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明細書 :繊維状リン酸カルシウム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4764985号 (P4764985)
公開番号 特開2004-284933 (P2004-284933A)
登録日 平成23年6月24日(2011.6.24)
発行日 平成23年9月7日(2011.9.7)
公開日 平成16年10月14日(2004.10.14)
発明の名称または考案の名称 繊維状リン酸カルシウム
国際特許分類 C01B  25/32        (2006.01)
A61F   2/28        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C01B 25/32 M
A61F 2/28
A61L 27/00 G
A61L 27/00 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願2003-082521 (P2003-082521)
出願日 平成15年3月25日(2003.3.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第6回生体関連セラミックス討論会講演予稿集(2002年12月12日)第16頁に発表
審査請求日 平成18年1月16日(2006.1.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
発明者または考案者 【氏名】相澤 守
個別代理人の代理人 【識別番号】100074675、【弁理士】、【氏名又は名称】柳川 泰男
審査官 【審査官】佐藤 哲
参考文献・文献 特開平11-255507(JP,A)
特開平07-116175(JP,A)
特開平07-034329(JP,A)
特開2003-055061(JP,A)
特開昭60-090880(JP,A)
特開平04-016600(JP,A)
特開平09-278425(JP,A)
特開平02-080311(JP,A)
特開2000-302567(JP,A)
特開昭60-021763(JP,A)
特開平10-167853(JP,A)
特開平10-130099(JP,A)
特開2004-284898(JP,A)
篠田洋紀 他,繊維状リン酸三カルシウムによる三次元培養スキャフォルドの作製とその評価,第6回生体関連セラミックス討論会講演予稿集,2002年12月12日,Page16
調査した分野 C01B 25/00 - 25/46
A61F 2/28
A61L 27/00
特許請求の範囲 【請求項1】
α-リン酸三カルシウムの単一相、もしくはα-リン酸三カルシウムとβ-リン酸三カルシウムとの混合物、またはα-リン酸三カルシウムと水酸アパタイトとの混合物からなり、長さが60~200μmの範囲にあって、アスペクト比が20~100の範囲にある繊維状リン酸カルシウム。
【請求項2】
カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8~3.0の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量が加水分解しないうちに加熱を止めることによって、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム及び水酸アパタイトの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程と、得られた繊維状リン酸カルシウムを1200~1500℃の温度にて焼成することによりα-リン酸三カルシウムを生成させる工程とを含む請求項1に記載の繊維状リン酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8以上1.67未満の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量を加水分解させることによって、カルシウム欠損型の水酸アパタイトからなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程と、得られた繊維状リン酸カルシウムを1200~1500℃の温度にて焼成することによりα-リン酸三カルシウムを生成させる工程とを含む請求項1に記載の繊維状リン酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
α-リン酸三カルシウムの単一相、もしくはα-リン酸三カルシウムとβ-リン酸三カルシウムとの混合物、またはα-リン酸三カルシウムと水酸アパタイトとの混合物からなり、長さが60~200μmの範囲にあって、アスペクト比が20~100の範囲にある繊維状リン酸カルシウムの係合により形成された、直径が50~500μmの範囲にある気孔からなる連続気孔を有し、気孔率が95~99%の範囲にある多孔質リン酸カルシウム成形体。
【請求項5】
細胞培養用である請求項4に記載の多孔質リン酸カルシウム成形体。
【請求項6】
カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8~3.0の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量が加水分解しないうちに加熱を止めることによって、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム及び水酸アパタイトの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程、得られた繊維状リン酸カルシウムと粒子径が50~500μmの範囲にある可燃性球状材料との混合物スラリを調製する工程、混合物スラリを吸引ろ過して、繊維状リン酸カルシウムと可燃性球状材料との板状形成体を得る工程、そして板状形成体を1200~1500℃の温度にて焼成して、可燃性球状材料を焼却除去するとともにα-リン酸三カルシウムを生成させる工程を含む請求項4に記載の多孔質リン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項7】
カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8以上1.67未満の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量を加水分解させることによって、カルシウム欠損型の水酸アパタイトからなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程、得られた繊維状リン酸カルシウムと粒子径が50~500μmの範囲にある可燃性球状材料との混合物スラリを調製する工程、混合物スラリを吸引ろ過して、繊維状リン酸カルシウムと可燃性球状材料との板状形成体を得る工程、そして板状形成体を1200~1500℃の温度にて焼成して、可燃性球状材料を焼却除去するとともにα-リン酸三カルシウムを生成させる工程を含む請求項4に記載の多孔質リン酸カルシウム成形体の製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維状リン酸カルシウム、及びその製造方法に関する。本発明はまた、生体材料として、特に骨芽細胞や肝細胞などの各種細胞の培養基材として有利に用いることができる多孔質リン酸カルシウム成形体、及びその製造方法にも関する。
【0002】
【従来の技術】
生体の骨欠損部の修復方法として、骨欠損部に骨と同等の材料から形成された多孔質成形体を充填して、この成形体の気孔にて新しい骨組織を形成する方法が知られている。特に最近では、多孔質形成体の骨形成能を高めるために、あらかじめ生体外にて骨芽細胞を培養した多孔質成形体を骨欠損部に充填することも検討されている。また、生体の内臓の代替物として人工的に培養した細胞を利用する技術も知られている。例えば、多孔質成形体に肝細胞を培養し、これを人工肝臓として利用する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、骨欠損部修復用の多孔質成形体の材料として有利に用いることができる炭酸含有水酸アパタイトホイスカー及びその製造方法が記載されている。この文献には、炭酸含有水酸アパタイトホイスカーは、ホイスカーの相互の絡合により、比較的大きな間隙(気孔)を形成することができるので、間隙に新生骨組織が侵入しやすく、ホイスカー及び新生骨組織が一体化して新しい骨の形成を促進すると記載されている。この文献には、カルシウム塩とリン酸塩とを含む水溶液を尿素の存在下にて加熱すると、リン酸八カルシウム(以下、OCPと略記することがある)のホイスカーが生成し、このOCPホイスカーが加水分解して炭酸含有水酸アパタイトホイスカーが生成すると記載されている。また、OCPホイスカーを約1200℃まで加熱すると、α-リン酸三カルシウム(以下、α-TCPと略記することがある)とα-二リン酸カルシウムとの混合物からなるホイスカーを得ることができると記載されている。
【0004】
非特許文献1には、β-リン酸三カルシウム(以下、β-TCPと略記することがある)粉末から形成された多孔質成形体(人工骨)が記載されている。この文献には、β-TCPの多孔質形成体を骨組織中に充填すると、多孔質形成体を足場とした骨細胞の形成と多孔質成形体の生体への吸収とが進行し、多孔質形成体の充填部位が自家骨に経時的に置換すると記載されている。
【0005】
非特許文献2には、骨細胞(骨芽細胞)の培養に適した繊維状の炭酸含有水酸アパタイトから形成された多孔質成形体が記載されている。この文献には、メジアン径約250μmの連通気孔(マクロポア)と、繊維と繊維との間にできた微細な気孔(ミクロポア)とを有する多孔質成形体が記載されている。
【0006】
非特許文献3には、肝細胞を培養した多孔質成形体を人工肝臓として利用する技術が記載されている。この文献では、多孔質成形体として平均孔径が約500μm、空隙率が90%のポリウレタン発泡体が用いられている。
【0007】
【特許文献1】
特許2691593号公報
【非特許文献1】
入江洋之,「自家骨に置換する人工骨」,セラミックス,38(2003)No.1,p.55-57
【非特許文献2】
M.Aizawa,H.Shinoda等、外7名,「Development and Biological Evaluation Apatite Fibre Scafford with Large Pore Size and High Porosity for Bone Regeneration",Key Engineer Mater.,vol.240-242,647-650(2003)
【非特許文献3】
船津和守等、外3名,「ヒト臨床を目指したハイブリッド型人工肝臓補助システムの開発」,生体材料,Vol.15,No.6(1997),p.322-329
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
骨細胞や肝細胞などの細胞の培養に用いる多孔質成形体には、細胞を成形体内部に取り込むための比較的大きな気孔(マクロポア)と細胞の培養に必要な培養液を内部に取り込むための比較的小さな気孔(ミクロポア)とが連続的に形成されていることが必要となる。この点、繊維状あるいはホイスカー状の炭酸含有水酸アパタイト、あるいはα-リン酸三カルシウムとα-二リン酸カルシウムとの混合物から形成した多孔質成形体は、β-リン酸三カルシウム粉末から形成した多孔質成形体やポリウレタン発泡体よりも有利である。
しかしながら、炭酸含有水酸アパタイトは、β-リン酸三カルシウムと比べて生体吸収性が低いという問題がある。また、α-リン酸三カルシウムとα-二リン酸カルシウムとの混合物では、α-二リン酸カルシウムが生体活性を示さず、また、炭酸含有水酸アパタイトよりも生体吸収性が低いという問題がある。
従って、本発明の課題は、生体吸収性が高い繊維状材料及びその製造方法を提供することにある。本発明の課題はまた、骨細胞や肝細胞などの各種細胞の培養に有利に用いることのできる、生体吸収性が高い多孔質成形体、及びその製造方法を提供することにもある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、α-リン酸三カルシウムの単一相、もしくはα-リン酸三カルシウムとβ-リン酸三カルシウムとの混合物、またはα-リン酸三カルシウムと水酸アパタイトとの混合物からなり、長さが60~200μmの範囲にあって、アスペクト比が20~100の範囲にある繊維状リン酸カルシウムにある。
【0011】
本発明の繊維状リン酸カルシウムは、例えば、下記の(1)又は(2)の方法により製造することができる。
(1)カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8~3.0の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量が加水分解しないうちに加熱を止めることによって、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム及び水酸アパタイトの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程と、得られた繊維状リン酸カルシウムを1200~1500℃の温度にて焼成することによりα-リン酸三カルシウムを生成させる工程とを含む方法。
(2)カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8以上1.67未満の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量を加水分解させることによって、カルシウム欠損型の水酸アパタイトからなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程と、得られた繊維状リン酸カルシウムを1200~1500℃の温度にて焼成することによりα-リン酸三カルシウムを生成させる工程とを含む方法。
【0012】
本発明はまた、α-リン酸三カルシウムの単一相、もしくはα-リン酸三カルシウムとβ-リン酸三カルシウムとの混合物、またはα-リン酸三カルシウムと水酸アパタイトとの混合物からなり、長さが60~200μmの範囲にあって、アスペクト比が20~100の範囲にある繊維状リン酸カルシウムの係合により形成された、直径が50~500μmの範囲にある気孔からなる連続気孔を有し、気孔率が95~99%の範囲にあることを特徴とする多孔質リン酸カルシウム成形体にもある。
【0013】
本発明の多孔質リン酸カルシウム成形体は、例えば、下記の(1)又は(2)の方法により製造することができる。
(1)カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8~3.0の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量が加水分解しないうちに加熱を止めることによって、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム及び水酸アパタイトの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程、得られた繊維状リン酸カルシウムと粒子径が50~500μmの範囲にある可燃性球状材料との混合物スラリを調製する工程、混合物スラリを吸引ろ過して、繊維状リン酸カルシウムと可燃性球状材料との板状形成体を得る工程、そして板状形成体を1200~1500℃の温度にて焼成して、可燃性球状材料を焼却除去するとともにα-リン酸三カルシウムを生成させる工程を含む方法。
(2)カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8以上1.67未満の範囲となる量にて含む水溶液を尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90~180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量を加水分解させることによって、カルシウム欠損型の水酸アパタイトからなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程、得られた繊維状リン酸カルシウムと粒子径が50~500μmの範囲にある可燃性球状材料との混合物スラリを調製する工程、混合物スラリを吸引ろ過して、繊維状リン酸カルシウムと可燃性球状材料との板状形成体を得る工程、そして板状形成体を1200~1500℃の温度にて焼成して、可燃性球状材料を焼却除去するとともにα-リン酸三カルシウムを生成させる工程を含む方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の繊維状リン酸カルシウムは、リン酸三カルシウム(TCP)からなる。TCPは、α-TCPであってもよいし、β-TCPであってもよい。また、α-TCPとβ-TCPとの混合物であってもよい。
【0015】
本発明の繊維状リン酸カルシウムでは、さらに水酸アパタイト(以下、HApと略記することもある)を含んでいてもよい。α-TCP、β-TCP及びHApの生体吸収性は、一般に、α-TCPが最も高く、β-TCPが次に高く、そしてHApが最も低い値を示す。従って、α-TCP、β-TCP及びHApの混合割合を調整することによって、繊維の生体吸収性を調節することができる。
【0016】
繊維状リン酸カルシウムの組成は、その繊維状リン酸カルシウムのX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルにより確認することができる。繊維状リン酸カルシウムの各成分の含有量比は、各成分のX線回折ピーク強度の相対値により算出することができる。α-TCPの含有量には(034面)、β-TCPの含有量には(0210)面、そしてHApの含有量には(211)面のピーク強度を用いることできる。本発明の繊維状リン酸カルシウムは、X線回折ピーク強度から算出されたTCPの含有量が50%以上にあることが好ましく、60%以上にあることがより好ましく、80%以上にあることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の繊維状リン酸カルシウムは、長さが60~200μmに範囲にあることが好ましい。アスペクト比は、20~100の範囲にあることが好ましい。
【0018】
本発明の繊維状リン酸カルシウムは、OCP、DCPA及びHApの混合物からなる繊維状リン酸カルシウム、もしくはカルシウム欠損型の水酸アパタイト[Ca10-x(HPO4x(PO4)6-x(OH)2-x・nH2O、0<x≦1、n=0~2.5、以下DApと略記することがある]からなる繊維状リン酸カルシウムを焼成することによって製造することができる。上記のOCP、DCPA及びHApの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムもしくはDApからなる繊維状リン酸カルシウムの焼成温度は、1200~1500℃の範囲である。この温度範囲にて焼成すると、繊維形状を維持したままOCP、DCPA及びHAp、もしくはDApが分解してα-TCPが生成する。焼成温度が1200℃以下であると主としてβ-TCPが生成し、焼成温度が1200℃を超えると主としてα-TCPが生成する傾向にある。焼成時間は、一般に1~20時間の範囲である。また、この焼成は、空気雰囲気下あるいは水蒸気雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0019】
OCP、DCPA及びHApの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムは、カルシウム塩とリン酸塩とを含む水溶液(反応原料液)を尿素の存在下にて加熱することによって製造することができる。反応原料液のカルシウム塩とリン酸塩との濃度の比は、CaとPとのモル比(Ca/P)に換算して、0.8~3.0の範囲にあることが好ましく、1.0~1.67の範囲にあることがよりに好ましい。カルシウム塩としては、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどを用いることができる。特に、硝酸カルシウムが好ましい。リン酸塩としては、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸アンモニウム、又はこれらの水和物を用いることができる。特に、リン酸水素二アンモニウムが好ましい。
【0020】
尿素は、沈殿剤として作用し、尿素の分解によって発生するアンモニアが反応原料液のpHを調整し、OCP、DCPA及びHApの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムの均一な沈殿を生成させる機能を果たす。尿素の使用量は、リン酸塩0.1モルに対して、0.2~1.0モルの範囲であることが好ましい。
【0021】
反応原料液は、酸性水溶液であることが好ましい。酸としては、硝酸、塩酸、酢酸及び硫酸などを挙げることができる。特に、硝酸が好ましい。酸の濃度は、0.01~1.0モル/Lの範囲にあることが好ましく、0.05~0.5モル/Lの範囲にあることがより好ましい。
【0022】
上記の反応原料液を加熱すると、OCPとDCPAとの混合物からなる繊維状物が生成する。この繊維状物を、反応原料液中でさらに加熱すると、OCPとDCPAとが加水分解してHApが生成する。この繊維状物中のOCPとDCPAの全てがHApに加水分解しないうちに加熱を止めることによって、OCP、DCPA及びHApからなる繊維状リン酸カルシウムを製造することができる。反応原料液の加熱温度は、OCPとDCPAとの混合物からなる繊維状物が生成するまでは、70℃以上90℃未満の温度であることが好ましく、70~85℃の温度であることがより好ましい。加熱時間は、反応原料液の濃度などにより異なるが、一般に10~25時間の範囲である。OCPとDCPAとの混合物からなる繊維状物生成後の加熱温度は、90~180℃の範囲にあることが好ましく、90~130℃の範囲であることがより好ましい。この加熱時間は、一般に10~25時間の範囲である。
【0023】
OCP、DCPA及びHApの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムが生成したことは、その繊維状リン酸カルシウムのX線回折パターン、及び赤外線吸収スペクトルにより確認できる。OCP、DCPA、及びHApの含有量比は、X線回折のピーク強度比から算出することができる。OCPの含有量にはミラー指数(010)面、DCPAの含有量には(020)面、HApの含有量には(211)面の強度を用いることができる。OCP、DCPA及びHApの含有量比は、OCP:DCPA:HApで、5~90:5~50:5~50であることが好ましい。
【0024】
DApからなる繊維状リン酸カルシウムもまた、カルシウム塩とリン酸塩とを含む水溶液(反応原料液)を尿素の存在下にて加熱することによって製造することができる。カルシウム塩とリン酸塩との濃度の比が、CaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8以上1.67未満の範囲(好ましくは、1.0~1.3の範囲)にある反応原料液を、上記のOCP、DCPA及びHApの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムの製造と同様に加熱して、OCPとDCPAとの混合物からなる繊維状物を生成させ、この繊維状物を、反応原料液中でさらに加熱して、OCPとDCPAの全量を加水分解させるとDApが生成する。OCPとDCPAとの混合物からなる繊維状物生成後の加熱温度は、90~180℃の範囲にあることが好ましく、90~130℃の範囲であることがより好ましい。
この加熱時間は、一般に50~100時間の範囲である。
【0025】
DApからなる繊維状リン酸カルシウムが生成したことは、その繊維状リン酸カルシウムのX線回折パターン、赤外線吸収スペクトル、及びCaとPとのモル比(Ca/P)により確認できる。DApは、X線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルがそれぞれHApと同じであって、CaとPとのモル比(Ca/P)が1.67よりも低い値を示す。
【0026】
次に、本発明の多孔質リン酸カルシウム成形体について説明する。
本発明の多孔質リン酸カルシウム成形体は、上記のTCPからなる繊維状リン酸カルシウムの係合により形成される。本発明の多孔質リン酸カルシウム成形体は、直径が50~500μmの範囲にある気孔(マクロポア)からなる連続気孔を含み、気孔率が95~99%の範囲にある。マクロポアは、細胞を成形体内部に取り込むための導通路として、あるいは取り込んだ細胞の足場として作用する。マクロポアの直径は、培養対象とする細胞の種類などに適宜調製する。例えば、骨芽細胞の場合には、100~200μmの範囲にあることが好ましく、100~150μmの範囲にあることがより好ましい。
【0027】
本発明の多孔質リン酸カルシウム成形体は、例えば、前記のOCP、DCPA及びHApの混合物からなる繊維状リン酸カルシウム、もしくはDApからなる繊維状リン酸カルシウムと、粒子径が50~500μmの範囲にある可燃性球状材料との混合物スラリを調製する工程、混合物スラリを吸引ろ過して、繊維状リン酸カルシウムと可燃性球状材料との板状形成体を得て、この板状形成体を1200~1500℃の温度にて焼成して、可燃性球状材料を焼却除去するとともにα-TCPを生成させることにより製造することができる。
【0028】
可燃性球状材料は、800~1500℃の温度に加熱したときの灰分が1質量%以下となるものであることが好ましい。このような可燃性球状材料の材料の例としては、ポリメタルクリレート、ポリスチレン、ポリプロピレン、およびカーボンを挙げることができる。これらのうちで好ましいのはカーボンである。なお、可燃性球状材料は、真球であることが好ましいが、必ずしも真球である必要はなく、略球形状であればよい。
【0029】
混合物スラリの溶媒には、水あるいは水とアルコールの混合溶液を用いることが好ましい。溶媒として水とアルコールの混合溶液を用いる場合、その比率は容積比で、通常は、水:アルコールが1:99~99:1の範囲にあり、好ましくは25:75~75:25の範囲にある。アルコールとしては、メタノール、エタノールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの2価アルコールを用いることができる。特に、エタノールが好ましい。
【0030】
繊維状リン酸カルシウムと可燃性球状材料との使用量は、繊維状リン酸カルシウム1質量部に対して、1~2000質量部の範囲にあることが好ましく、10~1000質量部の範囲にあることがより好ましい。
【0031】
板状形成体の焼成により、可燃性球状材料を焼却除去されて、成形体に気孔ならびに気孔連続体が形成するとともに繊維状のTCPが生成する。焼成時間は、板状形成体のサイズなどにより異なるが、一般に1~20時間の範囲である。
【0032】
上記の多孔質リン酸カルシウム成形体の製造においては、混合物スラリに直径が1~10μmの範囲にある可燃性微粒子材料を添加してもよい。この可燃性微粒子材料の添加により、多孔質リン酸カルシウム成形体に直径が1~10μmの範囲にある気孔からなる連続気孔が形成される。この連続気孔は、細胞の培養液を内部に取り込むためのミクロポアとして作用する。可燃性微粒子材料としては、前記の可燃性球状材料と同じ材料のものを用いることができる。可燃性微粒子材料の使用量は、繊維状リン酸カルシウム1質量部に対して、1~1000質量部の範囲にあることが好ましく、10~500質量部の範囲にあることがより好ましい。
【0033】
多孔質リン酸カルシウム形成体は、上記の混合物スラリをスプレードライ法により乾燥して造粒粉末を得て、この造粒粉末から形成した形成体を焼成することによっても製造することもできる。
【0034】
【実施例】
参考例1]
(1)リン酸八カルシウム(OCP)、リン酸水素カルシウム(DCPA)及び水酸アパタイト(HAp)の混合物からなる繊維状リン酸カルシウムの製造
硝酸カルシウム四水和物、リン酸水素二アンモニウム、及び尿素を、硝酸カルシウム四水和物0.1モル/L、リン酸水素二アンモニウム0.1モル/L、尿素0.5モル/Lの濃度となるように0.1モル/Lの硝酸に溶解して、反応原料液を調製した。この反応原料液を、環流冷却器付きの反応容器に入れ、80℃の温度で24時間加熱した後、さらに90℃の温度で24時間加熱した。加熱終了後、反応容器内の生成物を取り出して、洗浄乾燥した。得られた生成物の形態を電子顕微鏡で観察したところ、繊維状であり、その長さは60~200μmの範囲であり、アスペクト比は20~100の範囲であった。この生成物のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この生成物は、OCP、DCPA及びHApの混合物であることが確認された。また、OCPの(010)面のX線回折ピーク、DCPAの(020)面のX線回折ピーク、及びHApの(211)面のX線回折ピーク強度の比から、OCP、DCPA、及びHApの含有量比を算出したところ、その値(OCP:DCPA:HAp)は80:15:5であった。
【0035】
(2)多孔質リン酸カルシウム成形体の製造
上記の生成物を、水/エタノール混合溶液(1/1[体積/体積])に懸濁して、濃度1g/Lのスラリを調製した。このスラリに、粒子径が150μm以下のカーボンビーズ(ニカビーズ、日本カーボン(株)製)を、生成物/カーボンビーズが1/20(質量/質量)となる量にて添加した後、充分に撹拌し、生成物とカーボンビーズとの混合物スラリを調製した。この混合物スラリを吸引ろ過して、固形分(生成物とカーボンビーズの混合物)を板状に形成した。次いで、この板状形成体を、水蒸気雰囲気下にて1050℃の温度で5時間焼成して、カーボンビーズを焼却除去した。
【0036】
こうして得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体はβ-TCPの単一相から形成されていることが確認された。この成形体の表面状態を電子顕微鏡で観察したところ、長さが60~200μm、アスペクト比が20~100の繊維同士が焼結していることが確認された。また、この成形体の気孔率を測定したところ、その値は98%であった。さらに、この成形体の細孔分布を水銀ポロシメータにより測定したところ、100μm以上の比較的大きな気孔と10μm以下の比較的小さな気孔とが形成されていることが確認された(図1)。
【0037】
[実施例2]
前記参考例1(2)の板状形成体の焼成温度を水蒸気雰囲気下にて1200℃とした以外は、参考例1と同じ操作を行なって成形体を製造した。得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体はβ-TCPとα-TCPとの混合物から形成されていることが確認された。この成形体のβ-TCPとα-TCPとの含有量比を、X線回折パターンから読み取ったβ-TCPの(0210)面のピーク強度とα-TCPの(034)面のピーク強度との比から算出したところ、その値(β-TCP:α-TCP)は60:40であった。また、この成形体の気孔率は98%であった。
【0038】
[実施例3]
前記参考例1(2)の板状形成体の焼成温度を水蒸気雰囲気下にて1300℃とした以外は、参考例1と同じ操作を行なって成形体を製造した。得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体は、α-TCPの単一相から形成されていることが確認された。また、この成形体の気孔率は98%であった。
【0039】
参考例2
前記参考例1(2)の板状形成体の焼成温度を空気雰囲気下にて1050℃とした以外は、参考例1と同じ操作を行なって成形体を製造した。得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体は、β-TCPの単一相から形成されていることが確認された。また、この成形体の気孔率は98%であった。
【0040】
[実施例5]
前記参考例1(2)の板状形成体の焼成温度を空気雰囲気下にて1200℃とした以外は、参考例1と同じ操作を行なって成形体を製造した。得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体は、α-TCPとβ-TCPの混合物から形成されていることが確認された。この成形体のβ-TCPとα-TCPとの含有量比をX線回折パターンから読み取ったβ-TCPの(0210)面のピーク強度とα-TCPの(034)面のピーク強度との比から算出したところ、その値(β-TCP:α-TCP)は10:90であった。また、この成形体の気孔率は98%であった。
【0041】
[実施例6]
前記参考例1(2)の板状形成体の焼成温度を空気雰囲気下にて1300℃とした以外は、参考例1と同じ操作を行なって成形体を製造した。得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体は、α-TCPの単一相から形成されていることが確認された。
【0042】
参考例3
(1)カルシウム欠損型の水酸アパタイト(DAp)からなる繊維状リン酸カルシウムの製造
前記参考例1と同じ組成の反応原料液を、80℃の温度で24時間加熱した後、さらに90℃の温度で72時間加熱した。得られた生成物の形態を電子顕微鏡で観察したところ、繊維状であり、その長さは60~200μmの範囲であり、アスペクト比は20~100の範囲であった。生成物のカルシウムとリンとのモル比(Ca/P)、X線回折、及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この生成物は、Ca/Pが1.57のDApの単一相であることが確認された。
【0043】
(2)多孔質リン酸カルシウム成形体の製造
上記の生成物を、水/エタノール混合溶液(1/1[体積/体積])に懸濁して、濃度1g/Lのスラリを調製した。このスラリに、粒子径150μm以下のカーボンビーズ(ニカビーズ、日本カーボン(株)製)を、生成物/カーボンビーズが1/20(質量/質量)となる量にて添加した後、充分に撹拌し、生成物とカーボンビーズとの混合物スラリを調製した。この混合物スラリを吸引ろ過して、固形分(生成物とカーボンビーズの混合物)を板状に形成した。次いで、この板状形成体を、水蒸気雰囲気下にて1100℃の温度で5時間焼成して、カーボンビーズを焼却除去した。
【0044】
こうして得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体は、β-TCPとHApとの混合物から形成されていることが確認された。この成形体のβ-TCPとHApとの含有量比をX線回折パターンから読み取ったβ-TCPの(0210)面のピーク強度とHApの(211)のピーク強度との比から算出したところ、その値(β-TCP:HAp)は50:50であった。また、この成形体の気孔率は98%であった。
【0045】
[実施例8]
前記参考例3(2)の板状形成体の焼成温度を水蒸気雰囲気下にて1200℃とした以外は、参考例3と同じ操作を行なって成形体を製造した。得られた成形体のX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルを測定したところ、この成形体は、α-TCPとHApとの混合物から形成されていることが確認された。この成形体のα-TCPとHApとの含有量比をX線回折パターンから読み取ったα-TCPの(0210)面のピーク強度とHApの(211)のピーク強度との比から算出したところ、その値(α-TCP:HAp)は50:50であった。また、この成形体の気孔率は98%であった。
【0046】
【発明の効果】
本発明のリン酸三カルシウムからなる繊維状リン酸カルシウムは、従来の水酸アパタイトホイスカーと比べて生体吸収性が高いので、生体内の骨欠損部に充填した際の自家骨との置換が進行し易い。また、本発明の多孔質リン酸カルシウム成形体は、細胞を内部に取り込むための気孔(マクロポア)と細胞の培養に必要な培養液を内部に取り込むための気孔(ミクロポア)とが連続的に形成されているので、骨細胞や肝細胞などの各種細胞の培養に有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本参考例1にて製造した成形体の細孔分布を示す図である。
図面
【図1】
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