比を適切に選択することにより、徒手成形と注入成形のいずれかの成形方法に適応する優れた圧縮強度が実現されることが明らかになった。
図面
【図1】
0