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明細書 :膝継手

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5967700号 (P5967700)
公開番号 特開2013-212260 (P2013-212260A)
登録日 平成28年7月15日(2016.7.15)
発行日 平成28年8月10日(2016.8.10)
公開日 平成25年10月17日(2013.10.17)
発明の名称または考案の名称 膝継手
国際特許分類 A61F   2/64        (2006.01)
FI A61F 2/64
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2012-083996 (P2012-083996)
出願日 平成24年4月2日(2012.4.2)
審査請求日 平成27年1月30日(2015.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
発明者または考案者 【氏名】和田 隆広
【氏名】秋山 友祐
【氏名】井上 恒
【氏名】尾崎 光利
【氏名】立和名 慎一
個別代理人の代理人 【識別番号】100089222、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 康伸
【識別番号】100134979、【弁理士】、【氏名又は名称】中井 博
【識別番号】100175400、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 伸
審査官 【審査官】石川 薫
参考文献・文献 特開2003-093420(JP,A)
特表2011-502593(JP,A)
調査した分野 A61F 2/64
特許請求の範囲 【請求項1】
大腿義足に組み込まれる膝継手であって、
大腿側部材と、
該大腿側部材に対して回動可能に連結された下腿側部材と、
前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の回動方向を、屈曲方向または伸展方向の一方向に制限可能な回動制限手段と、
該回動制限手段を、伸展方向の回動を制限する伸展制限状態と、屈曲方向の回動を制限する屈曲制限状態とで切り替える切替手段と、を備え
前記切替手段は、
前記大腿義足の遊脚期に前記回動制限手段を前記伸展制限状態とし、
前記大腿義足の立脚期に前記回動制限手段を前記屈曲制限状態とする
ことを特徴とする膝継手。
【請求項2】
前記回動制限手段は、回転方向を切り替え可能なラチェット機構である
ことを特徴とする請求項1記載の膝継手。
【請求項3】
前記切替手段は、前記回動制限手段が前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の過伸展を抑制した後であって、該回動制限手段に伸展方向の負荷が加わる前に、該回動制限手段の前記伸展制限状態を解除する
ことを特徴とする請求項記載の膝継手。
【請求項4】
前記大腿義足の下腿部の加速度を検出する加速度検出手段を備え、
前記切替手段は、前記加速度検出手段で検出した加速度が、屈曲方向の値である閾値に達したことをきっかけとして、前記回動制限手段の前記伸展制限状態を解除する
ことを特徴とする請求項記載の膝継手。
【請求項5】
前記切替手段は、
前記大腿側部材に対して前記下腿側部材が伸展を開始した後に、
前記加速度検出手段で検出した加速度が、屈曲方向の値である閾値に達したことをきっかけとして、前記回動制限手段の前記伸展制限状態を解除する
ことを特徴とする請求項記載の膝継手。
【請求項6】
前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の角度を検出する角度検出手段を備え、
前記切替手段は、前記角度検出手段で検出した角度がピークに達したことをきっかけとして、前記回動制限手段を前記伸展制限状態から前記屈曲制限状態へ切り替える
ことを特徴とする請求項記載の膝継手。
【請求項7】
前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の角度を検出する角度検出手段を備え、
前記切替手段は、前記角度検出手段で検出した角度が閾値に達したことをきっかけとして、前記回動制限手段を前記屈曲制限状態から前記伸展制限状態へ切り替える
ことを特徴とする請求項記載の膝継手。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、膝継手に関する。大腿切断患者(膝より上の大腿部を切断した患者)は、膝継手が組み込まれた大腿義足を使用する。本発明は、このような大腿義足に組み込まれる膝継手に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の大腿義足の機構や制御方法の進歩により、ある程度自由な平地歩行が実現されている。その一方で、大腿義足による階段の昇降、特に昇段(階段の昇り)は困難であることが知られている。
大腿義足による昇段の課題として以下の3点がある。
(1)大腿義足の遊脚期の初期において、膝関節の屈曲不足により足部が下段の蹴込面に衝突する。
(2)大腿義足の遊脚期の終期において、膝関節の過伸展により足部が上段の蹴込面に衝突する。
(3)大腿義足の立脚期において、膝継手が予期せず折れる(膝折れ)。これは、立脚期の初期においては、膝継手が屈曲した状態で床反力がかかることに起因する。
【0003】
上記の課題を解決するために、アクチュエータを搭載した膝継手が考案されている(例えば、非特許文献1)。
しかし、このような膝継手は非常に高価であるにも関わらず、不自然な足取りとなり歩行者の負担が大きいという問題があった。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】M. Ninomiya, “Development of aKnee Joint for a Trans-femoral Prosthesis that can ascend and descend slopesand stairs”, Proceedings of International Society for Prosthetics and Orthotics2004 World Congress, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、自然な昇段を可能とする膝継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の膝継手は、大腿義足に組み込まれる膝継手であって、大腿側部材と、該大腿側部材に対して回動可能に連結された下腿側部材と、前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の回動方向を、屈曲方向または伸展方向の一方向に制限可能な回動制限手段と、該回動制限手段を、伸展方向の回動を制限する伸展制限状態と、屈曲方向の回動を制限する屈曲制限状態とで切り替える切替手段と、を備え、前記切替手段は、前記大腿義足の遊脚期に前記回動制限手段を前記伸展制限状態とし、前記大腿義足の立脚期に前記回動制限手段を前記屈曲制限状態とすることを特徴とする。
第2発明の膝継手は、第1発明において、前記回動制限手段は、回転方向を切り替え可能なラチェット機構であることを特徴とする。
第3発明の膝継手は、第1発明において、前記切替手段は、前記回動制限手段が前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の過伸展を抑制した後であって、該回動制限手段に伸展方向の負荷が加わる前に、該回動制限手段の前記伸展制限状態を解除することを特徴とする。
第4発明の膝継手は、第1発明において、前記大腿義足の下腿部の加速度を検出する加速度検出手段を備え、前記切替手段は、前記加速度検出手段で検出した加速度が、屈曲方向の値である閾値に達したことをきっかけとして、前記回動制限手段の前記伸展制限状態を解除することを特徴とする。
第5発明の膝継手は、第4発明において、前記切替手段は、前記大腿側部材に対して前記下腿側部材が伸展を開始した後に、前記加速度検出手段で検出した加速度が、屈曲方向の値である閾値に達したことをきっかけとして、前記回動制限手段の前記伸展制限状態を解除することを特徴とする。
第6発明の膝継手は、第1発明において、前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の角度を検出する角度検出手段を備え、前記切替手段は、前記角度検出手段で検出した角度がピークに達したことをきっかけとして、前記回動制限手段を前記伸展制限状態から前記屈曲制限状態へ切り替えることを特徴とする。
第7発明の膝継手は、第1発明において、前記大腿側部材に対する前記下腿側部材の角度を検出する角度検出手段を備え、前記切替手段は、前記角度検出手段で検出した角度が閾値に達したことをきっかけとして、前記回動制限手段を前記屈曲制限状態から前記伸展制限状態へ切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、大腿義足の遊脚期に膝関節の伸展方向の回動を制限するので、膝関節の屈曲不足または過伸展により足部が蹴込面に衝突することを防止できる。また、大腿義足の立脚期に膝関節の屈曲方向の回動を制限するので、膝折れを防止できる。これにより、自然な昇段が可能となる。
第2発明によれば、回転にかかる抵抗が小さいので、膝関節が屈曲しやすく、大腿義足の遊脚期において足部が蹴込面に衝突することを防止できる。
第3発明によれば、回動制限手段が膝関節の過伸展を抑制した後に回動制限手段の伸展制限状態を解除するので、膝関節の過伸展により足部が蹴込面に衝突することを防止できる。また、回動制限手段に伸展方向の負荷が加わる前に回動制限手段の伸展制限状態を解除するので、回動制限手段に回転制限方向の負荷が加わり切り替えできなくなることを防止できる。
第4発明によれば、下腿部の加速度が、閾値に達したこときっかけとして回動制限手段の前記伸展制限状態を解除するので、回動制限手段が過伸展を抑制した後であって、回動制限手段に伸展方向の負荷が加わる前に回動制限手段の前記伸展制限状態を解除できる。
第5発明によれば、膝関節が伸展を開始した後に回動制限手段の前記伸展制限状態を解除するので、膝関節の屈曲による下腿部の加速度を無視することができ、誤作動を防止することができる。
第6発明によれば、膝関節角度がピークに達したこときっかけとして回動制限手段を切り替えるので、回動制限手段が過伸展を抑制した後であって、回動制限手段に伸展方向の負荷が加わる前に回動制限手段を切り替えることができる。
第7発明によれば、膝関節角度が閾値に達したことをきっかけとして回動制限手段を切り替えるので、膝折れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る膝継手が組み込まれた大腿義足の側面図である。
【図2】同膝継手の側面図である。
【図3】同膝継手の背面図である。
【図4】図3におけるIV-IV線矢視断面図である。
【図5】制御手段を含むブロック図である。
【図6】昇段運動の説明図である。
【図7】昇段運動の試験結果であって、(a)膝関節角度および膝関節モーメントの時間変化を示すグラフ、(b)下腿部加速度の時間変化を示すグラフである。
【図8】膝関節角度、膝関節モーメントおよび下腿部加速度の説明図である。
【図9】昇段運動の試験結果であって、(a)膝関節角度の時間変化を示すグラフ、(b)膝関節モーメントの時間変化を示すグラフである。
【図10】動作試験における義足の軌跡を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る膝継手1は、大腿義足TPに組み込まれる膝継手である。大腿義足TPは、膝継手1と、大腿切断患者の大腿部に装着される大腿ソケットTと、下腿部Lと、下腿部Lの下端に取り付けられた足部Fとから構成されている。

【0010】
図2および図3に示すように、膝継手1は、大腿側部材10と、下腿側部材20とを備えている。
膝継手1は、図2における右側が膝頭であり、図2における左側(図3)が膝裏である。以下では、図2の右側を前、図2の左側を後とし、図2の紙面に対して垂直な方向(図3の左右)を左右とする。

【0011】
大腿側部材10は、大腿ソケットTが取り付けられるアダプタである(図1参照)。大腿側部材10は逆U字型に形成されており、その左右に下垂した一対のアーム11、11を備えている。この一対のアーム11、11の間には、膝関節軸12が掛け渡され固定されている。

【0012】
下腿側部材20は、ケース21と、下腿部Lが取り付けられるアダプタ22とから構成されている(図1参照)。このアダプタ22は、ケース21の下端に回動不可能に固定されている。
ケース21の上端は、大腿側部材10の一対のアーム11、11の間に挿入されており、膝関節軸12が貫通している。そのため、下腿側部材20は、大腿側部材10に対して回動可能に連結されており、これにより膝関節が構成されている。本明細書において膝関節とは、大腿側部材10と下腿側部材20との連結部分を意味する。

【0013】
図4に示すように、ケース21の内部には、ラチェット機構30が取り付けられている。ラチェット機構30は、筐体31と、筐体31に対して回転する回転体32と、切替レバー33とから構成されている。ラチェット機構30の筐体31は、ケース21の内面に固定されており、回転体32には膝関節軸12が挿入され固定されている。すなわち、大腿側部材10と下腿側部材20とは、ラチェット機構30を介して連結されている。

【0014】
このラチェット機構30は、切替レバー33の操作により、回転体32の回転方向を以下の3つの状態に切り替え可能となっている。
(1)フリー状態
切替レバー33を中立にすると、ラチェット機構30は回転体32が筐体31に対して右回りにも左回りにも回転するフリー状態となる。この状態では、膝関節は屈曲も、伸展も可能となる。
(2)伸展制限状態
切替レバー33を図4における下向きに倒すと、ラチェット機構30は回転体32が筐体31に対して図4における左回りにのみ回転するように制限された伸展制限状態となる。この状態では、大腿側部材10に対する下腿側部材20の回動方向は屈曲方向にのみ制限され、伸展方向の回動は制限される。すなわち、膝関節は屈曲可能であるが、伸展は制限される。
(3)屈曲制限状態
切替レバー33を図4における上向きに倒すと、ラチェット機構30は回転体32が筐体31に対して図4における右回りにのみ回転するように制限された屈曲制限状態となる。この状態では、大腿側部材10に対する下腿側部材20の回動方向は伸展方向にのみ制限され、屈曲方向の回動は制限される。すなわち、膝関節は伸展可能であるが、屈曲は制限される。

【0015】
ラチェット機構30を、(1)フリー状態、(2)伸展制限状態、(3)屈曲制限状態の間で切り替えるために、ケース21の内部には、切替手段40が取り付けられている。切替手段40は、スライダ41と、リニアステッピングモータ42と、リンク43とから構成されている。

【0016】
スライダ41は、ケース21の内部に図4における上下方向に褶動可能に設けられている。また、スライダ41の上端には凹部41aが形成されており、この凹部41aに切替レバー33の先端が嵌め込まれている。また、リニアステッピングモータ42は、ハウジング42aがケース21に固定されており、軸42bが図4における上下方向に駆動するように設けられている。リニアステッピングモータ42の軸42bの先端とスライダ41とはリンク43で連結されている。そのため、リニアステッピングモータ42により、スライダ41を上下方向に駆動できるようになっている。これにより、切替レバー33を中立または上下に倒して、ラチェット機構30を、(1)フリー状態、(2)伸展制限状態、(3)屈曲制限状態の間で切り替えることができる。

【0017】
図2および図3に示すように、膝継手1には、ロータリーポテンショメータ50が備えられている。ロータリーポテンショメータ50は、ケース21の外部に取付部材51を介して取り付けられている。ロータリーポテンショメータ50には、膝関節軸12が接続されており、膝関節軸12の回転角度を検出できるようになっている。すなわち、ロータリーポテンショメータ50により、膝関節角度(大腿側部材10に対する下腿側部材20の角度)を検出できるようになっている。
なお、ロータリーポテンショメータ50が、特許請求の範囲に記載の角度検出手段に相当する。

【0018】
また、図1に示すように、下腿部Lの重心には加速度センサ60が取り付けられている。この加速度センサ60により下腿部Lの加速度を検出できるようになっている。
なお、加速度センサ60が、特許請求の範囲に記載の加速度検出手段に相当する。

【0019】
図5に示すように、上記ロータリーポテンショメータ50および加速度センサ60は制御手段70に接続されており、それぞれの検出結果を出力するように構成されている。また、制御手段70はリニアステッピングモータ42に接続されており、制御信号を出力するように構成されている。
制御手段70は、ロータリーポテンショメータ50で検出した膝関節角度、および加速度センサ60で検出した下腿部Lの加速度を基に、ラチェット機構30をいずれの状態に切り替えるかを判断し、リニアステッピングモータ42を駆動する。

【0020】
なお、制御手段70はコンピュータ等で構成されており、ケース21の内部に固定されるか、膝継手1とは分離した物として構成される。
また、制御手段70と、ロータリーポテンショメータ50、加速度センサ60およびリニアステッピングモータ42とは、それぞれ有線で接続してもよいし、無線で接続してもよい。

【0021】
つぎに、上記膝継手1が組み込まれた大腿義足TPを用いた昇段(階段の昇り)運動について説明する。
図6に示すように、人は、義足および健足が地面に接地している立脚期と地面から離れている遊脚期とを交互に繰り返して昇段する。また、歩行の場合には、義足および健足の一方が遊脚期であり他方が立脚期である単脚支持期と、両方が立脚期である両脚支持期とを交互に繰返す。この立脚期と遊脚期とを合わせて歩行周期と称される。

【0022】
大腿義足TPの遊脚期に注目すると、(a)その初期において足部Fが階段の段差を乗り越えるように膝関節を屈曲させる必要があり、(b)その終期において足部Fが上段の蹴上面に衝突しないように膝関節の伸展を制限する必要がある。大腿義足TPの遊脚期の初期において膝関節の屈曲が不足すると足部Fが下段の蹴上面に衝突し、大腿義足TPの遊脚期の終期において膝関節が伸展しすぎると足部Fが上段の蹴上面に衝突する。

【0023】
また、大腿義足TPの立脚期に注目すると、膝関節が屈曲した状態で床反力がかかるため、その床反力に抗して膝関節を伸展させるとともに、膝関節の屈曲を制限する必要がある(c)~(f)。大腿義足TPの立脚期において膝関節が屈曲すると、膝折れとなる。

【0024】
そこで、膝継手1は、切替手段40の動作により、大腿義足TPの遊脚期にラチェット機構30を伸展制限状態とし、大腿義足TPの立脚期にラチェット機構30を屈曲制限状態とする。

【0025】
このように、ラチェット機構30を伸展制限状態と屈曲制限状態とで切り替えれば、大腿義足TPの遊脚期に膝関節の伸展方向の回動を制限するので、膝関節の屈曲不足により足部が蹴上面に衝突することを防止できるし、膝関節の過伸展により足部が蹴込面に衝突することを防止できる。また、大腿義足TPの立脚期に膝関節の屈曲方向の回動を制限するので、膝折れを防止できる。これにより、自然な昇段が可能となる。

【0026】
一般に、膝関節の抵抗を大きくした膝継手は、膝関節が屈曲しづらいため、立脚期において膝折れを抑制できるが、遊脚期の初期において足部が下段の蹴上面に衝突する。
その点、ラチェット機構30は回転可能な方向への回転にかかる抵抗が小さいという性質を有することから、膝継手1は膝関節が屈曲しやすく、遊脚期の初期において足部Fが階段の段差を乗り越えやすい。そのため、膝関節の屈曲不足により足部Fが下段の蹴上面に衝突することを防止できる。

【0027】
また、一般に、膝関節の抵抗を小さくした膝継手は、膝関節が屈曲しやすいが、下腿部が前方に大きく振られ足部が上段の蹴上面に衝突する。また、振り出した下腿部が振り子のように揺れ、その揺れにタイミングを合わせて接地する必要があるため、使用者にストレスがかかる。
その点、膝継手1は、ラチェット機構30により遊脚期に膝関節の伸展方向の回動を制限するので、足部Fが上段の蹴上面に衝突することを防止できる。また、下腿部Lが揺れないので任意のタイミングで接地できる。そのため、使用者にストレスがかからない。

【0028】
つぎに、ラチェット機構30の伸展制限状態から屈曲制限状態への切り替えタイミングの詳細を説明する。
大腿義足TPの遊脚期の終期において、ラチェット機構30を伸展制限状態としたまま大腿義足TPを接地させると、その後立脚期に移行し、膝関節を伸展させる力が加わる。一般に、ラチェット機構は回転制限方向(回転が制限されている方向)に負荷が加わると、回転方向の切り替えができなくなるという性質を有する。そのため、大腿義足TPが接地した後、ラチェット機構30に伸展方向の負荷が加わると、ラチェット機構30の切り替えができなくなる場合がある。また、大腿義足TPが立脚期に移行した後は膝折れの恐れがある。
そのため、大腿義足TPが接地する前または接地した直後に、少なくともラチェット機構30の伸展制限状態を解除し(フリー状態または屈曲制限状態へ切り替え)、膝折れが生じる前に屈曲制限状態へ切り替えることが好ましい。

【0029】
また、前述のごとく、膝関節の過伸展により足部Fが蹴込面に衝突することを防止するためには、ラチェット機構30が膝関節の過伸展を抑制した後に、ラチェット機構30の伸展制限状態を解除する必要がある。

【0030】
図7に、膝継手1が組み込まれた大腿義足TPを用いた昇段運動の試験結果を示す。この試験は、大腿部を切断していない健常者の男性1名の右足に、健常肢を屈曲させた状態で保持する擬似ソケット装着し、その擬似ソケットに大腿義足TPを取り付けて行った。図7は、膝継手1のラチェット機構30を伸展制限状態として昇段運動を行った9試行分のデータを平均して得たものである。

【0031】
ここで、図8に示すように、下腿部に働く膝関節周りのモーメントを膝関節モーメントとし、膝裏側の大腿部と下腿部とのなす角(大腿側部材10に対する下腿側部材20の角度)を膝関節角度とし、膝関節を回転中心とした回転座標系(y’,z’)における下腿部の重心の水平方向y’の加速度を下腿部加速度とした。

【0032】
図7(a)に示すように、遊脚期の前半は、膝関節角度が徐々に小さくなり膝関節が屈曲していることがわかる。また、遊脚期の中程で膝関節角度が徐々に大きくなり約20°伸展して膝関節角度がピークに達し、遊脚期の後半はそれ以上の伸展は制限されていることがわかる。この約20°の伸展はラチェット機構30の遊びや、ラチェット機構30と大腿側部材10との接続部分のガタによるものである。そして、膝関節角度が約20°増加し、それ以上の伸展が制限されたとき(膝関節角度がピークに達したとき)(図7における破線)が、ラチェット機構30が膝関節の過伸展を抑制したときである。

【0033】
また、膝関節の過伸展が抑制されたときに、膝関節モーメントが負のピークを示しており、膝関節を屈曲させるモーメントが働いていることが分かる。これより、膝関節の過伸展が抑制された後は、膝関節に伸展方向へのモーメントが働いていないため、ラチェット機構30の回転方向を切り替えることが可能であることが分かる。

【0034】
また、図7(b)に示すように、膝関節の過伸展が抑制されたときに、下腿部加速度が負のピークを示している。そのため、この下腿部加速度のピークを基に、ラチェット機構30を伸展制限状態から屈曲制限状態へ切り替えればよい。なお、下腿部加速度のピークを基に、少なくともラチェット機構30の伸展制限状態を解除すればよく、その後屈曲制限状態へ切り替えてもよい。

【0035】
具体的には、加速度センサ60で下腿部Lの重心の加速度(下腿部加速度)を検出する。制御手段70は、加速度センサ60で検出した下腿部加速度が予め定められた閾値に達したことをきっかけとして、リニアステッピングモータ42を駆動してラチェット機構30を伸展制限状態から屈曲制限状態へ切り替える。ここで、図7(b)に示す例では、下腿部加速度のピーク値は-13.1m/s2であるので、上記閾値は例えば-10.0m/s2に定められる。

【0036】
なお、特許請求の範囲に記載の「屈曲方向の値である閾値」は、図8に示す回転座標系(y’,z’)では負の値となる。また、特許請求の範囲に記載の「屈曲方向の値である閾値に達した」とは、閾値が負の値である場合、負方向に加速度が増してその閾値に達したことを意味する。

【0037】
以上のタイミングで制御することにより、ラチェット機構30が膝関節の過伸展を抑制した後であって、ラチェット機構30に伸展方向の負荷が加わる前に、少なくともラチェット機構30の伸展制限状態を解除し、その後屈曲制限状態へ切り替えることができる。
また、ラチェット機構30が膝関節の過伸展を抑制した後にラチェット機構30の伸展制限状態を解除するので、膝関節の過伸展により足部Fが蹴込面に衝突することを防止できる。また、ラチェット機構30に伸展方向の負荷が加わる前にラチェット機構30の伸展制限状態を解除するので、ラチェット機構30に回転制限方向の負荷が加わり切り替えできなくなることを防止できる。

【0038】
なお、下腿部加速度が閾値に達したか否かを判断する前に、膝関節が伸展を開始したことを判断した方が好ましい。
具体的には、ロータリーポテンショメータ50で膝関節角度を検出する。制御手段70は、ロータリーポテンショメータ50で検出した膝関節角度の時間変化(角速度)が伸展方向の値である閾値に達したか否かを基に、膝関節が伸展を開始したことを判断する。その後、上記のように下腿部加速度が閾値に達したか否かを判断する。

【0039】
大腿義足TPの遊脚期の初期においては、足部Fが階段の段差を乗り越えるように膝関節を屈曲させる。このとき、下腿部Lは後ろ向きに振られるため下腿部加速度が上記閾値に達する場合がある(図7(b)では現れていない)。そうすると、ラチェット機構30が膝関節の過伸展を抑制する前に、ラチェット機構30が屈曲制限状態へ切り替えられてしまう。そこで、上記のように、膝関節が伸展を開始したことを判断することで、膝関節の屈曲による下腿部加速度を無視することができ、このような誤作動を防止することができる。

【0040】
なお、本実施形態におけるラチェット機構30は、フリー状態を介して伸展制限状態から屈曲制限状態へ切り替えられるが、フリー状態を介さずに屈曲制限状態へ切り替える構成としてもよい。

【0041】
つぎに、ラチェット機構30の屈曲制限状態から伸展制限状態への切り替えタイミングの詳細を説明する。
図9に、大腿義足TPの立脚期における、膝関節角度と膝関節モーメントの時間変化の典型例を示す。図9に示すように、膝継手1が組み込まれた大腿義足TPの立脚期の終期において、健足が接地する(両脚支持期II)前に膝継手1の膝関節の伸展が最大となることがわかる。また、大腿義足TPの単脚支持期において、膝関節の伸展が最大となってから健足が接地するまでの膝関節モーメントは正の値であり、膝関節を伸展させるモーメントが働いていることがわかる。

【0042】
これより、膝関節の伸展が最大となったことをきっかけとして、ラチェット機構30を屈曲制限状態から伸展制限状態へ切り替えればよい。
具体的には、ロータリーポテンショメータ50で膝関節角度を検出する。制御手段70は、ロータリーポテンショメータ50で検出した膝関節角度が伸展の最大値に達したことをきっかけとして、リニアステッピングモータ42を駆動してラチェット機構30を屈曲制限状態から伸展制限状態へ切り替える。

【0043】
なお、ここで伸展の最大値は、特許請求の範囲に記載の閾値に相当する。閾値としては、伸展の最大値(例えば180°)以外にも、その最大値の近傍の値(例えば175°)に設定してもよい。

【0044】
以上のタイミングで制御することにより、ラチェット機構30を伸展制限状態へ切り換えても膝折れを防止できる。

【0045】
なお、本実施形態におけるラチェット機構30は、フリー状態を介して屈曲制限状態から伸展制限状態へ切り替えられる。特許請求の範囲に記載の「回動制限手段を屈曲制限状態から伸展制限状態へ切り替える」とは、このようにフリー状態を介して切り替える場合も含まれるし、フリー状態を介さずに切り替える場合も含まれる概念である。

【0046】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、ラチェット機構30の伸展制限状態から屈曲制限状態への切り替えにおいて、加速度センサ60で下腿部Lの加速度を検出するように構成されているが、他の加速度検出手段を採用してもよい。例えば、ロータリーポテンショメータ50で膝関節角度の時間変化、すなわち角加速度を検出するように構成してもよい。膝関節の角加速度と上記下腿部加速度とは比例関係にあるので、膝関節の角加速度を基にラチェット機構30を伸展制限状態から屈曲制限状態へ切り替えるように構成してもよい。

【0047】
また、上記実施形態においては、下腿部加速度が閾値に達したことをきっかけとしてラチェット機構30を伸展制限状態から屈曲制限状態へ切り替えているが、他の指標をきっかけとしてもよい。
例えば、ロータリーポテンショメータ50で膝関節角度を検出し、膝関節角度がピーク(図7(a)における破線)に達したことをきっかけとして、ラチェット機構30を伸展制限状態から屈曲制限状態へ切り替えてもよい。ここで、膝関節角度がピークに達したか否かは、膝関節の角速度が正の値から負の値に変化することなどから判断できる。
このようにしても、ラチェット機構30が過伸展を抑制した後であって、ラチェット機構30に伸展方向の負荷が加わる前にラチェット機構30を切り替えることができる。

【0048】
また、上記実施形態では、ラチェット機構30の屈曲制限状態から伸展制限状態への切り替えにおいて、ロータリーポテンショメータ50を用いているが、膝関節角度を検出できる手段であれば、他の手段を用いても良い。例えば、ケース21の上面にリミットセンサを取り付け、このリミットセンサで大腿側部材10が下腿側部材20に対して直立したことを検知するように構成すれば、膝関節角度が伸展の最大値となったことを検出できる。このように、特許請求の範囲に記載の角度検出手段は、所定の範囲の角度を検出できるものに限られず、リミットセンサなど一の角度のみを検出できるものも含まれる。

【0049】
また、上記実施形態では、制御手段70により切替手段40を制御して、自動でラチェット機構30の切り替えを行うように構成したが、切替手段40にスイッチを接続し、大腿義足TPの使用者が、そのスイッチを手で操作することにより、ラチェット機構30の切り替えを行うように構成してもよい。

【0050】
(動作試験)
つぎに、上記膝継手1の動作試験について説明する。
試験には、大腿部を切断していない健常者の男性が参加した。健常肢を屈曲させた状態で保持する擬似ソケットを作成し、その擬似ソケットに膝継手1が組み込まれた大腿義足TPを取り付けた。試験参加者は、擬似ソケットを右足に装着して昇段運動を行った。

【0051】
試験には、手摺の付いた5段の階段が用いられた。また、モーションキャプチャシステムで、義足(右足)の爪先、踝、膝関節、左足の爪先、踝、膝関節、および両側の股関節の3次元位置を測定した。

【0052】
試験参加者は、平地に義足(右足)、階段の1段目に健足を接地させた状態を初期状態として、義足の遊脚期から開始し、義足を4段目に接地させたときを終了とした。昇段の速さは指示せずに試験参加者の昇りやすいと感じる速度で行った。

【0053】
図10に、義足の軌跡の典型例を示す。
図10に示すように、足部が蹴上面に衝突することなく、また、膝折れが生じることなく昇段が行えることが確認された。
【符号の説明】
【0054】
1 膝継手
10 大腿側部材
11 アーム
12 膝関節軸
20 下腿側部材
21 ケース
22 アダプタ
30 ラチェット機構
31 筐体
32 回転体
33 切替レバー
40 切替手段
41 スライダ
42 リニアステッピングモータ
43 リンク
50 ロータリーポテンショメータ
51 取付部材
60 加速度センサ
70 制御手段
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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