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明細書 :参加型獣医学・畜産学教育のための動物模型の開発

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-032253 (P2014-032253A)
公開日 平成26年2月20日(2014.2.20)
発明の名称または考案の名称 参加型獣医学・畜産学教育のための動物模型の開発
国際特許分類 G09B  23/34        (2006.01)
FI G09B 23/34
請求項の数または発明の数 19
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2012-171387 (P2012-171387)
出願日 平成24年8月1日(2012.8.1)
発明者または考案者 【氏名】河合 一洋
【氏名】佐藤 礼一郎
【氏名】伊東 正吾
【氏名】新井 佐知子
出願人 【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100092967、【弁理士】、【氏名又は名称】星野 修
【識別番号】100117813、【弁理士】、【氏名又は名称】深澤 憲広
審査請求 未請求
テーマコード 2C032
Fターム 2C032CB00
要約 【課題】獣医・畜産教育の場において、実習においてより効率的な手技習得を目指すことができ、同時に動物福祉の向上にも資することができる実習用の動物の模型(レプリカ)を提供する。
【解決手段】産業動物、実験動物、コンパニオン動物などの哺乳動物についての等身大の模型を提供し、骨格、血管、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腸管、乳房、直腸、子宮、または卵巣など、所望の模擬臓器・器官を作製し、模型の内部に収納する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
動物についての解剖学的、または臨床学的トレーニングを行うための、模擬臓器・器官を備えた等身大の哺乳動物模型。
【請求項2】
哺乳動物が、産業動物、実験動物、またはコンパニオン動物のいずれかである、請求項1に記載の哺乳動物模型。
【請求項3】
動物が産業動物である、請求項2に記載の哺乳動物模型。
【請求項4】
産業動物が、ウシ、ウマ、ブタ、または緬山羊である、請求項3に記載の動物模型。
【請求項5】
模擬臓器・器官が、骨格、血管、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腸管、直腸、乳房、子宮、または卵巣、またはこれらのいずれかの組み合わせ、に対応するものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の動物模型。
【請求項6】
体腔内の模擬臓器・器官の状態が、正常な状態または異常な状態である、請求項1~5のいずれか1項に記載の動物模型。
【請求項7】
動物模型を構成する各模擬臓器・器官が、代替パーツにより交換可能である、請求項1~6のいずれか1項に記載の動物模型。
【請求項8】
代替パーツが、各模造臓器・器官の異常な状態を示すものである、請求項7に記載の動物模型。
【請求項9】
体腔内の模擬臓器・器官の状態を確認するための開口を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の動物模型。
【請求項10】
異常な状態が、ウシの第四胃変位を生じた状態に対応したものである、請求項6~9に記載の動物模型。
【請求項11】
開口が、内視鏡検査・処置のトレーニング用のもの、手術のトレーニング用のもの、直腸検査のトレーニング用のもの、またはこれらの組み合わせである、請求項9または10に記載の動物模型。
【請求項12】
模擬直腸、模擬子宮、または模擬卵巣が弾力性のある材料から構成される、請求項5~11のいずれか1項に記載の動物模型。
【請求項13】
模擬子宮が、超音波診断用に少なくとも一部に塩化ビニルから構成される部分を含む、請求項12に記載の動物模型。
【請求項14】
模擬子宮中に模擬胎子がさらに含まれる、請求項12に記載の動物模型。
【請求項15】
模擬胎子が、生殖結節に対応する構造を有する、請求項14に記載の動物模型。
【請求項16】
模擬胎子が、妊娠中の性別診断のトレーニング用のものである、請求項14または15に記載の動物模型。
【請求項17】
模擬血管が液体を充填することができる構造を有する、請求項5または6のいずれか1項に記載の動物模型。
【請求項18】
模擬血管が、採血のトレーニング用のもの、または血管内投与のトレーニング用のものである、請求項17に記載の動物模型。
【請求項19】
模擬血管が弾力性のある材料から構成される、請求項17または18に記載の動物模型。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、獣医・畜産分野の実務研修において使用することができる産業動物の等身大模型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
獣医・畜産分野の教育現場において、参加型の産業動物臨床実習は必要不可欠な実習であり、様々な実習が行われている。たとえば、
・産業動物臨床基礎実習(産業動物臨床への導入教育)、
・獣医内科学実習(ウシやブタを用いて、視診、聴診、および打診などの身体検査、尿、血液および第一胃液の採取など、疾病の診断および治療に必要な基本的技術を学ぶ実習)、
・獣医外科学実習(外科的操作の基本的事項、特に手術器具の操作、手術方法、麻酔方法などについて学ぶ実習)、
・獣医臨床繁殖学実習(発情行動の観察、膣検査および直腸検査から発情周期の時期の推定を行う繁殖機能検査実習)、そして
・産業動物臨床実習(動物病院に入院している患畜を用いて、実際に疾病に罹患している産業動物に接し、疾病の診断、治療、看護を体験する実習;動物の飼養管理、身体検査、尿検査、血液検査、血清化学的検査、糞便検査、胃汁検査、直腸検査、および画像検査などを行う実習)、
などが行われている。
【0003】
しかしながら、教育を受ける学生数に比較して実習において利用される動物の数が限られているため、学生全員が参加型の産業動物臨床実習(たとえば、直腸検査や採血などの実習)を行うことは難しかった。
【0004】
一方、動物福祉の観点からも、動物が、多人数による長時間の実習に供されることは、多大なストレスの原因となることから、可能な限り実習に供する回数、時間などを減少させることが好ましいと考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人間の医学教育の臨床実習現場では、レプリカを用いた代替法が採用されており、生身の人間に負荷をかけずに、種々の実習の代替をすることができる。そこで、本発明は、獣医・畜産教育の場においても、実習においてより効率的な手技習得を目指すことができ、同時に動物福祉の向上にも資することができることを目的として、獣医・畜産教育の現場において使用することができる実習用の動物の模型(レプリカ)を提供することを課題とする
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、動物についての解剖学的、または臨床学的トレーニングを行うための、模擬臓器・器官を備えた等身大の哺乳動物模型を提供することにより、上述した課題を解決することができる。
【0007】
本発明においては、産業動物、実験動物、コンパニオン動物などの哺乳動物についての等身大の模型を提供することができ、特に産業動物の模型を提供することができる。
本発明においてはまた、骨格、血管、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腸管、乳房、直腸、子宮、または卵巣など、所望の模擬臓器・器官を作製し、模型の内部に収納した、哺乳動物模型を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
従来は、実習で使用することができる家畜数が学生の数に比して限られていたことから、すべての学生が十分な実習を行うことが難しかった。また、技術的に未熟な多くの学生が少数の生体家畜に対して採血実習や直腸検査実習を行うことから、生体家畜に苦痛を与えていた。
【0009】
本発明の動物模型は、実習において実用に足る動物模型であることから、より効率的な手技習得が可能になり、それぞれの臓器・器官を視覚的に確認することができる。またそれらの位置関係を学ぶことができ、しかも直腸検査、妊娠鑑定、人工授精、受精卵移植、採血などの実技実習が可能になり、結果として技術理解力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ブタの等身大模型を示す。図1Aは左半身の全身概観を示す;図1Bは、左側体側パネルを外した状態での正常な臓器・器官の配置を示す;そして図1Cは肛門から直腸に向けて腕を挿入し直腸検査を行っている図を示す。
【図2-1】図2は、ウシの等身大模型を示す。図2Aは左半身の全身概観を示す;図2Bは左側体側パネルを外した状態で第四胃変位を起こした状態の異常な臓器・器官の配置を示す;図2Cは右側体側パネルを外した状態で、正常な臓器・器官の配置を示す。
【図2-2】図2Dはウシに特徴的な第一胃~第四胃の部分の内部構造を示す;図2Eは左側頸静脈より採血している状態を示す。
【図2-3】図2Fおよび2Gは模型の体側部に設けられた内部を観察するための開口部を示す。
【図3】図3Aは、実施例2のウシ模型において、肛門部分に開口部が備わっており、この肛門に相当する開口部から模擬直腸が連続するように取り付けてあり、直腸検査にて卵巣を触診している状態を示す。図3Bは卵巣を超音波診断装置にて診断している状態を示す。
【図4】図4Aは、妊娠子宮モデルを使用して、超音波診断をしている状態を示す。図4Bはその時の超音波装置に写し出された胎児を示す;図4Cは実施例4で作製された模擬胎子を使用して、実際の超音波で妊娠診断をした結果を示す。図4Cにおいては、超音波像において、目的とする生殖結節の像が示された。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者らは、ヒトの医学と比較した、獣医・畜産分野の特殊性に鑑み、鋭意検討を行った結果、動物についての解剖学的、または臨床学的トレーニングを行うための、模擬臓器・器官を備えた等身大の哺乳動物模型を提供することを示し、本発明を完成するに至った。

【0012】
したがって、本発明においては、動物についての解剖学的、または臨床学的トレーニングを行うための、模擬臓器・器官を備えた等身大の哺乳動物模型を提供することができる。

【0013】
本発明における動物模型は、獣医学・畜産学領域において、実際の動物の代わりに種々の実習において使用することを目的とした模型であり、目的とした動物の等身大模型であることが重要になる。そのため、必然的に模型自体が大型になることから、材質については、できるだけ軽く丈夫なものを使用することが好ましい。たとえば、軽量かつ丈夫な素材として、価格的にも利用可能なものとして、繊維強化プラスチック(FRP)、シリコーン樹脂などがある。この様な材質で作製することにより、動物模型を自立させ、動物の飼養現場に近い実習環境を作ることができる。

【0014】
人間の医学教育の臨床実習現場では、実際の人体を使用することが難しいことから、代替法が採用されて一定の成果を上げている。獣医学・畜産学教育の場においても、実習による学生の経験値を上昇させ、一方で動物にかかるストレスを軽減し動物福祉を向上させることを目的として、動物の模型(レプリカ)を用いてより効率的な手技習得を目指すことが必要である。実習において実用に足る動物模型を用いれば、より効率的な手技習得を可能にし、それぞれの臓器・器官を視覚的に確認することができる。さらに、それらの臓器・器官の位置関係を学ぶことができ、直腸検査や採血などの実技実習が可能になる。

【0015】
特に、動物の場合、動物種に特異的な身体構造や疾患が存在することが知られている。獣医・畜産分野において産業動物は多くは草食動物であるが、草食動物の場合、肉食動物と比較して、食草を消化するための特徴的な身体構造を有する。例えばウシの場合は、胃が第一胃~第四胃まで存在し、また大型の盲腸を有するという特殊な構造を有しており、その結果生じる疾患、例えば第四胃の位置が正常と比較して変位してしまうことにより生じる第四胃変位、ウシが飲み込んだ釘等の金属が第二胃を傷つけて生じる創傷性第二胃炎、盲腸が大きいために生じる盲腸捻転など、ヒトでは見られない疾患を生じる。

【0016】
また、大型の産業動物の場合、繁殖の現場において、発情周期の推定や人工授精を行う際などに、直腸検査(直検)を行う。そのため、獣医学・畜産学の実習では、直腸検査の実習を行うことは必要不可欠である。しかし、被験動物にかかる負荷が大きく、十分な実習を行うことが難しいのが現状である。

【0017】
動物模型の対象となる動物は、動物模型で実習を行う動物、たとえば、産業動物、実験動物、またはコンパニオン動物のいずれかであり、動物模型の利用価値から判断して、産業動物を対象とすることが好ましい。特に、産業動物としては、ウシ、ウマ、ブタ、または緬山羊を対象とすることが好ましい。

【0018】
本発明の動物模型には、内部に模擬臓器・器官を備えることができる。本発明においては、動物の個体内のすべての臓器・器官に関して模擬臓器・器官を作製することができるが、特に骨格、血管、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腸管、乳房、直腸、子宮、および卵巣の模擬臓器・器官を備えることが、実習の効率を考慮して好ましい。

【0019】
この模擬臓器・器官は、実習の目的に応じて、正常な状態の模擬臓器・器官であってもよく、または異常な状態の模擬臓器・器官であってもよい。具体的には、
たとえば、異常な状態の模擬臓器・器官としては、上述したようなウシの第四胃変位の胃の構造を模した模擬臓器・器官、ウシ・ブタの卵巣嚢腫を有する異常卵巣の構造を模した模擬臓器・器官、などを模擬臓器・器官として備えることができる。

【0020】
また、正常の模擬臓器・器官としては、ウシ、ウマ、ブタの肛門から直腸にかけての構造を模した模擬臓器・器官、ウシ、ウマ、ブタの非妊娠子宮または妊娠子宮の構造を模した模擬臓器・器官、ウシ、ブタの採血を行う血管である頚静脈の構造を模した模擬臓器・器官、などを模擬臓器・器官として備えることができる。

【0021】
本発明の動物模型においては、体内の臓器・器官の構造を有する模擬臓器・器官を、代替パーツとして、異なる状態の構造を模した模擬臓器・器官を取り付けまたは交換して使用することができる。例えば、ウシの模型の場合、正常な胃の構造を模した模擬臓器・器官の上に第四変位を生じた胃の形態を模した模擬臓器・器官を取り付けることができる。また、ウシの模型の場合、妊娠していないウシの子宮の構造を模した模擬臓器・器官と、妊娠子宮の構造を模した模擬臓器・器官とを交換して使用することができる。また、ウシ、ブタの性周期に合わせたいくつもの正常または異常卵巣を交換して使用することができる。

【0022】
本発明の動物模型は、実際の獣医・畜産分野の学生が実習で使用するものであることから、実際の動物の診断、治療において利用できる手段、たとえば、外科的手術、内視鏡、超音波診断、採血などの手段を模擬的に実習することができるような構造を有することを特徴とする。そのため、動物模型の表面には、体腔内の模擬臓器・器官の状態を確認するための開口を有していてもよい。このような動物模型の表面に備える開口は、内視鏡検査・処置のトレーニング用のもの、手術のトレーニング用のもの、直腸検査のトレーニング用のもの、またはこれらの組み合わせであってもよい。

【0023】
たとえば、ウシの第四胃変位は左右いずれかのけん部を切開するが、手術のトレーニング用の開口部として、切開創に相当する開口部を備えることができる。この様な切開創に相当する開口部を備えた本発明の動物模型を使用すると、実際の第四胃変位の手術の際にどのような臓器・器官の見え方をするのかを理解することができる。また、本発明の動物模型を使用して、正常な状態の臓器・器官と、異常な状態の臓器・器官の開口部を介した見え方を比較することにより、異常な状態をより正確に把握するためのトレーニングを行うことができる。

【0024】
さらに、直腸検査は、ウシやブタの肛門から腕を挿入し、腹腔内の各臓器を触診する技術である。したがって、直腸検査のトレーニング用の開口部は、肛門と同一であり、この開口から大腸の模擬臓器・器官が連続しているという構造を有する。

【0025】
また、腹腔鏡鏡検査や手術は左腹部に2つの小穴を開け、そこに機器を挿入し操作するが、トレーニング用の開口部として切開創に相当する小穴を備えることができる。このことにより、腹腔鏡で診た時の腹腔内の臓器景観や腹腔鏡手術の手技を学ぶことができる。

【0026】
本発明の動物模型は、直腸検査の実習のために使用することができる。直腸検査は、骨盤腔周辺に存在する臓器・器官の状態を触診により探ることを目的としており、たとえば、卵巣を触診する発情周期または異常卵巣の診断、子宮を触診する妊娠の診断、等をおこなう。したがって、本発明の動物模型を使用して直腸検査の実習を行うことにより、卵巣、子宮などの臓器・器官の状態を正確に把握するためのトレーニングを行うことができる。

【0027】
直腸検査は、上述したように触診を行う検査であることから、対象となる臓器、たとえば、直腸、卵巣、子宮など、の材質を検討して、触診したときの弾力性、重さなどを実際の動物の臓器・器官のものに近づけることが必要になる。そのため、本発明においては、模擬直腸、模擬子宮または模擬卵巣を、弾力性のある材料から構成することができる。その様な弾力性のある材料としては、シリコーン樹脂、ゴムを使用することができるが、これに限定されるものではない。

【0028】
本発明の動物模型は、妊娠診断の実習のために使用することもできる。たとえば、ウシやウマの妊娠診断を行う場合、肛門から直腸内に超音波診断用のプローブを挿入して、直腸壁を介して子宮の内部に超音波を当て、子宮内の超音波診断を行う。しかし、模擬子宮としてシリコーン樹脂を使用する場合、触診という観点からはその弾力性は、実際の動物の臓器・器官をよく反映しているが、一方で実際の動物の臓器・器官と比較して超音波を通しにくいという欠点を有している。そのため、模擬子宮を作製する際、模擬子宮の子宮壁の一部に超音波が通りやすい材質から形成される部分を備えることにより、超音波診断の実習の実用性を高めることができる。たとえば、模擬子宮は、超音波診断用に少なくとも一部に塩化ビニルから構成される部分を含むことを特徴としていてもよい。

【0029】
また、模擬子宮中には、超音波診断を行う際の媒質として、液体が封入されていてもよい。本発明において、模擬子宮中に封入される液体として、水、またはグリセリンを使用することができる。好ましくは、グリセリンを模擬子宮中に封入して使用する。

【0030】
また、実際の動物での子宮の超音波診断の実務においては、繁殖障害の卵巣、子宮疾患診断、早期妊娠診断、双子診断、性別診断等に使用することができることが知られており、中でも妊娠の有無の診断と、妊娠胎子の性別診断を行うことが一般的である。そのため、実習に際しては、模擬子宮中に模擬胎子がさらに含まれていてもよい。模擬子宮中に模擬胎子が存在するかどうかを検出することにより、妊娠の有無の診断の実習を行うことができる。

【0031】
模擬胎子は、模擬子宮中にある状態で模擬直腸から超音波を当てた場合に、超音波像をもたらす性質を有する材料により作製することができる。たとえば、その様な材料としては、炭酸カルシウム粉末を混合したポリエステル樹脂などを利用することができる。

【0032】
さらに模擬子宮中に模擬胎子を存在させる場合に、本発明の動物模型は、妊娠胎子の性別診断の実習のために使用することもできる。その胎子がオスかメスかを判別することにより、妊娠胎子の性別診断の実習を行うこともできる。実際の妊娠期間における胎子の性別診断は、超音波診断により胎子を撮像し、生殖結節の位置によりオスかメスかを判別する。したがって、模擬胎子を用いて性別診断の実習を行うために、模擬胎子は生殖結節に対応する構造を有することが必要である。この様な模擬胎子の生殖結節に対応する構造は、超音波診断をした際に、オスの模擬結節またはメスの模擬結節に類似する反射像を示すことを特徴とするものであり、その様な模擬結節は、模擬胎子を構成する材料とは異なる材質のもので形成されることが必要である。たとえば、模擬胎子を前述したような炭酸カルシウム粉末を混合したポリエステル樹脂で作製する場合、模擬結節にはニワトリの骨を使用することができるが、これに限定されるものではない。

【0033】
本発明の動物模型は、採血または血管内投与(静脈内注射)の実習のために使用することもできる。動物においては一般的に、頸静脈など皮膚直下を走行する比較的大きな静脈系血管に、注射針を刺して実施する。そこで、本発明の動物模型においては、注射針が貫通することができる程度の堅さの皮膚部分を模型表面の一部に備える一方、その部分の直下に、血液の代わりになる液体を充填することができる構造を有する模擬血管を配置することができる。

【0034】
このように配置された模擬血管は、採血のトレーニング用として、または血管内投与のトレーニング用として、使用することができる。採血のトレーニングのためには、模擬血管内に注射針を導入し、模擬血管内に充填された液体成分(血液を模したもの)を吸引することによりおこなう。一方、血管内投与のトレーニングのためには、目的とする液体成分をあらかじめ注射用シリンジに充填し、注射針を模擬血管内に導入し、注射用シリンジ中に入れた液体を模擬血管中で放出することによりおこなう。

【0035】
模擬血管は、注射針が貫通することができる厚さおよび弾力性を有することが必要であり、材料としては、弾力性のある材料たとえば、シリコーン樹脂、ゴムを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1:ブタ模型の作製
本実施例においては、ブタの等身大模型を作製した。
ブタは、LW種の体重が180kgのメスをモデルにして、繊維強化プラスチック(FRP)により作製した(神奈川県相模原市、有限会社パウ)(図1A)。
【実施例】
【0037】
体内には、正常なメスブタの臓器・器官を原則的にFRPにより作製し、体内にすべて納めた。この動物模型は、内部の臓器・器官の配置を解剖学的に実習することができるように、体側の外部構造物を取り外すことができるように構成されている(図1B)。また、各臓器・器官は、別個に構成されていることから、腸管だけを外す、ということが可能になっている。
【実施例】
【0038】
さらに、肛門から模擬直腸を取り付けてあり、直腸検査の実習を行うことができる。模擬直腸は、直腸検査の要に供する必要があるため、弾力性のあるシリコーン樹脂で形成した。図1Cでは、実際に直腸に腕を挿入して直腸検査の実習を行っている。
【実施例】
【0039】
実施例2:ウシ模型の作製
本実施例においては、ウシの等身大模型を作製した。
ウシは、ホルスタイン種の体重が680kgのメスをモデルにして、繊維強化プラスチック(FRP)により作製した(神奈川県相模原市、有限会社パウ)(図2A)。
【実施例】
【0040】
体内には、正常なメスウシの臓器・器官を原則的にFRPにより作製し、体内にすべて納めた。この動物模型は、内部の臓器・器官の配置を解剖学的に実習することができるように、体側の外部構造物を取り外すことができるように構成されている(図2B)。また、各臓器・器官は、別個に構成されていることから、腸管だけを外す、あるいは肋骨のみを外す、ということが可能になっており、実際に触れて学ぶことができる解剖学的な実習のために使用することができる。この図において、図2Bは、左側の体側パネルを外した場合の第四胃変位を起こした異常な状態の臓器・器官の配置の概観を示す;図2Cは、右側の体側パネルを外した場合の正常な臓器・器官の配置の概観を示す;図2Dはウシに特徴的な第一胃~第四胃の部分の内部構造を示す。
【実施例】
【0041】
また、この模型では、採血あるいは薬物投与用の模擬血管を備えている(図2E)。この模擬血管は、弾力のある材料で構成されており、内部に液体を貯留できるように両端を密封できる構造であることを特徴としている。たとえば、図2Eでは、シリコーン性のチューブを配置してあり、このチューブ内に血液の代わりをする液体を貯留する際には、両端を盲栓し内部に液体を貯留する;そして、図2Fおよび2Gは、模型の体側部に設けられた内部を観察するための開口部を示す。
【実施例】
【0042】
実施例3:ウシ子宮モデルの作製
本実施例においては、ウシの模擬子宮模型を作製した。
実施例2において作成したウシの模型には、肛門部分に開口部が備わっており、この肛門に相当する開口部から模擬直腸が連続するように取り付けてあり、直腸検査の実習を行うことができる(図3A)。
【実施例】
【0043】
模擬直腸は、直腸検査の要に供する様な材質で作製する必要があるため、弾力性のあるシリコーン樹脂で形成した。この模擬直腸の近傍には、直腸検査で検査の対象となる子宮を、弾力性のあるシリコーン樹脂で形成した。
【実施例】
【0044】
また、このウシ模擬子宮もまた、直腸検査において腸管壁を介して触診できる材質のものであり、したがって全体をシリコーン樹脂で形成した。しかしながら、シリコーン樹脂で形成した模擬子宮では、超音波が十分に透過せず、超音波像を得ることが難しい。したがって、より実際に近い超音波像を得ることを目的として、子宮壁の一部については内部まで超音波が透過するように塩化ビニルに変更した。さらに非妊娠子宮において、子宮頸管部のヒダをリアルに表現することで、人工授精のトレーニングができるようにした。また、非妊娠子宮角基部にバルーンカテ—テルを装着することにより受精卵移植のトレーニングができるようにした。
【実施例】
【0045】
実施例4:ウシ胎子モデルの作製
本実施例においては、ウシの模擬子宮模型を作製した。
実際のウシでは、超音波診断を利用して胎子の有無そして胎子の性別の識別をすることが一般的に行われている。そこで、実施例3の模擬子宮中に、さらに模擬胎子を導入した。
【実施例】
【0046】
模擬胎子は、超音波を当てたときに、特有の生殖結節による超音波像に対応する超音波像を提供するように、炭酸カルシウム粉末を混合したポリエステル樹脂により形成した。この胎子の有無により、妊娠の有無の診断の実習を行う。
【実施例】
【0047】
また、獣医・畜産の現場では、妊娠早期に胎子の超音波診断を行い、生殖結節が存在する位置に基づいて、胎子の雌雄を判別することが行われている。本発明の模擬胎子においても、ニワトリの手羽先の骨を四肢と生殖結節の部位(オスの場合は臍帯直下、メスの場合は尾根部)に使用することにより、雌雄判別が可能の胎子モデルとした。
【実施例】
【0048】
この模擬胎子を使用して超音波診断をしている状態を図4に示す。図4Bはその時の超音波装置に写し出された胎児を示す;図4Cは実施例4で作製された模擬胎子を使用して、実際の超音波で妊娠診断をした結果を示す。図4Cにおいては、超音波像において、目的とする生殖結節の像が示された。
【実施例】
【0049】
実施例5:ウシ・ブタ卵巣モデルの作製
本実施例においては、ウシ・ブタの卵巣モデルを作製した。
ウシ・ブタの正常および異常卵巣を作り、直腸検査(図3A)および超音波検査で卵巣診断の実習を行った(図3B)。
【実施例】
【0050】
卵巣は、シリコーン樹脂で形成し、卵胞の部分は空洞化して、その内部に水を充填した。このことにより、黄体と卵胞の触診の違いを明確にさせ、超音波診断の実施を可能にした。
【実施例】
【0051】
ウシの卵巣は、開花期黄体と小卵胞を有する卵巣、2つの嚢腫卵胞を有する卵巣、退行期黄体と排卵窩を有する卵巣等を作製し、ブタの卵巣は、正常卵巣の他、多胞性大型卵巣嚢腫を有する卵巣、多胞性小型卵巣嚢腫を有する卵巣、寡胞性嚢腫を有する卵巣等を作製して様々な卵巣ステージまたは卵巣疾患の診断に対応できるようにした。
【産業上の利用可能性】
【0052】
従来は、実習で使用することができる家畜数が学生の数に比して限られていたことから、すべての学生が十分な実習を行うことが難しかった。また、技術的に未熟な多くの学生が少数の生体家畜に対して採血実習や直腸検査実習を行うことから、生体家畜に苦痛を与えていた。
【0053】
本発明の動物模型は、実習において実用に足る動物模型であることから、より効率的な手技習得が可能になり、それぞれの臓器・器官を視覚的に確認することができることからそれらの位置関係を学ぶことができ、しかも直腸検査や採血などの実技実習が可能になり、結果として技術理解力が高まる。
図面
【図1】
0
【図2-1】
1
【図2-2】
2
【図2-3】
3
【図3】
4
【図4】
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